説明

ウイルス株

【課題】腫瘍崩壊性および/または遺伝子送達能力が実験室ウイルス株に比較して改善されている、非実験室ウイルス株の提供。
【解決手段】HSV株における機能的ICP34.5コード遺伝子、機能的ICP6コード遺伝子、機能的糖タンパク質Hコード遺伝子、機能的チミジンキナーゼコード遺伝子のうちの1つ以上を欠損するように改変されたものであるか、または、ウイルスが、HSV以外の株における、HSV遺伝子のうちの1つと等価である機能的遺伝子を欠損した、非実験室ウイルス株。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、実験室ウイルス株と比較して改善された腫瘍崩壊性および/または遺伝子送達能力を有する、非実験室ウイルス株、例えばHSVなどのヘルペスウイルスに関する。
【背景技術】
【0002】
ウイルスは、多くの事象に関してバイオテクノロジーおよび医学における種々の用途に有用性を有することが示唆または実証されている。各々の有用性は、高い効率で細胞に侵入するウイルス特有の能力に起因する。このことにより、ウイルス遺伝子の発現と複製および/または挿入された異種遺伝子の発現による適用が行われる。このようにウイルスは細胞に遺伝子(ウイルス遺伝子または他の遺伝子のいずれか)を送達すること、および細胞において遺伝子を発現させることのどちらも可能であり、このことは例えば遺伝子治療もしくはワクチンの開発に有用であり、または例えば癌において、溶菌性複製によって細胞を選択的に死滅させることもしくは送達された遺伝子を作用させることに有用であり得る。
【0003】
単純ヘルペスウイルス(HSV)は、神経系などにおける遺伝子送達ベクター、および癌の腫瘍崩壊性治療に有用であることが示唆されている。しかしながらこれら双方の用途においては、ウイルスを無能化して、病原性はなくなったが、細胞には侵入でき、所望の機能を達成することができるようにする必要がある。このようにHSVを用いて標的細胞に非毒性遺伝子を送達するためには、多くの場合、ウイルスの前初期遺伝子発現が阻止/最小化されていなければならないことが明らかとなっている。癌の腫瘍崩壊性治療については、この治療は治療効果を増強する遺伝子の送達を含むことができ、依然としてウイルスは培養においてもしくはin vivoの活性のある分裂細胞において複製できるが、正常組織での有意な複製が阻止される、HSVに対する多くの突然変異が同定されている。このような突然変異には、ICP34.5、ICP6およびチミジンキナーゼをコードする遺伝子の破壊が含まれる。もちろん、ICP34.5に対する突然変異を有するウイルス、または例えばICP6の突然変異とともにICP34.5に対する突然変異を有するウイルスによって、今までのところ最も良好な安全プロファイルが示されている。ICP34.5だけが欠失したウイルスは、in vitroで多くの腫瘍細胞型で複製すること、およびマウスで周辺組織を残して人工的に誘導した脳腫瘍において選択的に複製することが示されている。
【0004】
しかしながら、HSVを含む様々なウイルスについての遺伝子送達/治療または癌の腫瘍崩壊性治療に対する有望性が示されているが、この研究のほとんどで使用されているウイルス株は、組織培養細胞において長年維持されてきたものである。ウイルスが単に細胞に入り遺伝子を送達するだけの用途においては、このことは問題とはならないと考えられる。なぜなら、考えられるベクターにとっての標的細胞と比較すると様々な型または種の異なる細胞である場合が多いが、細胞にウイルスが侵入することが細胞培養における維持には必要であるからである。しかしながら他の特性を所望するような用途においては、実験室ウイルス株の使用では、利用しようとする特定の用途におけるウイルスの能力を完全なものにすることができない。
【0005】
HSVは、自然進化による、ニューロンに感染し、かつ潜伏した状態のままであるという、現在ベクターとして開発中のウイルスの中でも特有の能力を有する。またHSVは、感染部位(通常は末梢)から神経に沿って(通常は脊髄神経節中の)神経細胞体に高い効率で輸送されるように進化している。このような能力は、細胞培養には必要とされず、またこのような能力はHSVの特定の進化した特性を必要とするので、培養増殖にさらに適応させることで、最も効率的な軸索輸送能力は失われ得る。中枢または末梢神経系への遺伝子送達用のHSVベクターは、軸索輸送特性が最も効率的に保持されている場合には最大の有効性を示すと考えられる。この際、その時に末梢部位に接種されることにより末梢神経細胞体への最大で効率的な遺伝子送達が可能となり、また脳内に接種することにより複数の連結した部位への最も効率的な遺伝子送達が可能となるであろう。現在のHSVの実験室株に基づくベクターでは、可能な最も効率的に遺伝子送達を生じさせることができない。実際には、HSVは神経に沿って輸送される能力が高いので、保存されることが望まれる特性と培養中に保持されるであろう特性の間にかなり大きな不一致な部分が存在すると考えられる。
【0006】
HSVおよびその他のウイルス(例えば、アデノウイルスまたはレオウイルス(rheovirus))には、癌の腫瘍崩壊性治療における潜在的な有用性がある。しかしながら、このような目的のために開発中のウイルスはやはり、前もって大量に培養維持されたものである。癌の腫瘍崩壊性治療は、多くの場合に相対的にゆっくりと増殖するヒト腫瘍細胞での活発な複製を必要とするが、実験室ウイルス株を特定の培養細胞で増殖させるように適応させることによって、ヒト腫瘍細胞における溶菌性複製またはヒト腫瘍細胞への感染が最適に生じうる効率が低減される場合があることが予測されよう。
【発明の概要】
【0007】
本発明は、腫瘍細胞の遺伝子導入および/または溶菌破壊の改善されたin vivoでの能力を有するウイルスを開発するための機会を提供する。ここでは、これらの目的に適するウイルス株が構築される。この構築は、既に使用されている連続継代した実験室株よりも適当なウイルスである最近の臨床単離株に基づく。従って本発明は、in vivoでヒト細胞に感染するという改善された能力、かかる細胞内での複製/溶菌能力の改善、および(HSVの場合には)接種部位から神経に沿って神経細胞体に輸送する能力の改善を有するウイルスが提供され得る。本発明をHSVを用いて実証するが、ベクターとしておよび/または腫瘍崩壊性の癌細胞破壊について現在開発中である他のウイルスにも適用できる。
【0008】
本発明者らは、HSVの2種の臨床単離株(JS1およびBL1株)がHSV1 17+株(標準的な実験室株)と比較して、幾つかのヒト腫瘍細胞系において複製が増強されていることを示した。
【0009】
本発明者らは、臨床単離株JS1株からICP34.5を欠損させ、ICP34.5を欠損したHSV1 17+株(標準的な実験室株)に対するヒト腫瘍細胞系における複製可能性を再度比較した。この株(JS1/ICP34.5-)は、臨床単離株から誘導される改変された株、即ち、本発明の改変された非実験室株である。
【0010】
ICP34.5を欠損したJS1は、ICP34.5を欠損したHSV1 17+株(すなわち、同じ改変を有する実験室株)と比較すると、試験した幾つかのヒト腫瘍細胞において増殖の増強が示された。しかしながら、17+株から誘導された実験室株と比較すると、試験した全ての腫瘍細胞系においてJS1/ICP34.5-ウイルスの細胞殺傷能力は増強されていた。
【0011】
従って、非実験室株を用いることにより、このようなウイルスの抗腫瘍能力を増強できることが示され、このことは、試験した限りの全ての腫瘍細胞系では明白であった。これは、ヒト患者の癌治療に対する適用性を有するであろう。
【0012】
またこれらのウイルスを用いて抗腫瘍活性を有する遺伝子を送達した場合には、さらに増強された活性を予測することができる。このような遺伝子には、プロドラッグアクチベーター、腫瘍サプレッサーもしくはプロアポトーシス因子、または免疫刺激タンパク質をコードする遺伝子が含まれる。
【0013】
この目的のために、本発明者らはICP34.5を欠損した、ヒトGMCSFを発現するHSV1の臨床単離株を産生した。このウイルスは、腫瘍内感染に続く抗腫瘍免疫応答を増強するために設計されたものである。
【0014】
また本発明は、1以上の異種遺伝子を有する本発明のウイルスを提供する。異種遺伝子という用語は、ウイルスゲノム内には見出されない遺伝子のあらゆるものをも包含することを意図する。異種遺伝子は、野生型遺伝子の任意の対立遺伝子変異体であってもよく、または突然変異型遺伝子であってもよい。異種遺伝子は、好ましくはin vivoの細胞での異種遺伝子の発現を可能にする制御配列に機能的に連結される。従って、本発明のウイルスを用いて、in vivoの細胞に1以上の異種遺伝子を送達することができ、そこで該異種遺伝子が発現され得る。腫瘍崩壊性ウイルス治療において、このような遺伝子は、典型的にはウイルスの腫瘍破壊特性を増強することができるタンパク質をコードする。これらの遺伝子は、それら自体が細胞毒性であるタンパク質、プロドラッグを活性化するタンパク質、または抗腫瘍免疫応答を刺激/増強することが可能であるタンパク質をコードするものであってよい。HSVを用いた末梢神経系への遺伝子送達においては、1以上の異種遺伝子は、痛み刺激(painful stimuli)に対する応答を改変するか、もしくは慢性の痛みを低減することができるポリペプチド、例えば神経成長因子、その他の痛みをモジュレートする神経栄養因子もしくは神経栄養因子様分子、またはサブスタンスPもしくはその他の神経ペプチドを隔絶することができるタンパク質をコードするものであってよい。また1以上の異種遺伝子は、損傷神経の再生を刺激するか、または変性状態にある神経のさらなる変性を阻止することができるポリペプチドをコードするものであってよい。異種遺伝子には、中枢神経系における神経変性疾患(例えばパーキンソン病またはアルツハイマー病)に有益である可能性を有する遺伝子が含まれ、典型的にはこのような疾患において残存する細胞の活性を増強することができる神経栄養因子および/または酵素をコードする遺伝子が含まれ得る。全ての場合において、単一または複数の異種遺伝子は単一のウイルスによって保有され得る。
【0015】
従って、本発明は、以下のものを提供する:
改変された腫瘍崩壊性非実験室ウイルス株の、癌の腫瘍崩壊治療用の医薬品の製造における使用;
【0016】
異種遺伝子を含む改変された複製不能非実験室ウイルス株の、該異種遺伝子を被験者に送達するための医薬品の製造における使用;
【0017】
遺伝子が末梢神経系障害に関連する表現型または末梢神経系障害に関係する末梢神経系細胞における効果を有するか否かを決定する方法であって:
(i) 異種遺伝子を含む本発明の複製不能ヘルペスを末梢神経に接種し;そして、
