説明

インモールド転写用フィルム

【課題】インモールド用転写箔作成過程から成形転写に至る間で優れた帯電防止性を有し、しかも帯電防止成分を含む塗布層(以下、帯電防止層と称することがある)の背面へ印刷する際の印刷はじきがなく、帯電防止層の透明性に優れ、転写箔の印刷層と帯電防止層の間にブロッキングの起きないインモールド用転写箔の基材フィルムとして有用なインモールド転写用フィルムを提供する。
【解決手段】ポリエステルフィルムの少なくとも一方の面に設けられた塗布層が帯電防止成分及び少なくとも2種のシリコーンを含有し、かかるシリコーン成分が(1)炭素数6以上の炭化水素基を有する非反応性シリコーンと(2)エポキシ基を含む有機基、カルボキシル基を含む有機基、アミノ基を含む有機基および加水分解によりシラノール基を生成する有機基からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む反応性シリコーンもしくはジメチルシロキサンとを少なくとも含有し、該塗布層中の全シリコーン成分の重量を基準として(1)炭素数6以上の炭化水素基を有する非反応性シリコーンの割合が50重量%以上90重量%以下であるインモールド転写用フィルムによって得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインモールド転写用フィルムに関し、詳しくは射出成形等において成形と同時に転写印刷するインモールド転写用の転写箔の支持フィルムとして有用なインモールド転写用フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、インモールド用転写箔として、ポリエステルフィルムをベースフィルムとし、そのうえに離型層(メジューム層)を設け、さらにこの離型層のうえに印刷層を塗工したものが用いられている(特許文献1)。
このインモールド用転写箔は、成形転写後に離型層面と印刷層面との間で剥がされ、分離される。すなわち、成形転写後に印刷層は成形品の表面に接着して製品として取出され、離型層は転写箔のベースフィルムのうえに設けられた状態で製品から取り除かれる。また、インモールド用転写箔に適したフィルムとして、離型層とベースフィルムとの接着力を高めるために両層間に接着層を設けることも検討されている。
【0003】
更に近年、インモールド転写を用いた加工に対し高い生産性が求められており、成型速度を向上させることが試みられている。一方、インモールド用転写箔を取り扱う際に帯電による転写箔同士の貼付きや転写箔表面へのゴミや埃付着が発生し、生産性を落とすことがあり、例えば特許文献2では、帯電防止層を有する転写材用ポリエステルフィルムが検討されている。また、特許文献3において、インモールド用転写箔作成過程から成形転写に至る間で優れた帯電防止性を有し、かつ帯電防止層と印刷層とのはりつきがなく、転写の際に離型層とベースフィルムの剥離のないインモールド転写用フィルムとして、ポリエステルフィルムの一方の面に易接着層を有し、他方の面に離型成分を含む帯電防止層を有するフィルムが開示されている。
また、帯電防止層において使用する離型剤として、特許文献3には反応性基を有するシリコーン離型成分が記載されている。このようなシリコーン離型成分を用いる場合、優れた離型効果が得られるものの、ロール状態などで反対面に移行することがあり、反対面に印刷を施す際にはじきによる印刷抜けが生じることがあった。
【0004】
一方、離型ポリエステルフィルムとして、従来より例えば硬化型シリコーン樹脂層を設けたフィルム(特許文献4、5など)、ポリジメチルシロキサンからなるシリコーン離型層を有するフィルム(特許文献6など)が用いられているが、インモールド用転写箔用途においては、帯電防止層とポリエステルベースフィルムの反対面側(背面)の印刷層とのはりつきを防止する目的で離型成分が帯電防止層に添加されるため、離型性に加えて帯電防止剤と離型成分との混ざりがよく透明性に優れること、離型成分が反対面に移行しにくいことも求められる。
このように、インモールド用転写箔の帯電防止層に用いられる離型成分に対し、帯電防止層と印刷層とのはりつき(ブロッキング)を防止し、帯電防止剤との相溶性が良好で透明性に優れ、さらに反対面に移行しにくいことが求められているのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−115295号公報
【特許文献2】特開2004−223800号公報
【特許文献3】特開2006−187951号公報
【特許文献4】特開平5−25303号公報
【特許文献5】特開2001−47580号公報
【特許文献6】国際公開WO2003/099556パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、かかる従来技術の問題点を解消し、インモールド用転写箔作成過程から成形転写に至る間で優れた帯電防止性を有し、しかも帯電防止成分を含む塗布層(以下、帯電防止層と称することがある)の背面へ印刷する際の印刷はじきがなく、帯電防止層の透明性に優れ、転写箔の印刷層と帯電防止層の間にブロッキングの起きない、インモールド用転写箔の基材フィルムとして有用なインモールド転写用フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、帯電防止層に用いる離型剤として、特定構造のシリコーン成分を少なくとも2種用いることにより、反対面への移行を抑制しつつ、帯電防止剤との相溶性も良好で帯電防止層の透明性に優れ、さらに転写箔同士のブロッキング性についても室温の環境下のみならず、80℃を超える高温下でも耐ブロッキング性に優れることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち本発明の目的は、ポリエステルフィルムの少なくとも一方の面に設けられた塗布層が帯電防止成分及び少なくとも2種のシリコーンを含有し、かかるシリコーン成分が(1)炭素数6以上の炭化水素基を有する非反応性シリコーンと(2)エポキシ基を含む有機基、カルボキシル基を含む有機基、アミノ基を含む有機基および加水分解によりシラノール基を生成する有機基からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む反応性シリコーンもしくはジメチルシロキサンとを少なくとも含有し、該塗布層中の全シリコーン成分の重量を基準として(1)炭素数6以上の炭化水素基を有する非反応性シリコーンの割合が50重量%以上90重量%以下であるインモールド転写用フィルムによって達成される。
【0009】
また本発明のインモールド転写用フィルムは、好ましい態様として、かかる(1)炭素数6以上の炭化水素基を有する非反応性シリコーン成分が下記式(I)で表わされる化合物であること、
