説明

インモールド成形用ポリエステルフィルム

【課題】 成型加工性と表面性に優れ、立体的な樹脂成形部品に意匠性を付与する工程、特にはインモールド成形工程において、良好な外観を有する樹脂成形部品を製造するのに有用なインモールド成形用ポリエステルフィルムを提供する。
【解決手段】 100℃における破断伸度が200〜600%、破断応力が3〜30MPa、100%伸長時応力が2〜20MPaであり、少なくとも片方の面の中心線平均表面粗さ(Ra)が20nm以下であることを特徴とするインモールド成形用ポリエステルフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインモールド成形用ポリエステルフィルムに関し、さらに詳しくはフィルムに印刷を行い、成形加工を施し、印刷を成形部品に転写して意匠を付与する用途に特に有用なインモールド成形用ポリエステルフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、家具や屋内装飾品、電化製品、自動車等の意匠性が重要視される中、これらに用いられる立体的な樹脂成形部品においても表面に意匠を付与することは非常に重要視されている。立体的な樹脂成形部品の表面に装飾を施す方法としては、大きく分ければ、直刷り法と転写法がある。直刷り法は、成形部品に直接印刷する方法であり、パッド印刷法、曲面シルク印刷法、静電印刷法などがあるが、これらは複雑な形状を有する成形部品の製造には不適であり、高度な意匠性を付与することも困難である。一方、転写法には、熱転写法や水転写法があるが、比較的コストが高いという問題がある。
【0003】
これらの問題を解決するべく、立体的な樹脂成形部品に低コストで意匠性を付与する方法として、インモールド成形法がある。この方法は、印刷したポリエステル樹脂(特開2001−354843号公報)、ポリカーボネート樹脂(特開2002−234955号公報)、アクリル樹脂(特開2002−80678号公報)などのシートもしくはフィルムを、あらかじめ真空成形などによって三次元の形状に成形した後、あるいは成形せずに、射出成形金型内にインサートし、成形樹脂を射出成形する方法である。インモールド成形では、樹脂シートもしくはフィルムと成形樹脂を一体化させる場合と、印刷のみ転写させる場合がある。
【0004】
【特許文献1】特開2001−354843号公報
【特許文献2】特開2002−234955号公報
【特許文献3】特開2002−80678号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、これらの手法においては基材となるフィルムの特性によって、得られる樹脂成形部品の意匠性が劣るものとなる場合があり、最適な基材フィルムを用いる必要がある。例えば、基材フィルムの成形加工性が低いと、成形加工工程、射出成形工程においてフィルムに与えられた変形によりフィルムが切断してしまう、フィルムが十分に変形せず部品として不十分となってしまうなどの問題が生じる。逆にアクリルフィルムのような非常に成型加工性の高いフィルムを基材フィルムとして用いると、成型加工の際に伸びすぎてしまう場合があり、印刷の位置を特定できずにずれてしまうなどの問題が生じる。また、基材フィルムの耐薬品性が低いと、インクにより基材が劣化してしまい、基材フィルムの中心線平均表面粗さが粗いと、印刷が明瞭でなくなる、印刷に基材フィルムの粗さが転写され外観が劣るなどの問題を生じる。
【0006】
本発明者は、かかる問題点を改善し、成型加工性と表面性に優れ、立体的な樹脂成形部品に意匠性を付与する工程、特にはインモールド成形工程において、良好な外観を有する樹脂成形部品を製造するのに有用なインモールド成形用ポリエステルフィルムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち本発明は、100℃における破断伸度が200〜600%、破断応力が3〜30MPa、100%伸長時応力が2〜20MPaであり、少なくとも片方の面の中心線平均表面粗さ(Ra)が20nm以下であることを特徴とするインモールド成形用ポリエステルフィルムである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、成型加工性と表面性に優れ、立体的な樹脂成形部品に意匠性を付与する工程、特にはインモールド成形工程において、良好な外観を有する樹脂成形部品を製造するのに有用なインモールド成形用ポリエステルフィルムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のインモールド成形用ポリエステルフィルムは、100℃における破断伸度が200〜600%、破断応力が3〜30MPa、100%伸長時応力が2〜20MPaである。100℃における破断伸度と破断応力、100%伸長時応力が上記を満たさないと、成型加工の際にフィルムが伸びきらず、金型の形状まで変形することができない、フィルムが切断してしまう、もしくは逆にフィルムが伸びすぎで意匠が不均一になってしまうなどの問題が生じる。