(ii) 前記障害の表現型または前記遺伝子の発現による前記細胞における効果をモニターすることにより、前記遺伝子が前記障害に関係する効果を有するか否かを決定する;
ことを含む前記方法;
【0018】
遺伝子が中枢神経系障害に関連する表現型または中枢神経系障害に関係する中枢神経系細胞における効果を有するか否かを決定する方法であって:
(i) 本発明の複製不能ヘルペスウイルスを中枢神経系細胞に接種し;そして、
(ii) 前記障害の表現型または前記遺伝子の発現による前記細胞における効果をモニターすることにより、前記遺伝子が前記細胞または前記表現型における効果を有するか否かを決定する;
ことを含む前記方法;
【0019】
遺伝子が病原体感染または癌に関連する抗原をコードするものであるか否かを決定する方法であって、本発明の複製不能ウイルスを樹状細胞もしくはマクロファージに感染させ、前記遺伝子のポリペプチド産物の抗原提示、または前記遺伝子の発現の効果、または前記病原体感染もしくは癌の表現型をモニターすることにより、前記遺伝子が前記感染もしくは癌に関連する抗原をコードするか否か、およびそれ自体が治療能力を有するか否かもしくは治療的介入の標的となるか否かを決定することを含む、前記方法;
【0020】
本明細書で規定する改変された株への改変に対する非実験室ウイルス株の適合性を決定する方法であって:
(i) 場合によっては非実験室ウイルス株を宿主から単離し;
(ii) 前記非実験室ウイルス株を得て;
(iii) 1つ以上の所望の特徴に関してウイルスの特性を評価し;そして場合によっては、
(iv) 所望の特性を有するウイルス株を改変のために選択する;
ことを含む前記方法;
【0021】
本発明の改変された腫瘍崩壊性株への改変に対する非実験室ウイルス株の適合性を決定する方法であって:
(i) 場合によっては非実験室ウイルス株を宿主から単離し;
(ii) 1種以上の型の腫瘍細胞におけるウイルスの増殖を評価し;そして場合によっては、
(iii) 高増殖率を有するウイルス株を改変のために選択する;
ことを含む前記方法;
【0022】
改変された腫瘍崩壊性株への改変に対する非実験室ウイルス株の適合性を決定する方法であって:
(i) 1種の非実験室ウイルス株、場合によっては上記方法によって選択された株を用意し;
(ii) 腫瘍崩壊性となるように前記株を改変し;そして、
(iii) 前記改変された腫瘍崩壊性非実験室株の腫瘍細胞を死滅させる能力を評価し、そして場合によっては;
(iv) さらなる改変のために高い腫瘍細胞死滅能力を示す株を選択し、そして場合によっては、
(v) さらなる改変を実施する;
ことを含む前記方法;
【0023】
遺伝子がウイルスの抗腫瘍効果を増強するか否かを決定する方法であって:
(i) 本発明の改変された腫瘍崩壊性非実験室株を用意し;
(ii) 前記遺伝子を異種遺伝子として前記ウイルスに挿入し;そして、
(iii)前記改変された腫瘍崩壊性非実験室株の腫瘍細胞を死滅させる能力を、ステップ(i)で用意した前駆株の該能力と比較して評価する;
ことを含む前記方法;
【0024】
改変された腫瘍崩壊性非実験室ウイルス株を産生する方法であって:
(i) 非実験室ウイルス株を宿主から単離し;
(ii) 場合によっては上記に従って改変に対する前記ウイルス株の適合性を決定し;そして、
(iii) 前記ウイルス株を腫瘍崩壊性にするために改変し;そして場合によっては、
(iv) さらなる改変を実施する;
ことを含む前記方法;
【0025】
改変された非実験室ウイルス株を産生する方法であって:
(i) 非実験室ウイルス株を用意し;
(ii) 前記ウイルス株を複製不能にするために改変し;そして、
(iii) 異種遺伝子を挿入する;
ことを含む前記方法;
【0026】
本明細書に記載の改変された腫瘍崩壊性非実験室ウイルス株;
【0027】
本明細書に記載の異種遺伝子を含む改変された非実験室ウイルス株;
【0028】
上記の方法によって末梢神経系障害に関連する表現型もしくは末梢神経系障害に関係する末梢神経系細胞における効果を有するものとして同定された遺伝子、または該遺伝子によってコードされる遺伝子産物の、末梢神経系障害の治療用の医薬品の製造における使用;
【0029】
上記の方法によって中枢神経系障害に関連する表現型もしくは中枢神経系障害に関係する中枢神経系細胞における効果を有するものとして同定された遺伝子、または該遺伝子によってコードされる遺伝子産物の、中枢神経系障害の治療用の医薬品の製造における使用;
【0030】
上記の方法によって病原体感染もしくは癌に関連する抗原をコードするものとして同定された遺伝子、または該遺伝子によってコードされる抗原の、病原体感染または癌の治療または予防用の医薬品の製造における使用;
【0031】
本発明の方法によって同定されたか、または前記方法の過程で産生された、非実験室ウイルス株;
【0032】
上記の方法によってウイルスの抗腫瘍効果を増強するものとして同定された遺伝子、または該遺伝子によってコードされる遺伝子産物の、癌の治療もしくは予防用の医薬品の製造における使用;
【0033】
本発明の方法によって得られたか、または得ることができる、改変された非実験室ウイルス株;
【0034】
European Collection of Cell Cultures(ECACC)に仮受託番号01010209として寄託されているHSV1 JS1株、またはそれから誘導されたHSV1株、そのようなウイルスを含む医薬組成物、ヒトまたは動物の身体の治療に使用するそのようなウイルス;
【0035】
有効量の本発明のウイルスを個体に投与することによって、治療を必要とする個体の腫瘍を治療する方法;
【0036】
有効量の本発明の非腫瘍崩壊性ウイルスを個体に投与することによって、治療を必要とする個体に遺伝子を送達する方法;
【0037】
有効量の本発明の神経親和性ウイルス(neurotrophic virus)を治療を必要とする個体の末梢神経に投与することによって、中枢末梢神経系障害を治療または予防する方法。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】図1は、ウイルスを示す。上から下の順に、HSV1 17+実験室株、BL1臨床株、JS1臨床株、17+/ICP34.5-、JS1/ICP34.5-、JS1/ICP34.5-/ICP47-/hGMCSFの略図を示す。
【図2】図2は、腫瘍細胞における臨床単離株の増殖の増強を示す。(1) 17+、BL1およびJS1の増殖。左側のグラフ:U87細胞。右側のグラフ:LNCaP細胞。(2) 腫瘍細胞におけるICP34.5-の17+およびJS1の増殖。左側のグラフ:LNCaP細胞。右側のグラフ:MDA-MB-231細胞。(3) JS1/34.5-は、HSV ICP34.5突然変異体に対して非許容性の細胞において増殖しない。左側のグラフ:3T6細胞 - 17+、JS1。右側のグラフ:3T6細胞 - 17+、JS1 ICP34.5-。
【図3】図3は、ICP34.5を欠失したHSV臨床単離株の試験した全ての腫瘍細胞における溶菌の増強を示す。腫瘍細胞系に、モック感染するか、または示されたMOIでHSV1 17+/34.5-株もしくはHSV1 JS1/34.5-株を感染させ、感染後の各時点で細胞を可視化させるためにクリスタルバイオレットで染色した。各々の写真のブロックは細胞型に関する。上から下の順に、細胞型はHT29結腸直腸腺癌細胞、LNCaP.FGC前立腺癌細胞、MDA-MB231 乳腺癌細胞、SK-MEL-28悪性黒色腫細胞およびU-87 MG神経グリア芽細胞腫・神経膠星状細胞腫細胞である。左側のブロックは、HSV1 17+/34.5-株についての結果に関する。右側のブロックは、HSV1 JS1/34.5-株についての結果に関する。中央のブロックは、モック感染細胞を表す。各ブロック内では、最上部の列が24時間の時点、第2の列が48時間の時点および第3の列が72時間の時点を表す。各ブロック内では、左側の縦行がMOI=0.2、中央の縦行がMOI=0.1および右側の縦行がMOI=5を表す。
【発明を実施するための形態】
【0039】
A. ウイルス
本発明のウイルス株
本発明は、一般のウイルスに適用することできる。好ましくは、本発明のウイルス株はヘルペスウイルス株、アデノウイルス株、ピコルナウイルス株、レトロウイルス株またはアルファウイルス株である。より好ましくは、本発明のウイルス株はヘルペスウイルス株である。さらにより好ましくは、本発明のウイルス株は単純ヘルペスウイルス(HSV)株、典型的にはHSV1株またはHSV2株である。
【0040】
本発明のウイルスが単純ヘルペスウイルスである場合、ウイルスは例えばHSV1株もしくはHSV2株またはそれらの誘導株から誘導することができ、好ましくはHSV1から誘導することができる。誘導株としては、HSV1およびHSV2株に由来するDNAを含むタイプ間組換株(inter-type recombinant)が挙げられる。このようなタイプ間組換株については当技術分野で記載されており、例えばThompsonら、(1998)およびMeignierら(1988)に記載されている。誘導株は、HSV1またはHSV2ゲノムに対して少なくとも70%、より好ましくは少なくとも80%、さらにより好ましくは少なくとも90または95%の配列相同性を有する。より好ましくは誘導株は、HSV1またはHSV2ゲノムに対して少なくとも70%の配列同一性、より好ましくは少なくとも80%の同一性、さらにより好ましくは少なくとも90%、95%または98%の同一性を有する。
【0041】
例えば、UWGCGパッケージは、(例えばそのデフォルト設定で使用される)相同性を計算するために使用することができるBESTFITプログラムを提供する(Devereuxら, (1984) Nucleic Acids Research 12, p387-395)。PILEUPおよびBLASTアルゴリズムは、(典型的にはこれらのデフォルト設定で)相同性を計算するため、または配列を並べるために使用することができる(例えばAltschul (1993) J. Mol. Evol. 36:290-300; Altschulら(1990) J. Mol. Biol. 215:403-10に記載されている)。
【0042】
