説明

ウイルス感染の予防及び治療のための組成物

本発明は、ウイルス感染の予防及び/又は治療に使用するためのリベス属の抽出物を含む組成物に関する。特に、この組成物は、インフルエンザ、感冒疾患又はレトロウイルスにより引き起こされるウイルス感染の症状の予防及び/又は治療のために使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、ウイルス感染の予防及び/又は治療に使用するためのリベス(Ribes)属の抽出物を含む組成物に関する。
【0002】
多数のヒトの疾患は、ウイルスにより引き起こされ、インフルエンザ、感冒、水痘及びヘルペス(cold sores)を含む。AIDS、肝炎、ヘルペス感染、コクサッキー感染、麻疹、風疹、巨細胞腫瘍(cytomegaly)、流行性耳下腺炎、狂犬病、下痢、SARS、エボラ、黄熱、西ナイル熱、ハンタ熱(Hanta fever)、デング熱、マールブルグ熱(Marburg fever)、ラッサ熱、天然痘、ヒトパピローマウイルス感染、感染性単核症、バーキットリンパ腫、灰白髄炎(polyomyelitis)、脳炎(encephalitits)、腺咽頭炎のような疾患も、ウイルス媒介性である。
【0003】
しかし、ヒトにおける最も一般的なウイルス感染は、インフルエンザ及び感冒疾患である。毎年、世界人口の約10〜20%がインフルエンザにより病気になり、感冒疾患は、ヒト全体において最も頻度の高い感染である。通常、成人は、年に2〜3回罹患し、小児はさらに回数が多い。感染している間、人々は治療を受けなければならず、通常は出勤することができないため、インフルエンザ及び感冒疾患は大きな経済的損失をもたらす。さらに、インフルエンザ及び感冒疾患の標準的な治療は、費用が高く、重篤になりうる副作用を示す。
【0004】
流行性感冒としても知られているインフルエンザは、季節的流行期に世界中に蔓延する伝染性のウイルス感染である。3つのウイルス型、A、B及びCに識別される。B及びCはヒトに限定されているが、一方、A型は、哺乳類と鳥類に広がっている。
【0005】
世界保健機構、WHOは、来るべき世界的規模のインフルエンザの大流行を警告している。流行及び大流行は、大部分がA型インフルエンザウイルスにより引き起こされる。インフルエンザウイルスの遺伝物質の主な遺伝子変化は、20世紀に3回の大流行を引き起こし、その感染原体は、全てA型であった。
【0006】
現在、トリインフルエンザは、これもA型ウイルスであり、大流行の危険性を示している。近年、特に南東アジアにおいて、発生がますます増加してきた。その蔓延は、疾患の耐性保菌者としての役割を果たす野鳥により促進される。専門家は、トリインフルエンザウイルスが、ヒトインフルエンザの感染原体と交配する可能性があることを恐れている。原則的に、これは、ヒト又はブタがトリインフルエンザ及びヒトインフルエンザ感染原体に同時に感染したときに可能である。これにより、ヒトにとって伝染性が高く致命的なウイルスをもたらし、世界的規模の大流行をもたらす可能性がある。現在まで、トリインフルエンザのヒトへの伝播は、局地的に発生しているだけである。しかし、トリインフルエンザのヒト間での伝播は観察されていない。
【0007】
ワクチン接種は、ウイルス性の病気を予防する最も重要な手段となる。しかし、予防の状況において、ワクチン接種は、特定のウイルスに対するワクチンの調製に依存している。これにより、ウイルスは既に存在していなければならないということが要件となる。この要件及びワクチンの開発に長期間を必要とすること(およそ4か月)は、世界的規模の大流行時にその使用の実質的な制約をもたらす。そのような場合、ワクチンの使用は、抗ウイルス剤の事前の及び付随する使用によってのみ確保される(WHO Guidelines on the Use of Vaccines and Antivirals during Influenza Pandemics;World Health Organization 2004)。
【0008】
インフルエンザを治療するのに効能がある抗ウイルス剤には、アマンタジン、リマンタジン、ザナミビル、並びにオセルタミビル及びリバビリンが含まれる。列挙した医薬は全て、場合によっては重篤になりうる副作用を有する。例えば、タミフル(Tamiflu)(登録商標)の名称で市販されているオセルタミビルは、悪心、嘔吐及び胃痛の副作用を頻繁に示す。その使用は13歳以上にのみ適応とされており、これは、幾つかの場合において、耳感染、肺炎、副鼻腔の感染、気管支炎、リンパ節の腫脹及び結膜炎などの重篤な副作用(Red List、Catalogue of Medication for Germany、2004)が年齢制限未満の若年者において観察されたからである。
【0009】
抗ウイルス性医薬は、ウイルス性の病気の治療と同様にその予防においても効能がある。ウイルス性の病気の直接的な治療法は、今までのところ成功していない。
【0010】
ニワトコの実の抽出物は、特定の状況下でインフルエンザの持続期間を短縮する効果が知られているが、明らかな予防効果を示してはいない(Zakay−Rones,Z.;Varsano,N.;Zlotnik,M.;Manor,O.;Regev,L.;Schlesinger,M.;Mumcuoglu,M.J.Altern.Complement.Med.1995、1(4)、361〜9)。
【0011】
国際公開第99/44578号パンフレットは、医薬製剤における、天然のフラボノイドであるイソケルセチンの光保護フィルター及び抗ウイルス物質としての使用を記載している。特に、例えばリベス・ニグラム(Ribes nigrum)L.に存在するイソケルセチンは、単純ヘルペスI型ウイルスに対して抗ウイルス活性を示すと記載されている。しかし、リベス・ニグラムL.の抽出物の調合剤も、そのようなリベス・ニグラムL.からの抽出物の抗ウイルス活性の特定の効果も、実証されていない。
【0012】
さらに、特開2001−328941号公報は、リベス・ニグラムL.抽出物から単離されたアントシアニンを開示している。前記アントシアニンは、A型インフルエンザ又はB型インフルエンザに対する抗ウイルス活性を示すと記載されている。しかし、リベス・ニグラムL.の抽出物から単離された純粋なアントシアニンのみが、ヒトA型インフルエンザに対する活性に関して研究されており、抽出物自体の活性は検査されていない。
【0013】
トリインフルエンザにより引き起こされうる差し迫った大流行の場合のための予防的手段として、国際社会の国々は、抗ウイルス性医薬を頼りにしている。例えば、上記の医薬オセルタミビル(タミフル(登録商標);Hoffman La Roche)は、大流行した場合のための備蓄として幾つかの国により相当量が注文されたが、この医薬は、緊急時にはいち早く涸渇する可能性があると懸念されている。加えて、膨大な需要は、生産量が追いつかない状態をもたらした。
【0014】
加えて、(既知)の抗ウイルス剤の使用は、畜産業において広域スペクトルの医薬として使用されているという事実によってますます危うくなっている。国際的な禁止にもかかわらず、そのような実施により、例えば中国においてこれらの作用物質に対する耐性を幾つかのトリインフルエンザ菌株にもたらした。このことに加えて、これらの作用物質では、場合によっては重篤になりうる副作用が頻繁に起こる。さらに、幾つかの場合において、例えば13歳以上にのみ使用することができるオセルタミビル(タミフル(登録商標))など、これらの医薬は特定の年齢群にのみ適応とされる。
【0015】
インフルエンザ以外で、別の典型的なウイルス感染は感冒疾患である。典型的な感冒疾患のうちに含まれるものは、鼻風邪及び扁桃腺と咽頭の炎症などの気道感染症、並びに咳及び気管支炎である。通常、これらは相次いで起こるが、風邪は、鼻、喉又は気管支に限定された状態を保つこともある。この種類の感冒疾患は、「ウイルス性の風邪」とも呼ばれる。これらは、非常に長期間でより重篤な疾患の進行を示し、原則的に発熱を伴うインフルエンザウイルスにより生じるインフルエンザと混同されるべきではない。
【0016】
記述された感冒疾患もウイルスにより引き起こされる。例えば、鼻風邪を引き起こしうる百を超える異なる種類のウイルスが存在するので、それに対するワクチンを開発することはほとんど不可能であるだろう。したがって、鼻風邪又は風邪一般の治療は、症状の緩和を目標にしている。通常、十分に試されている家庭療法がこうした場合に使用される。例えば、ひどい鼻詰まりは、高温蒸気の吸入により改善することができる。鼻粘膜を膨張させて、粘液を下降させ、排出を促進する。これは、例えば、数滴のチャノキ(tea−tree)油又はカミツレ(camomile)油を熱湯に加えることによって促進することができる。鼻を食塩水で日常的にすすぐことにより鼻風邪に対する罹病性を低減できることも知られている。
