説明

ウイルスを不活性化するための方法

本発明は、ウイルスをハロペルオキシダーゼ、過酸化水素、塩化物イオン、臭化物イオン及びアンモニウムイオンと接触させることによりウイルスを不活性化するための方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウイルスを不活性化するための方法、ならびに医療用装置及び機器を消毒又は滅菌するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
大半の真菌、ウイルス、及び病原性細菌の栄養細胞は、70℃で数分以内に死滅又は不活性化される。しかしながら、いくつかの病原性ウイルス、例えばポリオウイルスは、不活性化することが非常に難しい。さらに、高精度の医療用機器は、このような高温に曝露された場合には、しばしば低減した耐用年数を有するため、ウイルス不活性化能を保持しながら、低温且つ温和な条件を利用した医療用機器の消毒方法を使用することが望ましい。
【0003】
特に、小型非エンベロープウイルス(small non-enveloped virus)、例えばポリオウイルス、パルボウイルス及びA型肝炎ウイルスが懸念される。これらは、小型(直径23〜27ナノメートル)でエンベロープを有さないヒト病原体であり、脂質エンベロープウイルス、例えばHIV、B型肝炎ウイルス及びC型肝炎ウイルスに有効性を示す除去及び不活性化の手段に対して耐性であることが実証されている。
【0004】
非常に安定なサブクラスの小型非エンベロープウイルスは、腸内ウイルス(例えば、ポリオウイルス及びA型肝炎ウイルス)であり、これらは、3未満のpH、洗剤、70%アルコール及びその他の脂質溶媒、例えばクロロホルムやエーテルに対して耐性である。これらは、5%リゾールや1%第四級アンモニウム化合物のような消毒薬にも耐えるため、腸内ウイルスは不活性化するのが特に難しい。
【0005】
本発明は、高精度器具、例えば医療用機器において従来法よりも穏やかなウイルスを不活性化するための改善された酵素的方法を提供する。
【発明の概要】
【0006】
本発明は、ウイルスを不活性化するための方法であって、ウイルスを、ハロペルオキシダーゼ、過酸化水素の供給源、塩化物イオン及び/又は臭化物イオン、ならびにアンモニウムイオンと接触させることを含んで成る方法を提供する。
【0007】
一実施形態において、ハロペルオキシダーゼはクロロペルオキシダーゼ又はブロモペルオキシダーゼである。別の実施形態では、ハロペルオキシダーゼはバナジウム含有ハロペルオキシダーゼである。
【0008】
詳細な説明
ハロペルオキシダーゼ及びハロペルオキシダーゼ活性を示す化合物
本発明の方法に組み入れられるのに適しているハロペルオキシダーゼとしては、クロロペルオキシダーゼ、ブロモペルオキシダーゼ、ならびにクロロペルオキシダーゼ又はブロモペルオキシダーゼ活性を示す化合物が挙げられる。ハロペルオキシダーゼは、過酸化水素又は過酸化水素生成系の存在下において、ハロゲン化物(Cl−、Br−、I−)を対応する次亜ハロゲン酸に酸化し得る酵素の一クラスを構成する。
【0009】
ハロペルオキシダーゼは、ハロゲン化物イオンに対するそれらの特異性に従って分類される。クロロペルオキシダーゼ(E.C.1.11.1.10)は、塩化物イオンから次亜塩素酸塩の形成、臭化物イオンから次亜臭素酸塩の形成、及びヨウ化物イオンから次亜ヨウ素酸塩の形成を触媒し、そしてブロモペルオキシダーゼは、臭化物イオンから次亜臭素酸塩の形成、ヨウ化物イオンから次亜ヨウ素酸塩の形成を触媒する。しかしながら、次亜ヨウ素酸塩は、ヨウ素への自発的不均化を受けるため、ヨウ素は観察される生成物である。これらの次亜ハロゲン酸化合物は、その後、他の化合物と反応してハロゲン化化合物を生成する。
【0010】
好ましい一実施形態において、本発明のハロペルオキシダーゼはクロロペルオキシダーゼである。
【0011】
ハロペルオキシダーゼは、種々の生物:哺乳類、海洋動物、植物、藻類、地衣類、真菌及び細菌から単離されている。ハロペルオキシダーゼは、本来、ハロゲン化化合物の形成に関与する酵素であるが、他の酵素も関しうることが一般的に許容される。
【0012】
