説明

ウイルス不活化シート

【課題】エンベロープの有無に関係なく、また、粒径が小さくても抗ウイルス効果を持つ無機微粒子(抗ウイルス剤)同士が凝集することなく効率良く作用し、抗ウイルス剤と基材との密着性も高いウイルス不活化シートを提供する。
【解決手段】
ウイルス不活化シート100は、シート本体10と、シート本体10にて保持される抗ウイルス剤1とを備える。抗ウイルス剤1は、樹脂からなる母粒子に、一価の銅化合物微粒子および/またはヨウ化物微粒子からなる子粒子が埋め込まれて形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はウイルス不活化シートに関し、特にエンベロープの有無に関わらず、また脂質やタンパクの存在下でも、付着した様々なウイルスを不活化することができ、かつ抗ウイルス剤同士の凝集がないウイルス不活化シートに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、SARS(重症急性呼吸器症候群)やノロウイルス、鳥インフルエンザなどウイルス感染による死者が報告されている。特に、2009年、交通の発達やウイルスの突然変異によって、世界中にウイルス感染が広がる「パンデミック(感染爆発)」の危機に直面し、さらに口蹄疫などのウイルスによる大きな被害も出てきており、緊急の対策が必要とされている。このような事態に対応するために、ワクチンによる抗ウイルス剤の開発も急がれているが、ワクチンの場合、その特異性により、感染を防ぐことができるのは特定のウイルスに限定される。また病院や診療所においては、保菌者あるいは感染者によって院内へ持ち込まれたMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)や抗生剤投与によって黄色ブドウ球菌からMRSAへと変異した株が、患者から直接、あるいは医療従事者、または白衣やパジャマ、シーツなどの使用物品、壁やエアコンなどの設備を含む環境を介して、患者・医療従事者に接触感染を生じる院内感染が社会的にも大きな問題になってきている。したがって、様々なウイルスやバクテリアに有効な、殺菌、抗ウイルス効果を発揮することができる抗ウイルス性を有する部材の開発が強く望まれている。
【0003】
これらの問題を解決する手段として、銀イオン、銅イオンなどの抗菌性金属イオンが担持された無機多孔結晶を樹脂の内部に含有した複合体を用いたウイルス不活化シートがある(特許文献1)。また、抗ウイルス効果を持つ無機微粒子を基材に担持させたウイルス不活化シートがある(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−30984号公報
【特許文献2】WO2011/040048号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、樹脂の内部に無機多孔結晶を含有する方法では、繊維状の布帛には適用できるものの、繊維を用いないフィルムやシート、さらに無機材料については適用ができない。また、抗ウイルス効果のある無機微粒子を用いた方法では、汎用性、効果共に高いものの、無機微粒子の粒径を小さくする場合、無機微粒子同士が凝集するため効率が悪くなったり、凝集体と基材との密着性が低下し剥離したりするなどの問題がある。
【0006】
ここで、ウイルスは、ノロウイルスなどのエンベロープを持たないウイルスと、インフルエンザウイルスなどのエンベロープを持つウイルスに分類でき、エンベロープを持つウイルスを不活化できる薬剤であっても、エンベロープを持たないウイルスには作用しない場合がある。さらに、不活化シートをマスクに貼着したり、手術用防護服や、枕カバーなどに用いるような場合は、感染者の口や鼻に接触して使用される物品であるため、血液や唾液などの体液に含まれる脂質やタンパク質が付着する場合もある。したがって、脂質やタンパク質の存在する環境下でもウイルスを不活化できることが好ましい。
【0007】
そこで本発明は、上記課題を解決するために、エンベロープの有無に関係なく、また、粒径が小さくても抗ウイルス効果を持つ無機微粒子(以下、抗ウイルス剤とする)同士が凝集することなく効率良く作用し、抗ウイルス剤と基材との密着性も高いウイルス不活化シートを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち第1の発明は、付着したウイルスを不活化できるシートであって、シート本体と、前記シート本体にて保持される抗ウイルス剤とを備え、抗ウイルス剤は、樹脂からなる母粒子に、一価の銅化合物微粒子および/またはヨウ化物微粒子からなる子粒子が埋め込まれて形成されていることを特徴とするウイルス不活化シートである。なお、本明細書において、ウイルス不活化シートとは、ウイルス不活化性(ウイルスの感染力低下ないし失活)を有するシートを意味する。したがって、ウイルスを不活化することを目的とするシート体のほか、例えば装飾等を目的とする壁紙等も含む概念である。また、本明細書において、ウイルス不活化性と抗ウイルス性とは同義で用いている。
【0009】
さらに第2の発明は、上記第1の発明において、前記抗ウイルス剤が、前記母粒子に埋め込まれた無機多孔質微粒子をさらに含むことを特徴とするウイルス不活化シートである。
【0010】
