説明

インペラ、過給機、及びインペラの製造方法

【課題】ホイール55の疲労強度を十分に確保して、インペラ27の耐久性を向上させること。
【解決手段】インペラ27は、金属粉末射出成形によって成形された成形体53Fを焼結してなるインペラ本体53を具備し、インペラ本体53におけるホイール55の嵌合穴59に中実の円筒部材61が圧縮嵌合されており、この円筒部材61は、成形体53Fにおける嵌合穴に相当する部位59Fに挿入された状態で、成形体53Fの焼結時の熱収縮を規制してホイール55の中央部に残留応力を発生させるようになっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用過給機等の過給機に用いられるインペラ等に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用過給機におけるタービンインペラ(インペラの一例)の一般的な構成について説明すると、次のようになる(特許文献1、特許文献2、及び特許文献3等参照)。
【0003】
タービンインペラは、排気ガスの圧力エネルギーを利用して回転力(回転トルク)を発生させるものであって、通常、精密鋳造によって成形された成形体からなるものである。また、タービンインペラは、車両用過給機におけるタービンハウジング内に回転可能に設けられた中実のタービンホイールを備えており、このタービンホイールは、車両用過給機におけるロータ軸に一体的に連結してあって、タービンホイールの外周面は、タービンインペラの軸方向から径方向外側に向かって延びている。更に、タービンホイールの外周面には、複数枚のタービンブレードが周方向に間隔を置いて一体形成されており、各タービンブレードの外縁は、タービンハウジングのシュラウド(内壁面)に沿って延びている。
【0004】
従って、車両用過給機の運転中、タービンハウジング内に取入れた排気ガスをタービンインペラの入口側から出口側(排気ガスの流れ方向から見てタービンインペラの上流側から下流側)へ流通させることにより、排気ガスの圧力エネルギーを利用して回転力を発生させて、ロータ軸をタービンインペラと一体的に回転させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−265844号公報
【特許文献2】特開2007−56791号公報
【特許文献3】特開平11−62603号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、車両用過給機の運転中、タービンホイールには遠心応力が発生し、タービンインペラの回転数が上昇すると、タービンホイールの遠心応力が上がり、タービンインペラの回転数が低下すると、タービンホイールの遠心応力が下がる。そのため、タービンインペラの回転数の変動幅が増大すると、それに伴い、タービンホイールの応力振幅(遠心応力の変動幅)も増大して、タービンホイールの疲労強度を十分に確保して、タービンインペラの耐久性を向上させることが困難になるという問題がある。
【0007】
そこで、本発明は、前述の問題を解決することができる、新規な構成のインペラ等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の特徴は、過給機に用いられるインペラにおいて、金属粉末射出成形によって形成された成形体を焼結してなるものであって、外周面が軸方向から径方向外側に向かって延びたホイール、及び前記ホイールの外周面に周方向に間隔を置いて一体形成された複数枚のブレードを備え、前記ホイールの中心部に円形の嵌合穴が軸方向に沿って形成されたインペラ本体と、前記インペラ本体の前記嵌合穴に圧縮嵌合(圧縮された状態で嵌合)され、前記成形体における前記嵌合穴に相当する部位に挿入された状態で、前記成形体の焼結時の熱収縮を規制して前記ホイールに残留応力を発生させる円筒部材と、を具備したことを要旨とする。
【0009】
なお、「インペラ」には、排気ガスの圧力エネルギーを利用して回転力(回転トルク)を発生させるタービンインペラの他に、遠心力を利用して空気を圧縮するコンプレッサインペラが含まれる。また、「嵌合穴」には、無底の嵌合穴(貫通穴)の他に、有底の嵌合穴(中抜き穴)も含まれており、「円筒部材」には、中実の円筒部材の他に、中空の円筒部材も含まれる。
【0010】
