説明

ウイルスを単離する方法

本発明は、試料からのウイルスの単離のための方法およびキットに関する。試料を、少なくとも二価の塩化物塩を含む抽出溶液および/またはイオン液体で処理する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料からのウイルス単離のための方法およびキットに関する。試料を、ウイルスの単離をもたらす、少なくとも二価の塩化物塩および/またはイオン液体を含む抽出溶液で処理する。
【背景技術】
【0002】
ウイルスの同定もしくは特徴づけのための、または単にさらなるプロセシングのための複合試料(complex samples)からのウイルスの単離、特に、試料、例えば食物試料または血液、組織もしくは糞便のような臨床試料のような試料における病原体の同定は、ますます重要になっている。しかし、試料中に含まれるウイルスを明確に同定するため、また任意に定量するためには、それらの単離のための方法を提供しなければならない。
【0003】
その検出前に増殖させることができる細菌細胞のような他の微生物とは異なり、ほとんどのウイルス粒子は、それぞれの試料中に存在する量で直接検出する必要がある。このため、試料中の単一のウイルスのごく少数のコピーの検出および同定を可能とする非常に高感度な方法を生むことがさらに重要となる。
【0004】
リアルタイムPCRは、一般的に分子生物学における定量的手段としての、ならびに微生物またはウイルス、特に病原体の定量および同定のためのPCRの適用分野を大幅に増強した。リアルタイムPCRによって、PCR試料あたり単一の核酸標的に至るまでの信頼性のある検出および定量が可能になるが、高度に精製された鋳型核酸が必要である。特に、食物のような複雑な環境における細胞またはウイルスの日常的な診断および定量的検出となると、これら環境の構成要素によって引き起こされた阻害効果が、PCR反応に影響するかまたはさらに阻害し得るため、これらの要件は重要な役割を果たす。
【0005】
さらに、食物などの複合試料からの標的生物の単離に用いる、信頼性のある、効率的な回収方法を用いることが重要である。食物のような試料は一般的に大きい試料容積を伴うため、通常は微生物学的方法を、微生物の単離および濃縮のために用いる。これらの方法は、「至適基準(golden standard)」の方法を表し、それらと比較して新たな代替の技術を評価しなければならない。
【0006】
リアルタイムPCRおよび微生物の下流解析(downstream analysis)のための他の分子的方法の厳しい要件を満たす、食物からの微生物、例えば細菌の分離のための方法を確立する主要な努力がなされてきた。
【0007】
また、核酸の食物からの直接的な単離が、分子生物学において一般的に用いられている核酸単離方法を用いて試行されてきた。他の方法は、微生物の表面構造に対する生体分子の親和性を利用し、ここで前記生体分子は、例えば、任意に磁気ビーズ、シラン化(silanized)ガラススライドまたは直接的コロニーブロットと組み合わせた、抗体、ファージからの細菌結合タンパク質および抗微生物ペプチド(AMP)であり得る。例えば、リステリア菌(Listeria monocytogenes)の直接的検出のために、水性二相分離系を用いることができる(Lantz et al. Appl Environ Microbiol. (1994) 60:3416-3418)。
【0008】
これらの方法のほとんどは、処理される試料容積の不適切な大きさ、高い検出限界、低い回収率、細胞の定量的でない単離、時間のかかる手順および高いコストのような欠点を有する。さらに、これらの方法の適用は、ほとんどの場合において1種のみの、または限定された数の異なる食物のマトリックスに限定されている。(i)大きい試料容積、(ii)広範囲の標的濃度にわたる再現可能な回収率および(iii)下流解析のための代替の分子的方法を補助するための阻害剤の除去である、食物中の病原体の直接的な定量のための要件に基づいて、ウイルスや細菌などの病原体の単離のための新たなプロトコルを、提供しなければならない。
【0009】
WO 2008/017097には、細胞壁に囲まれている細胞を食料のような複合マトリックスから単離する方法が開示されている。この方法は、カオトロピック剤を界面活性剤と組み合わせて含む抽出緩衝液を用いる。
【0010】
上述の公知の方法から分かるように、ほとんどの方法は、細菌細胞のようなより大きい微生物の単離に向けられている。
細菌細胞は、極めて簡単に追跡および試料から回収することができる極めて大きいオブジェクトであるのに対し、公知の手順のいずれも、ウイルスのような小さなオブジェクトを単離するための簡単かつ効果的な方法を提供しない。
【0011】
L. Croci et al., Food Anal. Methods (2008), 1, 73-84において、著者は食品試料からウイルスを抽出し濃縮するための様々な試みを論じている。彼らは、ウイルス汚染が、ノロウイルス、A型肝炎ウイルス、ロタウイルスやエンテロウイルスによって引き起こされる病気のような、食品によって伝播する病気の原因としてますます同定されていると結論付けた。それにもかかわらず、ウイルスを抽出するためにいくつかの試みがなされてきたものの、より高感度、信頼性のあるおよび標準化された方法が必要であると結論づけられる。
【0012】
したがって、食物および臨床試料などの複合マトリックスからのウイルス単離のための、定量的であり、再現可能な方法について明確な必要性が存在する。
【発明の概要】
【0013】
発明の簡単な説明
少なくとも二価の塩化物塩および/またはイオン液体を含む緩衝液を用いて、ウイルスを容易に、かつ極めて効率的に複合マトリックスから単離することができることが見出された。驚くべきことに、上述の物質の添加は、試料マトリックスに典型的に「くっつく(stick)」傾向があるウイルスまでをも単離することができるような効果的な溶解をもたらす。
【0014】
したがって、本発明は、ウイルスを複合試料から単離する方法であって、以下の工程:
a)複合試料を提供すること、
b)前記試料を、少なくとも二価の塩化物塩および/またはイオン液体を含む抽出溶液と共にインキュベートすること、
c)前記ウイルスを工程b)の混合物から、好ましくは遠心分離、アフィニティー結合および/または濾過によって単離すること
を含む、前記方法に関する。
【0015】
本発明はまた、ウイルスを複合試料から単離するためのキットであって、
・少なくとも二価の塩化物塩および/またはイオン液体を含む抽出溶液ならびに
・少なくとも1種の生分解(biodegrading)酵素
を含む、前記キットに関する。
【0016】
発明の説明
驚くべきことに、複合試料を少なくとも二価の塩化物塩および/またはイオン液体を含む抽出溶液と共にインキュベートすると、ウイルス粒子まで破壊されることなく解放されるような効果的な試料の分解(dissolution)がもたらされることが判明した。
【0017】
本発明による方法は、ウイルス(ウイルス粒子とも呼ばれる)を単離するために使用してもよい。ウイルスは、当業者に知られている。完全なウイルス粒子は、キャプシドと呼ばれるタンパク質の保護膜で囲まれた核酸からなる。これらは典型的にはキャプソメアと呼ばれる同一のタンパク質サブユニットから形成される。キャプシドの形状は、ウイルスを形態学的に区別するための基礎としての役割がある。一般的には、4つの主要な形態学的ウイルスタイプがある。
・螺旋状
タバコモザイクウイルスは、螺旋状のウイルスの一例である。
・正二十面体状
・エンベロープ
インフルエンザウイルスおよびHIVはこの方式(strategy)を用いている。
・複雑型
ウイルスの異なる種類は当業者に知られている。
【0018】
本発明は、一般的にウイルスの、好ましくは食物と病原体ウイルス、特に人間にとって関連があるもの、例えば、人間の食物に潜在的にいるもの、または臨床的関連のある病原体、との単離を可能にする。
特に興味深い例示的なウイルスを以下に列挙する。
それらは、インフルエンザ(オルソミクソウイルス科(Orthomyxoviridae))、HIV1+2(オルソレトロウイルス科(Orthoretroviridae))、ポックス(ポックスウイルス科(Poxviridae)、オルソポックスウイルス科(Orthopoxviridae))、コロナ(コロナウイルス科(Coronaviridae)、ニドウイルス目(Nidovirales))、フラビウイルス、ポリオーマウイルスまたはパピローマウイルスのような疫学的に重要であるもののいずれかであるか、あるいはそれらは、アデノウイルス(アデノウイルス科(Adenoviridae))、ロタウイルス(レオウイルス科(Rheoviridae))、エンテロウイルス、ノロウイルス、ノーウォーク/ノーウォーク様ウイルス(カリシウイルス科(Caliciviridae))、A型肝炎ウイルス(ピコルナウイルス科(Picornaviridae))、E型肝炎ウイルス(ヘペウイルス科(Hepeviridae))やアストロウイルスのような、特に食物試料中の汚染物質として発見されることもできる。
【0019】
本発明によって単離されるウイルス粒子のサイズ(=直径)は、典型的には10〜500nmであり、好ましくは10〜200nmであり、より好ましくは10〜100nmである。
【0020】
用語「複合試料」は、主として有機的な起源のより多数種の、またはより少数種の異なる化合物を含む試料または試料マトリックスを指し、それらは液体および/または固体であり得る。本発明の複合試料は、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質(また酵素を含む)、炭水化物(複合および単純糖質)、脂質、脂肪酸、脂肪、核酸などを含むマトリックスを典型的に含む。「複合試料」は、例えば、ウイルス核酸の増幅を阻害することによってウイルスの単離および/または検出を妨害する1種または2種以上の物質を含むことができる。
【0021】
例示的な複合試料は、これに限定するものではないが、食物(例えば雌ウシ、ヒツジ、雌ヤギ、ウマ、ロバ、ラクダ、ヤク、水牛およびトナカイの乳、乳製品、ウシ、ヤギ、子羊、マトン、ブタ、カエル脚、子牛、げっ歯動物、ウマ、カンガルー、ニワトリ、七面鳥、アヒル、ガチョウ、ハト(pigeon)もしくはハト(dove)、ダチョウ、エミューを含む家禽の肉、魚(finfish)、例えばサケおよびテラピア、ならびに甲殻類(shellfish)、例えば軟体動物および甲殻類(crusta cean)および巻貝(snail)を含む海産食品、肉製品、植物製品、種子、トウモロコシ、小麦、米、大麦、ソルガムおよびキビを含むイネ科植物の穀物、ソバ、アマランスおよびキノアを含む非イネ科植物からの穀物、
【0022】
