ウイルスおよび治療法におけるそれらの使用
【課題】ウイルスベクター(例えばヘルペスウイルスベクター)、および疾患を治療するためのこれらベクターの使用法を提供する。
【解決手段】ウイルスのBamHIx断片のICP47不活化変異の非存在下で、ウイルスのγ34.5神経毒性遺伝子座を不活化する第一の変異、およびUS11の初期発現をもたらす第二の変異を含むヘルペスウイルス。更にワクチン抗原または免疫調整タンパク質等の異種遺伝子産物をコードする配列を含む単純ヘルペスウイルス1型を提供する。
【解決手段】ウイルスのBamHIx断片のICP47不活化変異の非存在下で、ウイルスのγ34.5神経毒性遺伝子座を不活化する第一の変異、およびUS11の初期発現をもたらす第二の変異を含むヘルペスウイルス。更にワクチン抗原または免疫調整タンパク質等の異種遺伝子産物をコードする配列を含む単純ヘルペスウイルス1型を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、ウイルスおよび治療法におけるそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)ベクターのような、複製能を有するウイルスベクターの使用は、腫瘍療法のための魅力的な戦略であるが、それは、そのようなウイルスが、インサイチューで複製し蔓延し、直接的な細胞変性効果によって腫瘍退縮活性を示すことができるためである(Kirn,J.Clin.Invest.105:837-839,2000)。形質転換細胞にベクターの複製を制限し、疾患を引き起こさないようにするため、神経毒性および/またはウイルスDNA合成に関連した遺伝子の変異を有する腫瘍退縮性HSV-1ベクターが、多数、開発されている(Martuza, J. Clin. Invest. 105:841-846, 2000)。
【0003】
臨床使用のためのウイルスベクターの設計においては、充分な安全措置を利用することが必要である。G207は、野生型HSV-1株Fに由来する腫瘍退縮性HSV-1ベクターである(Minetaら、Nat. Med. 1:938-943, 1995)。それは、HSV神経毒性の主要決定基であるγ34.5遺伝子の両コピー中の欠失、および感染細胞タンパク質6(infected-cell protein 6、ICP6)をコードするUL39への大腸菌lacZ遺伝子の不活化挿入を有する(Minetaら、Nat. Med. 1:938-943, 1995)。ICP6は、分裂細胞ではなく非分裂細胞におけるヌクレオチド代謝およびウイルスDNA合成のための重要酵素であるリボヌクレオチドレダクターゼの大サブユニットである(Goldsteinら、J. Virol. 62:196-205, 1988)。ICP34.5は、HSV神経毒性の主要決定基であることに加え(Chouら、Science 250:1262-1266, 1990)、ウイルス感染に応答して宿主細胞により誘導されるタンパク質合成のシャットオフを阻止することによっても機能する(Chouら、Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 89:3266-3270, 1992)。これは、多くの腫瘍細胞型において観察されるが、野生型HSVと比較してγ34.5-変異体の増殖の効率が低い原因となっている可能性が高い(McKieら、Br. J. Cancer 74:745-752, 1996;Andreanskyら、Cancer Res. 57:1502-1509, 1997;Chambersら、Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 92:1411-1415, 1995)。この二重変異により、野生型への復帰の機会が極めて低くなり、腫瘍細胞において優先的に複製され、神経毒性が減弱し、およびガンシクロビル/アシクロビル過敏になるといった重要な利点が付与される。G207は、培養物、および皮下または頭蓋内に腫瘍を保有しているマウスにおいて、複数の型の腫瘍細胞を効率的に死滅させる(Minetaら、Nat. Med. 1:938-943, 1995;Yazakiら、Cancer Res. 55:4752-4756, 1995;Todaら、Hum. Gene Ther. 9:2177-2185,1998;Todoら、Hum. Gene Ther.10:2741-2755, 1999;Chahlaviら、Neoplasia1:162-169,1999;Koobyら、FASEB J. 13:1325-1334, 1999;Leeら、J.Gastrointest. Surg. 3:127-133, 1999)。免疫適格マウスのいくつかの同系腫瘍モデルにおいて、G207の新生物内接種によって引き起こされた腫瘍退縮は、全身免疫応答および腫瘍特異的な細胞障害性Tリンパ球を誘発した(Todoら、Hum. Gene Ther. 10:2741-2755, 1999;Todaら、Hum. Gene Ther. 10:385-393, 1999;Todoら、Hum. Gene Ther.10:2869-2878, 1999)。
【0004】
HSV-1感受性のマウスまたはヒト以外の霊長類の脳に注射された場合、G207は、ごくわずかの毒性を有する(Hunterら、J. Virol. 73:6319-6326, 1999;Sundaresanら、J. Virol. 74:3832-3841, 2000;Todoら、Mol. Ther. 2:588-595, 2000)。最近、G207は、再発性悪性神経膠腫を有する患者において検討されており(Markertら、Gene Ther. 7:867-874, 2000)、この第一相臨床試験からの結果は、G207の脳内接種が、試験された最高の用量である3×109プラーク形成単位(pfu)までの用量では安全であることを示している。腫瘍退縮性ウイルスの使用は、癌療法のための有望なアプローチであるが、治療での利益は、用量および投与経路、腫瘍内のウイルス複製の程度、ならびに宿主の免疫応答に依存する可能性が高いであろう。
【0005】
HSV-1感染は、感染宿主細胞表面上の主要組織適合性抗原(MHC)クラスI発現の下方制御を引き起こす(Jenningsら、J. Virol. 56:757-766, 1985;Hillら、J. Immunol. 152:2736-2741,1994)。ICP47の抗原提示関連トランスポーター(TAP)との結合が、小胞体における抗原ペプチド輸送およびMHCクラスI分子の負荷を阻止する(Yorkら、Cell 77:525-535, 1994;Hillら、Nature 375:411-415, 1995;Fruhら、Nature 375:415-418, 1995)。大型哺乳動物由来のTAPに対するICP47の結合は種特異であり(Jugovicら、J. Virol. 72:5076-5084,1998)、マウスTAPに対する親和性は、ヒトTAPに対するものより約100倍低い(Ahnら、EMBO J. 15:3247-3255, 1996)。
【発明の開示】
【0006】
発明の概要
本発明は、ウイルスのBamHI x断片のBstEII-EcoNI断片内の変異を含んでいる単純ヘルペスウイルス(例えば、HSV-1ウイルス)を提供する。これらのウイルスは、例えば、ウイルスのγ34.5神経毒性遺伝子座の不活化変異および/またはウイルスのICP6遺伝子座の不活化変異を含んでいてもよい。
【0007】
ウイルスのγ34.5神経毒性遺伝子座の不活化変異の非存在下で、ウイルスのICP47遺伝子座の不活化変異を含んでいる単純ヘルペスウイルス(例えば、HSV-1ウイルス)も本発明に含まれる。場合により、これらのウイルスは、ウイルスのICP6遺伝子座の不活化変異を含んでいてもよい。
【0008】
本発明は、ヘルペスウイルスのICP47遺伝子座の不活化変異を含んでいるヘルペスウイルスを患者へ投与することを含む、患者において癌に対する全身免疫応答を誘導する方法も提供する。ヘルペスウイルスは、例えば患者の腫瘍へ投与され得る。さらに、患者は、転移性癌を有しているか、または転移性癌を発症するリスクを有しているものであってよく、治療は、そのような癌を治療または予防するために実施され得る。ヘルペスウイルスのICP47遺伝子座の不活化変異は、例えばウイルスのBamHI x断片のBstEII-EcoNI断片に存在しうる。場合により、ウイルスは、ヘルペスウイルスのγ34.5神経毒性遺伝子座の不活化変異および/またはヘルペスウイルスのICP6遺伝子座の不活化変異を含んでいてもよい。
【0009】
本発明は、ウイルスのBamHI x断片のICP47不活化変異の非存在下で、ウイルスのγ34.5神経毒性遺伝子座を不活化する第一の変異とUS11の初期発現をもたらす第二の変異とを含んでいるヘルペスウイルスも提供する。US11の初期発現は、例えば、US11遺伝子より上流にプロモーターを挿入することにより、または初期発現プロモーターの調節下にあるUS11遺伝子をウイルスのゲノムへ挿入することにより達成されうる。ウイルスは、ウイルスのBamHI x断片の変異の非存在下で、ICP47発現の下方制御をもたらす変異を含んでいてもよい。ICP47の下方制御は、例えば、ICP47プロモーター中の欠失、もしくはICP47プロモーターの不活化、またはICP47の機能的な発現を防止するペプチドとのICP47の融合によるものであり得る。
【0010】
本発明は、ウイルスのBamHI x断片の変異の非存在下で、ウイルスのγ34.5神経毒性遺伝子座を不活化する第一の変異とICP47発現の下方制御をもたらす第二の変異とを含んでいるヘルペスウイルスも含む。ICP47の下方制御は、例えば、ICP47プロモーター中の欠失、もしくはICP47プロモーターの不活化、またはICP47の機能的な発現を防止するペプチドとのICP47の融合によるものであり得る。
【0011】
上記のウイルスは、野生型への復帰を防止するための付加的な変異(例えば、ICP6遺伝子座の変異)を含んでいてもよい。ウイルスは、場合により、ワクチン抗原または免疫調整タンパク質のような異種遺伝子産物をコードする配列を含んでいてもよい。本明細書に記載のウイルスは、単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)のような単純ヘルペスウイルス(HSV)であり得る。
【0012】
本発明は、本明細書に記載されたウイルスのうちの任意のものと、薬学的に許容される担体、アジュバント、または希釈剤とを含む薬学的組成物、およびそのような薬学的組成物を患者へ投与することを含む、患者において癌を治療する方法をさらに提供する。そのような薬学的組成物を患者へ投与することを含む、感染性疾患、癌、または自己免疫疾患に対して患者を免疫感作する方法も本発明に含まれる。
【0013】
本発明はいくつかの利点を提供する。例えば、本発明のウイルスは、体内の他の細胞には影響を与えることなく、癌細胞のような分裂細胞において複製し、従ってそれらを破壊する。ICP47が欠失している本発明のウイルスの付加的な利点は、そのようなウイルスによって誘導される免疫応答は増強されており、より優れた抗腫瘍免疫応答がもたらされるという点である。本発明のウイルスはまた、複数の変異を含んでおり、それは野生型へ復帰の可能性を排除する。さらに、本発明のウイルスは、増強された複製を有し得るが、これには増加した毒性が伴わない。さらに、単純ヘルペスウイルスの複製は、ウイルスの複製を阻止するアシクロビルのような抗ウイルス薬の作用によって調節されうる。これらの特色のため、本発明のウイルスは、有効であるのみならず、安全でもある。
【0014】
本発明のその他の特色および利点は、以下の詳細な説明、図面、および特許請求の範囲より明白になろう。
【0015】
詳細な説明
本発明は、例えば癌の治療のような治療法において使用され得るウイルスを提供する。これらのウイルスは、分裂細胞(例えば、癌細胞)において複製し、従ってそれらを破壊するが、非分裂細胞においては実質的に複製せず、従って無毒であるため、この目的にとって特に好適である。本発明のウイルスは、例えば感染性疾患、癌、または自己免疫疾患の治療または予防のための免疫感作法においても使用され得る。本発明のウイルスの多くの有利な特色は、腫瘍細胞の溶解を直接的に引き起こすことに加え、腫瘍に対する全身免疫応答を誘導するという点である。従って、これらのウイルスは、それらが直接投与され得る特定の腫瘍を治療するために使用され得るのみならず、癌転移を予防または治療するためにも使用されうる。
【0016】
本発明のウイルスのいくつかは、ウイルスのICP47遺伝子座の不活化変異を含んでいる単純ヘルペスウイルス(HSV)である。この変異は、例えば、HSV-1のBamHI x断片のBstEII部位とEcoNI部位との間に起こり得て、例えばBstEII-ExoNI断片の欠失を含み得る。場合により、BstEII部位とEcoNI部位との間に変異を含む単純ヘルペスウイルスは、付加的な変異を含んでいてもよい。例えば、そのようなウイルスは、ウイルスのγ34.5神経毒性決定遺伝子座の不活化変異、および/またはゲノムの他の場所、例えばICP6遺伝子座の不活化変異を含んでいてもよい。本発明は、γ34.5神経毒性遺伝子座の不活化変異の非存在下で、ICP47遺伝子座の不活化変異を含んでいる単純ヘルペスウイルスも含む。場合により、そのようなウイルスは、もう一つの非γ34.5神経毒性遺伝子座、例えばICP6遺伝子座の不活化変異を含んでいてもよい。
【0017】
本発明は、毒性遺伝子の不活化変異を含んでいる、単純ヘルペス(HSVウイルス)、例えばHSV-1(例えば、HSV-1株Fもしくは株Patton)またはHSV-2のようなヘルペスウイルスに基づく付加的なウイルスを含む。単純ヘルペスウイルスの場合、この変異は、主要HSV神経毒性決定基であるγ34.5遺伝子の不活化変異であり得る(本発明に含まれるウイルスの例の構築に関する詳細については、例えば図1を参照されたい)。
【0018】
一つの例において、本発明のウイルスは、γ34.5変異に加え、ベクターのBamHI x断片のICP-47不活化変異の非存在下で、US11の初期発現をもたらす修飾を含んでいてもよい。US11は、通常、発現のためにDNA複製を必要とする真性後期(true-late)遺伝子として発現される。しかしながら、本発明のウイルスのいくつかにおけるUS11の初期発現は、PKRにより媒介されるタンパク質合成のシャットオフを防止することにより、γ34.5欠陥を補償することができる(例えば、図1E参照)。そのようなウイルスにおけるUS11の初期発現は、例えばUS11遺伝子の上流に初期作用プロモーターを挿入することによって達成され得る(図1E)。そのようなプロモーターには、例えば、ヒトサイトメガロウイルス(CMV)IEプロモーター、HSV-1 IEプロモーター、HSV-1 Eプロモーター、またはHSV-1ゲノムにおけるDNA複製の開始前に活性なその他の異種プロモーターが含まれ得る(例えば、下記参照)。本発明に含まれるUS11の初期発現を達成するための別のアプローチは、例えば前掲したように、感染初期に活性な任意の適当なプロモーターの調節下で、外因性のUS11遺伝子のコピーをウイルスゲノムの他の場所に挿入することを含む。
【0019】
本発明に含まれる付加的なHSVに基づくウイルスは、ウイルスのBamHI x断片の変異の非存在下で、γ34.5遺伝子座の不活化変異に加え、ICP47発現の下方制御をもたらす第二の修飾を含んでいる。そのようなウイルスの一例においては、ICP47コーディング配列は、ICP47の機能的な発現を防止するペプチドをコードする配列と融合させる(例えば、図1E参照)。そのようなペプチドには、例えば、プロリン(P)、グルタミン酸(E)、セリン(S)、およびトレオニン(T)に富んでおり、従って急速なタンパク質分解のための分子内シグナルを提供するPEST配列が含まれ得る(Rechsteinerら、Trends Biochem. Sci. 21(7):267-271,1996)。そのような毒配列は、US11を駆動する強力なプロモーターの上流、例えばBstEII部位において、ウイルスへと挿入され得る(図1E)。別のベクターにおいては、RNA分解を指図するシグナルが、ICP47 RNAの分解を指図するためにウイルスへと組み込まれる。