第1の特徴によると、前記円筒部材によって前記成形体の焼結時の熱収縮を規制して前記ホイールに残留応力を発生させているため、前記過給機の運転中に、前記インペラの回転数が低下しても、前記ホイールの遠心応力の下がり幅を小さくすることができる。これにより、前記インペラの回転数の変動幅が増大しても、前記ホイールの応力振幅(遠心応力の変動幅)の増大を抑えることができる。
【0011】
また、前記インペラ本体が金属粉末射出成形によって形成された前記成形体を焼結してなるものであって、前記ホイールの中心部に円形の前記嵌合穴が軸方向に沿って形成されているため、換言すれば、焼結前の前記成形体は中心部に前記嵌合穴に相当する部位を有しているため、焼結前の前記成形体における前記ホイールに相当する部位の薄肉化を実現することができる。
【0012】
本発明の第2の特徴は、エンジンからの排気ガスのエネルギーを利用して、前記エンジンに供給される空気を過給する過給機において、第1の特徴からなるインペラを具備したことを要旨とする。
【0013】
第2の特徴によると、第1の特徴による作用と同様の作用を奏する。
【0014】
本発明の第3の特徴は、第1の特徴からなるインペラを製造するための製造方法において、前記インペラ本体の最終形状を反転する形状(相補する形状)と相似形の成形面を有した射出成形用金型を用い、前記射出成形用金型の前記成形面によって区画されるキャビティに金属粉末とバインダとの混合物を射出することにより、前記最終形状と相似形であってかつ中心部に前記嵌合穴に相当する部位を有した成形体を成形する射出工程と、前記射出工程の終了後に、前記成形体に含まれる前記バインダを脱脂(除去)する脱脂工程(除去工程)と、前記脱脂工程の終了後に、前記円筒部材を前記成形体における前記嵌合穴に相当する部位に挿入した状態で、前記成形体を焼成して焼結させることにより、前記成形体を前記最終形状まで熱収縮させて、前記成形体からなる前記インペラ本体を作製すると共に、前記円筒部材によって前記成形体の熱収縮を規制して、前記ホイールに残留応力を発生させる焼結工程と、を具備したことを要旨とする。
【0015】
第3の特徴によると、前記焼結工程において、前記円筒部材を前記成形体における前記嵌合穴に相当する部位に挿入した状態で、前記成形体を焼成して焼結させることにより、前記成形体からなる前記インペラ本体を作製する他に、前記円筒部材によって前記成形体の熱収縮を規制して、前記ホイールに残留応力を発生させるため、前記過給機の運転中に、前記インペラの回転数が低下しても、前記ホイールの遠心応力の下がり幅を小さくすることができる。これにより、前記インペラの回転数の変動幅が増大しても、前記ホイールの応力振幅(遠心応力の変動幅)の増大を抑えることができる。
【0016】
また、前記射出工程において、中心部に前記嵌合穴に相当する部位を有した前記成形体を成形しているため、焼結前の前記成形体における前記ホイールに相当する部位の薄肉化を実現することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、前記インペラの回転数の変動幅が増大しても、前記ホイールの応力振幅の増大を抑えることができるため、前記ホイールの疲労強度を十分に確保して、前記インペラの耐久性(前記過給機の耐久性)を向上させることができる。
【0018】
また、焼結前の前記成形体における前記ホイールに相当する部位の薄肉化を実現することができるため、前記成形体の焼結の際に、前記成形体におけるホールに相当する部位に巣等の欠陥が発生することを抑えて、前記インペラを安定的に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図2における矢視部Iの拡大図である。
【図2】第1実施形態に係る車両用過給機の断面図である。
【図3】第1実施形態に係るタービンインペラの断面図である。
【図4】第2実施形態に係るインペラの製造方法における射出工程を説明する図である。
【図5】第2実施形態に係るインペラの製造方法における脱脂工程を説明する図である。
【図6】第2実施形態に係るインペラの製造方法における焼結工程を説明する図である。
【図7】本発明の変形例に係るタービンインペラの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[第1実施形態]
第1実施形態に係る車両用過給機ついて図1から図4を参照して説明する。なお、図面中、「L」は、左方向を指し、「R」は、右方向を指してある。
【0021】
