説明

ウイルス捕集装置及びウイルス検査システム

【課題】、空気中に浮遊するウイルスを適切に捕集できるウイルス捕集装置、及び捕集したウイルスをその場で迅速且つ簡便に分析して、ウイルスの存在状況をリアルタイムにモニタ可能なウイルス検査システムを提供する。
【解決手段】吸引路形成部材17と本体ケーシング11との間のダスト処理空間Mにおいて、吸引された空気Aを本体ケーシング11の内周面12に沿って旋回させて、他端側から一端側に導き、空気Aの旋回により発生する遠心力により捕集対象物を空気Aから分離し、一端側を捕集部18として捕集対象物を捕集するサイクロン40を備え、捕集部18に、ウイルスUを抽出可能な抽出液V1を導入する抽出液導入部19を備えると共に、捕集部18の抽出液導入部19とは異なる部位から抽出液V1を導出する抽出液導出部20を備え、抽出液導入部19へ抽出液V1を供給する抽出液供給手段21、22を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気中を浮遊するウイルスを捕集するウイルス捕集装置、及び空気中を浮遊するウイルスを捕集しその存否を検知するウイルス検査システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ウイルスは、ウイルス感染の疑われる人などからウイルスの多く含まれる鼻汁、痰等の試料を採取し、その試料をもとに培養、分離、同定するという手順で確認することが行われている。しかし、このような手法を用いると、結果を得るまでに数日を要するために、近年、イムノクロマトグラフィを用いた簡易的な検査キットが開発されている(例えば、特許文献1を参照)。これは、ウイルスを抗原とした抗原抗体反応により、特異的に発色する抗体等を用い、抗原としてのウイルスと抗体との接触による発色を観察することにより、ウイルスの存在を検知するものである。この方法によれば、数分から数十分の間にウイルスを検出し、感染患者の治療等に有効活用できるものとなってきている。
しかし、上記特許文献1に開示の検査キットは、鼻汁、痰等の比較的ウイルスが大量に存在する部位から採取したものを被検試料とする必要がある。
ここで、ウイルス、特に、近年流行が危惧されるインフルエンザ等のウイルスの感染の大流行(パンデミック)を抑制するためには、空気中に浮遊するウイルスを捕集することが望まれるが、上記特許文献1に開示の検査キットは、空気中に浮遊するウイルスを捕集できるものではなかった。
【0003】
また、MEMS(Micro Electro Mechanical System)を用いたウイルスの簡易検知システムが提案されているが(非特許文献1)、当該検知システムであっても、基本的には、検出対象は高濃度のウイルスを含有する溶液であることが前提であり、空気中に浮遊するウイルスの捕集を行える技術ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−275511号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Fernando Patolsky, Analytical Chemistry 78, 23, 4260−4269(2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の既存技術は、これまで説明したように、高濃度のウイルスを含有する溶液を検知対象としたウイルスの検知システムに関するものであり、空気中に浮遊するウイルスを捕集する技術に関するものではない。このため、これら既存技術では、ウイルスの感染拡大の防止のために必要である、空気中に浮遊する濃度の低いウイルスを捕集することはできなかった。また、捕集したウイルスをその場で迅速且つ簡便に分析して、ウイルスの存在状況をリアルタイムにモニタするシステムにはなっていなかった。換言すると、例えば、病院や老人施設等の室内におけるウイルスの存在状況をリアルタイムで検出できるシステムが望まれている。
【0007】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、空気中に浮遊するウイルスを適切に捕集できるウイルス捕集装置、及び捕集したウイルスをその場で迅速且つ簡便に分析して、ウイルスの存在状況をリアルタイムにモニタ可能なウイルス検査システムを提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための本発明のウイルス捕集装置の特徴構成は、
筒状の内部空間を備えた本体ケーシングと、
前記本体ケーシングにおける一方端で、その中心軸側の内部空間部位から装置外部へ空気を排出する空気排出路を、その中心軸に沿って形成する排出路形成部材と、
