説明

インモールド成形用ラベル及び該ラベル付き射出成形体

【課題】耐水性、耐洗剤性、耐薬品性、耐久性に優れ、且つ非極性樹脂のみならず極性樹脂であるポリエチレンテレフタレートやスチレン−アクリロニトリル樹脂等の熱可塑性樹脂よりなる射出成形体に対しても接着力の優れたインモールド成形用ラベル、及びそのインモールド成形体ラベルを貼着したラベル付き射出成形体を提供する。
【解決手段】基層と多孔質接着層とを含む積層樹脂フィルムからなり、該多孔質接着層の表面開口率が6〜30%であり、且つ該多孔質接着層に大気圧近傍の圧力下にてプラズマ処理を施したインモールド成形用ラベルであって、該ラベルをエステル系樹脂またはスチレン系樹脂よりなる射出成形体適用してラベル付き射出成形体としたとき、成形後の該ラベルと該射出成形体との接着力が200〜800gf/15mmであり、且つラベル付き射出成形体を界面活性剤溶液に24時間浸漬した後の該ラベルと該射出成形体との接着力が150〜600gf/15mmであるインモールド成形用ラベル。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインモールド成形用ラベル、及び、それを用いたラベル付き射出成形体に関するものであり、より具体的には、基層と多孔質接着層とを含む積層樹脂フィルムよりなるインモールド成形用ラベルであって、該多孔質接着層を特定の構造とし、且つ特定の表面処理を行うことによって、種々広範な熱可塑性樹脂原料よりなる射出成形体に対しても一様に高い接着力を実現できるインモールド成形用ラベルと、それを用いたラベル付き射出成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
溶融した熱可塑性樹脂を金型内に高圧にて押し出して、樹脂を金型の形状に賦形する射出成形の技術は良く知られている。この際、同金型内にラベルやブランクを固定し、溶融樹脂の賦形に併せて樹脂にラベルを貼着して、ラベルが一体となった成形体を得る技術も良く知られており、この様な金型内貼着に用いるラベルを「インモールドラベル」(In-Mold Label :IML )或いは「インモールド成形用ラベル」と呼んでいる。
樹脂成形体の耐水性、耐薬品性、耐久性といった特徴に併せて、同じく耐水性、耐薬品性、耐久性等が必要な用途に供し得るインモールド成形用ラベルの開発が従来から行われている。例えば、ポリオレフィン樹脂からなる延伸または無延伸の透明フィルムや、ポリオレフィン樹脂に無機微細粉末や有機フィラーを配合した延伸または無延伸の白色フィルム(合成紙)等、更にはこれらの片面に、各種のヒートシール性樹脂よりなるヒートシール層をフィルム製造の過程で共押し出ししたもの(特許文献1)、ヒートシール性樹脂フィルムを貼合またはラミネートしたもの、各種の塗工設備を用いてヒートシール性樹脂を表面にコートしたもの(特許文献2)等が提案され、一部で実用化されている。
【0003】
また別に、白色フィルム(合成紙)等の片面に、表面に微細な開口部を有する多孔質層を設け、この層をヒートシール層の替わりに接着層として用いるもの(特許文献3)も提案されている。このものは、ヒートシール性能が好適なポリエチレン樹脂だけでなく、ヒートシール性能の乏しいポリプロピレン樹脂を主成分とする層としても、インモールド成形用ラベルの接着層として用いることができる。さらにこの多孔質層にヒートシール性樹脂をコートするもの(特許文献4)も提案されている。しかし特許文献1〜3の方法は、非極性樹脂であるポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂からなる成形体には好適な接着力が得られるものの、ポリエチレンテレフタレート等の極性樹脂からなる成形体には不向きであり、十分な接着力が得られなかった。
【0004】
また特許文献4の方法は、広範なヒートシール性樹脂を選択できることから極性樹脂を含む種々の成形体に十分な接着力で貼着することができるが、主に水系のヒートシール性樹脂をコートしているためにラベル付き成形体の耐水性が弱く、同成形体を水性液体に漬けた際のラベルと成形体との接着力が低下する傾向が見られ、特に同成形体を洗剤(界面活性剤)溶液に漬けた際の接着力の低下は顕著であり、剥がれやすいという問題があった。そのため、食品容器や洗剤容器など生活用品に良く使われるポリエチレン、ポリプロピレン、およびポリエチレンテレフタレート等のエステル系樹脂、スチレン−アクリロニトリル樹脂等のスチレン系樹脂のうち、極性樹脂である後者2者に好適に用いられるラベルであって、洗剤などの内容物に触れる水回りでの使用に充分耐えられるものは未だ提案されていない。
【0005】
本発明者は、ラベルとなる樹脂フィルムの製造過程で、共押し出しまたはラミネートにより基層上に多孔質層を設け、この多孔質層の表面を化学的に修飾する処理を施すことで、耐水性、耐洗剤性、耐薬品性、耐久性に優れ、且つ非極性樹脂のみならず極性樹脂の成形体にも適用可能なインモールド成形用ラベルを得るべく鋭意研究を行った。
本発明者は、これら樹脂フィルム表面を化学的に修飾する方法として、種々のプラズマ処理の有用性を検討した。該プラズマ処理については、フィルムへの塗工前、印刷前、ラミネート前に、親水性向上、密着性向上の目的で通常実施されている。例えば、ポリオレフィン系フィルムの濡れ向上等を目的に、コロナ放電による酸化処理が一般的に行われている。
【0006】
コロナ放電処理とは、接地されたロールと、棒状、板状の印加電極からなり、接地ロールと印可電極の間にシート状の被処理基材を通し、被処理基材を接地ロールに接触させながら印可電極に高電圧をかけることで被処理基材の表面を酸化処理する方法である。高電圧を用いるために被処理基材は強い電界中に位置する。電圧が高すぎると部分的に電流が流れ、被処理基材表面にて沿面放電やアーク放電が発生し、被処理基材に傷やピンホール、処理ムラを与えることがある。そのため同処理では、積層樹脂フィルムの多孔質接着層に界面活性剤溶液に浸漬した後も接着力を十分に保てるほど強く効果的な処理を施すことができなかった。
【0007】
上記のコロナ放電処理以外の表面処理としては、低圧下にて反応性ガスを微量封入し、プラズマ処理する方法、大気圧下にてアルゴン、ヘリウム等の高価な希ガスに反応性ガスを微量混入し処理する方法、または窒素ガスに水蒸気を混入し処理する方法(特許文献5)などが報告されている。
しかしいずれの方法によっても、処理環境圧力や封入ガスの管理が複雑になるといった問題を避けることができない。従って樹脂フィルムへの処理方法として上記のものは余り一般的ではなく、当業者であろうと容易に可否の試みができるほど普及していないのが実情である。
【0008】
【特許文献1】特開平02−084319号公報