ハロペルオキシダーゼは、多数の異なる真菌から、特に真菌群の糸状不完全菌類暗色線菌科(dematiaceous hyphomycetes)、例えば海洋性糸状菌(Caldariomyces)、例えばカルダリオミセス・フマゴ(C. fumago)、アテルナリア(Alternaria)、クルブラリア(Curvularia)、例えばクルブラリア・ベルクロサ(C. verruculosa)及びクルブラリア・イネクアリス(C. inaequalis)、ドレクスレラ(Drechslera)、ウロクラジウム(Ulocladium)及びボツリティス(Botrytis)から単離されている。
【0013】
ハロペルオキシダーゼは、細菌、例えばシュードモナス、例えばシュードモナス・ピロシニア(P. pyrrocinia)及びストレプトミセス、例えばストレプトミセス・アウレオファシエンス(S. aureofaciens)からも単離されている。
【0014】
好ましい一実施形態において、ハロペルオキシダーゼは、クルブラリア、特にクルブラリア・ベルクロサ又はクルブラリア・イネクアリス、例えばC.イネクアリスCBS 102.42(WO95/27046に記載)から得られるバナジウムハロペルオキシダーゼ(すなわち、バナジウム又はバナデート含有ハロペルオキシダーゼ)、例えばWO95/27046、図2のDNA配列によりコードされるバナジウムハロペルオキシダーゼ(参照により全て組み入れられる);あるいはC.ベルクロサCBS147.63又はC.ベルクロサCBS444.70(WO97/04102に記載)から得られるバナジウムハロペルオキシダーゼである。好ましくはハロペルオキシダーゼのアミノ酸配列は、クルブラリア・ベルクロサ(例えばWO97/04102の配列番号2参照)又はクルブラリア・イネクアリス(例えば、WO95/27046の図2のDNA配列によりコードされる成熟アミノ酸配列)から得られるハロペルオキシダーゼのアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性、好ましくは95%の同一性を有する。
【0015】
別の好ましい実施形態では、ハロペルオキシダーゼは、バナジウム含有ハロペルオキシダーゼ、特にバナジウムクロロペルオキシダーゼである。バナジウムクロロペルオキシダーゼは、ドレクスレラ・ハルトレビ(Drechslera hartlebii)(WO01/79459に記載)、デンドリフィエラ・サリナ(Dendryphiella salina)(WO01/79458に記載)、フェオトリココニス・クロタラリエ(Phaeotrichoconis crotalarie)(WO01/79461に記載)又はゲニクロスポリウム種(Geniculosporium sp.)(WO01/79460)から得られる。バナジウムハロペルオキシダーゼは、さらに好ましくは、ドレクスレラ・ハルトレビ(DSM13444)、デンドリフィエラ・サリナ(DSM13443)、フェオトリココニス・クロタラリエ(DSM13441)又はゲニクロスポリウム種(DSM13442)から得られる。
【0016】
ハロペルオキシダーゼの濃度は、典型的には、0.01〜100ppm酵素タンパク質、好ましくは0.05〜50ppm酵素タンパク質、さらに好ましくは1〜40ppm酵素タンパク質、さらに好ましくは0.1〜20ppm酵素タンパク質、最も好ましくは0.5〜10ppm酵素タンパク質の範囲である。
【0017】
一実施形態において、ハロペルオキシダーゼの濃度は、典型的には5〜50ppm酵素タンパク質、好ましくは5〜40ppm酵素タンパク質、さらに好ましくは8〜32ppm酵素タンパク質の範囲である。
【0018】
ハロペルオキシダーゼ活性の決定
ハロペルオキシダーゼ活性を決定するための検定は、100μLのハロペルオキシダーゼ試料(約0.2μg/mL)及び100μLの0.3Mリン酸ナトリウムpH7緩衝液−0.5M臭化カリウム−0.008%フェノールレッドを混合し、その溶液を10μLの0.3%H22に添加し、そして時間の一関数として595nmで吸光度を測定することにより行うことができる。
【0019】
基質としてモノクロロジメドン(Sigma M4632、290 nmにおいてε=20000 M-1cm-1)を用いる別の検定は、時間の一関数として290nmでの吸光度の低減を測定することにより行うことができる。検定は、0.1Mリン酸ナトリウム又は0.1M酢酸ナトリウム、50μMモノクロロジメドン、10mMKBr/KCl、1mMH22及び約1μg/mLハロペルオキシダーゼの水溶液中で行われる。1ハロペルオキシダーゼ単位(HU)は、pH5及び30℃で、塩化又は臭化される1マイクロモルのモノクロロジメドン/分と定義される。
【0020】
過酸化水素
