説明

イン・ステムビーコン型プローブ用のハイブリダイゼーション剤及びその利用

【課題】イン・ステムビーコン型プローブのターゲット核酸とのハイブリダイゼーション能を確保して、ターゲット核酸の検出感度を向上させることのできるイン・ステム型ビーコン型プローブのハイブリダイゼーション剤を提供する。
【解決手段】カチオン性高分子を有効成分とし、ループ領域とステム領域とを有するビーコン型プローブであって、前記ステム領域内に、蛍光色素及び消光色素を有する、イン・ステムビーコン型プローブ用のハイブリダイゼーション剤とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イン・ステムビーコン型プローブ用のハイブリダイゼーション剤及びその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、モレキュラービーコンは、配列認識部位であるループ領域と自己相補鎖部位であるステム領域とを備えるとともに、ターゲット核酸を検出するためなどのプローブ等して用いられている。モレキュラービーコンは、ステムの末端に、蛍光色素と消光色素とを有し、ステムを形成時においては、蛍光色素は消光されており、ループ部位でターゲット核酸の塩基配列を認識してターゲット核酸とハイブリダイゼーションしたとき、ステムが開くと蛍光色素に対する消光色素の作用が解除されて、蛍光を発する。
【0003】
こうしたモレキュラービーコンは、ループ部位の配列認識部位の設計の自由度が高いこと、消光機構が内在していることなどから高い汎用性があると見込まれている。一方、消光効果が不十分な場合があるほか、蛍光色素等の導入部位が末端に限定される点などの不都合があった。
【0004】
そこで、本発明者らは、すでに、ステム領域に特定の骨格を用いて蛍光色素と消光色素を擬似塩基として導入することで、ステム二重鎖形成時のステム領域を安定化して消光を促進してバックグラウンドを低下させることができる、モレキュラービーコンも提案されている(特許文献1)。このモレキュラービーコンによれば、蛍光色素と消光色素の導入形態を選択して消光を促進し発光を増強することなども可能となる。
【0005】
一方、カチオン性高分子が、DNAの二重鎖の形成を促進したり、また、二重鎖DNAの鎖交換反応を促進したりすることが知られている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】WO2010/001902号パンフレット
【特許文献2】特開2008−278779号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
イン・ステムビーコン型プローブのステム領域に蛍光色素と消光色素の対を複数導入することで、消光を促進する一方蛍光を増強することが期待できる。しかしながら、本発明者らの検討によれば、こうした感度の最適化を行うと、ターゲット核酸が存在しても、ビーコン型プローブのステム二重鎖が開きにくくなり、また、開くスピードも遅くなるという問題があることがわかった。すなわち、ターゲット核酸を高感度に検出に検出しようとすると、その反面、ターゲット核酸とはハイブリダイゼーションできなくなるという問題を有していた。特に、特許文献1に開示されるバックボーン構造を採用し、しかも、蛍光色素と消光色素のスタック構造を形成させたステム二重鎖にあっては、感度の向上のための改善の結果、ターゲット核酸とは全くハイブリダイゼーションしない場合もあった。
【0008】
特許文献2に開示されるカチオン性高分子は、DNA一重鎖や二重鎖においてそのハイブリダイゼーションや鎖交換を促進することが記載されている。しかしながら、ビーコン型プローブについては適用された報告はなく、ましてや、イン・ステムビーコン型プローブには適用されたとの報告はない。また、ステム二重鎖形成時に特定のバックボーンを用いて得られるイン・ステムビーコン型プローブにおける、カチオン性高分子の作用は当業者といえども予測できるものではなかった。
【0009】
そこで、本明細書の開示は、イン・ステムビーコン型プローブにおける上記問題を解決するべく提供される。すなわち、本明細書の開示は、イン・ステムビーコン型プローブのターゲット核酸とのハイブリダイゼーション能を確保して、ターゲット核酸の検出感度を向上させることのできるイン・ステム型ビーコン型プローブのハイブリダイゼーション剤及びその利用を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
イン・ステムビーコン型プローブは、ターゲット核酸非存在時には、ステム領域における塩基対合によりステム二重鎖が形成されるハイブリダイゼーション状態が形成され、ターゲット核酸存在時には、ループ領域及び/又はステム領域における塩基対合によりターゲット核酸との二重鎖が形成されるハイブリダイゼーション状態が形成される。すなわち、いずれの状態においても相補鎖による塩基対合状態が形成されている。こうしたイン・ステムビーコン型プローブにおいて、ターゲット核酸非存在時におけるステム二重鎖の安定化しつつターゲット核酸の存在時におけるステムを開放した状態における塩基対合状態を促進するためには、こうした塩基対合状態の平衡をステム二重鎖開放時の塩基対合状態に偏らせるための何らかの添加剤が必要であると考え、鋭意検討した。
【0011】
その結果、本発明者らは、意外にも、ターゲット核酸非存在時にカチオン性高分子をモレキュラービーコンに作用させることで、消光を促進・安定化し、ターゲット核酸存在時にカチオン性高分子をモレキュラービーコンに作用させることで、ターゲット核酸とのハイブリダイゼーションをより促進・安定化することを見出し、本発明を完成した。本明細書は、以下の開示を提供する。
【0012】
(1)カチオン性高分子を有効成分とし、
ループ領域とステム領域とを有するビーコン型プローブであって、前記ステム領域内に、蛍光色素及び消光色素を有する、イン・ステムビーコン型プローブ用のハイブリダイゼーション剤。
(2)前記蛍光色素及び前記消光色素は、それぞれ、以下のユニットとして、前記イン・ステムビーコン型プローブの前記ステム領域内に備えられる、(1)記載のハイブリダイゼーション剤。
【化1】

(式中、Xは蛍光色素を表し、R1は、炭素数が2又は3であって置換されていてもよいアルキレン鎖を表し、R2は、炭素数が0以上2以下であって置換されていてもよいアルキレン鎖を表し、Zは、直接の結合又は連結基を表す。)
【化2】

