説明

ウイルス及び細菌を不活化するポリマーコーティング

金属、プラスチック、ガラス、ポリマー、布並びに織物、ガーゼ、包帯、薄織物及び他の繊維などの他の基材などの固体表面へ、表面を殺ウイルス性及び殺細菌性にするために、例えば、ブラシがけ、噴霧又は浸漬によって、塗料と同様に、非共有結合性に適用することができる疎水性ポリマーコーティングが開発された。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本願は、ウイルス及び細菌を不活化するポリマーコーティング(「塗料」とも称される。)並びにその使用方法に関する。
本願は、2006年11月8日に出願されたU.S.S.N.60/864,967号の優先権を主張する。
【0002】
政府の支援
本発明は、マサチューセッツ工科大学の軍事ナノテクノロジー研究所を通じて、米国陸軍によって付与された契約番号DAAD−19−02−D−0002の下で、政府の支援を受けて為された。合衆国政府は、本発明に、一定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
有害な微生物を死滅させることができる物質、特に、日常生活で人々が触れる一般的な物体、例えば、ドアのノブ、子供のおもちゃ、コンピュータのキーボード、電話などの表面を被覆するために使用され、これらを無菌にして、ウイルス及び細菌感染の伝達を不能にすることができる物質に多大な関心が寄せられている。一般的な物質は抗微生物性ではないので、それらの修飾が必要とされる。例えば、ポリ(エチレングリコール)及びある種の他の合成ポリマーで化学的に修飾された表面は微生物を寄せ付けないようにすることができるが、微生物を死滅させることはできない(Bridgett,M.J.,et al,S.P.(1992)Biomaterials 13,411−416.Arciola,C.R.,et al Alvergna,P.,Cenni,E.& Pizzoferrato,A.(1993)Biomaterials 14,1161−1164.Park,K.D.,Kim,Y.S.,Han,D.K.,Kim,Y.H.,Lee,E.H.B,Suh,H.& Choi,K.S.(1998)Biomaterials 19,851 −859)。ウイルス、特に脂質外被型ウイルスを不活化するために、織物基材を修飾するための試薬及び方法であり、第四級アンモニウム基と炭化水素鎖の両方を含有する親水性ポリマーを光化学的に固定化することによって前記基材が修飾され、基材と接触したときに、脂質外被型ウイルスを破壊することができる局所的な界面活性性をもたらす前記試薬及び方法について記載する、Swansonに対する米国特許第5,783,502号も参照されたい。SurfacineDevelopmentCo.によるWO1999/40791号は、基材に適用されたときに、再度の適用の必要なしに、長期間にわたって、持続的な抗微生物及び抗ウイルス作用を与える、接着性の、透明な、水に不溶性のポリマーフィルムを基材表面上に形成する組成物を記載している。主張によれば、このコーティングは、接触死滅機序によって、表面消毒作用を提供し、溶液の消毒をもたらすレベルで、接触している溶液中にその成分を放出しない。この組成物は、有機ビグアニドポリマー及び抗微生物性の金属物質の組み合わせを含む。このポリマーは、金属物質を可逆的に結合し、又は錯化し、微生物と接触したときに、微生物の細胞膜中へ金属物質を取り込ませることが可能でなければならない。
【0004】
あるいは、時間とともに周囲の溶液中に徐々に放出され、溶液中の微生物を死滅させる、抗生物質、第四級アンモニウム化合物、銀イオン又はヨウ素などの抗微生物剤を物質に含浸させることができる(Medlin,J.(1997)Environ.Health Persp.105,290−292;Nohr,R.S.& Macdonald,G.J.(1994)J.Biomater.Sci.,Polymer Edn.5,607−619 Shearer,A.E.H.,et al(2000)Biotechnol.Bioeng.67,141−146)。Shikani他に対する米国特許第5,437,656号は、ヨウ素溶液と錯体を形成している金属上への抗感染性コーティングを記載している。基材材料に共有結合させることができ、又は基材へ噴霧し、浸漬し、浸し、塗布し、結合させ若しくは付着させることができる、疎水性ポリカチオンなどのポリマー性化合物を含む殺細菌性組成物を記載するGreen他に対する米国特許第6,939,569号及びTiller他による米国特許出願公開2003/0091641号も参照されたい。
【0005】
これらの戦略は細菌を含有する水溶液において有効性が確証されているが、液体媒体の不存在下で、空気伝搬性細菌に対して効果的であるとは予想されない。このことは、浸出する抗細菌剤が枯渇したときに効力がなくなる傾向があり得る放出をベースとする物品に関して特に当てはまる。
【0006】
感染は、多くの侵襲性の手術、治療及び診断措置によって頻繁に起こる合併症である。移植可能な医療器具を用いる措置に関しては、対象の免疫系による排除及び薬物作用から微生物を保護する生物膜へ、細菌が発達することができるので、感染の回避は特に問題となり得る。これらの感染は抗生物質での治療が困難であるので、しばしば、器具の除去が必要となるが、これは、患者に外傷をもたらし、医療の費用を増加させ得る。
【0007】
生物膜に基づく感染を除去することに伴う困難は十分に認識されているので、生物膜の形成を予防又は破壊するために表面又は表面を浸す液体を処理するための多くの技術が開発されている。例えば、医療器具の表面を抗生物質で被覆するために様々な方法が使用されてきた(例えば、米国特許第4,107,121号;米国特許第4,442,133号;米国特許第4,895,566号;米国特許第4,917,686号;米国特許第5,013,306号;米国特許第4,952,419号;米国特許第5,853,745号;及び米国特許第5,902,283号)及び他の細菌抑制化合物(例えば、米国特許第4,605,564号;米国特許第4,886,505号;米国特許第5,019,096号;米国特許第5,295,979号;米国特許第5,328,954号;米国特許第5,681,575号;米国特許第5,753,251号;米国特許第5,770,255;及び米国特許第5,877,243号参照)。
【0008】
無菌状態を維持するための莫大な努力にも関わらず、医療環境には、感染性生物が遍在している。これらの生物の存在は、入院患者及び医療従事者の感染をもたらすことができる。院内感染と名付けられたこれらの感染には、院外において遭遇するものに比べて、より病原性が高く、より珍しい生物がしばしば関与する。さらに、病院において獲得された感染は、多数の抗生物質に対する耐性を発達させた生物を伴う可能性がより高い。清浄化及び抗菌計画は日常的に使用されているが、感染性生物は、医療環境中の様々な表面、特に、水分に曝露された又は液体中に浸漬された表面に容易にコロニーを形成する。手袋、エプロン及び遮蔽などのバリア用物品でさえ、医療環境中の着用者又は他者に感染を広めることができる。滅菌及び清浄化にも関わらず、医療環境中の様々な金属及び非金属材料は、生物膜中に捕捉された危険な生物を保持し、それらを他の宿主に伝達させ得る。
【0009】
医療環境において生物膜形成を損なうために使用されるあらゆる薬剤は、使用者にとって安全でなければならない。ある種の殺生物剤は、生物膜を妨害するのに十分な量において、宿主組織にも損傷を与え得る。局所的な組織領域中に導入された抗生物質は耐性生物の形成を誘導することができ、次いで、耐性生物は生物膜群集を形成し得、群集のプランクトン性微生物は、同様に、特定の抗生物質に対して耐性となる。さらに、あらゆる抗生物膜剤又は抗汚損剤は、医療器具の健康増進特性を妨害してはならない。取扱者の取り扱いの容易さ、柔らかさ、防水性、引っ張り強度又は圧縮耐久性、抗微生物効果のために添加される薬剤によって変化を受けることができない特性の特定の種類を有するように、ある種の物質は選択される。
【0010】
さらなる問題として、汚染及び生物膜形成を阻害するために、移植可能な器具の表面に添加される物質は血栓形成性であり得る可能性がある。幾つかの移植可能な物質は、それ自体血栓形成性である。例えば、金属、ガラス、プラスチック又は他の類似の表面との接触は血液凝固を誘導し得ることが示されている。従って、抗凝固効果を有することが知られているヘパリン化合物が、移植の前に、ある種の医療器具に付与されてきた。しかしながら、その抗微生物効果が抗血栓形成効果と組み合わされる公知の製品は、医学兵器(medical arsenal)中には殆ど存在しない。心臓の弁、人工のポンプ装置(「人工心臓」又は左心室補助装置)、血管移植プロテーゼ及び血管ステントなど、血流中に存在する医療器具を処理するのに、この組み合わせは特に価値がある。これらの状況では、血餅の形成は導管を通じた血液の流れを閉塞させ得、下流に運ばれる塞栓と称される細片をさらに切断することができ、離れた組織又は臓器への循環を遮蔽する可能性を秘めている。
【0011】
抗ウイルス製品が殆ど存在せず、一般的な抗ウイルス製品は全く存在しないので、ウイルスは、細菌よりさらに大きな問題である。ウイルス性伝染病は、空気、水を通じて、又は直接の汚染を介して、急速に広がり得る。例えば、インフルエンザウイルスは、最も一般的なヒトの感染症の1つを引き起こす。典型的な年では、米国の人口の約15%が感染し、最大4万人の死亡及び20万人の入院をもたらす(http://www.cdc.gov/flu)。さらに、インフルエンザの爆発的流行は(ヒトが免疫を獲得していないウイルスの新株がヒトに容易に感染する能力を獲得すると)、1918年のスペイン風邪の爆発的流行の推定死亡率を仮定すると(Wood et al.(2004)Nature Rev Microbiol 2:842−847)、全世界で、約7,500万人を死亡させ得る。
【0012】
インフルエンザは(他の多くの病気と同様)、感染者によって吐き出され又はその他放出されたウイルスを含有するエアロゾル粒子が表面上に定着し、その後、他人が触れたときに典型的に伝播される(Wright et al.(2001)in Fields Virology,4th edition,eds.Knipe DM,Howley PM(Lippincott,Philadelphia,PA),pp1533−1579)。従って、人々が遭遇する一般的な物品がインフルエンザウイルスを不活化させる「塗料」で被覆されていれば、感染のこのような広がりは原理的に阻止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】米国特許第5,783,502号明細書
【特許文献2】国際特許公開第1999/40791号パンフレット
【特許文献3】米国特許第5,437,656号明細書
【特許文献4】米国特許第6,939,569号明細書
【特許文献5】米国特許出願公開2003/0091641号明細書
【特許文献6】米国特許第4,107,121号明細書
【特許文献7】米国特許第4,442,133号明細書
【特許文献8】米国特許第4,895,566号明細書
【特許文献9】米国特許第4,917,686号明細書
【特許文献10】米国特許第5,013,306号明細書
【特許文献11】米国特許第4,952,419号明細書
【特許文献12】米国特許第5,853,745号明細書
【特許文献13】米国特許第5,902,283号明細書
【特許文献14】米国特許第4,605,564号明細書
【特許文献15】米国特許第4,886,505号明細書
【特許文献16】米国特許第5,019,096号明細書
【特許文献17】米国特許第5,295,979号明細書
【特許文献18】米国特許第5,328,954号明細書
【特許文献19】米国特許第5,681,575号明細書
【特許文献20】米国特許第5,753,251号明細書
【特許文献21】米国特許第5,770,255号明細書
【特許文献22】米国特許第5,877,243号明細書
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Bridgett,M.J.,他、S.P.、Biomaterials 13、1992年、pp.411−416
【非特許文献2】Arciola,C.R.,他、Alvergna,P.,Cenni,E.& Pizzoferrato,A.、Biomaterials 14、1993年、pp.1161−1164
【非特許文献3】Park,K.D.,Kim,Y.S.,Han,D.K.,Kim,Y.H.,Lee,E.H.B,Suh,H.及びChoi,K.S.、Biomaterials 19、1988年、pp.851−859
【非特許文献4】Medlin,J.、Environ.Health Persp.105、1997年、pp.290−292
【非特許文献5】Nohr,R.S.及びMacdonald,G.J.、J.Biomater.Sci.,Polymer、第5版、1994年、pp.607−619
【非特許文献6】Shearer,A.E.H.他、Biotechnol.Bioeng.67、2000年、pp.141−146
【非特許文献7】Wood他、Nature Rev Microbiol 2、2004年、pp.842−847
【非特許文献8】Wright他、Fields Virology、第4版、KnipeDM,HowleyPM編集、Lippincott,Philadelphia,PA、2001年、pp.1533−1579
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
従って、一般的な表面を殺細菌性及び殺ウイルス性にできることが必要とされている。
【0016】
従って、殺細菌性及び/又は殺ウイルス性表面を与えるための物質及びその使用方法を提供することが本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0017】
発明の要旨
金属、プラスチック、ガラス、ポリマー並びに織物、ガーゼ、包帯、薄織物及びその他の繊維などの他の基材などの固体表面へ、表面を殺ウイルス性及び殺細菌性にするために、例えば、ブラシがけ、噴霧又は浸漬によって、塗料と同様に、非共有結合性に適用することができる疎水性ポリマーコーティングが開発された。
【0018】
ポリマーは、好ましくは、疎水性であり、水に不溶性であり、帯電しており、直鎖又は分岐であり得る。好ましくは、ポリマーは、ポリエチレンイミンの直鎖又は分岐誘導体を含む。高分子量のポリマーほど、殺ウイルス性がより高い。好ましいポリマーは、20kDa超、好ましくは50kDa超、より好ましくは100kDa超、より好ましくは200kDa超、最も好ましくは750kDa超の重量平均分子量を有する。実施例によって示されているように、適切なポリマーには、「Klibanov et al.,Biotechnology Progress,22(2),584−589,2006)」に記載されているように、酸加水分解、次いで、ドデシル化による四級化、続いて、メチル化によって、市販の500kDaポリ(2−エチル−2−オキサゾリン)から調製される217kDaのポリエチレンイミン(PEI)が含まれる。このポリマーの構造は、以下に示されている。
【0019】
【化1】

