説明

インモールド転写フィルム

【課題】 UV硬化性ハードコート塗膜を設けた基材を加工する際には、その加工における応力に対して塗膜が追随できず、ひび割れ等が生じていた。
このため、塗膜の加工性を向上させるために、UV硬化型ハードコートの硬化を途中で中断することは、UV硬化が短時間で終了することからみて困難であった。そしてこのような点はインモールド転写による成形においても同じであった。
【解決手段】UV硬化性ハードコート塗膜用塗料として特定の構造を有する樹脂を採用することにより、2段階の硬化を行うことができ、このため、加工性に優れたハードコート用塗料組成物を用いて、インモールド転写箔とすることができた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハードコート用インモールド転写フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ノートパソコンや携帯電話の筐体は主にプラスチック射出成形で製造される。このプラスチック製筐体表面は傷つきやすいために、傷つき防止のためのハードコーティングが意匠性を高めるための花燭として不可欠である。そこで前記ハードコーティングのコーティング剤として一般に各種UV硬化型樹脂が採用されている。
【0003】
ハードコート層を形成するにあたって、まず転写箔用の基材フィルムに予め設けられた離型層を介して、このUV硬化型樹脂を塗布することにより転写箔を製造するが、ハードコート層を完全硬化させた転写箔のハードコート層はプラスチック射出成形時のインモールド転写において、硬度が高いために伸び率が小さく、射出成形して得ようとする形状に追随できないので、結果的に成形品表面のハードコート層は切断されてひび割れが発生して歩留まりが悪化した。
【0004】
このために、転写箔製造時のUV硬化型ハードコート層の硬化に必要なUV照射量を減らし、完全硬化させる手前でUVラジカル重合反応を抑制して比較的柔軟な皮膜を形成し、プラスチック製品の表面に転写成形後、再度UV照射を行い、ラジカル重合反応を完結させて必要な表面硬度を得る方法がある。
【0005】
ところが、UVラジカル重合反応はUV照射の瞬時に反応が完結するので、完全硬化前にその反応を制御・抑制するためには高度な技術を要し、結局この方法では均一な品質の製品を製造することが困難であった。
そして、電離性放射線によりウレタン(メタ)アクリレート、ハードコート層を硬化させて転写箔を得る方法を検討することが知られている(特許文献1〜3)。
【0006】
また、樹脂にハードコート層を設けてなる樹脂成形品についても、硬く伸び率が小さく耐擦傷性のハードコート層をプレコート層とすると、樹脂成形品を曲げ加工等によって製品の形状を変えると、その形状の変化に追随できずひび割れが発生するので、そのような樹脂成形品にはハードコート層を設けることができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−062206号公報
【特許文献2】特開2007−118465号公報
【特許文献3】特開2008−006708号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のように、UV硬化型ハードコート層を光硬化する際には、硬化が瞬時に完結してしまうので、その途中で硬化を中断させて、一旦、その後の塗膜の加工に適した硬度の塗膜を得るには、相当注意深く光の照射を制御する等の手間がかかっていた。
さらに、ハードコート塗膜を形成した後に塗膜の基材を加工する等の、塗膜に応力が加わる加工を行うと、そのハードコート塗膜にひびが入る等の不都合が生じていた。
このため、塗膜が形成された転写箔等シートの基材に対して円滑に折り曲げ等の加工を行うことを目的に、途中の硬度とすることは困難であったため、硬化の途中において、任意の加工を行えるような硬度とすることが必要であった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明は、多価イソシアネート化合物とビニル基含有1価アルコール又はビニル基含有1価アミンを反応させてなる化合物を含有し、反応前の該多価イソシアネート化合物のNCO当量よりも該ビニル基含有1価アルコール又はビニル基含有1価アミンの水酸基及びアミンの当量が小である塗料組成物をフィルム上に塗布し、一次硬化させてなるインモールド転写フィルムであって、多価イソシアネート化合物がトリレンジイソシアネート、ビニル基含有1価アルコール及びアミンがアクリロイル基を含有する1価アルコール及び1価アミンでもよく、またケトン系溶媒を含有してもよいものである。
さらに、このような塗料組成物を塗布し、一次硬化又は二次硬化してなる塗膜。基材上にその塗料組成物を塗布し一次硬化させてなる転写箔、及びその転写箔を物品に転写し二次硬化する転写方法、及び得られた物品である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ハードコート層を形成するためのインモールド転写フィルム製造時には制御の困難なUVラジカル反応を必要とせず、制御が容易な加熱重合反応により、プラスチック製品の形状に追随する伸び率が大きい硬化膜を形成させることができる。得られたインモールド転写フィルムを用いた際には、成形後のUV照射によってUVラジカル反応を起こし、ひび割れ等の欠陥がない均一な品質のインモールド転写によるハードコート膜を高い歩留まりで得ることができる。
【0011】