【0010】
【化1】

(式(I)中、Rは炭素数1〜5の飽和または不飽和の1価炭化水素基、Ryは炭素数6〜20の飽和または不飽和の1価炭化水素基、RxはR又はRyをそれぞれ表わし、mは0〜500の整数、nは1〜500の整数を表わす。)
【0011】
前記(1)炭素数6以上の炭化水素基を有する非反応性シリコーンにおける炭素数6以上の炭化水素基の含有率が、ケイ素原子に直接結合した全有機基数を基準とした割合(%)で5%以上50%以下であること、前記(2)エポキシ基を含む有機基、カルボキシル基を含む有機基、アミノ基を含む有機基および加水分解によりシラノール基を生成する有機基からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む反応性シリコーンにおけるこれら反応性有機基の含有率が、ケイ素原子に直接結合した全有機基数を基準とした割合(%)で5%以上50%以下であること、該塗布層の重量を基準として、全シリコーン成分の含有量が1重量%以上50重量%以下、帯電防止成分の含有量が20重量%以上90重量%以下であり、さらに9重量%以上30重量%以下の範囲でその他の成分を含むこと、の少なくともいずれか1つを具備するものも包含する。
【発明の効果】
【0012】
本発明のフィルムは帯電防止性及び離型性に優れるため、インモールド用転写箔を取り扱う際に帯電やブロッキングによる転写箔同士の貼付きや転写箔表面へのゴミや埃付着の発生がなく、また離型成分に起因した印刷はじきがなく、帯電防止層の透明性に優れており、特に転写箔同士のブロッキング性については室温の環境下のみならず、80℃を超える高温下でも耐ブロッキング性に優れており、高速成形性および高品位な印刷性に適したインモールド転写用フィルムとして、その工業的価値は極めて高い。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
[ポリエステルフィルム]
本発明においてポリエステルフィルムを構成するポリエステルは、芳香族二塩基酸またはそのエステル形成性誘導体とジオールまたはそのエステル形成性誘導体とから合成される線状飽和ポリエステルである。かかるポリエステルの具体例として、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンイソフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ(1,4−シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート)、ポリエチレン−2,6−ナフタレートを例示することができる。
【0014】
ポリエステルは、これらポリエステルのうちの1つを主たる成分とする共重合体であってもよく、またはブレンドしたものであってもよい。ここで「主たる成分」とは、ポリエステルの繰り返し構造単位のモル数を基準として80モル%以上である。また主たる成分の割合は、85モル%以上であることが好ましく、90モル%以上であることがさらに好ましい。また、共重合成分またはブレンド成分はポリエステルの繰り返し構造単位のモル数を基準として20モル%以下であり、好ましくは15モル%以下、さらに好ましくは10モル%以下である。ポリエステルとしてポリエチレンテレフタレートが力学的物性と成形性のバランスがよいので特に好ましい。
【0015】
ポリエステルフィルムは、実質的に滑剤粒子を含有しないことが好ましい。ここでいう滑剤粒子は、触媒に起因する微粒子としてポリエステル重合の際に必然的に含有される微粒子以外の粒子であり、フィルムの表面を粗くする目的で添加される粒子を意味する。ポリエステルフィルム中に実質的に滑剤粒子を含有しないことにより、インモールド成型による印刷で、より高精彩な印刷を得やすい。滑剤粒子がポリエステルフィルム中に存在すると、二軸製膜後のフィルム表面粗さが粗くなり、高精彩な印刷ができないことがある。滑剤粒子の含有量は、具体的にはフィルム重量を基準として0.1重量%以下であることが好ましく、さらに好ましくは0.05重量%以下、特に好ましくは0.001重量%以下である。
【0016】
ポリエステルフィルムはインモールド用転写箔の印刷層を反対面から確認することがあるため、透明性が高い方が好ましい。なお、ポリエステルフィルムは、例えば着色剤、帯電防止剤、酸化防止剤を含有してもよい。
【0017】
ポリエステルフィルムは、例えば次の方法で製造することができる。すなわち、ポリエステルをフィルム状に溶融押出し、キャスティングドラムで冷却固化させて非晶未延伸フィルムとし、縦方向(以下、連続製膜方向、長手方向、MD方向と称することがある)および横方向(以下、幅方向、TD方向と称することがある)に延伸する。縦方向の延伸は例えば温度60〜130℃、好ましくは90〜125℃で、縦方向に例えば2.0〜4.0倍、好ましくは2.5〜3.5倍に延伸する。横方向の延伸は、例えば温度60〜130℃、好ましくは90〜125℃で、横方向に例えば2.0〜4.0倍、好ましくは3.0〜4.0倍に延伸する。二軸延伸後の面積倍率は13以下とすることが好ましい。
【0018】
なお、フィルムの延伸後には熱固定処理を行なうことが好ましい。熱固定処理は、最終延伸温度より高く融点以下の温度内で1〜30秒の時間内行なうことが好ましい。例えばポリエチレンテレフタレートフィルムでは150〜250℃の温度、2〜30秒の時間の範囲で選択して熱固定することが好ましい。その際、20%以内の制限収縮もしくは伸長、または定長下で行ない、また2段以上で行なってもよい。
【0019】
ポリエステルフィルムの表面の中心線表面粗さは、好ましくは1〜50nmである。ポリエステルフィルムの表面の中心線表面粗さをこの範囲とすることにより、塗布層の表面の中心線平均表面粗さが1〜40nmであるインモールド転写用フィルムを得ることができる。
ポリエステルフィルムの厚みは、インモールド転写として使用する場合にハンドリング性、成形性、透明性の点から必要な強度を得るために、好ましくは12〜100μm、さらに好ましくは25〜75μmである。
【0020】
[塗布層]
