説明

ウイルス性肝炎治療剤及び制癌剤

式:


[式中、Rは水素原子、リボフラノシル基を表す。Rは水素原子あるいは水酸基の保護基を表す。]で表される化合物またはその塩を含有する、インターフェロンとの併用投与による慢性C型肝炎治療剤及び制癌剤を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、ウイルス性肝炎あるいは癌疾患に対するインターフェロンとの併用療法剤に関する。
【背景技術】
肝炎の治療方法の主流として、例えばC型慢性肝炎に対しては、C型肝炎ウイルス(HCV)の排除及び肝機能改善を主体とした治療が進められている。特にその中で、HCVの排除及び肝機能改善作用を併せ持つインターフェロンによるC型慢性肝炎治療は、ウイルスを排除する唯一の治療法とされるが、HCVの完全排除効率は20〜30%程度と低く、近年ではリバビリンやアマンタジン等によるインターフェロン併用療法が進められている。インターフェロンの作用は、感染細胞に直接働く抗ウイルス作用と宿主免疫の賦活化作用に大別される。
インターフェロンによる抗ウイルス作用は、インターフェロンレセプターを介したシグナル伝達によって生じ、抗ウイルス因子の産生を誘導することによってHCVのRNAの分解や翻訳阻害等を促進する。また、インターフェロンによる免疫の活性化は、細胞性免疫や液性免疫の活性化による生体の抗ウイルス状態の活性化及び維持に関わる。HCVに対するインターフェロン療法では、HCVの血清型、ウイルス量、組織学的な進行度等の患者背景により、その治療効果に差が生じる。特にジェノタイプI型や高ウイルス血症の症例においてその改善効果は低く、ウイルスの排除率も低いことが知られている。この排除率の低さは、ウイルス側の因子と患者の免疫的な背景因子が関与していると考えられている。
インターフェロンに対して、抵抗性を示す患者に対しては、グリチルリチン製剤やインターフェロン等の免疫調節剤による肝機能改善が試みられているが、グリチルリチン製剤投与終了後は速やかに肝機能が悪化する等、インターフェロン抵抗性C型慢性肝炎に対する肝細胞発癌抑制は達成されていないのが現状である。
現在、最も有効な療法としてインターフェロンやペグ化インターフェロンとリバビリンとの併用であるが、インターフェロンとリバビリンによる1年間の併用治療でもウイルスの完全排除率は50%程度であり、依然としてその有効性は完全ではない(Nippon Shokakibyo Gakkai Zasshi.1995;92:1929−1936)。また、インターフェロンが奏効しにくいと考えられるHCVのジェノタイプ1型に対して依然として50%以下の奏効率しか期待できない。また、ジェノタイプ1型に感染した難治性の高ウイルス症例に対する奏功率は40%程度であり、臨床上の治療効果としては未だ不十分である。また、リバビリンは高い体内蓄積性により溶血性貧血が多発することが報告されている(N.Engl.J.Med.2002;347:975−982)。
インターフェロンは、癌に対する療法としても進められているが、その投与はインターフェロン単剤では慢性骨髄性白血病、多発性骨髄腫、非ホジキン悪性リンパ腫、腎細胞癌など、インターフェロンと化学療法剤等との併用では肝細胞癌、胃癌、膵臓癌、前立腺癌、食道癌、表在性膀胱癌などの限られた癌に限られている(Am.J.Surg.2000;179:367−371、Prostate 1998;35:56−62、Am.J.Clin.Oncol.2002;25:391−397)。その効果はインターフェロンによる細胞増殖抑制作用と細胞性免疫の活性化作用によるものであると考えられているが、治療効果は満足なものとは言えない。
従って、細胞性免疫を活性化し、インターフェロンの抗ウイルス作用を増強し、且つ体内蓄積性等の問題のない安全性の高い薬剤が見いだされれば、C型慢性肝炎に非常に有用であるだけでなく、癌に対しても有効な薬となる可能性が高い。
【発明の開示】
本発明の目的は、インターフェロンと併用することにより肝炎ウイルス消失率及び癌細胞排除率、特にC型肝炎ウイルス消失率および慢性骨髄性白血病、多発性骨髄腫、骨髄異形性症候群、真性多血症、非ホジキン悪性リンパ腫、肝細胞癌や胃癌等の癌細胞排除率を向上させ、且つ体内蓄積性がなく安全性の高い化合物を提供することにある。
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、式(1)で表される化合物がインターフェロンと併用することによって、抗ウイルス作用を増強することを見いだした。更に、当該抗ウイルス作用増強作用の至適濃度域が化合物のインターフェロン−γ産生を誘導(産生増強)する濃度域と一致することを新たに見いだし、本発明を完成した。
即ち、本発明は式(1)

[式中、Rは水素原子、窒素原子の保護基あるいは窒素原子の置換基を表し、Rは水素原子あるいは水酸基の保護基を表す。]で表される化合物またはその塩を有効成分として含有する、ウイルス性肝炎及び癌疾患に対して有効で安全なインターフェロンとの併用剤に関する。
本発明の要旨は、下記(1)−(49)の点にある。
(1) 式(1)