(式中、Yは消光色素を表し、R1は、炭素数が2又は3であって置換されていてもよいアルキレン鎖を表し、R2は、炭素数が0以上2以下であって置換されていてもよいアルキレン鎖を表し、Zは、直接の結合又は連結基を表す。)
(3)前記イン・ステムビーコン型プローブは、前記蛍光色素及び前記消光色素のそれぞれ1個の組み合わせを、前記ステム領域内に2個又は3個有する、(1)又は(2)記載のハイブリダイゼーション剤。
(4)前記イン・ステムビーコン型プローブは、前記組み合わせを、前記ステム領域内に4個以上有する、(3)記載のハイブリダイゼーション剤。
(5)前記カチオン性高分子は、カチオン性基を有する高分子鎖と、親水性高分子鎖から構成される共重合体である、(1)〜(4)のいずれかに記載のハイブリダイゼーション剤。
(6)前記カチオン性基を有する高分子鎖が、ポリリジン又はポリアリルアミンである、(5)記載のハイブリダイゼーション剤。
(7)前記親水性高分子鎖が、デキストラン又はポリエチレングリコールである、(5)又は(6)記載のハイブリダイゼーション剤。
(8)前記カチオン性高分子が、α−PLL−g−Dex、ε−PLL−g−Dex、PAA−g−Dexの少なくとも1つを含む、(1)〜(7)のいずれかに記載のハイブリダイゼーション剤。
(9)さらに、前記イン・ステムビーコン型プローブを含む、(1)〜(8)いずれかに記載のハイブリダイゼーション剤。
(10)(1)〜(8)のいずれかに記載のハイブリダイゼーション剤と、
ループ領域とステム領域とを有するビーコン型プローブであって、前記ステム領域内に、蛍光色素及び消光色素を有する、イン・ステムビーコン型プローブと、
を備える、ハイブリダイゼーションキット。
(11)1種又は2種以上の前記イン・ステムビーコン型プローブは、固相担体に固定化されている、(10)記載のハイブリダイゼーションキット。
(12)イン・ステムビーコン型プローブとターゲット核酸とのハイブリダイゼーション方法であって、
(1)〜(8)のいずれかに記載のハイブリダイゼーション剤の存在下で、前記ターゲット核酸と、ループ領域とステム領域とを有し、前記ステム領域内に、蛍光色素及び消光色素を有する、イン・ステムビーコン型プローブと、をハイブリダイゼーション可能な条件下で接触させて、前記ターゲット核酸存在時における前記イン・ステムビーコン型プローブの前記蛍光色素に基づくシグナルを取得する工程、を備える、方法。
(13)さらに、前記ハイブリダイゼーション剤の存在下で、前記ターゲット核酸が非存在の状態で前記イン・ステムビーコン型プローブの前記蛍光色素に基づくシグナルを取得する工程、を備える、(12)に記載の方法。
(14)前記イン・ステムビーコン型プローブは、前記蛍光色素及び前記消光色素のそれぞれ1個の組み合わせを、前記ステム領域内に2個又は3個有する、(12)又は(13)に記載の方法。
(15)前記イン・ステムビーコン型プローブは、前記組み合わせを、前記ステム領域内に4個以上有する、(12)又は(13)に記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】ターゲット核酸(Surv-2)添加に伴う、蛍光強度の時間変化を示す図である。
【図2】実施例4で用いた基板上のイン・ステムビーコン型プローブのスポット配置を示す図である。
【図3】カチオン性高分子の存在下及び非存在下での基板上でのイン・ステムビーコン型プローブの蛍光色素の蛍光強度レベルを示す図である。
【図4】カチオン性高分子の濃度とイン・ステムビーコン型プローブから得られるシグナル強度比との関係を示す図である。
【図5】カチオン性高分子の存在下及び非存在下で、ターゲット核酸濃度とイン・ステムビーコン型プローブから得られるシグナル強度比との関係を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明は、イン・ステムビーコン型プローブ用のハイブリダイゼーション剤及びその利用に関する。本明細書に開示される、カチオン性高分子は、ターゲット核酸非存在時においてそのビーコン型プローブの消光を促進し、ターゲット核酸存在時においては、ターゲット核酸とのハイブリダイゼーションを促進してハイブリダイゼーション平衡をターゲット核酸とのハイブリダイゼーション側に移動させることができる。すなわち、カチオン性高分子は、イン・ステムビーコン型プローブに対するターゲット核酸の存在非存在状態やステム鎖の状態に応じて、それぞれ、イン・ステムビーコン型プローブの検出感度向上に好ましい平衡状態へとハイブリダイゼーションを促進し安定化することができる。したがって、本ハイブリダイゼーション剤によれば、ハイブリダイゼーション能を確保しつつ、イン・ステムビーコン型プローブにおいて意図した以上の検出感度の向上を提供することができる。また、ターゲット核酸とのハイブリダイゼーション状態を安定化するため、ハイブリダイゼーションの再現性やハイブリダイゼーションの検出精度も向上される。
【0015】
特に、ステム二重鎖に導入される蛍光色素と消光色素の対が比較的少ないときには、例えば、1個のときには、カチオン性高分子は、ターゲット核酸の非存在時に、消光を促進安定化することで、検出感度の向上により寄与する。また、ステム二重鎖に導入される蛍光色素と消光色素の対が比較的多いとき、例えば、4個以上であるときには、カチオン性高分子は、ターゲット核酸の存在時に、ターゲット核酸との二重鎖形成を促進安定化することで、検出感度の向上により寄与することができる。さらに、前記対がこれらの中間の個数のときには、双方の作用により、検出感度が向上する。結果として、どのような態様のイン・ステムビーコン型プローブであっても、検出感度を向上することができる。
【0016】
以下、本明細書の開示の各種実施形態につき、詳細に説明する。
【0017】
(イン・ステムビーコン型プローブのハイブリダイゼーション剤)
本明細書に開示されるハイブリダイゼーション剤は、イン・ステムビーコン型プローブのターゲット核酸とのハイブリダイゼーションに用いられる。イン・ステムビーコン型プローブとは、ステム領域(ステム二重鎖)及びループ領域を有するビーコン型プローブである。ビーコン型プローブは、1本鎖オリゴヌクレオチドからなり、ステム領域は、二重鎖(ステム二重鎖)を形成可能に相補的な塩基配列をそれぞれ有する領域であり、ループ領域は、ターゲット核酸を認識するための塩基配列を有している。ビーコン型プローブを構成するオリゴヌクレオチドは、DNA、RNA、DNA/RNAキメラ、PNAなどそのバックボーンは問わないが、少なくともステム領域とループ領域には、天然の核酸塩基(A、T、C、G、U等)と塩基対を形成する塩基を備えている。なお、イン・ステムビーコン型プローブは、ステム領域とループ領域とを有していればよく、それぞれの個数を特に限定しない。したがって、イン・ステムビーコン型プローブは、tRNAあるいはその類の構造体などの、複数のステム二重鎖及び複数のループ領域を形成可能であってもよい。また、イン・ステムビーコン型プローブにおけるステム二重鎖は、オリゴヌクレオチド鎖の両末端側で構成されるものに限定されない。一方のステム領域がプローブの末端以外の部分にあって他方のステム領域が当該プローブ末端にあってもよいし、双方のステム領域がプローブ末端以外の部分にあってもよい。
【0018】
本明細書に開示されるビーコン型プローブは、ステム領域において、少なくとも一つの蛍光色素と少なくとも一つの消光色素とを有し、これらの2つの要素は、いずれも、炭素数が2又は3のアルキレン鎖−リン酸バックボーンによってオリゴヌクレオチドに連結されることとすることができる。こうしたイン・ステムビーコン型プローブは、特許文献1(WO2010/001902号パンフレット)に開示されている。こうしたアルキレン酸−リン酸バックボーンは、例えば、以下の式(1)や(2)で表される。
【0019】
ステム二重鎖を形成するステム領域の長さは特に限定しないが、それぞれのステム領域は、4以上9以下の塩基対を形成する鎖長とすることができる。ビーコン型プローブとしては、8以上40以下の塩基対を形成する鎖長とすることが好ましく、より好ましくは15以上30以下である。
【0020】
また、ループを形成可能なループ鎖の長さも特に限定しないが、5以上40以下程度とすることができる。例えば、モレキュラービーコンとしては、8以上30以下とすることが好ましく、より好ましくは10以上20以下である。
【0021】
イン・ステムビーコン型プローブにおいては、蛍光色素及び消光色素は、ステム二重鎖のバックボーンに備えられていればよい。すなわち、5’末端又は3’末端などの末端を構成するバックボーンに備えられていてもよいし、それよりも内側に備えられていてもよい。消光性の観点からは、蛍光色素及び消光色素は好ましくは末端より内側に備えられる。
【0022】
蛍光色素及び消光色素は、一つのステム二重鎖において、それぞれ少なくとも1個備えられている。ステム二重鎖形成時に消光し、ターゲット核酸とハイブリダイゼーションするときに、発光する限り、蛍光色素及び消光色素の対合状態を、それぞれ1個で構成されるものに限定するものではないが、ターゲット核酸とのハイブリダイゼーションを考慮すると、連続する2個の蛍光色素に1個又は2個以上の消光色素を対合させるような3個以上のセットでの対合よりも、蛍光色素及び消光色素各1個のセットの対合を形成することが好ましい。
【0023】
一つのステム二重鎖において複数個の蛍光色素及び消光色素を備える場合は、異種類の蛍光色素を用いることもできるし、同一の蛍光色素を用いてもよい。
【0024】
蛍光色素は、上記のとおりステム二重鎖(ステム領域)内に配置されるが、好ましくは、ビーコン型プローブのプローブ配列の内部に配置される。蛍光色素は、その種類により標的核酸とのハイブリダイゼーションにより二重鎖を形成したとき、その二重鎖内にインターカレーションされることで、蛍光が増強されることがあるからである。このような蛍光色素については後述する。
【0025】
蛍光色素は、ステム領域のヌクレオチド間に式(1)で表されるユニットにXとして含まれている。
【0026】
【化3】