【0020】
使用可能な他の疎水性ポリカチオン性コーティングには、以下に示されているポリマーが含まれる。
【0021】
【化2】

【0022】
コーティングポリマーは、溶媒、好ましくはブタノールなどの有機溶媒中に溶解することができ、例えば、ブラシかけ後又は溶液を噴霧した後、溶媒を除去するために乾燥させることによって基材に適用することができる。
【0023】
実施例によって示されているように、分岐又は直鎖N,N−ドデシル、メチル−PEI及び他の疎水性PEI誘導体をガラススライドに塗布することによって、数分以内に実質的に100%の効率で(ウイルス力価の少なくとも2対数、より好ましくは3対数、最も好ましくは少なくとも4対数の減少)インフルエンザウイルス並びに空気伝搬性のヒト病原性細菌であるエシェリヒア・コリ(Escherichia coli)及びスタフィロコッカス・オーレウス(Staphylococcus aureus)が死滅する。コーティングポリイオンの多くでは、この殺ウイルス作用は接触したときに起こる、すなわち、スライド表面に固着されたポリマー鎖によってのみ起こることが示されているが、他のコーティングポリイオンに関しては、塗布された表面から浸出するポリイオンが殺ウイルス活性に寄与し得る。誘導化されたPEIの構造とその結果生じる塗布された表面の殺ウイルス活性との関係が解明された。このポリマーは、水に不溶性であり、従って、基材の表面上に被覆された状態に留まるのに十分に疎水性であるべきである。正の電荷が望ましいようであるが、負に帯電した及び双性イオン性の疎水性ポリマーによって示されたように、正の電荷が必要とされるわけではない。被覆されたスライドは、インフルエンザA/WSN/33(H1N1)及びインフルエンザA/Victoria/3/75(H3N2)株;A/Wuhan/359/95(H3N2)様野生型インフルエンザウイルス及びオセルタミビル耐性変種、Glu119Val;及びA/turkey/Minnessota/833/80(H4N2)野生型インフルエンザウイルス及び3つのノイラミニダーゼ阻害剤耐性変種、Glu119Asp、Glu119Gly及びArg292Lysに対して殺ウイルス性であることが示された。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1Aは、分岐PELのN−ドデシル化及びその後のN−メチル化の模式図である。「1a−c」と標識されている得られた産物の場合には、文字a、b及びcは、N,N−ドデシル、メチルポリカチオンがそれぞれ、750kDa、25kDa及び2kDaのPEIから調製されたことを示すために使用される。図1Bは、実施例に記載されているように、直鎖PEIをベースとする合成されたポリマーの5つの化学的構造を含有する。「2a−c」と標識されているポリマーの場合には、文字a、b及びcは、N,N−ドデシル、メチルポリカチオンがそれぞれ、217kDa、21.7kDa及び2.17kDaのPEIから調製されたことを示す。「3」、「4」、「5」又は「6」と標識されたポリマーに関しては、217kDaのPEIのみが使用された。
【図2】図2は、室温における、構造2aが塗布されたガラススライドによるインフルエンザウイルス(WSN株)の不活化の経時変化(分)のグラフである。
【図3】図3は、室温での曝露の様々な時間後における(5、30又は120分)、構造2a、4又は5が塗布されたガラススライドのインフルエンザウイルス(WSN株)に対する殺ウイルス活性のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
詳細な説明
I.殺ウイルス性ポリマーコーティング
A.ポリマー
定義
両親媒性分子又は化合物は、この分子又は化合物の1つの部分が親水性であり、別の部分が疎水性であるという本分野において認知された用語である。両親媒性分子又は化合物は、水性溶媒中において可溶性である部分及び水性溶媒中において不溶性である部分を有する。
【0026】
「親水性」及び「疎水性」という用語は本分野において認知されており、それぞれ、水を好むこと及び水を嫌うことを意味する。一般に、親水性物質は水に溶け、疎水性物質は水に溶けない。
【0027】
本明細書において一般に使用される「水に不溶性」という用語は、ポリマーが、室温又は体温において、標準的な条件下で、水中で約0.1%(w/w)未満の溶解度を有することを意味する。
【0028】
「リガンド」という用語は、受容体部位に結合する化合物を表す。
【0029】
本明細書において使用される「ヘテロ原子」という用語は、炭素又は水素以外のあらゆる元素の原子を意味する。好ましいヘテロ原子は、窒素、酸素、リン、硫黄及びセレンである。
【0030】
「電子吸引基」という用語は本分野において認知されており、隣接する原子から価電子を引き付ける置換基の傾向を表す。すなわち、置換基は、隣接する原子に関して電気的に陰性である。電子吸引能のレベルの定量化は、Hammettのシグマ(インサートシグマ)定数によって与えられる。この周知の定数は、多くの参照文献、例えば、J.March,Advanced Organic Chemistry,McGraw Hill Book Company,New York,(1977 edition)pp.251−259に記載されている。Hammett定数の値は、電子供与基に対しては一般に負であり(NHに対するσ[P]=−0.66)、電子吸引基に対しては正である(ニトロ基に対するσ[P]=σ[P]=0.78)(σ[P]は、パラ置換を示す。)。典型的な電子吸引基には、ニトロ、アシル、ホルミル、スルホニル、トリフルオロメチル、シアノ、塩化物などが含まれる。典型的な電子供与基には、アミノ、メトキシなどが含まれる。
【0031】
「アルキル」という用語は、直鎖アルキル基、分岐鎖アルキル基、シクロアルキル(脂環式)基、アルキル置換されたシクロアルキル基及びシクロアルキル置換されたアルキル基を含む飽和脂肪族基の基を表す。好ましい実施形態において、直鎖又は分岐鎖アルキルは、その骨格中に、30又はそれ以下の炭素原子(例えば、直鎖に関してはC−C30、分岐鎖に関してはC−C30)、より好ましくは20又はそれ以下の炭素原子を有する。同様に、好ましいシクロアルキルは、それらの環構造中に3から10個の炭素原子を有し、より好ましくは、環構造中に5、6又は7個の炭素を有する。
【0032】
炭素数に別段の記載がなければ、本明細書において使用される「低級アルキル」は、上述の定義どおりであるが、1から10個の炭素、より好ましくは1から6個の炭素原子をその骨格構造中に有するアルキル基を意味する。同様に、「低級アルケニル」及び「低級アルキニル」は、同様の鎖長を有する。好ましいアルキル基は低級アルキルである。好ましい実施形態において、本明細書において「アルキル」と表記される置換基は低級アルキル基である。
【0033】
本明細書において使用される「アラルキル」という用語は、アリール基で置換されたアルキル基(例えば、芳香族又は複素芳香族基)を表す。
【0034】
「アルケニル」及び「アルキニル」という用語は、上記アルキル基と長さ及び可能な置換が類似するが、それぞれ、少なくとも1つの二重結合又は三重結合を含有する不飽和脂肪族基を表す。
【0035】
本明細書において使用される「アリール」という用語は、0から4個のヘテロ原子を含み得る5員、6員又は7員の単環芳香族基、例えば、ベンゼン、ピロール、フラン、チオフェン、イミダゾール、オキサゾール、チアゾール、トリアゾール、ピラゾール、ピリジン、ピラジン、ピリダジン及びピリミジンなどを含む。環構造中にヘテロ原子を有するアリール基は、「アリール複素環」又は「複素芳香族」とも称され得る。この芳香環は、上記のような置換基、例えば、ハロゲン、アジド、アルキル、アラルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、ヒドロキシル、アルコキシル、アミノ、ニトロ、スルフヒドリル、イミノ、アミド、ホスホナート、ホスフィナート、カルボニル、カルボキシル、シリル、エーテル、アルキルチオ、スルホニル、スルホンアミド、ケトン、アルデヒド、エステル、ヘテロシクリル、芳香族又はヘテロ芳香族部分、−CF、−CNなどで、1つ又はそれ以上の環位置において置換され得る。「アリール」という用語には、2つ又はそれ以上の炭素が2つの隣接する環(環は、「縮合環」である。)に共通であり、環の少なくとも1つが芳香族であり、例えば、他の環状の環はシクロアルキル、シクロアルケニル、シクロアルキニル、アリール及び/又はヘテロシクリルであり得る2つ又はそれ以上の環状の環を有する多環式環系も含まれる。
【0036】
オルト、メタ及びパラという用語は、それぞれ、1、2−、1,3−及び1,4−二置換されたベンゼンに対応する。例えば、1,2−ジメチルベンゼンとオルト−ジメチルベンゼンという名称は同義である。
【0037】
「ヘテロシクリル」又は「複素環基」という用語は、その環構造が1から4個のヘテロ原子を含む3員から10員の環構造、より好ましくは3員から7員環を表す。複素環は、多環でもあり得る。ヘテロシクリル基には、例えば、チオフェン、チアントレン、フラン、ピラン、イソベンゾフラン、クロメン、キサンテン、フェノキサチイン、ピロール、イミダゾール、ピラゾール、イソチアゾール、イソオキサゾール、ピリジン、ピラジン、ピリミジン、ピリダジン、インドリジン、イソインドール、インドール、インダゾール、プリン、キノリジン、イソキノリン、キノリン、フタラジン、ナフチリジン、キノキサリン、キナゾリン、シンノリン、プテリジン、カルバゾール、カルボリン、フェナントリジン、アクリジン、ピリミジン、フェナントロリン、フェナジン、フェナルサジン、フェノチアジン、フラザン、フェノキサジン、ピロリジン、オキソラン、チオラン、オキサゾール、ピペリジン、ピペラジン、モルホリン、ラクトン、アゼチジノン及びピロリジノンなどのラクタム、サルタム、サルトンなどが含まれる。複素環は、上記のような置換基、例えば、ハロゲン、アルキル、アラルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、ヒドロキシル、アミノ、ニトロ、スルフヒドリル、イミノ、アミド、ホスホナート、ホスフィナートカルボニル、カルボキシル、シリル、エーテル、アルキルチオ、スルホニル、ケトン、アルデヒド、エステル、ヘテロシクリル、芳香族又は複素芳香族部分、−CF、−CNなどで、1つ又はそれ以上の位置において置換され得る。
【0038】
「多環」又は「多環式基」という用語は、2つ又はそれ以上の炭素が2つの隣接する環と共通である2つ又はそれ以上の環(例えば、シクロアルキル、シクロアルケニル、シクロアルキニル、アリール及び/又はヘテロシクリル)を表し、例えば、環は「縮合環」である。隣接していない原子を通じて連結されている環は、「架橋された」環と称される。多環の環の各々は、上記のような置換基、例えば、ハロゲン、アルキル、アラルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、ヒドロキシル、アミノ、ニトロ、スルフヒドリル、イミノ、アミド、ホスホナート、ホスフィナート、カルボニル、カルボキシル、シリル、エーテル、アルキルチオ、スルホニル、ケトン、アルデヒド、エステル、ヘテロシクリル、芳香族又は複素芳香族部分、−CF、−CNなどで置換され得る。
【0039】
本明細書において使用される「炭素環」という用語は、環の各原子が炭素である芳香環又は非芳香環を表す。
【0040】
本明細書において使用される、「ニトロ」という用語は−NOを意味する。「ハロゲン」という用語は、−F、−Cl、−Br又は−Iを表す。「スルフヒドリル」という用語は−SHを意味する。「ヒドロキシル」という用語は−OHを意味する。「スルホニル」という用語は−SO−を意味する。
【0041】
「アミン」及び「アミノ」という用語は本分野で認知されており、置換されていないアミンと置換されたアミンの両方を表す。
【0042】
「アシルアミノ」という用語は本分野で認知されており、以下の一般式によって表され得る部分を表す。
【0043】
【化3】