マメ、ピーナッツ、エンドウおよびレンティルを含むマメ科植物、アーモンド、クルミおよび松の実を含むナッツ、ヒマワリ、セイヨウアブラナおよびゴマを含む油糧種子、例えばジャガイモ、キャッサバおよびカブを含む根菜、アマランス、ホウレンソウおよびケールを含む葉菜、ダルス、コンブおよびバダーロックスを含む海草、タケノコ、ノパレスおよびアスパラガスを含む茎菜、グローブアーティチョーク(globe artichoke)、ブロッコリーおよび萱草を含む花序野菜、ならびにカボチャ、オクラおよびナスを含む果菜などの野菜、果実、薬草および香辛料、全血、尿、痰、嘔吐物、唾液、羊水、血漿、血清、肺洗浄および、これに限定するものではないが、肝臓、脾臓、腎臓、肺、腸、脳、心臓、筋肉、膵臓などを含む組織を含む。当業者は、さらに、上記の例示的な試料または前記例示的な試料の混合物または前記例示的な試料の1種または2種以上を含む組成物のいずれかから得られた溶解物、抽出物または(ホモジナイズされた)材料がまた、本発明の範囲内の試料であることを認識する。
【0023】
本発明によると、用語「二価の塩化物塩」は、MgCl、CaCl、SrCl、ZnClまたはMnClのような二価の陽イオンの塩化物を意味する。最も好ましい二価の塩化物塩は、MgClおよびZnClである。
【0024】
本明細書中で用いる用語「緩衝液」または「緩衝溶液」は、酸または塩基を溶液または組成物に加えた場合にpHの変化に抗う水溶液または組成物を指す。pH変化に対するこの抵抗は、そのような溶液の緩衝特性のためである。したがって、緩衝活性を示す溶液または組成物は、緩衝液または緩衝溶液と呼ばれる。緩衝液は、一般的に溶液または組成物のpHを維持する無制限の能力を有しない。むしろ、それらは、典型的には、ある範囲内のpH、例えばpH7〜pH9を維持することが可能である。
【0025】
典型的には、緩衝液は、それらのpKaより1対数高い、および低い範囲内のpHを維持することが可能である(例えば、C . Mohan, Buffers, A guide for the preparation and use of buffers in biological systems, CALBIOCHEM, 1999を参照)。緩衝液および緩衝溶液は、典型的には緩衝塩から、または好ましくは非イオン性緩衝構成成分、例えばTRISおよびHEPESから作製される。抽出溶液に加えられた緩衝液は、マトリックス分解の間のpH値が安定化されることを保証する。安定化されたpH値は、単離された細胞の再現可能な結果、効率的な溶解および保存に寄与する。
【0026】
本明細書において、「界面活性剤」は親油性ならびに親水性(つまり、両親媒性)特性を有する分子をさす。本発明による界面活性剤は、例えば、脂肪酸残基および親水性(例えば、アニオン性またはカチオン性)部分を含み得る。
【0027】
本発明の好ましい態様において、試料は、食物試料、糞便、体液、特に血液、血漿または血清、水または組織試料である。
特に好ましい試料は、複合マトリックス(即ちなかでもタンパク質、脂質、炭水化物などを含む)および/または高い粘度を有する試料である。
【0028】
食物試料は、好ましくは乳製品、好ましくは牛乳、特に生乳、粉乳、ヨーグルト、チーズまたはアイスクリーム、魚加工品、好ましくは生魚、肉製品、好ましくは生肉、肉リンス(meat rinse)またはソーセージ、サラダリンス(salad rinse)、チョコレート、卵またはマヨネーズなどの卵製品、サラダ、魚介類、好ましくはムール貝、果物、好ましくは、ベリー類、およびペッパー類である。
【0029】
本発明の方法において用いる特に好ましい食物試料は、通常潜在的に病原性ウイルスを含むことが知られており、それからウイルスが、複合マトリックスのために、当該分野において知られている方法でほとんど抽出または検出可能ではない試料である。特に、チーズは、複合マトリックスおよび高い粘性を有する食物として知られている。
特に好ましい臨床試料は糞便および血液である。
他の好ましい試料は細胞培養試料である。
【0030】
本発明によれば、マトリックスの溶解システムとして用いる抽出溶液は、二価の塩化物塩および/またはイオン液体を含む。試料の種類に依存して、およびウイルスの種類に依存して、抽出溶液の異なる組成物が最も適していることが判明した。
例えば、より温和な条件下で溶解または抽出することができる、複雑なマトリックスを有する乳製品は、好ましくはMgClを含む抽出溶液で処理される。
より高いデンプン量(5%w/w以上)を有する試料またはまたは肉の試料は、好ましくは、5〜10Mの濃度のZnClを含む抽出溶液で抽出または可溶化される。
【0031】
MgClのような二価の塩化物塩が存在する場合は、これは通常は0.5〜6M、好ましくは0.5〜4M、より好ましくは1と2Mとの間の濃度で存在する。
ZnClもまた、その非常に高い水溶性のために、より高い濃度で用いることができる。それは最大濃度約15Mまで用いることができる。好ましいZnClの濃度は、1〜10Mである。これは、非常に特異的な抽出条件を作成し、勾配遠心分離のために抽出溶液を直接用いる可能性を提供する。ZnClを伴う抽出プロトコルの例を図2に示す。ZnClを含む抽出溶液とともに試料をインキュベーションした後、混合物の密度を水の添加により勾配遠心分離に適した大きさに調整する。
試料の残骸およびその他の不純物を取り除くためのこの最初の遠心分離工程の後、残りの試料を別の遠心分離工程の密度を調整するために再び希釈することができ、あるいは代替的に濾過工程に供することができる。
【0032】
イオン液体は(存在する場合には)典型的には、混合物の重量を基準として0.5〜100重量%、好ましくは1〜60重量%、より好ましくは7〜40重量%の濃度で存在する。イオン液体は、1種のイオン液体または2種もしくは3種以上のイオン液体の混合物であり得る。
【0033】
二価の塩化物塩および/またはイオン液体の最良の濃度は、主として分解するべき試料および単離するべきウイルス種に依存する。これらのパラメーターは、当業者によって容易に試験され得る。
【0034】
本発明の抽出溶液は、通常、1種または2種以上の有機溶媒、好ましくは、エタノールおよびメタノールなどの1種または2種以上の水混和性溶媒を含み得、少なくとも二価の塩化物塩および/またはイオン液体をもまた含む水溶液および/または緩衝溶液である。それは、通常、5より大きく11未満、好ましくは6より大きく9未満、より好ましくは6.5と7.5との間のpH値を有する。好ましくは、抽出溶液は、水、緩衝溶液、あるいは、水または緩衝溶液と最大50%(v/v)の1種または2種以上の水混和性有機溶媒との混合物ならびに少なくとも二価の塩化物塩および/またはイオン液体を含む。
【0035】
本発明の方法において用いてもよい緩衝液は、好ましくはリン酸緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水緩衝液(PBS)、2−アミノ−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオール(TRIS)緩衝液、TRIS生理食塩水緩衝液(TBS)、TRIS/EDTA(TE)、ACES、MES、PIPES、HEPESおよびトリシンの群から選択される。好ましい緩衝液はPBSおよびトリシンである。
【0036】
さらに試料のよりよい分解を達成するために、試料をさらに少なくとも1種の界面活性剤、好ましくはアニオン性界面活性剤および/または両性イオン界面活性剤および/または非イオン性界面活性剤と共にインキュベートしてよい。界面活性剤を、混合物中で最終濃度が0.01〜5%、好ましくは0.1〜3%、より好ましくは、0.2%〜2%(重量%)に達するように試料に添加することができる。
【0037】
アニオン性界面活性剤は、好ましくは、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、ドデシル硫酸リチウム(LDS)またはデオキシコール酸(DOC)である。
両性イオン界面活性剤は、好ましくは3−[(3−コラミドプロピル)ジメチルアンモニオ]−1−プロパンスルホン酸(CHAPS)または3−[(3−コラミドプロピル)ジメチルアンモニオ]−2−ヒドロキシ−プロパンスルホン酸(CHAPSO)である。
【0038】
非イオン性界面活性剤は好ましくは、好ましくはC13〜C15の脂肪族アルコールを含有するエトキシル化脂肪族アルコールである。かかるエトキシル化脂肪族アルコールは、Lutensolとして知られている。適切な非イオン性界面活性剤は、具体的には、アシル−、アルキル−、オレイル−およびアルキルアリールエトキシレートである。これらの製品は、例えば、GenapolまたはLutensolの商品名で市場から入手可能である。
【0039】
これは、例えば、エトキシル化モノ−、ジ−およびトリアルキルフェノール(EO(エチレンオキシ基)度:3〜50、アルキル置換ラジカル:C4〜C12)および、またエトキシル化脂肪アルコール(EO度:3〜80;アルキルラジカル:C8〜C36)、特に、C12〜C14−脂肪アルコール(3〜8)エトキシレート、C13〜C15−オキソアルコール(3〜30)エトキシレート、C16−C18−脂肪アルコール(11〜80)エトキシレート、C10−オキソアルコール(3〜11)エトキシレート、C13−オキソアルコール(3〜20)エトキシレート、20のエチレンオキシド基を有するポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート、最小で10重量%エチレンオキシド含有量を有するエチレンオキシドとプロピレンオキシドとの共重合体、オレイルアルコールポリエチレンオキシド(4〜20)エーテルおよびノニルフェノールのポリエテンオキシド(4〜20)エーテルである。かかる非イオン性界面活性剤の混合物の用途もまた利用される。
【0040】
1種または2種以上の追加の物質、例えば特定の試料中に存在する物質を分解するのを補助する不安定化剤またはバイオポリマー分解酵素を抽出溶液に加えることは、当然可能である。以下に検討するように、1つの例は、大量のコラーゲンおよび/またはデンプンを含む食物試料へのデンプン分解酵素の添加である。
【0041】
インキュベーションを、典型的には18℃〜98℃の温度にて、好ましくは25℃〜80℃にて、より好ましくは35℃〜70℃にて行う。
試料を、典型的には10分〜6時間、好ましくは20分〜1時間の時間にわたり抽出溶液と共にインキュベートする。
【0042】
試料をさらにより効率的に、かつ低減された時間において分解するために、インキュベーションを高温にて行うことが有利である。
【0043】
驚くべきことに、本発明によるマトリックスの溶解は、溶解後のウイルスの単離を可能にするのに十分効率的であることが判明した。ウイルスは、任意の公知の方法によって単離することができる。好ましい方法は、遠心分離、濾過、篩い、ゲル電気泳動、ゲル濾過、誘電泳動、ポリエチレングリコールとの沈殿または免疫沈澱のような沈殿、溶媒抽出(2または3相)および、例えば、好ましくは例えばビーズ上に固定化される、抗体、レクチン、タンパク質結合ウイルス、またはアプタマーを用いる超音波または親和性結合である。
【0044】
本方法を組み合わせることもできる。好ましくは、ウイルスを第一に濾過、篩い、または遠心分離によって、最も好ましくは、遠心分離によって単離する。必要に応じて、遠心分離工程の後に、ウイルスを最終的に沈殿により単離することができる。
一態様において、これは、遠心分離のような最初の単離工程を実施し、そして、例えば適切な抗体を添加することによってウイルスを凝集してクラスターを形成し、その後沈殿によりウイルスを単離することによって行われる。
