説明

ウイルスを用いる細胞の浄化

【課題】正常造血細胞および新生物細胞のエキソビボ混合物において、新生物細胞を減少または除去する方法を提供すること。
【解決手段】上記方法は、ウイルスと該混合物を接触させることによる。一局面において、上記ウイルスはRNAウイルスである。一局面において、上記新生物細胞は白血病細胞である。一局面において、上記造血細胞は骨髄細胞である。一局面において、上記造血細胞は末梢血細胞である。一局面において、上記RNAウイルスは一本鎖RNAウイルスである。一局面において、上記一本鎖RNAウイルスはセグメントにされていないネガティブセンスRNAウイルスである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、細胞の混合において、望ましくない細胞を浄化(減少および排除)する能力のあるウイルスに関する。望ましくない細胞としては、新生物細胞、対宿主性移植片病を媒介する細胞、および自己免疫性細胞が挙げられ得る。本発明はまた、癌患者、移植レシピエント、および自己免疫疾患を有する患者を含む哺乳動物の処置における骨髄細胞または末梢血細胞の採取物から望ましくない細胞を浄化することに関する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
エキソビボ浄化技術は、白血病または他の悪性腫瘍を有する患者に対する自系の骨髄移植または幹細胞移植の成功を制限することが示されている。骨髄または末梢血液前駆細胞(PBPC)を浄化することの1つの目的は、正常な幹細胞および造血前駆細胞への影響がほとんどなく、新生物細胞を除去することである。浄化した髄質の移植は、高用量の化学療法または放射線のような骨髄機能を廃絶する処置後に起こる(例えば、非特許文献1非特許文献2非特許文献3を参照のこと)。髄質を用いた任意の新生物細胞の移植は、患者に悪性腫瘍の再発のリスクを負わせる(例えば、Rummel SAおよびVan Zant G,1994,J.Hematother.3:213−218;Kvalheim Gら,1996,J Hematother.,5:427−436を参照のこと)。新生物細胞を選択的に殺傷させるために現在の研究で行われている方法は、化学療法剤の使用を含む(4−ヒドロペルオキシシクロフォスファミドのような;例えば、Bird J.M.,1996,Bone Marrow Transplant,18:309−313を参照のこと),モノクローナル抗体(例えば、Hammert,L.C.およびBall E.D.,1997,Blood Rev.,11:80−90を参照のこと)、光線力学療法(例えば、Villeneuve L.,1999,Biotechnol Appl.Biochem.30:1−17を参照のこと)、およびアデノウイルスのようなウイルスベクター(例えば、Hirai M,ら,1999,Acta Haematol.,101:97−105;Marini F.C.ら,1999,Clin.Cancer Res,5:1557−1568を参照のこと)。しかし、最近の実験は、治療的浄化後に、生存癌細胞が骨髄またはPBPCに残っており、悪性腫瘍の再発を導くことを証明した。現在の方法におけるエキソビボ浄化での別の主要な制限は、正常幹細胞および/または初期造血前駆細胞に対する損傷に起因して、遅延される移植である(Rummel SAおよびVan Zant G,1994,J.Hematother.3:213−218;Damonら,1996,Bone Marrow Transplant,17:93−99を参照のこと)。活発に増殖している前駆細胞は、したがって4−ヒドロペルオキシシクロフォスファミドを含む大部分の化学療法剤による殺傷に対して非常に感受性が高い。初期前駆細胞の結果として起こる損失は、長期化した好中球減少および/または血小板減少を引き起こし、患者に、命にかかわる感染および/または出血の高いリスクを負わせる。正常造血細胞を残しておく腫瘍の細胞傷害性薬剤または細胞溶解性薬剤は、癌治療における重要な進歩である。
【0003】
新生物細胞に加えて、骨髄または末梢血液前駆細胞の採集物は、例えば、関節炎または多発性硬化症を有する人々において、自己免疫性細胞のような他の望ましくない細胞を含み得る。他の望ましくない細胞は、同種移植において対宿主性移植片病を媒介する細胞(例えば、特定のTリンパ細胞)を含む。このような望ましくない細胞の減少または除去は、癌および自己免疫疾患の処置において重要である。
【0004】