前記本体ケーシングにおける他方端で、前記装置外部から前記内部空間に空気を前記本体ケーシングの内周面に沿って吸引する空気吸引路を、前記本体ケーシングの筒外周面に沿って形成する吸引路形成部材と、
前記空気吸引路、前記内部空間及び前記空気排出路を介して装置外部の空気を吸引して、装置外部に排出する吸引排出手段とを備えて構成され、
前記吸引路形成部材と前記本体ケーシングとの間のダスト処理空間において、吸引された空気を前記本体ケーシングの内周面に沿って旋回させて、前記他端側から前記一端側に導き、前記空気の旋回により発生する遠心力により捕集対象物を空気から分離し、前記一方端側を捕集部として捕集対象物を捕集するサイクロンを備え、
前記捕集部に、ウイルスを抽出可能な抽出液を導入する抽出液導入部を備えると共に、前記捕集部の前記抽出液導入部とは異なる部位から抽出液を導出する抽出液導出部を備え、前記抽出液導入部へ抽出液を供給する抽出液供給手段を備える点にある。
【0009】
ウイルスは、通常、くしゃみ等に含まれる微小水滴や塵埃等に付着した状態で、空気中に浮遊している場合が多い。そこで、以下では、ウイルスが付着した微小水滴や塵埃を、ウイルス付着物質として説明する。尚、当該ウイルス付着物質の重量は、比較的重量が大きい微小水滴や塵埃等にウイルスが付着したものであるので、空気よりも十分に大きくなる。
上記特徴構成によれば、サイクロンは、捕集対象物としてのウイルス付着物質を空気と共に、吸引路形成部材と本体ケーシングとの間のダスト処理空間に導き、本体ケーシングの内周面に沿って旋回させる。このとき、空気よりも十分に重量が大きいウイルス付着物質は、旋回により適切な遠心力がかかることとなり、空気から適切に分離されて本体ケーシングの一端側の捕集部へ導かれる。
さらに、上記捕集部に、ウイルスを抽出可能な抽出液を導入しておくことで、旋回に伴う遠心力により空気から分離されるウイルス付着物質を分離捕集し、この部位に導入される抽出液に接触させて、抽出液にてウイルスを効果的に抽出できる。これにより、ウイルスの抽出効率を向上できる。
以上より、空気中に浮遊するウイルスを適切に捕集できるウイルス捕集装置を実現できた。
【0010】
本発明のウイルス捕集装置の更なる特徴構成は、
前記空気吸引路の入口付近の空気を加湿する加湿手段を備える点にある。
【0011】
空気中を浮遊するウイルスの一部は、微小水滴や塵埃に付着せず、単体で存在するものがある。このような単体のウイルスは、空気とともに本発明のサイクロンに吸引された場合、ダスト処理空間にて旋回されることとなるが、軽いため空気から分離されずに、空気とともに装置外部に導かれる可能性が高くなる。また、ウイルスを含む微小粒子の中には小さすぎて空気から分離されないものもあり、これらの微小粒子も同様に装置外部に導かれる可能性が高くなる。
上記特徴構成によれば、加湿手段が、空気吸引路の入口付近の空気を加湿し、空気に微小水滴を含ませることができる。これにより、空気中に単体で存在するウイルスやサイクロンで分離不能なウイルスを含む微小粒子を、当該微小水滴に付着させ、空気よりも十分に重量が大きいウイルス付着物質とできる。さらに、当該ウイルス付着物質は、ダスト処理空間にて、適切な遠心力がかけられて、空気から適切に分離され捕集される。従って、ウイルスの捕集を促進できる。
【0012】
本発明のウイルス捕集装置の更なる特徴構成は、
前記捕集部は、前記本体ケーシングの前記一端側に位置される環状溝として構成されている点にある。
【0013】
上記特徴構成によれば、捕集部を本体ケーシングの一端側に位置される環状溝としているので、当該環状溝を、本体ケーシングの内周面に沿って旋回するウイルス付着物質の旋回方向に略沿わせた状態で配置することができる。結果、ウイルス付着物質を、ウイルス付着物質の旋回方向に沿って配置された環状溝にて、効率的に回収できる。
【0014】
本発明のウイルス捕集装置の更なる特徴構成は、
前記抽出液導入部及び前記抽出液導出部は、前記環状溝の溝底部に開口して設けられ、
両者は、前記本体ケーシングの中心軸を挟んで設けられる点にある。
【0015】
上記特徴構成によれば、抽出液導入部及び抽出液導出部が、環状溝の溝底部に開口して設けられているとともに、本体ケーシングの中心軸を挟んで設けられているので、気流の旋回に伴って、抽出液は、環状溝のうち、抽出液導入部と抽出液導出部とを繋ぐ一方側の溝と他方側の溝とを、略均等に通流する。結果、環状溝は、その全域に亘って抽出液が通流する状態とされ、その抽出液にて適切にウイルス付着物質を捕集できる。
【0016】
本発明のウイルス捕集装置の更なる特徴構成は、
ウイルスと酵素反応して発色する発色基質を含む基質溶液を供給する基質溶液供給手段を備え、