【0010】
本発明のインモールド成形用ポリエステルフィルムは、厚み斑の抑制とフィルムの精度および強度を得る観点から、二軸延伸フィルムであることが好ましい。
【0011】
(共重合フィルム)
ポリエステルフィルムを構成するポリエステルとして、エチレンテレフタレート単位を主たる構成成分とするポリエステルに、テレフタル酸以外の酸成分及び/又はエチレングリコール以外のグリコール成分が共重合された共重合ポリエチレンテレフタレートポリエステルフィルムを用いることができる。
【0012】
共重合成分としては次のものを例示することができる。すなわち、ジカルボン酸成分としては、イソフタル酸、オルトフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ビフェニレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸成分、シクロヘキサン−1,4−ジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸成分、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸などの脂肪族ジカルボン酸成分など、また、ジオール成分としては、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコールなどの脂肪族ジオール成分、シクロヘキサン−1,4−ジメタノールなどの脂環族ジオール成分、ビスフェノールAなどの芳香族ジオール成分、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどのエーテル縮合型ジオール成分などがその例である。また、その他に、p−ヒドロキシ安息香酸、ω−ヒドロキシ酪酸、ω−ヒドロキシ吉草酸、乳酸などのヒドロキシカルボン酸成分、ポリカーボネートに見られるような炭酸成分、更に、トリメリット酸、ピロメリット酸やグリセリンなどの3官能以上の成分を含有していてもよい。
【0013】
就中、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、また、ジエチレングリコール、ブタンジオールは、諸特性の発揮のしやすさ、原料の入手のしやすさ、共重合ポリエステルの製造のしやすさなどから好ましい。
【0014】
(多層フィルム)
本発明においては、上述の特性を満たすポリエステルフィルムとして、多層フィルムを用いることが好ましい。この多層フィルムの構成としては、融点Tm(A)℃を示すポリエステルから成るポリエステル層Aと、融点Tm(B)℃を示すポリエステルから成るポリエステル層Bとの少なくとも3層からなる多層フィルムであり、ポリエステル層Aが最外層を形成し、Tm(A)>Tm(B)であり、ポリエステル層Aが一軸以上の延伸配向構造を有しており、ポリエステル層Bが非配向構造であることが好ましい。そして、多層フィルムのポリエステル層Aを構成するポリエステルは、成膜後の1軸以上の延伸処理により配向結晶構造を形成し得るポリエステルであることが好ましい。
【0015】
前記ポリエステル層Aを構成するポリエステルとしては、主たるジカルボン酸単位がテレフタル酸単位、もしくはテレフタル酸およびイソフタル酸単位からなり、主たるグリコール単位がエチレングリコール単位からなるポリエステルが好ましい。このポリエステルは、必要に応じて、例えば2,6−ナフタレンジカルボン酸、オルトフタル酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ビフェニルジカルボン酸、2,2−ビフェニルジカルボン酸、コハク酸、アジピン酸,アゼライン酸,セバシン酸等の他のカルボン酸単位を含有していてもよく、また、例えばプロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−へキサンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等の他のグリコール単位を含有していてもよい。
【0016】
前記ポリエステル層Aを構成するポリエステルの具体例として、ポリエチレンテレフタレート、第3成分を少量共重合したポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレート、第3成分を少量共重合したポリエチレン−2,6−ナフタレート等を好ましく挙げることができる。
【0017】
前記ポリエステル層Bを構成するポリエステルは、ポリエステル層Aを構成するポリエステルの融点よりも低い融点を有することが好ましい。この差は少なくとも15℃以上が好ましい。この融点は190℃以上であることが好ましい。
【0018】
ポリエステル層Bを構成するポリエステルは、主たるジカルボン酸単位がテレフタル酸および/もしくは2,6−ナフタレンジカルボン酸および/もしくはイソフタル酸単位からなる共重合ポリエステルが好ましい。この共重合ポリエステルの従たるジカルボン酸単位としては、ポリエステル層Aを構成するポリエステルの他のジカルボン酸単位として例示したもの、グリコール単位としてはポリエステル層Aを構成するポリエステルのグリコール単位として例示したものを好ましく挙げることができる。
【0019】
この共重合ポリエステルの具体例としては1)テレフタル酸単位およびナフタレンジカルボン酸単位を主とするジカルボン酸単位とエチレングリコール単位を主とするグリコール単位からなるコポリエステル、2)テレフタル酸単位およびイソフタル酸単位を主とするジカルボン酸単位とエチレングリコール単位を主とするグリコール単位からなるコポリエステル、3)テレフタル酸単位およびナフタレンジカルボン酸単位およびイソフタル酸単位を主とするジカルボン酸単位とエチレングリコール単位を主とするグリコール単位からなるコポリエステルなどを挙げることができる。好ましくは、ジカルボン酸単位中、テレフタル酸単位が90〜60モル%、ナフタレンジカルボン酸単位が5〜20モル%、イソフタル酸単位が5〜20モル%である共重合ポリエステルを用いる。
【0020】
本発明におけるポリエステル層Aのポリエステルの融点は、ポリエステル層Bのポリエステルの融点より、好ましくは15℃以上、さらに好ましくは20℃以上、特に好ましくは30℃以上高い。なお、ポリエステル層Aのポリエステルの融点は、205〜270℃、ポリエステル層Bのポリエステルの融点は、190〜250℃が好ましい。ここで、融点は、ポリエステルを一度溶融した後、急冷、固化したサンプルを、示差熱熱量計で20℃/分の速度で昇温したときの溶融吸熱ピーク温度をいう。
【0021】
また、本発明において、ポリエステル層A及びBのガラス転移温度は、フィルム、加工製品の寸法安定性、耐変形性、耐カール性を良好にする観点から、ポリエステル層Aのガラス転移温度は、好ましくは60℃以上、さらに好ましくは70℃以上である。
【0022】
ポリエステル層Bのガラス転移温度は好ましくは50℃以上、さらに好ましくは70℃以上である。特に、夏期における車中での保管等の高温雰囲気に製品等が曝される用途では、80℃以上のガラス転移温度を有することが好ましい。
【0023】
また、ポリエステル層Aのガラス転移点とポリエステル層Bのガラス転移点の差は、好ましくは20℃以下、さらに好ましくは10℃以下、特に好ましくは5℃以下である。この範囲であれば、フィルムの厚み斑を良好にすることができる。ここで、ガラス転移温度とは、ポリエステルを一度溶融して後、急冷、固化したサンプルを、示差熱熱量計で20℃/分の速度で昇温したときの構造変化(比熱変化)温度をいう。
【0024】
これらの融点およびガラス転移点は、ポリエステルへの共重合成分の共重合量を適宜調整することによりコントロールすることができる。
【0025】
(ポリオレフィン樹脂)
本発明において、ポリエステル層A及び/又はポリエステル層Bは、ポリオレフィン樹脂を0.1〜30重量%含有していることも好ましい。ポリオレフィン樹脂としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ4−メチルペンテン等が挙げられる。そして、例えば、隠蔽性、マット調表面などを要求されるカード、包装分野などにおいては、隠蔽性に優れた粒子、例えば酸化チタン、硫酸バリウム等を、フィルム易滑付与以外の目的に含有させることも当然可能である。
【0026】
なお、本発明におけるポリエステル層A及び/又はポリエステル層Bは、本発明の目的を損なわない範囲で、さらに各種の添加剤を含有することができる。例えば、必要に応じて、ポリブチレンテレフタレート−ポリテトラメチレングリコールブロックコポリマー等のエラストマー樹脂、顔料、染料、熱安定剤、難燃剤、発泡剤、紫外線吸収剤等の成分を含有することができる。