RobertらによるPCT出願(特許文献1およびPCT US98/21230)は、ウイルスを用いる新生物の処置に関する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第99/18799号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Stuart R.K.、Semin.Oncol.(1993)20(5Suppl6:)40〜54
【非特許文献2】Hammert L.C.およびBall,E.C.、Curr Opin Hematol(1997)4:423〜428
【非特許文献3】Schneidkraut M.J.ら、J Hematother(1996)5:631〜646
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
(発明の目的)
本発明の目的は、望ましい細胞および望ましくない細胞の混合物において、望ましくない細胞の減少または除去のためのウイルスを提供することである。
【0008】
本発明のさらなる目的は、正常細胞および新生物細胞の混合物において、新生望細胞の減少または除去のためのウイルスを提供することである。
【0009】
本発明のさらなる目的は、エキソビボにおいて、骨髄または末梢血液前駆細胞のような正常造血細胞から新生物細胞を浄化するウイルスを提供することである。
【0010】
本発明のさらなる目的は、エキソビボにおいて、骨髄または末梢血液前駆細胞のような正常細胞から自己免疫性細胞を浄化するウイルスを提供することである。
【0011】
本発明のさらなる目的は、エキソビボにおいて、骨髄または末梢血液前駆細胞のような正常造血細胞から、対宿主性移植片病を媒介する細胞を浄化するウイルスを提供することである。
【0012】
本発明のさらなる目的は、望ましい造血細胞および望ましくない細胞の混合物とウイルスとを接触させ、そして哺乳動物にこのような細胞を移植することによって、哺乳動物における疾患を処置する方法を提供することである。
【0013】
本発明のさらなる目的は、採集した細胞とウイルスとを接触させ、そして骨髄機能を廃絶する処置後に、哺乳動物にこのような浄化した造血細胞を移植することによって、哺乳動物における癌を処置する方法を提供することである。
【0014】
本発明のさらなる目的は、採集した細胞とウイルスとを接触させ、そして骨髄機能を廃絶する処置後に、哺乳動物にこのような浄化した造血細胞を移植することによって、哺乳動物における対宿主性移植片病を防ぐ方法を提供することである。
【0015】
本発明のさらなる目的は、採集した細胞とウイルスとを接触させ、そして骨髄機能を廃絶する処置後に、哺乳動物にこのような浄化した造血細胞を移植することによって、哺乳動物における自己免疫疾患を処置する方法を提供することである。
【0016】
本発明のさらなる目的は、ウイルスを用いる移植の処置を含む骨髄または末梢血液の幹細胞移植を受ける哺乳動物において、癌を治療する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
(発明の要旨)
本発明は、望ましい細胞と望ましくない細胞の混合物において、この細胞の混合物とウイルスとを接触させることによって、望ましくない細胞を減少または除去する方法に関する。
【0018】
本発明はまた、望ましい細胞と望ましくない細胞の混合物において、この細胞の混合物とRNAウイルスとを接触させることによって、望ましくない細胞を減少または除去する方法に関する。
【0019】
本発明はまた、この混合物とRNAウイルスのようなウイルスとを接触させることによって、エキソビボで正常造血細胞および新生物細胞の混合物から新生物細胞を減少または除去する方法に関する。
【0020】
本発明はまた、採集細胞とRNAウイルスのようなウイルスとを接触させることによって、エキソビボで骨髄または末梢血液幹細胞採集物から新生物細胞を浄化する方法に関する。
【0021】
本発明はまた、採集細胞とRNAウイルスのようなウイルスとを接触させることによって、エキソビボで骨髄または末梢血液幹細胞の採集物から自己免疫性細胞を浄化する方法に関する。
【0022】
本発明はまた、骨髄または末梢血液幹細胞の集団とRNAウイルスのようなウイルスとを接触させることによって、エキソビボでこの細胞集団から対宿主性移植片病を媒介する細胞を浄化する方法に関する。
【0023】
本発明はまた、哺乳動物において癌のような疾患を処置または予防する方法に関し、この方法は以下の工程:a)上記哺乳動物から骨髄または末梢血細胞を取り出す工程、b)上記骨髄または末梢血細胞とRNAウイルスのようなウイルスとを、エキソビボで接触させる工程、c)上記哺乳動物細胞で骨髄機能を廃絶する処置を実行する肯定、d)工程bの浄化した造血細胞を上記哺乳動物に移植する工程、を包含する。
【0024】