図1及び図2に示すように、第1実施形態に係る車両用過給機1は、エンジン(図示省略)からの排気ガスのエネルギーを利用して、エンジンに供給される空気を過給(圧縮)するものである。そして、車両用過給機1の具体的な構成等は、以下のようになる。
【0022】
車両用過給機1は、ベアリングハウジング3を備えており、このベアリングハウジング3内には、ラジアルベアリング5及び一対のスラストベアリング7が設けられてあって、複数のベアリング5,7には、左右方向へ延びたロータ軸(タービン軸)9が回転可能に設けられており、換言すれば、ベアリングハウジング3には、ロータ軸9が複数のベアリング5,7を介して回転可能に設けられている。
【0023】
ベアリングハウジング3の右側には、コンプレッサハウジング11が設けられており、このコンプレッサハウジング11内には、遠心力を利用して空気を圧縮するコンプレッサインペラ13が回転可能に設けられている。そして、コンプレッサインペラ13の具体的な構成要素について説明すると、コンプレッサハウジング11内には、コンプレッサホイール15が設けられており、コンプレッサホイール15は、ロータ軸9の右端部に一体的に連結してあって、コンプレッサインペラ13の軸心(換言すれば、ロータ軸9の軸心)C周りに回転可能である。また、コンプレッサホイール15の外周面は、コンプレッサインペラ13(コンプレッサホイール15)の軸方向から径方向外側に向かって延びている。更に、コンプレッサホイール15の外周面には、複数枚のコンプレッサブレード17が周方向に間隔を置いて一体形成されており、各コンプレッサブレード17の外縁は、コンプレッサハウジング11のシュラウド(内壁面)に沿うように延びている。
【0024】
コンプレッサハウジング11におけるコンプレッサインペラ13の入口側(空気の流れ方向から見てコンプレッサインペラ13の上流側)には、空気を取入れる空気取入口19が形成されており、この空気取入口19は、接続管(図示省略)を介してエアクリーナー(図示省略)に接続可能である。また、ベアリングハウジング3とコンプレッサハウジング11の間におけるコンプレッサインペラ13の出口側(空気の流れ方向から見てコンプレッサインペラ13の下流側)には、圧縮された空気を昇圧する環状のディフューザ流路21が形成されており、このディフューザ流路21は、空気取入口19に連通してある。更に、コンプレッサハウジング11の内部には、コンプレッサスクロール流路23がコンプレッサインペラ13を囲むように形成されており、このコンプレッサスクロール流路23は、ディフューザ流路21に連通してある。そして、コンプレッサハウジング11の適宜位置には、圧縮された空気を排出する空気排出口(図示省略)が形成されており、この空気排出口は、コンプレッサスクロール流路23に連通してあって、エンジンの給気マニホールド(図示省略)に接続可能である。
【0025】
ベアリングハウジング3の左側には、タービンハウジング25が設けられており、このタービンハウジング25内には、排気ガスの圧力エネルギーを利用して回転力(回転トルク)を発生させるタービンインペラ27が回転可能に設けられている。なお、タービンインペラ27の具体的な構成要素については、後述する。
【0026】
タービンハウジング25内には、可変ノズルユニット29がタービンインペラ27を囲むように設けられている。そして、可変ノズルユニット29の具体的な構成要素について説明すると、タービンハウジング25内におけるタービンインペラ27の径方向外側には、ノズルリング31が取付リング33を介して設けられており、このノズルリング31には、シュラウドリング35が複数(1つのみ図示)の連結ピン37を介して一体的かつ左右に離隔して設けられている。また、ノズルリング31とシュラウドリング35の間には、複数枚の可変ノズル39が周方向に間隔を置いて設けられており、各可変ノズル39は、タービンインペラ27の軸心Cに平行な軸心周りに回動可能(揺動可能)であって、複数枚の可変ノズル39のノズル軸41は、特許文献1に示すように、同期機構43によって連動連結してある。
【0027】
なお、ベアリングハウジング3の左側下部には、伝動軸45が回動可能に設けられており、この伝動軸45の右端部は、複数枚の可変ノズル39を同期して回動させるシリンダ等のアクチュエータ(図示省略)に接続レバー47を介して接続(連動連結)してあって、伝動軸45の左端部は、同期機構43に接続してある。
【0028】