【0027】
蛍光色素(X)は、ユニットの一部としてあるいはY以外のユニット部分に連結されて、結果としてステムに備えられる。式(1)における、R1は、炭素数が2又は3であって置換されていてもよいアルキレン鎖を意味している。R2は、炭素数が0以上2以下であって置換されていてもよいアルキレン鎖を意味している。ただし、R2は、R1のポリアルキレン鎖の5’側の酸素原子から2つ目の炭素原子に結合していることが好ましい。Zは、直接の結合であってもよいし、蛍光色素との連結基であり特に限定されない。例えば、−NHCO−、NHCS−、CONH−、−O−等あるいはこれらの基を含むものが挙げられる。
【0028】
上記R1〜R2の置換基としては、未置換の又はハロゲン原子、水酸基、アミノ基、ニトロ基、カルボキシ基で当業者で置換された炭素数1〜20、好ましくは1〜10、より好ましくは1〜4のアルキル基又はアルコキシ基;未置換又はハロゲン原子、水酸基、アミノ基、ニトロ基、カルボキシ基等で置換された炭素原子2〜20、好ましくは2〜10、より好ましくは2〜4のアルケニル基若しくはアルキニル基;水酸基、ハロゲン原子、アミノ基、ニトロ基又はカルボキシ基等が挙げられる。さらに、水酸基、ハロゲン原子、アミノ基、ニトロ基又はカルボキシ基が挙げられる。R1の置換基は、アルキレン鎖のいずれの炭素原子に連結されていてもよいが、R2と同様に、5’の酸素から2つ目又は3つ目の炭素原子に連結されることが好ましい。
【0029】
ステムにおいて対合される蛍光色素及び消光色素に関し、式(1)及び式(2)における、R1におけるアルキレン鎖の炭素数は、同一であっても異なっていてもよい。
【0030】
例えば、式(1)又は式(2)で表されるユニットとして以下のものが挙げられる。
【0031】
【化4】

【化5】

【化6】

【0032】
式(1)においてXは蛍光色素を表す。蛍光色素は、シアニン系色素、メロシアニン系色素、アクリジン系色素、クマリン系色素、エチジウム系色素、フラビン系色素、縮合芳香環系色素、キサンテン系色素等が挙げられ、これらから適宜選択して使用できる。なかでも、シアニン系色素、クマリン系色素、エチジウム系色素、縮合芳香族環色素、キサンテン系色素が好ましく用いることができる。より好ましくは、Cy3,Cy5,チアゾールオレンジ、オキサゾールイエロー、ペリレン、フルオレッセイン、ローダミン、テトラメチルローダミン及びテキサスレッドからなる群から選択されるいずれかである。なかでもチアゾールオレンジなどのシアニン系色素をもちいることが好ましい。蛍光色素として使用する化合物は、式(1)で表されるユニットに連結されるために適宜誘導体化されていてもよいし、消光色素との対合を考慮して連結基との間に、置換されていてもよいアルキレン鎖、アルケニレン基、アルキニレン基が付与されていてもよい。また、式(1)で表されるユニットに対して連結される蛍光色素上の原子は特に限定されない。
【0033】
インターカレーションにより蛍光が増強する蛍光色素としては、チアゾールオレンジ、オキサゾールオレンジ、ペリレン等が挙げられる。これらの蛍光色素は、プローブ配列内部に配置させてインターカレートさせることが好ましい。一方、蛍光色素やR1、R2の組み合わせにより、蛍光色素の蛍光強度がインターカレートによって減少する場合には、蛍光色素はインターカレートしないようにし、反対に消光色素がインターカレートするようにビーコンを設計する方が好ましい。
【0034】
式(1)において連結される蛍光色素(X)としては以下ものが挙げられる。なお、以下の例の各種化合物は例示であり、水素原子はいずれも適宜置換基で置換されていてもよい。また、連結基への連結部分(点線部分)において、置換されていてもよいアルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基を介在させてもよい。
【0035】
【化7】