本発明はまた、骨髄または末梢血液前駆細胞の移植を受けた哺乳動物における癌を処置する方法に関し、これは移植の採集細胞とRNAウイルスのようなウイルスとを接触させる工程、および上記哺乳動物に浄化した細胞を投与する工程を包含する。
【0025】
本発明はまた、骨髄または末梢血液前駆細胞の移植を受けた哺乳動物における自己免疫疾患を処置する方法に関し、これは移植の採集細胞とRNAウイルスのようなウイルスとを接触させる工程、および上記哺乳動物に浄化した細胞を投与する工程を包含する。
【0026】
本発明はまた、骨髄または末梢血液前駆細胞の移植を受けた哺乳動物における対宿主性移植片病を予防する方法に関し、これは移植の採集細胞とRNAウイルスのようなウイルスとを接触させる工程、および上記哺乳動物に浄化した細胞を投与する工程を包含する。
例えば、本発明は、以下の項目を提供する:
(項目1)
正常造血細胞および新生物細胞のエキソビボ混合物において、ウイルスと該混合物を接触させることによって、新生物細胞を減少または除去する方法。
(項目2)
上記ウイルスがRNAウイルスである、項目1に記載の方法。
(項目3)
上記新生物細胞が白血病細胞である、項目1に記載の方法。
(項目4)
上記造血細胞が骨髄細胞である、項目1に記載の方法。
(項目5)
上記造血細胞が末梢血細胞である、項目1に記載の方法。
(項目6)
上記RNAウイルスが一本鎖RNAウイルスである、項目2に記載の方法。
(項目7)
上記一本鎖RNAウイルスがセグメントにされていないネガティブセンスRNAウイルスである、項目6に記載の方法。
(項目8)
上記セグメントにされていないネガティブセンスRNAウイルスが、ラブドウイルスである、項目7に記載の方法。
(項目9)
上記ラブドウイルスが水疱性口内炎ウイルスである、項目8に記載の方法。
(項目10)
上記セグメントにされていないネガティブセンスRNAウイルスが、パラミクソウイルスである、項目7に記載の方法。
(項目11)
上記パラミクソウイルスがニューカッスル病ウイルスである、項目10に記載の方法。
(項目12)
上記一本鎖RNAウイルスがシンドビスウイルスである、項目6に記載の方法。
(項目13)
上記RNAウイルスが二本鎖RNAウイルスである、項目2に記載の方法。
(項目14)
上記二本鎖RNAウイルスがレオウイルスである、項目13に記載の方法。
(項目15)
上記レオウイルスが3型レオウイルスである、項目14に記載の方法。
(項目16)
上記レオウイルスがクローンである、項目13に記載の方法。
(項目17)
上記RNAウイルスが複製コンピテントRNAウイルスである、項目2に記載の方法。
(項目18)
上記RNAウイルスが複製インコンピテントRNAウイルスである、項目2に記載の方法。
(項目19)
上記新生物細胞がリンパ腫細胞である、項目1に記載の方法。
(項目20)
上記ウイルスとの接触の前、その間またはその後に、化学療法剤を投与することをさらに含む、項目1に記載の方法。
(項目21)
上記ウイルスとの接触の前、その間またはその後に、インターフェロンを投与することをさらに含む、項目1に記載の方法。
(項目22)
哺乳動物における癌を処置する方法であって、以下の工程:
a)該哺乳動物から骨髄細胞または末梢血細胞を取り出す工程、
b)エキソビボでRNAウイルスと該骨髄細胞または該末梢血細胞とを接触させる工程
c)該哺乳動物において骨髄機能を廃絶する処置を実施する工程、および
d)工程bの浄化した造血細胞を該哺乳動物に移植する工程、
を包含する、方法。
(項目23)
上記骨髄機能を廃絶する処置が高用量の化学治療である、項目22に記載の方法。
(項目24)
骨髄移植または末梢血幹細胞移植を受ける哺乳動物の癌を処置する方法であって、以下の工程:エキソビボで移植細胞の採集した細胞とウイルスとを接触させる工程、および該哺乳動物に浄化した細胞を投与する工程、を包含する、方法。
【発明を実施するための形態】
【0027】
(発明の詳細な説明)
本発明は、望ましい細胞または望ましくない細胞の混合物から、新生物細胞のような望ましくない細胞の減少または除去のためのウイルスの発見およびウイルスの使用に関する。本発明は、ウイルスおよびウイルスを用いて正常細胞から望ましくない細胞を浄化(減少または除去)する方法を提供する。本発明のウイルスによって除去される造血細胞移植における望ましくない細胞としては、新生物細胞、自己免疫細胞(慢性関節リウマチまたは多発性硬化症の場合におけるような)、および対宿主性移植片病を媒介する細胞が挙げられる。哺乳動物の処置は、a)上記哺乳動物から骨髄または末梢血細胞を取り出す工程、b)エキソビボで上記骨髄または末梢血細胞とウイルスとを接触させる工程、c)上記哺乳動物において、骨髄機能を廃絶する処置を実行する肯定、d)工程bの浄化した造血細胞を上記哺乳動物に移植する工程からなる。