【0045】
遠心分離を、通常、500〜300,000g、より好ましくは1,000gより大きく、さらにより好ましくは、20,000gより大きいもので行う。
好ましい態様において、段階的な遠心分離手順を行う。典型的には100〜3,500gの遠心分離を伴う最初の遠心分離工程において、試料マトリックスおよび細菌細胞のような追加の成分のほとんどが除去される。少なくともウイルス粒子を含む残りの上清をさらに遠心分離してウイルス粒子を単離することができる。これは通常、大きさやウイルスの種類に応じて、10,000〜300,000gでの遠心分離によって行われる。
【0046】
代替的に、試料マトリックスおよび追加成分の除去(例えば、遠心分離による)後、残りの上清を、ウイルスを沈殿させるのに適した成分で処理することができる。かかる成分の例としては、Al(SO、クーマシーブリリアントブルー(RまたはG)、ZnCl、MgCl、NaPO、ZnSO、塩化アンモニウムまたはポリエチレングリコールである。その後クラスター化されたウイルスを、典型的には1,000〜20,000gで遠心分離により単離することができる。本発明による方法では、MgClおよび特にZnClが、ウイルスの沈殿のための好ましい成分であることが見出された。当業者であれば、ウイルスを沈殿させるために必要な成分の量を容易に決定することができる。ZnClおよびMgClを、通常3モル/lより大きい、好ましくは4〜5モル/l程度の濃度となる量で適用する。
【0047】
細菌細胞およびウイルス粒子が並行して単離されなければならない場合、試料を、試料マトリックスを除去すべく低速(典型的には100〜500g)で遠心分離することができる。そして上清を、ウイルスを沈殿させるのに適した成分で処理することができる。その後、クラスター化されたウイルスおよび細菌細胞を、典型的には1,000〜20,000gで遠心分離により単離することができる。
【0048】
段階的な遠心分離法は、ウイルスを単離するためだけでなく、細菌細胞または細胞壁に囲まれた細胞および一試料からのウイルスを単離するための、本発明の方法を使用するための一つの好ましい方法である。
細胞壁に囲まれた細胞およびウイルスは全く異なる性質を有するが、本発明による方法は、両方の種を並行して単離できる可能性を、但しこれらを順々にまたは同時に一緒に単離する可能性とともに、初めて提供することが見出された。
【0049】
本発明に係る抽出溶液はまた、好ましくは細菌細胞のような細胞壁で囲まれた細胞の単離にも適している。二価の塩化物塩、好ましくはMgCl、および/またはイオン液体を含む抽出溶液は、生菌細胞を単離する可能性をを提供する。
【0050】
用語「細胞壁で囲まれた細胞」は、環境への障壁として細胞壁を有するまたは含むことが知られている全ての細胞をさす。細胞壁を有する生物または細胞の例としては、細菌、古細菌、真菌、植物および藻類である。これに対して、動物やその他の多くの原生生物は細胞壁に囲まれるていない細胞膜を有する。
本明細書で用いられる場合、「生細胞」には、活性な代謝を有する細胞、好ましくは繁殖可能な、特に、複製可能な細胞が含まれる。
【0051】
本発明の方法で単離される細菌細胞は、例えば、グラム陰性またはグラム陽性細胞、最も好ましくは、リステリア属、S. aureus、P. paratuberculosis、サルモネラ属またはC. jejuniからなる群から選択される。
【0052】
試料/抽出溶液混合物を濾過するまたは篩にかける場合には、フィルター、篩またはゲルの孔のサイズを分離すべきウイルス粒子のサイズに適合させる際に、ウイルスを、前記フィルターの表面上に保持する。当然、また、様々な孔のサイズを有する異なるフィルターを用いた2以上の濾過工程を適用することが可能である。濾過工程の後に、ウイルスを、フィルター表面から洗浄することができる(例えばStevens KA and Jaykus L-A, Crit Rev Microbiol (2004) 30:7-24を参照)。溶解した試料の濾過は、複合試料が本発明の方法でほとんど溶解されないかまたは溶解されない材料を含む場合に特に求められる。
典型的に、これらの材料は、デンプンおよび/または繊維を含む。
【0053】
しかし、ウイルスを溶解混合物から単離するための好ましい方法は、遠心分離または沈殿と組み合わされた遠心分離である。
【0054】
当然、ウイルスを遠心分離工程の後に生成した分解ペレットから、単離されるウイルス上に存在するエピトープに対する抗体であって、特にビーズ、好ましくは磁気ビーズ上に固定したものを伴う免疫学的方法によって単離することもまた可能である。ウイルスを単離するための抗体ビーズを用いると、いくつかの場合において低下した回収率がもたらされるため、そのような方法を、好ましくは、主として定性的単離のために用いてもよい。
【0055】
試料の分解を促進するために、前記試料を、抽出溶液と共にインキュベーションする前に、例えばストマッカーを用いてホモジナイズすることができる。当該分解は、試料/抽出溶液混合物をインキュベーションの間に撹拌する場合、さらに支援および/または促進される。
【0056】
インキュベーション工程を−試料マトリックスに依存して−1回または数回、例えば2回、3回、4回、5回または10回繰り返してもよい。これらのインキュベーション工程の間に、ウイルスおよび残部試料マトリックスを上清から、例えば遠心分離によって分離してもよい。
【0057】
本発明の方法を用いて単離されたウイルスを、試料中のウイルスを定量的におよび/または定性的に決定するために用い得る。これは、例えば、細胞計数によって、PCR法によって、特にリアルタイムPCRによって、レクチンを用いることによって、あるいはウイルスに選択的に結合する抗体、タンパク質または前記ウイルス粒子の表面構造に向けられたアプタマーを用いる方法(例えば粒子特異的ELISAもしくはRIA)によって達成することができる。
【0058】
単離工程の後に、ウイルスを、好ましくは水、緩衝溶液および/または界面活性剤含有溶液で洗浄する。しかし、洗浄緩衝液に、1種または2種以上の追加の物質を加えることは、当然可能である。洗浄工程は、数回(例えば2回、3回、4回、5回もしくは10回)繰り返してもよいし、または1回のみでもよい。洗浄工程の間に、ウイルスを、典型的には緩衝液中に再懸濁させ、次に濾過するかまたは遠心分離する。不溶性粒子が分解した試料中に存在する場合には(例えばチーズのリン酸カルシウム粒子)、前記粒子を、より低い回転速度における遠心分離によって、または粒子を長時間にわたって沈降させることによって除去することができる(ウイルスは、両方の場合において上清中に残留する)。
【0059】
ウイルスをまた、界面活性剤含有溶液で洗浄してもよい。これによって、細胞懸濁液中に潜在的に含まれる脂肪残部をさらに除去することが可能になる。この方法工程において用いるべき好ましい界面活性剤は、脂肪除去のために通常用いられる界面活性剤である。
【0060】
本発明の好ましい態様において、試料中のウイルスの量を決定する。
試料中のウイルスの量を、当該分野において知られている任意の方法によって、特に例えば希釈系列、ファージ計数、リアルタイムPCR/リアルタイムRT PCRなどの方法によって決定することができる。
【0061】
本発明の他の好ましい態様において、ウイルスのDNAまたはRNAを単離する。
ウイルスに依存して、様々な方法を用いて、DNA(例えばゲノムDNA、プラスミド)またはRNA(例えばmRNA)を抽出してもよい。すべてのこれらの方法は、当該分野において知られており、単一のプロトコルは、主として溶解するべきウイルスに依存する。
【0062】
単離手順の効率を決定するかまたはモニタリングするために、試料に、定められた量の対照ウイルスを添加することができる。対照ウイルスは、典型的には不活化ウイルス粒子である。好ましくは、それらは、試料中に存在すると推測されるウイルスに類似するが、それらは、好ましくは試料中に存在すると推測されるウイルスと同一ではない。回収した添加した対照ウイルスの量によって、本発明の方法の効率を決定することが可能になり、また最初の試料中に存在する、単離し、決定するべき細胞の量が示され得る。
【0063】
本発明の1つの態様において、試料を、少なくとも1種のバイオポリマー分解酵素と共にさらにインキュベートする。
【0064】
ウイルスを単離するいくつかの試料は、抽出溶液を加えることによって溶解され得ないかまたは非効率的な方式で溶解され得るに過ぎないバイオポリマーの構造を含む。試料、特に食物試料が、例えばコラーゲンおよび/またはデンプンを、例えば10%を上回る量において含む場合には、前記試料を、それを本発明のマトリックス溶解系と共にインキュベートする前に、コラーゲンおよびデンプン内容物を少なくとも部分的に分解することが可能である物質で処理してもよい。
【0065】
したがって、試料を、好ましくは少なくとも1種のバイオポリマー分解酵素と共にさらにインキュベートする。好ましくはバイオポリマー分解酵素と共にインキュベートする試料は、例えば肉、魚などである。アイスクリーム、卵、血液、牛乳、乳製品などは、通常はバイオポリマー分解酵素を加えることを必要としない。驚くべきことに、酵素を用いることのみによっては、ウイルスの単離は可能にならないことが判明した。
【0066】
本明細書中で用いる用語「バイオポリマー」は、タンパク質、ポリペプチド、核酸、セルロース、デンプンおよびグリコーゲンのような多糖類などを指す。したがって、「バイオポリマー分解酵素」は、水性緩衝液に不溶であり得るバイオポリマー(例えばデンプン、セルロース)を、低分子量の物質に、またはさらにモノマーに分解することができる酵素である。
【0067】
バイオポリマー分解酵素が、特定のpHおよび温度条件下で活性であり得るため(特定の緩衝液の使用はまた、役割を果たし得る)、任意の条件下で前記酵素と共にインキュベーションを行うことが有利である。これらの条件は、用いる酵素に依存し、当該分野において知られている。また、インキュベーション時間は、外因性要因、例えばpHおよび温度に依存する。したがって、インキュベーション時間は、10秒から6時間まで、好ましくは30秒から2時間まで変動し得る。
【0068】
バイオポリマー分解酵素は、好ましくはプロテアーゼ、セルラーゼおよびアミラーゼからなる群から選択される。これらの酵素の例は、Savinase 24 GTT(Subtilin)、Carenzyme 900T、Stainzyme GTである。デンプン分解酵素は、例えばシクロデキストリングルカノトランスフェラーゼ、アルファ−アミラーゼ、ベータ−アミラーゼ、グルコアミラーゼ、プルラナーゼおよびイソアミラーゼ、特にα−アミラーゼである。
【0069】
カオトロピック剤および界面活性剤を含む緩衝液を用いる既知の方法においては、カオトロープおよび界面活性剤が酵素活性に悪影響を及ぼし得、したがってバイオポリマーが断片またはモノマーに効率的に分解されないため、バイオポリマー分解酵素を、マトリックス溶解工程の間に加えることはできない。
【0070】