(Rは上記定義のとおりであり、R’11は水素、アルキル、アルケニル又は(CH−R(m及びRは上記定義のとおりである。)を表す。)
「アミド」という用語は、アミノ置換されたカルボニルとして本分野で認知されており、以下の一般式によって表され得る部分を含む。
【0044】
【化4】

(R、R10は、上に定義されているとおりである。)
【0045】
「アルキルチオ」という用語は、硫黄基が結合された上記定義のアルキル基を表す。好ましい実施形態において、「アルキルチオ」部分は、−S−アルキル、−S−アルケニル、−S−アルキニル及び−S−(CH−R(m及びRは上記定義のとおりである。)の1つによって表される。代表的なアルキルチオ基には、メチルチオ、エチルチオなどが含まれる。
【0046】
「カルボニル」という用語は本分野で認知されており、以下の一般式によって表され得るこのような部分を含む。
【0047】
【化5】

(Xは結合であり又は酸素若しくは硫黄を表し、R11は水素、アルキル、アルケニル、−(CH−R又は医薬として許容される塩を表し、R’11は水素、アルキル、アルケニル又は−(CH−R(m及びRは上記定義のとおりである。)を表す。)Xが酸素であり、R11又はR’11が水素でない場合には、式は「エステル」を表す。Xが酸素であり、R11が上記定義のとおりである場合には、前記部分は、本明細書において、カルボキシル基として表され、特に、R11が水素である場合には、式は「カルボン酸」を表す。Xが酸素であり、R’11が水素である場合には、式は「ホルマート」を表す。一般に、上記式の酸素原子が硫黄によって置換されている場合には、式は「チオールカルボニル」基を表す。Xが硫黄であり、R11又はR’11が水素でない場合には、式は「チオールエステル」を表す。Xが硫黄であり、R11が水素である場合には、式は「チオールカルボン酸」を表す。Xが硫黄であり、R11が水素である場合には、式は「チオールホルマート」を表す。他方、Xが結合であり、R11が水素でない場合には、上式は「ケトン」基を表す。Xが結合であり、R11が水素である場合には、上式は「アルデヒド」基を表す。
【0048】
本明細書において使用される「アルコキシル」又は「アルコキシ」という用語は、酸素基が結合された上記定義のアルキル基を表す。代表的なアルコキシル基には、メトキシ、エトキシ、プロピルオキシ、tert−ブトキシなどが含まれる。「エーテル」は、酸素によって共有結合された2つの炭化水素である。従って、アルキルをエーテルにするアルキルの置換基は、−O−アルキル、−O−アルケニル、−O−アルキニル、−O−(CH−R(m及びRは上に記載されている。)の1つによって表すことができるようなアルコキシルであり、又はアルコキシルに類似する。
【0049】
「スルホナート」という用語は本分野で認知されており、以下の一般式によって表され得る部分を含む。
【0050】
【化6】

(R41は、電子対、水素、アルキル、シクロアルキル又はアリールである。)
【0051】
トリフリル、トシル、メシル及びノナフリルという用語は本分野で認知されており、それぞれ、トリフルオロメタンスルホニル、p−トルエンスルホニル、メタンスルホニル及びノナフルオロブタンスルホニル基を表す。トリフラート、トシラート、メシラート及びノナフラートという用語は本分野で認知されており、それぞれ、トリフルオロメタンスルホナートエステル、p−トルエンスルホナートエステル、メタンスルホナートエステル及びノナフルオロブタンスルホナートエステル官能基及びこれらの基を含有する分子を表す。
【0052】
「サルファート」という用語は本分野で認知されており、以下の一般式によって表され得る部分を含む。
【0053】
【化7】

(R41は、上記定義のとおりである。)
【0054】
「スルホニルアミノ」という用語は本分野で認知されており、
【0055】
【化8】

によって表され得る部分を含む。
【0056】
「スルファモイル」という用語は本分野で認知されており、
【0057】
【化9】

によって表され得る部分を含む。
【0058】
本明細書において使用される「スルホニル」という用語は、以下の一般式によって表され得る部分を表す。
【0059】
【化10】

(R44は、水素、アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、ヘテロシクリル、アリール又はヘテロアリールである。)
【0060】
本明細書において使用される「スルホキシド」という用語は、以下の一般式によって表され得る部分を表す。
【0061】
【化11】

