説明

ウイルスのアルギニン不活化

本発明は、真核細胞により産生される生物学的組成物(抗体または他の治療用タンパク質等)中に存在する可能性があるエンベロープウイルスを不活化またはその感染力価を低減するためのアルギニンの使用方法に関する。いくつかの実施形態において、アルギニンへの曝露によるウイルス力価の不活化または低減は、中性(pH約7)または中性に近い(約pH6から約pH8)環境において達成される。例えば、エンベロープウイルスを不活化またはその感染力価を低減する方法であって、前記ウイルスをアルギニンと接触させることを含み、前記接触は、少なくとも約0.2Mのアルギニンを含む溶液中で生じ、前記溶液のpHは、約6.0よりも高い、方法が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウイルスの不活化または感染ウイルス力価の低減に関する。より具体的には、本発明は、アルギニンまたはその塩を用いた処理による、感染ウイルス力価の不活化または低減に関する。本発明は、治療用製剤の調製および精製レジメンの構成要素としての感染ウイルス力価の不活化または低減にも関する。
【背景技術】
【0002】
組み換えDNA技術の出現は、多くのタンパク質を主体とする生物学的治療を可能にした。大半の状況において、これらのタンパク質治療薬は、細胞によって産生され、高度に精製され、患者へ投与するように調製される。多くの場合、治療用タンパク質をコードする組み換えDNAを、タンパク質産生細胞の中に形質移入する必要がある。ウイルスは、形質移入後、培養物中に残留し、タンパク質試料を汚染し得る。加えて、関心のタンパク質の発現に使用される細胞は、それらのDNAでウイルスゲノムをコードするか、または内因性ウイルスを含有し得、これは細胞由来の治療製剤への別の潜在的な汚染源である。したがって、生物学的に誘導された治療薬は、活性ウイルスが患者に投与されないことを確実にするために、FDA等の規制機関の安全要件を満たすように、少なくとも2つの確実なウイルス精製ステップを経なければならない。
【0003】
ウイルスを不活化するためのいくつかの方法が、当該分野において知られている。低pHでの処理、洗剤の使用、塩、および熱不活化の全てが、タンパク質調製物中のウイルスを不活化するために使用されているが、各方法にはそれぞれ欠点があり、以下にさらに詳細に説明されるように、いくつかのタンパク質に適切または最適ではない場合がある。
【0004】
特許文献1のように、ウイルスを不活化するために低pHが使用されているが、これは、タンパク質を沈殿させ、製剤の凝集を生じ、かつ/または製剤の損失を引き起こし得る特定のタンパク質の立体構造を変更する可能性がある。
【0005】
特許文献2は、不安定タンパク質を含有する組成物中の脂質被覆ウイルスの不活化の方法を記載する。特許文献2に記載される方法は、不安定タンパク質を含有する組成物に脂質含有ウイルスを含まないようにさせるのに十分な時間、不安定タンパク質を含有する組成物を有効量のリン酸ジアルキルまたはリン酸トリアルキルと接触させることからなる。
【0006】
特許文献3は、トリ−n−リン酸ブチルおよびTween、またはコール酸ナトリウム/TNBP(トリ−n−リン酸ブチル)および他の緩衝剤、洗剤、ならびに/または界面活性剤の組み合わせを使用するウイルスの不活化の方法を記載するが、ショ糖等の高濃度の補助剤の使用を必要とし、および特定のタンパク質を変性し、製剤の損失をもたらす分解に導く可能性がある、55℃〜67℃の範囲の熱不活化も必要とする。
【0007】
TRITON(登録商標)X−100(Sigma−Aldrich Corp.,St.Louis,MO,USA)等の他の洗剤は、ウイルスを不活化するために使用されているが、工業規模で使用される際、大量の廃棄産物の問題が存在する。国際公開第WO94/26287号の例において、「洗剤/塩析」法が、トランスフェリン、抗トロンビンIII、およびアルブミンの3つの単離されたタンパク質含有溶液に適用される。TRITON(登録商標)X−100法が、標的タンパク質の収率が実質的に影響を受けないような条件下で適用される場合、しばしば、産物中のTRITON(登録商標)の濃度は、それでも非常に高い。特許文献4の実施例4において、発明者は、95%のアルブミンを回収したが、250ppmのTRITON(登録商標)X−100および35ppmのTNBPを含む産物を得た。特に、医療調製物を産生する時、50ppmを越える、またはたとえ10ppmさえをも越えるTRITON(登録商標)X−100の濃度は、好ましくは避けられ、洗剤含有量をできるだけ低減することが、一般的に望ましい。加えて、いくつかの治療用タンパク質は、TRITON(登録商標)X−100によって不活化され、したがって、ウイルス不活化のこの方法は、多くのタンパク質製剤に最適ではない。
【0008】
したがって、当該分野において、タンパク質製剤の一体性、生物学的、および/または治療活性を維持しながら、感染ウイルス力価を安価にかつ安全に不活化または低減することが必要とされる。
【0009】
アルギニンは、実質的にタンパク質の立体構造を変更することなく、タンパク質凝集を阻害し、タンパク質相互作用を抑制することが判明しているという点で、自然に生じるアミノ酸の中で独特である。これらの属性を考えて、0.1Mから1Mのアルギニンが、封入体から可溶化した組み換えタンパク質の再折り畳みを促進するために使用され、0.5〜から2Mのアルギニンが、大腸菌の組み換え産物として発現される不溶性ペレット化材料から活性の折り畳まれたタンパク質を抽出するために使用されている(非特許文献1、非特許文献2、非特許文献3)。アルギニンは、タンパク質A、ゲル透過、および染色性クロマトグラフィー等の種々の種類のクロマトグラフィー媒体からのタンパク質の回収を強化するためにも使用されている(非特許文献4、非特許文献5)。アルギニンは、例えば、熱処理手順中にタンパク質が不活化されるのを保護するために、タンパク質安定化製剤の一構成要素としても使用されている(Miyanoら、特許文献5、1992年5月26日発行)。
【0010】
Kozloffらは、0.2Mアルギニンの使用が、いくつかのバクテリオファージのT偶数株の調製物(T2L、非エンベロープウイルス)を不可逆的に不活化したことを観察している。Kozloffらは、このウイルスの特異的な不活化が、30℃、かつ6.5から8.25のpH範囲で最も効果的であり、0.033から0.2Mのアルギニンで達成され得ることも発見した。しかしながら、T2Lのアルギニン不活化は、0.4Mを超える濃度で、徐々に効果がなくなった。Kozloffらは、アルギニンが、バクテリオファージのT奇数株を不活化しなかったことも観察した。この相違は、おそらく、T偶数とT奇数のバクテリオファージの尾構造の相違によるものである(アルギニンは、おそらく、T偶数不活化をもたらすように特異的に相互作用する)。非特許文献6)。
【0011】
Yamasakiらは、低(酸性)pHおよび低温(試料は氷上)で、アルギニンが、エンベロープ単純ヘルペスウイルス1型(HSV−1)およびインフルエンザウイルスを不活化できることを観察している。しかしながら、より中性pHレベル(すなわち、pH5.0からpH7.0)で、Yamasakiらは、アルギニンがこれらのウイルスの不活化に効果がないことを発見した。Yamasakiらは、アルギニンが、非エンベロープ型ポリオウイルスの不活化に効果がないことも発見した(非特許文献7)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】米国特許第6,955,917号明細書
【特許文献2】欧州特許第0131740 B1号明細書
【特許文献3】米国特許第6,528,246 B2号明細書
【特許文献4】国際公開第94/26287号
【特許文献5】米国特許第5,116,950号明細書
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Tsumoto et al.,Biotechnology.,20,1301−1308(2004)
【非特許文献2】Ishibashi et al.,Protein Expression and Purification,42,1−6 (2005)
【非特許文献3】Arakawa et al.,Biophysical Chemistry,127,1−8(2008)
【非特許文献4】Arakawa et al.,Protein Expression and Purification,54,110−116(2007)
【非特許文献5】Ejima et al.,Analytical Biochemistry,345,250−257(2005)
【非特許文献6】Kozloff et al.,Jour.Virol.,3(2),217−227(1969