本発明のフィルムは、ポリエステルフィルムの少なくとも一方の面に帯電防止成分及び少なくとも2種のシリコーンを含有する塗布層(帯電防止層)が設けられており、かかるシリコーン成分が(1)炭素数6以上の炭化水素基を有する非反応性シリコーンと(2)エポキシ基を含む有機基、カルボキシル基を含む有機基、アミノ基を含む有機基および加水分解によりシラノール基を生成する有機基からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む反応性シリコーンもしくはジメチルシロキサンとを少なくとも含有し、該塗布層中の全シリコーン成分の重量を基準として(1)炭素数6以上の炭化水素基を有する非反応性シリコーンの割合が50重量%以上90重量%以下であることを要する。かかる層を有することにより、インモールド用転写箔を取り扱う際に帯電やブロッキングによる転写箔同士の貼付きや転写箔表面へのゴミや埃付着の発生がなく、また離型成分に起因した印刷はじきがなく、帯電防止層の透明性に優れており、特に転写箔同士のブロッキング性については室温の環境下のみならず、80℃を超える高温下でも耐ブロッキング性に優れる。
【0021】
(シリコーン成分(1))
本発明の帯電防止層に用いるシリコーン成分のうち、その少なくとも1種は炭素数6以上の炭化水素基を有する非反応性シリコーンである。また、該帯電防止層中の全シリコーン成分の重量を基準として(1)炭素数6以上の炭化水素基を有する非反応性シリコーンの割合は50重量%以上90重量%以下であり、好ましくは55重量%以上80重量%以下、さらに好ましくは60重量%以上80重量%以下である。
【0022】
かかる非反応性シリコーンを所定量用いることにより、印刷する際の印刷はじきが解消される。そのメカニズムは明らかではないが、帯電防止層中の帯電防止剤との相溶性がよくなり、帯電防止層表面へのシリコーン成分の移行が抑制されることが考えられる。また、シリコーン成分が帯電防止層表面に移行し、転写箔背面(反対面)への転写が発生した場合であっても、炭素数6以上の炭化水素基を含むことにより、印刷成分との親和性が高く印刷はじきが抑制され、印刷層の成型物への転写不具合が起こりにくくなることが考えられる。さらにシリコーン成分(1)を用いることで帯電防止層中の帯電防止剤との相溶性が向上し、帯電防止層の透明性が良好になる効果も奏する。
【0023】
一方、シリコーン成分(1)の含有量が下限値に満たない場合、帯電防止剤とシリコーン成分全体との相溶性が十分でなく、帯電防止層の表面へのシリコーン成分の移行が生じやすくなり、また転写箔の反対面に転写しやすくなる。また、シリコーン成分(1)に代えて印刷成分との親和性が十分でないシリコーン成分量が増えた場合は、印刷はじきの発生につながる。一方、シリコーン成分(1)の含有量が上限値を超える場合、転写箔同士のブロッキング、特に80℃を超える高温下でブロッキングが生じやすい。
【0024】
シリコーン成分(1)として、炭素数6以上のアルキル変性シリコーン、炭素数6以上のアラルキル変性シリコーン、炭素数6以上のアルキルアラルキル共変性シリコーン、アリール変性シリコーンが例示される。
かかるシリコーン成分(1)として、下記式(I)で表わされる化合物が例示される。
【0025】
【化2】

(式(I)中、Rは炭素数1〜5の飽和または不飽和の1価炭化水素基、Ryは炭素数6〜20の飽和または不飽和の1価炭化水素基、RxはR又はRyをそれぞれ表わし、mは0〜500の整数、nは1〜500の整数を表わす。)
【0026】
上式中、Rは同一もしくは異種の炭素数1〜5の飽和または不飽和の1価炭化水素基であり、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、などの飽和炭化水素基、シクロペンチル基などの飽和脂環式炭化水素基が例示され、特にメチル基が好ましい。
【0027】
また、Ryは同一もしくは異種の炭素数6〜20の飽和または不飽和の1価炭化水素基であり、例えばアルキル基が挙げられ、具体的には、へキシル基、へプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、エイコシル基が例示され、特にドデシル基、テトラデシル基が好ましい。また、アルキル基以外のRyとしてアラルキル基が挙げられ、具体的には、ベンジル基、4−メチルベンジル基、p−メトキシベンジル基、ジフェニルメチル基、2−フェニルエチル基、2−フェニルプロピル基、3−フェニルプロピル基が例示され、特に2−フェニルプロピル基が好ましい。またRyの他の例としてアリール基が挙げられ、特にフェニル基が好ましい。
これらの中でも、Ryの炭素数6〜20の炭化水素基として、帯電防止剤との相溶性がより良好なフェニル基が最も好ましく用いることができる。
【0028】
シリコーン成分(1)における炭素数6以上の炭化水素基の含有率は、ケイ素原子に結合した全有機基数を基準として炭素数6以上の炭化水素基数の割合(%)で定義され、炭素数6以上の炭化水素基の含有率が5%以上50%以下であることが好ましい。炭素数6以上の炭化水素基の含有率は、更に好ましくは10%以上40%以下である。炭素数6以上の炭化水素基の含有率が下限値に満たないと、シリコーン成分(1)による印刷はじきの抑制効果や帯電防止剤との相溶化効果が生じないことがある。一方、炭素数6以上の炭化水素基の含有率が上限値を超えると帯電防止剤との相溶性が低下し、透明性が損なわれるため塗布斑が目立ち易くなることがある。
シリコーン成分(1)は直鎖状であることが好ましいが、本発明の目的を損なわない範囲で、一部に網目構成因子であるRSiO3/2を含む網目構造を部分的に有していてもよい。
【0029】
(シリコーン成分(2))
本発明の帯電防止層に用いるシリコーン成分のうち、シリコーン成分(1)に加え、さらにその他のシリコーン成分として(2)エポキシ基を含む有機基、カルボキシル基を含む有機基、アミノ基を含む有機基および加水分解によりシラノール基を生成する有機基からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む反応性シリコーンもしくはジメチルシロキサンを含有することを要する。シリコーン成分(1)を単独で用いた場合、印刷を施した転写箔がロールの状態で80℃を超える高温下で保管される場合に印刷層と帯電防止層とがブロッキングしやすく貼り付きが生じるため、シリコーン成分(1)に加えてさらにシリコーン成分(2)を所定量併用することにより、印刷はじき、塗布斑、特に80℃を超える高温下での転写箔同士のブロッキングについても解消することができる。
【0030】
シリコーン成分(2)としては、次のものが例示される。
反応性シリコーンのうち、エポキシ基を含む有機基としては、γ−グリシドキシプロピル基、β−グリシドキシエチル基、γ−グリシドキシ−β−メチル−プロピル基といったグリシドキシアルキル基、2−グリシドキシカルボニル−エチル基、2−グリシドキシカルボニル−プロピル基といったグリドキシカルボニルアルキル基を例示することができる。
【0031】
