ウイルスプロテアーゼ生産方法
【課題】ポリプロテインプロセシングに関与するウイルスプロテアーゼを十分に且つ効率良く生産できる方法を提供する。
【解決手段】無細胞タンパク質合成系において、N末端側認識配列を含む配列とポリプロテインプロセシングに関与するウイルスプロテアーゼとC末端側認識配列を含む配列とがN末端よりこの順で配列してなる融合タンパク質であって、該N末端側認識配列と該C末端側認識配列とが該プロテアーゼに隣接する前記融合タンパク質を発現させる工程を含み、前記融合タンパク質の発現後に、前記プロテアーゼのN末端側認識配列及びC末端側認識配列の切断により、前記融合タンパク質から前記プロテアーゼが成熟化されることを特徴とする、ウイルスプロテアーゼの生産方法。
【解決手段】無細胞タンパク質合成系において、N末端側認識配列を含む配列とポリプロテインプロセシングに関与するウイルスプロテアーゼとC末端側認識配列を含む配列とがN末端よりこの順で配列してなる融合タンパク質であって、該N末端側認識配列と該C末端側認識配列とが該プロテアーゼに隣接する前記融合タンパク質を発現させる工程を含み、前記融合タンパク質の発現後に、前記プロテアーゼのN末端側認識配列及びC末端側認識配列の切断により、前記融合タンパク質から前記プロテアーゼが成熟化されることを特徴とする、ウイルスプロテアーゼの生産方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば無細胞タンパク質合成系におけるウイルスプロテアーゼの生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来において、ウイルスプロテアーゼは融合タンパク質発現系において連結した精製用タグの除去等に有用であることが知られている。
【0003】
特定のウイルスにおいては、複数のウイルスタンパク質が一緒になってポリプロテインとして合成され、当該ポリプロテイン内のプロテアーゼや宿主細胞が有するプロテアーゼによりポリプロテインが切断されることで、各々のウイルスタンパク質が産生される。
【0004】
SARSコロナウイルス(以下、「SARS-CoV」という)は、重症急性呼吸器症候群(SARS)の原因ウイルスである。SARS-CoVはプラス鎖RNAウイルスであり、当該プラス鎖RNAはmRNAとして機能し、このmRNAよりポリプロテインが合成される。SARS-CoVのゲノム発現に関与する機構及び酵素が知られている(非特許文献1及び2)。SARS-CoVのゲノム発現は、ウイルスレプリカーゼ遺伝子によりコードされる2種類の大きなポリプロテイン(pp1a及びpp1ab)の翻訳により開始される。当該ポリプロテインは、このポリプロテイン内に存在するパパイン様システインプロテアーゼ(以下、「PL2pro」という)及び3C様システインプロテアーゼ(メインプロテアーゼ(main protease:Mpro)とも呼ばれる;以下、「3CLpro」という)により切断される。PL2proは、ポリプロテインのN末端近接領域側の3つの部位を切断する。一方、3CLproは、ポリプロテインの11個の部位において中心領域及びC末端近接領域を切断する。この際、3CLproはポリプロテイン内の自己の両端にある切断部位を切断し、発現することとなる。従って、3CLproは、自己プロセシングによりポリプロテイン内から発現することとなる。
【0005】
ポリプロテイン由来のウイルスプロテアーゼをコードする遺伝子(以下、「プロテアーゼ遺伝子」という)を有する発現ベクターを用いて宿主細胞を形質転換させ、当該ウイルスプロテアーゼを産生する場合には、プロテアーゼ遺伝子の開始コドンがメチオニン(Met)をコードしていないので、そのままの遺伝子形態では宿主細胞においてウイルスプロテアーゼを発現させることができない。そこで、プロテアーゼ遺伝子の5'末端側にMetをコードするコドンを付加することが考えられる。しかしながら、この場合には、Metの付加により活性部位の構造が崩れて、得られるプロテアーゼは、天然のプロテアーゼの活性より低い(例えば、1/10以下)。
【0006】
また、ポリプロテイン由来のウイルスプロテアーゼを精製用タグとの融合タンパク質として発現させ、人為的に作製した切断部位を市販のプロテアーゼ(プレシジョンプロテアーゼ等)で切断することが考えられる。しかしながら、この場合には、複数の余分な残基が得られるプロテアーゼに残存することとなる。
【0007】
非特許文献3には、N末端及び/又はC末端に付加配列を連結したSARS-CoV 3CLproを大腸菌で発現させたことが開示されている。当該N末端付加配列は、例えば上述のSARS-CoVのポリプロテイン(pp1a及びpp1ab)内の3CLproにN末端で隣接する配列(AVLQ(配列番号3))とGSTタグを含む配列である。一方、C末端付加配列は、例えばライノウイルスの3Cプロテアーゼの認識部位(GP)とHisタグを含む配列である。しかしながら、当該方法では、SARS-CoV 3CLproの発現効率が低い。また、宿主細胞として大腸菌を用いてSARS-CoV 3CLproを発現させているため、生産されたSARS-CoV 3CLproに対するコンタミネーションの危険が高い。さらに、大腸菌に由来するプロテアーゼによりSARS-CoV 3CLproが切断され、分解される可能性がある。
【0008】
従って、in vitroでポリプロテイン由来のウイルスプロテアーゼを十分に且つ効率良く生産させる方法はこれまで知られていなかった。
【0009】
【非特許文献1】Volker Thielら, 「Journal of General Virology」, 2003年, 第84巻, p. 2305-2315
【非特許文献2】John Ziebuhr, 「Current Opinion in Microbiology」, 2004年, 第7巻, p. 412-419
【非特許文献3】Xiaoyu Xueら, 「Journal of Molecular Biology」, 2007年, 第366巻, p. 965-975
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上述した実情に鑑み、ポリプロテインプロセシングに関与するウイルスプロテアーゼを十分に且つ効率良く生産できる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、無細胞タンパク質合成系において、N末端側認識配列を含む配列とポリプロテインプロセシングに関与するウイルスプロテアーゼとC末端側認識配列を含む配列とを含む融合タンパク質を発現させることで、当該融合タンパク質からウイルスプロテアーゼが成熟化され、生産できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
本発明は、無細胞タンパク質合成系において、N末端側認識配列を含む配列とポリプロテインプロセシングに関与するウイルスプロテアーゼとC末端側認識配列を含む配列とがN末端よりこの順で配列してなる融合タンパク質であって、該N末端側認識配列と該C末端側認識配列とが該プロテアーゼに隣接する前記融合タンパク質を発現させる工程を含み、前記融合タンパク質の発現後に、前記プロテアーゼのN末端側認識配列及びC末端側認識配列の切断により、前記融合タンパク質から前記プロテアーゼが成熟化されることを特徴とする、ウイルスプロテアーゼの生産方法に関する。
【0013】
上記ウイルスプロテアーゼとしては、SARS-CoV 3CLproが挙げられる。また、上記ウイルスプロテアーゼがSARS-CoV 3CLproである場合には、上記N末端側認識配列としては配列番号1で示されるアミノ酸配列が挙げられ、上記C末端側認識配列としては配列番号2で示されるアミノ酸配列が挙げられる。
上記無細胞タンパク質合成系としては、大腸菌無細胞タンパク質合成系が挙げられる。
【0014】
さらに、本発明は、上述の融合タンパク質をコードするDNAを有する無細胞タンパク質合成系におけるウイルスプロテアーゼ発現用ベクター又はカセットに関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、優れた生産性でポリプロテインプロセシングに関与するウイルスプロテアーゼを生産することができる。また、本発明によれば、活性を失うことなく、安定したウイルスプロテアーゼを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に係るウイルスプロテアーゼの生産方法(以下、「ウイルスプロテアーゼ生産方法」という)は、無細胞タンパク質合成系において、N末端側認識配列を含む配列とポリプロテインプロセシングに関与するウイルスプロテアーゼとC末端側認識配列を含む配列とがN末端よりこの順で配列してなる融合タンパク質を発現させることを含む。融合タンパク質において、N末端側認識配列とC末端側認識配列とはウイルスプロテアーゼに隣接して位置する。また、融合タンパク質の発現後には、ウイルスプロテアーゼのN末端側認識配列及びC末端側認識配列の切断により、融合タンパク質から当該ウイルスプロテアーゼが成熟化され、生産されることとなる。
【0017】
ここで、ポリプロテインプロセシングに関与するウイルスプロテアーゼとは、ポリプロテインのプロセシング(又は切断)を行い、個々のウイルスタンパク質を産生するウイルスプロテアーゼを意味する。以下では、ポリプロテインプロセシングに関与するウイルスプロテアーゼを、単に「ウイルスプロテアーゼ」という。本発明におけるウイルスプロテアーゼとしては、例えば、SARS-CoV 3CLpro(cDNA:配列番号4、アミノ酸配列:配列番号5)及びHIV protease(cDNA:配列番号6、アミノ酸配列:配列番号7; Coffin, J.M. (Ed.), RETROVIRUSES; 757; Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New York, NY, USA (1997)中のPetropoulos,C.J., Retroviral taxonomy, protein structure, sequences, and genetic maps及びGenBankアクセッション番号:NC_001802)が挙げられる。
【0018】
上述したウイルスプロテアーゼのアミノ酸配列及びそのcDNAの塩基配列は、上記の配列番号に示されるアミノ酸配列及び塩基配列に限定されない。ウイルスプロテアーゼは、上記の配列番号に示されるアミノ酸配列において1又は数個(例えば1〜10個、1〜5個)のアミノ酸が置換、欠失又は付加されたアミノ酸配列から成り、且つウイルスプロテアーゼ活性を有するタンパク質であってもよい。しかしながら、置換や欠失の対象のアミノ酸としては、ウイルスプロテアーゼの活性部位(活性残基)を除く。例えば、SARS-CoV 3CLproはシステインプロテアーゼであり、配列番号5に示されるアミノ酸配列における第145番目のシステインがSARS-CoV 3CLproの活性残基である。当該活性残基が他のアミノ酸に置換されると、変異型SARS-CoV 3CLproは自己プロセシング活性を失う。
【0019】
ウイルスプロテアーゼをコードするcDNAには、上述した配列番号に示されるcDNAと相補的な塩基配列から成るDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、且つウイルスプロテアーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNAも含まれる。
【0020】
ここで、ストリンジェントな条件とは、例えば、ナトリウム濃度が25〜500mM、好ましくは25〜300mMであり、温度が42〜68℃、好ましくは42〜65℃の条件をいう。より具体的には、5×SSC(83mM NaCl、83mMクエン酸ナトリウム)、温度42℃である。
【0021】
N末端側認識配列は、一緒になって融合タンパク質の形態を成すウイルスプロテアーゼが天然のポリプロテインをプロセシングし、ウイルスタンパク質を産生する際に、当該ウイルスタンパク質のN末端側に存在する切断部位を意味する。例えば、ウイルスプロテアーゼがSARS-CoV 3CLproである場合には、N末端側認識配列はXXXQ(配列番号1:第1番目のXはA、V、P又はTであり、第2番目のXはT、V、K又はRであり、第3番目のXはL、F、M又はVである)であり、より具体的にはAVLQ(配列番号3)が挙げられる。AVLQ(配列番号3)は、SARS-CoVの2つのポリプロテイン(pp1a及びpp1ab)における、3CLpro(非構造タンパク質5(nsp(nonstructural protein)5)と称される)とそのN末端側のトランスメンブレン2(TM2)(nsp4と称される)との間に配置される切断部位である(非特許文献2のFigure 2)。すなわち、AVLQ(配列番号3)は、SARS-CoV 3CLproが自己プロセシングによりポリプロテインを切断する際の切断部位である。またウイルスプロテアーゼがHIV proteaseである場合には、N末端側認識配列としてはDRQGTVSFNF(配列番号8)が挙げられる(Coffin, J.M. (Ed.), RETROVIRUSES; 757; Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New York, NY, USA (1997)中のPetropoulos,C.J., Retroviral taxonomy, protein structure, sequences, and genetic maps及びGenBankアクセッション番号:NC_001802)。