で表される化合物(式中、RおよびRは前述と同じ意味を表す。)またはその塩を有効成分とする、ウイルス性肝炎あるいは癌疾患に対するインターフェロンとの併用療法剤、
(2)Rの窒素原子の置換基が、リボフラノシル基、2−ヒドロキシエトキシメチル基、2−ヒドロキシメチル−1、3−オキサチオラン−5−イル基、4−ヒドロキシメチル−2−シクロプロペニル基、[2−ヒドロキシ−1−(ヒドロキシメチル)エトキシ]メチル基、テトラヒドロ−2−フリル基、n−ヘキシルカルバモイル基、3−ヒドロキシメチル−テトラヒドロ−2−フリル基、3−ヒドロキシメチル−5−ヒドロキシ−テトラヒドロ−2−フリル基、3−ヒドロキシメチル−4、5−ジヒドロキシ−テトラヒドロ−2−フリル基、3−ヒドロキシメチル−4、5−ジヒドロキシ−5−メチル−テトラヒドロ−2−フリル基あるいは3−ヒドロキシメチル−4−アジド−テトラヒドロ−2−フリル基であることを特徴とする、(1)記載のインターフェロンとの併用療法剤、
(3)Rが水素原子あるいはリボフラノシル基であることを特徴とする(1)または(2)記載の剤、
(4)Rが水素原子であることを特徴とする(1)〜(3)いずれか記載の剤、
(5)インターフェロンがインターフェロン−αである(1)〜(4)いずれか記載の剤、
(6)インターフェロンがインターフェロン−αn1である(1)〜(4)いずれか記載の剤、
(7)インターフェロンがスミフェロン、イントロンA、アドバフェロン、ペグイントロンまたはペガシスである(1)〜(4)いずれか記載の剤、
(8)インターフェロンがインターフェロン−βである(1)〜(4)いずれか記載の剤、
(9)前記剤が、1回の投与量が10mg〜300mgであって、1日に1〜3回投与されることを特徴とする(1)〜(8)いずれか記載の剤、
(10)前記剤が、1回の投与量が20mg〜100mgであって、1日に1〜3回投与されることを特徴とする(1)〜(8)いずれか記載の剤、
(11)前記剤が濃度10μM以下で活性を示すという特徴を有するものである、(1)〜(8)いずれか記載の剤、
(12)前記剤が濃度1μM〜8μMで活性を示すという特徴を有するものである、(1)〜(8)いずれか記載の剤、
(13)前記剤が血中濃度10μM以下で活性を示すという特徴を有するものである、(1)〜(8)いずれか記載の剤、
(14)前記剤が血中濃度1μM〜8μMで活性を示すという特徴を有するものである、(1)〜(8)いずれか記載の剤、
(15)前記ウイルス性肝炎がC型慢性肝炎である(1)〜(14)いずれか記載の剤、
(16)前記癌が、慢性骨髄性白血病、多発性骨髄腫、骨髄異形性症候群、真性多血症、非ホジキン悪性リンパ腫、肝細胞癌、胃癌、表在性膀胱癌、膵臓癌、腎細胞癌、前立腺癌や食道癌である(1)〜(14)いずれか記載の剤、
(17)式(1)で表される化合物(式中のRとRの定義は前述の通りである。)またはその塩を有効成分とする、インターフェロンと併用することを特徴とする抗肝炎ウイルス剤、
(18)前記肝炎ウイルスがC型肝炎ウイルスである、上記(17)記載の剤、
(19)Rの窒素原子の置換基が、リボフラノシル基、2−ヒドロキシエトキシメチル基、2−ヒドロキシメチル−1、3−オキサチオラン−5−イル基、4−ヒドロキシメチル−2−シクロプロペニル基、[2−ヒドロキシ−1−(ヒドロキシメチル)エトキシ]メチル基、テトラヒドロ−2−フリル基、n−ヘキシルカルバモイル基、3−ヒドロキシメチル−テトラヒドロ−2−フリル基、3−ヒドロキシメチル−5−ヒドロキシ−テトラヒドロ−2−フリル基、3−ヒドロキシメチル−4、5−ジヒドロキシ−テトラヒドロ−2−フリル基、3−ヒドロキシメチル−4、5−ジヒドロキシ−5−メチル−テトラヒドロ−2−フリル基あるいは3−ヒドロキシメチル−4−アジド−テトラヒドロ−2−フリル基であることを特徴とする、(17)または(18)記載の剤、
(20)Rが水素原子あるいはリボフラノシル基であることを特徴とする(17)〜(19)いずれか記載の剤、
(21)Rが水素原子であることを特徴とする上記(17)〜(20)いずれか記載の剤、
(22)インターフェロンがインターフェロン−αである(17)〜(21)いずれか記載の剤、
(23)インターフェロンがインターフェロン−αn1である(17)〜(21)いずれか記載の剤、
(24)インターフェロンがスミフェロン、イントロンA、アドバフェロン、ペグイントロンまたはペガシスである(17)〜(21)いずれか記載の剤、
(25)インターフェロンがインターフェロン−βである(17)〜(21)いずれか記載の剤、
(26)前記剤が、1回の投与量が10mg〜300mgであって、1日に1〜3回投与されることを特徴とする(17)〜(25)いずれか記載の剤、
(27)前記剤が、1回の投与量が20mg〜100mgであって、1日に1〜3回投与されることを特徴とする(17)〜(25)いずれか記載の剤、
(28)前記剤が濃度10μM以下で活性を示すという特徴を有するものである、(17)〜(25)いずれか記載の剤、
(29)前記剤が濃度1μM〜8μMで活性を示すという特徴を有するものである、(17)〜(25)いずれか記載の剤、
(30)前記剤が血中濃度10μM以下で活性を示すという特徴を有するものである、(17)〜(25)いずれか記載の剤、
(31)前記剤が血中濃度1μM〜8μMで活性を示すという特徴を有するものである、(17)〜(25)いずれか記載の剤、
(32)ウイルス性肝炎患者にインターフェロンを投与すると共に、上記(17)〜(31)いずれかの抗肝炎ウイルス剤を併用することからなるウイルス性肝炎の治療方法、
(33)ウイルス性肝炎がC型肝炎である、上記(32)記載の治療方法、
(34)上記(17)〜(31)いずれかの化合物を経口投与すると共に、インターフェロンを皮下投与することによる上記(32)または(33)に記載の治療方法。
(35)式(1)で表される化合物(式中、RとRの定義は前述の通りである。)またはその塩を有効成分とする、免疫活性化剤、
(36)細胞性免疫活性化を特徴とする(35)記載の剤、
(37)インターフェロン−γ産生誘導(産生増強)を特徴とする(35)または(36)記載の剤、
(38)Rの窒素原子の置換基が、リボフラノシル基、2−ヒドロキシエトキシメチル基、2−ヒドロキシメチル−1、3−オキサチオラン−5−イル基、4−ヒドロキシメチル−2−シクロプロペニル基、[2−ヒドロキシ−1−(ヒドロキシメチル)エトキシ]メチル基、テトラヒドロ−2−フリル基、n−ヘキシルカルバモイル基、3−ヒドロキシメチル−テトラヒドロ−2−フリル基、3−ヒドロキシメチル−5−ヒドロキシ−テトラヒドロ−2−フリル基、3−ヒドロキシメチル−4、5−ジヒドロキシ−テトラヒドロ−2−フリル基、3−ヒドロキシメチル−4、5−ジヒドロキシ−5−メチル−テトラヒドロ−2−フリル基あるいは3−ヒドロキシメチル−4−アジド−テトラヒドロ−2−フリル基であることを特徴とする、(35)〜(37)いずれか記載の剤、