(R44は、水素、アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、ヘテロシクリル、アラルキル又はアリールからなる群から選択される。)
【0062】
例えば、アミノアルケニル、アミノアルキニル、アミドアルケニル、アミドアルキニル、イミノアルケニル、イミノアルキニル、チオアルケニル、チオアルキニル、カルボニル置換アルケニル又はカルボニル置換アルキニルを得るために、アルケニル及びアルキニル基に対して、同様の置換を施すことが可能である。
【0063】
本明細書において使用される場合、各表現の定義、例えば、アルキル、m、nなどは、何れかの構造中に2回以上出現するときには、同じ構造中の他の場所におけるその定義とは独立しているものとする。
【0064】
「置換」又は「で置換された」とは、このような置換が置換された原子及び置換基の許容される価数に従っており、置換が安定な(例えば、再配置、環化、脱離などによって、自発的に変換を行わない)化合物をもたらすという暗黙の条件を含むことが理解される。
【0065】
本明細書において使用される「置換された」という用語は、有機化合物の全ての許容される置換基を含むことが想定される。広い態様において、許容可能な置換基には、有機化合物の非環状及び環状の、分岐及び非分岐の、炭素環式及び複素環式の、芳香族及び非芳香族の置換基が含まれる。例示的な置換基には、例えば、本明細書中に上記されているものが含まれる。許容可能な置換基は、適切な有機化合物に対して1つ又はそれ以上であり得、及び同一又は別異であり得る。本発明において、窒素などのヘテロ原子は、ヘテロ原子の価数を充足する、本明細書に記載されている有機化合物の水素置換基及び/又はあらゆる許容可能な置換基を有し得る。本明細書に記載されているポリマーは、有機化合物の許容可能な置換基により、いかなる意味においても限定されるものではない。
【0066】
本明細書において使用される「保護基」という用語は、潜在的に反応性の官能基を望ましくない化学的転換から保護する一時的置換基を意味する。このような保護基の例には、それぞれ、カルボン酸のエステル、アルコールのシリルエーテル並びにアルデヒド及びケトンのアセタール及びケタールが含まれる。保護基化学の分野は概説されている(Greene,T.W.;Wuts,P.G.M.Protective Groups in Organic Synthesis,2nd ed.;Wiley:New York,1991)。
【0067】
疎水性の水不溶性ポリマー
本明細書に記載されているコーティングを形成するために使用されるポリマーは、好ましくは、疎水性であり、水に不溶性であり、帯電しており及び直鎖又は分岐であり得る。好ましいポリマーには、ポリエチレンイミンの直鎖又は分岐誘導体が含まれる。ポリマーは、正に帯電し得、負に帯電し得、又は双性イオンであり得る。
【0068】
堆積されたポリマーの分子量が、表面の抗ウイルス及び抗細菌特性にとって重要であることが明らかとなった。一般に、高分子量のポリマーほど、殺ウイルス性がより高い。好ましいポリマーは、20kDa超、好ましくは50kDa超、より好ましくは100kDa超、より好ましくは200kDa超、最も好ましくは750kDa超の重量平均分子量を有する。
【0069】
実施例によって示されているように、適切なポリマーには、「Klibanov et al.,Biotechnology Progress,22(2),584−589,2006)」に記載されているように、酸加水分解、次いで、ドデシル化による四級化、続いて、メチル化によって、市販の500kDaポリ(2−エチル−2−オキサゾリン)から調製される217kDaポリエチレンイミン(PEI)が含まれる。このポリマーの構造は、以下に示されている。
【0070】
【化12】

【0071】
使用可能な他の疎水性ポリカチオン性コーティングには、以下に示されているポリマーが含まれる。
【0072】
【化13】

【0073】
上記ポリマーの想定される均等物には、生じたポリマー性コーティングの殺細菌又は殺ウイルス効果に著しい悪影響を与えない、置換基の1つ又はそれ以上の単純な変化が施されており、その他の点では前記ポリマーに対応し、前記ポリマーの同じ一般的特性を有するポリマーが含まれる。一般に、前記化合物は、容易に入手可能な出発材料、試薬及び慣用の合成手順を用いて、例えば、以下に記載されているような一般的反応スキームに例示されている方法又はその改変によって調製され得る。これらの反応において、それ自体公知であるが、本明細書に挙げられていない変形物を用いることも可能である。
【0074】
このポリマーは、少なくとも10,000g/mol、より好ましくは100,000g/mol、最も好ましくは150,000g/molの分子量を有する。
【0075】
ある種の実施形態において、表面に適用される化合物は、式Iによって表される。
【0076】
【化14】