なお、アルミニウムや鉄などのプレコート金属板を製造する際には本発明の塗料組成物を塗布し、この塗布層を加熱して柔軟で加工性に富むプレコート金属板を得て、これをプレス等による折り曲げ加工した後にUV又は電子線照射することにより、表面にひび割れ等がない、表面が優れた耐擦傷性を備えたハードコート層を有するプレコート金属板を使用した加工製品を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明における塗料組成物は、下記式1に示すように、多価イソシアネート化合物と、その多価イソシアネート化合物のNCO当量よりも小さいOH当量のビニル基含有アルコールを反応させてなるウレタン化合物、又は下記式2に示すように、多価イソシアネート化合物のNCO当量よりも小さいアミン当量のビニル基含有アミンを反応させてなる尿素化合物を含有する。
式1

式2

(上記式中、R及びRは共に炭化水素基)
【0013】
このウレタン化合物又は尿素化合物は、イソシアネート基とビニル基含有1価アルコール又はビニル基含有1価アミンが反応してなるウレタン結合又は尿素結合を有する基と、ビニル基含有1価アルコール又はビニル基含有1価アミンが反応しなかったイソシアネート残基を有し、該イソシアネート残基を反応前のイソシアネート基の10〜30%、好ましくは13〜25%、より好ましくは15〜20%の比率で含有しても良い。
【0014】
そのウレタン化合物の反応の一例として下記式3を示す。
式3

【0015】
その尿素化合物の反応の一例として下記式4を示す。
式4

(式3及び4に記載のRは炭化水素基を示す。また、上記Zはイソシアネート基が結合している残基一般を示し、Zを有する化合物はトリイソシアネート化合物に限定されない。)
【0016】
このような塗料組成物をフィルム上に塗布して加熱を行うと、下記式5に示すように、一次硬化反応により該ウレタン化合物が有するウレタン結合とイソシアネート残基が反応してアロファネート結合を形成するか、又は下記式6に示すように、尿素結合とイソシアネート残基が反応してビュレット結合を形成する。
この一次硬化反応後の一次硬化塗膜は完全に硬化しているのではく、塗膜は伸び率及び強度が高く、十分な柔軟性を備えている。
【0017】
式5

【0018】
式6

【0019】
式5及び6に示すアロファネート結合又はビュレット結合を形成する反応は、これらの式に示すように2つの分子間で互いにアロファネート結合又はビュレット結合を形成しても良いが、3つ以上の分子間にてこれらの結合を形成しても良い。
この一次硬化反応を終えた塗膜はこの性質によりインモールド転写用フィルムとして利用されるのであって、インモールド成形により樹脂成形体表面に転写しても、その塗膜には割れやひびが入らず、表面が平滑で硬度が高いハードコート層を形成することができる。
【0020】
さらに、樹脂成形体表面に転写された一次硬化皮膜にUV又は電子線等のエネルギー線を照射すると、下記式7及び8に示すように、塗膜中のウレタン化合物又は尿素化合物が有しているビニル基がラジカル重合により反応して架橋する。これにより得られた塗膜は、充分な柔軟性を消失して極めて硬く耐擦傷性に優れたハードコート層を形成する。
【0021】
このため、本発明における塗料組成物には、光重合開始剤、その助剤、耐候性安定化剤、紫外線吸収剤等を添加することができ、加えて充填剤、揺変性付与剤、貯蔵安定性向上剤(脱水剤)、着色剤等の公知の塗料用添加剤を添加することができる。
【0022】
式7

【0023】
式8

【0024】
本発明における塗料組成物を具体的に説明する。
A.塗料組成物
[多価イソシアネート化合物]
本発明中の多価イソシアネート系化合物としては、特に限定されることはなく、例えば芳香族系、脂肪族系、脂環式系等のポリイソシアネートが挙げられ、中でもイソシアヌレート、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、水添ジフェニルメタンジイソシアネート、ポリフェニルメタンポリイソシアネート、変性ジフェニルメタンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、水添トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネート、1,3−ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、フェニレンジイソシアネート、ビフェニレンジイソシアネート、シクロヘキシレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、リジントリイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート等のポリイソシアネート或いはこれらポリイソシアネートの3量体化合物又は4量体化合物、あるいはプレポリマーを使用することができるが、好ましくはハンドリング性、低粘度及び低チキソ性を考慮してトリレンジイソシアネートやヘキサメチレンジイソシアネートのプレポリマーである。多価イソシアネート系化合物を複数選択して使用することも可能である。
【0025】
[ビニル基含有アルコール]
本発明において使用するビニル基含有アルコールとしては、1分子中に光硬化可能なビニル結合と水酸基とを有するヒドロキシル基含有ビニル化合物である。
