説明

ウイルスを利用した細胞種特定手段

【課題】複雑かつ時間が掛かり、免疫法やポリメラーゼチェインリアクション法では生死を判断できない、細胞種を特定する手段の提供。
【解決手段】特定ウイルスの特定細胞への特異的感染能力を利用した細胞種特定手段。事前に蛍光試薬で染色した蛍光細菌1に対し、ラムダファージ2を感染させ、メンブレンフィルタ3で回収する。回収直後の事前画像Aに対し、時間が経ち、感染蛍光細菌4が溶菌5した事後画像Bを比較することで、ラムダファージ2によって特異的に感染される大腸菌の有無を迅速に検出する。また、ウイルスは生菌でのみ増殖しうることから生きている大腸菌の存在も検出できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウイルスの特異的な細胞感染能力を利用することで未知の細胞の種を特定することができる細胞種特定手段に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、細胞種の特定は、免疫法(特許文献1参照)やポリメラーゼチェインリアクション法(特許文献2参照)などが利用されてきた。
【0003】
これは、細胞の糖鎖や特定の遺伝子配列に対し、標識したり、増幅させたりする手法であり、細胞種の特定手段として利用されている。細胞の糖鎖など細胞由来の物質を検出する免疫法は、特定の細胞由来の物質に特異的な抗体を作製することで高い特異性を持たせることができる。また、ポリメラーゼチェインリアクション法は、特定の細胞種のみが有する遺伝子配列の増幅の有無を指標とするものであり、高い特異性を持った検出手段である。これらの手法は、特定の細胞種を決定する手段として利用されており、高い特異性と培養特定手段に比べ迅速に情報を決定することができる。
【特許文献1】特開2005−207749号公報
【特許文献2】特開2002−51783号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような従来の細胞種特定手段は、細胞由来の物質を特定したり、特定の遺伝子配列から目的の細胞種かどうかを判断したりする手法であり、高精度検出が可能な手段であるが、例えば免疫法に必要な抗体は、事前に検出したい特定の細胞由来の物質を回収し、それに対する抗体を作製する必要があり、検出試薬の調整時間と技術が必要である。また、ポリメラーゼチェインリアクションのように特定の配列を決める場合に、類似した配列に結合・増幅してしまうと言った課題があった。さらにこれらの特定技術は、細胞の状態に関係なく検出するものであるため、その生死を判断できないものである。また、免疫法では、抗体としてタンパク質を利用しているため、タンパク質が安定した状態であることが求められる。検出手段についてもポリメラーゼチェインリアクションのように増幅量が微量なために、電気泳動手段などを利用しなければ検出が困難である。
【0005】
そこで簡便に特定の細胞種を決定し、その生死を判断できる細胞種特定手段が要求されている。
【0006】
本発明は、このような従来の課題を解決するものであり、特定のウイルスの特定細胞に対する感染能力を利用した細胞種特定手段である。これはウイルスが生細胞に対し感染、細胞溶解する能力を活かしたものであり、その結果、特定の細胞種を簡便に検出することができる方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の細胞種特定手段は、上記課題を解決するために、特定のウイルスを検出したい目的の細胞に感染させ、その溶解の有無をもって細胞種を特定する細胞種特定手段であり、溶解した場合に、目的の細胞種であることを検出する特定手段であることを特徴とする。
【0008】
本発明の細胞種特定手段は、上記課題を解決するために、ウイルスの生きている細胞に感染し、溶解させると言う特徴を活かし、特定したい細胞種を生きている細胞のみとした特定手段であることを特徴とする。
【0009】
本発明の細胞種特定手段は、上記課題を解決するために、特定したい細胞種を微生物とした特定手段であることを特徴とする。
