説明

インモールド転写材用粘着離型ポリエステルフィルム

【課題】 インモールド転写箔の基材に用いるフィルムの少なくとも一方の面に粘着離型層を設けるに際し、かかる粘着離型層としてハードコート層を粘着離型層上に容易に加工でき、かつ転写後はハードコート層と剥離しやすく、しかも被転写物の大きさに合わせた幅にスリット加工する際に箔こぼれ現象が生じないような粘着剥離特性を有しており、インモールド用転写箔の基材フィルムとして有用なインモールド転写材用粘着離型ポリエステルフィルムを提供する。
【解決手段】
ポリエステルフィルムの少なくとも片面に粘着離型層を有し、該粘着離型層が(A)ガラス転移温度20℃以下のフッ素系ポリマー、(B)アクリル系ポリマーおよび(C)架橋剤を含有し、該粘着離型層に対するハードコート層の剥離力が0.2N/mm以上0.4N/mm以下であるインモールド転写材用粘着離型ポリエステルフィルムによって得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインモールド転写材用粘着離型フィルムに関し、詳しくは射出成形等において成形と同時に転写印刷するインモールド転写用の転写箔のベースフィルムとして有用なインモールド転写材用粘着離型フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、インモールド用転写箔として、ポリエステルフィルムをベースフィルムとし、そのうえに離型層を設け、この離型層の上にハードコート層、さらに印刷層を塗工し、これら順次積層したものが用いられている。
かかるインモールド用転写箔は、成形転写後に離型層面とハードコート層面との間で剥がされ、分離される。すなわち、成形転写後に印刷層は成形品の表面に接着して製品として取出され、ハードコート層はその製品の最表面となる。離型層は転写箔のベースフィルムの上に設けられた状態で製品から取り除かれる。また、インモールド転写箔用に適したフィルムとして、離型層とベースフィルムとの接着力を高めるために両層間に接着層を設けることも検討されている。
【0003】
近年、インモールド転写法を用いた加工に対し高い生産性を求められており、成形速度を向上させることが試みられている。一方、インモールド転写箔を取り扱う際に帯電による転写箔同士の貼付きや転写箔表面へのゴミや埃付着が発生し、生産性を落とすことがあった。かかる課題に対し、例えば特許文献1では、帯電防止層を有する転写材用ポリエステルフィルムが検討されている。
また、特許文献2においてインモールド用転写箔作成過程から成形転写に至る間で優れた帯電防止性を有し、かつ転写箔同士のはりつきがなく、転写の際に離型層とベースフィルムの剥離のないインモールド転写箔用フィルムとして、ポリエステルフィルムの一方の面に易接着層を有し、他方の面に離型成分を含む帯電防止層を有するフィルムが開示されている。また、特許文献2ではかかる離型成分について、帯電防止剤との相溶性が良好で、しかも離型成分により反対側の印刷面に印刷はじきを生じないよう検討が試みられている。
【0004】
一方、離型層に着目してみると、従来の離型層は各層を積層させた後に被転写物の大きさに合わせて適切な幅に切断(スリット)した際、スリット刃があたるショックによりスリットの部分でハードコート層、印刷層などの転写部分が離型層表面から剥がれる箔こぼれ現象を起こすことがあった。これは離型層とハードコート層との間における層間剥離力が非常に低いことに起因しており、転写に供される部分だけでなく転写に供さない部分も剥離性に優れるために生じるものである。
かかる箔こぼれ現象は、ハードコート層のように剥離層が厚くならざるを得ない場合、機能層が多い場合など、転写層の厚さが大きいときほど顕著に生じるものであった。そこでスリット時の箔こぼれを防止するために、ベースフィルムに離型層を設ける際、スリット箇所に当たる部分を除いた帯状のパターンに離型層を設け、その上にハードコート層、印刷層、接着層などからなる転写層を設けたものが検討されている(特許文献3)。しかしながら、かかる方法では被転写物に適した塗工パターンにしなければならないなどの課題がある。
【0005】
また特許文献4において、転写材用フィルムとして、従来の熱硬化性の離型層に代えて、常態剥離力が2000mN/cm以下の離型層を片面に有するポリエステルフィルムが提案されており、離型層を構成する成分の1つとしてフッ素含有樹脂が好ましいことが記載されている。しかしながら特許文献4では、剥離しやすい離型性フィルムの検討がされているものの、箔こぼれについて何ら検討されていない。
【0006】
このように、パターン塗工をしなくても箔こぼれが発生せず、しかも転写後の剥離性を有するインモールド転写材用ポリエステルフィルムが求められているのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−223800号公報
【特許文献2】特開2006−187951号公報
【特許文献3】特開平11−58584号公報
【特許文献4】特開2007−111964号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的はかかる従来技術の問題点を解消し、インモールド転写箔の基材に用いるフィルムの少なくとも一方の面に粘着離型層を設けるに際し、かかる粘着離型層としてハードコート層を粘着離型層上に容易に加工でき、かつ転写後はハードコート層と剥離しやすく、しかも被転写物の大きさに合わせた幅にスリット加工する際に箔こぼれ現象が生じないような粘着剥離特性を有しており、インモールド用転写箔の基材フィルムとして有用なインモールド転写材用粘着離型ポリエステルフィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、従来の離型層は離型性にのみ着目した離型性の高い層であったところ、ポリエステルフィルムの少なくとも片面に特定の粘着離型成分および架橋剤を含む塗布層を設け、粘着力と離型力の両機能を有する剥離力とすることにより、優れたハードコート加工性および剥離性を有し、しかも適切な幅で切断(スリット)した際、箔こぼれ現象が抑制されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明によれば、本発明の目的は、ポリエステルフィルムの少なくとも片面に粘着離型層を有し、該粘着離型層が(A)ガラス転移温度20℃以下のフッ素系ポリマー、(B)アクリル系ポリマーおよび(C)架橋剤を含有し、該粘着離型層に対するハードコート層の剥離力が0.2N/mm以上0.4N/mm以下であるインモールド転写材用粘着離型ポリエステルフィルムによって達成される。
【0011】