【0022】
N末端側認識配列を含む配列(以下、「N末端側隣接配列」という)のアミノ酸長は、例えば4〜500アミノ酸、好ましくは4〜10アミノ酸とする。ウイルスプロテアーゼがSARS-CoV 3CLproである場合には、当該隣接配列はSARS-CoVの2つのポリプロテイン(pp1a及びpp1ab)における3CLpro(nsp5)のN末端側の上流アミノ酸残基(例えば、TM2(nsp4)のN末端まで(500アミノ酸残基))を含むことができる。
【0023】
一方、C末端側認識配列は、一緒になって融合タンパク質の形態を成すウイルスプロテアーゼが天然のポリプロテインをプロセシングし、ウイルスタンパク質を産生する際に、当該ウイルスタンパク質のC末端側に存在する切断部位を意味する。例えば、ウイルスプロテアーゼがSARS-CoV 3CLproである場合には、C末端側認識配列はXXX(配列番号2:第1番目のXはA、S、G又はNであり、第2番目のXはP以外のいずれかのアミノ酸であり、第3番目のXはF、E又はNである)であり、より具体的にはGKF(配列番号9)が挙げられる。GKF(配列番号9)は、SARS-CoVの2つのポリプロテイン(pp1a及びpp1ab)における、3CLproとそのC末端側のトランスメンブレン3(TM3)(nsp6と称される)との間に配置される切断部位である(非特許文献2のFigure 2)。すなわち、GKF(配列番号9)は、上述のAVLQ(配列番号3)と共に、SARS-CoV 3CLproが自己プロセシングによりポリプロテインを切断する際の切断部位である。またウイルスプロテアーゼがHIV proteaseである場合には、C末端側認識配列としてはPISPIETVPV(配列番号10)が挙げられる(Coffin, J.M. (Ed.), RETROVIRUSES; 757; Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New York, NY, USA (1997)中のPetropoulos,C.J., Retroviral taxonomy, protein structure, sequences, and genetic maps及びGenBankアクセッション番号:NC_001802)。
【0024】
C末端側認識配列を含む配列(以下、「C末端側隣接配列」という)のアミノ酸長は、例えば3〜290アミノ酸、好ましくは3〜10アミノ酸とする。ウイルスプロテアーゼがSARS-CoV 3CLproである場合には、当該隣接配列はSARS-CoVの2つのポリプロテイン(pp1a及びpp1ab)における3CLpro(nsp5)のC末端側の下流アミノ酸残基(例えば、TM3(nsp6)のC末端まで(290アミノ酸残基))を含むことができる。
【0025】
また、ウイルスプロテアーゼの成熟化とは、自己プロセシングにより融合タンパク質から切断され、正しくフォールディングされることで、ウイルスプロテアーゼ活性を示すようになることを意味する。
【0026】
ウイルスプロテアーゼ生産方法では、先ずN末端側隣接配列とウイルスプロテアーゼとC末端側隣接配列とがN末端よりこの順で配列してなる融合タンパク質(以下、「融合タンパク質」という)をコードするDNAを準備する。例えば、融合タンパク質をコードするDNAを、ウイルスゲノムDNA等を鋳型とし、特異的なプライマーセットを用いたPCRにより増幅し、単離することができる。また、N末端側隣接配列をコードするDNA、ウイルスプロテアーゼをコードするDNA及びC末端側隣接配列をコードするDNAをそれぞれPCRにより増幅した後、連結することで、融合タンパク質をコードするDNAを準備することができる。
【0027】
あるいは、融合タンパク質をコードするDNAは、N末端側隣接配列をコードするDNA、ウイルスプロテアーゼをコードするDNA及びC末端側隣接配列をコードするDNAをそれぞれ適当なベクターのマルチクローニングサイト等に導入することで用意することができる。例えば、下記の実施例の無細胞タンパク質合成系では、T7 RNAポリメラーゼを用いてmRNA合成(転写反応)を行うため、ベクターとしてはT7 プロモーターを有するベクターであればいずれのものでもよく、一般的なpETシリーズ発現ベクター(例えばpET3、pET9、pET11、pET15、pET21及びpET29a(Novagen社))等が挙げられる。
【0028】
さらに、融合タンパク質をコードするDNAは、発現カセットとして用意することもできる。
【0029】
これら発現ベクター又はカセットにおいて、融合タンパク質をコードするDNAは、無細胞タンパク質合成系において機能的な制御領域(例えば、プロモーター、エンハンサー、ターミネーター等)の制御下に配置される。
【0030】
次いで、ウイルスプロテアーゼ生産方法では、無細胞タンパク質合成系に、これら融合タンパク質をコードするDNAを有する発現ベクターや発現カセット等を添加し、融合タンパク質を発現させる。無細胞タンパク質合成系としては、例えば大腸菌無細胞タンパク質合成系、コムギ胚芽無細胞タンパク質合成系、カイコバキュロウイルス無細胞タンパク質合成系等が挙げられる。
【0031】
無細胞タンパク質合成系に対する融合タンパク質をコードするDNAを有する発現ベクターや発現カセット等の添加量は、使用する無細胞タンパク質合成系により適宜調整することができる。
【0032】
また、無細胞タンパク質合成系における融合タンパク質の発現条件としては、例えば20〜37℃(好ましくは30℃)の温度で、2〜6時間(好ましくは4時間)である。
【0033】
発現後、融合タンパク質からウイルスプロテアーゼが成熟化され、ウイルスプロテアーゼが産生されることとなる。
【0034】
産生したウイルスプロテアーゼを含む反応溶液は、そのまま使用してもよい。あるいは、ウイルスプロテアーゼの産生後、反応溶液から、例えば透析、陰イオン交換カラムクロマトグラフィー、等電点クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー、濃縮等の1以上の精製手段によって、ウイルスプロテアーゼを精製してもよい。
【0035】
得られたウイルスプロテアーゼの活性の測定方法としては、ウイルスプロテアーゼを基質となるアミノ酸配列から成るペプチド(N末端とC末端にはそれぞれ蛍光基と消光基が連結されている)と接触させ、次いで蛍光強度変化を測定する方法が挙げられる。例えば、蛍光基としてNma基を用い、消光基としてDnp基を用いた場合には、基質となるペプチド分子内でDnp基がNma基を消光している。当該ペプチドをウイルスプロテアーゼが切断した場合には、ペプチド分子内のDnp基で消光されていたNma基の蛍光強度(最大励起波長(Ex)=340nm、最大蛍光波長(Em)=440nm)が増加する。すなわち、ウイルスプロテアーゼによる切断の割合と蛍光強度の増加が正の相関を示す。従って、蛍光強度変化に基づくウイルスプロテアーゼ活性が、陰性対照と比較して統計的に有意な差で大きい場合には、得られたウイルスプロテアーゼは、良好にウイルスプロテアーゼ活性を有すると判断することができる。
【0036】
以上に説明したウイルスプロテアーゼ生産方法によれば、優れた生産性で、活性を有するウイルスプロテアーゼを生産することができる。生産したウイルスプロテアーゼは、例えば融合タンパク質発現系において、当該ウイルスプロテアーゼの基質ペプチドを介して連結した精製用タグの除去に利用することができる。
【0037】
本発明では、無細胞タンパク質合成系を使用する。そのため、大腸菌、酵母や動物細胞等の宿主細胞を使用しないので、生産されたウイルスプロテアーゼに対するコンタミネーションを最小限に抑えることができる。また、宿主細胞に由来するプロテアーゼが無細胞タンパク質合成系には含まれていないので、ウイルスプロテアーゼが他のプロテアーゼにより切断される可能性がない。さらに、宿主細胞を用いた場合と比較して、無細胞タンパク質合成系でのタンパク質発現にかかる時間は短いので、ウイルスプロテアーゼの生産時間を短縮することができる。
【0038】
無細胞タンパク質合成系には、適宜添加物を加えることができる。そこで、生産目的のウイルスプロテアーゼ以外のプロテアーゼに対するプロテアーゼインヒビターを無細胞タンパク質合成系に加えることで、さらにウイルスプロテアーゼの発現効率を向上させることができる可能性がある。
【0039】
本発明では、生産目的のウイルスプロテアーゼの自己プロセシングを利用することで、当該ウイルスプロテアーゼが成熟化される。従って、タグ等を利用して、ウイルスプロテアーゼを成熟化する必要がない。すなわち、本発明によれば、タグの切断に必要な他のプロテアーゼを使用することなく、成熟化したウイルスプロテアーゼを容易に得ることができる。
【実施例】
【0040】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
〔実施例1〕無細胞タンパク質合成系におけるSARS-CoV 3CLproの発現
1.SARS-CoV 3CLpro発現ベクターの構築
SARS-CoV 3CLpro(アミノ酸配列:配列番号5)をコードするDNA(cDNA:配列番号4)を含有するプラスミドを鋳型とし、以下のプライマーを用いたPCRにより、SARS-CoV 3CLproをコードするDNAを増幅した。
【0041】
フォワードプライマー:
5'-CGTGGATCCCAGACATCAATCACTTCTGCTGTTCTGCAGAGTGGTTTTAGGAAAATGGC-3'(配列番号11)
リバースプライマー:
5'-GGTGCTCGAGAGTGCCCTTAACAATTTTCTTGAACTTACCTTGGAAGGTAACACCAGAGC-3'(配列番号12)
【0042】
上記フォワードプライマー(配列番号11)によれば、SARS-CoV 3CLproをコードするDNAに、BamHI制限部位(下線)及びSARS-CoV 3CLproのN末端に付加する天然のpp1aポリプロテイン由来の10アミノ酸(QTSITSAVLQ:配列番号13)をコードする30ヌクレオチドが導入される。当該10アミノ酸(配列番号13)は、pp1aポリプロテインにおいて、3CLpro(nsp5)のN末端側で隣接するアミノ酸配列である(非特許文献2のFigure 2)。
【0043】
一方、上記リバースプライマー(配列番号12)によれば、SARS-CoV 3CLproをコードするDNAに、XhoI制限部位(下線)及びSARS-CoV 3CLproのC末端に付加する天然のpp1aポリプロテイン由来の10アミノ酸(GKFKKIVKGT:配列番号14)をコードする30ヌクレオチドが導入される。当該10アミノ酸(配列番号14)は、pp1aポリプロテインにおいて、3CLpro(nsp5)のC末端側で隣接するアミノ酸配列である(非特許文献2のFigure 2)。
【0044】
PCR条件は、熱変性(98℃, 20秒)、アニーリング(50℃, 30秒)及び伸長反応(68℃, 90秒)で、サイクル数が25サイクルであった。
【0045】
次いで、得られたPCR産物を制限酵素BamHI及びXhoIで切断した。一方、pET29a発現ベクター(Novagen社)を制限酵素BamHI及びXhoIで切断した。当該pET29a発現ベクターは、N末端Sタグ/トロンビン構成とC末端Hisタグ配列を有する。
【0046】
切断したPCR産物をpET29a発現ベクターのBamHI切断部位とXhoI切断部位との間に導入し、クローン化し、SARS-CoV 3CLproをコードするDNAを有する発現ベクターを作製した。得られた発現ベクターを「pET29a/SARS-3CLP wild-type (WT)」と呼ぶ。pET29a/SARS-3CLP WTにおけるSARS-CoV 3CLproをコードするDNAの塩基配列(配列番号15)を、図1に示す。図1において、2つの下線の塩基配列は、それぞれN末端側認識配列を含む配列(QTSITSAVLQ:配列番号13)をコードするDNA及びC末端側認識配列を含む配列(GKFKKIVKGT:配列番号14)をコードするDNAを示す。一方、2つの下線の塩基配列間の塩基配列は、SARS-CoV 3CLproをコードするDNA(配列番号4)を示す。
【0047】
図2は、pET29a/SARS-3CLP WTによってコードされるSARS-CoV 3CLproを含む融合タンパク質のアミノ酸配列を示す図である。図2(A)は、プロセシング前の融合タンパク質(配列番号16)を示す図である。図2(B)は、プロセシング後のSARS-CoV 3CLpro(配列番号5)を示す図である。
【0048】
図2(A)において、(1)のアミノ酸配列は、Sタグである。(2)のアミノ酸配列は、天然のpp1aポリプロテイン由来の10アミノ酸(配列番号13)である。(3)のアミノ酸配列は、天然のpp1aポリプロテイン由来の10アミノ酸(配列番号14)である。(4)のアミノ酸配列は、Hisタグである。