【特許文献2】特開平02−122914号公報
【特許文献3】特開2006−309175号公報
【特許文献4】特開2004−255864号公報
【特許文献5】特開2003−155364号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、耐水性、耐洗剤性、耐薬品性、耐久性に優れ、且つ非極性樹脂のみならず極性樹脂であるポリエチレンテレフタレートやスチレン−アクリロニトリル樹脂等の熱可塑性樹脂よりなる射出成形体に対しても接着力の優れたインモールド成形用ラベル、及びそのインモールド成形体ラベルを貼着したラベル付き射出成形体を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は更に鋭意研究を行った結果、基層と多孔性接着層とを含む積層樹脂フィルムからなるインモールド成形用ラベルの多孔質層に、大気圧近傍の圧力下にてプラズマ放電処理を施すことによって、ポリエチレンテレフタレートやスチレン−アクリロニトリル樹脂等に代表される極性の熱可塑性樹脂よりなる射出成形体への接着性に優れ、耐水性、耐洗剤性、耐薬品性、耐久性に優れたインモールド成形用ラベルを提供し得ることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
すなわち本発明は、以下のとおりの構成を有するインモールド成形用ラベルおよびインモールド成形用ラベル付き射出成形体に係わるものである。
(1)基層と多孔質接着層とを含む積層樹脂フィルムからなり、該多孔質接着層の表面開口率が6〜30%であり、且つ該多孔質接着層に大気圧近傍の圧力下にてプラズマ処理を施したインモールド成形用ラベルであって、該ラベルを、エステル系樹脂またはスチレン系樹脂よりなる射出成形体に適用してラベル付き射出成形体としたとき、成形後の該ラベルと該射出成形体との接着力が200〜800gf/15mmであり、且つラベル付き射出成形体を界面活性剤溶液に24時間浸漬した後の該ラベルと該射出成形体との接着力が150〜600gf/15mmであることを特徴とするインモールド成形用ラベル。
【0012】
(2)該プラズマ処理が、固体誘電体に覆われた一対の対向する電極を用い、この電極間に大気圧近傍の圧力下にてガスを満たした上で、この電極に高周波パルス状電圧を加えてガス中にプラズマを発生させ、この電極間に積層樹脂フィルムを通過させることで多孔質接着層の活性化処理を行なうものであることを特徴とする上記(1)に記載のインモールド成形用ラベル。
(3)該プラズマ処理が、一対の固体誘電体に覆われた対向する電極を用い、この電極間に大気圧近傍の圧力下にてガスを満たした上で、この電極に高周波電圧を加えてガス中にプラズマを発生させ、該プラズマガスを電極間より外に位置する積層樹脂フィルムの多孔質接着層へ吹き付けて、多孔質層の活性化処理を行なうことを特徴とする上記(1)に記載のインモールド成形用ラベル。
【0013】
(4)該プラズマ処理において使用される該ガスが、窒素ガスであることを特徴とする上記(2)又は(3)に記載のインモールド成形用ラベル。
(5)常圧窒素ガス下でプラズマ処理を施すことにより、該多孔質接着層の表面から深さ10nmまでの原子構成比が、ESCAを用いた1S軌道スペクトルのピーク面積より求めた窒素原子数及び炭素原子数の比(N/C)として、0.015〜0.070の範囲であることを特徴とする上記(4)に記載のインモールド成形用ラベル。
(6)インモールド成形用ラベルを構成する多孔質接着層が、熱可塑性樹脂と、無機微細粉末および有機フィラーの少なくとも一つとを含む樹脂フィルムであることを特徴とする上記(1)〜(5)いずれか一項に記載のインモールド成形用ラベル。
【0014】
(7)多孔質接着層が、該熱可塑性樹脂としてポリオレフィン系樹脂を含むことを特徴とする上記(6)に記載のインモールド成形用ラベル。
(8)多孔質接着層が、該熱可塑性樹脂としてポリプロピレン系樹脂を含み、且つ無機微細粉末及び/又は有機フィラーの少なくとも一つを50〜80重量%含むことを特徴とする上記(6)又は(7)に記載のインモールド成形用ラベル。
(9)多孔質接着層が、少なくとも1軸方向に延伸された樹脂フィルムであることを特徴とする上記(1)〜(8)いずれか一項に記載のインモールド成形用ラベル。
【0015】
また本発明は、
(10)エステル系樹脂またはスチレン系樹脂よりなる射出成形体に、上記(1)〜(8)いずれか一項に記載のインモールド成形用ラベルを貼着してなるラベル付き射出成形体。
(11)エステル系樹脂が、ポリエチレンテレフタレート及び/又は非晶性ポリエチレンテレフタレートよりなる群より選ばれる1以上の樹脂を含む樹脂であることを特徴とする上記(10)に記載のラベル付き射出成形体。
(12)スチレン系樹脂がとしてはスチレン−アクリロニトリル樹脂及び/又はアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂よりなる群より選ばれる1以上の樹脂を含む樹脂であることを特徴とする上記(10)に記載のラベル付き射出成形体。
【発明の効果】
【0016】
本発明のインモールド成形用ラベルは、ポリエチレンやポリプロピレンのような非極性樹脂の成形体のみならず、ポリエチレンテレフタレートやスチレン−アクリロニトリル樹脂のような極性樹脂の成形体に対しても優れた接着力を有し、例え本発明のラベル付き射出成形体を界面活性剤溶液中に漬け込んでもラベルは容易には剥がれない、という顕著な効果を奏するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に、本発明のインモールド成形用ラベル及び該ラベル付き射出成形体について詳細に説明する。
なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
(1)多孔質接着層
本発明のインモールド成形用ラベルを構成する積層樹脂フィルムにおいて、多孔質接着層とは、ラベルと射出成形体とを接合する接着剤の働きをするものである。金型内で射出成形体を成形する際に、高圧にて押し出された溶融樹脂が、ラベルの多孔質接着層の表面開口部に投錨し、射出成形体と接合して強固な接着力を発揮し得るものである。多孔質接着層は熱可塑性樹脂よりなり、無機微細粉末及び/又は有機フィラーの少なくとも一つを含む樹脂フィルムであることが好ましい。
【0018】
多孔質接着層を構成する熱可塑性樹脂(A)