【0028】
(本発明の方法)
(新生物細胞の浄化)
ウイルスと正常細胞および新生物細胞の混合物とのインキュベーションは、結果として、正常細胞ではなく新生物細胞の選択的な殺傷を生じる。造血細胞から新生物細胞を浄化する効果的手段は、自系の骨髄または末梢血液幹細胞の移植を伴った哺乳動物における癌の処置に使用され得る。例えば、新生物を有する哺乳動物由来の骨髄または末梢血液幹細胞は、新生物の再発を防ぐために、移植の前にウイルスと接触される。本発明の方法によって浄化され得る新生物細胞としては、(1)白血病、(2)リンパ腫、(3)乳癌、肺癌、結腸癌、前立腺癌、および膵臓癌のような癌腫、(4)肉腫、ならびに(5)黒色腫および神経芽細胞腫のような神経上皮起源の癌が挙げられるが、これらに制限されない。
【0029】
RNAウイルス(例えば、水疱性口内炎ウイルス(VSV)、ニューカッスル病ウイルス(NDV)、およびレオウイルスが挙げられるが、これらに制限されない)のような多種多様のウイルスは、正常造血細胞から新生物細胞を浄化するために使用され得る。正常造血細胞は、RNAウイルスを含む多くのウイルスによる感染に対して耐性である。1つの例として、正常ヒト骨髄細胞はVSV、ラブドウイルスによる感染に対して、感染性ウイルス産生および生存能力両方によって決定されるように耐性である。2人のドナー由来の正常骨髄細胞は、たとえ高い感染多重度で感染した場合でも、感染性ウイルスを産生しなかった(例えば、10プラーク形成単位(pfu)/細胞;実施例1を参照のこと)。感染骨髄培養物は、メチルセルロースのインビトロでの培養後に、造血細胞型の正常範囲を形成する能力において、モック感染培養物から識別できなかった。別の例として、CD34+の豊富な正常ヒト骨髄は、NDV(別のファミリー(パラミクソウイルス)由来のウイルス)による感染に対して耐性であった;Robertら、WO/9918799参照のこと。
【0030】
新生物細胞の多くの型は、RNAウイルスを含む多くのウイルスによる細胞殺傷に対して感受性がより高い。VSVを用いた例として、急性骨髄性白血病細胞株OCI/AML3、OCI/AML4およびOCI/AML5は、VSV感染に対してより高感受性であり、0.05pfu/細胞で24時間で細胞の50%殺傷し、そしてわずか0.0003pfu/細胞で48時間で50%殺傷した(実施例1)。この実験で使用のVSV Indiana血清型は、マウスL929細胞で増殖させ、そして採集した。別の例として、卵巣腫瘍、線維肉腫、肺癌、黒色腫、前立腺癌、および白血病細胞を含む種々の腫瘍細胞型は、VSVに対して感受生であることを示した(実施例3を参照のこと)。NDVはまた、多くのヒト新性細胞を殺傷する(例えば、Robertら、WO/9918799を参照のこと)。レオウイルス3型は、正常な線維芽細胞ではなく、新生物線維芽細胞を殺傷した(実施例4)。
【0031】
正常造血細胞との同時培養物からの新生物細胞の選択的除去は、種々のウイルスと用いて達成され得る。例えば、正常骨髄細胞との白血病OCI/AML3細胞の同時培養物(1:9比率および1:3比率)において、VSVは正常造血細胞への影響をほとんど有さないで、白血病細胞の全てを殺傷する(実施例2)。この実験で使用したVSV Indiana血清型は、マウスL229細胞で増殖させ、そして採集した。これらのデータは、正常骨髄の混合集団における白血病細胞の選択的破壊および骨髄浄化におけるVSVのようなウイルスの有用性を示す。正常細胞の混合培養物における新生物細胞の選択的除去における別の実施例は、NDVを用いて示された。NDV系PPMK107、3つのプラーク精製した中間毒力のNDV系MK107の単離物は、正常線維芽との混合培養物におけるヒト経口癌を選択的に殺傷した(Robertsら、WO/9918799参照のこと)。
【0032】
(対宿主性移植片病を媒介する細胞の浄化)
望ましくない細胞(対宿主性移植片病を引き起こすT細胞のような)および望ましい細胞の混合物とウイルスとのインキュベートは、望ましくない細胞の選択的殺傷を生じる。このような骨髄または末梢血細胞を浄化する効果的な手段は、哺乳動物における対宿主性移植片病の保護において使用され得る。
【0033】
(自己免疫疾患を媒介する細胞の浄化)
自己免疫性細胞(自己免疫疾患を引き起こす)および望ましい細胞の混合物とウイルスとのインキュベートは、自己免疫性細胞の選択的殺傷を生じる。このような望ましくない細胞を浄化する効果的な手段は、慢性関節リウマチおよび多発性硬化症のような自己免疫疾患の処置において使用され得る。
【0034】
(望ましくない細胞のスクリーニング)
