説明

ウイルス捕捉高分子

【課題】 天然からの糖類を用いたこれまでの技術では、その組成が一定でないため必ずしも安定したウイルス捕捉機能を有する高分子化合物を調整できるわけではなく、十分なウイルス捕捉能を発現しているものとはいえなかった。本発明では、天然の糖類を用いない高分子化合物において、十分なウイルス捕捉能を発現する高分子化合物を提供することを課題とする。
【解決手段】 グルコサミン骨格を有する糖類が固定化された高分子化合物を提供することによる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウイルス捕捉能を有する高分子に関し、特に硫酸化されたグルコサミン骨格を有する糖類が固定化された高分子化合物に関する。当該高分子化合物は、ウイルス、特に肝炎ウイルスを好適に捕捉することが可能である。
【背景技術】
【0002】
C型肝炎はHCVウイルスの慢性的感染が原因であり、薬剤による治療法としてペグインターフェロン、リバビリンの併用療法が一般的である。ジェノタイプ1bかつ血液中のウイルス量の多い患者では、治療成績は50%程度であり、肝硬変、肝がんへの移行割合が高いことからより有効な治療法、薬剤の開発が望まれている(非特許文献1)。一般的に薬剤による治療では血中のウイルス量が低い場合、治療成績が高いことが知られており、血中のHCVウイルスを多孔性のフィルターで除去し、薬剤との併用療法を行うと、治療成績が向上するとの報告がある(非特許文献2)。すなわち体内のウイルス量を下げることで、治療成績が向上したものと推定される。
【0003】
また、一旦血球と血漿を分離した後、血漿成分からウイルスを除去することから、回路構成は複雑で、より簡便に血中からウイルスを除去する方法がさらに望ましいと考えられる。そこで、HCVに結合するリガンドを用いる事でより簡便にHCVを除去する可能性があると考えられる。このHCVの吸着する物質の一つにヘパリンが挙げられる(非特許文献3)。しかし、このヘパリンは、血中のアンチトロンビンIII(ATIII)やLDLの構成蛋白質であるアポリポ蛋白質B(ApoB)と結合することが知られ、ヘパリンを用いて血中からHCVを吸着除去する際、ATIIIやApoBも合わせて吸着するため、HCVの吸着効率は低下する。この為、ヘパリンを改変して選択性の向上させる必要がある。
【0004】
上記のようにウイルスを吸着する機能を有する糖類としては、ヘパリンを初め、天然由来の硫酸化多糖が存在することが知られているが、これらの糖類は組成が一定でない為、合成は容易ではなく、さらに、組成を改変して相互作用を向上させる検討は困難であった。また、動物由来成分の場合、動物由来成分や感染性微生物が混入する危険性が常にあり、合成品が求められている。
そこで、高分子鎖に糖類を固定化させた糖類高分子の機能について各種検討がされてきた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】ウイルス性肝炎−基礎・臨床研究の進歩−日本臨床62巻増刊号7(2004)
【非特許文献2】K.Fujiwara et al.Hepatol.Res.,37,701(2007)
【非特許文献3】A.Zahn,J.P.Allain,J.Gen.Virol.,86,677(2005)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように、これまでの技術では、天然からの糖類を用いた場合には、その組成が一定でないため必ずしも安定したウイルス捕捉機能を有する高分子化合物を調整できるわけではなく、また、ウイルス捕捉能を有する天然の糖類を用いていない高分子化合物においても、必ずしも十分なウイルス捕捉能を発現しているものとはいえない。
そこで、本発明の課題は、天然の糖類を用いていない高分子化合物においても、十分なウイルス捕捉能を発現する高分子化合物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明者らはグルコサミン骨格を有する糖類が固定化された高分子化合物の検討、及び最適化を行うことにより本発明を完成させるに至った。
【0008】
即ち、本発明は、グルコサミン骨格を有する糖類が固定化されたウイルス捕捉作用を有する高分子化合物に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ウイルスを含む液からウイルスを捕捉することができ、ウイルスを含む液中のウイルスを減じることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
即ち、本発明は、
1.一般式(1)
【0011】
【化1】