前記基質溶液供給手段により供給される基質溶液と、前記抽出液導出部から導出された抽出液とを混合する混合部を備え、
前記混合部にて混合された基質溶液と抽出液との混合液を送出する送出手段を備えた点にある。
【0017】
上記特徴構成によれば、混合部が、抽出液導出部から導出された抽出液と、ウイルスと酵素反応して発色する発色基質を含む基質溶液とを混合し、ウイルスが存在するときに発色する混合液を生成し、送出手段が、当該混合液を適切に送り出すことができる。
【0018】
本発明のウイルス検査システムの特徴構成は、
上述のウイルス捕集装置を備えるとともに、
前記送出手段により、送出される基質溶液と抽出液との混合液を受け入れる受入部を備え、前記受入部に受け入れた混合液に検査光を照射して蛍光を検出する蛍光検出器を備えた点にある。
【0019】
上記特徴構成によれば、受入部が、送出手段にて送り出された混合液を受け入れて、蛍光検出器が、受入部に受け入れた混合液に検査光を照射することで、発色としての蛍光を検出できる。結果、混合液にウイルスが含まれるときのみに蛍光を検出する状態で、捕集したウイルスをその場で迅速且つ簡便に分析して、空気中に浮遊するウイルスの存否を検知できる。
さらに、上記特徴構成によれば、ウイルスの存在状況を連続的且つリアルタイムにモニタすることができる。即ち、抽出液供給手段が捕集部へ連続的に抽出液を供給するとともに、吸引排出手段が連続的に空気を吸引することで、捕集部の抽出液にてウイルスを捕集し、基質溶液供給手段が基質溶液を連続的に供給し、混合部が抽出液と基質溶液とを連続的に混合して受入部に導いて、蛍光検出器が、受入部に連続的に導かれる混合液に、検査光を連続的に照射することで、発色としての蛍光を連続的に検知することができる。
加えて、抽出液は、抽出液導入部、捕集部、抽出液導出部、混合部、及び蛍光検出器を、連続的に通流可能に構成されているので、抽出液が捕集部にてウイルスを捕集してから、蛍光検出器にて分析されるまでにかかる時間を、十分に短いものとでき、略リアルタイムに、ウイルスを検知できる。
結果、ウイルスの存在状況を連続的且つリアルタイムにモニタできるウイルス検査システムが実現できた。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】ウイルス捕集装置及びウイルス検査システムを示す概略構成図である。
【図2】図1のB−B断面図である。
【図3】ウイルスの捕集試験の結果を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は、特に、空気A中を浮遊するウイルスを適切に捕集可能なウイルス捕集装置、及びウイルス捕集装置にて捕集されたウイルスを含む抽出液V1を連続的且つリアルタイムに検査することができるウイルス検査システムに関する。ウイルスとしては、特に、近年大流行が危惧されるインフルエンザウイルスUを捕集・検知の対象とすることができる。
以下では、まず、ウイルス捕集装置について説明した後、当該ウイルス捕集装置を備えるウイルス検査システムについて説明する。
尚、以下の実施形態は、本発明をより具体的に例示するために記載するものであって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能であり、本発明は、以下の記載に限定されるものではない。
【0022】
本発明のウイルス捕集装置は、図1、2に示すように、インフルエンザウイルスUを含む空気Aを装置外部から吸引して、当該インフルエンザウイルスUを空気Aから分離するサイクロン40を備えている。
当該サイクロン40は、筒状の内部空間10を形成する本体ケーシング11と、当該本体ケーシング11における一方端(図1で矢印Zの基端側の端)で、その中心軸L側の内部空間10の部位から装置外部へ空気Aを排出する空気排出路14を、その中心軸Lに沿って形成する排出路形成部材15と、本体ケーシング11の他方端(図1で矢印Zの先端側の端)で、装置外部から内部空間10へ空気Aを本体ケーシング11の内周面12に沿って吸引する空気吸引路16を、本体ケーシング11の筒外周面13(図2に図示)に沿って形成する吸引路形成部材17とを備えて構成されている。
さらに、サイクロン40は、空気吸引路16、内部空間10及び空気排出路14を介して装置外部の空気Aを吸引して、装置外部へ排出する吸引モータ29(吸引排出手段の一例)を備え、吸引路形成部材17と本体ケーシング11との間のダスト処理空間Mにおいて、吸引された空気Aを本体ケーシング11の内周面12に沿って旋回させて、他端側から一端側(図1で矢印Zの先端側から他端側)へ導き、空気Aの旋回により発生する遠心力により捕集対象物を空気Aから分離し、一端側を捕集部18として捕集対象物を捕集するように構成されている。