BLAST分析を実行するためのソフトウェアは、National Centre for Biotechnology Information(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)により公に入手可能である。このアルゴリズムは、まず、データベース配列の中にある同じ長さのワードにアラインメントさせたときに、ある正の値の閾値スコアTに一致するまたはこれを満たす、クエリー配列の中の長さWの短いワードを同定することにより、スコアの高い配列ペア(High scoring sequence pair, HSPs)を同定する工程を含む。Tは、近傍ワードスコア閾値(neighbourhood word score threshold)と呼ばれる(Altschulら, 1990)。これらの最初の近傍ワードのヒットは、これらを含むHSPを見つけるために検索を開始するためのシードとして機能する。該ワードヒットを各配列に沿って両方向に、累積アラインメントスコアができる限り高くなるまで長く伸長させる。各方向へのワードヒットの伸長は、以下の時に停止する:累積アラインメントスコアがその最大達成値よりも量Xだけ低下したとき;1つ以上の負のスコアの残基アラインメント(negative-scoring residue alignment)の累積により累積スコアがゼロ以下になるとき;またはいずれかの配列の端部に到達したとき。BLASTアルゴリズムのパラメーターW、TおよびXは、アラインメントの感度および速度を決定する。BLASTプログラムは、ワード長(W)=11、BLOSUM62スコアリングマトリックス(HenikoffおよびHenikoff (1992) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89: 10915-10919を参照されたい)アラインメント(B)=50、期待値(E)=10、M=5、N=4および両鎖の比較をデフォルトとして使用する。
【0043】
BLASTアルゴリズムは、2つの配列間で類似性の統計的分析を行う。例えばKarlinおよびAltschul (1993) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90: 5873-5787を参照されたい。BLASTアルゴリズムにより提供される類似性の1つの基準は、2つのヌクレオチド配列またはアミノ酸配列間で一致が偶然起こる確率を示す最小合計確率(the smallest sum probability)P(N)である。例えば、第1の配列を第2の配列と比較したときの最小合計確率が約1未満、好ましくは約0.1未満、より好ましくは約0.01未満、最も好ましくは約0.001未満である場合、該配列は他方の配列に類似しているとみなされる。
【0044】
誘導株は、例えば1、2または3〜10、25、50または100個のヌクレオチド置換により改変されたHSV1またはHSV2ゲノムの配列を有するものとすることができる。あるいは、またはこれに加えて、HSV1またはHSV2ゲノムは、1以上の挿入および/もしくは欠失により、ならびに/または一方もしくは両側の末端部の伸長により、改変することができる。
【0045】
本発明のウイルス株の特性
本発明のウイルス株は、「非実験室」株である。またこれらを、「臨床」株と呼ぶこともできる。当業者であれば、実験室株と非実験室株(または臨床株)とを容易に区別することができるだろう。ウイルス株によって提示されると考えられる特性に関するさらなるガイダンスを下記に記載する。
【0046】
実験室株と非実験室株との主要な差異は、現在一般に使用される実験室株は長い期間、幾つかの場合には長年、培養されて維持されているということである。HSVのようなウイルスの培養法には、連続継代として知られている技術が含まれる。ウイルスを増殖し維持するためには、好適な細胞にウイルスを感染させ、ウイルスを細胞内で複製させ、次いでウイルスを回収し、さらに新しい細胞に再感染させる。この工程は、連続継代の1サイクルを構成する。このような各サイクルは、例えばHSVの場合には2、3日間かかりうる。上記で考察したように、実際的用途に有用な特性(例えばHSVの場合には、軸索に沿って移動するという能力の維持)とは対照的な培養増殖に好都合である特性(例えば迅速な複製)に対する選択が生じるという点で、このような連続継代はウイルス株の特性を変化させる可能性がある。
【0047】
本発明のウイルス株は、感染した個体から最近単離した株から誘導するものであるという点で非実験室株である。本発明の株は、元の臨床単離株と比較して改変されており、培養に時間を費やし得るが、培養に費やす時間は比較的短い。本発明の株は、それらが誘導される元の臨床単離株の所望の特性を実質的に維持するような方法で調製される。
【0048】
本発明のウイルスは、標的ヒト細胞に効率的に感染することができる。このようなウイルスは、感染した個体から最近単離され、次いで標準的な実験室株と比較して、in vitroおよび/またはin vivoで腫瘍細胞および/またはその他の細胞における所望の複製能力の増強について、あるいは(HSVのような神経親和性ウイルスの場合には)in vivoモデルを用いて標準的な実験室株と比較して神経に沿って輸送する能力の増強についてスクリーニングする。実験室ウイルス株と比較して改善された特性を有するこのようなウイルスが本発明のウイルスである。次いでこのような所望の改善された特性を有すると同定されたウイルスを、適当な1以上の遺伝子の突然変異により腫瘍細胞を選択的に死滅させることができるように操作することができ、あるいは非腫瘍崩壊性用途において毒性効果なく1以上の遺伝子を標的組織に送達することができるように突然変異させることができる。このように改変されたウイルスもまた本発明のウイルスである。あるいは、ウイルス株を感染した個体から単離し、腫瘍崩壊性治療および/または遺伝子送達にとって適当であると予測される突然変異を行うことができる。次いでこれらの改変されたウイルスを実験室株と比較して所望の改善された特性についてスクリーニングする。このような改善された特性を有するウイルスによって、さらに本発明のウイルスが提供される。
【0049】
本発明のウイルス株の考えられる特性に関するさらなるガイダンスを以下に記載する。
【0050】
好ましくは、本発明のウイルス株は、その非改変臨床前駆体株をその宿主から単離した後の培養期間が3年以下のものである。より好ましくは、本発明の株は、その非改変前駆体株をその宿主から単離した後の培養期間が1年以下、例えば9ヶ月以下、6ヶ月以下、3ヶ月以下、または2ヶ月以下、1ヶ月以下、2週間以下、または1週間以下のものである。これらの培養時間の定義は、実際に培養に費やした時間を意味する。従って、例えば、これらのウイルス株を保存するためにウイルス株を凍結することは、一般的な操作である。凍結することによってまたは等価な方法で保存することは、ウイルス株を培養で維持することとしてみなされないことは明らかである。従って、凍結ないしは他の方法で保存に費やされた時間は、培養に費やされた時間の上記の定義には含まれない。培養に費やされた時間は、典型的には連続継代を経るのに実際に費やされた時間、すなわち、望ましくない特徴に対する選択が起こり得る期間の時間である。
【0051】
好ましくは、本発明のウイルス株は、その非改変前駆体株をその宿主から単離した後の連続継代のサイクルが1000サイクル以下のものである。より好ましくは本発明のウイルス株は、そのようなサイクルが500サイクル以下、100サイクル以下、90サイクル以下、80サイクル以下、70サイクル以下、60サイクル以下、50サイクル以下、40サイクル以下、30サイクル以下、20サイクル以下、10サイクル以下のものである。
【0052】
好ましくは、本発明のウイルスは、標準的な統計的試験によって測定したところ、将来の用途に有用な特定の機能を達成するための等価な改変を有する参照実験室株よりも優れた能力を有する。例えば、腫瘍治療用の腫瘍崩壊性ウイルスの場合には、本発明のウイルス株は、任意の腫瘍細胞に感染し、または腫瘍細胞において複製し、腫瘍細胞を死滅させ、または組織中の細胞間を伝染するための等価な改変を有する参照実験室株よりも優れた能力を有することが好ましい。より好ましくは、そのような優れた能力は統計的に有意な優れた能力である。例えば、本発明に従えば、本発明のウイルスの能力は、試験した特性に関して参照株の能力の1.1倍、1.2倍、1.5倍、2倍、5倍、10倍、20倍、50倍または100倍までであり得る。
【0053】
好ましくは、本発明のウイルスは、すなわち、将来の用途に有用であることを特徴とする1以上の特性に関して、その非改変臨床前駆体株の実質的な能力を維持している。例えば、腫瘍の治療を目的とする腫瘍崩壊性ウイルスの場合、好ましくは本発明のウイルス株は、腫瘍細胞に感染し、または腫瘍細胞において複製し、腫瘍細胞を死滅させ、または組織中の細胞間を伝染するというその非改変臨床前駆体株の実質的な能力を有する。
【0054】
好ましくは、本発明に従えば、定量試験においてウイルスが、試験した特性に関してその非改変臨床前駆体株の能力の75%、より好ましくは80、90、95、98、99または100%を保持している場合は、ウイルスはその非改変臨床前駆体株の実質的な特性を保持している。より好ましくは試験した特性に関して、非改変臨床前駆体株と本発明の改変された株との差異は統計的に有意ではない。
【0055】
本明細書に記載した特性の統計分析は、標準的な検定、例えばt-検定、ANOVA、またはカイ2乗検定によって行うことができる。典型的には、統計的な有意性は、p=0.05(5%)、より好ましくはp=0.01、p=0.001、p=0.0001、p=0.000001のレベルまで測定される。
【0056】
改変
本発明のウイルスは、典型的にはそれらの前駆体臨床株に対して改変される。特に、特定の遺伝子は、典型的には非機能的にされ、またウイルスは1以上の異種遺伝子を含むことができる。典型的には、本発明のウイルスは弱毒化されている。
【0057】
本明細書に記載された目的のために改変されたウイルス領域は、(完全にもしくは部分的に)除去されていても、または非機能的にされていても、あるいはその他の配列、特に異種遺伝子配列によって置換されていてもよい。1以上の遺伝子が非機能的にされ、1以上の異種遺伝子が挿入されていてもよい。
【0058】
本発明の腫瘍崩壊性ウイルス
一実施形態において、本発明のウイルスは改変された腫瘍崩壊性非実験室ウイルスである。これらは、癌の腫瘍崩壊性治療に有用である。このようなウイルスは腫瘍細胞に感染し、該細胞において複製し、次いで腫瘍細胞を死滅させる。従ってこのようなウイルスは複製可能である。ウイルスが腫瘍細胞において選択的に複製可能であることが好ましい。このことは、ウイルスが腫瘍細胞において複製するが、非腫瘍細胞において複製しないこと、またはウイルスが非腫瘍細胞よりも腫瘍細胞において効果的に複製することのいずれかを意味する。選択的複製能力の測定は、複製および腫瘍細胞死滅能力の測定に対して本明細書で記載した試験によって行うことができ、所望される場合には本明細書で記載した統計技術によって分析することができる。