反応性シリコーンのうち、アミノ基を含む有機基としては、3−アミノプロピル基、3−アミノ−2−メチル−プロピル基、2−アミノエチル基といった1級アミノアルキル基、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピル基、N−(2−アミノエチル)−2−アミノエチル基といった1級および2級アミノアルキル基を有する有機基が挙げられる。
【0032】
反応性シリコーンのうち、加水分解によりシラノール基を生成する有機基としては、メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基、2−エチルへキシロキシ基といったアルコキシ基、メトキシ−β−エトキシ基、エトキシ−β−エトキシ基、ブトキシ−β−エトキシ基といったアルコキシ−β−エトキシ基、アセトキシ基、プロポキシ基等のアシロキシ基、メチルアミノ基、エチルアミノ基、ブチルアミノ基といったN−アルキルアミノ基、イミダゾール基、ピロール基といった窒素を含有する複素環基を例示することができる。
【0033】
また、ジメチルシロキサンとして25℃における粘度が100〜100000センチストークスの範囲であるポリジメチルシロキサンが例示される。粘度が100センチストークスよりも低いと離型性が十分に発現しないことがある。一方、粘度が100000センチストークスよりも高くなると粘度が高く、かつ分子量も大きくなるため、帯電防止剤との相溶性が低下することがある。
【0034】
エポキシ基を含む有機基、カルボキシル基を含む有機基、アミノ基を含む有機基および加水分解によりシラノール基を生成する有機基からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む反応性シリコーンにおいて、これら反応性有機基はケイ素原子に直接結合しており、これら反応性有機基の含有率はケイ素原子に直接結合した全有機基数を基準とした割合(%)で定義される。かかる反応性有機基の含有率は5%以上50%以下であることが好ましく、さらに好ましくは10%以上40%以下である。反応性有機基の含有率が下限値に満たないとシリコーン成分(2)による耐ブロッキング効果が十分に発現しないことがある。一方、反応性有機基の含有率が上限値を超えると塗液のポットライフが短くなったり、シリコーン成分同士が寄り集まりやすく、帯電防止剤との相溶性が低下し、帯電防止層の塗布斑が目立ち易くなることがある。
これらシリコーン成分(2)のうち、印刷層との耐ブロッキング性の高いものとして、エポキシ基を含む有機基を含むシリコーン成分もしくはジメチルシロキサンが特に好ましい。
【0035】
(シリコーン成分含有量)
塗布層(帯電防止層)中における全シリコーン成分の含有量は、該塗布層の重量を基準として1重量%以上50重量%以下の範囲で含有されることが好ましい。ここで全シリコーン成分とはシリコーン成分(1)とシリコーン成分(2)を合計したものである。
該シリコーン成分の含有量の下限値は10重量%であることがさらに好ましく、20重量%であることが特に好ましい。また該シリコーン成分の含有量の好ましい上限値は40重量%であることが好ましく、さらには30重量%であることが好ましい。全シリコーン成分の含有量が下限値に満たないと印刷層とのブロッキングが発生することがあり、一方、上限値を超えると塗膜均一性が低下して透明性が損なわれたり、印刷はじきが発生することがある。
【0036】
(帯電防止成分)
本発明の帯電防止層は、帯電防止成分としてカチオンポリマーを含有する。カチオンポリマーとして、下記式(II)で表される成分(a)、非反応性成分(b)、および反応性成分(c)等の共重合成分で構成されるポリマーが例示される。
【0037】
【化3】

(上式(II)中、R1およびR2はそれぞれHまたはCHであり、R3は炭素数2〜10のアルキレン基であり、R4およびR5はそれぞれ炭素数1〜5の飽和炭化水素基であり、R6はHまたは炭素数2〜10のヒドロキシアルキレン基であり、Y-はハロゲンイオン、ナイトレートイオン、サルフェートイオン、アルキルサルフェートイオン、スルホネートイオンまたはアルキルスルホネートイオンである)
【0038】
また、R3の炭素数2〜10のアルキレン基は、好ましくはエチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基である。またR6の炭素数2〜10のヒドロキシアルキレン基は、好ましくはヒドロキシエチレン基、ヒドロキシトリメチレン基、ヒドロキシテトラメチレン基である。
【0039】
非反応性成分(b)として、アルキルアクリレート、アルキルメタクリレート、スチレン、αーメチルスチレン等をモノマー成分とする共重合成分が例示される。またアルキルアクリレート、アルキルメタクリレートは、それぞれアルキル基としてメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、2ーエチルヘキシル基、シクロヘキシル基が例示される。
【0040】
カチオンポリマーを構成する反応性成分(c)として、以下の反応基を有するモノマー成分から得られる共重合成分が例示される。反応基を有するモノマー成分として、2ーヒドロキシエチルアクリレート、2ーヒドロキシエチルメタクリレート、2ーヒドロキシプロピルアクリレート、2ーヒドロキシプロピルメタクリレート等のヒドロキシ含有モノマー;グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、アリルグリシジルエーテル等のエポキシ基含有モノマー;アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマール酸、クロトン酸、スチレンスルホン酸及びその塩(ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩、第三級アミン塩等)等のカルボキシル基またはその塩を含有するモノマー;アクリルアミド、メタクリルアミド、N−アルキルアクリルアミド、N−アルキルメタクリルアミド、N、N−ジアルキルアクリルアミド、N、N−ジアルキルメタクリレート(アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、2−エチルヘキシル基、シクロヘキシル基等)、Nーアルコキシアクリルアミド、N−アルコキシメタクリルアミド、N、N−ジアルコキシアクリルアミド、N、N−ジアルコキシメタクリルアミド(アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基等)、アクリロイルモルホリン、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド、N−フェニルアクリルアミド、N−フェニルメタクリルアミド等のアミド基を含有するモノマー;無水マレイン酸、無水イタコン酸等の酸無水物のモノマー;ビニルイソシアネート、アリルイソシアネート等のイソシアネート含有モノマーを例示することができる。