ハロペルオキシダーゼにより必要とされる過酸化水素は、過酸化水素又は過酸化水素のin situ製造のための過酸化水素前駆体の水溶液として提供される。ハロペルオキシダーゼにより使用可能な過酸化物を溶解時に遊離する任意の固体存在物は、過酸化水素の供給源として役立ち得る。水又は適切な水性ベースの媒質中で溶解時に過酸化水素を生じる化合物としては、金属過酸化物、過炭酸塩、過硫酸塩、過リン酸塩、過オキシ酸、アルキルペルオキシド、アシルペルオキシド、ペルオキシエステル、過酸化尿素、過ホウ酸塩及びペルオキシカルボン酸又はその塩が挙げられるが、これらに限定されない。
【0021】
過酸化水素の別の供給源は、過酸化水素発生酵素系、例えばオキシダーゼのための基質を伴うオキシダーゼである。オキシダーゼと基質の組合せの例としては、アミノ酸オキシダーゼ(例えば米国特許第6,248,575号参照)と適切なアミノ酸、グルコースオキシダーゼ(例えばWO95/29996参照)とグルコース、ラクテートオキシダーゼとラクテート、ガラクトースオキシダーゼ(例えばWO00/50606参照)とガラクトース、ならびにアルドースオキシダーゼ(例えばWO99/31990参照)と適切なアルドースが挙げられるが、これらに限定されない。
【0022】
(国際生化学連合下で)EC1.1.3._、EC1.2.3._、EC1.4.3._及びEC1.5.3._又は類似のクラスを試験することにより、オキシダーゼと基質のこのような組合せの他の例は、当業者に容易に認識される。
【0023】
過酸化水素又は過酸化水素の供給源は、当該工程の開始時又は工程中に、例えば、典型的には0.001mM〜25mMのレベル、好ましくは0.005mM〜5mMのレベル、特に0.01〜1mM過酸化水素のレベルに対応する量において添加できる。過酸化水素は、0.1mM〜25mMのレベル、好ましくは0.5mM〜15mMのレベル、さらに好ましくは1〜10mMのレベル、最も好ましくは2mM〜8mM過酸化水素のレベルに対応する量で用いてもよい。
【0024】
塩化物及び臭化物イオン
本発明によれば、ハロペルオキシダーゼとの反応に必要とされる塩化物及び/又は臭化物イオン(Cl-及び/又はBr-)は、多数の異なる方法で、例えば塩化物及び/又は臭化物の塩を添加することにより提供され得る。好ましい一実施形態において、塩化物及び臭化物の塩は、塩化ナトリウム(NaCl)、臭化ナトリウム(NaBr)、塩化カリウム(KCl)、臭化カリウム(KBr)、塩化アンモニウム(NH4Cl)又は臭化アンモニウム(NH4Br);あるいはこれらの混合物である。
【0025】
一実施形態において、塩化物及び/又は臭化物イオンは、塩化物イオン(Cl-)又は臭化物イオン(Br-)のみに限定される。別の実施形態では、塩化物及び/又は臭化物イオンは、塩化物イオン(Cl-)及び臭化物イオン(Br-)のみに限定される。塩化物イオンは、水溶液に塩化物の塩を添加することにより提供され得る。塩化物の塩は、塩化ナトリウム、塩化カリウム又は塩化アンモニウムあるいはこれらの混合物であり得る。臭化物イオンは、水溶液に臭化物の塩を添加することにより提供され得る。臭化物の塩は、臭化ナトリウム、臭化カリウム又は臭化アンモニウム、あるいはこれらの混合物であり得る。
【0026】
塩化物及び臭化物イオンの各々の濃度は、典型的には0.01mM〜1000mMの範囲、好ましくは0.05mM〜500mMの範囲、さらに好ましくは0.1mM〜100mMの範囲、最も好ましくは0.1mM〜50mMの範囲、特に1mM〜25mMの範囲である。塩化物イオンの濃度は臭化物イオンの濃度とは無関係であり、そして逆も言える。
【0027】
一実施形態において、塩化物及び臭化物イオンの各々のモル濃度は、アンモニウムイオンの濃度より、少なくとも2倍高く、好ましくは少なくとも4倍高く、さらに好ましくは少なくとも6倍高く、最も好ましくは少なくとも8倍高く、特には少なくとも10倍高い。
【0028】
アンモニウムイオン
本発明の方法によりウイルスを不活性化するために必要とされるアンモニウムイオン(NH4+)は、多数の異なる方法で、例えばアンモニウムの塩を添加することにより提供され得る。好ましい一実施形態において、アンモニウム塩は、硫酸アンモニウム((NH42SO4)、炭酸アンモニウム((NH42CO3)、塩化アンモニウム(NH4Cl)、臭化アンモニウム(NH4Br)又はヨウ化アンモニウム(NH4I)、あるいはこれらの混合物である。
【0029】