【0010】
本発明の細胞種特定手段は、上記課題を解決するために、特定のウイルスが溶液中で感染しやすいことを利用し、高効率で検出することが可能な特定手段であることを特徴とする。
【0011】
本発明の細胞種特定手段は、上記課題を解決するために、ウイルスが凍結乾燥など乾燥粉末状態でも再度、溶液に溶解することで活性を有することを利用した特定手段であることを特徴とする。
【0012】
本発明の細胞種特定手段は、上記課題を解決するために、すでにコロニーを形成した細胞が、ウイルスに感染し、溶解された場合に半透明なコロニーになることを利用して光の透過性の有無を検出する特定手段であることを特徴とする。
【0013】
本発明の細胞種特定手段は、上記課題を解決するために、検出したい特定の細胞を、予め染色試薬で染色しておくことで、特定のウイルスが感染し、細胞が溶解した場合に着色細胞が消滅することを利用した特定手段であることを特徴とする。
【0014】
本発明の細胞種特定手段は、上記課題を解決するために、染色試薬を着色剤とすることで、目視判断がし易くすることができる特定手段であることを特徴とする。
【0015】
本発明の細胞種特定手段は、上記課題を解決するために、染色試薬を蛍光試薬とすることで、励起光源を照射することで、高精度に特定することができる手段であることを特徴とする。
【0016】
本発明の細胞種特定手段は、上記課題を解決するために、顕微鏡などを利用し顕微拡大することで一細胞レベルから検出をすることが可能になることを特徴とする。
【0017】
本発明の細胞種特定手段は、上記課題を解決するために、蛍光顕微鏡などを利用し、顕微拡大することで、より高精度に一細胞レベルから検出することが可能になることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、特定のウイルスを感染させ、その感染の有無によって引き起こされる細胞の溶解を利用し、細胞種を特定することができる。特定される細胞はウイルスの特徴から生きているものであり、特定の生細胞を検出することができる。また、ウイルスは溶液中で感染するものであるが、ウイルス自体は凍結乾燥など粉末状にしても再び溶液中に戻すことで感染能力を戻すことができることから持ち運びが容易になる。ウイルスに感染した細胞は溶解することから形成されたコロニーが半透明状になる。これを利用し、目視や簡単な光度計を利用して検出することが可能となる。細胞の検出については、染色試薬を利用することでより高精度に判断することができる。特に着色剤や蛍光染色試薬などは、目視確認するのに有効である。また、顕微鏡や蛍光顕微鏡など顕微拡大手段を利用することで、一細胞レベルからの判断が可能となり、事前に細胞を培養したりする必要がない。
【0019】
これにより、従来は煩雑かつ時間が掛かる手法であり、検出対象の細胞の生死は判断できなかったが、ウイルスの特異的な感染能力を利用した特定の細胞種検出を行なうことで、高精度かつ簡便な細胞種特定手段が提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明の請求項1記載の発明は、特定のウイルスの特異的感染能力を利用した特定の細胞を検出する手段であって、ウイルスに感染した細胞は最終的には溶解することから、その溶解の有無をもって簡便、高精度に細胞種を特定するという作用を有する。
【0021】
また、請求項2記載の発明は、特定したい細胞の対象を生細胞としたものであって、ウイルスが感染後、宿主のセントラルドグマを利用して自らの複製を行なう場合、細胞が生きていることを条件としたものであり、生きている特定の細胞を検出できるという作用を有する。
【0022】
また、請求項3記載の発明は、特定したい細胞種を微生物とすることで、細菌や黴、酵母など衛生に関与する特定の生きた微生物の汚染を簡便に把握できるという作用を有する。
【0023】
また、請求項4記載の発明は、溶液状態で特定のウイルスを特定の細胞に接触させることで、高い接触効率と高い感染性を維持することができ、高精度に検出できるという作用を有する。
【0024】