【0017】
自助手段に加えて、薬剤は膨張鼻粘膜における血管の収縮を助け、粘膜の沈静化をもたらすことができる。しかし、鼻粘膜の膨張を低減する点鼻薬は2又は3日間より長く使用するべきではない。これを過ぎると、点鼻薬を中止したとき、鼻粘膜がさらに膨張し、「反跳膨張」(薬剤性鼻炎)が発症する可能性がある。
【0018】
化学合成鼻腔噴霧剤と異なり、植物医薬品(phytopharmaceutical)は副作用をほとんど有さない。長期間使用したとしても、植物医薬品は鼻粘膜を損傷せず、薬剤性鼻炎をもたらさない。植物医薬品の適用が早いほど、より効果的である。風邪の最初の兆候の時点で支援するため、植物医薬品を既に使用していてもよい。また、植物医薬品は感染の蔓延に対抗する。
【0019】
例えば、多くの場合にエキナセア(echinacea)調合剤は、感冒疾患のために摂取され、それによって、多様な植物化学組成物の多様な薬剤が多数市販されている。しかし、矛盾した結果であるが、これらの植物治療剤の効能に対する対照試験は、限定された程度までしか存在していない。しかしごく最近、新たな研究が、エキナセアが想定された効能を有さないことを明らかにした。この研究は、多様な植物化学プロファイルを有する3つのエキナセア調合剤で実施され、これらの調合剤は、二酸化炭素、60%エタノール又は20%エタノールによるE.アングスチホリア(angustifolia)の根の抽出によって得られたものであった。この研究に参加した、ライノウイルス感染を有する合計437人の志願者に、ウイルスへの暴露の7日前に予防として又は暴露時に治療として薬剤を投与した。この研究は、プラセボを投与した対照群を含んでいた。3つのエキナセア抽出物とプラセボの間に、感染率、症状の重篤度、鼻分泌物の量、白血球のレベル、鼻腔潅注水中のインターロイキン8の濃度又は定量的ウイルス力価に関して有意な差はなかった(Deutsches Arzteblatt 102、2005年12月2日第48刷、A−3341/B−2822/C−2640ページ及びthe New England Journal of Medicine、2005、353、341〜348)。
【0020】
植物に基づいたさらなる薬剤は、ペラゴニウムレニフォルメ(Pelargonium reniforme)又はシドイデス(sidoides)の根の抽出物であり、ウムカロアボ(Umckaloabo)(登録商標)の名称で市販されている。ウムカロアボ(登録商標)は、気道の病気のみならず、胃腸の病気にも伝統的に使用されている。効能を決定する成分は、クマリン及びタンニンなどの多数の抗菌及び免疫調節成分であると現在考えられている。抽出物は、抗菌、抗ウイルス及び分泌物溶解(secretolytic)作用を発現すると仮定されているが、この領域において十分な経験の収集が未だできていないため、この薬剤は妊娠中又は授乳中の女性、或いは肝臓若しくは腎臓の疾患を有する又は出血傾向の強い患者に使用するべきではない。さらに、ウムカロアボ(登録商標)は、他の植物医薬品と比較して非常に高価である。
【0021】
他の重篤な疾患は、レトロウイルスにより引き起こされる。
【0022】
レトロウイルスは、リバーストランスクリプターゼ酵素を使用してRNAゲノムからDNAを産生するRNAウイルスである。リバーストランスクリプターゼは、一本鎖RNAを一本鎖DNAに転写するDNAポリメラーゼ酵素である。さらに、リバーストランスクリプターゼは、RNAが一本鎖DNAに逆転写されると、二重らせんDNAの形成を助ける。そのように形成されたウイルスのDNAは、次に、インテグラーゼ酵素により宿主ゲノムに組み込まれ、複製される。レトロウイルスは、レトロウイルス科に属するエンベロープウイルスであり、内在性と外来性のレトロウイルスに分けることができる。
【0023】
内在性レトロウイルスは、染色体DNAに遺伝因子として存在する。ヒト、哺乳動物及び他の脊椎動物の古代のウイルス感染に由来し、次世代に伝えられ、ゲノム中にとどまっている。ヒト内在性レトロウイルスは、幾つかの自己免疫性疾患、特に多発性硬化症において役割を果たすと推定されている。
【0024】
外来性レトロウイルスは、動物から動物へ又は人から人へ伝播する水平伝播感染RNA含有ウイルスである。水平伝播は、ほぼ例外なく体液により発生し、塗抹感染(smear infection)による伝播は極めて希であり、空気による伝播は、除外することができる。外来性レトロウイルス由来の又は関連の疾患は、例えば、ネコ白血病又は肉腫、トリ白血病又は肉腫、マウス白血病又は肉腫、ウマ感染性貧血、ウシ白血病、ヤギ関節炎脳炎、ヒト成人T細胞白血病、ヒト熱帯性痙性不全対麻痺症(human tropic spastic paraparesis)及びAIDSである。
【0025】
しかし、ヒトにおける最も重症のウイルス感染の一つは、HIV(ヒト免疫不全ウイルス)感染である。ヒトにおけるHIV感染は世界的に流行している。HIVに感染した大部分の個人は、免疫系が崩壊し始めて生命を脅かす日和見感染をもたらすヒトの状態であるAIDSを、最終的に発症する。AIDSが最初に認識された1981年以来、2500万を超える人が死亡している。2007年には、3060万人〜3610万人がHIVと共に生きていると考えられ、およそ210万人が死亡し、250万人の新たな感染が報告された。HIVの最大の有病率を有するアフリカでは、平均寿命は、疾患を有さない場合よりもおよそ6.5年少ない。このことは、大きな経済的損失及び貧困の増加をもたらす。
【0026】
HIV感染は、4つの段階:一次感染、臨床的無症候段階、症候性HIV感染及びHIVからAIDSへの進行に分けることができる。
【0027】
一次HIV感染である感染の第1段階は、数週間続き、流行性感冒様症状が含まれうる。この段階では、免疫系は、末梢血における大量のHIVに起因して、HIV抗体及び細胞毒性リンパ球を産生し始める。
【0028】
臨床的無症候段階又は潜伏段階である第2段階において、末梢血における多数のウイルス粒子は、強力な免疫防御により低減される。前記の段階はおよそ10年間続き、主な症状はない。しかし、HIVはリンパ節において活性であり、人は感染したままである。
【0029】
症候性HIV感染である感染の第3段階は、免疫系がHIVにより極めて損傷を受けている段階により特徴付けられる。リンパ節及び組織は、長年にわたる活性によって損傷を受け、HIVは突然変異し、より病原性になり、より多数のヘルパーT細胞の破壊をもたらし、感染体は、損失したヘルパーT細胞の補充に対応することができない。ヘルパーT細胞の数の減少に起因して、細胞性免疫は失われ、多様な日和見感染が現れる。この段階は、感染の第4段階、すなわちHIVからAIDSへの進行を最終的にもたらす。
【0030】
ワクチン接種は、ウイルス性の病気を予防する最も重要な手段となる。しかし、現在、HIV感染のワクチン又は治癒法で利用可能なものはない。
【0031】
一般に、レトロウイルスにより引き起こされる感染は、抗レトロウイルス薬で治療される。HIV感染は、高活性抗レトロウイルス療法(HAART)により現在治療されている。前記療法は、少なくとも2つの部類の抗レトロウイルス剤に属する少なくとも3つの異なる薬剤の組み合わせである。1種類の薬剤のみを摂取した場合、HIVは前記薬剤に対して耐性になる。幾つかの抗レトロウイルス薬を同時に摂取することは、耐性発生率を低減し、治療を長期的により効果的にする。現在、5つの群に分けられる20を超える認可済抗ウイルス薬が利用可能である。これらの群のそれぞれが異なる経路でHIVを攻撃する。第1群の抗レトロウイルス剤は、ヌクレオシド/ヌクレオチドリバーストランスクリプターゼ阻害剤(NRTI)である。前記阻害剤は、新たなコピーを作製するウイルスにより必要とされるリバーストランスクリプターゼタンパク質を妨害する。第2群の化合物は、非ヌクレオシドリバーストランスクリプターゼ阻害剤(NNRTI)であり、リバーストランスクリプターゼタンパク質を阻害することによって、HIVが複製するのを妨げる。第3群の抗レトロウイルス剤は、プロテアーゼ阻害剤(PI)である。前記作用物質は、HIV複製プロセスに必要とされるプロテアーゼを阻害する。第4の部類の薬剤は、融合又は侵入阻害剤であり、HIVがヒト免疫細胞に結合又は侵入するのを防止する。前記薬剤は、一般的な療法に対して既に耐性であるウイルスに感染している患者に特に使用される。第5の部類の阻害剤は、インテグラーゼを妨害するインテグラーゼ阻害剤である。前記酵素は、ウイルスがその遺伝物質をヒトの細胞に挿入するために必要である。
