説明

ウイルス検査方法及び装置

【課題】気中ウイルスの簡便かつ迅速な検出方法及び検出装置の提供。
【解決手段】気体サンプル導入部を有するウイルス取込部と、ウイルス検出部と、前記ウイルス取込部と前記ウイルス検出部を接続する流路又は循環流路とを備えることを特徴とするウイルス検査装置、及びそれを用いたウイルス検査方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気体サンプル中のウイルスを検出する検査方法及び検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ウイルス検査法として、サンプル中のウイルス核酸の検出に基づく方法が多く用いられている。しかしサンプル中に含まれるウイルス核酸の量は通常は微量であるため、ウイルス核酸の検出は、PCR法等による核酸増幅を利用して検出することが一般的であり、時間と費用のかかる作業である。ウイルス検査をウイルス培養に基づいて行う場合もあるが、ウイルス培養には専門的なバイオセーフティ管理技術と管理施設が必要となっており、広く一般的に使用可能な検査法ではない。
【0003】
一定地域へのウイルスの侵入を効果的に封じ込め、またウイルス感染の拡大を阻止するためには、ウイルスの存在の早期検出が求められる。しかし現状では現場でのウイルス検査が行えずに結果が出るまで時間がかかるため、ウイルス感染が疑われる患者の陽性結果が出た頃には既に感染が拡大していて対策が後手に回ることが多くなっている。このため、現場でウイルス検査を行うことができ、時間がかからないウイルス検査方法の開発が求められている。一方、一部のウイルスは空気感染や飛沫感染をすることが知られており、空気中のウイルスの存在を検出できれば、感染前の検出が可能となり、それらのウイルスの感染リスクを減らすことができて有用である。
【0004】
空気中のウイルス(気中ウイルス)を分離する方法として、ウイルスに感染した患者の呼気に含まれる水蒸気を凝縮させてガーゼなどの吸収体に含ませ、そこから遠心分離処理によりウイルスを含む液体成分を取り出す方法が、特許文献1に開示されている。特許文献2には、ウイルスに感染した患者の呼気を導入する呼気導入部とウイルスを捕捉するトラップ部と、呼気を含む気体成分を吸引する吸引部を備え、呼気の圧縮及び膨張させることによって水蒸気を凝縮し、液化させるくびれ部を有するウイルス採取具が開示されている。
【0005】
空気中のウイルスをセンシング面を持つ基板に付着させて、バイオセンシングする方法が、特許文献3に開示されている。これは、吸光測定用の導波路に設けられた金属面や表面プラズモン共鳴測定の屈折率測定用の金属面などをセンシング面とするウイルスセンサを使用するものであり、特定のウイルスと結合したリン脂質小胞体のセンシング面からの離脱により生じる質量変化や誘電率変化を検出することによって、ウイルスを同定する方法である。
【0006】
特許文献4には、細胞診や病理組織等の標本を顕微鏡等を用いて観察・検査するための反応・測定装置及び方法が開示されている。これは、標本中の特定の領域についてのみ迅速に試薬を反応をさせて、その結果を迅速に測定できる装置及び方法であり、部分的にハイブリ反応等の反応操作が可能な微小反応手段を設けるというものである。
【0007】
しかし、これらの方法はなお煩雑であり、空気などの気体サンプル中のウイルスをより簡便かつ迅速に検出するための方法及び装置の開発が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−028053号公報
【特許文献2】特開2008−119552号公報
【特許文献3】特開2006−170885号公報
【特許文献4】特開2003−130866号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、気体サンプル中のウイルスをより簡便かつ迅速に検出するための方法及び装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、ウイルス検出効率を上げるため、気体サンプル中のウイルスを分離し、それを液体等の他の媒体に保持させて、そのウイルスを検出する方法及び装置の構成を見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は以下を包含する。
(1)気体サンプル導入部を有するウイルス取込部と、ウイルス検出部と、前記ウイルス取込部と前記ウイルス検出部を接続する流路とを備えることを特徴とする、ウイルス検査装置。
【0012】
(2)気体サンプル導入部を有するウイルス取込部と、ウイルス検出部と、ウイルス除去部と、両端が前記ウイルス取込部に接続されている循環流路とを備え、前記循環流路の上流側に前記ウイルス検出部が、下流側に前記ウイルス除去部が設けられている、ウイルス検査装置。
【0013】
これらのウイルス検査装置の一実施形態では、前記ウイルス取込部は、ウイルス分離手段と、液体媒体供給部と、分離したウイルスを液体媒体に混合するための混合部とを備えるものであってよい。
【0014】
これらのウイルス検査装置の一実施形態では、前記ウイルス分離手段は、フィルタ材から構成される螺旋状管を備えるものであってよい。
【0015】
これらのウイルス検査装置の一実施形態では、前記ウイルス分離手段は、円筒型容器と、前記円筒型容器の内部に開口端が位置し水平方向に自在に位置決め可能な排気管とを備えるものであってよい。
【0016】
これらのウイルス検査装置の一実施形態では、前記ウイルス分離手段は、開口端にフィルタを設けた管(好ましくは、液体媒体供給部に気体を導入するための管)を備えるものであってよい。
【0017】
これらのウイルス検査装置の別の実施形態では、前記ウイルス取込部は、フィルタを介して分画された第1空間部及び第2空間部と、第1空間部に連通した液体媒体導入管と、第2空間部に連通した液体媒体排出管と、第2空間部に連通した気体導入管と、第1空間部に連通した排気管とを備えるものであってもよい。
【0018】
これらのウイルス検査装置の別の実施形態では、前記ウイルス取込部は、気体導入管と、オリフィスを介して前記気体導入管と連通した混合用空間部と、前記混合用空間部に側方から連通した液体媒体導入管とを備えるものであってもよい。
【0019】
(3)気体サンプル中のウイルスを分離して液体媒体又は霧状媒体中に取り込ませて、ウイルス検出を行うことを特徴とする、ウイルス検査方法。
【0020】
このウイルス検査方法では、蛍光検出法を用いてウイルス検出を行うことが好ましい。
【0021】