さらに第3の発明は、上記第1または第2の発明において、前記一価の銅化合物微粒子が、塩化物、酢酸化合物、硫化物、ヨウ化物、臭化物、過酸化物、酸化物、およびチオシアン化物からなる群から少なくとも1種類選択されることを特徴とするウイルス不活化シートである。
【0011】
さらにまた第4の発明は、上記第3の発明において、前記一価の銅化合物微粒子が、CuCl、CuBr、Cu(CHCOO)、CuSCN、CuS、CuO、およびCuIからなる群から少なくとも1種選択されることを特徴とするウイルス不活化シートである。
【0012】
さらにまた第5の発明は、第1から第4のいずれかの発明において、前記ヨウ化物微粒子が、CuI、AgI、SbI、IrI、GeI、GeI、SnI、SnI、TlI、PtI、PtI、PdI、BiI、AuI、AuI、FeI、CoI、NiI、ZnI、HgIおよびInIからなる群から少なくとも1種類選択されることを特徴とするウイルス不活化シートである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、例えば飛沫や血液などのタンパク存在下においても、シート表面などに付着したウイルスを不活化することができるウイルス不活化シートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態のウイルス不活化シートの断面図である。
【図2】本発明の実施形態に用いる抗ウイルス剤のSEM画像である。
【図3】本発明の実施例のSEM画像である。
【図4】本発明の比較例のSEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について図1を用いて詳述する。
【0016】
図1は本発明の実施形態のウイルス不活化シート100の断面の一部を模式的に拡大した図である。基材となるシート本体10は、不織布や混抄紙などから形成されており、その内部には後述する抗ウイルス剤1が保持されている。本発明の実施形態では、図1に示すように、バインダー2によって抗ウイルス剤1をシート本体10に強固に固定している。なお、バインダー2は、抗ウイルス剤1をシート本体10に強固に固定したい場合に加えればよく、必ずしも加えられていなくてもよい。また、本実施形態では、抗ウイルス剤1のみが保持される構成であってもよく、抗ウイルス剤1ではない他の微粒子等が保持されるようにしてもよい。抗ウイルス剤1の他に2種以上の微粒子が保持される構成とすることも、もちろん可能である。
【0017】
抗ウイルス剤1の他に用いられる微粒子としては、所望される機能をウイルス不活化シート100に付与するために、任意に用いられる機能性材料などが挙げられる。他に用いられる微粒子の具体例としては、他の抗ウイルス剤、抗菌剤、防黴剤、抗アレルゲン剤、および触媒などを挙げることができる。特に、ゼオライトA、ゼオライトP、ゼオライトX、ゼオライトYなどの合成ゼオライトや、クリノプチルライトやセピオラオライト、モルデナイト、アナルサイト、エリナイトなどの天然ゼオライトなどや、高シリカゼオライト、ソーダライト、カオリナイト、モンモリロナイト、酸性白土、珪藻土などの層状ケイ酸塩化合物や、オラストナイト、ネプツナイトなどの環状ケイ酸塩化合物、リン酸3カルシウム、リン酸水素カルシウム、ピロリン酸カルシウム、メタリン酸カルシウム、ハイドロキシアパタイトなどのリン酸塩化合物や、さらには、活性炭や、珪藻土、多孔質ガラスなどの吸着性のある無機微粒子を用いることにより、消臭効果などを付与したり、ウイルスを吸着することでより効率よくウイルスを不活化したりできる。なお、これら機能性材料は、抗ウイルス剤1と同様、バインダー2によって強固に固定されてもよいし、バインダー2を使わず、シート本体10に交絡されて固定されてもよい。
【0018】
バインダー2としては、公知のバインダーが用いられるが、具体例として、飽和ポリエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、アルキッド樹脂、澱粉のり等が挙げられる。
【0019】
ここで、抗ウイルス剤1が本発明の実施形態のウイルス不活化シート100に保持される量は、ウイルス不活化シート100の使用する目的や用途及び微粒子の大きさを考慮して当業者が適宜設定することが可能であるが、シート保持組成物において0.1質量%から80.0質量%であることが好ましく、より好ましくは0.1質量%から60.0質量%である。抗ウイルス剤1が0.1質量%に満たない場合は、範囲内にある場合と比較して、ウイルス不活化シート100が有するウイルスを不活化する作用が低下する。また、80.0質量%より多くしても範囲内にある場合と比較してウイルス不活化シート100のウイルス不活化作用に大差はないほか、バインダー2のバインディング性(保持できる作用)が低下し、範囲内にある場合よりも抗ウイルス剤1がシート本体10から離脱し易くなる。
【0020】
含有される抗ウイルス剤1の大きさは特に限定されないが、平均の粒子径が5000μm以下であることが好ましい。さらに、その使用環境や時間の経過により、シート本体10内部から抗ウイルス剤1が脱落することを考慮すると、平均粒子径は300nm〜1000μmであることが特に好ましい。
【0021】
本実施形態の抗ウイルス剤1は、繊維を交絡させて製造される不織布や、パルプと結着剤を混抄して製造される混抄紙などをシート本体10として製造する際に混合することで、シート10内部の空間内にて狭持させることができる。