【0032】
高活性抗レトロウイルス治療は、患者を治癒するのではなく、HIV感染患者の身体全体の健康及び生活の質を改善する。現在、HIVに感染した人の平均寿命は、感染時からおよそ32年間である。HARRTを用いないと、HIV感染からAIDSへの進行は、通常9〜10年後に生じ、AIDS発症後の生存時間中央値は僅か9か月である。HIV感染に対する効果的な治療としてのHAARTの開発は、薬剤が広く入手可能である地域において死亡率を実質的に低減した。
【0033】
高活性抗レトロウイルス療法における最も一般的な薬剤の組み合わせは、NNRTI又はプロテアーゼ阻害剤のいずれかと組み合わせた2つのNRTIからなる。最も一般的には、リトナビルがプロテアーゼ阻害剤として使用される。抗レトロウイルス薬の組み合わせの例は、NNRTIエファビレンツと組み合わせた2つのNRTI、すなわちジドブジン及びラミブジンを含有する。一般的に使用されるNRTIは、ラミブジン、アバカビル、ジドブジン、スタブジン、ザルシタビン、ジダノシン、エムトリシタビン及びテノホビルである。典型的に使用されるNNRTIは、デラビルジン、エファビレンツ、エトラビリン及びネビラピンである。標準的なプロテアーゼ阻害剤は、アンプレナビル、ホスアンプレナビル、アタザナビル、ダルナビル、インジナビル、ロピナビル、リトナビル、ネルフィナビル、サキナビル及びチプラナビルである。融合又は侵入阻害剤として、エンフビルチド及びマラビロクが、通常使用される。一般的に使用されるインテグラーゼ阻害剤は、ラルテグラビルである。
【0034】
しかし、時に患者は薬剤不耐性を示し、高活性抗レトロウイルス療法は、場合によっては重篤な副作用を引き起こし、希な場合には生命を脅かすことさえある。さらに、遵守及び持続されないことが、治療が失敗する主な理由である。遵守及び持続されない理由は、心理社会的な問題、例えば、医療支援が利用しにくいこと、不十分な社会的支援、精神疾患及び薬物乱用である。さらに、レジメンが非常に複雑であり、大量の丸剤、特定の投与頻度、食事制限及び他の課題が要求される。治療中に起こる典型的な副作用は、脂肪異栄養症、異脂肪血症、インスリン抵抗性、心血管の危険性の増加及び先天性欠損である。抗レトロウイルス薬による治療中に起こるさらなる副作用は、下痢、悪心、嘔吐、発疹、過敏反応、食欲喪失、中枢神経系の作用(眩暈、気分変化、抑うつ、不安及びパラノイアなど)、疲労、不眠症、腎臓損傷、肝臓損傷、膵臓損傷、乳酸アシドーシス及び神経損傷である。前記副作用は、健康及び生活の質に対して大きな影響を有しうる。
【0035】
さらに、抗レトロウイルス薬は、高価であり、感染した個人の大部分は、HIV及びAIDSの薬剤及び治療を利用することができない。例えば、融合及び侵入阻害剤、並びにインテグラーゼ阻害剤は、財源の豊かな国においてのみ入手可能である。
【0036】
したがって本発明の目的は、経済的に調製することができ、投与されたときに副作用を全く引き起こさないか又は僅かな副作用しか引き起こさない、ウイルス感染の予防及び/又は治療のための抗ウイルス組成物を提供することである。
【0037】
この目的は、ウイルス感染の予防及び/又は治療にリベス属の植物の抽出物を使用することによって、達成される。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】インフルエンザA型ウイルス/プエルトリコ/8/34(H1N1)(PR8)(ヒト)に対するリベス・ニグラムの小枝及び葉の抽出物の抗ウイルス活性の結果を示す。
【図2】HIV−1に対するリベス・ニグラムの小枝及び葉の抽出物とT20の抗ウイルス活性の結果を示す。
【図3】リベス・ニグラムの小枝及び葉の抽出物とT20の細胞毒性アッセイの結果を示す。
【0039】
[発明の詳細な説明]
本発明は、ウイルス感染の予防及び/又は治療に使用するための組成物であって、リベス属の植物の少なくとも1つの地上部の抽出物を含み、地上部が、葉及び小枝からなる群より選択される、組成物に関する。
【0040】
上記又は下記に提示されている実施態様のいずれか1つと組み合わせた好ましい実施態様において、ウイルス感染は感冒疾患を含む。
【0041】
より好ましくは、感冒疾患は、ライノウイルス、アデノウイルス又はコロナウイルスにより引き起こされる一次感染を含む。
【0042】
上記又は下記に提示されている実施態様のいずれか1つと組み合わせたさらに好ましい実施態様において、組成物は鼻風邪の治療のために使用される。
【0043】
上記又は下記に提示されている実施態様のいずれか1つと組み合わせた別の好ましい実施態様において、ウイルス感染はインフルエンザを含む。より好ましくは、インフルエンザはトリインフルエンザである。
【0044】
上記又は下記に提示されている実施態様のいずれか1つと組み合わせたさらに好ましい実施態様において、ウイルス感染は、レトロウイルスにより、より好ましくはレンチウイルスにより引き起こされる。特に、ウイルス感染は、HIV−1及び/又はHIV−2により引き起こされる。
【0045】
上記又は下記に提示されている実施態様のいずれか1つと組み合わせた好ましい実施態様において、植物はリベス・ニグラムL.である。
【0046】
上記又は下記に提示されている実施態様のいずれか1つと組み合わせた別の好ましい実施態様において、植物はリベス・ルブルム(Ribes rubrum)L.である。
【0047】
上記又は下記に提示されている実施態様のいずれか1つと組み合わせた好ましい実施態様において、組成物は、リベス属の植物の果実の抽出物をさらに含む。
【0048】
上記又は下記に提示されている実施態様のいずれか1つと組み合わせた好ましい実施態様において、組成物は、液体、乾燥又は半固体の形態である。
【0049】
上記又は下記に提示されている実施態様のいずれか1つと組み合わせた好ましい実施態様において、抽出物は、水性抽出物又はアルコール性抽出物である。
【0050】
上記又は下記に提示されている実施態様のいずれか1つと組み合わせた好ましい実施態様において、組成物は、経口、鼻腔内又は局所投与される。
【0051】
代替として好ましい実施態様にておいて、組成物は、経鼻剤、吸入混合物、エアゾール剤又はルームスプレー剤(room spray)として存在する。
【0052】
組成物は、錠剤、コーティング錠、発泡錠、カプセル剤、粉末剤、顆粒剤、糖衣錠、軟膏剤、ゲル剤、クリーム剤、うがい液剤又は植物液汁の形態で好ましくは存在することもできる。
【0053】
本発明は、ウイルス感染の予防及び/又は治療のための薬剤を調製するための、リベス属の植物の少なくとも1つの地上部の抽出物の使用であって、地上部が葉及び小枝からなる群より選択される、使用にさらに関する。
【0054】
本発明において、用語「植物の地上部」は、葉、小枝、花、果実及び種を含む、地上にある全ての部分を意味する。本発明の抽出物の調製には、好ましくは葉及び小枝が使用される。
【0055】
本発明において、用語「小枝」は、最大3cmの直径を有する小さな茎頂又は枝を意味する。好ましくは、小枝の直径は1cmまでである。
【0056】
本発明によると、用語「抽出物」は、浸軟又は浸出などの溶媒を用いる抽出に付される草木から得られる全ての生成物について代表的に使用される。
【0057】
本発明において、用語「予防」は、疾患を防止する手順を意味する。予防的処置は、一次予防(疾患の発症の防止)及び二次予防(疾患が既に発症したときの悪化の防止)に分けることができる。
【0058】
インフルエンザ感染原体は、A、B及びC型ウイルスである。ヒトにおける季節発生性インフルエンザは、H1、H2及びH3の亜型を有するインフルエンザA型ウイルスにより、並びにインフルエンザB型ウイルスにより引き起こされる。トリインフルエンザは、H5、H7及びH9の亜型により主に引き起こされる。
【0059】
記載されている抽出物は、トリインフルエンザの予防及び/又は治療に特に適している。特に、抽出物を、H5及びH7の亜型により引き起こされるトリインフルエンザの予防及び/又は治療に使用することができる。
【0060】
本発明の目的において感冒疾患として理解されるものは、原則として鼻腔、咽頭、喉頭、気管及び気管支を意味する気道の炎症である。用語「感冒疾患」及び「ウイルス性の風邪」は、この場合では同義的に使用される。ウイルス性の風邪はインフルエンザと区別され、それは後者がインフルエンザウイルスのみによって引き起こされるからである。
【0061】
一方、ウイルス性の風邪は、アデノウイルス、コロナウイルス及び/又はライノウイルスにより通常もたらされる。