このウイルス検査方法では、前記ウイルス検出を行った後の前記媒体からウイルスを除去し、その媒体に、気体サンプル中から新たに分離したウイルスを取り込ませることにより、ウイルス検査をさらに行うことも好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係る方法及び装置を用いることにより、気中ウイルスを迅速かつ簡便に検出することができる。また循環路及びウイルス除去部を備えた装置を用いることにより、ウイルス検査を閉鎖系で簡便、効率的かつ安全に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1は、本発明に係るウイルス検査装置の一実施形態を示す概略図である。
【図2】図2は、ウイルス取込部2を構成し得るウイルス分離手段の一実施形態としてのウイルス分離部8の斜視図である。
【図3】図3は、ウイルス取込部2を構成し得るウイルス分離手段の一実施形態としての円筒型ウイルス分離部13の斜視図である。
【図4】図4は、ウイルス取込部2の一実施形態の構成図である。
【図5】図5は、ウイルス取込部2の一実施形態の構成図である。
【図6】図6は、ウイルス取込部2の一実施形態の構成図である。
【図7】図7は、ウイルス取込部2の一実施形態の構成図である。
【図8】図8は、ウイルス検出部3の一実施形態の構成図である。
【図9】図9は、本発明に係るウイルス検査装置の、循環流路を備えた実施形態の概略図である。
【図10】図10は、循環流路を備えたウイルス検査装置の一実施形態の概略構成図である。
【図11】図11は、循環流路を備えたウイルス検査装置の別の実施形態の概略構成図である。
【図12】図12は、本発明に係るウイルス検査装置の基板捕捉型の実施形態を示す概略図である。
【図13】図13は、本発明に係るウイルス検査方法の一実施形態の概要図である。
【図14】図14は、蛍光検出によるウイルス検出の説明図である。Aはウイルス検出部における蛍光検出のしくみを示す。B及びCは、蛍光色素における光波長変換の一例を示す。
【図15】図15は、本発明に係るウイルス検査方法の基板捕捉型の実施形態の概要図である。
【図16】図16は、本発明に係る基板捕捉型ウイルス検査装置で用いるウイルス検出方法の例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明において、検査対象とする「ウイルス」は、気体中で、ウイルス粒子、ウイルス粒子破砕物、ウイルス粒子を含む飛沫核、又はウイルス感染細胞等の任意の形態で存在しているものであってよいが、ウイルス粒子を含む飛沫核であることがより好ましい。当該技術分野において、一般に、主に患者から咳、くしゃみ等により放出される、ウイルス粒子を含む水分を持った飛沫(直径およそ5μm以上)は、「飛沫物」と呼ばれており、この「飛沫物」を吸い込むことがウイルス感染の大きな原因となることが知られている。さらに、そのような「飛沫物」から水分が蒸発し、乾燥凝縮体(直径およそ0.1μm〜5μm未満)として空気中に浮遊するようになった液体微粒子(ミスト)が、ウイルス粒子を含む「飛沫核」と呼ばれている。一般に「空気感染」と呼ばれる感染形式は、空気中に漂うこの「飛沫核」を体内に吸い込むことによって成立する飛沫核感染を指す。本明細書において「ウイルス」とは、その文脈上明らかに妥当でない場合を除き、ウイルス粒子だけでなく、ウイルス粒子破砕物、ウイルスを含む飛沫核、又はウイルス感染細胞等の任意の形態で存在するウイルスを包括的に意味するものとする。
【0025】
本発明は、気体中に存在するウイルスを効率的かつ簡便に検出すべく、気体サンプル中のウイルスを、気体以外の媒体(液体媒体、霧状媒体、基板等の固相媒体など)に保持させ(媒体変換)、その媒体により保持されたウイルスを検出することに基づくウイルス検査方法及びそのためのウイルス検査装置に関する。
【0026】
本発明に係るウイルス検査方法の概要は以下の通りである。
(1)サイズや質量の相違に基づいて、気体サンプル中の異物類からウイルスを、フィルタ濾過、遠心分離、霧状化等の手段により分離する。この分離により、ウイルスを濃縮することで、後の工程で検出等に供するサンプル中のウイルス濃度を増加させることができる。この分離は、後述の媒体変換工程の中で行ってもよい。
【0027】
なお本発明においてウイルスの「分離」とは、ウイルスのみの画分を得ることに限定されず、ウイルスがより濃縮された画分を他の画分から区別して得ることを包含する。
【0028】
(2)気体から液体、固相(基板等)のような他の媒体への媒体の変換を行う。典型的には、気体中のウイルスを、液体媒体又は霧状媒体中に取り込ませる(それぞれ液中化、霧状化)か又は基板上に捕捉する(基板捕捉)ことにより、気体以外の媒体に保持させる。この媒体変換工程の前に又は本工程と同時に上記(1)の分離工程を実施することにより、変換後の媒体(変換媒体)中のウイルス濃度を増加させ、後の工程での検出や分析を容易にすることができる。媒体変換は、限定するものではないが、例えばi) 加圧による液中化、ii) 減圧による液中化、iii) 基板等への付着等によって行うことができる。この媒体変換工程は、ウイルスを保持し得る変換媒体(典型的には、液体媒体、霧状媒体、又は基板)に、ウイルス検出用試薬を加えて反応させる工程を含んでもよい。ウイルス検出用試薬としては、ウイルスを識別して標識(顕在化)するために用いる任意の試薬を用いることができる。ウイルス検出用試薬としては、限定するものではないが、例えば、ウイルス検出のための蛍光検出法、免疫クロマトグラフィー法、培養法等で使用する、蛍光色素等の標識物質を利用した任意の試薬を用いることができる。例えば、検出対象のウイルス粒子に対する抗体(例えばポリクローナル又はモノクローナル抗体)に蛍光色素を結合(コンジュゲート)した試薬を用いることができる。蛍光色素としては、特に限定されないが、例えば各種ローダミン(ローダミン6G,ローダミングリーン、TMR、TAMRA)、Alexa、Bodipy、Cy5、R6G、FAM、JOE、ROX、EDANS等の公知の様々な蛍光物質を使用することができる。蛍光色素の蛍光波長は、一般的には350〜800nm程度であるが、当業者であれば公知の蛍光色素の個々の励起波長や蛍光波長は容易に特定できる。
【0029】
(3)変換媒体中のウイルスを検出する。限定するものではないが、通常は、ウイルス検出用試薬により標識されたウイルスを、当該標識からのシグナル(標識シグナル)を検出又は測定することにより、検出することができる。例えば、ウイルス粒子に対する抗体に蛍光色素を結合した試薬により蛍光標識されたウイルスは、その標識からの蛍光シグナルを検出することにより、検出できる。標識シグナルの検出又は測定は、常法により行うことができる。
【0030】
以上のようにしてウイルスが検出された場合、変換媒体中のウイルスについて、各種の遺伝子解析手法を使用して核酸分析を行うこともできる。例えば、上記で得られたウイルスを含む液体媒体サンプル又はウイルスを捕捉した基板を、さらに核酸分析装置で分析して、ウイルス種の同定やウイルスの遺伝子型判定を行ってもよい。
【0031】