タービンハウジング25の適宜位置には、排気ガスを取入れるガス取入口(図示省略)が形成されており、このガス取入口は、エンジンの排気マニホールド(図示省略)に接続可能である。また、タービンハウジング25の内部には、タービンスクロール流路49がタービンインペラ27を囲むように形成されており、このタービンスクロール流路49は、ガス取入口に連通してあって、排気ガスを取入可能である。更に、タービンハウジング25におけるタービンインペラ27の出口側(排気ガスの流れ方向から見てタービンインペラ27の下流側)には、排気ガスを排出するガス排出口51が形成されており、このガス排出口51は、タービンスクロール流路49に連通してあって、接続管(図示省略)を介して排気ガス浄化装置(図示省略)に接続可能である。
【0029】
続いて、第1実施形態の要部であるタービンインペラ27の具体的な構成について説明する。
【0030】
図3に示すように、タービンインペラ27は、タービンインペラ本体53を具備しており、このタービンインペラ本体53は、金属粉末射出成形によって成形された成形体53F(図6及び図7(a)参照)を焼結してなるものであって、後述の射出工程、脱脂工程、焼結工程を経ることによって製造されるものである。また、タービンインペラ本体53は、タービンハウジング25内に設けられたタービンホイール55を備えており、このタービンホイール55は、ロータ軸9の左端部に一体的に連結してあって、タービンインペラ27の軸心(換言すれば、タービンインペラ本体53の軸心又はロータ軸9の軸心)C周りに回転可能である。また、タービンホイール55の外周面は、タービンインペラ27(タービンインペラ本体53)の軸方向から径方向外側に向かって延びている。更に、タービンホイール55の外周面には、複数枚のタービンブレード57が周方向に間隔を置いて一体形成されており、各タービンブレード57の外縁は、シュラウドリング35のシュラウド(内壁面)に沿うように延びている。そして、タービンホイール55の中心部には、円形の無底の嵌合穴(貫通穴)59がタービンインペラ27の軸方向に沿って形成されている。
【0031】
タービンホイール55の嵌合穴59には、中実の円筒部材61が圧縮嵌合(圧縮された状態で嵌合)されており、この円筒部材61は、成形体53Fにおける嵌合穴に相当する部位59F(図6及び図7(a)参照)に挿入された状態で、成形体53Fの焼結時の熱収縮を規制してタービンホイール55の中央部に残留応力を発生させるものである。なお、中実の円筒部材61の代わりに中空の円筒部材がタービンホイール55の嵌合穴59に圧縮嵌合させるようにしても構わない。
【0032】
続いて、第1実施形態に係る車両用過給機1の作用及び効果について説明する。
【0033】
ガス取入口からタービンスクロール流路49に取入れた排気ガスをタービンインペラ27の入口側から出口側(排気ガスの流れ方向から見てタービンインペラ27の上流側から下流側)へ流通させることにより、排気ガスの圧力エネルギーを利用して回転力(回転トルク)を発生させて、ロータ軸9及びコンプレッサインペラ13をタービンインペラ27と一体的に回転させることができる。これにより、空気取入口19から取入れた空気を圧縮して、ディフューザ流路21及びコンプレッサスクロール流路23を経由して空気排出口から排出することができ、エンジンに供給される空気を過給することができる。
【0034】
ここで、排気ガスの流量が少ない場合(換言すれば、エンジン回転数が低速域にある場合)には、アクチュエータによって複数枚の可変ノズル39を絞る方向へ同期して回動させることにより、タービンインペラ27側へ供給される排気ガスの流速を高くして、タービンインペラ27の仕事量を十分に確保する。一方、排気ガスの流量が多い場合(換言すれば、エンジン回転数が低速域にある場合)には、アクチュエータによって複数枚の可変ノズル39を開く方向へ同期して回動させることにより、可変ノズル39のスロート面積を大きくして、タービンインペラ27側へ多くの排気ガスを供給する。これにより、排気ガスの流量の多少に関係なく、タービンインペラ27によって回転力を十分かつ安定的に発生させることができる(車両用過給機1による通常の作用)。
【0035】
前述の車両用過給機1による通常の作用を奏する他に、円筒部材61によって成形体53Fの焼結時の熱収縮を規制してタービンホイール55の中央部に残留応力を発生させているため、車両用過給機1の運転中に、タービンインペラ27の回転数が低下しても、タービンホイール55の遠心応力の下がり幅を小さくすることができる。これにより、タービンインペラ27の回転数の変動幅が増大しても、タービンホイール55の応力振幅(遠心応力の変動幅)の増大を抑えることができる。