【0023】
ここで、サイクロン40の本体ケーシング11は、捕集部18が設けられている一方端を鉛直方向で下方側(図1で矢印Zの基端側)に向けるとともに、他方端を鉛直方向で上方側(図1で矢印Zの先端側)に向けて配置することが好ましい。これにより、抽出液導入部19から導入された抽出液V1は、重力にて下方側に導かれるので、本体ケーシング11の下方側である一方端の捕集部18に保持される。
【0024】
吸引モータ29が空気Aを吸引する場合、上記捕集部18には、ダスト処理空間Mにおいて空気Aから分離された捕集対象物として、インフルエンザウイルスUが空気A中の微小水滴や塵埃等に付着したものであるインフルエンザウイルス付着物質Wが導かれる。ここで、捕集部18には、インフルエンザウイルス付着物質WからインフルエンザウイルスUを抽出可能な抽出液V1を導入する抽出液導入部19が設けられると共に、捕集部18の抽出液導入部19とは異なる部位から抽出液V1を導出する抽出液導出部20を備えている。そして、抽出液導入部19には、抽出液リザーバー21から第1送出ポンプ22により送出された抽出液V1が導かれる。当該、抽出液リザーバー21及び第1送出ポンプ22が、抽出液供給手段として機能する。
【0025】
上述の構成により、本発明のウイルス捕集装置では、吸引モータ29が空気Aを吸引することで、インフルエンザウイルス付着物質Wを、サイクロン40の本体ケーシング11の内周面12に沿って旋回させて、遠心力により空気Aからインフルエンザウイルス付着物質Wを分離するとともに、インフルエンザウイルス付着物質Wを、サイクロン40の一端側(図1で矢印Zの基端側)に設けられた捕集部18を通流する抽出液V1に効果的に浸している。これにより、インフルエンザウイルスUの捕集効率を向上させている。
【0026】
特に、捕集部18は、図2に示すように、サイクロン40の平面視において、本体ケーシング11の内周面12に沿う状態で、環形状の環状溝23として構成されている。これにより、本体ケーシング11の内周面12に沿って旋回するインフルエンザウイルス付着物質Wの流れ方向Yを、環状溝23の環形状に略一致させ、インフルエンザウイルス付着物質Wを、環状溝23に集めることができる。この部位には、抽出液V1が通流しているため、この抽出液V1にインフルエンザウイルス付着物質Wは、浸される。
【0027】
また、抽出液導入部19及び抽出液導出部20の夫々は、図2に示すように、捕集部18としての環状溝23の溝底部33に開口して設けられ、本体ケーシング11の中心軸Lを挟んで設けられることが好ましい。これにより、抽出液V1は、サイクロン40の平面視において、抽出液導入部19を起点として、その一部が環状溝23の一方側の溝23aを通流するとともに、その残部が他方側の溝23bを通流する形態で、抽出液導出部20へ導かれることとなる。結果、抽出液V1を、環状溝23のほぼ全域に亘って存在させる状態にできる。
【0028】
空気A中には、インフルエンザウイルスUが単体で浮遊しているときがある。当該単体のインフルエンザウイルスUは、重量が軽いためサイクロン40の本体ケーシング11にて適切な遠心力がかからず、空気Aから分離され難い。結果、単体のインフルエンザウイルスUは、サイクロン40にて捕集することが難しい。
そこで、本発明のサイクロン40にあっては、空気吸引路16の吸引口25の近傍に、空気Aを加湿するミスト装置26(加湿手段の一例)を設けている。本実施形態にあっては、ミスト装置26は、図1に示すように、空気吸引路16の入口付近を加湿できる構成が採用されている。即ち、ミスト装置26は、空気吸引路16の前方へ直接ミストNを噴霧するように配置されている。当該ミストNの噴霧により、単体のインフルエンザウイルスUを、ミストNに付着させ、インフルエンザ付着物質Wとできる。結果、インフルエンザウイルスUを適切に捕集できる。
【0029】
インフルエンザウイルスUは、その表皮にイノラミニダーゼを有しており、当該インフルエンザウイルスUが界面活性剤等を含む抽出液V1に溶け込むと、イノラミニダーゼをインフルエンザウイルスUから抽出液V1へ放出する性質を有している。
そこで、本発明に係るウイルス捕集装置は、当該インフルエンザウイルスUの性質を利用して、後述するウイルス検査システムにより、インフルエンザウイルスUを検知すべく、以下の如く構成されている。
【0030】
即ち、ウイルス捕集装置は、抽出液導出部20の下流側にて、当該抽出液導出部20から導出された抽出液V1に、イノラミニダーゼの存在を検知するための基質溶液V2を混合可能に構成されている。