(4)変換媒体中のウイルス検出を行った後、変換媒体中のウイルスを除去してもよい。ウイルスを除去した後の変換媒体は、上記の媒体変換工程において媒体として再利用することができ、これにより循環型ウイルス検出システムを構築することができる。
【0032】
本発明に係るウイルス検査装置は、現場でのウイルス検出を可能にするため、可搬型であることが好ましく、また、特別の設備を必要としないものであることが好ましい。さらに、本発明に係るウイルス検査装置は、周囲環境を汚染することがないようにウイルスを漏らさない構造を備えた装置であることが好ましい。
【0033】
以下、本発明の各種実施形態について、添付図面を参照しつつさらに説明する。
1.ウイルス検査装置
本発明に係るウイルス検査装置は、図1に示すように、気体サンプル導入部1を有するウイルス取込部2と、ウイルス検出部3と、ウイルス取込部2とウイルス検出部3とを接続する流路4とを備える。
【0034】
このウイルス検査装置において、ウイルス取込部2は、好ましい実施形態では、気体サンプルからウイルスを分離するためのウイルス分離手段と、液体媒体を供給するための液体媒体供給部と、気体以外の媒体(例えば、液体媒体又は霧状媒体)にウイルスを取り込ませるために分離したウイルスを液体媒体に混合するための混合部とを備える。ウイルス取込部3は、好ましい実施形態では、ウイルスを取り込んだ媒体をウイルス取込部から流出させるための流出部をさらに備える。液体媒体供給部は混合部と連通していることが好ましい。流路4はウイルス取込部2の流出部と好ましくは連通している。混合部は、さらに検出試薬供給部を備えてもよい。
【0035】
一実施形態では、ウイルス取込部2は、ウイルス分離手段として、図2に示すような、ウイルス排気部5を有し、下方に向かって断面積が減少する逆円錐台形状のウイルス収集容器6と、ウイルス収集容器6内に配設された螺旋状管7とを有するウイルス分離部8を備えている。螺旋状管7の一方の端部は、ウイルス収集容器6の外面(好ましくは上面又は上方側面)に設けた気体導入管9に連通している。気体導入管9は、図示しないが、気体サンプル導入部1に接続していてもよい。螺旋状管7の他方の端部は、ウイルス収集容器6の外面(好ましくは底面又は下方側面)に設けた排気管10に連通している。
【0036】
螺旋状管7はフィルタ材によって構成されている。このフィルタ材は、気体サンプル中のウイルスは通過するが気体サンプル中のより大きな異物類は通過することなく捕捉されるだけの分離性能を有するものとして選択される。そのようなフィルタ材として、サイズ分離(Size Exclusion)フィルタ材が好ましい。サイズ分離フィルタ材としては、限定するものではないが、濾過精度(99%以上の濾過効率を示す粒径)が、0.04〜25μm、好ましくは0.2〜10μm、より好ましくは0.3〜6μm、さらに好ましくは0.5μm〜5μm、例えば5μmであるフィルタ材を用いることができる。フィルタ材は、金属繊維、ガラス繊維、炭素繊維、石英繊維維、化学繊維(例えばポリプロピレン、ポリエステル、ナイロン、セルロース、PTFE)等により構成される任意のろ過フィルタ材であってよい。
図2に示すウイルス分離部8は、図示しないが、混合部としての液体媒体収容容器と連結されている。すなわち、一実施形態において、ウイルス取込部2は、図2に示すウイルス分離部8と、液体媒体収容容器とを備えている。液体媒体収容容器は、その内部に液体媒体が張り込まれ、この液体媒体内にウイルス排気部5の開口端が臨むことにより、ウイルス分離部8と連結される。
【0037】
別の実施形態では、ウイルス取込部2は、ウイルス分離手段として、図3に示すような、円筒型容器11と、その円筒型容器11の内部に開口端が位置するウイルス排気管12とを有する円筒型ウイルス分離部13を備えている。円筒型容器11は、図3に示すように、円筒芯と、その周囲に気体が還流する還流中空部とを有することが好ましい。円筒芯は、円筒状容器11からドーナツ状にくりぬかれていてもよいし、内部が充填された円柱状であってもよい。ウイルス排気管12は、円筒型容器11の還流中空部内で、水平方向に自在に位置決め可能な構造を有する。円筒型容器11の外面には気体導入管9が、底面には排気管10が設けられている。気体導入管9は、図示しないが、気体サンプル導入部1と連通していてもよい。
【0038】
図3に示す円筒型ウイルス分離部13は、図示しないが、混合部としての液体媒体収容容器と連結されている。すなわち、一実施形態において、ウイルス取込部2は、図3に示すウイルス分離部13と、液体媒体収容容器とを備えている。液体媒体収容容器の内部には液体媒体が張り込まれ、この液体媒体内に、ウイルス排気管12の円筒型容器11の外部に突出した開口端が臨むことにより、液体媒体収容容器は円筒型ウイルス分離部13と連結されている。
【0039】
さらに別の実施形態では、ウイルス取込部2は、図4に示すように、フィルタ14を介して分画された第1空間部15及び第2空間部16と、第1空間部15に連通した第1空間部液体媒体導入管17と、第2空間部16に連通した第2空間部液体媒体排出管18とを有する。第2空間部16は、第2空間部気体導入管19に連通し、第1空間部15は、第1空間部排気管20に連通している。第1空間部15は略円錐形、第2空間部16は略逆円錐形であってよく、その場合、第1空間部液体媒体導入管17は第1空間部15の頂点部に、第2空間部液体媒体排出管18は第1空間部16の頂点部に接続されていることがより好ましい。また第2空間部気体導入管19及び第1空間部排気管20は、それぞれ第2空間部16及び第1空間部15の側面に水平又は略水平方向から接続されていることが好ましい。フィルタ14は、液体媒体を通過させるが、ウイルスは通過させずに捕捉するフィルタ、好ましくはサイズ分離フィルタである。フィルタ14は、限定するものではないが、気体サンプル中の99%以上のウイルスを通過させないだけの濾過精度を有することが好ましい。フィルタ14は、具体的には例えば、HEPAフィルタ(High Efficiency Particulate Air Filter)やULPAフィルタ(Ultra Low Penetration Air Filter)などであってよい。ここでHEPAフィルタとは、JIS Z 8122により定めるHEPAフィルタ、すなわち「定格風量で粒径が0.3μmの粒子に対して99.97%以上の粒子捕集率をもち、かつ初期圧力損失が245Pa以下の性能を持つエアフィルタ」を意味する。またULPAフィルタとは、JIS Z 8122により定めるULPAフィルタ、すなわち「定格風量で粒径が0.15μmの粒子に対して99.9995%以上の粒子捕集率をもち、かつ初期圧力損失が245Pa以下の性能を持つエアフィルタ」を意味する。一実施形態においては、第2空間部気体導入管19は、図示しないが、気体サンプル導入部1と接続されている。また第2空間部液体媒体排出部18は、ウイルス検出部3と接続された流路4に連通している。第2空間部液体媒体排出部18は、流出部に該当する。