本発明の望ましくない細胞は、染色体欠損または遺伝子の再配列を伴う新生物細胞、細胞インターフェロン応答のコードタンパク質またはモジュレーターあるいは他のインターフェロン応答に欠損のあるハーバーが挙げられる(Colamonici ORら、1992,Blood,80:744−749;Heyman Mら、1994,Leukemia,8:425−434;Billard Cら、1986,Blood,67:821−826)。骨髄またはPBPC集団の浮遊の性質は、細胞のインターフェロン応答状態の決定における、蛍光活性化細胞ソーティング(FACS)分析の使用を容易にする。インターフェロン応答用のプローブとしては、遺伝子欠失または再配置のための染色体ハイブリダイゼーション、ならびに細胞レセプターおよびシグナル伝達経路(インターフェロンへの細胞応答に関与する)の構成要素の分析のための抗体といったプローブが挙げられる。
【0035】
(本発明の化合物)
本発明のウイルスは、正常造血細胞のような望ましい細胞から、新生物細胞のような望ましくない細胞を識別することを可能にする。本発明のRNAウイルスとしては、(1)ネガティブセンスRNAウイルスおよびポジティブセンスRNAウイルスを含む一本鎖ウイルス、および(2)二本鎖RNAウイルスが挙げられるが、これらに制限されない。本発明の一本鎖、ネガティブセンスRNAウイルスとしては、ラブドウイルスのようなセグメントにされていないウイルスファミリー(例えば、水疱性口内炎ウイルス(VSV))ならびにパラミクソウイルス(例えば、ニューカッスル病ウイルス(NDV)およびヒトパラインフルエンザウイルス3型)が挙げられるが、これらに制限されない。本発明の一本鎖、ポジティブセンスRNAウイルスとしては、ピコルナウイルス(例えば、ライノウイルス)、およびトガウイルス(例えば、シンドビスウイルス)が挙げられるが、これらに制限されない。本発明の二本鎖RNAウイルスファミリーは、レオウイルスを含む。複製コンピテントおよび複製インコンピテントのRNAウイルスが本発明に含まれる。
【0036】
Robertsら、WO/9918799(その全体が参考として本明細書中の援用される)に記載される「インターフェロン感受性ウイルス」が、本発明に含まれる。これらのウイルスは選択的に複製し、そしてIFN媒介抗ウイルス応答のこれらの細胞における選択的欠損に基づいて新生物細胞を殺傷する。RNAウイルスに加えて、「インターフェロン感受性ウイルス」に、DNAウイルスであるアデノウイルスのVA1−変異体が含まれる。
【0037】
ラブドウイルスファミリーは、密接に関連したエンベロープ、セグメントにされていないネガティブセンスのRNAウイルスからなり、そして動物に感染する次の属:(1)ベシクロウイルス属(例えば、水疱性口内炎ウイルス、VSV);(2)リッサウイルス属(例えば、狂犬病ウイルス);および(3)Ephemerovirus属(Dietzschold Bら、1996.ラブドウイルス:Fields Virology,第3版、(編、Fields B.N.ら)、pp1137−1159)が挙げられる。本発明による特に好都合な実施形態において、ラブドウイルスは水疱性口内炎ウイルス(VSV)である。いくつかの血清学的に異なるVSV株は、多数の特徴付けられた変異にそって同定されている。VSVの天然の宿主としては、昆虫、げっ歯類、家畜動物が挙げられる。一般に、北アメリカの人々は、実験室の人員および農場主に起こるヒト感染の多くを伴うウイルスと接触することはほとんどない。ヒトにおいて、感染は無症候または顕在性のインフルエンザ様症状のいずれかである。VSV株としては、Indiana、ニュージャージー、Prity、CoccalおよびChandipuraが挙げられるが、これらに制限されない。本明細書中に開示の実施例は、VSV Indianaに関連するが、当業者が本明細書中にまとめられた方法にしたがって、他のVSV株およびVSV誘導体(新生物細胞を選択的に殺傷するVSVの変異体を含む)を容易にスクリーニングし得ることは、理解される。
【0038】
セグメントにされていないネガティブセンスRNAウイルスのパラミクソウイルスファミリーは、3つの属を含む:(1)ニューカッスル病ウイルス(NDV)を含むパラミクソウイルス;(2)麻疹様ウイルス(麻疹ウイルス);および(3)respiratory syncytialウイルス(pneuvirus)。NDVは、本発明によって好都合なウイルスである。NDVは、ニワトリおよびニワトリ胚への影響によって、3つの異なるクラスに分類される。「低毒性」株は、レントゲニック(lentogenic)として参照され、最少の致死用量(MLD)でニワトリ胚を殺傷するために90〜150時間かかり;「中毒性」株は、中間毒力として参照され、MLDでニワトリ胚を殺傷するために60〜90時間かかり;「高毒性」株は、速現性として参照され、MLDでニワトリ胚を殺傷するために40〜60時間かかる。例えば、HansonおよびBradley,1995(Science,122:156−157)、およびDiardiriら、1961(Am J Vet Res 9:918−920)を参照のこと。3つのクラスは全てが有用であり、有利には、MK107といったNDVの中間毒力株が挙げられる。