【0027】
(フィルム厚み)
ポリエステルフィルムのフィルム厚み(多層構成の場合は全ての層の厚みの和)は、好ましくは10〜500μm、さらに好ましくは20〜300μm、特に好ましくは30〜200μmである。フィルム厚みが10μm未満であるとフィルムの腰が弱く、フィルムが破断しやすくなり、好ましくない。フィルム厚みが500μmを超えると、フィルムの腰が強すぎ、取り扱い性に劣ると共に、成形加工性が劣り好ましくない。
【0028】
(不活性粒子)
表面粗さを本発明の範囲とするために、ポリエステルフィルムは、少なくとも2種類の不活性粒子を含有することが好ましい。ポリエステルフィルムが多層フィルムである場合、表面のポリエステル層に含有することが好ましい。不活性粒子としては、シリカ、アルミナ、酸化チタン、炭酸カルシウム、カオリンなどの無機微粒子、触媒残渣の析出微粒子、シリコーン、ポリスチレン架橋体、アクリル系架橋体などの有機微粒子を例示することができる。
【0029】
不活性粒子としては、平均粒子径1.0〜2.0μmの球状粒子と平均粒子径0.05〜0.5μmの球状粒子の2種類の球状粒子を併用することが好ましい。これらの球状粒子の併用により、フィルムの透明性を維持しながら効率的に滑性、すなわち巻取り性や取り扱い性を向上させることができる。多層フィルムの場合は、最外層のみに含有することで、非常に高い透明性を発現することができ好ましい。
【0030】
(中心線平均表面粗さ)
ポリエステルフィルムは、少なくとも片方の面の中心線平均表面粗さ(Ra)が20nm以下である。この片方の面とは、意匠となる印刷層を塗設する方の面をいう。フィルムの中心線平均表面粗さ(Ra)が20nmを越えるとフィルム表面の粗さが印刷層に転写してしまい、印刷層の中心線平均表面粗さが粗くなってしまう。これによって印刷層は光沢性の劣ったものとなってしまい、樹脂成形部品の高級感を損ねてしまうなどの問題が生じる。
【0031】
ポリエステルフィルムにコーティング層が塗設されている場合は、コーティング層を含めた中心線平均表面粗さ20nm以下であることが必要である。
【0032】
(多層フィルムの層構成)
多層フィルムの構成とする場合、その層構成は通常、ポリエステル層Aとポリエステル層Bからなる。例えば、ポリエステル層Aが表層であり、且つポリエステル層Bが内層である、A/B/A(ここで、/は層の構成を示す)タイプの3層構成、A/B/A/B/Aタイプの5層構成、さらにこれらの順序による7層、9層、2n+1(nは自然数)構成等マルチ多層構成が挙げられる。また、必要に応じて、ポリエステル層Aが2層以上の場合、1以上の層を違うポリマーで構成することができる。ポリエステル層Bが2層以上の場合も同様である。例えば、ポリエステル層Aが2種のポリマー(A1、A2)、ポリエステル層Bが2種のポリマー(B1、B2)からなるとき、A1/B1/A2タイプの3層構成、A1/B1/A2/B2/A1タイプの5層構成等を挙げることができる。これら層構成のうち、3層、5層が好ましく、特に3層が好ましい。
【0033】
これらの場合、1軸以上の延伸配向構造を有するポリエステル層Aが最表層を構成することが必要である。実質的に非配向構造であるポリエステル層Bが最表層を構成すると、フィルム製造の際、工程内の各種ロール等にフィルムが粘着しやすい等の問題がある。
【0034】
多層フィルムの構成とする場合、1軸以上の延伸配向構造を有するポリエステル層Aの総厚み(a)と、実質的に非配向構造であるポリエステル層Bの総厚み(b)の比(a/b)は0.01〜1、好ましくは0.03〜0.67、さらに好ましくは0.05〜0.43である。この厚み比は、例えば層構成がA1(厚み:a1)/B(厚み:b)/A2(厚み:a2)の3層からなる場合、層Aと層Bの総厚み比(a/b)、すなわち(a1+a2)/(b)が0.01〜1であることを意味し、また層構成がA1(厚み:a1)/B1(厚み:b1)/A2(厚み:a2)/B2(厚み:b2)/A3(厚み:a3)の5層からなる場合、層Aと層Bの総厚み比(a/b)、すなわち(a1+a2+a3)/(b1+b2)が0.01〜1であることを意味する。この総厚み比(A/B)が0.01に満たないと、ポリエステル層Aの存在割合が少ないため、フィルム製造時の厚み制御が難しいなど問題を生じ、また、フィルムの寸法安定性が不充分であり好ましくない。総厚み比が1を超えると、実質的に非晶構造であるポリエステル層Bの存在割合が少ない為、フィルムの加工性が不充分となってしまい好ましくない。