本発明の多孔質接着層に用いられる熱可塑性樹脂としては、ポリプロピレン系樹脂、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、直鎖線状低密度ポリエチレンなどの結晶性ポリオレフィン系樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸アルキルエステル共重合体、エチレン−メタクリル酸アルキルエステル共重合体(アルキル基の炭素数は1〜8)、エチレン−メタクリル酸共重合体の金属塩(アイオノマー)、ポリ4−メチル−1−ペンテン、エチレン−環状オレフィン共重合体等の結晶性ポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ナイロン−6、ナイロン−6,6、ナイロン−6,10、ナイロン−6,12等のポリアミド系樹脂、スチレン−アクリロニトリル樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂等を挙げることができる。好ましくはポリプロピレン系樹脂、高密度ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート樹脂等の融点が130〜280℃の範囲の熱可塑性樹脂であり、これらの樹脂は2種以上混合して用いることもできる。
【0019】
これらの中でも、耐水性や耐薬品性、生産コスト等の観点より、ポリオレフィン系樹脂を用いることが好ましく、ポリプロピレン系樹脂、高密度ポリエチレンを用いることがより好ましい。ポリオレフィン系樹脂は結晶性を示すものを用い、且つ無機微細粉末等の充填剤を用いれば、延伸により多孔質接着層表面に空孔(開口)が十分に形成されるため好ましい。該樹脂の結晶化度はX線回折、赤外線スペクトル分析等の方法によって測定することができる。
【0020】
ポリプロピレン系樹脂としては、プロピレンを単独重合させたアイソタクティック重合体またはシンジオタクティック重合体を用いることが好ましい。またプロピレンと、エチレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、4−メチル−1−ペンテン等のα−オレフィンとを共重合させた様々な立体規則性を有するプロピレンを主成分とする共重合体を使用することもできる。共重合体は2元系でも3元系以上の多元系でもよく、またランダム共重合体でもブロック共重合体でもよい。
本発明の多孔質接着層としての樹脂フィルムにおける熱可塑性樹脂(A)の含有量は、通常20〜50重量%、好ましくは25〜50重量%、特に好ましくは35〜50重量%である。熱可塑性樹脂(A)の含有量が50重量%を超えると、所望の表面開口率が得られずにインモールド成形した射出成形体とラベルとの接着性が不十分になる傾向がある。逆に20重量%未満だと、樹脂フィルムの延伸成形が困難になる傾向がある。
【0021】
無機微細粉末(B)、有機フィラー(B’)
本発明の多孔質接着層に用いられる無機微細粉末及び/又は有機フィラーの種類は特に限定されない。
無機微細粉末(B)としては、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、焼成クレー、タルク、硫酸バリウム、珪藻土、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化珪素などが挙げられる。またこれらを脂肪酸、高分子界面活性剤、帯電防止剤等で表面処理したものでも良い。なかでも、重質炭酸カルシウム、焼成クレー、タルクが、空孔成形性が良く、安価で好ましい。
【0022】
有機フィラー(B’)としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリスチレン、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリエチレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィド、ポリイミド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリメチルメタクリレート、ポリ4−メチルペンタ−1−エン、環状オレフィンの単独重合体や環状オレフィンとエチレンとの共重合体、メラミン樹脂等で、上記熱可塑性樹脂(A)とは非相溶であり、融点が120〜300℃、ないしはガラス転移温度が120〜280℃であるものなどが挙げられる。
上記の無機微細粉末及び/又は有機フィラーの中から1種を選択してこれを単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0023】
本発明の多孔質接着層としての樹脂フィルムにおける無機微細粉末(B)及び/又は有機フィラー(B’)の含有量の合計は、通常50〜80重量%、好ましくは50〜75重量%、特に好ましくは50〜65重量%である。
無機微細粉末(B)及び/または有機フィラー(B’)の含有量の合計が80重量%を超えると、樹脂フィルムの延伸成形が困難になる傾向がある。
逆に50重量%未満だと、所望の表面開口率が得られずにインモールド成形した射出成形体とラベルとの接着性善が不十分になる傾向がある。
【0024】
分散剤(C)
本発明の多孔質接着層には、必要により無機微細粉末及び/又は有機フィラーの分散剤を任意に添加することができる。該分散剤としては、酸変性ポリオレフィン、シラノール変性ポリオレフィンなどを例示することができる。この中でも酸変性ポリオレフィンを用いることが好ましい。該酸変性ポリオレフィンとしては、無水マレイン酸をランダム共重合もしくはグラフト共重合した無水カルボン酸基含有ポリオレフィン、あるいはメタクリル酸、アクリル酸などの不飽和カルボン酸をランダム共重合もしくはグラフト共重合したカルボン酸基含有ポリオレフィン、グリシジルメタクリレートをランダム共重合もしくはグラフト共重合したエポキシ基含有ポリオレフィンなどが挙げられる。具体例としては、無水マレイン酸変性ポリエチレン、無水マレイン酸変性ポリプロピレン、アクリル酸変性ポリプロピレン、エチレン−メタクリル酸ランダム共重合体、エチレン−グリシジルメタクリレートランダム共重合体、エチレン−グリシジルメタクリレートグラフト共重合体、グリシジルメタクリレート変性ポリプロピレンなどが挙げられる。この中でも無水マレイン酸変性ポリエチレン、無水マレイン酸変性ポリプロピレンを用いることが好ましい。
【0025】
任意成分
本発明の多孔質接着層には、任意成分として目的とする接着性等を阻害しない範囲で公知の他の樹脂用添加剤を任意に添加することができる。
該添加剤としては、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、脂肪酸アミドなどのスリップ剤、アンチブロッキング剤、染料、顔料、可塑剤、結晶核剤、離型剤、難燃剤等を挙げることができる。
【0026】
(2)基層