【化8】

【0036】
消光色素は、ステム形成鎖のヌクレオチド間に以下の式(2)で表されるユニットに含まれている。すなわち、消光色素(Y)は、ユニットの一部としてあるいはY以外のユニット部分に連結されて、結果としてステムに備えられる。
【0037】
【化9】

【0038】
式(2)における、R1、R2及びZは、式(1)におけるのと同義である。また、R1〜R2の置換基も式(1)におけるのと同義である。
【0039】
式(2)においてYは消光色素を表す。消光色素としては、使用する蛍光色素とを本明細書に開示におけるスタック構造の形成により消光できるものであれば特に限定されないが、例えば、アゾベンゼン及びその誘導体が挙げられる。これらはいずれも光異性化する化合物であるが、-N=N-の存在により消光作用を奏するものと考えられる。消光色素としては好ましくは、メチルレッド、アゾベンゼン及びメチルチオアゾベンゼンから選択されるいずれかである。典型的なアゾ系消光色素は、ペリレンなどの多環縮合系のフロオロホアとの関係において、蛍光色素のHOMOが消光色素のHOMOより低いタイプの消光色素で、換言すれば還元力の強い消光色素であるということができる。
【0040】
また、消光色素としては、アントラキノン骨格を有する化合物が挙げられる。アントラキノン骨格を有する化合物としては、アントラキノンの他、アントラキノンのベンゼン環を構成する炭素原子に結合する1個又は2個以上の水素原子を、水酸基、ニトロ基、アミノ基、スルホン酸基、ハロゲン原子、アルキルアミノ基等から選択される1種又は2種以上の官能基で置換した各種のアントラキノン誘導体が挙げられる。各種のアントラキノン誘導体は、例えば、東京化成株式会社等からから容易に入手できる。例えば、アントラキノン誘導体としては、天然には、コチニール色素、アリザリン等のアカネ色素、ラック色素の化合物が挙げられる。アントラキノン誘導体としては、蛍光色素よりも低いLUMOを持つアントラキノン誘導体ならば、どのような誘導体でも使用することが出来るが、ニトロ基やカルボキシル基など、LUMOのエネルギー準位を上げない電子吸引性の置換基が好ましい。好ましくはアントラキノンである。アントラキノンなど典型的なアントラキノン系の消光色素は、ペリレンなどの縮合芳香環系のフロオロホアとの関係において、蛍光色素のLUMOが消光色素のLUMOより高いという条件を満たした消光色素で、酸化力の強い消光色素ということができる。
【0041】
また、消光色素は、消光能力の観点から、その極大吸収波長が、対を形成する蛍光色素の極大吸収波長との差が150nm以内であることが好ましい。消光色素の極大吸収波長とフロオロホアの極大吸収波長との差は、より好ましくは100nm以内であり、さらに好ましくは50nm以内である。さらに、消光色素の極大吸収波長は、蛍光色素の極大吸収波長よりも短波長側にあることが好ましい。用いる蛍光色素との関係で、消光色素の極大吸収波長を制御することで、消光色素を最適化することができる。
【0042】
消光色素の極大吸収波長の制御(長波長側又は短波長側へのシフト)は、例えば、消光色素の基本骨格に対して電子吸引性基や電子供与性基などを導入するなどによって可能である。例えば、後段の〔化8B〕に示すように、メチルレッド等のアゾベンゼン系骨格のアゾ基に対してオルト位又はパラ位に電子吸引性基(例えば、ニトロ基、ハロゲン)や電子供与性基(例えば、メトキシ基)を適宜導入することが考えられる。
【0043】
消光色素として使用する化合物は、式(2)で表されるユニットに連結されるために適宜誘導体化されていてもよいし、消光色素との対合を考慮して連結基との間に置換されていてもよいアルキレン鎖が付与されていてもよい。また、消光色素の連結基との連結部分は、適宜選択される。
【0044】
式(2)において連結される消光色素(Y)としては以下ものが挙げられる。なお、以下の例の各種化合物は例示であり、水素原子はいずれも適宜置換基で置換されていてもよい。また、連結基への連結部分(点線部分)において、置換されていてもよいアルキレン基、アルケニレン基又はアルキニレン基を介在させてもよい。また、式(2)で表されるユニットに対して連結される蛍光色素上の原子は特に限定されない。
【0045】
【化10】