【0020】
本発明に含まれるその他のウイルスは、γ34.5遺伝子座の不活化変異に加え、2個の付加的な修飾を含み得る。第一の付加的な修飾は、US11の初期発現をもたらすものであり、第二の修飾は、ウイルスのBamHI x断片の変異の非存在下で、上記のようにICP47発現の下方制御をもたらすものである。そのようなウイルスの一例においては、初期発現プロモーターを、US11遺伝子の上流に挿入し、ICP47コーディング配列を、PEST配列のような毒配列をコードする配列と融合する(図1E)。
【0021】
以上およびその他の場所に記載されたウイルスのうちの任意のものが、ウイルスの野生型への復帰を防止するために作成された付加的な変異または修飾を含み得る。例えば、ウイルスは、リボヌクレオチドレダクターゼの大サブユニットをコードするICP6遺伝子の変異を含むことができる(下記参照)。本発明に含まれるウイルスの具体例、G47Δが、以下、さらに詳細に記載される。簡単に説明すると、このウイルスは、γ34.5遺伝子中の欠失、ICP6遺伝子の中の不活化挿入、およびICP47遺伝子中の312塩基対の欠失を含んでいる。
【0022】
本明細書に記載されたウイルスは、神経向性ヘルペスウイルス、Bリンパ球向性ヘルペスウイルス、またはTリンパ球向性ヘルペスウイルスのような任意のヘルペスウイルス科メンバーより作製され得る。例えば、HSV-1またはHSV-2のような単純ヘルペスウイルス(HSV)が使用され得る。または、以下のウイルス:水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)、ヘルペスウイルス6型(HSV-6)、エプスタインバーウイルス、サイトメガロウイルス、HHV6、およびHHV7のうちの任意のものが使用され得る。本明細書に記載された方法およびウイルスは、主としてHSV-1に関して記載されているが、これらの方法は、これらの他のウイルスのうちの任意のものに、当業者によって容易に適用され得る。
【0023】
前述のように、本発明のウイルスは、癌細胞のような分裂細胞において複製し、従ってそれらを破壊するが、その他の細胞にとっては無毒であるため、癌を治療するために使用され得る。本発明に従い破壊されうる癌細胞の例には、神経系型腫瘍の癌細胞、例えば星状細胞腫、乏突起膠腫、髄膜腫、神経繊維腫、神経膠芽腫、上衣腫、神経鞘腫、神経繊維肉腫、神経芽細胞腫、下垂体部腫瘍(例えば、下垂体腺腫)、および髄芽細胞腫の細胞が含まれる。本発明によって死滅させられうるその他の腫瘍細胞型には、例えば黒色腫、前立腺癌、腎細胞癌、膵臓癌、乳癌、肺癌、結腸癌、胃癌、繊維肉腫、扁平上皮癌、神経外胚葉(neurectodermal)、甲状腺腫瘍、リンパ腫、肝細胞腫、中皮腫、および類表皮癌の細胞、ならびに本明細書において言及されたその他の癌細胞が含まれる。前述のように、癌に対する全身免疫応答を誘導する本発明のウイルスは、癌転移を予防または治療するためにも使用され得る。
【0024】
標的細胞の死滅が望ましいその他の治療的適用には、例えば、いぼの原因であるケラチノサイトおよび上皮細胞の切除、機能亢進性の器官(例えば、甲状腺)の細胞の切除、肥満患者の脂肪細胞の切除、良性腫瘍(例えば、甲状腺の良性腫瘍または良性前立腺肥大症)の切除、先端肥大症を治療するための成長ホルモン産生下垂体前葉細胞の切除、プロラクチンの産生を止めるための乳腺刺激ホルモン産生細胞の切除、クッシング病を治療するためのACTH産生細胞の切除、クロム親和細胞腫を治療するための副腎髄質のエピネフリン産生クロム親和細胞の切除、ならびに膵島細胞腺腫を治療するためのインシュリン産生β島細胞の切除が含まれる。本発明のウイルスは、これらの適用において同様に使用され得る。
【0025】
ウイルスが、1個以上の治療用産物、例えば細胞毒素、免疫調整タンパク質(即ち、抗原に対する宿主免疫応答を増強もしくは抑制するタンパク質)、腫瘍抗原、アンチセンスRNA分子、またはリボザイムをコードする異種核酸配列も含有している場合、本発明のウイルスの効果は、強化され得る。免疫調整タンパク質の例には、例えば、サイトカイン(例えば、インターロイキン、例えば、インターロイキン1〜15のうちのいずれか、α、β、またはγ-インターフェロン、腫瘍壊死因子、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、マクロファージコロニー刺激因子(M-CSF)、および顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF))、ケモカイン(例えば、好中球活性化タンパク質(NAP)、マクロファージ化学誘引活性化因子(macrophage chemoattractant and activating factor)(MCAF)、RANTES、ならびにマクロファージ炎症性ペプチドMIP-1aおよびMIP-1b)、補体成分およびそれらの受容体、免疫系アクセサリー分子(例えば、B7.1およびB7.2)、接着分子(例えば、ICAM-1、2、および3)、ならびに接着受容体分子が含まれる。本発明の方法を使用して作製され得る腫瘍抗原の例には、例えば、ヒトパピローマウイルスのE6抗原およびE7抗原、EBV由来タンパク質(Van der Bruggenら、Science 254:1643-1647,1991)、MUC1(Burchellら、Int. J. Cancer 44:691-696,1989)のようなムチン(Livingstonら、Curr. Opin. Immun. 4(5):624-629,1992)、黒色腫チロシナーゼ、ならびにMZ2-E(Van der Bruggenら、上記)が含まれる。(腫瘍抗原またはサイトカインをコードする遺伝子を含めるためのウイルスの修飾のさらなる説明に関しては、国際公開広報第94/16716号を参照のこと。)
【0026】
前述のように、治療用産物は、ハイブリダイゼーション相互作用によって、細胞または病原体のmRNAの発現を阻止するために使用され得るアンチセンスRNA分子のようなRNA分子であってもよい。または、RNA分子は、欠損細胞RNAを修復するか、または不要な細胞もしくは病原体によってコードされたRNAを破壊するために設計されたリボザイム(例えば、ハンマーヘッド型もしくはヘアピン型のリボザイム)であってもよい(例えば、Sullenger,Chem.Biol.2(5):249-253,1995;Czubaykoら、Gene Ther.4(9):943-949, 1997;Rossi, Ciba Found. Symp. 209:195-204,1997;Jamesら、Blood 91(2):371-382,1998;Sullenger, Cytokines Mol.Ther.2(3):201-205,1996;Hampel, Prog. Nucleic Acid Res. Mol. Bio. 58:1-39,1998;Curcioら、Pharmacol.Ther.74(3):317-332, 1997参照)。
【0027】
異種核酸配列は、それがウイルスの制御配列の調節下に置かれるような位置において、本発明のウイルスへと挿入されうる。または、異種核酸配列は、プロモーターまたはエンハンサーのような制御エレメントを含んでいる発現カセットの一部として挿入されてもよい。適切な制御エレメントは、例えば所望の組織特異性および発現レベルに基づき、当業者によって選択され得る。例えば、細胞型特異的または腫瘍特異的なプロモーターは、遺伝子産物の発現を特定の細胞型へと制限するために使用され得る。例えば、細胞毒性、免疫調整性、または腫瘍抗原性の遺伝子産物が、破壊を容易にするために腫瘍細胞において産生される場合、これは特に有用である。組織特異的プロモーターの使用に加え、本発明のウイルスの局所投与は、局限された発現および効果をもたらすことができる。
【0028】
本発明において使用され得る非組織特異的プロモーターの例には、初期サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター(米国特許第4,168,062号)およびラウス肉腫ウイルスプロモーター(Nortonら、Molec.Cell.Biol.5:281,1985)が含まれる。また、HSV-1 IEプロモーターおよびIE 4/5プロモーターのようなHSVプロモーターも使用され得る。
【0029】
本発明において使用され得る組織特異的プロモーターの例には、例えば、前立腺の細胞に特異的な前立腺特異抗原(PSA)プロモーター;筋細胞に特異的なデスミンプロモーター(Liら、Gene 78:243, 1989;Liら、J. Biol. Chem. 266:6562, 1991;Liら、J. Biol. Chem. 268:10403, 1993);ニューロンに特異的なエノラーゼプロモーター(Forss-Petterら、J. Neuroscience Res.16(1):141-156, 1986);赤血球に特異的なβ-グロビンプロモーター(Townesら、EMBO J.4:1715,1985);やはり赤血球に特異的なτ-グロビン(tau-globin)プロモーター(Brinsterら、Nature 283:499, 1980);下垂体細胞に特異的な成長ホルモンプロモーター(Behringerら、Genes Dev.2:453, 1988);膵臓β細胞に特異的なインスリンプロモーター(Seldenら、Nature 321:545, 1986);星状細胞に特異的なグリア細胞繊維性酸性タンパク質プロモーター(Brennerら、J. Neurosci. 14:1030, 1994);カテコールアミン作動性ニューロンに特異的なチロシンヒドロキシラーゼプロモーター(Kimら、J. Biol. Chem. 268:15689, 1993);ニューロンに特異的なアミロイド前駆タンパク質プロモーター(Salbaumら、EMBO J.7:2807, 1988);ノルアドレナリン作動性ニューロンおよびアドレナリン作動性ニューロンに特異的なドーパミンβ-ヒドロキシラーゼプロモーター(Hoyleら、J. Neurosci. 14:2455, 1994);セロトニン/松果体細胞に特異的なトリプトファンヒドロキシラーゼプロモーター(Boularandら、J.Biol.Chem.270:3757,1995);コリン作動性ニューロンに特異的なコリンアセチルトランスフェラーゼプロモーター(Hershら、J. Neurochem. 61:306, 1993);カテコールアミン作動性/5-HT/D型細胞に特異的な芳香族L-アミノ酸デカルボキシラーゼ(AADC)プロモーター(Thaiら、Mol. Brain Res.17:227,1993);ニューロン/精子形成精巣上体細胞に特異的なプロエンケファリンプロモーター(Borsookら、Mol. Endocrinol. 6:1502, 1992);結腸および直腸の腫瘍ならびに膵臓および腎臓の細胞に特異的なreg(膵臓結石タンパク質(pancreatic stone protein))プロモーター(Watanabeら、J. Biol. Chem. 265:7432, 1990);ならびに肝臓および盲腸の腫瘍、および神経鞘腫、腎臓、膵臓、および副腎の細胞に特異的な副甲状腺ホルモン関連ペプチド(PTHrP)プロモーター(Camposら、Mol. Rnfovtinol. 6:1642, 1992)が含まれる。
【0030】
腫瘍細胞において特異的に機能するプロモーターの例には、乳癌細胞に特異的なストロメライシン3プロモーター(Bassetら、Nature 348:699, 1990);非小細胞肺癌細胞に特異的なサーファクタントタンパク質Aプロモーター(Smithら、Hum. Gene Ther.5:29-35,1994);SLPI発現癌腫に特異的な分泌性ロイコプロテアーゼインヒビター(SLPI)プロモーター(Garverら、Gene Ther. 1:46-50, 1994);黒色腫細胞に特異的なチロシナーゼプロモーター(Vileら、Gene Therapy 1:307,1994;国際公開広報第94/16557号;国際公開広報第93/GB1730号);繊維肉腫/腫瘍原性細胞に特異的なストレス誘導可能grp78/BiPプロモーター(Gazitら、Cancer Res. 55(8):1660, 1995);脂肪細胞に特異的なAP2アジポース(adipose)エンハンサー(Graves, J. Cell. Biochem. 49:219, 1992);肝細胞に特異的なα-1アンチトリプシントランスチレチンプロモーター(Graysonら、Science 239:786, 1988);多形神経膠芽腫細胞に特異的なインターロイキン-10プロモーター(Nittaら、Brain Res. 649:122, 1994);膵細胞、乳房細胞、胃細胞、卵巣細胞、および非小細胞肺癌細胞に特異的なc-erbB-2プロモーター(Harrisら、Gene Ther.1:170,1994);脳腫瘍細胞に特異的なα-B-クリスタリン/熱ショックタンパク質27プロモーター(Aoyamaら、Int. J. Cancer 55:760,1993);神経膠腫および髄膜腫の細胞に特異的な塩基性繊維芽細胞増殖因子プロモーター(Shibataら、Growth Fact.4:277,1991);扁平上皮癌、神経膠腫、および乳房腫瘍の細胞に特異的な上皮増殖因子受容体プロモーター(Ishiiら、Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 90:282,1993);乳癌細胞に特異的なムチン様糖タンパク質(DF3、MUC1)プロモーター(Abeら、Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 90:282, 1993);転移性腫瘍に特異的なmts1プロモーター(Tulchinskyら、Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 89:9146,1992);小細胞肺癌細胞に特異的なNSEプロモーター(Forss-Petterら、Neuron 5:187,1990);小細胞肺癌細胞に特異的なソマトスタチン受容体プロモーター(Bombardieriら、Eur. J. Cancer 31A:184,1995;Kohら、Int. J. Cancer 60:843,1995);乳癌細胞に特異的なc-erbB-3プロモーターおよびc-erbB-2プロモーター(Quinら、Histopathology 25:247,1994);乳癌および胃癌の細胞に特異的なc-erbB4プロモーター(Rajkumarら、Breast Cancer Res. Trends 29:3,1994);甲状腺癌細胞に特異的なチログロブリンプロモーター(Mariottiら、J. Clin. Endocrinol. Meth. 80:468,1995);肝細胞癌細胞に特異的なα-フェトプロテインプロモーター(Zuibelら、J.Cell.Phys.162:36,1995);胃癌細胞に特異的なビリンプロモーター(Osbornら、Virchows Arch. A. Pathol. Anat. Histopathol. 413:303, 1988);ならびに肝細胞癌細胞に特異的なアルブミンプロモーター(Huber, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 88:8099,1991)が含まれる。
【0031】