【0049】
また、SARS-CoV 3CLproのC145A変異体(配列番号5に示すアミノ酸配列において、第145番目のシステインがアラニンに置換されている:以下、「SARS-CoV 3CLpro-C145A」という)をコードするDNAを、pET29a/SARS-3CLP WTを鋳型として用いたオリゴヌクレオチド指向性突然変異誘発方法(Bramanら, 「Methods in Molecular Biology」, 1996年, 第57巻, p. 31-44)によって作製した。使用したプライマーは、以下の通りであった。
【0050】
フォワードプライマー:
5'-GGTTCTTTCCTTAATGGATCAGCTGGTAGTGTTGGTTTTAAC-3'(配列番号17)
リバースプライマー:
5'-GTTAAAACCAACACTACCAGCTGATCCATTAAGGAAAGAACC-3'(配列番号18)
【0051】
PCR条件は、上述のSARS-CoV 3CLproをコードするDNAを増幅した際と同様であった。
【0052】
得られたプラスミドにおいて、上述の変異に対応する塩基配列を、ジデオキシヌクレオチド配列決定分析により確認した。得られたベクターを、以下では「pET29a/SARS-3CLP-C145A」と呼ぶ。
【0053】
図3は、pET29a/SARS-3CLP WT及びpET29a/SARS-3CLP-C145Aによってそれぞれコードされる融合タンパク質の模式図である。図3において、「S」はSタグを示し、「HIS」はHisタグを示す。また、「N10」は天然のpp1aポリプロテイン由来の10アミノ酸(配列番号13)を示し、「C10」は天然のpp1aポリプロテイン由来の10アミノ酸(配列番号14)を示す。
【0054】
2.無細胞タンパク質合成系でのSARS-CoV 3CLproの発現
pET29a/SARS-3CLP WTを用いた無細胞タンパク質合成系の透析モードにより、組換え型SARS-CoV 3CLproを合成した。当該無細胞タンパク質合成系は、Kigawaら(「FEBS Letters」, 1999年, 第442巻, p. 15-19; 「Journal of Structural and Functional Genomics」, 2004年, 第5巻, p. 63-68)の方法に準じた。使用した無細胞タンパク質合成系は、大腸菌S30抽出物を用いた大腸菌無細胞タンパク質合成系である。
【0055】
無細胞タンパク質合成系には、以下の表1に示す組成から成る供給溶液及び表2に示す組成から成る反応溶液を用いた。
【0056】
【表1】
【0057】
【表2】
【0058】
表2において、鋳型DNAはpET29a/SARS-3CLP WT含有溶液である。
【0059】
次いで、反応混合物を、30℃で4時間振盪しながらインキュベートした。インキュベーション後、反応混合物を回収し、4℃で20分間、16,000rpmの遠心分離に供し、上清を分離した。
【0060】
図4は、無細胞タンパク質合成系で合成したSARS-CoV 3CLproのSDS-PAGEにおける結果を示す図である。図4において、各レーンは、以下を示す。
レーンM:分子量マーカー、レーン1:インキュベーション前の反応混合物サンプル、レーン2:インキュベーション後の反応混合物サンプル、レーン3:インキュベーション後の反応混合物に由来する上清サンプル
また、図4における矢印で示すバンドがSARS-CoV 3CLproのバンドである。
【0061】
図4に示すように、SARS-CoV 3CLproは発現した後、自己プロセシングされ、約34kDa付近にそのバンドがあった。
【0062】
また、pET29a/SARS-3CLP-C145Aを用いた無細胞タンパク質合成系において、組換え型SARS-CoV 3CLpro-C145Aを合成した。合成方法は、pET29/SARS-3CLP WTを用いた場合と同様の方法であった。
【0063】
図5は、無細胞タンパク質合成系で合成したSARS-CoV 3CLpro及びSARS-CoV 3CLpro-C145AのSDS-PAGE及びウエスタンブロッティングにおける結果を示す図である。
【0064】
図5(A)は、SARS-CoV 3CLproの自己プロセシングによる発現及びSARS-CoV 3CLpro-C145Aの非プロセシングの模式図である。図5(A)における略語は、図3に示す略語と同様である。
【0065】
図5(B)は、無細胞タンパク質合成系で合成したSARS-CoV 3CLpro及びSARS-CoV 3CLpro-C145AのSDS-PAGEにおける結果を示す図である。各レーンは以下を示す。
「レーンCtrl」:対照(pET29aを用いたインキュベーション後の反応混合物に由来する上清液)、「レーンWT」:pET29a/SARS-3CLP WTを用いたインキュベーション後の反応混合物に由来する上清液、「レーンC145A」:pET29a/SARS-3CLP-C145Aを用いたインキュベーション後の反応混合物に由来する上清液
【0066】
図5(B)において、レーンWTにおいて矢印で示すバンドは、自己プロセシング後のSARS-CoV 3CLproのバンドである。一方、レーンC145Aにおいて矢印で示すバンドは、非プロセシングのため切断されていないSARS-CoV 3CLpro-C145Aのバンドである。
【0067】
図5(C)は、無細胞タンパク質合成系で合成したSARS-CoV 3CLpro及びSARS-CoV 3CLpro-C145Aのウエスタンブロッテイングにおける結果を示す図である。各レーンは以下を示す。
「レーンWT」:pET29a/SARS-3CLP WTを用いたインキュベーション後の反応混合物に由来する上清液、「レーンC145A」:pET29a/SARS-3CLP-C145Aを用いたインキュベーション後の反応混合物に由来する上清液
【0068】
図5(C)において、「α-3CLpro」の結果は、一次抗体として抗SARS-CoV 3CLpro抗体(Genesis Biotech社)を用いた結果である。「α-His」の結果は、一次抗体として抗Hisタグ抗体(Novagen社)を用いた結果である。「S-protein」の結果は、一次抗体として抗Sタグ抗体(Novagen社)を用いた結果である。また、図5(C)において、矢印(1)で示すバンドは、自己プロセシング後のSARS-CoV 3CLproのバンドである。一方、矢印(2)で示すバンドは、非プロセシングのため切断されていないSARS-CoV 3CLpro-C145Aのバンドである。
【0069】
図5に示すように、SARS-CoV 3CLproは自己プロセシングし、発現するのに対して、SARS-CoV 3CLpro-C145Aは自己プロセシングすることなく、融合タンパク質の形態のままであった。
【0070】
非特許文献3には、大腸菌においてSARS-CoV 3CLproを発現させたことが開示されている。非特許文献3において示される大腸菌でのSARS-CoV 3CLproの発現量(Figure 1(d))と比較すると、図5(B)に示す無細胞タンパク質合成系で合成したSARS-CoV 3CLproの発現量は、非常に高いことが分かる。
【0071】
3.SARS-CoV 3CLproの精製
上記第2節で合成した組換え型SARS-CoV 3CLproを精製した。なお、精製に際して使用したバッファーは、以下の通りであった。
(1)バッファーA: 20mM Tris-HCl, pH 7.6, 1mM EDTA, 1mM DTT
(2)バッファーB: 20mM Tris-HCl, pH 7.6, 1mM EDTA, 1mM DTT, 1M NaCl
(3)バッファーC: 25mM Imidazole-HCl, pH 7.6, 1mM DTT
(4)バッファーD: 1/8 Polybuffer74, pH 5.0, 1mM DTT
(5)バッファーE: 20mM Tris-HCl, pH 7.5, 1mM EDTA, 1mM DTT, 0.1M NaCl
(6)バッファーF: 10mM Tris-HCl, pH 7.5, 0.1mM EDTA, 1mM DTT
【0072】
先ず、第2節で合成した組換え型SARS-CoV 3CLproを含有する反応混合物(27ml)を回収した。次いで、回収した反応混合物をバッファーA(2L)に対する透析に供した。
【0073】
透析後のタンパク質をエコノパックHighQカートリッジ(5 ml)カラムクロマトグラフィー(Bio-Rad社)に供した。バッファーとしてバッファーA及びバッファーBを用いて、NaCl濃度勾配を0〜0.15Mとした。また、アプライ容量は、5又は10mlとした。図6は、エコノパックHighQカートリッジカラムクロマトグラフィーによる画分の吸光度波形を示す図である。SDS-PAGEによって組換え型SARS-CoV 3CLproを含有する画分(図6において、四角で囲んだ画分)を確認し、当該画分を回収した。
【0074】
次いで、回収した画分をバッファーC(2L)に対する透析に供した。この際、バッファーを2回交換した。
【0075】
透析後のタンパク質をMono P 5/200 GLカラム(GE Healthcare社)を用いた等電点クロマトグラフィーに供した。バッファーとしてバッファーC及びバッファーDを用いた。またアプライ容量は、25又は50mlとした。図7は、Mono P 5/200 GLカラムを用いた等電点クロマトグラフィーによる画分の吸光度波形を示す図である。組換え型SARS-CoV 3CLproを含有する画分(図7において、画分番号. 19〜21)を回収した。
【0076】
得られた画分を、更にHiPrep 26/60 Sephacryl S-300カラム(GE Healthcare社)を用いたゲル濾過クロマトグラフィーに供した。使用したバッファーはバッファーEであった。アプライ容量は2mlであった。図8は、HiPrep 26/60 Sephacryl S-300カラムを用いたゲル濾過クロマトグラフィーによる画分の吸光度波形を示す図である。組換え型SARS-CoV 3CLproを含有する画分(図8において、画分番号. 66〜82)を回収した。
【0077】
次いで、回収した画分中の組換え型SARS-CoV 3CLpro濃度を、Quick Startプロテインアッセイ(Bio-Rad社)を用いて決定した。
【0078】
濃度決定後、回収した画分中の組換え型SARS-CoV 3CLproを限外ろ過(Millipore社)によって約10mg/mlまで濃縮した。この際、バッファーFを用いたバッファー交換を行った。
【0079】
以上のようにして、約7mgの組換え型SARS-CoV 3CLproを、無細胞タンパク質合成系の反応混合物27mlから精製することができた。一方、非特許文献3の開示によれば、大腸菌で発現させ、精製した場合には、約7mgの組換え型SARS-CoV 3CLproを得るためには、多量の細胞培養物を必要すると考えられる(同文献, Figure 1(d))。
【0080】
図9は、精製した組換え型SARS-CoV 3CLproのSDS-PAGEによる結果を示す図である。各レーンは、以下を示す。
「レーン1」:分子量マーカー、「レーン2」:無細胞タンパク質合成系で合成した後の反応混合物に由来する上清液(精製前のSARS-CoV 3CLproサンプル)、「レーン3」:精製した組換え型SARS-CoV 3CLproサンプル
【0081】
また、図9における矢印で示すバンドがSARS-CoV 3CLproのバンドである。
図9に示すように、SARS-CoV 3CLproを上述の方法で完全精製する事に成功した。
【0082】
4.SARS-CoV 3CLproのウイルスプロテアーゼ活性
上記第3節で精製した組換え型SARS-CoV 3CLproのウイルスプロテアーゼ活性を測定した。
【0083】
使用した基質は、Nma-TSAVLQSGFRK(Dnp)-NH2(配列番号19)から成るペプチドであった。当該ペプチドは、SARS-CoVの2つのポリプロテイン(pp1a及びpp1ab)における3CLpro(nsp5)のN末端側の部分アミノ酸配列とそれに隣接するアミノ酸配列を含むアミノ酸配列(TSAVLQ/SGFRK: 「/」は切断点である)に由来するものである。なお、当該ペプチドのN末端及びC末端には、それぞれNma基及びDnp基が付加されている。
バッファーは、ストック溶液(62.5mM Tris-HCl, pH7.3, 1.25mM DTT)として準備した。
【0084】
アッセイの反応液組成は、以下の通りであった。
最終濃度(合計容量:200μl)
(1)50mMバッファー(50mM Tris-HCl, pH 7.3, 1mM DTT)
(2)0〜200nM組換え型SARS-CoV 3CLpro
(3)100μM基質
(4)蒸留水(DW):合計容量まで
【0085】
先ず、バッファーストック溶液160μlを96穴マイクロタイタープレートの各ウエルに添加した。次いで、DWを各ウエルに添加し、その後、組換え型SARS-CoV 3CLproを含む溶液を添加した。さらに1mM基質溶液20μlを各ウエルに添加し、ウエル中の溶液を混合した。
【0086】
10分間のインキュベーション後、蛍光分光測定装置(TECAN社)により蛍光強度(Ex=340nm、Em=440nm)を測定した。