【0040】
別の一実施形態では、ウイルス取込部2は、図5に示すように、液体媒体導入管21及び液体媒体排出管22とを有する液体媒体収容容器23と、液体媒体収容容器23の内部に開口端が位置するインレット管24と、インレット管24の開口端に設けたフィルタ、好ましくはウイルス通過フィルタ25とを備えている。液体媒体収容容器23の内部には液体媒体が張り込まれ、この液体媒体内にインレット管24の開口端が臨む。液体媒体収容容器23は、その内部に検出試薬供給部としての試薬導入管26をさらに有していてもよい。ウイルス通過フィルタ25としては、上述の螺旋状管7を構成するフィルタ材と同様のもの、すなわち、気体サンプル中のウイルスは通過するが気体サンプル中のより大きな異物類は通過することなく捕捉されるだけの分離性能(具体的には、濾過精度)を有するものを用いることが好ましい。例えば、HEPAフィルタ、ULPAフィルタ等が挙げられる。ここで液体媒体導入管21は、液体媒体供給部に該当する。また液体媒体収容容器23は、混合部に該当する。開口端にウイルス通過フィルタ25を設けたインレット管24はウイルス分離手段に該当する。液体媒体排出管22は、流出部に該当する。液体媒体排出管22は、ウイルス検出部3と接続された流路4に連通していてもよい。インレット管24は、図示しないが、ウイルス通過フィルタを設けたのとは反対の開口端において、気体サンプル導入部1と連通していてもよい。好ましくは、インレット管24は液体媒体供給部に気体を導入するための管として機能し、試薬導入管26は、液体媒体供給部に検出試薬(好ましくは、ウイルス検出部での検出に利用するウイルス検出用試薬)を導入するための管として機能する。
【0041】
別の一実施形態では、混合部としての液体媒体収容容器23は、図6に示すように、内部に取り付けられた攪拌用フィン27と、モータ28とを有してもよい。また液体媒体収容容器23は、加圧手段29を有していてもよい。
【0042】
さらに別の一実施形態では、ウイルス取込部2は、図7に示すように、オリフィス気体導入管30と、オリフィス気体導入管30にオリフィス31を介して連通した混合用空間部32と、混合用空間部32に側方から連通した側方液体媒体導入管33と、混合用空間部32の下端に連通した霧状媒体排出管34とを備えている。霧状媒体排出管34には、図示しないが、途中に冷却装置が設けられていてもよい。霧状媒体排出管34は湾曲部を有していてもよく、その湾曲部の直後に冷却装置が設けられていてもよい。一実施形態において、オリフィス気体導入管30は、気体サンプル導入部1と接続されている。また霧状媒体排出管34は、ウイルス検出部3と接続された流路4に連通している。ここで側方液体媒体導入管33は、液体媒体供給部に該当する。また混合用空間部32は、混合部に該当する。霧状媒体排出管34は、流出部に該当する。
【0043】
ウイルス取込部2とウイルス検出部3とを接続する流路4は、その内部に空間を有する管により構成される。流路4は、液体媒体又は霧状媒体が流動可能な任意の材料(例えば、ガラス製、プラスチック製、樹脂製など)で構成されるものであってよいが、レーザ光を透過させる材料であることが好ましく、透明であることがより好ましい。流路4には、ウイルス検出部3の下流において、サンプル廃棄容器が設けられていてもよい。サンプル廃棄容器は、サンプル排出口を有する。サンプル廃棄容器は、流路4から着脱可能なものであってもよい。
【0044】
ウイルス検出部3は、ウイルス検出に利用可能な任意の検出系を有するものであってよく、検出光学系を用いるものであってよい。
【0045】
一実施形態では、ウイルス検出部3は、図8に示すように、光源35と、集光レンズ36と、集光レンズ36の光軸上に配置された光検出器37とを備えている。ここで光源35は、その照射光の光束38の光路が流路4の内部空間を通るように配置される。光源35は、レーザ光源が好ましいが、他の高輝度ランプ光源(UVランプ、キセノンランプ等)を使用してもよい。光源としてランプ光源を用いる場合等には、単色化された励起光(単色光)を作り出すため、特定波長の光だけを通過させる光学フィルタを用いることが好ましい。光源35としてレーザ光源を用いる場合、照射したいレーザ光の波長のみを透過するフィルタを光源35と流路4の間に配置してもよい。また光源35としてレーザ光源を用いる場合、集光レンズ36と光検出器37の間に検出すべき特定波長光のみを透過する蛍光フィルタを配置してもよい。光源35は、限定するものではないが、例えば青色レーザや緑色レーザ等であってもよい。光源は、限定するものではないが、扁平な照射光の光束38を照射することができることが好ましい。集光レンズ36としては、開口率(開口数)がより大きいレンズを用いることがより好ましい。
【0046】
光検出器37は、受光した光を電気信号に変換して出力する。光検出器37としては、光電子増倍管(PMT;フォトマルチチューブとも呼ぶ)、アバランシェ・フォトダイオード(APD)等の半導体素子、例えばInGaAs-APD(インジウム・ガリウム・ヒ素−アバランシェ・フォトダイオード)を始めとする電気信号増幅機能を有するものが好ましいが、これに限定されず、電気信号増幅機能を有しないものであってもよい。
【0047】
流路4は、少なくともウイルス検出部3が設けられた部分においては、光源35からの照射光が透過可能に構成されていることが好ましい。すなわち、流路4は、その全体、又は少なくとも、光源35からの照射光の光束38の光路と交差する部分が、光源35からの照射光が透過可能な材料、例えば透明なガラス管、プラスチック管等の管により構成されている。また流路4は、その全体、又は少なくとも、光源35からの照射光の光束38の光路と交差する部分について、その深さが集光レンズ36の焦点深度以下、かつ0.04μm以上となるように構成されていることが好ましい。流路4は、任意の形状の管であってよく、例えばその軸方向に垂直な断面形状が円形、楕円系、多角形(例えば、三角形、正方形、矩形(長方形)、六角形、八角形など)等の任意の形状である管であってよい。流路4は、特に扁平形状、すなわち、その軸方向に垂直な断面形状が矩形であってその短辺の長さ39に対する長辺の長さの比率が比較的大きい形状を取ることが好ましい。短辺の長さ39、すなわち流路4の高さは、一定であることが好ましい。
【0048】
一実施形態では、ウイルス検出部3は、光検出器37から出力された電気信号をさらに増幅する増幅器、当該電気信号を計測する計測器をさらに備えていてもよい。また流路4はウイルス検出部3の下流に、核酸分析装置に接続可能な連結部をさらに有していてもよい。あるいはウイルス検出部3は、核酸分析装置をさらに備えていてもよい。
【0049】