【0012】
(Xはアリーレン基を表し、YはOH、又はNHを表し、R〜Rのうち少なくとも一つはSOH、SONa、又はSOKを表し、nは、2〜10の整数である。)
で表されるポリアミド誘導体を含むウイルス捕捉高分子、
2.アリーレン基がフェニレン基、又はナフチレン基である1.に記載のウイルス捕捉高分子、
3.1.又は2.に記載のウイルス捕捉高分子の製造方法において、
一般式(2)
【0013】
【化2】

【0014】
(YはOH、又はNHを表す。)
で表される重合性化合物(I)、及び一般式(3)
【0015】
【化3】

【0016】
(Xはアリーレン基を表し、R〜Rのうち少なくとも一つはSOH、SONa、又はSOKを表す。)
で表される重合性化合物(II)とのラジカル重合反応により製造することを特徴とするウイルス捕捉高分子の製造方法、
4.3.に記載のウイルス捕捉高分子の製造方法において、一般式(3)で表される重合性化合物(II)のモル数/一般式(2)で表される重合性化合物(I)のモル数の比率が、1以上である請求項3に記載のウイルス捕捉高分子の製造方法、
5.ウイルスが、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、又はヒト免疫不全ウイルスである1.〜3.に記載のウイルス捕捉高分子、
6.ウイルスが、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、又はヒト免疫不全ウイルスである4.に記載のウイルス捕捉高分子の製造方法、
7.1.に記載のウイルス捕捉高分子を用いたウイルスを捕捉する方法、
に関する。
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に用いられる糖類に制限はないが、合成が容易であること、硫酸化誘導体には好ましいウイルス捕捉能を有することから、糖類の水酸基がスルホン酸化されることにより、スルホ基、或いはスルホニウム塩基を有するグルコサミン誘導体が好適である。
【0018】
スルホン化は、通常公知のスルホン化条件化に行うことができる。
本発明の中空糸のスルホン酸化は、濃硫酸又は発煙硫酸等のスルホン酸化剤を用いた通常公知の方法で行うことが可能である。また、MeNSO等の公知慣用のスルホン酸化剤も用いることができる。得られたスルホン酸基は、公知慣用の方法により、スルホン酸塩とすることができる。このような塩としては、ウイルスを捕捉することができるものであれば特に制限はないが、スルホン酸のナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩等の金属イオンと形成される塩、トリアルキルアミン類、芳香族アミン類と形成される塩等を好ましい塩として挙げることができる。
【0019】
また、本発明に使用されるグルコサミン誘導体では、グリコシド結合により結合されたアリーレン基を有する化合物を使用することに特徴を有する。このような、アレーレン基の種類に制限はないが、フェニレン基、ナフチレン基が好ましい。また、高分子化合物として、ポリアミドが好ましいことから、アレーレン基の置換基として、アミノ基を有することが好ましい。アレーレン基の導入は、公知慣用の方法で行うことができ、例えば、1位がハロゲン化されたグルコサミン誘導体に、4−ニトロベンゼンを反応させ、更にニトロ基を還元することにより得ることができる。
【0020】
更に、得られたアミノ基を有する糖類誘導体に塩化アクリロイルを反応させることにより、アクリルアミド基を有する糖類誘導体とすることができる。
【0021】
上記アクリルアミド基を有する糖類誘導体の合成スキームの概略は以下のように表すことができる。但し、使用する試薬は、本反応に用いられる一例でありこれらに限られるものではない。
【0022】
【化4】