前述のように、本発明のウイルスは、例えば、細胞を死滅させるため、かつ/または細胞へ治療用遺伝子産物を導入するため、インビボの方法において使用されうる。これらの方法を実施するため、本発明のウイルスは、医学において使用されている任意の従来の経路により投与されうる。例えば、本発明のウイルスは、例えば直接注射または外科的方法により、効果、例えば細胞死滅および/または治療用遺伝子発現が望まれる組織へと直接投与され得る(例えば、脳腫瘍への定位注射;Pellegrinoら、Methods in Psychobiology(Academic Press, New York, New York,67-90, 1971))。ベクターを脳へ投与するために使用され得るさらなる方法は、Boboら(Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 91:2076-2080, 1994)およびMorrisonら(Am. J. Physiol. 266:292-305, 1994)によって記載された対流法である。腫瘍治療の場合には、直接腫瘍注射の代わりに、腫瘍を除去するための手術を実施し、残存している腫瘍細胞の破壊を保証するために、切除された腫瘍床へと本発明のベクターを接種することが可能である。または、ベクターは、非経口経路を介して、例えば、静脈内、動脈内、脳室内、皮下、腹腔内、皮内、表皮内、筋肉内の経路により、または粘膜表面、例えば、眼、鼻腔内、肺、口腔、腸、直腸、膣、尿路の表面を介して投与されうる。
【0032】
ヒトのような哺乳動物の体内の細胞へウイルスを導入するための多数の周知の製剤のうちの任意のものが、本発明において使用され得る(例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences(第18版)A. Gennaro編、1990年、Mack Publishing Co., Easton, PA.を参照されたい)。しかしながら、ウイルスは、アジュバントまたは担体を含むか、または含まない無菌生理食塩水または無菌緩衝生理食塩水のような生理学的に許容される溶液で単に希釈されてもよい。
【0033】
投与すべきウイルスの量は、例えば、達成すべき特定の目標、ウイルス内に使用されているプロモーターの強度、投与が意図される哺乳動物(例えば、ヒト)の条件(例えば、哺乳動物の体重、年齢、および全身状態)、投与の様式、ならびに製剤の種類に依存する。一般に、例えば約101〜1010プラーク形成単位(pfu)、例えば約5×104〜1×106pfu、例えば約1×105〜約4×105pfuという治療的または予防的に有効な用量。ただし、最も有効な範囲は、当業者によって容易に決定されうるように、宿主によって変動しうる。また、投与は、単回で達成されてもよいし、または当業者によって適切であると決定されたような間隔を置いて繰り返されてもよい。
【0034】
非必須α47遺伝子内の欠失によってG207より派生した、新たな、多重変異型の、複製能を有するHSV-1ウイルスである、G47Δと名付けられた本発明のウイルスの具体例が、以下に記載される(Mavromara-Nazosら、J. Virol. 60:807-812, 1986)。ICP47およびUS11をコードする転写物がオーバーラップしているため(図2B)、α47中の欠失はまた、後期US11遺伝子を前初期α47プロモーターの調節下に置く。これは、タンパク質合成のシャットオフを排除することにより、γ34.5-変異体の増殖特性を増強する(Mohrら、EMBO J. 15:4759-4766, 1996;Heら、J. Virol. 71:6049-6054, 1997;Cassadyら、J. Virol. 72:7005-7011,1998;Cassadyら、J. Virol. 72:8620-8626, 1998)。にも関わらず、本発明者らは、G47Δが、2×106pfuでA/Jマウスの脳へと接種された場合に、現在ヒトにおける臨床試験中にあるG207と同じくらい安全であることを見出した。本発明者らは、G47Δを感染させたヒト黒色腫細胞が、G207を感染させたものより、対応する腫瘍浸潤リンパ球(TIL)を刺激する効果が高かったこと、G47Δが、培養腫瘍細胞において増強された複製を示したこと、ならびにG47Δが、試験されたヒト異種移植片およびマウス同系腫瘍モデルの両方において腫瘍増殖を阻害する効力がG207より高かったことを本明細書に示す。当結果は、G47Δが腫瘍療法に使用されうることを示している。このウイルスおよびその特性のさらなる詳細を以下に提供する。
【0035】
実験結果
G47Δの構築および複製
G47Δは、TRSに隣接しているUS領域の312塩基対をG207から欠失させることにより構築された(図2)。G47Δ DNAのサザンブロット分析によって、α47遺伝子の中の0.3kbの欠失およびγ34.5遺伝子の中の1kbの欠失の存在が確認された。α47遺伝子座中の同じ欠失を有するR47Δは、活性リボヌクレオチドレダクターゼを有するG207の親ウイルスR3616(Chouら、Science 250:1262-1266, 1990)より作製された。
【0036】
γ34.5欠損変異体(G207およびR3616)の増殖特性に対するα47欠失の効果を調査するため、本発明者らは、ヒト腫瘍細胞系統SK-N-SH(神経芽細胞腫)、U87MG(神経膠腫)、U373MG(神経膠腫)、ならびにSQ20B(頭頸部扁平上皮癌)の感染後の子孫ウイルスの収量を決定した。低MOIにおいて、感染後24時間までに、G47Δは、G207より高い収量を与え、およそ4〜1000倍の力価の増加をもたらした(図3)。U87MG細胞における一段階増殖実験(MOI=2)において、G47Δのウイルス収量は、G207よりも12倍大きかった。R47Δは、同様に、試験された全ての腫瘍細胞系統において親R3616より高い力価を与えたが、G47ΔもR47Δも、野生型親株Fほど良好には増殖しなかった。ウイルス収量が細胞密度によって影響を受けるか否かを決定するため、ベロ細胞およびSK-H-SH細胞を、正常密度または高密度(8×105または1.6×106細胞/ウェル)で播き、0.01のMOIで、株F、G207またはG47Δを感染させ、感染後48時間で採集した。G47Δにおいては、収量の減少したG207とは対照的に、高密度培養での収量がより高かった。ベロ細胞において比較的高い収量をもたらすG47Δの能力は、臨床使用のための高力価ストックの製造を容易にする。
【0037】
インビトロのG47Δの細胞変性効果
インビトロのG47Δの細胞溶解活性を、様々な神経冠由来腫瘍細胞系統において、G207と比較した。ヒト細胞系統U87MG、ならびに黒色腫624および888において、G47Δは、0.01という低いMOIで、G207より有意に迅速に腫瘍細胞を死滅させた(図4)。0.1のMOIでは、G207およびG47Δの両方が、感染から1〜3日以内に全ての細胞を死滅させた。マウス神経芽細胞腫細胞系統Neuro2aは、0.01のMOIでは、G207およびG47Δの両方による死滅に対して抵抗性であった。0.1のMOIでは、G47Δは、腫瘍細胞を破壊する効果がG207より有意に高く(図4)、その効果はN18マウス神経芽細胞腫細胞でも見られた。本発明者らは、マウス腫瘍細胞が、一般に、ヒト腫瘍細胞よりG207複製に対して抵抗性であることを見出している(Todoら、Hum. Gene Ther. 10:2741-2755, 1999;Todaら、Hum. Gene Ther. 10:385-393, 1999;Todoら、Cancer Res. 61:153-161, 2001)。
【0038】
G47Δ感染細胞におけるMHCクラスI発現
ICP47は、ヒト細胞において小胞体を横切るペプチドの移動におけるTAPの機能を阻害するが、マウスまたはラットの細胞においては阻害しない(Ahnら、EMBO J.15:3247-3255,1996;Tomazinら、J.Virol.72:2560-2563,1998)。G47ΔはICP47を欠いているため、感染細胞は、未感染細胞に典型的なMHCクラスI発現のレベルを有するはずである。本発明者らは、ヒトリンパ球抗原クラスI(HLA-1)に関するフローサイトメトリー分析を使用して、Detroit 551ヒト二倍体繊維芽細胞におけるMHCクラスI下方制御について検討した。感染後48時間には、完全α47遺伝子を含有しているHSV-1(株F、G207、およびR3616)を感染させた細胞は、全て、細胞表面MHCクラスIの減少を示し、偽感染対照細胞と比較しておよそ40%のピークレベルをもたらした(図5Aおよび5B)。対照的に、G47Δ感染細胞においては下方制御は存在しなかった(図5A)。R47Δ感染細胞におけるMHCクラスI発現は、株FまたはR3616を感染させた細胞より高く維持されていたが、G47Δと比較すると減少していた(偽感染ピークレベルのおよそ75%)。異なる時点(感染後6時間、24時間、および48時間)における研究では、ICP47発現感染細胞(G207およびR3616)と非発現感染細胞(G47ΔおよびR47Δ)との間のMHCクラスI下方制御の差が、感染後6時間までは明白にならないことが明らかにされた(図5B)。
【0039】
下方制御の排除は部分的であったが、G47Δによるヒト黒色腫細胞の感染も、G207による感染より高いレベルのMHCクラスI発現をもたらした。一般に、低レベルのMHCクラスIを有するもの(624、888、および1383)と比較して、より大きな効果が、高い基底レベルのMHCクラスIを有する細胞系統(938および1102)において観察された(図5C)。
【0040】
G47Δ感染ヒト黒色腫細胞はインビトロでヒトT細胞を刺激する
3個のヒト黒色腫細胞系統を、G47Δ感染後に対応するTIL系統を刺激する能力に関して試験した(888および1102とTIL888とで(Robbinsら、Cancer Res. 54:3124-3126, 1994)、938とTIL1413とで(Kangら、J. Immunol. 155:1343-1348, 1995))。最も高いレベルのMHCクラスI発現を有するG47Δ感染1102黒色腫細胞は、G207感染細胞と比較して、より優れたTIL細胞の刺激を引き起こし、41%多いIFN-γ分泌をもたらした(図6)。極めて低いレベルのMHCクラスI発現を有し、G47ΔまたはG207を感染させた888黒色腫細胞による、この同じTIL系統の刺激は、本質的に存在しなかった。G47Δ感染938黒色腫細胞は、TIL1413細胞を刺激し、統計的に有意ではないIFN-γ分泌の増加を引き起こした。結果は、G47Δ感染細胞において起こり得る、G207感染細胞よりも高いMHCクラスI発現が、T細胞刺激を増強し得ることを証明している。
【0041】
インビボのG47Δの抗腫瘍効力
ヒト異種移植片モデル、確立された皮下U87MG神経膠腫腫瘍(直径およそ6mm)を保有している無胸腺マウスにおいて、G207またはG47Δ(106pfu)を新生物内接種し、その3日後に第二の接種を行ったところ、U87MG腫瘍増殖の有意な減少が引き起こされた(それぞれ、対照に対してp<0.05およびp<0.001、24日目;独立t検定;図7)。G47Δ処理は、G207より有意に効力が高く、平均腫瘍体積が減少した(図7)。これは、動物の生存が延長したことと、および「治癒」(3ヶ月の追跡中に腫瘍が再増殖しなかった完全な腫瘍退行)の数とに反映された(表1)。試験された用量において、G207処理群では有意に生存が延長し(偽に対してp<0.05、ウィルコクソン検定)、G47Δ処理動物では、生存はさらに大きく延長した(G207に対してp<0.05、ウィルコクソン検定)。
【0042】
(表1) G47Δによる皮下腫瘍療法
*G207に対してp<0.05、†偽に対してp<0.001、フィッシャー検定
【0043】
免疫適格マウス腫瘍モデル、同系A/Jマウスにおける皮下の免疫原性の弱いNeuro2a神経芽細胞腫腫瘍において、G47Δの効力をさらに試験した。直径およそ6mmの確立された腫瘍に、0日目および3日目に、偽、G207、またはG47Δ(106pfu)を接種した。この場合にも、G207およびG47Δの両方が、Neuro2a腫瘍増殖の有意な減少を引き起こし(それぞれ対照に対してp<0.05およびp<0.001、15日目;独立t検定)、G47Δの効力はG207より大きかった(図7)。カプラン・マイヤー分析によって、この用量において、G207は、Neuro2a腫瘍保持A/Jマウスの生存を有意に延長せず、G47Δは、偽およびG207と比較して有意に動物の生存を延長することが証明された(それぞれp<0.01およびp<0.05、ウィルコクソン検定)。3.5ヶ月の追跡期間中、G47Δ処理マウスにおける「治癒」の数が増加した(統計的に有意ではない、フィッシャー検定;表1)。
【0044】
脳内接種によるG47Δの安全性
脳におけるG47Δの毒性を評価するために、A/Jマウスに、偽、株F(2×103pfu)、G207(2×106pfu)、またはG47(2×106pfu)を脳内接種した。この用量は、注射された体積においてG207に関して入手可能な最も高い用量であった。各マウスを、3週間、臨床的症候に関して毎日モニタリングした。8匹の偽接種マウスは、全て、異常な症候なしに生存していたが、10匹の株F接種マウスは、全て、急速に衰弱し、接種から7日以内に瀕死の状態となった。8匹のG207接種マウスおよび10匹のG47Δ接種マウスは、全て、生存していた。G207接種マウスのうちの2匹、および1匹のG47Δ接種マウスは、わずかに背を丸める現象(slight hunching)または外部刺激に対するわずかに鈍い応答を一時的に示した(接種後3〜6日目)。これは、この用量でA/Jマウスの脳に接種された場合、G47ΔがG207と同じくらい安全であることを示している。
【0045】
上記の結果は、以下の材料および方法を使用して得られた。
【0046】
材料および方法
細胞
ベロ(アフリカミドリザル腎臓)、SK-N-SH(ヒト神経芽細胞腫)、U87MG(ヒト神経膠腫)、U373MG(ヒト神経膠腫)、Neuro2a(マウス神経芽細胞腫)、およびDetroit 551(二倍体ヒト繊維芽細胞)細胞系統は、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(Rockville, MD)より購入した。SQ20B(頭頸部扁平上皮癌)細胞は、R. Weichselbaum博士(University of Chicago, Chicago, IL)より提供された。N18マウス神経芽細胞腫細胞は、K. Ikeda博士(Tokyo Institute of Psychiatry, Tokyo, Japan)より提供された。ヒト黒色腫細胞系統624、888、938、1102、および1383、ならびにヒトT細胞系統TIL888およびTIL1413は、J. Wunderlich博士(NIH, Bethesda, MD)より提供された。全ての腫瘍細胞を、10%ウシ胎仔血清(FCS)、2mMグルタミン、ペニシリン(100U/ml)、ストレプトマイシン(100μg/ml)、および2.5μg/mlファンギゾンが補足されたダルベッコ改変イーグル培地において維持した。ヒトT細胞は、10%ヒト血清(AB, Rh+型;Valley Biomedical Products, Winchester, VA)、インターロイキン2(600国際単位(IU)/ml、Chiron Corporation, Emeryville, CA)、ペニシリン(50U/ml)、および1.25μg/mlファンギゾンが補足されたAIM-V培地(Gibco BRL, Life Technologies, Rockville, MD)において維持した。
【0047】
G47Δの作製