これとは対照的に、抽出溶液中に二価の塩化物塩および/またはイオン液体が用いられる本発明の方法においては、バイオポリマー分解酵素を、工程b)の前に、および/または工程b)の間に、および/または工程c)の後に、試料と共にインキュベートすることができる(工程b)は、試料を抽出溶液と共にインキュベートする溶解工程であり、工程c)は、単離工程である)。
【0071】
本発明の方法を、数時間以内に、典型的には1〜6時間以内に行うことができる。
本発明において用いるイオン液体または液体塩は、有機カチオンおよび一般的には無機のアニオンからなるイオン種である。それらは、いかなる中性分子をも含まず、通常373Kより低い融点を有する。
【0072】
イオン液体の分野は、潜在的な適用が多種多様であるため、現在集中的に研究されている。イオン液体に関する総説は、例えばR. Sheldon "Catalytic reactions in ionic liquids", Chem. Commun., 2001, 2399-2407;M.J. Earle, K.R. Seddon "Ionic liquids. Green solvent for the future”, Pure Appl. Chem., 72 (2000), 1391-1398;P. Wasserscheid, W. Keim "Ionische Fluessigkeiten - neue Loesungen fuer die Uebergangsmetallkatalyse" [Ionic Liquids - Novel Solutions for Transition-Metal Catalysis], Angew. Chem., 112 (2000), 3926-3945;T. Welton "Room temperature ionic liquids. Solvents for synthesis and catalysis”, Chem. Rev., 92 (1999), 2071-2083またはR. Hagiwara, Ya. Ito "Room temperature ionic liquids of alkylimidazolium cations and fluoroanions”, J. Fluorine Chem., 105 (2000), 221-227)である。
【0073】
一般的に、当業者に知られている一般式Kで表されるすべてのイオン液体、特に水と混和性であるものは、本発明の方法において好適である。
【0074】
イオン液体のアニオンAは、好ましくはハライド、テトラフルオロボレート、ヘキサフルオロホスフェート、シアナミド、チオシアネートまたは一般式[N(Rで表される、もしくは一般式[N(XRで表されるイミドを含む群から選択され、ここでRは、1〜8個のC原子を有する部分的に、または完全にフッ素置換されたアルキルを示し、Xは、SOまたはCOを示す。ここでのハロゲン化物アニオンは、塩化物、臭化物およびヨウ化物アニオンから、好ましくは塩化物および臭化物アニオンから選択され得る。イオン液体のアニオンAは、好ましくはハロゲン化物アニオン、特に臭化物もしくはヨウ化物アニオン、またはテトラフルオロボレートもしくはシアナミド、もしくはチオシアネートであり、最も好ましくは、チオシアネートである。
【0075】
イオン液体のカチオンKの選択に関しては制限自体がない。しかし、好ましいのは、有機カチオン、特に好ましくはアンモニウム、ホスホニウム、ウロニウム、チオウロニウム、グアニジニウムカチオンまたは複素環式カチオンである。
【0076】
アンモニウムカチオンを、例えば式(1)
[NR (1)
によって記載することができ、ここで
Rは、各々の場合において、互いに独立して以下のものを示す、
H、ここですべての置換基Rは、同時にはHではない、
OR’、NR’、ただし、式(1)中の置換基Rは、最大で1つのOR’、NR’である、
1〜20個のC原子を有する直鎖状または分枝状アルキル、
2〜20個のC原子および1つまたは2つ以上の二重結合を有する直鎖状または分枝状アルケニル、
2〜20個のC原子および1つまたは2つ以上の三重結合を有する直鎖状または分枝状アルキニル、
【0077】
1〜6個のC原子を有するアルキル基によって置換されていてもよい、3〜7個のC原子を有する飽和の、部分的に、または完全に不飽和のシクロアルキル、ここで1つまたは2つ以上のRは、ハロゲンによって、特に−Fおよび/もしくは−Clによって部分的に、もしくは完全に、または−OH、−OR’、−CN、−C(O)OH、−C(O)NR’、−SONR’、−C(O)X、−SOOH、−SOX、−NOによって部分的に置換されていてもよく、またここで、α位にはないR中の1つまたは2つの隣接していない炭素原子は、−O−、−S−、−S(O)−、−SO−、−SOO−、−C(O)−、−C(O)O−、−NR’−、−P(O)R’O−、−C(O)NR’−、−SONR’−、−OP(O)R’O−、−P(O)(NR’)NR’−、−PR’=N−または−P(O)R’−の群から選択された原子および/または原子団によって置き換えられていてもよく、ここで−R’=H、フッ素化されていない、部分的にフッ素化された、またはパーフルオロ化されたC〜Cアルキル、C〜Cシクロアルキル、非置換の、または置換されたフェニルであり得、X=ハロゲンであり得る。
【0078】
ホスホニウムカチオンを、例えば式(2)
[PR (2)
によって記載することができ、ここで
Rは、各々の場合において、互いに独立して以下のものを示す、
H、OR’またはNR’を示し、
1〜20個のC原子を有する直鎖状または分枝状アルキル、
2〜20個のC原子および1つまたは2つ以上の二重結合を有する直鎖状または分枝状アルケニル、
2〜20個のC原子および1つまたは2つ以上の三重結合を有する直鎖状または分枝状アルキニル、
【0079】
1〜6個のC原子を有するアルキル基によって置換されていてもよい、3〜7個のC原子を有する飽和の、部分的に、または完全に不飽和のシクロアルキル、ここで1つまたは2つ以上のRは、ハロゲンによって、特に−Fおよび/もしくは−Clによって部分的に、もしくは完全に、または−OH、−OR’、−CN、−C(O)OH、−C(O)NR’、−SONR’、−C(O)X、−SOOH、−SOX、−NOによって部分的に置換されていてもよく、またここで、α位にはないR中の1つまたは2つの隣接していない炭素原子は、−O−、−S−、−S(O)−、−SO−、−SOO−、−C(O)−、−C(O)O−、−NR’−、−P(O)R’O−、−C(O)NR’−、−SONR’−、−OP(O)R’O−、−P(O)(NR’)NR’−、−PR’=N−または−P(O)R’−の群から選択された原子および/または原子団によって置き換えられていてもよく、ここで−R’=H、フッ素化されていない、部分的にフッ素化された、またはパーフルオロ化されたC〜Cアルキル、C〜Cシクロアルキル、非置換の、または置換されたフェニルであり、X=ハロゲンである。
【0080】
しかし、すべての4つまたは3つの置換基RおよびRがハロゲンによって完全に置換されている、式(1)および(2)で表されるカチオン、例えばトリス(トリフルオロメチル)メチルアンモニウムカチオン、テトラ(トリフルオロメチル)アンモニウムカチオンまたはテトラ(ノナフルオロブチル)アンモニウムカチオンは、除外される。
【0081】
ウロニウムカチオンを、例えば式(3)
[(RN)−C(=OR)(NR)] (3)
によって記載することができ、チオウロニウムカチオンを、式(4)
[(RN)−C(=SR)(NR)] (4)
によって記載することができ、ここで
〜Rは、各々、互いに独立して以下のものを示す、
水素、ここで水素は、Rについては除外される、
1〜20個のC原子を有する直鎖状または分枝状アルキル、
2〜20個のC原子および1つまたは2つ以上の二重結合を有する直鎖状または分枝状アルケニル、
2〜20個のC原子および1つまたは2つ以上の三重結合を有する直鎖状または分枝状アルキニル、
【0082】
1〜6個のC原子を有するアルキル基によって置換されていてもよい、3〜7個のC原子を有する飽和の、部分的に、または完全に不飽和のシクロアルキル、ここで1つまたは2つ以上の置換基R〜Rは、ハロゲンによって、特に−Fおよび/もしくは−Clによって部分的に、もしくは完全に、または−OH、−OR’、−CN、−C(O)OH、−C(O)NR’、−SONR’、−C(O)X、−SOOH、−SOX、−NOによって部分的に置換されていてもよく、またここで、α位にはないR〜R中の1つまたは2つの隣接していない炭素原子は、−O−、−S−、−S(O)−、−SO−、−SOO−、−C(O)−、−C(O)O−、−NR’−、−P(O)R’O−、−C(O)NR’−、−SONR’−、−OP(O)R’O−、−P(O)(NR’)NR’−、−PR’=N−または−P(O)R’−の群から選択された原子および/または原子団によって置き換えられていてもよく、ここで−R’=H、フッ素化されていない、部分的にフッ素化された、またはパーフルオロ化されたC〜Cアルキル、C〜Cシクロアルキル、非置換の、または置換されたフェニルであり、X=ハロゲンである。
【0083】
グアニジニウムカチオンを、式(5)
[C(NR)(NR1011)(NR1213)] (5)
によって記載することができ、ここで
〜R13は、各々、互いに独立して以下のものを示す、
水素、−CN、NR’、−OR’
1〜20個のC原子を有する直鎖状または分枝状アルキル、
2〜20個のC原子および1つまたは2つ以上の二重結合を有する直鎖状または分枝状アルケニル、
2〜20個のC原子および1つまたは2つ以上の三重結合を有する直鎖状または分枝状アルキニル、
【0084】
1〜6個のC原子を有するアルキル基によって置換されていてもよい、3〜7個のC原子を有する飽和の、部分的に、または完全に不飽和のシクロアルキル、ここで1つまたは2つ以上の置換基R〜R13は、ハロゲンによって、特に−Fおよび/もしくは−Clによって部分的に、もしくは完全に、または−OH、−OR’、−CN、−C(O)OH、−C(O)NR’、−SONR’、−C(O)X、−SOOH、−SOX、−NOによって部分的に置換されていてもよく、またここで、α位にはないR〜R13中の1つまたは2つの隣接していない炭素原子は、−O−、−S−、−S(O)−、−SO−、−SOO−、−C(O)−、−C(O)O−、−NR’−、−P(O)R’O−、−C(O)NR’−、−SONR’−、−OP(O)R’O−、−P(O)(NR’)NR’−、−PR’=N−または−P(O)R’−の群から選択された原子および/または原子団によって置き換えられていてもよく、ここで−R’=H、フッ素化されていない、部分的にフッ素化された、またはパーフルオロ化されたC〜Cアルキル、C〜Cシクロアルキル、非置換の、または置換されたフェニルであり、X=ハロゲンである。
【0085】
さらに、一般式(6)
[HetN] (6)、
式中
HetNは、以下の群
【化1】

【0086】
【化2】

から選択された複素環式カチオンを示す、
で表されるカチオンを用いることが可能であり、
【0087】
ここで、置換基
1’〜R4’は、各々、互いに独立して
水素、−CN、−OR’、−NR’、−P(O)R’、−P(O)(OR’)、−P(O)(NR’、−C(O)R’、−C(O)OR’、