また、本発明のインモールド転写材用粘着離型ポリエステルフィルムは、その好ましい態様として、前記(A)ガラス転移温度20℃以下のフッ素系ポリマーがフッ化ビニリデン系共重合体と水酸基含有アクリル重合体との複合重合体であること、前記(B)アクリル系ポリマーのガラス転移温度が−40℃以上20℃以下であること、(A)ガラス転移温度20℃以下のフッ素系ポリマーおよび(B)アクリル系ポリマーの合計量を基準として(A)フッ素系ポリマーの含有量が5重量%以上90重量%以下であり、(B)アクリル系ポリマーの含有量が10重量%以上95重量%以下であること、粘着離型層の表面自由エネルギーが30mN/m以上50mN/m以下であること、粘着離型層がポリエステルフィルムの製膜工程内で塗布することにより形成されること、ポリエステルフィルムの粘着離型層と反対側の面にさらに帯電防止離型層を有すること、の少なくともいずれか一つを具備するものを包含する。
【発明の効果】
【0012】
本発明のポリエステルフィルムは、優れたハードコート加工性および剥離性を有し、しかも適切な幅で切断(スリット)した際、箔こぼれ現象が抑制されることから、従来の転写箔のように離型層を被転写物に適した塗工パターンで形成する必要がなく、転写箔全面に離型層を塗工することができることから、インモールド転写材用フィルムとして好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0014】
[ポリエステルフィルム]
本発明のポリエステルフィルムを構成するポリエステルは、芳香族二塩基酸またはそのエステル形成性誘導体とジオールまたはそのエステル形成性誘導体とから合成される線状飽和ポリエステルである。かかるポリエステルの具体例として、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンイソフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ(1,4−シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート)、ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートを例示することができる。
【0015】
ポリエステルは、ホモポリマーであっても、これらポリエステルのうちの1つを主たる成分とする共重合体であってもよく、またはブレンドしたものであってもよい。ここで「主たる成分」とは、ポリエステルの繰り返し構造単位のモル数を基準として80モル%以上である。また主たる成分の割合は、85モル%以上であることが好ましく、90モル%以上であることがさらに好ましい。また、共重合成分またはブレンド成分はポリエステルの繰り返し構造単位のモル数を基準として20モル%以下であり、好ましくは15モル%以下、さらに好ましくは10モル%以下である。ポリエステルとして、ポリエチレンテレフタレートが力学的物性と成形性のバランスがよいので特に好ましい。
【0016】
本発明のポリエステルフィルムは、本発明の課題を損なわない範囲内で、滑剤粒子、着色剤、帯電防止剤、酸化防止剤を含有してもよい。高透明性や表面平坦性が求められる場合は、滑剤粒子は実質的に含有しないことが好ましい。
【0017】
ポリエステルフィルムは、例えば次の方法で製造することができる。すなわち、ポリエステルをフィルム状に溶融押出し、キャスティングドラムで冷却固化させて非晶未延伸フィルムとし、縦方向(以下、連続製膜方向、長手方向、MD方向と称することがある)および横方向(以下、幅方向、TD方向と称することがある)に延伸する。縦方向の延伸は例えば温度60〜130℃、好ましくは90〜125℃で、縦方向に例えば2.0〜4.0倍、好ましくは2.5〜3.5倍に延伸する。横方向の延伸は、例えば温度60〜130℃、好ましくは90〜125℃で、横方向に例えば2.0〜5.0倍、好ましくは3.0〜4.5倍に延伸する。二軸延伸後の面積倍率は13以下とすることが好ましい。
【0018】
なお、フィルムの延伸後には熱固定処理を行うことが好ましい。熱固定処理は、最終延伸温度より高く融点以下の温度内で1〜30秒の時間内行うことが好ましい。例えばポリエチレンテレフタレートフィルムでは150〜250℃の温度、2〜30秒の時間の範囲で選択して熱固定することが好ましい。その際、20%以内の制限収縮もしくは伸長、または定長下で行い、また2段以上で行ってもよい。
【0019】
ポリエステルフィルムの表面の中心線表面粗さは、好ましくは1〜50nmである。ポリエステルフィルムの表面の中心線表面粗さをこの範囲とすることにより、塗布層の表面の中心線平均表面粗さが1〜40nmであるインモールド転写用フィルムを得ることができる。
【0020】
ポリエステルフィルムの厚みは、インモールド転写材として使用する場合にハンドリング性、成形性の観点から、また必要に応じてさらに透明性の点から、好ましくは12〜100μm、さらに好ましくは25〜75μmである。
【0021】
[粘着離型層]
本発明のフィルムは、ポリエステルフィルムの少なくとも一方の面に、(A)ガラス転移温度20℃以下のフッ素系ポリマー、(B)アクリル系ポリマーおよび(C)架橋剤を含有する粘着離型層を有する。また、該粘着離型層に対するハードコート層の剥離力は0.2N/mm以上0.4N/mm以下である。
本発明のフィルムは、粘着力と離型力の両機能を備える粘着離型層を有している点に特徴があり、具体的にはフッ素系ポリマーを用いつつ、架橋剤で粘着離型層の凝集破壊を抑えることで離型性能を付与し、さらに該フッ素系ポリマーとしてガラス転移温度の低いフッ素系ポリマーを用い、かつアクリル系ポリマーを併用することによって粘着性能も備え、粘着離型層に対するハードコート層の剥離力が0.2N/mm以上0.4N/mm以下である、粘着力と離型力の両機能を備える粘着離型層を得ることができる。そして、かかる粘着離型層を有する粘着離型ポリエステルフィルムをインモールド転写箔用途に用いた場合に、粘着離型層上にハードコート剤を塗布でき、転写後にはそのハードコート層を剥離することが可能であり、またスリット加工において、粘着離型層とハードコート層との剥がれによる箔こぼれ、屑および塵の発生を抑制することができる。
【0022】
((A)フッ素系ポリマー)
本発明の(A)フッ素系ポリマーは、ガラス転移温度が20℃以下のフッ素系ポリマーである。また、かかる(A)フッ素系ポリマーは、フッ素原子を含むフッ素系重合体(以下、含フッ素系重合体と称することがある)およびアクリル系重合体を含む複合重合体であることが好ましい。また、該複合重合体は、含フッ素系重合体とアクリル系重合体との複合重合体粒子の水性分散体であることがさらに好ましい。かかる水性分散体を得るためには、アクリル系重合体が水酸基を含有していることが好ましい。
【0023】
ガラス転移温度が20℃より高いフッ素系ポリマーを用いた場合、室温での粘着力が低く、ハードコート層との剥離力が下限値に満たない程度に低くなるため、スリット加工時の箔こぼれを十分に抑制することが困難である。
【0024】