(39)Rが水素原子あるいはリボフラノシル基であることを特徴とする(35)〜(38)いずれか記載の剤、
(40)Rが水素原子であることを特徴とする上記(35)〜(39)いずれか記載の剤、
(41)前記剤が濃度10μM以下で活性を示すという特徴を有するものである、(35)〜(40)いずれか記載の剤、
(42)前記剤が濃度1μM〜8μMで活性を示すという特徴を有するものである、(35)〜(40)いずれか記載の剤、
(43)前記剤が血中濃度10μM以下で活性を示すという特徴を有するものである、(35)〜(40)いずれか記載の剤、
(44)前記剤が血中濃度1μM〜8μMで活性を示すという特徴を有するものである、(35)〜(40)いずれか記載の剤、
(45)(35)〜(40)いずれか記載の製剤であって、投与後の血中濃度が10μM以下になるように投与することを特徴とする、経口投与用製剤、
(46)投与後の血中濃度が1μM〜8μMになるように経口投与されることを特徴とする、(35)〜(40)いずれか記載の経口投与用製剤、
(47)ウイルス性肝炎患者に、上記(35)〜(46)いずれか記載の剤を投与することからなるウイルス性肝炎の治療方法、
(48)ウイルス性肝炎がC型肝炎である、上記(47)の治療方法、
(49)癌疾患患者に、上記(35)〜(46)いずれか記載の剤を投与することからなる癌疾患の治療方法。
【図面の簡単な説明】
図1は、ミゾリビンがインターフェロン−γを誘導することを示す図である。脾細胞は無感作マウスから調製し、培養上清にはスーパー抗原であるstaphylococcal enterotoxin B(SEB)を400pg/mlの濃度で添加した。培養液にミゾリビンを添加することによって刺激を加え、48時間培養後、培養上清中のサイトカインをELISA法により測定した。
図2は、ミゾリビン投与時の体内動態を示す。
(A)は、1回50mg、1日3回投与時の体内動態であり、(B)は、1回100mg、1日3回投与時の体内動態をしめす。
図3は、HLBI投与によるHCVレプリコン由来RNAの測定結果である。
図4は、Ribavirin(RBV)と天然型インターフェロン−αの併用によるレプリコンRNAの抑制効果を示す。
図5は、Mizoribine(MIZ)と天然型インターフェロン−αの併用によるレプリコンRNAの抑制効果を示す。
図6は、SM−108と天然型インターフェロン−αの併用によるレプリコンRNAの抑制効果を示す。
図7は、天然型インターフェロン−αの併用によるレプリコンRNAの抑制効果を示す。リアルタイムPCR法によって2回測定されたコピー数の平均値とレプリコンRNAの減少量(%)を示している。リバビリン及びミゾリビンは2回、SM−108は1回の実験の結果を示している。
図8は、HLBIとリバビリン併用によるレプリコンRNAの消失効果を示す。各レーンのサンプルは、1;#50−1細胞、2〜7;HLBI 3IU/ml+リバビリン(2;0μM、3;1μM、4;3μM、5;5μM、6;10μM、7;20μM)である。
(A)1%アガロースゲル電気泳動による泳動パターンを示した図である。(B)HCV RNAを検出するプローブを用いたノーザンハイブリダイゼーションの結果である(矢印はレプリコンRNAである)。(C)G3PDH mRNAを検出プローブを用いたノーザンハイブリダイゼーションの結果である(矢印はG3PDH mRNAである)。
図9は、HLBIとミゾリビン併用によるレプリコンRNAの消失効果を示す。各レーンのサンプルは、1;#50−1細胞、2〜7;HLBI 3IU/ml+ミゾリビン(2;0μM、3;1μM、4;3μM、5;5μM、6;10μM、7;20μM)である。
(A)1%アガロースゲル電気泳動による泳動パターンを示した図である。(B)HCV RNAを検出するプローブを用いたノーザンハイブリダイゼーションの結果である(矢印はレプリコンRNAである)。(C)G3PDH mRNAを検出プローブを用いたノーザンハイブリダイゼーションの結果である(矢印はG3PDH mRNAである)。
図10は、HLBIとSM−108併用によるレプリコンRNAの消失効果を示す。各レーンのサンプルは、N.C.;Huh−7細胞、1;#50−1細胞、2〜7;HLBI 3IU/ml+SM−108(2;0μM、3;1μM、4;3μM、5;5μM、6;10μM、7;20μM)である。
(A)1%アガロースゲル電気泳動による泳動パターンを示した図である。(B)HCV RNAを検出するプローブを用いたノーザンハイブリダイゼーションの結果である(矢印はレプリコンRNAである)。(C)G3PDH mRNAを検出プローブを用いたノーザンハイブリダイゼーションの結果である(矢印はG3PDH mRNAである)。
図11は、ノーザンハイブリダイゼーション解析によるHLBIとリバビリン併用によるレプリコンRNAの消失効果を示す。各リバビリン添加量におけるG3PDH遺伝子発現量に対するレプリコンRNAの比を示す。
図12は、ノーザンハイブリダイゼーション解析によるHLBIとミゾリビン併用によるレプリコンRNAの消失効果を示す。各ミゾリビン添加量におけるG3PDH遺伝子発現量に対するレプリコンRNAの比を示す図である。
図13は、ノーザンハイブリダイゼーション解析によるHLBIとSM−108併用によるレプリコンRNAの消失効果を示す。各SM−108添加量におけるG3PDH遺伝子発現量に対するレプリコンRNAの比を示す図である。
図14は、スミフェロン、ミゾリビンおよびSM−108の単独あるいは併用した場合の抗BVDV活性を示す(縦軸は細胞増殖の度合いを示し、値が大きいほど薬剤処理により細胞が抗ウイルス効果を示して増殖していることを示す)。
(A)は、スミフェロン30IU/ml、ミゾリビンおよびSM−108は0.12μM、(B)はスミフェロン10IU/ml、ミゾリビンおよびSM−108は0.08μM、で単独あるいは併用した場合の結果を示している。
図15は、スミフェロン、アドバフェロンあるいはイントロンAを、ミゾリビンあるいはSM−108と併用した場合の抗BVDV活性を示す。
(A)は、スミフェロンあるいはアドバフェロン1IU/ml、ミゾリビン1.88μMを、(B)は、スミフェロンあるいはアドバフェロン10IU/ml、ミゾリビン1.88μMを、単独あるいは併用した場合の結果を示している。(C)はインターフェロン−αとしてスミフェロン、イントロンAあるいはアドバフェロンのそれぞれ10IU/ml、およびSM−108の7.5μMを単独あるいは併用した場合の結果を示している。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明の第1の態様は、一般式(1)で表される化合物またはそれらの塩に関するインターフェロンとの併用療法剤である。