【0035】
(表面処理)
ポリエステルフィルムは、離型層との接着性を向上させる目的、印刷用インクとの接着性を向上させる目的、その他表面加工層との接着性を向上させる目的、これらの層との離型性を発現する目的、滑り性を付与する目的で、片面もしくは両面にコーティング処理を施してもよい。
【0036】
透明性を維持しながら滑り性を付与するためには、コーティング層に滑剤を含有し、滑り性を付与することが好ましい。これによりフィルム内部の滑剤含有量をより少なくすることができる。
【0037】
コーティングとして、特開平7−156368号公報、特開2003−49011号公報に記載されているコーティングを例示することができる。同様の目的において、コロナ処理、プラズマ処理、オゾン処理等の表面処理を施してもよい。
【0038】
(フィルムヘーズ)
ポリエステルフィルムのヘーズは、好ましくは5%以下である。ヘーズが5%を超えると、印刷されたフィルムと成形樹脂を一体化させるインモールド成形において、フィルムが印刷層よりも外側の層を形成した場合に意匠が不明瞭となり好ましくない。ヘーズは、滑剤の種類、添加量によって調整することができる。
【0039】
(厚み斑)
ポリエステルフィルムの厚み斑は、好ましくは10%以下、さらに好ましくは5%以下、特に好ましくは3%以下である。厚み斑が10%を超えると、印刷した際にインク層の厚みが不均一となり、結果として印刷の濃淡が不均一となるなどの問題が生じる。
【0040】
(熱収縮率)
ポリエステルフィルムの熱収縮率は、150℃、30分間において、好ましくは0.0〜3.0%である。熱収縮率がこの範囲の外にあると、熱をかけて成型加工する際にポリエステルフィルムが変形してしまい、意匠の位置がずれてしまう、インクが剥離してしまう等の問題が生じる為、好ましくない。
【0041】
(製造方法)
以下、本発明のポリエステルフィルムの製造方法を、3層構成の多層フィルムを例に説明する。ここで説明する多層フィルムは、1軸以上の延伸配向構造を有するポリエステル層Aと非配向構造であるポリエステル層Bとの積層構造を有し、かつ表層がポリエステル層Aからなる。
【0042】
本発明において、ポリエステル層A、ポリエステル層Bを構成するポリエステル自体は、周知の方法で製造することができる。その具体的な例としては、1)ポリエステル製造の反応工程で、1種または複数のジカルボン酸エステル形成性誘導体と1種または複数のグリコ−ルを反応させる方法、2)2種以上のポリエステルを、単軸あるいは2軸押出し機を用い、溶融混合してエステル交換反応(再分配反応)させる等の方法が挙げられる。なお、これらの工程において、必要に応じて、粒子、ポリオレフィン、その他各種添加剤をポリエステル中に含有させることもできる。
【0043】
多層フィルムは、共押出製膜法で製造することができる。先ず、ポリエステル層A用に調製したポリエステルのチップを乾燥、溶融する。これと並行して、ポリエステル層B用に調製したポリエステルのチップを乾燥、溶融する。続いて、これら溶融ポリマーをダイ内部で3層に積層し、例えばフィードブロックを設置したダイ内部で3層に積層したのち、冷却ドラム上にキャスティングして未延伸多層フィルムにし、続いて、該多層フィルムを縦軸及び/又は横軸に1軸以上の方向に延伸して1軸以上の延伸配向構造を有する多層延伸フィルムを得る。なお、5層以上の場合も、同様にすることができる。延伸処理はポリエステル層Aが所望の配向構造を形成する条件で行い、例えば層Aを構成するポリエステルのTg(ガラス転移温度)−10℃からTg+50℃の温度(Tc)で、縦方向に2.5倍以上、好ましくは3〜6倍延伸し、更に好ましくは3〜4倍延伸し、次いでTg+10からTg+50℃の温度で、横方向に2.5倍以上、好ましくは3〜6倍延伸、更に好ましくは3〜4倍するのが、フィルムの厚み斑を良好にする点において好ましい。
【0044】
以上の様にして得られる多層延伸フィルムに、さらに熱処理を実施す。この熱処理はポリエステル層Bの両面にポリエステル層Aを積層した状態で、ポリエステル層Aのポリエステルの融点より低く且つポリエステル層Bのポリエステルの融点より高い温度で行われる。熱処理は、ポリエステル層Aの融点より10℃以上低い温度、ポリエステル層Bの融点より5℃以上高い温度で行うことが好ましい。
【0045】
この熱処理によりポリエステル層Bが溶融して、1軸以上の延伸処理で形成された延伸配向構造が、実質的に無配向構造に変化する。ポリエステル層Bのポリエステルが一時溶融状態になるため、ポリエステル層Bのポリマー配向構造は1軸以上の延伸配向構造が存在していたとしても、実質的に無配向な構造になる。なお、この熱処理によって、ポリエステル層Aには、熱固定処理したのと同じ効果が得られる。