フッ素系ポリマーのガラス転移温度はかかる範囲内でより低い方が好ましいが、ポリマーの性質上、その下限値は−40℃に制限される。フッ素系ポリマーのガラス転移温度は好ましくは−30℃以上10℃以下である。フッ素系ポリマーのガラス転移温度の調整は、フッ素系ポリマーの共重合成分であるアクリルモノマー種の選択や配合量を制御して行うことができる。
【0025】
本発明のフッ素系ポリマーは、含フッ素系重合体およびアクリル系重合体を含む複合重合体であることが好ましいが、かかる複合重合体の具体的構造として、含フッ素系重合体を構成するモノマー成分とアクリル系重合体を構成するモノマー成分との共重合体型、含フッ素系重合体をコア、アクリル系重合体をシェルとするコア・シェル型、またはアクリル系重合体をコア、含フッ素系重合体をシェルとするコア・シェル型などが挙げられる。
【0026】
本発明のフッ素系ポリマーを構成する前記含フッ素重合体としては、フッ化ビニリデン系重合体が好ましく、フッ化ビニリデンの単独重合体、フッ化ビニリデンおよびこれと共重合可能な単量体との共重合体が例示される。かかるフッ化ビニリデン系重合体の重量平均分子量は、通常1万〜20万である。
フッ化ビニリデンと共重合可能な単量体として、例えばフッ化ビニル、テトラフルオロエチレン、トリフルオロクロロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、ヘキサフルオロイソブチレン、トリフルオロアクリル酸またはそのアルキルエステル、ペンタフルオロメタクリル酸またはそのアルキルエステル、アクリル酸またはメタクリル酸のフルオロアルキルエステル等のフッ素含有エチレン性不飽和化合物、プロピレン、シクロヘキシルビニルエーテル、ヒドロキシエチルビニルエーテル等のフッ素非含有エチレン性不飽和化合物、ブタジエン、イソプレン、クロロプレン等のフッ素非含有ジエン化合物等との共重合体が挙げられる。
本発明においては、フッ化ビニリデンの単独重合体、2元共重合体であるフッ化ビニリデン/テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、3元共重合体であるフッ化ビニリデン/テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体等が好ましく用いられ、これらのうち、フッ化ビニリデン/テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体およびフッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体が特に好ましく用いられる。これらのフッ化ビニリデン系重合体は、単独でまたは2種以上を組み合わせて使用される。
【0027】
また、フッ化ビニリデン系共重合体は、フッ化ビニリデンの含有率が50重量%以上の共重合体であることが好ましい。具体的なフッ化ビニリデン系共重合体の組成比として、フッ化ビニリデン/テトラフルオロエチレン共重合体においては、好ましくはフッ化ビニリデンが50〜90重量%、テトラフルオロエチレンが50〜10重量%であり、フッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体においては、好ましくはフッ化ビニリデンが50〜90重量%、ヘキサフルオロプロピレンが50〜10重量%であり、フッ化ビニリデン/テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体においては、好ましくはフッ化ビニリデンが50〜80重量%、テトラフルオロエチレンが10〜40重量%、ヘキサフルオロプロピレンが5〜40重量%である。かかるフッ化ビニリデン系共重合体を用いることにより、粘着離型層の造膜性や基材ポリエステルフィルムとの密着性が良好となる。
【0028】
フッ化ビニリデン系重合体は、乳化重合、溶液重合、沈殿重合など、種々の方法で得られるが、本発明においては、特に乳化重合によって得られるフッ化ビニリデン系重合体が好適に用いられる。
【0029】
また、本発明の含フッ素系重合体およびアクリル系重合体を含む複合重合体は、含フッ素系重合体とアクリル系重合体との複合重合体粒子の水性分散体であることが好ましいが、かかる水性分散体は、通常、含フッ素系重合体粒子の存在下、水性媒体中でアクリル系重合体の単量体を乳化重合することにより製造される。そのため、フッ化ビニリデン系重合体は、アクリル系共重合体の単量体を乳化重合する段階で、粒子として水性媒体中に分散されていることが好ましい。
【0030】
フッ化ビニリデン系重合体を水性媒体中に分散させる方法は特に限定されるものではないが、例えば、(i)共重合性単量体の存在下または非存在下でフッ化ビニリデンを水性媒体中で乳化重合する方法、(ii)フッ化ビニリデン系重合体溶液を水性分散液に転相する方法、(iii)共重合性単量体の存在下または非存在下でフッ化ビニリデンを沈澱重合したのち、生成重合体粒子を水性媒質中に分散させる方法、が挙げられる。これらの方法のうち、(i)の乳化重合法が、フッ化ビニリデン系重合体粒子の水性分散液がそのまま、次のアクリル系重合体の乳化重合に使用することができる点で好ましい。
【0031】
フッ化ビニリデン系重合体粒子の平均粒径は所望の平均粒径に応じて変わるが、通常、水分散体中のフッ化ビニリデン系重合体粒子の平均粒径として0.03〜0.3μmの範囲にあるのが好ましく、さらに好ましくは0.03〜0.2μmである。
【0032】
(A)ガラス転移温度20℃以下のフッ素系ポリマーを構成する前記アクリル系重合体に用いられる単量体成分として、(a)アルキル基の炭素数が1〜18であるアクリル酸アルキルエステルまたはアルキル基の炭素数が1〜18であるメタクリル酸アルキルエステルの少なくともいずれか1種、(b)成分として(a)以外のカルボニル基含有ビニル単量体が挙げられ、さらに必要に応じてその他の共重合可能な単量体を用いてもよい。
【0033】
(a)アルキル基の炭素数が1〜18であるアクリル酸アルキルエステルとしては、例えばアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸n−アミル、アクリル酸イソアミル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ラウリル等を挙げることができる。これらのうち、アルキル基の炭素数が4〜12のアクリル酸アルキルエステルが好ましく、特にアクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸2−エチルヘキシルが好ましい。
【0034】
また、アルキル基の炭素数が1〜18であるメタクリル酸アルキルエステルとしては、例えばメタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸n−アミル、メタクリル酸イソアミル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ラウリル等を挙げることができる。これらのうち、アルキル基の炭素数が1〜6のメタクリル酸アルキルエステルが好ましく、特にメタクリル酸メチルが好ましい。