【0022】
ここで、シート本体10を不織布などで構成する場合は、合成樹脂や天然樹脂が用いられる。その一例としては、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、AS樹脂、EVA樹脂、ポリメチルペンテン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリアクリル酸メチル樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリフッ化ビニリデン樹脂、ベクトラン(登録商標)、PTFE(polytetrafluoroethylene)などの熱可塑性樹脂、ポリ乳酸樹脂、ポリヒドロキシブチレート樹脂、修飾でんぷん樹脂、ポリカプロラクト樹脂、ポリブチレンサクシネート樹脂、ポリブチレンアジペートテレフタレート樹脂、ポリブチレンサクシネートテレフタレート樹脂、ポリエチレンサクシネート樹脂などの生分解性樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、エポキシ樹脂、エポキシアクリレート樹脂、ケイ素樹脂、アクリルウレタン樹脂、ウレタン樹脂などの熱硬化性樹脂、シリコーン樹脂、ポリスチレンエラストマー、ポリエチレンエラストマー、ポリプロピレンエラストマー、ポリウレタンエラストマーなどのエラストマーおよび漆など天然樹脂、綿、麻、絹等の天然繊維などが挙げられる。
【0023】
不織布は、まずフリースと呼ばれる不織布の素となる集積層を製造し、そのフリースの繊維間を結合し、積層させる、という2つの工程により製造されるが、本発明の実施形態の抗ウイルス剤1は、フリース形成時に繊維に混合してもよいし、フリースの積層時に混入してもよい。またフリースを積層する際には、抗ウイルス剤1を含むフリースと含まないフリースとを積層することもできる。
【0024】
フリースの製造方法としては、乾式法、湿式法、スパンボンド法、メルトブロー法などの一般的な製法が用いられるが、抗ウイルス剤1の安定性を考慮すると、水や、加熱を行わない乾式法が好適に用いられる。
【0025】
また、フリースの結合方法としては、サーマルボンド法、ケミカルボンド法、ニードルパンチ法、スパンレース法、ステッチボンド法、スチームジェット法などの一般的な製法が用いられる。
【0026】
また、熱可塑性樹脂や、反応性ホットメルト接着剤や、紫外線や電子線などの粒子線で反応硬化する樹脂をノズルより繊維状に吐出し、吐出して形成した繊維の表面が粘着性を有している間に、抗ウイルス剤1を接触させた後、ホットメルト接着剤では室温に戻して固着させたり、反応性ホットメルト接着剤では空気中の水分で反応硬化させたり、紫外線や電子線で架橋する樹脂などでは紫外線や電子線を照射して反応硬化させることにより固定してもよい。
【0027】
このように用いられる樹脂としては、低密度ポリエチレン、直鎖低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン酢酸ビニル共重合樹脂、エチレン‐メチルメタクリレート共重合体樹脂、エチレン・アクリル酸エチル共重合樹脂などの樹脂を主成分とするホットメルト接着剤や、ウレタンプレポリマーを主体とする反応性ホットメルト接着剤や、ポリウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレート樹脂などを主成分とする紫外線や電子線で架橋する樹脂などが挙げられる。
【0028】
次に、本発明の実施形態のウイルス不活化シート100のシート本体10を混抄紙とする場合、パルプを抄紙することにより得られる。パルプとしては、木材パルプ、ポリエチレンパルプ、レーヨンパルプ、ビニロンパルプなどの各種パルプとすることができる。また、各種パルプに加えて、ポリエステル系繊維、ポリウレタン系繊維、ポリアミド系繊維、ポリビニルアルコール系繊維、ポリアクリロニトリル系繊維、ポリ塩化ビニル系繊維、ポリオレフィン系繊維、ポリアクリロニトリル系繊維などの有機合繊繊維を単独または複数組み合わせて用いてもよい。
【0029】
抄紙は、例えば、パルプに、構造体としての強度を確保する目的で、適量のガラス繊維やミルドファイバー等の補強剤を加え、これら混合物と水とを混合した希釈スラリーを丸網などの抄紙機で漉きあげて製造される。本発明の実施形態の抗ウイルス剤1は、漉きあげる前のスラリーに添加することでシート本体10中に固定される。
【0030】
続いて、本発明の実施形態のウイルス不活化シート100で用いる抗ウイルス剤1について、図2を用いて詳述する。
【0031】
図2は本発明の実施形態のウイルス不活化シート100に用いる抗ウイルス剤1のSEM画像である。抗ウイルス剤1は、樹脂からなる母粒子1−aの表面に、無機微粒子からなるウイルス不活可能を持つ子粒子1−bが固着している。
【0032】
本発明の実施形態のウイルス不活化シート100で用いられる抗ウイルス剤1の母粒子1−aとしては、樹脂からなるものであれば特に限定されず、当業者が適宜設定可能であるが、具体的には、架橋アクリルや、PMMA、フッ素樹脂、フッ化ビニリデン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12、ポリスチレン、架橋ポリスチレン、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエチレン、セルロースなどが挙げられ、子粒子1−bとの密着性からナイロン6が好適に用いられる。