【0039】
本発明により特に好都合な実施形態において、二本鎖RNAウイルスはレオウイルスである。本発明によるさらに好都合な実施形態において、レオウイルスはレオウイルス3型である。
【0040】
本発明の別の好都合な実施形態において、subtilism関連プロテアーゼの発現の欠損した新生物において複製する能力があるRNAウイルスが用いられる。ヒトパラインフルエンザウイルス3型は、この型のウイルスである。
【0041】
特定の目的のために、特定のウイルス系の遺伝子均一性を確実にするか、または増強するために、そして欠損性の干渉粒子を除去するために、クローンウイルスを得ることが望ましい。欠損性の干渉粒子の除去は、1つの感染性粒子あたり総計のウイルス粒子の数によって評価されるように、最終産物における純度を増加させる。クローンウイルスは、プラーク精製またはRobertsらWO/9918799に記載される他の手段によって生成され得る。
【0042】
本発明の別の実施形態において、例えば、一般的にウイルスは、新生物細胞に対する選択性が増加するように改変される。ウイルスの遺伝的特性を変化させ得る、VSVのようなラブドウイルスの遺伝子操作の方法は、十分に確立されている(Roberts A.,およびJ.K.Rose,Virology,1998,247:1−6)。
【0043】
さらに、当業者に周知の標準的な技術は、VSVを遺伝的に改変するため、そして組換えVSVを産生するためのVSVゲノム内に所望の遺伝子を導入するために使用され得る(例えば、Sambrookら、1989,A Laboratory Manual,New York,Cold Spring Harbor Press)。本発明の1つの実施形態において、VSVのGタンパク質は、腫瘍細胞の特定の部位を標的にする融合物を産生するために改変され得る。本発明の別の実施形態において、VSVは一般的に、プロドラッグを毒性代謝産物に代謝する能力のある1つ以上の自殺遺伝子を発現するように改変され、それゆえ、VSV感染腫瘍細胞がプロドラッグの投与によって殺傷され得る。ヘルペスウイルスチミジンキナーゼまたはシトシンデアミナーゼ遺伝子を発現させるために操作されたVSVは、ガンシクロビルまたは5−Fcのそれぞれを毒性化合物に転換するために用いられ得る。しかし、他の自殺遺伝子がまた用いられ得ることは理解される。
【0044】
(処方物および投与)
本発明の好都合な実施形態は、エキソビボで、望ましい細胞および望ましくない細胞の混合物から望ましくない細胞の浄化をする用途のキットに関する。このキットは、前もって測定された処方ウイルス量、または望ましい細胞および望ましくない細胞の特定数を含む混合物を処置するために適切なウイルスを含む。好都合な処方物としては、感染性の欠損に対してウイルスを安定化する賦形剤、または望ましい細胞の生存能力または生存を高める賦形剤が挙げられる。より好都合なキットは、ウイルス処方物と細胞の標的混合物との接触を、生物学的封じ込め装置の必要なしに無菌工程で行うことを可能にする。このような装置の例は、細胞の標的混合物用の、別個の区切りに前もって測定されたウイルスを含む区分化された採集容器である。この区切りの間に開いた経路を創作することは、ウイルス、標的細胞集団と1つ以上の賦形剤との間を接触させる。別個である場合、ウイルスと賦形剤との接触は、同時または連続的に起こり得る。本発明のさらに好都合な実施形態は、ウイルスまたはウイルス間と望ましい細胞および望ましくない細胞の標的混合物との接触時間の間に、ウイルス細胞相互作用にとって最適な温度を維持する区分化された容器型である。本発明の別の好都合な実施形態は、適切な時間の後に、ウイルス、賦形剤、またはその両方から、接触した細胞の混合物を分離するためのキットに関する。適切な接触時間は当業者に公知であるか、または決定される。
【0045】
本発明のウイルスのために適切な処方物は、新生物の処置に使用される列挙されたウイルスを含む(Robertsら、1999,PCT WO9918799)。さらに、好都合な処方物は化合物または生物学的製剤を含み、これらは、望ましい細胞および望ましくない細胞の混合物において、望ましい細胞に関する1つ以上の以下の活性を有する:分化、増殖、保存、刺激、保護、および無活動の誘導。例えば、これらの型の化合物および生物学的製剤としては、サイトカイン、細胞周期のペプチドレギュレーター、インターロイキン、増殖因子、エネルギー供給源、ビタミンおよび電解質が挙げられる。さらなる所望の賦形剤としては、凍結防止化合物が挙げられる。