【0041】
本発明のカチオンポリマーを構成する各共重合成分の構成比率は、カチオンポリマーの全繰り返し単位を基準として以下の関係を満たすことが好ましい。
30モル%≦a成分<89モル%
10モル%≦b成分<100−(a+c)モル%
1モル%≦c成分≦40モル%
【0042】
本発明の帯電防止成分を構成する各共重合成分が上述の成分であり、かかる比率で用いることにより、特定の帯電防止性能を有するとともに、塗膜の造膜性、凝集力や塗膜の耐水性、耐薬品も優れる帯電防止離型層を得ることができる。
具体的には、共重合成分(a)が30モル%未満であると帯電防止性が1×1013Ω/□よりも高くなることがある。一方、共重合成分(a)が89モル%以上であると帯電防止層の耐水性が悪くなり水洗浄後の帯電防止性が低下することがある。
また非反応性の共重合成分(b)が10モル%未満であるとポリエステルフィルムへの密着性、塗膜の凝集性が低くなることがある。一方、非反応性の共重合成分(b)が上限値を超えると帯電防止性が低下することがある。
反応性の共重合成分(c)が1モル%未満であると耐水帯電防止性が低くなり、50℃温水に10時間浸漬した後の表面固有抵抗変化率が100を越えてしまうことがある。一方、反応性の共重合成分(c)が40モル%を越えると架橋点が多くなり、帯電防止層を塗布する際の造膜性が低下することがある。
【0043】
帯電防止成分の含有量は、帯電防止層の重量を基準として20重量%以上90重量%以下であることが好ましい。また該帯電防止成分は、30重量%以上80重量%以下の範囲で含有することがさらに好ましく、40重量%以上70重量%以下の範囲で含有することが特に好ましい。該帯電防止成分の含有量が下限値に満たないと十分な帯電防止性能が発現しないことがあり、一方、該カチオンポリマーの含有量が上限値を超えるとシリコーン離型成分の含有量が相対的に減少し、十分な離型性が発現しないことがある。
【0044】
(界面活性剤)
シリコーン成分は、塗工時の取扱い易さ、作業環境から水分散液あるいは乳化液の形態で使用するのが好ましい。良好な水分散、乳化液の形態を得るには、界面活性剤の使用が好ましく、塗液の他の成分との分散安定性のため、ノニオン系界面活性剤が特に好ましい。
界面活性剤を含む場合、その含有量は帯電防止層の重量を基準として5重量%以上26重量%以下の範囲であることが好ましく、より好ましくは5重量%以上20重量%以下、さらに好ましくは5重量%以上15重量%以下である。
【0045】
(架橋剤)
また、帯電防止層には架橋剤を添加させることが塗膜の凝集力向上や加熱時の析出オリゴマー抑制させるために好ましい。架橋剤としては、エポキシ化合物、オキサゾリン化合物、メラミン化合物、イソシアネート化合物を例示することができ、その他一般的にカップリング剤と称される化合物を用いることもできる。取り扱いやすさや塗液のポットライフが長いことからエポキシ化合物、オキサゾリン化合物を用いることが好ましく、カップリング剤を用いることも好ましい。
【0046】
さらに具体的には、以下のように例示することができる。
エポキシ化合物は、ポリエポキシ化合物、ジエポキシ化合物、モノエポキシ化合物などが挙げられ、さらに詳しくはそれらのグリシジルエーテル化合物、グリシジルアミン化合物が例示される。
オキサゾリン化合物としては、オキサゾリン基を含有する重合体が好ましい。付加重合性オキサゾリン基含有モノマー単独もしくは他のモノマーとの重合によって作成できる。付加重合性オキサゾリン基含有モノマーとして、2−ビニル−2−オキサゾリン、2−ビニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−ビニル−5−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−5−エチル−2−オキサゾリン等を挙げることができ、これらの1種または2種以上の混合物を使用することができる。これらの中でも2−イソプロペニル−2−オキサゾリンが工業的にも入手しやすく好適である。他のモノマーについては、付加重合性オキサゾリン基含有モノマーと共重合可能なモノマーであれば特に制限されない。
【0047】
メラミン化合物の好ましい例として、メラミンとホルムアルデヒドを縮合して得られるメチロールメラミン誘導体に低級アルコールとしてメチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール等を反応させてエーテル化した化合物及びそれらの混合物が挙げられる。メチロールメラミン誘導体としては、例えば、モノメチロールメラミン、ジメチロールメラミン、トリメチロールメラミン、テトラメチロールメラミン、ペンタメチロールメラミン、ヘキサメチロールメラミンが挙げられる。
【0048】
イソシアネート化合物として、例えば、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタン−4,4´−ジイソシアネート、メタキシリレンジイソシアネート、ヘキサメチレン−1,6−ジイソシアネート、1,6−ジイソシアネートヘキサン、トリレンジイソシアネートとヘキサントリオールの付加物、トリレンジイソシアネートとトリメチロールプロパンの付加物、ポリオール変性ジフェニルメタン−4、4´−ジイソシアネート、カルボジイミド変性ジフェニルメタン−4,4´−ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、3,3´−ビトリレン−4,4´ジイソシアネート、3,3´ジメチルジフェニルメタン−4,4´−ジイソシアネート、メタフェニレンジイソシアネートが挙げられる。
【0049】
カップリング剤として、例えば一般式YRSiXで示されるシランカップリング剤が挙げられる。ここで、Yはビニル基、エポキシ基、アミノ基、メルカプト基といった有機官能基、Rはメチレン、エチレン、プロピレン基といったアルキレン基、Xはメトキシ基、エトキシ基といった加水分解基及びアルキル基である。Y部分はエポキシ基であることが特に好ましい。中でも好ましいシランカップリング剤は、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシランである。
またシランカップリング剤以外のカップリング剤として、ジルコニウム、チタン、アルミニウムといった金属を含む有機金属化合物を用いることができる。
【0050】