【0062】
アデノウイルス(アデノウイルス科)は、エンベロープのない立方対称性の(cubic)DNAウイルスの科に属し、60〜90nmの直径を有する。ゲノムは、およそ36kbの長さの線状二本鎖DNAからなる。A〜Fの亜属におけるおよそ35のヒト病原型を含む、およそ50の免疫学的に異なる型のアデノウイルスが区別される。アデノウイルス科は、哺乳動物に感染するマストアデノウイルス属及び多様なトリ種に特有のアビアデノウイルス属に分けられる。アデノウイルスは、化学及び物理作用にさらされても並はずれて安定していることにより特徴付けられ、最も有害なpHレベルに耐え、このことは、宿主体の外側での比較的長期間の生存時間を可能にする。
【0063】
アデノウイルスは、気道の病気を主に引き起こす。しかし、特定の血清型に応じて、多数の他の病気を引き起こすこともあり、例えば胃腸炎、結膜炎、膀胱炎、咽頭炎又は下痢である。アデノウイルスにより引き起こされる気道の病気の症状は、感冒から気管支炎や肺炎におよぶ。免疫系の弱まった患者の場合、例えばARDS(急性呼吸促迫症候群)などのアデノウイルス感染による重篤な合併症に特にかかりやすい。さらに、ヒトにおいてAd−36型ウイルスと肥満の間に相関関係があると推定される。
【0064】
コロナウイルス科の属に属するコロナウイルスは、ヒトの上気道の軽度の病気、希に胃腸炎及びSARS関連コロナウイルスSARS−CoVにより引き起こされる重症急性呼吸器症候群(SARS)を一般に引き起こす。
【0065】
コロナウイルスは、エンベロープ多形性RNAウイルスの科に分類され、70〜160nmの直径を有する。コロナウイルスは、長さが20〜30kbの一本鎖プラスセンスRNAを有する。コロナウイルス科の属は、3つの属:コロナウイルス、アルテリウイルス及びトロウイルスに分けられる。これらのうち、コロナウイルスのみが、ヒト病原性ウイルスを含む。ウイルスの伝播は、汚物としての飛沫感染(ガス産生性)又は塗抹感染(糞口)又は感染した人からの単純な接触感染(機械的)を介しても発生する。この場合、若齢の感染生物は、高齢の感染生物よりも重篤な病気になる可能性がある。コロナウイルスは、ヒトにおける感冒疾患の15〜30%を引き起こし、微熱、鼻風邪、咳及び咽喉炎を伴う。
【0066】
感染、アレルギー及び非アレルギー機構により引き起こされるかゆみ、くしゃみ、分泌及びうっ血の症状を伴う鼻粘膜の急性及び慢性的な刺激は、鼻炎、鼻カタル、鼻感冒又は通称、鼻風邪と呼ばれる。病原体は、通常、ピコルナウイルス−ライノウイルスの属である。ライノウイルスによる感染は、直接的な伝播によって、例えば汚染した手を介して又は飛沫感染を介しても発生する。
【0067】
この属の115を超える血清型が現在までに同定されている。ライノウイルスは、長さが7.2〜8.5kbの一本鎖プラスセンスRNA(メッセンジャーRNA)を有する。ライノウイルスは、正二十面体構造及び24〜30cmの直径を有する裸のウイルスである。RNAを取り囲む10〜15nm厚のタンパク質エンベロープ(カプシド)は、プロトマーと呼ばれる、対称的に配置された60のサブユニットからなる。それぞれのプロトマーは、4つのカプシドタンパク質VP1、VP2、VP3及びVP4からなる。プロトマーが複数あることが、ライノウイルスの抗原多様性の原因であると考えられる。
【0068】
既に記述されているように、感冒疾患は、アデノウイルス、コロナウイルス及び/又はライノウイルスにより通常引き起こされる。感染ウイルスの種類によって、鼻風邪、咳、嗄声、例えば扁桃腺と咽頭の炎症により引き起こされる咽喉炎、関節痛及び頭痛、悪寒、微熱、並びに極度疲労などの風邪合併症が起こりうる。本発明の目的において、気管支炎及び気管支肺炎も、感冒疾患と見なされる。
【0069】
これらの感冒疾患のうち、冬の期間の鼻風邪が最も頻繁に発生する。鼻風邪は、ライノウイルス又は頻度は低いがアデノウイルスの感染により引き起こされる。記載されている組成物又は調合剤は、鼻風邪の予防及び/又は治療のために、特にライノウイルスにより引き起こされる鼻風邪の予防及び/又は治療のために使用されることが好ましい。
【0070】
さらに、既に存在するウイルス感染において「定着(set up)」する細菌感染が、感冒疾患により起こりうる。この種類の感染は、二次細菌感染又は細菌重複感染と呼ばれる。本発明の組成物の使用は、これらの二次細菌感染の予防及び/又は治療も考慮する。
【0071】
レトロウイルスのビリオンは、約100nmの粒子直径を有するエンベロープ粒子からなり、長さが7〜10kbの2つの同一の一本鎖RNA分子も含有する。レトロウイルスの主要成分は、
宿主原形質膜から得た脂質二分子層から構成されるエンベロープ、
5’末端にキャップ及び3’末端にポリアデニルを有する二量体RNA、並びに
ウイルスカプシドの主要成分としてgagタンパク質と、ビリオン成熟の際にタンパク質分解的切断において機能するプロテアーゼと、ウイルスDNAの合成及び感染後の宿主DNAへの組み込みに関与するpolタンパク質と、ビリオンの宿主細胞との会合及び宿主細胞への侵入において役割を果たすenvタンパク質とを含有する、タンパク質
である。
【0072】
HIVは、レトロウイルス科のファミリー及びレンチウイルスの属に属するウイルスである。HIVは、約120nmの直径を有するほぼ球状であり、ビリオンの発生に必要なヌクレオカプシドタンパク質と酵素(例えば、リバーストランスクリプターゼ、プロテアーゼ、リボヌクレアーゼ及びインテグラーゼ)に結合しているプラス一本鎖RNAの2つのコピーから構成される。カプシドはウイルスタンパク質から構成されるマトリックスにより囲まれ、ヒト細胞の膜のリン脂質の2つの層から構成されるウイルスエンベロープによりさらに囲まれている。前記エンベロープには、宿主細胞のさらなるタンパク質及び複合HIVタンパク質のコピーが埋め込まれている。タンパク質は、糖タンパク質の3つの分子から作製されるcap及び構造をウイルスエンベロープに固着するシュテム(stem)からなる。糖タンパク質は、ウイルスを標的細胞に結合及び融合させて、感染サイクルを開始することができる。
【0073】
HIVは、免疫系及び中枢神経系の細胞に感染する。特に、HIVは、標的細胞のレセプターへの糖タンパク質の吸着、ウイルスエンベロープと細胞膜の融合及び細胞内へのHIVカプシドの放出によって、マクロファージ及びヘルパーT細胞、特にCD4+T細胞に侵入する。細胞内に貫入した後、HIVは自身の新たなコピーを産生し、他の細胞に感染し続ける。このようにして、HIV感染は、ウイルスによる感染細胞の直接的な死滅、感染細胞のアポトーシスの割合の増加及び感染細胞を認識するCD8細胞毒性リンパ球による感染CD4+T細胞の死滅による3つの主な機構を介して、ヘルパーT細胞の数の減少を最終的にもたらす。CD4+T細胞のレベルが臨界レベルを下回って低下すると、細胞性免疫は失われ、身体は、日和見感染に対してより感受性になる。
【0074】
HIVをHIV−1及びHIV−2にさらに分けることができる。HIV−1では、A〜Jの亜型が存在し、最も一般的な亜型は、1A、1B、1C及び1Dである。HIV−2をA〜Eの亜型に分けることができる。HIV−2はHIV−1よりも病原性は低い。
【0075】
HIVの他に、別のヒトレトロウイルスは、ヒトTリンパ球向性ウイルス、特にヒトTリンパ球向性ウイルス1型(HTLV−1)である。HTLV−1は、T細胞白血病及びT細胞リンパ腫を引き起こすヒトRNAレトロウイルスであり、熱帯性痙性不全対麻痺症などの脱髄疾患に関与することもある。
【0076】
さらなるレトロウイルスには、ネコ白血病又は肉腫、トリ白血病又は肉腫、マウス白血病又は肉腫、ウマ感染性貧血、ウシ白血病及びヤギ関節炎脳炎などの疾患を引き起こす、トリ白血病ウイルス、ラウス肉腫(sarcome)ウイルス、マウス乳癌ウイルス、ネズミ白血病ウイルス、ネコ白血病ウイルス、ウシ白血病ウイルス、ウォールアイ(Walley)皮膚肉腫ウイルス、サル及びネコ免疫不全(immunodeficency)ウイルス、ウマ感染性貧血ウイルス、並びに、サル泡沫状ウイルスが含まれる。
【0077】
本発明によると、リベス植物は、ウイルス感染の予防及び/又は治療のための組成物を生成するために使用される。
【0078】
リベスは、約150種におよぶ顕花植物の属であり、北半球の温帯地方の全体わたって、並びに中央及び南アメリカの山岳地帯において原生している。リベスの属には、スグリ及びグズベリーが含まれる。
【0079】
本発明において特に興味深いものは、
リベス・ニグラムL.(R.ニグラムL.)、
リベス・ルブルムL.(R.ルブルムL.)