【0036】
また、タービンインペラ本体53が金属粉末射出成形によって形成された成形体53Fを焼結してなるものであって、タービンホイール55の中心部に円形の嵌合穴59がタービンインペラ27の軸方向に沿って形成されているため、換言すれば、焼結前の成形体53Fは中心部に嵌合穴に相当する部位59F(図6及び図7(a)参照)を有しているため、焼結前の成形体53Fにおけるタービンホイールに相当する部位55F(図6及び図7(a)参照)の薄肉化を実現することができる(車両用過給機1(タービンインペラ27)による特有の作用)。
【0037】
従って、第1実施形態に係る車両用過給機1(タービンインペラ27)によれば、タービンインペラ27の回転数の変動幅が増大しても、タービンホイール55の応力振幅(遠心応力の変動幅)の増大を抑えることができるため、タービンホイール55の疲労強度を十分に確保して、タービンインペラ27の耐久性(車両用過給機1の耐久性)を向上させることができる。
【0038】
また、焼結前の成形体53Fにおけるタービンホイールに相当する部位55Fの薄肉化を実現することができるため、成形体53Fの焼結の際に、成形体53Fにおけるタービンホールに相当する部位55Fに巣等の欠陥が発生することを抑えて、タービンインペラ27を安定的に製造することができる。
【0039】
[第2実施形態]
第2実施形態に係る射出成形用金型、及び第2実施形態に係るインペラの製造方法等について図5から図7を参照して説明する。なお、図面中、「L」は、左方向を指し、「R」は、右方向を指してある。
【0040】
図4に示すように、第2実施形態に係る射出成形用金型63は、第2実施形態に係るインペラの製造方法の実施に用いられるものであって、第2実施形態に係る射出成形用金型63の具体的な構成は、次のようになる。
【0041】
即ち、射出成形機における固定フレーム65の左側には、射出成形用一体型67が着脱可能に設けられており、この射出成形用一体型67は、左側に、タービンインペラ本体53の背面(タービンホイール55の背面)の最終形状を反転する形状(相補する形状)と相似形の副成形面69を有している。また、射出成形機における左右方向へ移動可能な可動フレーム71の右側には、ガイドブロック73が着脱可能に設けられており、このガイドブロック73の右側には、円錐台状の窪み75が形成されている。そして、ガイドブロック73の窪み75には、複数(タービンブレード57の枚数と同数)の射出成形用分割型77が径方向へ拡縮移動可能に設けられており、複数の射出成形用分割型77は、射出成形用一体型67に対向してあって、内側に、タービンインペラ本体53の背面を除くタービンインペラ本体53の大部分の最終形状を反転する形状と相似形の主成形面79を有している。ここで、複数の射出成形用分割型77は、射出成形用一体型67と非接触状態にある場合に、可動フレーム71を左右方向へ移動させると、射出成形用一体型67に対して接近離隔する方向へ一体的に移動するようになっており、射出成形用一体型67と接触状態にある場合に、可動フレーム71を左右方向へ移動させると、径方向へ拡縮移動するようになっている。
【0042】
射出成形用金型63の型締め時に、射出成形用一体型67の副成形面69と複数の射出成形用分割型77の主成形面79によってキャビティ81が区画されるようになっている。また、射出成形用一体型67の副成形面69には、複数のゲート83が形成されており、射出成形用一体型67の内部には、複数のゲート83に連通したランナー85が形成されてあって、ランナー85は、射出成形機における射出ノズル87にスプール89を介して接続可能である。
【0043】
ガイドブロック73の窪み75の奥部(底部)には、中子91がキャビティ81の中心部に位置するようにセットされており、この中子91は、タービンホイール55の嵌合穴59の最終形状を反転する形状と相似形の外形面を有している。
【0044】
続いて、第2実施形態に係るインペラの製造方法の具体的な構成について説明する。
【0045】
第2実施形態に係るインペラの製造方法は、第1実施形態に係るタービンインペラ27を製造するための方法であって、射出工程、脱脂工程、焼結工程を備えている。そして、各工程の具体的な内容は、次のようになる。
【0046】