【0046】
【化11】

【0047】
【化12】

【0048】
蛍光色素及び消光色素を導入することは、例えば、通常の固相合成法において、ヌクレオチドに対応するアミダイト誘導体に代えてこの種のユニットを導入なアミダイド誘導体を用いることによって可能となる。例えば、D−トレオニールや3−アミノ1,2−プロパンジールなどのアミノアルキルジオール類のアミノ基をアリルオキシカルボニル基などの適当な保護基で保護した上、一方の水酸基をジメトキシトリチルクロリド等で保護し、その後、他方の水酸基に2−シアノエチルN,N,N,N−テトライソプロピルホスホロジアミダイドを導入する。そしてこのアミダイト体に対して、蛍光色素又は消光色素を導入してアミダイトモノマー化してもよい。例えば、アゾベンゼン系化合物、ペリレン系化合物については、例えば、ネイチャー・プロトコルズ(Nature Protocols)誌2007年第2巻203ページから212ページに記載の方法で、ジャーナル・オブ・ジ・アメリカン・ケミカル・ソサエティー(Journal of the American Chemical Society)誌2003年125巻2217−2223頁記載の方法で、テトラへドロン・レターズ(Tetrahedron Letters)誌2007年第48巻6759−6762頁記載の方法を適用することができる。こうしたモノマーを取得した場合には、従来公知のDNA合成法、例えばネイチャー・プロトコルズ(Nature Protocols)誌2007年第2巻203ページから212ページに記載の方法にしたがって、所望の部位に蛍光色素又は消光色素を連結したユニットを備えるオリゴヌクレオチドを合成することができる。
【0049】
また、蛍光色素や消光色素は、アリルオキシカルボニル基等でアミノ基を保護した上記アミダイト体を所望の位置に備えるオリゴヌクレオチドを合成後に導入してもよい。例えば、アミノ基を保護したままのユニットを備えたオリゴヌクレオチドをCPG担体上においてアミノ基を脱保護した後、当該アミノ基と反応可能にカルボン酸基やイソシアネート基を導入したあるいは保持する蛍光色素や消光色素を反応させることで、蛍光色素等を導入してもよい。
【0050】
以上説明した本明細書に開示されるイン・ステムビーコン型プローブは、蛍光シグナルを自己生成するプローブであるため、ターゲット核酸を蛍光物質等で標識する必要がないことのほか、ターゲット核酸の選択自由度が高く、高い特異性での検出が可能となる利点がある。さらに、ステム二重鎖内に蛍光色素及び消光色素を備えることから、固相担体への固定化の容易性ほか固定化が発光・消光に及ぼす影響を回避又は抑制することができる。
【0051】
本明細書に開示のイン・ステムビーコン型プローブは、従来のモレキュラービーコンが適用されるリアルタイムPCRなどの液相での標的核酸の検出のほか、遺伝子発現パターン、疾患分類、疾病等の原因遺伝子解析、遺伝子診断などの遺伝子発現モニタリング、SNPなどの多型検出、各種変異の検出に有利である。特に、多型や変異などの検出、さらに網羅的な多型や変異の検出、複数の好ましくは数十以上の多数のSNPや変異部位などを有する標的核酸を同時に感度良く高精度に検出することができるようになる。
【0052】
イン・ステムビーコン型プローブは、各種の形態で用いられる。例えば、液相でのハイブリダイゼーションのために、溶液の形態であってもよいし、用時に適当な媒体に溶解する形態であってもよい。また、固相−液相でのハイブリダイゼーションのために、適当な固相担体に固定化された状態であってもよい。オリゴヌクレオチド等からなるプローブを固定化するための固相担体及び固相担体への固定化方法は、本願出願時において当業者の技術常識であり、当業者であれば、必要に応じて適切な固相担体を選択し、又、固定化手法を選択し、イン・ステムビーコン型プローブを固定化した固相担体を得ることができる。
【0053】
(ターゲット核酸)
ターゲット核酸とは、本明細書に開示されるイン・ステムビーコン型プローブが認識しハイブリダイゼーションの対象とする核酸である。ここで、核酸とは、DNA、RNA、核酸誘導体や修飾塩基の非天然型ヌクレオチドやPNA(Nature Biotechnology,14.1700−1704(1996))と呼ばれる非天然型ヌクレオチド結合を含むものでもよい。また核酸は、限定しないかぎり単鎖核酸でも、二重鎖核酸、三重鎖核酸でもよい。二重鎖核酸とは、相補的な塩基対、例えば、DNAでは、アデニン(A)とチミン(T)およびグアニン(G)とシトシン(C)、RNAでは、Aとウラシル(U)およびGとCとの対合により形成される高次構造体を意味する。DNA単鎖/DNA単鎖の二重鎖DNA、RNA単鎖/RNA単鎖の二重鎖RNAのほか、DNA単鎖/RNA単鎖のハイブリッド二重鎖核酸も挙げられる。
【0054】
ターゲット核酸には、ハイブリダイゼーションの意図に対応した塩基多型、変異などのターゲット配列を含んでいる。多型や変異には、1又は2以上の核酸塩基の置換、欠失等が挙げられる。イン・ステムビーコン型プローブとのハイブリダイゼーションに際して、ターゲット核酸は、溶液の状態等とすることができる。
【0055】
(カチオン性高分子)
カチオン性高分子は、カチオン性基を有する高分子鎖を有する高分子をいう。こうしたカチオン性高分子としては、カチオン性基を有する高分子鎖(部分)を有していればよい。カチオン性高分子鎖としては、たとえば、ポリリジン、ポリアリルアミン等が挙げられる。また、カチオン性高分子は、カチオン性高分子鎖に対して、糖などの親水性高分子鎖が分岐鎖としてグラフトされた共重合体であってもよい。こうした親水性高分子鎖としては、例えば、デキストラン、ポリエチレングリコール等が挙げられる。
【0056】
カチオン性高分子としては、既に各種報告されている。例えば、日本公開特許2001−78769号公報やBioconjugate Chem.,8,3−6(1997)にはヌクレオチド配列の間の交換を促進するためのカチオン性高分子ポリマーが開示されている。これはポリリジンやポリアルギニンンなどのカチオン性高分子を主鎖として、デキストランやポリエチレングリコール等を側鎖としてグラフト重合したポリマーである。その例として、α−PLL−g−Dex、ε−PLL−g−Dex、PAA−g−Dexが挙げられる。
【0057】
【化13】