である。
【0080】
R.ニグラムL.及びR.ルブルムL.は、フラボノイド、テルペノイド及び精油を異なる濃度で含有する。例えば、濃度は、リベス植物の葉及び果実に関して異なっていることがある。従って、以下において、葉及び果実は別々に考慮される。
【0081】
科学用語「リベス・ニグリ葉(R.ニグリ葉)」(“Ribes nigri folium(R.nigri folium)”)は、R.ニグラムL.の葉を意味し、用語「リベス・ニグリ果実(R.ニグリ果実)」(“Ribes nigri fructus(R.nigri fructus)”)は、R.ニグラムL.の果実を意味する。したがって、リベス・ルブリ葉(R.ルブリ葉)(Ribes rubri folium(R.rubri folium))は、R.ルブルムL.の葉を意味し、リベス・ルブリ果実(R.ルブリ果実)(Ribes rubri fructus(R.rubri fructus))は、R.ルブルムL.の果実を意味する。
【0082】
フラボノイドは、2つの芳香族環及び1つの酸素化複素環から基本的になる。O−複素環の構造の差を使用して、フラボノイドは次の6群:フラボノール、フラバノール、フラバノン、フラボン、アントシアニン及びイソフラバノイドに分けることができる。R.ニグラムL.において検出される幾つかの成分は、ケルセチン及びミリセチンなどのフラボノール、並びにこれらのグリコシド、また、プロアントシアニジンの二量体又はオリゴマーである。
【0083】
R.ニグリ葉は、微量の精油、フラボノグリコシド及びプロアントシアニジンを含む。R.ニグリ果実は、アントシアニジン及びフラボノールグリコシド、特にイソケルシトリン(isoquecitrin)、ミリセチン−D−グルコピラノシド及びルトシンを含有する。R.ニグリ果実の更なる成分は、クエン酸、イソクエン酸及びリンゴ酸などの果実酸、ヒドロキシケイ皮酸(hydroxycinammic acid)誘導体、ビタミンC及び種子中のγ−リノール酸である。
【0084】
R.ルブリ葉は、アストラガリン及びイソケルセチンなどのフラボノールグリコシド、プロシアニジン(porcyanidines)並びにカテキン誘導体を含有する。R.ルブリ果実は、ビタミンC、果実酸、ペクチン、プロシアニジン及びタンニンを含有する。種は、γ−リノール酸を含む[Hager’s Handbuch der pharmazeutischen Praxis、Drogen P−Z、5.、vollstandig neubearbeitete Auflage、Springer−Verlag、1993、Seite466〜474]。
【0085】
本発明に使用される組成物は、葉及び小枝の群から選択される植物の少なくとも1つの地上部から生成される。好ましくは、同じ年に再び成長する植物の気生新芽が使用される。一般に、葉、小枝、花、果実及び種などの植物の地上部の全ての要素を使用することができる。好ましくは、葉及び花を伴った小枝が使用される。
【0086】
上記又は下記に提示されている実施態様のいずれか1つと組み合わせた別の好ましい実施態様において、果実の抽出物が、葉及び小枝から生成された組成物に加えられる。
【0087】
葉、小枝及び果実を含む植物の部分を、乾燥することができるか又は、圧搾により液汁を生成するために、採取した後、直接、すなわち生の状態で、適切であれば砕いた後に、圧搾することができる。
【0088】
上記又は下記に提示されている実施態様のいずれか1つと組み合わせたさらなる実施態様において、植物部分は、例えば浸軟又は浸出などの溶媒を用いる抽出に生の状態で提供される。あるいは、植物部分を、乾燥する及び/又は続いて、抽出の前に適切な手段により、例えば摩擦又は切断により小片に分解することもできる。
【0089】
上記又は下記に提示されている実施態様のいずれか1つと組み合わせた好ましい実施態様において、R.ニグリ葉及び/又はR.ルブリ葉が、本発明の抽出物の調製に使用される。上記又は下記に提示されている実施態様のいずれか1つと組み合わせた別の好ましい実施態様において、R.ニグリ葉及びR.ニグリ果実が、抽出物の調製に使用される。上記又は下記に提示されている実施態様のいずれか1つと組み合わせたさらに好ましい実施態様において、R.ルブリ葉及びR.ルブリ果実が使用される。上記又は下記に提示されている実施態様のいずれか1つと組み合わせた別の好ましい実施態様において、R.ニグリ葉及びR.ルブリ果実が、抽出物の調製に使用される。上記又は下記に提示されている実施態様のいずれか1つと組み合わせた別の好ましい実施態様において、R.ルブリ葉及びR.ニグリ果実が、抽出物の調製に使用される。
【0090】
上記又は下記に提示されている実施態様のいずれか1つと組み合わせた実施態様において、組成物は、リベス植物の抽出物の形態である。一般に、適切な溶媒による、葉、小枝及び果実を含む植物部分の抽出が実施される。適切な溶媒は、水、メタノール、エタノール若しくはイソプロピルアルコールなどのアルコール又はジクロロメタンなどの塩素化溶媒、並びにアセトン、アセチルアセトン、酢酸エチル、アンモニア又は氷酢酸であり、また超臨界二酸化炭素である。記述された溶媒の混合物を使用することもできる。上記又は下記に提示されている実施態様のいずれか1つと組み合わせた好ましい実施態様において、水又は水とメタノール若しくはエタノールの混合物が使用される。
【0091】
抽出は、通常は25℃の温度から、適切であれば、使用される溶媒の沸点の高さで実施される。好ましくは、95〜100℃での抽出である。
【0092】
抽出は、通常は2〜8時間実施される。好ましくは、抽出は3〜6時間、より好ましくは4〜5時間実施される。さらに、ブタ脂肪などの脂肪、ミツロウなどのロウ又はオリーブ油及びアーモンド油などの油を抽出に使用することができる。好ましくは、アーモンド油が使用される。
【0093】
可能な限り高い収量を達成するために、植物材料を数回抽出することができる。好ましくは、抽出は、2〜6回、より好ましくは3回繰り返される。この場合、多様な抽出工程において異なる溶媒を使用することも可能であり、或いは溶媒による抽出の後に、脂肪、ロウ若しくは油による抽出を続けることができるか又はその逆を行うこともできる。
【0094】
抽出の結果として、液体、半固体又は固体の原生成物が得られ、ウイルス感染の予防及び/又は治療のための組成物の生成にこの形態で使用することができる。
【0095】
浸軟手順は、水とエタノールの混合物を用いて室温で通常は5〜9日間、好ましくは7日間実施され、溶媒混合物を植物要素に注ぎ、これを記述された期間放置することよって実施される。
【0096】
本発明によると、植物部分の浸出は、植物部分の中に水を通して、植物部分を水により95〜100℃で4〜5時間処理することによって、通常達成される。
【0097】
浸軟又は浸出などの溶媒を用いる抽出により得られる粗生成物を、使用前に、濃縮及び/又は乾燥及び/又はさらに加工することもできる。さらなる加工は、例えば、抽出物から懸濁物質を除去するために、遠心分離、濾過及び傾瀉などの当業者に既知の清浄工程を含むことができる。カラムクロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー若しくはHPLCなどのクロマトグラフィー又は蒸気蒸留を精製に使用することもできる。好ましい実施態様において、粗生成物は、さらなる精製工程なしに使用される。
【0098】
この方法で得られる抽出物を、続いてさらに加工して乾燥抽出物にすることができる。乾燥抽出物を生成するために、溶媒を、例えば噴霧乾燥、凍結乾燥又は真空乾燥により、液体原抽出物、濃縮抽出物又は清浄抽出物から回収することができる。
【0099】
リベス植物の組成物を、上記に記載されたそれぞれの形態でウイルス感染の予防及び/又は治療に使用することができる。
【0100】
組成物は、ライノウイルス、アデノウイルス又はコロナウイルスにより引き起こされる感冒疾患の予防及び/又は治療に好ましく使用される。
【0101】
上記又は下記に提示されている実施態様のいずれか1つと組み合わせた好ましい実施態様において、R.ニグラムL.の抽出物は、ライノウイルスにより引き起こされる風邪疾患の予防及び/又は治療に使用される。特に、前記抽出物はR.ニグリ葉の抽出物である。
【0102】
上記又は下記に提示されている実施態様のいずれか1つと組み合わせた別の好ましい実施態様において、R.ニグラムL.の抽出物は、アデノウイルスにより引き起こされる風邪疾患の予防及び/又は治療に使用される。特に、前記抽出物はR.ニグリ葉の抽出物である。
【0103】