【0046】
熱処理方法はとしては、例えば、フィルム製造時において延伸後直ちに工程内で熱処理する方法、フィルム製造完了後フィルムをロール状に巻き取った後熱処理する方法を用いることができ、前者が好ましい。前者の方法においては、共押出製膜法における延伸処理後の熱固定処理時の温度を、ポリエステル層Aのポリエステルの融点より低くかつポリエステル層Bのポリエステルの融点より高い温度に設定することで有効に行うことができる。
【0047】
このようにして多層フィルムを製造することにより、100℃における破断伸度が200〜600%、破断応力が3〜30MPa、100%伸長時応力が2〜20MPaである、本発明のインモールド成形用ポリエステルフィルムを得ることができる。
【実施例】
【0048】
以下、実施例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明する。
なお、実施例および比較例において用いた特性の測定方法ならびに評価方法は、次のとおりである。
【0049】
(1)ガラス転移温度・融点
サンプル約10mgを測定用のアルミニウム製パンに封入して示差熱量計(TA Instruments社製、商品名「DSC2920 Modulated」)に装着し、25℃から20℃/分の速度で300℃まで昇温させ、300℃で3分間保持した後取り出し、直ちに氷の上に移して急冷した。このパンを再度示差熱量計に装着し、25℃から20℃/分の速度で昇温させてガラス転移温度Tg(単位:℃)と融点Tm(単位:℃)を測定した。
【0050】
(2)固有粘度
固有粘度([η]dl/g)は、35℃のo−クロロフェノール溶液で測定した。
【0051】
(3)ヘーズ
JIS K7105に準じて、ヘーズ測定機(日本電色工業(株)製、商品名「NDH−2000」)を使用して全光線透過率Tt(%)と散乱光透過率Td(%)とを測定し、以下の式からヘーズ(%)を算出した。
ヘーズ(%)=(Td/Tt)×100
【0052】
(4)熱収縮率
内部を150℃にした熱風循環型のオーブン中に、該フィルムの測定する方向に一定の間隔(役30cm)の評点をつけたサンプルを設置した。30分後に取り出したサンプルの評点間距離を測定し、下記式によって収縮率を算出した。
S=100×(L−L)/L
(S:熱収縮率(%)、L:熱処理後の評点間間隔(mm)、L:熱処理前の評点間間隔(mm))
【0053】
(5)中心線平均表面粗さ(Ra)
JIS B0601に準じ、(株)小坂研究所製の高精度表面粗さ計 SE−3FATを使用して、針の半径2μm、荷重30mgで拡大倍率20万倍、カットオフ0.08mmの条件下にチャートを描かせ、表面粗さ曲線からその中心線方向に測定長さLの部分を抜き取り、この抜き取り部分の中心線をX軸、縦倍率の方向とY軸として、粗さ曲線をY=f(x)で表わした時、次の式で与えられた値をnm単位で表わした。また、この測定は、基準長を1.25mmとして4個測定し、平均値で表わした。
【0054】
【数1】

【0055】
(6)引張評価
破断応力と破断伸度は、測定装置としてチャック部を加熱チャンバーで覆った引張試験機(東洋ボールドウィン社製、商品名「テンシロン」)を用いて測定した。得られたポリエステルフィルムから、縦方向(MD)と横方向(TD)について、それぞれ長手方向100mm×幅方向10mmのサンプルを採取し、間隔を50mmにセットしたチャックに挟んで固定した。その際、引張試験機のチャック部分に設置されている加熱チャンバーにより、サンプルの存在する雰囲気下は100℃に保った。100mm/分の速度で引張り、試験機に装着されたロードセルで荷重を測定した。荷伸曲線の破断時の荷重と100%伸張時の荷重を読取り、引張前のサンプル断面積で割って各々破断応力(MPa)と100%伸張時応力(MPa)を計算した。また、破断伸度は、初期のチャック間隔(L)と破断時のチャック間隔(L)から、下記式を用いて算出し、破断伸度(%)とした。
破断伸度(%)=(L−L)/L×100
【0056】
(7)ポリエステルペレットの作成
出発原料としてテレフタル酸ジメチルとエチレングリコールを用い、かつ酢酸マンガン、リン酸、3酸化アンチモンを触媒として用いて、常法によりエステル交換反応、重縮合反応を実施し、得られたポリマーを反応釜から吐出、冷却して、ポリエチレンテレフタレートのペレット(以下「PET」と略記する)を得た。得られたPETのガラス転移温度は80℃、融点は255℃、固有粘度は0.65であった。
