説明

ウイルスワクチンの生産用のアヒル胚由来幹細胞株

本発明は、ウイルスワクチンの開発および製造に関する。特に、本発明は、ウイルスベクターおよびワクチンの工業生産の分野、より具体的には、ウイルスベクターおよびウイルスを生産するための、鳥類胚性幹細胞、好ましくはアヒル胚性幹細胞由来のEBx(登録商標)細胞株の使用に関する。本発明は、ヒトおよび動物のウイルス感染を予防するためのウイルスワクチンの工業生産に特に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウイルスワクチンの開発および製造に関する。特に、本発明は、ウイルスベクターおよびワクチンの工業生産の分野、より具体的には、ウイルスベクターおよびウイルスを生産するための、鳥類内在性レトロウイルスを含まない胚性幹細胞由来のアヒル細胞株の使用に関する。本発明は、ヒトおよび動物のウイルス感染を予防するためのウイルスワクチンの工業生産に特に有用である。
【背景技術】
【0002】
背景
ワクチンは、例えばインフルエンザ、麻疹、流行性耳下腺炎、天然痘、黄熱病などの多くのウイルス感染症による死亡および疾患を効果的に軽減および予防する。
【0003】
多くのウイルスワクチンは、現在、有胚鶏卵、またはニワトリ胚から単離された初代ニワトリ胚線維芽細胞で生産されている。しかしながら、ワクチン生産は、ワクチン株を増殖させるために使用した鳥類細胞基材から生じた可能性のある外来性病原体による不意の汚染によって時折複雑化してきた。実際に、黄熱病、麻疹、および流行性耳下腺炎用に欧州および米国の製造業者によって生産されたものをはじめとするニワトリ細胞由来弱毒生ワクチンにおいて、レトロウイルスが存在することの指標である逆転写酵素(RT)活性が検出された(Hussain et al., 2003, J. Virol 77:1105-1111(非特許文献1);Johnson et Heneine, 2001, J. Virol., 75:3605-3612(非特許文献2))。それらのワクチンにおけるRT活性の起源の調査から、内在性鳥類ロイコシスウイルス(ALV-E)および内在性鳥類ウイルス(EAV)のRNAを含む粒子の証拠が見出された(Johnson et Heneine, 2001, J. Virol 75:3605-3612(非特許文献2);Tsang et al., 1999, J. Virol 73:5843-5851(非特許文献3);Weissmahr et al., 1997, J. Virol 71:3005-3012(非特許文献4))。
【0004】
ALV-EおよびEAVはいずれも、ニワトリ生殖系列中に存在する内在性レトロウイルスファミリーのメンバーである。ALV-Eは、遺伝性プロウイルスエレメントであるev遺伝子座から発現される。それらのエンベロープ配列によると、ALV-Eは、外因的獲得感染であるALV亜群A〜DおよびJと区別される。外因性ALVが、感染ニワトリにおいて心筋炎および大理石骨病などのいくつかの腫瘍性疾患を引き起こすのに対して、ALV-Eはニワトリに対して病原性がないことが知られている。ALV-E感染による発癌の可能性の欠如は、内在性の長い末端反復配列(LTR)内にウイルス癌遺伝子およびエンハンサー活性の両方が存在しないことに起因し得る。白色レグホンニワトリにおいて、20を超える異なるev遺伝子座が同定されている(ev-1〜ev-22)。ev遺伝子座名は発見された順に割り当てられ、それらが発現する遺伝子産物および感染粒子を生じるそれらの能力に関して表現型的に分類される。ev遺伝子座によって付与されるALV-E表現型は、構造的および酵素的に完全な感染粒子から、構造的または酵素的(RT-)欠損を経て、検出可能なウイルスタンパク質発現がないものまで様々である。大部分のev遺伝子座は構造的に不完全であり、よって感染性ウイルス粒子の産生に必要なすべての配列をコードしていない。ALV-Eに耐性となるように繁殖させることにより、ev-0と命名されたニワトリ株が得られている。系統-0ニワトリはev遺伝子座を欠いているが(すなわち、ev-0)、EAVプロウイルス配列はゲノム系統0ニワトリ内に存在する(Dunwiddie and Faras, 1985, Proc Natl. Acad. Sci USA, 82: 5097-5101(非特許文献5))。
【0005】
ALVファミリーと異なるが関連しているEAVファミリーについては、ほとんど知られていない。EAVエレメントは、ニワトリゲノム当たり少なくとも50コピー存在する。しかしながら、公知のEAV配列はいずれも全長で無傷のレトロウイルスゲノムではなく、感染性EAV分離株は今のところ同定されていない。しかしながら、EAVは、鳥類属であるガルス属に由来する胚細胞で高発現することが示されている。Weissmahr et al. (1997, J. Virol 71:3005-3012)(非特許文献4)は、EAV内在性レトロウイルスファミリーによる粒子が、培養ニワトリ胚線維芽細胞の上清中に見出される粒子付随RT活性の大部分に関与している可能性が最も高いことを示している。
【0006】
弱毒生ウイルスワクチンは不活化手順に供され得ず、それらの大部分はヒトに注射され、よって非特異的免疫防御機構を回避するため、弱毒生ウイルスワクチンでは不意の伝染のリスクが特に高い。したがって、動物およびヒトに使用するためのワクチンの安全性を保証するために、ワクチン生産用の細胞基材は現在のところ、免疫中に動物またはヒト宿主に渡され得る複製能のあるレトロウイルスの存在について検査が行われている(WHO technical reports Series, 1994(非特許文献6))。
【0007】
一方、有胚鶏卵および初代ニワトリ胚線維芽細胞生産システムは、以下を含むいくつかの重大な限界を伴う:
‐個々の生産キャンペーンに対して、大量の卵またはCEFの調達および品質管理を必要とする、長く煩雑でかつ資源消費する製造方法;
‐多くの場合に、高価な特定病原体不在(SPF)ニワトリ胚を使用する必要性;
‐流行感染の場合に、ドナーニワトリ群で卵の供給が不足するというリスク;
‐BSE非発生国からのウシ血清の使用に伴うインフレ傾向のコスト;
‐強毒性で、ニワトリにとって致死的なウイルスの増殖に卵を使用できないこと。
【0008】
よって、卵またはニワトリ胚線維芽細胞に基づく現在のウイルスワクチン生産技術を改良することが急務である。ウイルスワクチンを製造するための卵およびCEF生産システムに代わるものとしての細胞培養プラットホームの開発は、現在のワクチン生産の障害および時間の制約を克服するための最も迅速でかつ有望な解決法である可能性が高い。さらに、卵またはCEFプラットホームの代わりに、ウイルスワクチンの製造に細胞株を使用することは、ワクチンの安全性と関連して以下のさらなる利点がある:ワクチン製剤中に抗生物質添加物が存在しないこと;毒性のある防腐剤(チオメルサールなど)が不要であること;内毒素レベルが減少すること、卵アレルギー問題がないこと;タンパク質および血清を含まない培地中での細胞培養により、外来性病原体/BSEのリスクがないこと;ウイルスワクチン調製物が高純度であること。
【0009】
ウイルスワクチンの生産用の細胞株の例は、MDCK(メイディン・ダービーイヌの腎臓に由来する細胞)、PerC6(CRUCELL(オランダ)によって開発された、ヒトアデノウイルス5型からのE1遺伝子を挿入することによって遺伝子改変された、ヒト胚網膜細胞に由来する細胞)、VERO(千葉大学、日本、千葉で単離された、アフリカミドリザル(サバンナモンキー(Cercopithecus aethiops))の腎臓の上皮細胞に由来する細胞)、BHK21(ベビーハムスター腎臓細胞から不死化された細胞)である。利用可能ないずれの細胞株も、医学上、規制上、および工業上の要件のすべてを満たすわけではない。例えば、これらの細胞株の大部分は腫瘍形成性であり、ヒトワクチンの生産に腫瘍形成性細胞を使用することに関する重要な規制上の問題がある;したがって、現在のところ規制当局は、大量のワクチンを生産するための腫瘍形成性細胞基材の認可に消極的である。加えて、これらの細胞株のいくつかは足場依存性であり、これがワクチン生産の工業的拡大にとって重大な障害となっている。
【0010】
したがって、非腫瘍形成性でありかつ工業的に適合し、広範囲のウイルスによる感染を受けやすい、複製能のあるレトロウイルスを含まない足場非依存性細胞株を開発する必要性がある。これが本発明の目的である。
【0011】
したがって、本発明者らは、ヒトワクチンおよび獣医ワクチンならびにワクチン候補の大きな群の効率的な複製を可能にする新規の安定したアヒル細胞株の開発に着手するために、鳥類生物学および鳥類胚性幹(ES)細胞における専門知識を利用した。独自の方法(WO 03/076601(特許文献1)およびWO 05/007840(特許文献2)を参照されたい)を適合させることにより、本発明者らは、遺伝的、化学的、またはウイルス不死化の過程なしにアヒルES細胞から導出され、かつ培養において複製能のあるレトロウイルスを産生しない、十分に特徴づけられ、実証された一連のアヒル細胞株(すなわち、dEBx(登録商標)細胞)を作製することができた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】WO 03/076601
【特許文献2】WO 05/007840
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Hussain et al., 2003, J. Virol 77:1105-1111
【非特許文献2】Johnson et Heneine, 2001, J. Virol., 75:3605-3612
【非特許文献3】Tsang et al., 1999, J. Virol 73:5843-5851
【非特許文献4】Weissmahr et al., 1997, J. Virol 71:3005-3012
【非特許文献5】Dunwiddie and Faras, 1985, Proc Natl. Acad. Sci USA, 82: 5097-5101
【非特許文献6】WHO technical reports Series, 1994
【発明の概要】
【0014】
本発明は、鳥類胚性幹細胞(ES)に由来するEBxと命名された連続継代性二倍体鳥類細胞株を得るための方法であって、該鳥類細胞株が複製能のある内在性レトロウイルス粒子を産生しない方法を提供する。
本説明の残りの部分では、下記の図面の説明文について言及する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
(図1)足場非依存性ニワトリEBx細胞を示す。図1A:無血清培地中での足場非依存性ニワトリValo EBv13細胞。EBv13細胞を、懸濁無血清培地Excell 65319(SAFC)中で37℃で培養した。EBv13細胞は均一な大きさを有し、培養物中に緩い凝集塊として増殖する。集団倍加時間は約16〜18時間であり、撹拌フラスコ容器中で到達した細胞密度は、約4〜500万個細胞/mlであった。図1B:無血清培地中での足場非依存性ニワトリEB系統0細胞。EB系統0細胞を、懸濁無血清培地Excell 66444(SAFC)中で39℃で培養した。EB系統0細胞は均一な大きさを有し、緩い凝集塊として増殖する。
(図2)ニワトリValo EBv13細胞は、高レベルのテロメラーゼを発現する。継代p193代目のEBv13細胞は、継代p164代目(マスターセルバンク:MCB)または継代p184代目(ワーキングセルバンク:WCB)のニワトリEB14-O74細胞(WO03/076601を参照されたい)と同じ桁数の高レベルのテロメラーゼを発現する。マウス胚性幹細胞(mES)を陽性対照として使用し、マウス線維芽細胞(FED)を陰性対照として使用した。
(図3Aおよび3B)ポックスウイルスに対するニワトリValo EBv13の感受性を示す。EBv13(継代188代目)を、4 mMグルタミンを補充したSFM Excell培地65319またはG9916 SFM培地(SAFC) 40 ml中、100 mL F175フラスコに0.4×106個細胞/mlで播種した。細胞増殖およびMVA-GFP(MOI 10-2 TCID50/細胞)による感染は、37℃で行った。感染の1時間後に、新鮮培地60 mlを添加した。図3A:SFM Excell培地65319またはG9916 SFM培地(SAFC)における細胞密度動態。図3B:SFM Excell培地65319またはG9916 SFM培地(SAFC)における、TCID50/ml表示のMVA生産性。
(図4)アヒルEBx細胞の透過型電子顕微鏡解析を示す。dEBx細胞の透過型電子顕微鏡解析は、A Rivoire博士(フランス、リヨン)によって行われた。アヒルEBx細胞は、マウス胚性幹細胞およびWO2006/108846に記載されるVIVALIS EB14細胞の表現型と類似している、典型的な胚性幹細胞形態(すなわち、高い核-細胞質比)を示す。アヒルEBx細胞は、大きな核および核小体を有する小円形細胞であり、形質膜から伸びる短い仮足を有する。これらは代謝活性が高く、リボソームおよびミトコンドリアが豊富な細胞質を有する。
(図5Aおよび5B)アヒルEBx細胞株におけるテロメラーゼ発現を示す。アヒルEBx細胞の確立の異なる段階におけるテロメラーゼ発現を、Rocheテロメラーゼ検出キット(テロメラーゼOCR ELISA)を用いることにより調べた。図5A:テロメラーゼが、ニワトリEBv13細胞と同様に、様々な接着性アヒルEBx細胞株において高度に発現されることがわかる。陰性対照として用いたアヒル上皮細胞は、テロメラーゼを発現しない。図5B:懸濁アヒルEBx細胞の確立方法において、高レベルのテロメラーゼ発現が維持される。フィーダー欠乏中(フィーダー細胞ありまたはなし)、アヒルEB26細胞の懸濁への適合化過程中、ならびにdEB24およびdEB26の血清欠乏後のアヒルEBx細胞において、高レベルのテロメラーゼを調べた。EB24およびEB26などのアヒルEBx細胞は、ニワトリEB14細胞と同様に高レベルのテロメラーゼを発現する。アヒルEB66もまた、高レベルのテロメラーゼを発現する(データは示さず)。
(図6Aおよび6B)アヒルEBx(登録商標)細胞は、内在性逆転写酵素活性を示さない。図6A:Clean Cells(フランス)において、直接F-PERT解析(Lovatt et al., 1999, J. Virol. Methods, 82:185-200)により、内在性逆転写酵素発現が調べられた。アヒルEBx(登録商標)細胞株、EB26およびEB5-1は、内在性逆転写酵素(RT)活性を示さない。高レベルのRT活性が、ニワトリEB14細胞およびEBv13細胞の培養物(異なる継代における)において、ならびにより少ない程度に、特定病原体不在(SPF)ニワトリ株由来のニワトリ胚線維芽細胞(CEF)において検出された。RTアーゼ陰性であるCEM細胞を陰性対照として用いて、アッセイの検出限界を設定した。図6B:アヒルおよびニワトリEBx細胞の細胞培養上清中の、複製性(すなわち、複製能のある)または非複製性の内在性レトロウイルス粒子の存在を、鳥類ロイコシス主要キャプシド抗原P27を検出するELISAアッセイ法によって調べた。アヒルEBx細胞株、EB26およびEB5-1、ならびにニワトリEBv13は、ALV p27抗原を分泌しない。これとは逆に、ニワトリEB14細胞はALV P27抗原を発現する。
(図7Aおよび7B)アヒルEBx細胞は複製性鳥類ロイコシスウイルス(ALV)を分泌しない。内在性複製性アヒルウイルスの存在を検出するために、アヒルEBx細胞と、内在性および外因性ALVに感受性があることが知られているウズラQT6細胞株との同時培養アッセイがBioreliance(英国)で行われた。図7A:QT6同時培養の原理を記載した。図7B:複製性ウイルスの存在を、鳥類ロイコシス主要キャプシド抗原P27を検出するELISAアッセイ法によって検出する。このアッセイから、試験したいずれのアヒルEBx(登録商標)細胞(dEB26およびdEB51)も、複製性ALVを分泌しないことが実証される。QT6において複製することが知られているRAV-1ウイルスを、陽性対照として用いた。
(図8)アヒルEBx細胞株およびニワトリEB14細胞株における受容体SAα2-3およびSAα2-6の細胞表面発現を示す。細胞を、ジゴキシゲニン標識レクチンと共にインキュベートする:セイヨウニワトコ(Sambuca nigra)凝集素レクチンはSia2-6Galに特異的に結合し、イヌエンジュ(Maackia amurensis)凝集素レクチンはSia2-3Galに特異的に結合する。細胞に結合するレクチンを、当業者に周知の技法に従って、FITC標識抗ジゴキシゲニン抗体で明らかにする。FITC標識細胞を、蛍光セルソーター(FACS)で計数する。SAα2-3分子およびSAα2-6分子は、それぞれ鳥類およびヒトインフルエンザウイルスの受容体であることが記載されている。ほぼすべてのEBx細胞が、細胞表面受容体SAα2-3およびSAα2-6を高度に発現する。
(図9Aおよび9B)感染アヒルEBx細胞におけるMVA-GFPウイルス生産を示す。図9A:細胞増殖SFM培地中での細胞増殖中に、T175撹拌槽型フラスコにおいて、アヒルEBx(登録商標)に小さな凝集塊を形成させた。次いで凝集塊を10-2 TCID50/細胞のMVA-GFPウイルスに感染させ、混合物を生産SFM培地で希釈した。37℃での6日間のウイルス生産期間中、UV照射した感染細胞の写真を毎日撮影した。感染後(pi)4日目に、MVA感染の頂点に達した。感染後6日目に、感染細胞は死滅し始めた。図9B:3 L流加バイオリアクター中のアヒルEBx(登録商標)細胞において増殖したMVA-GFPウイルスの力価測定。(左パネル)細胞増殖期中に、アヒルEBx由来バイオマスをExcell増殖培地(SAFC)中に蓄積させた。4日目に、細胞密度は400万個細胞/mlに到達した。次いで、細胞を10-1 TCID50/細胞のMVA-GFPウイルスに感染させ、その混合物をExcell培地1.5 Lで希釈した。37℃での6日間のウイルス生産期間中、試料を毎日採取し、動態の終了時にTCID50力価測定(右パネル)を行った。感染後4日目に、収量8.5 log TCID50/mlに到達し、これは収量205 TCID50/細胞に相当する。
(図10)EBx(登録商標)細胞凝集塊の大きさに及ぼす、SFM培地中のカルシウムおよびマグネシウム濃度の影響を示す。図10A:ニワトリEBv13細胞を最初に、高濃度のカルシウムイオン(Ca2+)(約0.79 mM)およびマグネシウムイオン(Mg2+)を含む、SAFC BiosciencesによるSFM培地で培養した;この培地において、細胞は培養下で大きな凝集体を生じる。細胞培養培地を、より低濃度のCa2+(最終0.03 mM)およびMg2+(最終1.6 mM)を含む同じSFM培地に変更してから3日後に、細胞はより小さな凝集体を形成する。図10B:アヒルEB24細胞、EB26細胞、およびEB66細胞を最初に、高濃度のカルシウムイオン(Ca2+)(約0.79 mM)およびマグネシウムイオン(Mg2+)を含む、SAFC BiosciencesによるSFM培地で培養した;この培地において、細胞は培養下で大きな凝集体を生じる。細胞培養培地を、より低濃度のCa2+(最終0.03 mM)およびMg2+(最終1.6 mM)を含む同じSFM培地に変更してから3日後に、細胞はより小さな凝集体を形成する。
(図11Aおよび11B)3 LバイオリアクターでのアヒルEBx細胞におけるインフルエンザウイルスA株の生産を示す。細胞増殖期中に、アヒルEBx(登録商標)バイオマスを細胞増殖培地中に37℃で蓄積させた。次いで、細胞を10-4 TCID50/細胞のA/H1N1/北京/262/95またはA/H3N2/ニューヨーク/55/2004インフルエンザウイルスに感染させ、その混合物を、0.75 USP/mLトリプシンを補充したExcell生産培地1.5 Lで希釈し、温度を33℃に下げた。14日間のウイルス生産期間中、試料を毎日採取し、-80℃で保存した。図11A:A/H1N1/北京/262/95インフルエンザウイルス株に感染したアヒルEBx細胞の増殖動態。左パネル:細胞密度(菱形、×106個細胞.ml-1)およびlog TCID50/ml表示でのウイルス力価。右パネル:全細胞数(四角)、生存度(黒丸、%)、およびug/ml表示での血球凝集素濃度(赤丸、%)。ウイルス収量は、20 ug血球凝集素/ml培養上清に達した。図11B:A/H3N2/ニューヨーク/55/2004インフルエンザウイルス株に感染したアヒルEBx細胞の増殖動態。左パネル:細胞密度(菱形、×106個細胞.ml-1)。右パネル:全細胞数(四角)、生存度(黒丸、%)、およびug/ml表示での血球凝集素濃度(赤丸、%)。ウイルス収量は、30 ug血球凝集素/ml培養上清に達した。
(図12)アヒルEBx(登録商標)細胞におけるインフルエンザウイルスB株の生産を示す。細胞増殖期中に、アヒルEBx(登録商標)バイオマスを細胞増殖培地中に37℃で蓄積させた。次いで、細胞を10-3 TCID50/細胞のB/江蘇/10/2003インフルエンザウイルスに感染させ、その混合物を、0.75 USP/mLトリプシンを補充したExcell生産培地1.5 Lで希釈し、温度を33℃に下げた。14日間のウイルス生産期間中、試料を毎日採取し、-80℃で保存した。左パネル:細胞密度(菱形、×106個細胞.ml-1)。右パネル:全細胞数(四角)、生存度(黒丸、%)、およびug/ml表示での血球凝集素濃度(赤丸、%)。ウイルス収量は、25 ug血球凝集素/ml培養上清に達した。
(図13)懸濁アヒルEB66細胞(MOI 10-3、0.75 USP/mLトリプシン)におけるNDV生産性およびウイルスタンパク質発現の解析を示す。アヒルおよびニワトリEBx細胞は、NDV La Sota株に対して感受性があり、これを複製する。アヒルEB66細胞で生産されたNDVの力価(TCID50/ml)は、感染後0日目から2日目に増加して、平均106.83 TCID50/mLに達する(図13左パネル)。ウェスタンブロット解析(図13右パネル)から、NDVウイルスタンパク質(HN、Fo/F、NP & M)発現が示された。アヒルEB66細胞で生産されたNDVウイルスのウイルスタンパク質組成は、ニワトリEB14細胞で生産されたNDVウイルスで得られた組成と類似している。加えて、ニワトリおよびアヒルEBx細胞で生産されたウイルスの放出の動態も類似している。
(図14)組織培養フラスコ中、無血清培地中での、懸濁アヒルEB66細胞(MOI 10-1または10-2)における組換え麻疹ウイルス複製の解析を示す。アヒルEB66細胞は、麻疹ウイルスによる感染に対して、少なくともVELO細胞と同程度に感受性がある。アヒルEB66細胞で生産された、緑色蛍光タンパク質(GFP)を発現する組換え麻疹ウイルスの力価(TCID50/ml)は、感染後6日目に107 TCID50/mLに達する。
(図15Aおよび15B)アヒルEB66細胞におけるSSEA-1、EMA-1、およびテロメラーゼ発現を示す。ローラーボトルで培養したアヒルEB66の異なる継代におけるテロメラーゼ発現を、Rocheテロメラーゼ検出キット(テロメラーゼOCR ELISA)を用いることにより調べた。ローラーボトルで培養したアヒルEB66の異なる継代におけるSSEA-1およびEMA-1は、FACS解析により調べた。図15A:テロメラーゼは、異なる継代(138、144、147、150、154)における懸濁アヒルEB66細胞株において高度に発現されることがわかる。図15B:SSEA-1およびEMA-1細胞表面マーカーは、異なる継代(138、144、147、150、154)における懸濁アヒルEB66細胞株において高度に発現されることが判明した。
(図16)アヒルEB66細胞の核型分析を示す。アヒルEB66細胞の核型は、Franck教授、ENVL、リヨンによって行われた。EB66細胞は二倍体細胞である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
説明
本発明は、鳥類胚性幹細胞(ES)に由来するEBxと命名された連続継代性二倍体鳥類細胞株を得るための方法であって、該鳥類細胞株が複製能のある内在性レトロウイルス粒子を産生しない方法を提供する。
【0017】
本発明の細胞株は、長期にわたりインビトロで培養される特徴を有するため、「連続継代性」である。有利なことには、本発明の細胞は少なくとも50世代、少なくとも75世代、少なくとも100世代、少なくとも125世代、少なくとも150世代、少なくとも175世代、少なくとも200世代、少なくとも250世代にわたり増殖することができる。得られる細胞はなお生きており、さらなる継代のためになお継代することができるため、250世代は時間の限界ではない。理論によって縛られることはないが、本発明の細胞は、細胞によってテロメラーゼが発現される限り、「連続して」培養することができると仮定される。実際に、本発明の鳥類細胞の高レベルのテロメラーゼ発現が、遺伝的安定性(すなわち、本発明の鳥類細胞は二倍体である)および連続継代性の細胞増殖に関与していると想定される。
【0018】
「継代」とは、1つの培養容器から別の培養容器への、希釈を伴うかまたは伴わない細胞の移植の移動を意味する。細胞が1つの容器から別の容器に移される場合にはいつでも、一部の細胞が失われ得るため、慎重であろうとなかろうと細胞の希釈が起こり得ることが理解される。この用語は、「継代培養」と同義である。継代数とは、懸濁状態または接着状態のいずれかで増殖する培養物中の細胞が、新たな容器で継代培養されたまたは継代された回数である。この用語は、1度複製するために細胞集団が必要とする時間;すなわち、集団の各細胞が複製するおよその時間である集団倍加または世代と同義ではない。例えば、本発明の段階a)の鳥類ES細胞は、集団倍加時間(PDT)約>40時間を有する。本発明の鳥類EBx細胞はPDT約<30時間を有し;通常EBx(登録商標)細胞では、3世代ごとに1回継代する。
【0019】
「二倍体」とは、本発明の細胞が、各染色体を、通常一方は母親からそしてもう一方は父親からの2コピー(2n)有することを意味する。
【0020】
本発明の鳥類EBx(登録商標)細胞株が連続継代性でありかつ二倍体である(すなわち、遺伝的に安定している)という事実は、これらの用語が通常は相反するために、顕著でかつ独特の特徴を構成する。このように、化学的改変、物理的改変(U.V照射、X線、またはg線照射、...)、または遺伝的改変(ウイルス形質転換、癌遺伝子過剰発現、...)によって得られた癌細胞および/または不死化細胞は、培養物となるまで無限に複製することができるため連続継代性の細胞であるが、それらは倍数体核型を示すため遺伝的に安定していない。一方、非形質転換細胞であるニワトリ胚線維芽細胞、MRC5、WI38などの初代細胞は、2〜3世代後に有限の寿命があるために連続継代性ではないが、それらは遺伝的に安定した(すなわち、二倍体)細胞である。