アンモニウムイオンの濃度は、典型的には0.01mM〜1000mMの範囲、好ましくは0.05mM〜500mMの範囲、さらに好ましくは0.1〜100mMの範囲、最も好ましくは0.1mM〜50mMの範囲、特に1mM〜25mMの範囲である。
【0030】
ウイルス
本発明によるハロペルオキシダーゼ、過酸化水素、塩化物イオン及び/又は臭化物イオン、ならびにアンモニウムイオンで不活性化されるウイルスは、全ての種類のウイルスを含む。
【0031】
一実施形態において、ウイルスは、以下からなる群:アデノウイルス、アレナウイルス、ブニヤウイルス、カリシウイルス、コロナウイルス、デルタウイルス、フィロウイルス、フラビウイルス、ヘパドナウイルス、ヘルペスウイルス、オルトミクソウイルス、パポバウイルス、パラミクソウイルス、パルボウイルス、ピコルナウイルス、ポックスウイルス、ラブドウイルス、レオウイルス、レトロウイルス及びトガウイルス。
【0032】
別の実施形態では、ウイルスは、以下のものからなる群から選択される:ノロウイルス(ノーウォークウイルス)、ポリオウイルス、ロタウイルス、呼吸器系合胞体ウイルス、ライノウイルス、パラインフルエンザウイルス、コロナウイルス、A及びB型インフルエンザウイルス、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、A型肝炎ウイルス、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、1型単純ヘルペスウイルス及び2型単純ヘルペスウイルス、から選択される。
【0033】
別の実施形態では、ウイルスは小型非エンベロープウイルスである。小型非エンベロープウイルスの例としては、ピコルナウイルス、例えばヒトライノウイルスA型、ヒトライノウイルスB型、手足口病ウイルス、A型肝炎ウイルス及び腸内ウイルス(例えばポリオウイルス)が挙げられるが、これらに限定されない。
好ましい一実施形態において、ウイルスは腸内ウイルスである。
【0034】
界面活性剤
本発明の方法は、界面活性剤(例えば、洗剤製剤の一部又は湿潤剤として)の適用を包含し得る。適用されるのに適している界面活性剤は、非イオン性(例えば、半極性)、陰イオン性、陽イオン性及び/又は両イオン性であってよい。好ましくは界面活性剤は、陰イオン性(例えば線状アルキルベンゼンスルホネート、アルファ−オレフィンスルホネート、アルキルスルフェート(脂肪アルコールスルフェート)、アルコールエトキシスルフェート、第二アルカンスルホネート、アルファ−スルホ脂肪酸メチルエステル、アルキル−又はアルケニルコハク酸又は石鹸)、あるいは非イオン性(例えば、アルコールエトキシレート、ノニルフェノールエトキシレート、アルキルポリグリコシド、アルキルジメチルアミンオキシド、エトキシル化脂肪酸モノエタノールアミド、脂肪酸モノエタノールアミド、ポリヒドロキシアルキル脂肪酸アミド又はグルコサミンのN−アシルN−アルキル誘導体(「グルカミド」))、あるいはこれらの混合物である。
【0035】
本発明の方法に包含される場合、界面活性剤の濃度は、通常は約0.01重量%〜約10重量%、好ましくは約0.05重量%〜約5重量%、さらに好ましくは約0.1重量%〜約1重量%である。
【0036】
方法及び使用
第一の態様において、本発明は、ウイルスを不活性化するための酵素的方法であって、ウイルスをハロペルオキシダーゼ、過酸化水素の供給源、塩化物及び/又は臭化物イオンならびにアンモニウムイオンと接触させることを含んで成る方法を提供する。好ましい一実施形態において、本発明は、医療用の装置又は機器を消毒するか又は滅菌するための方法であって、医療用装置又は機器を組成物と接触させることを含んで成る方法を提供する。
【0037】
組成物は、液体(例えば水性)又は乾燥製剤として処方され得る。乾燥製剤は、その後、再水和されて、本発明の方法に使用可能な活性液体又は半液体製剤を形成し得る。
【0038】
組成物が乾燥製剤として処方される場合、構成成分は混合され、異なる層に配置されるか、又は別々に包装され得る。
【0039】
第二の態様では、本発明は、本発明の方法を適用することによってもたらされる組成物も網羅する。この場合、組成物は、ハロペルオキシダーゼ、過酸化水素、塩化物イオン及び/又は臭化物イオン、アンモニウムイオン、活性又は不活性ウイルス、ならびに医療用装置又は機器を含む。
【0040】
本発明の方法は、ウイルス、例えば生物兵器剤に曝露された場所の除染のために有用である。
【0041】