具体的には、図1に示すように、イノラミニダーゼと酵素反応して発色する発色基質を含む基質溶液V2を貯留する基質溶液リザーバー27(基質溶液供給手段の一例)と、当該基質溶液リザーバー27から基質溶液V2を送り出す第2送出ポンプ28(基質養鶏供給手段の一例)とを設け、当該第2送出ポンプ28から送り出された基質溶液V2と、抽出液導出部20から導出された抽出液V1とを混合するミキシングバルブ30(混合部の一例)と、抽出液V1と基質溶液V2とを下流側へ送り出す第3送出ポンプ41(送出手段の一例)を設けている。
これにより、抽出液V1にインフルエンザウイルスUが含まれる場合、インフルエンザウイルスUから放出されたイノラミニダーゼを含む抽出液V1と、発色基質を含む基質溶液V2との混合液は、イノラミニダーゼが発色基質と酵素反応して発色する。従って、混合液の発色を検知すれば、抽出液V1中のインフルエンザウイルスUの存否を検知できることとなる。
【0031】
ここで、発色基質としては、例えば、4−メチルウンベリフェリルーα―Dイノラミン酸アンモニウム(4−Methylumbelliferyl−N−acetyl−α―D−neuraminic acid, Ammonium salt:4MU−NANA)等のシアル酸を結合した発色団を用いることができ、他に、5−ブロモインドキシルー4,7−ジメトキシーN−アセチルイノラミン酸α―ケトシド(5−Bromoindoxyl−4,7−dimethoxy−N−acetylneraminic acidα―ketoside)等を用いることができる。この発色基質は、通常、イノラミニダーゼによりイノラミン酸部分と、発色生成物とに分解され、発色生成物が発色(蛍光物質の場合発光)することにより、抽出液V1におけるイノラミニダーゼ及びインフルエンザウイルスUの存在が検知される。
【0032】
〔ウイルス検査システム〕
以下では、上記ウイルス捕集装置を備えたウイルス検査システムにて、発色基質が蛍光を発する場合に、その蛍光を検知して、インフルエンザウイルスUの存在を検査する具体的構成について説明する。
本発明のウイルス検査システムは、これまで説明してきたウイルス捕集装置を備えるとともに、ミキシングバルブ30にて混合された抽出液V1と基質溶液V2との混合液を受け入れる受入部31を備え、受入部31に受け入れた混合液に検査光を照射するとともに、混合液の発色基質の発色生成物から発せられる蛍光を検出する蛍光検出器32とを備えて構成されている。
本システムにより、蛍光検出器32にて蛍光を検出した場合、空気AがインフルエンザウイルスUを含むものであると判断でき、蛍光を検出しなかった場合、空気AがインフルエンザウイルスUを含まないものであると判断できる。
【0033】
ここで、本ウイルス検査システムにあっては、インフルエンザウイルスUを、連続的且つリアルタイムに捕集・検知できるものとなっている。即ち、図1に示すように、抽出液導入部19、捕集部18、抽出液導出部20、ミキシングバルブ30、及び蛍光検出器32を、抽出液V1が連続的に通流可能な流路が形成されている。
当該構成において、第1送出ポンプ22が、抽出液V1を連続的に送り出して、当該抽出液V1により捕集部18にてインフルエンザウイルスUを連続的に捕集し、ミキシングバルブ30が、当該抽出液V1と基質溶液V2とを連続的に混合して混合液を形成し、蛍光検出器32が当該混合液の蛍光を連続的に検出して、インフルエンザウイルスUの存否状態を連続的に検知する。
さらに、上述の構成にあっては、抽出液導入部19、捕集部18、抽出液導出部20、ミキシングバルブ30、及び蛍光検出器32が、連続する流路にて接続されているので、抽出液V1は、当該流路を、数十秒程度から数分程度の短い時間で通流しながらインフルエンザウイルスUを捕集・検知でき、略リアルタイムにてインフルエンザウイルスUの存否を検査できる。
【0034】
以下に、上記ウイルス捕集装置のインフルエンザウイルスUの捕捉能力を検証した検証実験を示す。
〔検証試験〕
インフルエンザウイルスUを用いた検証試験には、相当の設備が必要となり、現実的ではないので、通常の発塵実験室で用いることのできるモデルウイルスとして、ファージΦX174を散布し、以下に示す検証試験用の簡易ウイルス捕集装置にて、ファージΦX174の回収の可否を確認してウイルス捕集能力を検証した。
○検証試験用の簡易ウイルス捕集装置
本検証試験は、上記ウイルス捕集装置のウイルス捕集能力を確認するものであるので、図1に示すウイルス捕集装置において、捕集部18に抽出液V1を満たした状態のサイクロン40を用意し、モデルウイルスの捕集中においては、抽出液導入部19及び抽出液導出部20における抽出液V1の導入出は行わない構成、即ち、これまで説明してきたウイルス捕集装置において、抽出液導入部19、抽出液リザーバー21、第1送出ポンプ22、抽出液導出部20、第3送出ポンプ41、基質溶液リザーバー27、第2送出ポンプ28、及びミキシングバルブ30を有さない検証試験用の簡易ウイルス捕集装置を用いて、以下の条件により検証試験を実施した。