【0023】
本発明のウイルス補足用高分子化合物は、上記で得られたアクリルアミド基を有する糖類誘導体と、アクリル酸或いはアクリルアミドを重合反応させることにより得ることができる。本重合反応は、ラジカル重合反応が好ましく、本ラジカル反応は、アクリル酸或いはアクリルアミド等のアクリル系モノマーを重合できる公知慣用の方法で行うことができる。
本発明の高分子を得るためには、ラジカル重合開始剤を用いることができる。
【0024】
本発明で用いるラジカル重合開始剤は、光重合開始剤、及び熱重合開始剤が挙げられる。光重合開始剤としては、具体的には、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインブチルエーテル、2−メチルベンゾイン、ベンゾフェノン、ミヒラーズケトン、ベンジルジメチルケタール、2,2−ジエトキシアセトフェノン、ベンゾイル安息香酸、4−ベンゾイル−4’−メチルジフェニルサルファイド、3,3’−ジメチル−4−メトキシベンゾフェノン、1−(4−ドデシルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、2−メチル−1−〔4−(メチルチオフェニル)〕−2−モルホリノ)プロパン−1、2−クロロチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2,4−ジイソプロピルチオキサントン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド等が挙げられる。
【0025】
また、これらの光重合開始剤には、アミン類等の光重合促進剤を併用することができる。例えば、2−ジメチルアミノエチルベンゾエート、ジメチルアミノアセトフェノン、p−ジメチルアミノ安息香酸エチル、p−ジメチルアミノ安息香酸イソアミル等が挙げられる。これらの光重合促進剤の使用割合は、光重合開始剤100重量部に対して、0.1〜100重量部の範囲であることが、重合速度が速く、かつ、硬化物の屈折率が高くなる点から好ましい。
【0026】
その他、重合開始剤としては、公知の過酸化物系開始剤やアゾビス系開始剤を使用することができる。過酸化物系開始剤としては、具体的には、メチルエチルケトンパーオキサイド、メチルイソブチルケトンパーオキサイド、シクロヘキサノンパーオキサイド、メチルシクロヘキサンケトンパーオキサイド、アセチルアセトンパーオキサイド等のケトンパーオキサイド系開始剤、イソブチルパーオキサイド、m−クロロベンゾイルパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、α−メチルベンゾイルパーオキサイド、ビス−3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド等のジアシルパーオキサイド系開始剤、2,4,4−トリメチルペンチル−2−ハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド等のハイドロパーオキサイド系開始剤、ジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、1,3−ビス(t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、t−ブチルクミルパーオキサイド等のジアルキルパーオキサイド系開始剤、1,1−ジ−t−ブチルパーオキシ−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、2,2−ジ−(t−ブチルパーオキシ)ブタン、4,4−ジ−t−ブチルパーオキシ吉草酸−n−ブチルエステル等のパーオキシケタール系開始剤、2,4,4−トリメチルペンチルパーオキシフェノキシアセテート、α−クミルパーオキシネオデカノエート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ジ−t−ブチルパーオキシトリメチルオジペート等のアルキルパーエステル系開始剤、ジ−t−メチキシブチルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート等のパーカーボネート系開始剤、その他のアセチルシクロヘキシルスルフォニルパーオキシジカーボネート、t−ブチルパーオキシアリルカーボネート等のものが挙げられ、また、アゾビス系開始剤としては、具体的には、1,1’−アゾビスシクロヘキサン−1−カルボニトリル、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)ジハイドロクロライド(AAPD)、2,2’−アゾビス−(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス−(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス−(メチルイソブチレート)、α,α’−アゾビス−(イソブチロニトリル)、4,4’−アゾビス−(4−シアノバレイン酸)等が挙げられる。
【0027】
これらの熱重合開始剤は、それぞれ単独で用いることができ、また、2種以上の混合物として使用することもできる。
【0028】
反応時間は、1〜24時間範囲で十分であるが、開始剤の種類、反応温度によりその反応時間を設定することが望ましい。更に、反応時間の設定は、得られる重合体の分子量制御に合わせて、設定することが望ましい。下式に、高分子化合物の反応式を示すが、記載された反応温度、重合触媒は、これらに限らない。
【0029】
【化5】