(Rは、それぞれの出現ごとに、水素、アルキル、アルケニル、アルキニル、アシル、アリール、カルボキシラート、アルコキシカルボニル、アリールオキシカルボニル、カルボキサミド、アルキルアミノ、アシルアミノ、アルコキシル、アシルオキシ、ヒドロキシルアルキル、アルコキシアルキル、アミノアルキル、(アルキルアミノ)アルキル、チオ、アルキルチオ、チオアルキル、(アルキルチオ)アルキル、カルバモイル、尿素、チオ尿素、スルホニル、スルホナート、スルホンアミド、スルホニルアミド又はスルホニルオキシを表し;
R’は、各出現に対して独立に、アルキル、表面へのアルキリデン連結又は表面へのアシル連結を表し;
Zは、各出現に対して独立に、Cl、Br又はIを表し;及び
nは、約1500未満又は約1500に等しい整数である。)
【0077】
B.溶媒
前記ポリマーは、好ましくは、疎水性及び水に不溶性であり、従って、適用のために、ブタノール、エタノール、メタノール、ブタン又は塩化メチルなどの有機溶媒中に溶解される。ポリマー溶液は、コーティングされるべき表面上に殺ウイルス性のコーティング及び場合によって殺細菌性のコーティングを与えるために、ポリマーの有効量を含有すべきである。
【0078】
C.被覆されるべき基材及び器具
「コーティング」とは、塗料に類似する、あらゆる一時的な、半永久的な又は永久的な層、被覆又は表面を表す。コーティングは、コーティングが付与される表面を殺ウイルス性にするのに、及び場合によって殺細菌性にするのに十分な厚さにすべきである。
【0079】
コーティングを形成するために、様々な基材にポリマー溶液を適用することができる。適切な基材には、例えば、金属、セラミック、ポリマー及び繊維(何れも、天然及び合成)が含まれる。物品の表面は、疎水性の、水に不溶性ポリマーの有効量を含有するポリマーポリマー溶液から形成され得るポリマー性コーティングで被覆することができ、殺ウイルス特性及び場合によって殺細菌特性を有するコーティングが形成される。
【0080】
コーティングは、殺ウイルス性にする必要がある及び場合によって殺細菌性にする必要があるあらゆる素材又は物品の表面に適用することが可能である。典型的には、殺ウイルス性にする必要がある及び場合によって殺細菌性にする必要がある物品には、個人によって取り扱われる物品又は個人と接触する物品が含まれる。
【0081】
被覆されるべき物品には、子供の玩具、浴室の備品、調理台及び机の上、ハンドル、コンピュータ、衣服、紙製品、窓、ドア及び内壁などの家庭用物品が含まれるが、これらに限定されない。
【0082】
別の実施形態において、被覆されるべき表面は、軍用品の表面である。
【0083】
コーティングは、動物の給餌及び給水装置並びに加工施設などの農業場面においても使用され得る。例えば、一実施形態において、ニワトリの給餌又は加工において使用される装置のコーティングは、トリインフルエンザの伝染を阻止するために有用であり得る。
【0084】
被覆されるべき他の適切な表面には、薄織物、インプラント、包帯又は創傷保護材、医療用の掛け布又は医療器具などの(但し、これらに限定されない。)、医療場面で使用される物品の表面が含まれる。
【0085】
「保護材」とは、病変に適用され、又はその他感染を予防若しくは治療するために使用されるあらゆる包帯又は覆を表す。例には、慢性創傷(褥瘡、静脈鬱滞、潰瘍及び火傷など)若しくは急性創傷のための創傷保護材及び微生物の侵入に起因するカテーテル性敗血症のリスクを減少させることを目的とした、静脈内又は鎖骨下の管など経皮的器具上の保護材が含まれる。例えば、組成物は経皮的穿刺部位に適用することが可能であり、又は進入部位へ直接的に適用される接着性保護材料中に取り込ませることが可能である。
【0086】
「インプラント」は、ヒト体内に配置することが予定された、生きた組織でないあらゆる物体である。インプラントには、生きた組織が失活されるように加工された天然由来の物体が含まれる。一例として、骨移植片の生きた細胞が除去されるように、但し、宿主から得た骨の内方成長のための鋳型としての役割を果たすためにそれらの形状が保持されるように、骨移植片を加工することができる。別の例として、ある種の整形外科及び歯科治療のために身体に適用することが可能なヒドロキシアパタイト調製物を与えるために、天然に存在するサンゴを加工することができる。インプラントは、人工成分を含む品物でもあり得る。「インプラント」という用語は、ヒトの体内に配置されることが予定された医療機器の全体に対して適用され得る。
【0087】
「医療器具」とは、対象中に挿入若しくは移植され、又は対象の表面に適用される天然に存在しない物体を表す。医療器具は、ヒトの体内に本来見出されない金属、セラミック、ポリマー、ゲル及び流体などの様々な生体適合性材料から作製することができる。医療器具には、侵襲的な手術、治療又は診断処置において使用されるメス、針、ハサミ及びその他の器具;人工血管、カテーテル、及び患者からの流体の除去又は患者への流体の送達のためのその他の器具、人工心臓、人工腎臓、整形外科用のピン、プレート及びインプラントなどの移植可能な医療器具;カテーテル及びその他のチューブ(泌尿器及び胆管のチューブ、気管内チューブ、末梢に挿入可能な中心静脈カテーテル、透析カテーテル、長期トンネル中心静脈カテーテル、末梢静脈カテーテル、短期中心静脈カテーテル、動脈カテーテル、肺カテーテル、スワンガンツカテーテル、導尿カテーテル、腹膜カテーテルを含む。)、排尿器具(長期排尿器具、組織結合排尿器具、人工尿道括約筋、尿道拡張装置を含む。)、シャント(脳室シャント又は動静脈シャントを含む。);人工器官(乳房インプラント、人工陰茎、血管移植プロテーゼ、心臓弁、人工関節、人工咽頭、耳鼻科用インプラントを含む。)、血管カテーテルポート、創傷排液チューブ、水頭症シャント、ペースメーカー及び移植可能な除細動装置などが含まれる。他の例が、これらの分野の従事者に自明である。
【0088】
医療環境において見出される表面には、医療装置の部品の内面及び外面、医療の場面で職員によって着用又は運搬される医療用具も含まれる。このような表面には、医療的処置のために又は医療装置を調製するために使用される領域内の調理台及び備品、呼吸器治療において使用されるチューブ及び容器(酸素、噴霧器中の可溶化された薬物及び麻酔薬の投与を含む。)が含まれ得る。手袋、エプロン及びフェイスシールドなど、医療場面で、感染性生物に対する生物学的障壁として予定されている表面も含まれる。他のこのような表面には、無菌であることが予定されていない医療又は歯科装置用のハンドル及びケーブルが含まれ得る。さらに、このような表面には、血液又は体液又は他の有害な生体材料に一般に遭遇する領域に見出されるチューブ及びその他の装置の無菌でない外面が含まれ得る。
【0089】
液体と接触している表面を被覆することができ、この液体と接触している表面には、患者及び歯科用装置の送水管へ加湿酸素を送達するために使用される貯蔵容器及びチューブが含まれる。
【0090】
保健に関連する他の表面には、水の精製、水の貯蔵及び水の輸送に関与する物品並びに食品加工に関与する物品の内側面及び外側面が含まれる。保健に関連する表面には、栄養、公衆衛生又は疾病予防の提供に関与する家庭用物品の内側面及び外側面も含まれ得る。例には、家庭用食品加工装置、育児用の用具タンポン及び便器が含まれ得る。
【0091】
糊、セメント若しくは接着剤又は体内に構造を固定するために若しくは身体構造にインプラントを接着させるために使用されるその他の材料の中に、ポリマーコーティングを取り込ませることも可能である。例には、体内の整形外科及び歯科用人工装具の付加のために使用されるポリメチルメタクリラート及びその関連化合物が含まれる。
【0092】
一実施形態において、脳室心房、脳室腹腔及び透析用シャント並びに心臓弁などの不可欠な機能を置換するために又は復活させるために、適切な場所に永久的に放置されることが予定されているある種の医療器具に化合物を適用すること又はその中に取り込ませることができる。
【0093】
被覆され得る他の医療器具には、ペースメーカー及び人工の移植可能な除細動器、点滴ポンプ、血管移植プロテーゼ、ステント、縫合材料及び外科用メッシュが含まれる。
【0094】
身体の部分に構造的安定性を復活させることが予定されている移植可能な装置を被覆することができる。例には、骨又は関節又は歯を交換するために使用される移植可能な器具が含まれる。
【0095】
ある種の移植可能な器具は、美容又は再建的用途のために、体の輪郭を回復させること又は強化することが意図されている。例には、乳房インプラント、頭蓋顔面再建手術のために使用されるインプラント及び組織拡張器が含まれる。
【0096】
挿入可能な器具には、天然又は人工の注入部位を通じて身体に付与される又は部分的に体内に挿入される合成材料から作製された物体が含まれる。身体に適用される物品の例には、コンタクトレンズ、瘻孔器具、人工喉頭、気管内及び気管チューブ、胃瘻造設チューブ、胆道ドレナージ管及びカテーテルが含まれる。被覆され得るカテーテルの幾つかの例には、腹腔透析カテーテル、泌尿器カテーテル、腎瘻チューブ及び恥骨上部チューブが含まれる。被覆され得る他のカテーテル様装置には、外科用ドレーン、胸腔チューブ及びヘモバックが含まれる。
【0097】
保護材料及び保護材を皮膚に接着させるために使用される糊又は接着剤を被覆し得る。
【0098】
これらの上記の例は、化合物の用途の複数を例示するために与えられている。他の例が、当業者によって容易に想到される。上に挙げられている例は、前記技術が適用可能であると理解される実施形態を表す。他の実施形態が、これら及び関連する分野の従事者に自明である。実施形態は、抗微生物効果又は費用対効果の高い使用を強化するために現在使用されている消毒治療計画との組み合わせに対して適合的であり得る。化合物を保持するための適切なビヒクルの選択は、具体的な用途の特徴によって決定される。
【0099】
II.適用及び使用の方法
典型的には、ポリマーコーティングは、適切な溶媒、好ましくは有機溶媒中にポリマーを溶解し、噴霧、ブラシかけ、浸漬、塗布又は他の類似の技術による適用によって、被覆されるべき表面へ適用される。コーティングは、表面上に堆積され、非共有的相互作用を介して表面と会合する。
【0100】
幾つかの実施形態において、表面の特性を修飾することにより、適切な溶液又は懸濁物で表面を前処理して、修飾された表面とコーティングの間の非共有的相互作用を強化し得る。
【0101】
ポリマー溶液は、適切な温度にて及び表面上にコーティング(コーティングは、殺ウイルス性及び場合によって殺細菌性の表面を形成するのに有効である。)を形成させるのに十分な時間にわたって、表面に適用される。典型的な温度には室温が含まれるが、より高い温度を使用し得る。典型的な期間には、5分又はそれ以下、30分又はそれ以下、60分又はそれ以下及び120分又はそれ以下が含まれる。幾つかの実施形態において、所望の殺ウイルス活性を有するコーティングを形成するために、120分又はそれ以上、溶液を適用することができる。しかしながら、好ましくは、より短い期間が使用される。
【0102】
コーティングは、殺ウイルス性コーティングを形成するのに有効な量で適用される。本明細書において使用される「殺ウイルス性」という用語は、実施例に示されているように、ある期間にわたって、室温で、水性ウイルス懸濁液又はエアロゾルが適用された場合に、ポリマーコーティングが、表面上に存在する活性なウイルスの量の大幅な低下、好ましくは少なくとも1対数の死滅、好ましくは少なくとも2対数の死滅をもたらすことを意味する。より好ましい適用において、少なくとも3対数の死滅、最も好ましくは4対数の死滅が存在する。典型的には100%の死滅が望ましいが、一般的には不可欠ではない。好ましくは、不活化されるべきウイルスは外被型ウイルスである。一実施形態において、インフルエンザウイルスを不活化するために、コーティングが適用される。
【0103】
A型インフルエンザウイルスは、毎年、何千万人もの人々が感染する、遍在性の潜行性ヒト病原体である。特に厄介なのは、ヒトが免疫を有していない新しい、おそらくはインフルエンザウイルスのトリ株がヒトに対して感染性となったときに発生する別のインフルエンザの、爆発的流行の恐れである。
【0104】
インフルエンザウイルスは、咳又はくしゃみの間に産生される液滴を通じて、主にヒトからヒトへ伝播する。しかしながら、このウイルスは、粘膜表面への移動前に物体上に定置された呼吸液滴にヒトが触れたときにも伝達され得る。感染を伝達させるこの様式は、物体がインフルエンザウイルスを不活化することができれば妨げられるはずである。
【0105】
組成物並びにその製造及び使用の方法が、以下の非限定的な実施例を参照することによって、さらに理解される。
【0106】
実施例
【実施例1】
【0107】
ポリマーコーティングの調製及び試験
材料と方法
市販の化学物質。分岐したポリエチレンイミン(PEI、750、25及び2kDaのMw値)、ポリ(2−エチル−2−オキサゾリン)(500、50及び5kDaのMw値)、有機溶媒及び全ての低分子量化学物質は、SigmaAldrichChemicalCo.から購入し、さらなる精製なしに使用した。
【0108】
細菌及び溶媒。使用した細菌株は、スタフィロコッカス・オーレウス(Staphylococcus aureus(ATCC33807)及びエシェリヒア・コリ(E.coligenetic stock center,CGSC4401)であった。酵母−デキストロースのブロスは、(脱イオン水1リットル当り)ペプトン10g、牛肉抽出物8g、NaCl5g、グルコース5g及び酵母抽出物3g(Luscher−MattliM(2000)ArchVirol145:2233−2248)を含有した。リン酸緩衝化された生理的食塩水(PBS)は、脱イオン水1リットル当りNaCl8.2g及びNaHPO・HO1.2gを含有した。1NNaOH水溶液を用いて、PBS溶液のpHを7.0に調整した。使用前に、両溶液を20分間蒸気滅菌した。
【0109】
細胞及びウイルス。MDCK細胞は、ATCCから入手した。10%の熱不活化ウシ胎児血清(GIRGO614)、100U/mLペニシリンG、100μg/mLストレプトマイシン及び2mML−グルタミンが補充されたダルベッコ変法イーグル(DME−Hepes)培地中、加湿された空気雰囲気(5%CO/95%空気)中において、37℃で、MDCK細胞を増殖させた。
【0110】
室温で1時間、0.001の感染効率(MOI)で、MDCK細胞をWSNに感染させることによって、MDCK細胞の集密的な単層中において、プラーク精製されたインフルエンザA/WSN/33(H1N1)株を増殖させた。次いで、加湿された空気雰囲気(5%CO/95%空気)中において、2日間、37℃で、0.3%BSAを含有する増殖培地(E4GH)とともにウイルスを温置した。感染された培養物から上清を採取し、−80℃でウイルスを保存した。MDCK細胞中でのプラーク形成アッセイによって、その力価をアッセイした(Cunliffe et al.(1999)Appl Environ Microbiol 65:4995−5002)。インフルエンザA/Victoria/3/75(H3N2)株は、CharlesRiverLaboratoriesから入手した。A/Wuhan/359/95(H3N2)様野生型インフルエンザウイルス及びノイラミニダーゼ中にGlu119Val変異を担持するそのオセルタミビル耐性変異株;A/turkey/Minnesota/833/80(H4N2)野生型;及び3つのノイラミニダーゼ阻害剤耐性バリアント(GIu119Asp、Glu119Gly及びArg292Lys)は、米国疾病管理予防センター(「CDC」)から入手した。
【0111】
合成。Park et al,(2006)BiotechnolProgr22:584−589によって記載されているとおりに、(それぞれ、750、25及び2kDaのMwの分岐したPIEから調製される)分岐したN,N−ドデシル、メチル−PEI(Ia、Ib及びIc)(図1A)を合成し(図1)、性質決定した。
【0112】
以前に記載されているように(Ge et al.(2003)Proc Natl Acad Sci USA 100:2718−2723)、まず、市販のポリ(2−エチル−2−オキサゾリン)を完全に脱アシル化することによって、長い直鎖N,N−ドデシル、メチル−PEI(2a)(図1A)(217kDaの直鎖PEIから得られる。)を調製した。得られたプロトン化されたPEIを水の中に溶解し、ポリマーを沈殿させるために、KOH水溶液の過剰で中和した。ろ過によって、ポリマーを単離し、pHが中性になるまで、脱イオン水で洗浄し、真空下で乾燥させた。収量:1.25g、(97%)。HNMR(CDCl):δ=2.72(s,4H,NCHCHN)、1.71(s,1Η,NH)(このNMRスペクトル及び以降のNMRスペクトルは、Varian Mercury300−MΗzNMR分光器を用いて記録した。)。次に、調製したPEI2.0g(単量体単位47mmol)をtert−アミルアルコール25mL中に溶解し、続いて、KCO7.7g(57mmol)及び1−ブロモドデカン33mL(134mmol)を添加し、95℃で96時間撹拌した。減圧下でのろ過によって固体を除去した後、ヨードメタン5.5mLを添加した後、密封されたフラスコ冷却器システム中、24時間、60℃で撹拌した。酢酸エチルの過剰に、生じた溶液を添加した。減圧下でのろ過によって、形成された沈殿を回収し、酢酸エチルの過剰で洗浄し、室温、真空下で、一晩乾燥した。収量:7.0g。2aに対するHNMR(CDCl):δ=5.5−3.0(NCHCH(CHCH、NCHCHN、NCH)、1.80(NCΗCH(CΗCΗ)、1.6−1.0(NCHCH(CHCH)、0.88(NCHCH(CHCH)。
【0113】
それぞれ、直鎖21.7kDa及び2.17kDaのPEIから得られるポリカチオン2b及び2c(図1B)は、最終産物を得るために、N−メチル化後に、反応混合物をメタノール中に注いだことを除き、前パラグラフに記載されているとおりに合成した。2bに対するHNMR(CDCl):δ=5.5−3.0(NCHCH(CHCH,NCHCHN、NCH)、1.83(NCΗCH(CΗCΗ)、1.6−1.0(NCHCH(CHCH)、0.88(NCHCH(CHCH);2cに対する:δ=5.5−3.0(NCHCΗ(CΗCΗ、NCHCHN、NCH)、1.83(NCHCH(CHCH)、1.6−1.0(NCHCH(CHCH)、0.88(NCHCH(CHCH)。
【0114】
1−ブロモドデカンの代わりに、アルキル化剤として1−ブロモドコサンを使用したことを除いて2と同様に、直鎖217kDaのPEIから、N,N−ドコシル、メチル−PEI(3)(図1B)を合成した。HNMR(CDCl):δ=5.5−3.0(NCHCH(CH19CH、NCHCHN、NCH),1.85(NCHCH(CH19CH),1.6−1.0(NCHCH(CH19CH),0.88(NCHCH(CH19CH)。
【0115】
tert−アミルアルコール10mL中に、直鎖217kDaのPEIの86mg(単量体を基礎として2mmol)及び16−ブロモヘキサデカン酸670mg(2mmol)を溶解することによって、N−(15−カルボキシペンタデシル)−PEI(4)(図1B)HCl塩を合成した後、KCOの0.61g(4.4mmol)を添加し、95℃で96時間、反応混合物を撹拌した。室温まで冷却した後、反応混合物をアセトン100mL中に注ぎ、ろ過した。CHCl30mL中にろ過ケーキを懸濁し、1NHClの30mLとともに2時間撹拌した。(溶解されていない固体を含有する)有機相を分離し、ろ過し、得られた固体残留物をCHClで洗浄し、真空下で乾燥させた。次いで、CHCl50mL中に産物を溶解し、1NHClの40mLとともに3時間撹拌した後、有機相の分離及び溶媒の蒸発を行った。4の塩(図1B)を淡黄色の固体として得た。収量:0.39g。HNMR(DMSO−d):δ=4.0−2.8(NCHCHN、NCH(CΗ14COH)、2.17(CHCOH)、1.8−1.4(CHCHCOH、NCHCH(CH13COH),1.4−1.1(NCHCH(CH11CHCHCOH)。
【0116】
N−(11−カルボキシウンデカノイル)−PEI(5)(図1B)。無水CHClの100mL中にドデカンジオン酸(4.6g、20mmol)を懸濁した後、ベンジルアルコール2.16g(20mmol)、4−(ジメチルアミノ)ピリジンの触媒量及び1,3−ジシクロヘキシルカルボジイミド4.12g(20mmol)を添加した。室温(「r.t.」)で48時間、混合物を撹拌した後、ろ過によって固体を除去し、1NHCl60mLでろ液を洗浄した。無水NaSOで有機相を乾燥させ、減圧下で溶媒を蒸発させた。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(移動相として、2:3(v/v)酢酸エチル/ヘキサン)によって、ドデカンジオン酸モノベンジルエステル1.5g(24%の収率)が得られた。HNMRスペクトル(CDCl)は文献データと合致していた(Thomas et al.(2005)Proc Natl Acad Sci USA 102:5679−5684)。次いで、この産物1.28g(5.2mmol)を無水CHCl10mL中に溶解した後、塩化オキサリル0.66g(5.2mmol)及びN,N−ジメチルホルムアミドの一滴を添加した。室温で1時間、反応混合物を撹拌した後、真空下で、溶媒及び塩化オキサリルの過剰を除去して、対応する塩化カルボニルを得て、さらなる精製を行わずに次の工程で使用した。
【0117】
217kDaの直鎖PEI(86mg、単量体をベースとして2mmol)及びN,N−ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)(0.52g、4mmol)をCHCl10mL中に溶解し、氷水槽を用いて、反応混合物を0℃まで冷却した。この溶液に、無水CHCl10mL中の上で作製された塩化カルボニルを滴加し、氷水槽を除去し、反応混合物を室温で24時間撹拌した。メタノール2mLで反応を停止させ、溶媒を蒸発させた。可溶性成分を除去するために、5つのメタノール30mL部分で、得られた残留物を洗浄し、真空下で乾燥させて、N−[(11−ベンジルオキシカルボニル)ウンデカノイル]−PEIを白色固体として得た(0.6g、87%)。HNMR(CDCl):δ=7.34(m,5H,C),5.10(s,2H,CCH),3.43(s,4Η,NCHCHN),2.33(m,4Η,CHCO),1.60(m,4Η,CHCHCO),1.26(s,12H,OCCHCH(CHCHCHCO)。最後に、この混合物60mg(単量体をベースとして0.174mmol)をTHF1mL中に溶解し、1NNaOH0.5mLを添加し、室温で24時間撹拌することによって脱保護した。2NHClの0.2mLで溶液を中和し、溶媒を除去して、固体残留物を得て、まず、水でこれを洗浄してNaClを除去し、次いで、CHClで洗浄してベンジルアルコールを除去した。収量:40mg(90%)。5に対するHNMR(CDOD):δ=3.43(s,4HNCHCHN)、2.40−2.10(m,4Η,CHCO)、1.55(m,4Η,CHCHCO)、1.26(s,12H,OCCHCH(CHCHCHCO)。
【0118】
クロロホルム100mL中に、217kDaの直鎖PEI1.08g(単量体をベースとして25mmol)を溶解することによって、N−(ウンデカノイル)−PEI(6)(図1B)を合成し、これに、DIPEA6.46g(50mmol)を添加した。氷水槽を用いて反応混合物を0℃まで冷却し、30分にわたって、塩化ラウロイル11.2g(50mmol)を滴加した。次いで、氷水槽を除去し、室温で24時間、反応混合物を撹拌した。溶媒の半分を減圧下で除去し、残りの溶液をメタノール350mL中に注いだ。一晩静置した後、ろ過によって固体を分離し、メタノールの50mL部分の5つで洗浄した。収量:4.87g(86%)。6のHNMR(CDCl):3.43(s,4H,NCHCHN),2.28(d,2Η,COCH),1.59(s,2Η,COCHCH),1.4−1.2(brs,16Η,(CHCH),0.88(t,3H,CH)。
【0119】
塗布されたスライドの調製。1a−c(図1A)及び2a−c(図1B)に関してはブタノール中に、3に関してはクロロホルム中に、4に関しては、熱いエタノール中に、5に関してはメタノール−ジクロロメタン(1:1)中に(図1B)及び6に関してはジクロロメタン中に(図1B)、渦巻き撹拌しながら、コーティングポリマーを溶解した(50mg/mL)。殺細菌検査に関しては2.5cm×7.5cmの、殺ウイルス検査に関しては2.5cm×2.5cmの市販のガラス(VWRMicroscope)スライドに、綿棒を用いてこれらの溶液の1つをはけ塗りした後、風乾させた。
【0120】
殺細菌効率の測定。0.1MPBS中のS.オーレウス又はE.コリの100μL懸濁液(約1011細胞/mL)を、50mLの無菌遠心管中の酵母デキストロースブロス20mLに添加し、200rpm及び37℃で、一晩振盪させた(Innova 4200 Incubator Shaker,New Brunswick Scientific)。6,000rpmでの、10分間の遠心によって、細菌細胞を採集し(SorvallRC−5B,DuPontInstruments)、PBSで2回洗浄し、S.オーレウスについては5×10細胞/mL、E.コリについては、3×10細胞/mLになるように希釈した。排気装置中で、約10mL/分の速度で、PBS中の細菌懸濁液をスライド上に噴霧した。室温で2分間、空気下で乾燥させた後、得られたスライドをペトリ皿中に置き、固体増殖寒天(酵母デキストロースブロス中の1.5%寒天、高圧蒸気滅菌し、ペトリ皿中に注ぎ、室温で一晩ゲル化させた。)の層で直ちに覆った。ペトリ皿を密封し、37℃で一晩温置し、スライド表面上で増殖された細菌コロニーの数を明るい箱の中で数えた。
【0121】
ニワトリの卵の中でのウイルスの調製。ウイルスの10倍希釈された溶液の100μL分取試料(CDC試料)を10日齢の有胚鶏卵の尿膜液中に注射した。続いて、37℃で48時間、次いで、4℃で24時間、卵を温置した。尿膜液を集め、4℃で20分間、1,200rpmで遠心した後、上清を0.45μmの注射器フィルター(低タンパク質結合)に通した。上清を−80℃で保存した。ウイルスの力価は、以下に記載されているように、プラークアッセイによって測定した。
【0122】
プラークアッセイ。6ウェルの細胞培養プレート中の集密的MDCK細胞を、PBS5mLで2回洗浄し、室温で1時間、リン酸緩衝化された生理的食塩水(PBS)中のウイルス溶液200μLで感染させた。次いで、吸引によって溶液を除去し、プラーク培地(0.01%DEAE−デキストラン139μL、5%NaHCO277μL、(100U/mL)ペニシリンG139μL、100μg/mLストレプトマイシン、トリプシン−EDTA122μL及び2.0%寒天4.2mL(OxoidCo.,精製された寒天L28)が補充された2×F12培地6.9mL)2mLを細胞の上に重層した。加湿された空気雰囲気(5%CO/95%空気)中、37℃での3日間の温置後、室温で1時間、1%ホルムアルデヒド水溶液で細胞を固定した。寒天の重層を除去し、室温で2分間、20%(v/v)メタノール水溶液中の0.1%クリスタルバイオレットで細胞を染色した。吸引によって、色素の過剰を除去した後、プラークを計数した。
【0123】
殺ウイルス活性。ポリスチレンのペトリ皿(6.0cm×1.5cm)中に、ポリマーで被覆された(又は、対照実験では、被覆されていない)ガラススライドを配置し、次いで、リン酸緩衝化された生理的食塩水(PBS)中の10−10pfu/mLウイルス溶液の液滴10μLをスライドの中心に堆積させた。被覆されていない第二のガラススライドを上に置き、スライド間の液滴を広げるために圧力をかけた。この「サンドイッチ」系を、室温で、典型的には5分間温置した。次いで、上のスライドの一端を持ち上げ、両スライドのウイルス曝露された側をPBS0.99mLで完全に洗浄した。最後に、被覆されたスライドに対して、洗浄液及びそれらの2倍系列希釈(5回)の殺ウイルス活性を測定するために、プラークアッセイを実施した。被覆されていないスライド(対照)に対してプラークアッセイを実施するために、洗浄溶液の100倍から200倍のさらなる希釈の後に、2倍系列希釈(5回)を行った。
【0124】
非浸出試験。第1番:PBS2mLを含有する6ウェルプレートの1ウェル中に、ポリマーで被覆された(又は、対照実験では、通常の)ガラススライドを上下逆さまにして配置し、定期的に撹拌しながら、室温で2時間温置した。次いで、この溶液0.99mLを採取し、ウイルス溶液[WSNの(1.4±0.1)×10pfu/mL]10μLと混合し、室温で30分間温置した。200倍希釈及びその後の2倍系列希釈(5回)後に、上述のように、プラークアッセイを行った。
【0125】
第2番:5分間渦巻き撹拌することによって、純固体ポリマー200mgをPBS1mL中に分散した後、室温で16時間温置し、続いて、9,000rpm(VWRScientificProducts,Galaxy7)で30分間、3回遠心した後、ガラスウールを通過させて透明な溶液を得た。次いで、この溶液0.39mLをウイルス溶液[WSNの(8.7±1.4)×10pfu/mL)と混合し、室温で30分間温置した。300倍希釈及びその後の2倍系列希釈(5回)後に、上述のように、プラークアッセイを行った。
【0126】
結果
インフルエンザウイルスを含有するエアロゾル化された水性液滴を表面上に定着させ、次いで、ウイルスが伝播するシナリオを模倣するために(Wright et al.(2001)in Fields Virology,4th edition,eds.Knipe DM Howley PM(Lippincott,Philadelphia,PA),pp1533−1579.)、以下のアプローチを使用した。インフルエンザウイルスのA/WSN/33(H1N1)株の1.6±0.3)×10プラーク形成単位(pfu)を含有するPBS緩衝化された溶液の液滴10μLを、2.5cm×2.5cmのガラススライド(被覆されている又は通常の対照)の中央に置いた。次いで、同じサイズの別の通常のガラススライドを上に置き、液滴を平らにするために、第一のガラススライドに対して押し付けた。(別段の記載がなければ)室温で30分間温置した後、上のスライドの一端を持ち上げ、ウイルスに曝露された両方のガラス表面を水性PBS1.99mLで完全に洗浄した。得られた洗浄液に、同じ緩衝液で2倍希釈を連続5回行い、希釈されていない試料と系列希釈された試料の分取試料200μLを、Madin−Darbyイヌ腎臓(MDCK)細胞の単層で被覆された6ウェルプレートの1ウェル中にそれぞれ添加した。1時間の温置後、溶液を除去し、プラーク培地2mLを各ウェル中に配置した後、加湿された空気中において、37℃で、3日間温置した。最後に、ホルムアルデヒドで細胞を固定し、寒天重層を除去した後に染色し、プラークを計数した。
【0127】
被覆されていないスライドに対してこの操作が適用された場合には、洗浄液中の生きたウイルスの濃度は、スライドに曝露されていない同じように希釈された液滴と比べて殆ど変化しなかった(それぞれ、650±150対800±150pfu/mL)。従って、対照ガラススライドとのこのような接触は、ウイルス力価の統計的に有意でない減少をもたらす。すなわち、インフルエンザウイルスは、2つの通常のガラススライドの間での、室温でのこの温置において、実質的に無傷で生存する。
【0128】
次に、ブタノール中の(図1に図示されているように、分岐した750kDaPEIを四級化することによって合成された)分岐したN,N−ドデシル、メチル−PEI(1a)の溶液をガラススライドに塗布し、溶媒を蒸発させた。この被覆されたスライドとともに、先述の試験を使用すると、希釈されていない洗浄液を用いた場合でさえ、1個もプラークが検出されなかった。この明白な100%の殺ウイルス活性をさらに定量するために、より高い初期ウイルス力価及びより低い希釈を用いて、別個の実験を実施した。より大きな感受性及びアッセイ範囲にも関わらず、プラークは、なお観察されず、被覆されたスライドへウイルスを30分間曝露することによって、その力価が少なくとも約10,000倍(すなわち、4対数)低下することを示す。
【0129】
疎水性のポリカチオン性コーティング(それぞれ、1b及び1c、図1A)を作製するために、750kDaより低い(すなわち、25kDa及び2kDa(図1A))分子量のPEI前駆体を使用した場合には、極めて高いが、僅かに完全でない殺ウイルス効率が観察された(それぞれ、98±0.4%及び97±0.2%)。これらのより小さなN−アルキル化PEI誘導体が塗布されたスライドは以前にも不完全な殺細菌効率を有することが見出されたことは注目に値する(Park et al.(2006)Biotechnol.Progr.,22:584−589)。従って、細菌の場合と同様、ポリカチオンは、おそらく、その触毛がウイルスの脂質外被を透過し、損傷できるほど十分に大きくなければならない。
【0130】
単純な立体的な理由のために、分岐したポリカチオンをその直鎖対応物と置き換えることにより、鎖長の制約を緩和すべきである。この仮説を検証するために、それぞれ、217kDa、21.7kDa及び2.17kdaの直鎖PEI前駆体から合成された3つの直鎖N,N−ドデシル、メチル−PEI−2a、2b及び2c(図1B)の殺ウイルス特性を検査した。これらの直鎖疎水性ポリカチオンの全てで被覆されたスライドは、100%の効率で、インフルエンザウイルスを実際に不活化した。さらに、(1aと同様)2aは、ウイルス力価を少なくとも約4対数低下させることが示された。殆どのその後の実験では、2aを使用した。
【0131】
殺ウイルス作用におけるポリカチオンの疎水性の効果をさらに調べるために、本発明者らは、ドデシル(C12)ブロミドの代わりに、ドコシル(C22)で直鎖217kDaPEIをアルキル化することによって、疎水性を上昇させた(図1)。得られた3で被覆されたガラススライド(図1B)は、1a(図1A)又は2a−c(図1B)で被覆されたものと同じように、インフルエンザウイルスに対して完全に致死的であった。
【0132】
本発明者らの実験系において、殺ウイルス作用がどの程度急速であるかを測定するために、2aで被覆されたスライド(図1B)へのインフルエンザウイルスの曝露時間を1分から2時間まで変動させた。図2から明らかなように、早くも5分後に、100%の殺ウイルス効率が既に達成されているが、1分又は2分では達成されておらず、おそらく、存在する全てのウイルス粒子が被覆された表面に到達するために必要とされる時間を反映している。
【0133】
ここまでに調べた全てのコーティング塗料はポリカチオン性であった。電荷の役割を確かめるために、他の点では、1及び2と概ね類似の側鎖を有する、名目上双性イオン性(4)、陰イオン(5)性及び静電的に中性(6)の直鎖217kDaPEIの誘導体を合成した(図1)。表1に示されているように(第2の欄)、双性イオン性の4は、陽イオン性の1a及び2a(並びに2b−c及び3も、上記参照)と同様、30分の曝露後に、100%の殺ウイルス性である。これに対して、陰イオン性の5(図1B)は、部分的に殺ウイルス性であるに過ぎず、中性の6(図1B)は全く殺イオン性でない。最後のものが殺ウイルス性を欠いているのは、おそらく、著しい電荷の不存在下で互いに強く疎水性に会合する各膠着性触毛が欠如しているためである。ポリアニオン性コーティングがインフルエンザウイルスを顕著に不活化するということは、正に帯電した被攻撃部位と負に帯電した被攻撃部位がともに、ウイルス膜中に存在することを示唆している。2a−c(図1B)及び4(図1B)でさえ、殺ウイルス性が5より優れているので(図1B)、後者が優越的であると思われる。
【0134】
【表1】