【0057】
出発原料としてテレフタル酸ジメチル88モル%(全酸成分に対し)およびイソフタル酸ジメチル12モル%(全酸成分に対し)とエチレングリコールを用いる以外は、上記PETと同様に、エステル交換反応、重縮合反応を実施し、得られたポリマーを反応釜から吐出、冷却して、共重合ポリエチレンテレフタレートのペレット(以下、「IA−CO−PET」と略記する)を得た。得られたIA−CO−PETのガラス転移温度は65℃、融点は223℃、固有粘度は0.69であった。
【0058】
出発原料としてテレフタル酸ジメチル88モル%(全酸成分に対し)および2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチル12モル%(全酸成分に対し)とエチレングリコールを用いる以外は、上記PETと同様に、エステル交換反応、重縮合反応を実施し、得られたポリマーを反応釜から吐出、冷却して、共重合ポリエチレンテレフタレートのペレット(以下「NDC−CO−PET」と略記する)を得た。得られたNDC−CO−PETのガラス転移温度は82℃、融点は223℃、固有粘度は0.69であった。
ポリブチレンテレフタレート(以下「PBT」と略記する)ペレットとしては、ウィンテックポリマー(株)製デュラネックス500FPを使用した。
【0059】
[実施例1]
上記で得られたPETとIA−CO−PETを、(PET)/(IA−CO−PET)=58/42重量%となるように混合した混合物(フィルムとした後にポリエステル層Aとなる)、およびIA−CO−PETとNDC−CO−PETを(IA−CO−PET)/(NDC−CO−PET)=50/50重量%となるように混合した混合物(フィルムとした後にポリエステル層Bとなる)を別々に乾燥、単軸スクリュー押出し機で溶融した後、ダイ内部で(PETとIA−CO−PETの混合物)|(IA−CO−PETとNDC−CO−PET混合物)|(PETとIA−CO−PETの混合物)の3層に溶融ポリマーを積層し、この状態で冷却ドラム上にキャスティングし、未延伸多層フィルムを得た。続いて、該多層フィルムを縦方向に110℃で3.0倍延伸、横方向に120℃で3.2倍に逐次2軸延伸した後、235℃で熱固定し、3層フィルムを得た。この3層フィルムの厚み構成は、PETとIA−CO−PETからなる両面の表層(ポリエステル層A)が各2.5μm、IA−CO−PETとNDC−CO−PETからな内層(ポリエステル層B)が45μmの合計50μmであった。得られた3層フィルムの構成を表1に、特性を表2に示す。尚、滑剤としてポリエステル層Aに平均粒子径1.2μmの真球状シリコーンを100ppm、平均粒子径0.1μmの真球状シリカを600ppm含有している。
【0060】
[実施例2]
ポリエステル層Bを形成する樹脂として、上記で得られたIA−CO−PETを単独で用いる以外は実施例1と同様の方法でフィルム厚み50μmの3層フィルムを得た。得られた3層フィルムの構成を表1に、特性を表2に示す。
【0061】
[実施例3]
ポリエステル層Bを形成する樹脂として、上記で得られたNDC−CO−PETを単独で用いる以外は実施例1と同様の方法でフィルム厚み50μmの3層フィルムを得た。得られた3層フィルムの構成を表1に、特性を表2に示す。
【0062】
[実施例4]
3層フィルムの厚み構成をPETとIA−CO−PETからなる両面の表層(ポリエステル層A)が各5μm、IA−CO−PETとNDC−CO−PETからな内層(ポリエステル層B)が40μmの合計50μmとする以外は実施例1と同様の方法でフィルム厚み50μmの3層フィルムを得た。得られた3層フィルムの構成を表1に、特性を表2に示す。
【0063】
実施例1〜4で得られたフィルムは、成形性が高い為に様々な形状の樹脂成形部品に適用する事ができ、且つ表面粗さが平滑である為に樹脂成形部品の表面に転写されたインクの光沢性等の外観が良好なものであり、インモールド成形用ポリエステルフィルムとして好適であった。
【0064】
[比較例1]
上記で得られたPETのペレットを乾燥し、単軸スクリュー押出し機で溶融した後、ダイより溶融押出しして冷却ドラム上にキャスティングし、未延伸フィルムを得た。続いて、該フィルムを縦方向に100℃で3.3倍、横方向に110℃で3.5倍に逐次2軸延伸した後、235℃で熱固定し、フィルム厚み25μmの単層フィルムを得た。得られた単層フィルムの構成を表1に、特性を表2に示す。尚、滑剤として平均粒子径1.7μmの凝集シリカを80ppm含有している。
【0065】