前記アクリル系重合体を構成する(a)成分は、上述の単量体の中から単独でまたは2種以上を混合して使用される。
【0035】
(a)以外のカルボニル基含有ビニル単量体(b)として、例えばアクロレイン、ビニルアルキルケトン、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキル、アクリルアミドが例示され、これらの中でも、アクロレイン、ジアセトンアクリルアミド、ビニルメチルケトンが好ましい。
【0036】
これらアクリル系重合体を構成する各単量体成分の含有量は、アクリル系重合体の重量を基準として、(a)成分は40〜99.9重量%、(b)成分は0.1〜60重量%であることが好ましく、さらに(a)成分は60〜99.5重量%、(b)成分は0.5〜40重量%であることが好ましい。また、その他の共重合可能な単量体も含む場合は、かかる成分は50重量%以下の範囲で使用されることが好ましい。
【0037】
また、(a)成分のうち、アクリル酸アルキルエステルとメタクリル酸アルキルエステルとを併用する場合は、両者の比率には特に制約はないが、前記フッ化ビニリデン系重合体粒子中にアクリル系重合体の原料を均一に相溶させるために、アクリル酸アルキルエステルとメタクリル酸アルキルエステルの合計量に対し、メタクリル酸アルキルエステルを50重量%以上用いることが好ましい。
【0038】
フッ素系ポリマーとの複合重合体を水性分散体として粒子状に含有させるために、フッ素系ポリマーを構成するアクリル系重合体は、水酸基含有アクリル系重合体であることが好ましい。具体的には、前記アクリル系重合体は、該アクリル系重合体100重量%に対してアクリル酸などの水酸基含有単量体が0.1〜20重量%共重合されたアクリル系重合体であることが好ましい。
【0039】
本発明の(A)フッ素系ポリマーは、含フッ素系重合体とアクリル系重合体を用いた複合重合体であることが好ましく、さらにかかる含フッ素系重合体としてフッ化ビニリデン系共重合体を用い、アクリル系重合体として水酸基含有アクリル系重合体を用いることが好ましい。かかる成分のフッ素系ポリマーを用いることにより、塗布後の造膜性が向上する。
【0040】
また、これら含フッ素系重合体とアクリル系重合体との複合重合体は、水性分散体として粒子状に分散していることが好ましい。かかる複合重合体粒子の水性分散体は、含フッ素系重合体粒子100重量部の存在下、アクリル系重合体の原料となる単量体混合物を30〜400重量部、さらに好ましくは40〜300重量部を、水性媒体中で乳化重合することにより得られる。
【0041】
かかる複合重合体粒子の水性分散体を得るにあたり、含フッ素系重合体粒子の存在下でのアクリル系重合体の原料にあたる単量体混合物の乳化重合は、1種のシード重合と考えることができる。その反応挙動は必ずしも明確ではないが、添加した単量体は主として含フッ素系重合体粒子中に吸収あるいは吸着され、該粒子を膨潤させながら重合が進行していくものと考えられる。具体的には、例えば特開平5−271358号公報に記載された方法に準じて製造することができる。
【0042】
含フッ素系重合体粒子の存在下、アクリル系重合体の原料にあたる単量体を水性媒体中で乳化重合することによって複合重合体粒子の水性分散体が得られ、かかる複合重合体粒子の水性分散体の平均粒径は、通常0.04〜3μm程度である。好ましい平均粒径は0.05〜0.5μmであり、さらに好ましくは、0.05〜0.3μmである。前記平均粒径が下限値に満たない範囲では、水性分散液の粘度が上昇して高固形分の水性分散液が得られにくく、また使用条件により大きな機械的剪断力が作用する場合では、凝固物が発生しやすくなることがある。一方、平均粒径が上限値を超えると水性分散液の貯蔵安定性が低下することがある。この水性分散体の平均粒径は、フッ化ビニリデン系重合体粒子の大きさを適宜選択することによって調節することができる。
【0043】
((B)アクリル系ポリマー)
本発明の粘着離型層は、構成成分の1つとして(B)アクリル系ポリマーを用いることにより、粘着機能も備える剥離力を有する。
【0044】
アクリル系ポリマーとして、ガラス転移温度が−40℃以上20℃以下であるアクリル系ポリマーが挙げられる。アクリル系ポリマーのガラス転移温度が下限値に満たないと室温での凝集力が低く、ハードコート加工後、ハードコート層を剥離する際にアクリル系ポリマーがハードコート層に転写(糊残りと称することもある)するといった問題が生じることがある。また、アクリル系ポリマーのガラス転移温度が上限値より高いと室温での粘着力が低く、固めの塗布層となってインモールド成形性に劣ることがある。さらに、転写後の剥離時に箔バリ,箔屑などが生じることがある。アクリル系ポリマーのガラス転移温度は好ましくは−30〜10℃であり、アクリル系モノマー種の選択や共重合量などでガラス転移温度を制御することができる。
【0045】
また、本発明のアクリル系ポリマーは、マクロモノマーを乳化重合したエマルジョンであることが好ましく、重合後に高分子量の側鎖を有するグラフトポリマーを形成することができる。マクロモノマーの重合体成分を構成する単量体としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ベヘニル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸エステル類、(メタ)アクリル酸、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートなどのヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類、(メタ)アクリルアミド類などが挙げられる。
【0046】
これらの単量体のうち、ガラス転移温度が20℃以下であるマクロモノマーを得るために、メチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレートおよび2−エチルヘキシル(メタ)アクリレートの中から、少なくとも1種を使用することが好ましい。これらは単独で、または2種類以上併用して使用することができる。
【0047】
グラフトポリマーを主成分とするマクロモノマーの製造は公知の種々の方法によって行うことが可能であり、本発明においてはラジカル重合法またはアニオン重合法によって製造された重合体骨格の末端基に、ラジカル重合性の高いアクリロイル基の導入されたマクロモノマーを用いるのが好ましい。
【0048】
本発明のアクリル系ポリマーにおいて、マクロモノマーと共重合させる単量体は、水性媒体中において乳化重合可能なビニル単量体、またはビニル単量混合体であることが好ましく、常温で液体であることが好ましい。マクロモノマーと共重合可能なビニル単量体としては、アクリレート、メタクリレート、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸エステル類などが挙げられる。