【非特許文献7】Yamaski et al.,Journal of Pharmaceutical Sciences,(Jan.10,2008)97(8),3067−3073
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、モノクローナル抗体または他の治療用タンパク質等の、生物学的製剤の産生中に存在する場合がある脂質被覆(エンベロープ)ウイルスを不活化またはその感染力価を効果的に低減する、高濃度のアルギニンの使用を可能にする。
【0015】
一実施形態において、ウイルス不活化または感染ウイルス力価の低減は、中性(pH約7)環境で生じる。
【0016】
他の実施形態において、ウイルス不活化または感染ウイルス力価の低減は2℃から42℃の範囲の温度で生じる。
【0017】
一実施形態において、本発明は、生存対象への投与に適した程度に、好ましくは、治療的に有用な化合物として精製されるタンパク質調製物を得る工程における、構成要素を提供する。例えば、本発明は、第VIII因子、第IX因子、フィブリノーゲン、γグロブリン、抗体、および抗体断片等の治療的に有用なタンパク質の調製における工程の一部として使用されてもよいが、これに限定されない。また、例えば、本発明は、哺乳類または鳥類の白血病ウイルス、ヘルペスウイルス、ポックスウイルス、ヘパドナウイルス、フラビウイルス、トガウイルス、コロナウイルス、肝炎ウイルス、レトロウイルス、オルソミクソウイルス、パラミクソウイルス、ラブドウイルス、ブニヤウイルス、フィロウイルス、およびレオウイルス等のエンベロープウイルスを不活化、または感染ウイルス力価を低減するために使用されてもよいが、これに限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】0.10%TRITON(登録商標)X−100によるX−MLV不活化の動態を示す。
【図2】0.20%TRITON(登録商標)X−100によるX−MLV不活化の動態を示す。
【図3】pH3.7でのFcγ−Fcε(BIIB−016)のX−MLV不活化の動態を示す。開始時点(t=0分)のウイルス力価は、ウイルス対照から得た。
【図4】pH3.9でのFcγ−Fcε(BIIB−016)のX−MLV不活化の動態を示す。開始時点(t=0分)のウイルス力価は、ウイルス対照から得た。
【図5】1Mアルギニンの中性pHでのFcγ−Fcε(BIIB−016)のX−MLV不活化の動態を示す。LC0=負荷対照(時間0)。
【図6】Fcγ−Fcεを伴う1Mアルギニンの中性pHでのFcγ−Fcε(BIIB−016)のX−MLV不活化の動態を示す。LC0=負荷対照(時間0)。
【図7】(a)0.1Mアルギニン、(b)0.5Mアルギニン、および(c)1.0Mアルギニン含有5mMトリス(pH7.0)緩衝剤を使用した、X−MLV不活化の動態を示す。
【図8】1.0Mアルギニン緩衝剤を使用した、SuHV−1不活化の動態を示す。
【図9】1.0Mアルギニン緩衝剤を使用した、MMV不活化の動態を示す。
【図10】1.0Mアルギニン緩衝剤および50%プロピレングリコールを使用した、X−MLV不活化の動態を示す。
【図11】1.0Mアルギニン緩衝剤および50%プロピレングリコールを使用した、SuHV1不活化の動態を示す。
【図12】1.0Mグリシン緩衝剤を使用した、X−MLV不活化の動態を示す。
【図13】タンパク質の精製およびウイルスのアルギニン不活化についての工程フローチャートを示す。
【図14】対照溶液と比較した、低pH(3.7)または高アルギニン濃度(1.0M)で、24時間のインキュベート期間にわたり残存したGE2タンパク質モノマーのパーセンテージを示す。
【図15】対照溶液と比較した、低pH(3.7)または高アルギニン濃度(1.0M)で、24時間のインキュベート期間にわたり残存したLingoタンパク質モノマーのパーセンテージを示す。
【図16】対照溶液と比較した、低pH(3.7)または高アルギニン濃度(1.0M)で、GE2タンパク質の24時間のインキュベート期間にわたる高分子量タンパク質の凝集を示す。矢印は、高分子量種の形成を指す。
【図17】制御されたアルギニンの滴下添加と比較した、0.5Mまたは1.0Mの最終濃度までアルギニンをボーラス添加した後の、24時間のインキュベート期間にわたり残存したFIXタンパク質モノマーのパーセンテージを示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
定義
用語は、本明細書で別途特に明示的に定義または記載されない限り、関連分野において一般的に使用され、理解されるように、本明細書および特許請求の範囲において使用される。当該分野内で使用される、および/または許容される用語において、2つ以上の定義が存在する場合、本明細書において使用される用語の定義は、明示的にそれとは反対に記載されない限り、そのような全ての意味を包含するものとする。
【0020】
本明細書に使用される、「洗浄溶液」という用語は、標的タンパク質、および分子ふるいクロマトグラフィー(SEC)、イオン交換クロマトグラフィー(IEC)、アフィニティークロマトグラフィー、または他のクロマトグラフィー媒体等の固定相培養物からの工程関連不純物等の、汚染物を分離するために使用される溶液を指す。塩に加え、洗浄溶液は、緩衝剤、洗剤、溶媒、重合体、またはそれらの任意の組み合わせを含んでもよい。いくつかの実施形態において洗浄溶液は、約0.1M、0.2M、0.3M、0.4M、0.5M、0.6M、7M、0.8M、0.9M、1M、1.1M、1.2M、1.3M、1.4M、1.5M、1.6M、1.7M、1.8M、1.9M、2M、2.5M、または3.0Mアルギニンもしくはその塩を含んでもよい。
【0021】
「緩衝剤」という用語は、その酸−塩基共役構成要素の作用により、pHの変化に耐える溶液を指す。
【0022】
「溶出試薬」という用語は、SEC、IEC、アフィニティーまたは他のクロマトグラフィー媒体等の固定相培養物から治療用タンパク質を溶出、または解離するために使用される試薬を指す。アルギニンに加え、溶出溶液は、緩衝剤、塩、洗剤、溶媒、重合体、グリコール化合物、またはそれらの任意の組み合わせを含んでもよい。
【0023】
本発明の方法に有用な「グリコール」の例としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ヘキシレングリコール、ポリエチレングリコール、またはポリプロピレングリコールが挙げられるが、これらに限定されない。
【0024】
本明細書に使用される、「工程関連不純物」という用語は、産生、単離、および/または精製の工程から、またはそれらの工程中に生じる、ウイルス、ヌクレオチド、ポリヌクレオチド、非標的タンパク質(宿主細胞タンパク質、HCP等)、他の細胞構成要素(脂質および糖脂質等)、および任意の他の汚染物等の、生物学的調製物中の任意の望ましくない構成要素を指す。
【0025】
「組み換え的に産生された」という用語は、タンパク質に関して使用される時、組み換えDNA技術を使用して産生されたそのタンパク質を指す。いくつかの実施形態において、組み換え的に産生されたタンパク質は、哺乳類細胞により産生される。いくつかの実施形態において、細胞は、ヒト細胞である。他の実施形態において、細胞は、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、または仔ハムスター腎臓(BHK)細胞等の、ヒト以外の細胞である。細胞の種類は、本発明の方法に従う組み換えタンパク質を産生するための、任意の適切な細胞であり得る。
【0026】
本明細書に使用される、「融合タンパク質」という用語は、「Fc融合」タンパク質等のポリペプチドに関して使用される時、個別の遺伝子(遺伝子が、同じ、または異なる種の生物で生じるかどうかに関わらず)によりコードされるタンパク質の一部分等の、2つ以上の異種ポリペプチドに由来するアミノ酸配列を含むポリペプチドを指すか、または融合タンパク質は、人工的もしくは非天然に生じるペプチドまたはポリペプチドと共有結合的に連結される自然に生じる遺伝子(またはその誘導体もしくは変形)の一部分を含むポリペプチドを指す。
【0027】
本明細書に使用される、「不活化する」またはこの単語の他の形態(例えば、不活化(inactivation)、不活化された(inactivated)、不活化する(inactivates)等)は、ウイルスに関して使用される時、完全なウイルスの不活化(すなわち、検出可能な感染ウイルスがない)だけでなく、検出可能な感染ウイルス力価を低減させること、またはその減少(すなわち、検出可能な感染ウイルスを低下させること、もしくはその低下されたレベル)を表すものとする。したがって、感染ウイルス力価を低減させること、またはその減少は、そのような低減させること、または減少が、本明細書において明示的に記載されているかどうかに関わらず、「ウイルス不活化」(およびこの用語の他の形態)の意味内に含まれる。