[式中、Rは水素原子、窒素原子の保護基あるいは窒素原子の置換基を表し、Rは水素原子あるいは水酸基の保護基を表す。]
本発明化合物のRで示される置換基として、例えば水素原子、リボフラノシル基、2−ヒドロキシエトキシメチル基、2−ヒドロキシメチル−1、3−オキサチオラン−5−イル基、4−ヒドロキシメチル−2−シクロプロペニル基、[2−ヒドロキシ−1−(ヒドロキシメチル)エトキシ]メチル基、テトラヒドロ−2−フリル基、n−ヘキシルカルバモイル基、3−ヒドロキシメチル−テトラヒドロ−2−フリル基、あるいは3−ヒドロキシメチル−4−アジド−テトラヒドロ−2−フリル基が挙げられ、なかでも水素原子、リボフラノシル基が好ましいものとして挙げることができる。
本発明化合物のRで示される保護基として、例えばメトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、t−ブトキシカルボニル基等の置換または無置換のアルコキシカルボニル基、例えばp−ニトロベンジルオキシカルボニル基、ベンジルオキシカルボニル基、p−メトキシベンジルオキシカルボニル基等の置換または無置換のアリルオキシカルボニル基等が挙げられる。また、生体内で脱保護される保護基も使用可能であり、状況に応じて使用することができる。
本発明化合物のRで示される置換基として、水素原子あるいは水酸基の保護基が挙げられる。ここで、水酸基の保護基とは、例えば日本化学会実験化学講座(丸善)に記載のものが挙げられ、化学的あるいは生物学的に切断されて水酸基に戻ることができる保護基を言う。例えば、アセチル基、ベンゾイル基等のアシル基を挙げることができる。
さらに、抗ウイルス活性を持つカルボキシル基を持つ化合物と縮合して、エステル結合を形成して保護することもできる。例えば、カルボキシル基を持つ化合物がJTK−003やBILN−2061のようなHCV RNAポリメラーゼ阻害剤であってもよい。
上記塩としては、薬学的に許容される塩が挙げられ、例えば、無機塩基との塩、有機塩基との塩、無機酸との塩、有機酸との塩、塩基性または酸性アミノ酸との塩などが挙げられる。無機塩基との塩の好適な例としては、例えばナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩などのアルカリ土類金属塩;ならびにアルミニウム塩、アンモニウム塩などが挙げられる。有機塩基との塩の好適な例としては、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン、ピコリン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジシクロヘキシルアミン、N,N‘−ジベンジルエチレンジアミンなどとの塩が挙げられる。無機酸との塩の好適な例としては、例えば塩酸、臭化水素酸、硝酸、硫酸、リン酸などとの塩が挙げられる。有機酸との塩の好適な例としては、例えばギ酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、フマール酸、シュウ酸、酒石酸、マレイン酸、クエン酸、コハク酸、リンゴ酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸などとの塩が挙げられる。塩基性アミノ酸との塩の好適な例としては、例えばアルギニン、リジン、オルニチンなどとの塩が挙げられ、酸性アミノ酸との塩の好適な例としては、例えばアスパラギン酸、グルタミン酸などとの塩が挙げられる。
本発明において上記一般式(1)のRで示される置換基がリボフラノシル基である化合物はミゾリビンとして、水素原子である化合物はSM−108として公知である。
ミゾリビンは腎拒絶反応や慢性関節リウマチ等に対する薬剤として上市されているが、溶血性貧血等の重篤な副作用は、臨床上殆ど現れていない。ミゾリビンは、特定の癌細胞細胞に対して、増殖抑制作用を有すること(Cancer Res.1975;35:1643−1648)、抗ウイルス作用を有すること(Exp.Opin.Invest.Drug 2000;9:221−235、Antiviral Chemi.Chemother.1994;5:366−371、J Infect Dis 1993;168:641−64)が示されている。免疫に関する作用として、in vitroでは、免疫の刺激応答は維持されるが(Transplant.Proc.1992;24:2845−2846、J.Clin.Invest.1991;87:940−948)、T細胞やB細胞の増殖を抑制することが知られており(J.Clin.Invest.1991;87:940−948、J.Immunol.1995;155:5175−5183、Clin.Exp.Immunol.2000;120:448−453)、低濃度での免疫を活性化する作用については知られていない。また、ミゾリビン添加により、IMPDH−2型遺伝子の発現誘導が生じることが報告されている(Endocrinol.2001;142:193−204)。ミゾリビンの血中半減期は、2時間程度と報告され、蓄積性の無い薬剤である(リウマチ科 1991;5:287−300)。
SM−108は、ミゾリビンの活性体のプロドラッグであり、アデニン−ホスホリボシルトランスフェラーゼによって、ミゾリビンに変換される化合物である(Cancer Res.1982;42:1098−1102)。慢性骨髄性白血病、骨髄異形性症候群、真性多血症等の造血器腫瘍や肺癌に対する単剤投与で臨床効果が認められ、制癌剤としては極めて安全性が高い薬剤であることが報告されている(癌と化学療法1989;16:123−130、癌と化学療法1989;16:113−121)。
ミゾリビン及びSM−108においては、HCVに対する抗ウイルス作用やウイルス感染細胞の排除能があるかについて、C型慢性肝炎に投与されたことがなく、その有効性については不明である。また、インターフェロンとの併用で検討がなされたこともない。
本発明におけるウイルス性肝炎とは、例えば、C型肝炎ウイルス(HCV)やB型肝炎ウイルス(HBV)等のウイルス感染による肝炎、すなわちC型肝炎、B型肝炎などをいう。ウイルス性肝炎は、急性肝炎、劇症肝炎または慢性肝炎であってもよく、慢性肝炎は肝硬変を伴っていてもよい。ウイルス性肝炎は、好ましくは、C型慢性肝炎やB型慢性活動性肝炎を挙げることができるが、より好ましくはC型慢性肝炎である。
C型肝炎ウイルスには、例えば、ジェノタイプ1a、1b、2a、2b、3a、3b等の遺伝子型が存在するが、これらHCVの遺伝子型に限定されない。
本発明における癌疾患とは、慢性骨髄性白血病、多発性骨髄腫、骨髄異形性症候群、真性多血症、非ホジキン悪性リンパ腫、ヘアリー細胞白血病、皮膚Tリンパ腫を代表とする造血器系腫瘍や肝細胞癌、胃癌、表在性膀胱癌、膵臓癌、腎細胞癌、前立腺癌、食道癌、メラノーマ、AIDSに伴うカポジ肉腫を代表とする固形癌を挙げることができるが、好ましくは慢性骨髄性白血病、多発性骨髄腫、骨髄異形性症候群、真性多血症、非ホジキン悪性リンパ腫、肝細胞癌、胃癌、表在性膀胱癌、膵臓癌、腎細胞癌、前立腺癌や食道癌である。
本発明におけるインターフェロン(IFN)とは、天然型IFNまたは遺伝子組換型IFNであり、天然型IFNはリンパ芽球由来、白血球由来等の何れでもよく、IFNの型としてはIFN−α、IFN−βやIFN−ω等が挙げられる。IFNは、当該天然型IFNと実質的に同じ作用を有する限り、そのアミノ酸配列中の1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失および/または付加された改変体、DNA shuffling法等によりスクリーニングされた改変体、糖鎖が置換、欠失および/または付加された改変体であってもよく、また同様に、PEG化IFNやアルブミン付加IFN等の持続性インターフェロン剤や組織吸収性や組織移行性を高めたIFNのDDS製剤であってもよい。好ましくは、天然型もしくは遺伝子組換型IFN−α、天然型もしくは遺伝子組換型IFN−β、コンセンサスIFN、PEG化IFNを挙げることができる。前記IFNは、公知の市販のIFNを使用することができる。
インターフェロン−α(IFN−α)とは、例えば、天然型IFN−α、組換えIFN−α2aおよび組換えIFN−α2b等を挙げることができ、IFN−αであればいかなるサブタイプでもよい。具体的には、例えば、天然型IFN−αのIFN−αn1であるスミフェロン(住友製薬)、オーアイエフ(大塚製薬)およびIFN−αモチダ(持田製薬)、組換えIFN−α2aであるキャンフェロンA(武田薬品)やロフェロンA(中外製薬)および組換えIFN−α2bであるイントロンA(シェリング・プラウ)等を挙げることができるが、これらに何ら限定されるものではない。