【0021】
本発明において、「細胞株」と「細胞」という用語は区別なく用いられる。
【0022】
本明細書において使用する「鳥類」、「トリ」、「鳥綱」、または「ava」という用語は、同じ意味を有することが意図され、区別なく用いられる。「トリ」とは、分類学的クラス<<ava>>の生物の任意の種、亜種、または品種を指す。好ましい態様において、「トリ」は以下の分類目の任意の動物を指す:
‐「ガンカモ目」(すなわち、アヒル、ガチョウ、ハクチョウ、および近縁のもの)。ガンカモ目は、3つの科:サケビドリ科(サケビドリ)、カササギガン科(カササギガン)、およびガンカモ科内に150種類のトリを含み、ガンカモ科には140種を超える水鳥が含まれ、その中にアヒル、ガチョウ、およびハクチョウが含まれる。この目内の種はすべて、水面での水生生存に高度に適応している。いずれも、効率的に泳ぐために足に水かきがある(その後、主として陸生になったものもいる)。
‐「キジ目」(すなわち、ニワトリ、ウズラ、シチメンチョウ、キジ、および近縁のもの)。キジ目は、ニワトリ、シチメンチョウ、ウズラ、およびキジを含むトリの目である。世界中で約256種が見出されている。
‐「ハト目」(すなわち、ハトおよび近縁のもの)。トリのハト目には、広範囲に及ぶハト(doves)およびハト(pigeons)が含まれる。
【0023】
本発明において、区別なく用いられ得る用語である「内在性レトロウイルス(retroviral)粒子」または「内在性レトロウイルス(retrovirus)粒子」という用語は、いくつかの鳥類細胞ゲノム中に存在するALV-EまたはEAVプロウイルス配列によってコードされるおよび/またはそれらから発現されるレトロウイルス粒子またはレトロウイルスを意味する。トリにおいて、ALV-Eプロウイルス配列は、家畜ニワトリ(系統-0ニワトリを除く)、セキショクヤケイ、およびコウライキジのゲノム中に存在することが知られている。トリにおいて、EAVプロウイルス配列は、家畜ニワトリ、系統-0ニワトリ、セキショクヤケイ、アオエリヤケイ、ハイイロヤケイ、セイロンヤケイ、および近縁のものを含むガルス属すべてに存在することが知られている(Resnick et al., 1990, J. Virol., 64:4640-4653)。
【0024】
好ましい態様によれば、本発明のトリは、そのゲノム中にALV-EおよびEAVプロウイルス配列を含まないトリの中から選択される。当業者は、ALV-EおよびEAV配列がトリゲノム中に存在するかどうかを判定することができる(Johnson and Heneine, 2001;Weissmahr et al., 1996)。好ましくは、トリは、ガンカモ目(すなわち、アヒル、ガチョウ、ハクチョウ)、シチメンチョウ、ウズラ、ニホンウズラ、ホロホロチョウ、クジャクを含む群から選択される。したがって、そのようなトリに由来する細胞は、複製能のある内在性ALV-Eおよび/またはEAV粒子を産生しない。好ましい態様において、本発明のトリは、アヒル、ガチョウ、ハクチョウ、シチメンチョウ、ウズラおよびニホンウズラ、ホロホロチョウ、ならびにクジャクを含む群の中から選択される。より好ましい態様によれば、トリはアヒル、より好ましくはペキンアヒルまたはタイワンアヒルである。より好ましい態様によれば、トリはペキンアヒルである。したがって、本発明は、胚性幹細胞(ES)に由来する連続継代性二倍体アヒル細胞株を得るための方法であって、該アヒル細胞株が複製能のある内在性レトロウイルス粒子を産生しない方法を提供する。第2の好ましい態様によれば、本発明のトリは、そのゲノム中に完全なALV-Eプロウイルス配列を含まないが、最終的にEAVプロウイルス配列を含むトリの中から選択される。当業者は、部分的または完全なALV-EおよびEAV配列がトリゲノム中に存在するかどうかを判定することができる(Johnson and Heneine, 2001)。以下のような、完全なALV-Eプロウイルス配列を含まず(すなわち:ev-0株)、よって感染性ALV-Eレトロ粒子を産生しないいくつかのニワトリ株が、繁殖によって選択されている:
‐イーストランシングUSDA家禽資源の系統0家畜ニワトリ(ELL-0株)。イーストランシング系統-0ニワトリは、ALVに関連した内在性ウイルス(ev)遺伝子座を全く含まない(Dunwiddie and Faras, 1985)。
‐国立農学研究所(Domaine de Magneraud、フランス、シュルジェール)による系統DEおよびPE11。
【0025】
したがって、ev-0トリ由来の細胞は、複製能のある内在性ALV-E粒子を産生しない。好ましい態様によれば、トリはev-0家畜ニワトリ(ニワトリ(Gallus Gallus)亜種domesticus)であり、好ましくはELL-0、DE、およびPE11の中から選択される。
【0026】
通常、ev-0ニワトリはEAVプロウイルス配列をなお含んでいるが、これまでのところ感染性EAV分離株は同定されていない。したがって、本発明は、ev-0ニワトリ株の胚性幹細胞(ES)に由来する連続継代性二倍体ニワトリ細胞株を得るための方法であって、ここで、該ev-0ニワトリ細胞株が複製能のある内在性レトロウイルス粒子を産生しない、方法を提供する。
【0027】
第3の態様によれば、本発明のトリは、そのゲノム中に完全なおよび/または不完全なALV-EおよびEAVプロウイルス配列を含むが、複製能のあるALV-EおよびEAVレトロ粒子を産生することができないトリの中から選択される。当業者は、ALV-Eおよび/またはEAVの感染性および/または非感染性レトロ粒子がトリ細胞から産生されるかどうかを判定することができる(Johnson and Heneine, 2001:Weissmahr et al., 1996)。好ましくは、トリは、特定病原体不在(SPF)ニワトリを含む群において、好ましくはValo株(Lohman)または系統22(SPAFAS)から選択される。
【0028】
「複製能のある」とは、内在性レトロウイルス粒子が感染性であることを意味し、すなわち、そのようなレトロウイルス粒子は、本発明の鳥類細胞において感染および複製することができる。
【0029】
本発明のEBx(登録商標)と命名された連続継代性二倍体鳥類細胞株の確立方法は、以下の2段階を含む:
a) 複製能のある内在性レトロウイルス粒子、より具体的にはEAVおよび/もしくはALV-Eプロウイルス配列またはその断片を産生しやすい完全な内在性プロウイルス配列またはその断片を含まないトリ由来の胚性幹細胞の、フィーダー層の存在下におけるかつ動物血清を補充した、それら細胞の増殖を可能にする因子をすべて含む完全培地中での単離、培養、および拡大;任意に、該完全培地は、付加的アミノ酸(すなわち、グルタミン、非必須アミノ酸...)、ピルビン酸ナトリウム、β-メルカプトエタノール、ビタミン、非動物起源のタンパク質加水分解物(すなわち、イーストレート、植物加水分解物(ダイズ、コムギ、...))などの添加物を含み得る;
b) 該因子、該フィーダー層、および該血清、ならびに任意に該添加物の完全な除去を得るために培地を改変することによる継代、ならびに、複製能のある内在性レトロウイルス粒子を産生せず、外因性増殖因子、フィーダー層、および動物血清の存在しない基礎培地中で長期にわたり増殖することができる、EBx(登録商標)と命名された接着性または懸濁鳥類細胞株をさらに得る段階。
【0030】
増殖因子、血清、およびフィーダー層の漸進的なまたは完全な除去を得るための、EBx(登録商標)細胞株の確立方法の段階b)の培地の改変は、同時に、連続して、または別々に行うことができる。培地の離脱順序は、以下の中から選択され得る:
‐フィーダー層/血清/増殖因子;
‐フィーダー層/増殖因子/血清;
‐血清/増殖因子/フィーダー層;
‐血清/フィーダー層/増殖因子;
‐増殖因子/血清/フィーダー層;
‐増殖因子/フィーダー層/血清。
【0031】
好ましい態様において、離脱順序は増殖因子/フィーダー層/血清である。好ましい態様において、ピルビン酸ナトリウム、非必須アミノ酸(NNEA)、ビタミン、イーストレートなどの添加物の除去は、フィーダー層の離脱後でかつ血清の離脱前に行う。好ましくは、イーストレートの除去は、ピルビン酸ナトリウム、NNEA、およびビタミンの除去後に行う。
【0032】
好ましい態様によれば、本発明の段階a)による鳥類胚性幹細胞は、産卵時の、すなわち卵が産まれた時点の鳥類胚から採取する。Sellier et al. (2006, J. Appl. Poult. Res., 15:219-228)によれば、産卵は、Eyal-Giladiの分類(EYAL-GILADIの分類:EYAL-GILADI and KOCHAN, 1976, <<From cleavage to primitive streack formation : a complementary normal table and a new look at the first stages of the development in the chick>>. 「General Morphology」 Dev. Biol. 49:321-337)による以下の発生段階に対応する:
‐タイワンアヒル(バーバリ(Barbari)アヒルとも称される):VII期
‐ホロホロチョウ:VII〜VIII期
‐シチメンチョウ:VII〜VIII期
‐ペキンアヒル:VIII期
‐ニワトリ:X期
‐ニホンウズラ:XI期
‐ガチョウ:XI期。
【0033】
好ましくは、段階a)のアヒル胚性幹(ES)細胞は、Eyal-Giladiの分類のおよそVIII期(産卵)にあるペキンアヒル胚を分離することによって得る。産卵時に回収された卵が、胚性幹細胞を採取するのに十分発達していない場合には、卵を数時間(一晩)から1〜2日間さらにインキュベートして、胚を成熟させる。第2の態様によれば、段階a)のアヒル胚性幹(ES)細胞はタイワンアヒルに由来する。産卵時に、タイワンアヒルはおよそVII期にあるため十分に成熟しておらず、よって、卵を一晩インキュベートして、Eyal-Giladiの分類のVIII〜X期になるまで卵を成熟させる。
【0034】
好ましくは、段階a)の好ましくはev-0ニワトリ株に由来するニワトリ胚性幹(ES)細胞は、Eyal-Giladiの分類のおよそX期(産卵)にある胚を分離することによって得る。
【0035】
または、本発明の段階a)による鳥類胚性幹細胞は、産卵前の胚から採取する。産卵前に直面する主な限界は、雌鶏から卵を外科的に取り出さなければならない、および胚当たりのES細胞の量はそれほど重要ではないという事実である。さらに、鳥類胚発生のごく初期には、ES細胞は十分に個々に区別されず、ES細胞のインビトロ培養を難しくする。当業者は、鳥類ES細胞の採取を可能にする産卵前の時間枠を規定することができる。
【0036】
または、本発明の段階a)による鳥類胚性幹細胞は、産卵後から孵化までの鳥類胚から採取してもよい。しかしながら、鳥類胚性幹細胞は徐々に分化に入り、分化組織を生成する;したがって、産卵後間もなく、鳥類ESを採取することが好ましい。当業者は、鳥類胚性幹細胞の採取を可能にする産卵後の時間枠を規定することができる。
【0037】
別の態様によれば、段階a)の細胞は、始原生殖細胞(PGC)の豊富な胚性幹細胞の集団である。より好ましくは、段階a)の鳥類ES細胞は精製PGCである。鳥類種では、始原生殖細胞は胚盤葉の中央領域から生じる(Ginsburg and Eyal-Giladi, 1987 Development 101(2):209-19;Karagenc et al, 1996 Dev Genet 19(4):290-301;Petitte et al, 1997 Poultry Sci. 76(8):1084-92)。次にPGCは前方の胚外部位である生殖三日月環に移動し、その後胚発生の2.5〜5日目に血管系によって収集されて生殖隆起に到達する。PGCは生殖隆起に定着し、そこで最終的に卵母細胞または精母細胞に分化する(Nieuwkoop and Sutasurya, 1979. The Migration of the primordial germ cells. In: Primordial germ cell in Chordates. London: Cambridge University Press p113-127)。ドナー鳥類胚からPGCを単離する方法は文献中に報告されており、当業者によって容易に行われ得る(例えば、1993年9月7日公開のJP924997、特開平05-227947;Chang et al. 1992. Cell Biol. Int. 19(2): 143-149;Naito et al. 1994 Mol. Reprod. Dev. 39: 153-161;Yasuda et al. 1992. J. Reprod. Fert. 96: 521-528;Chang et al. 1992 Cell Biol. Int. Reporter 16(9): 853-857を参照されたい)。1つの態様によれば、PGCは、Hamburger & Hamiltonの分類(Hamburger & Hamilton 1951 A series of normal stages in the development of chick embryo. J. Morphol. 88: 49-92)の12〜14期にあるニワトリ胚の背側大動脈から採取された胚血液から採取する。別の好ましい態様では、PGCは、ニワトリ胚の機械的分離により生殖三日月環から、または生殖腺から採取した。しかしながら、上記の通り、PGCを単離するための他の方法も知られており、これらを別法として使用することもできる。
【0038】
これらの鳥類胚性幹細胞は、39℃での48〜72時間の培養を含む、遅い倍加時間によって特徴づけられる。
【0039】
理論によって縛られることはないが、鳥類ES細胞の規定された細胞培養条件、ならびにその後の増殖因子、フィーダー層、添加物、および血清の漸進的な離脱により、ES細胞の所望の特徴(核型の安定性、無限の増殖、ESマーカーの発現)の大部分を維持し、加えて、無血清培地中で高細胞密度まで懸濁状態で増殖するというような、工業上使いやすい特徴を示す細胞を適合させ、選択することが可能となる。テロメラーゼは、最も重要なESマーカーの1つを構成する。細胞の継代を通してテロメラーゼ発現が持続および維持されるため、EBx(登録商標)細胞は連続継代性(すなわち、不死)であり、加えて遺伝的に安定している(すなわち、二倍体)。
【0040】
より具体的には、本発明は、以下の段階を含む、ES細胞に由来する連続継代性二倍体鳥類細胞株を得るための方法であって、ここで、該鳥類細胞株が複製能のある内在性レトロウイルス粒子を産生しない、方法を提供する:
a) Eyal-Giladiの分類(EYAL-GILADIの分類:EYAL-GILADI and KOCHAN, 1976, <<From cleavage to primitive streack formation : a complementary normal table and a new look at the first stages of the development in the chick>>. 「General Morphology」 Dev. Biol., 49:321-337)のおよそVI期から孵化前までを含む、好ましくは産卵あたりの発生段階にある、好ましくはアヒルまたはev-0ニワトリからトリ胚を単離する段階であって、ここで、該トリのゲノムが、複製能のある内在性レトロウイルス粒子を産生しやすい内在性プロウイルス配列を含まない、段階;
b) 段階a)の胚を分離することによって得られた鳥類胚性幹(ES)細胞を、以下を補充した基礎培地に懸濁する段階:
‐インスリン成長因子1(IGF-1)および毛様体神経栄養因子(CNTF);
‐動物血清;ならびに
‐任意に、インターロイキン6(IL-6)、インターロイキン6受容体(IL-6R)、幹細胞因子(SCF)、および線維芽細胞増殖因子(FGF)を含む群から選択される増殖因子;
c) 段階b)で得られたES細胞の懸濁液をフィーダー細胞層上に播種し、ES細胞を少なくとも1継代の間さらに培養する段階;
d) 1〜約15継代、好ましくは3〜約15継代というある範囲の何代かの継代にわたり、IL-6、IL-6R、SCF、FGFを含む群より選択される増殖因子をすべて培地から任意に除去し、鳥類ES細胞を少なくとも1継代の間さらに培養する段階。好ましくは、IL-6、IL-6R、SCF、FGFを含む群より選択される増殖因子すべての培地からの除去は、1継代の間に同時に行う。通常、IL-6、IL-6R、SCF、FGFの除去は、およそ継代10〜15代目に行う;
e) IGF-1およびCNTFを培地から除去し、鳥類ES細胞を少なくとも1継代の間さらに培養する段階。好ましくは、IGF-1およびCNTFを含む群より選択される増殖因子の培地からの除去は、1継代の間に同時に行う。通常、IGF-1およびCNTFの除去は、およそ継代15〜25代目に行う。または、IGF-1およびCNTFの除去は、何代かの継代にわたり(少なくとも2継代で、およそ15継代まで)漸進的に減少させていくことによって行う;
f) 何代かの継代後に、フィーダー層の完全な除去を得るために、培地中のフィーダー細胞の濃度を漸進的に減少させていき、細胞をさらに培養する段階;
g) 少なくとも1継代後に、添加物の完全な除去を得るために、培地中の添加物の濃度を任意に漸進的に減少させていく段階;ならびに、
h) 何代かの継代後に、動物血清の完全な除去を得るために、培地中の動物血清の濃度を任意に漸進的に減少させていく段階;ならびに、
i) 任意に動物血清および添加物を含まない、増殖因子、フィーダー層の存在しない基礎培地中で増殖することができる、ES細胞に由来するEBx(登録商標)と命名された接着性鳥類細胞株を得る段階であって、ここで該連続継代性二倍体鳥類細胞株が複製能のある内在性レトロウイルス粒子を産生しない、段階;
j) 該接着性鳥類EBx(登録商標)細胞株を懸濁培養条件に任意にさらに適合化する段階。細胞培養の懸濁への適合化の段階は、EBx(登録商標)細胞の確立方法に沿って行うことができる。例えば、タイワン胚性幹細胞に由来するアヒルEBx(登録商標)細胞では、細胞は、フィーダー層の除去前に懸濁状態での増殖に適合化させた。ペキンアヒルに由来するアヒルEB(登録商標)細胞(EB24、EB26、EB66)の場合には、細胞は、動物血清の除去前に懸濁状態での増殖に適合化させた。
k) 例えば限界希釈によって、該鳥類EBx(登録商標)細胞を任意にさらにサブクローニングする段階。
【0041】
好ましい態様において、本発明は、以下の段階を含む、鳥類胚性幹細胞(ES)に由来するEBx(登録商標)と命名された連続継代性二倍体鳥類細胞株を得るための方法であって、該鳥類細胞株が複製能のある内在性レトロウイルス粒子を産生しない方法を提供する:
a) 産卵あたりの発生段階にあるトリ胚を単離する段階であって、該トリのゲノムが、複製能のある内在性レトロウイルス粒子を産生しやすい内在性プロウイルス配列を含まない段階;
b) 段階a)の胚を分離することによって得られた鳥類胚性幹(ES)細胞を、少なくとも以下を補充した基礎培地に懸濁する段階:
‐インスリン成長因子1(IGF-1)および毛様体神経栄養因子(CNTF);ならびに
‐ウシ胎仔血清などの哺乳動物血清;
c) 段階b)で得られたES細胞の懸濁液をフィーダー細胞層上に播種し、ES細胞を少なくとも1継代の間さらに培養する段階;
e) IGF-1およびCNTFを培地から除去し、細胞を少なくとも1継代の間さらに培養する段階;
f) 何代かの継代後に、フィーダー層の完全な除去を得るために、培地中のフィーダー細胞の濃度を漸進的に減少させていき、細胞をさらに培養する段階;
g) 何代かの継代後に、哺乳動物血清の完全な除去を得るために、培地中の該哺乳動物血清の濃度を漸進的に減少させていく段階ならびに:
h) 増殖因子、フィーダー層、および哺乳動物血清の存在しない基礎培地中で増殖することができる、ES細胞に由来する接着性鳥類EBx(登録商標)細胞株を得る段階であって、該連続継代性二倍体鳥類細胞株が複製能のある内在性レトロウイルス粒子を産生しない段階;
i) 好ましくは懸濁としての増殖を促進することにより、より好ましくは
段階h)で得られた接着性鳥類EBx(登録商標)細胞株を、最初の支持体よりも低い接着特性を有する別の支持体(すなわち、超低接着支持体など)に移すことにより、接着性鳥類EBx(登録商標)細胞株を懸濁培養条件に任意にさらに適合化する段階。
【0042】
接着性鳥類EBx(登録商標)細胞株を懸濁培養条件に適合化する段階j)は、これを行う場合、別の好ましい態様では、培地中の哺乳動物血清の濃度を漸進的に減少させていく段階g)の前に行うことができる。
【0043】
別の好ましい態様では、本発明による連続継代性二倍体鳥類細胞株を得るための方法の段階b)における基礎培地に、インターロイキン6(IL-6)、インターロイキン6受容体(IL-6R)、幹細胞因子(SCF)、および線維芽細胞増殖因子(FGF)を含む群から選択される増殖因子をさらに補充し、該方法は段階d):
d) IL-6、IL-6R、SCF、FGFを含む群より選択される増殖因子をすべて培地から任意に除去し、ES細胞を少なくとも1継代の間さらに培養する段階
をさらに含む。
【0044】
さらに好ましい態様において、段階d)を行う場合、IGF-1およびCNTFを培地から除去する段階e)は、IL-6、IL-6R、SCF、FGFを含む群より選択される増殖因子をすべて培地から除去する段階d)の後に行う。
【0045】
本発明による「基礎培地」とは、それのみで少なくとも細胞の生存、さらに良ければ細胞増殖を可能にする古典的培地処方を有する培地を意味する。基礎培地の例は、BME(基礎イーグル培地)、MEM(最小イーグル培地)、培地199、DMEM(ダルベッコ改変イーグル培地)、GMEM(グラスゴー改変イーグル培地)、DMEM-ハムF12、ハム-F12およびハム-F10、イスコフ改変ダルベッコ培地、マッコイ5A培地、RPMI 1640、GTM3である。基礎培地は、無機塩(例えば:CaCl2、KCl、NaCl、NaHCO3、NaH2PO4、MgSO4、...)、アミノ酸、ビタミン(チアミン、リボフラビン、葉酸、D-Caパントテン酸、...)、およびグルコース、β-メルカプトエタノール、ピルビン酸ナトリウムなどの他の成分を含む。好ましくは、基礎培地は合成培地である。表1にDMEM/ハムF12の組成を示す。
【0046】
(表1)DMEM-ハムF12処方(mg/l)


【0047】
加えて、本発明の基礎培地に、以下の群から選択される添加物を補足してもよい:
‐0.1〜0.5 mM L-グルタミン、好ましくは2〜3 mM L-グルタミン;
‐0.05〜2 mMピルビン酸ナトリウム、好ましくは0.1 mM〜1 mMピルビン酸ナトリウム;
‐0.1〜2.5%非必須アミノ酸、好ましくは約1%非必須アミノ酸;
‐0.1〜2.5%ビタミン、好ましくは約1%ビタミン;
‐0.05〜5 mM β-メルカプトエタノール、好ましくは約0.16 mM β-メルカプトエタノール;
‐非動物起源のタンパク質加水分解物。
【0048】
本発明のアヒルEBx(登録商標)細胞の確立に関して、基礎培地に好ましくは非動物起源のタンパク質加水分解物を補足する。非動物起源のタンパク質加水分解物は、細菌トリプトン、酵母トリプトン、ダイズ加水分解物などの植物加水分解物、またはそれらの混合物からなる群より選択される。好ましい態様において、非動物起源のタンパク質加水分解物は酵母加水分解物である。「加水分解物」という用語には、ダイズペプトンまたは酵母抽出物の酵素消化物が含まれる。そのような加水分解物はそれぞれ複数のダイズペプトンまたは酵母抽出物調製物から得ることができ、それらはさらに酵素消化され得る(例えば、パパインによる)、ならびに/または自己分解、熱分解、および/もしくは原形質分離により形成され得る。加水分解物はまた、イーストレート、Hy-Soy、Hy-Yeast 412、およびHi-Yeast 444のように、SAFC BioSciences(以前のJRH)(カンザス州、レネクサ)、Quest International(ニューヨーク州、ノーウィッチ)、OrganoTechnie S.A.(フランス)、またはDeutsche Hefewerke GmbH(ドイツ)などの供給元から商業的に得ることもできる。酵母抽出物の供給元は、WO 98/15614にも開示されている。酵母抽出物およびダイズ加水分解物の供給元は、WO00/03000にも開示されている。本発明の培地に使用する加水分解物は、好ましくは粗画分から精製する。その理由は、効率的な培養を妨げ得る不純物を、好ましくはこの精製中に排除し、それによって加水分解物の一貫性が改善されるためである。精製は、限外濾過もしくはSephadexクロマトグラフィー(例えば、Sephadex G25もしくはSephadex G10、または同等の物質による)、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー、または「逆相」クロマトグラフィーによって可能である。好ましくは、精製は、10 kDaカットオフフィルターを使用する限外濾過によって行う。これらの方法は当分野で公知である。これらの方法を用いて、規定分子量のダイズまたは酵母加水分解物を含む画分を選択することができる。好ましくは、ダイズおよび酵母加水分解物の平均分子量は、好ましくは約220〜375ダルトンである。好ましくは、酵母加水分解物が細胞培養培地中に存在する。例えばSAFC-BIOSCIENCESから得られる酵母加水分解物50×(約200 g/l)(参照58902C)は、培地中に約0.1×〜2×、好ましくは約0.5×〜約1×を含む最終濃度で細胞培養培地中に存在する。ダイズ加水分解物を細胞培養培地に添加してもよい。例えばSAFC-BIOSCIENCESから得られるダイズ加水分解物50×(参照58903C)は、約0.1×〜2×、好ましくは約1×を含む最終濃度で培地中に添加する。または、US2004/0077086に記載されている通りに、ダイズ加水分解物と酵母加水分解物の混合物を細胞培養培地に添加してもよい。
【0049】
本発明の好ましい基礎培地は、2 mM L-グルタミン、1 mMピルビン酸ナトリウム、1%非必須アミノ酸、1%ビタミン、0.16 mM β-メルカプトエタノール、および任意に1×酵母加水分解物を補足したDMEM-ハムF12である。
【0050】
「完全培地」とは、少なくとも1種類の増殖因子および動物血清を補充した、捕捉されているかまたはされていない基礎培地、好ましくは基礎合成培地を意味する。完全培地の例は、WO 03/076601、WO 05/007840、EP 787810、US 6,114,168、US 5,340,740、US 6,656,479、US 5,830,510、およびPain et al. (1996, Development 122:2339-2348)に記載されている。または、完全培地は馴化培地、好ましくはBRL馴化培地であってよい。例として、BRL馴化培地は、Smith and Hooper (1987, Dev. Biol. 121:1-9)によって記載されているような、当技術分野において認識されている技法に従って調製される。BRL細胞は、ATCCアクセッション番号CRL-1442から入手可能である。馴化培地には、下記の外因性増殖因子および動物血清を補充してもよい。