また、請求項5記載の発明は、特定のウイルスを凍結乾燥などの手段を用いて乾燥粉末化させることで、持ち運びが容易となり、濃度調整などが簡便になることで、操作が容易になるという作用を有する。
【0025】
また、請求項6記載の発明は、溶解の有無を光の透過性を利用して検出することで、簡便に特定ウイルスの特定細胞への感染の判断ができるという作用を有する。
【0026】
また、請求項7記載の発明は、予め検査対象の細胞を染色試薬で染色しておくことで、染色された細胞が特定のウイルスによって溶解された際に、染色試薬で染色された細胞が消滅することで迅速、高精度かつ簡便に判断できるという作用を有する。
【0027】
また、請求項8記載の発明は、染色試薬をメチレンブルーなどの着色剤を利用することで、特定ウイルスによる特定細胞の溶解を判断しやすくなり、高精度に検出できるという作用を有する。
【0028】
また、請求項9記載の発明は、染色試薬を蛍光染色試薬とすることで、特定ウイルスによる特定細胞の溶解をより高精度、迅速に検出できるという作用を有する。
【0029】
また、請求項10記載の発明は、特定の細胞種の検出を顕微拡大して観察することで経時変化を見ることが可能となり、特定ウイルスによって特定細胞が溶解された瞬間に細胞の特定が可能となるという作用を有する。
【0030】
また、請求項11記載の発明は、特定細胞種の検出を蛍光顕微鏡を用いて観察することで、経時変化を見ることが可能となり、特定のウイルスによって特定細胞が溶解された瞬間に際簿運も特定が可能となり、かつ、高精度に観察することができるという作用を有する。
【0031】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0032】
(実施の形態1)
これまで細胞の特定手段として利用されてきた免疫法やポリメラーゼチェインイラクション法は、高精度に細胞を特定する手段として利用されている。免疫法は、生体の抗原抗体反応を利用したものであるが、特定の細胞種に対する抗体を作製することは時間も技術も必要である。また、ポリメラーゼチェインリアクション法は、特異性が高いものの、特定の配列を作製することが困難な場合があり、免疫法と共に生きている細胞を検出することができるものではなかった。そこで、より簡便に、かつ高精度に細胞を特定する技術が求められている。一方、ウイルスは、宿主に対する特異性が高く、特定の宿主の特定部位を認識して感染する性質を有し、感染後は、細胞を溶解させて、細胞外へ出て行くものである。宿主内では、細胞のセントラルドグマを利用して自らのクローンを作製することから、宿主細胞が活性を有していなければクローンを作製することができないものである。ウイルスの感染は生細胞を中心として起こるものであり、ウイルスの感染を判断することで特定の細胞、かつ生きている細胞を検出することができる。ウイルスと宿主との反応は、主に溶液を介して行なわれる。そこで、溶液中に懸濁したウイルスを直接、特定したい細胞に接触させることで高効率に感染させることが可能となり、検出が容易となる。さらにウイルスは生物ではなく、粒子であることから、凍結乾燥など乾燥させてもその活性を維持している。乾燥粉末を最適濃度となるように溶液に溶解させる、あるいは宿主に含まれる溶液を利用して溶解させる、あるいは、大気などに含まれる湿度によって溶解させるなどの手段により、特定のウイルスを含む粉末を溶解させて、特定の細胞を検出することができる。これにより、所持が容易となり、場所を選ばずに検査が可能となる。ウイルスに感染した宿主は、細胞が溶解するため、その部分が透明になる。例えば寒天培地上に細胞を増殖させておいて、その上からウイルスを感染させる。その際、ウイルスに感染した細胞は溶解するため、その集合体であるコロニーが溶解し、透明なプラックを形成する。これにより感染を判断することができる。また、寒天培地上だけでなく、溶液内に細胞を懸濁させておき、そこに特定のウイルスを添加する。特定のウイルスによって細胞懸濁液の光透過性が低下した場合、その中には目的の検出対象の細胞が含まれていることが判断できる。