本発明はまた、別の実施形態では、図9に示すように、気体サンプル導入部1を有するウイルス取込部2と、ウイルス検出部3と、ウイルス除去部40と、循環流路41とを備えるウイルス検査装置にも関する。循環流路41の両端はウイルス取込部2に接続されている。循環流路41の上流側にはウイルス検出部3が、下流側にはウイルス除去部40が設けられている。この実施形態では、ウイルス取込部2とウイルス検出部3を接続する流路(上述の流路4に対応する)は、循環流路41の上流部分に当たり、その機能及び構成は上述の流路4と同様である。
【0050】
この循環流路41を備えたウイルス検査装置において、ウイルス取込部2は、好ましい実施形態では、気体サンプルからウイルスを分離するためのウイルス分離手段と、液体媒体を供給するための液体媒体供給部と、供給された液体媒体と分離されたウイルスを混合し媒体(例えば、液体媒体又は霧状媒体)中に取り込ませるための混合部とを備える。ウイルス取込部2は、好ましい実施形態では、ウイルスを取り込んだ媒体をウイルス取込部から流出させるための流出部をさらに備える。液体媒体供給部は混合部と連通していることが好ましい。流路4はウイルス取込部2の流出部と好ましくは連通している。混合部は、さらに検出試薬供給部を備えてもよい。ウイルス取込部2及びウイルス検出部3の詳細は上記と同じである。循環流路41の詳細は、上記の流路4についての記載と同様である。
【0051】
ウイルス除去部40は、循環流路41を流動する液体媒体中のウイルスを除去するためのウイルス除去手段を備えている。ウイルス除去手段としては、濾過装置、蒸留装置、ウイルス帯電微粒子水の発生曝露装置等の任意の手段を用いることができる。濾過装置としては、ウイルス粒子を除去可能なフィルタ、例えば濾過精度(濾過効率99%以上、好ましくは99.9%以上の値)が0.1μm未満、好ましくは0.04μm以下、より好ましくは0.02μm以下、例えば0.01μmのフィルタを備えていることが好ましい。そのようなフィルタとして、例えば市販の中空糸フィルタ、吸着濾過フィルタ等を使用できる。ウイルス除去部40は、ウイルス排出口を有してもよい。あるいはウイルス除去部40は、着脱可能なウイルス貯蔵容器を備えていてもよい。
【0052】
循環流路を有する本発明に係るウイルス検査装置は、一実施形態では、図10に示すように、図5に示すウイルス取込部2と、図8に示すウイルス検出部3と、ウイルス除去部40と、循環流路41と、循環流路41のウイルス検出部3とウイルス除去部40の間に設けられた連結部43とを備える。ウイルス検出部3は、一実施形態では、光源としてレーザ光源42を備える。図示しないが、ウイルス取込部2は気体サンプル導入部1を有している。また連結部43には、核酸分析装置が接続されてもよい。なお図10では、レーザ光源42の先には、レーザ光を反射させ増幅させるためのミラー(楕円で表している)が、レーザ光源42の右側には、対となるミラー(図示していない)があり、その対となる2つのミラー間に循環流路41が配置されている。レーザ光源42からのレーザ光はこの2つのミラー間で反射され増幅されて、片側の反射率の低いミラー側から外に出射される。
【0053】
循環流路を有する本発明に係るウイルス検査装置は、さらに別の実施形態では、図11に示すように、図7と同様の構成を取るウイルス取込部2と、図8と同様の構成を取るウイルス検出部3と、ウイルス除去部40と、循環流路41と、循環流路41においてウイルス検出部3とウイルス除去部40の間に設けられた連結部43と、ウイルス検出部3とウイルス除去部40との間に設けられた冷却部44と、冷却部44に接続した排気路45と、排気路45に連通したウイルス第2除去部46とを備えている。ウイルス取込部2は気体サンプル導入部1を有している。ウイルス検出部3は、光源としてレーザ光源42を備える。また連結部43には、核酸分析装置が接続されている。ウイルス第2除去部46は、好ましくはウイルス除去フィルタを備えている。ウイルス除去フィルタとしては、例えばULPAフィルタが挙げられる。
【0054】
循環流路を有する本発明に係るウイルス検査装置は、可搬型でコンパクト形状とすることができる。循環流路を有する本発明に係るウイルス検査装置は、ウイルスが気中に存在するか又は存在する可能性のある現場で迅速かつ簡便に、ウイルスに触れることなく安全にウイルス検査を行うことを可能にする。
【0055】
本発明に係るウイルス検査装置は、さらに別の実施形態では、気体サンプル導入部と、気体サンプル導入部に連結されたウイルス捕捉部と、ウイルス捕捉部に連結された捕捉ウイルス検出部とを備え、かつウイルス捕捉部が、着脱可能な基板を有する、基板捕捉型ウイルス検査装置である。ウイルス捕捉部と捕捉ウイルス検出部との連結部には、基板移動手段が設けられていてもよい。
【0056】
本発明に係る基板捕捉型ウイルス検査装置においては、ウイルス捕捉部は、一実施形態では、図12に示すように、気体サンプルインレット管47及び気体ドレイン管48を有するイオン化部49と、イオン化部49の内部に配設されたプラス(+)電極50及びマイナス(−)電極51と、プラス電極50及びマイナス電極51に接続された電源部52と、気体サンプルインレット管47から気体ドレイン管48への流動方向と交差するイオン化部49の断面に形成されたメッシュ部53と、マイナス電極51に着脱可能に接続され、かつ移動自在に配置された基板54とを有する。メッシュ部53は、気体サンプル中のウイルスは通過するが気体サンプル中のより大きな異物類は通過することなく捕捉されるだけの分離性能(通常は、濾過精度)を有するフィルタ材により構成されることが好ましい。基板は、任意の形状であってよく、例えば、円形、角形、シート状等の任意の形状のものを適用することができる。
【0057】
本発明に係る基板捕捉型ウイルス検査装置において、捕捉ウイルス検出部は、任意のウイルス検出手段を備えていてよい。捕捉ウイルス検出部としては、上述のウイルス検出部と同様のものを用いることができる。
【0058】
捕捉ウイルス検出部は、一実施形態では、例えば、図8に示すウイルス検出部と同様に、光源35と、集光レンズ36と、集光レンズ36の光軸上に配置された光検出器37とを備えている。光源35としてレーザ光源を用いる場合、集光レンズ36と光検出器37の間に検出すべき特定波長光のみを透過するフィルタを配置してもよい。
【0059】
別の一実施形態では、捕捉ウイルス検出部は、暗視野蛍光検出光学系、又は明視野蛍光検出光学系を備えてもよい。
【0060】
別の一実施形態では、捕捉ウイルス検出部は、電子顕微鏡、例えば走査型電子顕微鏡(SEM)又は透過型電子顕微鏡(TEM)を備えてもよい。電子顕微鏡は、光源に当たるSEMの電子線源(電子銃)、及び電子レンズを備える。電子レンズは、電磁界の作用を利用して電子線を収束させるレンズである。
【0061】
本発明に係る基板捕捉型ウイルス検査装置はまた、捕捉ウイルス検出部に連結した基板洗浄部を備えてもよい。