【0051】
本明細書で使用する「増殖因子」という用語は、基礎培地中で培養している未分化鳥類ES細胞の生存および増殖に必要な増殖因子を意味する。増殖因子の2つのファミリー:サイトカインおよび栄養因子を概略的に区別することが可能である。サイトカインは、主として、gp130タンパク質と会合する受容体を介して作用するサイトカインである。したがって、白血病抑制因子(LIF)、インターロイキン11、インターロイキン6、インターロイキン6受容体、毛様体神経栄養因子(CNTF)、オンコスタチン、およびカルジオトロフィンは、特異的な鎖の受容体のレベルでの動員、および後者とgp130タンパク質との単量体型または時にヘテロ二量体型での組み合わせを伴う類似の作用機序を有する。栄養因子は、主として、幹細胞因子(SCF)、インスリン成長因子1(IGF-1)、および線維芽細胞増殖因子(FGF)、好ましくは塩基性FGF(bFGF)またはヒトFGF(hFGF)である。
【0052】
本発明による完全培地は、基礎培地、好ましくは基礎合成培地、ならびにgp130タンパク質と会合する受容体を介して作用する少なくとも1種類のサイトカイン、および/または少なくとも1種類の栄養因子を含む。好ましくは、本発明による完全培地は、基礎培地、および白血病抑制因子(LIF)、オンコスタチン、カルジオトロフィン、インスリン成長因子1(IGF-1)、毛様体神経栄養因子(CNTF)、インターロイキン6(IL-6)、インターロイキン6受容体(IL-6R)、幹細胞因子(SCF)、線維芽細胞増殖因子(FGF)、インターロイキン11(IL-11)からなる群から選択される少なくとも1種類の増殖因子を含む。第1の好ましい態様によれば、完全培地は、動物血清ならびに少なくともIGF-1およびCNTFを補充した基礎培地である。第2の好ましい態様によれば、完全培地は、動物血清、ならびに少なくともIGF-1、CNTF、IL-6、およびIL-6Rを補充した基礎培地である。第3の好ましい態様によれば、完全培地は、動物血清、ならびに少なくともIGF-1、CNTF、IL-6、IL-6R、SCF、FGFを補充した基礎培地である。別の態様によれば、完全培地は、増殖因子(すなわち、例えばBRL細胞またはSTO細胞によって発現される)を含み、かつLIF、IGF-1、CNTF、IL-6、IL-6R、SCF、FGF、IL-11を含む群から選択される少なくとも1種類の外因性増殖因子を任意に補充した馴化培地である。基礎培地中または馴化培地中の増殖因子IGF-1、CNTF、IL-6、IL-6R、SCF、FGF、IL-11の濃度は、約0.01〜10 ng/ml、好ましくは0.1〜5 ng/ml、より好ましくは約1 ng/mlからなる。
【0053】
本発明の培地はまた、細菌汚染を防ぐために、例えばゲンタマイシン、ペニシリン、およびストレプトマイシンなどの抗生物質をさらに含み得る。抗生物質は、ES細胞培養の初期の継代時に培地に添加することができる。例えば、最終濃度10 ng/mlのゲンタマイシン、最終濃度100 U/mlのペニシリン、および最終濃度100μg/mlのストレプトマイシンを培地に添加することができる。好ましい態様では、本発明の連続継代性二倍体鳥類細胞株の確立方法の後期段階中は、培地に抗生物質を添加しない。
【0054】
本発明の鳥類胚性幹細胞の確立方法中、細胞はフィーダー細胞層上で培養する。より好ましくは、フィーダー細胞は、鳥類ES細胞を培養する目的で培養される動物細胞または動物細胞株である。または、フィーダー細胞を細胞外基質および結合型増殖因子で代用することもできる。フィーダー基質は以後、フィーダー細胞または細胞外基質のいずれかを指す。本明細書で使用するフィーダー基質は、当技術分野で公知の手順に従って構築する。上記の通り、フィーダー基質を前馴化することが好ましい。「前馴化」という用語は、胚盤葉板受精鳥類卵に由来する細胞をフィーダー基質と接触した状態で堆積させる前の一定期間にわたり、例えばフィーダー基質による増殖因子または他の因子の産生の開始および確立に十分な期間にわたり、フィーダー基質を培地の存在下で培養することを意味する;通常は、胚盤葉板受精鳥類卵に由来する細胞をフィーダー基質と接触した状態で堆積させる前の1〜2日間、フィーダー基質をそれだけで培養することによって、フィーダー基質を前馴化する。フィーダー細胞は、好ましくはマウス線維芽細胞を含む。STO線維芽細胞が好ましいが、初代線維芽細胞も適している。本発明はマウス細胞フィーダー基質の使用に関して記載しているが、他のマウス種(例えば、ラット);他の哺乳動物種(例えば;有蹄動物、ウシ、ブタ種);または鳥類種(例えば、キジ類の鳥、ニワトリ、シチメンチョウ、アヒル、ガチョウ、ウズラ、キジ)による細胞を含むフィーダー基質も使用できることが意図される。別の態様では、例えばSTO細胞において鳥類SCFなどの増殖因子の構成的発現を可能にする発現ベクターを、本発明のフィーダー細胞にトランスフェクションしてもよい。したがって、この「フィーダー」は、可溶性のおよび/または細胞の形質膜に付着した形態の因子を産生する。したがって、本発明の培養方法は、単層のフィーダー細胞を確立する段階を任意に含み得る。フィーダー細胞は、標準的な技法を用いて有糸分裂を不活性化する。例えば、フィーダー細胞をX線もしくはγ線照射(例えば、4000ラドのγ線照射)に供することができ、またはマイトマイシンCで処理することもできる(例えば、10μg/mlで2〜3時間)。細胞を有糸分裂を不活性化する手順は、典型的にアメリカンタイプカルチャーコレクション(ATCC)、10801 University Boulevard, Manassas, Va. 20110-2209から細胞と供に送付されて来る情報にも詳述されている(例えば、STOフィーダー細胞は、ATCCアクセッション番号1503の元で入手可能である)。単層は任意に、約80%コンフルエントまで、好ましくは約90%コンフルエントまで、より好ましくは約100%コンフルエントまで培養してよい。単層としてのフィーダー細胞の形態が培養の好ましい形態であるが、任意の適切な形態が本発明の範囲内であることが意図される。したがって、例えば、フィーダー細胞の層、単層、クラスター、凝集体、または他の会合物もしくは集団が本発明の範囲内に入ることが意図され、特に「基質」という用語の意味に入ることが意図される。
【0055】
本発明の培地には動物血清を補充する。好ましく用いられる動物血清は、動物胎仔血清である。ウシ胎仔血清が好ましい。本発明はウシ胎仔血清の使用に関して記載しているが、他の動物種(例えば、ニワトリ、ウマ、ブタ、有蹄動物等)による血清を含む動物血清も使用できることが意図される。培地中の動物血清の最終濃度は、約1〜25%、好ましくは5%〜20%、より好ましくは8%〜12%からなる。好ましい態様において、培地中の動物血清の最終濃度は約10%である。好ましい態様によれば、培地は約10%のウシ胎仔血清を含む。
【0056】
第1の好ましい態様において、本発明のトリはガンカモ目から選択され、好ましくはアヒル、より好ましくはペキンアヒル、より好ましくはペキンアヒル株M14またはGL30である。第2の好ましい態様によれば、本発明のトリはタイワンアヒルである。したがって、本発明は、以下の段階を含む、胚性幹細胞(ES)に由来する連続継代性二倍体アヒル細胞株を得るための第1の方法であって、ここで、該アヒル細胞株が複製能のある内在性レトロウイルス粒子を産生しない、第1の方法を提供する:
a) 産卵(oviposition)(すなわち、産卵(egg laying))時、または産卵のわずかに前もしくは後のアヒル胚を単離する段階。任意に、成熟させるために(すなわち、タイワンアヒル)、卵を通常一晩インキュベートしてもよい;
b) 段階a)の胚を分離することによって得られたアヒル胚性幹(ES)細胞を、インスリン成長因子1(IGF-1)、毛様体神経栄養因子(CNTF)、インターロイキン6(IL-6)、インターロイキン6受容体(IL-6R)、幹細胞因子(SCF)、および線維芽細胞増殖因子(FGF)、ならびに動物血清を補充した基礎培地に懸濁する段階;
c) 段階b)で得られたES細胞の懸濁液をフィーダー細胞層上に播種し、アヒルES細胞を少なくとも1継代の間さらに培養する段階;
d) 1〜約15継代というある範囲にわたり、好ましくは1継代の間に同時に、IGF-1、CNTF、IL-6、IL-6R、SCF、FGFを含む群より選択される増殖因子をすべて培地から除去し、アヒルES細胞を少なくとも1継代の間さらに培養する段階;
f) 何代かの継代後、好ましくは約5〜約25継代後に、フィーダー層の完全な除去を得るために、ある継代から別の継代へと培地中のフィーダー細胞の濃度を漸進的に減少させていき、細胞をさらに培養する段階;
g) 何代かの継代後に、動物血清の完全な除去を得るために、培地中の動物血清の濃度を任意に漸進的に減少させていく段階;ならびに:
h) 任意に動物血清を含まない、増殖因子、フィーダー層の存在しない基礎培地中で増殖することができる、アヒルEBx(登録商標)と命名されたES細胞に由来する接着性アヒル細胞株を得る段階であって、該連続継代性二倍体アヒル細胞株が複製能のある内在性レトロウイルス粒子を産生しない段階;
i) 接着性アヒル細胞株を懸濁培養条件に任意にさらに適合化する段階。
基礎培地への添加物は、本方法中、好ましくは段階f)とg)の間または段階g)とh)の間に除去する。
【0057】
段階b)における動物血清の濃度は、好ましくは5〜10%である。インスリン成長因子1(IGF-1)、毛様体神経栄養因子(CNTF)、インターロイキン6(IL-6)、インターロイキン6受容体(IL-6R)、幹細胞因子(SCF)、および線維芽細胞増殖因子(FGF)の濃度は、好ましくは約1 ng/mlである。
【0058】
本発明はまた、以下の段階を含む、胚性幹細胞(ES)に由来する連続継代性二倍体アヒル細胞株を得るための第2の方法であって、ここで該アヒル細胞株が複製能のある内在性レトロウイルス粒子を産生しない、第2の方法を提供する:
a) 産卵(oviposition)(すなわち、産卵(egg laying))時、または産卵のわずかに前もしくは後のアヒル胚を単離する段階。任意に、成熟させるために(すなわち、タイワンアヒル)、卵を通常一晩インキュベートしてもよい;
b) 段階a)の胚を分離することによって得られたアヒル胚性幹(ES)細胞を、IGF-1、CNTF、IL-6、IL-6R、SCF、およびFGF、ならびに動物血清を補充した基礎培地に懸濁する段階;
c) 段階b)で得られたES細胞の懸濁液をフィーダー細胞層上に播種し、アヒルES細胞を少なくとも1継代の間さらに培養する段階;
d) 1〜約15継代というある範囲にわたり、好ましくは1継代の間に同時に、IL-6、IL-6R、SCF、FGFを含む群より選択される増殖因子をすべて培地から除去し、アヒルES細胞を少なくとも1継代の間さらに培養する段階;
e) 1〜約15継代というある範囲にわたり、好ましくは1継代の間に同時に、増殖因子IGF-1およびCNTFを培地から除去し、アヒルES細胞を少なくとも1継代の間さらに培養する段階;
f) 何代かの継代後、好ましくは約5〜約25継代後に、フィーダー層の完全な除去を得るために、培地中のフィーダー細胞の濃度を漸進的に減少させていき、細胞をさらに培養する段階;
g) 何代かの継代後に、動物血清の完全な除去を得るために、培地中の動物血清の濃度を任意に漸進的に減少させていく段階;ならびに
h) 任意に動物血清を含まない、増殖因子、フィーダー層の存在しない基礎培地中で増殖することができる、アヒルEBx(登録商標)と命名されたES細胞に由来する接着性アヒル細胞株を得る段階であって、該連続継代性二倍体アヒル細胞株が複製能のある内在性レトロウイルス粒子を産生しない段階;
i) 接着性アヒル細胞株を懸濁培養条件に任意にさらに適合化する段階。
基礎培地への添加物は、本方法中、好ましくは段階f)とg)の間または段階g)とh)の間に除去する。
【0059】
段階b)における動物血清の濃度は、好ましくは5〜10%である。IGF-1、CNTF、IL-6、IL-6R、SCF、およびFGFの濃度は、好ましくは約1 ng/mlである。
【0060】
本発明はまた、以下の段階を含む、胚性幹細胞(ES)に由来する連続継代性二倍体アヒル細胞株を得るための第3の方法であって、該アヒル細胞株が複製能のある内在性レトロウイルス粒子を産生しない第3の方法を提供する:
a) 産卵(oviposition)(すなわち、産卵(egg laying))時、または産卵のわずかに前もしくは後のアヒル胚を単離する段階。任意に、成熟させるために(すなわち、タイワンアヒル)、卵を通常一晩インキュベートしてもよい;
b) 段階a)の胚を分離することによって得られたアヒル胚性幹(ES)細胞を、インスリン成長因子1(IGF-1)および毛様体神経栄養因子(CNTF)ならびに動物血清を補充した基礎培地に懸濁する段階;
c) 段階b)で得られたES細胞の懸濁液をフィーダー細胞層上に播種し、アヒルES細胞を少なくとも1継代の間さらに培養する段階;
d) 1〜約15継代というある範囲にわたり、好ましくは1継代の間に同時に、増殖因子IGF-1およびCNTFを培地から除去し、アヒルES細胞を少なくとも1継代の間さらに培養する段階;
f) 何代かの継代後、好ましくは約5〜約25継代後に、フィーダー層の完全な除去を得るために、培地中のフィーダー細胞の濃度を漸進的に減少させていき、細胞をさらに培養する段階;添加物の除去?
g) 何代かの継代後に、動物血清の完全な除去を得るために、培地中の動物血清の濃度を任意に漸進的に減少させていく段階;ならびに、
h) 任意に動物血清を含まない、増殖因子、フィーダー層の存在しない基礎培地中で増殖することができる、アヒルEBx(登録商標)と命名されたES細胞に由来する接着性アヒル細胞株を得る段階であって、ここで該連続継代性二倍体アヒル細胞株が複製能のある内在性レトロウイルス粒子を産生しない、段階;
i) 接着性アヒルEBx(登録商標)細胞株を懸濁培養条件に任意にさらに適合化する段階。
基礎培地への添加物は、本方法中、好ましくは段階f)とg)の間または段階g)とh)の間に除去する。
【0061】
段階b)における動物血清濃度は、好ましくは5〜10%である。IGF-1およびCNTFの濃度は、好ましくは約1 ng/mlである。
【0062】
ひとたび接着性または懸濁アヒル細胞株が得られたならば、本発明の方法はまた、アヒルEBx(登録商標)細胞を、酵母加水分解物などの非動物起源のタンパク質加水分解物を含まない細胞培養培地中での増殖に適合化させるさらなる段階を含み得る。
【0063】
好ましくは、本発明のアヒルEBx(登録商標)細胞株は、Q-PERT解析により逆転写酵素活性を示さない。さらに、本発明のアヒルEBx(登録商標)細胞とウズラQT6細胞またはニワトリDF1細胞などのALV複製可能細胞との同時培養実験によって実証される通り、複製能のある内在性レトロウイルス粒子は、アヒルEBx(登録商標)細胞によって産生されない。加えて、透過型電子顕微鏡(TEM)解析によっても、アヒルEBx(登録商標)細胞内に複製能のある内在性レトロウイルス粒子が存在しないことが示される。好ましくは、本発明のアヒルEBx(登録商標)細胞株は、後述の通り、アヒルEB24、アヒルEB26、およびアヒルEB66の中から選択される。
【0064】
別の好ましい態様において、本発明のトリはキジ目から選択され、より好ましくはニワトリ、好ましくはev-0家畜ニワトリ(ニワトリ亜種domesticus)である。したがって、本発明は、以下の段階を含む、胚性幹細胞(ES)に由来する連続継代性二倍体ev-0家畜ニワトリ細胞株を得るための方法であって、ここで、該ev-0家畜ニワトリ細胞株が複製能のある内在性ALV-Eレトロウイルス粒子を産生しない、方法を提供する:
a) 産卵(oviposition)(すなわち、産卵(egg laying))時、または産卵のわずかに前もしくは後のev-0家畜ニワトリ胚を単離する段階;
b) 段階a)の胚を分離することによって得られたev-0家畜ニワトリ胚性幹(ES)細胞を、IGF-1、CNTF、IL-6、IL-6R、SCF、およびFGF、ならびに動物血清を補充した基礎培地に懸濁する段階;
c) 段階b)で得られたES細胞の懸濁液をフィーダー細胞層上に播種し、ev-0家畜ニワトリES細胞を少なくとも1継代の間さらに培養する段階;
d) 1〜約15継代というある範囲にわたり、好ましくは1継代の間に同時に、IGF-1、CNTF、IL-6、IL-6R、SCF、FGFを含む群より選択される増殖因子をすべて培地から除去し、ニワトリES細胞を少なくとも1継代の間さらに培養する段階;
f) 何代かの継代後、好ましくは約5〜約25継代後に、フィーダー層の完全な除去を得るために、培地中のフィーダー細胞の濃度を漸進的に減少させていき、細胞をさらに培養する段階;
g) 何代かの継代後に、動物血清の完全な除去を得るために、培地中の動物血清の濃度を任意に漸進的に減少させていく段階ならびに:
h) 任意に動物血清を含まない、増殖因子、フィーダー層の存在しない基礎培地中で増殖することができる、EBx ev-0と命名されたES細胞に由来する接着性ev-0家畜ニワトリ細胞株を得る段階であって、ここで、該連続継代性二倍体鳥類細胞株が複製能のある内在性ALV-Eレトロウイルス粒子を産生しない、段階;
i) 接着性鳥類細胞株EBx ev-0を懸濁培養条件に任意にさらに適合化する段階。
基礎培地への添加物は、本方法中、好ましくは段階f)とg)の間または段階g)とh)の間に除去する。
【0065】
段階b)における動物血清濃度は、好ましくは5〜10%である。IGF-1、CNTF、IL-6、IL-6R、SCF、およびFGFの濃度は、好ましくは約1 ng/mlである。
【0066】
本発明はまた、以下の段階を含む、胚性幹細胞(ES)に由来する連続継代性二倍体ev-0家畜ニワトリ細胞株を得るための第2の方法であって、ここで、該ev-0家畜ニワトリ細胞株が複製能のある内在性ALV-Eレトロウイルス粒子を産生しない、第2の方法を提供する:
a) 産卵(oviposition)(すなわち、産卵(egg laying))時、または産卵のわずかに前もしくは後のev-0家畜ニワトリ胚を単離する段階;
b) 段階a)の胚を分離することによって得られたev-0家畜ニワトリ胚性幹(ES)細胞を、IGF-1、CNTF、IL-6、IL-6R、SCF、およびFGF、ならびに動物血清を補充した基礎培地に懸濁する段階;
c) 段階b)で得られたES細胞の懸濁液をフィーダー細胞層上に播種し、ev-0家畜ニワトリES細胞を少なくとも1継代の間さらに培養する段階;
d) 1〜約15継代というある範囲にわたり、好ましくは1継代の間に同時に、IL-6、IL-6R、SCF、FGFを含む群より選択される増殖因子すべてを培地から除去し、ニワトリES細胞を少なくとも1継代の間さらに培養する段階;
e) 1〜約15継代というある範囲にわたり、好ましくは1継代の間に同時に、増殖因子IGF-1およびCNTFを培地から除去し、ev-0家畜ニワトリES細胞を少なくとも1継代の間さらに培養する段階;
f) 何代かの継代後、好ましくは約5〜約45継代後に、フィーダー層の完全な除去を得るために、培地中のフィーダー細胞の濃度を漸進的に減少させていき、細胞をさらに培養する段階;
g) 何代かの継代後に、動物血清の完全な除去を得るために、培地中の動物血清の濃度を任意に漸進的に減少させていく段階ならびに:
h) 任意に動物血清を含まない、増殖因子、フィーダー層の存在しない基礎培地中で増殖することができる、ES細胞に由来する接着性ev-0家畜ニワトリ細胞株を得る段階であって、ここで、ニワトリEBx(登録商標)と命名された該連続継代性二倍体ev-0家畜ニワトリ細胞株が複製能のある内在性レトロウイルス粒子を産生しない、段階;
i) 接着性ev-0家畜ニワトリ細胞株を懸濁培養条件に任意にさらに適合化する段階。
基礎培地への添加物は、本方法中、好ましくは段階f)とg)の間または段階g)とh)の間に除去する。
【0067】
段階b)における動物血清濃度は、好ましくは5〜10%である。IGF-1、CNTF、IL-6、IL-6R、SCF、およびFGFの濃度は、好ましくは約1 ng/mlである。
【0068】
本発明はまた、以下の段階を含む、胚性幹細胞(ES)に由来する連続継代性二倍体ev-0家畜ニワトリ細胞株を得るための第3の方法であって、ここで、該ev-0家畜ニワトリ細胞株が複製能のある内在性ALV-Eレトロウイルス粒子を産生しない、第3の方法を提供する:
a) 産卵(oviposition)(すなわち、産卵(egg laying))時、または産卵のわずかに前もしくは後のev-0家畜ニワトリ胚を単離する段階;
b) 段階a)の胚を分離することによって得られたev-0家畜ニワトリ胚性幹(ES)細胞を、IGF-1およびCNTFならびに動物血清を補充した基礎培地に懸濁する段階:
c) 段階b)で得られたES細胞の懸濁液をフィーダー細胞層上に播種し、ev-0家畜ニワトリES細胞を少なくとも1継代の間さらに培養する段階;
d) 1〜約15継代というある範囲にわたり、好ましくは1継代の間に同時に、増殖因子IGF-1およびCNTFを培地から除去し、ev-0家畜ニワトリES細胞を少なくとも1継代の間さらに培養する段階;
f) 何代かの継代後、好ましくは約5〜約45継代後に、フィーダー層の完全な除去を得るために、培地中のフィーダー細胞の濃度を漸進的に減少させていき、細胞をさらに培養する段階;
g) 何代かの継代後に、動物血清の完全な除去を得るために、培地中の動物血清の濃度を任意に漸進的に減少させていく段階;ならびに、
h) 任意に動物血清を含まない、増殖因子、フィーダー層の存在しない基礎培地中で増殖することができる、ニワトリEBx(登録商標) ev-0と命名されたES細胞に由来する接着性ev-0家畜ニワトリ細胞株を得る段階であって、ここで、該連続継代性二倍体ニワトリ細胞株が複製能のある内在性レトロウイルス粒子を産生しない、段階;
i) 接着性ev-0家畜ニワトリ細胞株を懸濁培養条件に任意にさらに適合化する段階。
基礎培地への添加物は、本方法中、好ましくは段階f)とg)の間または段階g)とh)の間に除去する。
【0069】
段階b)における動物血清濃度は、好ましくは5〜10%である。IGF-1およびCNTFの濃度は、好ましくは約1 ng/mlである。
【0070】
別の好ましい態様において、本発明のトリは、特定病原体不在(SPF)群から得られる家畜ニワトリ(ニワトリ亜種domesticus)である。より好ましくは、ニワトリ株は白色レグホンである。SPF鶏卵は、細網内皮症ウイルス(REV)および鳥類外因性ロイコシスウイルス(ALV-A、ALV-B、ALV-C、ALV-D、ALV-J)を含む公知のニワトリ細菌性病原体の不在についてスクリーニングがなされている。本発明のSPF卵は、LOHMANN(ドイツ、クックスハーフェン)によるVALO卵またはCHARLES RIVER(Spafas)によるL22卵であってよい。したがって、本発明はまた、ev-0鶏卵について記載したのと同様に、SPF鶏卵から得られる胚性幹細胞(ES)に由来する連続継代性二倍体ニワトリ細胞株を得るための方法を提供する。好ましくは、SPF卵から得られるニワトリEBx(登録商標)細胞株はEBv13である。
【0071】
本発明のニワトリEBx(登録商標)細胞株は、Q-PERT解析により逆転写酵素活性を示してもよいが、複製能のある内在性レトロウイルス粒子を産生しない。複製能のある内在性レトロウイルス粒子が存在しないことは、本発明のニワトリEBx(登録商標) ev-0細胞とウズラQT6細胞またはニワトリDF1細胞などのALV複製可能細胞との同時培養実験によって実証され得る。加えて、ニワトリEBx(登録商標) ev-0細胞内に内在性レトロウイルス粒子が存在しないことは、TEMによっても実証され得る。
【0072】
トリの体温は通常約39℃である。したがって、本発明の方法は、本発明の鳥類細胞株を37℃で増殖するよう適合化するために、細胞培養温度を37℃まで下げるさらなる段階もまた含み得る。好ましくは、温度の適合化は、フィーダーの枯渇後かつ血清の枯渇前に行う。または、温度の適合化は、血清の枯渇段階後、または細胞株を懸濁培養に適合化する段階後に行う。
【0073】
本発明の確立系統EBx(登録商標)は、外因性増殖因子および動物血清を含まず、かつフィーダー細胞を伴わない培地中で接着細胞または懸濁細胞として増殖する特徴を有する。以下の中の異なる技法を単独で、または組み合わせて用いて、細胞を懸濁培養に適合化することができる:
‐接着細胞を細胞コンフルエンスをわずかに上回る高細胞密度で播種して、細胞を強制的に懸濁状態にする;
‐接着細胞を動物血清濃度の低い細胞培養培地で播種する;
‐接着細胞を、細菌用のディッシュおよびプレート、ならびにCorning(組織培養ディッシュおよびプレート参照3262、3473、3471、3474;フラスコ参照3814...)またはSarstedt(フラスコ参照831810502...)のような業者によって開発された超低接着プレートなどの、細胞接着を可能にしないかまたは弱い細胞接着を可能にするプラスチック製の細胞培養容器に播種する;
‐接着細胞を容器に播種し、撹拌下(約50 rpm)で培養する。
【0074】
EBx(登録商標)細胞、好ましくはアヒルEBx(登録商標)およびニワトリEBx(登録商標) ev-0は、かなりの期間にわたってインビトロ培養することができる。有利なことには、本発明の方法によって得られる接着性または足場非依存性(すなわち、懸濁) EBx(登録商標)細胞は、少なくとも50世代、少なくとも75世代、少なくとも100世代、少なくとも125世代、少なくとも150世代、少なくとも175世代、少なくとも200世代、少なくとも250世代にわたり増殖することができる。「系統」という表現は、大なり小なり同じ形態学的特徴および表現型の特徴を保持しながら、インビトロでの培養において無限に増殖することができる細胞の任意の集団を意味すると理解される。本発明のEBx(登録商標)細胞から、例えば限界希釈によって、クローンを得ることができる。これらのクローンは、分裂によりそれらを導出した元の細胞と遺伝学的に同一である細胞である。
【0075】
本発明はまた、37℃または39℃で約30時間またはそれ未満の倍加時間を有する、小円形(すなわち、直径約10 um)の個別細胞である、本発明の方法によって得られ得るEBx(登録商標)と命名された連続継代性二倍体鳥類細胞株に関する。鳥類EBx(登録商標)細胞、好ましくはアヒルEBx(登録商標)またはニワトリEBx(登録商標) ev-0は、以下の特徴を有する胚性幹細胞表現型を示す:
‐高い核-細胞質比、
‐内因性テロメラーゼ活性、
‐任意に、それらは、アルカリホスファターゼ、SSEA-1、EMA-1、ENS1マーカーなどの1つまたは複数のさらなるESマーカーを発現し得る。
‐37℃で約30時間またはそれ未満(好ましくは24時間)という、本発明の方法の段階a)の鳥類ES細胞の倍加時間(39℃で48時間〜72時間)よりも短い倍加時間。
該細胞は、複製能のある内在性レトロウイルス粒子を産生しない。
【0076】
本発明の鳥類EBx(登録商標)細胞株は、当業者によく用いられる様々な添加物を任意に補足した、外因性増殖因子、血清、および/または不活化フィーダー層を含まない基礎培地、特にSAFC Excell培地、DMEM、GMEM、DMEM-ハムF12、またはマッコイなどの培地中で無限に増殖することができる。添加物の例は、非必須アミノ酸、ビタミン、ピルビン酸ナトリウム、および抗生物質である。本発明のアヒルEBx(登録商標)細胞は、グルタミンを補足していない基礎培地中で増殖するという顕著な特徴を有する。
【0077】
本発明はまた、多能性または多分化能鳥類胚性幹細胞、好ましくは多能性または多分化能アヒル胚性幹(ES)細胞を、培養物中に未分化状態で維持するための細胞培養培地に関する。好ましい態様によれば、本発明は、動物血清を補充し、かつ少なくともIGF-1およびCNTFを補充した基礎培地を含む、アヒル胚性幹細胞用の細胞培養培地に関する。第2の好ましい態様によれば、本発明は、動物血清を補充し、かつ少なくともIGF-1、CNTF、Il-6、Il-6Rを補充した基礎培地を含む、アヒル胚性幹細胞用の細胞培養培地に関する。第3の好ましい態様によれば、本発明は、動物血清を補充し、かつ少なくともIGF-1、CNTF、Il-6、Il-6R、SCF、およびFGFを補充した基礎培地を含む、アヒル胚性幹細胞用の細胞培養培地に関する。該培地は、該アヒルES細胞を培養物中に未分化状態で少なくとも7日間、好ましくは少なくとも20日間、好ましくは少なくとも100日間にわたり維持するのに十分である。本発明の該培地はさらに、インターロイキン-11、カルジオトロフィン、オンコスタチン、および白血病抑制因子(LIF)を含む群から選択される少なくとも1種類の化合物を任意に含み得る。好ましくは、該培地は、前述の非動物起源のタンパク質加水分解物をさらに含み得る;より好ましくは、それは1×濃度の酵母加水分解物である。本発明の鳥類(好ましくはアヒル)ES細胞の培地は、フィーダー細胞層をさらに含み得る。
【0078】
本発明はまた、本質的に、以下の特徴を有する幹細胞表現型を示す未分化アヒルES細胞からなる持続性アヒルES細胞培養物を提供する:
‐高い核-細胞質比、
‐内因性テロメラーゼ活性、
‐任意に、アヒルES細胞は、アルカリホスファターゼ、SSEA-1、EMA-1、ENS1マーカーなどの1つまたは複数のさらなるESマーカーを発現し得る。
‐37℃または39℃で約40時間よりの倍加時間(A doubling time of about around than 40 hours at 37℃ or 39℃.)。
本発明による該未分化アヒル細胞は、前述のアヒル胚性幹細胞用の細胞培養培地中でフィーダー細胞上で増殖させた場合、該幹細胞表現型を維持することができる。該未分化アヒル細胞は、キメラアヒルまたはトランスジェニックアヒルを作製するのに有用である。
【0079】
したがって、本発明はまた、以下の段階を含む、キメラアヒルを得る方法に関する:
a) 上記の持続性アヒルES細胞培養物を、レシピエントアヒル胚の胚下腔に導入する段階;および
b) 段階a)で得られた胚をインキュベートして、子アヒルとして孵化させる段階;
c) 子アヒルに定着した異種細胞を含むキメラの子アヒルを選択する段階。
本発明はまた、以下の段階を含む、遺伝子改変キメラアヒルを得る方法に関する:
a) 上記の遺伝子改変アヒルES細胞を、レシピエントアヒル胚の胚下腔に導入する段階;および
b) 段階a)で得られた胚をインキュベートして、子アヒルとして孵化させる段階;
c) 子アヒルに定着した遺伝子改変異種細胞を含むキメラの子アヒルを選択する段階。
本発明はまた、以下の段階を含む、該キメラの子アヒルの子孫を得る方法に関する:
a) 段階c)で得られた選択されたキメラの子アヒルを、成鳥として成熟させる段階;
b) 本明細書における異種細胞を有する該成鳥を繁殖させることにより、トリの子孫を作製する段階;
c) 子孫において関心対象のトリを選択する段階。
本発明は、該遺伝子改変アヒルES細胞内に含まれる発現ベクターによってコードされる異種ポリペプチドを発現させるさらなる段階を含み得る。好ましくは、異種ポリペプチドは、血液、精子、尿、または遺伝子改変アヒルの雌が産んだ発生鳥類卵の卵白など、アヒルの生体液中に送達される。
【0080】
本発明のEBx(登録商標)細胞は上記の特徴をすべて有し、ウイルスワクチンならびに組換えペプチドおよびタンパク質などの生物製剤の生産に有用である。
【0081】
本発明はまた、本発明の連続継代性二倍体鳥類EBx(登録商標)細胞株においてウイルスを複製する方法を提供する。より好ましくは、本発明は、以下の段階を含む、本発明の連続継代性二倍体鳥類EBx(登録商標)細胞株、好ましくはアヒルまたはニワトリEBx(登録商標)細胞株においてウイルスを複製する方法を提供する:
‐鳥類EBx(登録商標)細胞培養物を関心対象のウイルスに感染させる段階;該鳥類EBx(登録商標)細胞は、好ましくは動物血清不含培地で培養される;
‐該ウイルスを複製するために、感染鳥類EBx(登録商標)細胞を培養する段階;
‐細胞培養上清中および/または該細胞内のウイルスを回収する段階。
好ましい態様によれば、該方法は以下の段階を含む:
a) 該鳥類EBx(登録商標)を培養容器内で、無血清培地N°1中で懸濁状態で増殖させる段階;
b) 細胞密度が少なくとも150万個細胞/mlである時点で、該細胞を選択されたウイルスに感染させる段階;
c) 任意に、感染直前に、感染と同時に、または感染直後に、細胞培養物に無血清培地N°2を添加する段階;および
d) ウイルス複製を可能にするために、該感染細胞をさらに培養する段階;
e) 該ウイルスを任意に回収する段階。
本発明の該方法は、ウイルス増殖を可能にする条件において、培地中にタンパク質分解酵素を添加するさらなる段階を含み得る。タンパク質分解酵素は、トリプシン、キモトリプシン、サーモリシン、ペプシン、パンクレアチン、パパイン、プロナーゼ、サブチリシンA、エラスターゼ、フリン、およびカルボキシペプチダーゼからなる群より選択される。好ましい態様によれば、酵素はトリプシンである。好ましくは、タンパク質分解酵素は、原核生物宿主または植物で産生された組換えタンパク質(すなわち:trypzean)である。タンパク質分解酵素は、ウイルス感染前、ウイルス感染中、および/またはウイルス感染後に添加することができる。好ましくは、タンパク質分解酵素の添加は、ウイルス感染後に行う。培地中へのタンパク質酵素の添加は、ウイルス回収まで1日当たり1回、1日当たり2回以上、または1日当たり1回未満行うことができる。
【0082】
本明細書で使用する「ウイルス」という用語は、天然ウイルスのみならず、弱毒化ウイルス、再集合体ウイルス、ワクチン株、ならびにそれらに由来する組換えウイルスおよびウイルスベクターを含む。本発明のウイルスは、好ましくは、ポックスウイルス、オルトミクソウイルス、パラミクソウイルス、ヘルペスウイルス、ヘパドナウイルス、アデノウイルス、パルボウイルス、レオウイルス、サーコウイルス、コロナウイルス、フラビウイルス、トガウイルス、ビルナウイルス、およびレトロウイルスを含む群より選択される。
【0083】
好ましい態様において、ウイルス、関連ウイルスベクター、ウイルス粒子、およびウイルスワクチンは、ポックスウイルス科、より好ましくはコルドポックスウイルス亜科に属する。1つの態様において、ウイルスまたは関連ウイルスベクター、ウイルス粒子、およびウイルスワクチンは、ポックスウイルス、好ましくは鶏痘ウイルス(fowl pox virus)(すなわち、TROVAC)、カナリア痘ウイルス(すなわち、ALVAC)、ユキヒメドリ痘ウイルス(juncopox virus)、キュウカンチョウ痘ウイルス(mynah pox virus)、鳩痘ウイルス(pigeonpox virus)、オウム痘ウイルス(psittacine pox virus)、ウズラ痘ウイルス(quail pox virus)、スズメ痘ウイルス(spallowpox virus)、ムクドリ痘ウイルス(starling pox virus)、シチメンチョウ痘ウイルス(turkey pox virus)の中から選択されるアビポックスウイルスである。別の好ましい態様によれば、ウイルスは、Lister-Elstreeワクシニアウイルス株、例えばATCCから入手することができる改変ワクシニアウイルスAnkara(MVA)(ATCC番号VR-1508)、NYVAC(Tartaglia et al., 1992, Virology, 188:217-232)、LC16m8(Sugimoto et Yamanouchi, 1994, Vaccine, 12:675-681)、CVI78(Kempe et al., 1968, Pediatrics 42:980-985)などの改変ワクシニアウイルス、およびその他の組換えまたは非組換えワクシニアウイルスの中から選択されるワクシニアウイルスである。
【0084】
別の好ましい態様において、ウイルス、関連ウイルスベクター、ウイルス粒子、およびワクチンは、オルトミクソウイルス科、特にインフルエンザウイルスに属する。インフルエンザウイルスは、ヒトインフルエンザウイルス、鳥類インフルエンザウイルス、ウマインフルエンザウイルス、ブタインフルエンザウイルス、ネコインフルエンザウイルスからなる群より選択される。インフルエンザウイルスは、好ましくはA株、B株、およびC株から選択される。A株の中には、非限定的にH1N1、H2N2、H3N2、H4N2、H4N6、H5N1、H5N2、H7N7、およびH9N2など、血球凝集素およびノイラミニダーゼの異なる亜型を有するウイルスを挙げることができる。H1N1株の中には、A/ポルト・リコ/8/34、A/ニューカレドニア/20/99、A/北京/262/95、A/ヨハネスブルク/282/96、A/テキサス/36/91、A/シンガポール、A/ソロモン諸島/03/2006を挙げることができる。H3N2株の中には、A/パナマ/2007/99、A/モスクワ/10/99、A/ヨハネスブルク/33/94、A/ウィスコンシン/10/04を挙げることができる。B株の中は、非限定的に、B/ポルト・リコ/8/34、B/ヨハネスブルク/5/99、B/ウィーン/1/99、B/アナーバー/1/86、B/メンフィス/1/93、B/ハルビン/7/94、N/山東/7/97, B/香港/330/01、B/山梨/166/98、B/江蘇/10/03、B/マレーシアを挙げることができる。本発明のインフルエンザウイルスは、野生型ウイルス、感染個体から得られた一次ウイルス分離株、組換えウイルス、弱毒化ウイルス、温度感受性ウイルス、低温適応ウイルス、再集合体ウイルス、逆遺伝子操作ウイルスの中から選択される。本発明のウイルスがインフルエンザウイルスである場合、本発明の方法は、ウイルス増殖を可能にする条件において、培地中にタンパク質分解酵素を添加するさらなる段階を含む。好ましい態様によれば、酵素はトリプシンである。細胞培養培地中のトリプシンの最終濃度は、約0.01μg/ml〜10μg/mlからなる。より好ましくは、細胞培養培地中のトリプシンの最終濃度は、0.01〜10 usp/ml(usp:米国薬局方の単位)、好ましくは約0.05〜2 usp/ml、より好ましくは約0.3〜1 usp/ml、より好ましくは約0.75 usp/mlからなる。
【0085】
別の好ましい態様において、ウイルス、関連ウイルスベクター、ウイルス粒子、およびワクチンは、パラミクソウイルス科に属する。好ましくは、ウイルスは、麻疹ウイルス、流行性耳下腺炎ウイルス、風疹ウイルス、センダイウイルス、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)、ヒトパラインフルエンザI型およびIII型、牛疫ウイルス、イヌジステンパーウイルス、ニューカッスル病ウイルス、アヒルパラインフルエンザウイルスを含む群から選択される天然パラミクソウイルスまたは組換えパラミクソウイルスである。好ましい態様によれば、ウイルスは麻疹ウイルスまたは組換え麻疹ウイルスである。別の好ましい態様によれば、ウイルスはニューカッスル病ウイルス(NDV)または組換えNDVである。NDV株の例はLaSota株である。本発明のウイルスがNDVである場合、本発明の方法は、好ましくは、ウイルス増殖を可能にする条件において、培地中にタンパク質分解酵素を添加するさらなる段階を含む。好ましい態様によれば、酵素はトリプシンである。細胞培養培地中のトリプシンの最終濃度は、約0.01μg/ml〜10μg/mlからなる。より好ましくは、細胞培養培地中のトリプシンの最終濃度は、0.01〜10 usp/ml(usp:米国薬局方の単位)、好ましくは約0.3〜1 usp/ml、より好ましくは約0.4〜0.75 usp/mlからなる。興味深いことに、接着状態で増殖し得る本発明のEBx(登録商標)細胞株は、プラークアッセイ法でウイルス力価測定、好ましくはNDV力価測定を行うのに有用である。実際に、細胞変性効果を観察することが不可能であったCEFおよびニワトリDF1線維芽細胞とは異なり、EBx(登録商標)細胞で増殖したウイルスは、特徴的な巨細胞の形成を引き起こす。加えて、NDVウイルス粒子は、血球凝集アッセイ法によって判定することもできる。したがって、本発明はまた、NDVウイルスなどのウイルスの力価測定のための本発明のEBx(登録商標)細胞の使用に関する。
【0086】
別の好ましい態様において、ウイルス、関連ウイルスベクター、ウイルス粒子、およびワクチンは、トガウイルス科に属する。好ましくは、ウイルスは、シンビスウイルス、セムリキ森林ウイルス、オニョンニョンウイルス、チクングニアウイルス、マヤロウイルス、ロスリバーウイルス、東部ウマ脳炎ウイルス、西部ウマ脳炎ウイルス、ベネズエラウマ脳炎ウイルスを含む群から選択される天然アルファウイルスまたは組換えアルファウイルスである。
【0087】
別の好ましい態様において、ウイルス、関連ウイルスベクター、ウイルス粒子、およびワクチンは、ヘルペスウイルス科に属する。好ましくは、ウイルスは、天然マレック病ウイルスまたは組換えマレック病ウイルスである。マレック病ウイルス(MDV)は、好ましくは、FC126(HTV)、SB-1、301B/1、CVI988クローンC、CV1988/C/R6、CVI988/Rispens、R2/23(Md11/75)など、MDVの認可ワクチン株の中から選択される。
【0088】
別の好ましい態様において、ウイルス、関連ウイルスベクター、ウイルス粒子、およびワクチンは、ヘパドナウイルス科に属する。好ましくは、ウイルスは、好ましくは鳥類およびヒトヘパドナウイルスの中から選択される天然ヘパドナウイルスまたは組換えヘパドナウイルスである。鳥類ヘパドナウイルスは、好ましくは、アヒルB型肝炎ウイルス(DHBV)、サギB型肝炎ウイルス(HHBV)、およびスノーグース(SGHBV)からなる群の中から選択される。
【0089】
別の好ましい態様において、ウイルス、関連ウイルスベクター、ウイルス粒子、およびワクチンは、ビルナウイルス科、特に伝染性ファブリーキウス嚢病ウイルスに属する。
【0090】
別の好ましい態様において、ウイルス、関連ウイルスベクター、ウイルス粒子、およびワクチンは、フラビウイルス科、特にデングウイルス、日本脳炎ウイルス、およびウエストナイルウイルスに属する。
【0091】
別の好ましい態様において、ウイルス、関連ウイルスベクター、ウイルス粒子、およびワクチンは、コロナウイルス科、特に伝染性気管支炎ウイルスに属する。
【0092】
別の好ましい態様において、ウイルス、関連ウイルスベクター、ウイルス粒子、およびワクチンは、サーコウイルス科、特にニワトリ貧血ウイルスに属する。
【0093】
別の好ましい態様において、ウイルス、関連ウイルスベクター、ウイルス粒子、およびワクチンは、レトロウイルス科に属する。好ましくは、ウイルスは、細網内皮症ウイルス、アヒル伝染性貧血ウイルス、suck脾臓壊死ウイルスの中から選択される天然レトロウイルス、またはその組換えレトロウイルスである。
【0094】
別の好ましい態様において、ウイルス、関連ウイルスベクター、ウイルス粒子、およびワクチンは、パルボウイルス科に属する。好ましくは、ウイルスは、アヒルパルボウイルスなどの天然パルボウイルスまたはその組換えパルボウイルスである。
【0095】
別の好ましい態様において、ウイルス、関連ウイルスベクター、ウイルス粒子、およびワクチンは、アデノウイルス科に属する。好ましくは、ウイルスは、好ましくはトリアデノウイルス、ガチョウアデノウイルス、アヒルアデノウイルス、およびハトアデノウイルスの中から選択される天然アデノウイルス、またはその組換えアデノウイルスである。トリアデノウイルスの例は、トリアデノウイルス1(CELO)、トリアデノウイルス5(340)、トリアデノウイルス4(KR95)、トリアデノウイルス10(CFA20)、トリアデノウイルス2(P7-A)、トリアデノウイルス3(75)、トリアデノウイルス9(A2-A)、トリアデノウイルス11(380)、トリアデノウイルス6(CR119)、トリアデノウイルス7(YR36)、トリアデノウイルス8a(TR59)、トリアデノウイルス8b(764)、および軟卵症候群ウイルスである。ガチョウアデノウイルスの例は、ガチョウアデノウイルス1、ガチョウアデノウイルス2、ガチョウアデノウイルス3である。アヒルアデノウイルスの例は、アヒルアデノウイルス2である。ハトアデノウイルスの例は、ハトアデノウイルス1である。
【0096】
組換えウイルスには、異種遺伝子を含むウイルスベクターが含まれるが、これに限定されない。いくつかの態様では、ウイルスを複製するためのヘルパー機能が、宿主細胞EBx(登録商標)、ヘルパーウイルス、またはヘルパープラスミドによって提供される。代表的なベクターには、鳥類または哺乳動物細胞に感染するベクターが含まれるが、これに限定されない。
【0097】
本発明はまた、クラミジア、リケッチア、またはコクシエラなどの細胞内細菌を複製するための本発明のEBx(登録商標)細胞の使用に関する。
【0098】
本発明のEBx(登録商標)細胞はまた、組換えタンパク質およびペプチドを生産するために用いることができる。本発明はまた、以下の段階を含む、組換えタンパク質およびペプチドの生産法に関する:(i) 発現ベクターの一過性または安定的トランスフェクションにより、本発明のEBx(登録商標)細胞を遺伝子改変する段階;(ii) 該組換えタンパク質またはペプチドを発現するEBx(登録商標)細胞を任意に選択する段階;(iii) および該ペプチドまたはタンパク質を精製する段階。EBx(登録商標)細胞において生産されるペプチドおよびタンパク質もまた、本発明に含まれる。
【0099】
本発明の培養容器は、より好ましくは、連続撹拌槽型バイオリアクター、Wave(商標)バイオリアクター、Bello(商標)バイオリアクター、スピナーフラスコ、フラスコ、およびセルファクトリーの中から選択される。典型的に、細胞は、マスターセルバンクまたはワーキングセルバンクのバイアルから、様々な大きさのT-フラスコ、ローラーボトル、またはWave(商標)バイオリアクターを経て、好ましくは最終的にバイオリアクターまで拡大する。得られた細胞懸濁液は次いで、典型的には、さらなる培養のための種生産バイオリアクター(典型的に20〜30 L容量)に、いくつかの態様では、より大きな生産バイオリアクター(典型的に150〜180 L容量およびそれ以上)に供給する。第2(より大きな)バイオリアクターと種バイオリアクターとの容量比は、細胞株を第1バイオリアクターで増殖させる程度によって決まるが、典型的には3:1〜10:1、例えば、(6〜8):1の範囲である。好ましい態様によれば、培養容器は、温度、通気、pH、および他の管理条件の制御を可能にし、かつ細胞、滅菌酸素、様々な培養用培地を導入するのに適した注入口、ならびに細胞および培地を除去するための排出口、ならびにバイオリアクター内で培地を撹拌する手段を備えた連続撹拌槽型バイオリアクターである。
【0100】
本発明によれば、「無血清培地」(SFM)とは調製済の細胞培養培地を意味し、すなわち、これは細胞の生存および細胞増殖を可能にする動物血清の添加を必要としない。この培地は必ずしも化学的に定義される必要はなく、様々な起源の、例えば植物または酵母由来の加水分解物を含んでもよい。好ましくは、該SFMは「非動物起源」の条件を満たし、すなわち、これは動物またはヒト起源の成分を含まない(FAO状態:「動物起源を含まない」)。SFMでは、天然血清タンパク質は組換えタンパク質によって置き換えられる。または、本発明によるSFM培地はタンパク質を含まず(PF培地:「無タンパク質培地」)、かつ/または化学的に定義される(CDM培地:「既知組成培地」)。SFM培地は、次のいくつかの利点を示す:(i) 第1に、このような培地の規格に適合していること(実際、BSE、ウイルスなどの外来性病原体による汚染のリスクがない);(ii) 精製過程の最適化;(iii) より明確に定義された培地であることによる、本方法におけるより良好な再現性。市販のSFM培地の例は、VP SFM(InVitrogen参照11681-020、カタログ2003)、Opti Pro(InVitrogen参照12309-019、カタログ2003)、Episerf(InVitrogen参照10732-022、カタログ2003)、Pro 293 S-CDM(Cambrex参照12765Q、カタログ2003)、LC17(Cambrex参照BESP302Q)、Pro CHO 5-CDM(Cambrex参照12-766Q、カタログ2003)、HyQ SFM4CHO(Hyclone参照SH30515-02)、HyQ SFM4CHO-Utility(Hyclone参照SH30516.02)、HyQ PF293(Hyclone参照SH30356.02)、HyQ PF Vero(Hyclone参照SH30352.02)、Excell 293培地(SAFC Biosciences参照14570-1000M)、Excell 325 PF CHO無タンパク質培地(SAFC Biosciences参照14335-1000M)、Excell VPRO培地(SAFC Biosciences参照14560-1000M)、Excell 302無血清培地(SAFC Biosciences参照14312-1000M)、Excell 65319、Excell 65421、Excell 65625、Excell 65626、Excell 65627、Excell 65628、Excell 65629(JRH Biosciences)、Excell MDCK SFM(SAFC-Biosciences参照14581C)、Excell MDCK Prod(参照M3678)、Gene Therapy Medium 3(動物成分不含)(SIGMA-Aldrich、参照G-9916、またはExcell GTM-3)(以後、G9916培地と呼称する)、HYQ CDM4 HEK-293(Hyclone参照SH30859)、HYQ SFM4 HEK-293 (HYCLONE参照SH30521)、AEM(InVitrogen)である。第1の好ましい態様によれば、無血清培地N°1と無血清培地N°2は同じ培地である。第2の好ましい態様によれば、無血清培地N°1と無血清培地N°2は異なる組成を有する。
【0101】
本発明の方法は、無血清培地1の全体または一部の除去、その後の無血清培地1の無血清培地N°2による置換を含む。しかしながら、無血清培地1のかなりの割合(例えば、約50%まで)を除去し、培地1を例えばスピンフィルターを通してさらに除去しながら、それに無血清培地N°2を補充することがより簡便である。好ましい態様によれば、無血清培地N°2は、無血清培地N°1の一部を除去することなく、無血清培地N°1に直接添加する。1容量の無血清培地N°1に、0.25〜10容量の無血清培地N°2を添加する。好ましい態様では、1容量の無血清培地N°1に、約0.5〜8容量の無血清培地N°2を添加する。より好ましい態様では、1容量の無血清培地N°1に、約3〜6容量の無血清培地N°2を添加する。
【0102】
無血清培地N°1および/または無血清培地N°2には、アミノ酸、脂質、脂肪酸、コレステロール、ビタミン、炭水化物、非動物起源のタンパク質加水分解物、およびそれらの混合物からなる群より選択される少なくとも1つの成分を補充してもよい。
【0103】
または、本発明のウイルスを複製する方法は、アミノ酸、脂質、ビタミン、炭水化物、非動物起源のタンパク質加水分解物、界面活性剤、およびそれらの混合物からなる群より選択される少なくとも1つの成分を細胞に供給するさらなる段階を含む流加培養方法である。第1の好ましい態様によれば、供給は、ウイルスを複製する本発明の方法の段階a)〜d)中に、または段階b)〜d)中にのみ、または段階d)中にのみ起こる。供給は、毎日または連続して起こり得る。供給が非連続的である場合、供給は1日当たり1回、1日当たり2回以上、または1日当たり1回未満起こり得る。
【0104】
本発明のSFM培地は、アミノ酸、ビタミン、有機および無機塩、炭水化物源を含むいくつかの成分を含み、各成分はインビトロで細胞の培養を支持する量で存在する。しかしながら、細胞増殖またはウイルスの生産性を向上させるためには、さらなる成分をSFM培地に添加する。
【0105】
細胞培養物に添加するアミノ酸の選択は、培養物中の細胞によるアミノ酸消費を解析することによって決定することができる;そのような消費は、細胞種によって異なる。好ましい態様によれば、培地に添加するアミノ酸は、アスパラギンおよびグルタミン、またはそれらの混合物からなる群より選択され得る。より好ましい態様では、グルタミンをニワトリEBx細胞培養物に添加し、グルタミンの供給は、培地中のグルタミン濃度を約0.5 mM〜約5 mM、好ましくは約1 mM〜約3 mM、最も好ましくは約2 mMに維持するように、段階a)〜d)中に行う。好ましい態様において、グルタミンの供給は連続して起こる。興味深いことに、アヒル細胞はグルタミンを合成する能力を有するため、アヒルEBx(登録商標)細胞は多くのグルタミンを消費しない。したがって、アヒルEBx細胞培養物にはグルタミンを添加してもよいし、またはしなくてもよい。
【0106】
好ましい態様によれば、培地に添加する炭水化物は、D-グルコース、D-スクロース、およびD-ガラクトース、またはそれらの混合物からなる群より選択される。より好ましい態様によれば、添加する炭水化物はD-グルコースである。D-グルコースの供給は、培地中のD-グルコース濃度をD-グルコース約0.5 g/l〜25 g/l、好ましくはD-グルコース約1 g/l〜10 g/l、好ましくはD-グルコース約2〜3 g/lに維持するように、段階a)〜d)中に、より好ましくはb)〜d)中に行う。好ましい態様では、D-グルコースの供給は連続して起こる。