【0087】
同様に、SARS-CoV 3CLproのN末端にGPLG(配列番号20)又はGPを連結した融合タンパク質(以下、それぞれ「GPLG-SARS-CoV 3CLpro」及び「GP-SARS-CoV 3CLpro」という)についても、ウイルスプロテアーゼ活性を測定した。
【0088】
なお、GPLG-SARS-CoV 3CLpro及びGP-SARS-CoV 3CLproを以下のように作製した。
【0089】
GPLG-SARS-CoV 3CLproをコードするDNAを、SARS-CoV 3CLpro(アミノ酸配列:配列番号5)をコードするDNA(cDNA:配列番号4)を含有するプラスミドを鋳型とし、以下のプライマーを用いたPCRにより増幅した。
【0090】
フォワードプライマー:
5'-GGTGGATCCGGTTTTAGGAAAATGGCATTCCCGTC-3'(配列番号21)
リバースプライマー:
5'-GTCCTCGAGTCATTGGAAGGTAACACCAGAGC-3'(配列番号22)
【0091】
PCR条件は、上述のSARS-CoV 3CLproをコードするDNAを増幅した際と同様であった。
【0092】
次いで、得られたPCR産物を制限酵素BamHI及びXhoIで切断した。一方、pGEX-6P-1ベクター(GE Healthcare社)も同様に制限酵素BamHI及びXhoIで切断した。
【0093】
切断したPCR産物をpGEX-6P-1ベクターのBamHI切断部位とXhoI切断部位との間に導入し、クローン化し、GPLG-SARS-CoV 3CLproをコードするDNAを有する発現ベクターを構築した。
【0094】
また、GP-SARS-CoV 3CLproをコードするDNAを、上述のGPLG-SARS-CoV 3CLproをコードするDNAを有する発現ベクターを鋳型として用いたオリゴヌクレオチド指向性突然変異誘発方法によって作製した。使用したプライマーは、以下の通りであった。
【0095】
フォワードプライマー:
5'-GGAAGTTCTGTTCCAGGGGCCCTCCGGTTTTAGGAAAATGGC-3'(配列番号23)
リバースプライマー:
5'-GCCATTTTCCTAAAACCGGAGGGCCCCTGGAACAGAACTTCC-3'(配列番号24)
【0096】
PCR条件は、上述のSARS-CoV 3CLproをコードするDNAを増幅した際と同様であった。
【0097】
以上のように作製したGPLG-SARS-CoV 3CLproをコードするDNAを有する発現ベクター及びGP-SARS-CoV 3CLproをコードするDNAを有する発現ベクターをそれぞれ用いて、大腸菌BL21を形質転換させ、それぞれのタンパク質を発現させた。
【0098】
得られた形質転換体(大腸菌)を破砕し、GST融合タンパク質精製用アフィニティーゲル(GE Healthcare社)及びUnoQ(Bio Rad社)カラムクロマトグラフィーを用いてGPLG-SARS-CoV 3CLpro及びGP-SARS-CoV 3CLproを完全精製した。このようにして精製したGPLG-SARS-CoV 3CLpro及びGP-SARS-CoV 3CLproを、ウイルスプロテアーゼ活性測定に用いた。
【0099】
組換え型SARS-CoV 3CLpro、GPLG-SARS-CoV 3CLpro及びGP-SARS-CoV 3CLproのウイルスプロテアーゼ活性を図10に示す。図10における縦軸は、基質の切断により生じた蛍光強度(F)である。一方、横軸は、基質との混合を開始時間としたインキュベーション時間(分)である。図10において、「WT」は組換え型SARS-CoV 3CLproであり、「GP-WT」はGP-SARS-CoV 3CLproであり、「GPLG-WT」はGPLG-SARS-CoV 3CLproである。
【0100】
図10に示すように、組換え型SARS-CoV 3CLproの酵素活性はGP-SARS-CoV 3CLproとGPLG-SARS-CoV 3CLproの活性に比べかなり高いことが明らかとなった。
【0101】
非特許文献3には、大腸菌で発現させた組換え型SARS-CoV 3CLpro及び当該組換え型SARS-CoV 3CLproのN末端又はC末端に付加配列を有する融合タンパク質のプロテアーゼ活性について開示している(同文献, Table 3)。非特許文献3のTable 3との結果と比較して、本実施例で作製した組換え型SARS-CoV 3CLpro、GP-SARS-CoV 3CLpro及びGPLG-SARS-CoV 3CLproの酵素活性はほぼ同じであった。
【0102】
〔比較例1〕大腸菌における組換え型SARS-CoV 3CLproの発現
pET29a/SARS-3CLP WTを用いて、大腸菌(BL21(DE3))を形質転換した。このように作製した形質転換体(BL21(DE3)/pET29a/SARS-3CLP WT株)をLB/アンピシリン液体培地に加え、37℃で振とう培養し、IPTGにより目的タンパク質の誘導を掛け、大腸菌内でSARS-CoV 3CLproを発現させた。
【0103】
同様の方法により、pET29a/SARS-3CLP-C145Aを用いて大腸菌を形質転換し、SARS-CoV 3CLpro-C145Aを発現させた。
【0104】
結果を図11に示す。図11は、大腸菌及び無細胞タンパク質合成系で合成したSARS-CoV 3CLpro及びSARS-CoV 3CLpro-C145AのSDS-PAGEにおける結果を示す図である。図11(A)に示す結果が大腸菌で合成したSARS-CoV 3CLpro及びSARS-CoV 3CLpro-C145AのSDS-PAGEにおける結果であり、図11(B)に示す結果が無細胞タンパク質合成系で合成したSARS-CoV 3CLpro及びSARS-CoV 3CLpro-C145AのSDS-PAGEにおける結果である。なお、図11(B)は、図5(B)と同一である。
【0105】
図11(A)の各レーンは以下を示す。
「レーンWT」:pET29a/SARS-3CLP WTを用いた形質転換体(大腸菌)に由来する溶菌液、「レーンC145A」:pET29a/SARS-3CLP-C145Aを用いた形質転換体(大腸菌)に由来する溶菌液
【0106】
また、図11(A)における矢印のバンドは、非プロセシングのため切断されていないSARS-CoV 3CLpro-C145Aのバンドである。
【0107】
図11に示すように、大腸菌ではSARS-CoV 3CLproの発現量が低かった。しかしながら、大腸菌において、SARS-CoV 3CLpro-C145Aは、活性残基に変異を入れて活性を失うことで発現した。これは活性型のSARS-CoV 3CLproが大腸菌内の何らかの機構を刺激して、分解されてしまうためだと考えられた。
【0108】
〔参考例1〕SARS-CoV 3CLproの基質特異性
N末端が正しくプロセシングされており、C末端に10残基のC末端側隣接配列(配列番号14)を有するSARS-CoV 3CLPro-C145A変異体の結晶構造解析を行ったところ、隣接配列を含むC末端領域が結晶内において隣の非対称単位の活性部位に結合していたため、これが基質認識並びに自己プロセシングの様式を示していると考えた。
【0109】
図12に示す基質ペプチドと結合したSARS-CoV 3CLProの立体構造モデルにおいて、切断される基質の切断箇所よりN末端側を青のバックボーンで示したスティックで、C末端側を赤のバックボーンで示したスティックで示す。酵素側は表面モデルで示し、活性残基のC145に対応するAla残基は黄色で示した。ここで、上述の基質ペプチド(配列番号19)のアミノ酸配列において、切断点から上流(N末端側)に向かってアミノ酸残基を順にP1、P2、P3・・・と定義する。一方、切断点から下流(C末端側)に向かってアミノ酸残基を順にP1'、P2'、P3'・・・と定義する。
【0110】
非特許文献1には、SARS-CoV 3CLproの基質特異性について開示されている(同文献, Fig. 6)。
【0111】
図12に示す結果と非特許文献1のFig. 6bとを比較すると、P4、P3、P2、P1、P1'、P2'の特異性は図12の構造からよく説明できる。ただし、P3'については非特許文献1では特異性が低いのに対し、立体構造上では側鎖が結合するポケットの存在が見出されたため、少なくとも自己プロセシングに関してはP3'部位の認識も重要であることが明らかとなった。
【図面の簡単な説明】
【0112】
【図1】pET29a/SARS-3CLP WTにおけるSARS-CoV 3CLproをコードするDNAの塩基配列(配列番号15)を示す図である。
【図2】pET29a/SARS-3CLP WTによってコードされるSARS-CoV 3CLproを含む融合タンパク質のアミノ酸配列を示す図である。
【図3】pET29a/SARS-3CLP WT及びpET29a/SARS-3CLP-C145Aによってそれぞれコードされる融合タンパク質の模式図である。
【図4】無細胞タンパク質合成系で合成したSARS-CoV 3CLproのSDS-PAGEにおける結果を示す図である。
【図5】無細胞タンパク質合成系で合成したSARS-CoV 3CLpro及びSARS-CoV 3CLpro-C145AのSDS-PAGE及びウエスタンブロッティングにおける結果を示す図である。
【図6】エコノパックHighQカートリッジカラムクロマトグラフィーによる画分の吸光度波形を示す図である。
【図7】Mono P 5/200 GLカラムを用いた等電点クロマトグラフィーによる画分の吸光度波形を示す図である。
【図8】HiPrep 26/60 Sephacryl S-300カラムを用いたゲル濾過クロマトグラフィーによる画分の吸光度波形を示す図である。
【図9】精製した組換え型SARS-CoV 3CLproのSDS-PAGEによる結果を示す図である。
【図10】組換え型SARS-CoV 3CLpro、GPLG-SARS-CoV 3CLpro及びGP-SARS-CoV 3CLproのウイルスプロテアーゼ活性を示す特性図である。
【図11】大腸菌及び無細胞タンパク質合成系で合成したSARS-CoV 3CLpro及びSARS-CoV 3CLpro-C145AのSDS-PAGEにおける結果を示す図である。
【図12】基質ペプチドと結合したSARS-CoV 3CLproの立体構造モデルである。
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば無細胞タンパク質合成系におけるウイルスプロテアーゼの生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来において、ウイルスプロテアーゼは融合タンパク質発現系において連結した精製用タグの除去等に有用であることが知られている。
【0003】
特定のウイルスにおいては、複数のウイルスタンパク質が一緒になってポリプロテインとして合成され、当該ポリプロテイン内のプロテアーゼや宿主細胞が有するプロテアーゼによりポリプロテインが切断されることで、各々のウイルスタンパク質が産生される。
【0004】
SARSコロナウイルス(以下、「SARS-CoV」という)は、重症急性呼吸器症候群(SARS)の原因ウイルスである。SARS-CoVはプラス鎖RNAウイルスであり、当該プラス鎖RNAはmRNAとして機能し、このmRNAよりポリプロテインが合成される。SARS-CoVのゲノム発現に関与する機構及び酵素が知られている(非特許文献1及び2)。SARS-CoVのゲノム発現は、ウイルスレプリカーゼ遺伝子によりコードされる2種類の大きなポリプロテイン(pp1a及びpp1ab)の翻訳により開始される。当該ポリプロテインは、このポリプロテイン内に存在するパパイン様システインプロテアーゼ(以下、「PL2pro」という)及び3C様システインプロテアーゼ(メインプロテアーゼ(main protease:Mpro)とも呼ばれる;以下、「3CLpro」という)により切断される。PL2proは、ポリプロテインのN末端近接領域側の3つの部位を切断する。一方、3CLproは、ポリプロテインの11個の部位において中心領域及びC末端近接領域を切断する。この際、3CLproはポリプロテイン内の自己の両端にある切断部位を切断し、発現することとなる。従って、3CLproは、自己プロセシングによりポリプロテイン内から発現することとなる。
【0005】
ポリプロテイン由来のウイルスプロテアーゼをコードする遺伝子(以下、「プロテアーゼ遺伝子」という)を有する発現ベクターを用いて宿主細胞を形質転換させ、当該ウイルスプロテアーゼを産生する場合には、プロテアーゼ遺伝子の開始コドンがメチオニン(Met)をコードしていないので、そのままの遺伝子形態では宿主細胞においてウイルスプロテアーゼを発現させることができない。そこで、プロテアーゼ遺伝子の5'末端側にMetをコードするコドンを付加することが考えられる。しかしながら、この場合には、Metの付加により活性部位の構造が崩れて、得られるプロテアーゼは、天然のプロテアーゼの活性より低い(例えば、1/10以下)。
【0006】
また、ポリプロテイン由来のウイルスプロテアーゼを精製用タグとの融合タンパク質として発現させ、人為的に作製した切断部位を市販のプロテアーゼ(プレシジョンプロテアーゼ等)で切断することが考えられる。しかしながら、この場合には、複数の余分な残基が得られるプロテアーゼに残存することとなる。