【0046】
本発明のウイルス有効量は、望ましい細胞を維持して望ましくない細胞の減少または除去のために使用される。望ましくない細胞の減少または除去のために使用されるウイルスの量が、ウイルスの選択、望ましくない細胞の型および量、ならびに維持される望ましい細胞の型および量に依存して変化することは、当業者によって理解される。例えば、VSVは、1細胞あたり0.00001〜10プラーク形成単位(pfu)、より好都合には1細胞あたり0.0003〜10pfuで使用され得る。
【0047】
本発明の別の好都合な実施形態において、このウイルスは、インターフェロンとの接触前、接触中または接触後に、処置される新生物細胞および正常細胞の混合物と接触するために使用される。インターフェロンは正常細胞の保護の増強を可能にする(実施例3およびRobertsら、WO/9918799を参照のこと)。インターフェロン(IFN)は、クラスI(α、βおよびΩ)およびクラスII(γ)、ならびに組換え改変体およびそのアナログの群から選択される(例えば、Sreevalsoun,T.,1995(Biologic Therapy of Cancer,第2版、V.T.DeVita,Jr.ら編、J.B.Lippincott Company,Philadelphia,pp347−364において議論される)。
【0048】
本発明の別の好都合な実施形態において、このウイルスは、インターフェロンとの接触前、接触中または接触後に、化学療法剤を用いる処置される新生物細胞および正常細胞の混合物と接触するために使用される。この化学療法剤はさらに新生物細胞の生存能力を減少させるために使用される。
【0049】
以下の実施例は例示であるが、本発明の方法および組成物を制限するものではない。種々の状態およびパラメーターの他の適切な改変および適合は、臨床治療において通常直面し、これは本発明の精神と範囲内であることは、当業者に明らかである。
【実施例】
【0050】
(実施例1:別個の細胞培養物での決定と同様な、水疱性口内炎ウイルスによる白血病細胞および非正常骨髄細胞の選択的殺傷)
VSV Indiana血清型を、マウスL929細胞でプラーク精製した。個々のプラークを、単層のL929細胞を感染させるために使用し、18時間後に上清を採集し、6,000×gで10分間の遠心分離に供した。次いで、清澄化した上清を0.2マイクロフィルター(Millipore)によって濾過し、次いでL細胞上で力価測定し、アリコートにして−80℃で貯蔵した。ウイルスの個々のアリコートは、一度しか使用しなかった。二人の別個の健康なドナー由来の正常骨髄培養物は、水疱性口内炎ウイルス(VSV)のこのIndiana血清型による感染に耐性であった。10pfu/細胞の感染多重度で感染させた場合でさえ、正常骨髄細胞は感染性VSV粒子を産生しなかった。さらに、この感染した骨髄培養物は、メチルセルロースでのインビトロ培養をうけて、造血細胞型の正常範囲を形成するそれらの能力において、モック感染培養物から識別できなかった。対照的にAML細胞株OCI/AML3、OCI/AML4およびOCI/AML5は、VSV感染に高感受性であり、0.05pfu/細胞で24時間で細胞の50%を殺傷し、そしてわずか0.0003pfu/細胞で48時間で50%を殺傷した。
【0051】
(実施例2:正常骨髄細胞を含む混合培養物における水疱性口内炎ウイルスによる白血病細胞の選択的殺傷)
この実施例において使用したVSV Indiana血清型を、実施例1に示したように調製した。白血病OCI/AML3細胞と正常骨髄細胞とを混合した同時培養(1:9比率)において、VSVは選択的に腫瘍崩壊性の特性を有した。この実施例において(表1)、同時培養物をVSVに、1プラーク形成単位(pfu)/細胞または24時間で5pfu/細胞の感染多重度で感染させ、次いで、増殖因子を伴うか、または伴わないメチルセルロースにプレートした。増殖因子存在下において、正常骨髄および腫瘍細胞の両方ともが増殖し、一方増殖因子の非存在下ではOCI/AML3細胞のみがコロニーを形成した。コロニーのカウントを14日後に実施し(表1)、そして増殖因子非依存性白血病細胞の完全な消失を証明し、正常骨髄前駆体の保存を証明した。OCI/AML3細胞および正常骨髄細胞の1:3の混合で使用した場合に、同一性の結果を観察した。このデータは、混合した正常骨髄の集団における白血病細胞の選択的破壊およびエキソビボでの骨髄浄化におけるVSVの有用性を示す。