【0107】
好ましい態様によれば、脂質は、コレステロール、ステロイド、ならびに例えばパルミチン酸、パルミトレイン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、およびそれらの誘導体などの脂肪酸、またはそれらの混合物からなる群より選択される。より好ましくは、脂肪酸はSIGMA-ALDRICH(参照F7050)によるものであり、約0.35μl/mlの脂肪酸溶液を培地に添加する。
【0108】
培地は、重炭酸ナトリウムのような緩衝物質、酸化安定剤、機械的応力を中和するための安定剤、またはプロテアーゼ阻害剤などの補助物質を含み得る。必要に応じて、消泡剤として、ポリプロピレングリコール(PLURONIC F-61、PLURONIC F-68、SYNPERONIC F-68、PLURONIC F-71、またはPLURONIC F-108)などの非イオン性界面活性剤を培地に添加することができる。界面活性剤を添加しない場合に、上昇して破裂する気泡がこれらの気泡(「拡散している」)の表面上に位置する細胞の損傷をもたらし得るため、通気の負の効果から細胞を保護するためにこれらの薬剤が一般に用いられる。非イオン性界面活性剤の量は、好ましくは約0.05〜約10 g/L、典型的には約0.1〜約5 g/Lである。本発明の別の態様によれば、細胞培養培地中の界面活性剤の濃度は、細胞凝集塊の大きさを適合化する(すなわち、大きくするかまたは小さくする)ために変更することができる。
【0109】
本発明のウイルスを複製する方法の1つの態様によれば、細胞培養物への無血清培地N°2の添加は、感染段階b)の後に、好ましくは段階b)の約0.5〜4時間後に、より好ましくは段階b)の約1時間後に行う。本発明の別の態様によれば、細胞培養物への無血清培地N°2の添加は、感染段階b)の前に、好ましくは段階b)の約0.5〜4時間後に、より好ましくは段階b)の約1時間前に行う。本発明の別の態様によれば、細胞培養物への無血清培地N°2の添加は、感染段階bと同時に行う。段階b)のウイルス感染は、m.o.i(感染効率)約10〜10-8、好ましくは10-1〜10-6、より好ましくは約10-2〜10-5、より好ましくは約10-4で行う。当業者は、ウイルス型に従って最適なm.o.iを決定することになる。段階c)では、感染細胞を、好ましくは、少なくとも24時間、少なくとも48時間、少なくとも72時間、少なくとも96時間、少なくとも120時間、少なくとも144時間の間培養する。ウイルスがポックスウイルスである場合、感染細胞は少なくとも144時間培養する。
【0110】
本発明の方法において、段階a)の細胞培養は、バッチ培養、反復バッチ培養、流加培養、または灌流培養によって行う。より好ましくは、段階a)の細胞培養は流加培養によって行う。段階b)における感染は、細胞密度がバッチ過程または流加過程において少なくとも約400万個細胞/ml、好ましくは600万個細胞/ml、より好ましくは800万個細胞/mlである時点で行う。灌流過程を用いる場合、段階b)における感染は、細胞密度が少なくとも800万個細胞/ml、好ましくは約900万〜1000万個細胞/ml、またはそれよりもさらに高い時点で行う。
【0111】
段階a)、b)、c)、およびd)における無血清培地のpHは、好ましくはバイオリアクターによってモニターする。そのpHは、6.5〜7.8の範囲、好ましくは約6.8〜7.5、より好ましくは約7.2であるものとする。
【0112】
本発明の方法において、段階d)は回収前に1〜10日間続く。好ましい態様によれば、段階d)は回収前に2〜5日間続く。回収時(段階e)は、培養容器中の細胞密度に従って規定される。本発明者らは、ウイルスを回収する最適時は、生細胞の密度がその最適レベルに達し、ウイルス感染のために減少し始めてから2日後であることを見出した。
【0113】
細胞培養は、ウイルス型に応じて32℃〜39℃を含む温度で行う。インフルエンザウイルスおよびポックスウイルスの生産では、細胞培養物の感染は、好ましくは33℃で行う。
【0114】
EBx(登録商標)細胞は、懸濁培養で増殖する能力を有し、細胞はわずかな細胞〜数百個を超える細胞の緩い凝集体として凝集する。理論によって縛られることはないが、凝集塊の大きさは、細胞培養培地の組成に応じて異なり得る。例えば、ポリプロピレングリコール(PLURONIC F-61、PLURONIC F-68、SYNPERONIC F-68、PLURONIC F-71、またはPLURONIC F-108)などの界面活性剤の存在、撹拌、Mg2+およびCa2+などの二価イオンの濃度は、凝集塊の大きさに影響を及ぼし得る。本発明者らは、本方法の少なくとも段階a)中に、本発明のEBx(登録商標)細胞を互いに凝集させて凝集塊を形成させることにより、ウイルスの収量を高めることができることを見出した。マスターセルバンクおよびワーキングセルバンクのバイアルから、様々な大きさのT-フラスコまたはローラーボトルを経てバイオリアクターまで拡大する間、懸濁細胞は、新鮮培地への希釈によるか、または遠心分離後に細胞ペレットを新鮮培地へ再懸濁することにより、一般により大きな容器へと継代する。本発明者らは、細胞継代中、培養物中に大きな細胞凝集塊を維持することが推奨されることを見出した。EBx(登録商標)細胞におけるウイルスの複製を高めるためには、そのようにするために、細胞凝集塊を破壊しないほうがよい。例えば、T-フラスコまたはローラーボトルにおける段階a)の培養の初期には、細胞培養物を希釈して、細胞をより大きな容器に継代することが推奨され、遠心分離することも、ピペット操作または撹拌により細胞凝集塊を破壊することも推奨されない。しかしながら、大きすぎる凝集塊は、高ウイルス生産にとって最適には及ばない場合がある。したがって、当業者は、段階a)の初期の細胞継代中に、ピペット操作または撹拌により凝集塊を部分破壊することで、ウイルスの収量が向上し得るかどうかを定めることになる。好ましい態様によれば、ポックスウイルス、好ましくはMVA、ALVAC、および鶏痘ウイルスは、わずかな細胞〜少なくとも100個を超える細胞、少なくとも200個の細胞、少なくとも500個の細胞、少なくとも数千個の細胞の緩い凝集体として、凝集したEBx(登録商標)を増殖させる段階a)含む本発明の方法により得られる。
【0115】
本発明者らは、EBx(登録商標)細胞凝集塊、好ましくはアヒルEBx(登録商標)細胞凝集塊の大きさが、足場非依存性細胞培養培地中のMg2+および/またはCa2+イオンに依存し得ることを見出した。大きすぎる凝集塊は高ウイルス生産にとって最適には及ばない場合があるため、細胞培養培地中のMg2+およびCa2+濃度を調整することによって、凝集塊の大きさをモニターすることができる。アヒルEBx(登録商標)細胞に関して、細胞培養培地は好ましくは、0.5 mM〜2.5 mM、好ましくは約1.6 mMを含むMg2+濃度、および0.01 mM〜0.5 mM、好ましくは約0.1 mMを含むCa2+濃度を含む。
【0116】
本発明はまた、本発明の方法によって得られ得るウイルスに関する。本発明はまた、本発明のウイルスを含むワクチンに関する。ウイルスワクチンを製造する方法は、ウイルス回収の段階e)が、濾過、濃縮、凍結、および安定化剤の添加による安定化の中から選択される少なくとも1つの段階を含んでいる、本発明によるウイルスを複製する方法を含む。ウイルス回収は、当業者に周知の技術に従って行う。好ましい態様によれば、該ウイルスを回収する段階は、細胞培養物の遠心分離から得られた細胞培養上清を回収する段階、その後、ウイルス調製物を濾過する段階、濃縮する段階、凍結する段階、および安定化剤の添加により安定化する段階を含む。例えば、インフルエンザウイルスについては、Furminger, In Nicholson, Webster and Hay (Eds) Textbook of influenza, chapter 24 pp324-332を参照されたい。
【0117】
本発明によるウイルスワクチンを製造する方法はまた、回収されたウイルスを不活化するさらなる段階を含み得る。不活化は、好ましくは、ホルムアルデヒド、β-プロピオラクトン、エーテル、エーテルおよび界面活性剤(すなわち、Tween 80(商標)など)、臭化セチル-トリメチルアンモニウム(CTAB)およびTriton N102、デオキシコール酸ナトリウムおよびトリ(N-ブチル)リン酸で処理することによって行う。
【0118】
別の態様によれば、本発明はまた、以下のさらなる段階を含む、本発明の方法によって得られ得るウイルスからウイルス抗原タンパク質を調製する方法に関する:
a) ウイルス全体を含む細胞培養上清をデオキシリボ核酸制限酵素、好ましくはDNアーゼ(EC3.1.21およびEC3.1.22分類を参照されたい)およびヌクレアーゼ(EC3.1.30およびEC3.1.31分類を参照されたい)と共に、任意にインキュベートする段階。好ましくは、DNA消化酵素はベンゾナーゼ(ベンゾンヌクレアーゼ)またはDNアーゼIである;
b) 陽イオン界面活性剤の付加。陽イオン界面活性剤の例は、非限定的に、CTABなどのセチル-トリメチルアンモニウム塩、ミリスチル-トリメチルアンモニウム塩、リポフェクチン、DOTMA、およびTween(商標)である;
c) 抗原タンパク質の単離。この最終段階は、遠心分離または限外濾過により実現することができる。
【0119】
ワクチン中のウイルスは、無傷のウイルス粒子として、または分解されたウイルス粒子として存在し得る。1つの態様によれば、ワクチンは死滅ワクチンまたは不活化ワクチンである。別の態様によれば、ワクチンは弱毒生ワクチンであって、好ましくは血清を含まず、任意に濾過および/または濃縮され、かつ該ウイルスを含む、本発明の方法によって得られ得るEBx細胞培養上清を主として含む弱毒生ワクチンである。第3の態様によれば、ワクチンは、本発明の方法に従って調製されたウイルスから得られ得るウイルス抗原タンパク質を含んでいる。
【0120】
本発明はまた、本発明の方法によって得られ得る感染細胞株EBx(登録商標)、好ましくはアヒルまたはev-0ニワトリEBx(登録商標)を含むワクチンであって、該感染細胞株EBx(登録商標)、好ましくはアヒルまたはev-0ニワトリEBx(登録商標)が段階d)において回収されるワクチンを提供することに関する。
【0121】
本発明のワクチンは、本発明のウイルスを、免疫応答を増大させる薬学的に許容される物質と組み合わせて含み得る。免疫応答を増大させる物質の非限定的な例には、不完全フロイントアジュバント、サポニン、水酸化アルミニウム塩、リゾレシチン、プルトニックポリオール(plutonic polyol)、ポリアニオン、ペプチド、カルメット・ゲラン桿菌(BCG)、およびコリネバクテリウム・パルバム(corynebacterium parvum)が含まれる。合成アジュバントの例はQS-21である。加えて、免疫賦活タンパク質(インターロイキンIl1、Il2、IL3、IL4、IL12、IL13、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子、...)を用いて、ワクチンの免疫応答を増強してもよい。
【0122】
本発明のワクチンは、任意に鼻腔内投与経路に適合化された、好ましくは液体製剤、凍結調製物、脱水凍結調製物である。
【0123】
本発明のワクチンは、前述のウイルスに感染したヒトまたは動物の予防および/または治療処置に用いられる。好ましくは、本発明のウイルスワクチンは、好ましくは、天然痘ウイルス、インフルエンザウイルス、麻疹ウイルス、流行性耳下腺炎ウイルス、風疹ウイルス、RSVの中から選択されるウイルスに感染したヒトの予防および/または治療処置に用いられる。または、本発明のワクチンは、好ましくは、インフルエンザ、ニューカッスル病ウイルス、軟卵症候群ウイルス、伝染性ファブリーキウス嚢病、伝染性気管支炎ウイルス、イヌジステンパーウイルス、ニワトリ貧血ウイルスの中から選択されるウイルスに感染した動物の予防および/または治療処置に用いられる。本発明の組換えウイルスワクチンは、癌および例えばエイズなどの感染症のような慢性疾患の予防および/または治療処置にも用いられ得る。
【0124】
本発明のEBx(登録商標)細胞株は、再集合体ウイルスを作製および生産するのに有用である。インフルエンザウイルスのように分節ゲノムを有するウイルスは、再集合し得る。本発明のEBx(登録商標)細胞をインフルエンザウイルスの少なくとも2つの異なる株に同時に感染させると、2つの異なる株からの分節ゲノムの混合物が同じ宿主細胞中に存在する。ウイルス構築中、理論的には、ゲノム分節のあらゆる組み合わせが生じ得る。よって、抗体を用いて例えば所望の形質を有するウイルスを選択または排除することによって、特定の再集合体ウイルスを単離することができる(Kilnourne E.D in Plotkin SA and Mortimer E.A. Eds, Vaccines 1994を参照されたい)。本発明のEBx(登録商標)細胞株は、逆遺伝学によりインフルエンザウイルスを作製および生産するのにも有用である(Enami, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 87:3802-3805 (1990);Enami et Palese, J. Virol. 65:2511-2513 (1991);Luytjes, Cell 59:1107-1113 (1989)を参照されたい)。
【0125】
本発明はまた、ウイルス力価測定を行うための細胞基材としての、本発明のEBx(登録商標)細胞株の使用に関する。EBx(登録商標)細胞は、ウイルス溶液の力価を決定するために用いられる、有胚卵、CEF、DF1細胞などの現在の細胞系と効率的に置き換わる。好ましいウイルス力価測定は、TCID50法によって行われる(Reed L, Muench H, 1938. A simple method of estimating fifty percent endpoints. Am. J. Hyg. 27, 493-97)。
【0126】
本発明はまた、衛生検査を行うための細胞基材としての、本発明のEBx(登録商標)細胞株の使用に関する。
【0127】
本発明はまた、本発明のウイルスまたはその構成成分を含む診断用組成物に関する。
【0128】
以下の実施例により本発明をより詳細に説明する。以下の調製物および実施例は、当業者が本発明をより明確に理解し、実践することができるように示す。しかしながら、本発明は、例証される態様によって範囲が限定されることはなく、これらの態様は本発明の個々の局面を単に例示するものであり、機能的に同等である方法も本発明の範囲内である。実際に、前述の説明および添付の図面から、本明細書に記載されるものに加えて、本発明の様々な変更が当業者に明らかになるであろう。そのような変更は、添付の特許請求の範囲の範囲内に入ることが意図される。
【0129】
実施例
実施例1:SPFニワトリ株VALO由来のニワトリEBv13細胞株
1.1‐原材料

Valoと称される特定病原体不在(SPF)株。valo株は、ドイツのLohmannによって作製および供給される白色レグホン株である。分析の証明書と共に供給されるそれらのSPF鶏卵は、CAV、鳥類アデノウイルス(1群、血清型1〜12、および3群)、EDS、鳥類脳脊髄炎ウイルス、鳥類ロイコシスウイルス/RSV(血清型ALV-Jを含む)、鳥類腎炎ウイルス、鳥類レオウイルス、鶏痘ウイルス、伝染性気管支炎ウイルス、伝染性滑液包炎ウイルス(IBDV)、伝染性咽頭気管炎ウイルス、インフルエンザウイルスA型、マレック病ウイルス、マイコプラズマ病(Mg+Ms)、マイコバクテリウム・アビウム(Mycobacterium avium)、ニューカッスル病ウイルス、細網内皮症ウイルス、サルモネラ・プロラム(Salmonella pullorum)、他のサルモネラ感染症、鳥類鼻気管炎ウイルス(ART)、ヘモフィルス・パラガリナルム(Hemophilus paragallinarum)について検査される。Valo鶏卵は、輸送中の卵の操作に関連した汚染のリスクを回避するために、除染装置による消毒にのみ供した。
【0130】
フィーダー細胞
EBv13の確立方法の第1段階では、ニワトリ幹細胞の多能性を維持するために、マウス起源による細胞(STO細胞)をフィーダー層として用いた。これらのフィーダー細胞は、プラスチック上に播種する前に、γ線照射(45〜55グレイ)によって有糸分裂を不活性化する。この照射線量は、細胞周期の決定的な停止を誘導するが、非分化細胞の細胞増殖の促進に必要な増殖因子および細胞外基質の産生をなお可能にする亜致死線量である。
【0131】
STO細胞株は、SIM(Sandos近交系マウス)マウス胚線維芽細胞の連続系統から、A. Bernstein、オンタリオ癌研究所、カナダ、トロントによって導出され、これはアメリカンタイプカルチャーコレクション(ATCC)(STO製品番号:CRL-1503、バッチ番号1198713)によって供給された。新鮮なフィーダー層は、週に2回、一般的に月曜日および木曜日に調製した。対数増殖細胞を分離し、計数した。細胞の一部を生存培養物の維持のために播種し、別の一部にγ線照射した。照射のため、チューブ中に10×106個細胞/mLの細胞懸濁液を調製した。細胞を45〜55グレイ線量に被曝させ、プラスチック上に播種した。播種後、不活化フィーダー細胞で被覆したディッシュまたはプレートは、最長5日の間に使用した。
【0132】
培地
DMEM-ハムF12(Cambrex、カタログ番号BE04-687)
Optipro培地(Invitrogen、カタログ番号12309)
EX-CELL(商標) 65195、60947、および65319(SAFC、特注培地)
【0133】
添加物
グルタミン(Cambrex、カタログ番号BE17-605E)
ペニシリン/ストレプトマイシン(Cambrex、カタログ番号BE17-602E))
非必須アミノ酸(Cambrex、カタログ番号BE13-114E)
ピルビン酸ナトリウム(Cambrex、カタログ番号BE13-115)
ビタミン(Cambrex、カタログ番号13-607C)
βメルカプトエタノール(Sigma、カタログ番号M7522)
【0134】
緩衝液および固定剤
PBS 1×(Cambrex、カタログ番号BE17-516F)
パラホルムアルデヒド4%(Sigma、カタログ番号P6148)
KCl 5.6%(Sigma、カタログ番号P9333)
メタノール/酢酸(3/1):メタノール(Merck、カタログ番号K34497209;酢酸 Sigma、カタログ番号A6283)
コルセミド、Karyomax(Gibco、カタログ番号15212-046)
【0135】
凍結保護剤
ジメチルスルホキシド(DMSO)(Sigma、カタログ番号D2650)
【0136】
因子
2種類の異なる組換え因子を使用した:
□組換えヒト毛様体神経栄養因子(CNTF)(Peprotech Inc、カタログ番号450-13)
□組換えヒトインスリン様因子I(IGF1)(Peprotech Inc、カタログ番号100-11)
この2種類の因子は、大腸菌(E. Coli)で産生された。
【0137】
ウシ胎仔血清
非照射ウシ胎仔血清(FBS)(JRH、カタログ番号12103)
本プログラムにおいて用いた非照射血清は、米国において採取および生産された。採取に用いられた動物はUSDAの検査済みであり、屠殺用に容認された。鳥類幹細胞の培養中は、これを培地に添加した。このバッチは、培養中の幹細胞の維持に必須とみなされる重要なタンパク質または成分の破壊を回避するために、照射に供さなかった。
照射血清(JRH、カタログ番号12107)
本プログラムにおいて用いた照射バッチも、米国において採取された。この照射バッチは、STO細胞またはFED細胞(フィーダー細胞)の培養に用いたDMEM培地中の補充物として添加した。これらの細胞は、幹細胞のように、培養における増殖および維持のために血清の特定の品質を必要としない。培地中の高血清濃度を最小限にするため、STO細胞を4% FBSのみの存在下で増殖するように適合化した。
【0138】
分離剤:
・プロナーゼ(Roche、カタログ番号165 921)
プロナーゼは、接着性鳥類幹細胞の分離のために用いる、Roche Diagnostics、ドイツによって製造された組換えプロテアーゼである。
・トリプシンEDTA(Cambrex、カタログ番号BE17-161E)
トリプリンは、STO細胞またはFED細胞の分離のために、および無血清培地に適合化された鳥類細胞の分離のために後期継代で用いる。ブタ起源のこの酵素は、確証された滅菌濾過法によりcGMP参照条件に従って無菌的に製造され、現在のE.Pに従って検査される。製剤化の前に照射された原材料は、9/CFR 113.53により徹底順守でブタパルボウイルスについて検査される。
・非酵素的細胞分離溶液(Sigma、カタログ番号C5914)
この分離剤は、培養容器の増殖表面から細胞を穏やかに剥離するために用いられる調製済製剤である。この処方はタンパク質を含まず、酵素を用いることなく細胞の除去を可能にする。細胞タンパク質が保存されるため、細胞表面タンパク質の認識に依存する免疫化学的研究が可能になる。この酵素は、EMA-1(上皮膜抗原1)およびSSEA1(段階特異的胎児性抗原-1)のような生物学的マーカーのFACS解析前に、細胞を剥離するために使用した。
【0139】
1.2‐EBv13細胞株の確立方法
卵を開き、開きながら卵黄を卵白から分離した。パスツールピペットを用いて直接、または予め穴開け器を用いて穴の開いた輪の形に切り抜いた小さな吸収性濾紙(Whatmann 3M紙)を用いて、卵黄から胚を除去した。穴の直径は約5 mmであった。これらの小さな輪は、オーブン中で乾熱を用いて約30分間滅菌した。この小さな紙の輪を卵黄の表面上に置き、その中心を胚に合わせて、胚を紙の輪によって取り囲む。次いで後者を小型のはさみを用いて切除し、除去した全体を、PBSまたは生理食塩水で満たしたペトリ皿に入れる。培養液中で、このようにして輪によって取り除いた胚から過剰な卵黄を除去し、よって過剰のビテリンを含まない胚盤をパスツールピペットを用いて採取する。
【0140】
ニワトリValo胚を、生理的培養液(1×PBS、トリス・グルコース、培地等)を含むチューブに入れた。次にValo胚を機械的に分離し、39℃で、完全培地中のフィーダーSTO細胞の層上に接種した。フィーダー細胞は、約2.7×104個細胞/cm2でフラスコに播種した。完全培地は、10%ウシ胎仔血清、最終濃度1 ng/mlのIGF1およびCNTF、ならびに1%非必須アミノ酸、市販品起源のビタミンの1%混合物、最終濃度1 mMのピルビン酸ナトリウム、最終濃度0.2 mMのβ-メルカプトエタノール、最終濃度2.9 mMのグルタミン、最終濃度100 U/mlのペニシリンおよび最終濃度100μg/mlのストレプトマイシンを含む抗生物質の初期混合物を補充した基礎市販培地DMEM-ハムF12から構成される。細胞の最初の継代後は速やかに、抗生物質の混合物の培地への添加を止める。速やかにという表現は、一般に最初の3〜5継代後を意味すると理解される。
【0141】
ニワトリValo胚由来の鳥類ES細胞を培養皿から別の培養皿に継代する場合、培養皿の播種は、完全培地中に約7×104個/cm2〜8×104個/cm2の鳥類ES細胞で行った。好ましくは、播種は、約7.3×104個/cm2(4×106個細胞/55 cm2または4×106個細胞/100 mmディッシュ)で行う。段階a)の鳥類細胞、好ましくは鳥類胚細胞を、完全培地中で何代かの継代にわたり培養する。継代15代目に、完全培地から増殖因子IGF1およびCNTFを枯渇させた。枯渇は、1つの継代から別の継代にかけて1段階で直接行う。胚性幹細胞、好ましくは鳥類胚細胞を、IGF1およびCNTF増殖因子を含まない完全培地中で何代かの継代にわたり培養する。
【0142】
次に、増殖因子IGF1およびCNTFの枯渇後に、何代かの継代にわたってフィーダー細胞濃度を漸進的に減少させていくことにより、フィーダー細胞の枯渇を行った。実際には、同じ濃度のフィーダー細胞を2〜4継代の間使用し、次により低い濃度のフィーダー細胞をさらなる2〜4継代の間使用して、以下同様とした。フラスコに、最初に約2.7×104個フィーダー細胞/cm2、次に約2.2×104個フィーダー細胞/cm2、次に約1.8×104個フィーダー細胞/cm2、次に約1.4×104個フィーダー細胞/cm2、次に約1.1×104個フィーダー細胞/cm2、次に約0.9×104個フィーダー細胞/cm2、次に約0.5×104個フィーダー細胞/cm2を播種した。次いでフラスコに、フィーダー細胞なしで6.5×104個鳥類細胞/cm2〜7.5×104個鳥類細胞/cm2を播種した。フィーダー細胞の枯渇はおよそ継代21代目に開始し、およそ継代65代目に終了した。フィーダー細胞の枯渇中は、ニワトリValo ES細胞は、段階a)よりも低い濃度、約4×104個細胞/cm2〜5×104個細胞/cm2で培養フラスコに播種した。Valo ES細胞が、フラスコ中のフィーダー細胞濃度の減少後に良好な形状でないと仮定される場合には、フィーダー細胞枯渇を続ける前に、鳥類細胞を同じフィーダー細胞濃度でさらなる継代の間培養する。
【0143】
血清枯渇は、増殖因子およびフィーダー細胞の枯渇後に行った。血清枯渇の開始時には、培地は、10%ウシ胎仔血清、および1%非必須アミノ酸、市販品起源のビタミンの1%混合物、最終濃度1 mMのピルビン酸ナトリウム、最終濃度0.2 mMのβ-メルカプトエタノール、最終濃度2.9 mMのグルタミンを補充した基礎市販培地DMEM-ハムF12から構成された。ニワトリValo細胞を、2段階の過程で、無血清培地中での増殖に適合化した:最初にニワトリValo細胞を、10%ウシ胎仔血清、および1%非必須アミノ酸、市販品起源のビタミンの1%混合物、最終濃度1 mMのピルビン酸ナトリウム、最終濃度0.2 mMのβ-メルカプトエタノール、最終濃度2.9 mMのグルタミンを補充した市販の無血清培地(SFM)、好ましくはExCell 60947(SAFC Biosciences)から構成される培地に迅速に適合化した。新たな培地へのこの迅速な適合化(DMEM-ハムF12からExcell 60947)がひとたび行われた時点で、SFM培地中の動物血清の漸減濃度への緩徐な適合化からなる第2段階を開始した。血清枯渇は、SFM細胞培養培地中の10%血清から開始して、次に7.5%、次に5%、次に2.5%、次に1.25%、次に0.75%の血清濃度を経て、最終的にSFM細胞培養培地中の0%血清に到達するまで漸進的に減少させることにより行った。血清枯渇は継代103代目に開始し、継代135代目に終了した。
【0144】