プラスミドpIE12は、ICP47コーディング領域を包含しているHSV-1 BamHI x断片に由来する1818塩基対のBamHI-EcoRI断片を含有している(Johnsonら、J.Virol.68:6347-6362,1994)。BstEII部位とEcoNI部位との間のICP47コーディング領域を含有している312塩基対の断片を、pIE12より欠失させ、pIE12Δを作出した(図2C)。ベロ細胞を、1ウェル当たり1〜2×105個の密度で、6穴ディッシュに播いた。製造業者の指示に従い、lipofectAMINE(商標)(Life Technologies)8μlを用い、G207 DNA(Minetaら、Nat. Med. 1:938-943, 1995)とpIE12(完全)とBamHIおよびXhoIで切断したpIE12Δとの1:1:1混合物を含む1〜3μgのDNA濃度範囲を使用して、トランスフェクションを実施した。次いで、トランスフェクションからのウイルス子孫を、SK-N-SH細胞において2回継代し、以下のように、ICP47中の欠失を含有する組換え体に関して濃縮した。SK-N-SH細胞を、10cmディッシュ1枚当たり5×106個の密度で播き、翌日、細胞1個当たり0.01〜1pfuのMOIの範囲で感染させ、感染後時48間で採集した。次いで、この過程を繰り返した。pIE12Δ中の欠失は、ウイルス内にγ34.5の第二部位サプレッサー変異を作製し、それによりSK-N-SH細胞における組換え体の増殖を成功させるために設計された(Mohrら、EMBO J.15:4759-4766,1996)。SK-N-SH濃縮ストックからの個々のプラークを、アガロース・オーバーレイの下のベロ細胞上でプラーク精製し、サザンブロッティングによってICP47中の欠失の存在に関してスクリーニングした。ICP47欠失に関して均質である1個のプラークよりストックを調製し、G47Δと名付けた。G207 DNAの代わりにR3616(Chouら、Science 250:1262-1266, 1990)DNAを使用したこと以外は、同様にしてR47Δを構築した(R3616は、B. Roizman博士(University of Chicago, Chicago, IL)より提供された)。以前に記載されたようにして(Miyatakeら、J. Virol. 71:5124-5132, 1997)、ウイルス力価決定を実施した。
【0048】
ウイルス収量試験
細胞を、1ウェル当たり5×105個、8×105個、または1.6×106個、6穴プレートに播いた。播種後6〜8時間目に、3連または2連のウェルに、0.01のMOIでウイルスを感染させた。感染後24時間または48時間で細胞を培地中へと剥離し、3回の凍結−解凍サイクルによって溶解させた。以前に記載されたもの(Miyatakeら、J. Virol. 71:5124-5132, 1997)を修飾し、子孫ウイルスを力価測定した。簡単に説明すると、ベロ細胞を、8×105細胞/ウェルで6穴プレートに播いた。37℃における4〜8時間のインキュベーションの後、37℃で一晩、1mlの増殖培地中で細胞に感染させ、その後、0.4%ヒトIgG(ICN Pharmaceuticals)を含有する1mlの培地を添加した。ウェルを、さらに2日間、37℃でインキュベートし、メチレンブルー(70%メタノール中0.5%w/v)による染色の後にプラークの数を計数した。
【0049】
インビトロ細胞毒性試験
以前に記載されたもの(Todoら、Hum. Gene Ther. 10:2741-2755,1999)に、10%FCSを含有する培地において増殖させられたヒト黒色腫細胞のための修飾を加え、インビトロ細胞毒性試験を実施した。コールター(Coulter)カウンター(Beckman Coulter, Fullerton, CA)を用いて生存細胞の数を毎日計数し、偽感染対照に対する割合として表した。
【0050】
フローサイトメトリー分析
細胞を1×106個/ウェルで6穴プレートに播き、播種後24時間目にウイルスを感染させた(MOI=3)。細胞を、6時間、24時間、または48時間、39.5℃で、ガンシクロビル(200ng/ml)の存在下でインキュベートし、トリプシン処理によって採集し、2mlのPBSにより1回洗浄した。G207およびG47Δは、ICP4の中に温度感受性変異を含有しており、従って、37℃では複製することができるが、39.5℃では複製することができない(Minetaら、Nat. Med. 1:938-943,1995)。次いで、およそ5×105個の細胞を、FITC結合抗ヒトHLAクラスI抗原(クローンW6/32、Sigma, St. Louis, MO)を使用したフローサイトメトリー分析に使用し、以前に記載されたようにして実施した。
【0051】
ヒトT細胞刺激アッセイ
ヒト黒色腫細胞(888、938、または1102)を5×105個/ウェルで6穴プレートに播き、播種後24時間目にG207もしくはG47Δ(MOI=3)を感染させるか、またはウイルスなし(偽)で処理した。細胞を、3時間(888)または6時間(938および1102)、39.5℃で、10%FCSおよびガンシクロビル(200ng/ml)を含有する増殖培地の中でインキュベートした。次いで、細胞を剥離により採集し、一部を細胞計数に使用した。次いで、平底96穴プレートにおいて、ガンシクロビル(200ng/ml)を含有するAIM-V培地200μlの中で、感染黒色腫細胞(1×105)を、同数の応答性ヒトT細胞と共培養した。黒色腫888および1102はTIL888細胞と共培養し、黒色腫938はTIL1413細胞と共に培養した。TIL系統888および1413は、いずれも、HLA-A24拘束的に黒色腫抗原チロシナーゼを認識する(Robbinsら、Cancer Res. 54:3124-3126, 1994;Kangら、J. Immunol. 155:1343-1348, 1995)。37℃における18時間のインキュベーションの後、プレートを10分間800gで遠心分離し、条件培地を収集した。IFN-γ濃度を、ヒトIFN-γELISAキット(Endogen, Woburn, MA)を使用した酵素結合免疫吸着アッセイ法によって測定した。刺激細胞がない場合のTIL細胞におけるIFN-γ測定値を基底放出レベルとみなし、刺激されたTIL細胞におけるIFN-γ分泌の増加を計算するために使用した。
【0052】
動物試験
6週齢雌A/Jマウスおよび無胸腺ヌードマウス(BALB/c nu/nu)は、国立がん研究所(National Cancer Institute)(Frederick、MD)より購入し、4匹以下の群で収容した。皮下腫瘍療法は、以前に記載されたようにして実施した(Todoら、Hum. Gene Ther. 10:2741-2755, 1999;Todoら、Cancer Res. 61:153-161, 2001)。
【0053】
脳内接種毒性試験
5μlの容量の偽(10%グリセロールを含有するPBS)、株F(2×103pfu)、G207(2×106pfu)、またはG47Δ(2×106pfu)を、KOPF定位フレームを使用して、5分かけて、6週齢雌A/Jマウス(それぞれ、n=8、10、8、および10)の脳の右半球へと注射した。次いで、ケージを盲検化し、マウスを、3週間、臨床的症候に関して毎日モニタリングした。
【0054】
本明細書に引用された参照は、全て、参照として完全に組み込まれる。その他の態様は、添付の特許請求の範囲に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1A】図1A〜1B(図1)は、HSV-1ゲノム、および本発明に含まれるベクターを作成するためのアプローチの概略図である。図1Aは、HSV-1ゲノムの概略図である。
【図1B】図1Bは、US10、US11およびUS12(ICP47)に関するオーバーラップしている3'共末端転写物の位置を示すICP47遺伝子座の拡大地図である。
【図1C】図1Cは、ICP47領域を包含しているHSV-1 BamHI x断片に由来する1818塩基対のBamHI-EcoRI断片を含有したプラスミドpIE12の概略図である(Johnsonら、J.Virology 68(10):6347-6362,1994))。さらに後述されるように、このプラスミドは、ウイルスゲノムのICP47遺伝子座へ修飾を導入するために使用されうる。
【図1D】図1Dは、示されたBstEII部位とNruI部位との間の312塩基対を欠失させることによりpIE12より派生したプラスミドpIE12Δの概略図である。このプラスミドは、γ34.5サプレッサー変異体R47ΔおよびG47Δを作製するために使用された。
【図1E】図1Eは、ICP47コーディング領域の3'末端の詳細の概略図である。配列は、γ34.5サプレッサー機能が生成するよう後期US11遺伝子の時間的な制御を変化させ、かつ/またはICP47遺伝子産物の機能的な発現を防止する目的のため、BstEII部位とNruI部位との間の配列を妨害することなく、示されたBstEII部位に挿入されうる。
【図2】図2は、G47Δの構造の概略図である。図2Aは、G47Δにおいて修飾された領域を示すHSV-1ゲノムの概略である。HSV-1ゲノムは、各々末端(T)および内部(I)のリピート領域(RLおよびRS)を境界とする、長い特有の領域および短い特有の領域(ULおよびUS)からなる。親ウイルスG207は、γ34.5遺伝子の両コピー内の1キロ塩基を欠失させ、ICP6コーディング領域に大腸菌lacZ遺伝子を挿入することにより、野生型HSV-1株Fより改造された。G47Δは、示されるように、ICP47遺伝子座より312塩基対を欠失させることによりG207より派生した。図2Bは、オーバーラップしている3'共末端転写物(US10、US11、およびICP47)、オープンリーディングフレーム(太い矢)、ならびにICP47スプライスジャンクション(^)の位置を示すICP47遺伝子座の地図である。図2Cは、示された隣接配列を含む、相同的組み換えによって欠失を作製するために使用されたプラスミドpIE12Δの地図である。US11は、野生型HSV-1においては真性後期遺伝子として制御されているが、示されたBstEII部位とEcoNI部位との間の欠失は、US11を、ICP47前初期プロモーターの調節下に置く。制限部位の略号は、BがBamHI、BsがBstEII、EがEcoRI、ENがEcoNI、NrがNruIである。
【図3】様々な細胞系統における複製能を有するHSV-1変異体のウイルス収量を示すグラフである。細胞を5×105個/ウェルで6穴プレートに播いた。3連のウェルに、0.01のMOIで、R3616、R47Δ、G207、G47Δ、または株Fを感染させた。感染後24時間で細胞を培地中に剥離し、子孫ウイルスをベロ細胞上で力価測定した。試験された全ての細胞系統において、G47ΔはG207より有意に高い複製能力を示した。結果は、3連の平均±SDを表す。
【図4】インビトロにおけるG47Δの細胞変性効果を示す一連のグラフである。細胞を2×105個/ウェルで6穴プレートに接種した。24時間のインキュベーションの後、細胞に、0.01または0.1のMOIでG207またはG47Δを感染させるか、またはウイルスなし(対照)で処理した。生存細胞の数を毎日計数し、偽感染対照に対する割合として表した。G47Δは、3個のヒト腫瘍細胞系統(U87MGならびに黒色腫624および888)全てにおいて、0.01のMOIで、そしてNeuro2aマウス神経芽細胞腫細胞においても、0.1のMOIで、G207より有意に強い細胞変性効果を示した。結果は、3連の平均±SDである。*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001、G207対G47Δ、独立t検定。
【図5A】図5A〜図5A(図5)は、G47Δが感染宿主細胞におけるMHCクラスI発現の下方制御を排除することを示す一連のグラフである。図5Aは、HSV-1(MOI=3)による感染後48時間でのDetroit 551ヒト繊維芽細胞におけるMHCクラスI発現のフローサイトメトリー分析のグラフである。完全なα47遺伝子を有するHSV(野生型株FおよびG207)は、全て、MHCクラスI発現を有意に下方制御したが、G47Δは下方制御を完全に排除した。
【図5B】図5Bは、HSV-1を感染させたDetroit 551細胞におけるMHCクラスI下方制御の時系列を示すグラフである。各ウイルスについて、フローサイトメトリーによって分析された感染後6時間、24時間、または48時間でのMHCクラスI発現のピーク値が、各時点における偽感染細胞(対照)のピーク値に対する割合として表されている。G207およびR3616によるMHCクラスI下方制御は、時間依存的に起こった。α47欠失変異体(G47ΔおよびR47Δ)とα47完全ウイルスとの間のMHCクラスI発現の解離は、感染後24〜48時間で明白になった。
【図5C】図5Cは、G207およびG47Δによる感染後24時間でのヒト黒色腫細胞系統におけるMHCクラスI発現のフローサイトメトリー分析を示す一連のグラフである。G47Δは、黒色腫1102および938におけるMHCクラスI下方制御の部分的な排除を引き起こし、G207より大きなMHCクラスI発現をもたらした。
【図6】G47Δ感染腫瘍細胞がG207感染腫瘍細胞より大きくT細胞を刺激することを示す一連のグラフである。ヒト黒色腫細胞に、MOI=3で、偽(ウイルスなし)、G207、またはG47Δを感染させ、3〜6時間後に、同数の応答性ヒトT細胞と18時間共培養した。T細胞刺激は、条件培地へのIFN-γ放出の増加によって査定した。G47Δ感染黒色腫1102細胞は、G207感染1102細胞と比較して、TIL888細胞の有意に大きな刺激を引き起こした(p<0.01、独立t検定)。G47Δ感染938黒色腫細胞も、TIL1413細胞を刺激したが、改良は、G207感染938細胞と比較して統計的に有意ではなかった(p=0.1、独立t検定)。G207感染黒色腫888細胞もG47Δ感染黒色腫888細胞も、TIL888細胞の有意な刺激を引き起こさなかった。
【図7】G47ΔがインビボでG207より大きな抗腫瘍効力を示すことを示すグラフセットである。U87MGヒト神経膠腫(左)またはNeuro2aマウス神経芽細胞腫(右)の皮下腫瘍を、それぞれ6週齢雌無胸腺マウスまたは6週齢雌A/Jマウスにおいて作製した。直径およそ6mmの確立された腫瘍には、0日目および3日目に、G207もしくはG47Δ(1×106pfu)または偽(10%グリセロールを含むPBS)を接種した。G47Δ処理は、両腫瘍モデルにおいてG207より有意に効力が高く、より小さな平均腫瘍体積をもたらした(U87MGに関しては24日目でp<0.05、Neuro2aに関しては15日目でp<0.001、G207対G47Δ、独立t検定)。
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、ウイルスおよび治療法におけるそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)ベクターのような、複製能を有するウイルスベクターの使用は、腫瘍療法のための魅力的な戦略であるが、それは、そのようなウイルスが、インサイチューで複製し蔓延し、直接的な細胞変性効果によって腫瘍退縮活性を示すことができるためである(Kirn,J.Clin.Invest.105:837-839,2000)。形質転換細胞にベクターの複製を制限し、疾患を引き起こさないようにするため、神経毒性および/またはウイルスDNA合成に関連した遺伝子の変異を有する腫瘍退縮性HSV-1ベクターが、多数、開発されている(Martuza, J. Clin. Invest. 105:841-846, 2000)。
【0003】