なかでもビニル基含有1価アルコールとしては、例えば、多価アルコールのアクリル酸部分エステルであれば特に限定されず、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリロイルホスフェート、6−ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、2−(メタ)アクリロイロキシエチル−2−ヒドロキシプロピルフタレート、2−ヒドロキシ−3−(メタ)アクリロイロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシ−2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタントリアクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、トリヒドロキシエチルイソシアヌレートジ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート等を使用できる。なかでも2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートやペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートが好ましい。
【0026】
ビニル基含有多価アルコールとしては、テトラメチロールメタンジアクリレート、トリメチロールプロパン(メタ)アクリレート、グリセリル(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、トリヒドロキシエチルイソシアヌレート(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート等の3価以上のアルコールの1つの水酸基を(メタ)アクリル酸でエステル化した化合物を使用できる。
また、上記各ビニル基含有アルコールがその不飽和結合により重合していても良い。
【0027】
[ビニル基含有アミン]
本発明において使用するビニル基含有アミンとしては、ビニルアミン、1−ビニルメチルアミン、2−ビニルエチルアミン、3−ビニルプロピルアミン等のビニルアルキルアミン類、アミノメチル(メタ)アクリレート、アミノエチル(メタ)アクリレート、アミノプロピル(メタ)アクリレート等のアミノアルキルアルコールの(メタ)アクリル酸エステル化物を使用することができる。
【0028】
[反応条件]
多価イソシアネート化合物とビニル基含有アルコール及び/又はビニル基含有アミンを反応させてウレタン化合物や尿素化合物を合成するには、イソシアネートとアルコールやアミンとの公知の反応に使用する条件を採用できる。
【0029】
また、かかる反応においては、反応触媒としてジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫ビス−アセトアセトネート、オクトエ酸錫等の錫カルボキシレートのような金属触媒を用い、さらに反応を促進する目的で、テトラメチルブタンジアミン、トリエチレンジアミン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン−7等のアミン系触媒等を併用することも好ましく、更に反応温度は30〜90℃、特には40〜70℃の範囲が好ましい。
【0030】
反応においては上記触媒成分を生成物の固形分に基づいて0.001〜5.0重量%、好ましくは0.001〜0.1重量%、より好ましくは0.005〜0.05重量%の量で用いられる。
【0031】
反応時に使用される溶媒としてはイソシアネート基と反応性を有さない溶媒であれば良く、トルエン、キシレン、イソオクタン、ヘキサン等の炭化水素、MEK、アセトン、ブタノン、MIBK等のケトン、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル、テトラヒドロフラン、N−メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド等を使用することができるが、特にケトンが塗料組成物の安定性の点で好ましい。イソシアネート基と会合することによって、イソシアネート基を安定化させていると考えられる。
【0032】
光重合開始剤としては、光の作用によりラジカルを発生するものであれば特に限定されず、例えば、4−フェノキシジクロロアセトフェノン、4−t−ブチル−ジクロロアセトフェノン、ジエトキシアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−(4−イソプロピレンフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、1−(4−ドデシルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル(2−ヒドロキシ−2−プロピル)ケトン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−メチル−1−〔4−(メチルチオ)フェニル〕−2−モルホリノプロパン−1、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾイルイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンジルジメチルケタール、ベンゾフェノン、ベンゾイル安息香酸、ベンゾイル安息香酸メチル、4−フェニルベンゾフェノン、ヒドロキシベンゾフェノン、4−ベンゾイル−4′−メチルジフェニルサルファイド、3,3′−ジメチル−4−メトキシベンゾフェノン、チオキサンソン、2−クロルチオキサンソン、2−メチルチオキサンソン、2,4−ジメチルチオキサンソン、イソプロピルチオキサンソン、カンファーキノン、ジベンゾスベロン、2−エチルアンスラキノン、4′,4″−ジエチルイソフタロフェノン、3,3′,4,4′−テトラ(t−ブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、α−アシロキシムエステル、アシルホスフィンオキサイド、メチルフェニルグリオキシレート、ベンジル、9,10−フェナンスレンキノン、4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル−(2−ヒドロキシ−2−プロピル)ケトン、過酸化ベンゾイル、ジ−t−ブチルペルオキシド等が挙げられ、中でもベンジルジメチルケタール、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、ベンゾイルイソプロピルエーテル、4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル(2−ヒドロキシ−2−プロピル)ケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、過酸化ベンゾイル、ジ−t−ブチルペルオキシドが好適に用いられる。
【0033】
更に、光重合開始剤の助剤としてトリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、4,4′−ジメチルアミノベンゾフェノン(ミヒラーケトン)、4,4′−ジエチルアミノベンゾフェノン、2−ジメチルアミノエチル安息香酸、4−ジメチルアミノ安息香酸エチル、4−ジメチルアミノ安息香酸(n−ブトキシ)エチル、4−ジメチルアミノ安息香酸イソアミル、4−ジメチルアミノ安息香酸2−エチルヘキシル、2,4−ジエチルチオキサンソン、2,4−ジイソプロピルチオキサンソン等を併用することも可能である。
【0034】
本発明におけるウレタン化合物は、例えば、上記多価イソシアネート化合物の当量とビニル基含有アルコールの水酸基当量の比を、多価イソシアネート化合物の当量:ビニル基含有アルコールの水酸基当量=1.02:1〜2:1、好ましくは1.1:1〜1.3:1、より好ましくは1.13:1〜1.25:1、さらに好ましくは1.15:1〜1.2:1程度の範囲で混合して反応させ、得ることができる。上記反応は60〜80℃程度で5〜12時間程度反応させることが好ましい。その際、必要に応じて、有機溶媒、ハイドロキノンモノメチルエーテル等の重合禁止剤などを利用することができる。上記有機溶媒としては、例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系有機溶媒、メチルエチルケトン等のケトン系有機溶媒、トルエン、キシレン等の芳香族系有機溶媒などの有機溶媒が挙げられる。これらは単独で又は2種類以上を組み合わせて使用される。
【0035】
同様に本発明における尿素化合物は、例えば上記多価イソシアネート化合物の当量とビニル基含有アミンのアミン当量の比を、多価イソシアネート化合物の当量:ビニル基含有アミンのアミン当量=1.02:1〜2:1、好ましくは1.1:1〜1.3:1、より好ましくは1.13:1〜1.25:1、さらに好ましくは1.15:1〜1.2:1程度の範囲で混合して反応させ、得ることができる。
【0036】
前記耐候性安定剤は、硬化物の酸化や光劣化、熱劣化などを防止して、耐候性だけではなく耐熱性をさらに向上させるために使用するものであり、ヒンダードアミン系光安定剤、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、紫外線吸収剤などが挙げられ、ヒンダードアミン系光安定剤単独か、ヒンダードフェノール系酸化防止剤単独か、あるいはヒンダードアミン系光安定剤とヒンダードフェノール系酸化防止剤の組み合わせ、すなわちヒンダードアミン系光安定剤および/またはヒンダードフェノール系酸化防止剤が、耐候性を向上させる効果が高い点で好ましい。
【0037】
ヒンダードアミン系光安定剤としては、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、デカンニ酸ビス(2,2,6,6−テトラメチル−1(オクチルオキシ)−4−ピペリジル)エステル、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)[[3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシフェニル]メチル]ブチルマロネート、メチル1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジルセバケート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート、1−[2−〔3−(3,5−ジ−t e r t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ〕エチル]−4−〔3−(3,5−ジ−t ert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ〕−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−ベンゾイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン等の分子量1000未満の低分子量の光安定剤;コハク酸ジメチル、1−(2−ヒドロキシエチル)−4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン重縮合物、ポリ[{6−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)アミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル}{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}ヘキサメチレン{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}]、N,N′−ビス(3−アミノプロピル)エチレンジアミン−2,4−ビス[N−ブチル−N−(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)アミノ]−6−クロロ−1,3,、5−トリアジン縮合物の他、ADEKA社製品、商品名アデカフタブLA−63P、LA−68LD等の分子量1000以上の高分子量の光安定剤が挙げられる。