目的の細胞数については、事前に細胞数と光の透過性に関する検量線を作成しておき、特定のウイルス感染に伴う光透過性の増加性を検量線に当てはめることで概算を求めることができる。光の透過性のみで判断する場合、半透明な細胞が重積させて、目視確認する必要がある。しかしながら、事前に検査対象中に含まれる細胞を染色試薬で染色することで、染色された細胞の減少を指標として特定のウイルスに感染したかどうかを判断できる。染色試薬については、着色剤や蛍光試薬などが有効である。また、これらの検出には顕微拡大手段を利用することで迅速、簡便、高精度な判断が可能となる。顕微拡大し、一細胞レベルでその溶解の有無を判断することで、経時的判断が可能となる。顕微拡大する手段は、通常の光学顕微鏡だけでなく、各種染色剤を併用することで蛍光顕微鏡など染色剤に適合した検出手段が利用できる。これらを併用することで、より高感度、迅速、簡便に、特定のウイルスによる宿主細胞の感染、つまり、宿主細胞の種類を特定できる。
【実施例1】
【0033】
以下、本発明の実施例について説明する。
【0034】
本技術は、ウイルスの宿主に対する感染の特異性を利用し、細胞が感染、つまりそのウイルスに対しての宿主であることを利用した細胞種特定手段である。ウイルスは、体細胞に感染し、増殖するものや細菌などの微生物に対し、感染し増殖するものがあるが、宿主の対象に合わせたウイルスを用いることで、目的の細胞の特定検出が可能となる。組織片を採取した際、その組織片の細胞がどの組織片由来のものか、あるいは、細胞が混在した場合、どの細胞が目的の細胞かを特定することは形状から判断するのは困難である。また、未分化の細胞や人工多能性幹細胞を特定の細胞に分化させた場合、その細胞が目的の細胞に分化したかどうか、あるいは、目的の細胞に分化させるための遺伝子をスクリーニングするためには、分化の経過上にある細胞がどの細胞に分化しようとしているかを把握する必要がある。しかしながら、それは、目視では判断が難しく、分化が完了し、その組織が引き起こし挙動を持って、分化を判断することになる。これは、事後評価となり、経過確認が困難なため、目的の細胞に分化させた細胞を効率よく提供することは難しい。あるいは、血球細胞のように造血幹細胞から分化した血球がどの血液細胞になるかは未定である。この分化した過程の細胞を検出することで、造血幹細胞からの分化過程を把握することができる。また、癌細胞のように、転移した癌細胞がどこの場所で発生したかなど、その由来を迅速に検出することも予防医学ならびに臨床医学にとって重要である。例えば、腎臓で発生した癌細胞が血中に浸潤し、肝臓に辿り着き、そこで新たに癌化する事例においても、その由来がどこなのかを把握することで、新たな転移を防ぐことができる。しかし、肝癌が先に発見された場合、その癌細胞がどの場所由来の癌細胞であるかを把握することが困難であり、腎臓の癌細胞を見落とす可能性がある。そのため、その癌細胞の由来がどこであるかを把握することは重要である。
【0035】
本手法では、特定のウイルスを利用し、目的の特定細胞かどうかを判断するものである。具体的には、目的の特定細胞を含む検体に対し、特定のウイルスを添加し、接触させ、感染させるものである。特定細胞は寒天培地上に塗抹培養したものを使用し、その上から特定のウイルス懸濁液を滴下させ、細胞の溶解の有無を判断する。あるいは、特定の細胞を事前に着色、蛍光染色し、そのウイルスによる分解を確認するものである。着色剤の具体例としては、メチレンブルー、エオジン、サフラニンなど細胞表面を着色する試薬が好ましい。また、対象細胞を細菌とした場合は、グラム染色剤なども有効である。一方、蛍光染色試薬としては、4’,6−ジアミジノ−2−フェニルインドール、プロピジウムイオダイド、SYTOXシリーズ、SYBRシリーズ、SYTOシリーズのような核酸染色蛍光試薬や、蛍光グルコースのような代謝後、細胞内に留まるもの、6−カルボキシフルオレセインダイアセテートのように細胞内酵素により分解されて発光するものなどで事前に細胞を染色しておき、そこへ特定のウイルスを感染させて、細胞が分解されると、これらの蛍光試薬が細胞外に流れ出し、分散されるため、発光が弱くなる、若しくは発光しなくなることを利用したものである。これらの染色剤の検出は、目視でその色素の強弱の変動を判断することも可能であるが、顕微鏡や蛍光顕微鏡を利用することでより判別しやすくなる。例えば、プロピジウムイオダイドで事前に染色した細胞を顕微鏡目視観察下で、ウイルスに感染させ、その変動を経時的に追跡する。細胞が破砕した時点でこの細胞が特定のウイルスに感染した、つまり、特定の細胞であることを判断することができる。そのため、一細胞レベルの観察で、かつ迅速に判断することが可能となる。