【0135】
分岐又は直鎖N,N−ドデシル、メチル−PEI及びある種の他の疎水性PEI誘導体をガラススライドに塗布することによって、数分以内に実質的に100%の効率で(ウイルス力価の少なくとも4対数の減少)インフルエンザ並びに空気伝搬性のヒト病原性細菌であるエシェリヒア・コリ(Escherichia coli)及びスタフィロコッカス・オーレウス(Staphylococcus aureus)を死滅させることが可能となる。コーティングポリイオンの多くでは、この殺ウイルス作用は接触したときに起こる、すなわち、スライド表面に固着されたポリマー鎖によってのみ起こることが示されているが、他のコーティングポリイオンに関しては、塗布された表面から浸出するポリイオンの寄与も除外できない。誘導化されたPEIの構造とその結果生じる塗布された表面の殺ウイルス活性との関係が解明された。
【0136】
これらの観察に対してさらなる洞察を得るために、4及び5で被覆されたスライド(図1B)の殺ウイルス活性の経時変化を調べた。双性イオンの4は、陽イオン性の2aと同様(図1B)、30分の温置後に、曝露されたインフルエンザの全体を既に不活化したのみならず、5分後でさえ、4の殺ウイルス活性は98±0.7%(図3)の高さであった。陰イオン性の5の殺ウイルス活性は、時間とともに着実に上昇し(図3中の各時点の最後のバー)、2時間の曝露後に、89±7%に達した。従って、ポリマーコーティング間の殺ウイルス活性の差は、終局的な程度ではなく、むしろ速度論の問題である、すなわち、疎水性ポリカチオンは、他の疎水性ポリイオンより迅速にウイルスを不活化させるにすぎないように見受けられる。
【0137】
被覆されたガラススライドと通常のガラススライドの間に圧搾された10μLの水性液滴中への浸出条件は、以下のように推測された。PBS緩衝化された溶液2mLを含有する6ウェルプレートのウェル中に、被覆されたスライドを上下逆さまにして配置し、物質移動を促進するために、定期的に撹拌しながら、2時間温置した(この研究で使用された最も長い曝露、例えば、図3参照)。次いで、この溶液0.99mLに、インフルエンザウイルス溶液10μLを添加し、続いて、室温での30分の温置、適切な希釈及び標準的なウイルスアッセイを行った。1a、1b、2b、3、4、5及び6で被覆されたガラススライド(図1)を用いて、測定されたウイルス力価は、被覆されていないスライドを同じ操作に供したときに測定されたウイルス力価と統計学的に区別できなかった。これに対して、ポリカチオン1c、2a及び2c(図1)をコーティングとして使用すると、得られたウイルス力価は、被覆されていないスライドのウイルス力価より20%から40%低かった。
【0138】
対照の第二の組では、ガラススライド表面上に堆積されたポリマーの起こり得る浸出の度合いを増加させた。この目的のために、渦巻き撹拌によって、水性PBS1mL中に、純固体ポリマー200mgを分散した後、室温で16時間温置し、透明な溶液を得るために、その後遠心した。この溶液の390μLに、インフルエンザウイルス溶液10μLを添加し、室温で30分間温置し、適切に希釈し、ウイルスに対して滴定した。この増強された浸出試験においてさえ、コーティングとして1b、2b、3、5及び6(図1)を用いると、得られたウイルス力価は、ポリマーで飽和されたと推定される水性PBSに代えて、新鮮な水性PBS390μLを用いた場合に観察されるウイルス力価と統計学的に区別できなかった(1a、1c、2a、2c及び4を用いると、ウイルス力価はずっと低かった。)。
【0139】
先述の対照の結果に基づいて、少なくとも1a、1b、2b、3、4及び5が塗布されたスライドに関しては(図1)、観察された殺ウイルス活性は、スライドの表面上に堆積された残存するポリイオンによるものすぎない、すなわち、これらの固定化されたポリイオンの触毛は接触時にウイルスを不活化させると結論付けられた。これに対して、1c、2a及び2c(図1)のコーティングの場合には、塗布されたスライドの殺ウイルス活性に対する浸出されたポリカチオンの寄与を除外することはできない。
【0140】
2つの一般的なヒト病原性細菌であるグラム陽性のスタフィロコッカス・オーレウス及びグラム陰性のエシェリヒア・コリに対する、217kDaの直鎖PEIの異なって帯電された誘導体の殺細菌活性も比較した。1a及び2aが塗布されたスライド(図1A)は、接触したときに、100%の効率で、又はそのレベルと統計学的に区別できない効率で、両空気伝染性細菌を死滅させた(表1、最後の2つの欄)。これに対して、4、5及び6(図1B)のコーティングは、僅かに殺細菌性であるに過ぎなかった(但し、4のコーティングは完全に殺ウイルス性である。)。
【0141】
1及び2(図1)がインフルエンザウイルスを不活化させる能力の一般性を確かめるために、A/WSN/33(H1N1)とは異なる株であるA/Victoria/3/75(H3N2)に対して、コーティングを検査した。1a及び2aが塗布されたスライド(図1)は何れも、被覆された表面への30分の曝露後に98±0.5%の殺ウイルス活性を示し、2時間後に、100%の殺ウイルス活性を示した。従って、Victoria株は、そのWSN対応株より耐性が高いように見受けられるが、十分な時間が与えられれば、1a及び2a(図1)のコーティングは、これらの何れをも完全に不活化させる。
【0142】
この結果は、表面を高度に殺細菌性にするのみならず、インフルエンザウイルスの少なくとも2つの異なる株及びおそらく他の外皮に被覆されたウイルスに対して極めて殺ウイルス性とするために、ある種の疎水性ポリカチオンを表面上に塗布することができることを示している。その殺ウイルス及び殺細菌効率の観点で、並びに殺ウイルス作用様式に曖昧さがないという観点で、1aの塗布が最適であるように思われる。コーティング操作の単純さに鑑みれば、様々な一般的な素材に適用可能なはずであり、これにより、一般的な素材がウイルス及び細菌性感染の広がりを遮断することが可能になるはずである。
【0143】
ヒトA/Wuhan/359/95(H3N2)様インフルエンザウイルス、トリA/turkey/Minnessota/833/80(H4N2)インフルエンザウイルス及びこれらの薬剤耐性変種に対するN,N−ドデシル,メチル−PEIの抗ウイルス活性も評価した。被覆されていないガラス表面へA/turkey/Minnessota/833/80(H4N2)の水溶液を5分間曝露した後に、200倍希釈された洗浄溶液200μLでMDCK細胞を感染すると、多数のプラークを明瞭に見ることができた。これに対して、MDCK細胞を感染させるために、(N,N−ドデシル、メチル−PEIが塗布されたガラススライドに曝露した後)希釈されていない洗浄溶液200μLを使用した場合には、プラークは観察されなかった。このデータの定量化は、表2に示されている。
【0144】
表2は、被覆されていないガラススライド(対照)へ又はN,N−ドデシル、メチル−PEIが塗布されたガラススライドの何れかへ、ウイルス溶液を5分曝露した結果を図示している。希釈を考慮した後に、対照スライドへの曝露がウイルス力価に対して僅かに影響を与えるに過ぎないのに対して、ポリカチオンが塗布されたスライドは、曝露されたインフルエンザウイルスを完全に不活化し、その力価を3000倍以上低下させた。
【0145】
【表2】