[比較例2]
上記で得られたIA−CO−PETのペレットを乾燥し、単軸スクリュー押出し機で溶融した後、ダイより溶融押出しして冷却ドラム上にキャスティングし、未延伸フィルムを得た。続いて、該フィルムを縦方向に90℃で3.2倍、横方向に100℃で3.4倍に逐次2軸延伸した後、185℃で熱固定し、フィルム厚み25μmの単層フィルムを得た。得られた単層フィルムの構成を表1に、特性を表2に示す。尚、滑剤として平均粒子径1.7μmの凝集シリカを80ppm含有している。
【0066】
[比較例3]
上記で得られたIA−CO−PETおよびPBTのペレットを(IA−CO−PET)/(PBT)=55/45重量%となるように混合した混合物を乾燥し、単軸スクリュー押出し機で溶融した後、ダイより溶融押出しして冷却ドラム上にキャスティングし、未延伸フィルムを得た。続いて、該フィルムを縦方向に100℃で3.0倍、横方向に100℃で3.2倍に逐次2軸延伸した後、195℃で熱固定し、50μm厚みの単層フィルムを得た。得られた単層フィルムの構成を表1に、特性を表2に示す。尚、滑剤として平均粒子径1.7μmの凝集シリカを80ppm、平均粒子径0.1μmの真球状シリカを150ppm含有している。
【0067】
比較例1〜3で得られたフィルムは、共重合成分の含有量が不十分、共重合成分の種類の選択が不適切、もしくは成形性を発現する為の構成が不適切である為に過度の配向結晶が形成され、成形性が不十分であり、形状の浅い樹脂成形部品にしか用いることができず、インモールド成形用ポリエステルフィルムとして不十分なものであった。
【0068】
[比較例4]
滑剤としてポリエステル層Aに平均粒子径1.7μmの凝集シリカを660ppm含有している以外は実施例1と同様の方法でフィルム厚み50μmの3層フィルムを得た。
比較例4で得られたフィルムは、十分な成形加工性を発現し、様々な形状の樹脂成形部品に適用可能であったが、表面粗さが粗い為に転写されたインクの表面も粗く、樹脂成形部品の光沢性・外観に劣るものであった。
【0069】
[比較例5]
比較例5のサンプルとして、帝人化成(株)製のA−PET(フィルム厚み50μm)を使用した。
比較例5のサンプルは、成型加工性が高すぎ、且つ熱収縮性が高すぎる為、印刷位置にずれが生じた。また、表面粗さが粗い為に転写されたインクの表面も粗く、樹脂成形部品の光沢性・外観に劣るものであった。
【0070】
【表1】

【0071】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明は、インモールド成形により製造される樹脂成形部品の表面を構成する部材として用いることができる。例えば、家具や屋内装飾品、電化製品、自動車等に用いられる立体的な樹脂成形部品の表面を構成する部材として用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
100℃における破断伸度が200〜600%、破断応力が3〜30MPa、100%伸長時応力が2〜20MPaであり、少なくとも片方の面の中心線平均表面粗さ(Ra)が20nm以下であることを特徴とするインモールド成形用ポリエステルフィルム。
【請求項2】
150℃、30分における熱収縮率が0.0%〜3.0%である、請求項1記載のインモールド成形用ポリエステルフィルム。
【請求項3】
ポリエステルフィルムが、融点Tm(A)℃を示すポリエステルから成るポリエステル層Aと、融点Tm(B)℃を示すポリエステルから成るポリエステル層Bとの少なくとも3層からなる多層フィルムであり、ポリエステル層Aが最外層を形成し、Tm(A)>Tm(B)であり、ポリエステル層Aが一軸以上の延伸配向構造を有しており、ポリエステル層Bが非配向構造である、請求項2に記載のインモールド成形用ポリエステルフィルム。
【請求項4】
表面のポリエステル層は少なくとも2種類の不活性粒子を含有する請求項3に記載の、インモールド成形用ポリエステルフィルム。
【請求項5】
不活性粒子が平均粒子径1.0〜2.0μmの球状粒子と平均粒子径0.05〜0.5μmの球状粒子の2種類の球状粒子である、請求項4に記載のインモールド成形用ポリエステルフィルム。

【公開番号】特開2006−281732(P2006−281732A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−108568(P2005−108568)
【出願日】平成17年4月5日(2005.4.5)
【出願人】(301020226)帝人デュポンフィルム株式会社 (517)
【Fターム(参考)】