【0028】
「治療用タンパク質」調製物とは、組み換えタンパク質または非組み換えタンパク質を含んでもよい。非組み換えタンパク質の例としては、全血、血漿、血漿濃縮、血漿の任意の画分からの沈殿物、血漿の任意の画分からの上澄み、血清、寒冷沈降物、細胞可溶化物、または類似の供給源から単離されたタンパク質が挙げられる。
【0029】
本発明に従って調製された治療用タンパク質は、いかなる治療的に有用なペプチド、ポリペプチド、糖ペプチド、またはタンパク質をも含む。
【0030】
「Fc領域」という用語は、IgG重鎖のC末端領域を指す。特定の実施形態において、Fc領域は、ヒトIgG重鎖のC末端領域を指す。IgG重鎖のFc領域の境界は、わずかに変動する可能性があるが、ヒトIgG重鎖のFc領域は、通常、天然ポリペプチドの位置Cys226のアミノ酸残基からカルボキシル末端にわたると定義される。
【0031】
本明細書に使用される、「質量濃度」という用語は、工程関連不純物の除去に関して使用される時、治療用タンパク質の質量に対する工程関連不純物の質量の比率を指す。例えば、比率は、質量濃度が百万分率(ppm)である時、1ミリグラムの治療用タンパク質当りナノグラム単位の工程関連不純物として計算されてもよく、比率は、質量濃度が十億分率(ppb)である時、1ミリグラムの治療用タンパク質当りピコグラム単位の工程関連不純物として計算されてもよい。
【0032】
本明細書に使用される、「回収パーセント」および「純度パーセント」という用語は、精製ステップまたは手順前の試料中の標的化合物の量または純度と比較して、標的化合物(例えば、タンパク質)が、精製ステップまたは手順を通して媒介される時に達成される回収率または純度を意味するものとする。試料が精製ステップまたは手順の前と後に比較される時、純度パーセントにおける増加の達成は、減少レベルの汚染物(標的化合物に比例して)を含む産物を得ることを伴う。上に定義される回復パーセントおよび純度パーセントの意味範囲に含まれる好適なパーセンテージは、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約98%、および少なくとも約99%を含むが、これらに限定されない。
【0033】
「a」または「an」という用語は、用語の単数形および複数形の両方を指し、例えば、「治療用タンパク質(a therapeutic protein)」は、1つ以上の治療タンパク質を表すように理解されることに留意する。したがって、「a」(または「an」)、「1つ以上」、および「少なくとも1つ」という用語は、本明細書において互換的に使用され得る。
【0034】
いくつかの実施形態において、本発明は、ウイルスを、少なくとも約0.2Mアルギニンを含む溶液と接触させることを含む、ウイルスを不活化する方法を提供し、該溶液は、約5.0を超えるpHであり、ウイルスは、バクテリオファージまたは他の非エンベロープウイルスではない。
【0035】
いくつかの実施形態において、本発明は、治療用タンパク質調製物を、少なくとも約0.2Mアルギニンの最終濃度、および約5.0を超えるpHを有する溶液に曝露することを含み、該ウイルスは、バクテリオファージまたは他の非エンベロープウイルスではない、治療用タンパク質調製物中の感染ウイルスの力価を低減する方法に関する。
【0036】
いくつかの実施形態において、治療用タンパク質は、組み換えタンパク質である。他の実施形態において、組み換えタンパク質は、免疫グロブリン(抗体)またはその断片であってもよい。また他の実施形態において、タンパク質調製物は、血液凝固因子を含んでもよい。
【0037】
本発明の血液凝固因子は、第I因子(フィブリノーゲン)、第II因子(プロトロンビン)、組織因子、第V因子(プロアクセレリン、不安定因子)、第VI因子、第VII因子(安定因子)、第VIII因子(抗血友病因子)、第IX因子(クリスマス病因子)、第X因子(スチュワート−プロワー因子)、第XI因子(血漿トロンボプラスチン前駆体)、第XII因子(ハーゲマン因子)、第XIII因子(フィブリン安定化因子)、フォンウィルブランド因子、プレカリクレイン、高分子キニノーゲン(HMWK)、フィブロネクチン、抗トロンビンIII、ヘパリン補因子II、プロテインC、プロテインS、プロテインZ、プロテインZ関連プロテアーゼ阻害剤(ZPI)、プラスミノーゲン、α2−抗プラスミン、組織プラスミノーゲン活性化因子(tPA)、ウロキナーゼ、プラスミノーゲン活性化因子阻害剤1(PAI1)、およびプラスミノーゲン活性化因子阻害剤2(PAI2)等の血液凝固因子であり得るが、これらに限定されない。
【0038】
いくつかの実施形態において、本発明の方法により調製される治療用タンパク質は、真核細胞により産生される。いくつかの実施形態において、本発明の真核細胞は、哺乳類細胞である。別の実施形態において、哺乳類細胞は、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、または仔ハムスター腎臓(BHK)細胞である。また別の実施形態において、哺乳類細胞は、ヒト細胞である。他の実施形態において、細胞は、(2つ以上の細胞)が一緒に縮合した多ハイブリッド(例えば、マウス、ヒトハイブリドーマ細胞)である。
【0039】
本発明のアルギニンのウイルス不活化方法は、任意の精製手順(例えば、クロマトグラフィー手順)の前、1つ以上の精製手順中またはその間、および/または全ての精製手順後に実施されてもよい。
【0040】
いくつかの実施形態において、本発明は、本発明の方法により産生されたタンパク質を含む。
【0041】
本発明のクロマトグラフィーステップは、任意の種類のクロマトグラフィー法を利用してもよい。例えば、このような方法は制限されないが、このようなクロマトグラフィー法は、例えば、気体クロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー(例えば、高速液体クロマトグラフィー)、アフィニティークロマトグラフィー(プロテインAまたは抗体−抗原アフィニティークロマトグラフィー等)、超臨界液体クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー(アニオンまたはカチオン交換クロマトグラフィー等)、分子ふるいクロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、二次元クロマトグラフィー、疑似移動床式クロマトグラフィー、熱分解気体クロマトグラフィー、高速タンパク質(FPLC)クロマトグラフィー、向流クロマトグラフィー、キラルクロマトグラフィー、水性順相(ANP)クロマトグラフィー、混合方式クロマトグラフィー、および偽性アフィニティークロマトグラフィーを含むが、これらに限定されない。
【0042】
本発明のアルギニン不活化ステップに使用されるpHの範囲は、5.0を超えるかもしくは約5.0、5.5を超えるかもしくは約5.5、6.0を超えるかもしくは約6.0、6.5を超えるかもしくは約6.5、7.0を超えるかもしくは約7.0、8.0を超えるかもしくは約8.0、または9.0を超えるかまたは約9.0であり得る。いくつかの実施形態において、アルギニン不活化ステップは、約5.0から約9.0の範囲のpHで実行される。他の実施形態において、pHの範囲は、約6.0から約8.5である。他の実施形態において、pHの範囲は、約6.5から約7.5である。いくつかの実施形態において、pHは、約7.0である。
【0043】
いくつかの実施形態において、アルギニンの濃度は、約0.1M、0.2M、0.3M、0.4M、0.5M、0.6M、0.7M、0.8M、0.9M、1M、1.5M、2M、2.5M、または約3Mである。いくつかの実施形態において、本発明のウイルス不活化方法は、約0.2M〜約3Mのアルギニン濃度で行われる。いくつかの実施形態において、アルギニン濃度は、約0.5M〜約3Mの範囲内である。他の実施形態において、アルギニン濃度は、約1M〜約3Mの範囲内である。また他の実施形態において、アルギニン濃度は、約1M〜約2Mの範囲内である。
【0044】
本明細書に使用される、「アルギニン」とは、アルギニンおよびその塩を指すことを理解する。
【0045】