【0146】
A型インフルエンザ感染症を治療するために、数年前に、2つのノイラミニダーゼ阻害剤であるオセルタミビル及びザナミビルの市販が開始されたが、これらの使用に伴って増大している懸念事項は、薬剤耐性ウイルス株の発生及びその後の伝播である。実際、インビトロでザナミビルを使用することにより、減少した薬物感受性を有する幾つかのノイラミニダーゼ変異体であるGlu119Gly、Glu119Ala、Glu119Asp及びArg292Lysが単離されている。さらに、低下した薬物感受性を有する変異体(Arg152Lys)インフルエンザ株が、ザナミビルで治療された免疫不全状態のヒトから回収されている。同様に、オセルタミビルに対する耐性を引き起こすノイラミニダーゼ糖タンパク質(Glu119Val、His274Tyr及びArg292Lys)中の変異は、負荷研究及び天然に獲得された感染を有する患者中で発生した。
【0147】
従って、N,N−ドデシル、メチルPEIによって被覆された表面が、A型インフルエンザウイルスの野生型親株に加えて、その薬物耐性株を死滅させることができるかどうかを確認することが重要であった。トリインフルエンザウイルスA/turkey/MN/833/80、Glu119Aspのザナミビル耐性株に対する、被覆されたスライドの抗ウイルス活性を調べた。被覆されていないガラス表面へこのウイルス株の水溶液を5分間曝露した後に、200倍希釈された洗浄溶液200μLでMDCK細胞を感染させると、多数のプラークを明瞭に見ることができた。これに対して、MDCK細胞を感染させるために、疎水性ポリカチオンが塗布された類似のガラススライドに曝露した後に、希釈されていない洗浄溶液200μLを使用した場合には、プラークの形成は観察されなかった。これらのデータの定量化(表3参照)は、被覆されていない表面と比べて、ポリカチオン被覆された表面への曝露による、少なくとも10万倍のウイルス力価の減少が明らかとなる。
【0148】
【表3】