1〜20個のC原子を有する直鎖状または分枝状アルキル、
2〜20個のC原子および1つまたは2つ以上の二重結合を有する直鎖状または分枝状アルケニル、
2〜20個のC原子および1つまたは2つ以上の三重結合を有する直鎖状または分枝状アルキニル、
3〜7個のC原子を有し、1〜6個のC原子を有するアルキル基によって置換されていてもよい、飽和の、部分的に、または完全に不飽和のシクロアルキル、
飽和の、部分的に、または完全に不飽和のヘテロアリール、ヘテロアリール−C〜Cアルキルまたはアリール−C〜Cアルキル
を示し、
【0088】
ここで、置換基R1’、R2’、R3’および/またはR4’は、一緒にまた環系を形成してもよく、
ここで、1つまたは2つ以上の置換基R1’〜R4’は、ハロゲン、特に−Fおよび/もしくは−Cl、または−OH、−OR’、−CN、−C(O)OH、−C(O)NR’、−SONR’、−C(O)X、−SOOH、−SOX、−NOによって部分的に、または完全に置換されていてもよいが、ここでR1’およびR4’は、同時にはハロゲンによって完全には置換され得ず、またここで、置換基R1’〜R4’において、ヘテロ原子に結合していない1個または2個の隣接していない炭素原子は、−O−、−S−、−S(O)−、−SO−、−SOO−、−C(O)−、−C(O)O−、−NR’−、−P(O)R’O−、−C(O)NR’−、−SONR’−、−OP(O)R’O−、−P(O)(NR’)NR’−、−PR’=N−または−P(O)R’−から選択された原子および/または原子団によって置き換えられていてもよく、ここでR’=H、フッ素化されていない、部分的にフッ素化された、またはパーフルオロ化されたC〜Cアルキル、C〜Cシクロアルキル、非置換の、または置換されたフェニルであり、X=ハロゲンである。
【0089】
本発明の目的のために、完全に不飽和の置換基はまた、芳香族置換基を意味するものと解釈される。
本発明において、式(1)〜(5)で表される化合物の好適な置換基RおよびR〜R13は、水素以外には、好ましくは以下のものである:C〜C20、特にC〜C14アルキル基、およびC〜Cアルキル基によって置換されていてもよい飽和の、または不飽和の、即ちまた芳香族のC〜Cシクロアルキル基、特にフェニル。
【0090】
式(1)または(2)で表される化合物中の置換基RおよびRは、ここで同一であっても異なっていてもよい。置換基RおよびRは、好ましくは異なっている。
置換基RおよびRは、特に好ましくはメチル、エチル、イソプロピル、プロピル、ブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、ペンチル、ヘキシル、オクチル、デシルまたはテトラデシルである。
【0091】
グアニジニウムカチオン[C(NR)(NR1011)(NR1213)]の4つまでの置換基はまた、単環式、二環式または多環式カチオンを形成するように、対になって結合していてもよい。
【0092】
一般性を制限せずに、そのようなグアニジニウムカチオンの例は、以下のものであり:
【化3】

式中、置換基R〜R10およびR13は、上記に示した意味または特に好ましい意味を有することができる。
【0093】
所望により、上記に示したグアニジニウムカチオンの炭素環式または複素環式環はまた、C〜Cアルキル、C〜Cアルケニル、NO、F、Cl、Br、I、OH、C〜Cアルコキシ、SCF、SOCF、COOH、SONR’、SOX’またはSOHによって置換されていてもよく、ここでXおよびR’は、上記に示した意味、置換されたか、もしくは非置換のフェニルまたは非置換の、もしくは置換された複素環を有する。
【0094】
ウロニウムカチオン[(RN)−C(=OR)(NR)]またはチオウロニウムカチオン[(RN)−C(=SR)(NR)]の4つまでの置換基はまた、単環式、二環式または多環式カチオンを形成するように、対になって結合していてもよい。
【0095】
一般性を制限せずに、そのようなカチオンの例を、以下に示し、式中Y=OまたはSであり:
【化4】

式中、置換基R、RおよびRは、上記に示した意味または特に好ましい意味を有することができる。
【0096】
所望により、上記に示したカチオンの炭素環式または複素環式環はまた、C〜Cアルキル、C〜Cアルケニル、NO、F、Cl、Br、I、OH、C〜Cアルコキシ、SCF、SOCF、COOH、SONR’、SOX’もしくはSOHまたは置換された、もしくは非置換のフェニル、または非置換の、もしくは置換された複素環によって置換されていてもよく、ここでXおよびR’は、上記に示した意味を有する。
【0097】
置換基R〜R13は、各々、互いに独立して、好ましくは1〜10個のC原子を有する直鎖状または分枝状アルキル基である。式(3)〜(5)で表される化合物中の置換基RおよびR、RおよびR、RおよびR、R10およびR11ならびにR12およびR13は、同一であっても異なっていてもよい。R〜R13は、特に好ましくは、各々、互いに独立してメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、tert−ブチル、sec−ブチル、フェニルまたはシクロヘキシル、極めて特に好ましくはメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピルまたはn−ブチルである。
【0098】
本発明において、式(6)で表される化合物の好適な置換基R1’〜R4’は、水素以外には、好ましくは以下のものである:C〜C20、特にC〜C12アルキル基、およびC〜Cアルキル基によって置換されていてもよい飽和の、または不飽和の、即ちまた芳香族のC〜Cシクロアルキル基、特にフェニル。
【0099】
置換基R1’〜R4’は、各々、互いに独立して、特に好ましくはメチル、エチル、イソプロピル、プロピル、ブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、ペンチル、ヘキシル、オクチル、デシル、シクロヘキシル、フェニルまたはベンジルである。それらは、極めて特に好ましくはメチル、エチル、n−ブチルまたはヘキシルである。ピロリジニウム、ピペリジニウムまたはインドリニウム化合物中で、2つの置換基R1’およびR4’は、好ましくは異なっている。
【0100】
置換基R2’またはR3’は、各々の場合において、互いに独立して、特に水素、メチル、エチル、イソプロピル、プロピル、ブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、シクロヘキシル、フェニルまたはベンジルである。R2’は、特に好ましくは水素、メチル、エチル、イソプロピル、プロピル、ブチルまたはsec−ブチルである。R2’およびR3’は、極めて特に好ましくは水素である。
【0101】
〜C12アルキル基は、例えばメチル、エチル、イソプロピル、プロピル、ブチル、sec−ブチルまたはtert−ブチル、さらにまたペンチル、1−、2−もしくは3−メチルブチル、1,1−、1,2−もしくは2,2−ジメチルプロピル、1−エチルプロピル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシルまたはドデシルである。任意にジフルオロメチル、トリフルオロメチル、ペンタフルオロエチル、ヘプタフルオロプロピルまたはノナフルオロブチルである。
【0102】
複数の二重結合がまた存在してもよい、2〜20個のC原子を有する直鎖状または分枝状アルケニルは、例えばアリル、2−または3−ブテニル、イソブテニル、sec−ブテニル、さらに4−ペンテニル、イソペンテニル、ヘキセニル、ヘプテニル、オクテニル、−C17、−C1019〜−C2039;好ましくはアリル、2−または3−ブテニル、イソブテニル、sec−ブテニル、さらに好ましくは4−ペンテニル、イソペンテニルまたはヘキセニルである。
【0103】
複数の三重結合がまた存在してもよい、2〜20個のC原子を有する直鎖状または分枝状アルキニルは、例えばエチニル、1−または2−プロピニル、2−または3−ブチニル、さらに4−ペンチニル、3−ペンチニル、ヘキシニル、ヘプチニル、オクチニル、−C15、−C1017〜−C2037、好ましくはエチニル、1−もしくは2−プロピニル、2−もしくは3−ブチニル、4−ペンチニル、3−ペンチニルまたはヘキシニルである。
【0104】
アリール−C〜Cアルキルは、例えばベンジル、フェニルエチル、フェニルプロピル、フェニルブチル、フェニルペンチルまたはフェニルヘキシルを示し、ここでフェニル環およびまたアルキレン鎖は共に、上記のようにハロゲン、特に−Fおよび/もしくは−Clによって部分的にもしくは完全に、または−OH、−OR’、−CN、−C(O)OH、−C(O)NR’、−SONR’、−C(O)X、−SOOH、−SOX、−NOによって部分的に置換されていてもよい。
【0105】
3〜7個のC原子を有する、非置換の飽和の、または部分的に、もしくは完全に不飽和のシクロアルキル基は、したがってシクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロペンテニル、シクロペンタ−1,3−ジエニル、シクロヘキセニル、シクロヘキサ−1,3−ジエニル、シクロヘキサ−1,4−ジエニル、フェニル、シクロヘプテニル、シクロヘプタ−1,3−ジエニル、シクロヘプタ−1,4−ジエニルまたはシクロヘプタ−1,5−ジエニルであり、その各々は、C〜Cアルキル基によって置換されていてもよく、ここでシクロアルキル基またはC〜Cアルキル基によって置換されたシクロアルキル基は、同様にまたハロゲン原子、例えばF、Cl、BrもしくはI、特にFもしくはClによって、または−OH、−OR’、−CN、−C(O)OH、−C(O)NR’、−SONR’、−C(O)X、−SOOH、−SOX、−NOによって置換されていてもよい。
【0106】
置換基R、R〜R13またはR1’〜R4’において、ヘテロ原子に対してα位において結合していない1つまたは2つの隣接していない炭素原子はまた、−O−、−S−、−S(O)−、−SO−、−SOO−、−C(O)−、−C(O)O−、−NR’−、−P(O)R’O−、−C(O)NR’−、−SONR’−、−OP(O)R’O−、−P(O)(NR’)NR’−、−PR’=N−または−P(O)R’−の群から選択された原子および/または原子団によって置き換えられていてもよく、ここでR’=フッ素化されていない、部分的にフッ素化された、またはパーフルオロ化されたC〜Cアルキル、C〜Cシクロアルキル、非置換の、または置換されたフェニルである。
【0107】
一般性を制限せずに、このようにして修飾された置換基R、R〜R13およびR1’〜R4’の例は、以下のものである:
−OCH、−OCH(CH、−CHOCH、−CH−CH−O−CH、−COCH(CH、−CSC、−CSCH(CH、−S(O)CH、−SOCH、−SO、−SO、−SOCH(CH、−SOCHCF、−CHSOCH、−O−C−O−C、−CF、−C、−C、−C、−C(CF、−CFSOCF、−CN(C)C、−CHF、−CHCF、−C、−CFH、−CH、−C(CFH、−CHC(O)OH、−CH、−C(O)CまたはP(O)(C
【0108】