【0038】
ヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、ペンタエリスリトール−テトラキス[3−(3,5−ジ−t e r t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t e r t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、N,N′−ヘキサン−1,6−ジイルビス[3−(3,5−ジ−t e r t−ブチル−4−ヒドロキシフェニルプロピオアミド]、ベンゼンプロパン酸3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシC−C側鎖アルキルエステル、2,4−ジメチル−6−(1−メチルペンタデシル)フェノールなどが挙げられる。
【0039】
紫外線吸収剤としては、2−(3,5−ジ−tert−ブチル−2−ヒドロキシフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾールなどのベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−[(ヘキシル)オキシ]−フェノールなどのトリアジン系紫外線吸収剤、オクタベンゾンなどのべンゾフェノン系紫外線吸収剤、2,4−ジ−tert−ブチルフェニル−3,5−ジ−t e r t−ブチル−4−ヒドロキシベンゾエートなどのベンゾエート系紫外線吸収剤が挙げられる。
これらは単独あるいは2種以上を組み合わせて使用できる。
【0040】
耐候性安定剤は、イソシアネート基含有ウレタンプレポリマー100質量部に対して、0.01〜30質量部、特に0.1〜10質量部配合するのが好ましい。
【0041】
充填剤、揺変性付与剤、接着性向上剤、貯蔵安定性向上剤(脱水剤)、着色剤は、それぞれ物性補強や増量、タレ(スランプ)の防止、接着性の向上、貯蔵安定性の向上、着色などのために、本発明にて用いられるハードコート塗料組成物に配合して使用することができる。
【0042】
充填剤としては、マイカ、カオリン、ゼオライト、グラファイト、珪藻土、白土、クレー、タルク、スレート粉、無水ケイ酸、石英微粉末、アルミニウム粉末、亜鉛粉末、沈降性シリカなどの合成シリカ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、アルミナ、酸化カルシウム、酸化マグネシウムなどの無機粉末状充填剤;ガラス繊維、炭素繊維などの繊維状充填剤;ガラスバルーン、シラスバルーン、シリカバルーン、セラミックバルーンなどの無機系バルーン状充填剤などの無機系充填剤;あるいはこれらの表面を脂肪酸などの有機物で処理した充填剤;木粉、クルミ穀粉、もみ殻粉、パルプ粉、木綿チップ、ゴム粉末、熱可塑性あるいは熱硬化性樹脂の微粉末、ポリエチレン粉末等の有機系粉末状充填剤;ポリエチレン中空体、サランマイクロバルーンなどの有機系バルーン状充填剤などの有機系充填剤などの他、水酸化マグネシウムや水酸化アルミニウムなどの難燃性付与充填剤なども挙げられ、粒径0.01〜1,000μmのものが好ましい。
【0043】
揺変性付与剤としては、コロイダルシリカ、脂肪酸処理炭酸カルシウムなどの無機揺変性付与剤、有機ベントナイト、脂肪酸アマイドなどの有機揺変性付与剤が挙げられる。
【0044】
接着性向上剤としては、カップリング剤が挙げられ、カップリング剤としては、シラン系、アルミニウム系、ジルコアルミネート系などの各種カップリング剤またはその部分加水分解縮合物を挙げることができ、このうちシラン系カップリング剤またはその部分加水分解縮合物が接着性に優れているため好ましい。
【0045】
このシラン系カップリング剤としては、具体的には、ビニルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシランなどのアルコキシシリル基を含有する分子量500以下、好ましくは400以下の低分子化合物またはこれらシラン系カップリング剤の1種または2種以上の部分加水分解縮合物で分子量200〜3,000の化合物を挙げることができる。これらは単独であるいは2種以上を組合せて使用できる。
【0046】
貯蔵安定性向上剤としては、組成物中に存在する水分と反応するビニルトリメトキシシラン、酸化カルシウム、p−トルエンスルホニルイソシアネートなどが挙げられる。
なお、p−トルエンスルホニルイソシアネートは、水分と反応して活性水素含有官能基を生成する化合物を使用したときの硬化促進剤としての働きもするため特に好ましい。
【0047】
着色剤としては、酸化チタンや酸化鉄などの無機系顔料、銅フタロシアニンなどの有機系顔料、カーボンブラックなどが挙げられる。
これらは単独あるいは2種以上を混合して使用できる。
【0048】
充填剤、揺変性付与剤、接着性向上剤、貯蔵安定性向上剤、および着色剤の合計の配合量は、イソシアネート基含有ウレタンプレポリマー100質量部に対して0〜500質量部、特に5〜300質量部であることが好ましい。
【0049】