インターフェロン−β(IFN−β)とは、例えば、天然型IFN−βや組換えIFN−β等を挙げることができるが、IFN−βであればいかなるタイプでもよい。具体的には、例えば、天然型IFN−βであるIFNβモチダ(持田製薬)やフエロン(東レ)、組換えIFN−β1bであるベタフェロン(日本シェーリング)等を挙げることができるが、これらに何ら限定されるものではない。
コンセンサスインターフェロン(コンセンサスIFN)とは、コンセンサスシークエンス理論に基づいて新たに開発されたIFNであり、例えばインターフェロンアルファコン−1を挙げることができるが、これに限定されるものではない。インターフェロンアルファコン−1としては、アドバフェロン(山之内製薬)が挙げられる。
持続性インターフェロン剤とは、PEG(ポリエチレングリコール)、マイクロ粒子やナノ粒子、アテロコラーゲン、シリコンその他の徐放性担体を用いて持続性を向上させたインターフェロン製剤のことであり、PEG化IFNとは、PEG(ポリエチレングリコール)をIFN蛋白分子に結合させたものである。持続性インターフェロン剤とは、例えばPEG化IFN−α2aやPEG化IFN−α2bを挙げることができるが、IFNの種類はこれらに限定されるものではない。具体的には、例えば、PEG化IFN−α2aであるペガシス(ロシュ)やPEG化IFN−α2bであるペグイントロン(シェリング・プラウ)等を挙げることができる。
組織吸収性を高めたインターフェロンのDDS製剤とは、例えば、マイクロ粒子、ナノ粒子やその他の微粒子担体を用いて、経肺や経鼻等の投与による、肺、気管支、鼻粘膜等での吸収効率を向上させたインターフェロン製剤を挙げることができるが、組織吸収性を高めたインターフェロンDDS製剤であればよく、これらに何ら限定されるものではない。
組織移行性を高めたインターフェロンのDDS製剤とは、例えば、糖鎖をアシアロ化するなどの修飾により肝臓への親和性を高めたインターフェロン製剤等が挙げられるが、組織移行性を高めたインターフェロンのDDS製剤であればよく、これらに何ら限定されるものではない。
本発明におけるインターフェロン(IFN)としては、好ましくはスミフェロン、イントロンA、アドバフェロン、ペグイントロンおよびペガシス、特に好ましくはスミフェロン、イントロンAおよびアドバフェロン、更に好ましくはスミフェロンが挙げられる。
本発明における投与とは、経口投与、非経口投与(直腸投与、皮下注射、静脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射などを含む)等が挙げられるが、これに限定されない。投与は、より好ましくは経口投与が挙げられる。投与は、投与形態、患者の年齢、体重、症状、副作用の出現等により投与量、投与回数を適宜調整して投与することができる。
1回の投与量は、副作用を惹起する量以下であれば特に制限はないが、例えば10mg〜500mgであり、好ましくは10mg〜300mg、更に好ましくは20mg〜100mgであるが、これに限定されない。
投与回数は、例えば、1日に1〜3回が挙げられるが、これに限定されず、隔日や数日に1回投与でも良い。投与初期時には連日複数回投与、その後継続して連日複数回または1回投与ないしは数日に1回投与するのでもよい。
本発明における濃度とは、剤投与後の剤の血中濃度をいう。血中濃度とは、剤投与後の体内における剤の血液中の濃度であり、副作用を惹起する濃度以下で、且つ有効な濃度であれば特に制限はされない。血中濃度は、例えば10μM以下であり、好ましくは1μM〜8μMが挙げられる。
本発明における活性とは、抗ウイルス作用や免疫を活性化する作用であり、インターフェロンと併用することによって抗ウイルス作用を増強する作用およびウイルス感染細胞の排除能を増強する作用のことを言う。
本発明の第2の態様は、一般式(1)で表わされる化合物またはそれらの塩を有効成分とする免疫活性化剤である。
本発明における免疫活性化剤とは、免疫を活性化する作用を有する剤のことであり、細胞性免疫活性化剤とは、細胞性免疫を活性化する作用を有する剤のことである。細胞性免疫とは、免疫細胞自身が異物を攻撃排除する免疫機構であり、細胞内寄生菌、真菌、原虫などに対する殺作用といった細胞内寄生性の微生物の防御を担うほか、ウイルス感染細胞の破壊・除去や腫瘍細胞の破壊などに関わっており、自然免疫と獲得免疫がある。
本発明の第3の態様は、一般式(1)で表わされる化合物またはそれらの塩を有効成分とするインターフェロン−γ産生誘導(産生増強)剤である。
本発明におけるインターフェロン−γ産生誘導(産生増強)剤とは、血液中または/および生体組織内におけるインターフェロン−γ(IFN−γ)の濃度を上昇させる剤のことである。IFN−γは、免疫細胞が認識する表面抗原提示に関与するHLAクラスI抗原、HLAクラスII抗原、β2−ミクログロブリン、TAP、LMP等の分子の発現誘導による抗原特異的な細胞障害性Tリンパ球(CTL)の活性化、免疫グロブリンFcレセプターの発現誘導によるエフェクター細胞による抗原特異的な獲得免疫を活性化、NK細胞の活性化、およびマクロファージの活性化等の作用を有する。そのため本剤は、例えば、細胞内寄生菌、真菌、原虫などの細胞内寄生性の微生物に対する殺作用、およびウイルス感染細胞や腫瘍細胞の破壊・除去作用等を示す剤として有効である。
本発明における式(1)で表される化合物またはその塩は、体内半減期が短く体内蓄積性もなく、インターフェロンとの組み合わせにより、HCVに対するインターフェロンの抗ウイルス作用を増強するため、動物とりわけ哺乳動物に対するウイルス性肝炎または癌疾患の治療剤として有用である。更に、本発明における式(1)で表される化合物またはその塩は、免疫応答を増強する作用を有するため、免疫活性化剤として有用である。
一般式(1)で表される化合物またはその塩は、そのままもしくは自体公知の薬学的に許容される担体(賦形剤、増量剤、結合剤、滑沢剤などが含まれる)、慣用の添加剤などと混合した医薬組成物あるいは製剤(例えば、粉末、顆粒、錠剤、ピル剤、カプセル剤、散剤、シロップ剤、注射剤、点滴剤、外用剤、坐剤、エマルジョン剤、エンキシル剤)として調製し、用いることができる。
【実施例】
次に、本発明を実施例により更に具体的に説明する。しかし、本発明はこれらの実施例になんら限定されるものではない。
【実施例1】
ミゾリビンの免疫調節作用の解析
マウス(日本チャールス・リバー社)から脾細胞を調製し、培養液にミゾリビン(Sigma社)を添加することによって刺激を加え、48時間培養後、培養上清中のサイトカインをELISA法により測定した。コントロールとしてリバビリン(Sigma社)刺激を同様に行った。実験の手法・手順は、Tam等の方法に準じて行った(Antimicrob.Agent.Chemo.2000;44:1276−1283)。
(1)マウス脾細胞の調製
脾細胞は無感作マウスから調製した。マウス脾臓を摘出し、5mlのRPMI 1640培地の入った60mmシャーレに移し、スライドガラスのフロスト部分にて擦り壊した後、セルストレイナー(FALCON 70μm Nylon)を通して50ml遠沈管に回収した。1,200rpm、5分間遠心し、細胞を回収した。脾細胞のペレットには溶血用ACKバッファー(0.15M NHCl,10mM KHCO,0.1mM EDTA,pH7.2−7.4)を加え、室温、5分間静置した後、20mlの培地を加え、セルストレイナーを通して50ml遠沈管に回収した。
(2)スーパー抗原による刺激
培養上清にはスーパー抗原であるstaphylococcal enterotoxin B(SEB;Toxin technology社)を400pg/mlの濃度で添加した。SEB1mgにPBSを2.5ml添加後、0.2μmのフィルターを用いて濾過滅菌し、400ng/mlの濃縮液を調製した。この溶液0.1mlに100ml RPMI1640培地(1% L−glutamine,10% Penicillin−Streptomycin,10% FCS)を添加して、脾臓由来細胞ペレットを10ml培地で2回、1,200rpm、5分、4℃の遠心洗浄後、SEBを含むRPMI1640培地5mlに懸濁後、細胞数を測定し、2×10個/mlになるようにSEBを含むRPMI培地に懸濁して、24wellプレートに1mlずつ添加した。
(3)ミゾリビンによる免疫応答の検討