○対象試験用のゼラチンシステム
対照試験用の装置として、以下のサンプリングユニットを有するゼラチンシステムを用いた。サンプリングユニットは、後述するゼラチンフィルタを着脱可能なフィルタ部を備え、当該フィルタ部を介して空気Aを通流させるエアポンプを有するエア通流部を備える。これにより、サンプリングユニットは、サンプリングユニットにおけるエアポンプを駆動すると、サンプリングユニット外部から空気Aがフィルタ部を介して導入され、その後サンプリングユニット外部へ戻される循環流を形成する。
【0035】
=材料等=
○モデルウイルス
ファージφX174:
NBRC 103405:NBRCより入手
【0036】
宿主大腸菌:
NBRC 13898:独立行政法人製品評価技術基盤機構(NBRC)より入手
【0037】
復水液702:
ポリペプトン :10g
イーストエクストラクト:2g
MgSO4・7H2O :1g
上記材料に適当量の水を加えて溶解したのち、pH7.0に調製し、水を加えて1Lにする。これを、オートクレーブ滅菌する。
【0038】
寒天平板培地(medium 802):
ポリペプトン 10g
イーストエクストラクト 2g
MgSO4・7H2O 1g
上記材料に適当量の水を加えて溶解したのち、pH7.0に調製し、水を加えて1Lにする。これにAgar15gを添加し、オートクレーブ滅菌を行ったのち、無菌的に浅型シャーレに10mlずつ分注、液がシャーレ内に均一に行き渡るようにし、固化させる。
【0039】
○フィルタ
ゼラチンフィルタ:
ザルトリウス社製,直径:9cm,ポアサイズ:3μm
【0040】
簡易ウイルス捕集装置:
DC16 DYSON社製
【0041】
サンプリングユニット:
MD8エアポート ザルトリウス社製
【0042】
=測定法=
○宿主大腸菌とファージ液の調製
宿主大腸菌およびファージφX174は共に、NBRC(http://www.nbrc.nite.go.jp/)より入手した。NBRC添付のマニュアルに従い、宿主大腸菌のアンプルを開封し、200μlの復水液702を添加した。数分静置ののち、アンプル底部をタッピングして混和し、数μlを複数の寒天平板培地(medium 802)に塗布した。また、数十μlを、予め、培養試験管に分注した復水液702,4mlに加えて軽く混和した。30℃に設定したインキュベータ中に置き、平板寒天プレートは静置、培養試験管は180rpmで振とうし、終夜培養した。寒天平板培地、培養試験管ともに大腸菌の増殖が確認されたことから、液体培養にて復帰させて大腸菌液適当量をフレッシュな復水液702に植え込み、30℃下に振とうしつつ拡大した。十分な増殖を確認したのち、滅菌済みdimethylformamide(DMSO)を終濃度10%、あるいは、20%になるように大腸菌液に加えたのち、−80℃下に保存した。
【0043】
ファージφX174はプレートライセート法によって調製した。宿主大腸菌と同様にファージφX174のアンプルを開封、200μlの復水液702を添加して数分静置した。アンプル底部をタッピングして混和したのち、50μlを取り、対数増殖期にあると思われる宿主大腸菌液250μlに添加、タッピングにより十分混和したのち、37℃で15分間振とう培養(150rpm)した。予め調製し、45℃下にインキュベートしておいたソフトアガー(0.6%w/v溶液)7mlと混和したのち、寒天平板培地に撒き、ソフトアガーが固化したのち、37℃下、終夜培養した。ソフトアガー表面のプラーク形成を確認したのち、寒天平板培地1枚に対し復水液10mlを加えてピペッティングし、上層の液を回収した。遠心分離(3000rpm×15分)後、上清を回収した(ファージ液)。この操作を複数回行うことによって、十分な感染価を持つファージ液を調製し、モデルウイルスとした。
【0044】
○ファージφX174の捕集
上記モデルウイルスを使用し、容量24m3の発塵実験空間内にモデルウイルスを散布し、簡易ウイルス捕集装置及びゼラチンシステムによるモデルウイルス捕集試験を行った。
【0045】
宿主大腸菌に感染させコピー数を増やしたモデルウイルスの一定量(約1×1015〜1×1017個/ml×0.9ml)を、密閉状態にした発塵実験室内で散布(3.5L/分、5分間散布)する。次に、発塵実験室内に浮遊するモデルウイルスを、簡易ウイルス捕集装置(39.6m3/h×15秒)及びゼラチンシステムで捕集した(2m3/h×30分間)。