【0149】
ザナミビル耐性トリウイルス、Glu119Glyの異なるノイライニダーゼ変異体及びオセルタミビル耐性ヒトウイルスのGlu119Valノイラミンヂアーゼ変体を用いて(表3中の第2及び第3の記入欄)、類似の結果が得られた。最後に、ザナミビル及びオセルタミビル(Arg292Lysノイラミニダーゼ変異)の両方に対して耐性を示すトリインフルエンザウイルスの株を用いた場合さえ、N,N−ドデシル、メチル−PEIが塗布された表面への短時間の曝露が、ウイルス力価を10,000倍以上低下させる(表3中の最後の記入欄)。
【0150】
本明細書に挙げられている全ての公報及び特許は、参照により、その全体が本明細書中に組み込まれる。当業者は、本明細書に記載されている具体的な実施形態に対する均等物を認識し、定型的な実験操作のみを用いて均等物を究明することが可能である。このような均等物は、以下の特許請求の範囲によって包含されるものとする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不活性な表面上に堆積された疎水性の、水に不溶性のポリマーを含む殺ウイルス性コーティング。
【請求項2】
コーティングが非共有結合性相互作用を介して表面と会合している、請求項1に記載のコーティング。
【請求項3】
ポリマーが直鎖又は分岐ポリエチレンイミン誘導体である、請求項1に記載のコーティング。
【請求項4】
ポリマーが陽イオン性である、請求項1に記載のコーティング。
【請求項5】
ポリマーが陰イオン性である、請求項1に記載のコーティング。
【請求項6】
ポリマーが双性イオン性である、請求項1に記載のコーティング。
【請求項7】
ポリマーが、少なくとも20kDa、より好ましくは少なくとも50kDa、最も好ましくは少なくとも100kDaの分子量を有する、請求項1に記載のコーティング。
【請求項8】
ポリマーが式Iの構造を有する、請求項3に記載のコーティング。
【化15】

【請求項9】
ポリマーが、
【化16】

からなる群から選択される構造を有する、請求項1に記載のコーティング。
【請求項10】
コーティングが塗布、ブラシがけ、浸漬又は噴霧によって表面に適用される、請求項1に記載のコーティング。
【請求項11】
表面が、金属、セラミック、ガラス、ポリマー、プラスチック及び繊維からなる群から選択される材料から形成されている、請求項1に記載のコーティング。
【請求項12】
表面が身体又は組織中に配置されるべき装置又はインプラントの表面である、請求項1に記載のコーティング。
【請求項13】
表面が、織物、ガーゼ、薄織物、手術用の掛け布、空気フィルター、配管又は手術用装置の表面である、請求項1に記載のコーティング。
【請求項14】
表面が、玩具、浴室の備品、調理台、机の上、ハンドル、コンピュータ、軍用品、衣服、紙製品、窓、ドア又は内壁の表面である、請求項1に記載のコーティング。
【請求項15】
請求項1から9の何れかに記載のコーティングを表面上に施すことを含む、ウイルスを死滅させるための方法。
【請求項16】
ウイルスが外被型ウイルスである、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
ウイルスがインフルエンザである、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
表面が、金属、セラミック、ガラス、ポリマー及び繊維からなる群から選択される材料の表面である、請求項15に記載の方法。
【請求項19】
表面が身体又は組織中に配置されるべき装置又はインプラントの表面である、請求項15に記載の方法。
【請求項20】
表面が、織物、ガーゼ、薄織物、手術用の掛け布、空気フィルター、配管又は手術用装置の表面である、請求項15に記載の方法。
【請求項21】
表面が、玩具、浴室の備品、調理台、机の上、ハンドル、コンピュータ、軍用品、衣服、紙製品、窓、ドア又は内壁の表面である、請求項15に記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公表番号】特表2010−509467(P2010−509467A)
【公表日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−536487(P2009−536487)
【出願日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際出願番号】PCT/US2007/084149
【国際公開番号】WO2008/127416
【国際公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【出願人】(596060697)マサチューセッツ インスティテュート オブ テクノロジー (233)
【Fターム(参考)】