R’において、C〜Cシクロアルキルは、例えばシクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシルまたはシクロヘプチルである。
【0109】
R’において、置換フェニルは、C〜Cアルキル、C〜Cアルケニル、NO、F、Cl、Br、I、OH、C〜Cアルコキシ、SCF、SOCF、COOH、SOX’、SONR’’またはSOHによって置換されているフェニルを示し、ここでX’は、F、ClまたはBrを示し、R’’は、R’について定義したようにフッ素化されていない、部分的にフッ素化された、またはパーフルオロ化されたC〜CアルキルまたはC〜Cシクロアルキル、例えばo−、m−またはp−メチルフェニル、o−、m−またはp−エチルフェニル、o−、m−またはp−プロピルフェニル、o−、m−またはp−イソプロピルフェニル、o−、m−またはp−tert−ブチルフェニル、o−、m−またはp−ニトロフェニル、o−、m−またはp−ヒドロキシフェニル、o−、m−またはp−メトキシフェニル、o−、m−またはp−エトキシフェニル、o−、m−、p−(トリフルオロメチル)フェニル、o−、m−、p−(トリフルオロメトキシ)フェニル、o−、m−、p−(トリフルオロメチルスルホニル)フェニル、o−、m−またはp−フルオロフェニル、o−、m−またはp−クロロフェニル、o−、m−またはp−ブロモフェニル、o−、m−またはp−ヨードフェニル、
【0110】
さらに好ましくは2,3−、2,4−、2,5−、2,6−、3,4−もしくは3,5−ジメチルフェニル、2,3−、2,4−、2,5−、2,6−、3,4−もしくは3,5−ジヒドロキシフェニル、2,3−、2,4−、2,5−、2,6−、3,4−もしくは3,5−ジフルオロフェニル、2,3−、2,4−、2,5−、2,6−、3,4−もしくは3,5−ジクロロフェニル、2,3−、2,4−、2,5−、2,6−、3,4−もしくは3,5−ジブロモフェニル、2,3−、2,4−、2,5−、2,6−、3,4−もしくは3,5−ジメトキシフェニル、5−フルオロ−2−メチルフェニル、3,4,5−トリメトキシフェニルまたは2,4,5−トリメチルフェニルを示す。
【0111】
1’〜R4’において、ヘテロアリールは、5〜13個の環要素を有する飽和の、または不飽和の単環式の、または二環式の複素環式ラジカルを意味するものと解釈され、ここで1個、2個もしくは3個のNおよび/または1個もしくは2個のSもしくはO原子が、存在してもよく、複素環式ラジカルは、C〜Cアルキル、C〜Cアルケニル、NO、F、Cl、Br、I、OH、C〜Cアルコキシ、SCF、SOCF、COOH、SOX’、SONR’’またはSOHによって単置換または多置換されていてもよく、ここでX’およびR’’は、上記に示した意味を有する。
【0112】
複素環式ラジカルは、好ましくは置換されているか、または非置換の2−または3−フリル、2−または3−チエニル、1−、2−または3−ピロリル、1−、2−、4−または5−イミダゾリル、3−、4−または5−ピラゾリル、2−、4−または5−オキサゾリル、3−、4−または5−イソキサゾリル、2−、4−または5−チアゾリル、3−、4−または5−イソチアゾリル、2−、3−または4−ピリジル、2−、4−、5−または6−ピリミジニル、
【0113】
さらに好ましくは1,2,3−トリアゾール−1−、−4−もしくは−5−イル、1,2,4−トリアゾール−1−、−4−もしくは−5−イル、1−もしくは5−テトラゾリル、1,2,3−オキサジアゾール−4−もしくは−5−イル、1,2,4−オキサジアゾール−3−もしくは−5−イル、1,3,4−チアジアゾール−2−もしくは−5−イル、1,2,4−チアジアゾール−3−もしくは−5−イル、1,2,3−チアジアゾール−4−もしくは−5−イル、2−、3−、4−、5−もしくは6−2H−チオピラニル、2−、3−もしくは4−4H−チオピラニル、3−もしくは4−ピリダジニル、ピラジニル、2−、3−、4−、5−、6−もしくは7−ベンゾフリル、2−、3−、4−、5−、6−もしくは7−ベンゾチエニル、1−、2−、3−、4−、5−、6−もしくは7−1H−インドリル、1−、2−、4−もしくは5−ベンズイミダゾリル、1−、3−、4−、5−、6−もしくは7−ベンゾピラゾリル、2−、4−、5−、6−もしくは7−ベンゾキサゾリル、3−、4−、5−、6−もしくは7−ベンズイソキサゾリル、2−、4−、5−、6−もしくは7−ベンゾチアゾリル、2−、4−、5−、6−もしくは7−ベンズイソチアゾリル、4−、5−、6−もしくは7−ベンズ−2,1,3−オキサジアゾリル、1−、2−、3−、4−、5−、6−、7−もしくは8−キノリニル、1−、3−、4−、5−、6−、7−もしくは8−イソキノリニル、1−、2−、3−、4−もしくは9−カルバゾリル、1−、2−、3−、4−、5−、6−、7−、8−もしくは9−アクリジニル、3−、4−、5−、6−、7−もしくは8−シンノリニル、2−、4−、5−、6−、7−もしくは8−キナゾリニルまたは1−、2−もしくは3−ピロリジニルである。
【0114】
ヘテロアリール−C〜Cアルキルは、アリール−C〜Cアルキルと同様に、例えばピリジニルメチル、ピリジニルエチル、ピリジニルプロピル、ピリジニルブチル、ピリジニルペンチル、ピリジニルヘキシルを意味するものと解釈され、ここで上記の複素環式ラジカルは、さらにこのようにしてアルキレン鎖に結合していてもよい。
【0115】
HetNは、好ましくは
【化5】

であり、
【0116】
ここで置換基R1’〜R4’は、各々、互いに独立して上記の意味を有する。モルホリニウムおよびイミダゾリウムカチオンは、本発明において特に好ましく、ここで前記カチオン中のR1’〜R4’は、特に、各々の場合において互いに独立して、水素、1〜20個のC原子を有する直鎖状または分枝状アルキルを示し、ここで1つまたは2つ以上の置換基R1’〜R4’は、−OHまたは−OR’によって部分的に置換されていてもよく、ここでR1’=フッ素化されていない、部分的にフッ素化された、またはパーフルオロ化されたC〜Cアルキル、C〜Cシクロアルキル、非置換の、または置換されたフェニルである。
【0117】
本発明のイオン液体のカチオンは、好ましくはアンモニウム、ホスホニウム、イミダゾリウムまたはモルホリニウムカチオンであり、最も好ましいのはイミダゾリウムカチオンである。
【0118】
好ましいアンモニウム、ホスホニウム、イミダゾリウムまたはモルホリニウムカチオンの極めて特に好ましい置換基R、R、R1’〜R4’は、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ヘキシル、デシル、ドデシル、オクタデシル、エトキシエチル、メトキシエチル、ヒドロキシエチルまたはヒドロキシプロピル基から選択される。
【0119】
イミダゾリウムカチオンが、官能基によって、例えば、様々な酸化状態が可能である窒素、硫黄および/またはリンを含む基によってそれら自体置換されていてもよいアルキル、アルケニル、アリールおよび/またはアラルキル基によって置換されているのが好ましい。本発明のこれらの官能基の好ましい例は、以下のものである:アミン、カルボキシル、カルボニル、アルデヒド、ヒドロキシ、サルフェート、スルホネートおよび/またはホスフェート基。
【0120】
イミダゾリウム環のN原子の一方または両方は、同一であるかまたは異なる置換基によって置換され得る。好ましくは、イミダゾリウム環の両方の窒素原子は、同一であるかまたは異なる置換基によって置換されている。
また、本発明において、イミダゾリウム塩が、1個または2個以上のイミダゾリウム環の炭素原子にてさらに、または独占的に置換されている(exclusively substituted)のが、可能であるかまたは好ましい。
【0121】
置換基として好ましいのは、C〜Cアルキル基、例えばメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチルおよび/またはイソブチル基である。また好ましい置換基は、C〜Cアルケニル基、例えばエチレン、n−プロピレン、イソプロピレン、n−ブチレンおよび/またはイソブチレンであり、また4個より多いC原子を有するアルキルおよびアルケニル置換基が含まれ、ここで例えばまたC〜C10アルキルまたはアルケニル置換基が、なお好ましい。イオン液体の可溶性のために、これらのC〜C10アルキルまたはアルケニル基が、1つまたは2つ以上の他の置換基、例えばホスフェート、スルホネート、アミノおよび/またはホスフェート基を、それらのアルキルおよび/またはアルケニル基にて有することが、好ましい場合がある。
【0122】
アリール置換基として、本発明において、単環式および/または二環式アリール基、フェニル、ビフェニルおよび/またはナフタレン、ならびにヒドロキシ、スルホネート、サルフェート、アミノ、アルデヒド、カルボニルおよび/またはカルボキシ基を担持するこれらの化合物の誘導体が好ましい。好ましいアリール置換基の例は、フェノール、ビフェニル、ビフェノール、ナフタレン、ナフタレンカルボン酸、ナフタレンスルホン酸、ビフェニロール(biphenylol)、ビフェニルカルボン酸、フェノール、フェニルスルホネートおよび/またはフェノールスルホン酸である。
【0123】
イミダゾリウムチオシアネート、ジシアナミド、テトラフルオロボレート、ヨウ化物、塩化物、臭化物またはヘキサフルオロホスフェートは、本発明の方法において極めて特に好ましく用いられ、ここで1−デシル−3−メチルイミダゾリウムブロミド、1−デシル−3−メチルイミダゾリウムヨージド、1−デシル−3−メチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェート、1−デシル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート、1−デシル−3−メチルイミダゾリウムチオシアネート、1−デシル−3−メチルイミダゾリウムジシアナミド、1−ドデシル−3−メチルイミダゾリウムクロリド、1−ドデシル−3−メチルイミダゾリウムブロミド、1−ドデシル−3−メチルイミダゾリウムヨージド、
【0124】
1−ドデシル−3−メチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェート、1−ドデシル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート、1−ドデシル−3−メチルイミダゾリウムチオシアネート、1−ドデシル−3−メチルイミダゾリウムジシアナミド、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムブロミド、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムクロリド、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムヨージド、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェート、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムチオシアネート、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムジシアナミド、1−オクチル−3−メチルイミダゾリウムブロミド、1−オクチル−3−メチルイミダゾリウムヨージド、1−オクチル−3−メチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェート、1−オクチル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート、