【0030】
本発明のウイルス捕捉高分子は、各種ウイルスを捕捉する能力があることから、広く各種ウイルスを含む液からウイルスを捕捉する用途に用いることができ、例えば、医薬、医療用器具、環境水中に含まれるウイルス量の測定等に用いることができる。ここで、ウイルスを含む液としては、例えば、ウイルスを含み得る環境水、ヒトの体内液体成分である体液、ウイルスを含んだ培養液、生活用水等を挙げることができる。体液のより具体的な例としては、血液、唾液、汗、尿、鼻水、精液、血漿、リンパ液、組織液等を挙げることができる。環境水の具体的な例としては、河川水、湖沼水、地下水、海水等が挙げられる。生活用水としては、水道水、井戸水、温泉、プール水等が挙げられる。
【0031】
本発明で対象とするウイルスは、本発明の高分子化合物で捕捉が可能なウイルスであれば、特に制限はないが、例えばA型肝炎ウイルス、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、E型肝炎ウイルス、アデノウイルス、エンテロウイルス、ノロウイルス、インフルエンザウイルス、ヒト免疫不全ウイルス、ロタウイルス、又はポリオウイルス等を挙げることができる。
【実施例】
【0032】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。
【0033】
(合成例1):p−(N−acrylamido)phenyl 2−acetamido−2−deoxy−6−sulfo−β−D−glucopyranoside(9)の合成
<p−Nitrophenyl 2−acetamido−2−deoxy−6−sulfo−β−D−glucopyranoside(5)の合成>
p−Nitrophenyl 2−acetamido−2−deoxy−β−D−glucopyranoside(7)(500mg)をDMF(5mL)に懸濁させ、40℃の油浴上でMeNSOのDMF(5mL)溶液を加え、そのままの温度で磁気攪拌した。反応開始から反応の進行を逆相TLC(HO:MeOH=4:1)でモニタリングし、副生成物のスポットが見られたところでMeOHを加えて反応を終了させた。エバポレーター、油圧ポンプで溶媒を留去し、逆相クロマトグラフィー(HO:MeOH=4:1)で精製した。生成物をイオン交換樹脂(Na+form)で24時間イオン交換を行い、ろ紙で樹脂を取り除いた。ろ液を凍結乾燥させ、やや黄色がたった白色粉末(8)を得た。収量:442mg(収率:68%)
【0034】
<(9)の合成>
上記(8)(150mg)をMeOH:(5mL)とHO(5mL)に溶解させ、Pd/C(9mg)を加え、水素雰囲気下で4時間磁気攪拌した。反応の終了を逆相TLC(HO:MeOH=10:1)で確認し、Pd/Cを吸引ろ過で除去した。ろ液を減圧濃縮し、真空乾燥してアミン体の粗生成物を得た。これをHO(6mL)とTHF(3mL)に溶解させ、0℃でKCO(140mg)と塩化アクリロイル(41μL)を加えた。室温へ昇温し、反応の進行を逆相TLC(HO:MeOH=10:1)でモニタリングし、反応終了を確認した後にアンバーリストで反応液を中和した。ひだ折りろ紙で樹脂を取り除き、ろ液を留去した。残渣を逆相クロマトグラフィー(HO)で精製し、溶出液を凍結乾燥させ、白色固体(9)を得た。収量:127mg(収率:80%)。
【0035】
【化6】

【0036】
(合成例2):p−(N−acrylamido)phenyl 2−acetamido−2−deoxy−3−sulfo−β−D−glucopyranoside(13)の合成
<p−Nitrophenyl 2−acetamido−4,6−O−benzylidene−2−deoxy−β−D−glucopyranoside(10)の合成>
上記(4)(1g)をDMF(30mL)に溶解させ、ベンズアルデヒドジメチルアセタール(530μL)、p−トルエンスルホン酸1水和物(80mg)を加え、ロータリーエバポレーターにて減圧下、50℃で12時間反応を行った。順相及び逆相TLC(CHCl:MeOH=10:1、HO:MeOH=2:1)にて反応終了を確認した後、飽和重曹水を加え、室温で30分間磁気攪拌した。析出した固体を桐山ロートでろ取し、HOとEtOで結晶を洗い、真空乾燥して(10)を得た。収量:801mg(収率:64%)
【0037】
<p−Nitrophenyl 2−acetamido−4,6−O−benzylidene−3−sulfo−2−deoxy−β−D−glucopyranoside(11)の合成>
上記(10)(100mg)を乾燥DMF(3mL)に懸濁させ、40℃に加温した。SO−NMe(323mg)を加え、そのままの温度で3日間磁気攪拌した。順相TLC(CHCl:MeOH=4:1)で反応の進行をモニタリングし、ほぼ反応が進行したところでMeOHを加え反応を終了した。溶媒を留去し、残渣を順相フラッシュクロマトグラフィー(CHCl:MeOH=4:1)で精製して(11)を得た。収量:52mg(収率:39%)
H−NMR(400MHz,DO) 8.27−8.24(2H,m),7.58−7.56(2H,m),7.48−7.46(3H,m),7.24−7.22(2H,m),5.78(1H,s,Ph−H),5.57(1H,d,J1,28.4Hz,H−1),4.49−4.39(1H,m),4.34−4.26(1H,m),4.03−3.91(4H,m),3.74(9H,s),2.00(3H,s,−NHAc)
【0038】
<p−(N−acrylamido)phenyl 2−acetamido−2−deoxy−3−sulfo−β−D−glucopyranoside(13)の合成>
上記(11)(894mg)を95%MeOH水に溶解させ、40℃に加温した。10%Pd/C(90mg)と濃塩酸(681μL)を加え、N置換後、H加圧下で24時間磁気攪拌した。24時間後、逆相TLC(HO:MeOH=4:1)で反応の終了を確認し、グラスファイバーろ紙でPd/Cを取り除いた。ろ液を留去し、残渣をTHF/HO(1:2、15mL)にて溶解させ、0℃に冷却した。塩化アクリロイル(190μL)とKCO(651mg)を加え、5分間、0℃で攪拌した後、室温へ昇温した。12時間攪拌した後に逆相TLC(HO:MeOH=4:1)で反応の終了を確認し、1規定塩酸で中和した。逆相カラム(HO:MeOH=6:1)で精製して(12)とした後、目的物の入ったフラクションをイオン交換樹脂(Na+form)でイオン交換した。溶媒を減圧留去し、残渣をHOに溶解させ、凍結乾燥して(13)を得た。収量:182mg(収率:25%)。
【0039】
【化7】