【0007】
非特許文献3には、N末端及び/又はC末端に付加配列を連結したSARS-CoV 3CLproを大腸菌で発現させたことが開示されている。当該N末端付加配列は、例えば上述のSARS-CoVのポリプロテイン(pp1a及びpp1ab)内の3CLproにN末端で隣接する配列(AVLQ(配列番号3))とGSTタグを含む配列である。一方、C末端付加配列は、例えばライノウイルスの3Cプロテアーゼの認識部位(GP)とHisタグを含む配列である。しかしながら、当該方法では、SARS-CoV 3CLproの発現効率が低い。また、宿主細胞として大腸菌を用いてSARS-CoV 3CLproを発現させているため、生産されたSARS-CoV 3CLproに対するコンタミネーションの危険が高い。さらに、大腸菌に由来するプロテアーゼによりSARS-CoV 3CLproが切断され、分解される可能性がある。
【0008】
従って、in vitroでポリプロテイン由来のウイルスプロテアーゼを十分に且つ効率良く生産させる方法はこれまで知られていなかった。
【0009】
【非特許文献1】Volker Thielら, 「Journal of General Virology」, 2003年, 第84巻, p. 2305-2315
【非特許文献2】John Ziebuhr, 「Current Opinion in Microbiology」, 2004年, 第7巻, p. 412-419
【非特許文献3】Xiaoyu Xueら, 「Journal of Molecular Biology」, 2007年, 第366巻, p. 965-975
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上述した実情に鑑み、ポリプロテインプロセシングに関与するウイルスプロテアーゼを十分に且つ効率良く生産できる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、無細胞タンパク質合成系において、N末端側認識配列を含む配列とポリプロテインプロセシングに関与するウイルスプロテアーゼとC末端側認識配列を含む配列とを含む融合タンパク質を発現させることで、当該融合タンパク質からウイルスプロテアーゼが成熟化され、生産できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
本発明は、無細胞タンパク質合成系において、N末端側認識配列を含む配列とポリプロテインプロセシングに関与するウイルスプロテアーゼとC末端側認識配列を含む配列とがN末端よりこの順で配列してなる融合タンパク質であって、該N末端側認識配列と該C末端側認識配列とが該プロテアーゼに隣接する前記融合タンパク質を発現させる工程を含み、前記融合タンパク質の発現後に、前記プロテアーゼのN末端側認識配列及びC末端側認識配列の切断により、前記融合タンパク質から前記プロテアーゼが成熟化されることを特徴とする、ウイルスプロテアーゼの生産方法に関する。
【0013】
上記ウイルスプロテアーゼとしては、SARS-CoV 3CLproが挙げられる。また、上記ウイルスプロテアーゼがSARS-CoV 3CLproである場合には、上記N末端側認識配列としては配列番号1で示されるアミノ酸配列が挙げられ、上記C末端側認識配列としては配列番号2で示されるアミノ酸配列が挙げられる。
上記無細胞タンパク質合成系としては、大腸菌無細胞タンパク質合成系が挙げられる。
【0014】
さらに、本発明は、上述の融合タンパク質をコードするDNAを有する無細胞タンパク質合成系におけるウイルスプロテアーゼ発現用ベクター又はカセットに関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、優れた生産性でポリプロテインプロセシングに関与するウイルスプロテアーゼを生産することができる。また、本発明によれば、活性を失うことなく、安定したウイルスプロテアーゼを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に係るウイルスプロテアーゼの生産方法(以下、「ウイルスプロテアーゼ生産方法」という)は、無細胞タンパク質合成系において、N末端側認識配列を含む配列とポリプロテインプロセシングに関与するウイルスプロテアーゼとC末端側認識配列を含む配列とがN末端よりこの順で配列してなる融合タンパク質を発現させることを含む。融合タンパク質において、N末端側認識配列とC末端側認識配列とはウイルスプロテアーゼに隣接して位置する。また、融合タンパク質の発現後には、ウイルスプロテアーゼのN末端側認識配列及びC末端側認識配列の切断により、融合タンパク質から当該ウイルスプロテアーゼが成熟化され、生産されることとなる。
【0017】
ここで、ポリプロテインプロセシングに関与するウイルスプロテアーゼとは、ポリプロテインのプロセシング(又は切断)を行い、個々のウイルスタンパク質を産生するウイルスプロテアーゼを意味する。以下では、ポリプロテインプロセシングに関与するウイルスプロテアーゼを、単に「ウイルスプロテアーゼ」という。本発明におけるウイルスプロテアーゼとしては、例えば、SARS-CoV 3CLpro(cDNA:配列番号4、アミノ酸配列:配列番号5)及びHIV protease(cDNA:配列番号6、アミノ酸配列:配列番号7; Coffin, J.M. (Ed.), RETROVIRUSES; 757; Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New York, NY, USA (1997)中のPetropoulos,C.J., Retroviral taxonomy, protein structure, sequences, and genetic maps及びGenBankアクセッション番号:NC_001802)が挙げられる。
【0018】
上述したウイルスプロテアーゼのアミノ酸配列及びそのcDNAの塩基配列は、上記の配列番号に示されるアミノ酸配列及び塩基配列に限定されない。ウイルスプロテアーゼは、上記の配列番号に示されるアミノ酸配列において1又は数個(例えば1〜10個、1〜5個)のアミノ酸が置換、欠失又は付加されたアミノ酸配列から成り、且つウイルスプロテアーゼ活性を有するタンパク質であってもよい。しかしながら、置換や欠失の対象のアミノ酸としては、ウイルスプロテアーゼの活性部位(活性残基)を除く。例えば、SARS-CoV 3CLproはシステインプロテアーゼであり、配列番号5に示されるアミノ酸配列における第145番目のシステインがSARS-CoV 3CLproの活性残基である。当該活性残基が他のアミノ酸に置換されると、変異型SARS-CoV 3CLproは自己プロセシング活性を失う。
【0019】
ウイルスプロテアーゼをコードするcDNAには、上述した配列番号に示されるcDNAと相補的な塩基配列から成るDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、且つウイルスプロテアーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNAも含まれる。
【0020】
ここで、ストリンジェントな条件とは、例えば、ナトリウム濃度が25〜500mM、好ましくは25〜300mMであり、温度が42〜68℃、好ましくは42〜65℃の条件をいう。より具体的には、5×SSC(83mM NaCl、83mMクエン酸ナトリウム)、温度42℃である。
【0021】
N末端側認識配列は、一緒になって融合タンパク質の形態を成すウイルスプロテアーゼが天然のポリプロテインをプロセシングし、ウイルスタンパク質を産生する際に、当該ウイルスタンパク質のN末端側に存在する切断部位を意味する。例えば、ウイルスプロテアーゼがSARS-CoV 3CLproである場合には、N末端側認識配列はXXXQ(配列番号1:第1番目のXはA、V、P又はTであり、第2番目のXはT、V、K又はRであり、第3番目のXはL、F、M又はVである)であり、より具体的にはAVLQ(配列番号3)が挙げられる。AVLQ(配列番号3)は、SARS-CoVの2つのポリプロテイン(pp1a及びpp1ab)における、3CLpro(非構造タンパク質5(nsp(nonstructural protein)5)と称される)とそのN末端側のトランスメンブレン2(TM2)(nsp4と称される)との間に配置される切断部位である(非特許文献2のFigure 2)。すなわち、AVLQ(配列番号3)は、SARS-CoV 3CLproが自己プロセシングによりポリプロテインを切断する際の切断部位である。またウイルスプロテアーゼがHIV proteaseである場合には、N末端側認識配列としてはDRQGTVSFNF(配列番号8)が挙げられる(Coffin, J.M. (Ed.), RETROVIRUSES; 757; Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New York, NY, USA (1997)中のPetropoulos,C.J., Retroviral taxonomy, protein structure, sequences, and genetic maps及びGenBankアクセッション番号:NC_001802)。
【0022】
N末端側認識配列を含む配列(以下、「N末端側隣接配列」という)のアミノ酸長は、例えば4〜500アミノ酸、好ましくは4〜10アミノ酸とする。ウイルスプロテアーゼがSARS-CoV 3CLproである場合には、当該隣接配列はSARS-CoVの2つのポリプロテイン(pp1a及びpp1ab)における3CLpro(nsp5)のN末端側の上流アミノ酸残基(例えば、TM2(nsp4)のN末端まで(500アミノ酸残基))を含むことができる。
【0023】
一方、C末端側認識配列は、一緒になって融合タンパク質の形態を成すウイルスプロテアーゼが天然のポリプロテインをプロセシングし、ウイルスタンパク質を産生する際に、当該ウイルスタンパク質のC末端側に存在する切断部位を意味する。例えば、ウイルスプロテアーゼがSARS-CoV 3CLproである場合には、C末端側認識配列はXXX(配列番号2:第1番目のXはA、S、G又はNであり、第2番目のXはP以外のいずれかのアミノ酸であり、第3番目のXはF、E又はNである)であり、より具体的にはGKF(配列番号9)が挙げられる。GKF(配列番号9)は、SARS-CoVの2つのポリプロテイン(pp1a及びpp1ab)における、3CLproとそのC末端側のトランスメンブレン3(TM3)(nsp6と称される)との間に配置される切断部位である(非特許文献2のFigure 2)。すなわち、GKF(配列番号9)は、上述のAVLQ(配列番号3)と共に、SARS-CoV 3CLproが自己プロセシングによりポリプロテインを切断する際の切断部位である。またウイルスプロテアーゼがHIV proteaseである場合には、C末端側認識配列としてはPISPIETVPV(配列番号10)が挙げられる(Coffin, J.M. (Ed.), RETROVIRUSES; 757; Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New York, NY, USA (1997)中のPetropoulos,C.J., Retroviral taxonomy, protein structure, sequences, and genetic maps及びGenBankアクセッション番号:NC_001802)。
【0024】
C末端側認識配列を含む配列(以下、「C末端側隣接配列」という)のアミノ酸長は、例えば3〜290アミノ酸、好ましくは3〜10アミノ酸とする。ウイルスプロテアーゼがSARS-CoV 3CLproである場合には、当該隣接配列はSARS-CoVの2つのポリプロテイン(pp1a及びpp1ab)における3CLpro(nsp5)のC末端側の下流アミノ酸残基(例えば、TM3(nsp6)のC末端まで(290アミノ酸残基))を含むことができる。
【0025】
また、ウイルスプロテアーゼの成熟化とは、自己プロセシングにより融合タンパク質から切断され、正しくフォールディングされることで、ウイルスプロテアーゼ活性を示すようになることを意味する。
【0026】
ウイルスプロテアーゼ生産方法では、先ずN末端側隣接配列とウイルスプロテアーゼとC末端側隣接配列とがN末端よりこの順で配列してなる融合タンパク質(以下、「融合タンパク質」という)をコードするDNAを準備する。例えば、融合タンパク質をコードするDNAを、ウイルスゲノムDNA等を鋳型とし、特異的なプライマーセットを用いたPCRにより増幅し、単離することができる。また、N末端側隣接配列をコードするDNA、ウイルスプロテアーゼをコードするDNA及びC末端側隣接配列をコードするDNAをそれぞれPCRにより増幅した後、連結することで、融合タンパク質をコードするDNAを準備することができる。
【0027】