上記又は下記に提示されている実施態様のいずれか1つと組み合わせたさらに好ましい実施態様において、R.ニグラムL.の抽出物は、コロナウイルスにより引き起こされる風邪疾患の予防及び/又は治療に使用される。より好ましくは、前記抽出物はR.ニグリ葉の抽出物である。
【0104】
記載されている抽出物は、A及びB型インフルエンザの予防及び/又は治療にさらに使用される。上記又は下記に提示されている実施態様のいずれか1つと組み合わせた好ましい実施態様において、抽出物は、トリインフルエンザの予防及び/又は治療に適している。特に、抽出物を、H7亜型により引き起こされるトリインフルエンザの予防及び/又は治療に使用することができる。
【0105】
好ましくはR.ニグラムL.の抽出物は、A及びB型インフルエンザの予防及び/又は治療に使用され、より好ましくはR.ニグリ葉の抽出物が使用される。
【0106】
別の好ましい実施態様において、リベス植物の組成物を、上記に記載されたそれぞれの形態でレトロウイルスにより引き起こされるウイルス感染の予防及び/又は治療に使用することができる。組成物は、レンチウイルス、特にHIV−1及び/又はHIV−2により引き起こされるウイルス感染の予防及び/又は治療に好ましく使用される。
【0107】
上記又は下記に提示されている実施態様のいずれか1つと組み合わせたさらに好ましい実施態様において、R.ニグラムL.の抽出物は、レトロウイルスにより引き起こされるウイルス感染の予防及び/又は治療に使用される。特に、前記抽出物はR.ニグリ葉の抽出物である。特に、抽出物を、HIV−1及び/又はHIV−2により引き起こされるウイルス感染の予防及び/又は治療に使用することができる。
【0108】
したがって本発明の組成物を、薬剤として投与することができる。治療的な使用に加えて、組成物は、感冒疾患の非治療的な予防及び/又は処置にも適している。
【0109】
組成物を、医療及び非医療用途の両方において、当業者に周知のそれぞれの適用形態、例えば、錠剤、コーティング錠、発泡錠、カプセル剤、粉末剤、顆粒剤、糖衣錠、軟膏剤、クリーム剤、ゲル剤、液剤又は噴霧剤として適用することができる。好ましくは、組成物は鼻腔噴霧剤として適用される。
【0110】
生薬(galenic)及び他の適用形態において、組成物を、錠剤結合剤、充填剤、防腐剤、錠剤開放剤(tablet−opening agent)、流動性調節剤、軟化剤、湿潤剤、分散剤、乳化剤、溶媒、遅延剤、酸化防止剤、稠度制御剤、浸透性改善剤及び/又は噴射ガスなどの慣用の生薬助剤(galenic aids)を用いて加工することができる。
【0111】
ビタミン及びミネラルなどのさらなる要素を、本発明に使用される組成物に加えることができる。
【0112】
組成物を、例えば動物飼料又は飲料などの食物に加えることもできる。抽出物の形態によって、組成物自体を茶として煎じることもできる。しかし、茶を入れるために、植物部分、例えばリベス植物の葉に熱湯を直接注ぐことも可能である。さらに、組成物は、栄養補助食品の構成成分とすることもでき、冬の期間のそれらの摂取は、生体防御を強めること及び結果的に例えばウイルス感染を予防することに寄与しうる。
【0113】
上記又は下記に提示されている実施態様のいずれか1つと組み合わせたさらなる実施態様において、組成物を、感冒疾患、特に口腔及び咽頭の炎症の予防及び/又は治療のために液剤として、特にうがい液剤として本発明に使用することができる。
【0114】
組成物は、他の植物の構成成分と混合して使用することもでき、その場合、構成成分は、好ましくは植物抽出物の形態である。好ましくは、同様又は相乗的な効果を有する植物又は植物抽出物の構成成分が使用される。例は、コジアオイ属の植物、特にシスタス・インカヌス(Cistus incanus)である。
【0115】
適用形態における組成物の濃度は、適用の種類に応じて変わる。原則として、組成物の量は、固体適用形態の投与単位あたり0.5〜1,000mgとなる。好ましくは、組成物の量は、単位あたり1〜500mgとなる。液体適用形態では、組成物は、1μg/ml〜100mg/ml、好ましくは25μg/ml〜50mg/mlの濃度とすることができる。半固体適用形態の場合では、組成物の含有量は、1〜90重量%、好ましくは5〜75重量%となる。
【0116】
上記又は下記に提示されている実施態様のいずれか1つと組み合わせた好ましい実施態様において、組成物は、錠剤の形態で投与される。この場合では、組成物が抽出物の形態であることが好ましい。とりわけ好ましくは、組成物は乾燥抽出物の形態である。
【0117】
上記又は下記に提示されている実施態様のいずれか1つと組み合わせたさらに好ましい実施態様において、組成物は、局所適用のために乳剤、軟膏剤、ゲル剤又はクリーム剤の形態で投与される。この場合、組成物は抽出物の形態で好ましく使用され、ここで活性物質は、脂肪、ロウ又は油を用いる抽出により植物から回収される。この抽出物がさらに加工されて乾燥抽出物になることがさらに好ましく、乾燥抽出物は次に脂肪、ロウ又は油と混合されるか又はそれらに溶解される。
【0118】
上記又は下記に提示されている実施態様のいずれか1つと組み合わせた好ましい実施態様において、組成物は、エアゾール剤又はルームスプレー剤の形態である。好ましくは、リベスの液体又は固体抽出物がこれに使用される。抽出物に加えて、エアゾール剤又はルームスプレー剤は、薬学的に無害の物質、担体媒質及び補助剤を含有することもできる。エアゾール剤又はルームスプレー剤を、特に人、動物及び/又は食物が輸送される全ての種類の輸送手段によってウイルスが接触する又は接触する可能性のある物体及び室内を消毒するのに使用することができる。例えば、ウイルスの蔓延を予防し、したがって人の感染の危険性を最小限にするために、本発明のエアゾール剤又は本発明のルームスプレー剤により航空機を離陸前に噴霧することができる。人に対して毒性作用を全く引き起こさないので、エアゾール剤又はルームスプレー剤を、人の存在下、例えば待合室に噴霧することもできる。
【0119】
上記又は下記に提示されている実施態様のいずれか1つと組み合わせたさらに好ましい実施態様において、組成物を、経鼻剤又は吸入液剤として投与することもできる。経鼻剤は、鼻腔噴霧剤又は鼻腔ゲル剤として使用することができる。投与には、多様なアプリケーター及び分散系を使用することができる。
【0120】
本発明のリベスの使用は、人に限定されず、それどころか動物、特に愛玩動物又は家畜などの哺乳動物にも可能である。
【実施例】
【0121】
以下の実施例は本発明を説明する。
【0122】
リベス抽出物を、細胞毒性及び細胞生存力、並びにライノウイルスに対する抗ウイルス活性、A及びB型インフルエンザに対する抗ウイルス活性及びHIVに対する抗ウイルス活性に関して試験した。
【0123】
ヒトライノウイルス14型は、ライノウイルスに対する抗ウイルス活性を試験する場合にウイルス分離株として使用した。
【0124】
A型インフルエンザウイルスA/ブラティスラバ/79(H7N7)(FPV)(トリ)、A型インフルエンザウイルスA/マガモ/バイエルン/1/2006(H5N1)(トリ)、並びにA型インフルエンザウイルスA/プエルトリコ/8/34(H1N1)(PR8)(ヒト)は、インフルエンザに対する抗ウイルス活性を試験する場合にウイルス分離株として使用した。マディンダービーイヌ腎臓(MDCK)細胞及びA549細胞は、宿主細胞株として使用した。
【0125】
抽出物の特徴を決定するために、以下の実験方法を使用した。
【0126】
さらに、抽出物の毒性濃度を決定した。
【0127】
MDCK IIイヌ肝臓上皮細胞を、異なる濃度(95〜950μg/ml)の抽出物で30分間処理した。続いて、細胞を同じ濃度の抽出物で48時間処理した。
【0128】
細胞病理学的効果(CPE)の実験
第1の試験では、MDCK IIイヌ腎臓上皮細胞を、インフルエンザウイルス株のA型インフルエンザウイルスA/マガモ/バイエルン/1/2006(H5N1)及びA/FPV/ブラティスラバ/79(H7N7)に感染させた。続いて感染細胞を、異なる濃度(95、190、285、380、475、570、665、760、855及び950μg/ml)の抽出物で処理した。
【0129】
第2の試験では、細胞を、異なる濃度(95〜950μg/ml)の抽出物で30分間前処理し、続いてインフルエンザウイルス株のA型インフルエンザウイルスA/マガモ/バイエルン/1/2006(H5N1)及びA/FPV/ブラティスラバ/79(H7N7)に感染させた。続いて感染細胞を、異なる濃度(95、190、285、380、475、570、665、760、855及び950μg/ml)の抽出物で処理した。