臨床使用のためのウイルスベクターの設計においては、充分な安全措置を利用することが必要である。G207は、野生型HSV-1株Fに由来する腫瘍退縮性HSV-1ベクターである(Minetaら、Nat. Med. 1:938-943, 1995)。それは、HSV神経毒性の主要決定基であるγ34.5遺伝子の両コピー中の欠失、および感染細胞タンパク質6(infected-cell protein 6、ICP6)をコードするUL39への大腸菌lacZ遺伝子の不活化挿入を有する(Minetaら、Nat. Med. 1:938-943, 1995)。ICP6は、分裂細胞ではなく非分裂細胞におけるヌクレオチド代謝およびウイルスDNA合成のための重要酵素であるリボヌクレオチドレダクターゼの大サブユニットである(Goldsteinら、J. Virol. 62:196-205, 1988)。ICP34.5は、HSV神経毒性の主要決定基であることに加え(Chouら、Science 250:1262-1266, 1990)、ウイルス感染に応答して宿主細胞により誘導されるタンパク質合成のシャットオフを阻止することによっても機能する(Chouら、Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 89:3266-3270, 1992)。これは、多くの腫瘍細胞型において観察されるが、野生型HSVと比較してγ34.5-変異体の増殖の効率が低い原因となっている可能性が高い(McKieら、Br. J. Cancer 74:745-752, 1996;Andreanskyら、Cancer Res. 57:1502-1509, 1997;Chambersら、Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 92:1411-1415, 1995)。この二重変異により、野生型への復帰の機会が極めて低くなり、腫瘍細胞において優先的に複製され、神経毒性が減弱し、およびガンシクロビル/アシクロビル過敏になるといった重要な利点が付与される。G207は、培養物、および皮下または頭蓋内に腫瘍を保有しているマウスにおいて、複数の型の腫瘍細胞を効率的に死滅させる(Minetaら、Nat. Med. 1:938-943, 1995;Yazakiら、Cancer Res. 55:4752-4756, 1995;Todaら、Hum. Gene Ther. 9:2177-2185,1998;Todoら、Hum. Gene Ther.10:2741-2755, 1999;Chahlaviら、Neoplasia1:162-169,1999;Koobyら、FASEB J. 13:1325-1334, 1999;Leeら、J.Gastrointest. Surg. 3:127-133, 1999)。免疫適格マウスのいくつかの同系腫瘍モデルにおいて、G207の新生物内接種によって引き起こされた腫瘍退縮は、全身免疫応答および腫瘍特異的な細胞障害性Tリンパ球を誘発した(Todoら、Hum. Gene Ther. 10:2741-2755, 1999;Todaら、Hum. Gene Ther. 10:385-393, 1999;Todoら、Hum. Gene Ther.10:2869-2878, 1999)。
【0004】
HSV-1感受性のマウスまたはヒト以外の霊長類の脳に注射された場合、G207は、ごくわずかの毒性を有する(Hunterら、J. Virol. 73:6319-6326, 1999;Sundaresanら、J. Virol. 74:3832-3841, 2000;Todoら、Mol. Ther. 2:588-595, 2000)。最近、G207は、再発性悪性神経膠腫を有する患者において検討されており(Markertら、Gene Ther. 7:867-874, 2000)、この第一相臨床試験からの結果は、G207の脳内接種が、試験された最高の用量である3×109プラーク形成単位(pfu)までの用量では安全であることを示している。腫瘍退縮性ウイルスの使用は、癌療法のための有望なアプローチであるが、治療での利益は、用量および投与経路、腫瘍内のウイルス複製の程度、ならびに宿主の免疫応答に依存する可能性が高いであろう。
【0005】
HSV-1感染は、感染宿主細胞表面上の主要組織適合性抗原(MHC)クラスI発現の下方制御を引き起こす(Jenningsら、J. Virol. 56:757-766, 1985;Hillら、J. Immunol. 152:2736-2741,1994)。ICP47の抗原提示関連トランスポーター(TAP)との結合が、小胞体における抗原ペプチド輸送およびMHCクラスI分子の負荷を阻止する(Yorkら、Cell 77:525-535, 1994;Hillら、Nature 375:411-415, 1995;Fruhら、Nature 375:415-418, 1995)。大型哺乳動物由来のTAPに対するICP47の結合は種特異であり(Jugovicら、J. Virol. 72:5076-5084,1998)、マウスTAPに対する親和性は、ヒトTAPに対するものより約100倍低い(Ahnら、EMBO J. 15:3247-3255, 1996)。
【発明の開示】
【0006】
発明の概要
本発明は、ウイルスのBamHI x断片のBstEII-EcoNI断片内の変異を含んでいる単純ヘルペスウイルス(例えば、HSV-1ウイルス)を提供する。これらのウイルスは、例えば、ウイルスのγ34.5神経毒性遺伝子座の不活化変異および/またはウイルスのICP6遺伝子座の不活化変異を含んでいてもよい。
【0007】
ウイルスのγ34.5神経毒性遺伝子座の不活化変異の非存在下で、ウイルスのICP47遺伝子座の不活化変異を含んでいる単純ヘルペスウイルス(例えば、HSV-1ウイルス)も本発明に含まれる。場合により、これらのウイルスは、ウイルスのICP6遺伝子座の不活化変異を含んでいてもよい。
【0008】
本発明は、ヘルペスウイルスのICP47遺伝子座の不活化変異を含んでいるヘルペスウイルスを患者へ投与することを含む、患者において癌に対する全身免疫応答を誘導する方法も提供する。ヘルペスウイルスは、例えば患者の腫瘍へ投与され得る。さらに、患者は、転移性癌を有しているか、または転移性癌を発症するリスクを有しているものであってよく、治療は、そのような癌を治療または予防するために実施され得る。ヘルペスウイルスのICP47遺伝子座の不活化変異は、例えばウイルスのBamHI x断片のBstEII-EcoNI断片に存在しうる。場合により、ウイルスは、ヘルペスウイルスのγ34.5神経毒性遺伝子座の不活化変異および/またはヘルペスウイルスのICP6遺伝子座の不活化変異を含んでいてもよい。
【0009】
本発明は、ウイルスのBamHI x断片のICP47不活化変異の非存在下で、ウイルスのγ34.5神経毒性遺伝子座を不活化する第一の変異とUS11の初期発現をもたらす第二の変異とを含んでいるヘルペスウイルスも提供する。US11の初期発現は、例えば、US11遺伝子より上流にプロモーターを挿入することにより、または初期発現プロモーターの調節下にあるUS11遺伝子をウイルスのゲノムへ挿入することにより達成されうる。ウイルスは、ウイルスのBamHI x断片の変異の非存在下で、ICP47発現の下方制御をもたらす変異を含んでいてもよい。ICP47の下方制御は、例えば、ICP47プロモーター中の欠失、もしくはICP47プロモーターの不活化、またはICP47の機能的な発現を防止するペプチドとのICP47の融合によるものであり得る。
【0010】
本発明は、ウイルスのBamHI x断片の変異の非存在下で、ウイルスのγ34.5神経毒性遺伝子座を不活化する第一の変異とICP47発現の下方制御をもたらす第二の変異とを含んでいるヘルペスウイルスも含む。ICP47の下方制御は、例えば、ICP47プロモーター中の欠失、もしくはICP47プロモーターの不活化、またはICP47の機能的な発現を防止するペプチドとのICP47の融合によるものであり得る。
【0011】
上記のウイルスは、野生型への復帰を防止するための付加的な変異(例えば、ICP6遺伝子座の変異)を含んでいてもよい。ウイルスは、場合により、ワクチン抗原または免疫調整タンパク質のような異種遺伝子産物をコードする配列を含んでいてもよい。本明細書に記載のウイルスは、単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)のような単純ヘルペスウイルス(HSV)であり得る。
【0012】
本発明は、本明細書に記載されたウイルスのうちの任意のものと、薬学的に許容される担体、アジュバント、または希釈剤とを含む薬学的組成物、およびそのような薬学的組成物を患者へ投与することを含む、患者において癌を治療する方法をさらに提供する。そのような薬学的組成物を患者へ投与することを含む、感染性疾患、癌、または自己免疫疾患に対して患者を免疫感作する方法も本発明に含まれる。
【0013】
本発明はいくつかの利点を提供する。例えば、本発明のウイルスは、体内の他の細胞には影響を与えることなく、癌細胞のような分裂細胞において複製し、従ってそれらを破壊する。ICP47が欠失している本発明のウイルスの付加的な利点は、そのようなウイルスによって誘導される免疫応答は増強されており、より優れた抗腫瘍免疫応答がもたらされるという点である。本発明のウイルスはまた、複数の変異を含んでおり、それは野生型へ復帰の可能性を排除する。さらに、本発明のウイルスは、増強された複製を有し得るが、これには増加した毒性が伴わない。さらに、単純ヘルペスウイルスの複製は、ウイルスの複製を阻止するアシクロビルのような抗ウイルス薬の作用によって調節されうる。これらの特色のため、本発明のウイルスは、有効であるのみならず、安全でもある。
【0014】
本発明のその他の特色および利点は、以下の詳細な説明、図面、および特許請求の範囲より明白になろう。
【0015】
詳細な説明
本発明は、例えば癌の治療のような治療法において使用され得るウイルスを提供する。これらのウイルスは、分裂細胞(例えば、癌細胞)において複製し、従ってそれらを破壊するが、非分裂細胞においては実質的に複製せず、従って無毒であるため、この目的にとって特に好適である。本発明のウイルスは、例えば感染性疾患、癌、または自己免疫疾患の治療または予防のための免疫感作法においても使用され得る。本発明のウイルスの多くの有利な特色は、腫瘍細胞の溶解を直接的に引き起こすことに加え、腫瘍に対する全身免疫応答を誘導するという点である。従って、これらのウイルスは、それらが直接投与され得る特定の腫瘍を治療するために使用され得るのみならず、癌転移を予防または治療するためにも使用されうる。
【0016】
本発明のウイルスのいくつかは、ウイルスのICP47遺伝子座の不活化変異を含んでいる単純ヘルペスウイルス(HSV)である。この変異は、例えば、HSV-1のBamHI x断片のBstEII部位とEcoNI部位との間に起こり得て、例えばBstEII-ExoNI断片の欠失を含み得る。場合により、BstEII部位とEcoNI部位との間に変異を含む単純ヘルペスウイルスは、付加的な変異を含んでいてもよい。例えば、そのようなウイルスは、ウイルスのγ34.5神経毒性決定遺伝子座の不活化変異、および/またはゲノムの他の場所、例えばICP6遺伝子座の不活化変異を含んでいてもよい。本発明は、γ34.5神経毒性遺伝子座の不活化変異の非存在下で、ICP47遺伝子座の不活化変異を含んでいる単純ヘルペスウイルスも含む。場合により、そのようなウイルスは、もう一つの非γ34.5神経毒性遺伝子座、例えばICP6遺伝子座の不活化変異を含んでいてもよい。
【0017】
本発明は、毒性遺伝子の不活化変異を含んでいる、単純ヘルペス(HSVウイルス)、例えばHSV-1(例えば、HSV-1株Fもしくは株Patton)またはHSV-2のようなヘルペスウイルスに基づく付加的なウイルスを含む。単純ヘルペスウイルスの場合、この変異は、主要HSV神経毒性決定基であるγ34.5遺伝子の不活化変異であり得る(本発明に含まれるウイルスの例の構築に関する詳細については、例えば図1を参照されたい)。
【0018】
一つの例において、本発明のウイルスは、γ34.5変異に加え、ベクターのBamHI x断片のICP-47不活化変異の非存在下で、US11の初期発現をもたらす修飾を含んでいてもよい。US11は、通常、発現のためにDNA複製を必要とする真性後期(true-late)遺伝子として発現される。しかしながら、本発明のウイルスのいくつかにおけるUS11の初期発現は、PKRにより媒介されるタンパク質合成のシャットオフを防止することにより、γ34.5欠陥を補償することができる(例えば、図1E参照)。そのようなウイルスにおけるUS11の初期発現は、例えばUS11遺伝子の上流に初期作用プロモーターを挿入することによって達成され得る(図1E)。そのようなプロモーターには、例えば、ヒトサイトメガロウイルス(CMV)IEプロモーター、HSV-1 IEプロモーター、HSV-1 Eプロモーター、またはHSV-1ゲノムにおけるDNA複製の開始前に活性なその他の異種プロモーターが含まれ得る(例えば、下記参照)。本発明に含まれるUS11の初期発現を達成するための別のアプローチは、例えば前掲したように、感染初期に活性な任意の適当なプロモーターの調節下で、外因性のUS11遺伝子のコピーをウイルスゲノムの他の場所に挿入することを含む。
【0019】
本発明に含まれる付加的なHSVに基づくウイルスは、ウイルスのBamHI x断片の変異の非存在下で、γ34.5遺伝子座の不活化変異に加え、ICP47発現の下方制御をもたらす第二の修飾を含んでいる。そのようなウイルスの一例においては、ICP47コーディング配列は、ICP47の機能的な発現を防止するペプチドをコードする配列と融合させる(例えば、図1E参照)。そのようなペプチドには、例えば、プロリン(P)、グルタミン酸(E)、セリン(S)、およびトレオニン(T)に富んでおり、従って急速なタンパク質分解のための分子内シグナルを提供するPEST配列が含まれ得る(Rechsteinerら、Trends Biochem. Sci. 21(7):267-271,1996)。そのような毒配列は、US11を駆動する強力なプロモーターの上流、例えばBstEII部位において、ウイルスへと挿入され得る(図1E)。別のベクターにおいては、RNA分解を指図するシグナルが、ICP47 RNAの分解を指図するためにウイルスへと組み込まれる。
【0020】
本発明に含まれるその他のウイルスは、γ34.5遺伝子座の不活化変異に加え、2個の付加的な修飾を含み得る。第一の付加的な修飾は、US11の初期発現をもたらすものであり、第二の修飾は、ウイルスのBamHI x断片の変異の非存在下で、上記のようにICP47発現の下方制御をもたらすものである。そのようなウイルスの一例においては、初期発現プロモーターを、US11遺伝子の上流に挿入し、ICP47コーディング配列を、PEST配列のような毒配列をコードする配列と融合する(図1E)。
【0021】
以上およびその他の場所に記載されたウイルスのうちの任意のものが、ウイルスの野生型への復帰を防止するために作成された付加的な変異または修飾を含み得る。例えば、ウイルスは、リボヌクレオチドレダクターゼの大サブユニットをコードするICP6遺伝子の変異を含むことができる(下記参照)。本発明に含まれるウイルスの具体例、G47Δが、以下、さらに詳細に記載される。簡単に説明すると、このウイルスは、γ34.5遺伝子中の欠失、ICP6遺伝子の中の不活化挿入、およびICP47遺伝子中の312塩基対の欠失を含んでいる。
【0022】
本明細書に記載されたウイルスは、神経向性ヘルペスウイルス、Bリンパ球向性ヘルペスウイルス、またはTリンパ球向性ヘルペスウイルスのような任意のヘルペスウイルス科メンバーより作製され得る。例えば、HSV-1またはHSV-2のような単純ヘルペスウイルス(HSV)が使用され得る。または、以下のウイルス:水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)、ヘルペスウイルス6型(HSV-6)、エプスタインバーウイルス、サイトメガロウイルス、HHV6、およびHHV7のうちの任意のものが使用され得る。本明細書に記載された方法およびウイルスは、主としてHSV-1に関して記載されているが、これらの方法は、これらの他のウイルスのうちの任意のものに、当業者によって容易に適用され得る。
【0023】
前述のように、本発明のウイルスは、癌細胞のような分裂細胞において複製し、従ってそれらを破壊するが、その他の細胞にとっては無毒であるため、癌を治療するために使用され得る。本発明に従い破壊されうる癌細胞の例には、神経系型腫瘍の癌細胞、例えば星状細胞腫、乏突起膠腫、髄膜腫、神経繊維腫、神経膠芽腫、上衣腫、神経鞘腫、神経繊維肉腫、神経芽細胞腫、下垂体部腫瘍(例えば、下垂体腺腫)、および髄芽細胞腫の細胞が含まれる。本発明によって死滅させられうるその他の腫瘍細胞型には、例えば黒色腫、前立腺癌、腎細胞癌、膵臓癌、乳癌、肺癌、結腸癌、胃癌、繊維肉腫、扁平上皮癌、神経外胚葉(neurectodermal)、甲状腺腫瘍、リンパ腫、肝細胞腫、中皮腫、および類表皮癌の細胞、ならびに本明細書において言及されたその他の癌細胞が含まれる。前述のように、癌に対する全身免疫応答を誘導する本発明のウイルスは、癌転移を予防または治療するためにも使用され得る。
【0024】