【0059】
好ましくは、本発明の腫瘍崩壊性ウイルスは、腫瘍細胞に感染し、または腫瘍細胞において複製し、腫瘍細胞を死滅させ、または組織中の細胞間を伝染するための同一の改変を有する参照実験室株よりも優れた能力を有する。好ましくは、この能力は本明細書に記載したような統計的に有意な優れた能力である。腫瘍細胞に関連したウイルス株の特性は、当技術分野で知られている任意の方法で測定することができる。
【0060】
例えば、ウイルスの腫瘍細胞に感染する能力は、所定の割合の細胞、例えば50%または80%の細胞を測定するために必要とされるウイルス量を測定することによって定量化することができる。腫瘍細胞における複製能力は、実施例(図2を参照されたい)において行われているような増殖測定法、例えば6時間、12時間、24時間、36時間、48時間または72時間以上の時間にわたる細胞中のウイルス増殖を測定することによって測定することができる。
【0061】
ウイルスの腫瘍細胞を死滅させる能力は、目視によっておおまかに定量化することも(図3を参照されたい)、または所定の時点での時間かつ所定の細胞型に対するMOIで生き残る生細胞数を数えることによってより正確に定量化することができる。例えば24時間、48時間または72時間にわたって比較を行うことができ、また公知な腫瘍細胞型のいずれも用いることができる。特にHT29結腸直腸腺癌細胞、LNCaP.FGC前立腺癌細胞、MDA-MB231 乳腺癌細胞、SK-MEL-28悪性黒色腫細胞またはU-87 MG神経グリア芽細胞腫・神経膠星状細胞腫(glioblastoma astrocytoma)細胞を用いることができる。これらの細胞型のいずれか1種またはこれらの細胞型のいずれかの組合せを用いることができ、その他の腫瘍細胞型も同様でありうる。この目的のために腫瘍細胞型の標準的なパネルを構築することが望ましい場合がある。所定の時点で、生き残っている生細胞数を数えるために、トリパンブルー排除細胞数(すなわち、生細胞)を数えることができる。また定量化は、蛍光活性化細胞選別(FACS)またはMTTアッセイによって行うことができる。また腫瘍細胞死滅能力は、in vivoで、例えば特定のウイルスによって生じる腫瘍体積の低減を測定することによって、測定することができる。
【0062】
ウイルスの組織、特に硬組織(solid tissue)において伝染する能力は、元の感染部位に連結した部位にある細胞数を決定することによって測定することができる。
【0063】
本発明のウイルスの特性を決定するためには、一般的に比較として標準的な実験室参照株を用いることが望ましい。好適で標準的な実験室参照株のいずれも用いることができる。HSVの場合には、HSV1 17+株、HSV1 F株またはHSV1 KOS株から選択される1種以上のHSV1株を用いることが好ましい。参照株は、典型的には試験される本発明の株と等価な改変を有する。従って、参照株は、典型的には遺伝子欠失および/または異種遺伝子挿入などの等価な改変を有する。例えばHSV株の場合において、ICP34.5およびICP47コード遺伝子が本発明のウイルスで非機能的にされている場合には、それらは参照株でも非機能的にされている。参照株に対して行われる改変は、本発明の株に対して行われる改変と同一であってよい。このことは、参照株における遺伝子破壊が、本発明の株における遺伝子破壊の位置と正確に等価な位置にあること、例えば同じサイズで同じ場所で欠失されることを意味する。同様に、これらの実施形態において、異種遺伝子は同じ場所に挿入され、同じプロモーターなどによって駆動される。しかし同一の改変が行われることは必須ではない。重要なことは、参照遺伝子が機能的に等価な改変を有することであり、例えば、同じ遺伝子が非機能的にされていることおよび/または1以上の同じ異種遺伝子が挿入されていることである。
【0064】
本発明の腫瘍崩壊性ウイルスにおいて、腫瘍崩壊活性が天然に存在しないのであれば腫瘍崩壊活性を付与するために、好ましくは選択的な腫瘍崩壊活性を付与するために好適な改変がウイルスに対して行われる。
【0065】
HSVの場合、選択的な腫瘍崩壊活性を可能にするこのような突然変異には、ICP34.5、ICP6および/またはチミジンキナーゼ(TK)、好ましくはICP34.5をコードする遺伝子に対する突然変異が含まれる。HSVの実験室株におけるICP34.5コード遺伝子に対するこのような突然変異は、Chouら 1990、Macleanら 1991に記載されているが、ICP34.5が非機能的となる突然変異のいずれも用いることができる。
【0066】
従って、HSV株においては、ウイルスが機能的ICP34.5コード遺伝子、機能的ICP6コード遺伝子、機能的糖タンパク質Hコード遺伝子、機能的チミジンキナーゼコード遺伝子の1以上を欠くように改変されていることが好ましく、または非HSV株においては、ウイルスは前記HSV遺伝子の1つに等価な機能的遺伝子を欠くように改変されていることが好ましい。
【0067】
より好ましくは、ウイルスは機能的ICP34.5コード遺伝子を欠く。
【0068】
またその他の改変を行うことができる。特にHSVの場合、機能的ICP47遺伝子を欠くようにウイルスを改変することができる。この理由は、ICP47は通常HSV感染細胞における抗原提示をブロックするように機能するので、それを破壊することによって、宿主の免疫系からこのようなHSV感染細胞を保護し得る特定の特性を感染腫瘍細胞に付与しないウイルスを生じさせるからである。
【0069】
腫瘍崩壊性(すなわち、周辺組織に対して腫瘍における選択的な複製)を提供する、いずれの他の遺伝子の欠失/突然変異を有するウイルスもまた本発明のウイルスであり、当業者であれば、上記のリストが完全なものではなく、また上記のウイルスのいずれかにおいてその他の遺伝子の機能を同定することにより、本発明のウイルスでもある新規なウイルスの構築が示唆されうることを認識するだろう。
【0070】
また1以上の異種遺伝子を本発明のウイルスに、当技術分野において公知な技術および/または本明細書で記載した技術によって挿入することができる。腫瘍崩壊性ウイルスにおいては、異種遺伝子はウイルスの腫瘍に対抗する能力を増強する遺伝子である。従って、ウイルスに抗腫瘍特性を付与する遺伝子のいずれも挿入することができる。特に異種遺伝子は、有益な方法で腫瘍細胞に対する免疫応答を改変することができる遺伝子であることができ、とりわけ免疫刺激ポリペプチド、例えばCD40L、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GMCSF)、別のサイトカインもしくはケモカイン(例えばRANTES)、B7.1もしくはB7.2、またはIL12をコードするものである。あるいは、異種遺伝子は、プロドラッグアクチベーター、例えばニトロレダクターゼまたはチトクロームP450をコードするものであることができる。この背景において、プロドラッグアクチベーターによって活性化されるプロドラッグと本発明のウイルスとを組合せて用いた腫瘍の治療法が予想される。あるいは異種遺伝子は腫瘍サプレッサー、例えばp53をコードするものであることができる。
【0071】
本発明の他のウイルス株
他の実施形態において、非腫瘍崩壊性ウイルスが望ましい。これらのウイルスは、複製不能ウイルスであってよい。それらの機能は、典型的には個体に異種遺伝子を送達することである。
【0072】
特に、非腫瘍崩壊性用途におけるベクターとして用いるために、ウイルス調節前初期遺伝子発現を最小化するような突然変異を行うことができる。従って、ICP4、ICP27、ICP22および/またはICP0をコードする遺伝子を個々にまたは組合せて、不活化または欠失してもよく、あるいはビリオントランスアクチベータータンパク質vmw65における突然変異が挙げられ、これによってそのトランス活性化能力は阻止/低減される。非腫瘍崩壊性用途に対する特に好ましい実施形態においては、ICP27、ICP0およびICP4をコードする遺伝子を欠失させるか(ICP22および/またはICP47のさらなる欠失/不活化とともに、または該欠失/不活化なしに)、またはvmw65における不活化突然変異とともにICP4を欠失させるか、またはICP4を欠失させて、改めてvmw65における不活化突然変異を行う。このようなウイルスの例としては、Samaniegoら, 1998、Kriskyら, 1998、またはThomasら, 1999によって報告されたウイルスが挙げられる。
【0073】
神経親和性ウイルス
神経親和性ウイルスならびに特にHSV1およびHSV2のような単純ヘルペスウイルスを、本発明に従って神経系への異種遺伝子の送達に用いることができる。
【0074】
この本発明の実施形態に従うウイルスは、典型的にはニューロンに感染し、神経組織内の細胞間に伝染し、または軸索内で輸送されるための等価な改変を有する参照実験室株よりも優れた能力を有する。ニューロンに感染する能力は、一般に細胞について上記で記載したように決定することができる。軸索内で輸送される能力または神経組織内の細胞間に伝染する能力は、元の感染部位と連結した部位にある神経組織内の細胞への感染を測定することによって決定することができる。結果を上記で考察したように統計的に分析してもよい。
【0075】
これらの実施形態において、HSV株において、該ウイルスは機能的ICP27コード遺伝子、機能的ICP4コード遺伝子、機能的ICP0コード遺伝子または機能的ICP22コード遺伝子のうちの1つ、2つ、3つまたは全てを欠くように改変されている;または非HSV株において、該ウイルスは前記HSV遺伝子の1つに等価な機能的遺伝子を欠いている;および/またはHSV株において、該ウイルスは機能的vmw65遺伝子においてその転写活性化活性を破壊する突然変異によって前記遺伝子を欠いている;または非HSV株において、該ウイルスはvmw65遺伝子に等価な機能的遺伝子においてその転写活性化活性を破壊する突然変異によって前記遺伝子を欠いている、ことが好ましい。
【0076】
好ましくは、ICP27、ICP4、ICP0およびICP22をコードする遺伝子のうち2以上、より好ましくは3つ、さらにより好ましくは4つ全てを非機能的にする。これらの実施形態に従って、本発明のウイルスはICP4をコードする機能的遺伝子とICP27をコードする機能的遺伝子の双方を欠いており、かつvmw65をコードする遺伝子においてその転写活性化活性を破壊する不活化突然変異を有することが好ましい。
【0077】
このようなウイルスは、末梢神経系障害または中枢神経系障害の治療に使用することができる。中枢神経系障害の状況では、ICP0、ICP4、ICP22およびICP27から選択される少なくとも2つの前初期遺伝子が非機能的にされることが特に好ましい。
【0078】