これら架橋剤を用いる場合、架橋剤の含有量は帯電防止層の重量を基準として4重量%以上25重量%以下であることが好ましい。架橋剤の含有量の上限値は、さらに好ましくは20重量%であり、特に好ましくは15重量%である。また架橋剤の含有量の下限値は、さらに好ましくは5重量%である。架橋剤の含有量が下限値に満たないと帯電防止層の凝集力が低くなり、耐久性が低下することがある。一方、架橋剤の含有量が上限値を超えると帯電防止層の造膜性が悪くなり、塗布外観が低下することがある。
【0051】
(帯電防止層の厚み)
帯電防止層は、塗布によりポリエステルフィルムの少なくとも一方の面に設けられることが好ましい。帯電防止層の厚みは、乾燥後の厚みとして、好ましくは0.01〜0.1μm、さらに好ましくは0.01〜0.06μmである。帯電防止層の厚みが下限値に満たないと帯電防止性が十分に発現しないことがあり、また上限値を超えると転写箔同士のブロッキングを起こし易くなることがある。
【0052】
[易接着層]
本発明において、離型層(メジューム層)との接着性を高める目的で、ポリエステルフィルムの帯電防止層とは反対側に易接着層が設けられることが好ましい。易接着層は塗布により設けられた易接着性の塗布層であることが好ましい。
【0053】
(共重合ポリエステル)
易接着層には、ポリエステルフィルムおよび易接着層上にさらに積層する離型層(メジューム層)との高い接着性を得るために、高分子バインダーとして共重合ポリエステルを使用することが好ましい。
【0054】
共重合ポリエステルとしては、例えば以下の多塩基酸成分とジオール成分から得られるポリエステルを用いることができる。
すなわち、多価塩基成分としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、無水フタル酸、2、6−ナフタレンジカルボン酸、1、4−シクロヘキサンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、ダイマー酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸を例示することができる。高分子バインダーを構成するポリエステル樹脂としては、2種以上のジカルボン酸成分を用いた共重合ポリエステルを用いることが好ましい。
ポリエステルには、若干量であればマレイン酸、イタコン酸等の不飽和多塩基酸成分、あるいはp−ヒドロキシ安息香酸等のヒドロキシカルボン酸成分が含まれていてもよい。
ポリエステルのジオール成分としては、エチレングリコール、1、4−ブタンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1、6−ヘキサンジオール、1、4−シクロヘキサンジメタノール、キシレングリコール、ジメチロールプロパン等や、ポリ(エチレンオキシド)グリコール、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコールを例示することができる。
【0055】
共重合ポリエステルは、好ましくはガラス転移点(Tg)が40〜85℃、さらに好ましくは45〜80℃の特性を有する。共重合ポリエステルのガラス転移点が下限値に満たないと得られるフィルムは耐熱性、耐ブロッキング性が低下することがあり、一方、共重合ポリエステルのガラス転移点が上限値を超えると易接着性が低下する場合がある。
【0056】
共重合ポリエステルは、ポリエステルフィルム上に塗布して被膜層を形成させるために、水分散液あるいは乳化液の形態での使用が好ましい。
共重合ポリエステルの含有量は、易接着層の重量を基準として55重量%以上100重量%以下であることが好ましく、より好ましくは70重量%以上95重量%以下、さらに好ましく80重量%以上95重量%以下、特に好ましくは85重量%以上90重量%以下である。
【0057】
塗膜層を形成するために、前記共重合ポリエステル以外に、他の樹脂、着色剤、帯電防止剤、触媒、安定剤、界面活性剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤などを必要に応じて含有してもよい。
【0058】
(粒子)
易接着性の塗布層中には粒子が含有されることが好ましい。易接着層に用いる粒子として、好ましくは平均粒子径20〜100nm、さらに好ましくは40〜80nmのものを用いるとよい。平均粒子径が下限値に満たないものであると、フィルムを巻き取った時のブロッキング性やフィルムの巻取り性が劣ることがあり、一方、上限値を超えると粒子の欠落や塗布層の透明性が悪化することがある。
粒子を添加する場合、好ましくは易接着層の重量を基準として30重量%以下の割合で用いる。30重量%を超えると易接着層の強度が低下し、後の工程で塗膜削れなどのトラブルを生じることがある。
【0059】
粒子としては、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、カオリン、タルク、酸化チタン、酸化亜鉛、硫酸バリウム、酸化ジルコニウム、酸化錫、三酸化アンチモン、カーボンブラック、二硫化モリブデンといった無機粒子、アクリル系架橋重合体、スチレン系架橋重合体、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、フェノール樹脂、ナイロン樹脂といった耐熱性樹脂からなる有機粒子を例示することができる。これらの中でも、取り扱い性や塗液中での安定性、塗膜中の分散性の点で、酸化ケイ素、架橋ポリスチレン樹脂粒子、架橋アクリル樹脂粒子が好ましい。
【0060】
(界面活性剤)
易接着層の塗設に際し、さらに界面活性剤を用いてもよい。界面活性剤は、ポリエステルフィルムへの水性塗布液の濡れ性を高めたり、塗液の安定性を向上させるために用いられ、例えば、ポリオキシエチレン−脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、脂肪酸金属石鹸、アルキル硫酸塩、アルキルスルホン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩などのアニオン型、ノニオン型界面活性剤を挙げることができる。界面活性剤は、塗膜を形成する組成物中に15重量%以下の範囲で含まれていることが好ましく、5〜10重量%であることがさらに好ましい。
【0061】
(易接着層の厚み)
易接着層の厚みは、乾燥後の最終厚みとして、好ましくは0.05〜0.3μm、さらに好ましくは0.07〜0.2μmである。塗膜の厚さが下限値に満たないと接着性が十分に得られないことがあり、また上限値を超えるとブロッキングを起こし易くなることがある。
【0062】
[帯電防止離型層および易接着層の形成方法]