標的細胞の死滅が望ましいその他の治療的適用には、例えば、いぼの原因であるケラチノサイトおよび上皮細胞の切除、機能亢進性の器官(例えば、甲状腺)の細胞の切除、肥満患者の脂肪細胞の切除、良性腫瘍(例えば、甲状腺の良性腫瘍または良性前立腺肥大症)の切除、先端肥大症を治療するための成長ホルモン産生下垂体前葉細胞の切除、プロラクチンの産生を止めるための乳腺刺激ホルモン産生細胞の切除、クッシング病を治療するためのACTH産生細胞の切除、クロム親和細胞腫を治療するための副腎髄質のエピネフリン産生クロム親和細胞の切除、ならびに膵島細胞腺腫を治療するためのインシュリン産生β島細胞の切除が含まれる。本発明のウイルスは、これらの適用において同様に使用され得る。
【0025】
ウイルスが、1個以上の治療用産物、例えば細胞毒素、免疫調整タンパク質(即ち、抗原に対する宿主免疫応答を増強もしくは抑制するタンパク質)、腫瘍抗原、アンチセンスRNA分子、またはリボザイムをコードする異種核酸配列も含有している場合、本発明のウイルスの効果は、強化され得る。免疫調整タンパク質の例には、例えば、サイトカイン(例えば、インターロイキン、例えば、インターロイキン1〜15のうちのいずれか、α、β、またはγ-インターフェロン、腫瘍壊死因子、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、マクロファージコロニー刺激因子(M-CSF)、および顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF))、ケモカイン(例えば、好中球活性化タンパク質(NAP)、マクロファージ化学誘引活性化因子(macrophage chemoattractant and activating factor)(MCAF)、RANTES、ならびにマクロファージ炎症性ペプチドMIP-1aおよびMIP-1b)、補体成分およびそれらの受容体、免疫系アクセサリー分子(例えば、B7.1およびB7.2)、接着分子(例えば、ICAM-1、2、および3)、ならびに接着受容体分子が含まれる。本発明の方法を使用して作製され得る腫瘍抗原の例には、例えば、ヒトパピローマウイルスのE6抗原およびE7抗原、EBV由来タンパク質(Van der Bruggenら、Science 254:1643-1647,1991)、MUC1(Burchellら、Int. J. Cancer 44:691-696,1989)のようなムチン(Livingstonら、Curr. Opin. Immun. 4(5):624-629,1992)、黒色腫チロシナーゼ、ならびにMZ2-E(Van der Bruggenら、上記)が含まれる。(腫瘍抗原またはサイトカインをコードする遺伝子を含めるためのウイルスの修飾のさらなる説明に関しては、国際公開広報第94/16716号を参照のこと。)
【0026】
前述のように、治療用産物は、ハイブリダイゼーション相互作用によって、細胞または病原体のmRNAの発現を阻止するために使用され得るアンチセンスRNA分子のようなRNA分子であってもよい。または、RNA分子は、欠損細胞RNAを修復するか、または不要な細胞もしくは病原体によってコードされたRNAを破壊するために設計されたリボザイム(例えば、ハンマーヘッド型もしくはヘアピン型のリボザイム)であってもよい(例えば、Sullenger,Chem.Biol.2(5):249-253,1995;Czubaykoら、Gene Ther.4(9):943-949, 1997;Rossi, Ciba Found. Symp. 209:195-204,1997;Jamesら、Blood 91(2):371-382,1998;Sullenger, Cytokines Mol.Ther.2(3):201-205,1996;Hampel, Prog. Nucleic Acid Res. Mol. Bio. 58:1-39,1998;Curcioら、Pharmacol.Ther.74(3):317-332, 1997参照)。
【0027】
異種核酸配列は、それがウイルスの制御配列の調節下に置かれるような位置において、本発明のウイルスへと挿入されうる。または、異種核酸配列は、プロモーターまたはエンハンサーのような制御エレメントを含んでいる発現カセットの一部として挿入されてもよい。適切な制御エレメントは、例えば所望の組織特異性および発現レベルに基づき、当業者によって選択され得る。例えば、細胞型特異的または腫瘍特異的なプロモーターは、遺伝子産物の発現を特定の細胞型へと制限するために使用され得る。例えば、細胞毒性、免疫調整性、または腫瘍抗原性の遺伝子産物が、破壊を容易にするために腫瘍細胞において産生される場合、これは特に有用である。組織特異的プロモーターの使用に加え、本発明のウイルスの局所投与は、局限された発現および効果をもたらすことができる。
【0028】
本発明において使用され得る非組織特異的プロモーターの例には、初期サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター(米国特許第4,168,062号)およびラウス肉腫ウイルスプロモーター(Nortonら、Molec.Cell.Biol.5:281,1985)が含まれる。また、HSV-1 IEプロモーターおよびIE 4/5プロモーターのようなHSVプロモーターも使用され得る。
【0029】
本発明において使用され得る組織特異的プロモーターの例には、例えば、前立腺の細胞に特異的な前立腺特異抗原(PSA)プロモーター;筋細胞に特異的なデスミンプロモーター(Liら、Gene 78:243, 1989;Liら、J. Biol. Chem. 266:6562, 1991;Liら、J. Biol. Chem. 268:10403, 1993);ニューロンに特異的なエノラーゼプロモーター(Forss-Petterら、J. Neuroscience Res.16(1):141-156, 1986);赤血球に特異的なβ-グロビンプロモーター(Townesら、EMBO J.4:1715,1985);やはり赤血球に特異的なτ-グロビン(tau-globin)プロモーター(Brinsterら、Nature 283:499, 1980);下垂体細胞に特異的な成長ホルモンプロモーター(Behringerら、Genes Dev.2:453, 1988);膵臓β細胞に特異的なインスリンプロモーター(Seldenら、Nature 321:545, 1986);星状細胞に特異的なグリア細胞繊維性酸性タンパク質プロモーター(Brennerら、J. Neurosci. 14:1030, 1994);カテコールアミン作動性ニューロンに特異的なチロシンヒドロキシラーゼプロモーター(Kimら、J. Biol. Chem. 268:15689, 1993);ニューロンに特異的なアミロイド前駆タンパク質プロモーター(Salbaumら、EMBO J.7:2807, 1988);ノルアドレナリン作動性ニューロンおよびアドレナリン作動性ニューロンに特異的なドーパミンβ-ヒドロキシラーゼプロモーター(Hoyleら、J. Neurosci. 14:2455, 1994);セロトニン/松果体細胞に特異的なトリプトファンヒドロキシラーゼプロモーター(Boularandら、J.Biol.Chem.270:3757,1995);コリン作動性ニューロンに特異的なコリンアセチルトランスフェラーゼプロモーター(Hershら、J. Neurochem. 61:306, 1993);カテコールアミン作動性/5-HT/D型細胞に特異的な芳香族L-アミノ酸デカルボキシラーゼ(AADC)プロモーター(Thaiら、Mol. Brain Res.17:227,1993);ニューロン/精子形成精巣上体細胞に特異的なプロエンケファリンプロモーター(Borsookら、Mol. Endocrinol. 6:1502, 1992);結腸および直腸の腫瘍ならびに膵臓および腎臓の細胞に特異的なreg(膵臓結石タンパク質(pancreatic stone protein))プロモーター(Watanabeら、J. Biol. Chem. 265:7432, 1990);ならびに肝臓および盲腸の腫瘍、および神経鞘腫、腎臓、膵臓、および副腎の細胞に特異的な副甲状腺ホルモン関連ペプチド(PTHrP)プロモーター(Camposら、Mol. Rnfovtinol. 6:1642, 1992)が含まれる。
【0030】
腫瘍細胞において特異的に機能するプロモーターの例には、乳癌細胞に特異的なストロメライシン3プロモーター(Bassetら、Nature 348:699, 1990);非小細胞肺癌細胞に特異的なサーファクタントタンパク質Aプロモーター(Smithら、Hum. Gene Ther.5:29-35,1994);SLPI発現癌腫に特異的な分泌性ロイコプロテアーゼインヒビター(SLPI)プロモーター(Garverら、Gene Ther. 1:46-50, 1994);黒色腫細胞に特異的なチロシナーゼプロモーター(Vileら、Gene Therapy 1:307,1994;国際公開広報第94/16557号;国際公開広報第93/GB1730号);繊維肉腫/腫瘍原性細胞に特異的なストレス誘導可能grp78/BiPプロモーター(Gazitら、Cancer Res. 55(8):1660, 1995);脂肪細胞に特異的なAP2アジポース(adipose)エンハンサー(Graves, J. Cell. Biochem. 49:219, 1992);肝細胞に特異的なα-1アンチトリプシントランスチレチンプロモーター(Graysonら、Science 239:786, 1988);多形神経膠芽腫細胞に特異的なインターロイキン-10プロモーター(Nittaら、Brain Res. 649:122, 1994);膵細胞、乳房細胞、胃細胞、卵巣細胞、および非小細胞肺癌細胞に特異的なc-erbB-2プロモーター(Harrisら、Gene Ther.1:170,1994);脳腫瘍細胞に特異的なα-B-クリスタリン/熱ショックタンパク質27プロモーター(Aoyamaら、Int. J. Cancer 55:760,1993);神経膠腫および髄膜腫の細胞に特異的な塩基性繊維芽細胞増殖因子プロモーター(Shibataら、Growth Fact.4:277,1991);扁平上皮癌、神経膠腫、および乳房腫瘍の細胞に特異的な上皮増殖因子受容体プロモーター(Ishiiら、Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 90:282,1993);乳癌細胞に特異的なムチン様糖タンパク質(DF3、MUC1)プロモーター(Abeら、Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 90:282, 1993);転移性腫瘍に特異的なmts1プロモーター(Tulchinskyら、Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 89:9146,1992);小細胞肺癌細胞に特異的なNSEプロモーター(Forss-Petterら、Neuron 5:187,1990);小細胞肺癌細胞に特異的なソマトスタチン受容体プロモーター(Bombardieriら、Eur. J. Cancer 31A:184,1995;Kohら、Int. J. Cancer 60:843,1995);乳癌細胞に特異的なc-erbB-3プロモーターおよびc-erbB-2プロモーター(Quinら、Histopathology 25:247,1994);乳癌および胃癌の細胞に特異的なc-erbB4プロモーター(Rajkumarら、Breast Cancer Res. Trends 29:3,1994);甲状腺癌細胞に特異的なチログロブリンプロモーター(Mariottiら、J. Clin. Endocrinol. Meth. 80:468,1995);肝細胞癌細胞に特異的なα-フェトプロテインプロモーター(Zuibelら、J.Cell.Phys.162:36,1995);胃癌細胞に特異的なビリンプロモーター(Osbornら、Virchows Arch. A. Pathol. Anat. Histopathol. 413:303, 1988);ならびに肝細胞癌細胞に特異的なアルブミンプロモーター(Huber, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 88:8099,1991)が含まれる。
【0031】
前述のように、本発明のウイルスは、例えば、細胞を死滅させるため、かつ/または細胞へ治療用遺伝子産物を導入するため、インビボの方法において使用されうる。これらの方法を実施するため、本発明のウイルスは、医学において使用されている任意の従来の経路により投与されうる。例えば、本発明のウイルスは、例えば直接注射または外科的方法により、効果、例えば細胞死滅および/または治療用遺伝子発現が望まれる組織へと直接投与され得る(例えば、脳腫瘍への定位注射;Pellegrinoら、Methods in Psychobiology(Academic Press, New York, New York,67-90, 1971))。ベクターを脳へ投与するために使用され得るさらなる方法は、Boboら(Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 91:2076-2080, 1994)およびMorrisonら(Am. J. Physiol. 266:292-305, 1994)によって記載された対流法である。腫瘍治療の場合には、直接腫瘍注射の代わりに、腫瘍を除去するための手術を実施し、残存している腫瘍細胞の破壊を保証するために、切除された腫瘍床へと本発明のベクターを接種することが可能である。または、ベクターは、非経口経路を介して、例えば、静脈内、動脈内、脳室内、皮下、腹腔内、皮内、表皮内、筋肉内の経路により、または粘膜表面、例えば、眼、鼻腔内、肺、口腔、腸、直腸、膣、尿路の表面を介して投与されうる。
【0032】
ヒトのような哺乳動物の体内の細胞へウイルスを導入するための多数の周知の製剤のうちの任意のものが、本発明において使用され得る(例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences(第18版)A. Gennaro編、1990年、Mack Publishing Co., Easton, PA.を参照されたい)。しかしながら、ウイルスは、アジュバントまたは担体を含むか、または含まない無菌生理食塩水または無菌緩衝生理食塩水のような生理学的に許容される溶液で単に希釈されてもよい。
【0033】
投与すべきウイルスの量は、例えば、達成すべき特定の目標、ウイルス内に使用されているプロモーターの強度、投与が意図される哺乳動物(例えば、ヒト)の条件(例えば、哺乳動物の体重、年齢、および全身状態)、投与の様式、ならびに製剤の種類に依存する。一般に、例えば約101〜1010プラーク形成単位(pfu)、例えば約5×104〜1×106pfu、例えば約1×105〜約4×105pfuという治療的または予防的に有効な用量。ただし、最も有効な範囲は、当業者によって容易に決定されうるように、宿主によって変動しうる。また、投与は、単回で達成されてもよいし、または当業者によって適切であると決定されたような間隔を置いて繰り返されてもよい。
【0034】
非必須α47遺伝子内の欠失によってG207より派生した、新たな、多重変異型の、複製能を有するHSV-1ウイルスである、G47Δと名付けられた本発明のウイルスの具体例が、以下に記載される(Mavromara-Nazosら、J. Virol. 60:807-812, 1986)。ICP47およびUS11をコードする転写物がオーバーラップしているため(図2B)、α47中の欠失はまた、後期US11遺伝子を前初期α47プロモーターの調節下に置く。これは、タンパク質合成のシャットオフを排除することにより、γ34.5-変異体の増殖特性を増強する(Mohrら、EMBO J. 15:4759-4766, 1996;Heら、J. Virol. 71:6049-6054, 1997;Cassadyら、J. Virol. 72:7005-7011,1998;Cassadyら、J. Virol. 72:8620-8626, 1998)。にも関わらず、本発明者らは、G47Δが、2×106pfuでA/Jマウスの脳へと接種された場合に、現在ヒトにおける臨床試験中にあるG207と同じくらい安全であることを見出した。本発明者らは、G47Δを感染させたヒト黒色腫細胞が、G207を感染させたものより、対応する腫瘍浸潤リンパ球(TIL)を刺激する効果が高かったこと、G47Δが、培養腫瘍細胞において増強された複製を示したこと、ならびにG47Δが、試験されたヒト異種移植片およびマウス同系腫瘍モデルの両方において腫瘍増殖を阻害する効力がG207より高かったことを本明細書に示す。当結果は、G47Δが腫瘍療法に使用されうることを示している。このウイルスおよびその特性のさらなる詳細を以下に提供する。