【0033】
また、母粒子1−aの樹脂は、他の機能性材料を混錬してもよい。例えば、樹脂に界面活性剤を添加することで、母粒子1−aの表面電位をプラス方向に制御し、表面電位がエンベロープの有無に関わらずマイナスであるウイルスを吸着しやすくして抗ウイルス効果を向上させたり、磁性材料を添加することで医療デバイスとしたり、他にも、殺菌剤、防かび剤などを混錬することで、ウイルス不活化以外の効果が付与できる。
【0034】
母粒子1−aは、その粒径が500nm〜5000μm、好ましくは1〜1000μm、より好ましくは1〜500μm、さらに好ましくは4〜200μmのものが好適に用いられる。母粒子1−aの粒径がこの範囲であることが、子粒子1−bや後述の無機多孔質微粒子などを母粒子1−aの表面に配置するのに好適であり、粒径が500nmより小さいと母粒子1−aに子粒子1−bを配置するのが困難であり、5000μmより大きいとシート本体10に固定しても簡単に剥離してしまう。
【0035】
本発明の実施形態の抗ウイルス剤1で用いられる子粒子1−bとしては、ウイルス不活化能を持つものが使用される。このようなウイルス不活化能を持つ物質としては、一価の銅化合物やヨウ化物が挙げられる。具体的な一価の銅化合物としては、塩化物、酢酸化合物、硫化物、ヨウ化物、臭化物、過酸化物、酸化物、水酸化物、シアン化物、チオシアン酸塩またはこれらの混合物からなることが好ましく、中でもCuCl、Cu(CHCOO)、CuI、CuBr、CuO、CuOH、CuCN、CuSCNからなる群から少なくとも1種以上選択されることが好適である。また、具体的なヨウ化物としては、CuI、AgI、SbI、IrI、GeI、GeI、SnI、SnI、TlI、PtI、PtI、PdI、BiI、AuI、AuI、FeI、CoI、NiI、ZnI、HgIおよびInIから少なくとも1種類選択されることが好適である。
【0036】
これらの子粒子1−bは、エンベロープの有無に係らずウイルスを吸着して不活化可能であり、細菌についても殺菌可能である。また、本発明の実施形態に係る子粒子1−bは、タンパク質や脂質の存在下にあっても、ウイルスを不活化することができる。
【0037】
ウイルス不活化能を持つ子粒子1−bのウイルスの不活化機構、殺菌機構については現在のところ必ずしも明確ではないが、子粒子1−bが空気中あるいは飛沫中の水分と接触すると、その一部が酸化還元反応をしたり、ラジカルなどの活性種を発生させたりすることにより、付着したウイルス表面や細菌表面の電気的チャージや遺伝子などに何らかの影響を与えて不活化させるものと考えられる。
【0038】
ここで、母粒子1−aに埋めこまれる子粒子1−bの大きさは、母粒子1−aの粒径にあわせて適宜決定できるが、母粒子1−aの粒径の1/10以下であることが好ましい。具体的には、子粒子1−bの平均の粒子径が1nm以上、50μm未満であることが好ましい。子粒子1−bの粒子径は、小さい方が、母粒子1−aに埋め込まれる(表に出ない)体積が少なくて済むため、少量で効率よくウイルス不活化効果を示すが、平均粒子径が1nm未満では化学的に不安定となる上に、安定してウイルス不活化効果を維持できない。また、子粒子1−bの平均粒子径が50μm以上である場合は、母粒子1−aに埋め込んでも脱落する可能性が高くなるため好ましくない。なお、本明細書において、平均粒子径とは体積平均粒子径をいう。
【0039】
このように、ウイルス不活可能を持つ子粒子1−bを粒径の大きい母粒子1−aに埋め込むことで、子粒子1−bの表面積を高く保ちつつ凝集を防止することができる。
【0040】
また、本発明の実施形態の抗ウイルス剤1においては、ウイルス不活化能を持つ子粒子1−bと共に、他の機能性微粒子を併用してもよい。機能性微粒子としては、他の抗ウイルス剤、抗菌剤、防かび剤、抗アレルゲン剤、触媒、などが挙げられる。このような別の機能を持った機能性微粒子を併用することで、抗ウイルス剤1に別の効果を付与することができる。
【0041】
機能性微粒子としては、さらに、母粒子1−aよりも粒径の小さい、非金属酸化物、金属酸化物、金属複合酸化物などの無機化合物の粒子を併用してもよい。無機化合物の粒子の結晶性は、非晶性あるいは結晶性のどちらでもよい。非金属酸化物としては、酸化珪素が挙げられる。また、金属酸化物としては、酸化マグネシウム、酸化バリウム、過酸化バリウム、酸化カルシウム、酸化アルミニウム、酸化スズ、酸化チタン、酸化亜鉛、過酸化チタン、過酸化カルシウム、酸化ジルコニウム、酸化鉄、水酸化鉄、酸化タングステンなどが挙げられる。また、金属複合酸化物としては、高シリカゼオライト、ソーダライト、モルデナイト、アナルサイト、エリナイトなどのゼオライト類、ハイドロキシアパタイトなどのアパタイト類、珪藻土、酸化チタンバリウム、酸化コバルトアルミニウム、TiO−WO、Al−SiO、WO−ZrO、WO−SnOなどが挙げられ、特に、上述した多孔質材料であるゼオライト類や、アパタイト類、珪藻土などを用いることで、これらの粒子が持つ消臭効果が期待できるため、ウイルスが不活化でき、殺菌性があり、消臭効果を持つ多機能な抗ウイルス剤を提供することができる。その他に、無機化合物の粒子として、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、珪酸カルシウム、珪酸マグネシウム、珪酸アルミニウム、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウムなどの無機化合物の粒子を用いてもよい。