本発明の状況において、「ウイルスを不活性化する」という用語は、ウイルスの少なくとも99%が適切な細胞に感染し得ないことを意味するよう意図される。ウイルスの、好ましくは99.9%、さらに好ましくは99.99%、最も好ましくは99.999%、特には99.9999%が、適切な細胞に感染し得ない。
【0042】
一実施形態において、「消毒する」又は「消毒」という用語は、米国食品医薬品局の”Content and Format of Premarket Notification [510(k)] Submissions for Liquid Chemical Sterilants/High Level Disinfectants”, U.S. Food and Drug Administration, Jan. 2000による高レベルの消毒を指す。
【0043】
本発明による方法は、0〜70℃、好ましくは5〜60℃、さらに好ましくは10〜60℃、さらに好ましくは15〜60℃、さらに好ましくは20〜60℃、最も好ましくは20〜50℃、特には20〜40℃の温度で行うことができる。
【0044】
本発明の方法は、10分〜(少なくとも)4時間、好ましくは15分〜(少なくとも)3時間、さらに好ましくは20分〜(少なくとも)2時間、最も好ましくは20分〜(少なくとも)1時間、特に30分〜(少なくとも)1時間の治療時間を用いることができる。
【0045】
本発明は、種々の環境においてウイルスを不活性化するのに適している。本発明の方法は、望ましくは、ヘルスケア産業(例えば、動物病院、ヒトの病院、動物クリニック、ヒトのクリニック、養護施設、小児又は高齢者のためのデイケア施設等)、食品産業(例えば、レストラン、食品加工工場、食品貯蔵工場、食料品店等)、ホスピタリティ産業(例えば、ホテル、モーテル、リゾート、クルーズ船等)、教育産業(例えば、学校及び大学)等のような任意の環境で用いられて、ウイルス感染を低減することができる。
【0046】
本発明の方法により利用されているかなり低い温度のために、それらは、ヘルスケア産業に用いられる機器、例えば医療用の装置(例えば、乾式外科用器械、麻酔機器、中空容器等)を消毒するか又は滅菌するために非常に有用である。消毒済み又は滅菌済み機器は、変形及び摩滅の低減を示し、機器は、実質的に消毒又は滅菌直後に使用する準備が出来ている。これは、異なる材料からなる複雑な又は感熱性の医療用装置、例えば超音波変換器及び内視鏡を消毒又は滅菌する場合に特に有益であるが、その理由は、これらの装置の摩滅が有意に低減され、それによりこれらしばしば非常に高価な装置の耐用年数がより長くなり、それらの運転経費が有効に低減されるからである。実際、再使用可能な衛生製品のようなその他の非医療用の機器でさえ、本発明の使用により有効に消毒され、滅菌することができる。
【0047】
好ましい一実施形態において、医療用装置及び/又は非医療用の機器の消毒又は滅菌は、本発明の方法を用いて、EN ISO 15883−1に従って(又は”Class II Special Controls Guidance Document: Medical Washers and Medical Washer-Disinfectors; Guidance for the Medical Device Industry and FDA Review Staff”, U.S. Food and Drug Administration, Feb. 2002に記載されているように)、(医療用)洗浄器−消毒器で行われる。
【0048】
本発明の方法は、望ましくは、ウイルス感染を低減するための任意の環境中で、例えば、一般的な建物表面(例えば、床、壁、天井、家具外面等)、特定機器表面(例えば、硬質表面、製造機器、加工機器等)、布地(例えば、綿、羊毛、絹、合成繊維、例えばポリエステル、ポリオレフィン及びアクリル、混合繊維、例えば綿ポリエステル等)、羊毛及びセルロースベースの系(例えば、紙)、土壌、動物の屠殺体(例えば、皮革、食肉、毛、羽毛等)、食料(例えば、果実、野菜、木の実、食肉等)で、ならびに水中で用いることができる。
【0049】
一実施形態において、本発明の方法は、布地の殺ウイルス処理に関する。本発明の組成物で処理され得る布地の例としては、個人用物品(例えば、シャツ、ズボン、ストッキング、下着等)、施設用物品(例えば、タオル、実験着、ガウン、エプロン等)、ホスピタリティ用物品(例えば、タオル、ナプキン、テーブルクロス等)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0050】