【0035】
実験結果
G47Δの構築および複製
G47Δは、TRSに隣接しているUS領域の312塩基対をG207から欠失させることにより構築された(図2)。G47Δ DNAのサザンブロット分析によって、α47遺伝子の中の0.3kbの欠失およびγ34.5遺伝子の中の1kbの欠失の存在が確認された。α47遺伝子座中の同じ欠失を有するR47Δは、活性リボヌクレオチドレダクターゼを有するG207の親ウイルスR3616(Chouら、Science 250:1262-1266, 1990)より作製された。
【0036】
γ34.5欠損変異体(G207およびR3616)の増殖特性に対するα47欠失の効果を調査するため、本発明者らは、ヒト腫瘍細胞系統SK-N-SH(神経芽細胞腫)、U87MG(神経膠腫)、U373MG(神経膠腫)、ならびにSQ20B(頭頸部扁平上皮癌)の感染後の子孫ウイルスの収量を決定した。低MOIにおいて、感染後24時間までに、G47Δは、G207より高い収量を与え、およそ4〜1000倍の力価の増加をもたらした(図3)。U87MG細胞における一段階増殖実験(MOI=2)において、G47Δのウイルス収量は、G207よりも12倍大きかった。R47Δは、同様に、試験された全ての腫瘍細胞系統において親R3616より高い力価を与えたが、G47ΔもR47Δも、野生型親株Fほど良好には増殖しなかった。ウイルス収量が細胞密度によって影響を受けるか否かを決定するため、ベロ細胞およびSK-H-SH細胞を、正常密度または高密度(8×105または1.6×106細胞/ウェル)で播き、0.01のMOIで、株F、G207またはG47Δを感染させ、感染後48時間で採集した。G47Δにおいては、収量の減少したG207とは対照的に、高密度培養での収量がより高かった。ベロ細胞において比較的高い収量をもたらすG47Δの能力は、臨床使用のための高力価ストックの製造を容易にする。
【0037】
インビトロのG47Δの細胞変性効果
インビトロのG47Δの細胞溶解活性を、様々な神経冠由来腫瘍細胞系統において、G207と比較した。ヒト細胞系統U87MG、ならびに黒色腫624および888において、G47Δは、0.01という低いMOIで、G207より有意に迅速に腫瘍細胞を死滅させた(図4)。0.1のMOIでは、G207およびG47Δの両方が、感染から1〜3日以内に全ての細胞を死滅させた。マウス神経芽細胞腫細胞系統Neuro2aは、0.01のMOIでは、G207およびG47Δの両方による死滅に対して抵抗性であった。0.1のMOIでは、G47Δは、腫瘍細胞を破壊する効果がG207より有意に高く(図4)、その効果はN18マウス神経芽細胞腫細胞でも見られた。本発明者らは、マウス腫瘍細胞が、一般に、ヒト腫瘍細胞よりG207複製に対して抵抗性であることを見出している(Todoら、Hum. Gene Ther. 10:2741-2755, 1999;Todaら、Hum. Gene Ther. 10:385-393, 1999;Todoら、Cancer Res. 61:153-161, 2001)。
【0038】
G47Δ感染細胞におけるMHCクラスI発現
ICP47は、ヒト細胞において小胞体を横切るペプチドの移動におけるTAPの機能を阻害するが、マウスまたはラットの細胞においては阻害しない(Ahnら、EMBO J.15:3247-3255,1996;Tomazinら、J.Virol.72:2560-2563,1998)。G47ΔはICP47を欠いているため、感染細胞は、未感染細胞に典型的なMHCクラスI発現のレベルを有するはずである。本発明者らは、ヒトリンパ球抗原クラスI(HLA-1)に関するフローサイトメトリー分析を使用して、Detroit 551ヒト二倍体繊維芽細胞におけるMHCクラスI下方制御について検討した。感染後48時間には、完全α47遺伝子を含有しているHSV-1(株F、G207、およびR3616)を感染させた細胞は、全て、細胞表面MHCクラスIの減少を示し、偽感染対照細胞と比較しておよそ40%のピークレベルをもたらした(図5Aおよび5B)。対照的に、G47Δ感染細胞においては下方制御は存在しなかった(図5A)。R47Δ感染細胞におけるMHCクラスI発現は、株FまたはR3616を感染させた細胞より高く維持されていたが、G47Δと比較すると減少していた(偽感染ピークレベルのおよそ75%)。異なる時点(感染後6時間、24時間、および48時間)における研究では、ICP47発現感染細胞(G207およびR3616)と非発現感染細胞(G47ΔおよびR47Δ)との間のMHCクラスI下方制御の差が、感染後6時間までは明白にならないことが明らかにされた(図5B)。
【0039】
下方制御の排除は部分的であったが、G47Δによるヒト黒色腫細胞の感染も、G207による感染より高いレベルのMHCクラスI発現をもたらした。一般に、低レベルのMHCクラスIを有するもの(624、888、および1383)と比較して、より大きな効果が、高い基底レベルのMHCクラスIを有する細胞系統(938および1102)において観察された(図5C)。
【0040】
G47Δ感染ヒト黒色腫細胞はインビトロでヒトT細胞を刺激する
3個のヒト黒色腫細胞系統を、G47Δ感染後に対応するTIL系統を刺激する能力に関して試験した(888および1102とTIL888とで(Robbinsら、Cancer Res. 54:3124-3126, 1994)、938とTIL1413とで(Kangら、J. Immunol. 155:1343-1348, 1995))。最も高いレベルのMHCクラスI発現を有するG47Δ感染1102黒色腫細胞は、G207感染細胞と比較して、より優れたTIL細胞の刺激を引き起こし、41%多いIFN-γ分泌をもたらした(図6)。極めて低いレベルのMHCクラスI発現を有し、G47ΔまたはG207を感染させた888黒色腫細胞による、この同じTIL系統の刺激は、本質的に存在しなかった。G47Δ感染938黒色腫細胞は、TIL1413細胞を刺激し、統計的に有意ではないIFN-γ分泌の増加を引き起こした。結果は、G47Δ感染細胞において起こり得る、G207感染細胞よりも高いMHCクラスI発現が、T細胞刺激を増強し得ることを証明している。
【0041】
インビボのG47Δの抗腫瘍効力
ヒト異種移植片モデル、確立された皮下U87MG神経膠腫腫瘍(直径およそ6mm)を保有している無胸腺マウスにおいて、G207またはG47Δ(106pfu)を新生物内接種し、その3日後に第二の接種を行ったところ、U87MG腫瘍増殖の有意な減少が引き起こされた(それぞれ、対照に対してp<0.05およびp<0.001、24日目;独立t検定;図7)。G47Δ処理は、G207より有意に効力が高く、平均腫瘍体積が減少した(図7)。これは、動物の生存が延長したことと、および「治癒」(3ヶ月の追跡中に腫瘍が再増殖しなかった完全な腫瘍退行)の数とに反映された(表1)。試験された用量において、G207処理群では有意に生存が延長し(偽に対してp<0.05、ウィルコクソン検定)、G47Δ処理動物では、生存はさらに大きく延長した(G207に対してp<0.05、ウィルコクソン検定)。
【0042】
(表1) G47Δによる皮下腫瘍療法
*G207に対してp<0.05、†偽に対してp<0.001、フィッシャー検定
【0043】
免疫適格マウス腫瘍モデル、同系A/Jマウスにおける皮下の免疫原性の弱いNeuro2a神経芽細胞腫腫瘍において、G47Δの効力をさらに試験した。直径およそ6mmの確立された腫瘍に、0日目および3日目に、偽、G207、またはG47Δ(106pfu)を接種した。この場合にも、G207およびG47Δの両方が、Neuro2a腫瘍増殖の有意な減少を引き起こし(それぞれ対照に対してp<0.05およびp<0.001、15日目;独立t検定)、G47Δの効力はG207より大きかった(図7)。カプラン・マイヤー分析によって、この用量において、G207は、Neuro2a腫瘍保持A/Jマウスの生存を有意に延長せず、G47Δは、偽およびG207と比較して有意に動物の生存を延長することが証明された(それぞれp<0.01およびp<0.05、ウィルコクソン検定)。3.5ヶ月の追跡期間中、G47Δ処理マウスにおける「治癒」の数が増加した(統計的に有意ではない、フィッシャー検定;表1)。
【0044】
脳内接種によるG47Δの安全性
脳におけるG47Δの毒性を評価するために、A/Jマウスに、偽、株F(2×103pfu)、G207(2×106pfu)、またはG47(2×106pfu)を脳内接種した。この用量は、注射された体積においてG207に関して入手可能な最も高い用量であった。各マウスを、3週間、臨床的症候に関して毎日モニタリングした。8匹の偽接種マウスは、全て、異常な症候なしに生存していたが、10匹の株F接種マウスは、全て、急速に衰弱し、接種から7日以内に瀕死の状態となった。8匹のG207接種マウスおよび10匹のG47Δ接種マウスは、全て、生存していた。G207接種マウスのうちの2匹、および1匹のG47Δ接種マウスは、わずかに背を丸める現象(slight hunching)または外部刺激に対するわずかに鈍い応答を一時的に示した(接種後3〜6日目)。これは、この用量でA/Jマウスの脳に接種された場合、G47ΔがG207と同じくらい安全であることを示している。
【0045】
上記の結果は、以下の材料および方法を使用して得られた。
【0046】
材料および方法
細胞
ベロ(アフリカミドリザル腎臓)、SK-N-SH(ヒト神経芽細胞腫)、U87MG(ヒト神経膠腫)、U373MG(ヒト神経膠腫)、Neuro2a(マウス神経芽細胞腫)、およびDetroit 551(二倍体ヒト繊維芽細胞)細胞系統は、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(Rockville, MD)より購入した。SQ20B(頭頸部扁平上皮癌)細胞は、R. Weichselbaum博士(University of Chicago, Chicago, IL)より提供された。N18マウス神経芽細胞腫細胞は、K. Ikeda博士(Tokyo Institute of Psychiatry, Tokyo, Japan)より提供された。ヒト黒色腫細胞系統624、888、938、1102、および1383、ならびにヒトT細胞系統TIL888およびTIL1413は、J. Wunderlich博士(NIH, Bethesda, MD)より提供された。全ての腫瘍細胞を、10%ウシ胎仔血清(FCS)、2mMグルタミン、ペニシリン(100U/ml)、ストレプトマイシン(100μg/ml)、および2.5μg/mlファンギゾンが補足されたダルベッコ改変イーグル培地において維持した。ヒトT細胞は、10%ヒト血清(AB, Rh+型;Valley Biomedical Products, Winchester, VA)、インターロイキン2(600国際単位(IU)/ml、Chiron Corporation, Emeryville, CA)、ペニシリン(50U/ml)、および1.25μg/mlファンギゾンが補足されたAIM-V培地(Gibco BRL, Life Technologies, Rockville, MD)において維持した。
【0047】
G47Δの作製
プラスミドpIE12は、ICP47コーディング領域を包含しているHSV-1 BamHI x断片に由来する1818塩基対のBamHI-EcoRI断片を含有している(Johnsonら、J.Virol.68:6347-6362,1994)。BstEII部位とEcoNI部位との間のICP47コーディング領域を含有している312塩基対の断片を、pIE12より欠失させ、pIE12Δを作出した(図2C)。ベロ細胞を、1ウェル当たり1〜2×105個の密度で、6穴ディッシュに播いた。製造業者の指示に従い、lipofectAMINE(商標)(Life Technologies)8μlを用い、G207 DNA(Minetaら、Nat. Med. 1:938-943, 1995)とpIE12(完全)とBamHIおよびXhoIで切断したpIE12Δとの1:1:1混合物を含む1〜3μgのDNA濃度範囲を使用して、トランスフェクションを実施した。次いで、トランスフェクションからのウイルス子孫を、SK-N-SH細胞において2回継代し、以下のように、ICP47中の欠失を含有する組換え体に関して濃縮した。SK-N-SH細胞を、10cmディッシュ1枚当たり5×106個の密度で播き、翌日、細胞1個当たり0.01〜1pfuのMOIの範囲で感染させ、感染後時48間で採集した。次いで、この過程を繰り返した。pIE12Δ中の欠失は、ウイルス内にγ34.5の第二部位サプレッサー変異を作製し、それによりSK-N-SH細胞における組換え体の増殖を成功させるために設計された(Mohrら、EMBO J.15:4759-4766,1996)。SK-N-SH濃縮ストックからの個々のプラークを、アガロース・オーバーレイの下のベロ細胞上でプラーク精製し、サザンブロッティングによってICP47中の欠失の存在に関してスクリーニングした。ICP47欠失に関して均質である1個のプラークよりストックを調製し、G47Δと名付けた。G207 DNAの代わりにR3616(Chouら、Science 250:1262-1266, 1990)DNAを使用したこと以外は、同様にしてR47Δを構築した(R3616は、B. Roizman博士(University of Chicago, Chicago, IL)より提供された)。以前に記載されたようにして(Miyatakeら、J. Virol. 71:5124-5132, 1997)、ウイルス力価決定を実施した。
【0048】
ウイルス収量試験
細胞を、1ウェル当たり5×105個、8×105個、または1.6×106個、6穴プレートに播いた。播種後6〜8時間目に、3連または2連のウェルに、0.01のMOIでウイルスを感染させた。感染後24時間または48時間で細胞を培地中へと剥離し、3回の凍結−解凍サイクルによって溶解させた。以前に記載されたもの(Miyatakeら、J. Virol. 71:5124-5132, 1997)を修飾し、子孫ウイルスを力価測定した。簡単に説明すると、ベロ細胞を、8×105細胞/ウェルで6穴プレートに播いた。37℃における4〜8時間のインキュベーションの後、37℃で一晩、1mlの増殖培地中で細胞に感染させ、その後、0.4%ヒトIgG(ICN Pharmaceuticals)を含有する1mlの培地を添加した。ウェルを、さらに2日間、37℃でインキュベートし、メチレンブルー(70%メタノール中0.5%w/v)による染色の後にプラークの数を計数した。
【0049】
インビトロ細胞毒性試験
以前に記載されたもの(Todoら、Hum. Gene Ther. 10:2741-2755,1999)に、10%FCSを含有する培地において増殖させられたヒト黒色腫細胞のための修飾を加え、インビトロ細胞毒性試験を実施した。コールター(Coulter)カウンター(Beckman Coulter, Fullerton, CA)を用いて生存細胞の数を毎日計数し、偽感染対照に対する割合として表した。
【0050】
フローサイトメトリー分析