【0058】
デキストラン側鎖修飾α−ポリ(L−リジン)(以下、α−PLL−g−Dexと略記する。)
【0059】
【化14】

【0060】
デキストラン側鎖修飾ε−ポリ(L−リジン)(以下、ε−PLL−g−Dexと略記する)
【0061】
【化15】

【0062】
デキストラン側鎖修飾型ポリアリルアミン(以下、PAA−g−Dexと略記する)
【0063】
ハイブリダイゼーション剤は、イン・ステムビーコン型プローブを用いたハイブリダイゼーションに際して、イン・ステムビーコン型プローブとともに用いられればよく、イン・ステムビーコン型プローブと別に提供されてもよい。一方、使用時濃度あるいは希釈可能に濃縮した状態のハイブリダイゼーション剤とイン・ステムビーコン型プローブとを同時に適当な媒体中に含有する形態であってもよい。また、使用時に適当な媒体に溶解する形態であってもよい。
【0064】
(ハイブリダイゼーションキット)
本明細書に開示されるハイブリダイゼーションキットは、ハイブリダイゼーション剤と、イン・ステムビーコン型プローブとを備えている。ハイブリダイゼーションキットにおける、イン・ステムビーコン型プローブは、ハイブリダイゼーション剤とは別個に準備される形態を採る。イン・ステムビーコン型プローブは、異なるものが固相担体に固定化されている形態でハイブリダイゼーションキットに含まれていることが好ましい。ハイブリダイゼーション剤の使用により、固相担体に固定したイン・ステムビーコン型プローブの検出感度が向上するとともに、蛍光色素の消光レベルや発光レベルが均質化して、固相担体上でのハイブリダイゼーションの再現性や検出精度を大きく改善することができる。
【0065】
固相担体の種類やイン・ステムビーコン型プローブの固定化形態に関しては、既に説明したように、各種形態を採ることができ、当業者であれば、必要におうじて公知材料や公知手法を適宜適用して、イン・ステムビーコン型プローブを固定化した固相担体を得ることができる。
【0066】
(ハイブリダイゼーション方法)
本明細書に開示されるハイブリダイゼーション方法は、イン・ステムビーコン型プローブとターゲット核酸とのハイブリダイゼーション方法であって、ハイブリダイゼーション剤の存在下で、ターゲット核酸と、イン・ステムビーコン型プローブとを、ハイブリダイゼーション可能な条件下で接触させて、ターゲット核酸存在時におけるイン・ステムビーコン型プローブの前記蛍光色素に基づくシグナルを取得する工程(以下、第1の工程ともいう。)、を備えることができる。こうした工程によれば、ターゲット核酸とイン・ステムビーコン型プローブとの二重鎖形成を促進安定化できるので、高強度に蛍光色素を発光させることができる。また、再現性よく均質に発光させることができる。
【0067】
ハイブリダイゼーション方法は、さらに、ハイブリダイゼーション剤の存在下で、ターゲット核酸が非存在の状態でイン・ステムビーコン型プローブの蛍光色素に基づくシグナルを取得する工程(以下、第2の工程ともいう。)を備えることができる。こうした工程によれば、イン・ステムビーコン型プローブのステム二重鎖形成を促進安定化して効果的に消光させることができる。また、再現性よく均質に消光させることができる。
【0068】
第1の工程及び第2の工程のいずれかを備えることで、イン・ステムビーコン型プローブの検出感度を向上させることができる。また、これらの2つの工程を備えることで、どのようなイン・ステムビーコン型プローブであっても、その検出感度を向上させることができる。
【0069】
ハイブリダイゼーション方法に用いるイン・ステムビーコン型プローブは、蛍光色素及び消光色素のそれぞれ1個の組み合わせを、ステム領域内に2個又は3個有することが好ましい。こうしたステム領域の場合においては、ステム二重鎖形成の促進安定化及びターゲット核酸との二重鎖形成の促進安定化の双方により検出感度が向上される。また、イン・ステムビーコン型プローブが前記組み合わせを、前記ステム領域内に4個以上有することも好ましい。こうしたイン・ステムビーコン型プローブであると、ターゲット核酸との二重鎖形成が促進安定化されて蛍光色素の発光強度を大きく増強することができる。
【0070】
なお、ハイブリダイゼーション方法におけるイン・ステムビーコン型プローブとターゲット核酸とのハイブリダイゼーション条件は、特に限定しないで、一般的なハイブリダイゼーション条件の温度、pH、溶媒、時間、撹拌形態等、周知の条件から適宜選択すればよい。
【0071】
以下、本発明を実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0072】
カチオン性高分子としてのPoly(L-lysine)-graft-dextran(PLL-g-Dex)は、日本公開特許2001−78769やBioconjugate Chem.,8,3−6(1997)に従い合成し、Poly(L-lysine)の分子量が8,000、デキストラングラフト率90重量%のPLL-g-Dexを得た。
【0073】
蛍光色素として、ペリレン及びCy3、対応する消光色素としてのアントラキノン及びニトロメチルレッドを導入したDNAの合成は、Tetrahedron Lett., 2007, 48, 6759-6762(ペリレン)、Chem. Commun., 2006, 5062-5064 (アントラキノン)、Chem. Eur. J., 2009, 15, 10092-10102(ニトロメチルレッド)、Angew. Chem. Int. Ed., 2010, 49, 5502-5506(Cy3)記載の方法で、まずはこれらに対応するホスホロアミダイトモノマーを合成し、これらを使用してネイチャー・プロトコルズ(Nature Protocols)誌2007年第2巻203ページから212ページに記載の方法で合成・精製した。ホスホロアミダイトモノマー合成に用いたペリレン、Cy3、ニトロメチルレッド、およびアントラキノンを以下に示す。また、これらの蛍光色素や消光色素を有するC3アルキレン鎖−リン酸バックボーン及びカチオン性高分子も併せて以下に示す。
【0074】
【化16】

【0075】
また、合成したDNAの塩基配列を以下に示す。
【0076】
MB-EQ-t:5’-ETGGTC-CTTGAGAAAGGGC-GACCAQ-3’
MB-EQ-1:5’-TGGETC-CTTGAGAAAGGGC-GAQCCA-3’
MB- EQ-2:5’-TEGGETC-CTTGAGAAAGGGC-GAQCCQA-3’
MB- EQ-3:5’-GEGTEGGETC-CTTGAGAAAGGGC-GAQCCQACQC-3’
MB- EQ-4:5’-GECGEGTEGGETC-CTTGAGAAAGGGC-GAQCCQACQCGQC-3’
MB-YN:5’-TGYGTCCTTGAGAAAGGGCGACNCA-3’
(下線部がステム部位を構成している)
Surv-1:3’-ACGCCACCAGGAACTCTTTCCCG-5’ (ターゲット)
Surv-2:3’-GAACTCTTTCCCGCTGGT-5’(ターゲット)
【実施例2】
【0077】
濃度を調整したビーコン、ターゲット、およびポリマーを200μlのリン酸バッファーに溶かしたのちにセルに移して蛍光測定器にセットして80℃で5分間放置した後、80℃〜20℃まで5℃/minで降温し、さらに5分間放置してから蛍光スペクトルを測定することで、ターゲット核酸存在下での平衡状態におけるターゲット核酸およびポリマー存在下での蛍光強度を測定した。また、ターゲットを加えないこと以外は上記と全く同じ条件で蛍光スペクトルを測定することで、ターゲット核酸非存在下での平衡状態におけるビーコンが閉じた状態の蛍光強度を見積もった。
【0078】
また比較例として、ビーコンとターゲットのみを使用して上記と同じ条件で蛍光スペクトルを測定することでポリマー無しでの蛍光強度を見積り、さらにビーコンのみで上記と同じ条件で蛍光スペクトルを測定することで、ビーコンが閉じた状態の蛍光強度を見積もった。蛍光スペクトル測定には、日本分光(株)製の温度コントローラー付き蛍光光度計FP-6500を使用し、以下の条件で測定した。
励起側バンド幅:5nm 蛍光側バンド幅:5nm
レスポンス:0.1sec 感度:Medium
測定範囲:435 - 650nm 励起波長:425nm
温度:20℃
【0079】
結果を以下に示す。なお、以下の表において、ビーコン型プローブは、いずれも0.2μMとした。また、リン酸バッファー pH 7.0は、100mM NaCl 10mM リン酸ナトリウム水溶液として調製した。また、添加したカチオン性高分子の量は、[Surv-1]/[MB-EQ-t]=1のときN/P=2に該当する量とした。なお、ここで言うN/P比とは、(カチオン性高分子のアミノ基量)/(DNAのリン酸基量)のことである。また、S/Nは、ターゲット核酸存在下とターゲット核酸非存在下での蛍光強度の比をいう。
【0080】
【表1】