各ウェルに1mMミゾリビン溶液を培地に直接添加して37℃で48時間培養後、培養上清中のIFN−γを測定した。なお、ミゾリビン刺激濃度は0,1,2,5,10,15,20μMで行った。ミゾリビン(分子量259.2)は10.368mgをPBS 400μlに溶解後、リバビリン(分子量244.2)は12.21mgをPBS 500μlに溶解後、0.2μmフィルターで濾過滅菌後、100mM溶液とし、PBSにより10倍または100倍に希釈して、実験に供された。
(4)IFN−γの測定
IFN−γは培養上清を10μl用い、Genztme/Techne社のAN’ALYZA(登録商標)Immunoassay system mouse IFN−γ kitにより測定した。吸光度の測定は、マイクロプレートリーダー(BioRad、モデル3550UV)を用いて450nmの吸光度をエンドポイント法で測定した。SoftMax(Molecular Device)を用いて4−Parameterの回帰を行い、濃度を算出した。測定結果を図1に示した。
図1の結果により、インターフェロン−γの誘導作用は、1μMから8μMのミゾリビン濃度が適することが判明した。この濃度は、およそ0.25μg/mlから2μg/mlに相当し、体内動態に関する文献(リウマチ科1991;5:287−300)に従えば、1回投与量は50mgから100mgで良い。文献に記載されたミゾリビンの体内動態を図2に示した。図2に示される通り、ミゾリビンの消失速度は速く(T1/2=2.2時間)、薬剤蓄積性は認められない。反復投与を行っても、薬剤に対する反応性は維持される。また、薬剤の蓄積性がないため、投与回数は、1日1回から3回でよい。
インターフェロン−α/βは、抗ウイルス作用の他に、Th1細胞に対する分化促進、抗原特異的細胞傷害活性を持つCD8+T細胞の増殖誘導、NK細胞の分化促進、表面抗原提示分子の発現の促進等、様々な免疫調節活性を有している。ミゾリビンやSM−108による細胞性免疫活性化作用は、インターフェロン−α/βとの併用でC型慢性肝炎治療に有効であるばかりでなく、本用量をもって癌細胞の排除にも有効であることが示された。
【実施例2】
天然型インターフェロン−αによるHCVレプリコン細胞に対する作用
高用量のインターフェロン−α/βの存在化では、併用薬剤添加による抗ウイルス作用の増強を検討することは困難である。そこで、HCVレプリコン由来RNA量をおよそ10%にまで減少させる至適濃度を検討した。
(1)HCVレプリコン細胞の構築及び培養
HCVレプリコンの構築、培養細胞(Huh−7)への導入、株化細胞(#50−1)の樹立、細胞培養に関しては、文献に従った(Biochem.Biophys.Res.Comm.2002;293:993−999、J.Virol.2001;75:1437−1449)。
(2)天然型インターフェロン−αによるHCVレプリコン由来RNAの残存量の検討
細胞培養は12穴プレートの各ウェルに2〜3x10細胞となるように#50−1細胞を用意した。30、100、300、1000、3000、10000IU/mlの天然型インターフェロン−α(スミフェロン;HLBI:住友製薬)溶液を作り、1ウェル(1ml)あたり10μlずつ加えて、0.3、1、3、10、30、100IU/mlとした。
1週間培養後、細胞を回収し、セパゾールRNA 1 Super(ナカライテスク社)を用い、説明書通りの方法でRNA抽出を行った。RNAの定量は、分光光度計で測定し、濃度を50ng/μlになるように調製した。
(3)リアルタイムPCRによるHCVレプリコン由来RNAの測定
機器はPE Applied Biosystems社のもの(7700 Sequence Detector)を使用した。リアルタイムPCRの反応条件は文献(Biochem.Biophys.Res.Comm.2002;293:993−999)に従い、上記RNA 2μlずつをテンプレートにした。用いたプライマー配列のうち、レプリコンRNAの130〜146番目の塩基をforward primerとし、レプリコンRNAの290−272番目の塩基をrevers primerとして用いた。
また、TaqManでの検出用に標識されたプローブとして、レプリコンRNAの148−168番目の塩基からなるオリゴヌクレオチド(DNA)をTaqMan Kit(ロシュ社)で標識した。用いたプライマー及びプローブは、Forward primerは配列番号1、Reverse primerは配列番号2、Probeは配列番号3に示す塩基配列である。
リアルタイムPCRによる測定はサンプル毎に2回行い、その平均値を求めた。平均の測定値と測定結果を図3に示した。HCVレプリコン由来RNAの残存量が10%程度となる、即ち、3IU/mlのHLBI濃度が併用薬剤の評価に適切と考えられた。
(4)インターフェロン−α存在下での併用薬剤の抗ウイルス作用
リバビリン、ミゾリビン、SM−108の各々をPBSに溶かし、0.5、1、2、5、10mM溶液を作製し、2x10細胞/wellとした24穴プレートの各ウェルに10μlずつ薬剤を添加し、最終的に0,5,10,20μMとした。また、HLBIの添加量は0、3IU/mlとなるように添加した。実施例2と同様に培養1週間後、リアルタイムPCR法により残存HCVレプリコン由来RNA量を測定した。リバビリン及びミゾリビンのHLBI併用における実験は各々2回、SM−108のHLBI併用における実験は1回行い、各併用実験の測定結果を1例ずつ、図4、図5、及び図6に示した。
本結果によれば、3IU/ml HLBI存在下で5μM前後の比較的低用量の薬剤添加において、何れの薬剤でも一過的なHCVレプリコン由来RNAの減少が観察された。RNA消失率は、リバビリン併用で18〜35%、ミゾリビン併用で53〜61%、SM−108併用で59%と、インターフェロンとミゾリビンあるいはSM−108との併用はリバビリンとの併用より上回っていた。従って、薬剤の血中濃度が5μMの場合、ミゾリビンあるいはSM−108併用投与におけるHCVに対する作用は、リバビリン併用投与に劣らず、また、リバビリンのC型慢性肝炎の血中濃度が10μMを超えていることから、慢性C型肝炎におけるインターフェロンの併用薬剤として、ミゾリビン及びSM−108はリバビリンより有用であると判断された。
(5)ノーザンブロット解析によるインターフェロン−α存在化での併用薬剤の抗ウイルス作用の検討
細胞培養は6穴プレートの各ウェルに1x10細胞となるように#50−1細胞を用意した。3IU/mlのHLBIとリバビリン、ミゾリビン、SM−108の各々を添加し、最終的に0,1,3,5,10,20μMとした。1週間培養後、細胞を回収し、セパゾールRNA 1 Superを用い、RNA抽出を行った。得られたRNAは分光光度計で定量され、MOPS bufferを用いた1%アガロースゲル電気泳動に供した。常法に従って、メンブレンフィルターにRNAをトランスファーし、HCVレプリコンを含むプラスミドから得られたDNA断片及びGlyceraldehyde 3−phosphate dehydrogenase(G3PDH)遺伝子のDNA断片を用いてプローブを作製し、ハイブリダイゼーションを行った。
プローブ作製の具体的な方法として、HCVゲノムが組み込まれ、制限酵素EcoT22Iで切断されたプラスミドpNNRz2 DNA(Biochem.Biophys.Res.Comm.2002;293:993−999)を鋳型として、プライマーXN7−4R(配列番号4)と32P−dCTPを用いて、1本鎖DNAプローブ(NS5B上流の約300bp)を作製すればよい。用いたプローブを配列番号5に示す。
また、G3PDH遺伝子を検出するプローブは、プライマーGAPDH S(配列番号6)とプライマーGAPDH R(配列番号7)を用いて増幅された約250bpのPCR断片を、ランダムプライマー法を用いて32P−dCTPで標識すれば良い。上記何れかのプローブを含むULTRAhyb溶液(Ambion社)を用いて、42℃で一晩加温し、ハイブリダイゼーションを行い、フィルターを洗浄後、バイオイメージングアナライザーBAS−5000(富士フィルム社)で解析を行った。
HLBI存在下でリバビリン、ミゾリビン、SM−108を添加した場合の、アガロースゲルによる電気泳動のパターン、HCV及びG3PDHをプローブとしてハイブリダイゼーションを行った結果を、各々図8、図9、図10に示した。また、検出されたバンドの強度をデンシトメーターで測定し、恒常的に発現するG3PDH遺伝子の発現を基準にして、レプリコンRNAの残存量を数値化した結果を、リバビリンは表1と図11、ミゾリビンは表2と図12、SM−108は表3と図13に示した。表2、表3、図12及び図13に示されるように、低用量のミゾリビンとSM−108は共に、3IU/mlのインターフェロン−α存在下で、レプリコンRNAを相乗的に減少させることが確認できた。