【0130】
第3の試験では、ウイルス含有感染溶液を、異なる濃度(95〜950μg/ml)の抽出物で30分間前処理した。細胞を、異なる濃度(95〜950μg/ml)の抽出物で30分間前処理し、続いて前処理したインフルエンザウイルス株のA型インフルエンザウイルスA/マガモ/バイエルン/1/2006(H5N1)及びA/FPV/ブラティスラバ/79(H7N7)に感染させた。続いて感染細胞を、異なる濃度(95、190、285、380、475、570、665、760、855及び950μg/ml)の抽出物で処理した。
【0131】
CPEの50%阻害の有効濃度(EC50)を決定した。
【0132】
[実施例]
リベス・ニグラムL.の抽出物の調製
小枝及び葉を抽出に使用する。植物材料を、野外の日陰において室温で乾燥して、残留含水量を最大で10%に低下させる。続いて、植物部分を8mm以下の大きさに切断する。
【0133】
切断植物部分を、10倍量の精製水Ph.Eur.による95〜100℃での4〜5時間の浸出に供する。生成された溶液を、蒸気温度75〜80℃のプレート蒸発器によって、元の量の18〜19%に濃縮する。乾燥物質の含有量は、およそ45%となる。
【0134】
撹拌機とともに蒸発器を使用して、抽出物を減圧下(0.6bar)、110〜114℃で4時間加熱することによって、乾燥物質の含有量を50〜51%に増加させる。
【0135】
最後に、16mbarによる下降温度勾配(140℃、120℃、90℃、20℃)での真空ベルト乾燥を実施する。乾燥物質の含有量は92%より高くなり、乾燥抽出物の全体収率は22〜25%となる。次に抽出物を粉砕する。次に、前記に記載されている貯蔵溶液をこの抽出物から生成する。
【0136】
50%のMDCK II細胞が死滅する濃度(TC50)は、8512±11.40μg/mlであった。
【0137】
したがって、抽出物は毒性ではないと結論付けられる。
【0138】
抗ウイルス活性の試験
ヒトインフルエンザウイルス
抗ウイルス活性を調査するために、A549肺上皮細胞を、50μg/mlの抽出物で30分間前処理し、続いて、これも50μg/mlの抽出物で30分間前処理したインフルエンザウイルス株A/PR8/34(H1N1)に感染させた。感染した後、細胞を50μg/mlの抽出物で30分間再び処理した。培地上清を単離し、新たに形成されたインフルエンザウイルスについてプラークアッセイにより調査した。
【0139】
結果を図1に示す。
【0140】
図1から分かるように、1オーダーを超える大きさのウイルス力価の低減が観察された。
【0141】
異なるインフルエンザウイルスのウイルス繁殖に対する強力な阻害効果が、宿主細胞株において観察される。
【0142】
トリインフルエンザウイルス由来の細胞病理学的効果(CPE)の実験
第1の試験(細胞の後処理)は、A型インフルエンザウイルスA/FPV/ブラティスラバ/79(H7N7)では390.93±85.5μg/ml、A型インフルエンザウイルスA/マガモ/バイエルン/1/2006(H5N1)では165.3±8.55μg/mlの抽出物のEC50値を示した。
【0143】
第2の試験(細胞の前及び後処理)は、A型インフルエンザウイルスA/FPV/ブラティスラバ/79(H7N7)では278.35±48.45μg/ml、A型インフルエンザウイルスA/マガモ/バイエルン/1/2006(H5N1)では83.6±2.85μg/mlの抽出物のEC50値を示した。
【0144】
第3の試験(細胞の前及び後処理、並びにウイルス溶液の追加的な前処理)は、A型インフルエンザウイルスA/FPV/ブラティスラバ/79(H7N7)では46.55±6.65μg/ml、A型インフルエンザウイルスA/マガモ/バイエルン/1/2006(H5N1)では13.3±1.9μg/mlの抽出物のEC50値を示した。
【0145】
さらに、ノイラミダーゼのA型インフルエンザウイルスの阻害は、観察されなかった。
【0146】
その結果、リベス抽出物は、高病原性トリインフルエンザウイルスにより引き起こされる感染を阻害できたことが分かった。使用した濃度では、抽出物は細胞に対して検出されうる有害な影響を全く有さなかった。このことは、インフルエンザの感染性に対するリベス抽出物の阻害効果を証明している。
【0147】
ライノウイルス培養
80%コンフルエントのHeLa細胞を有する4つのT175フラスコに、ヒトライノウイルス14型(HRV)を接種し、33℃で1週間インキュベートした。これを実行するために、16mlの感染培地(DMEM(ダルベッコ改変イーグル培地)、2%のFCS(ウシ胎仔血清)、10〜20mMのMgCl)中の50μlのHRV14(ウイルス力価10/mlのTCID(組織培養感染量))を混合し、4mlを各T175に加える。次に、14mlの感染培地が各T175中に存在するように、各T175を10mlの感染培地で充填する。70%の接着細胞が溶解すると直ぐに、ウイルスを採取する。
【0148】
ライノウイルスの精製
ウイルス上清を、細胞ペレットを除去するために、最初に、3,000rpmで30分間遠心分離する。超遠心分離では、ウイルス上清を、35,000rpm(ベックマンポリアロマー管中のローター型SW41 Ti)により4℃で3時間、スクロースクッション(1.5mlの、水中65%スクロース、300μlの10×PBS(リン酸緩衝食塩水)、1.2mlの水)において遠心分離し、ペレットを100μlの感染培地に組み込む。さらなるウイルス濃縮を、100kDaカットオフフィルター(Centricon YM100)を用いて、3,300rpmにより4℃で1時間実施する。残渣は、精製ウイルス濃縮物を含有し、濾液を廃棄する。
【0149】
HRV14の感染性に対するリベス抽出物の効果を試験するために、リベス抽出物を感染培地に加えるか又はウイルスをリベス抽出物で追加的に前処理した。
【0150】
その結果、リベス抽出物が、実施したバッチの全てにおいて、感染培地及びウイルスの追加的なプレインキュベーションの後の両方で感染を、したがって細胞層の破壊を防止できたことが分かった。リベス抽出物は、細胞に対して検出されうる有害な影響を全く有さなかった。このことは、ライノウイルスの感染性に対するリベス抽出物の阻害効果を証明している。
【0151】
HeLa−P4アッセイによる抗ウイルス活性を持つ物質のインビトロ試験
アッセイの原理
HeLa−P4細胞(NIH AIDS Research and Reference Programから)は、ヒトCD4−及びCCR5レセプターの遺伝子が形質移入され、したがってHIV−1に感染性である(CXCR−4レセプターが細胞に発現している)細胞株である。HIV感染を定量化するために、細胞は、HIV−1プロモーターの制御下にあるレポーター遺伝子、すなわちβ−ガラクトシダーゼ遺伝子(gen)を有する。感染した後、HIV−1のTatタンパク質は、レポーター遺伝子を転写活性化し、感染の程度を、細胞の溶解産物における酵素活性の測定により定量化することができる。HIV−1感染の阻害は、物質を添加することなく、ウイルスによる感染に関してβ−ガラクトシダーゼ活性の低下をもたらす。バックグラウンドは、ウイルスが添加されていない細胞における酵素活性を測定することにより定義される。原理的には、低い感染は細胞に対する物質の毒性作用に基づくこともあるので、前記アッセイに加えて、細胞毒性アッセイも実施する。
【0152】
実験
試験物質は、1mgの各試料をエッペンドルフバイアルに加え、試料を1mlのリン酸緩衝食塩水(PBS)にボルテックスにかけながら60℃で溶解することによって調製される。溶液を滅菌条件下で濾過し、新たなエッペンドルフバイアルに入れる。陽性対照として、T20ペプチド(既知のHIV−1侵入阻害剤;エンフビルチド)を使用する。細胞培地中の試験化合物とT20の希釈系列を調製し、試料は、78、15.6、7.8、3.9、0.8、0.4μg/mlの濃度を有し、陽性対照T20は、39、19.5、3.9、1.95、0.78、0.39、0.039nMの濃度で使用される。それぞれの物質濃縮物を三重に試験した。
【0153】
1日目:96ウェルマイクロタイタープレートの各ウェルあたり、100μlの培地(DMEM、10%のFCS、2%のL−グルタミン、1%のペニシリン/ストレプトマイシン、500μg/mlのジェネテシン(geniticin)、1μg/mlのピューロマイシン)に1.5×10のHeLa−P4細胞を平板培養し、37℃で一晩インキュベートする。
【0154】