【0046】
なお、検証試験を実施した際の発塵実験室内の環境は、26〜30℃、20〜40%RHの範囲であった。
【0047】
○ウイルス捕集装置によるモデルウイルス回収
捕集終了後に抽出液V1としての復水液702に含まれるモデルウイルスを宿主大腸菌に感染させ、一定時間経過後、モデルウイルスによるプラークの形成をプラークアッセイ法により観察した。
【0048】
○ゼラチンシステムによるモデルウイルス回収
捕集終了後にゼラチンフィルタを取り外し、抽出液V1としての復水液702に溶解することによりフィルタ上に捕集された捕集物を回収した。さらに捕集物に含まれるモデルウイルスを宿主大腸菌に感染させ、一定時間経過後、モデルウイルスによるプラークの形成をプラークアッセイ法により観察した。
【0049】
○収集したモデルウイルスの定量(プラークアッセイ法)
モデルウイルスを復水液702で10倍希釈(50μlのファージφX174に復水液702を450μl加える)し、10-1〜10-14までの希釈系列を調整した。対数増殖期にあると思われる宿主大腸菌培養液を、培養試験管に250μlずつ分注し、ついで、モデルウイルス希釈系列を100μlずつ添加し、タッピングして十分混和した。37℃下に15分間振とう培養を行った。培養後の各試験管に、45℃下にインキュベートしておいた0.6%ソフトアガー溶液7mlを加え、泡立たせないよう素早くピペッティングにより攪拌した。予め、37℃下にインキュベートした寒天平板培地に播き込み、ソフトアガーが全面に行き渡るよう均し、室温で固化させた。37℃に設定したインキュベータ中に静置し3時間培養後(その後4℃保存)、形成されたプラーク数を計測した。計測されたプラーク数から、ファージ濃度(PFU/ml)を求めた。結果を、図3に示す。
【0050】
○ウイルスの回収率
図3において、原液のファージ濃度(PFU/ml)とは、発塵実験室にて上述の条件により散布した一定量のモデルウイルス(約1×1015〜1×1017個/ml×0.9ml)を含む液のファージ濃度である。一方、回収液のファージ濃度(PFU/ml)とは、本発明のウイルス捕集装置及び対照試験に係るゼラチンシステムにて、モデルウイルス捕集後の回収液(抽出液V1)に含まれるモデルウイルスのファージ濃度である。ここで、ウイルス回収率を、回収液のファージ濃度を原液のファージ濃度で割ったものと規定する。このとき、ウイルス捕集装置によるモデルウイルス回収率は約10-12程度であり、対照試験のゼラチンシステムのウイルス回収率の10-10程度である。即ち、ウイルス捕集装置によるモデルウイルスの回収率は、対照試験のゼラチンシステムのウイルス回収率の100分の1程度となっている。しかしながら、ウイルス捕集装置の吸引時間が15秒であり、対照試験のゼラチンシステムの吸引時間30分に対して、120分の1程度である点を鑑みると、ウイルス捕集装置のモデルウイルス回収率は、ゼラチンシステムを用いたものと同程度以上であるといえる。
【0051】
○モデルウイルスの回収量
さらに、図3において、モデルウイルスの回収量として、回収液のファージ濃度(PFU/ml)に着目すると、本発明のウイルス捕集装置では、15秒という短い吸引時間であるにも関わらず、約105PFU/mlのファージ濃度の回収液を得ることができ、対照試験のゼラチンシステムの回収液のファージ濃度約106PFU/mlよりは少ないものの、十分にモデルウイルスの検知が可能な濃度の回収液を得ることができた。
【0052】
〔別実施形態〕
(A)
上記実施形態においては、捕集部18は、本体ケーシング11の一方端である下方端に設けられる環形状の環状溝23として構成したが、捕集部18は、当該形状に限定されるものでなく、例えば、有底筒形状等としても、本発明の機能を良好に発揮する。
【0053】
(B)
上記実施形態において、空気吸引路16が1つ設けられている例を示したが、当該空気吸引路16は、別に複数であってもよい。このとき、複数の空気吸引路16を形成する吸引路形成部材17の夫々は、空気吸引路16から吸引された空気Aを本体ケーシング11の内周面12に沿って旋回させるべく、本体ケーシング11の筒外周面13に沿って設けられていることが好ましい。
【0054】
(C)
上記実施形態において、抽出液導入部19及び抽出液導出部20は、捕集部18としての環状溝23に夫々1つずつ設ける構成を示したが、これらは、別に複数設けられるように構成しても構わない。
【0055】
(D)