【0125】
1−オクチル−3−メチルイミダゾリウムチオシアネート、1−オクチル−3−メチルイミダゾリウムジシアナミド、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムブロミド、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムヨージド、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェート、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムチオシアネート、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムジシアナミド、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムブロミド、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムヨージド、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェート、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムチオシアネート、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムジシアナミドは、本発明の方法において特に好ましい。
【0126】
最も好ましいのは、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムチオシアネート、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムジシアナミド、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムチオシアネート、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムジシアナミド、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムチオシアネート、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムジシアナミドである。
【0127】
本発明において用いるイオン液体は、好ましくは液体であり、即ち、好ましくは、それらは、室温(約25℃)にてイオン性である液体である。しかし、また室温にて液体でないが、本発明の方法を行う温度において液体形態で存在するか、または抽出溶液に可溶であるようなイオン液体を用いることができる。
【0128】
本発明の他の側面は、細胞を複合マトリックスから単離するための抽出溶液であって、少なくとも:
・二価の塩化物塩および/またはイオン液体
を典型的には水および/または水性緩衝液中に含む、前記抽出溶液に関する。
【0129】
MgClなどの二価の塩化物塩は−存在する場合には−典型的に、0.5〜6M、好ましくは0.5〜4M、より好ましくは1〜2Mの濃度で存在する。
【0130】
ZnClもまた、その非常に高い水溶性のために、より高い濃度で用いることができる。それは最大濃度約15Mまで用いることができる。好ましいZnClの濃度は、1〜10Mである。これは、非常に特異的な抽出条件を作成し、勾配遠心分離のために抽出溶液を直接用いる可能性を提供する。
【0131】
イオン液体は−存在する場合には−典型的に、混合物の重量を基準として0.5〜100重量%、好ましくは1〜60重量%、より好ましくは7〜40重量%の濃度において存在する。イオン液体は、1種のイオン液体または2種もしくはそれ以上のイオン液体の混合物であることができる。
【0132】
本発明の抽出溶液は、水溶液または緩衝溶液である。それは、通常、5より大きく11未満、好ましくは6より大きく9未満、より好ましくは6.5と7.5との間のpH値を有する。抽出溶液は、さらに、エタノールのような1種または2種以上の水混和性有機溶媒を最大20%までさらに含み得る。
抽出溶液はまた、例えば界面活性剤のような追加の成分もまた含んでもよい。
【0133】
本発明の緩衝液は、リン酸緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水緩衝液(PBS)、2−アミノ−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオール(TRIS)緩衝液、TRIS緩衝生理食塩水緩衝液(TBS)、TRIS/EDTA(TE)、ACES、MES、PIPES、HEPESおよびトリシンの群から選択される。好ましい緩衝液はPBSおよびトリシンである。
【0134】
さらに、本発明の他の側面は、ウイルスを複合マトリックスから単離するためのキットであって、以下のもの:
・本発明の抽出溶液および
・少なくとも1種のバイオポリマー分解酵素(上記を参照)
を含む、前記キットに関する。
【0135】
本発明の好ましい態様において、少なくとも1種のバイオポリマー分解酵素は、プロテアーゼ、セルラーゼおよびアミラーゼ、好ましくはα−アミラーゼからなる群から選択される。
【0136】
本発明の方法およびキットは、極めて穏やかであり、有効なマトリックス溶解系を提供する。抽出溶液は、標的ウイルスに影響せずに、例えば食物分析において典型的な、ほとんどの複合試料のマトリックスを有効に溶解する。かなり穏やかなマトリックス溶解条件にもかかわらず、極めて小さいウイルスさえも複合試料から単離することができる。
【0137】
公知の単離方法とは対照的に、本発明に係る方法は、試料が固相に結合されまたは追加の抽出試薬で処理する如何なる追加の工程も含まない。特に、本発明に係る方法には、ウイルス粒子および/またはマトリックスが固相に結合される工程を含まない。唯一の除外は、例えば、遠心分離による抽出および単離後にウイルスを固相へ結合する可能性である。
【0138】
それは、本発明の方法が、好ましくは以下の工程のみを有することを意味する:
a)複合試料を提供すること、
b)前記試料を少なくとも二価の塩化物塩および/またはイオン液体を含む抽出溶液でインキュベートすること、
c)好ましくは遠心分離、親和性結合および/または濾過により、工程b)の混合物からウイルスを単離すること、
ここで、工程a)と工程b)との間、工程b)と工程c)との間には、固相への結合、追加の抽出溶液または試薬を用いた処理などの工程が行われない。
【0139】
したがって、本発明の方法およびキットは、ウイルスを複合試料から単離する単純かつ迅速な方法を提供し−高感度の検出方法、例えばリアルタイムPCR、と組み合わせて−食物、臨床的な、および他の複合試料中の病原体の迅速かつ高感度の検出が可能になる。
【0140】
本発明の方法は、典型的には、10%より多い回収率を有する。これは、典型的には試料中に存在するウイルスの10%より多くが、本発明に係る方法により単離することができることを意味する。手順の最適化は、容易に20%以上の回収率につなげられる。本発明に係る方法を行う前に、定められた量のウイルスを試料へ添加することにより、回収率を決定することができる。
【0141】
本発明による方法の一つの重要な利点は、試料マトリックスの量が有意に低減されることにある。複合試料の試料マトリックスには、例えば1種または2種以上の以下の構成要素を含んでもよい:ペプチド、ポリペプチド、タンパク質(酵素をも含む)、炭水化物(複合および単純糖質)、脂質、脂肪酸、脂肪、核酸など。複合試料マトリックスは、しばしば分析方法を妨害するか、試料を分析するための分子生物学的方法の適用を不可能にもする。本発明による方法を用いて、試料マトリックスの少なくとも部分的な溶解が可能であり、試料マトリックスの量の低減がウイルス汚染のさらなる分析を実行する可能性を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0142】
本発明を、以下の図面および例によってさらに例示するが、それには限定されない。
【図1】図1は、本発明の方法を、複合試料、例えば食物試料中のウイルスを(定性的におよび/または定量的に)検出するために用いる場合に行うことができる手順の工程について、1つの例示的なフロースキームを示す。
【0143】
【図2】図2は、本発明の方法において、ZnClを含む抽出溶液を適用する場合に行うことができる手順の工程について、1つの例示的なフロースキームを示す。
【0144】
【図3】図3は、本発明の方法において、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムチオシアネートのようなイオン液体を含む抽出溶液を適用する場合に行うことができる手順の工程について、1つの例示的なフロースキームを示す。
【0145】
本明細書中で引用したすべての出願、特許明細書および刊行物、ならびに2009年8月17日に出願した対応するEP出願EP 09010584.2の開示全体は、本出願中に参照によって組込まれる。
【0146】

例I:チーズ試料からのバクテリオファージMS2の分離
Dreierらに従い、バクテリオファージMS2と病原性ロタウイルスおよびノロウイルスとの物理的および化学的性質の類似性のために、バクテリオファージMS2をノロウイルスおよびロタウイルスのモデル粒子として用いた。病原性ウイルスとは対照的に、MS2は取り扱いが容易であり、特別な安全要求事項は必要なく、ノロウイルスおよびロタウイルスには必要である真核生物の細胞株のための細胞培養において用いられるような特殊な装置は、大腸菌の繁殖では必要とされない。
【0147】
マトリックスの溶解およびウイルス分離
チーズ(ゴーダ)3グラムを、500μL MS2−ファージ溶液(1010 PFU ml−1)を接種する。溶解緩衝液(1M MgCl、50mMトリシン)を25mlの最終容量まで添加する。試料をストマッキングすることでホモジナイズし、37℃で30分間インキュベートし、残りの食物の残骸を分離すべく4000rpmで20分間遠心分離する。MgClを4Mの最終濃度になるように上清750μlに添加する。試料をボルテックスすることにより混合し、1時間14000rpmで遠心分離する。得られたペレットを、RNA単離のために用いる。
【0148】
PureLink(登録商標)Viral RNA/ DNA Mini Kit(Invitrogen)を製造元の指示に従って用いる。溶解を増強するために、プロテイナーゼK工程を一晩行う。シリカに結合したRNAを20μlの水で溶出する。プロセス対照およびリアルタイムPCRの標準として、RNAの15μl MS2−ファージ溶液(1010 PFU ml−1)を単離する。