本発明の組成物による布地の殺ウイルス処理は、布地を本発明の組成物と接触させることを包含し得る。この接触は、布地を洗濯する前に生じ得る。代替的には、この接触は布地の洗濯前に行い、殺ウイルス活性を提供し、任意に浄化活性を提供して、汚れ、染み等を布地から除去するか又は低減することができる。
【0051】
本発明の組成物により接触されるウイルスは、任意の表面、例えば、例えば乳製品、化学品又は医薬品の加工処理工場で用いられる加工処理機器の表面、医療用装置、例えば内視鏡、又はその他の医療用具、実験室機器片、洗浄機、又は水処理システムの表面(これらに限定されない)に局在しうる。本発明の組成物は、当該表面のウイルスを不活性化するために有効な量で用いられるべきである。
【0052】
ウイルスは、組成物の水性製剤中にウイルスを沈めること(例えば、洗濯工程)により、組成物をウイルスに噴霧することにより、布で組成物をウイルスに塗布することにより、又は当業者により認められた任意の他の方法により、本発明の方法で用いられる組成物と接触させることができる。本発明の組成物をウイルスに適用する任意の方法(これによりウイルスは不活性化される)は、許容可能な適用方法である。
【0053】
本発明の方法は、生物兵器剤のようなウイルス(例えば、病原性ウイルス)に曝露された場所の除染にも有用である。このような場所としては、衣服(例えば軍服)、車の内側及び外側部分、建物の内側及び外側部分、任意の種類の軍隊施設、ならびに任意の種類の上記の環境が挙げられるが、これらに限定されない。
【0054】
本発明を以下の実施例によりさらに説明するが、これらは本発明の範囲を限定するよう意図されるべきでない。
【実施例】
【0055】
緩衝剤及び基質として用いられる化学物質は、少なくとも試薬等級の市販製品とした。
【0056】
実施例1
ポリオウイルスの不活性化
ウイルス及び細胞
WHOから入手したポリオウイルスSabin株(2H.010704型)を、イーグルMEM2%FCS、100IU/mLペニシリン、100mg/mLストレプトマイシン及び20μg/mLゲンタマイシンを用いて、34.5℃、5%CO2で、VERO細胞中で増殖させた。培養上清を濾過(0.45nm)し、等分して、使用するまで−80℃で保存した。
【0057】
ストック溶液
以下のストック溶液を調製した。
溶液1:20 mM DMG(Sigma D4379)緩衝液、pH7.0中22.8mM NaCl及び7.2mM NH4Cl;
溶液2:MilliQ水中10%H22
溶液3:20mM DMG緩衝液、pH7.0中クルブラリア・ベルクロサ(WO97/04102における配列番号2参照)からの8000ppmハロペルオキシダーゼ;
リン酸塩緩衝生理食塩水。
【0058】
消毒溶液
約50mLの活性消毒溶液を作るために、以下のものを混合した:50mLの溶液1;62μLの溶液2;及び100μLの溶液3。
非希釈消毒溶液を、リン酸塩緩衝生理食塩水(PBS)でさらに希釈して、1:10及び1:100溶液を得た。
【0059】
細胞培地
4%ウシ胎仔血清、100IU/mLペニシリン、100mg/mLストレプトマイシン及び20μg/mLゲンタマイシンを補足したイーグルMEM培地。
【0060】
ウイルスの処理
微量滴定プレート中で、試験溶液50μLを、PBS中の希釈ポリオウイルスストック50 μLと混合して、34.5℃で1時間インキュベートした。
酵素消毒溶液を既知の消毒剤と比較するために、次亜塩素酸ナトリウムを、0.5%、0.05%及び0.005%の濃度で、対照として用いた。
全ての処理に関して、細胞株に及ぼす試験溶液の任意の細胞傷害性作用を確認するために、ウイルス添加なしの対照を作った。さらに、消毒溶液を添加しないウイルス感染性の陽性対照を包含した。
処理後の残留感染性ウイルスに関して検定するために、RD細胞株(ヒト横紋筋肉腫)の集密的増殖が確立された新鮮な微量滴定プレートに、100 μLの試験溶液及び4%FCSを含有する100 μLのイーグル最小培地を添加した。このプレートを、34.5℃及び5%CO2で5日間、インキュベートした後、顕微鏡を用いて専門的評価により、感染性及び細胞傷害性を採点した。
【0061】
表1. ポリオウイルスSabin株(2H.010704型)の抗ウイルス試験からの結果
【表1】

酵素: ハロペルオキシダーゼ
次亜塩素酸塩:次亜塩素酸ナトリウム
I: 感染
N: 感染なし
*: わずかな毒性作用を伴う感染なし
T: 毒性
【0062】