【0042】
以上説明した子粒子1−b(および併用される他の機能性微粒子)は、前述の母粒子1−aの表面に埋めこまれている。この母粒子1−aと子粒子1−bとの複合粒子(他の機能性微粒子を併用する場合には母粒子1−aと子粒子1−bと他の機能性微粒子との複合粒子)の製造方法は、母粒子1−aと子粒子1−bとを複合化できれば特に限定されないが、例えば、乳鉢などで母粒子1−aと子粒子1−bとを混ぜ合わせることで子粒子1−bが母粒子1−aに埋め込まれた複合粒子を形成することができる。また、その他に例えば、母粒子1−aと子粒子1−bを衝突させるなどして機械的に母粒子1−aと子粒子1−bを結合させる高速気流衝撃法や、母粒子1−aと子粒子1−bに強い圧力を加えることにより生じるエネルギーによって母粒子1−aと子粒子1−bとを結合させる表面融合法などのメカノケミカル法によっても形成することができる。
【0043】
以上説明した本実施形態のウイルス不活化シート100によれば、ゲノムの種類や、エンベロープの有無等に係ることなく、様々なウイルスを不活化することができる。例えば、ライノウイルス・ポリオウイルス・口蹄疫ウイルス・ロタウイルス・ノロウイルス・エンテロウイルス・ヘパトウイルス・アストロウイルス・サポウイルス・E型肝炎ウイルス・A型、B型、C型インフルエンザウイルス・パラインフルエンザウイルス・ムンプスウイルス(おたふくかぜ)・麻疹ウイルス・ヒトメタニューモウイルス・RSウイルス・ニパウイルス・ヘンドラウイルス・黄熱ウイルス・デングウイルス・日本脳炎ウイルス・ウエストナイルウイルス・B型、C型肝炎ウイルス・東部および西部馬脳炎ウイルス・オニョンニョンウイルス・風疹ウイルス・ラッサウイルス・フニンウイルス・マチュポウイルス・グアナリトウイルス・サビアウイルス・クリミアコンゴ出血熱ウイルス・スナバエ熱・ハンタウイルス・シンノンブレウイルス・狂犬病ウイルス・エボラウイルス・マーブルグウイルス・リッサウイルス・ヒトT細胞白血病ウイルス・ヒト免疫不全ウイルス・ヒトコロナウイルス・SARSコロナウイルス・ヒトポルボウイルス・ポリオーマウイルス・ヒトパピローマウイルス・アデノウイルス・ヘルペスウイルス・水痘・帯状発疹ウイルス・EBウイルス・サイトメガロウイルス・天然痘ウイルス・サル痘ウイルス・牛痘ウイルス・モラシポックスウイルス・パラポックスウイルスなどを挙げることができる。
【0044】
以上、本発明の実施形態のウイルス不活化シート100について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、他の実施形態とすることももちろん可能である。例えば、上述の実施形態ではシート本体10内部にて抗ウイルス剤1が保持されているが、これに限定されるものではなく、シート本体10表面に抗ウイルス剤1が保持されていてもよい。
【0045】
シート本体10表面に抗ウイルス剤1を保持する場合は、公知のバインダー成分を用いることができる。バインダー成分としては、シート本体10との密着性が良いものであれば特に限定はされないが、例えば合成樹脂では、ポリエステル樹脂、アミノ樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、水溶性樹脂、ビニル系樹脂、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、繊維素系樹脂、フェノール樹脂、キシレン樹脂、トルエン樹脂、天然樹脂としては、ひまし油、亜麻仁油、桐油などの乾性油などを用いることができる。
【0046】
また、別の実施形態として、バインダー成分を、シランモノマーやその重合体であるオリゴマーとすることもできる。これらは上記バインダー成分よりも分子量が非常に低いため、抗ウイルス剤1全体を覆うことがなく、抗ウイルス剤1とウイルスとの接触が阻害されにくいため、効率よくウイルスを不活化することができる。また、シランモノマーやオリゴマーは、抗ウイルス剤1同士や抗ウイルス剤1とシート本体10とを化学結合にて強固に固定できるので、安定にシート本体10に担持することができる。
【0047】
本発明の実施形態のウイルス不活化シート100で用いられる具体的なシランモノマーとしては、X−Si(OR)n(nは1〜3の整数)の一般式で示されるシランモノマーが挙げられる。尚、Xは、例えば有機物と反応する官能基でビニル基、エポキシ基、スチリル基、メタクリロ基、アクリロキシ基、イソシアネート基、ポリスルフィド基、アミノ基、メルカプト基、クロル基などである。また、ORは加水分解可能なメトキシ基、エトキシ基などのアルコキシ基であり、シランモノマーに係る3つの当該官能基は同一でも異なっていてもよい。これらのメトキシ基やエトキシ基からなるアルコキシ基は、加水分解してシラノール基を生ずる。このシラノール基やビニル基やエポキシ基、スチリル基、メタクリロ基、アクリロキシ基、イソシアネート基、また不飽和結合などを有する官能基は、反応性が高いことが知られている。すなわち、本発明の実施形態のウイルス不活化シート100は、このような反応性に優れたシランモノマーを介して抗ウイルス剤1を化学結合によりシート本体10表面に強固に保持することもできる。