いくつかの実施形態において、アルギニンの使用を介したウイルス不活化は、約0℃〜約55℃の温度で実行され、例えば、約0℃から約4℃、約0℃から8℃、約0℃から約12℃、約0℃から約18℃、約0℃から約20℃、約0℃から約25℃、約0℃から約37℃、約0℃から約40℃、約0℃から約42℃、約2℃から約4℃、約2℃から約8℃、約2℃から約12℃、約2℃から約18℃、約2℃から約20℃、約2℃から約25℃、約2℃から約37℃、約2℃から約40℃、約2℃から約42℃、約2℃から約55℃、約4℃から約8℃、約4℃から約12℃、約4℃から約18℃、約4℃から約20℃、約4℃から約25℃、約4℃から約37℃、約4℃から約40℃、約4℃から約42℃、約4℃から約55℃、約8℃から約12℃、約8℃から約18℃、約8℃から約20℃、約8℃から約25℃、約8℃から約37℃、約8℃から約40℃、約8℃から約42℃、約8℃から約55℃、約12℃から約18℃、約12℃から約20℃、約12℃から約25℃、約12℃から約37℃、約12℃から約40℃、約12℃から約42℃、約12℃から約55℃、約18℃から約20℃、約18℃から約25℃、約18℃から約37℃、約18℃から約40℃、約18℃から約42℃、約18℃から約55℃、約20℃から約25℃、約20℃から約37℃、約20℃から約40℃、約20℃から約42℃、約20℃から約55℃、約25℃から約37℃、約25℃から約40℃、約25℃から約42℃、約25℃から約55℃、約37℃から約40℃、約37℃から約42℃、約37℃から約55℃、約40℃から約42℃、約40℃から約55℃、および約42℃から約55℃の温度範囲を含む。
【0046】
いくつかの実施形態において、アルギニンの使用を介したウイルス不活化は、0℃から55℃の温度で実行され、例えば、0から4℃、0から8℃、0から12℃、0から18℃、0から20℃、0から25℃、0から37℃、0から40℃、0から42℃、2から4℃、2から8℃、2から12℃、2から18℃、2から20℃、2から25℃、2から37℃、2から40℃、2から42℃、2から55℃、4から8℃、4から12℃、4から18℃、4から20℃、4から25℃、4から37℃、4から40℃、4から42℃、4から55℃、8から12℃、8から18℃、8から20℃、8から25℃、8から37℃、8から40℃、8から42℃、8から55℃、12から18℃、12から20℃、12から25℃、12から37℃、12から40℃、12から42℃、12から55℃、18から20℃、18から25℃、18から37℃、18から40℃、18から42℃、18から55℃、20から25℃、20から37℃、20から40℃、20から42℃、20から55℃、25から37℃、25から40℃、25から42℃、25から55℃、37から40℃、37から42℃、37から55℃、40から42℃、40から55℃、および42から55℃の温度範囲を含む。
【0047】
本発明は、ウイルス不活化が、治療製剤または治療製剤を含有する組成物をアルギニンと接触させることにより達成される、治療製剤(または薬物原料)調製レジメンの構成要素としての、ウイルスの不活化を含む。一実施形態において、ウイルスは、溶液中で、約0.1M以上の最終アルギニン濃度と接触される。特定の実施形態において、最終アルギニン濃度は、約0.5M以上、または約1.0M以上である。特定の実施形態において、ウイルス不活化は、溶液が、中性(約pH7)または中性に近い(約pH6から約pH8.5)pH値である、アルギニンを有する溶液中で達成される。特定の実施形態において、中性または中性に近いpH値は、約6.0、約6.5、約7.0、約7.5、約8.0、および約8.5である。一実施形態において、アルギニンによるウイルス不活化は、任意の前治療製剤精製ステップまたは手順前に実施される。一実施形態において、ウイルス不活化は、細胞培養物採取手順の一部として実施される。一実施形態において、ウイルス不活化は、細胞培養物採取手順後に実施される。一実施形態において、ウイルス不活化は、細胞培養物上澄み清澄手順の一部として実施される。一実施形態において、ウイルス不活化は、細胞培養物上澄み清澄手順後に実施される。一実施形態において、ウイルス不活化は、前治療製剤精製ステップまたは手順中(その一部として)、またはその間に実施される。一実施形態において、ウイルス不活化は、1つ以上の治療産物精製ステップまたは手順後に実施される。一実施形態において、ウイルス不活化は、クロマトグラフィーの使用を含む、1つ以上の治療製剤精製ステップ後に実施される。一実施形態において、ウイルス不活化は、プロテインAまたはプロテインGクロマトグラフィー(またはプロテインAまたはプロテインG誘導体もしくは類似体を伴うクロマトグラフィー)等の、アフィニティークロマトグラフィーの使用を含む、1つ以上の治療製剤精製ステップ後に実施される。一実施形態において、ウイルス不活化は、クロマトグラフィー精製ステップまたは手順の間に実施される。一実施形態において、ウイルス不活化は、ウイルス濾過ステップまたは手順前に実施される。一実施形態において、ウイルス不活化は、ウイルス濾過ステップまたは手順後に実施される。一実施形態において、ウイルス不活化は、クロマトグラフィー精製ステップまたは手順後、およびウイルス濾過ステップまたは手順前に実施される。一実施形態において、ウイルス不活化は、限外濾過もしくは透析濾過ステップまたは手順前に実施される。一実施形態において、ウイルス不活化は、限外濾過もしくは透析濾過ステップまたは手順後に実施される。一実施形態において、ウイルス不活化は、ウイルス濾過ステップまたは手順後、および限外濾過もしくは透析濾過ステップまたは手順前に実施される。一実施形態において、ウイルス不活化は、全ての治療製剤精製ステップもしくは手順後、および最終治療製剤調合前に実施される。一実施形態において、ウイルス不活化は、最終治療製剤調合工程の一部として実施される。
【0048】
本発明の方法は、広範なエンベロープウイルスを不活化するために有用である。本発明の実施形態により不活化されてもよいウイルスは、エンベロープウイルスに分類される、例えば、哺乳類もしくは鳥類の白血病ウイルス、ヘルペスウイルス、ポックスウイルス、ヘパドナウイルス、フラビウイルス、トガウイルス、コロナウイルス、肝炎ウイルス、レトロウイルス、オルソミクソウイルス、パラミクソウイルス、ラブドウイルス、ブニヤウイルス、フィロウイルス、およびレオウイルス等を含むが、これらに限定されない。「ウイルス」および「ウイルス粒子」という用語は、本明細書に互換的に使用される場合がある。
【実施例】
【0049】
実施例
以下のデータは、アルギニンへの曝露による、種々のエンベロープウイルスの不活化を実証する。比較目的のため、以下のデータは、低pHおよび洗剤TRITON(登録商標)X−100(Sigma−Aldrich Corp.,St.Louis,MO,USA)への曝露によるウイルスの不活化も示す。また、比較のため、以下のデータは、高濃度のアミノ酸グリシンへの曝露による、ウイルス活性化を示す。試験が行われた代表的なウイルスとしては、
a)チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO)(組み換えタンパク質を産生するために通常使用される細胞株)の細胞培養採取物中に存在する可能性がある、モデル内因性レトロウイルス(エンベロープ、RNAゲノムウイルス)である、異種指向性マウス白血病ウイルス(X−MLV)、
b)タンパク質産生/処理中に導入される可能性があるモデル外来ウイルス(非エンベロープ、DNAゲノム)としてのマウス微小ウイルス(MMV)、および
c)物理的/化学的不活化に中程度の耐性を有するウイルスを含有するモデルエンベロープDNAとしてのブタヘルペスウイルス1型(SuHV−1)が挙げられる。
表15を参照のこと。
【0050】
実施例1
組み換え抗体GE2−Fcγ−Fcεの調製試料におけるX−MLVのTRITON(登録商標)X−100、低pH、およびアルギニン不活化
低pH、TRITON(登録商標)X−100、およびアルギニンへの曝露により得られたウイルス不活化動態を、組み換え抗体指定されたGE2−Fcγ−Fcεの試料工程中間体を使用して試験した。これらの不活化試験に使用された工程中間体を表1に示す。全ての試験は、2℃から8℃で実施した。
【0051】
TRITON(登録商標)X−100不活化試験において、0.10%(v/v)および0.20%(v/v)の濃度で、TRITON(登録商標)X−100をGE2−Fcγ−Fcε清澄条件培地(CCM)に添加した。低pHウイルス不活化試験の開始材料として、pHを3.7または3.9に調節した、GE2−Fcγ−Fcεを含有するMABSELECT(登録商標)(GE Healthcare Bio−Sciences Corp.,Piscataway,NJ,USA)プロテインAクロマトグラフィー溶出物を使用した。追加の不活化試験の工程中間体として、中和されたMABSELECT(登録商標)溶出緩衝剤(1.0Mアルギニン−HCl、約5mMトリス、pH7.3(+/−)0.5)およびGE2−Fcγ−Fcεを含有する中和されたMABSELECT(登録商標)溶出緩衝剤も使用した。これらの試験に使用された工程中間体は、検証条件下で安定することが知られている。
【0052】
【表1】