【0040】
(合成例3):p−(N−acrylamido)phenyl 2−acetamido−2−deoxy−4−sulfo−β−D−glucopyranoside(19)の合成
<p−Nitrophenyl 2−acetamido−3−O−benzoyl−4,6−O−benzylidene−2−deoxy−β−D−glucopyranoside(14)の合成>
上記(10)(800mg)のCHCl:ピリジン=1:1.5溶液(15mL)に0℃で、N,N−ジメチル−4−アミノピリジン(DMAP)(45mg)と塩化ベンゾイル(324μL)をゆっくり滴下し、0℃で磁気攪拌した。反応の終了を順相TLC(CHCl:MeOH=10:1)で確認し、MeOHを加えて反応を止め、溶媒を留去した。残渣をCHCl/MeOH(ca.5:1)から再結晶し、白色固体を得た。析出した結晶を桐山ロートでろ取し、真空乾燥した(第1晶)。ろ液を減圧濃縮し、同様に結晶を析出させ、結晶をろ取して(14)を得た。収量:483mg(収率:49%)
H−NMR(400MHz,dimethylsulfoxide−d) 8.25−8.20(3H,m),7.96−7.94(2H,m),7.69−7.64(1H,m),7.55−7.52(2H,m),7.35−7.29(7H,m),5.70(1H,s,−PhH),5.66(1H,d,J1,28.4Hz,H−1),5.53(1H,t,J2,3=J3,49.8Hz,H−3),4.33(1H,dd,J3,49.8Hz,J4,54.2Hz,H−4),4.33(1H,dd,J2,39.8Hz,J1,28.4Hz,H−2),4.07(1H,t,J5,6a=J6a,6b9.7Hz,H−6a),4.00(1H,td,J5,6a=J6a,6b9.7Hz,J4,54.2Hz,H−5),3.85(1H,t,J5,6b=J6a,6b9.7Hz,H−6b),1.68(3H,s,−NHAc).
13C−NMR(100MHz,dimethylsulfoxide−d) 169.5,165.3,161.5,142.3,137.2,133.5,129.3,129.2,128.9,128.8,128.1,126.0,125.8,116.7,169.5,165.3,161.5,100.4,97.8,77.9,72.3,67.5,66.0,53.4,22.6.ESI−MSm/zcalcdforC28279+,535.17;found535.07,[M−H]+,calcdforC2826NaO9+,557.15;found534.16,[M−Na]+,calcdforC5652NaO18+,1091.31;found1091.07,[2M−Na]+
【0041】
<p−Nitrophenyl 2−acetamido−3−O−benzoyl−6−O−benzyl−2−deoxy−4−hydroxy−β−D−glucopyranoside(15)の合成>
上記(14)(297mg)のCHCl(4mL)懸濁液に0℃でトリフロロ酢酸(232μL)とEtSiH(444μL)を加え、15分間低温反応装置で磁気攪拌した。そのままの温度でトリフロロ酢酸(207μL)を滴下し、10分間磁気攪拌し、室温へ昇温した。終夜攪拌後、順相TLC(EtOAc:Hexane=1:1)で反応の終了を確認し、反応液をEtOAcで希釈した。NaHCO、HO、brineで洗浄し、MgSOで乾燥させ、ひだ折りろ紙でMgSOを取り除き、ろ液を減圧濃縮した。残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(EtOAc:Hexane=1:1)で精製し、白色固体(15)を得た。収量:260mg(収率:87%)
H−NMR(400MHz,CDCl) 8.07−8.03(2H,m),7.97−7.95(2H,m),7.55−7.51(1H,m),7.40−7.36(2H,m),7.27−7.19(5H,m),7.06−7.02(2H,m),6.10(1H,d,J−NH,28.8Hz,−NH),6.10(1H,d,J1,28.4Hz,H−1),4.33(1H,dt,J2,310.4Hz,J1,2=J−NH,28.8Hz,H−2),3.94−3.85(2H,m,H−4,H−5),3.80(1H,dd,J6a,6b10.4Hz,J5,6a3.2Hz,H−6a),3.72(1H,dd,J6a,6b10.4Hz,J5,6a5.2Hz,H−6b),3.18(1H,d,J−OH,43.18Hz,−NH),1.77(3H,s,−NHAc).
13C−NMR(100MHz,CDCl) 170.7,167.5,161.8,142.8,137.5,133.9,129.9,128.9,128.6,128.5,128.0,127.7,125.7,116.6,98.2(C−1),75.6(C−3),75.0(C−4),73.7(Ph−CH−),70.4(C−5),69.8(C−6),54.2(C−2),23.3(−NHCOCH).
ESI−MSm/zcalcdforC2828NaO9+,559.17;found559.20,[M−Na]+,calcdforC5656NaO18+,1095.35;found1095.07,[2M−Na]+
【0042】
<p−Nitrophenyl 2−acetamido−3−O−benzoyl−6−O−benzyl−2−deoxy−4−sulfo−β−D−glucopyranoside(16)の合成>
上記(15)(50mg)のDMF(5mL)に懸濁させ、50℃に加温した。MeNSO(10eq)のDMF(5mL)溶液をゆっくり滴下し、そのままの温度で3日間磁気攪拌した。逆相TLC(HO:MeOH=3:1)で反応の進行をモニタリングし、反応が進行したところでMeOHを加え反応を終了した。エバポレーター、油圧ポンプで溶媒を留去し、逆相クロマトグラフィー(HO:MeOH=1:1)で精製した。生成物をイオン交換樹脂(Na+form)で3日間イオン交換を行い、ひだ折りろ紙で樹脂を取り除いた。ろ液を凍結乾燥させ、茶色がかった白色固体(16)を得た。収量:194mg(収率:>99%)
【0043】
<p−(N−acrylamido) phenyl 2−acetamido−2−deoxy−4−sulfo−β−D−glucopyranoside(19)の合成>
上記(16)(53mg)をMeOH(5mL)に溶解させ、NaOMeを加え、pH10とした。室温で12時間反応を行い、順相TLC(CHCl:MeOH=7:3)で反応終了を確認し、アンバーリストで中和した。桐山ロートで樹脂を取り除き、ろ液を減圧留去した。残渣にEtOを加え、析出した結晶を桐山ロートでろ取した。さらに、同様に粗結晶をEtOで再結晶し、やや茶色の白色粉末を得た。HO:MeOH=10:1に溶解し、EtOAcで逆抽出した。得られた水層の溶媒を減圧留去して、(17)を得た。
残渣(17)をHO:MeOH=1:1溶液50mLに溶解させた。1規定塩酸(0.1mL)とPd/C(90mg)を加え、耐圧容器に入れ、N置換の後、H置換した。25時間後、反応の終了をTLC(HO:CHCOOH=95:5)で確認し、反応液をグラスファイバーろ紙でろ過した。溶媒を留去し、残渣をTHF/HO(1:2、10mL)に溶解させ、0℃に冷却した。塩化アクリロイル(176μL)とKCO(601mg)を加え、5分間、0℃で攪拌した後、室温へ昇温した。12時間攪拌した後にTLC(HO:CHCOOH=95:5)で反応の終了を確認し、1規定塩酸で中和した。逆相カラム(HO:MeOH=9:1)で精製し、溶媒を減圧留去した後、残渣(18)をHOに溶解させ、イオン交換し、凍結乾燥して(19)を得た。収量:264mg(収率:42%)
【0044】
【化8】