本発明における塗料組成物において、前記各添加剤はそれぞれ1種類または2種以上を組み合せて使用することができる。
【0050】
B.塗料組成物を用いて硬化塗膜を形成する方法
[塗膜の形成手段]
本発明における塗料組成物を用いてフィルム上に塗膜を形成する手段は、スプレー、浸漬、ファウンテンコーター、フローコーター、カーテンコーター、ロールコーター、バーコーター、グラビヤコーター、ブレードコーター等の公知の塗装装置や印刷装置等を使用することができる。また、別のフィルム上に塗布して一旦塗膜を得た後に、その塗膜を転写することによる塗膜の形成方法も採用できる。
【0051】
塗膜が形成される対象物の材料はインモールド転写フィルムの基材フィルムとなり得るフィルムであれば限定されず、紙、布、木質シート、各種合成樹脂等の公知の物質やこれらが組み合わされてなるもの等制限されるものではない。
ただし、インモールド転写用フィルムとして金型内に供給され、金型に挟まれて変形し、溶融樹脂が金型内に供給されることにより加熱されても変質せず、一次硬化した塗料組成物による塗膜の伸びに追随し、成形後において一次硬化、もしくは二次硬化した塗膜から剥離することが容易な基材フィルムであることが必要である。
【0052】
さらにインモールド転写用フィルムにより転写される樹脂成形体は、建築物、船舶・航空機、自動車等の輸送機器、電気製品、機械、装置、装飾品、容器等公知の用途に対して広く使用することができる。
これらの材料や用途の中でも、ハードコート層を形成する必要がある用途が好ましい。
【0053】
本発明におけるフィルムは基材フィルムと離型層を順に積層させたフィルムでよく、更に積層させた本発明における塗料組成物層の上に印刷インキ層、及び/又はヒートシール層を設けてもよい。成形する樹脂によっては一次硬化もしくは二次硬化した塗料組成物との接着性に劣る可能性があるので、そのような場合には特に印刷インキ層及び/又はヒートシール層、プライマー層を設けることにより接着性を向上させることが必要である。
【0054】
本発明における塗料組成物を塗布するフィルムとして、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂、ナイロン6等のポリアミド系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン等のポリオレフィン系樹脂、ポリ塩化ビニル等のビニル系樹脂、ポリメチルメタアクリレート等の(メタ)アクリル系樹脂、ポリカーボネート、セロファン、セルロースアセテート等のセルロース系フィルム、等がある。好ましくは、耐熱性、機械的強度の点で、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂を基材フィルムとしたものであり、なかでも、ポリエチレンテレフタレートが最適である。
これらの樹脂を単独で用いてもよく、複数の樹脂をブレンドしたり積層してもよく、公知の樹脂用添加剤、例えば耐電防止剤、顔料、充填剤、可塑剤等を添加してもよい。また、基材シートは一軸延伸又は二軸延伸されたものが強度の面から好ましい。
これらの基材の厚さは、通常のインモールド転写用に使用される厚さで良く、2.5〜50μm程度が適用できるが、4〜25μmが転写性の点で好ましい。
上記のように、金型内で伸ばされることを考慮して、ある程度の柔軟性、伸び率を備えることが必要である。
【0055】
離型層としては、酸化ケイ素、離型性樹脂、離型剤含有樹脂、表面が架橋されてなる樹脂等の公知の離型層を採用することが可能であり、特に酸化ケイ素が好ましい。離型層は離型層用組成物を溶媒へ分散又は溶解して、ロールコート、グラビアコート、コンマコート、プレコート等の印刷又はコーティング方法で、少なくとも一部に塗布し乾燥して塗膜を形成する。好ましくは、帯電防止性を備えた離型層である。また、要すれば、温度30℃〜120℃で加熱乾燥、あるいはエージングしてもよい。離型層の厚さとしては、通常は0.01μm〜5μm程度、好ましくは0.5μm〜3μm程度である。該厚さは薄ければ薄い程良いが、0.1μm以上であればより良い成膜が得られて剥離力が安定する。
【0056】
印刷インキ層としては、公知の印刷インキからなる層でよく、カーボンブラックや酸化チタン等の無機顔料や有機顔料、ロジン変性フェノールやアルキド樹脂等の樹脂、ドライヤー、裏付防止剤等の添加剤、石油系溶剤や高級アルコール等の溶剤、亜麻仁油、桐油、大豆油等の乾性油に関しても公知の物質を使用することができる。
印刷方法としては、オフセット印刷、凸版印刷、グラビア印刷等の公知の印刷方法を採用でき、印刷インキはそれらの印刷方法に適合した任意のインキとすることが可能である。
ヒートシール層やプライマー層としては、アクリル系樹脂、オレフィン系樹脂、ゴム系樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等成形される樹脂等を考慮して公知の材料から選択でき、それらの層の形成手段は公知の塗布方法等から任意に選択される。
【0057】
なお、転写後のハードコート層上に機能性層を設けることも可能であり、その際には離型層と本発明における塗料組成物からなる層との間に耐候性層、難燃性層、防汚性層、抗菌性層等の任意の層を形成することができる。
【0058】
[インモールド成形]
インモールド成形は、本発明のインモールド成形用転写フィルムを準備し、これを基材フィルム層側が金型内面に付着し、ハードコート及び印刷インキ層やヒートシール層が成形される樹脂側に向くように金型内に設置し、次いで射出成形等により金型内に樹脂を注入して樹脂表面が該印刷インキ層を介してハードコート層に接するように成形し密着させる手段である。この手段により立体の樹脂成形物表面にハードコート層を欠陥なく設けることができる。