A) TRITON(登録商標)X−100 X−MLV不活化実験
TRITON(登録商標)X−100不活化実験は、0.10%または0.20%(v/v)の最終濃度のTRITON(登録商標)X−100含有GE2−Fcγ−Fcε清澄条件培地を使用して二重に実施された。表2は、これらの試験で実施された4つの実験のパラメータを示す。
【0053】
【表2】

TRITON(登録商標)X−100不活化試験のウイルスクリアランス結果の概要を表3および表4に示す。表3および表4は、種々の時間点でのX−MLV減少係数(RF)を要約し、一方、表13は、120分間、TRITON(登録商標)X−100に曝露した後の、4つの実行のRF値を要約する。図1および図2は、それぞれ、0.10%および0.20%TRITON(登録商標)X−100追加に対する、時間の関数としてのX−MLV力価を示す。
【0054】
0.10%および0.20%TRITON(登録商標)X−100不活化試験の両方において、X−MLVは、5分間の洗剤への曝露後、検出限界以下であり、X−MLVの急速な不活化を示す(図1および図2)。0.10%および0.20%(v/v)TRITON(登録商標)X−100のGE2−Fcγ−Fcε清澄条件培地への添加により、X−MLVに対して、3.1以上および2.6以上の減少係数が、それぞれ達成された。これらの試験の結果は、TRITON(登録商標)X−100が、GE2−Fcγ−FcεMABSELECT(登録商標)工程試料中のX−MLVを効果的に不活化するのに0.10%以上の濃度で使用され得ることを示した。
【0055】
【表3】

【0056】
【表4】

B)低pH X−MLV不活化実験
表5は、低pHウイルス不活化試験のパラメータを示す。実験は、二重に実施された。
【0057】
【表5】

低pH試験において、ウイルス不活化データの要約を表6および表7に示す。表6および表7は、種々の時間点でのX−MLV減少係数(RF)を要約し、一方、表13は、120分間、低pH条件に曝露した後のRF値を要約する。図3および図4は、それぞれ、pH3.7およびpH3.9におけるX−MLVの不活化動態を示す。
【0058】
これらの低pH不活化試験において、負荷対照試料および保留対照試料(中性で保持)におけるX−MLVが不活化されたことに留意することが重要である。MABSELECT(登録商標)溶出物におけるアルギニンの存在が、中性の負荷対照および保留対照の不活化に関与した可能性がある。したがって、ウイルス対照試料を、これらの試験において、減少係数を計算するために使用した。中和状態にあるウイルス対照であるPG−4検定培地(アルギニンなし)は、試験の時間経過中、いかなる有意な不活化をも示さなかった。
【0059】
pH3.7で、X−MLVは、5分の曝露後、有意に不活化され、45分後、両方の実行において、検出可能レベル以下であった(表6、図3)。X−MLVは、いくつかの時間点のpH3.7で、実行のうちの1つにおいて検出可能であったが(実行#5)、5分以上の全ての時間点において検出以下であった、二重実行(実行#6)の検定変動範囲内(<1Log10)であった。
【0060】
X−MLVが、二重実行の両方において、5分の曝露後に検出以下であるという同様の結果が、3.9の高いpHで得られた(表7および図4)。
【0061】
保留対照および負荷対照におけるX−MLV不活化の結果により、低pH条件が、観察されたウイルス不活化に関与したかどうかは、分からなかった。1Mアルギニンの存在が、低pH試験中、X−MLV不活化にも寄与した可能性がある。
【0062】
【表6】

【0063】
【表7】

C)アルギニンのX−MLV不活化実験
アルギニン(中性pH)の存在下でのX−MLVの不活化を、GE2−Fcγ−Fcεを用いて、および用いずに検証した。表8は、この実施例のアルギニン不活化実験のいくつかのパラメータを示す。実験は、二重に実施された。負荷対照および保留対照試験に使用された緩衝剤は、アルギニン(約5mMトリス、pH7.0)を含有しなかった。
【0064】
【表8】

表11および表12は、種々の時間点でのX−MLV減少係数(RF)を要約し、一方、表13は、120分後の4つの実行のRF値を要約する。図5および図6は、それぞれ、GE2−Fcγ−Fcεの不在下および存在下における、X−MLV含有1Mアルギニン緩衝剤の不活化動態を示す。この試験において、X−MLVは、1Mアルギニンを含有する中性溶液中で15分後、検出可能レベル、またはそれ以下であった。しかしながら、ウイルスの検出可能なレベルが、5分間の曝露後、全ての試験において存在した(実行9〜12)。アルギニン試験のX−MLV不活化動態は、低pH試験中に測定された不活化動態と比較して、わずかに遅かった。しかしながら、両方の試験において、X−MLVレベルは、30分の曝露後、検出、またはそれ以下であった。
【0065】
同様の不活化動態が、アルギニン緩衝剤中のGE2−Fcγ−Fcεの存在下、および不在下で達成された(図5および図6)。結果は、GE2−Fcγ−Fcεが、試験中、X−MLV不活化に影響を及ぼさなかったことを示す。アルギニンを含有しなかった負荷対照試料および保留対照試料が、120分間隔にわたっていかなるX−MLV不活化も示さなかったことに留意することが重要である。X−MLVの見かけ上の不活化は、緩衝溶液中のアルギニンの存在によるものであった。4.1以上のX−MLV減少係数が、120分の曝露後の全てのアルギニン試験で達成された(表13)。
【0066】
【表9】