(i)射出工程
図4に示すように、油圧シリンダ等のアクチュエータ(図示省略)の駆動により可動フレーム71を右方向へ移動させることにより、複数の射出成形用分割型77を一体的に右方向へ移動させて、射出成形用一体型67に接触させる。続いて、アクチュエータの駆動により可動フレーム71を複数の射出成形用分割型77に対して右方向へ移動させることにより、複数の射出成形用分割型77を径方向内側へ収縮移動させて、射出成形用金型63の型締めを行う。
【0047】
射出成形用金型63の型締めの完了後に、中子91を射出成形用金型63のキャビティ81の中心部に位置するようセットした状態で、射出ノズル87からスプール89、ランナー85、ゲート83を経由してキャビティ81に耐熱金属粉末(金属粉末の一例)と溶融状態のバインダとの混合物Mを射出して、キャビティ81内にバインダを硬化させる。これにより、タービンインペラ本体53の最終形状と相似形であってかつ中心部に嵌合穴に相当する部位59Fを有した成形体53F(図6参照)を成形することができる。なお、バインダとしては、ポリスチレン,ポリメチルメタアクリレート等の複数種の樹脂とパラフィンワックス等のワックスとからなるものを使用する。
【0048】
キャビティ81内にバインダを硬化させた後に、アクチュエータの駆動により可動フレーム71を複数の射出成形用分割型77に対して左方向へ移動させることにより、複数の射出成形用分割型77を径方向外側へ拡張移動させる。続いて、アクチュエータの駆動により可動フレーム71を左方向へ移動させることにより、複数の射出成形用分割型77を一体的に左方向へ移動させて、射出成形用金型63の型開きを行う。そして、適宜の離型処理を行うことにより、成形体53Fを射出成形用金型63から取り外す。
【0049】
(ii)脱脂工程(除去工程)
射出工程の終了後に、図5に示すように、脱脂炉用治具(図示省略)を用いて、成形体53Fを脱脂炉93の所定位置にセットする。そして、脱脂炉93内を窒素ガス雰囲気中に保ちつつ、脱脂炉93のヒータ(図示省略)によって成形体53Fを所定の脱脂温度まで加熱する。これにより、成形体53Fに含まれるバインダを脱脂(除去)することができる。
【0050】
なお、バインダを脱脂する手法は、前述の加熱脱脂に限るものでなく、溶出脱脂、溶剤脱脂等の別の手法を採用しても構わない。
【0051】
(iii)焼結工程
脱脂工程の終了後に、図6(a)に示すように、焼結炉用治具(図示省略)を用いて、成形体53Fを焼結炉95の所定位置にセットすると共に、円筒部材61を成形体53Fにおける嵌合穴に相当する部位59Fに挿入する。なお、円筒部材61の外径(換言すれば、円筒部材61の横断面積)は、成形体53Fにおける嵌合穴に相当する部位59Fの内径(換言すれば、成形体53Fにおける嵌合穴に相当する部位59Fの横断面積)より小さいものである。
【0052】
そして、焼結炉95内を真空雰囲気中に保ちつつ、円筒部材61を成形体53Fにおける嵌合穴に相当する部位59Fに挿入した状態で、焼結炉95のヒータ(図示省略)によって成形体53Fを所定の焼結温度まで加熱して、成形体53Fを焼成して焼結させる。これにより、図6(b)に示すように、成形体53Fを高密度化して最終形状まで熱収縮させて、成形体53Fからなるタービンインペラ本体53を作製すると共に、円筒部材61によって成形体53Fの熱収縮を規制して、タービンホイール55の中央部に残留応力を発生させる。なお、タービンホイール55の嵌合穴59の内径(換言すれば、タービンホイール55の嵌合穴59の横断面積)は、円筒部材61の外径(換言すれば、円筒部材61の横断面積)と同じになっている。
【0053】
以上により、タービンインペラ27を製造することができる。
【0054】
続いて、第2実施形態の作用及び効果について説明する。
【0055】
焼結工程において、円筒部材61を成形体53Fにおける嵌合穴に相当する部位59Fに挿入した状態で、成形体53Fを焼成して焼結させることにより、成形体53Fからなるタービンインペラ本体53を作製する他に、円筒部材61によって成形体53Fの熱収縮を規制して、タービンホイール55に残留応力を発生させるため、車両用過給機1の運転中に、タービンインペラ27の回転数が低下しても、タービンホイール55の遠心応力の下がり幅を小さくすることができる。これにより、タービンインペラ27の回転数の変動幅が増大しても、タービンホイール55の応力振幅(遠心応力の変動幅)の増大を抑えることができる。