【0048】
このようにして得られたウイルス不活化シート100は、シート本体10が織編物、不織布、混抄紙などの繊維構造体からなる場合、マスク、キャップ、シューズカバー、エアコン用フィルター、空気清浄機用フィルター、掃除機用フィルター、換気扇用フィルター、車両用フィルター、空調用フィルター、人工呼吸器用フィルター、人工鼻、医療用ドレープ(医療用覆布、医療用シート)、インサイズドレープ、サージカルテープ、ガーゼ、壁紙、衣類、寝具、網戸用ネット、鶏舎用ネット、蚊屋などのネット類、などを構成することができる。
【0049】
また、別の用途として、本発明のウイルス不活化シート100の表面に、他の部材、例えばフィルムやシートが積層されるようにしてもよい。例えば、防水性を有するフィルムやシートを積層することでウイルス不活化シート100に防水性を付与することができる。当該防水性を備えるウイルス不活化シート100を用いて、該シートを例えば縫合することにより、ウイルスや血液が透過するのを防止できる高性能防護服や医療用手袋、また病院や介護用のシーツなどを構成することができる。
【0050】
積層するフィルムやシートとしては、使用者が快適に過ごせるように、水を遮蔽し、空気(湿気)を透過させる透湿性を備えたものが好適に用いられる。具体的には、一般に市販されているものを使用目的に合わせて選定し使用すればよい。
【0051】
さらにまた、本発明のウイルス不活化シート100の少なくとも一方の主面に接着剤などを積層し、使用者が任意にマスクや壁や床に簡単に接着できるようにすることもできる。具体的には、手持ちのマスクの表面に本発明のウイルス不活化シート100を貼付けることで、ウイルス不活化マスクにすることができる。
【0052】
また、本発明のウイルス不活化シート100に係るシート本体10は、通気性を有する構造体に係らず、空気を透過させない、言い換えれば遮気性を備えていてもよい。具体的にはシート本体10を、ポリエステル、ポリエチレン、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリテトラフルオロエチレン、四フッ化エチレン−エチレン共重合体などの樹脂、ポリカーボネート樹脂シート・フィルム、塩化ビニルシート、フッ素樹脂シート、ポリエチレンシート、シリコーン樹脂シート、ナイロンシート、ABSシート、ウレタンシートなどの高分子からなるシートやチタニウム、アルミニウム、ステンレス、マグネシウム、真鍮などの金属からフィルム状に構成してもよい。
【0053】
ここで、上記遮気性を備えるシート本体1の表面には、予め、抗ウイルス剤1のシート本体10に対する密着性を高める為に、コロナ処理や大気プラズマ処理、火炎処理などにより親水化されてあればさらに良い。また、金属からなるシート本体10では、表面に付着している圧延用オイルや腐食生成物などが、溶剤や、酸、アルカリなどにより除去されていることが好ましい。また、シート本体10の表面に塗装や印刷などが施されてあってもよい。
【0054】
当該抗ウイルス剤1が保持された遮気性を有するウイルス不活化シート100は、例えば、壁紙やカーテン、ブラインド、デスクマット、食品用保存袋、食品用ラップフィルム、キーボードカバー、タッチパネル、タッチパネルカバー、医療用ドレープ、インサイズドレープ、病院内などのビル用内装材、電車や自動車などの内装材、車両用シート、椅子やソファーのカバー、ウイルスを扱う設備、ドアや床板の防汚シート、人工呼吸器用マスク、人工呼吸器用部品、手術用手袋など、様々な分野に利用できる。
【0055】
次に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【実施例】
【0056】
(赤血球凝集反応による抗ウイルス性評価)
各物質(参考例1から27)の抗ウイルス性を評価した。対象ウイルスとして、MDCK細胞を用いて培養したインフルエンザウイルス(influenza A/北九州/159/93(H3N2))を用いた。各物質と接触させたインフルエンザウイルスの赤血球凝集反応(HA)の力価(HA価)を定法により判定した。
【0057】
具体的には、まず、各物質の懸濁液と接触させたサンプル液を、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で2倍希釈系列を作成し、プラスチック製丸底96穴プレートの各ウェルに各々50μLずつ入れた。次に、その各々に対して0.5体積%ニワトリ赤血球浮遊液を50μLずつ加え、4℃で60分静置後に赤血球の沈降している様子を目視にて観察した。このとき、赤血球の沈降が起こらなかったウイルス液の最大の希釈倍率をHA価とした。
【0058】
サンプル液の取得については、以下のようにして行った。まず、表1に示す各参考例における物質を、各々PBSにて10質量%および1質量%に懸濁した試料を準備した。次に2種類の濃度の試料、各450μLに、HA価256のインフルエンザウイルス液450μLをそれぞれ加え、マイクロチューブローテーターを用いて攪拌しながら、室温で10分間反応させた。このとき、各々の物質の濃度は5質量%、または0.5質量%であった。また、コントロールは、PBS450μLにHA価256のウイルス液450μLを加え、マイクロチューブローテーターを用いて10分間攪拌したものとした。なお、本明細書において、懸濁液濃度とは、懸濁液を構成するヨウ化物や一価の銅化合物と溶媒等の全成分の質量を100%とし、その中の特定成分(例えばヨウ化物や一価の銅化合物)の質量%を意味する。その後、遠心分離により固形分を沈殿させ、上清を回収しサンプル液とした。サンプル液のHA価測定結果を表2に示す。