天然型インターフェロン−αであるスミフェロン(HLBI;住友製薬)を3〜6MIU投与した場合、投与6〜7時間後に血中Cmaxがおよそ50〜80IU/mlとなり、投与2日後に数IU/mlにまで低下する。本発明では、3IU/mlのHLBI存在下で有用性が見出せたが、高用量インターフェロン−α投与でも併用薬剤の相乗効果が付与されると考えられた。
ミゾリビンの場合、おおよそ10μM(約2.5μg/ml)以下の血中濃度を達成できれば、インターフェロンの抗ウイルス作用を増強すると思われた。図2に従えば、1回投与量は50mgから100mgでよく、その投与量は、免疫活性化が期待される血中濃度(1〜8μM)と一致した。SM−108の場合も、血中濃度は10μM以下で、スミフェロンの抗ウイルス作用を増強すると考えられた。また、ミゾリビンの免疫活性化と抗ウイルス作用の増強がほぼ同じ濃度で達成されていることから、ミゾリビン−1−リン酸のプロドラッグであるSM−108の免疫活性化が期待される血中濃度も、10μM以下と判断された。
また、癌治療においても、本用量をもって癌細胞の排除に有効と考えられた。
今回の検討で示されたミゾリビンの投与量は、臨床的に重篤な副作用が出現しないことが確認されている用量であり、リバビリン投与で問題となっている溶血性貧血は生じないと考えられた。
また、SM−108の場合、1日あたり400mg/m(約520mg)投与でヘモグロビン値が若干下がる程度である。SM−108の血中濃度が10μM以下となる投与量は、およそ20mg/m〜60mg/mになると考えられ(癌の臨床:1985;31:757−766)、この値は、1回投与量として、およそ26mgから78mgに相当するため、溶血性貧血は発生しないと判断された。
投与量は、患者の年齢、性別、体重、排泄速度等の要因の影響を受けることも考慮しなければならない。SM−108の場合、高投与量では血中の濃度持続時間が長くなる傾向にあることが示されているが(癌の臨床:1985;31:757−766)、高投与量であっても、1日後には血中から排除されることが予想される。そのため高用量のSM−108投与は、インターフェロンとの併用で相乗効果が生み出される濃度範囲を長時間にわたって維持することができると考えられる。
従って、インターフェロンと併用するSM−108は高用量でも有効であり、SM−108を高用量投与する場合は、1日1回投与あるいは隔日投与等でも可能であると考えられる。ミゾリビンについても同様であると考えられる。そのため、投与量は、副作用を惹起する濃度以下の有効濃度であればよく、100mg以上であってもよい。
【実施例3】
ウシウイルス性下痢ウイルス(BVDV:Bovine Viral Diarrhea Virus)に対する増殖抑制効果
インターフェロンと併用薬のウシウイルス性下痢ウイルス(BVDV:Bovine Viral Diarrhea Virus)に対する増殖抑制効果を検討した。
96−well plateにウシ腎細胞(MDBK:Madin−Darby Bovine Kidney細胞,大日本製薬より購入)を8x10cells/wellで播種し、37℃,5% CO存在下で24時間培養した。培地(10% FBS(抗BVDV抗体陰性)含有Ham’s F−12培地)を除き、新しい培地0.1ml/wellで細胞を洗浄後、同培地で希釈したBVDVウイルス(BVDV KS−WS株、住友製薬にて調製)液0.1ml/wellを接種し、37℃,5% CO存在下で2時間培養した。培地で希釈したスミフェロン(住友製薬,Lot.F−018)、ミゾリビン(SIGMA社製,Lot.047H4087)およびSM−108(住友製薬,Lot.030219)、あるいはスミフェロンに代えてイントロンA(シェリング・プラウ、Lot.B307E)、アドバフェロン(山之内製薬、Lot.L008Y01)、ペガシス(ロシュ、Lot.K0013Y1)、を0.05ml/wellずつで添加し、37℃,5% CO存在下で4日間培養した。
培地を除去して同培地0.1ml/wellで細胞を洗浄し、新しい培地を添加後、アラマーブルー(和光純薬,Lot.141937SA)を添加した。37℃,5% CO存在下で4時間培養した後、蛍光光度計(フルオロスキャンアセント Type374:Labsystems社製)を用いて蛍光強度(λex=544nm,λem=590nm)を測定した。
BVDVウイルスが細胞内で増殖すると感染細胞の増殖の程度は低くなる。そのため、抗BVDV活性の指標として、薬剤とBVDVウイルスを添加した被験細胞の細胞増殖の程度を、BVDVウイルスを添加していないコントロール細胞の増殖を対照として求めた。
実験結果を図14および図15に示した。図14に示すように、ミゾリビンまたはSM−108が薬剤単独では低い抗BVDV活性しか示さない濃度において、スミフェロンと併用すると、スミフェロン単独の活性に比べて2倍以上の抗BVDV活性の増強が認められ、スミフェロンはミゾリビンあるいはSM−108との組み合わせで強い併用効果を示すことが判明した。また図15に示すように、この併用効果はスミフェロンだけではなく、他の組換え型インターフェロン−αであるイントロンAあるいはアドバフェロンにおいても認められた。
これらの結果から、このようなミゾリビンあるいはSM−108とインターフェロンとの併用効果は、スミフェロンに限らず、現在C型肝炎治療に用いられている他のインターフェロンでも認められることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
本発明によれば、ウイルス性肝炎または癌疾患に対するインターフェロンとの併用剤が提供される。本剤は体内蓄積性がなく、細胞性免疫をより活性化し、インターフェロンと併用することにより相乗効果を示すという特徴を有する。そのため特に、インターフェロン等が有効とされるC型肝炎、慢性骨髄性白血病、多発性骨髄腫、骨髄異形性症候群、真性多血症、非ホジキン悪性リンパ腫、肝細胞癌、胃癌、表在性膀胱癌、膵臓癌、腎細胞癌、前立腺癌、食道癌にとって、非常に有効な併用療剤となり得る。
【配列表フリーテキスト】
配列番号:1に記載の塩基配列はForward primerである。
配列番号:2に記載の塩基配列はReverse primerである。
配列番号:3に記載の塩基配列はProbeである。
配列番号:4に記載の塩基配列はプライマーXN7−4Rである。
配列番号:5に記載の塩基配列はProbeである。
配列番号:6に記載の塩基配列はプライマーGAPDH Sである。
配列番号:7に記載の塩基配列はプライマーGAPDH Rである。
【配列表】