【0059】
成形樹脂としては、特に限定されないが、例えばポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリアクリロニトリル・スチレン系樹脂、ポリアクリロニトリル・ブタジエン・スチレン系樹脂等の公知の成形用樹脂が用いられ、従来から樹脂成形体が用いられている自動車、家電製品、OA製品等の部品、包装容器、建材等の用途全般に使用できる。
【0060】
[一次硬化]
上記式5及び6に示すように、一次硬化により、ウレタン化合物が有するウレタン結合とイソシアネート残基が反応してアロファネート結合を、又は尿素結合とイソシアネート残基が反応してビュレット結合を形成し、これにより得られた塗膜は、十分に柔軟性を有する。
上記Zは、多価イソシアネート化合物の残基一般を示しており、シクロヘキサン環のみを示すものではなく、また上記の多価イソシアネート化合物は必ずしも3価のイソシアネート基を有する化合物に限定されるものではない。
【0061】
一次硬化は、乾燥温度が80〜150℃、好ましくは90〜130℃、より好ましくは100〜125℃にて行われ、乾燥温度が80℃より低いと塗膜の乾燥が十分ではなく、充分な硬度のハードコートを得ることができず、150℃より高いと乾燥のコントロールが困難となる等の支障が生じる。
乾燥膜厚によって異なるが、乾燥時間は20分から60分程度であり、乾燥時間が足りないと、塗膜に溶媒が残留したり一次硬化反応が不十分となる可能性がある。
【0062】
乾燥膜厚として3〜50μm、好ましくは4〜20μm、より好ましくは5〜10μmであり、3μmより薄いと塗膜としての性能を発揮することが困難となり、50μmよりも厚い場合には確実に塗膜を硬化させることが困難となる。
本発明における塗料組成物からなる層を転写箔に設けて、これを他の物体に転写する際には、他の物体の表面性状等により膜厚等を調整することが必要である。
【0063】
[二次硬化]
本発明における塗料組成物は、形成した未硬化の塗膜を一次硬化に引き続き二次硬化を行うことにより硬化した塗膜が完成し、ハードコート等の目的とする性質を発揮することができる。
【0064】
また本発明のインモールド転写用フィルムを使用する場合には、塗料組成物を転写箔用基材シートに塗布し、これを一時乾燥させた後に成形樹脂表面に塗膜面が向くように金型内に設置する。次いで、金型内に樹脂を射出成形や注型成形すると共に、成形されてなる樹脂成形体の表面に、塗膜が設けられるようにする。
【0065】
次いで、金型からインモールド転写用フィルムと共に樹脂成形体を取り出して紫外線を照射して二次硬化する。上記式7及び8に記載されているように、二次硬化は、具体的には一次硬化で形成された、上記のアロファネート結合又はビュレット結合を有するビニル基含有化合物が、紫外線等のエネルギー線を照射されて二次硬化する。このとき、該ビニル基間にてラジカル重合を起こすことによって、ビニル基含有化合物が分子間架橋する。
この架橋の結果、一次硬化により形成された、柔軟性を有する塗膜の硬度が高くなりハードコート塗膜層を形成することになる。
こうして得られた樹脂成形体は未だインモールド転写用フィルム自体が表面に付着した状態である。成形後すぐに樹脂成形体表面に形成されたハードコート層を残して、フィルムを剥離しても良いが、剥離せずにそのままの状態で流通に乗せることも可能である。そのような場合には、ハードコート層と剥離するフィルム層は成形体表面及びハードコート層表面の保護フィルムとして機能する。
【実施例】
【0066】
塗料組成物1の配合例
トルエン20重量部
ペンタエリスリトールトリアクリレート(PETA)15重量部
イソシアヌレート(TKA100)30重量部
ジブチル錫ジラウレート0.05重量部
を室温下にて300rpmで10分間混合攪拌し、その後12時間室温で放置した。
さらにメチルエチルケトン52重量部を添加した後にさらに12時間室温で放置した。
この混合物にさらに、
2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン(Darocure1173)(光重合開始剤)0.6重量部
(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド(Irgacure819)(光重合開始剤)0.3重量部
及びトリエチレンジアミン(ウレタン反応促進触媒)0.7重量部
ジブチル錫ジラウレート0.7重量部
を添加して300rpmで10分間混合攪拌して塗料組成物を得た。
この塗料組成物による塗膜の伸び率を確認するために、PETフィルム上に離型層を介さずに塗膜を形成した。これを加熱により一次硬化させ、得られたPETフィルムと一次硬化した塗膜との積層体の伸び率は200%であった。さらに一次硬化した塗膜に紫外線を照射して二次硬化した塗膜が積層された積層体の伸び率は30%であった。
なお、市販のハードコート剤を同様にPETフィルム上に塗布し、紫外線の積算光量が80mJ/cmとなるように照射された塗膜を有する積層体の延び率は30%に留まり、紫外線の積算光量が800mJ/cmとなるように照射して得た塗膜を有する積層体の伸び率は3%以下であった。
これらの延び率の測定はEZ test(島津製作所(株)製)により、JIS C2318に沿って行った。
【実施例1】
【0067】
[転写箔の製造とインモールド成形]