【0067】
【表10】

【0068】
【表11】

【0069】
【表12】

【0070】
【表13】

実施例2
X−MLV、SuHV−1およびMMVを用いたアルギニンおよびグリシンのウイルス不活化試験
アルギニンのウイルス不活化動態をさらに特徴付け、アルギニンによって不活化されるウイルスを同定するために、中性pHの高濃度の2つのアミノ酸(アルギニンおよびグリシン)の存在下で、3つのウイルス(X−MLV、SuHV−1、およびMMV)を試験した。全ての試験は、2℃〜8℃で実施された。これらの試験の実験パラメータを表14に示す。各実験を二重に実施した。
【0071】
【表14】

哺乳類細胞培養物で一般的に認められる内因性レトロウイルスの代表として、この試験にX−MLVをモデルレトロウイルスとして選択した。この試験に選択された追加のモデルウイルスは、広範なウイルス特徴を含む。評価されたウイルスは、異種指向性マウス白血病ウイルスX−(MLV)、マウス微小ウイルス(MMV)、およびブタヘルペスウイルス1(SuHV−1)であった(表15)。
【0072】
【表15】

A)0.1Mアルギニン存在下のX−MLV
0.1Mアルギニン(pH7.0)の存在下において(表14)、ウイルス力価レベルが、評価時間にわたり有意に変化したかったため、X−MLV不活化は、二重実行において、120分の曝露後、生じなかった(表16、図7)。X−MLV不活化動態のプロットを図7に示す。試験の結果は、中性pH(7.0)での0.1Mアルギニンの存在は、120分保持によりX−MLVを効果的に不活化するのに十分な濃度ではなかったことを示した。
【0073】
【表16】

B)0.5Mアルギニン存在下のX−MLV
0.5Mアルギニン(pH7.0)の存在下において(表14)、X−MLVウイルス力価は、120分の曝露時間にわたり減少した(表17)。X−MLV不活化動態のプロットを図7に示す。X−MLVの3.4および3.5の減少係数が、120分の曝露後の2つの実行で達成された。ウイルス力価は減少したが、検出レベルが、120分の曝露後に存在し、これは、ある程度の不活化が、0.5Mアルギニンの存在下で生じたことを示す。
【0074】
【表17】

C)1.0Mアルギニンの存在下のSuHV−1
1.0Mアルギニン(pH7.0)の存在下において(表14)、SuHV−1ウイルス力価は、二重実行において、30分の曝露後、検出の検定限界以下であった(表18)。SuHV−1不活化動態のプロットを図8に示す。SuHV−1の3.68以上および3.43以上の減少係数が、240分の曝露後の2つの実行で達成された。試験の結果は、中性pH(7.0)での、高濃度のアルギニン(1.0M)の存在が、比較的速い動態でSuHV−1ウイルスを効果的に不活化するのに十分であったことを示した。
【0075】
【表18】

D)1.0Mアルギニンの存在下のMMV
MMVは、4時間にわたる1.0Mアルギニンの存在下(表14)で不活化されなかった(表19)。工程の経過にわたる種々の時間点で測定されたMMV力価は、負荷対照および保留対照と同様のレベルであった(図9)。結果は、非エンベロープウイルスであるMMVが、pH7.0の1.0Mアルギニンの存在下で不活化されなかったことを示す。
【0076】
【表19】

E)1.0Mアルギニンおよび50%プロピレングリコールの存在下のX−MLV
1.0Mアルギニン(pH7.0)および50%プロピレングリコール(表14)の存在下において、X−MLV力価は、二重実行において、240分の曝露後、検出の検定限界以下であった(表20)。比較的遅いが安定した不活化が、工程中生じた(図10)。X−MLVの1.80以上および2.05以上の減少係数(RF)が、240分の曝露後の2つの実行で達成された。ウイルス力価における相違が、負荷対照と保留対照の間で1.0ログ10超であったため、RF値は、保留対照試料からの入力ウイルス力価を使用して計算されたことに留意する。50%プロピレングリコールの存在は、1.0Mアルギニンのみを含有する緩衝剤と比較して、ウイルス不活化の速度を遅延した可能性がある。
【0077】
【表20】

F)1.0Mアルギニンおよび50%プロピレングリコールの存在下のSuHV−1
1.0Mアルギニン(pH7.0)および50%プロピレングリコール(表14)の存在下において、ウイルスレベルが、15分の曝露後に検出以下であったので、SuHV−1は、迅速に不活化された。保留対照におけるウイルス力価も検出以下であったため、プロピレングリコールの存在が不活化工程に起因した可能性があることに留意することが重要である。SuHV−1の2.55以上の減少係数(RF)が、RF計算で負荷対照を使用して、2つの実行で達成された。保留対照のウイルス力価が検出以下であったため、RFを計算するために、負荷対照が使用された。不活化動態のプロットを図11に示す。
【0078】
【表21】

G)1.0Mグリシンの存在下のXMLV
X−MLVは、1.0Mグリシンの存在下で不活化されなかった(表22、図12)。結果は、高濃度のグリシンが、エンベロープウイルス(X−MLV等)の不活化に効果的ではなかったことを示す。
【0079】
【表22】

試験は、高アルギニン濃度(中性pH)を含有する緩衝剤が、X−MLVおよびSuHV−1等のエンベロープウイルスを効果的に不活化する独特の特性を有することを示した。グリシンは、ウイルス不活化に効果的ではなかった。
【0080】
表23は、ウイルス不活化(減少係数)を含む、試験の結果を要約する。試験で評価されたエンベロープウイルス(X−MLVおよびSuHV−1)は、1.0Mアルギニンの存在下で不活化されたが、非エンベロープウイルス(MMV)は、不活化されなかった。1.0Mグリシンの使用は、X−MLVを不活化しなかった。結果は、高濃度のアルギニン(1.0M)含有中性緩衝剤の使用が、エンベロープウイルスの効果的なウイルス不活化方法として有用であり得ることを示す。
【0081】
【表23】

実施例3
製剤品質におけるアルギニンウイルス不活化の効果
治療用生物学的の製剤品質におけるアルギニンウイルス不活化の効果を検証するために、4つのタンパク質製剤を、高濃度のアルギニンと共にインキュベートした。タンパク質製剤を最終工程の中間体として得、3.7の低pHか、またはボーラス添加による1.0Mのアルギニン濃度のいずれかで、24時間、インキュベートした。タンパク質製剤の凝集体を分子ふるいクロマトグラフィーで決定した。結果を表24に示す。
【0082】
【表24】