結果は、本発明の方法(レーン2〜4)が、次亜塩素酸ナトリウム(レーン5〜7)と同程度にポリオウイルスを抑制するということを示した。検定は、二重反復実験で実施した。酵素系は、1:100希釈に薄めても、強い殺ウイルス活性を示した。
【0063】
実施例2
HIV−1ウイルスの不活性化
ウイルス及び細胞
HIV−1 HTLV−IIIB株(NIH AIDS Research and Reference Program)を、10%熱不活性化ウシ胎仔血清(FCS)、100IU/mLペニシリン、100mg/mLストレプトマイシン、20μg/mLゲンタマイシン及び10IU/mLニスタチンを含有するRPMI1640を用いて、37℃、5%CO2で、H9細胞(NIH AIDS Research and Reference Program)中で増殖させた。培養上清を濾過(0.45nm)し、等分して、使用するまで−80℃で保存した。
【0064】
ストック溶液
以下のストック溶液を調製した。
溶液1:20mM DMG(Sigma D4379)緩衝液、pH7.0中22.8mM NaCl及び7.2mM NH4Cl;
溶液2:MilliQ水中10%H22
溶液3:20mM DMG緩衝液、pH7.0中クルブラリア・ベルクロサ(WO97/04102における配列番号2参照)からの8000ppmハロペルオキシダーゼ;
リン酸塩緩衝生理食塩水。
【0065】
消毒溶液
約50mLの活性消毒溶液を作るために、以下のものを混合した:50mLの溶液1;62μLの溶液2;及び100μLの溶液3。
非希釈消毒溶液を、リン酸塩緩衝生理食塩水(PBS)でさらに希釈して、1:10及び1:100溶液を得た。
【0066】
細胞培地
100IU/mLペニシリン、100mg/mLストレプトマイシン、20μg/mLゲンタマイシン、10IU/mLニスタチン及び5%ウシ胎仔血清を補足したRPMI1640 Glutamax(Sigma R8758)。
【0067】
MTT試薬
50mgのMTT(Sigma M5655)
10mLのPBS、pH7.4
【0068】
MTT停止試薬
10mLのトリトンX−100(Sigma T8787)
4mlの1M HCl
イソプロパノールで全量を100mLにする。
【0069】
ウイルスの処理
微量滴定プレート中で、試験溶液50μLを、PBS中の希釈HIVウイルスストック50μLと混合して、37℃で5分間インキュベートした。
酵素消毒溶液を既知の消毒剤と比較するために、次亜塩素酸ナトリウムを、0.5%、0.05%及び0.005%の濃度で、対照として用いた。
全ての処理に関して、細胞株に及ぼす試験溶液の任意の細胞傷害性作用を確認するために、ウイルス添加なしの対照を作った。さらに、消毒溶液を添加しないウイルス感染性の陽性対照を包含した。
処理後の残留感染性ウイルスに関して検定するために、100μLの試験溶液、及び0.3×103MT4細胞/mLを含有する5%FCSを有する100μLのRPMI 1640細胞培地を、新鮮な微量滴定プレートに添加した。このプレートを、37℃及び5%CO2で6日間、インキュベートした後、生存度を、MTT検定で測定した。30μLのMTT試薬を各ウェルに添加し、プレートを37℃で1時間インキュベートした。150μLの溶液を取り出して、130μLのMTT停止溶液と入れ替えて、内容物を混合した。
540nmでプレート読取器で吸光度を測定し、参照として690nmでの吸光度を用いた。吸光度に基づいて、各ウェルは、ウイルス含有ウェル中で感染している、又は感染していないと採点された;細胞傷害性に関して、対照ウェルでは毒性又は非感染であった。
【0070】
表2. HIV−1ウイルス(HTLV−IIIB株)の抗ウイルス試験からの結果
【表2】

酵素: ハロペルオキシダーゼ
次亜塩素酸塩:次亜塩素酸ナトリウム
I: 感染
N: 感染なし
*: わずかな毒性作用を伴う感染なし
T: 毒性。
【0071】
結果は、本発明の方法が、5分のインキュベーション期間中、1:100希釈液(レーン4)中のHIVウイルスに及ぼす抗ウイルス作用を有した、ということを示す。
【0072】
参考文献:(1983) Rapid colorimetric assay for cellular growth and survival: Application to profileration and cytotoxity assays. J. Imm. Meth, 65, 55-63.