これらの中でもアクリレートやメタクリレートが好ましく、これらは単独で、または2種類以上併用して使用することができる。
【0049】
((A)フッ素系ポリマーと(B)アクリル系ポリマーの含有量)
(A)フッ素系ポリマーの含有量は、(A)ガラス転移温度20℃以下のフッ素系ポリマーおよび(B)アクリル系ポリマーの合計量を基準として5重量%以上90重量%以下であることが好ましい。かかるフッ素系ポリマーの含有量は、さらに好ましくは40重量%以上80重量%以下である。
【0050】
また(B)アクリル系ポリマーの含有量は、(A)ガラス転移温度20℃以下のフッ素系ポリマーおよび(B)アクリル系ポリマーの合計量を基準として10重量%以上95重量%以下であることが好ましい。かかるアクリル系ポリマーの含有量は、さらに好ましくは20重量%以上60重量%以下である。
(A)フッ素系ポリマーと(B)アクリル系ポリマーが、それぞれ上述の範囲で粘着離型層に含有されていることにより、粘着性能と離型性能の両機能が発現する。
【0051】
((C)架橋剤)
また、本発明の粘着離型層は、該層の凝集力を向上させるために架橋剤を添加する必要がある。架橋剤を添加しない場合は、粘着離型層の凝集力が十分でなく、本発明の(A)フッ素系ポリマーを含有していても凝集破壊が先に生じてしまい、フッ素系ポリマーによる離型性能が十分に発現しない。
【0052】
架橋剤としては、エポキシ化合物、オキサゾリン化合物、メラミン化合物、イソシアネート化合物を例示することができ、その他一般的にカップリング剤と称される化合物を用いることもできる。取扱い易さや塗液のポットライフが長いことからエポキシ化合物、オキサゾリン化合物を用いることが好ましく、カップリング剤を用いることも好ましい。
【0053】
エポキシ化合物として、ポリエポキシ化合物、ジエポキシ化合物、モノエポキシ化合物などが挙げられ、さらに詳しくはそれらのグリシジルエーテル化合物、グリシジルアミン化合物が例示される。
オキサゾリン化合物として、オキサゾリン基を含有する重合体が好ましい。具体的には付加重合性オキサゾリン基含有モノマー単独もしくは他のモノマーとの重合によって作成できる。付加重合性オキサゾリン基含有モノマーは、2−ビニル−2−オキサゾリン、2−ビニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−ビニル−5−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−5−エチル−2−オキサゾリン等を挙げることができ、これらの1種または2種以上の混合物を使用することができる。これらの中でも2−イソプロペニル−2−オキサゾリンが工業的にも入手しやすく好適である。他のモノマーについては、付加重合性オキサゾリン基含有モノマーと共重合可能なモノマーであれば特に制限されない。
【0054】
メラミン化合物は、メラミンとホルムアルデヒドを縮合して得られるメチロールメラミン誘導体に、低級アルコールとしてメチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール等を反応させてエーテル化した化合物及びそれらの混合物が好ましい。メチロールメラミン誘導体としては、例えば、モノメチロールメラミン、ジメチロールメラミン、トリメチロールメラミン、テトラメチロールメラミン、ペンタメチロールメラミン、ヘキサメチロールメラミン等が挙げられる。
【0055】
イソシアネート化合物は、例えば、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタン−4,4´−ジイソシアネート、メタキシリレンジイソシアネート、ヘキサメチレン−1,6−ジイソシアネート、1,6−ジイソシアネートヘキサン、トリレンジイソシアネートとヘキサントリオールの付加物、トリレンジイソシアネートとトリメチロールプロパンの付加物、ポリオール変性ジフェニルメタン−4、4´−ジイソシアネート、カルボジイミド変性ジフェニルメタン−4,4´−ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、3,3´−ビトリレン−4,4´ジイソシアネート、3,3´ジメチルジフェニルメタン−4,4´−ジイソシアネート、メタフェニレンジイソシアネート等が挙げられる。
【0056】
架橋剤の含有量は粘着離型層の重量を基準としては5重量%以上50重量%以下であることが好ましい。また架橋剤の添加量の上限値は40重量%であることがより好ましく、30重量%であることがさらに好ましく、20重量%であることが特に好ましい。架橋剤の含有量が下限値に満たないと粘着離型層の凝集力が低くなり、離型性能が十分に発現しないことがある。一方、架橋剤の含有量が上限値を超えると粘着離型層の造膜性が悪くなり塗布外観が悪化することがある。
【0057】
(界面活性剤)
本発明の粘着離型層を構成する(A)ガラス転移温度20℃以下のフッ素系ポリマー、(B)アクリル系ポリマーは、いずれも塗工時の取扱い易さ、作業環境の面から、水分散液あるいは乳化液の形態で使用するのが好ましい。良好な水分散、乳化液の形態を得るには、界面活性剤の使用が好ましく、塗液の他の成分との分散安定性のため、ノニオン系界面活性剤が特に好ましい。界面活性剤の含有量は、粘着離型層の重量を基準として1重量%以上15重量%以下の範囲であることが好ましく、さらに好ましくは5重量%以上12重量%以下の範囲である。
【0058】
[剥離力]
本発明の粘着離型層は、前記(A)ガラス転移温度20℃以下のフッ素系ポリマーおよび(B)アクリル系ポリマーの両成分および(C)架橋剤を含有し、かつ粘着離型層に対するハードコート層の剥離力が0.2N/mm以上0.4N/mm以下の範囲である必要がある。該剥離力は、好ましくは0.2N/mm以上0.3N/mm以下、さらに好ましくは0.24N/mm以上0.30N/mmである。ここで、本発明における剥離力は、粘着離型層上にDICグラフィックス株式会社製のハードコート剤(製品名「5LC114H」)100重量部および該ハードコート剤用硬化剤を3重量部含むハードコート組成物を塗布し、150℃、1分で熱風乾燥して熱による不完全硬化させた後の剥離力を測定した値で表わされる。
【0059】
インモールド転写用に使用されるフィルムの粘着離型層が、ハードコート層との剥離力について上述の剥離力を満足する場合に、インモールド転写箔を作成する際にはハードコート塗工剤を粘着離型層上に塗布抜けを生じることなく塗工でき、またハードコート層との粘着性に優れるため、インモールド転写箔を成形品の大きさに合せてスリット加工する際に不要なハードコート層部分が剥離するという箔こぼれ現象も抑制でき、しかもインモールド転写後の転写箔の剥離性にも優れるという、極めて良好な加工適正を奏する。
【0060】