【0052】
表1.正常骨髄細胞と同時培養した急性骨髄性白血病(AML)細胞の選択的殺傷 VSV感染の二週間後に観察された1皿あたりのコロニー(10細胞を受容)を、新生物細胞(白血病)ならびに正常造血細胞(好中球、混合、および単球)について下に表にした。
【0053】
【表1】



【0054】
_1皿あたり10細胞をプレートした場合でさえ、増殖因子マイナスの皿において白血病コロニーを検出しなかった。
【0055】
(実施例3:VSVは正常細胞と比較して、別個の細胞培養物での決定と同様に、新生物細胞で選択的に増殖し、そして新生物細胞を殺傷する)
種々の正常細胞株および形質転換した細胞株に、100単位のIFN−αで未処置または前処置のいずれかを行い、0.1pfu/mlのMOIでVSV Indianaを感染させ、そして37℃で18時間インキュベートした(表2)。それぞれのサンプルからの培養培地をVSV産生について力価測定した。インターフェロンを用いる正常細胞培養物の前処置は、ウイルス産生を1mlあたり<1000感染性ウイルス粒子まで減少させ、一方、腫瘍細胞株は大量のウイルス粒子を産生し続けた(1mlあたり10〜10プラーク形成単位)。VSVのより急速なそして劇症性の増殖は、線維芽細胞または上皮起源の初代正常細胞培養物よりも腫瘍細胞において、観察された。種々の細胞型間の差異は、ウイルス粒子の産生だけでなく、顕微鏡レベルで観察される細胞病理学的影響(cpe)にも影響した。
【0056】
表2.IFN未処置またはIFN処置のいずれかの種々の細胞株における、オーバーナイトVSV感染後のウイルス産生量
【0057】
【表2】



【0058】
(実施例4:別個の細胞培養物において、レオウイルス3型は新生物細胞を選択的に殺傷し、正常線維芽細胞を選択的に殺傷しない)
ヒト腫瘍細胞(HT1080線維肉腫)および正常細胞(CCD992sk、正常ヒト表皮線維芽)を、24ウェル組織培養皿において約80%コンフルエンスまで増殖させた。増殖培地を除去し、PPVR−824(ヒトレオウイルスIII型、Dearing株のプラーク形成クローン)は、10倍の希釈(ExpI)で10PFU/ウェルに対して、1E+6プラーク形成単位(PFU)/細胞、または10倍の希釈で10l〜100PFU/ウェル(ExpII)に対して7.2±7PFU/細胞となった。ウイルスの添加を伴わないコントロールウェルを、それぞれのプレートに含めた。ウイルスを37℃で90分間ロッキングプラットフォームに吸着させた。インキュベーション期間の終わりに、ウイルスの希釈物を除去し、1mlの増殖培地で置換した。次いで、プレートを37℃、5%CO中で5日間インキュベートした。細胞毒性を、比色分析のMTT(2−[4,5−ジメチルチアゾール−2−イル]−2,5−ジフェニルテトラゾリウムブロマイド)アッセイ(Cell Titer96、カタログ#G4000,Promega Corporation,Madison WI 53711)を用いて定量し、ミトコンドリア酵素活性を検出する570nmで監視した(Mosman,T.,1983,J.Immunol.Methods 65:55)。ウイルス処置したウェルの生存能力を、未処置のコントロールウェルにおける活性の割合として表現した。このデータを、PFU/細胞 対 生存能力(コントロールの割合として)として、グラフにプロットした。IC50を、生存可能な量で50%減少を引き起こすPFU/ウェルでのウイルスの量とし計算した。新生物細胞はPPVR−824による殺傷に対して高い感受性を示した(表3)。
【0059】
表3.別個の細胞培養物において、レオウイルス3型は新生物細胞を選択的に殺傷し、正常線維芽細胞を選択的に殺傷しない)
【0060】
【表3】

【0061】
上記の実施例は、本発明の例示として意図されるものであり、制限するものではない。多くの変更および改変は、本発明の真の範囲から逸脱することなしに、行われ得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
本明細書に記載の方法。

【公開番号】特開2013−75921(P2013−75921A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2013−13166(P2013−13166)
【出願日】平成25年1月28日(2013.1.28)
【分割の表示】特願2002−505015(P2002−505015)の分割
【原出願日】平成13年6月26日(2001.6.26)
【出願人】(504397480)ウェルスタット バイオロジクス コーポレイション (13)
【出願人】(500132823)ユニバーシティ・オブ・オタワ (1)
【Fターム(参考)】