【0059】
【表1】



【0060】
【表2】

【0061】
表2の結果より、参考例1〜27の全ての物質においてウイルスの不活化効果が認められており、濃度5%であればHA価は32以下、すなわち75%以上のウイルスが不活化していることが確認された。特にGeI、GeI、SnI、SnI、PtI、FeI、CoI、NiI、ZnI、InI、CuCl、CuBr、Cu(CHCOO)の各物質においては、本試験でのHA価測定の下限界である99%以上のウイルスの不活化という、高い効果が確認された。
【0062】
(ウイルス不活化シートの作成)
(実施例1)
子粒子として、参考例No.1のヨウ化銅(I)粉末をジェットミルで粉砕し、平均粒子径0.16μmのヨウ化銅(I)微粒子を得た。このヨウ化銅(I)微粒子600gと、母粒子として、平均粒子径10μmのナイロン6微粒子(東レ株式会社製TR−1)2000gとを十分に混合し、ノビルタNOB(ホソカワミクロン株式会社製 登録商標)にて、母粒子と子粒子とを複合化して抗ウイルス剤複合粒子を得た。
【0063】
次に、反応性ホットメルト接着剤として積水フーラー株式会社製のTL−0511を、ノードソン株式会社製ALTA400シグレチャースプレーガンより糸状に吐出させ、粘着性を有する繊維構造体を作製した。次に、上記方法にて複合化した抗ウイルス剤複合粒子を接触させて、粘着性を有する反応性ホットメルト接着剤からなる繊維構造体の繊維表面に付着させ、湿度60%、50℃の環境で4時間反応させて反応性ホットメルト接着剤を硬化させ、実施例1のウイルス不活化シートを得た。このウイルス不活化シートのヨウ化銅(I)の付着量を原子吸光分析法で測定したところ、0.9質量%であった。
【0064】
(実施例2)
子粒子として参考例No.1のヨウ化銅(I)粉末と、無機多孔質微粒子として市販のゼオライト(ユニオン昭和株式会社製ABSCENTS−2000)を一緒にジェットミルで粉砕し、平均粒子径1μmの粒子を得た。この子粒子と無機多孔質微粒子からなる微粒子600gと母粒子である平均粒子径10μmのナイロン6微粒子(東レ株式会社製TR−1)2000gとを十分に混合し、自動乳鉢(日陶化学株式会社製)にて複合化して抗ウイルス剤複合粒子を得た。得られた抗ウイルス剤複合粒子を実施例1と同様の方法にてホットメルト不織布へ担持させ、実施例2のウイルス不活化シートを得た。このウイルス不活化シートのヨウ化銅(I)の付着量を原子吸光分析法で測定したところ、0.3質量%であった。
【0065】
(実施例3)
子粒子として、参考例No.2のヨウ化銀(I)粉末をジェットミルで粉砕し、平均粒子径1.6μmのヨウ化銀(I)微粒子を得た。このヨウ化銀(I)微粒子50gと、母粒子として、平均粒子径20μmのナイロン12微粒子(東レ株式会社製 SP−20)250gとを十分に混合し、メカノフュージョン(ホソカワミクロン株式会社製 登録商標)にて複合化して抗ウイルス剤複合微粒子を得た。
【0066】
次に、抄紙用繊維原料として、通常のビータなどで処理された木材パルプ(KPパルプ)と、抄紙用の有機合成繊維パルプ(ビニロンパルプ)と、日本板硝子(株)製の径が10μm前後のガラス短繊維を使用した。また、抄紙性を確保するために、昭和電工(株)製アクリル系高分子凝集剤を微量用いて、原料と水を混合したスラリーを大量の水で希釈し、定法により丸網抄紙機により漉き上げ、混抄紙としてのウイルス不活化シートを得、実施例3とした。このウイルス不活化シートのヨウ化銀(I)の付着量を原子吸光分析法で測定したところ、8.5質量%であった。
【0067】
(比較例1)
実施例1の抗ウイルス剤の代わりに、母粒子を使用せずに、子粒子である平均粒子径0.16μmのヨウ化銅(I)微粒子を用いたウイルス不活化シートの例を比較例1とした。なお、比較例1のウイルス不活化シートは、母粒子を使用しないこと以外は実施例1と同様の方法にて作成した。また、このウイルス不活化シートのヨウ化銅(I)の付着量を原子吸光分析法で測定したところ、1.8質量%であった。
【0068】
(比較例2)
実施例1の抗ウイルス剤の代わりに、子粒子(すなわち抗ウイルス効果を持つ無機微粒子)を使用せずに、母粒子である平均粒子径10μmのナイロン6微粒子(東レ株式会社製TR−1)を用いたシートの例を比較例2とした。なお、比較例2のシートは、子粒子を使用しないこと以外は実施例1と同様の方法にて作成した。
【0069】
(SEM観察による粒子の凝集の有無について)
実施例1のウイルス不活化シートと、比較例1のウイルス不活化シートを、走査型電子顕微鏡(株式会社日立ハイテクノロジーズ製、S−4700)にて観察した。実施例1のウイルス不活化シートのSEM画像を図3に、比較例1のウイルス不活化シートのSEM画像を図4に示す。
【0070】
これらの結果より、実施例1のウイルス不活化シートは母粒子の表面に子粒子が凝集することなく固定されているのに対し、母粒子を用いなかった比較例1のウイルス不活化シートは、子粒子が相当量、凝集して繊維表面に固定されている事が確認できた。