血清の欠乏過程の終了時に、SFM培地中の血清の残存濃度が0.75%または0%となった時点で、足場依存性EBv13細胞の懸濁培養への適合化を開始した。足場非依存性EBv13単離体を単離するために行ったいくつかの試みの中で、62.5%の試みが成功し、懸濁EBv13細胞の異なる単離体を得ることが可能になる。集団倍加時間(約18時間)、フラスコ培養への最適細胞濃度(約400万個細胞/ml)、細胞生存度、細胞培養均一性(細胞凝集塊の存在および大きさ)、および細胞操作の容易さに従って、EBv13細胞の1つの単離体を選択した(図1)。
【0145】
血清枯渇の終了時に、EBv13と命名された足場依存性ニワトリValo細胞は、無血清培地中で増殖因子の不在下、フィーダー細胞の不在下で増殖することができた。次いでEBv13細胞を、細胞培養温度を0.5℃/日で徐々に下げていくことにより、37℃での増殖に適合化させた。
【0146】
実施例2:SPFニワトリ株ELL-0由来のニワトリEB系統0細胞株
2.1‐原材料
卵:
ELL-0(イーストランシング系統0)と称されるニワトリ特定病原体不在(SPF)株は、鳥類の疾患および腫瘍学研究所(Avian Disease and Oncology Laboratory)(USDA-ARS-MWA、米国)によって提供された。これらのSPF鶏卵は、種々の家禽病原体に対して重点的に検査された群から産卵される。検査される疾患には、サルモネラ・プロラム、サルモネラ・ガリナルム(Salmonella gallinarum)、マイコプラズマ・ガリセプチカム(mycoplasma gallisepticum)、マイコプラズマ・シノビエ(mycoplasma synoviae)、鳥類ロイコシスウイルスA〜DおよびJ、マレック病ウイルス、細網内皮症ウイルス、鳥類アデノウイルス、伝染性気管支炎、伝染性ファブリーキウス嚢病、鳥類インフルエンザ、ニューカッスル病、鳥類脳脊髄炎、ならびに鳥類レオウイルスが含まれる。系統0鶏卵は、輸送中の卵の操作に関連した汚染のリスクを回避するために、除染装置による消毒にのみ供した。
【0147】
フィーダー細胞
EB系統0の確立方法の第1段階では、ニワトリ幹細胞の多能性を維持するために、マウス起源による細胞(STO細胞)をフィーダー層として用いた。これらのフィーダー細胞は、プラスチック上に播種する前に、γ線照射(45〜55グレイ)によって有糸分裂を不活性化する。この照射線量は、細胞周期の決定的な停止を誘導するが、非分化細胞の細胞増殖の促進に必要な増殖因子および細胞外基質の産生をなお可能にする亜致死線量である。
【0148】
STO細胞株は、SIM(Sandos近交系マウス)マウス胚線維芽細胞の連続系統から、A. Bernstein、オンタリオ癌研究所、カナダ、トロントによって導出され、これはアメリカンタイプカルチャーコレクション(ATCC)(STO製品番号:CRL-1503、バッチ番号1198713)によって供給された。新鮮なフィーダー層は、週に2回調製した。対数増殖細胞を分離し、計数した。細胞の一部を生存培養物の維持のために播種し、別の一部に照射した。照射のため、チューブ中に10×106個の細胞/mLの細胞懸濁液を調製した。細胞を45〜55グレイ線量に被曝させ、プラスチック上に播種した。播種後、不活化フィーダー細胞で被覆したディッシュまたはプレートは、最長5日の間に使用した。
【0149】
培地
DMEM-ハムF12(Cambrex、カタログ番号BE04-687)
培地GTM-3(Sigma、カタログ番号G9916)
培地EX-CELL(商標) 66522、65788、および66444(SAFC、特注培地)
【0150】
添加物
グルタミン(Cambrex、カタログ番号BE17-605E)
ペニシリン/ストレプトマイシン(Cambrex、カタログ番号BE17-602E))
非必須アミノ酸(Cambrex、カタログ番号BE13-114E)
ピルビン酸ナトリウム(Cambrex、カタログ番号BE13-115)
ビタミン(Cambrex、カタログ番号13-607C)
βメルカプトエタノール(Sigma、カタログ番号M7522)
イーストレート(SAFC、カタログ番号58902C)
【0151】
緩衝液および固定剤
PBS 1×(Cambrex、カタログ番号BE17-516F)
【0152】
凍結保護剤
ジメチルスルホキシド(DMSO)(Sigma、カタログ番号D2650))
【0153】
因子
6種類の異なる組換え因子を使用した:
□組換えヒト毛様体神経栄養因子(CNTF)(Peprotech Inc、カタログ番号450-13)
□組換えヒトインスリン様因子I(IGF1)(Peprotech Inc、カタログ番号100-11)
□組換えヒトインターロイキン6(IL6)(Peprotech Inc、カタログ番号200-06)
□組換えヒト可溶性インターロイキン6受容体(sIL6r)(Peprotech Inc、カタログ番号200-06 R)
□組換えヒト幹細胞因子(SCF)(Peprotech Inc、カタログ番号300-07)
□組換えヒト塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)(Peprotech Inc、カタログ番号100-18B)
IL6rを除くこれらの因子はすべて、大腸菌で産生される。可溶性IL6rは、トランスフェクトしたHEK293細胞において発現される。
【0154】
ウシ胎仔血清
非照射ウシ胎仔血清(FBS)(SAFC、カタログ番号12003)
本プログラムにおいて用いた非照射血清は、オーストラリアにおいて採取および生産された。採取に用いられた動物はUSDAの検査済みであり、屠殺用に容認された。鳥類幹細胞の培養中は、これを培地に添加した。このバッチは、培養中の幹細胞の維持に必須とみなされる重要なタンパク質または成分の破壊を回避するために、照射に供さなかった。
照射血清(JRH、カタログ番号12007)
本プログラムにおいて用いた照射バッチは、オーストラリアにおいて採取された。この照射バッチは、STO細胞またはFED細胞(フィーダー細胞)の培養に用いたDMEM培地中の補充物として添加した。これらの細胞は、幹細胞のように、培養における増殖および維持のために血清の特定の品質を必要としない。培地中の高血清濃度を最小限にするため、STO細胞を4% FBSのみの存在下で増殖するように適合化した。
【0155】
分離剤:
・Trypzean(Sigma、カタログ番号T3449)
【0156】
2.2‐系統0細胞株の確立方法
系統0ニワトリの卵13個からの胚を、実施例1.2に記載した方法に従って採取した。次に、系統0胚をPBS 1×を含むチューブに入れた。次いで胚を機械的に分離し、39℃で、完全培地中のフィーダーSTO細胞の層上に接種した。フィーダー細胞は、約2.7×104個細胞/cm2でディッシュに播種した。完全培地は、10%ウシ胎仔血清、最終濃度1 ng/mlのIGF1、CNTF、bFGF、IL6、IL6r、およびSCF、ならびに1%非必須アミノ酸、市販品起源のビタミンの1%混合物、最終濃度1 mMのピルビン酸ナトリウム、最終濃度0.2 mMのβ-メルカプトエタノール、最終濃度2.9 mMのグルタミン、イーストレート1×、ならびに最終濃度100 U/mlのペニシリンおよび最終濃度100μg/mlのストレプトマイシンを含む抗生物質の初期混合物を補充した基礎市販培地DMEM-ハムF12から構成される。7継代後には、培地にはもはや抗生物質の混合物を添加しない。
【0157】
ニワトリ系統0胚由来の鳥類ES細胞を培養皿から別の培養皿に移す場合、培養皿の播種は、完全培地中に約7×104個/cm2〜8×104個/cm2の鳥類ES細胞で行った。好ましくは、播種は、約7.3×104個/cm2(4×106個細胞/55 cm2または4×106個細胞/100 mmディッシュ)で行う。段階a)の鳥類細胞、好ましくは鳥類胚細胞を、10%または15% FBSを補充した完全培地中で何代かの継代にわたり培養する。継代7代目に、完全培地から増殖因子bFGF、IL6、IL6r、およびSCFを枯渇させた。枯渇は、1つの継代から別の継代にかけて1段階で直接行った。胚性幹細胞、好ましくは鳥類胚細胞を、それら4種の増殖因子を含まない完全培地中で何代かの継代にわたり培養した。継代12代目に、残りの2種類の因子IGF1およびCNTFを培地から除去し、細胞を因子なしで増幅させた。
【0158】
細胞増殖を促進するために、3種類の基礎培地を連続して用いた:継代1代目〜継代18代目のDMEMハムF12、継代18代目〜継代26代目のExcell GTM-3、および継代26代目後のExcell 66788とExcell 66522の混合物。
【0159】
継代30代目後に、前述の段階的な方法に従って、何代かの継代にわたってフィーダー細胞濃度を漸進的に減少させていくことにより、フィーダー細胞の枯渇を行った。フィーダー欠乏のこの期間中に、増殖培地としてExcell 66444を用いて、懸濁状態で増殖することができるいくつかの細胞が単離され、血清欠乏を開始した(図1B)。
【0160】
実施例3:アヒルEBx細胞株EB66
3.1‐原材料
アヒル卵
ペキン株GL30によるアヒル卵を、GRIMAUD FRERES SELECTION(La Corbiere、フランス、ルッセ)から入手した。親アヒルには、大腸菌(Escherichia Coli)(自家ワクチンColi 01および02)、パスツレラ・マルトシダ(Pasteurella multocida)(Landavax)、アヒルウイルス性肝炎(Hepatovax)、ブタ丹毒菌(Erysipelothrix rhusiopathiae)(Ruvax)、鳥類メタ肺炎ウイルス(Nemovac)、ネズミチフス菌(Salmonella typhimurium)およびサルモネラ・エンテリディス(Salmonella Enteridis)(自家ワクチン)、リエメレラ・アンチペステイファー(Riemerella antipestifer)(自家ワクチンリエメレラ)、鳥類メタ肺炎ウイルス(Nobilis RTV不活性)、ならびにブタ丹毒菌(Ruvax)に対するワクチン接種がなされた。受け取り後、受精ペキンアヒル卵は、殻に付着した粉塵に関連した汚染のリスクを回避するために、ヒポクロライド(hypochloryde)浴およびその後のFermacidal(Thermo)での消毒に供した。
【0161】
フィーダー細胞
本方法の第1段階では、アヒル幹細胞の多能性を維持するために、マウス起源による細胞(STO細胞)をフィーダー層として用いた。これらのフィーダー細胞は、プラスチック上に播種する前に、γ線照射(45〜55グレイ)によって有糸分裂を不活性化する。この照射線量は、細胞周期の決定的な停止を誘導するが、非分化細胞の細胞増殖の促進に必要な増殖因子および細胞外基質の産生をなお可能にする亜致死線量である。STO細胞株は、SIM(Sandos近交系マウス)マウス胚線維芽細胞の連続系統から、A. Bernstein、オンタリオ癌研究所、カナダ、トロントによって導出され、これはアメリカンタイプカルチャーコレクション(ATCC)(STO製品番号:CRL-1503、バッチ番号1198713)によって供給された。新鮮なフィーダー層は、週に2回調製した。対数増殖細胞を分離し、計数した。細胞の一部を生存培養物の維持のために播種し、別の一部にγ線照射した。照射のため、チューブ中に10×106個の細胞/mLの細胞懸濁液を調製した。細胞を45〜55グレイ線量に被曝させ、プラスチック上に播種した。播種後、不活化フィーダー細胞で被覆したディッシュまたはプレートは、最長5日の間に使用した。
【0162】
培地
培地EX-CELL(商標) 65788、65319、63066、および66444(SAFC、特注培地)
培地GTM-3(Sigma、カタログ番号G9916)
DMEM-ハムF12(Cambrex、カタログ番号BE04-687)
DMEM(Cambrex、カタログ番号BE 12-614F)
【0163】
添加物
グルタミン(Cambrex、カタログ番号BE17-605E)
ペニシリン/ストレプトマイシン(Cambrex、カタログ番号BE17-602E))
非必須アミノ酸(Cambrex、カタログ番号BE13-114E)
ピルビン酸ナトリウム(Cambrex、カタログ番号BE13-115)
ビタミン(Cambrex、カタログ番号13-607C)
βメルカプトエタノール(Sigma、カタログ番号M7522)
イーストレート(SAFC、カタログ番号58902C)
【0164】
緩衝液および固定剤
PBS 1×(Cambrex、カタログ番号BE17-516F)
【0165】
凍結保護剤
ジメチルスルホキシド(DMSO)(Sigma、カタログ番号D2650)
【0166】
因子
2種類の異なる組換え因子を使用した:
□組換えヒト毛様体神経栄養因子(CNTF)(Peprotech Inc、カタログ番号450-13)
□組換えヒトインスリン様因子I(IGF1)(Peprotech Inc、カタログ番号100-11)
これらの2種類の因子は、大腸菌で産生される。
【0167】
ウシ胎仔血清
非照射ウシ胎仔血清(FBS)(JRH、カタログ番号12003)
本プログラムにおいて用いた非照射血清は、オーストラリアにおいて採取および生産された。採取に用いられた動物はUSDAの検査済みであり、屠殺用に容認された。鳥類幹細胞の培養中は、これを培地に添加した。このバッチは、培養中の幹細胞の維持に必須とみなされる重要なタンパク質または成分の破壊を回避するために、照射に供さなかった。
照射血清(JRH、カタログ番号12107)
本プログラムにおいて用いた照射バッチは、米国において採取された。この照射バッチは、STO細胞(フィーダー細胞)の培養に用いたDMEM培地中の補充物として添加した。これらの細胞は、幹細胞のように、培養における増殖および維持のために血清の特定の品質を必要としない。培地中の高血清濃度を最小限にするため、STO細胞を4% FBSのみの存在下で増殖するように適合化した。
【0168】
分離剤:
・プロナーゼ(Roche、カタログ番号165 921)
プロナーゼは、接着性鳥類幹細胞の分離のために用いる、Roche Diagnostics、ドイツによって製造された組換えプロテアーゼである。
・トリプシンEDTA(Cambrex、カタログ番号BE17-161E)
トリプリンは、STO細胞の分離のために、および無血清培地に適合化された鳥類細胞の分離のために後期継代で用いる。ブタ起源のこの酵素は、確証された滅菌濾過法によりcGMP参照条件に従って無菌的に製造され、現在のE.Pに従って検査される。製剤化の前に照射された原材料は、9/CFR 113.53により徹底順守でブタパルボウイルスについて検査される。
・Trypzean(Sigma、カタログ番号T3449)
Trypzean溶液は、ProdiGeneの独占的なトランスジェニック植物タンパク質発現系を利用してSigma Aldrichによって製造された、トウモロコシで発現される組換えウシトリプシンを用いて製剤化される。この製品は、無血清のおよび血清を補充した接着細胞培養物のいずれにおける細胞分離にも最適化される。
・非酵素的細胞分離溶液(Sigma、カタログ番号C5914)
この分離剤は、培養容器の増殖表面から細胞を穏やかに剥離するために用いられる調製済製剤である。この処方はタンパク質を含まず、酵素を用いることなく細胞の除去を可能にする。細胞タンパク質が保存されるため、細胞表面タンパク質の認識に依存する免疫化学的研究が可能になる。この酵素は、EMA-1(上皮膜抗原1)およびSSEA1(段階特異的胎児性抗原-1)のような生物学的マーカーのFACS解析前に、細胞を剥離するために使用した。
【0169】
3.2‐アヒルEBx細胞株EB66の確立方法
約360個の受精アヒル卵を開き、開きながら卵黄を卵白から分離した。予め穴開け器を用いて穴の開いた輪の形に切り抜いた小さな吸収性濾紙(Whatmann 3M紙)を用いて、卵黄から胚を除去した。穴の直径は約5 mmであった。これらの小さな輪は、オーブン中で乾熱を用いて約30分間滅菌した。実際に胚採取の段階では、小さな紙の輪を卵黄の表面上に置き、その中心を胚に合わせて、胚を紙の輪によって取り囲む。次いで後者を小型のはさみを用いて切除し、除去した全体を、PBSで満たしたペトリ皿に入れる。培養液中で、このようにして輪によって取り除いた胚から過剰な卵黄を除去し、よって過剰のビテリンを含まない胚盤をパスツールピペットを用いて採取した。
【0170】
アヒル胚を、PBS 1×を含む50 mLチューブに入れた。次いでアヒル胚を機械的に分離し、PBSで洗浄し、39℃、7.5% CO2で、完全培地中のフィーダーSTO細胞の不活化層上に播種した。フィーダー細胞は、約2.7×104個細胞/cm2で6ウェルプレートまたはディッシュに播種した。完全培地は、10%ウシ胎仔血清、最終濃度1 ng/mlのIGF1、CNTF、および1%非必須アミノ酸、市販品起源のビタミンの1%混合物、最終濃度0.1 mMのピルビン酸ナトリウム、最終濃度0.5 mMのβ-メルカプトエタノール、最終濃度2.1 mMのグルタミン、最終濃度100 U/mlのペニシリン、最終濃度100μg/mlのストレプトマイシン、ならびにイーストレート1×を補充した無血清培地DMEM-ハムF12から構成される。継代4代目で速やかに、抗生物質の混合物の培地への添加を止める。
【0171】
アヒルES細胞を、継代4代目までDMEM-ハムF12培地で培養した。継代4代目後、基礎培地を改変し、DMEM-ハムF12完全培地を、10%ウシ胎仔血清、最終濃度1 ng/mlのIGF1、CNTF、1%非必須アミノ酸、市販品起源のビタミンの1%混合物、最終濃度0.1 mMのピルビン酸ナトリウム、最終濃度0.5 mMのβ-メルカプトエタノール、最終濃度2.1 mMのグルタミン、およびイーストレート1×を補充したSFM GTM-3培地に置き換える。この新たな培養培地中で、アヒルES細胞を14継代の間さらに培養し、次に継代18代目に増殖因子欠乏を行った。培地からIGF1およびCNTFを同時に除去し、したがって継代19代目〜継代24代目では、培養培地は、10% FBS、1%非必須アミノ酸、市販品起源のビタミンの1%混合物、最終濃度0.1 mMのピルビン酸ナトリウム、最終濃度0.5 mMのβ-メルカプトエタノール、最終濃度2.1 mMのグルタミン、およびイーストレート1×を補充したGTM-3培地であった。
【0172】
ペキンアヒル胚由来のアヒルES細胞を培養皿から別の培養皿に継代する場合、培養皿の播種は、完全培地中に約7×104個/cm2〜12×104個/cm2のアヒルES細胞で行った。
【0173】
次に、継代24代目後に、何代かの継代にわたってフィーダー細胞濃度を漸進的に減少させていくことにより、フィーダー細胞の枯渇を行った。ディッシュに、最初に約2.7×104個フィーダー細胞/cm2、次に継代25代目〜31代目には約1.8×104個フィーダー細胞/cm2、次に継代32代目〜35代目には約1.4×104個細胞/cm2、次に継代36代目〜41代目には約1×104個フィーダー細胞/cm2、次に継代42代目〜44代目には約0.7×104個フィーダー細胞/cm2を播種し、最後に継代45代目からはフィーダー細胞なしで鳥類細胞のみをディッシュに播種した。フィーダー枯渇の終了時には、ディッシュに9×104個鳥類細胞/cm2〜12.7×104個鳥類細胞/cm2を播種する。フィーダー細胞の枯渇は継代25代目に開始し、継代45代目に終了した。フィーダー細胞の枯渇中は、アヒルES細胞は、段階a)よりも高い濃度、約9×104個細胞/cm2〜12.7×104個細胞/cm2で培養皿に播種する。
【0174】
フィーダー細胞なしでの何代かの継代後に、増殖パラメータ(集団倍加時間(PDT)および密度)を調べて、細胞の安定性および頑強さを確認し、アミノ酸、ビタミン、βメルカプトエタノール、ピルビン酸ナトリウム、およびイーストレートの欠乏を開始する。PDTが約40時間よりも短く、かつ細胞密度が26×104個細胞/cm2よりも高い場合に、細胞はそのような欠乏に供するのに十分に頑強であるとみなされる。
【0175】
EB66と命名された本アヒルEBx(登録商標)細胞の開発の場合、ビタミン、ピルビン酸ナトリウム、非必須アミノ酸、およびβメルカプトエタノールの欠乏は、継代52代目に開始した。それらの添加物はすべて、培地から同時に除去した。したがって継代52代目〜59代目では、培養培地は、グルタミン、イーストレート、およびFBSを補充したSFM GTM-3である。培養の新たな条件への短期間の適合化後、温度低下を開始した。この低下は、継代60代目〜67代目に徐々に行った。継代67代目後、細胞は37℃で増殖することができた。継代67代目後、基礎培地GTM-3を、Excell 65788と称される新たなSFM基礎培地に置き換えた。そのため継代67代目後は、培地は、10% FBS、2.5 mMグルタミン、および1×イーストレートを補充したExcell 65788であった。継代80代目に、4×106個の細胞を、一定の撹拌下で維持される超低接着(ULA)ディッシュに移して、足場非依存性細胞増殖を開始させた。懸濁物としての増殖を促進するために、基礎培地を改変し、ULAディッシュへの播種について血清の割合を10%から5%に下げた。したがって継代80代目〜85代目では、培養培地は、5% FBS、2.5 mMグルタミン、および1×イーストレートを補充したSFM GTM-3であった。FBSの緩徐な減少は、継代85代目後にEB66細胞懸濁液において開始した。血清枯渇は、SFM細胞培養培地中の2.5%血清から開始して、次に1.5%の血清濃度を経て、最終的にSFM細胞培養培地中の0%血清に到達するまで漸進的に減少させることにより行った。血清枯渇は継代86代目に開始し、継代94代目に終了した。血清枯渇の終了時に、足場非依存性dEB66細胞は、無血清培地中で増殖因子の不在下、フィーダー細胞の不在下で37℃で増殖することができた。
【0176】
2.5 mMグルタミンを補充したSFM GTM-3中で37℃で増殖することができるEB66アヒル細胞が得られた後、例えばExcell 63066、Excell 66444、Excell CHO ACFのような新たなSFM処方物中での希釈または漸進的適合化により、SFM培地へのいくらかのさらなる適合化を行った。
【0177】
懸濁アヒルEB66細胞のサブクローニングもまた、イーストレートの存在下または非存在下で実現することができた。
【0178】
実施例4:アヒルEBx細胞株EB26
4.1‐原材料
アヒル卵、フィーダー細胞、添加物、緩衝液および固定剤、凍結保護剤、ウシ胎仔血清、ならびに分離剤(実施例3に同じ)
ペキン株GL30によるアヒル卵を使用した。
【0179】
培地
培地EX-CELL 65319、63066、および66444(SAFC、特注培地)
培地GTM-3(Sigma、カタログ番号G9916)
DMEM(Cambrex、カタログ番号BE 12-614F)
【0180】
因子
6種類の異なる組換え因子を使用した:
□組換えヒト毛様体神経栄養因子(CNTF)(Peprotech Inc、カタログ番号450-13)
□組換えヒトインスリン様因子I(IGF1)(Peprotech Inc、カタログ番号100-11)
□組換えヒトインターロイキン6(IL6)(Peprotech Inc、カタログ番号200-06)
□組換えヒト可溶性インターロイキン6受容体(sIL6r)(Peprotech Inc、カタログ番号200-06 R)
□組換えヒト幹細胞因子(SCF)(Peprotech Inc、カタログ番号300-07)
□組換えヒト塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)(Peprotech Inc、カタログ番号100-18B)
IL6rを除くこれらの因子はすべて、大腸菌で産生される。可溶性IL6rは、トランスフェクトしたHEK293細胞において発現される。
【0181】
4.2‐アヒルEBx細胞株EB26の確立方法
EB66について前述した通りに、アヒル胚を採取した。アヒル胚を、PBS 1×を含む50 mLチューブに入れた。次いでアヒル胚を機械的に分離し、PBSで洗浄し、39℃、7.5% CO2で、完全培地中のフィーダーSTO細胞の不活化層上に播種した。フィーダー細胞は、約2.7×104個細胞/cm2で6ウェルプレートまたはディッシュに播種した。完全培地は、5%ウシ胎仔血清、最終濃度1 ng/mlのIGF1、CNTF、Il-6、Il-6R、SCF、およびFGF、ならびに1%非必須アミノ酸、市販品起源のビタミンの1%混合物、最終濃度0.1 mMのピルビン酸ナトリウム、最終濃度0.5 mMのβ-メルカプトエタノール、最終濃度2.1 mMのグルタミン、最終濃度100 U/mlのペニシリン、最終濃度100μg/mlのストレプトマイシン、ならびにイーストレート1×を補充した無血清培地GTM-3から構成される。細胞の最初の継代後は速やかに、抗生物質の混合物の培地への添加を止める。速やかにという表現は、一般に最初の3〜9継代後を意味すると理解される。アヒルES細胞を、継代9代目まで完全培地で培養した。継代9代目後、完全培地から増殖因子を部分的に枯渇させる。したがって継代10代目〜13代目に、SCF、IL6、IL6r、およびbFGFを培地から除去し、組換えIGF1およびCNTFのみを1 ng/mL濃度で維持した。継代13代目〜16代目に、IGF1およびCNTFの濃度の同時減少を次に行って、継代17代目に、組換え因子なしで増殖することができる細胞が最終的に得られた。因子の枯渇は、因子のより低い濃度への漸進的適合化により行った。ペキンアヒル胚由来のアヒルES細胞を培養皿から別の培養皿に継代する場合、培養皿の播種は、完全培地中に約7×104個/cm2〜12×104個/cm2のアヒルES細胞で行った。好ましくは、播種は、約7.3×104個/cm2(4×106個細胞/55 cm2または4×106個細胞/100 mmディッシュ)で行う。組換え因子の枯渇後、イーストレートの減少を継代23代目に行い、最終濃度0.5×に到達した。次に、継代31代目後に、何代かの継代にわたってフィーダー細胞濃度を漸進的に減少させていくことにより、フィーダー細胞の枯渇を行った。ディッシュに、最初に約2.7×104個フィーダー細胞/cm2、次に継代32代目〜38代目には約1.8×104個フィーダー細胞/cm2、次に継代39代目〜44代目には約1.4×104個細胞/cm2、次に継代45代目〜47代目には約1×104個フィーダー細胞/cm2、次に継代48代目〜50代目には約0.7×104個フィーダー細胞/cm2を播種し、最後に継代51代目からはフィーダー細胞なしで鳥類細胞のみをディッシュに播種した。フィーダー枯渇の終了時には、ディッシュに9×104個鳥類細胞/cm2〜12.7×104個鳥類細胞/cm2を播種する。フィーダー細胞の枯渇は継代32代目に開始し、継代51代目に終了した。フィーダー細胞の枯渇中は、アヒルES細胞は、段階a)よりも高い濃度、約9×104個細胞/cm2〜12.7×104個細胞/cm2で培養皿に播種する。フィーダー細胞なしでの何代かの継代後に、増殖パラメータ(集団倍加時間(PDT)および密度)を調べて、細胞の安定性および頑強さを確認し、懸濁物としての細胞増殖を開始した。PDTが約40時間よりも短く、かつ細胞密度が26×104個細胞/cm2よりも高い場合に、細胞は懸濁状態での培養に供するのに十分に頑強であるとみなされる。さらに、細胞の形態は円形で、屈折性で、非常に小さくあるべきであり、細胞はプラスチックディッシュに過度に付着すべきでない。