【図1】



【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】







【図11】

【図12】

【図13】






【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)

[式中、Rは水素原子、窒素原子の保護基あるいは窒素原子の置換基を表し、Rは水素原子あるいは水酸基の保護基を表す。]で表される化合物またはその塩を有効成分とする、ウイルス性肝炎あるいは癌疾患に対するインターフェロンとの併用療法剤。
【請求項2】
の窒素原子の置換基が、リボフラノシル基、2−ヒドロキシエトキシメチル基、2−ヒドロキシメチル−1、3−オキサチオラン−5−イル基、4−ヒドロキシメチル−2−シクロプロペニル基、[2−ヒドロキシ−1−(ヒドロキシメチル)エトキシ]メチル基、テトラヒドロ−2−フリル基、n−ヘキシルカルバモイル基、3−ヒドロキシメチル−テトラヒドロ−2−フリル基、3−ヒドロキシメチル−5−ヒドロキシ−テトラヒドロ−2−フリル基、3−ヒドロキシメチル−4、5−ジヒドロキシ−テトラヒドロ−2−フリル基、3−ヒドロキシメチル−4、5−ジヒドロキシ−5−メチル−テトラヒドロ−2−フリル基あるいは3−ヒドロキシメチル−4−アジド−テトラヒドロ−2−フリル基であることを特徴とする、請求項1記載のインターフェロンとの併用療法剤。
【請求項3】
が水素原子あるいはリボフラノシル基であることを特徴とする請求項1または2記載の剤。
【請求項4】
インターフェロンがインターフェロン−αである請求項1〜3いずれか記載の剤。
【請求項5】
インターフェロンがスミフェロン、イントロンA、アドバフェロン、ペグイントロンまたはペガシスである請求項1〜4いずれか記載の剤。
【請求項6】
インターフェロンがインターフェロン−βである請求項1〜3いずれか記載の剤。
【請求項7】
前記ウイルス性肝炎がC型慢性肝炎である請求項1〜6いずれか記載の剤。
【請求項8】
前記癌が、慢性骨髄性白血病、多発性骨髄腫、骨髄異形性症候群、真性多血症、非ホジキン悪性リンパ腫、肝細胞癌、胃癌、表在性膀胱癌、膵臓癌、腎細胞癌、前立腺癌や食道癌である請求項1〜6いずれか記載の剤。
【請求項9】
式(1)で表される化合物(式中、R1とR2の定義は前述の通りである。)またはその塩を有効成分とする、免疫活性化剤。
【請求項10】
細胞性免疫活性化を特徴とする請求項9記載の剤。
【請求項11】
インターフェロン−γ産生誘導(産生増強)を特徴とする請求項9または10記載の剤。
【請求項12】
の窒素原子の置換基が、リボフラノシル基、2−ヒドロキシエトキシメチル基、2−ヒドロキシメチル−1、3−オキサチオラン−5−イル基、4−ヒドロキシメチル−2−シクロプロペニル基、[2−ヒドロキシ−1−(ヒドロキシメチル)エトキシ]メチル基、テトラヒドロ−2−フリル基、n−ヘキシルカルバモイル基、3−ヒドロキシメチル−テトラヒドロ−2−フリル基、3−ヒドロキシメチル−5−ヒドロキシ−テトラヒドロ−2−フリル基、3−ヒドロキシメチル−4、5−ジヒドロキシ−テトラヒドロ−2−フリル基、3−ヒドロキシメチル−4、5−ジヒドロキシ−5−メチル−テトラヒドロ−2−フリル基あるいは3−ヒドロキシメチル−4−アジド−テトラヒドロ−2−フリル基であることを特徴とする、請求項9〜11いずれか記載の剤。
【請求項13】
が水素原子あるいはリボフラノシル基であることを特徴とする請求項9〜12いずれか記載の剤。
【請求項14】
が水素原子であることを特徴とする請求項9〜13いずれか記載の剤。
【請求項15】
請求項10〜14いずれか記載の製剤であって、投与後の血中濃度が10μM以下になるように投与することを特徴とする、経口投与用製剤。
【請求項16】
投与後の血中濃度が1μM〜8μMになるように経口投与されることを特徴とする、請求項15記載の経口投与用製剤。

【国際公開番号】WO2004/083186
【国際公開日】平成16年9月30日(2004.9.30)
【発行日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−503702(P2005−503702)
【国際出願番号】PCT/JP2004/003509
【国際出願日】平成16年3月16日(2004.3.16)
【出願人】(000002912)大日本住友製薬株式会社 (332)
【Fターム(参考)】