かかる剥離力が下限値に満たない場合は、粘着性に乏しいためスリット加工時の箔こぼれが生じる。また剥離力が下限値に満たないような塗布層組成では、結果的にハードコート塗工剤を粘着離型層上に塗工した際の塗布抜けが生じやすい。一方、かかる剥離力が上限値を超える場合、離型性に乏しく、インモールド転写後の転写箔の除去が困難となる。
【0061】
かかる剥離力特性を得るために、フッ素系ポリマーとして先に記載した種類のものを用いてそのガラス転移温度が20℃以下であること、同時にアクリル系ポリマーと架橋剤を用いることが挙げられる。
【0062】
[表面自由エネルギー]
本発明の粘着離型層の表面自由エネルギーは15mN/m以上50mN/m以下であることが好ましい。また、粘着離型層の表面自由エネルギーは、塗工性、離型性、取扱い性の点から下限値が25mN/mであることがさらに好ましく、さらに好ましくは30mN/mであり、上限値は45mN/mであることがさらに好ましい。
【0063】
粘着離型層の表面自由エネルギーが上限値より大きくなると、ハードコート剤の塗工性は良くなるが、粘着力が高くなりすぎ、該ハードコート層の離型性に劣ることがある。また粘着離型層の表面自由エネルギーが下限値に満たないと塗工性が低下することがあり、また離型性が良すぎて本発明で必要な剥離力が得られないことがある。
【0064】
本発明における表面自由エネルギーは、下記式(I)で表わされるFowkesの拡張式で定義される表面自由エネルギーγ(以下、表面張力と称することがある)で表わされる。
γ=γ+γ+γ ・・・(I)
(上式中、γは分散成分、γは極性成分、γは水素結合成分をそれぞれ表わす)
Fowkesの拡張式は、London力に由来する分散成分γ、Debye力(永久双極子モーメント、電荷移動)に由来する極性成分γ、水素結合力に由来する水素結合成分γに着目している点で、表面を形成する組成と表面自由エネルギーとの相関性が高く、さらには剥離力との相関性が高い。従来、離型層の離型力についてはFowkesの式による表面張力で検討されることが多かったが、Fowkesの式は相互作用として分散力しか考慮していなかった。本発明は、かかるFowkesの式では表面を形成する組成と剥離力との相関性が低いことを見出し、従来のFowkesの式による表面張力に代わり、北崎、畑らが考案した(日本接着協会紙8(3)、131〜141(1972))拡張Fowkes式により求めた表面自由エネルギーを用いており、本発明の(A)ガラス転移温度20℃以下のフッ素系ポリマーおよび(B)アクリル系ポリマーの両成分を粘着離型層に含有させることにより、かかる表面自由エネルギーを得ることができる。
【0065】
表面自由エネルギーγを構成する分散力成分γは0mN/mを超え30mN/m以下の範囲であることが好ましい。また、極性成分または双極子成分γは0mN/mを超え20mN/m未満、水素結合成分γは0mN/mを超え2mN/m以下であることが好ましい。
【0066】
[耐溶剤性]
本発明の粘着離型層は、上述のフッ素系ポリマーとアクリル系ポリマーとを含有していることにより、メチルエチルケトン溶剤に対する耐溶剤性に優れる。メチルエチルケトン溶剤に対する耐溶剤性に優れることにより、メチルエチルケトンを溶剤とするハードコート層を粘着離型層上に形成させた際に溶剤による削れ破壊を生じないため、粘着離型層−ハードコート層の界面で粘着離型層が凝集破壊されず、ハードコート層を剥離できなくなるという問題を抑制することができる。
【0067】
[帯電防止離型層]
本発明の粘着離型ポリエステルフィルムは、ポリエステルフィルムの粘着離型層とは反対側の面にさらに帯電防止離型層を設けることが好ましい。かかる帯電防止離型層は塗布により設けられた帯電防止離型性の塗布層であることが好ましく、また帯電防止剤、離型剤を含有することが好ましい。帯電防止離型層は、インモールド用転写材用フィルムにおいて一般に設けられる層であり、帯電による転写箔同士の貼付きなどを抑えるために帯電性のみならず離型性も付与されることが多いが、かかる層上にハードコート層を設けることはなく、帯電防止性以外に求められる機能も通常はフィルム同士の貼り付き防止に必要な離型力だけであって、粘着力は求められておらず、本発明の粘着離型層とは異なる機能層である。
かかる層を有することにより、インモールド用転写箔を取り扱う際に帯電による転写箔同士の貼付きや転写箔表面へのゴミや埃付着の発生を抑えることができる。
【0068】
[塗工方式]
本発明において、粘着離型層はポリエステルフィルムの少なくとも一方の面に設けられ、一方の面に設けられることが好ましい。該粘着離型層をポリエステルフィルム上に設ける方法として、ポリエステルフィルムの製膜工程内(インラインと称することがある)で塗布することにより形成されることが好ましい。
従来はポリエステルフィルム上に易接着層を形成し、かかるフィルムをいったんロール状にした後、別工程でハードコート層の下地となる離型層をかかる易接着層上に設ける方法が用いられていたのに対し、本方法の特徴は、ポリエステルフィルムの製膜工程内で、本発明の剥離力を備える粘着離型層をポリエステルフィルム上に直接塗設することができ、工程を簡略化できることにある。また、通常の二軸延伸法によるポリエステルフィルム製造工程における縦延伸後に塗布すれば、横延伸工程中に乾燥、熱処理が行われるため好ましい。
【0069】
塗布によりポリエステルフィルム上に粘着離型層を積層する方法は特に限定されず、例えば、原崎勇次著、槙書店、1979年発行、「コーティング方式」に示されるような塗布方法を用いることができる。具体的には、エアドクターコーター、ブレードコーター、ロッドコーター、ナイフコーター、スクイズコーター、含漬コーター、リバースロールコーター、トランスファーロールコーター、グラビアコーター、キスロールコーター、キャストコーター、スプレーコーター、カーテンコーター、カレンダーコーター、押出コーター、バーコーター等のような方法が挙げられる。
【0070】
塗布液の塗布量は、通常4〜30g/m、好ましくは5〜20g/m、さらに好ましくは6〜10g/mである。また得られた粘着離型層の厚みは、乾燥後の厚みとして好ましくは0.01〜0.2μm、さらに好ましくは0.01〜0.08μmである。粘着離型層の厚みが下限値に満たない場合は離型性が不十分となることがあり、また上限値を超えるとインモールド用転写箔ポリエステルフィルムが帯電防止離型層をさらに有する場合に帯電防止離型層とのブロッキングを起こし易くなることがある。
【0071】
本発明において、帯電防止離型層をさらに有する場合、帯電防止層はポリエステルフィルムの粘着離型層と反対側の面に設けられることが好ましい。また、帯電防止層は塗布により設けられることが好ましい。塗布方法は、粘着離型層と同様の方法を用いることができる。
帯電防止層の厚みは、乾燥後の厚みとして好ましくは0.01〜0.2μm、さらに好ましくは0.01〜0.08μmである。帯電防止層の厚みが下限値に満たない場合は帯電防止性が不十分となることがあり、また上限値を超えるとインモールド用転写箔とのブロッキングを起こし易くなることがある。