【0036】
特定のウイルスと特定の細胞の組み合わせとしては、インフルエンザウイルスでは、気道上皮細胞やCD4+T細胞などに特異性を持つため、これらを特定することができる。あるいは、C型肝炎ウイルスは肝細胞に特異的に感染する。あるいはヒト免疫不全ウイルスは免疫細胞に対し特異的に感染する。このように特定のウイルスと特定の細胞が組み合わせることができるものであれば、特定のウイルスを利用して細胞を特定することができる。また、特定する細胞は体細胞だけとは限らない。例えば、細菌である。バクテリオファージでは、ラムダファージのような大腸菌に感染するもの、腸内細菌ファージM13と腸内細菌、枯草菌ファージNfと枯草菌なども挙げられる。
【0037】
ウイルスは溶液を介して、宿主と接触し、感染することから、溶液中に存在させ、分解しないような管理をすることで宿主と反応させることができる。溶液としては、燐酸緩衝液を含む各種緩衝液、生理食塩水、蒸留水、水道水、硬水、軟水など各種水系が挙げられる。また、ウイルスや宿主細胞に影響を与えない低濃度の有機溶媒なども有効である。溶液の形としては、水系そのものに限らず、0 1から100マイクロメートルの微細な水滴も含む。あるいは、空気中の湿度を利用し、宿主細胞と接触させることも可能である。ウイルスは生物ではないため、凍結乾燥などの手段で粉末にすることもできる。ウイルスを水系の溶液に懸濁し、懸濁液を凍結させた後、凍結乾燥機に掛けることで、粉末状にすることができる。また、凍結手段については、自然に乾燥させることでも可能である。粉末状にすることで、持ち運びが容易となり、場所の制限を受けにくい。
【0038】
特定のウイルスを利用し、メンブレンフィルタに固定化した特定の細胞種を特定する手段の一態様を示す概念図を図1に示す。
【0039】
予め、燐酸緩衝液(pH7 4)中に懸濁した大腸菌含む各種菌液を十マイクロモルのSYBR GOLDで室温下、10分間染色し、蛍光細菌1とする。蛍光細菌1を含む燐酸緩衝液中に約100から1000000個のラムダファージ2を加え、室温下、30分間接触させる。その後、蛍光細菌1およびラムダファージ2を含む燐酸緩衝液を0 4マイクロメートルのメンブレンフィルタ3でろ過する。メンブレンフィルタ3は湿度を保持するように恒温恒湿槽にて保管するか、もしくはメンブレンフィルタ3と培地成分および水分を含む濾紙をメンブレンフィルタ3の裏面に接触させる。メンブレンフィルタ3の表面を蛍光顕微鏡で観察する。蛍光顕微鏡の励起光源としては、青色励起光を利用する。
【0040】
図1(a)は細胞種を特定する前の事前画像で、この事前画像から、細菌の位置を把握する。事前画像と同じ位置を維持しながら、蛍光細菌の変化を観察する。図1(b)は蛍光細菌の変化後の画像で、ラムダファージ2に感染した感染蛍光細菌4はラムダファージ2の増殖と、その細胞外への放出によって、図1(b)に示すような溶菌5の状態となり、蛍光顕微鏡観察下では、溶菌5の位置だけ、蛍光発光が失われる。これにより、感染蛍光細菌4は生きている大腸菌であることが分かる。
【0041】
なお、細菌を蛍光染色せずにコロニー状態を目視で観察し、その透明化を確認することでウイルスの感染を判断できる。
【0042】
なお、培地は目的の細菌が増殖しやすい培地を利用することで、培地による選択性と合わせてより、精度高く特定できる。
【0043】
なお、温度、時間などの培養条件を目的の細菌が増殖しやすい条件とすることで、培地による選択性と合わせてより、精度高く特定できる。
【0044】