【0149】
cDNA合成のために、製造元の指示に従って、RNA1μlをクローン化AMV逆転写酵素(Invitrogen)で転写する。10μlの合計容量の代わりに、20μlが生成される。
逆転写(MS2−TM−R)に用いられたプライマーおよびPCRに用いられたプライマーは、MS2のレプリカーゼ遺伝子特異的であり、Dreier et al. 2005に記載されたものである。
【0150】
TaqMan(登録商標)リアルタイムPCRのために、cDNAの1:2希釈5μlを、1×PCR緩衝液(Invitrogen)、4.5mM MgCl、500nMのプライマー(Dreier et al. 2005に記載されたMS2−TM−F、MS2−TM−R)、250nM FAM標識化TaqMan(登録商標)プローブ(Dreier et al. 2005、但しFAM標識化されている)、0.8mM NTP(Thermo Scientific)および0.2μlPlatinum TaqDNAポリメラーゼ(5U/μl)を含む反応混合物20μlに追加する。リアルタイムPCRを、以下のようにMX3000P(Stratagene)サーモサイクラーで行う:94℃で5分間変性、その後94℃で20秒を45サイクル、55℃で30秒、72℃で30秒、そして72℃で2分間の最終伸長工程。試料、対照および陰性対照を、二重で行う。
【0151】
対照として、段階希釈(10−1〜10−3)を用いる。
実験データ分析のため、プロセス対照および試料のCt−値を比較する。試料および対照のCt−値を表1に示す。1対数は約3.5Ct値なので、MS2の回収は1/2対数に相当する。対照および試料の違いは、約25%の回収に相当する。
【表1】

溶解緩衝液(1M MgClおよび50mMトリシン)における溶解工程の間の、適用食物マトリックス(ゴーダチーズ)の当初3グラムからの減少で、遠心分離後に約15〜25μl容量のペレットを生じた。
【0152】
例II:チーズ試料からのバクテリオファージMS2の分離
マトリックスの溶解およびウイルスの単離
6.5グラムのチーズ(ゴーダ)の試料の接種のために、1ml MS2−ファージ(1010 PFU ML−1)を用いる。溶解緩衝液(1×PBS、7.5% 1−エチル−3−メチルイミダゾリウムチオシアネート)を45mlの最終容量まで添加する。試料をストマッキングすることによりホモジナイズし、37℃で30分間インキュベートして、3200rpmで30分間遠心分離した。
4M MgClの0.5mlの量を、上清1mlに添加する。試料を、ボルテックスすることにより混合し、1時間14000rpmで遠心分離する。得られたペレットをRNA単離のために用いる。
【0153】
PureLink(登録商標)Viral RNA/ DNA Mini Kit(Invitrogen)を製造元の指示に従って用いる。溶解を増強するために、プロテイナーゼK工程を一晩行う。シリカに結合したRNAを20μlの水で溶出する。プロセス対照およびリアルタイムPCRの標準として、RNAの22.2μl MS2−ファージ溶液(1010 PFU ml−1)を単離する。
cDNA合成のために、製造元の指示に従って、RNA1μlをクローン化AMV逆転写酵素(Invitrogen)で転写する。逆転写(MS2−TM−R)に用いられたプライマーおよびPCRに用いられたプライマーは、MS2のレプリカーゼ遺伝子特異的であり、Dreier et al. 2005に記載されたものである。
【0154】
cDNA5μlを、1×PCR緩衝液(Invitrogen)、4.5mM MgCl、500nMのプライマー(Dreier et al. 2005に記載されたMS2−TM−F、MS2−TM−R)、250nM FAM標識化TaqMan(登録商標)プローブ(Dreier et al. 2005、但しFAM標識化されている)、0.8mM NTP(Thermo Scientific)および0.2μlPlatinum TaqDNAポリメラーゼ(5U/μl)を含む反応混合物20μlに追加する。リアルタイムPCRを、以下のようにMX3000P(Stratagene)サーモサイクラーで行う:94℃で5分間変性、その後94℃で20秒を45サイクル、55℃で30秒、72℃で30秒、そして72℃で2分間の最終伸長工程。試料、対照および陰性対照を二重に用いる。
【0155】
実験データ分析のため、プロセス対照および試料のCt−値を比較する。試料および対照のCt−値を表2に示す。1対数は約3.5Ct値なので、対照および試料の違いは、約17%の回収に相当する。
【表2】

溶解緩衝液(1×PBS、7.5%1−エチル−3−メチルイミダゾリウムチオシアネート)における溶解工程の間の、適用食物マトリックス(ゴーダチーズ)の当初3グラムからの減少で、遠心分離後に約50〜100μl容量のペレットを生じた。
【0156】
例III:卵試料からのバクテリオファージMS2の分離
溶解緩衝液(1M MgClおよび50mMトリシン)および卵試料6.5グラムの最終的なボリューム45mlをストマッキングにより混合する。混合物500μLを600μlのMS2−ファージ溶液(1010 PFU ML−1)とともに接種し、37℃で30分間インキュベートし、3200rpmで30分間遠心分離する。その後、ZnCl(2M最終濃度)を上清に添加し、30℃で15分間インキュベートする。試料を、14000rpmで45分間遠心分離し、得られたペレットをRNA単離のために用いる。
【0157】
PureLink(登録商標)Viral RNA/ DNA Mini Kit(Invitrogen)を、ペレットのRNAの単離およびプロセス対照のために、製造元の指示に従って用いる。シリカに結合したRNAを20μlの水で溶出する。cDNA合成のために、製造元の指示に従って、RNA1μlをクローン化AMV逆転写酵素(Invitrogen)で転写するが、20μlのcDNAの代わりに、8μlの合計量が生成された。逆転写(MS2−TM−R)に用いられたプライマーおよびPCRに用いられたプライマーは、MS2のレプリカーゼ遺伝子特異的であり、Dreier et al. 2005に記載されたものである。
【0158】
TaqMan(登録商標)リアルタイムPCRのために、cDNA 5μlを、1×PCR緩衝液(Invitrogen)、4.5mM MgCl、500nMのプライマー(Dreier et al. 2005に記載されたMS2−TM−F、MS2−TM−R)、250nM FAM標識化TaqMan(登録商標)プローブ(Dreier et al. 2005、但しFAM標識化されている)、0.8mM NTP(Thermo Scientific)および0.2μlPlatinum TaqDNAポリメラーゼ(5U/μl)を含む反応混合物20μlに追加する。
【0159】
リアルタイムPCRを、以下のようにMX3000P(Stratagene)サーモサイクラーで行う:94℃で5分間変性、その後94℃で20秒を45サイクル、55℃で30秒、72℃で30秒、そして72℃で2分間の最終伸長工程。試料、対照および陰性対照を二重で用いる。
【0160】
実験データ分析のため、プロセス対照および試料のリアルタイムPCR後に得られた複製数を比較する。試料において1.94E+08複製数が見られ、プロセス対照において7.37E+08複製数が見られた。したがって、プロセス対照と比較した試料の回収率は26.3%である。
溶解緩衝液(1M MgClおよび50mMトリシン)における溶解工程の間の、適用食物マトリックス(卵)の当初6.5グラムからの減少で、遠心分離後に約15〜25μl容量のペレットを生じた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウイルスを複合試料から単離する方法であって、以下の工程:
a)複合試料を提供すること、
b)前記試料を、少なくとも二価の塩化物塩および/またはイオン液体を含む抽出溶液と共にインキュベートすること、
c)前記ウイルスを工程b)の混合物から単離すること
を含む、前記方法。
【請求項2】
複合試料が、食物または臨床試料であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
抽出溶液が、MgClを0.5〜6Mの濃度で含むことを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
工程c)において、ウイルスが混合物から遠心分離および/または沈殿によって単離されることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
工程b)の前に、試料に規定量の対照ウイルスを添加することを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
試料を、少なくとも1種のバイオポリマー分解酵素とともにさらにインキュベートすることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
さらなる工程d)において、細胞計数によって、PCR法によって、レクチンを用いることによって、あるいはウイルスに選択的に結合する抗体またはタンパク質または前記ウイルス粒子の表面構造に向けられたアプタマーを用いる方法によって、ウイルスを分析することを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
工程c)において、ウイルスおよび細胞壁に囲まれている細胞を、並行したまたは後続する単離工程により単離することを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
工程c)において、少なくとも2つの後続する遠心分離工程を行うことを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
工程c)で単離されるウイルスが、10〜100nmの直径を有することを特徴とする、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公表番号】特表2013−502206(P2013−502206A)
【公表日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−525057(P2012−525057)
【出願日】平成22年7月16日(2010.7.16)
【国際出願番号】PCT/EP2010/004334
【国際公開番号】WO2011/020530
【国際公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【出願人】(591032596)メルク パテント ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (1,043)
【氏名又は名称原語表記】Merck Patent Gesellschaft mit beschraenkter Haftung
【住所又は居所原語表記】Frankfurter Str. 250,D−64293 Darmstadt,Federal Republic of Germany
【Fターム(参考)】