免疫治療用ウイルス
免疫治療的用途においては、本発明のヘルペスウイルスを用いて、樹状細胞または免疫系のその他の細胞(例えば、マクロファージ)に感染させる。通常は、樹状細胞のヘルペスウイルス感染は、樹状細胞の免疫応答を刺激する能力を低減する。従って、本発明のウイルスは、樹状細胞が免疫系を刺激することを妨げることなく樹状細胞に効率的に感染することができるように改変される(WO 00/08191)。このような用途では、本発明のウイルスは典型的には抗原遺伝子産物をコードする1以上の異種遺伝子を含む。この抗原は、病原体感染または癌に関連する抗原であることができる。遺伝子は、樹状細胞において発現され、遺伝子産物は、樹状細胞表面上に抗原として提示される。このことにより、活性化T細胞による抗原に対する免疫応答が刺激され、該活性化T細胞は細胞(すなわち、腫瘍もしくは病原細胞、または病原体に感染した細胞)上にその抗原を表す細胞を探し出し、それらの細胞を破壊する。
【0079】
好ましくは、HSV株において、該ウイルスは機能的UL43遺伝子および/または機能的vhs遺伝子を欠いており、または非HSV株においてはUL43および/またはvhsの機能的等価物を欠いており、また場合によって、HSV株において機能的vmw65遺伝子においてその転写活性化活性を破壊する突然変異によって前記遺伝子を欠いているか、または非HSV株において、vmw65に等価な機能的遺伝子においてその転写活性化活性を破壊する突然変異によって前記遺伝子を欠いており、また場合によってICP0、ICP4、ICP22およびICP27から選択される少なくとも1つの機能的前初期遺伝子を欠いている。
【0080】
この状況では、本発明のウイルスは、樹状細胞に感染するかまたは免疫応答を刺激するための等価な改変を有する参照実験室株よりも優れた能力を有することが好ましい。樹状細胞への感染は、一般に細胞について上記で記載したように評価することができる。特に、双方の株の用量が同じ場合には、本発明の非実験室ウイルス株は、典型的には参照実験室株よりも大きな割合で樹状細胞に感染する。統計分析を上記の方法によって実施することができる。
【0081】
B. 補完する細胞系
本発明のウイルスが、特定の機能的必須遺伝子(例えばICP4またはICP27をコードする遺伝子)を欠く単純ヘルペスウイルスである場合、本発明のウイルスは、その必須遺伝子を発現する細胞系で増殖される。例えば、ウイルスが機能的ICP27遺伝子を欠く場合、該ウイルスはV27細胞(RiceおよびKnipe, 1990)、2-2細胞(Smithら, 1992)またはB130/2細胞(Howardら, 1998)で増殖し得る。ウイルスが機能的ICP4遺伝子を欠く場合、該ウイルスは、ICP4を発現する細胞系、例えばE5細胞(DeLucaら, 1985)で増殖し得る。ウイルスが機能的ICP4遺伝子および機能的ICP27遺伝子を欠く場合、該ウイルスは、ICP4およびIC27の双方を発現する細胞系(例えばE26細胞;Samaniegoら, 1995)で増殖し、ウイルスがさらに機能的vmw65遺伝子を欠く場合には、該ウイルスはvmw65の非HSV相同体(例えばThomasら, 1999に記載されたようなウマヘルペスウイルスに由来するもの等)をさらに含む細胞系で増殖させることができる。またvmw65の突然変異は、ウイルス増殖に用いる培地中にヘキサメチレンビスアセトアミド(HMBA)を添加することにより部分的に補完することもできる(MacFarlaneら, 1992)。
【0082】
ICP27発現細胞系は、哺乳動物細胞(例えばVeroまたはBHK細胞)に、該細胞中で発現され得る機能的HSV ICP27遺伝子を含むベクター(好ましくはプラスミドベクター)と選択マーカー(例えばネオマイシン耐性)をコードするベクター(好ましくはプラスミドベクター)とを共トランスフェクトすること(co-transfecting)により作製することができる。次に、当業者に公知な方法(例えばRiceおよびKnipe, 1990に記載された方法など)を用いて、この選択マーカーを保有するクローンを更にスクリーニングし、例えばICP27-HSV株の増殖を維持する能力に基づいて、機能的ICP27も発現するクローンを決定する。
【0083】
ICP27-突然変異型HSV株を機能的ICP27を有する株に復帰突然変異させない細胞系を上記のように作製して、機能的ICP27遺伝子を含むベクターが、ICP27突然変異型ウイルス中に残っている配列とオーバーラップする(すなわち相同である)配列を含まないようにする。
【0084】
本発明のHSV株が他の必須遺伝子(例えばICP4)中に不活化改変を含む場合、これを補完する細胞系は、ICP27について記載したのと同様にこの改変された必須遺伝子を補完する機能的HSV遺伝子を含むものであろう。例えば、ICP27およびICP4の双方に突然変異を含むHSV株の場合、ICP27およびICP4の双方を発現する細胞系が用いられる(例えば、Samaniegoら, 1995またはThomasら, 1999に記載された細胞系など)。他の必須遺伝子を発現するHSV株は、ICP27について記載したのと同様の方法で構築することができる。この場合もやはり、確実に、残りのウイルスDNAとウイルス増殖のために細胞系内に挿入されたDNAとの間の配列のオーバーラップがない場合には、そのウイルスが、増殖中に、無能化が改善された形態に復帰突然変異する可能性が最小限に抑えられるだろう。
【0085】
C. 突然変異の方法
言及した様々なウイルス遺伝子を、当技術分野で周知な幾つかの技法によって機能的に不活性なものとすることができる。例えば、1以上の欠失、置換または挿入(好ましくは欠失)によって、これらを機能的に不活性なものとすることができる。欠失は、その遺伝子の一部またはその遺伝子全体を除去するものであることができる。例えば、たった1個のヌクレオチドを欠失させて、フレームシフトを起こさせることができる。しかし好ましくは、より大きな欠失、例えば全コード配列および非コード配列の少なくとも25%、より好ましくは少なくとも50%(あるいは、絶対的単位でいうと、少なくとも10ヌクレオチド、より好ましくは少なくとも100ヌクレオチド、最も好ましくは少なくとも1000ヌクレオチド)が欠失される。遺伝子全体とその隣接配列の一部とを除去することが特に好ましい。挿入された配列は、以下に記載する1以上の異種遺伝子を含み得る。vmw65遺伝子の場合、これは必須構造タンパク質をコードするので、その遺伝子全体を欠失させるのではなく、vmw65のIE遺伝子を転写活性化する能力を破壊する小さな不活化突然変異が行われる(例えばAceら, 1989またはSmileyら, 1997に記載されるようなもの)。
【0086】
当業者に周知な相同的組換法によりヘルペスウイルスに突然変異を行う。例えば、相同なHSV配列により挟まれる突然変異配列を含むベクター(好ましくはプラスミドベクター)と一緒にHSVゲノムDNAをトランスフェクトする。該突然変異配列は、1以上の欠失、1以上の挿入または1以上の置換を含んでもよく、これらは全て、慣例な技法によって構築することができる。挿入は、例えばβ-ガラクトシダーゼ活性または蛍光によって組換えウイルスをスクリーニングするための選択マーカー遺伝子(例えばlacZまたはGFP)を含むものとすることができる。
【0087】
D. 異種遺伝子およびプロモーター
本発明のウイルスは、1以上の異種遺伝子を有するように改変され得る。「異種遺伝子」という用語はあらゆる遺伝子を含む。異種遺伝子は、典型的にはヘルペスウイルスのゲノム中に存在しない遺伝子であるが、コード配列が、それが天然の状態で結合しているウイルス制御配列と機能的に連結されていないのであれば、1以上のヘルペス遺伝子を用いてもよい。異種遺伝子は、野生型遺伝子の任意の対立遺伝子変異体であってもよいし、または突然変異型遺伝子であってもよい。「遺伝子」という用語は、少なくとも転写されることができる核酸配列を含むものとする。従って、mRNA、tRNAおよびrRNAをコードする配列はこの定義内に含まれる。しかし本発明はtRNAおよびrRNAというよりはむしろポリペプチドの発現に関する。mRNAをコードする配列は、場合により、天然の、またはそうでなければ翻訳されたコード配列と結合した、転写はされるが翻訳されない5'側および/または3'側の隣接配列を一部または全て含みうる。それは、場合により、通常は転写される配列と結合した関連転写制御配列(例えば転写停止シグナル、ポリアデニル化部位および下流エンハンサーエレメント)をさらに含んでもよい。
【0088】
1以上の異種遺伝子は、例えばHSV配列に挟まれた1以上の異種遺伝子を有するプラスミドベクターを用いてHSV株に相同的組換えを行うことによりウイルスゲノム中に挿入することができる。1以上の異種遺伝子は、当技術分野で周知であるクローニング技法を用いてヘルペスウイルス配列を含む好適なプラスミドベクター中に導入することができる。1以上の異種遺伝子は、ウイルスが増殖可能である限り、ウイルスゲノム中のいずれの位置にも挿入することができる。1以上の異種遺伝子は必須遺伝子中に挿入されることが好ましい。異種遺伝子は、ウイルスゲノム内の複数の部位に挿入することができる。
【0089】
1以上の異種遺伝子の転写される配列は、好ましくは、哺乳動物細胞(好ましくは腫瘍細胞または中枢神経系細胞)内でのその1以上の異種遺伝子の発現を可能とする制御配列と機能的に連結されている。「機能的に連結される」という用語は、記載された構成要素が、その意図する機能を果たすことができるような関係にある並置を意味する。コード配列に「機能的に連結された」制御配列は、そのコード配列の発現がその制御配列に適合した条件下で達成されるように連結されている。
【0090】
制御配列は、1以上の異種遺伝子の発現を可能とするプロモーターおよび転写終結シグナルを含む。プロモーターは、哺乳動物(好ましくはヒト)の中枢神経系細胞、または腫瘍、または免疫系細胞において機能するプロモーターから選択される。1以上のプロモーターは、真核生物の遺伝子のプロモーター配列に由来するものであってもよい。例えば、プロモーターは、異種遺伝子の発現が起こる細胞(好ましくは哺乳動物細胞、好ましくはヒト細胞)のゲノムに由来するものであってもよい。真核生物プロモーターの場合、これらは、遍在に機能するプロモーター(例えばβ-アクチン、チューブリンのプロモーターなど)であってもよいし、あるいは組織特異的に機能するプロモーター(例えばニューロン特異的エノラーゼ(NSE)プロモーター)であってもよい。またこれらは、特定の刺激に応答するプロモーター、例えばステロイドホルモン受容体に結合するプロモーターであってもよい。また、例えばモロニーマウス白血病ウイルスの長い末端反復配列(MMLV)LTRプロモーターまたは他のレトロウイルスプロモーター、ヒトもしくはマウスサイトメガロウイルス(CMV)IEプロモーター、またはヘルペスウイルス遺伝子のプロモーター(潜伏期関連転写産物の発現を駆動するものを含む)などのウイルスプロモーターを使用することもできる。