本発明のインモールド成形用ラベルを構成する積層樹脂フィルムにおいて、基層とはラベルの支持体として、ラベルに強度や印刷適性、耐水性、耐薬品性、場合により不透明性等を付与するものである。またラベル成形においては多孔質接着層を支持して成形しやすくするものである。
該基層は、少なくとも熱可塑性樹脂を含む樹脂フィルムである。基層の素材としては、特に限定されず、多孔質接着層の項で前述した熱可塑性樹脂(A)、無機微細粉末(B)及び/又は有機フィラー(B’)、分散剤(C)等を任意に配合して所望の樹脂フィルムとすることが可能である。
その他、目的とする印刷適性、耐水性等を阻害しない範囲で、多孔質接着層と同様に公知の樹脂用添加剤を任意成分として任意に添加することができる。
【0027】
(3)樹脂フィルムの製造
本発明のインモールド成形用ラベルを構成する積層樹脂フィルムは、当業者間で公知の種々の方法を組み合わせることによって製造することができる。如何なる方法により製造された樹脂フィルムであっても、本発明の構成要件を満たすものである限り本発明の範囲内に包含される。
該積層樹脂フィルムは、表面開口の形成、空孔形成による軽量化や、分子配向による剛度向上の観点から、少なくとも一軸方向に延伸されたものであることが好ましい。基層が複数の層から構成されるときは、少なくともその一層が延伸されていることが好ましい。複数層を延伸する場合は、各層を積層する前に個別に延伸しておいてもよいし、積層した後に延伸してもよい。また、延伸した層を積層後に再び延伸しても差し支えない。多孔質接着層として表面に開口を付与するためには、基層上に多孔質接着層を形成する材料を成膜した後に全体を延伸する方法が特に好ましい。
【0028】
該積層樹脂フィルムの延伸には、従来公知の種々の方法を適用することができる。例えば、上記樹脂材料をスクリュー型押出機を用いて溶融混練し、この押出機に接続されたTダイやIダイを用いて溶融樹脂を押し出しシート状に成形した後、該シートを延伸して積層樹脂フィルムを得る方法として、ロール群の周速差を利用したロール間縦延伸法、テンターオーブンを利用した横延伸法、これらを組み合わせた逐次二軸延伸法などを使用できる。また、テンターオーブンとパンタグラフの組み合わせによる同時二軸延伸法、テンターオーブンとリニアモーターの組み合わせによる同時二軸延伸法などを使用できる。更には、スクリュー型押出機に接続された円形ダイを使用して溶融樹脂をチューブ状に押し出し成形した後、これに空気を吹き込む同時二軸延伸(インフレーション成形)法などが使用できる。
延伸の温度は、熱可塑性樹脂が非晶性樹脂の場合には使用する樹脂のガラス転移点以上に、結晶性樹脂の場合には非結晶部分のガラス転移点以上から結晶部の融点以下に設定することができる。
特に多孔質接着層の構成樹脂成分に結晶性樹脂を使用し、延伸の温度がこれの結晶部の融点を越えると、所望の表面開口率が得られず、ラベルと射出成形体との接着性が低下する傾向にあり好ましくない。
【0029】
安定した樹脂フィルムの延伸成形のために、延伸速度は20〜350m/分が好ましい。同様に延伸倍率は、面積延伸倍率として2〜80倍が好ましく、3〜60倍がより好ましく、4〜50倍が特に好ましい。面積延伸倍率が2倍未満では、多孔性接着層に所望の表面開口率が得られず、インモールド成形時にラベルと射出成形体との十分な接着性が得られなくなる傾向がある。逆に面積延伸倍率が80倍を超えては、樹脂フィルムの破断が起きやすく安定した延伸成形が困難である。
このような方法により製造した本発明の積層樹脂フィルムにおける多孔質接着層は、以下の手法により測定される表面の開口率が6〜30%であり、好ましくは7〜29%である。表面開口率が6%未満では、インモールド成形時に、射出成形体のラベルへの十分な投錨効果が得られず成形体とラベルとの接着性が低下する傾向にあり好ましくない。また表面開口率が30%を越えては多孔質接着層の内部凝集力が低下し、同層にて容易に材料破壊が起こるために、結果として成形体とラベル間に高い接着性が得られず、実用上問題となりやすい。
【0030】
本発明における表面開口率は、積層樹脂フィルムの多孔質接着層側の表面を電子顕微鏡で観察し、観察領域の空孔(開口)が占める面積割合を示す。具体的には、樹脂フィルム試料より任意の一部を切り取り、観察試料台に貼り付け、その観察面に金ないしは金−パラジウム等を蒸着し、電子顕微鏡にて観察しやすい任意の倍率(500倍〜3000倍に拡大)おける表面の空孔を観察する。さらに観察した領域を画像データとして取り込み、その画像を画像解析装置にて画像処理を行い、空孔部分の面積率を求めて、多孔質接着層の表面開口率とした。
【0031】
(3)大気圧近傍の圧力下でのプラズマ処理
本発明で実施する大気圧近傍の圧力下でのプラズマ処理は、以下の2種類の方法が適用できる。一つは対向する電極間に発生させたプラズマに被処理基材を通過させることで処理を行う方法であり、ダイレクト方式、或いはプラナー方式などと呼ばれるものである。本明細書では以後、ダイレクト方式と表記する。
もう一つは電極間で発生したプラズマをガス流や電界配置等により、被処理基材に向かって電極から吹き付けることで処理を行う方法であり、リモート方式、ダウンストリーム方式、或いはプラズマジェット方式などと呼ばれているものである。本明細書では以後、リモート方式と表記する。
【0032】
ここで、大気圧近傍の圧力下とは、1.333×104 〜10.397×104 Paの範囲の圧力下を指す。中でも、圧力調整が容易で、装置が簡便になる9.331×104 〜10.397×104 Paの範囲が好ましい。大気圧(1気圧)は10.133×104 Paとする。本発明にて用いるプラズマ処理は、大気圧近傍の圧力下で実施するため、従前のプラズマ処理に比べても作業性や安全性に優れている。
ダイレクト方式のプラズマ処理は、固体誘電体に覆われた一対の対向する電極を用い、被処理基材を当該電極間に配置した状態でこの対向電極間に大気圧近傍の圧力のガスを導入し、一方の電極にパルス状電圧を印加して他方を接地することで、ガス中にプラズマ放電を行い、該基材にプラズマを接触させて処理を行なう方法である。
この場合、本発明で用いられる一対の電極はどちらも平面板状のものでも良く、接地側電極がロール形状で印加側電極がロール曲面に沿う曲面板状のものでも良く、接地側電極が平板状で印加側電極が複数の細線状のものでも良い。
【0033】
上記電極としては、例えば、銅、アルミニウム等の単体金属、ステンレス、真鍮等の合金等、からなるものが挙げられる。また、固体誘電体の材質としては、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレンテレフタレート等のプラスチック、ガラス、二酸化珪素、酸化アルミニウム、二酸化ジルコニウム、二酸化チタン等の金属酸化物、チタン酸バリウム等の複合酸化物(セラミックス)等が挙げられる。電極の間隔は、印加電圧の大きさ、処理ガスの種類にもよるが、1〜20mm程度が好ましい。1mm未満では、間隔内に被処理基材を設置し難くなり、20mmより大きいと均一な放電プラズマを発生し難くなる。