【0045】
(合成例4):p−(N−acrylamido)phenyl 2−acetamido−2−deoxy−3,4,6−sulfo−β−D−glucopyranoside(21)の合成
<p−Nitrophenyl 2−acetamido−2−deoxy−3,4,6−sulfo−β−D−glucopyranoside(20)の合成>
上記(4)(500mg)をピリジン(15mL)を加え、40℃に加温した。SO−Py(2.32g)を加え、40℃で6日間攪拌した。TLC(CHCl:MeOH=1:1)で反応の終了を確認し、MeOH(30mL)を加えた。イオン交換カラム(Na+form)に反応液を通し、イオン交換を行い、目的物のフラクションを回収し、溶媒を留去した。残渣を逆相クロマトグラフィー(HO:MeOH=9:1)で精製して(20)とした。収量:442mg(収率:68%)
【0046】
<p−(N−acrylamido)phenyl 2−acetamido−2−deoxy−3,4,6−sulfo−β−D−glucopyranoside(21)の合成>
上記(20)(860mg)をHO:MeOH=1:1溶液50mLに溶解させた。Pd/C(90mg)を加え、N置換後、H置換した。25時間後、反応の終了をTLC(HO:CHCOOH=95:5)で確認し、反応液をグラスファイバーろ紙でろ過した。溶媒を留去し、残渣をTHF/HO(1:2、10mL)に溶解させ、0℃に冷却した。塩化アクリロイル(176μL)とKCO(601mg)を加え、5分間、0℃で攪拌した後、室温へ昇温した。12時間攪拌した後にTLC(HO:CHCOOH=95:5)で反応の終了を確認し、1規定塩酸で中和した。逆相カラム(HO:MeOH=9:1)で精製し、溶媒を減圧留去した後、残渣をHOに溶解させ、凍結乾燥して(21)を得た。収量:1.07g(収率:>99%)
【0047】
【化9】