【0062】
2.ウイルス検査方法
本発明に係るウイルス検査方法は、気体サンプル中のウイルスを、好ましくは気中の異物類等から分離して、気体以外の媒体(液体媒体、霧状媒体等)に取り込ませる工程(媒体変換工程)と、その媒体(変換媒体)中に取り込ませたウイルスを検出する工程を含む。
【0063】
気中に漂っているウイルスを検出できれば、人が感染する前にウイルスを検出することができるため、ウイルス感染の拡大を抑制するのに有用である。しかし気体サンプル中のウイルスを直接検出することは困難である。本発明の方法では、気中のウイルスを他の媒体中に取り込んでそれを検査サンプルとすることにより、気中のウイルスの検査が容易になる。またそのような検査サンプルについては、種々の検出方法を利用できる遺伝子解析も併せて実施して解析することも可能になる。気体サンプルは直接、遺伝子解析等の検査サンプルとして使用できず、遺伝子解析を行うにはこのような媒体変換が必要になるため、本発明の方法はウイルスの遺伝子解析を併せて行うにも有利である。
【0064】
気中ウイルスの検出に要する時間を短くするためには、少数の気体サンプルでもそれに含まれるウイルスを確実に検出できるように、ウイルス検出効率を上げることが求められる。そのために、本発明に係るウイルス検査方法では、気体サンプル中のウイルスを気体以外の媒体に取り込ませる際に、ウイルスを他の異物類から分離することにより、その媒体中のウイルス濃度を増加させることが好ましい。
【0065】
本発明に係るウイルス検査方法ではまた、ウイルス検出を行った後、変換媒体からウイルスを除去することも好ましい。さらに、ウイルスを除去した変換媒体を循環させて、新たな気体サンプル中のウイルスを取り込ませる媒体として再利用することが好ましい。
【0066】
本発明に係るウイルス検査方法の一実施形態の概要を、図13に示す。図13には、気体サンプルからウイルスを分離し、それを他の媒体(例えば液体媒体又は霧状媒体)中に取り込ませ、ウイルス検出用試薬と反応させ(顕在化)、高感度検出法等により検出を行い、必要に応じてさらに遺伝子解析を行い、変換媒体からウイルスを除去する各工程を含むウイルス検査方法が示されている。
【0067】
本発明に係るウイルス検査方法は、本発明に係るウイルス検査装置を用いて実施することができる。本発明に係るウイルス検査方法は、可搬型のウイルス検査装置を用いて行うことも好ましい。
【0068】
本発明において「気体サンプル」とは、ウイルスを含むか又は含む可能性のある任意の気体から採取した被験サンプルを意味する。本発明に係るウイルス検査方法に供する気体サンプルは、屋外又は屋内の空気由来のサンプルであってよい。本発明に係るウイルス検査方法に供する好ましい気体サンプルとしては、屋外の人が集まる場所、例えば、市街地、観光地、駅、野外スポーツ施設、市場、野外イベント会場等で採取される空気のサンプルが挙げられるがこれらに限定されるものではない。好ましい気体サンプルとしてはまた、屋内の人が集まる場所(特に、閉鎖性の高い空間)、例えば、交通機関、屋内スポーツ施設、商業施設、屋内イベント会場、学校、病院、公共施設、会社、会議室、ホテル等で採取される空気のサンプルが挙げられるがこれらに限定されるものではない。気体サンプルはまた、患者又はウイルス感染の可能性がある被験者の呼気のサンプルであってもよい。
【0069】
本発明に係るウイルス検査方法において使用する「液体媒体」は、液状の不活性流体であれば特に限定されないが、例えば、水、生理食塩水(リン酸緩衝生理食塩水、トリス緩衝生理食塩水等)、細胞培養液等を用いることができる。本発明に係るウイルス検査方法において使用する「霧状媒体」は、上記「液体媒体」を霧化することより得られる霧状の不活性流体である。
【0070】
本発明に係るウイルス検査方法の一実施形態においては、図1に示すように、気体サンプル(A)は、気体サンプル導入部1からウイルス検査装置に導入され、ウイルス取込部2に供給される。気体サンプル中のウイルスは、ウイルス取込部2において、他の異物類等から分離され、液体媒体又は霧状媒体中に取り込まれる。ウイルスの分離は、ウイルス取込部2を構成する、ウイルス分離部を始めとするウイルス分離手段によって実施される。ウイルスの液体媒体又は霧状媒体中への取り込みは、ウイルス取込部2を構成する混合部において実施される。ウイルス取込部2でウイルスを取り込んだ液体媒体又は霧状媒体は、流路4を通って(B)、ウイルス検出部3に至り、ウイルス検出部3においてウイルス検出に供される。
【0071】
図2に示すウイルス分離部8では、遠心分離とフィルタ濾過とに基づいて気体サンプルからウイルスを分離する。気体サンプル導入部1から導入された気体サンプルは、気体導入管9からウイルス収集容器6内に供給され(C)、螺旋状管7の内部を通過し、排気管10を通ってウイルス検査装置の外へ排出される(D)。気体サンプルが螺旋状管7の内部を通過する際、気体サンプル中のウイルス等の物質には遠心力がかかり、その結果、ウイルス等の物質は遠心分離によりその物質の質量や大きさに応じて螺旋状管7の螺旋軸から外側方向へ移動する。螺旋状管7を構成するフィルタ材として、分離しようとする気体サンプル中のウイルスを異物類から分離可能なフィルタ材を用いると、気体サンプル中の当該ウイルス及び同様のサイズの他の微小物質は、螺旋状管7の外側壁面へと押し付けられ、フィルタ材のメッシュを通過して、螺旋状管7の外部へと放出される。例えば、ウイルス粒子を含む飛沫核は、直径およそ0.1μm〜5μm未満であるため、螺旋状管7のフィルタ材の濾過精度を5μmとした場合には、気体サンプル中に飛沫核として存在するウイルスはフィルタ材を通過するが、5μm以上のサイズを有する異物はフィルタ材を通過できずに螺旋状管7の内部に残り、排気管10から排出される。一方、5μmよりもはるかに小さなサイズ及び軽い質量を有する異物類は、遠心力を受けても螺旋状管7の外側壁面まで移動せず、螺旋状管7の内部に残ることから、同様に排気管10から排出される。フィルタ材を通過して螺旋状管7の外部へと放出されたウイルスを含み得る気体は、ウイルス収集容器6内に捕集され、ウイルス排気部5へと排出される(E)。このような機構により、フィルタ材の濾過精度と同程度のサイズのウイルスを気体サンプル中から選択的に分離することができる。
【0072】
図2のウイルス分離部8のウイルス排気部5に排出された、ウイルスを含み得る気体は、液体媒体収容容器の内部に張り込まれた液体媒体内に臨んだウイルス排気部5の開口端から、液体媒体中に供給される。これにより、気体中のウイルス等の微小物質は液体媒体中に懸濁され、ウイルス等の微小物質を含んだ液体媒体の懸濁液が構成される。このようにして、分離したウイルスを液体媒体中へ取り込ませることができ、それにより、液体媒体中のウイルス濃度(ウイルス存在率)を増加させることができ、ひいては検出効率を上げることができる。検出効率の向上により、ウイルス検出時間の短縮化や装置の小型化も可能となる。このようにして懸濁液となった液体媒体は、場合によりウイルス取込部2の流出部から出て、流路4を通ってウイルス検出部3に送られる。