タンパク質製剤であるLingo、GE2およびTWEAKの凝集レベルは、24時間、1.0Mアルギニンでインキュベートした後、対照と同じか、または対照より良かった。1.0Mアルギニンで24時間インキュベートした後に残存したFIXモノマーのパーセンテージは、対照よりわずかだけ低かった(表24を参照のこと)。しかしながら、1.0Mアルギニンでのインキュベートと異なり、pH3.7での24時間後のタンパク質製剤の安定性は、非常に可変であった。TWEAKのみが、24時間後に残存したタンパク質モノマーの高パーセンテージを示し、一方GE2、FIX、およびLingoは、大量のタンパク質凝集体を示した(表24ならびにGE2およびLingoにおいて、それぞれ、図14および図15を参照のこと)。低pHでインキュベートされたタンパク質製剤試料における高分子量種のパーセンテージは、SDS−PAGEゲル分析により確認された。(GE2については、図16を参照のこと、矢印は、高分子量種の増量を示す)。
【0083】
これらの製剤品質試験は、高濃度のアルギニンが、製剤品質にほとんど、または全く有害な影響がなく、したがって、製造において潜在的な柔軟性を提供することを実証する。タンパク質濃度が、初期の試験の10分の1の濃度である時にも、同様のタンパク質の凝集傾向が観察された(データ示さず)。したがって、タンパク質濃度は、タンパク質製剤が、高濃度のアルギニンに曝露される時、凝集体種形成に影響を与えなかった。しかしながら、試料へのアルギニン添加の速度は、凝集体種の形成に影響を与えるように思われた。
【0084】
例えば、アルギニン原液のボーラス添加は、試料に局所的な高濃度をもたらし、ある程度の凝集体形成をもたらす。しかしながら、アルギニン原液の滴下添加(5分後に最終アルギニン濃度に達する1mLのアルギニン原液を滴下添加)は、ある程度の初期の凝集はそれでも生じるが、凝集体形成を軽減する(FIX融合タンパク質の安定性を示す図17を参照のこと)。アルギニン原液の速度は、製造環境で容易に制御され得るため、ウイルスの不活化またはその感染力価を低減するための高濃度のアルギニンの使用は、低pH等の厳しい条件を使用する現行の実践の効果的な代替としての機能を果たす。
【0085】
この実施例で実証されるように、融合タンパク質およびモノクローナル抗体等の治療用タンパク質は、高濃度のアルギニンの存在下で良好な製剤安定性を示す。したがって、いくつかの実施形態において、ウイルスをアルギニン接触させることを含むウイルスの不活化またはその感染力価を低減する方法は、治療用タンパク質の単離および/または産生中に適用される。このような治療用タンパク質のいくつかの実施例は、上述の第IX−Fc(FIX−Fc)因子等の融合タンパク質、および凝固因子、第VII因子、第VIII−Fc因子融合タンパク質等のさらなるFc融合タンパク質、ならびに例えば、それぞれが参照により本明細書に援用される、米国特許第7,348,004号、第7,381,408号および第7,404,956号、ならびに米国特許出願公開第US2005/0147618 A1号に開示されるもの等の、その他を含むが、これらに限定されない。治療用タンパク質は、これらに限定されないが、LINGO−1を結合する抗体、またはTWEAK受容体(Fn14)を結合する抗体等の抗体も含み、これらは、国際出願公開第WO2007/008547号および第WO2008/086006号、ならびにLingo抗体については、国際出願第PCT/US2009/003999号、またはTWEAK抗体については、国際出願第PCT/US2009/043382号に記載され、それぞれ、参照により本明細書に援用される。
本発明(E)の実施形態は、E1〜E31を含む。
【0086】
E1.前記ウイルスをアルギニンと接触させることを含む、エンベロープウイルスを不活化またはその感染力価低減する方法であって、前記接触は、少なくとも約0.2Mのアルギニンを含む溶液中で生じ、前記溶液は、約6.0を超えるpHである。
【0087】
E2.前記ウイルスをアルギニンと接触させることを含む、治療用生物学的製剤を汚染するエンベロープウイルスを不活化またはその感染力価低減する方法であって、前記接触は、少なくとも約0.2Mのアルギニンを含む溶液中で生じ、前記溶液は、約6.0を超えるpHである。
【0088】
E3.前記pHは、
a)約6.0〜約8.5のpH
b)約6.5〜約8.0のpH
c)約6.5〜約7.5のPH
d)約6.0〜8.0のpH
e)約7.0〜約8.0のpH
f)約7.0〜約7.5のpH
g)約6.0のpH
h)約6.5のpH
i)約7.0のpH
j)約7.5のpH
k)約8.0のpH、および
l)約8.5のpHからなる群から選択される、E1またはE2に記載の方法。
【0089】
E4.前記アルギニンの濃度は、
a)約0.3M、
b)約0.4M、
c)約0.5M、
d)約0.6M、
e)約0.7M、
f)約0.8M、
g)約0.9M、
h)約1.0M、
i)約1.1M、
j)約1.2M、
k)約1.3M、
l)約1.4M、
m)約1.5M、
n)約1.6M、
o)約1.7M、
p)約1.8M、
q)約1.9M、
r)約2.0M、
s)約2.1M、
t)約2.2M、
u)約2.3M、
v)約2.4M、
w)約2.5M、
x)約3M、
y)約3.5M、
z)約4M、
aa)約4.5M、
ab)約5M、
ac)約5.5M、
ad)約6M、
ad)約6.5M、
ad)約7M、および
ae)約7.5Mからなる群から選択される、E1〜E3のうちのいずれか1つに記載の方法。
【0090】
E5.前記ウイルスは、グリコール化合物をさらに含む前記溶液と接触させられるE1〜E4のいずれか1つに記載の方法。
【0091】
E6.前記グリコール化合物は、約50%(容量に対する重量)以下の濃度で存在する、E5に記載の方法。
【0092】
E7.前記グリコール化合物は、
a)プロピレングリコール、
b)ポリプロピレングリコール、
c)エチレングリコール、
d)ポリエチレングリコール、
e)ヘキシレングリコール、および
f)ポリヘキシレングリコールからなる群から選択される、E5またはE6に記載の方法。
【0093】
E8.前記不活化または低減は、製剤精製工程の一部として実施される、E1〜E7のいずれか1つに記載の方法。
【0094】
E9.前記不活化または低減は、細胞培養物採取手順中に実施される、E8に記載の方法。
【0095】
E10.前記不活化または低減は、細胞培養物清澄手順中に実施される、E8に記載の方法。
【0096】
E11.前記不活化または低減は、クロマトグラフィー精製手順の前に実施され、前記手順は、前記治療用生物学的製剤をクロマトグラフィー媒体と接触させることを含む、E8に記載の方法。
【0097】
E12. 前記不活化または低減は、クロマトグラフィー精製手順の後に実施され、前記手順は、前記治療用生物学的製剤をクロマトグラフィー媒体と接触させることを含む、E8に記載の方法。
【0098】
E13.前記不活化または低減は、1つ以上のクロマトグラフィー精製手順の後であるが、別の1つ以上のクロマトグラフィー精製手順の前に実施され、前記手順は、前記治療用生物学的製剤をクロマトグラフィー媒体と接触させることを含む、E8に記載の方法。
【0099】
E14.前記不活化または低減は、前記生物学的製剤の調製に使用される全てのクロマトグラフィー精製手順の後に実施される、E8に記載の方法。
【0100】
E15.前記不活化または低減は、ウイルス濾過手順の前に実施される、E8に記載の方法。
【0101】
E16.前記不活化または低減は、ウイルス濾過手順の後に実施される、 E8に記載の方法。
【0102】
E17.前記不活化または低減は、ウイルス濾過手順の後、および限外濾過または透析濾過手順の前に実施される、E8に記載の方法。
【0103】
E18.前記不活化または低減は、限外濾過または透析濾過手順の前に実施される、E8に記載の方法。
【0104】
E19.前記不活化または低減は、限外濾過または透析濾過手順の後に実施される、E8に記載の方法。
【0105】
E20.前記治療用生物学的製剤は、組み換えタンパク質を含む、E1〜E19のいずれか1つに記載の方法。
【0106】
E21.前記治療用生物学的製剤は、自然に生じる、または組み換え免疫グロブリンを含む、E1〜E19のいずれか1つに記載の方法。
【0107】
E22.前記治療用生物学的製剤は、自然に生じる、または組み換え血液凝固因子である、E1〜E19のいずれか1つに記載の方法。
【0108】
E23.前記血液凝固因子は、
a)フィブリノーゲン(第I因子)、
b)フィブリン、
c)プロトロンビン(第II因子)、
d)トロンビン、
e)抗トロンビン、
f)VIIaの組織因子補因子(第III因子)、
g)プロテインC、
h)プロテインS、
i)プロテインZ;
j)プロテインZ関連プロテアーゼ阻害剤
k)ヘパリン補因子II、
l)第V因子(プロアクセレリン、不安定因子)、
m)第VII因子、
n)第VIII因子、
o)第IX因子、
p)第X因子、
q)第XI因子、
r)第XII因子、
s)第XIII因子、
t)フォンビルブランド因子、
u)プレカリクレイン、
v)高分子キニノーゲン、
w)プラスミノーゲン、
x)プラスミン、
y)組織プラスミノーゲン活性化因子、
z)ウロキナーゼ、
aa)プラスミノーゲン活性化因子阻害剤1、および
ab)プラスミノーゲン活性化因子阻害剤2からなる群から選択される、請求項E22に記載の方法。
【0109】
E24.前記生物学的製剤は、真核細胞により産生される、E1〜E22のいずれか1つに記載の方法。
【0110】
E25.前記生物学的製剤は、哺乳類細胞によって産生される、E24に記載の方法。
【0111】
E26.前記生物学的製剤は、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞によって産生される、E25に記載の方法。
【0112】