【0072】
[インモールド転写材用フィルム]
本発明の粘着離型ポリエステルフィルムは、ポリエステルフィルムの少なくとも一方の面に特定のフッ素系ポリマー、アクリル系ポリマーおよび架橋剤を含有してなる塗布層を粘着離型層として有することにより、インモールド転写材用フィルムとして用いた場合に、インモールド用転写箔作製工程から成形転写に至る間で優れた粘着離型性および加工性を有しており、ハードコート剤の塗布や該ハードコートの剥離、さらにスリット加工の際の箔こぼれ、屑、箔塵の発生、および発生した屑・箔塵の製品表面付着を抑制することができ、生産性を格段に向上させることができる。
【0073】
また従来は、フィルム製造工程でポリエステルフィルム上に易接着層を積層した後、さらに別工程で該易接着層上に有機溶剤組成の離型剤を塗布した離型層を積層する工程であったところ、本発明の粘着離型層は工程の簡略化、環境低付加、低コスト化の効果をも奏するものである。
【0074】
本発明のインモールド転写材用フィルムは、粘着離型層と反対面にさらに帯電防止成分を含有してなる離型性の塗布層を有することにより、インモールド転写材用フィルムとして用いた場合に、インモールド用転写箔作成過程から成形転写に至る間で優れた帯電防止性及び離型性をも有しており、帯電やブロッキングによる転写箔同士の貼付きや転写箔表面へのゴミや埃などの付着を抑制することができ、生産性を格段に向上させることができる。
【実施例】
【0075】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。なお、各種物性は下記の方法により評価した。またwt%は重量%を、部は重量部をそれぞれ表わす。
(1)ガラス転移温度測定
示差走査熱量計(セイコーインスツルメント社製DSC SSC5200)を使用して、粘着離型層用の塗布液の乾固物をサンプルとして用い、サンプル量5mgを測定用のアルミニウム製パンに封入し、窒素雰囲気下、20℃/minの昇温条件で25℃から300℃まで昇温させてDSC測定を行い、ガラス転移温度を測定した。
また、フッ素系ポリマー、アクリル系ポリマーのどちらに起因するガラス転移温度か判別がつかない場合は、それぞれの材料について、上記の方法によりDSC測定を行い、ガラス転移温度を測定した。
【0076】
(2)塗布層厚み
包埋樹脂でフィルムを固定して断面をミクロトームで切断し、2%オスミウム酸で60℃、2時間染色して、透過型電子顕微鏡(日本電子製JEM2010)を用いて、塗布層の厚みを測定した。
【0077】
(3)粘着離型層に対するハードコート層剥離力の測定
ポリエステルフィルムの粘着離型層の表面に、以下に示した熱硬化性のハードコート剤を含むハードコート剤塗布液を乾燥後の厚みが10μmとなるように塗布し、150℃、1分間、熱風オーブンで乾燥し、ハードコート層を作製した。
作製したハードコート層の表面に幅18mmの粘着テープ(ニチバン社製、商品名「No.405−1P」)を貼り合わせた後、金属ローラー(線圧2kg/cm)で圧着した。室温にて30分放置した後、粘着テープをハードコート層と共に剥離し、その時の剥離力を測定した。測定は引張試験機を使用し、引張速度300mm/minの条件下、90°剥離の条件で行った。n=5で評価を行い、その平均値を求めてハードコート層剥離力とした。
【0078】
(ハードコート剤塗布液)
ハードコート剤としてDICグラフィックス株式会社製のハードコート剤(製品名「5LC114H」)100重量部および該ハードコート剤用硬化剤を3重量部調製し、溶媒としてMEK(メチルエチルケトン)を用いて不揮発成分が30%のハードコート剤塗布液を調製した。
【0079】
(4)接触角および表面自由エネルギー
23℃、65%RHの条件下で、24時間調湿したフィルムサンプルの粘着離型層表面について、自動接触角測定装置(協和界面化学(株)社製)を使用して、水、ヨウ化メチレン、n−ヘキサデカンとの静的接触角を測定した。各液体試料についてそれぞれ5回ずつ測定を行い、その平均値をフィルムサンプルの接触角とし、各液体試料の表面張力および表面張力成分値(表1)を用いて、下記式(I)のFowkesの拡張式より粘着離型層表面の表面自由エネルギーを算出した。
【0080】
γ=γ+γ+γh ・・・(I)
(上式中、γは分散成分、γは極性成分、γは水素結合成分をそれぞれ表わす)
【0081】
【表1】

【0082】
(5)ハードコート剥離時の箔こぼれ性
粘着離型層のハードコート層剥離力測定試験において、ハードコート層を粘着テープで剥離した際に粘着テープに引きつられて、余計に剥離されたハードコート層の箔こぼれ発生有無を観察し、評価を行った。
【0083】
○ : 粘着テープ幅と同じ幅でハードコート層が剥離
△ : 部分的に粘着テープ幅より広くハードコート層が剥離
× : 全体的にテープ幅より広くハードコート層が剥離
【0084】
(6)溶剤ラビング試験
JIS−K5600−8の塗膜劣化評価に従い、ガーゼにメチルエチルケトンを染み込ませ、粘着離型層上にガーゼを載せてその上に総荷重150g(治具の重量150g、追荷重0g)の荷重を負荷の荷重を負荷しながら塗布層の表面上を1往復させた後、表面に観察された塗布層の剥がれた塗膜幅、傷を観察し、下記の基準で耐溶剤性の評価をした。 評価は溶剤ラビング試験を行った部分のうち、2cm×10cmの範囲で観察した。
◎ : 剥離、擦傷とも皆無 ・・・・・・ 溶剤耐性極めて良好
○ : 剥離皆無、擦傷少しあり ・・・・・・ 溶剤耐性良好
△ : 剥離少しあり、擦傷あり ・・・・・・ 溶剤耐性やや良好
× : 剥離あり、擦傷あり ・・・・・・ 溶剤耐性不良
【0085】
(7)粘着離型層のヘーズ
JIS K7136に準じ、日本電色工業社製のヘーズ測定器(NDH−2000)を使用して、下記式(2)より粘着離型層のヘーズを測定した。式中、フィルムヘーズとは、ポリエステルフィルム上に粘着離型層が形成されたフィルム全体のヘーズ値であり、粘着離型層未塗工フィルムヘーズとは、粘着離型層を塗工していない状態でのフィルムヘーズを指す。
帯電防止離型層のヘーズ=フィルムヘーズ−粘着離型層未塗工フィルムヘーズ (2)
A+:0.1%未満
A:0.1%以上0.4%未満
B:0.4%以上0.8%未満
C:0.8%以上
この評価で、Aまでが実用性能を満足する。
【0086】
[実施例1]
平均粒子径が2μmの酸化ケイ素の粒子を0.01wt%を含む溶融ポリエチレンテレフタレート([η]=0.64dl/g、Tg=78℃)をダイより押出し、常法により冷却ドラムで冷却して未延伸フィルムとし、次いで縦方向に3.4倍に延伸した後、表2に示す塗布層構成成分からなる粘着離型層用塗布液(2wt%塗布液)をフィルムの表面に6g/m(乾燥後の塗布層厚み0.04μm)、帯電防止層用塗布液(1.6wt%塗布液)をフィルムの裏面に8g/m(乾燥後の塗布層厚み0.04μm)になるよう、それぞれロールコーターで均一に塗布した。