【0073】
図3に示す円筒型ウイルス分離部13では、遠心分離に基づいて気体サンプルからウイルスを分離する。気体サンプル導入部1から導入された気体サンプルを、気体導入管9から、好ましくは一定の気体圧力を掛けて円筒型容器11(好ましくは還流中空部を有する円筒型容器11)内に供給する(C)。その結果、例えば還流中空部を有する円筒型容器11においては、気体サンプルは円筒型容器11内の還流中空部において円筒芯の周囲を円形の軌跡を描いて回流し(図3)、その後、排気管10を通ってウイルス検査装置の外へ排出される(D)。このとき、気体サンプル中のウイルス等の物質は、それぞれの質量に応じて異なる移動距離で円筒軸から外側へと移動し、異なる半径で円筒型容器11内(好ましくは、円筒型容器11内の還流中空部)を回流する。そこで、円筒型容器11の内部に開口端が位置するウイルス排気管12を、検出対象のウイルスの回流半径の位置にその開口端が配置されるように位置決めすることにより、円筒型容器11内で回流する気体サンプルから、ウイルスを含み得る気体を、好ましくは異物類等から選択的に分離して採取し、ウイルス排気管12へと排出することができる(E)。
【0074】
図3の円筒型ウイルス分離部13のウイルス排気管12に排出された、ウイルスを含み得る気体は、好ましくは、液体媒体収容容器の内部に張り込まれた液体媒体内に臨んだウイルス排気管12の開口端から、液体媒体中に供給される。これにより、気体中のウイルスは液体媒体中に懸濁され、そのウイルスを含んだ液体媒体の懸濁液が構成される。このようにしてウイルスを液体媒体へ取り込ませることができる。上記のようにして気体サンプル中からウイルスを分離し液体媒体へ取り込ませることにより、液体媒体中のウイルス濃度(ウイルス存在率)を増加させることができ、ひいては検出効率を上げることができる。この検出効率の向上により、ウイルス検出時間の短縮化や装置の小型化も可能となる。このようにして懸濁液となった液体媒体は、場合によりウイルス取込部2の流出部から出て、流路4を通ってウイルス検出部3に送られる。
【0075】
図4に示す、ウイルス取込部2の別の実施形態では、気体サンプル導入部1から導入された気体サンプルは、第2空間部気体導入管19から第2空間部16に供給される(C)。第2空間部16に供給された気体サンプルは、フィルタ14を通過して第1空間部15に入り、第1空間部排気管20からウイルス検査装置の外へと排出される(D)。なお、限定するものではないが、第1空間部15が上段に、第2空間部16が下段になるように構成されていることが好ましい。フィルタ14として液体媒体を通過させるがウイルスは通過させずに捕捉するフィルタを用いることにより、気体サンプル中のウイルスは、フィルタ14を通過できず、フィルタ14に捕捉されるか又は第2空間部16内に蓄積され、気体サンプルから選択的に分離される。ウイルスよりも小さな微小物質はフィルタ14を通過し、一般排気として第1空間部排気管20から排気される。次いで、第1空間部液体媒体導入管17から第1空間部15に液体媒体を導入する(F)と、液体媒体は第1空間部15からフィルタ14を通過して第2空間部16に流れ込む。この際、フィルタ14に捕捉されたか又は第2空間部16内に蓄積されたウイルスは液体媒体によって洗い流され、液体媒体中に取り込まれる。ウイルスを取り込んだ液体媒体は、第2空間部液体媒体排出部18から流出し(G)、流路4を経てウイルス検出部3へ送られる。このようにして、気体サンプル中からフィルタ濾過により分離したウイルスを、液体媒体へ取り込ませることにより、液体媒体中のウイルス濃度(ウイルス存在率)を増加させることができ、ひいては検出効率を上げることができる。検出効率の向上により、ウイルス検出時間の短縮化や装置の小型化も可能となる。
【0076】
図5に示す、ウイルス取込部2の別の実施形態では、気体サンプル導入部1からウイルス検査装置に導入された気体サンプルは、インレット管24に導入され(C)、インレット管24の開口端に設けられたウイルス通過フィルタ25(例えば、HEPAフィルタ、ULPAフィルタ等)を通過して、液体媒体収容容器23の内部に張り込まれた液体媒体中に供給される。このとき、気体サンプル中の、ウイルス通過フィルタ25の濾過精度の値未満のサイズのウイルス等の微小物質は、当該フィルタ25を通過して液体媒体中に取り込まれるが、その濾過精度の値よりも大きな異物類はフィルタ25を通過せずにインレット管24内に残る。一方、液体媒体は、液体媒体導入管21から液体媒体収容容器23に供給され(F)、液体媒体収容容器23内において、ウイルス通過フィルタ25を通って送り込まれたウイルス等の微小物質を取り込んで懸濁液となる。必要に応じて、試薬導入管26からウイルス検出用試薬等の試薬を液体媒体収容容器23に添加することもできる(I)。添加されたウイルス検出用試薬は、液体媒体収容容器23において液体媒体中のウイルスと反応し、好ましくはウイルスを標識する。ウイルス検出用試薬が蛍光標識試薬(例えば、蛍光色素と結合した抗ウイルス抗体)である場合には、液体媒体収容容器23において液体媒体中の検出対象のウイルスは蛍光標識され得る。ウイルス等の微小物質を含む懸濁液となった液体媒体は、液体媒体排出管22から流路4へと排出される(G)。流路4へと排出された液体媒体は、次にウイルス検出部3へと送られる。
【0077】
一実施形態では、液体媒体へのウイルス等の微小物質の取り込み速度を上げるため、図6に示すように、例えば、混合部としての液体媒体収容容器23の内部に取り付けられた攪拌用フィン27を、モータ28を駆動することによって回転させて、液体媒体を攪拌し対流させてもよい。また、液体媒体へのウイルス等の微小物質の取り込み速度を上げるため、液体媒体収容容器23の内部に張り込まれた液体媒体を、さらに、加圧手段29により加圧してもよい。
【0078】
図7に示す、ウイルス取込部2のさらに別の実施形態では、気体サンプル導入部1からウイルス取込部2に導入された気体サンプルは、オリフィス気体導入管30から混合用空間部32に供給される(C)。その際、気体サンプルは、オリフィスを通過することにより減圧され、その結果、より増加した流速で混合用空間部32に送り込まれる。一方、混合用空間部32に送り込まれる気体サンプルの側方からは、側方液体媒体導入管33から液体媒体が供給される(F)。混合用空間部32へと速い流速で送り込まれた気体サンプルに、側方から供給された液体媒体が接触することにより、混合用空間部32において液体媒体は噴霧状態となる。このとき、噴霧状態の液体媒体の液滴には、気体サンプル中のウイルス等の微小物質が取り込まれる。噴霧状態となった液滴は、霧状媒体排出管34を通過する間に、好ましくは霧状媒体排出管34の途中に設けられた冷却装置により、冷やされて高濃度に霧状化される。こうして得られる霧状媒体は、気体サンプル中のウイルスを高濃度に含むことができ、これは流路4を通ってウイルス検出部3へと送られる(H)。なお、側方液体媒体導入管33から供給される液体媒体は、ウイルス検出用試薬(例えば、蛍光色素と結合した抗ウイルス抗体)を含むことが好ましい。これにより、噴霧状態の液体媒体の液滴に取り込まれたウイルスは、ウイルス検出用試薬によって標識される。