E27.前記生物学的製剤は、NSOマウス骨髄腫細胞によって産生される、E25に記載の方法。
【0113】
E28.前記生物学的製剤は、ヒト細胞によって産生される、E25に記載の方法。
【0114】
E29.前記治療用タンパク質は、融合タンパク質である、E1〜E28のうちのいずれか1つに記載の方法。
【0115】
E30.前記融合タンパク質は、Fc融合タンパク質である、E29に記載の方法。
【0116】
E31.前記自然に生じる、または組み換え免疫グロブリンは、LINGO−1に結合する抗体、またはTWEAK受容体(Fn14)に結合する抗体である、E21に記載の方法。
【0117】
これらの実施例は、本発明の可能な実施形態を図示する。本発明は、そのいくつかの実施形態を参照して特に示され、説明されたが、これらは例として提示されたに過ぎず、限定するものではなく、形態および詳細の種々の変更が、本発明の意図および範囲から逸脱することなく、そこになされ得ることを、当業者は理解するであろう。したがって、本発明の幅および範囲は、上述の代表的な実施形態のいずれによっても制限されるべきではなく、以下の特許請求の範囲およびそれらの等価物のみに従い定義されるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンベロープウイルスを不活化またはその感染力価を低減する方法であって、前記ウイルスをアルギニンと接触させることを含み、前記接触は、少なくとも約0.2Mのアルギニンを含む溶液中で生じ、前記溶液のpHは、約6.0よりも高い、方法。
【請求項2】
治療用生物学的製剤を汚染するエンベロープウイルスを不活化またはその感染力価を低減する方法であって、前記ウイルスをアルギニンと接触させることを含み、前記接触は、少なくとも約0.2Mのアルギニンを含む溶液中で生じ、前記溶液のpHは、約6.0よりも高い、方法。
【請求項3】
前記pHは、
a)約6.0〜約8.5のpH
b)約6.5〜約8.0のpH
c)約6.5〜約7.5のpH
d)約6.0〜8.0のpH
e)約7.0〜約8.0のpH
f)約7.0〜約7.5のpH
g)約6.0のpH
h)約6.5のpH
i)約7.0のpH
j)約7.5のpH
k)約8.0のpH、および
l)約8.5のpHからなる群から選択される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記アルギニンの濃度は、
a)約0.3M、
b)約0.4M、
c)約0.5M、
d)約0.6M、
e)約0.7M、
f)約0.8M、
g)約0.9M、
h)約1.0M、
i)約1.1M、
j)約1.2M、
k)約1.3M、
l)約1.4M、
m)約1.5M、
n)約1.6M、
o)約1.7M、
p)約1.8M、
q)約1.9M、
r)約2.0M、
s)約2.1M、
t)約2.2M、
u)約2.3M、
v)約2.4M、
w)約2.5M、
x)約3M、
y)約3.5M、
z)約4M、
aa)約4.5M、
ab)約5M、
ac)約5.5M、
ad)約6M、
ad)約6.5M、
ad)約7M、および
ae)約7.5Mからなる群から選択される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
前記ウイルスは、グリコール化合物をさらに含む前記溶液と接触される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項6】
前記グリコール化合物は、約50%(容量に対する重量)以下の濃度で存在する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記グリコール化合物は、
a)プロピレングリコール、
b)ポリプロピレングリコール、
c)エチレングリコール、
d)ポリエチレングリコール、
e)ヘキシレングリコール、および
f)ポリヘキシレングリコールからなる群から選択される、請求項5または6に記載の方法。
【請求項8】
前記不活化または低減は、製剤精製工程の一部として実施される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項9】
前記不活化または低減は、細胞培養物採取手順中に実施される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記不活化または低減は、細胞培養物清澄手順中に実施される、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記不活化または低減は、クロマトグラフィー精製手順の前に実施され、前記手順は、前記治療用生物学的製剤をクロマトグラフィー媒体と接触させることを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
前記不活化または低減は、クロマトグラフィー精製手順の後で実施され、前記手順は、前記治療用生物学的製剤をクロマトグラフィー媒体と接触させることを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項13】
前記不活化または低減は、1つ以上のクロマトグラフィー精製手順の後であるが、別の1つ以上のクロマトグラフィー精製手順の前に実施され、前記手順は、前記治療用生物学的製剤をクロマトグラフィー媒体と接触させることを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項14】
前記不活化または低減は、前記生物学的製剤の調製に使用される全てのクロマトグラフィー精製手順の後に実施される、請求項8に記載の方法。
【請求項15】
前記不活化または低減は、ウイルス濾過手順の前に実施される、請求項8に記載の方法。
【請求項16】
前記不活化または低減は、ウイルス濾過手順の後に実施される、請求項8に記載の方法。
【請求項17】
前記不活化または低減は、ウイルス濾過手順の後、かつ限外濾過または透析濾過手順の前に実施される、請求項8に記載の方法。
【請求項18】
前記不活化または低減は、限外濾過または透析濾過手順の前に実施される、請求項8に記載の方法。
【請求項19】
前記不活化または低減は、限外濾過または透析濾過手順の後に実施される、請求項8に記載の方法。
【請求項20】
前記治療用生物学的製剤は、組み換えタンパク質を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項21】
前記治療用生物学的製剤は、自然に生じるかまたは組み換えの免疫グロブリンを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項22】
前記治療用生物学的製剤は、自然に生じるかまたは組み換えの血液凝固因子を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項23】
前記血液凝固因子は、
a)フィブリノーゲン(第I因子)、
b)フィブリン、
c)プロトロンビン(第II因子)、
d)トロンビン、
e)抗トロンビン、
f)VIIaの組織因子補助因子(第III因子)、
g)プロテインC、
h)プロテインS、
i)プロテインZ;
j)プロテインZ関連プロテアーゼ阻害剤
k)ヘパリン補因子II、
l)第V因子(プロアクセレリン、不安定因子)、
m)第VII因子、
n)第VIII因子、
o)第IX因子、
p)第X因子、
q)第XI因子、
r)第XII因子、
s)第XIII因子、
t)フォンビルブランド因子、
u)プレカリクレイン、
v)高分子キニノーゲン、
w)プラスミノーゲン、
x)プラスミン、
y)組織プラスミノーゲン活性化因子、
z)ウロキナーゼ、
aa)プラスミノーゲン活性化因子阻害剤1、および
ab)プラスミノーゲン活性化因子阻害剤2からなる群から選択される、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記生物学的製剤は、真核細胞により産生される、請求項2に記載の方法。
【請求項25】
前記生物学的製剤は、哺乳類細胞によって産生される、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記生物学的製剤は、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞によって産生される、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記生物学的製剤は、NSOマウス骨髄腫細胞によって産生される、請求項25に記載の方法。
【請求項28】
前記生物学的製剤は、ヒト細胞によって産生される、請求項25に記載の方法。
【請求項29】
前記アルギニンの濃度は、段階的勾配または連続勾配を使用して、少なくとも約0.2Mのアルギニンの最終濃度まで徐々に増加される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項30】
前記アルギニンの最終濃度は、1分当り約20%以下の速度で、段階的勾配または連続勾配により増加される、請求項29に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公表番号】特表2012−509081(P2012−509081A)
【公表日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−537425(P2011−537425)
【出願日】平成21年11月20日(2009.11.20)
【国際出願番号】PCT/US2009/006221
【国際公開番号】WO2010/059232
【国際公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【出願人】(592221528)バイオジェン・アイデック・エムエイ・インコーポレイテッド (224)
【Fターム(参考)】