あるいは、融合タンパク質をコードするDNAは、N末端側隣接配列をコードするDNA、ウイルスプロテアーゼをコードするDNA及びC末端側隣接配列をコードするDNAをそれぞれ適当なベクターのマルチクローニングサイト等に導入することで用意することができる。例えば、下記の実施例の無細胞タンパク質合成系では、T7 RNAポリメラーゼを用いてmRNA合成(転写反応)を行うため、ベクターとしてはT7 プロモーターを有するベクターであればいずれのものでもよく、一般的なpETシリーズ発現ベクター(例えばpET3、pET9、pET11、pET15、pET21及びpET29a(Novagen社))等が挙げられる。
【0028】
さらに、融合タンパク質をコードするDNAは、発現カセットとして用意することもできる。
【0029】
これら発現ベクター又はカセットにおいて、融合タンパク質をコードするDNAは、無細胞タンパク質合成系において機能的な制御領域(例えば、プロモーター、エンハンサー、ターミネーター等)の制御下に配置される。
【0030】
次いで、ウイルスプロテアーゼ生産方法では、無細胞タンパク質合成系に、これら融合タンパク質をコードするDNAを有する発現ベクターや発現カセット等を添加し、融合タンパク質を発現させる。無細胞タンパク質合成系としては、例えば大腸菌無細胞タンパク質合成系、コムギ胚芽無細胞タンパク質合成系、カイコバキュロウイルス無細胞タンパク質合成系等が挙げられる。
【0031】
無細胞タンパク質合成系に対する融合タンパク質をコードするDNAを有する発現ベクターや発現カセット等の添加量は、使用する無細胞タンパク質合成系により適宜調整することができる。
【0032】
また、無細胞タンパク質合成系における融合タンパク質の発現条件としては、例えば20〜37℃(好ましくは30℃)の温度で、2〜6時間(好ましくは4時間)である。
【0033】
発現後、融合タンパク質からウイルスプロテアーゼが成熟化され、ウイルスプロテアーゼが産生されることとなる。
【0034】
産生したウイルスプロテアーゼを含む反応溶液は、そのまま使用してもよい。あるいは、ウイルスプロテアーゼの産生後、反応溶液から、例えば透析、陰イオン交換カラムクロマトグラフィー、等電点クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー、濃縮等の1以上の精製手段によって、ウイルスプロテアーゼを精製してもよい。
【0035】
得られたウイルスプロテアーゼの活性の測定方法としては、ウイルスプロテアーゼを基質となるアミノ酸配列から成るペプチド(N末端とC末端にはそれぞれ蛍光基と消光基が連結されている)と接触させ、次いで蛍光強度変化を測定する方法が挙げられる。例えば、蛍光基としてNma基を用い、消光基としてDnp基を用いた場合には、基質となるペプチド分子内でDnp基がNma基を消光している。当該ペプチドをウイルスプロテアーゼが切断した場合には、ペプチド分子内のDnp基で消光されていたNma基の蛍光強度(最大励起波長(Ex)=340nm、最大蛍光波長(Em)=440nm)が増加する。すなわち、ウイルスプロテアーゼによる切断の割合と蛍光強度の増加が正の相関を示す。従って、蛍光強度変化に基づくウイルスプロテアーゼ活性が、陰性対照と比較して統計的に有意な差で大きい場合には、得られたウイルスプロテアーゼは、良好にウイルスプロテアーゼ活性を有すると判断することができる。
【0036】
以上に説明したウイルスプロテアーゼ生産方法によれば、優れた生産性で、活性を有するウイルスプロテアーゼを生産することができる。生産したウイルスプロテアーゼは、例えば融合タンパク質発現系において、当該ウイルスプロテアーゼの基質ペプチドを介して連結した精製用タグの除去に利用することができる。
【0037】
本発明では、無細胞タンパク質合成系を使用する。そのため、大腸菌、酵母や動物細胞等の宿主細胞を使用しないので、生産されたウイルスプロテアーゼに対するコンタミネーションを最小限に抑えることができる。また、宿主細胞に由来するプロテアーゼが無細胞タンパク質合成系には含まれていないので、ウイルスプロテアーゼが他のプロテアーゼにより切断される可能性がない。さらに、宿主細胞を用いた場合と比較して、無細胞タンパク質合成系でのタンパク質発現にかかる時間は短いので、ウイルスプロテアーゼの生産時間を短縮することができる。
【0038】
無細胞タンパク質合成系には、適宜添加物を加えることができる。そこで、生産目的のウイルスプロテアーゼ以外のプロテアーゼに対するプロテアーゼインヒビターを無細胞タンパク質合成系に加えることで、さらにウイルスプロテアーゼの発現効率を向上させることができる可能性がある。
【0039】
本発明では、生産目的のウイルスプロテアーゼの自己プロセシングを利用することで、当該ウイルスプロテアーゼが成熟化される。従って、タグ等を利用して、ウイルスプロテアーゼを成熟化する必要がない。すなわち、本発明によれば、タグの切断に必要な他のプロテアーゼを使用することなく、成熟化したウイルスプロテアーゼを容易に得ることができる。
【実施例】
【0040】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
〔実施例1〕無細胞タンパク質合成系におけるSARS-CoV 3CLproの発現
1.SARS-CoV 3CLpro発現ベクターの構築
SARS-CoV 3CLpro(アミノ酸配列:配列番号5)をコードするDNA(cDNA:配列番号4)を含有するプラスミドを鋳型とし、以下のプライマーを用いたPCRにより、SARS-CoV 3CLproをコードするDNAを増幅した。
【0041】
フォワードプライマー:
5'-CGTGGATCCCAGACATCAATCACTTCTGCTGTTCTGCAGAGTGGTTTTAGGAAAATGGC-3'(配列番号11)
リバースプライマー:
5'-GGTGCTCGAGAGTGCCCTTAACAATTTTCTTGAACTTACCTTGGAAGGTAACACCAGAGC-3'(配列番号12)
【0042】
上記フォワードプライマー(配列番号11)によれば、SARS-CoV 3CLproをコードするDNAに、BamHI制限部位(下線)及びSARS-CoV 3CLproのN末端に付加する天然のpp1aポリプロテイン由来の10アミノ酸(QTSITSAVLQ:配列番号13)をコードする30ヌクレオチドが導入される。当該10アミノ酸(配列番号13)は、pp1aポリプロテインにおいて、3CLpro(nsp5)のN末端側で隣接するアミノ酸配列である(非特許文献2のFigure 2)。
【0043】
一方、上記リバースプライマー(配列番号12)によれば、SARS-CoV 3CLproをコードするDNAに、XhoI制限部位(下線)及びSARS-CoV 3CLproのC末端に付加する天然のpp1aポリプロテイン由来の10アミノ酸(GKFKKIVKGT:配列番号14)をコードする30ヌクレオチドが導入される。当該10アミノ酸(配列番号14)は、pp1aポリプロテインにおいて、3CLpro(nsp5)のC末端側で隣接するアミノ酸配列である(非特許文献2のFigure 2)。
【0044】
PCR条件は、熱変性(98℃, 20秒)、アニーリング(50℃, 30秒)及び伸長反応(68℃, 90秒)で、サイクル数が25サイクルであった。
【0045】
次いで、得られたPCR産物を制限酵素BamHI及びXhoIで切断した。一方、pET29a発現ベクター(Novagen社)を制限酵素BamHI及びXhoIで切断した。当該pET29a発現ベクターは、N末端Sタグ/トロンビン構成とC末端Hisタグ配列を有する。
【0046】
切断したPCR産物をpET29a発現ベクターのBamHI切断部位とXhoI切断部位との間に導入し、クローン化し、SARS-CoV 3CLproをコードするDNAを有する発現ベクターを作製した。得られた発現ベクターを「pET29a/SARS-3CLP wild-type (WT)」と呼ぶ。pET29a/SARS-3CLP WTにおけるSARS-CoV 3CLproをコードするDNAの塩基配列(配列番号15)を、図1に示す。図1において、2つの下線の塩基配列は、それぞれN末端側認識配列を含む配列(QTSITSAVLQ:配列番号13)をコードするDNA及びC末端側認識配列を含む配列(GKFKKIVKGT:配列番号14)をコードするDNAを示す。一方、2つの下線の塩基配列間の塩基配列は、SARS-CoV 3CLproをコードするDNA(配列番号4)を示す。
【0047】
図2は、pET29a/SARS-3CLP WTによってコードされるSARS-CoV 3CLproを含む融合タンパク質のアミノ酸配列を示す図である。図2(A)は、プロセシング前の融合タンパク質(配列番号16)を示す図である。図2(B)は、プロセシング後のSARS-CoV 3CLpro(配列番号5)を示す図である。
【0048】
図2(A)において、(1)のアミノ酸配列は、Sタグである。(2)のアミノ酸配列は、天然のpp1aポリプロテイン由来の10アミノ酸(配列番号13)である。(3)のアミノ酸配列は、天然のpp1aポリプロテイン由来の10アミノ酸(配列番号14)である。(4)のアミノ酸配列は、Hisタグである。
【0049】
また、SARS-CoV 3CLproのC145A変異体(配列番号5に示すアミノ酸配列において、第145番目のシステインがアラニンに置換されている:以下、「SARS-CoV 3CLpro-C145A」という)をコードするDNAを、pET29a/SARS-3CLP WTを鋳型として用いたオリゴヌクレオチド指向性突然変異誘発方法(Bramanら, 「Methods in Molecular Biology」, 1996年, 第57巻, p. 31-44)によって作製した。使用したプライマーは、以下の通りであった。
【0050】
フォワードプライマー:
5'-GGTTCTTTCCTTAATGGATCAGCTGGTAGTGTTGGTTTTAAC-3'(配列番号17)
リバースプライマー:
5'-GTTAAAACCAACACTACCAGCTGATCCATTAAGGAAAGAACC-3'(配列番号18)
【0051】
PCR条件は、上述のSARS-CoV 3CLproをコードするDNAを増幅した際と同様であった。
【0052】
得られたプラスミドにおいて、上述の変異に対応する塩基配列を、ジデオキシヌクレオチド配列決定分析により確認した。得られたベクターを、以下では「pET29a/SARS-3CLP-C145A」と呼ぶ。
【0053】
図3は、pET29a/SARS-3CLP WT及びpET29a/SARS-3CLP-C145Aによってそれぞれコードされる融合タンパク質の模式図である。図3において、「S」はSタグを示し、「HIS」はHisタグを示す。また、「N10」は天然のpp1aポリプロテイン由来の10アミノ酸(配列番号13)を示し、「C10」は天然のpp1aポリプロテイン由来の10アミノ酸(配列番号14)を示す。
【0054】
2.無細胞タンパク質合成系でのSARS-CoV 3CLproの発現
pET29a/SARS-3CLP WTを用いた無細胞タンパク質合成系の透析モードにより、組換え型SARS-CoV 3CLproを合成した。当該無細胞タンパク質合成系は、Kigawaら(「FEBS Letters」, 1999年, 第442巻, p. 15-19; 「Journal of Structural and Functional Genomics」, 2004年, 第5巻, p. 63-68)の方法に準じた。使用した無細胞タンパク質合成系は、大腸菌S30抽出物を用いた大腸菌無細胞タンパク質合成系である。
【0055】
無細胞タンパク質合成系には、以下の表1に示す組成から成る供給溶液及び表2に示す組成から成る反応溶液を用いた。
【0056】
【表1】
【0057】
【表2】
【0058】
表2において、鋳型DNAはpET29a/SARS-3CLP WT含有溶液である。
【0059】
次いで、反応混合物を、30℃で4時間振盪しながらインキュベートした。インキュベーション後、反応混合物を回収し、4℃で20分間、16,000rpmの遠心分離に供し、上清を分離した。
【0060】
図4は、無細胞タンパク質合成系で合成したSARS-CoV 3CLproのSDS-PAGEにおける結果を示す図である。図4において、各レーンは、以下を示す。
レーンM:分子量マーカー、レーン1:インキュベーション前の反応混合物サンプル、レーン2:インキュベーション後の反応混合物サンプル、レーン3:インキュベーション後の反応混合物に由来する上清サンプル
また、図4における矢印で示すバンドがSARS-CoV 3CLproのバンドである。
【0061】
図4に示すように、SARS-CoV 3CLproは発現した後、自己プロセシングされ、約34kDa付近にそのバンドがあった。
【0062】
また、pET29a/SARS-3CLP-C145Aを用いた無細胞タンパク質合成系において、組換え型SARS-CoV 3CLpro-C145Aを合成した。合成方法は、pET29/SARS-3CLP WTを用いた場合と同様の方法であった。
【0063】
図5は、無細胞タンパク質合成系で合成したSARS-CoV 3CLpro及びSARS-CoV 3CLpro-C145AのSDS-PAGE及びウエスタンブロッティングにおける結果を示す図である。
【0064】