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウイルスを不活性化するための酵素的方法であって、該ウイルスをハロペルオキシダーゼ、過酸化水素、塩化物イオン及び/又は臭化物イオンならびにアンモニウムイオンと接触させることを含んで成る、方法。
【請求項2】
前記ハロペルオキシダーゼが酵素クラスEC1.11.1.10由来のクロロペルオキシダーゼである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ハロペルオキシダーゼがバナジウム含有ハロペルオキシダーゼである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記ハロペルオキシダーゼのアミノ酸配列が、クルブラリア・ベルクロサ(Curvularia verruculosa)又はクルブラリア・イネクアリス(Curvularia inequalis)から得られるハロペルオキシダーゼのアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性、好ましくは95%の同一性を有する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記塩化物イオン及び/又は臭化物イオンが、塩化物及び/又は臭化物の塩に由来し、好ましくは該塩化物及び/又は臭化物の塩が、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム、塩化カリウム、臭化カリウム、塩化アンモニウム又は臭化アンモニウムを含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記アンモニウムイオンが、アンモニウム塩に由来し、好ましくは該アンモニウム塩が、硫酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、塩化アンモニウム、臭化アンモニウム又はヨウ化アンモニウム、あるいはこれらの混合物である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記塩化物イオンの濃度がアンモニウムイオンの濃度の少なくとも2倍高く、好ましくはアンモニウムイオンの濃度の少なくとも4倍、さらに好ましくは少なくとも6倍、最も好ましくは少なくとも8倍、そして特には少なくとも10倍高い、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
ウイルスを界面活性剤と接触させることをさらに含んで成る、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記ウイルスが非エンベロープウイルス、例えば小型非エンベロープウイルスである、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記ウイルスが腸内ウイルスである、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記ウイルスがポリオウイルスである、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記ウイルスが表面、例えば医療用の装置又は機器の表面に存在する、請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
高レベル消毒方法である、請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
ウイルスを不活性化するための、ハロペルオキシダーゼ、過酸化水素、塩化物塩及び/又は臭化物塩ならびにアンモニウム塩の使用。
【請求項15】
医療用装置又は機器の高レベル消毒のための請求項14に記載の使用。

【公表番号】特表2012−522743(P2012−522743A)
【公表日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−502604(P2012−502604)
【出願日】平成22年3月26日(2010.3.26)
【国際出願番号】PCT/EP2010/054029
【国際公開番号】WO2010/115735
【国際公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【出願人】(500586299)ノボザイムス アクティーゼルスカブ (164)
【Fターム(参考)】