次いで、この塗布フィルムを引き続いて105℃で乾燥し、140℃で横方向に3.5倍に延伸し、更に220℃で熱固定して、表1に示す塗膜を有する厚さ50μmの二軸延伸ポリエステルフィルムを得た。
【0087】
[実施例2〜4、比較例1〜7]
塗布液の組成を表2に示されるとおりに変更した以外は実施例1と同様にして、積層ポリエステルフィルムを得た。
【0088】
【表2】

【0089】
(粘着離型層組成)
・フッ素系ポリマーA:
容量7リットルのセパラブルフラスコの内部を窒素置換した後、フッ化ビニリデン系重合体粒子として、フッ化ビニリデン系重合体(フッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレン/テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体 : 重量比(wt%) 65/25/10、平均粒径0.15μm)100部、メチルメタクリレート60部、2−エチルヘキシルアクリレート15部、ジアセトンアクリルアミド10部、イソブチルアクリレート10部、アクリル酸5部、乳化剤としてスチレンスルホン酸ナトリウム3.5部を前記セパラブルフラスコ内に入れて80℃昇温させた。その後、重合開始剤として2%過硫酸カリウム水溶液1.5部を添加し、85〜95℃で3時間重合した後、冷却して反応を停止させ、アンモニアを用いてpH8に調整した。さらにヒドラジン誘導体としてアジピン酸ジヒドラジド1.5部を添加して約1時間攪拌し、ガラス転移温度10℃のフッ化ビニリデン系共重合体とアクリル系重合体との複合重合体を得た。
・フッ素系ポリマーB:
フッ化アクリルエマルジョン(日本ペイント株式会社、商品名「FS−701E」、ガラス転移温度80℃)
・フッ素系ポリマーC:
フッ化アクリルエマルジョン(明成化学工業株式会社製、商品名「アサヒガードE061」、ガラス転移温度50℃)
・フッ素系ポリマーD:
CF(CFCHCHOCOCH=CH(nの平均=9)80.0g、およびアセトアセトキシエチルメタクリレート20.0gを原料として含むフッ素含有樹脂エマルジョン(ガラス転移温度−24℃)
【0090】
・アクリル系ポリマーA:
メチルメタクリレート160部、ブチルアクリレート40部、アクリレート1.0部、およびメタクリレート1.2部の混合液に2−エチルヘキシルアクリレートマクロモノマー50部と2,2‘−アゾビスイソブチロニトリル3部を溶解し、この混合液に対し、ジ−2−エチルヘキシルスルホコハク酸ナトリウム10部を乳化剤として、ホモミキサーにより脱イオン水90部中に乳化させ、プレエマルジョンを調製した。攪拌機、還流冷却機、窒素導入管、温度計、滴下漏斗を備えた反応容器に脱イオン水250部、プレエマルジョン1.5部を入れ、窒素バブリングさせながら、反応容器内温度を80℃に保ち、残りのプレエマルジョン346.5部と2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)ニ硫酸塩0.2部は滴下漏斗を使用して滴下し、4時間かけて重合させた。さらに2時間反応を継続、重合させてガラス転移温度−20℃のアクリル系ポリマーを得た。得られたアクリル系ポリマーを200メッシュのネットでろ過し、得られた重合体の平均粒子径は0.1μmであった。
・アクリル系ポリマーB : アクリルエマルジョン(東亜合成株式会社製、商品名「アロンA−106」、ガラス転移温度10℃)
・架橋剤 : オキサゾリン化合物(株式会社日本触媒製、商品名「エポクロスWS−700」)
・界面活性剤 : ポリオキシエチレン(n=7)ラウリルエーテル(三洋化成株式会社製 商品名「ナロアクティーN−70」)
【0091】
(帯電防止層組成)
・シリコーン成分 : エポキシ基含有シリコーン(GE東芝シリコーン株式会社製 商品名TSF4730)
・カチオンポリマー :
下記式(1)に示す構造が80モル%/メチルアクリレート15モル%/N−メチロールアクリルアミド5モル%からなる共重合体を用いた
【化1】

・架橋剤 : オキサゾリン化合物(株式会社日本触媒製、商品名「エポクロスWS−700」)
・界面活性剤 : ポリオキシエチレン(n=7)ラウリルエーテル(三洋化成株式会社製 商品名「ナロアクティーN−70」)
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明のポリエステルフィルムは、優れたハードコート加工性および剥離性を有し、しかも適切な幅で切断(スリット)した際、箔こぼれ現象が抑制されることから、従来の転写箔のように離型層を被転写物に適した塗工パターンで形成する必要がなく、転写箔全面に離型層を塗工することができることから、インモールド転写材用フィルムとして好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステルフィルムの少なくとも片面に粘着離型層を有し、該粘着離型層が(A)ガラス転移温度20℃以下のフッ素系ポリマー、(B)アクリル系ポリマーおよび(C)架橋剤を含有し、該粘着離型層に対するハードコート層の剥離力が0.2N/mm以上0.4N/mm以下であることを特徴とするインモールド転写材用粘着離型ポリエステルフィルム。
【請求項2】
前記(A)ガラス転移温度20℃以下のフッ素系ポリマーがフッ化ビニリデン系共重合体と水酸基含有アクリル重合体との複合重合体である請求項1に記載のインモールド転写材用粘着離型ポリエステルフィルム。
【請求項3】
前記(B)アクリル系ポリマーのガラス転移温度が−40℃以上20℃以下である請求項1または2記載のインモールド転写材用粘着離型ポリエステルフィルム。
【請求項4】
(A)ガラス転移温度20℃以下のフッ素系ポリマーおよび(B)アクリル系ポリマーの合計量を基準として(A)フッ素系ポリマーの含有量が5重量%以上90重量%以下であり、(B)アクリル系ポリマーの含有量が10重量%以上95重量%以下である請求項1〜3のいずれかに記載のインモールド転写材用粘着離型ポリエステルフィルム。
【請求項5】
該粘着離型層の表面自由エネルギーが30mN/m以上50mN/m以下である請求項1〜4のいずれかに記載のインモールド転写材用粘着離型ポリエステルフィルム。
【請求項6】
該粘着離型層がポリエステルフィルムの製膜工程内で塗布することにより形成されてなる請求項1〜5のいずれかに記載のインモールド転写材用粘着離型ポリエステルフィルム。
【請求項7】
ポリエステルフィルムの粘着離型層と反対側の面にさらに帯電防止離型層を有する請求項1〜6のいずれかに記載のインモールド転写材用粘着離型ポリエステルフィルム。

【公開番号】特開2012−11656(P2012−11656A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−149880(P2010−149880)
【出願日】平成22年6月30日(2010.6.30)
【出願人】(301020226)帝人デュポンフィルム株式会社 (517)
【Fターム(参考)】