【0182】
EB26細胞の開発の場合、懸濁状態での培養は継代53代目に開始した。7×106個の細胞を超低接着ディッシュに移し、約50〜70 rpmの一定の撹拌下で維持した。次の継代のため、細胞を、0.4〜0.5×106個細胞/mLを含む濃度でT175フラスコ(Sarsted、参照831812502)に播種した。培養の新たな条件への短期間の適合化後、細胞のPDTは約160時間から40時間に短縮した。この良好な発展に関連して、継代59代目に、欠乏の新たな一組を行った。したがって、ビタミン、ピルビン酸ナトリウム、β-メルカプトエタノール、および非必須アミノ酸を除去した。したがって継代59代目後は、培地に5% FBS、0.5×イーストレート、および2.5 mMグルタミンのみを補充した。血清枯渇は、増殖因子、フィーダー細胞、ビタミン、非必須アミノ酸、ピルビン酸ナトリウム、およびβ-メルカプトエタノールが既に枯渇された細胞懸濁液で行う。血清枯渇は、SFM細胞培養培地中の5%血清から開始して、次に2.5%、次に1.5%の血清濃度を経て、最終的にSFM細胞培養培地中の0%血清に到達するまで漸進的に減少させることにより行った。血清枯渇は継代61代目に開始し、継代79代目に終了した。血清枯渇の終了時に、足場非依存性アヒルEB26細胞は、無血清培地中で増殖因子の不在下、フィーダー細胞の不在下で39℃で増殖することができた。次いでEB26細胞を、継代80代目に細胞培養温度を下げることにより、37℃での0.5×イーストレートの不在下での増殖に適合化させた。
【0183】
2.5 mMグルタミンを補充したSFM GTM-3中で37℃で増殖することができるEB26細胞が得られた後、Excell 63066、Excell 66444、Excell CHO ACFのような新たなSFM処方物での希釈または漸進的適合化により、いくらかのさらなる適合化を行った。懸濁アヒルEB26細胞のサブクローニングもまた、イーストレートの存在下または非存在下で実現することができた。
【0184】
実施例5:アヒルEBx細胞株EB24
5.1‐原材料
アヒル卵、フィーダー細胞、添加物、緩衝液および固定剤、凍結保護剤、ウシ胎仔血清、ならびに分離剤(実施例3に同じ)
ペキン株GL30によるアヒル卵を使用した。
【0185】
培地
培地EX-CELL(商標) 65319、63066、および66444(SAFC、特注培地)
培地GTM-3(Sigma、カタログ番号G9916)
DMEM-F12(Cambrex、カタログ番号BE04-687)
DMEM(Cambrex、カタログ番号BE 12-614F)
【0186】
因子
6種類の異なる組換え因子を使用した:
□組換えヒト毛様体神経栄養因子(CNTF)(Peprotech Inc、カタログ番号450-13)
□組換えヒトインスリン様因子I(IGF1)(Peprotech Inc、カタログ番号100-11)
□組換えヒトインターロイキン6(IL6)(Peprotech Inc、カタログ番号200-06)
□組換えヒト可溶性インターロイキン6受容体(sIL6r)(Peprotech Inc、カタログ番号200-06 R)
□組換えヒト幹細胞因子(SCF)(Peprotech Inc、カタログ番号300-07)
□組換えヒト塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)(Peprotech Inc、カタログ番号100-18B)
IL6rを除くこれらの因子はすべて、大腸菌で産生される。可溶性IL6rは、トランスフェクトしたHEK293細胞において発現される。
【0187】
5.2‐アヒルEBx(登録商標)細胞株EB24の確立方法
EB66について前述した通りに、アヒル胚を採取した。アヒル胚を、PBS 1×を含む50 mLチューブに入れた。次いでアヒル胚を機械的に分離し、39℃、7.5% CO2で、完全培地中のフィーダーSTO細胞の不活化層上に播種した。フィーダー細胞は、約2.7×104個細胞/cm2で6ウェルプレートまたはディッシュに播種した。完全培地は、10%ウシ胎仔血清、最終濃度1 ng/mlのIGF1、CNTF、Il-6、Il-6R、SCF、およびFGF、ならびに1%非必須アミノ酸、市販品起源のビタミンの1%混合物、最終濃度0.1 mMのピルビン酸ナトリウム、最終濃度0.5 mMのβ-メルカプトエタノール、最終濃度2.1 mMのグルタミン、最終濃度100 U/mlのペニシリン、最終濃度100μg/mlのストレプトマイシン、ならびに1×イーストレートを補充した無血清培地DMEM-ハムF12から構成される。細胞の最初の継代後は速やかに、抗生物質の混合物の培地への添加を止める。速やかにという表現は、一般に最初の3〜9継代後を意味すると理解される。
【0188】
アヒルES細胞を、継代7代目までDMEM-ハムF12完全培地で培養する。継代7代目後、基礎培地を改変し、DMEM-ハムF12完全培地を、10%ウシ胎仔血清、最終濃度1 ng/mlのIGF1、CNTF、Il-6、Il-6R、SCF、およびFGF、1%非必須アミノ酸、市販品起源のビタミンの1%混合物、最終濃度0.1 mMのピルビン酸ナトリウム、最終濃度0.5 mMのβ-メルカプトエタノール、最終濃度2.1 mMのグルタミン、最終濃度100 U/mlのペニシリン、最終濃度100μg/mlのストレプトマイシン、ならびにイーストレート1×を補充したGTM-3完全培地に置き換える。そうして継代11代目に、血清濃度を5%に下げ、SCF、IL6、IL6r、およびbFGFを培地から除去する。よって継代11代目からは、培地は、5% FBS、最終濃度1 ng/mLのIGF1およびCNTF、1%非必須アミノ酸、市販品起源のビタミンの1%混合物、最終濃度0.1 mMのピルビン酸ナトリウム、最終濃度0.5 mMのβ-メルカプトエタノール、最終濃度2.1 mMのグルタミン、最終濃度100 U/mlのペニシリン、最終濃度100μg/mlのストレプトマイシン、ならびにイーストレート1×から構成される。継代22代目に、IGF1およびCNTFの同時除去を行う。継代22代目後は、GTM-3培地中に組換え因子は存在しない。継代23代目〜継代28代目には、アヒル細胞をそのような培地中で維持した。ペキンアヒル胚由来のアヒルES細胞を培養皿から別の培養皿に継代する場合、培養皿の播種は、完全培地中に約7×104個/cm2〜12×104個/cm2のアヒルES細胞で行った。好ましくは、播種は、約7.3×104個/cm2(4×106個細胞/55 cm2または4×106個細胞/100 mmディッシュ)で行う。次に、継代28代目後に、何代かの継代にわたってフィーダー細胞濃度を漸進的に減少させていくことにより、フィーダー細胞の枯渇を行う。ディッシュに、最初に約2.7×104個フィーダー細胞/cm2、次に継代29代目〜33代目には約1.8×104個フィーダー細胞/cm2、次に継代34代目〜37代目には約1.4×104個細胞/cm2、次に継代38代目〜42代目には約1×104個フィーダー細胞/cm2、次に継代43代目〜46代目には約0.7×104個フィーダー細胞/cm2を播種し、最後に継代47代目からはフィーダー細胞なしで鳥類細胞のみをディッシュに播種した。フィーダー枯渇の終了時には、ディッシュに9×104個鳥類細胞/cm2〜12.7×104個鳥類細胞/cm2を播種する。フィーダー細胞の枯渇は継代29代目に開始し、継代47代目に終了した。フィーダー細胞の枯渇中は、アヒルES細胞は、段階a)よりも高い濃度、約9×104個細胞/cm2〜12.7×104個細胞/cm2で培養皿に播種する。フィーダー細胞なしでの何代かの継代後に、増殖パラメータ(集団倍加時間(PDT)および密度)を調べて、細胞の安定性および頑強さを確認し、懸濁物としての細胞増殖を開始した。PDTが約40時間よりも短く、かつ細胞密度が26×104個細胞/cm2よりも高い場合に、細胞は懸濁状態での培養に供するのに十分に頑強であるとみなされる。さらに、細胞の形態は円形で、屈折性で、非常に小さくあるべきであり、細胞はプラスチックディッシュに過度に付着すべきでない。EB24細胞の開発の場合、懸濁状態での培養は継代48代目に開始した。8×106個の細胞を超低接着ディッシュに移し、約50〜70 rpmの一定の撹拌下で維持した。次の継代のため、細胞を、0.4〜0.5×106個細胞/mLを含む濃度でT175フラスコ(Sarsted、参照831812502)に播種した。培養の新たな条件への短期間の適合化後、細胞のPDTは約248時間から128時間に短縮し、次いで次の欠乏段階を行う。したがって継代52代目に、ビタミン、非必須アミノ酸、ピルビン酸ナトリウム、およびβメルカプトエタノールを除去する。継代56代目でPDTが44時間に到達するという良好な発展に関連して、継代57代目から、血清欠乏を開始した。したがって継代57代目からは、培地GTM-3に、5% FBS、1×イーストレート、および2.5 mMグルタミンのみを補充した。血清枯渇は、増殖因子、フィーダー細胞、ビタミン、非必須アミノ酸、ピルビン酸ナトリウム、およびβ-メルカプトエタノールが既に枯渇された細胞懸濁液で行う。血清枯渇は、SFM細胞培養培地中の5%血清から開始して、次に2.5%、次に2%、次に1.5%の血清濃度を経て、最終的にSFM細胞培養培地中の0%血清に到達するまで漸進的に減少させることにより行った。血清枯渇は継代57代目に開始し、継代77代目に終了した。この血清枯渇中に、37℃での増殖への適合化も行った。したがって継代65代目に、2.5% FBSを補充した培地中で増殖している細胞を、漸進的な温度シフトを回避して37℃に移した。血清枯渇の終了時に、足場非依存性アヒルEB24細胞は、無血清培地中で増殖因子の不在下、フィーダー細胞の不在下で37℃で増殖することができた。
【0189】
2.5 mMグルタミンを補充したSFM GTM-3中で37℃で増殖することができるアヒルEB24細胞が得られた後、Excell 63066、Excell 66444、Excell CHO ACFのような新たなSFM処方物での希釈または漸進的適合化により、いくらかのさらなる適合化を行った。懸濁アヒルEB24のサブクローニングを行い、効率的にウイルスを複製するその優れた性能から、アヒルEB24-12サブクローンが選択された。
【0190】
実施例6:SPFアヒルタイワンEBx細胞株
6.1‐原材料
アヒル卵:
タイワン株によるアヒルSPF卵を、Le Couvoir de Cerveloup(フランス)から入手した。これらのSPFアヒル卵は、種々の家禽病原体に対して重点的に検査された群から産卵される。検査される疾患には、サルモネラ・ガリナルム-プロラム、マイコプラズマ・シノビエ、マイコプラズマ・メレアグリディス(Mycoplasma meleagridis)、マイコプラズマ・ガリエプチカム(Mycoplasma galliepticum)、マレック病ウイルス、鳥類インフルエンザ、2型パラミクソウイルス、3型パラミクソウイルス、ニューカッスル病、3型アデノウイルス(EDS)、ガンボロ病、鳥類レオウイルス、細網内皮症ウイルス、鳥類脳脊髄炎、感染性鼻気管炎ウイルス、およびクラミジア症が含まれる。タイワンアヒル卵は、輸送中の卵の操作に関連した汚染のリスクを回避するために、除染装置による消毒にのみ供した。
【0191】
フィーダー細胞(先の実施例を参照されたい)
【0192】
培地
培地EX-CELL(商標) 66444(SAFC、特注培地)
培地GTM-3(Sigma、カタログ番号G9916)
DMEM-ハムF12(Cambrex、カタログ番号BE04-687)
【0193】
添加物
グルタミン(Cambrex、カタログ番号BE17-605E)
ペニシリン/ストレプトマイシン(Cambrex、カタログ番号BE17-602E))
非必須アミノ酸(Cambrex、カタログ番号BE13-114E)
ピルビン酸ナトリウム(Cambrex、カタログ番号BE13-115)
ビタミン(Cambrex、カタログ番号13-607C)
βメルカプトエタノール(Sigma、カタログ番号M7522)
イーストレート(SAFC、カタログ番号58902C)
【0194】
緩衝液および固定剤:
PBS 1×(Cambrex、カタログ番号BE17-516F)
【0195】
凍結保護剤
ジメチルスルホキシド(DMSO)(Sigma、カタログ番号D2650)
【0196】
因子
2種類の異なる組換え因子を使用した:
□組換えヒト毛様体神経栄養因子(CNTF)(Peprotech Inc、カタログ番号450-13)
□組換えヒトインスリン様因子I(IGF1)(Peprotech Inc、カタログ番号100-11)
これらの2種類の因子は、大腸菌で産生される。
【0197】
ウシ胎仔血清
非照射ウシ胎仔血清(FBS)(JRH、カタログ番号12003)
本プログラムにおいて用いた非照射血清は、オーストラリアにおいて採取および生産された。採取に用いられた動物はUSDAの検査済みであり、屠殺用に容認された。鳥類幹細胞の培養中は、これを培地に添加した。このバッチは、培養中の幹細胞の維持に必須とみなされる重要なタンパク質または成分の破壊を回避するために、照射に供さなかった。
照射血清(JRH、カタログ番号12007)
本プログラムにおいて用いた照射バッチは、オーストラリアにおいて採取された。この照射バッチは、STO細胞(フィーダー細胞)の培養に用いたDMEM培地中の補充物として添加した。これらの細胞は、幹細胞のように、培養における増殖および維持のために血清の特定の品質を必要としない。培地中の高血清濃度を最小限にするため、STO細胞を4% FBSのみの存在下で増殖するように適合化した。
【0198】
分離剤:
・プロナーゼ(Roche、カタログ番号165 921)
・Trypzean(Sigma、カタログ番号T3449)
【0199】
6.2‐タイワンアヒルEBx細胞株の確立方法
タイワンアヒルの受精SPF卵20個からの胚を、実施例3に記載した方法に従って採取した。アヒル胚をPBS 1×を含む50 mLチューブに入れた。次いで胚を機械的に分離し、PBSで洗浄し、フィーダーSTO細胞の不活化層で被覆した12ウェルプレートのウェルに播種した。アヒル胚細胞を完全培地中に播種し、39℃、7.5%5% CO2に移した。フィーダー細胞は、約2.7×104個細胞/cm2で播種した。使用した完全培地は、10%ウシ胎仔血清、最終濃度1 ng/mlのIGF1、CNTF、および1%非必須アミノ酸、市販品起源のビタミンの1%混合物、最終濃度0.1 mMのピルビン酸ナトリウム、最終濃度0.5 mMのβ-メルカプトエタノール、最終濃度2.1 mMのグルタミン、最終濃度100 U/mlのペニシリン、最終濃度100μg/mlのストレプトマイシン、ならびにイーストレート1×を補充したDMEM-ハムF12から構成される。継代2代目に、DMEM-ハムF12基礎培地をGTM-3基礎培地に置き換える。継代4代目後は、培地にはもはや抗生物質の混合物を添加しない。
【0200】
アヒルES細胞を、継代8代目まで完全GTM-3培地で培養した。継代8代目後、IGF1およびCNTFの濃度を0.5 ng/mLまで減少させる。アヒルES細胞をこの新たな培養培地中で2継代の間さらに培養し、次いで継代10代目に増殖因子欠乏を行った。IGF1およびCNTFを、培地から同時に除去した。
【0201】
したがって継代10代目〜継代37代目では、培養培地は、10% FBS、1%非必須アミノ酸、市販品起源のビタミンの1%混合物、最終濃度0.1 mMのピルビン酸ナトリウム、最終濃度0.5 mMのβ-メルカプトエタノール、最終濃度2.1 mMのグルタミン、およびイーストレート1×を補充したGTM-3培地であった。
【0202】
タイワンアヒル胚由来のアヒルES細胞を培養皿から別の培養皿に継代する場合、播種は、培地中に約12×104個/cm2のアヒルES細胞で行った。分離後の細胞回復を改善するために、いくらかの馴化培地を細胞播種に時折用いることができる。
【0203】
その後、継代37代目後に、前述の段階的の方法に従って、何代かの継代にわたってフィーダー細胞濃度を漸進的に減少させていくことにより、フィーダー細胞の枯渇を行った。
【0204】
フィーダー欠乏のこの期間中に、懸濁状態で増殖することができるいくつかの細胞が単離され、これらを添加物および血清なしでの増殖に適合化させた(図4C)。足場非依存性タイワンアヒルEBx細胞は、テロメラーゼ、SSEA-1、およびEMEA-1などのES細胞マーカーを発現する(データは示さず)。
【0205】
実施例7:EBx細胞株の特徴づけ
7.1‐ニワトリVALO EBv13細胞の特徴づけ
7.1.1‐テロメラーゼ活性
供給業者のプロトコールに従って、Roche Applied Scienceによって開発されたTelo TAGGGテロメラーゼPCR ELISA(テロメアリピート増幅プロトコール(TRAP)‐カタログ番号11 854 666 910)を用いることにより、テロメラーゼ検出を行う。Telo TAGGGテロメラーゼPCR ELISAにより、テロメラーゼ媒介性の伸長産物の増幅と、ELISAプロトコールによる非放射性検出の組み合わせが可能になる。アッセイに1×103個細胞の同等物を用いた際に、陰性対照の吸光度値が0.25 A450 nm-A690 nm以下である場合、かつ陽性対照の吸光度値が1.5 A450 nm-A690 nm以上である場合に、そのアッセイは有効である。吸光度の差が0.2 A450 nm-A690 nm単位よりも高い場合に、試料はテロメラーゼ陽性とみなされる。2つの対照を使用した:陰性対照はマウス線維芽細胞(FED細胞)であり、陽性対照はFGB8細胞(129 SVマウス胚よりVivalisによって確立された胚性幹細胞)およびWO 03/076601で以前に確立されたニワトリEB14-O74である。
【0206】
得られた結果を図番号2にまとめる。EBv13細胞は高レベルのテロメラーゼを発現する。継代p193代目および195代目では、テロメラーゼ活性はニワトリEB14-O74細胞のテロメラーゼ活性と同等である。
【0207】
7.1.2‐ES細胞の生物学的マーカー
胚性幹細胞は、細胞膜上に発現される生物学的マーカーの発現により特徴づけられる。EBv13細胞上のEMA-1(上皮膜抗原-1)およびSSEA-1(段階特異的胎児性抗原-1)の発現を、FACS解析により評価した。PFA 4%(パラホルムアルデヒド)で10分間固定した後、細胞試料および対照をリンスし、EMA-1またはSSEA-1に特異的なモノクローナル抗体と共に前インキュベートする。選択された2種類の生物学的マーカーを発現している細胞を検出するために、FITC結合二次抗体を用いる。CoulterによるFACS(フロー活性化セルソーター)を用いてフローサイトメトリーにより、試料を解析した。
【0208】
FACS解析は、陰性対照としてのマウス線維芽細胞(FED細胞)、陽性対照としてのマウスES FGB8細胞、陽性対照EBx細胞としてのニワトリEB14-O74細胞、およびEBv13細胞で行った。予測通り、FED細胞は生物学的マーカーを発現しないのに対して、FGB8細胞およびEB14-O74細胞は、EMA-1についてそれぞれ60.13%および78.7ならびにSSEA-1についてそれぞれ94.45%および95%という重要な染色を示す(データは示さず)。ニワトリvalo EBv13細胞集団は、EMA1について染色を示さず(2%)、SSEA-1については非常に弱い染色を示す(22%)。
【0209】
7.1.3‐核型
EBv13細胞の細胞二倍性および鳥類起源を確認するために、核型分析を行った。対数増殖期にある細胞を回収し、コルセミド(0.02μg/mL)により2時間処理した。洗浄および遠心分離後、KCL(0.56%)を用いて細胞に低張chocを20分間施す。続いて、EBv13細胞をメタノール/酢酸(3/1)で固定し、-20℃で一晩保存した。翌日、中期のものをガラス上にスポットし、ライト/ギムザ溶液で染色し、顕微鏡下で観察した。中期のものをいく通りも観察して、EBv13細胞がニワトリ起源であることを確認した。倍数性の証拠は認められない。
【0210】
7.1.4‐EBv13細胞の凝集塊の大きさに及ぼす細胞培養培地組成の影響
本発明者らは、EBx細胞の培養および感染に用いる無血清培地中のカルシウムおよびマグネシウムの濃度が、凝集塊の大きさに影響を及ぼすことを見出した。図10は、EBv13細胞を、Ca2+およびMg2+濃度の高い培地から低い培地に継代した場合の、凝集塊の大きさの減少を示す。
【0211】
7.2‐アヒルEBx細胞株の特徴づけ
7.2.1‐アヒルEBx細胞の形態
A Rivoire博士(フランス、リヨン)によって、dEBx(登録商標)細胞の透過型電子顕微鏡解析が行われた。アヒルEBx(登録商標)細胞は、マウス胚性幹細胞およびWO2006/108846に記載されるVIVALIS EB14細胞の表現型と類似している、典型的な胚性幹細胞形態(すなわち、高い核-細胞質比)を示す。アヒルEBx(登録商標)細胞は、大きな核および核小体を有する小円形細胞(直径〜10μm)であり、形質膜から伸びる短い仮足を有する(図4)。これらは代謝活性が高く、リボソームおよびミトコンドリアが豊富な細胞質を有する。これらは、多数の細胞内空胞、高度に発達したゴルジ系、および粗面小胞体(granulous reticulum endoplasmic)を含む。
【0212】
7.2.2‐アヒルEBx(登録商標)細胞のテロメラーゼ発現
アヒルEBx(登録商標)細胞の確立の異なる段階におけるテロメラーゼ発現を、Rocheテロメラーゼ検出キット(テロメラーゼOCR ELISA)を用いることにより調べた。テロメラーゼは、接着性アヒルEBx(登録商標)細胞において、ならびにフィーダー欠乏中、アヒルEBx(登録商標)細胞の懸濁への適合化過程中、およびフィーダー欠乏中に高度に発現されることがわかる。図5は、ニワトリEB14細胞と同様に、アヒルEB24およびEB26が高レベルのテロメラーゼを発現することを示す。アヒルEB66もまた、細胞継代の全体を通じて、高レベルのテロメラーゼを発現する。EB66細胞においてこの高テロメラーゼ活性は、異なるSFMでの適合化後にも安定している(図15)。
【0213】
7.2.3‐内在性逆転写酵素活性を示さないアヒルEBx(登録商標)細胞
Clean Cells(フランス)での直接F-PERT解析(Lovatt et al., 1999, J. Virol. Methods, 82:185-200)により、内在性逆転写酵素発現が調べられた。アヒルEBx(登録商標)細胞株、EB24(データは示さず)、EB66(データは示さず)、EB26、およびEB51は、内在性逆転写酵素(RT)活性を示さない(図6A)。RT活性は、ニワトリEB14細胞培養物において、およびより少ない程度に、特定病原体不在(SPF)ニワトリ株由来のニワトリ胚線維芽細胞において検出された。
【0214】
アヒルおよびニワトリEBx(登録商標)細胞の細胞培養上清中の、複製性または非複製性の内在性レトロウイルス粒子の存在を、鳥類ロイコシス主要キャプシド抗原P27を検出するELISAアッセイ法によって調べた(図6B)。アヒルEBx(登録商標)細胞株(EB26、EB51、EB24、EB66...)のすべて、およびニワトリEBv13は、ALV p27抗原を分泌しない。これとは逆に、ニワトリEB14細胞はALV P27抗原を発現する。
【0215】
7.2.4‐複製性鳥類ロイコシスウイルス(ALV)を分泌しないアヒルEBx
内在性複製性アヒルウイルスの存在を検出するために、アヒルEBx細胞と、内在性および外因性ALVに感受性があることが知られているウズラQT6細胞株との同時培養アッセイを行った。図7Aに、QT6同時培養の原理を記載した。複製性ウイルスの存在は、鳥類ロイコシス主要キャプシド抗原P27を検出するELISAアッセイ法によって検出する。このアッセイから、試験したいずれのアヒルEBx細胞も、複製性(すなわち、複製能のある)ALVを分泌しないことが実証される(図7B)。
【0216】
7.2.5‐鳥類およびヒトインフルエンザウイルス受容体を発現するアヒルEBx細胞
アヒルEBx細胞における、鳥類インフルエンザウイルスに対する受容体(Siaα2-3Gal)およびヒトインフルエンザウイルスに対する受容体(Siaα2-6Gal)の検出を、ジゴキシゲニン標識レクチン(Boehringer)を用いて、蛍光セルソーター解析により行った:
□セイヨウニワトコ(SNA)凝集素レクチンは、Siaα2-6Galに特異的に結合する;
□イヌエンジュ(MAA)凝集素レクチンは、Siaα2-3Galに特異的に結合する。
【0217】
ニワトリEB14細胞およびアヒルEBx細胞を10 mM HEPES、150 mM NaCl pH 7.5で洗浄し、最終濃度5.106個で同じ緩衝液に再懸濁した。細胞を氷上で30分間インキュベートし、その後SNAまたはMAAの存在下でさらに15〜30分間インキュベートした。レクチン処理細胞を10 mM HEPES、150 mM NaCl pH 7.5で洗浄してから、FITC標識抗ジゴキシゲニン抗体と共に氷上で15〜30分間インキュベートした。次に細胞をNaCl 0.9%で洗浄し、FACS解析した。
【0218】
ニワトリEB14細胞およびアヒルEBx細胞は、Siaα2-6Gal残基およびSiaα2-3Gal残基を有するオリゴ糖を含む細胞表面受容体を発現する(図8)。
【0219】
7.2.6‐核型
アヒルEB24細胞およびEB66細胞の細胞二倍性ならびに鳥類起源を確認するために、核型分析を行った。対数増殖期にある細胞を回収し、コルセミド(0.6 mg/mL)により3〜6時間処理した。洗浄および遠心分離後、KCL(0.56%)を用いて細胞に低張chocを20分間施す。続いて、アヒルEB24細胞およびEB66細胞をメタノール/酢酸(3/1)で固定し、-20℃で一晩保存した。翌日、中期のものをガラス上にスポットし、ライト/ギムザ溶液で染色し、顕微鏡下で観察した。
【0220】
中期のものをいく通りも観察して、EBx細胞がアヒル起源であることを確認した。倍数性の証拠は認められなかった。図16は、アヒルEBx66細胞の二倍体核型を示す(図16)。
【0221】
実施例6:ニワトリEBv13細胞株におけるポックスウイルス複製
ポックスウイルスによる感染に対するEBv13細胞の感受性を、GFP遺伝子(緑色蛍光タンパク質)をコードする組換え改変ワクシニアAnkara(MVA)を用いて調べた。
【0222】