【0048】
(合成例5):Poly(acrylamidophenyl−6−sulfo−GlcNAc−co−acrylamide)(22)の合成
シュレンク管を吸引しながらヒートガンで熱し、水分を除去した。吸引しながら室温まで下げた。DMFに溶解した合成例1で得られたモノマー(9)とアクリルアミドをシュレンク管に入れ、Nでバブリングした。AAPDを加え、吸引後、N充填した。オイルバス(60℃)で、下記表に記載の反応時間攪拌した。反応終了後、開封しパスツールピペットで空気を入れ反応を止めた。反応液をアセトンに加え、沈殿物を得た。遠心分離機で沈殿させた後、上澄みをパスツールピペットで取り除いた。残渣をHOに溶解し、透析を行った。透析液を凍結乾燥して、目的物を得た。なお、共重合は下表の比率で行い、ポリマー(22)を得た。
【0049】
【表1】

【0050】
(合成例6):3S−GlcNAcポリマー:Poly(acrylamidophenyl−3−sulfo−GlcNAc−co−acrylamide)(23)の合成
合成例5における、合成例1で得られたモノマー(9)の替わりに合成例2で得られたモノマー(13)を用いる他は、合成例5と同様にして、ポリマー(23)を得た。なお、共重合は下表の比率で行った。
【0051】
【表2】

【0052】
(合成例7)4S−GlcNAcポリマー:Poly(acrylamidophenyl−4−sulfo−GlcNAc−co−acrylamide)(23)の合成
合成例5における、合成例1で得られたモノマー(9)の替わりに合成例3で得られたモノマー(19)を用いる他は、合成例5と同様にして、ポリマー(24)を得た。なお、共重合は下表の比率で行った。
【0053】
【表3】