【0034】
本プラズマ処理では、対向電極間にはパルス状電圧を印加する。用いるパルス状電圧波形は、インパルス波形、方形波形又は変調波形の何れであっても良い。パルス電圧の立ち上がり時間及び立ち下がり時間は、100μs以下であることが好ましく、特には、50ns〜5μsであることが好ましい。100μsを超過すると、アーク放電に移行し易く、不安定な状態となり、50ns未満とするのは、装置上の制約から実現が困難である。
なお、ここでいう立ち上がり時間とは、電圧(絶対値)が連続して増加する時間、立ち下がり時間とは、電圧(絶対値)が連続して減少する時間を指すものとする。
【0035】
パルス状電圧の周波数は、0.5〜100kHzであることが好ましい(本明細書では同様の印加電圧を高周波パルス状電圧と表記する。)。該周波数が0.5kHz未満になると、プラズマ密度が低下して処理に時間がかかり、逆に100kHzを超えるとアーク放電に移行し易く、不安定な状態となり、何れも好ましくない。
また、パルス継続時間は1〜1000μsであることが好ましい。該時間が1μs未満であると放電が不安定となり、1000μsを超えるとアーク放電に移行しやすくなる。より好ましくは3〜200μsである。ここで、ひとつのパルス継続時間とは、ON、OFFの繰り返しからなるパルス電圧における、ひとつのパルスの連続するON時間を言う。
【0036】
本発明のプラズマ処理と従前のコロナ処理との違いは、印加電極に、固体誘電体に覆われた電極を用いて、高周波パルス状電圧を印加することにある。
従前のコロナ処理では、高周波の交流(正弦波、サイン波)電圧を用いてコロナを発生させるが、アーク放電が発生しやすく、被処理基材に均一な処理を施し得る処理強度、すなわち設定電圧、の範囲が狭い。例えば、同コロナ処理において充分な処理効果を得るべく、例えば窒素ガス雰囲気下で被処理基材に窒素原子を導入するべく、電圧を上げても、均一で安定したコロナは生じにくくアーク放電が多く発生して、窒素原子導入効果は低く、また表面欠陥が多くなる。また被処理基材表面に低分子量の酸化物(劣化物)が多く発生して接着性を阻害する要因となることや、被処理基材のマイグレーションにより処理のライフが短いことが問題であった。本プラズマ処理は広範な処理強度で安定したプラズマを発生でき、被処理基材へ均一な活性化処理が可能なものであり、例えば、窒素ガス雰囲気下では高効率に窒素原子を導入することができ、結果としてインモールド成形時に成形体への高い接着力が得られる。
【0037】
本発明のプラズマ処理にて導入されるガスとしては空気を用いることも可能であるが、インモールド成形用ラベル付き成形体を界面活性剤溶液に浸漬した後のラベルと成形体との接着力、即ち耐洗剤性、をより向上させるために、窒素原子を積極的に被処理基材に導入できる窒素ガスを用いることが本発明の目的上好ましい。また本処理は、ロール形状の被処理基材を連続的に処理することが可能であり、窒素ガスが導入された場合には、被処理基材表面の同伴空気中の微量な酸素により、窒素原子だけでなく酸素原子も被処理基材表面に導入される。
本発明において、窒素ガスを用いてプラズマ処理を施すことによって、多孔質接着層の表面から深さ10nmまでの原子構成比は、ESCAを用いた1S軌道スペクトルのピーク面積より求めた窒素原子数及び炭素原子数の比(N/C)として、0.015〜0.070の範囲であることが好ましい。
【0038】
リモート方式のプラズマ処理は、被処理基材が対向する一対の電極間の外にあるのが特徴である。
電極間の外にあるため、強い電界の影響を受けて被処理基材がダメージを受けることはない。そのため印加エネルギーに応じた高い処理効果が得られる。その装置形状および方法としては、平行に並んでいる板状の電極の平行する2辺が密封されて略筒状となり、密封されていない一端よりガスが導入され、他方の端から被処理基材に向けてプラズマを吹き付ける方法、印加側、接地側の電極がどちらも円筒形状であり、一方が他方の内側に位置し、円筒の端から円筒間にガスが導入され、他方の端から被処理基材に向けてプラズマを吹き付ける方法、または、板状の固体誘電体の中に板状の印加側、接地側の電極が埋め込まれており、この平板に複数の貫通孔が開いており、被処理基材は接地側電極の下方に位置し、印加側よりガスを導入し貫通孔内にてプラズマ化させ、被処理基材に吹き付ける方法などが挙げられるが、これらの中でもより好ましくは、処理面積を大きくできる板状の電極を使用した方式である。
【0039】
このリモート方式の固体誘電体は少なくとも一方に被覆されていればよく、電極、固体誘電体の材質は前者のダイレクト方式と同様のものが用いられる。電極間距離は0.1〜50mmであることが好ましい。0.1mm未満であると間隔を置いて電極を設置するのが困難であり、50mmを超えると均一な放電プラズマが発生し難くなる。さらに、電極端部と被処理基材との間隔は、印加電圧、ガスの流速にもよるが、1〜50mmが好ましい。1mm未満であると電極端部より被処理基材へアーク放電が発生し易くなり、50mmを超えると被処理基材表面のプラズマ密度が低くなり処理に時間がかかる。また、同電極に印加する電圧は高周波電圧である。その波形は正弦波形又はサイン波形を有する交流波でも良く、またインパルス波形、方形波形又は変調波形を有するパルス化されたものでもよい。
【0040】
このリモート方式は電極間で発生したプラズマを被処理基材のある電極外に吹き出させるものであり、導入するガスに幾分か圧を掛けてガス流とし被処理基材側にプラズマを流す方法、またはプラズマを発生させるために電極間に印加した電圧により発生した電界にてプラズマを吹き出させる方法、もしくは両者を組み合わせる方法があるが、好ましくは印加電圧が変更できるガス流による方法である。本プラズマ処理にて導入されるガスもまた空気を用いることが可能であるが、窒素原子を被処理基材に導入できる窒素ガスを用いることが本発明の目的上好ましい。
【0041】
本発明におけるプラズマ処理には高周波電圧、または高周波パルス状電圧が印加されるが、これらの波形電圧は共に直流電源から変換されるため、被処理基材(多孔質接着層)への表面処理の強さは、この元の直流電源の電力(ワット数)を被処理基材の単位時間当たりの処理面積(処理速度×処理幅)で除した値から求めた処理強度(kJ/m2 )として求めることができる。該処理強度の最適範囲は各処理方式、被処理基材、クリアランス(ギャップ距離)によって異なるが、被処理基材にアーク放電による傷、熱による変形、収縮等がなければよく、1〜300kJ/m2 が好ましい。