【0071】
(剥離試験後のタンパク存在下での抗ウイルス性評価)
次に、抗ウイルス剤の基材への密着性をみるために、JIS K 5400の碁盤目セロテープ(登録商標)による剥離試験を行った。剥離試験後の各サンプルについて抗ウイルス性能評価を行った。
【0072】
ウイルス不活化シートのウイルス不活化性の測定は、対象ウイルスとして、MDCK細胞を用いて培養したインフルエンザウイルス(influenza A/北九州/159/93(H3N2))に唾液中に含まれるタンパク量を想定したBSA(ウシ血清アルブミン(bovine serum albumin)を0.5質量%になるように加えたものを用いた。剥離試験後の実施例1〜3、比較例1、2の各サンプル(4cm×4cm)をプラスチックシャーレにいれ、ウイルス液0.2mlを滴下し、室温で60分間作用させた。このとき試験品の上面をPPフィルム(4cm×4cm)で覆うことで、ウイルス液と試験品の接触面積を一定にし、試験を行った。60分間作用させたのち、20mg/mlのブイヨン蛋白液を1800μl添加し、ピペッティングによりウイルスを洗い出した。その後、各反応サンプルが10−2〜10−5になるまでMEM希釈液にて希釈を行った(10倍段階希釈)。シャーレに培養したMDCK細胞にサンプル液100μLを接種した。90分間静置しウイルスを細胞へ吸着させた後、0.7%寒天培地を重層し、48時間、34℃、5%COインキュベータにて培養後、ホルマリン固定、メチレンブルー染色を行い形成されたプラック数をカウントして、ウイルスの感染価(PFU/0.1ml,Log10);(PFU:plaque-forming units)を算出した。コントロールには抗ウイルス剤をつけていないホットメルト不織布を用いた。その結果を表3に示す。
【0073】
【表3】

【0074】
以上の結果より、子粒子と母粒子を複合化させた抗ウイルス剤を固定した実施例1、2については、タンパク存在下でも60分間で不活化率99.999%以上、実施例3では99.99%以上という非常に高い効果が認められた。それに対し、比較例1は60分間で不活化率97.0%以上と低い値となっており、このことから子粒子が凝集したことで基材との密着性が低下し、剥離試験で子粒子が剥離してしまったと推測される。
【0075】
(アンモニアに対する消臭性評価)
実施例1、2、比較例1のウイルス不活化シートの各サンプル(10×10cm)をそれぞれ5Lのテドラーパックに入れた後、100ppmの濃度のアンモニアガス/窒素バランスを同テドラーパック内に注入した。その後、30分おきに2時間後まで、テドラーパック内のアンモニアガス濃度をアンモニアガス検知管(株式会社ガステック製,3La)を用いて測定した。尚、コントロールは抗ウイルス剤のついていないホットメルト不織布とした。結果を表4に示す。
【0076】
【表4】



【0077】
上記の結果より、実施例1、2共にテドラーバッグ内のアンモニア濃度の減少が確認できた。特に、子粒子と無機多孔質を併用した実施例2で顕著な効果が見られた。以上、本発明のウイルス不活化シートは、ウイルスを不活化し、消臭効果もあるマルチな材料として使用する事ができることが確認できた。
【符号の説明】
【0078】
100 ウイルス不活化シート
10 シート本体
1 抗ウイルス剤
1−a 母粒子
1−b 子粒子


【特許請求の範囲】
【請求項1】
付着したウイルスを不活化できるシートであって、
シート本体と、前記シート本体にて保持される抗ウイルス剤とを備え、
前記抗ウイルス剤は、樹脂からなる母粒子に、一価の銅化合物微粒子および/またはヨウ化物微粒子からなる子粒子が埋め込まれて形成されていることを特徴とするウイルス不活化シート。
【請求項2】
前記抗ウイルス剤は、前記母粒子に埋め込まれた無機多孔質微粒子をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載のウイルス不活化シート。
【請求項3】
前記一価の銅化合物微粒子が、塩化物、酢酸化合物、硫化物、ヨウ化物、臭化物、過酸化物、酸化物、およびチオシアン化物からなる群から少なくとも1種類選択されることを特徴とする請求項1または2に記載のウイルス不活化シート。
【請求項4】
前記一価の銅化合物微粒子が、CuCl、CuBr、Cu(CHCOO)、CuSCN、CuS、CuO、およびCuIからなる群から少なくとも1種選択されることを特徴とする請求項3に記載のウイルス不活化シート。
【請求項5】
前記ヨウ化物微粒子が、CuI、AgI、SbI、IrI、GeI、GeI、SnI、SnI、TlI、PtI、PtI、PdI、BiI、AuI、AuI、FeI、CoI、NiI、ZnI、HgIおよびInIからなる群から少なくとも1種類選択されることを特徴とする請求項1から4のいずれか1つに記載のウイルス不活化シート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−87064(P2013−87064A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−226518(P2011−226518)
【出願日】平成23年10月14日(2011.10.14)
【出願人】(391018341)株式会社NBCメッシュテック (59)
【Fターム(参考)】