厚さ50μmの二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの片面に、エタノールとイソプロピルアルコールの混合溶媒にエチルシリケートが3.5%溶解してなる溶液(AS−1000)を塗布し、120℃で30秒間乾燥して厚さ0.2μmの離型層を形成した後に、塗料組成物1を6μmの乾燥膜厚となるように塗布・加熱して、該塗料組成物1からなる層を一次硬化した。さらにアクリル系樹脂からなるヒートシール層を厚さが1μmとなるように塗布・乾燥を行った。
【0068】
得られた転写箔を印刷インキ層が樹脂側となるように、樹脂射出成形用金型内に設けて樹脂を射出して成形を行った。金型から取り出した樹脂成形体表面には転写箔が付着しているので、これをポリエチレンテレフタレートフィルムと離型剤層を一体に、塗料組成物1の一次硬化済みの層から剥離することにより、表面に印刷インキ層を介して塗料組成物1から得られた一次硬化済みの層が形成された樹脂成形体を得た。
次いで、この樹脂成形体表面の一次硬化済みの塗料組成物1からなる層に紫外線を照射して、二次硬化を行ない、目的とするハードコート層が形成された樹脂成形体を得て、各物性を測定した。その結果を下記の表1に示す。
【実施例2】
【0069】
[転写]
実施例1で得られた一次硬化した転写箔を用いて、ポリメチルメタクリレート及びガラス板に一次硬化した塗料組成物1を転写した。その転写後の転写塗膜表面とさらに紫外線を照射することにより得られた二次硬化済みの転写塗膜表面について、コーナー部の塗膜の外観以外の各物性を測定した。その結果を下記の表1に示す。鉛筆硬度以外は実施例1と同じ結果であった。
【0070】
〔比較例1〕
比較例1として市販のウレタンアクリレート系ハードコート用組成物を使用して次の転写箔を作成した。
基材及び離型層としては実施例1にて使用した基材を使用した。
市販のウレタンアクリレート系ハードコート用組成物としてはオーレックス344(中国塗料(株)を使用し、離型層及びウレタンアクリレート系ハードコート用組成物からなる層の各厚みは、それぞれ実施例1の離型層及び塗料組成物の層の厚みと同じとした。
ウレタンアクリレート系ハードコート用組成物層を100℃、15秒で予備乾燥し、次いで80mJ/cmとなるようにUV照射して半硬化して転写箔を得た。
この転写箔を実施例1と同じ成形手段にて使用し、ポリカーボネートとABS樹脂のブレンドによる樹脂成形体を成形した。
次いで、この樹脂成形体表面の一次硬化済みの塗料組成物1からなる層に紫外線を照射して、二次硬化を行なってハードコート層が形成された樹脂成形体を得た。
【0071】
【表1】

表中、○は塗膜の状況に変化がみられないことを示す。
【0072】
本発明における塗料組成物によれば、一次硬化塗膜転写後に十分な密着性を示すと共に、二次硬化後においても同様に十分な密着性、さらに耐擦り傷性、耐摩耗性を有する。従来の塗料組成物を用いた比較例も同様に十分な密着性や耐擦り傷性、耐摩耗性を有するが、二次硬化後の鉛筆硬度がHであるのに対し、実施例1及び2では、基材によって異なるものの2H以上の硬度を有し、ハードコート層を形成するための塗料組成物として、本発明の方がより高い効果を発揮するといえる。
【0073】
また、表面反射率は実施例1及び2のものが95%であるのに対し、比較例1のものが92%と低く、本発明によればより光沢性に優れる塗膜を得ることができる。
目視による外観は実施例1による塗膜は平坦部及びコーナー部共に良であったのに対し、比較例1による塗膜は平坦部では良であるものの、コーナー部ではクラックが発生して、良好な塗膜を形成することができない。特にこれは本発明による転写箔は伸び率が大きいことに起因する。
【0074】
耐沸騰水性に関して、実施例1及び2では、塗膜が剥離することはなかったが、比較例1においては一部が剥離した。これによれば、本発明に用いられる塗料組成物から得たハードコートは沸騰水に対しても劣化せず、基材に強く密着する性質を有することがいえる。
さらに、実施例1及び2により得られたハードコート層は、十分な耐熱性と耐温水性を備え、かつ温度サイクル試験によっても塗膜が変化せず、各種耐薬品性も良好である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多価イソシアネート化合物と、その多価イソシアネート化合物のNCO当量よりも小さいOH当量又はアミン当量のビニル基含有アルコール又はビニル基含有アミンを反応させてなるウレタン化合物又は尿素化合物を含有する塗料組成物をフィルム上に塗布し、一次硬化させてなるインモールド転写フィルム。
【請求項2】
多価イソシアネート化合物がトリレンジイソシアネートである請求項1に記載のインモールド転写フィルム。
【請求項3】
ビニル基含有アルコールがアクリロイル基含有1価アルコールである請求項1に記載のインモールド転写フィルム。
【請求項4】
ビニル基含有アミンがアクリロイル基含有1価アミンである請求項1に記載のインモールド転写フィルム。
【請求項5】
塗料組成物がケトン系溶媒を含有する請求項1〜4のいずれかに記載のインモールド転写フィルム。
【請求項6】
光重合開始剤を含有する請求項1〜4のいずれかに記載のインモールド転写フィルム。
【請求項7】
請求項1〜6に記載のいずれかのインモールド転写フィルムを用いる成形方法。
【請求項8】
請求項7記載の方法により得られた成形品。

【公開番号】特開2011−183560(P2011−183560A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−47941(P2010−47941)
【出願日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【出願人】(507281694)エスアイテック株式会社 (4)
【出願人】(598164371)
【Fターム(参考)】