【0081】
【表2】

【0082】
【表3】

【0083】
【表4】

【0084】
【表5】

【0085】
以上の表に示したように、全て系でカチオン性高分子を添加することで、S/N比の向上が観測された。特に、カチオン性高分子を添加すると、ターゲット核酸非存在下ではステム部位の安定化により蛍光強度が低下(バックグラウンドノイズの低下)し、ターゲット核酸存在下ではビーコンとの二重鎖形成の安定化による蛍光強度の増強(シグナルの増強)が観察され、結果としてS/N比の向上が達成された。特にMB-EQ-3(蛍光色素と消光色素の対3個をステム領域に有する)ではカチオン性高分子の添加効果が顕著であり、S/N比は約600倍にまで増加した。
【実施例3】
【0086】
本実施例では、実施例1で合成したビーコンの応答速度を以下の手順で測定した。
(1)ビーコンとターゲットを別々のチューブに用意する(2000μlのバッファーに溶かしたときに適当な濃度となるように調製する)。
(2)ビーコン(+ポリマー)を1980μlのリン酸バッファー(実施例2と同一組成)
(3)ターゲットを20μlのバッファーに溶かす((2)と合わせて2000μlになる)。
(4)ビーコンのバッファー溶液をセルに移し、撹拌子を回して、5分間放置する(20℃)。
(5)5分後測定を開始し、開始から5分経過後にターゲットを添加する。
(6)2時間測定を続ける。
【0087】
(MB-EQ系の測定条件)
励起側バンド幅:3nm 蛍光側バンド幅:3nm
レスポンス:0.1sec 感度:Medium
測定範囲:0〜7200sec データ取込み間隔:1sec
励起波長:425nm 蛍光波長:460nm
温度:20℃
【0088】
(MB-YNの測定条件)
励起側バンド幅:3 nm 蛍光側バンド幅:3 nm
レスポンス:0.2 sec 感度:Medium
測定範囲:0 〜 7200sec データ取込み間隔:1sec
蛍光波長:564 nm 励起波長:546 nm
温度:20℃
【0089】
MB-EQ系についての測定結果を以下の表に示す。なお、ビーコン型プローブは0.2μMとし、[Surv-1] =0.4μMとした。添加したカチオン性高分子の量は、[Surv-1]/[MB-EQ]=1のときN/P=2に該当する量とした。
【0090】
【表6】

【0091】
表6に示すように、カチオン性高分子を添加することで、応答速度が顕著に向上した。
【0092】
また、MB-YNについての測定結果を図1に示す。なお、図1において、[MB-YN]=0.2μM 、[Surv-2]=0.4μMに固定し、カチオン性高分子量がN/P=0(比較例)、0.2(本発明)、0.5(本発明)、1(本発明)、2(本発明)について測定した。
【0093】
図1に示すように、カチオン性高分子の添加量を増大させることで、それに応じて応答速度が顕著に増大した。
【0094】
以上のことから、カチオン性高分子は、イン・ステムビーコン型プローブの検出感度向上に広くかつ強力に適用できるハイブリダイゼーション剤であることがわかった。また、その供給量の一定範囲において、供給量を増大することで、その効果を高めることができることがわかった。
【実施例4】
【0095】
本実施例では、プラスチック基板上にイン・ステムビーコン型プローブを固定化し、ターゲット核酸の存在下及び非存在下でハイブリダイゼーションさせたときの、プローブの蛍光色素に基づく蛍光強度の安定性を確認した。また、シグナル強度比を確認した。ビーコン型プローブは、2種類のターゲット核酸の配列に応じて2種類準備した。
【0096】
基板として、住友ベークライト株式会社製のプラスチック製基板を用い、ターゲット核酸としてb3a2−T又はb2a2−Tを0〜10nMの濃度で用いた。またハイブリダイゼーションには、1×SSC(NaCl:150mM)+0.5%SDS又は1×SSCを用いた。ハイブリダイゼーションは、静置状態で行い、その反応温度は65℃又は45℃、反応時間は16時間、ガラスにて密閉状態とした。また、実施例1で合成したカチオン性高分子を存在(200μM又は2〜200μM)及び非存在の状態の両方でそれぞれハイブリダイゼーションを行った。
【0097】
なお、ビーコン型プローブにおける蛍光色素および消光色素は、Cy3とニトロメチルレッド(N)とした。また、ビーコン型プローブ及びターゲット核酸は以下の配列とし、ビーコン型プローブは、実施例2に準じて合成した。
(ビーコン型プローブの配列)
b2a2-A5-dRY2: 5’-X TTTTT-TGANNAGGGCTTCTTCCTTATCTYTCA-3’
b3a2-A5-dRY2: 5’-XTTTTT-TGANNAGGGCTTTTGAACTCTGCTYTCA-3’
(N=ニトロメチルレッド、Y=Cy3、Xは以下の式で表される。下線部がステム部位を構成している)
【0098】
【化17】