上記実施形態において、空気吸引路16の吸引口25の近傍には、その雰囲気における空気Aに含まれるインフルエンザウイルスU、微小水滴、塵埃等を除電するイオナイザーを設けておいてもよい。これにより、単体のインフルエンザウイルスU、微小水滴、塵埃等が除電されて、互いに反発することがなくなり、単体のインフルエンザウイルスUを微小水滴や塵埃等に付着させ、インフルエンザウイルス付着物質Wとすることができる。結果、インフルエンザウイルスUをサイクロン40にて捕集し易くなる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明のウイルス捕集装置及びウイルス検査システムは、空気中に浮遊するウイルスを適切に捕集できるウイルス捕集装置、及び捕集したウイルスをその場で迅速且つ簡便に分析して、ウイルスの存在状況をリアルタイムにモニタ可能なウイルス検査システムとして、有効に利用可能である。
【符号の説明】
【0057】
U :インフルエンザウイルス(ウイルスの一例)
V1 :抽出液
V2 :基質溶液
A :空気
M :ダスト処理空間
L :中心軸
10 :内部空間
11 :本体ケーシング
12 :本体ケーシングの内周面
13 :本体ケーシングの筒外周面
14 :空気排出路
15 :排出路形成部材
16 :空気吸引路
17 :吸引路形成部材
18 :捕集部
19 :抽出液導入部
20 :抽出液導出部
21 :抽出液リザーバー(抽出液供給手段の一例)
22 :第1送出ポンプ(抽出液供給手段の一例)
23 :環状溝(捕集部の一例)
25 :空気吸引路の吸引口(空気吸引路の入口)
26 :ミスト装置(加湿手段の一例)
27 :基質溶液リザーバー(基質溶液供給手段の一例)
28 :第2送出ポンプ(基質溶液供給手段の一例)
29 :吸引モータ(吸引排出手段の一例)
30 :ミキシングバルブ(混合部、送出手段の一例)
31 :受入部
32 :蛍光検出器
40 :サイクロン
41 :第3送出ポンプ(送出手段の一例)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状の内部空間を備えた本体ケーシングと、
前記本体ケーシングにおける一方端で、その中心軸側の内部空間部位から装置外部へ空気を排出する空気排出路を、その中心軸に沿って形成する排出路形成部材と、
前記本体ケーシングにおける他方端で、前記装置外部から前記内部空間に空気を前記本体ケーシングの内周面に沿って吸引する空気吸引路を、前記本体ケーシングの筒外周面に沿って形成する吸引路形成部材と、
前記空気吸引路、前記内部空間及び前記空気排出路を介して装置外部の空気を吸引して、装置外部に排出する吸引排出手段とを備えて構成され、
前記吸引路形成部材と前記本体ケーシングとの間のダスト処理空間において、吸引された空気を前記本体ケーシングの内周面に沿って旋回させて、前記他端側から前記一端側に導き、前記空気の旋回により発生する遠心力により捕集対象物を空気から分離し、前記一方端側を捕集部として捕集対象物を捕集するサイクロンを備え、
前記捕集部に、ウイルスを抽出可能な抽出液を導入する抽出液導入部を備えると共に、前記捕集部の前記抽出液導入部とは異なる部位から抽出液を導出する抽出液導出部を備え、前記抽出液導入部へ抽出液を供給する抽出液供給手段を備えるウイルス捕集装置。
【請求項2】
前記空気吸引路の入口付近の空気を加湿する加湿手段を備える請求項1に記載のウイルス捕集装置。
【請求項3】
前記捕集部は、前記本体ケーシングの前記一端側に位置される環状溝として構成されている請求項1又は請求項2に記載のウイルス捕集装置。
【請求項4】
前記抽出液導入部及び前記抽出液導出部は、前記環状溝の溝底部に開口して設けられ、
両者は、前記本体ケーシングの中心軸を挟んで設けられる請求項3に記載のウイルス捕集装置。
【請求項5】
ウイルスと酵素反応して発色する発色基質を含む基質溶液を供給する基質溶液供給手段を備え、
前記基質溶液供給手段により供給される基質溶液と、前記抽出液導出部から導出された抽出液とを混合する混合部を備え、
前記混合部にて混合された基質溶液と抽出液との混合液を送出する送出手段を備えた請求項1乃至4の何れか一項に記載のウイルス捕集装置。
【請求項6】
請求項5に記載のウイルス捕集装置を備えるとともに、
前記送出手段により、送出される基質溶液と抽出液との混合液を受け入れる受入部を備え、前記受入部に受け入れた混合液に検査光を照射して蛍光を検出する蛍光検出器を備えたウイルス検査システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−52866(P2012−52866A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−194491(P2010−194491)
【出願日】平成22年8月31日(2010.8.31)
【出願人】(000000284)大阪瓦斯株式会社 (2,453)
【Fターム(参考)】