【0056】
また、射出工程において、中心部に嵌合穴に相当する部位59Fを有した成形体53Fを成形しているため、焼結前の成形体53Fにおけるタービンホイールに相当する部位55Fの薄肉化を実現することができる。
【0057】
従って、第2実施形態によれば、第1実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0058】
なお、本発明は、前述の実施形態の説明に限られるものではなく、例えば、タービンホイール55の中心部に円形の無底の嵌合穴59が形成される代わりに、図7に示すように、円形の有底の嵌合穴(中抜き穴)59が形成されるようにしたり、タービンインペラ27に適用した技術的思想をコンプレッサインペラ13に適用したりする等、その他、種々の態様で実施可能である。また、本発明に包含される権利範囲は、これらの実施形態に限定されないものである。
【符号の説明】
【0059】
1 車両用過給機
3 ベアリングハウジング
9 ロータ軸
11 コンプレッサハウジング
13 コンプレッサインペラ
15 コンプレッサホイール
17 コンプレッサブレード
25 タービンハウジング
27 タービンインペラ
29 可変ノズルユニット
31 ノズルリング
33 取付リング
35 シュラウドリング
39 可変ノズル
53 タービンインペラ本体
53F 成形体
55 タービンホイール
55F タービンホイールに相当する部位
57 タービンブレード
59 嵌合穴
59F 嵌合穴に相当する部位
61 円筒部材
63 射出成形用金型
67 射出成形用一体型
69 副成形面
73 ガイドブロック
75 窪み
77 射出成形用分割型
79 主成形面
81 キャビティ
91 中子
93 脱脂炉
95 焼結炉

【特許請求の範囲】
【請求項1】
過給機に用いられるインペラにおいて、
金属粉末射出成形によって形成された成形体を焼結してなるものであって、外周面が軸方向から径方向外側に向かって延びたホイール、及び前記ホイールの外周面に周方向に間隔を置いて一体形成された複数枚のブレードを備え、前記ホイールの中心部に円形の嵌合穴が軸方向に沿って形成されたインペラ本体と、
前記インペラ本体の前記嵌合穴に圧縮嵌合され、前記成形体における前記嵌合穴に相当する部位に挿入された状態で、前記成形体の焼結時の熱収縮を規制して前記ホイールに残留応力を発生させる円筒部材と、を具備したことを特徴とするインペラ。
【請求項2】
エンジンからの排気ガスのエネルギーを利用して、前記エンジンに供給される空気を過給する過給機において、
請求項1に記載のインペラを具備したことを特徴とする過給機。
【請求項3】
請求項1に記載のインペラを製造するためのインペラの製造方法において、
前記インペラ本体の最終形状を反転する形状と相似形の成形面を有した射出成形用金型を用い、前記射出成形用金型の前記成形面によって区画されるキャビティに金属粉末とバインダとの混合物を射出することにより、前記最終形状と相似形であってかつ中心部に前記嵌合穴に相当する部位を有した成形体を成形する射出工程と、
前記射出工程の終了後に、前記成形体に含まれる前記バインダを脱脂する脱脂工程と、
前記脱脂工程の終了後に、前記円筒部材を前記成形体における前記嵌合穴に相当する部位に挿入した状態で、前記成形体を焼成して焼結させることにより、前記成形体を前記最終形状まで熱収縮させて、前記成形体からなる前記インペラ本体を作製すると共に、前記円筒部材によって前記成形体の熱収縮を規制して、前記ホイールに残留応力を発生させる焼結工程と、を具備したことを特徴とするインペラの製造方法。
【請求項4】
前記射出工程は、前記嵌合穴を反転する形状と相似形の外形面を有した中子を用い、前記中子を前記射出成形用金型の前記キャビティの中心部に位置するようセットした状態で、前記射出成形用金型の前記キャビティに前記混合物を射出することを特徴とする請求項3に記載のインペラの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−275878(P2010−275878A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−126807(P2009−126807)
【出願日】平成21年5月26日(2009.5.26)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】