図5(A)は、SARS-CoV 3CLproの自己プロセシングによる発現及びSARS-CoV 3CLpro-C145Aの非プロセシングの模式図である。図5(A)における略語は、図3に示す略語と同様である。
【0065】
図5(B)は、無細胞タンパク質合成系で合成したSARS-CoV 3CLpro及びSARS-CoV 3CLpro-C145AのSDS-PAGEにおける結果を示す図である。各レーンは以下を示す。
「レーンCtrl」:対照(pET29aを用いたインキュベーション後の反応混合物に由来する上清液)、「レーンWT」:pET29a/SARS-3CLP WTを用いたインキュベーション後の反応混合物に由来する上清液、「レーンC145A」:pET29a/SARS-3CLP-C145Aを用いたインキュベーション後の反応混合物に由来する上清液
【0066】
図5(B)において、レーンWTにおいて矢印で示すバンドは、自己プロセシング後のSARS-CoV 3CLproのバンドである。一方、レーンC145Aにおいて矢印で示すバンドは、非プロセシングのため切断されていないSARS-CoV 3CLpro-C145Aのバンドである。
【0067】
図5(C)は、無細胞タンパク質合成系で合成したSARS-CoV 3CLpro及びSARS-CoV 3CLpro-C145Aのウエスタンブロッテイングにおける結果を示す図である。各レーンは以下を示す。
「レーンWT」:pET29a/SARS-3CLP WTを用いたインキュベーション後の反応混合物に由来する上清液、「レーンC145A」:pET29a/SARS-3CLP-C145Aを用いたインキュベーション後の反応混合物に由来する上清液
【0068】
図5(C)において、「α-3CLpro」の結果は、一次抗体として抗SARS-CoV 3CLpro抗体(Genesis Biotech社)を用いた結果である。「α-His」の結果は、一次抗体として抗Hisタグ抗体(Novagen社)を用いた結果である。「S-protein」の結果は、一次抗体として抗Sタグ抗体(Novagen社)を用いた結果である。また、図5(C)において、矢印(1)で示すバンドは、自己プロセシング後のSARS-CoV 3CLproのバンドである。一方、矢印(2)で示すバンドは、非プロセシングのため切断されていないSARS-CoV 3CLpro-C145Aのバンドである。
【0069】
図5に示すように、SARS-CoV 3CLproは自己プロセシングし、発現するのに対して、SARS-CoV 3CLpro-C145Aは自己プロセシングすることなく、融合タンパク質の形態のままであった。
【0070】
非特許文献3には、大腸菌においてSARS-CoV 3CLproを発現させたことが開示されている。非特許文献3において示される大腸菌でのSARS-CoV 3CLproの発現量(Figure 1(d))と比較すると、図5(B)に示す無細胞タンパク質合成系で合成したSARS-CoV 3CLproの発現量は、非常に高いことが分かる。
【0071】
3.SARS-CoV 3CLproの精製
上記第2節で合成した組換え型SARS-CoV 3CLproを精製した。なお、精製に際して使用したバッファーは、以下の通りであった。
(1)バッファーA: 20mM Tris-HCl, pH 7.6, 1mM EDTA, 1mM DTT
(2)バッファーB: 20mM Tris-HCl, pH 7.6, 1mM EDTA, 1mM DTT, 1M NaCl
(3)バッファーC: 25mM Imidazole-HCl, pH 7.6, 1mM DTT
(4)バッファーD: 1/8 Polybuffer74, pH 5.0, 1mM DTT
(5)バッファーE: 20mM Tris-HCl, pH 7.5, 1mM EDTA, 1mM DTT, 0.1M NaCl
(6)バッファーF: 10mM Tris-HCl, pH 7.5, 0.1mM EDTA, 1mM DTT
【0072】
先ず、第2節で合成した組換え型SARS-CoV 3CLproを含有する反応混合物(27ml)を回収した。次いで、回収した反応混合物をバッファーA(2L)に対する透析に供した。
【0073】
透析後のタンパク質をエコノパックHighQカートリッジ(5 ml)カラムクロマトグラフィー(Bio-Rad社)に供した。バッファーとしてバッファーA及びバッファーBを用いて、NaCl濃度勾配を0〜0.15Mとした。また、アプライ容量は、5又は10mlとした。図6は、エコノパックHighQカートリッジカラムクロマトグラフィーによる画分の吸光度波形を示す図である。SDS-PAGEによって組換え型SARS-CoV 3CLproを含有する画分(図6において、四角で囲んだ画分)を確認し、当該画分を回収した。
【0074】
次いで、回収した画分をバッファーC(2L)に対する透析に供した。この際、バッファーを2回交換した。
【0075】
透析後のタンパク質をMono P 5/200 GLカラム(GE Healthcare社)を用いた等電点クロマトグラフィーに供した。バッファーとしてバッファーC及びバッファーDを用いた。またアプライ容量は、25又は50mlとした。図7は、Mono P 5/200 GLカラムを用いた等電点クロマトグラフィーによる画分の吸光度波形を示す図である。組換え型SARS-CoV 3CLproを含有する画分(図7において、画分番号. 19〜21)を回収した。
【0076】
得られた画分を、更にHiPrep 26/60 Sephacryl S-300カラム(GE Healthcare社)を用いたゲル濾過クロマトグラフィーに供した。使用したバッファーはバッファーEであった。アプライ容量は2mlであった。図8は、HiPrep 26/60 Sephacryl S-300カラムを用いたゲル濾過クロマトグラフィーによる画分の吸光度波形を示す図である。組換え型SARS-CoV 3CLproを含有する画分(図8において、画分番号. 66〜82)を回収した。
【0077】
次いで、回収した画分中の組換え型SARS-CoV 3CLpro濃度を、Quick Startプロテインアッセイ(Bio-Rad社)を用いて決定した。
【0078】
濃度決定後、回収した画分中の組換え型SARS-CoV 3CLproを限外ろ過(Millipore社)によって約10mg/mlまで濃縮した。この際、バッファーFを用いたバッファー交換を行った。
【0079】
以上のようにして、約7mgの組換え型SARS-CoV 3CLproを、無細胞タンパク質合成系の反応混合物27mlから精製することができた。一方、非特許文献3の開示によれば、大腸菌で発現させ、精製した場合には、約7mgの組換え型SARS-CoV 3CLproを得るためには、多量の細胞培養物を必要すると考えられる(同文献, Figure 1(d))。
【0080】
図9は、精製した組換え型SARS-CoV 3CLproのSDS-PAGEによる結果を示す図である。各レーンは、以下を示す。
「レーン1」:分子量マーカー、「レーン2」:無細胞タンパク質合成系で合成した後の反応混合物に由来する上清液(精製前のSARS-CoV 3CLproサンプル)、「レーン3」:精製した組換え型SARS-CoV 3CLproサンプル
【0081】
また、図9における矢印で示すバンドがSARS-CoV 3CLproのバンドである。
図9に示すように、SARS-CoV 3CLproを上述の方法で完全精製する事に成功した。
【0082】
4.SARS-CoV 3CLproのウイルスプロテアーゼ活性
上記第3節で精製した組換え型SARS-CoV 3CLproのウイルスプロテアーゼ活性を測定した。
【0083】
使用した基質は、Nma-TSAVLQSGFRK(Dnp)-NH2(配列番号19)から成るペプチドであった。当該ペプチドは、SARS-CoVの2つのポリプロテイン(pp1a及びpp1ab)における3CLpro(nsp5)のN末端側の部分アミノ酸配列とそれに隣接するアミノ酸配列を含むアミノ酸配列(TSAVLQ/SGFRK: 「/」は切断点である)に由来するものである。なお、当該ペプチドのN末端及びC末端には、それぞれNma基及びDnp基が付加されている。
バッファーは、ストック溶液(62.5mM Tris-HCl, pH7.3, 1.25mM DTT)として準備した。
【0084】
アッセイの反応液組成は、以下の通りであった。
最終濃度(合計容量:200μl)
(1)50mMバッファー(50mM Tris-HCl, pH 7.3, 1mM DTT)
(2)0〜200nM組換え型SARS-CoV 3CLpro
(3)100μM基質
(4)蒸留水(DW):合計容量まで
【0085】
先ず、バッファーストック溶液160μlを96穴マイクロタイタープレートの各ウエルに添加した。次いで、DWを各ウエルに添加し、その後、組換え型SARS-CoV 3CLproを含む溶液を添加した。さらに1mM基質溶液20μlを各ウエルに添加し、ウエル中の溶液を混合した。
【0086】
10分間のインキュベーション後、蛍光分光測定装置(TECAN社)により蛍光強度(Ex=340nm、Em=440nm)を測定した。
【0087】
同様に、SARS-CoV 3CLproのN末端にGPLG(配列番号20)又はGPを連結した融合タンパク質(以下、それぞれ「GPLG-SARS-CoV 3CLpro」及び「GP-SARS-CoV 3CLpro」という)についても、ウイルスプロテアーゼ活性を測定した。
【0088】
なお、GPLG-SARS-CoV 3CLpro及びGP-SARS-CoV 3CLproを以下のように作製した。
【0089】
GPLG-SARS-CoV 3CLproをコードするDNAを、SARS-CoV 3CLpro(アミノ酸配列:配列番号5)をコードするDNA(cDNA:配列番号4)を含有するプラスミドを鋳型とし、以下のプライマーを用いたPCRにより増幅した。
【0090】
フォワードプライマー:
5'-GGTGGATCCGGTTTTAGGAAAATGGCATTCCCGTC-3'(配列番号21)
リバースプライマー:
5'-GTCCTCGAGTCATTGGAAGGTAACACCAGAGC-3'(配列番号22)
【0091】
PCR条件は、上述のSARS-CoV 3CLproをコードするDNAを増幅した際と同様であった。
【0092】
次いで、得られたPCR産物を制限酵素BamHI及びXhoIで切断した。一方、pGEX-6P-1ベクター(GE Healthcare社)も同様に制限酵素BamHI及びXhoIで切断した。
【0093】
切断したPCR産物をpGEX-6P-1ベクターのBamHI切断部位とXhoI切断部位との間に導入し、クローン化し、GPLG-SARS-CoV 3CLproをコードするDNAを有する発現ベクターを構築した。
【0094】
また、GP-SARS-CoV 3CLproをコードするDNAを、上述のGPLG-SARS-CoV 3CLproをコードするDNAを有する発現ベクターを鋳型として用いたオリゴヌクレオチド指向性突然変異誘発方法によって作製した。使用したプライマーは、以下の通りであった。
【0095】
フォワードプライマー:
5'-GGAAGTTCTGTTCCAGGGGCCCTCCGGTTTTAGGAAAATGGC-3'(配列番号23)
リバースプライマー:
5'-GCCATTTTCCTAAAACCGGAGGGCCCCTGGAACAGAACTTCC-3'(配列番号24)
【0096】
PCR条件は、上述のSARS-CoV 3CLproをコードするDNAを増幅した際と同様であった。
【0097】
以上のように作製したGPLG-SARS-CoV 3CLproをコードするDNAを有する発現ベクター及びGP-SARS-CoV 3CLproをコードするDNAを有する発現ベクターをそれぞれ用いて、大腸菌BL21を形質転換させ、それぞれのタンパク質を発現させた。
【0098】
得られた形質転換体(大腸菌)を破砕し、GST融合タンパク質精製用アフィニティーゲル(GE Healthcare社)及びUnoQ(Bio Rad社)カラムクロマトグラフィーを用いてGPLG-SARS-CoV 3CLpro及びGP-SARS-CoV 3CLproを完全精製した。このようにして精製したGPLG-SARS-CoV 3CLpro及びGP-SARS-CoV 3CLproを、ウイルスプロテアーゼ活性測定に用いた。
【0099】
組換え型SARS-CoV 3CLpro、GPLG-SARS-CoV 3CLpro及びGP-SARS-CoV 3CLproのウイルスプロテアーゼ活性を図10に示す。図10における縦軸は、基質の切断により生じた蛍光強度(F)である。一方、横軸は、基質との混合を開始時間としたインキュベーション時間(分)である。図10において、「WT」は組換え型SARS-CoV 3CLproであり、「GP-WT」はGP-SARS-CoV 3CLproであり、「GPLG-WT」はGPLG-SARS-CoV 3CLproである。
【0100】
図10に示すように、組換え型SARS-CoV 3CLproの酵素活性はGP-SARS-CoV 3CLproとGPLG-SARS-CoV 3CLproの活性に比べかなり高いことが明らかとなった。
【0101】