【0054】
(合成例8)3,4,6S−GlcNAcポリマー:Poly(acrylamidophenyl−3,4,6−sulfo−GlcNAc−co−acrylamide)(25)の合成
合成例5における、合成例1で得られたモノマー(9)の替わりに合成例4で得られたモノマー(21)を用いる他は、合成例5と同様にして、ポリマー(25)を得た。なお、共重合は下表の比率で行った。
【0055】
【表4】

【0056】
(実施例)<E2吸着能(E2吸着阻害活性)>
ヘパリン固定化プレート(BD社製)にヘパリン25μg/mL、100μLをプレートのウエルに分注する。4℃で一晩放置し、0.1%ツイーン20−PBS400μLで3回洗浄する。1%BSA−PBS 200μLをウエルに分注し、室温で1時間放置する。0.1%ツイーン20−PBS400μLで3回洗浄する。次に、適宜希釈した硫酸化糖ポリマー液と5μg/mL HCV E2蛋白質(His−tag)(Abcam製)液を等量混合し、室温で1時間放置したものをウエルに100μL分注し、室温で1時間攪拌する。0.1%ツイーン20−PBS400μLで3回洗浄する。ペルオキシダーゼ標識化抗His−tag抗体溶液(Roche製)をウエルに100μL分注し、室温で1時間攪拌する。0.1%ツイーン20−PBS400μLで3回洗浄する。TMB基質液(PIERCE社)をウエルに100μL分注し、室温で10分間攪拌する。0.5mol/L硫酸をウエルに100μL添加して、450nmで吸光度を測定する。硫酸化糖ポリマー液の代わりにPBSとHCV E2蛋白質(His−tag)溶液を混合したものを同様に測定する。下記の式から硫酸化糖ポリマーがHCV E2蛋白質(His−tag)の吸着を阻害した割合を算出する。さらに、50%阻害した濃度からE2吸着阻害活性を算出する(IC50μg/mL)。なお、この値は小さいほど硫酸化高分子のE2結合能が高い。作製したポリマーのE2吸着能を測定した結果、3,4,6S−GlcNAcポリマーはE2と強い相互作用を有していた。

E2吸着阻害活性(%)=100−(硫酸化糖ポリマー液+HCV E2蛋白質(His−tag)液)の吸光度/HCVE2蛋白質(His−tag)液の吸光度)×100
結果を、表5に示す。
【0057】
【表5】

【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の糖類が固定化された高分子化合物は、ウイルス捕捉高分子として利用が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)
【化1】

(Xはアリーレン基を表し、YはOH、又はNHを表し、R〜Rのうち少なくとも一つはSOH、SONa、又はSOKを表し、nは、2〜10の整数である。)
で表されるポリアミド誘導体を含むウイルス捕捉高分子。
【請求項2】
アリーレン基がフェニレン基、又はナフチレン基である請求項1に記載のウイルス捕捉高分子。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のウイルス捕捉高分子の製造方法において、
一般式(2)
【化2】

(YはOH、又はNHを表す。)
で表される重合性化合物(I)、及び一般式(3)
【化3】

(Xはアリーレン基を表し、R〜Rのうち少なくとも一つはSOH、SONa、又はSOKを表す。)
で表される重合性化合物(II)とのラジカル重合反応により製造することを特徴とするウイルス捕捉高分子の製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載のウイルス捕捉高分子の製造方法において、
一般式(3)で表される重合性化合物(II)のモル数/一般式(2)で表される重合性化合物(I)のモル数の比率が、1以上である請求項3に記載のウイルス捕捉高分子の製造方法。
【請求項5】
ウイルスが、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、又はヒト免疫不全ウイルスである請求項1〜3に記載のウイルス捕捉高分子。
【請求項6】
ウイルスが、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、又はヒト免疫不全ウイルスである請求項4に記載のウイルス捕捉高分子の製造方法。
【請求項7】
請求項1に記載のウイルス捕捉高分子を用いたウイルスを捕捉する方法。

【公開番号】特開2012−250168(P2012−250168A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−124193(P2011−124193)
【出願日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【Fターム(参考)】