細胞を1×106個/ウェルで6穴プレートに播き、播種後24時間目にウイルスを感染させた(MOI=3)。細胞を、6時間、24時間、または48時間、39.5℃で、ガンシクロビル(200ng/ml)の存在下でインキュベートし、トリプシン処理によって採集し、2mlのPBSにより1回洗浄した。G207およびG47Δは、ICP4の中に温度感受性変異を含有しており、従って、37℃では複製することができるが、39.5℃では複製することができない(Minetaら、Nat. Med. 1:938-943,1995)。次いで、およそ5×105個の細胞を、FITC結合抗ヒトHLAクラスI抗原(クローンW6/32、Sigma, St. Louis, MO)を使用したフローサイトメトリー分析に使用し、以前に記載されたようにして実施した。
【0051】
ヒトT細胞刺激アッセイ
ヒト黒色腫細胞(888、938、または1102)を5×105個/ウェルで6穴プレートに播き、播種後24時間目にG207もしくはG47Δ(MOI=3)を感染させるか、またはウイルスなし(偽)で処理した。細胞を、3時間(888)または6時間(938および1102)、39.5℃で、10%FCSおよびガンシクロビル(200ng/ml)を含有する増殖培地の中でインキュベートした。次いで、細胞を剥離により採集し、一部を細胞計数に使用した。次いで、平底96穴プレートにおいて、ガンシクロビル(200ng/ml)を含有するAIM-V培地200μlの中で、感染黒色腫細胞(1×105)を、同数の応答性ヒトT細胞と共培養した。黒色腫888および1102はTIL888細胞と共培養し、黒色腫938はTIL1413細胞と共に培養した。TIL系統888および1413は、いずれも、HLA-A24拘束的に黒色腫抗原チロシナーゼを認識する(Robbinsら、Cancer Res. 54:3124-3126, 1994;Kangら、J. Immunol. 155:1343-1348, 1995)。37℃における18時間のインキュベーションの後、プレートを10分間800gで遠心分離し、条件培地を収集した。IFN-γ濃度を、ヒトIFN-γELISAキット(Endogen, Woburn, MA)を使用した酵素結合免疫吸着アッセイ法によって測定した。刺激細胞がない場合のTIL細胞におけるIFN-γ測定値を基底放出レベルとみなし、刺激されたTIL細胞におけるIFN-γ分泌の増加を計算するために使用した。
【0052】
動物試験
6週齢雌A/Jマウスおよび無胸腺ヌードマウス(BALB/c nu/nu)は、国立がん研究所(National Cancer Institute)(Frederick、MD)より購入し、4匹以下の群で収容した。皮下腫瘍療法は、以前に記載されたようにして実施した(Todoら、Hum. Gene Ther. 10:2741-2755, 1999;Todoら、Cancer Res. 61:153-161, 2001)。
【0053】
脳内接種毒性試験
5μlの容量の偽(10%グリセロールを含有するPBS)、株F(2×103pfu)、G207(2×106pfu)、またはG47Δ(2×106pfu)を、KOPF定位フレームを使用して、5分かけて、6週齢雌A/Jマウス(それぞれ、n=8、10、8、および10)の脳の右半球へと注射した。次いで、ケージを盲検化し、マウスを、3週間、臨床的症候に関して毎日モニタリングした。
【0054】
本明細書に引用された参照は、全て、参照として完全に組み込まれる。その他の態様は、添付の特許請求の範囲に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1A】図1A〜1B(図1)は、HSV-1ゲノム、および本発明に含まれるベクターを作成するためのアプローチの概略図である。図1Aは、HSV-1ゲノムの概略図である。
【図1B】図1Bは、US10、US11およびUS12(ICP47)に関するオーバーラップしている3'共末端転写物の位置を示すICP47遺伝子座の拡大地図である。
【図1C】図1Cは、ICP47領域を包含しているHSV-1 BamHI x断片に由来する1818塩基対のBamHI-EcoRI断片を含有したプラスミドpIE12の概略図である(Johnsonら、J.Virology 68(10):6347-6362,1994))。さらに後述されるように、このプラスミドは、ウイルスゲノムのICP47遺伝子座へ修飾を導入するために使用されうる。
【図1D】図1Dは、示されたBstEII部位とNruI部位との間の312塩基対を欠失させることによりpIE12より派生したプラスミドpIE12Δの概略図である。このプラスミドは、γ34.5サプレッサー変異体R47ΔおよびG47Δを作製するために使用された。
【図1E】図1Eは、ICP47コーディング領域の3'末端の詳細の概略図である。配列は、γ34.5サプレッサー機能が生成するよう後期US11遺伝子の時間的な制御を変化させ、かつ/またはICP47遺伝子産物の機能的な発現を防止する目的のため、BstEII部位とNruI部位との間の配列を妨害することなく、示されたBstEII部位に挿入されうる。
【図2】図2は、G47Δの構造の概略図である。図2Aは、G47Δにおいて修飾された領域を示すHSV-1ゲノムの概略である。HSV-1ゲノムは、各々末端(T)および内部(I)のリピート領域(RLおよびRS)を境界とする、長い特有の領域および短い特有の領域(ULおよびUS)からなる。親ウイルスG207は、γ34.5遺伝子の両コピー内の1キロ塩基を欠失させ、ICP6コーディング領域に大腸菌lacZ遺伝子を挿入することにより、野生型HSV-1株Fより改造された。G47Δは、示されるように、ICP47遺伝子座より312塩基対を欠失させることによりG207より派生した。図2Bは、オーバーラップしている3'共末端転写物(US10、US11、およびICP47)、オープンリーディングフレーム(太い矢)、ならびにICP47スプライスジャンクション(^)の位置を示すICP47遺伝子座の地図である。図2Cは、示された隣接配列を含む、相同的組み換えによって欠失を作製するために使用されたプラスミドpIE12Δの地図である。US11は、野生型HSV-1においては真性後期遺伝子として制御されているが、示されたBstEII部位とEcoNI部位との間の欠失は、US11を、ICP47前初期プロモーターの調節下に置く。制限部位の略号は、BがBamHI、BsがBstEII、EがEcoRI、ENがEcoNI、NrがNruIである。
【図3】様々な細胞系統における複製能を有するHSV-1変異体のウイルス収量を示すグラフである。細胞を5×105個/ウェルで6穴プレートに播いた。3連のウェルに、0.01のMOIで、R3616、R47Δ、G207、G47Δ、または株Fを感染させた。感染後24時間で細胞を培地中に剥離し、子孫ウイルスをベロ細胞上で力価測定した。試験された全ての細胞系統において、G47ΔはG207より有意に高い複製能力を示した。結果は、3連の平均±SDを表す。
【図4】インビトロにおけるG47Δの細胞変性効果を示す一連のグラフである。細胞を2×105個/ウェルで6穴プレートに接種した。24時間のインキュベーションの後、細胞に、0.01または0.1のMOIでG207またはG47Δを感染させるか、またはウイルスなし(対照)で処理した。生存細胞の数を毎日計数し、偽感染対照に対する割合として表した。G47Δは、3個のヒト腫瘍細胞系統(U87MGならびに黒色腫624および888)全てにおいて、0.01のMOIで、そしてNeuro2aマウス神経芽細胞腫細胞においても、0.1のMOIで、G207より有意に強い細胞変性効果を示した。結果は、3連の平均±SDである。*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001、G207対G47Δ、独立t検定。
【図5A】図5A〜図5A(図5)は、G47Δが感染宿主細胞におけるMHCクラスI発現の下方制御を排除することを示す一連のグラフである。図5Aは、HSV-1(MOI=3)による感染後48時間でのDetroit 551ヒト繊維芽細胞におけるMHCクラスI発現のフローサイトメトリー分析のグラフである。完全なα47遺伝子を有するHSV(野生型株FおよびG207)は、全て、MHCクラスI発現を有意に下方制御したが、G47Δは下方制御を完全に排除した。
【図5B】図5Bは、HSV-1を感染させたDetroit 551細胞におけるMHCクラスI下方制御の時系列を示すグラフである。各ウイルスについて、フローサイトメトリーによって分析された感染後6時間、24時間、または48時間でのMHCクラスI発現のピーク値が、各時点における偽感染細胞(対照)のピーク値に対する割合として表されている。G207およびR3616によるMHCクラスI下方制御は、時間依存的に起こった。α47欠失変異体(G47ΔおよびR47Δ)とα47完全ウイルスとの間のMHCクラスI発現の解離は、感染後24〜48時間で明白になった。
【図5C】図5Cは、G207およびG47Δによる感染後24時間でのヒト黒色腫細胞系統におけるMHCクラスI発現のフローサイトメトリー分析を示す一連のグラフである。G47Δは、黒色腫1102および938におけるMHCクラスI下方制御の部分的な排除を引き起こし、G207より大きなMHCクラスI発現をもたらした。
【図6】G47Δ感染腫瘍細胞がG207感染腫瘍細胞より大きくT細胞を刺激することを示す一連のグラフである。ヒト黒色腫細胞に、MOI=3で、偽(ウイルスなし)、G207、またはG47Δを感染させ、3〜6時間後に、同数の応答性ヒトT細胞と18時間共培養した。T細胞刺激は、条件培地へのIFN-γ放出の増加によって査定した。G47Δ感染黒色腫1102細胞は、G207感染1102細胞と比較して、TIL888細胞の有意に大きな刺激を引き起こした(p<0.01、独立t検定)。G47Δ感染938黒色腫細胞も、TIL1413細胞を刺激したが、改良は、G207感染938細胞と比較して統計的に有意ではなかった(p=0.1、独立t検定)。G207感染黒色腫888細胞もG47Δ感染黒色腫888細胞も、TIL888細胞の有意な刺激を引き起こさなかった。
【図7】G47ΔがインビボでG207より大きな抗腫瘍効力を示すことを示すグラフセットである。U87MGヒト神経膠腫(左)またはNeuro2aマウス神経芽細胞腫(右)の皮下腫瘍を、それぞれ6週齢雌無胸腺マウスまたは6週齢雌A/Jマウスにおいて作製した。直径およそ6mmの確立された腫瘍には、0日目および3日目に、G207もしくはG47Δ(1×106pfu)または偽(10%グリセロールを含むPBS)を接種した。G47Δ処理は、両腫瘍モデルにおいてG207より有意に効力が高く、より小さな平均腫瘍体積をもたらした(U87MGに関しては24日目でp<0.05、Neuro2aに関しては15日目でp<0.001、G207対G47Δ、独立t検定)。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウイルスのBamHI x断片のICP47不活化変異の非存在下で、ウイルスのγ34.5神経毒性遺伝子座を不活化する第一の変異、およびUS11の初期発現をもたらす第二の変異を含むヘルペスウイルス。
【請求項2】
初期発現をもたらす、US11遺伝子より上流に挿入されたプロモーターを含む、請求項1に記載のウイルス。
【請求項3】
ウイルスのゲノムに挿入された初期発現プロモーターの調節下にあるUS11遺伝子を含む、請求項1に記載のウイルス。
【請求項4】
ベクターのBamHI x断片の変異の非存在下で、ICP47発現の下方制御をもたらす変異を含む、請求項1に記載のウイルス。
【請求項5】
ICP47発現の下方制御が、ICP47プロモーター中の欠失またはICP47プロモーターの不活化によるものである、請求項4に記載のウイルス。
【請求項6】
ICP47の機能的な発現を防止するペプチドと融合したICP47をコードする、請求項4に記載のウイルス。
【請求項7】
野生型への復帰を防止する付加的な変異をさらに含む、請求項1に記載のウイルス。
【請求項8】
付加的な変異がICP6遺伝子座に存在する、請求項7に記載のウイルス。
【請求項9】
異種遺伝子産物をコードする配列をさらに含む、請求項1に記載のウイルス。
【請求項10】
異種遺伝子産物が、ワクチン抗原または免疫調整タンパク質を含む、請求項9に記載のウイルス。
【請求項11】
単純ヘルペスウイルスである、請求項1に記載のウイルス。
【請求項12】
単純ヘルペスウイルスが単純ヘルペスウイルス1型である、請求項11に記載のウイルス。
【請求項13】
請求項1に記載のウイルスと、薬学的に許容される担体、アジュバント、または希釈剤とを含む薬学的組成物。
【請求項14】
ヒトを除く哺乳動物において癌を治療する方法であって、請求項13に記載の薬学的組成物を該患者へ投与することを含む方法。
【請求項15】
感染症、癌、または自己免疫疾患に対してヒトを除く哺乳動物を免疫感作する方法であって、請求項13に記載の薬学的組成物を該患者へ投与することを含む方法。
【請求項1】
ウイルスのBamHI x断片のICP47不活化変異の非存在下で、ウイルスのγ34.5神経毒性遺伝子座を不活化する第一の変異、およびUS11の初期発現をもたらす第二の変異を含むヘルペスウイルス。
【請求項2】
初期発現をもたらす、US11遺伝子より上流に挿入されたプロモーターを含む、請求項1に記載のウイルス。
【請求項3】
ウイルスのゲノムに挿入された初期発現プロモーターの調節下にあるUS11遺伝子を含む、請求項1に記載のウイルス。
【請求項4】
ベクターのBamHI x断片の変異の非存在下で、ICP47発現の下方制御をもたらす変異を含む、請求項1に記載のウイルス。
【請求項5】
ICP47発現の下方制御が、ICP47プロモーター中の欠失またはICP47プロモーターの不活化によるものである、請求項4に記載のウイルス。
【請求項6】
ICP47の機能的な発現を防止するペプチドと融合したICP47をコードする、請求項4に記載のウイルス。
【請求項7】
野生型への復帰を防止する付加的な変異をさらに含む、請求項1に記載のウイルス。
【請求項8】
付加的な変異がICP6遺伝子座に存在する、請求項7に記載のウイルス。
【請求項9】
異種遺伝子産物をコードする配列をさらに含む、請求項1に記載のウイルス。
【請求項10】
異種遺伝子産物が、ワクチン抗原または免疫調整タンパク質を含む、請求項9に記載のウイルス。
【請求項11】
単純ヘルペスウイルスである、請求項1に記載のウイルス。
【請求項12】
単純ヘルペスウイルスが単純ヘルペスウイルス1型である、請求項11に記載のウイルス。
【請求項13】
請求項1に記載のウイルスと、薬学的に許容される担体、アジュバント、または希釈剤とを含む薬学的組成物。
【請求項14】
ヒトを除く哺乳動物において癌を治療する方法であって、請求項13に記載の薬学的組成物を該患者へ投与することを含む方法。
【請求項15】
感染症、癌、または自己免疫疾患に対してヒトを除く哺乳動物を免疫感作する方法であって、請求項13に記載の薬学的組成物を該患者へ投与することを含む方法。
【図1A】
【図1B】
【図1C】
【図1D】
【図1E】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図6】
【図7】
【図1B】
【図1C】
【図1D】
【図1E】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図6】
【図7】
【公開番号】特開2009−60907(P2009−60907A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−242828(P2008−242828)
【出願日】平成20年9月22日(2008.9.22)
【分割の表示】特願2002−574742(P2002−574742)の分割
【原出願日】平成14年3月27日(2002.3.27)
【出願人】(504130326)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年9月22日(2008.9.22)
【分割の表示】特願2002−574742(P2002−574742)の分割
【原出願日】平成14年3月27日(2002.3.27)
【出願人】(504130326)
【Fターム(参考)】
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