【0091】
1以上の異種遺伝子と制御配列を含む発現カセットおよび他の好適な構築物は、当業者に公知である慣例なクローニング技法を用いて作製することができる(例えばSambrookら, 1989, Molecular Cloning-A Laboratory Manual; Cold Spring Harbor Pressを参照されたい)。
【0092】
また細胞の生存期間中に異種遺伝子の発現レベルを調節することができるようにプロモーターが誘導性であることも有利であり得る。誘導性とは、プロモーターを利用して得られる発現レベルを調節することができることを意味する。例えば、2以上の異種遺伝子をHSVゲノム中に挿入する場合の好ましい実施形態において、1つのプロモーターは、すでに報告されている(GossenおよびBujard, 1992, Grossenら, 1995)tetリプレッサー/VP16転写アクチベーター融合タンパク質に応答性であり、かつその発現を調節しようとする異種遺伝子を駆動するプロモーターを含むものであろう。第2のプロモーターは、tetリプレッサー/VP16融合タンパク質の発現を駆動する強力なプロモーター(例えばCMV IEプロモーター)を含むものであろう。したがって、この例においては、第1異種遺伝子の発現は、テトラサイクリンの存在または不在に依存することになるであろう。
【0093】
異種遺伝子は、典型的には、治療用途のポリペプチドをコードするものであろう。例えば、神経系における非腫瘍崩壊性用途では、遺伝子は、痛みをモジュレートし、神経再生を刺激し、または神経変性を阻止することができるものである。腫瘍崩壊性用途では、異種遺伝子は、それら自体が細胞毒性であるタンパク質、プロドラッグを活性化する酵素、または抗腫瘍免疫応答を刺激もしくは増強することが可能であるタンパク質をコードするものであってよい。
【0094】
また異種遺伝子は、マーカー遺伝子(例えばβ-ガラクトシダーゼもしくは緑色蛍光タンパク質または他の蛍光タンパク質をコードするもの)、または、産物が他の遺伝子の発現を調節するものである遺伝子(例えば上記のtetリプレッサー/vmw65転写アクチベーター融合タンパク質を含む転写調節因子)を含んでいてもよい。
【0095】
遺伝子治療および他の治療的用途は、おそらくは複数の遺伝子の投与を必要であろう。複数の遺伝子の発現は、種々の症状の治療において有利であり得る。ヘルペスウイルスは、他のウイルスベクター系のパッケージング能力が制限されていないので、特に適切なものである。従って、複数の異種遺伝子をそのゲノム内に収容することができる。例えば、2〜5つの遺伝子をゲノムに挿入することができる。
【0096】
例えば、これを達成可能な方法は少なくとも2つある。例えば2以上の異種遺伝子および関連する制御配列を特定のHSV株の中の、そのウイルスゲノムの1つの部位または複数の部位に導入することができる。また、お互いから反対方向を向いているプロモーター対(同じまたは異なるプロモーター)を用いることも可能であり、これらのプロモーターの各々は、上記のように異種遺伝子(同じまたは異なる異種遺伝子)の発現を駆動する。
【0097】
E. 治療的用途
本発明のウイルスは、治療方法において使用することができる。特に、本発明の腫瘍崩壊性ウイルスを、例えば腫瘍内注入による癌の腫瘍崩壊性治療を含む用途に用いることができる。ウイルスがプロドラッグアクチベーターをコードする異種遺伝子を含む場合、さらにプロドラッグ治療を行うことができる。さらに当技術分野で公知である任意の手段による免疫応答刺激と治療を組合せてもよい。本発明のウイルスを、哺乳動物(好ましくはヒト)の充実性腫瘍の治療的処置に使用することができる。例えば、本発明のウイルスを、前立腺癌、乳癌、肺癌、肝臓癌、子宮内膜癌、膀胱癌、大腸癌もしくは子宮頚部癌、腺癌、黒色腫、リンパ腫、神経膠腫または肉腫(軟組織肉腫および骨肉腫)を患う被験者に投与することができる。
【0098】
本発明の複製不能ウイルスは、遺伝子治療を必要とする個体に遺伝子を送達するのに用いることができる。特に本発明の神経親和性ウイルスを、中枢または末梢神経系の障害の治療に用いることができる。治療または予防するのに好ましい中枢神経系障害としては、神経変性障害が挙げられる。治療または予防するのに特に好ましい中枢神経系障害としては、発作、パーキンソン病、アルツハイマー病、テイサックス病およびムコ多糖症が挙げられる。治療または予防するのに好ましい末梢神経系障害としては、運動ニューロン疾患、慢性的な痛みおよび末梢神経損傷が挙げられる。
【0099】
本発明の免疫治療用ウイルスは、挿入された異種性遺伝子がコードする抗原が関連する病原体感染または癌の予防または治療に使用することができる。
【0100】
F. 投与
従って、本発明のウイルスを、治療を必要とする患者(好ましくはヒト患者)に用いることができる。本発明のウイルスを癌の腫瘍崩壊性治療に用いることができ、また(腫瘍崩壊性用途に加えて)本発明のヘルペスウイルスを、例えば痛み、神経系の変性症状の治療に、または神経再生を刺激するために用いることができる。治療的処置の目的は、患者の症状を改善することである。典型的な本発明のウイルスを用いた治療的処置により、治療しようとする患者の疾患または症状の病状が軽減されるだろう。従って、本発明の治療方法は、本発明のウイルスの治療上有効な量を、癌、痛み、神経変性症状または神経損傷を患う患者に投与することを含む。
【0101】
本発明の腫瘍崩壊性ウイルスを腫瘍を患う患者に投与することは、典型的には腫瘍細胞を死滅させ、従って腫瘍の大きさを低減し、および/または腫瘍に由来する悪性細胞の広がりを阻止するであろう。本発明のウイルスをその他の疾患(例えば、痛み、変性症状、または神経損傷)を患う患者に投与することは、典型的には患者の症状を改善するであろう。このことは、例えば、痛みの重度を小さくすること、神経組織の変性を遅らせること、または神経再生を促進することによる。
【0102】
治療薬を投与する1つの方法としては、ウイルスを、製薬上許容される担体または希釈剤と組み合わせて、医薬組成物を製造することが挙げられる。好適な担体および希釈剤としては、等張生理食塩水溶液(例えばリン酸緩衝生理食塩水)が挙げられる。
【0103】
次いで腫瘍崩壊性治療および/または治療目的の細胞への遺伝子送達は、ベクター組成物を標的組織に直接注入することによって行うことができる。投与されるウイルスの量は、HSVの場合には104〜1010pfu、好ましくは105〜108pfu、より好ましくは約106〜108pfuの範囲内である。腫瘍崩壊性もしくは非腫瘍崩壊性治療のために注入する場合は、ウイルスと製薬上許容される好適な担体または希釈剤とから本質的になる医薬組成物は、典型的には500μlまで、典型的には1〜200μl、好ましくは1〜10μlが注入に使用される。しかしながら、幾つかの腫瘍崩壊性治療用途では、また10mlまでのより大きな容量を、腫瘍および接種部位に応じて用いることができる。
【0104】
記載した投与経路および用量は、単なる指針であり、専門医が最適な投与経路および用量を容易に決めることができるだろう。用量は、様々なパラメーター、特に、治療しようとする患者の年齢、体重および症状、疾患もしくは症状の重度ならびに投与経路に応じて決定することができる。
【0105】
癌を患う患者への好ましい投与経路は、腫瘍への直接注入によるものである。またウイルスを全身的にまたは血管に注入することで投与し、腫瘍に供給することができる。最適な投与経路は、腫瘍の位置と大きさに依存するだろう。用量は、様々なパラメーター、特に腫瘍の位置、腫瘍の大きさ、治療しようとする患者の年齢、体重および症状、ならびに投与経路に応じて決定することができる。
【0106】
G. 非治療的態様
また本発明の改変に好適な臨床株の同定方法が提供される。さらに、標的確認方法を提供する。これらは、上記の本発明の治療的用途において使用するのに好適な遺伝子の同定に関する。
また本発明のウイルスの産生方法を提供する。
【実施例】
【0107】
以下の実施例は本発明を説明するものである。
実施例
神経毒性因子(neurovirulence factor)ICP34.5が不活化されている単純ヘルペスウイルスI型(HSV1)は、in vitroおよびin vivoの双方で腫瘍モデルにおいて腫瘍特異的細胞溶解を指令することが既に示されている。またこのようなウイルスは、神経膠腫末期患者に直接脳内注入することによる第1段階臨床試験において安全であることも示されている。
【0108】
先行の研究には、連続継代したHSV1の実験室分離株(HSV1 17+株またはHSV1 F株に由来するウイルス)が用いられており、より最近の臨床単離株と比較してヒト腫瘍細胞における溶解能力が弱められていると予測される。
【0109】
腫瘍崩壊性および抗腫瘍潜在能力が増強されたICP34.5欠失HSVを産生することに向けられた研究において、本発明者らは、HSV1臨床単離株からICP34.5を欠失させ、多くのヒト腫瘍細胞型における複製および溶解潜在能力について、HSV1 17+株(標準的な実験室株)と比較した。
【0110】
ウイルス構築(図1を参照されたい)
用いるウイルスは、HSV1 17+株(標準的な実験室株)またはHSV1を頻繁に再発する個体(re-activator)からの口辺ヘルペスに由来する2種の臨床単離株に基づいた。これらの株は、BL1およびJS1と名付けられた。ICP34.5を17+株およびJS1株から完全に欠失させるとともにCMV-GFPカセットを挿入した。またJS1をさらに操作して、ICP34.5遺伝子に置き換わるようにヒトもしくはマウスGM-CSFを挿入した。従って、BL1およびJS1は、臨床単離株、すなわち「非実験室」株である。本明細書で考察したJS1の誘導株もまた非実験室株、すなわち本発明の改変された非実験室株である。
【0111】
腫瘍細胞におけるウイルス増殖(図2を参照されたい)
JS1およびBL1は、72時間にわたって試験した場合、ICP34.5を欠失したHSV1 17+株と比較して幾つかのヒト腫瘍細胞における増殖の増強を示した(図2)。JS1をさらなる研究のために選択し、上記の改変(図1および上記を参照されたい)をJS1に行った。
【0112】
ウイルスの溶解能力(図3を参照されたい)