帯電防止層および易接着層の塗設に用いられる上記組成物は、ポリエステルフィルム上に塗布層を形成しやすいよう、水溶液、水分散液あるいは乳化液などの水性塗液(以下、水性塗布液と称することがある)の形態で使用されることが好ましい。
水性塗布液の固形分濃度は、該塗布液の重量を基準として通常20重量%以下、好ましくは1〜10重量%である。固形分濃度が下限値に満たないと、ポリエステルフィルムへの塗れ性が不足することがある。また固形分濃度が上限値を超えると塗液の安定性や塗布層の外観が低下することがある。
【0063】
帯電防止離型層、易接着層の形成は、任意の段階で実施することができるが、ポリエステルフィルムの製造過程で実施するのが好ましく、さらには配向結晶化が完了する前のポリエステルフィルムに塗布するのが好ましい。
ここで、結晶配向が完了する前のポリエステルフィルムとは、未延伸フィルム、未延伸フィルムを縦方向または横方向の何れか一方に配向させた一軸配向フィルム、さらには縦方向および横方向の二方向に低倍率延伸配向させたもの(最終的に縦方向また横方向に再延伸して配向結晶化を完了させる前の二軸延伸フィルム)などを含むものである。なかでも、未延伸フィルムまたは一方向に配向させた一軸延伸フィルムに、上記組成物の水性塗液を塗布し、そのまま縦延伸および/または横延伸を行い、さらに熱固定処理を施すことが好ましい。
【0064】
水性塗布液をフィルムに塗布する際には、塗布性を向上させるための予備処理としてフィルム表面にコロナ表面処理、火炎処理、プラズマ処理などの物理処理を施すか、あるいは組成物と共に前述のような界面活性剤を併用することが好ましい。
塗布方法としては、公知の任意の塗工法が適用できる。例えばロールコート法、グラビアコート法、ロールブラッシュ法、スプレーコート法、エアーナイフコート法、含浸法、カーテンコート法などを単独または組合せて用いることができる。
【0065】
[インモールド転写用フィルム]
本発明のフィルムは、ポリエステルフィルムの少なくとも一方の面に帯電防止層を有し、かかる帯電防止離型層が離型成分として上述のシリコーン成分(1)とシリコーン成分(2)とを所定量併用することにより、インモールド転写箔フィルムとして用いた際、インモールド用転写箔の取り扱い時の帯電やブロッキングによる転写箔同士の貼付き、転写箔表面へのゴミや埃付着の発生がなく、また離型成分に起因した印刷はじきがなく、帯電防止層の透明性に優れている。特に転写箔同士のブロッキング性については室温の環境下のみならず、80℃を超える高温下でも耐ブロッキング性に優れている。かかる特性を備えることにより、インモールド転写に際し、高速成形性および高品位な印刷性に適したインモールド転写用フィルムとして好適に用いることができる。また、帯電防止層の塗布斑の目立ちにくいため、印刷工程で転写箔の外観検査を行う際に外観欠点と誤認されることなく、高い生産性を維持することができる。
【0066】
本発明のインモールド転写用フィルムは、帯電防止離型層と反対面に易接着層を有することが好ましく、易接着層上にさらに離型層(メジューム層)および印刷層を形成した態様で用いることができる。インモールド成形を行う際は、印刷層が成形品の表面と接するよう金型に配置し、通常用いられる方法によってインモールド成形を行い、印刷層を成形転写した後、印刷層は成形品表面に接着して製品として取り出され、その他の部分は製品から取り除かれる形で使用される。
【実施例】
【0067】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。なお、各種物性は下記の方法により評価した。またwt%は重量%を表わす。
【0068】
(1)帯電防止層の密着性
フィルムの帯電防止層の表面を指で10cm長を10往復擦りつけ、塗膜の欠落状態を観察し、帯電防止層の密着性を下記の基準で評価した。
A+:変化無し
A:若干表面に変化有り、擦過場所に欠落は生じていない
B:擦過面積の半分までが欠落
C:擦過面積の50%を超えて欠落
この評価で、Aまでが実用性能を満足する。
【0069】
(2)帯電防止性
サンプルフィルムの帯電防止層表面について、タケダ理研社製・固有抵抗測定器を使用し、測定温度23℃、測定湿度60%の条件で、印加電圧100Vで1分後の表面固有抵抗値(Ω/□)を測定する。なお、表面固有抵抗値は1×1013[Ω/□]以下が好ましく、1×1012以下がさらに好ましい。
さらにサンプルフィルムを50℃の純水に10時間浸漬し、処理後の帯電防止層表面の表面固有抵抗値を上記同様に測定して、未処理の表面固有抵抗値と50℃の純水に10時間浸漬処理後の表面固有抵抗値の変化率を求める。
なお、その変化率は100以下が好ましく、さらに好ましくは10以下である。ここで表面固有抵抗値の変化率とは、50℃の純水に10時間浸漬処理後の帯電防止層表面の表面固有抵抗値を未処理の帯電防止層表面の表面固有抵抗値で割った値である。
【0070】
(3)耐ブロッキング性
サンプルフィルムの帯電防止層面とインモールド用転写箔の印刷面との耐ブロッキング性を評価するため、スタンピングホイルの顔料箔(COLORIT)Pタイプ(クルツ社製)を使用して、帯電防止面と印刷面を合わせ、
[条件1] 温度60℃、圧力1kg/cmまたは
[条件2] 温度90℃、圧力1kg/cm
の条件で圧力を加えて24時間その環境に保持した後、帯電防止層面とラベルのシール面(印刷面)のブロッキング状態を観察し、それぞれの条件について下記の基準で評価した。
A+:印刷層の剥離面積0%、印刷層表面に変化無し
A:印刷層の剥離面積0%、印刷層表面が白化
B:印刷層の剥離面積1%以上30%以下
C:全体的に剥離面積30%超100%以下
この評価で、Aまでが実用性能を満足する。
【0071】
(4)背面転写性
サンプルフィルムを易接着層面と帯電防止層面を重ね合わせ、温度50℃、圧力50kg/cm、時間24時間の処理を実施した後、はがした易接着層表面について38〜40mN/mの濡れ張力を有するマジックを用いて濡れ状態を観察し、下記の基準で評価した。
A+:均一に塗れる
A:エッジのみ若干はじく(1%未満のはじき)
B:1%以上10%未満はじく
C:10%以上はじく
この評価で、Aまでが実用性能を満足する。
【0072】
(5)帯電防止層のヘーズ
JIS K7136に準じ、日本電色工業社製のヘーズ測定器(NDH−2000)を使用して、下記式(1)より帯電防止層のヘーズを測定した。式中、フィルムヘーズとは、ポリエステルフィルム上に帯電防止層が形成されたフィルム全体のヘーズ値であり、帯電防止層未塗工フィルムヘーズとは、帯電防止層を塗工していない状態でのフィルムヘーズを指す。
帯電防止層のヘーズ=フィルムヘーズ−帯電防止層未塗工フィルムヘーズ ・・・(1)
A+:0.1%未満
A:0.1%以上0.4%未満
B:0.4%以上0.8%未満