【0042】
ラベル付き射出成形体
本発明のインモールド成形用ラベルは、種々広範な熱可塑性樹脂原料よりなる射出成形体に用いてラベル付き射出成形体としたとき、一様に高い接着力を実現できる。
特に本発明のインモールド成形用ラベルは、従来は高い接着力で貼着できなかったエステル系樹脂またはスチレン系樹脂よりなる射出成形体に適用しても、高い接着力を実現できることを特徴とする。
ここで、エステル系樹脂とは、ポリエチレンテレフタレート、非晶性ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンサクシネート、非晶性ポリブチレンサクシネート、ポリ乳酸よりなる群より選ばれる1以上の樹脂を含む樹脂である。
【0043】
ここで非晶性ポリエチレンテレフタレートとは、原料としてエチレングリコールとテレフタル酸に、イソフタル酸のような他のジカルボン酸や、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコールのような他のジオールを混在させ共重合して得た3元系以上の共重合体である。
非晶性ポリブチレンサクシネートとは、原料として1,4−ブタンジオールとコハク酸に、アジピン酸のような他のジカルボン酸や、乳酸のような共重合可能なヒドロキシカルボン酸を混在させ共重合して得た3元系以上の共重合体である。
これらの中でも、食品容器や洗剤容器など生活用品に良く使われる汎用性から、ポリエチレンテレフタレート、非晶性ポリエチレンテレフタレートのいずれか、または両者の混合物を用いることが好ましい。
【0044】
ここで、スチレン系樹脂とは、ポリスチレン、ハイインパクトポリスチレン、スチレン−アクリロニトリル樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂、スチレン−ブタジエン樹脂、アクリロニトリル−スチレン−アクリル酸エステル樹脂、メタクリル酸エステル−ブタジエン−スチレン樹脂よりなる群より選ばれる1以上の樹脂を含む樹脂である。
これらの中でも、食品容器や洗剤容器など生活用品に良く使われる汎用性から、スチレン−アクリロニトリル樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂のいずれか、または両者の混合物を用いることが好ましい。
【0045】
本発明の多孔質接着層は、上記の開口率とプラズマ処理により、ラベル付き射出成形体とした時のラベルと射出成形体との接着力が200〜800gf/15mm、好ましくは250〜800gf/15mm、特に好ましくは350〜800gf/15mmとなるように構成する。接着力が200gf/15mm未満であると、ラベル付き射出成形体の内容物充填後の搬送中や商品陳列時に付与された衝撃などによりラベルが剥がれることがある。
また、本発明においてラベル付き射出成形体を界面活性剤溶液に24時間浸漬した後のラベルと射出成形体との接着力は150〜600gf/15mmであり、170〜600gf/15mmであることが好ましい。接着力が150gf/15mm未満であると、成形体が例えば容器でありボディーソープやシャンプー等の界面活性剤を内容物として使用する際、長期の使用に耐えられずラベルが剥がれることがある。
本発明における試験や条件の詳細は、以下の試験例にて具体的に説明する。
【実施例】
【0046】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。
以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
(実施例1)
<積層樹脂フィルムの製造>
プロピレン単独重合体(商品名「ノバテックPPMA−8」、融点164℃、日本ポリプロ(株)製)67重量%、高密度ポリエチレン(商品名「ノバテックHDHJ580」、融点134℃、日本ポリエチレン(株)製)10重量%、および平均粒径1.5μmの炭酸カルシウム粉末23重量%よりなる樹脂組成物(a)を、押出機を用いて260℃で溶融混練したのち、ダイよりフィルム状に押し出し、約50℃の温度となるまでフィルムを冷却した。このフィルムを約140℃に再度加熱したのち、ロール群の周速度を利用して縦方向に5倍延伸して、コア層となる一軸延伸フィルムを得た。
一方、プロピレン単独重合体(商品名「ノバテックPPMA−3」、日本ポリプロ(株)製)51.5重量%、高密度ポリエチレン(商品名「ノバテックHDHJ580」、日本ポリエチレン(株)製)3.5重量%、平均粒径1.5μmの炭酸カルシウム粉末42重量%、平均粒径0.8μmの酸化チタン粉末3重量%よりなる樹脂組成物(b)を別の押出機を用いて250℃で溶融混練し、これを前記一軸延伸フィルムの片面にダイよりフィルム状に押し出し、積層して、表面層/コア層(b/a)の積層体を得た。
【0047】
さらに、それぞれ別々の押出機を用い、プロピレン単独重合体(商品名「ノバテックPPMA−3」、日本ポリプロ(株)製)51.5重量%、高密度ポリエチレン(商品名「ノバテックHDHJ580」、日本ポリエチレン(株)製)3.5重量%、平均粒径1.5μmの炭酸カルシウム粉末42重量%および平均粒径0.8μmの酸化チタン粉末3重量%よりなる樹脂組成物(c)と、プロピレン単独重合体(商品名「ノバテックPPFY−4」、日本ポリプロ(株)製)39重量%、マレイン酸変性ポリプロピレン(商品名「Yumex1001」、三洋化成工業(株)製)1重量%と重質炭酸カルシウム(商品名「カルテックス7」、丸尾カルシウム(株)製)60重量%よりなる樹脂組成物(d)を250℃で溶融混練し、一台の共押出ダイに供給してダイ内で積層し、ダイよりそれぞれフィルム状に押し出し、前記積層体(b/a)のコア層(a)側の面に、多孔質接着層(d)が最外層となるように積層して、表面層/コア層/裏面層/多孔質接着層の四層構造の積層体(b/a/c/d)を得た。ここでは表面層/コア層/裏面層の三層構造の積層体(b/a/c)は本発明に用いる積層樹脂フィルムにおいて基層に相当する。
この四層構造の積層体をテンターオーブンに導き、155℃に加熱した後、テンターを用いて横方向に5倍延伸し、次いで164℃で熱セット(アニーリング)して、さらに55℃迄冷却し耳部をスリットした後に、ワインダーにてロール状に巻き取り、実施例1の積層樹脂フィルムとした。この積層樹脂フィルムの多孔質接着層の表面開口率は15%であった。
【0048】
<プラズマ処理>
上記積層樹脂フィルムに、下記条件の大気圧近傍の圧力下でのダイレクト方式プラズマ処理を施した。