2日目:L3実験室において、78μlのそれぞれの物質希釈物(78、15.6、7.8、3.9、0.8、0.4μg/ml)を、22μlのHIV−1 Laiウイルスと共に37℃で30分間プレインキュベートし、T20希釈物(39、19.5、3.9、1.95、0.78、0.39、0.039nM)を同様に処理する。培地をHeLa−P4細胞から除去し、細胞を100μlのPBSで洗浄し、物質ウイルス混合物を細胞に加える。細胞を37℃で2時間インキュベートし、その後、上清を除去し、PBSで洗浄し、100μlの新たな培地を加え、細胞を37℃で2日間インキュベートする。
【0155】
4日目:上清を除去し、細胞を100μlのPBSで洗浄し、各ウェルあたり50μlの溶解緩衝液(2.5mlのグリセロール、1.25mlのMES−トリス、25μlの1M DTT、250μlのトリトンX100、25mlにするHO)により氷上で10分間溶解し、−80℃で取り出す。L3実験室の外へ移動させるために、プレートには、外側にビグアナイドを噴霧する。白色マイクロタイタープレートでは、34μlの反応緩衝液(15μlの1M MgCl、3mlの0.5M NaHPO/NaHPO、150μlのガラクトン100×、15mlにするHO)を各ウェルに入れ、20μlの細胞溶解産物を加える。マイクロタイタープレートを暗所中で45〜60分間振とうし、続いて、各ウェルあたり25μlの増幅液(80μlの10M NaOH、400μlの10×Emerald(Applied Biosystems)、4mlにするHO)を加えた後、酵素活性を照度計(Lumistar Galaxy、BMG Labtechnologies、Offenburg;設定:マイクロプレート:Dynatech 96、間隔の回数:50回、測定間隔時間:0.2秒、位置決定遅延:0.5秒、総測定時間/ウェル:10秒、ゲイン:250、開始間隔;1、停止間隔:50)により測定する。
【0156】
細胞毒性試験
アッセイの原理
細胞毒性アッセイは、細胞に対する毒性作用の観点から物質を分析する。
【0157】
HeLa−P4細胞を細胞毒性アッセイに使用した。市販のキットを使用した(ViaLight(登録商標)Plus Kit、Lonza、Rockland、USA)。キットの原理は、代謝活性がある、すなわち生存している細胞の細胞質におけるATPの量の測定に基づいている。細胞の生存におけるあらゆる障害は、ATPの量の低減をもたらす。ATPの量は、酸素の存在下で酵素ルシフェラーゼによってATP及び基質ルシフェリンから光が形成される、生物発光測定により決定される。発光の強度はATP濃度に比例し、照度計(Lumistar Galaxy、BMG Labtechnologies、Offenburg)により決定される。
【0158】
実験
試験物質を、HeLa−P4アッセイにおける抗ウイルス活性のインビトロ試験に関して上記に記載されたとおりに調製する。それぞれの物質濃縮物を四重に試験した。
【0159】
1日目:96ウェルマイクロタイタープレートの各ウェルあたり、100μlの培地(DMEM、10%のFCS、2%のL−グルタミン、1%のペニシリン/ストレプトマイシン、500μg/mlのジェネテシン、1μg/mlのピューロマイシン)に1.5×10のHeLa−P4細胞を平板培養し、37℃で一晩インキュベートする。
【0160】
2日目:培地を除去し、細胞を100μlのPBSで洗浄する。78μlのそれぞれの物質希釈物(78、15.6、7.8、3.9、0.8、0.4μg/ml)及び22μlの培地を、96ウェルマイクロタイタープレートの各ウェルに入れ、37℃で2時間インキュベートし、T20希釈物(39、19.5、3.9、1.95、0.78、0.39、0.039nM)を同じ方法で処理し、細胞を37℃で2日間インキュベートする。
【0161】
4日目:細胞をインキュベーターから取り出し、室温で10分間放置する。上清を除去、細胞を、各ウェルあたり150μlの培地で3回洗浄し、50μlの溶解緩衝液(2.5mlのグリセロール、1.25mlのMES−トリス、25μlの1M DTT、250μlのトリトンX100、25mlにするHO)に溶解する。プレートを室温で10分間放置した。
【0162】
白色マイクロタイタープレートにおいて、100μlのAMR−プラス試薬を各ウェルに入れ、40μlの細胞溶解産物を(気泡なしで)加える。マイクロタイタープレートを室温で2分間インキュベートし、次に照度計(Lumistar Galaxy、BMG Labtechnologies、Offenburg;設定:マイクロプレート:Dynatech96、間隔の回数:40回、測定間隔時間:0.25秒、位置決定遅延:0.5秒、総測定時間/ウェル:10秒、ゲイン:190、開始間隔;1、停止間隔:40、試験型:ウェルモード、読取方向:水平)により測定する。
【0163】
その結果、リベス抽出物は、HIVにより引き起こされる感染を阻害できたことが分かった。使用した濃度では、抽出物は細胞に対して検出されうる有害な影響を全く有さなかった。このことは、HIVの感染性に対するリベス抽出物の阻害効果を証明している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウイルス感染の予防及び/又は治療に使用するための組成物であって、リベス属の植物の少なくとも1つの地上部の抽出物を含み、地上部が葉及び小枝からなる群より選択される、組成物。
【請求項2】
ウイルス感染が感冒疾患を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
感冒疾患が、ライノウイルス、アデノウイルス及び/又はコロナウイルスにより引き起こされる一次感染を含む、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
鼻風邪の治療のための、請求項2又は3に記載の組成物。
【請求項5】
ウイルス感染がインフルエンザを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
インフルエンザがトリインフルエンザである、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
ウイルス感染が、レトロウイルスにより引き起こされる、好ましくは外来性レトロウイルスにより引き起こされるウイルス感染を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
ウイルス感染がHIV−1又はHIV−2により引き起こされる、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
植物が、リベス・ニグラムL.である、請求項1〜8の少なくとも一項に記載の組成物。
【請求項10】
植物が、リベス・ルブルムL.である、請求項1〜8の少なくとも一項に記載の組成物。
【請求項11】
組成物が、リベス属の植物の果実の抽出物をさらに含む、請求項1〜10の少なくとも一項に記載の組成物。
【請求項12】
組成物が、液体、乾燥又は半固体の形態である、請求項1〜11の少なくとも一項に記載の組成物。
【請求項13】
抽出物が、水性抽出物又はアルコール性抽出物である、請求項1〜12の少なくとも一項に記載の組成物。
【請求項14】
組成物が、経口、鼻腔内又は局所投与される、請求項1〜13の少なくとも一項に記載の組成物。
【請求項15】
組成物が、経鼻剤、吸入混合物、エアゾール剤又はルームスプレー剤として存在する、請求項1〜14の少なくとも一項に記載の組成物。
【請求項16】
組成物が、錠剤、コーティング錠、発泡錠、カプセル剤、粉末剤、顆粒剤、糖衣錠、軟膏剤、ゲル剤、クリーム剤、うがい液剤又は植物液汁の形態である、請求項1〜15の少なくとも一項に記載の組成物。
【請求項17】
ウイルス感染の予防及び/又は治療のための薬剤を調製するための、リベス属の植物の少なくとも1つの地上部の抽出物の使用であって、地上部が葉及び小枝からなる群より選択される、使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2012−511522(P2012−511522A)
【公表日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−539918(P2011−539918)
【出願日】平成21年11月27日(2009.11.27)
【国際出願番号】PCT/EP2009/008471
【国際公開番号】WO2010/066346
【国際公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【出願人】(508078732)
【Fターム(参考)】