溶解(細胞死滅)能力は、試験した全ての腫瘍細胞系において、JS1に由来する(非実験室株に由来する)ウイルスで増強されていた。より詳細には、図3を参照すると、JS1/34.5-ウイルス(すなわち、ICP34.5が欠失によって除去されたJS1)により、HT29結腸直腸腺癌細胞、LNCaP.FGC前立腺腺癌細胞、MDA-MB-231乳腺腺癌細胞、SK-MEL-28悪性黒色腫細胞およびU-87 MG神経グリア芽細胞腫・神経膠星状細胞腫細胞における溶解能力の増強が示された。
【0113】
また溶解能力を、SK-MEL-28細胞、MDA-MB-231細胞およびHT29細胞において、BL1、JS1を様々な用量で感染させ、該ウイルスに感染させた後の様々な時間において感染細胞のトリパンブルー排除アッセイを行い、17+株と比較して評価した。トリパンブルーは生細胞からは排除されるので、培養において生き残っている生細胞数をこの手段によって評価することができる。6ウエルシャーレの二重のウエルに培養した腫瘍細胞系に17+、BL1もしくはJS1のいずれかを、24時間、48時間もしくは72時間、MOI =0.1もしくは1で感染させ、生細胞数をカウントした。等価な非感染対照ウエル中の生細胞数に対する割合を表1に示す。
【0114】
このように、全ての場合において、実験室分離株17+よりも臨床単離株のウイルスBL1およびJS1を用いるとより多くの腫瘍細胞が死滅され、腫瘍崩壊活性の増大が提供されるので、最近の臨床ウイルス株を用いることは、ヒト患者の癌治療に用いる場合に腫瘍選択的複製を付与するように(例えば、ICP34.5を欠失させることによって)改変されたウイルスの抗腫瘍能力を増強すると考えられる。
【0115】
【表1】

【0116】
さらに増強された抗腫瘍活性
またこれらのウイルスを用いて抗腫瘍活性を有する遺伝子を送達する場合には、さらに増強された活性を期待することができる。このような遺伝子としては、プロドラッグアクチベーターまたは免疫刺激タンパク質をコードするものが挙げられる。
【0117】
この目的のために、本発明者らは、ICP34.5を欠失し、かつ強力な免疫刺激因子であるヒトもしくはマウスGM-CSFを発現するHSV1の臨床単離株を、JS1から産生した。このウイルスは、腫瘍内注入に続く抗腫瘍免疫応答を増強するために設計される。
【0118】
参考文献
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Meignierら, 1998, J. Infect. Dis. 159;602-614
【0119】
寄託情報
HSV1 JS1株は、2001年1月2日に仮登録番号01010209として、European Collection of Cell Cultures(ECACC)(CAMR, Salisbury, Wiltshire SP4 0JG, United Kingdom)へ寄託された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
改変された腫瘍崩壊性非実験室ウイルス株の、癌の腫瘍崩壊治療用の医薬品の製造における使用。
【請求項2】
前記非実験室株が、
(a) 改変されていない前駆株をその宿主から単離してからの培養期間が1年以下のものであるか;または
(b) 改変されていない前駆株をその宿主から単離してからの連続継代のサイクルが100サイクル以下のものであるか;または
(c) 腫瘍細胞に感染するかもしくは腫瘍細胞内で複製する能力、腫瘍細胞を死滅させる能力、または組織内の細胞間で伝染する能力が、等価な改変を有する対照の実験室株よりも優れているものであるか;または
(d) (c)に規定する1以上の特性について、改変されていない前駆株の実質的な能力を有するものである;
ことを特徴とする、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記(c)に記載のより優れている能力が、統計的に有意に優れた能力であるか、または前記(d)に記載の実質的な能力が、等しい能力であるか、もしくは統計的に有意差がない能力であることを特徴とする、請求項2に記載の使用。
【請求項4】
非実験室ウイルス株が、ヘルペスウイルス株、アデノウイルス株、ピコルナウイルス株、レトロウイルス株またはアルファウイルス株である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の使用。
【請求項5】
非実験室ウイルス株がヘルペスウイルス株である、請求項4に記載の使用。
【請求項6】
非実験室ウイルス株が単純ヘルペスウイルス(HSV)株である、請求項5に記載の使用。
【請求項7】
HSV株がHSV1またはHSV2株である、請求項6に記載の使用。
【請求項8】
ウイルスが、HSV株における機能的ICP34.5コード遺伝子、機能的ICP6コード遺伝子、機能的糖タンパク質Hコード遺伝子、機能的チミジンキナーゼコード遺伝子のうちの1つ以上を欠損するように改変されたものであるか、または、ウイルスが、HSV以外の株における、前記HSV遺伝子のうちの1つと等価である機能的遺伝子を欠損したものであることを特徴とする、請求項5〜7のいずれか1項に記載の使用。
【請求項9】
前記株がHSV株であり、かつ該ウイルスは機能的ICP34.5コード遺伝子を欠損していることを特徴とする、請求項5〜8のいずれか1項に記載の使用。
【請求項10】
ウイルスが機能的ICP47遺伝子をさらに欠損していることを特徴とする、請求項9に記載の使用。
【請求項11】
非実験室ウイルス株が異種遺伝子をさらに含むことを特徴とする、請求項1〜10のいずれか1項に記載の使用。
【請求項12】
異種遺伝子が免疫応答を改変可能な遺伝子である、請求項11に記載の使用。
【請求項13】
免疫応答を改変可能な異種遺伝子が、免疫応答を改変可能な免疫刺激ポリペプチドもしくは他の遺伝子産物、プロドラックアクチベーター、腫瘍サプレッサーまたはプロアポトーシス性遺伝子産物をコードするものであることを特徴とする、請求項12に記載の使用。
【請求項14】
免疫刺激ポリペプチドが、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GMCSF)、他のサイトカインもしくはケモカイン、RANTES、B7.1もしくはB7.2、またはIL-12であるか、あるいはプロドラッグアクチベーターがニトロレダクターゼまたはチトクロームp450であるか、あるいは腫瘍サプレッサーがp53であることを特徴とする、請求項13に記載の使用。
【請求項15】
非実験室株がHSV株であり、かつ請求項2に規定する対照の株が該非実験室株と同等な改変を有するHSV1 17+株、HSV1 F株またはHSV1 KOS株である、請求項2〜14のいずれか1項に記載の使用。
【請求項16】
異種遺伝子を含む改変された複製不能非実験室ウイルス株の、該異種遺伝子を被験者に送達するための医薬品の製造における使用。
【請求項17】
非実験室ウイルス株が、
(a) その改変されていない前駆株をその宿主から単離してからの培養期間が1年以下のものであるか;または
(b) その改変されていない前駆株をその宿主から単離してからの連続継代のサイクルが100サイクル以下のものであるか;または
(c) 標的細胞に感染する能力が、等価な改変を有する対照の実験室株よりも優れているものであるか;または
(d) ニューロンに感染する能力、神経組織内の細胞間で伝染する能力、軸索内に輸送される能力、樹状細胞に感染する能力、または免疫応答を誘導する能力が、等価な改変を有する対照の実験室株よりも優れているものであるか;または
(e) (c)もしくは(d)に規定する1つ以上の特性について、改変されていない前駆株の実質的な能力を有するものである;
ことを特徴とする、請求項16に記載の使用。
【請求項18】
前記(c)に記載のより優れている能力が、統計的に有意に優れた能力であるか;または前記(d)に記載の実質的な能力が、等しい能力であるか、もしくは統計的に有意差がない能力であることを特徴とする、請求項17に記載の使用。
【請求項19】
非実験室ウイルス株が請求項4〜7のいずれか1項に規定するウイルス株である、請求項18に記載の使用。
【請求項20】
ウイルスが、HSV株における機能的ICP27コード遺伝子、機能的ICP4コード遺伝子、機能的ICP0コード遺伝子または機能的ICP22コード遺伝子のうちの1つ、2つ、3つまたは全てを欠損するように改変されたものであるか、または、ウイルスが、HSV以外の株における、前記HSV遺伝子の1つと等価である機能的遺伝子を欠損しているものであり、および/あるいは該ウイルスが、HSV株における機能的vmw65遺伝子を、その転写活性化活性を破壊する該遺伝子内の突然変異によって欠損しているものであるか、または該ウイルスが、非HSV株における、vmw65と等価である機能的遺伝子を、その転写活性化活性を破壊する該遺伝子内の突然変異によって欠損しているものであることを特徴とする、請求項19に記載の使用。
【請求項21】
医薬品が前記医薬品を末梢神経に投与することによって末梢神経系障害を治療または予防するのに使用するためのものであり、異種遺伝子が前記末梢神経系障害を治療するための治療用途のポリペプチドまたはアンチセンスRNAをコードするものである、請求項16〜20のいずれか1項に記載の使用。
【請求項22】
遺伝子が末梢神経系障害に関連する表現型または末梢神経系障害に関係する末梢神経系細胞における効果を有するか否かを決定する方法であって:
(i) 異種遺伝子を含む請求項16〜21のいずれか1項に規定する複製不能ヘルペスを末梢神経に接種し;そして、
(ii) 前記障害の表現型または前記遺伝子の発現による前記細胞における効果をモニターすることにより、前記遺伝子が前記障害に関係する効果を有するか否かを決定する;
ことを含む前記方法。
【請求項23】
医薬品が中枢神経系障害を治療または予防するのに使用するためのものであり、異種遺伝子が前記障害を治療するための治療用途のポリペプチドまたはアンチセンスRNAをコードし、かつ、複製不能ヘルペスウイルスが:
(a) 少なくとも2つの前初期遺伝子の発現を阻止または低減する1つ以上の突然変異;および
(b) ヘルペスウイルスの潜伏期間に活性のあるプロモーターと機能的に連結された異種遺伝子;
を含むものであることを特徴とする、請求項16〜20のいずれか1項に記載の使用。
【請求項24】
株がHSV株であり、かつ前初期遺伝子がICP0、ICP4、ICP22およびICP27をコードする遺伝子のうちの1つ、2つ、3つまたは全てである、請求項23に記載の使用。
【請求項25】
遺伝子が中枢神経系障害に関連する表現型または中枢神経系障害に関係する中枢神経系細胞における効果を有するか否かを決定する方法であって:
(i) 請求項23または24に規定する複製不能ヘルペスウイルスを中枢神経系細胞に接種し;そして、
(ii) 前記障害の表現型または前記遺伝子の発現による前記細胞における効果をモニターすることにより、前記遺伝子が前記細胞または前記表現型における効果を有するか否かを決定する;