非特許文献3には、大腸菌で発現させた組換え型SARS-CoV 3CLpro及び当該組換え型SARS-CoV 3CLproのN末端又はC末端に付加配列を有する融合タンパク質のプロテアーゼ活性について開示している(同文献, Table 3)。非特許文献3のTable 3との結果と比較して、本実施例で作製した組換え型SARS-CoV 3CLpro、GP-SARS-CoV 3CLpro及びGPLG-SARS-CoV 3CLproの酵素活性はほぼ同じであった。
【0102】
〔比較例1〕大腸菌における組換え型SARS-CoV 3CLproの発現
pET29a/SARS-3CLP WTを用いて、大腸菌(BL21(DE3))を形質転換した。このように作製した形質転換体(BL21(DE3)/pET29a/SARS-3CLP WT株)をLB/アンピシリン液体培地に加え、37℃で振とう培養し、IPTGにより目的タンパク質の誘導を掛け、大腸菌内でSARS-CoV 3CLproを発現させた。
【0103】
同様の方法により、pET29a/SARS-3CLP-C145Aを用いて大腸菌を形質転換し、SARS-CoV 3CLpro-C145Aを発現させた。
【0104】
結果を図11に示す。図11は、大腸菌及び無細胞タンパク質合成系で合成したSARS-CoV 3CLpro及びSARS-CoV 3CLpro-C145AのSDS-PAGEにおける結果を示す図である。図11(A)に示す結果が大腸菌で合成したSARS-CoV 3CLpro及びSARS-CoV 3CLpro-C145AのSDS-PAGEにおける結果であり、図11(B)に示す結果が無細胞タンパク質合成系で合成したSARS-CoV 3CLpro及びSARS-CoV 3CLpro-C145AのSDS-PAGEにおける結果である。なお、図11(B)は、図5(B)と同一である。
【0105】
図11(A)の各レーンは以下を示す。
「レーンWT」:pET29a/SARS-3CLP WTを用いた形質転換体(大腸菌)に由来する溶菌液、「レーンC145A」:pET29a/SARS-3CLP-C145Aを用いた形質転換体(大腸菌)に由来する溶菌液
【0106】
また、図11(A)における矢印のバンドは、非プロセシングのため切断されていないSARS-CoV 3CLpro-C145Aのバンドである。
【0107】
図11に示すように、大腸菌ではSARS-CoV 3CLproの発現量が低かった。しかしながら、大腸菌において、SARS-CoV 3CLpro-C145Aは、活性残基に変異を入れて活性を失うことで発現した。これは活性型のSARS-CoV 3CLproが大腸菌内の何らかの機構を刺激して、分解されてしまうためだと考えられた。
【0108】
〔参考例1〕SARS-CoV 3CLproの基質特異性
N末端が正しくプロセシングされており、C末端に10残基のC末端側隣接配列(配列番号14)を有するSARS-CoV 3CLPro-C145A変異体の結晶構造解析を行ったところ、隣接配列を含むC末端領域が結晶内において隣の非対称単位の活性部位に結合していたため、これが基質認識並びに自己プロセシングの様式を示していると考えた。
【0109】
図12に示す基質ペプチドと結合したSARS-CoV 3CLProの立体構造モデルにおいて、切断される基質の切断箇所よりN末端側を青のバックボーンで示したスティックで、C末端側を赤のバックボーンで示したスティックで示す。酵素側は表面モデルで示し、活性残基のC145に対応するAla残基は黄色で示した。ここで、上述の基質ペプチド(配列番号19)のアミノ酸配列において、切断点から上流(N末端側)に向かってアミノ酸残基を順にP1、P2、P3・・・と定義する。一方、切断点から下流(C末端側)に向かってアミノ酸残基を順にP1'、P2'、P3'・・・と定義する。
【0110】
非特許文献1には、SARS-CoV 3CLproの基質特異性について開示されている(同文献, Fig. 6)。
【0111】
図12に示す結果と非特許文献1のFig. 6bとを比較すると、P4、P3、P2、P1、P1'、P2'の特異性は図12の構造からよく説明できる。ただし、P3'については非特許文献1では特異性が低いのに対し、立体構造上では側鎖が結合するポケットの存在が見出されたため、少なくとも自己プロセシングに関してはP3'部位の認識も重要であることが明らかとなった。
【図面の簡単な説明】
【0112】
【図1】pET29a/SARS-3CLP WTにおけるSARS-CoV 3CLproをコードするDNAの塩基配列(配列番号15)を示す図である。
【図2】pET29a/SARS-3CLP WTによってコードされるSARS-CoV 3CLproを含む融合タンパク質のアミノ酸配列を示す図である。
【図3】pET29a/SARS-3CLP WT及びpET29a/SARS-3CLP-C145Aによってそれぞれコードされる融合タンパク質の模式図である。
【図4】無細胞タンパク質合成系で合成したSARS-CoV 3CLproのSDS-PAGEにおける結果を示す図である。
【図5】無細胞タンパク質合成系で合成したSARS-CoV 3CLpro及びSARS-CoV 3CLpro-C145AのSDS-PAGE及びウエスタンブロッティングにおける結果を示す図である。
【図6】エコノパックHighQカートリッジカラムクロマトグラフィーによる画分の吸光度波形を示す図である。
【図7】Mono P 5/200 GLカラムを用いた等電点クロマトグラフィーによる画分の吸光度波形を示す図である。
【図8】HiPrep 26/60 Sephacryl S-300カラムを用いたゲル濾過クロマトグラフィーによる画分の吸光度波形を示す図である。
【図9】精製した組換え型SARS-CoV 3CLproのSDS-PAGEによる結果を示す図である。
【図10】組換え型SARS-CoV 3CLpro、GPLG-SARS-CoV 3CLpro及びGP-SARS-CoV 3CLproのウイルスプロテアーゼ活性を示す特性図である。
【図11】大腸菌及び無細胞タンパク質合成系で合成したSARS-CoV 3CLpro及びSARS-CoV 3CLpro-C145AのSDS-PAGEにおける結果を示す図である。
【図12】基質ペプチドと結合したSARS-CoV 3CLproの立体構造モデルである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無細胞タンパク質合成系において、N末端側認識配列を含む配列とポリプロテインプロセシングに関与するウイルスプロテアーゼとC末端側認識配列を含む配列とがN末端よりこの順で配列してなる融合タンパク質であって、該N末端側認識配列と該C末端側認識配列とが該プロテアーゼに隣接する前記融合タンパク質を発現させる工程を含み、
前記融合タンパク質の発現後に、前記プロテアーゼのN末端側認識配列及びC末端側認識配列の切断により、前記融合タンパク質から前記プロテアーゼが成熟化されることを特徴とする、ウイルスプロテアーゼの生産方法。
【請求項2】
上記ウイルスプロテアーゼがSARSコロナウイルスの3C様システインプロテアーゼであり、上記N末端側認識配列が配列番号1で示されるアミノ酸配列であり、且つ上記C末端側認識配列が配列番号2で示されるアミノ酸配列であることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
上記無細胞タンパク質合成系が大腸菌無細胞タンパク質合成系であることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項4】
N末端側認識配列を含む配列とポリプロテインプロセシングに関与するウイルスプロテアーゼとC末端側認識配列を含む配列とがN末端よりこの順で配列してなる融合タンパク質であって、該N末端側認識配列と該C末端側認識配列とが該プロテアーゼに隣接する前記融合タンパク質をコードするDNAを有する、無細胞タンパク質合成系におけるウイルスプロテアーゼ発現用ベクター。
【請求項5】
上記ウイルスプロテアーゼがSARSコロナウイルスの3C様システインプロテアーゼであり、上記N末端側認識配列が配列番号1で示されるアミノ酸配列であり、且つ上記C末端側認識配列が配列番号2で示されるアミノ酸配列であることを特徴とする、請求項4記載のウイルスプロテアーゼ発現用ベクター。
【請求項6】
上記無細胞タンパク質合成系が大腸菌無細胞タンパク質合成系であることを特徴とする、請求項4記載のウイルスプロテアーゼ発現用ベクター。
【請求項7】
N末端側認識配列を含む配列とポリプロテインプロセシングに関与するウイルスプロテアーゼとC末端側認識配列を含む配列とがN末端よりこの順で配列してなる融合タンパク質であって、該N末端側認識配列と該C末端側認識配列とが該プロテアーゼに隣接する前記融合タンパク質をコードするDNAを有する、無細胞タンパク質合成系におけるウイルスプロテアーゼ発現用カセット。
【請求項8】
上記ウイルスプロテアーゼがSARSコロナウイルスの3C様システインプロテアーゼであり、上記N末端側認識配列が配列番号1で示されるアミノ酸配列であり、且つ上記C末端側認識配列が配列番号2で示されるアミノ酸配列であることを特徴とする、請求項7記載のウイルスプロテアーゼ発現用カセット。
【請求項9】
上記無細胞タンパク質合成系が大腸菌無細胞タンパク質合成系であることを特徴とする、請求項7記載のウイルスプロテアーゼ発現用カセット。
【請求項1】
無細胞タンパク質合成系において、N末端側認識配列を含む配列とポリプロテインプロセシングに関与するウイルスプロテアーゼとC末端側認識配列を含む配列とがN末端よりこの順で配列してなる融合タンパク質であって、該N末端側認識配列と該C末端側認識配列とが該プロテアーゼに隣接する前記融合タンパク質を発現させる工程を含み、
前記融合タンパク質の発現後に、前記プロテアーゼのN末端側認識配列及びC末端側認識配列の切断により、前記融合タンパク質から前記プロテアーゼが成熟化されることを特徴とする、ウイルスプロテアーゼの生産方法。
【請求項2】
上記ウイルスプロテアーゼがSARSコロナウイルスの3C様システインプロテアーゼであり、上記N末端側認識配列が配列番号1で示されるアミノ酸配列であり、且つ上記C末端側認識配列が配列番号2で示されるアミノ酸配列であることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
上記無細胞タンパク質合成系が大腸菌無細胞タンパク質合成系であることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項4】
N末端側認識配列を含む配列とポリプロテインプロセシングに関与するウイルスプロテアーゼとC末端側認識配列を含む配列とがN末端よりこの順で配列してなる融合タンパク質であって、該N末端側認識配列と該C末端側認識配列とが該プロテアーゼに隣接する前記融合タンパク質をコードするDNAを有する、無細胞タンパク質合成系におけるウイルスプロテアーゼ発現用ベクター。
【請求項5】
上記ウイルスプロテアーゼがSARSコロナウイルスの3C様システインプロテアーゼであり、上記N末端側認識配列が配列番号1で示されるアミノ酸配列であり、且つ上記C末端側認識配列が配列番号2で示されるアミノ酸配列であることを特徴とする、請求項4記載のウイルスプロテアーゼ発現用ベクター。
【請求項6】
上記無細胞タンパク質合成系が大腸菌無細胞タンパク質合成系であることを特徴とする、請求項4記載のウイルスプロテアーゼ発現用ベクター。
【請求項7】
N末端側認識配列を含む配列とポリプロテインプロセシングに関与するウイルスプロテアーゼとC末端側認識配列を含む配列とがN末端よりこの順で配列してなる融合タンパク質であって、該N末端側認識配列と該C末端側認識配列とが該プロテアーゼに隣接する前記融合タンパク質をコードするDNAを有する、無細胞タンパク質合成系におけるウイルスプロテアーゼ発現用カセット。
【請求項8】
上記ウイルスプロテアーゼがSARSコロナウイルスの3C様システインプロテアーゼであり、上記N末端側認識配列が配列番号1で示されるアミノ酸配列であり、且つ上記C末端側認識配列が配列番号2で示されるアミノ酸配列であることを特徴とする、請求項7記載のウイルスプロテアーゼ発現用カセット。
【請求項9】
上記無細胞タンパク質合成系が大腸菌無細胞タンパク質合成系であることを特徴とする、請求項7記載のウイルスプロテアーゼ発現用カセット。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2009−124993(P2009−124993A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−303242(P2007−303242)
【出願日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度、文部科学省、タンパク3000委託研究「タンパク質基本構造の網羅的解析プログラム」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度、文部科学省、タンパク3000委託研究「タンパク質基本構造の網羅的解析プログラム」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【Fターム(参考)】
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