特定のウイルスを利用し、溶液中に懸濁した特定の細胞種を特定する手段に関する一態様を示す概念図を図2に示す。
【0045】
予め、燐酸緩衝液(pH7 4)6中に懸濁した未知の細菌7をガラスセル8に入れる。未知の細菌7を含む燐酸緩衝液中に約100から1000000個のラムダファージ2を加え吸光度計で計測する。未知の細菌7が溶菌した場合、ガラスセル8を通過する光の透過経路9の透過性が向上する。図2(a)は溶菌前のガラスセル内の図であり、各種菌の形状が維持されているため、光の透過経路9が遮断され、吸光度が高い。一方、図2(b)は溶菌後のガラスセル内の図であり、光の透過経路9が溶菌前のガラスセル図2(a)に遮断されないため、吸光度が低下する。これにより、本検体中に大腸菌が存在していることが分かる。
【0046】
なお、燐酸緩衝液(pH7 4)6は、細菌の種類、細胞の種類に適合したものを利用することで安定した計測が可能となる。
【0047】
なお、未知の細菌7を蛍光染色など着色し、蛍光分光光度計の蛍光強度の変化を見ることで、溶菌状態を把握することも可能である。
【0048】
なお、事前に未知の細菌7の菌濃度を変化させ、その光透過性による検量線を作成しておくことで、溶菌した後の光透過性の変化を当てはめて、含まれる細菌数を概算することもできる。
【0049】
なお、事前に未知の細菌7を蛍光染色など着色し、菌濃度を変化させ、その蛍光強度の変化に伴う検量線を作成しておくことで、溶菌した後の光透過性の変化を当てはめて、含まれる細菌数を概算することもできる。
【0050】
なお、ガラスセル8は光を透過するものであれば、樹脂系での利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】(a)本発明の実施例の細胞種を特定する一実施例の事前画像を示す図、(b)同実施例の変化後の画像を示す図
【図2】(a)本発明の実施例1の細胞種を特定する一実施例のウイルス感染前のガラスセルを示す図、(b)同実施例の変化後のガラスセルを示す図
【符号の説明】
【0052】
1 蛍光細菌
2 ラムダファージ
3 メンブレンフィルタ
4 感染蛍光細菌
5 溶菌
6 燐酸緩衝液(pH7 4)
7 未知の細菌
8 ガラスセル
9 光の透過経路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
特定したい細胞に対し、特定のウイルスを感染させ、その細胞の溶解の有無をもって細胞種を特定する細胞種特定手段。
【請求項2】
特定したい細胞を生細胞とした請求項1記載の細胞種特定手段。
【請求項3】
特定したい細胞種を微生物とした請求項1乃至2記載の細胞種特定手段。
【請求項4】
溶液内に懸濁した特定のウイルスを用いた請求項1乃至3記載の細胞種特定手段。
【請求項5】
特定のウイルスを粉末状にした請求項1乃至3記載の細胞種特定手段。
【請求項6】
細胞の溶解の有無を光の透過性を利用して検出する請求項1乃至5記載の細胞種特定手段。
【請求項7】
細胞の溶解の有無を、予め染色試薬で染色しておいた細胞に対し、特定のウイルスが感染した場合に細胞が溶解し、染色された細胞が消滅することを利用した請求項1乃至5記載の細胞種特定手段。
【請求項8】
染色試薬を着色剤とした請求項7記載の細胞種特定手段。
【請求項9】
染色試薬を蛍光試薬とした請求項7記載の細胞種特定手段。
【請求項10】
特定の細胞種の検出を顕微拡大することで検出した請求項7乃至8記載の細胞種特定手段。
【請求項11】
特定の細胞種の検出を蛍光顕微拡大することで検出した請求項7または9記載の細胞種特定手段。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−68718(P2010−68718A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−236090(P2008−236090)
【出願日】平成20年9月16日(2008.9.16)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】