一対の電極はそれぞれ板状で、各々長さ100mm、幅150mm、厚さ20mmとなるようステンレス鋼にて製作し、固体誘電体であるセラミックスで被覆した。この電極内部には冷却用の媒体を流すことのできる空洞が設けられており、放電処理中は冷却媒体を循環圧送して一定温度を保つことが出来るようにした。これらの一対の電極は20mmの距離を保持するように固定した。
これらの電極間に被処理基材(積層樹脂フィルム)の多孔質接着層側が印加側電極に向くように通し、印加側電極と基材間との距離は10mmとなるように調整した。更に電極間に窒素ガスを10.133×104 Pa、100l/minにて導入し、基材ロールを30m/minの速度で巻き取りながら、印加側電極に周波数50kHz、パルス継続時間100μsの交流パルス電圧を印加して被処理基材の多孔質接着層にプラズマ放電処理を施した。パルス化前の直流電源の電力量を被処理基材の面積で除した値を処理強度とすると、同プラズマ処理の強度は12kJ/m2であった。
【0049】
<打抜き加工>
このようにして得られた印刷品を一旦、ロール状からシート状に断裁後、トムソン刃を用いて長さ11cm、幅9cmのラベル形状に打抜き、本発明のインモールド成形用ラベルを得た。
【0050】
<貼着1>
射出成形機(商品名「NV50ST」、型締め力50トン、縦型配置式、(株)新潟鐵工所製)を使用し、成形体のサイズが横130mm、縦150mm、肉厚1mmの平板となる射出成形用割型を使用した。インモールド成形用ラベルを、下部固定盤側に取り付けられた雌型の金型表面に、ラベルの表面層側が金型と接するように固定し、次いで割型を型締めした後、230℃に設定した押出機により溶融したアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合樹脂(商品名「テクノABS110」、テクノポリマー(株)製)を129kgf/cm2 の圧力でゲート部より金型内に射出した。該金型は80℃に冷却しており、約10秒間、溶融樹脂を冷却固化させる後に型開きをして、ラベルが貼着した平板状のABS製射出成形体を得た。
【0051】
<貼着2>
貼着1において、270℃に設定した押出機により溶融したポリエチレンテレフタレート(商品名「ユニペットRA163C」、日本ユニペット(株)製)を100kgf/cm2 の圧力でゲート部より30℃に冷却している金型内に射出した以外は、貼着1と同じく製造して、ラベルが貼着した平板状のPET樹脂製射出成形体を得た。
【0052】
(実施例2)
実施例1において、プラズマ処理の処理強度が半分の6kJ/m2 となるよう、処理速度を実施例1の2倍の60m/minにしたこと以外は、実施例1と同じく製造してインモールド成形用ラベルおよびラベル付き射出成形体を得た。
(実施例3)
実施例1において、プラズマ処理の処理強度が4分の1の3kJ/m2 となるよう、処理速度を実施例1の4倍の120m/minにしたこと以外は、実施例1と同じく製造してインモールド成形用ラベルおよびラベル付き射出成形体を得た。
(実施例4)
実施例1において、プラズマ処理の窒素ガスの替わりに空気を導入すること以外は実施例1と同じく製造してインモールド成形用ラベルおよびラベル付き射出成形体を得た。
【0053】
(実施例5)
実施例1において、プラズマ処理をダイレクト方式からリモート方式に変えるべく、実施例1と同様な電極を用い、電極間距離を1mmに固定し、電極の平行する2辺を絶縁体で密封して筒状にし、被処理基材である積層樹脂フィルムのロールを一対の電極の外に配置し、これらの電極側に被処理基材(積層樹脂フィルム)の多孔質接着層側が向くように配置し、電極と被処理基材との距離を3mmに調整した。更に電極間に窒素ガスを10.133×104 Pa、300l/minの流量にてロールの接着層側に吹き付けるように導入した。ロールを5m/minの速度で巻き取りながら、高周波変換前の直流電源の電力量が1kwとなるよう電極に高周波電圧を印加し、処理強度80kJ/m2 のプラズマ処理を施したこと以外は実施例1と同じく製造してインモールド成形用ラベルおよびラベル付き射出成形体を得た。
【0054】
(実施例6)
実施例1において、多孔質接着層の表面開口率が27%となるように、樹脂組成物(d)の重質炭酸カルシウムの配合率を75重量%とし、プロピレン単独重合体の配合率を24重量%とした以外は実施例1と同じく製造してインモールド成形用ラベルおよびラベル付き射出成形体を得た。
(実施例7)
実施例1において、多孔質接着層の表面開口率が6.5%となるように、樹脂組成物(d)の重質炭酸カルシウムの配合率を50重量%とし、プロピレン単独重合体の配合率を49重量%とした以外は実施例1と同じく製造してインモールド成形用ラベルおよびラベル付き射出成形体を得た。
【0055】
(比較例1)
実施例1において、多孔質接着層にプラズマ処理を施していない以外は実施例1と同じく製造してインモールド成形用ラベルおよびラベル付き射出成形体を得た。
(比較例2)
実施例1において、多孔質接着層の表面開口率が35%となるように、樹脂組成物(d)の重質炭酸カルシウムの配合率を85重量%とし、プロピレン単独重合体の配合率を14重量%とした以外は実施例1と同じく製造してインモールド成形用ラベルおよびラベル付き射出成形体を得た。
(比較例3)
実施例1において、多孔質接着層の表面開口率が5%となるように、樹脂組成物(d)の重質炭酸カルシウムの配合率を45重量%とし、プロピレン単独重合体の配合率を54重量%とした以外は実施例1と同じく製造してインモールド成形用ラベルおよびラベル付き射出成形体を得た。
【0056】
(比較例4)
実施例1において、プラズマ処理の替わりに、コロナ放電処理を実施した。コロナ放電処理装置の放電電極の周りを囲い、囲いの中に窒素ガスを10.133×104 Pa、80l/minの流量にて導入し、ロールを20m/minの速度で巻き取りながら、高周波へ変換前の直流電源の電力量を被処理基材の面積で除した処理強度が3kJ/m2 となるように電極にサイン波形の高周波電圧を印加した。積層樹脂フィルムの多孔質接着層へ表面処理が窒素ガス雰囲気でのコロナ放電処理であること以外は実施例1と同じく製造してインモールド成形用ラベルおよびラベル付き射出成形体を得た。
【0057】
(試験例)
上記実施例1〜7および比較例1〜4で製造したインモールド成形用ラベルおよびラベル付き射出成形体について、以下の物性の測定と評価を行った。
〔表面開口率〕
積層樹脂フィルム試料より任意の一部を切り取り、観察試料台に貼り付け、その観察面(多孔質接着層表面)に金を蒸着して電子顕微鏡(装置名「走査電子顕微鏡:SM−200」TOPCON(株)製)を使用して観察しやすい任意の倍率(500倍〜3000倍)にて表面の空孔を観察した。さらに観察した領域を画像データとして取り込み、その画像を画像解析装置(装置名「小型汎用画像解析装置:ルーゼックスAP」、ニレコ(株)製)で画像処理を行い、空孔の面積率を求め、多孔性接着層表面の開口率とした。結果を表−1に示す。