ことを含む前記方法。
【請求項26】
ヘルペスウイルスが、感染細胞が免疫応答を刺激することを妨げることなく樹状細胞に効率的に感染できる弱毒化ヘルペスウイルスであり、医薬品が、樹状細胞に前記ウイルスを感染させることを含む、病原体感染または癌の治療または予防方法に使用するためのものであり、かつ、異種遺伝子が前記感染または癌に関連する抗原をコードするものであることを特徴とする、請求項16〜20のいずれか1項に記載の使用。
【請求項27】
ウイルスが、HSV株における機能的UL43遺伝子および/または機能的vhs遺伝子を欠損しているものであるか、または非HSV株におけるUL43および/またはvhsの機能的等価物を欠損しているものであり、場合によっては、HSV株における機能的ICP34.5遺伝子または非HSV株におけるICP34.5の機能的等価物をさらに欠いており、場合によっては、HSV株における機能的vmw65遺伝子を、その転写活性化活性を破壊する該遺伝子内の突然変異によって欠損しているか、または非HSV株におけるvmw65と等価である機能的遺伝子を、その転写活性化活性を破壊する該遺伝子内の突然変異によって欠損しており、場合によっては、少なくとも1つの機能的前初期遺伝子を欠損していることを特徴とする、請求項26に記載の使用。
【請求項28】
株がHSV株であり、前初期遺伝子がICP0、ICP4、ICP22およびICP27をコードする遺伝子のうちの1つ、2つ、3つまたは全てである、請求項27に記載の使用。
【請求項29】
遺伝子が病原体感染または癌に関連する抗原をコードするものであるか否かを決定する方法であって、請求項26〜28のいずれか1項に規定するウイルスを樹状細胞もしくはマクロファージに感染させ、前記遺伝子のポリペプチド産物の抗原提示、または前記遺伝子の発現の効果、または前記病原体感染もしくは癌の表現型をモニターすることにより、前記遺伝子が前記感染もしくは癌に関連する抗原をコードするか否か、およびそれ自体が治療能力を有するか否かもしくは治療的介入の標的となるか否かを決定することを含む、前記方法。
【請求項30】
請求項1〜29のいずれか1項に規定する改変された株への改変に対する非実験室ウイルス株の適合性を決定する方法であって:
(i) 場合によっては非実験室ウイルス株を宿主から単離し;
(ii) 前記非実験室ウイルス株を得て;
(iii) 請求項2の(c)もしくは(d)または請求項17の(c)、(d)もしくは(e)に記載する1つ以上の特徴に関してウイルスの特性を評価し;そして場合によっては、
(iv) 所望の特性を有するウイルス株を改変のために選択する;
ことを含む前記方法。
【請求項31】
請求項1〜15のいずれか1項に規定する改変された腫瘍崩壊性株への改変に対する非実験室ウイルス株の適合性を決定する方法であって:
(i) 場合によっては非実験室ウイルス株を宿主から単離し;
(ii) 1種以上の型の腫瘍細胞におけるウイルスの増殖を評価し;そして場合によっては、
(iii) 高増殖率を有するウイルス株を改変のために選択する;
ことを含む前記方法。
【請求項32】
ウイルスが請求項4〜7のいずれか1項に規定するウイルスである、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
改変された腫瘍崩壊性株への改変に対する非実験室ウイルス株の適合性を決定する方法であって:
(i) 1種の非実験室ウイルス株、場合によっては請求項31または32のステップ(ii)に記載の方法によって選択された株を用意し;
(ii) 腫瘍崩壊性となるように前記株を改変し;そして、
(iii) 前記改変された腫瘍崩壊性非実験室株の腫瘍細胞を死滅させる能力を評価し、そして場合によっては;
(iv) さらなる改変のために高い腫瘍細胞死滅能力を示す株を選択し、そして場合によっては、
(v) さらなる改変を実施する;
ことを含む前記方法。
【請求項34】
ウイルスが請求項4〜7のいずれか1項に規定するウイルスである、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
ウイルスがヘルペスウイルスであり、該ウイルスは、HSV株におけるICP34.5、ICP6およびチミジンキナーゼをコードする遺伝子から選択される1以上の遺伝子を非機能的にすることにより改変されたものであるか、または該ウイルスは、非HSV株における1つ以上の前記HSV遺伝子と等価な1つ以上の遺伝子を非機能的にすることにより改変されたものであることを特徴とする、請求項33に記載の方法。
【請求項36】
改変された腫瘍崩壊性非実験室株の腫瘍細胞殺傷能力が、非機能的になった遺伝子と同一の遺伝子を有する対照の実験室株の腫瘍細胞殺傷能力と比較することによって測定されることを特徴とする、請求項33〜35のいずれか1項に記載の方法。
【請求項37】
非実験室株がHSV株であり、かつ対照の株がHSV1 17+株、HSV F株またはHSV KOS株である、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
遺伝子がウイルスの抗腫瘍効果を増強するか否かを決定する方法であって:
(i) 請求項1〜15のいずれか1項に規定する改変された腫瘍崩壊性非実験室株を用意し;
(ii) 前記遺伝子を異種遺伝子として前記ウイルスに挿入し;そして、
(iii) 前記改変された腫瘍崩壊性非実験室株の腫瘍細胞を死滅させる能力を、ステップ(i)で用意した前駆株の該能力と比較して評価する;
ことを含む前記方法。
【請求項39】
改変された腫瘍崩壊性非実験室ウイルス株を産生する方法であって:
(i) 非実験室ウイルス株を宿主から単離し;
(ii) 場合によっては請求項33の記載に従って改変に対する前記ウイルス株の適合性を決定し;そして、
(iii) 前記ウイルス株を腫瘍崩壊性にするために改変し;そして場合によっては、
(iv) さらなる改変を実施する;
ことを含む前記方法。
【請求項40】
得られる改変された腫瘍崩壊性非実験室ウイルスが、請求項2〜15のいずれか1項に規定するウイルスである、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
改変された非実験室ウイルス株を産生する方法であって:
(i) 非実験室ウイルス株を用意し;
(ii) 前記ウイルス株を複製不能にするために改変し;そして、
(iii) 異種遺伝子を挿入する;
ことを含む前記方法。
【請求項42】
得られる改変された非実験室ウイルス株が、請求項16〜29のいずれか1項に規定するウイルス株である、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
請求項1〜15のいずれか1項に規定されるものである、改変された腫瘍崩壊性非実験室ウイルス株。
【請求項44】
請求項16〜29のいずれか1項に規定されるものである、異種遺伝子を含む改変された非実験室ウイルス株。
【請求項45】
ヘルペスウイルス株である、請求項43または44に記載の改変された非実験室ウイルス株。
【請求項46】
単純ヘルペスウイルス(HSV)株である、請求項45に記載の改変された非実験室ウイルス株。
【請求項47】
請求項22に記載の方法によって末梢神経系障害に関連する表現型もしくは末梢神経系障害に関係する末梢神経系細胞における効果を有するものとして同定された遺伝子、または該遺伝子によってコードされる遺伝子産物の、末梢神経系障害の治療用の医薬品の製造における使用。
【請求項48】
請求項23に記載の方法によって中枢神経系障害に関連する表現型もしくは中枢神経系障害に関係する中枢神経系細胞における効果を有するものとして同定された遺伝子、または該遺伝子によってコードされる遺伝子産物の、中枢神経系障害の治療用の医薬品の製造における使用。
【請求項49】
請求項29に記載の方法によって病原体感染もしくは癌に関連する抗原をコードするものとして同定された遺伝子、または該遺伝子によってコードされる抗原の、病原体感染または癌の治療または予防用の医薬品の製造における使用。
【請求項50】
請求項30〜42のいずれか1項に記載の方法によって同定されたか、または前記方法の過程で産生された、非実験室ウイルス株。
【請求項51】
請求項38に記載の方法によってウイルスの抗腫瘍効果を増強するものとして同定された遺伝子、または該遺伝子によってコードされる遺伝子産物の、癌の治療もしくは予防用の医薬品の製造における使用。
【請求項52】
請求項39〜42のいずれか1項に記載の方法によって得られたか、または得ることができる、改変された非実験室ウイルス株。
【請求項53】
European Collection of Cell Cultures(ECACC)に仮受託番号01010209として寄託されているHSV1 JS1株、またはそれから誘導されたHSV1株。
【請求項54】
請求項2〜29のいずれか1項に規定する特徴を有する、請求項53に記載のJS1から誘導されたHSV1株。
【請求項55】
機能的ICP34.5遺伝子および場合によっては機能的ICP47遺伝子を欠損し、場合によってはGMCSFをコードする異種遺伝子をさらに含むように改変された、請求項54に記載のJS1から誘導されたHSV1株。
【請求項56】
請求項53〜55のいずれか1項に記載のウイルスを含む医薬組成物。
【請求項57】
ヒトまたは動物の身体における治療に使用する請求項53〜55のいずれか1項に記載のウイルス。
【請求項58】
有効量の請求項1に規定するウイルスを、個体に投与することによって、治療を必要とする個体の腫瘍を治療する方法。
【請求項59】
有効量の請求項16に規定するウイルスを、個体に投与することによって、治療を必要とする個体に遺伝子を送達する方法。
【請求項60】
有効量の請求項21に規定するウイルスを、治療を必要とする個体に投与することによって、末梢神経系障害を治療または予防する方法。
【請求項61】
有効量の請求項23に規定するウイルスを、治療を必要とする個体に投与することを含む、中枢神経系障害を治療または予防する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−72156(P2012−72156A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−238257(P2011−238257)
【出願日】平成23年10月31日(2011.10.31)
【分割の表示】特願2001−553368(P2001−553368)の分割
【原出願日】平成13年1月22日(2001.1.22)
【出願人】(500354883)バイオヴェックス リミテッド (3)
【Fターム(参考)】