【0099】
(ターゲット核酸の配列)
b2a2: 5’-ATAAGGAAGAAGCCCTTCA-3’
b3a2: 5’-CAGAGTTCAAAAGCCCTTCA-3’
【0100】
b3a2-A5-dRY2をマッチプローブ、b2a2-A5-dRY2をミスマッチプローブとして、図2に示す形態で基板上にスポットし、カチオン性高分子の存在下(200μM)及び非存在下でターゲット核酸b3a2−T(100nM)とハイブリダイゼーションを行い、蛍光を検出した結果を図3に示す。図3に示すように、カチオン性高分子を存在させることで、マッチプローブの蛍光が強化されかつそのレベルは均一となり、ミスマッチプローブはよく消光されかつそのレベルは均一となった。
【0101】
また、カチオン性高分子の濃度を変化(0、2、20及び200μM)させたときのマッチプローブb3a2-A5-dRY2とターゲット核酸b3a2−T(10nM)とのハイブリダイゼーションから得られる蛍光シグナル強度比の測定結果を図4に示す。図4に示すように、カチオン性高分子の濃度を上げると、それに応じてマッチプローブから得られるシグナル強度比も向上した。
【0102】
また、ターゲット核酸b2a2に対するマッチプローブ(b2a2-A5-dRY2)に、ターゲット核酸b2a2(マッチ)とb3a2(ミスマッチ)を供給(0〜10nM)したときの、カチオン性高分子存在下(200μM)及び非存在下でのターゲット核酸濃度とb2a2マッチプローブから得られるシグナル強度比の測定結果を図5に示す。図5に示すように、カチオン性高分子の存在下であれば、ターゲット核酸b2a2の濃度の変化に伴い、マッチプローブから得られるシグナル強度比も増加する一方、ミスマッチであるターゲット核酸b3a2の濃度変化には対応せず低いシグナル強度比を安定して維持でき、検出感度、精度及び再現性のよい測定が可能であることがわかった。これに対して、カチオン性高分子の非存在下では、ターゲット核酸b2a2の濃度に応じてマッチプローブから得られるシグナル強度比は増大するものの、ミスマッチであるターゲット核酸b3a2に対して不安定でかつ比較的高いシグナル強度比を呈した。以上の結果から、カチオン性高分子の存在下であると、ターゲット核酸濃度が10nM以下の低い濃度であっても、検出感度、再現性及び精度の良好なハイブリダイゼーションが可能であることがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カチオン性高分子を有効成分とし、
ループ領域とステム領域とを有するビーコン型プローブであって、前記ステム領域内に、蛍光色素及び消光色素を有する、イン・ステムビーコン型プローブ用のハイブリダイゼーション剤。
【請求項2】
前記蛍光色素及び前記消光色素は、それぞれ、以下のユニットとして、前記イン・ステムビーコン型プローブの前記ステム領域内に備えられる、請求項1に記載のハイブリダイゼーション剤。
【化18】

(式中、Xは蛍光色素を表し、R1は、炭素数が2又は3であって置換されていてもよいアルキレン鎖を表し、R2は、炭素数が0以上2以下であって置換されていてもよいアルキレン鎖を表し、Zは、直接の結合又は連結基を表す。)
【化19】

(式中、Yは消光色素を表し、R1は、炭素数が2又は3であって置換されていてもよいアルキレン鎖を表し、R2は、炭素数が0以上2以下であって置換されていてもよいアルキレン鎖を表し、Zは、直接の結合又は連結基を表す。)
【請求項3】
前記イン・ステムビーコン型プローブは、前記蛍光色素及び前記消光色素のそれぞれ1個の組み合わせを、前記ステム領域内に2個又は3個有する、請求項1又は2に記載のハイブリダイゼーション剤。
【請求項4】
前記イン・ステムビーコン型プローブは、前記組み合わせを、前記ステム領域内に4個以上有する、請求項3に記載のハイブリダイゼーション剤。
【請求項5】
前記カチオン性高分子は、カチオン性基を有する高分子鎖と、親水性高分子鎖から構成される共重合体である、請求項1〜4のいずれかに記載のハイブリダイゼーション剤。
【請求項6】
前記カチオン性基を有する高分子鎖が、ポリリジン又はポリアリルアミンである、請求項5に記載のハイブリダイゼーション剤。
【請求項7】
前記親水性高分子鎖が、デキストラン又はポリエチレングリコールである、請求項5又は6に記載のハイブリダイゼーション剤。
【請求項8】
前記カチオン性高分子が、α−PLL−g−Dex、ε−PLL−g−Dex、PAA−g−Dexの少なくとも1つを含む、請求項1〜7のいずれかに記載のハイブリダイゼーション剤。
【請求項9】
さらに、前記イン・ステムビーコン型プローブを含む、請求項1〜8のいずれかに記載のハイブリダイゼーション剤。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれかに記載のハイブリダイゼーション剤と、
ループ領域とステム領域とを有するビーコン型プローブであって、前記ステム領域内に、蛍光色素及び消光色素を有する、イン・ステムビーコン型プローブと、
を備える、ハイブリダイゼーションキット。
【請求項11】
前記イン・ステムビーコン型プローブは、1種又は2種以上の前記イン・ステムビーコン型プローブが固相担体に固定化されている、請求項10に記載のハイブリダイゼーションキット。
【請求項12】
イン・ステムビーコン型プローブとターゲット核酸とのハイブリダイゼーション方法であって、
請求項1〜8のいずれかに記載のハイブリダイゼーション剤の存在下で、前記ターゲット核酸と、ループ領域とステム領域とを有し、前記ステム領域内に、蛍光色素及び消光色素を有する、イン・ステムビーコン型プローブと、をハイブリダイゼーション可能な条件下で接触させて、前記ターゲット核酸存在時における前記イン・ステムビーコン型プローブの前記蛍光色素に基づくシグナルを取得する工程、を備える、方法。
【請求項13】
さらに、前記ハイブリダイゼーション剤の存在下で、前記ターゲット核酸が非存在の状態で前記イン・ステムビーコン型プローブの前記蛍光色素に基づくシグナルを取得する工程、を備える、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記イン・ステムビーコン型プローブは、前記蛍光色素及び前記消光色素のそれぞれ1個の組み合わせを、前記ステム領域内に2個又は3個有する、請求項12又は13に記載の方法。
【請求項15】
前記イン・ステムビーコン型プローブは、前記組み合わせを、前記ステム領域内に4個以上有する、請求項12又は13に記載の方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−170373(P2012−170373A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−33986(P2011−33986)
【出願日】平成23年2月18日(2011.2.18)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】