C:0.8%以上
この評価で、Aまでが実用性能を満足する。
【0073】
(6)塗布層厚み
包埋樹脂でフィルムを固定し、断面をミクロトームで切断して2%オスミウム酸で60℃、2時間染色し、透過型電子顕微鏡(日本電子製、JEM2010)を用い、塗布層の厚みを測定した。
【0074】
[実施例1〜6、比較例1〜9]
平均粒子径が2μmの酸化ケイ素の粒子を0.01wt%を含む溶融ポリエチレンテレフタレート([η]=0.64dl/g、Tg=78℃)をダイより押出し、常法により冷却ドラムで冷却して未延伸フィルムとし、次いで縦方向に3.4倍に延伸した後、表1に示す塗布層構成成分からなる易接着層用塗布液(8wt%塗布液)をフィルムの表面に、帯電防止離型層用塗布液(4wt%塗布液)をフィルムの裏面にそれぞれロールコーターで均一に塗布した。
次いで、この塗布フィルムを引き続いて105℃で乾燥し、140℃で横方向に3.5倍に延伸し、さらに220℃で熱固定して表1に示す二軸延伸ポリエステルフィルム(厚さ50μm)を得た。
【0075】
[比較例10]
帯電防止層を設けなかった以外は実施例1と同様にしてポリエステルフィルムを製造した。
【0076】
【表1】

【0077】
(帯電防止層の組成)
シリコーン1:フェニル基変性シリコーン(東レ・ダウコーニング株式会社製 商品名「SM8627EX」)
シリコーン2:炭素数6以上の長鎖アルキル基変性シリコーン(信越化学工業株式会社製 商品名「X−52−8046」)
シリコーン3:アラルキル基変性シリコーン(東レ・ダウコーニング株式会社製 商品名「TSM6362」)
シリコーン4:エポキシ基変性シリコーン(東レ・ダウコーニング株式会社製 商品名「TSF4700」)
シリコーン5:アミノ基変性シリコーン(東レ・ダウコーニング株式会社製 商品名「FZ−4640」)
シリコーン6:ジメチルシロキサン(旭化成ワッカーシリコーン株式会社 商品名「NP2406」
カチオンポリマー:下記式(III)に示す構造が85モル%/メチルアクリレート10モル%/N−メチロールアクリルアミド5モル%からなる共重合体である。
【0078】
【化4】

(上式(III)中、R、RはそれぞれHであり、Rは炭素数が3のアルキレン基であり、R、Rはそれぞれ炭素数が1の飽和炭化水素基であり、Rは炭素数が3のヒドロキシアルキレン基であり、Yはメチルスルホネートイオンである)
【0079】
架橋剤:オキサゾリン化合物(株式会社日本触媒製 商品名「エポクロスWS−700」)
界面活性剤:ポリオキシエチレン(n=7)ラウリルエーテル(三洋化成株式会社製 商品名「ナロアクティーN−70」)
【0080】
(易接着層の組成)
共重合ポリエステル: 酸成分がテレフタル酸50モル%/イソフタル酸45モル%/5−ナトリウムスルホイソフタル酸5モル%、グリコール成分がエチレングリコール90モル%/ジエチレングリコール10モル%で構成されている(Tg=40℃)。ポリエステルは、下記の通り製造した。すなわち、テレフタル酸ジメチル30部、イソフタル酸ジメチル27部、5−ナトリウムスルホイソフタル酸ジメチル5部、エチレングリコール36部、ジエチレングリコール3部を反応器に仕込み、これにテトラブトキシチタン0.05部を添加して窒素雰囲気下で温度を230℃にコントロールして加熱し、生成するメタノールを留去させてエステル交換反応を行った。次いで反応系の温度を徐々に255℃まで上昇させ系内を1mmHgの減圧にして重縮合反応を行い、共重合ポリエステルを得た。
界面活性剤:ポリオキシエチレン(n=7)ラウリルエーテル(三洋化成株式会社製 商品名「ナロアクティーN−70」)
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明のフィルムは帯電防止性及び離型性に優れるため、インモールド用転写箔を取り扱う際に帯電やブロッキングによる転写箔同士の貼付きや転写箔表面へのゴミや埃付着の発生がなく、また離型成分に起因した印刷はじきがなく、帯電防止層の透明性に優れており、特にに転写箔同士のブロッキング性については室温の環境下のみならず、80℃を超える高温下でも耐ブロッキング性に優れており、高速成形性および高品位な印刷性に適したインモールド転写用フィルムとして、その工業的価値は極めて高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステルフィルムの少なくとも一方の面に設けられた塗布層が帯電防止成分及び少なくとも2種のシリコーンを含有し、かかるシリコーン成分が(1)炭素数6以上の炭化水素基を有する非反応性シリコーンと(2)エポキシ基を含む有機基、カルボキシル基を含む有機基、アミノ基を含む有機基および加水分解によりシラノール基を生成する有機基からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む反応性シリコーンもしくはジメチルシロキサンとを少なくとも含有し、該塗布層中の全シリコーン成分の重量を基準として(1)炭素数6以上の炭化水素基を有する非反応性シリコーンの割合が50重量%以上90重量%以下であることを特徴とするインモールド転写用フィルム。
【請求項2】
かかる(1)炭素数6以上の炭化水素基を有する非反応性シリコーン成分が下記式(I)で表わされる化合物である請求項1記載のインモールド転写用フィルム。
【化1】

(式(I)中、Rは炭素数1〜5の飽和または不飽和の1価炭化水素基、Ryは炭素数6〜20の飽和または不飽和の1価炭化水素基、RxはR又はRyをそれぞれ表わし、mは0〜500の整数、nは1〜500の整数を表わす。)
【請求項3】
前記(1)炭素数6以上の炭化水素基を有する非反応性シリコーンにおける炭素数6以上の炭化水素基の含有率が、ケイ素原子に直接結合した全有機基数を基準とした割合(%)で5%以上50%以下である請求項1または2に記載のインモールド転写用フィルム。
【請求項4】
前記(2)エポキシ基を含む有機基、カルボキシル基を含む有機基、アミノ基を含む有機基および加水分解によりシラノール基を生成する有機基からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む反応性シリコーンにおけるこれら反応性有機基の含有率が、ケイ素原子に直接結合した全有機基数を基準とした割合(%)で5%以上50%以下である請求項1〜3のいずれかに記載のインモールド転写用フィルム。
【請求項5】
該塗布層の重量を基準として、全シリコーン成分の含有量が1重量%以上50重量%以下、帯電防止成分の含有量が20重量%以上90重量%以下であり、さらに9重量%以上30重量%以下の範囲でその他の成分を含む請求項1〜4のいずれかに記載のインモールド転写用フィルム。