【0058】
〔原子数構成数比〕
ESCAスペクトロメーター(装置名「X線光電子分光分析装置:ESCA3200型」、(株)島津製作所製)を用いて、入射X線:Mg−Kα線(1250eV)、X線出力:8kv×30mA(出力240W)、測定環境は真空度:約10E−5Paの条件下で、インモールド成形用ラベル試料の多孔質接着層の表面から深さ10nmまでの表層部の炭素の1S軌道スペクトルから求めたピーク面積、同様に求めた窒素の1S軌道スペクトルから求めたピーク面積を測定した。また、この各元素の検出強度から、窒素原子数と炭素原子数の比(N/C)を求めた。結果を表−1に示す。
【0059】
〔ラベル接着性〕
ラベル付き射出成形体のラベル貼着部分を15mm幅、120mm長に4点切り取り、貼着したラベル端部の一部、約10mmを剥がし、剥がした部分の表裏に120mmの粘着テープを表裏に貼り付ける。引張試験機(商品名「オートグラフAGS−D形」、島津製作所製)を用いて、ラベル端部を延長した粘着テープと成形体部を、200mm/分の引張速度で60mm引き剥がし、その際の接着性(剥離強度のピーク値(gf))を測定し、その平均値を求めて以下に示す基準で判定した。
◎:200gf以上
○:150gf以上、200gf未満
△:100gf以上、150gf未満
×:100gf未満
【0060】
また、15mm幅、120mm長に切り取った同サンプルを下記の各種液体に常温にて24時間漬け込んだ後、評価に支障がないよう、各種液体を拭き落とし、上記同様の手法で接着性(剥離強度)の確認を行い、上記同様の基準での評価も実施した。結果を表−1に示す。
なお本発明にて規定する界面活性剤溶液とは、以下の食器用洗剤を示す。
ドライ :漬け込み無し
耐水密着 :水(蒸留水)
耐油密着 :食用油(商品名「日清べに花油」、日清オイリオグループ(株)製)
耐洗剤密着:食器用洗剤(商品名「チャーミーグリーン」、ライオン(株)製)
【0061】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明は、プラスチック製のボトルや容器などのインモールド成形技術分野において用いる、インモールド成形用ラベルと、それを用いたラベル付き射出成形体に関するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基層と多孔質接着層とを含む積層樹脂フィルムからなり、該多孔質接着層の表面開口率が6〜30%であり、且つ該多孔質接着層に大気圧近傍の圧力下にてプラズマ処理を施したインモールド成形用ラベルであって、該ラベルをエステル系樹脂またはスチレン系樹脂よりなる射出成形体に適用してラベル付き射出成形体としたとき、成形後の該ラベルと該射出成形体との接着力が200〜800gf/15mmであり、且つラベル付き射出成形体を界面活性剤溶液に24時間浸漬した後の該ラベルと該射出成形体との接着力が150〜600gf/15mmであることを特徴とするインモールド成形用ラベル。
【請求項2】
該プラズマ処理が、固体誘電体に覆われた一対の対向する電極を用い、この電極間に大気圧近傍の圧力下にてガスを満たした上で、この電極に高周波パルス状電圧を加えてガス中にプラズマを発生させ、この電極間に積層樹脂フィルムを通過させることにより多孔質接着層の活性化処理を行なうものであることを特徴とする請求項1に記載のインモールド成形用ラベル。
【請求項3】
該プラズマ処理が、一対の固体誘電体に覆われた対向する電極を用い、この電極間に大気圧近傍の圧力下にてガスを満たした上で、この電極に高周波電圧を加えてガス中にプラズマを発生させ、該プラズマガスを電極間より外に位置する積層樹脂フィルムの多孔質接着層へ吹き付けることにより多孔質層の活性化処理を行なうものであることを特徴とする請求項1に記載のインモールド成形用ラベル。
【請求項4】
該プラズマ処理で使用される該ガスが、窒素ガスであることを特徴とする請求項2又は3に記載のインモールド成形用ラベル。
【請求項5】
該多孔質接着層の表面から深さ10nmまでの原子構成比が、該プラズマ処理を施すことによって、ESCAを用いた1S軌道スペクトルのピーク面積より求めた窒素原子数及び炭素原子数の比(N/C)として、0.015〜0.070の範囲であることを特徴とする請求項4に記載のインモールド成形用ラベル。
【請求項6】
該多孔質接着層が、熱可塑性樹脂と、無機微細粉末及び/又は有機フィラーの少なくとも一つとを含む樹脂フィルムであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のインモールド成形用ラベル。
【請求項7】
該多孔質接着層が、該熱可塑性樹脂としてポリオレフィン系樹脂を含むことを特徴とする請求項6に記載のインモールド成形用ラベル。
【請求項8】
該多孔質接着層が、熱可塑性樹脂としてポリプロピレン系樹脂を含み、且つ無機微細粉末及び/又は有機フィラーの少なくとも一つを50〜80重量%含むことを特徴とする請求項6または7に記載のインモールド成形用ラベル。
【請求項9】
該多孔質接着層が、少なくとも1軸方向に延伸された樹脂フィルムであることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載のインモールド成形用ラベル。
【請求項10】
エステル系樹脂またはスチレン系樹脂よりなる射出成形体に、請求項1〜9のいずれか一項に記載のインモールド成形用ラベルを貼着してなるラベル付き射出成形体。
【請求項11】
エステル系樹脂が、ポリエチレンテレフタレート及び/又は非晶性ポリエチレンテレフタレートよりなる群より選ばれる1以上の樹脂を含む樹脂であることを特徴とする請求項10に記載のラベル付き射出成形体。
【請求項12】
スチレン系樹脂が、スチレン−アクリロニトリル樹脂及び/又はアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂よりなる群より選ばれる1以上の樹脂を含む樹脂であることを特徴とする請求項10に記載のラベル付き射出成形体。

【公開番号】特開2009−223119(P2009−223119A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−69059(P2008−69059)
【出願日】平成20年3月18日(2008.3.18)
【出願人】(000122313)株式会社ユポ・コーポレーション (73)
【Fターム(参考)】