以下のプロトコールを用いた:感染の3日前に、4 mMグルタミンを補充したSFM Excell 65319(SAFC) 40 mL下で、0.4×106個EBv13細胞(継代188代目)/mLをT175フラスコに播種する。感染は、10-2 TCID50/細胞の感染効率で行う(MVA-GFP保存物は10e9.7 TCID/mlである)。感染の1時間後に、新鮮培地60 mlをフラスコに添加する。培養および感染は、37℃、7.5% CO2で行い、60 rpmで撹拌した。感染後は毎日、細胞懸濁液の一定分量を採取し、凍結する。動態の終了時に、TCID50法に従って生産性の評価を行う。簡潔に説明すると、感染性MVA-GFPウイルスの力価測定をDF-1細胞で行った。5%ウシ胎仔血清(FCS)(SACF)および2 mM L-グルタミン(Biowhittaker)を補充したDMEM培地(Biowhittaker)中、細胞を15×103個細胞/ウェルの密度で96平底ウェルプレートに播種した。24時間後、細胞をDMEM中で、10倍段階希釈した試料に感染させ、加湿雰囲気中37℃、5% CO2で1週間インキュベートした。ウイルス感染性を、全体的な細胞変性効果(CPE)およびUV照射した感染細胞の顕微鏡観察により測定した。次いで、TCID50力価をReed and Muench法(1938, A simple method of estimating fifty percent endpoints. Am. J. Hyg. 27, 493-97)に従って算出した。実験全体を通じて、細胞の増殖および生存度をモニターする。ニワトリValo EBv13細胞は、MVA-GFP感染に対する感受性が高いと考えられる(図3A〜3B)。
【0223】
実施例8:アヒルEBx細胞株におけるポックスウイルス複製
ポックスウイルスによる感染に対するアヒルEBx細胞の感受性を、GFPをコードする組換え改変ワクシニアAnkaraを用いて調べた。ウイルス力価測定は、ニワトリEBv13細胞について前述した通りに行った。
【0224】
8.1‐細胞培養法
アヒルEBx細胞を、凍結バイアル中、-196℃の液体窒素中に保存した(20×106個細胞/バイアル)。凍結バイアルを、+37℃の予熱した水浴中で直接融解する。細胞懸濁液を、予熱した培地30 mlの入った50 ml滅菌チューブに入れる。遠心分離(300±20 g、室温で5分)後、新鮮培地15 mLをペレットに添加し、穏やかにホモジナイズする。トリパンブルーを用いて試料を計数する。良好な培養を保証するためには、計数は≧20×106個細胞でなければならず、生存率は>70%でなければならない。
【0225】
細胞懸濁液をT75 cm2フラスコに入れ、50 rpmのオービタル振盪機上、7.5% CO2雰囲気下で+37℃でインキュベートする。次に、新鮮培地を毎日添加する。次いで細胞を継代して、細胞のバイオマスを増加させ、3 Lバイオリアクターに播種する。3 Lバイオリアクターに接種するには、320.106個の細胞が必要である。穏やかに混合した後に試料を採取し、トリパンブルーを用いて計数し、細胞密度を決定する。バイオリアクター中の最終培養容量800 mlに対する細胞濃度0.4×106個細胞.ml-1を得るために、細胞混合物150 mLを調製する。細胞を播種する前に、容器内のpHを7.2に設定する(CO2表面注入によりpHが低下するためである)。pO2を50% O2飽和に設定する(質量流量調整器を、50 ml.分-1の最大スパージャー流速に相当する100%に調整する)。この過程の開始時には、pHはCO2表面注入により維持し、その後は7.5% NaHCO3の添加により制御する。表面通気は、流速0.3ml.分-1の空気で開始する。定期的に細胞計数を行う。
【0226】
培養の3日後、細胞密度は4〜5×106個細胞.ml-1よりも高くなっているはずである。予定の細胞密度に達していたならば、ウイルス感染をMOI 10-4で行う。容器温度を33℃に設定する。ウイルス株を氷上で融解する。感染混合物を生産培地10 mlで調製する。感染混合物をバイオリアクターに接種した後、ウイルス吸着を1時間かけて行う。最終生産培地を調製する:容器中の最終濃度0.3 U.ml-1が得られるように(全体として2.3 L)、生産培地1.5 L中にトリプシンを添加する。次いで、予熱した最終生産培地を添加する。毎日バイオリアクターから試料約15 mlを採取して、細胞計数、細胞形態解析を行い、CPEを観察する。培養期間を通じて、BioProfile Basicソフトウェアを用いて、グルタミン酸、グルタミン、乳酸、およびグルコースなどの代謝産物を解析する。必要に応じて、代謝産物の濃度を調整する。例えば、必要に応じてグルタミン濃度を2 mMに調整する。必要に応じてグルコース濃度を2 g.L-1に調整する。
【0227】
実験終了時に、採取した試料をすべて用いて、ウイルス力価測定を行う。
【0228】
8.2‐結果
8.2.1‐3 L流加バイオリアクターにおけるアヒルEBx(登録商標)細胞の細胞増殖動態
撹拌槽型バイオリアクターにおいて、アヒルEBx(登録商標)細胞を規定通りに培養する。細胞密度5〜6.106個細胞/mLに達するまで、アヒルEBx(登録商標)由来バイオマスを細胞増殖培地中に37℃で蓄積させる。次いでその混合物を約3〜10倍希釈し、細胞増殖動態を10日間にわたり追跡する。このような条件では、通常、約5〜8日目に細胞密度1200〜2000万個細胞/mlに達する。したがってアヒルEBx(登録商標)細胞は、少なくとも10〜15倍に届く一連の分割比を示す。
【0229】
8.2.2‐アヒルEBx細胞のMVA-GFPウイルス感染中の凝集塊の大きさに及ぼす細胞培養培地組成の影響
本発明者らは、EBx細胞の培養および感染に用いる無血清培地中のカルシウムおよびマグネシウムの濃度が、凝集塊の大きさに影響を及ぼし得ることを見出した。アヒルEBx細胞の小さい凝集塊が存在することで、ウイルスの感染および増殖が改善され、高MVAウイルス力価がもたらされる(図9A)。
【0230】
8.2.3‐3 LバイオリアクターにおけるMVAウイルス生産
細胞増殖期中に、アヒルEBx(登録商標)由来バイオマスをExcell 66444増殖培地中に蓄積させた。次いで、細胞を10-2 TCID50/細胞のMVA-GFPウイルスに感染させ、その混合物をExcell 66444生産培地で希釈した。新鮮なExcell培地の添加後、2日目に細胞密度は低下したが、4日目には感染細胞の細胞密度は増加し、1200万個細胞/mlに達した。このような条件において、MVA-GFP生産性は高い。感染後4日目から、MVA-GFP力価は約108 TCID50/mlである(図9B)。アヒルEBx(登録商標)細胞において、205 TCID50/細胞というMVA-GFP収量が得られた。
【0231】
実施例9:アヒルEBx細胞株におけるインフルエンザウイルスの生産
9.1‐材料および方法
9.1.1‐インフルエンザウイルス感染アッセイ法(TCID50)
感染性インフルエンザウイルスの力価測定は、MDCK細胞で行った。簡潔に説明すると、細胞を、2.5 mM L-グルタミンを補充したUltraMDCK培地中、3×103個細胞/ウェルの密度で96平底ウェルプレートに播種した。24時間後、細胞を、6μg.mL-1トリプシン-EDTAを含むUltraMDCK中で、10倍段階希釈した試料に感染させ、加湿雰囲気中33℃、5% CO2で1週間インキュベートした。その後、ニワトリ赤血球を用いるHAアッセイ法でウイルス複製を試験し、TCID50力価をReed and Muench法(1938)*に従って算出した。*Reed L, Muench H, 1938. A simple method of estimating fifty percent endpoints. Am. J. Hyg. 27, 493-97。
【0232】
9.1.2‐一元放射免疫拡散法(SRID)
インフルエンザウイルス感染EB14細胞由来の試料中の血球凝集素濃度は、Woodら*によって記載される通りに決定した。簡潔に説明すると、抗インフルエンザ血清を含む(NIBSCにより提供される推奨濃度)アガロースゲルで、ガラスプレートを被覆した。ゲルをセットした後、参照および試料の適切な希釈物10μLを、直径3 mmの穴のあいたウェルに負荷した。室温の湿室内で18〜24時間インキュベートした後、プレートを0.9% NaClに浸漬し、蒸留水で洗浄した。その後、ゲルをプレスし、乾燥させた。プレートをクマシーブリリアントブルー溶液で15分間染色し、はっきりとした染色域が目に見えるようになるまでメタノールと酢酸の混合物で2回脱染した。プレートを乾燥させた後、抗原ウェル周囲の染色域の直径を直角に2方向に測定した。表面に対する抗原希釈物の用量反応曲線を作成し、結果を標準的な傾斜比アッセイ法に従って算出した。*Wood JM. Et al. 「An improved single-radial-immunodiffusion technique for the assay of influenza haemagglutinin antigen: application for potency determinations of inactivated whole virus and subunit vaccines」 (J Biol Stand., 1977,5(3):237-47)。
【0233】
9.1.3‐インフルエンザ血球凝集素タンパク質のウェスタンブロット解析
SDS-PAGEを、Laemmli UK (1970, Cleavage of structural proteins during the assembly of the head of bacteriophage T4. Nature 259:680-685)によって記載されている通りに、10%ポリアクリルアミドゲルで行った。変性タンパク質(1% SDS、70 mM β-メルカプトエタノール)を、半乾燥ブロッティング手順によりフッ化ポリビニリデン膜(hybond P、Amersham)に転写した(Kyhse-Andersen J (1984) Electroblotting of multiple gels : a simple apparatus without buffer tank for rapid transfer of proteins from polyacrylamide to nitrocellulose (J Biochem Biophys Methods 10:203-209))。ブロットを、1% FCS(SAFC)を補充したTBST中の5%脂肪乾燥粉乳から構成される混合物を用いて、室温で1時間ブロッキングした。その後、ブロットを、特異的ポリクローナル抗HAヒツジ血清(1:500 (NIBSC))を補充したブロッキング溶液中で一晩インキュベートした。ブロットをTBSTで6回洗浄し、ブロッキング溶液中のhrp結合ウサギ抗ヒツジIgGポリクローナル抗体(1:5000 (Rockland))と共に室温で1時間インキュベートした。TBSTで6回洗浄した後、最後に、化学発光(ECLキット、Amersham)およびフィルム(Hyperfilm、Amersham)を用いてタンパク質-コンジュゲート複合体を明らかにした。
【0234】
9.2‐3 LバイオリアクターにおけるアヒルEBx(登録商標)細胞のインフルエンザウイルス感染
9.2.1‐材料および装置
細胞融解用材料
○T75 cm2フラスコ(Sarstedt、カタログ番号831813502)
○培地(無血清培地)
○L-グルタミン 200 mM(Biowhittaker、カタログ番号BE17-605E)
○オービタル撹拌機IKA KS260(Fisher Bioblock、カタログ番号F35044)
【0235】
細胞増幅用材料
○T175 cm2フラスコ(Sarstedt、カタログ番号831812502)
○培地(無血清培地):2.5 mMグルタミンを添加したExcell 65319(JRH、カタログ番号65319-1000M1687)
○L-グルタミン 200 mM(Biowhittaker、カタログ番号BE17-605E)
○D(+)グルコース(45%)(Sigma、カタログ番号G8769)
【0236】
生産用材料
○生産培地(無血清培地):2.5 mMグルタミンを補充したExcell 65629(JRH、カタログ番号65629)
○L-グルタミン 200 mM(Biowhittaker、カタログ番号BE17-605E)
○D(+)グルコース(45%)(Sigma、カタログ番号G8769)
○Trypzean 1×(Sigma、カタログ番号T3449)
○7.5%重炭酸ナトリウム溶液(Sigma、カタログ番号205-633-8)
○インフルエンザウイルス株(-80℃で凍結)
【0237】
9.2.2‐細胞培養法
(MVA複製‐実施例7.1に同じ)
実験の終了時に、採取された試料すべてを用いて、ウイルス力価測定、血球凝集素アッセイ(HAU)、およびHA抗原定量化(ウェスタンブロット、SRID)を行う。
【0238】
9.3‐結果
本発明者らは、アヒルEBx細胞が、インフルエンザウイルスの様々なA株およびB株を複製するための、信頼性のある効率的な細胞基材であることを実証する。インフルエンザウイルスの生産は、フラスコおよびスピナー(データは示さず)ならびにバイオリアクターなどの様々な容器で行うことができる。3 Lおよび30 L撹拌槽型バイオリアクターにおけるインフルエンザウイルス生産の再現性のある効率的な流加過程が、本発明者らによって得られた。インフルエンザウイルスのA株およびB株に関して、フラスコおよびバイオリアクターでは通常、血球凝集素15 mg/l〜最大50 mg/lを上回るウイルス収量が得られる(図11および12)。
【0239】
実施例10:アヒルEBx細胞株におけるニューカッスル病ウイルス複製
ニューカッスル病ウイルスによる感染に対するアヒルEBx細胞の感受性を、NDVLa Sota株を用いて調べた。
【0240】
10.1‐方法
アヒルEBx(登録商標)細胞を、T175フラスコ中のExcell培地(SFAC)中で、60 rpmのオービタル振盪機上、7.5% CO2雰囲気下で37℃で増殖させた。0日目に、細胞を、新鮮培地40 ml中に0.4×106個細胞/mLで播種する。細胞培養物を、振盪(60 rpm)下で37℃、7.5% CO2でインキュベートした。細胞密度が4×106個〜6×106個細胞/mlの濃度に到達するまで(通常、播種後3日目)、細胞増殖動態を追跡した。その時点で、細胞に2つの異なるMOI(10-3および10-4 TCID50/細胞)でNDV La Sota株を接種し、振盪(60 RPM)下で37℃、7.5% CO2でさらに1時間インキュベートした。次に、新鮮なウイルス生産培地60 mLを添加することにより細胞培養物を希釈し、振盪(60 rpm)下で37℃、7.5% CO2でインキュベーションを続けた。細胞増殖およびウイルス生産の動態を7日間にわたって行った。プロテアーゼの供給源として、組換えトリプシン(SAFC)を毎日培地中に添加した;2つのトリプシン濃度(0.4および0.75 USP/mL)を試験した。細胞計数、ウイルス力価測定、およびウェスタンブロッティング解析のために、一定分量を毎日採取した。
【0241】
10% SDS-PAGEを用いて試料を分離し、半乾燥技法によりPDVF膜(Amersham)にブロットした。NDVに対するニワトリポリクローナル抗血清(1:2000、CHARLES RIVER laboratories)、その後アルカリホスファターゼ結合ウサギ抗ニワトリ(1:5000、SIGMA)を用いて、免疫検出を行った。結合した二次抗体を、ECL-化学発光検出システムキット(ROCHE)を用いて検出した。
【0242】
10.2‐結果
アヒルおよびニワトリEBx細胞は、NDV La Sota株に対して感受性があり、これを複製する。アヒルEBx(登録商標)細胞で生産されたNDVの力価(TCID50/ml)は、感染後0日目から2日目に増加して、平均106.83 TCID50/mLに達する(図13左パネル)。
【0243】
ウェスタンブロット解析(図13右パネル)から、NDVウイルスタンパク質(HN、Fo/F、NP & M)発現が示された。アヒルEBx(登録商標)細胞で生産されたNDVウイルスのウイルスタンパク質組成は、ニワトリEBx(登録商標)細胞で生産されたNDVウイルスで得られた組成と類似している。加えて、ニワトリおよびアヒルEBx細胞で生産されたウイルスの放出の動態も類似している。
【0244】
実施例11:アヒルEB66細胞における麻疹ウイルス複製
麻疹ウイルスによる感染に対するアヒルEB66細胞の感受性を、緑色蛍光タンパク質を発現する組換え麻疹ウイルスを用いて調べた。
【0245】
11.1‐方法
EB66細胞を、T175フラスコ中のExcell培地中で、60 rpmのオービタル振盪機上、7.5% CO2雰囲気下で37℃で増殖させた。0日目に、細胞を、新鮮培地40 ml中に0.4×106個細胞/mLで播種する。細胞培養物を、振盪(60 rpm)下で37℃、7.5% CO2でインキュベートした。細胞密度が4×106個〜6×106個細胞/mlの濃度に到達するまで(通常、播種後3日目)、細胞増殖動態を追跡した。その時点で、細胞に2つの異なるMOI(10-1および10-2 TCID50/細胞)で組換え麻疹ウイルスを接種し、振盪(60 RPM)下で37℃、7.5% CO2でさらに1時間インキュベートした。次に、新鮮なウイルス生産培地60 mLを添加することにより細胞培養物を希釈し、振盪(60 rpm)下で37℃、7.5% CO2でインキュベーションを続けた。細胞増殖およびウイルス生産の動態を7日間にわたって行った。細胞計数およびウイルス力価測定のために、一定分量を毎日採取した。
【0246】
11.2‐結果
EB66細胞は麻疹ウイルスに対して感受性があり、これを複製する。非最適化条件において、EB66細胞で生産された麻疹の力価(TCID50/ml)は、平均107 TCID50/mLに達する(図14)。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】

【図13】

【図14】

【図15A】

【図15B】

【図16】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の段階を含む、鳥類胚性幹細胞(ES)に由来するEBx(登録商標)と命名された連続継代性二倍体鳥類細胞株を得るための方法であって、該鳥類細胞株が複製能のある内在性レトロウイルス粒子を産生しない方法:
a) 産卵あたりの発生段階にあるトリ胚を単離する段階であって、該トリのゲノムが、複製能のある内在性レトロウイルス粒子を産生しやすい内在性プロウイルス配列を含まない段階;
b) 段階a)の胚を分離することによって得られた鳥類胚性幹(ES)細胞を、以下を補充した基礎培地に懸濁する段階:
‐インスリン成長因子1(IGF-1)および毛様体神経栄養因子(CNTF);
‐動物血清;ならびに
‐任意に、インターロイキン6(IL-6)、インターロイキン6受容体(IL-6R)、幹細胞因子(SCF)、および線維芽細胞増殖因子(FGF)を含む群から選択される増殖因子;
c) 段階b)で得られたES細胞の懸濁液をフィーダー細胞層上に播種し、ES細胞を少なくとも1継代の間さらに培養する段階;
d) IL-6、IL-6R、SCF、FGFを含む群より選択される増殖因子をすべて培地から任意に除去し、ES細胞を少なくとも1継代の間さらに培養する段階;
e) IGF-1およびCNTFを培地から除去し、細胞を少なくとも1継代の間さらに培養する段階;
f) 何代かの継代後に、フィーダー層の完全な除去を得るために、培地中のフィーダー細胞の濃度を漸進的に減少させていき、細胞をさらに培養する段階;
g) 何代かの継代後に、動物血清の完全な除去を得るために、培地中の動物血清の濃度を任意に漸進的に減少させていく段階ならびに:
h) 任意に動物血清を含まない、増殖因子、フィーダー層の存在しない基礎培地中で増殖することができる、ES細胞に由来する接着性鳥類EBx(登録商標)細胞株を得る段階であって、該連続継代性二倍体鳥類細胞株が複製能のある内在性レトロウイルス粒子を産生しない段階;
i) 接着性アヒルEBx(登録商標)細胞株を懸濁培養条件に任意にさらに適合化する段階。
【請求項2】
トリがガンカモ目から選択される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
トリがアヒル、好ましくはペキンアヒルである、請求項2記載の方法。
【請求項4】
トリがキジ目から選択される、請求項1記載の方法。
【請求項5】
トリがev-0家畜ニワトリである、請求項4記載の方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項記載の方法によって得られ得る連続継代性二倍体鳥類細胞株であって、該鳥類細胞株の細胞が、以下の特徴のうちの少なくとも1つを有し、かつ、該細胞が複製能のある内在性レトロウイルス粒子を産生しない、鳥類細胞株:
‐高い核-細胞質比、
‐内因性テロメラーゼ活性、
‐直径約10μm;
‐37℃での約30時間またはそれ未満の倍加時間;
‐および任意に、該細胞が、アルカリホスファターゼ、SSEA-1、EMA-1、ENS-1を含む群から選択される1つまたは複数のさらなるマーカーを発現し得る。
【請求項7】
以下の段階を含む、請求項6記載の連続継代性二倍体鳥類細胞において、または請求項1〜5のいずれか一項記載の方法によって得られ得る連続継代性二倍体鳥類細胞において、ウイルスを複製する方法:
a) 該鳥類細胞を関心対象のウイルスに感染させる段階;
b) 該ウイルスを複製するために、該感染鳥類細胞を培養する段階;
c) 細胞培養上清中および/または該細胞内のウイルスを回収する段階。
【請求項8】
ウイルスが、ポックスウイルス、オルトミクソウイルス、パラミクソウイルス、ヘルペスウイルス、ヘパドナウイルス、アデノウイルス、パルボウイルス、レオウイルス、サーコウイルス、コロナウイルス、フラビウイルス、トガウイルス、ビルナウイルス、およびレトロウイルスを含む群より選択される、請求項7記載の方法。
【請求項9】
ウイルスが、改変ワクシニアAnkara(MVA)ウイルス、Lister-Elstreeワクシニアウイルス、LC16m8ワクシニアウイルス、CVI78ワクシニアウイルス、鶏痘ウイルス(fowl pox virus)、カナリア痘ウイルス(すなわち、ALVAC)、NYVAC、ユキヒメドリ痘ウイルス(juncopox virus)、キュウカンチョウ痘ウイルス(mynah pox virus)、鳩痘ウイルス(pigeonpox virus)、オウム痘ウイルス(psittacine pox virus)、ウズラ痘ウイルス(quail pox virus)、スズメ痘ウイルス(spallowpox virus)、ムクドリ痘ウイルス(starling pox virus)、シチメンチョウ痘ウイルス(turkey pox virus)を含む群の中から選択されるポックスウイルスまたは組換えポックスルウイルスである、請求項8記載の方法。
【請求項10】
ウイルスが、好ましくは、麻疹ウイルス、流行性耳下腺炎ウイルス、風疹ウイルス、センダイウイルス、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)、ヒトパラインフルエンザI型およびIII型、牛疫ウイルス、イヌジステンパーウイルス、ニューカッスル病ウイルス、アヒルパラインフルエンザウイルスを含む群の中から選択されるパラミクソウイルスまたは組換えパラミクソウイルスである、請求項7記載の方法。
【請求項11】
ウイルスが、ヒトインフルエンザウイルス、鳥類インフルエンザウイルス、ブタインフルエンザウイルス、ウマインフルエンザウイルス、ネコインフルエンザウイルスの中から選択されるオルトミクソウイルス、組換えオルトミクソウイルス、または再集合体オルトミクソウイルスである、請求項7記載の方法。
【請求項12】
ウイルスが、好ましくは、シンビスウイルス、セムリキ森林ウイルス、オニョンニョンウイルス、チクングニアウイルス、マヤロウイルス、ロスリバーウイルス、東部ウマ脳炎ウイルス、西部ウマ脳炎ウイルス、ベネズエラウマ脳炎ウイルスの中から選択されるトガウイルス、またはその組換えトガウイルスである、請求項7記載の方法。
【請求項13】
ウイルスが、細網内皮症ウイルス、アヒル伝染性貧血ウイルス、suck脾臓壊死ウイルスの中から選択されるレトロウイルス、またはその組換えレトロウイルスである、請求項7記載の方法。
【請求項14】
ウイルスが、パルボウイルス、好ましくはアヒルパルボウイルスまたはその組換えパルボウイルスである、請求項7記載の方法。
【請求項15】
ウイルスが、好ましくは、鶏アデノウイルス、ガチョウアデノウイルス、アヒルアデノウイルス、およびハトアデノウイルスの中から選択されるアデノウイルス、またはその組換えアデノウイルスである、請求項7記載の方法。
【請求項16】
ウイルスが、ビルナウイルス、好ましくは伝染性ファブリーキウス嚢病ウイルスである、請求項7記載の方法。
【請求項17】
ウイルスが、好ましくは、デングウイルス、日本脳炎ウイルス、およびウエストナイルウイルスの中から選択されるフラビウイルスである、請求項7記載の方法。
【請求項18】
請求項7〜17のいずれか一項記載の方法よって得られたウイルス。
【請求項19】
適切な場合、免疫応答を増大させる薬学的に許容される物質と組み合わせられる、請求項18に記載されるウイルスを含むワクチン。
【請求項20】
ウイルスが、無傷のウイルス粒子として存在するウイルス、および分解されたウイルス粒子として存在するウイルスを含む群から選択される、請求項19記載のワクチン。
【請求項21】
適切な場合、免疫応答を増大させる薬学的に許容される物質と組み合わせられる、請求項18に記載されるウイルスから得られた少なくとも1つのウイルス抗原タンパク質を含むワクチン。
【請求項22】
請求項6記載の鳥類細胞株、または請求項1〜5のいずれか一項記載の方法によって得られ得る鳥類細胞株に由来し、かつウイルスに感染した鳥類細胞を含むワクチン。
【請求項23】
以下の段階を含む、組換えタンパク質およびペプチドを生産する方法:
a) 発現ベクターの一過性または安定的トランスフェクションにより、請求項1〜5のいずれか一項記載の方法によって得られ得るか、または請求項6記載の、連続継代性二倍体鳥類細胞株を遺伝子改変する段階;
b) 任意に、該組換えタンパク質またはペプチドを発現する該改変連続継代性二倍体鳥類細胞株を選択する段階;および
c) 該遺伝子改変連続継代性二倍体鳥類細胞株によって発現された組換えペプチドまたはタンパク質を精製する段階。

【公表番号】特表2010−524482(P2010−524482A)
【公表日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−504672(P2010−504672)
【出願日】平成20年4月23日(2008.4.23)
【国際出願番号】PCT/EP2008/054912
【国際公開番号】WO2008/129058
【国際公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【出願人】(504341128)
【Fターム(参考)】