【0079】
上記のようにして気体サンプル中からウイルスを分離して霧状媒体中へ取り込ませ、媒体中のウイルス濃度(ウイルス存在率)を増加させることができ、ひいては検出効率を上げることができる。検出効率の向上により、ウイルス検出時間の短縮化や装置の小型化も可能となる。
【0080】
ウイルス検出部3に送られたウイルスを含み得る液体媒体又は霧状媒体については、任意のウイルス検出法でウイルス検出が行われ得る。典型的には、ウイルス検出部3では、例えば図8に示す検出光学系により、ウイルスを含み得る液体媒体又は霧状媒体のウイルス検出を行うことができる。例えば、蛍光標識試薬(例えば、蛍光色素と結合した、検出対象のウイルスに対する抗ウイルス抗体等)をウイルス検出用試薬として用いた場合、蛍光検出法により、蛍光標識されたウイルスを高感度に検出することができる。蛍光検出法とは、短波長の励起光を吸収し、その高エネルギー光をより低いエネルギー光に変換することで一定のより長波長の放射光(蛍光)を発光するという蛍光色素の性質を利用して、蛍光標識シグナルを検出する方法である。
【0081】
図8に示すウイルス検出部における蛍光検出法に基づくウイルス検出の説明図を、図14Aに示す。光源35に該当するレーザ光源から流路4に対して励起光が照射され、その励起光の光束38を、流路4を流れる蛍光標識されたウイルス57が横切ると、蛍光色素が特定波長域の蛍光を発する。この蛍光を集光レンズ36で集光し、さらに好ましくは蛍光フィルタを用いて、集光した光からその蛍光の特定波長域のみを透過させ、光検出器37により受光し検出する。蛍光標識されたウイルス57がウイルス検出部を通過すると、蛍光シグナルが検出され、当該ウイルスを検出することができる。一方、蛍光標識されていない微小物質58がウイルス検出部を通過した場合は、目的の特定波長域の蛍光シグナルは検出されない。
【0082】
例えば、図14Bに示すような、青色レーザ光59を励起光として、橙色蛍光60を発光する蛍光色素を用いることもできる。この場合、蛍光フィルタは橙色蛍光60の波長域のみを透過するフィルタを用いる。あるいは、図14Cに示すような、緑色レーザ光61を励起光として、赤色蛍光62を発光する蛍光色素を用いることもできる。この場合の蛍光フィルタは、赤色蛍光62の波長域のみを透過するフィルタを用いる。しかし本発明において好適に使用できる蛍光色素はこれらに限定されない。
【0083】
ウイルス検出部3での蛍光検出において、検出効率を上げるため、流路4は扁平形状とすることが好ましい。レンズの焦点深度外で検出すると光検出器37で得られる蛍光画像がボケて検出感度が低下する。そこで、流路4は扁平形状とすることにより、焦点深度内での検出を容易とすることができる。同時に、光源35から照射する励起光を扁平形状とする整形により、レーザ光のロスも低減することができる。
【0084】
ウイルス検出部3でのウイルス検出は、蛍光検出法以外に、発色色素を用いた標識、放射性同位元素(IR)を用いた標識等の各種標識によりウイルスを標識し、それを検出することによっても実施することができる。
【0085】
ウイルスの直接検出に加えて、核酸分析装置を用いてウイルスの遺伝子解析を行ってもよい。ウイルス検出部3でのウイルス検出の結果、ウイルスの存在が示された場合、ウイルスを取り込んだ変換媒体(好ましくは、液体媒体)を流路4からサンプリングし、それを核酸分析装置で分析し、得られた分析結果に基づきウイルスの遺伝子解析を行うことにより、ウイルスの同定、識別、確認等をさらに行うこともできる。流路4を流れるウイルスを取り込んだ変換媒体を、連結部43を介してサンプリングし、核酸分析装置に導入して分析することも好ましい。あるいは核酸分析装置は、ウイルス検出部3にさらに組み込まれたものを用いてもよい。核酸分析装置は、核酸抽出、核酸精製、核酸増幅(PCR、等温核酸増幅法等)、シークエンシング、及び電気泳動、並びに配列解析等の情報処理のような核酸分析に一般的に用いられる任意の分析・処理工程を行うことができるものが好ましい。
【0086】
本発明に係るウイルス検査方法は、一実施形態では、図9に示すような、気体サンプル導入部1を有するウイルス取込部2と、ウイルス検出部3と、ウイルス除去部40と、循環流路41とを備えたウイルス検査装置を使用して、気体サンプル中のウイルスを分離して液体媒体又は霧状媒体中に取り込ませ(媒体変換)、ウイルス検出を行い、さらにウイルス検出後の媒体からウイルスを除去し、その媒体を再利用して、(通常は別の)気体サンプル中から新たに分離したウイルスをそこに取り込ませることにより、媒体を循環利用して行う閉鎖系でのウイルス検査を可能とする方法である。本方法で用いるウイルス検査装置でのウイルス取込部2での液体媒体又は霧状媒体へのウイルスの取り込み、ウイルス検出部3でのウイルスの検出、並びに液体媒体及び霧状媒体等の説明は、上記と同じである。
【0087】
例えば、図10に示すウイルス検査装置を用いた場合、気体サンプル導入部1から導入された気体サンプルが、インレット管24に導入され(C)、ウイルス通過フィルタ25を通って液体媒体収容容器23内に張り込まれた液体媒体中に送り込まれる。このとき、気体サンプル中のウイルスはウイルス通過フィルタ25を通過して液体媒体中に送り込まれ、液体媒体中に混合され懸濁されて、取り込まれる。一方、試薬導入管26から、ウイルス検出用試薬が導入される(F)ことにより、液体媒体中に取り込まれたウイルスはウイルス検出用試薬と反応し、標識される。典型的には、目的のウイルスに対する抗ウイルス抗体に蛍光色素を結合した蛍光色素コンジュゲート抗体を始めとする蛍光標識試薬を液体媒体に添加することにより、ウイルスは蛍光標識される。未反応の蛍光標識試薬は、液体媒体収容容器23内の液体媒体から除去されることが好ましい。蛍光標識試薬で標識されたウイルスを含み得る液体媒体は、液体媒体収容容器23から循環流路41へと流出し、ウイルス検出部3に至る。ウイルス検出部3では、レーザ光源42の光束と循環流路41が交差する位置を蛍光標識試薬で標識されたウイルスが通過することにより、レーザ光源42から照射された励起光を吸収して蛍光色素が発光した蛍光が集光レンズで集光され、光検出器で検出される。
【0088】
ウイルス検出部3を通過した液体媒体は、循環流路41を通ってウイルス除去部40に向かう。循環流路41の途中に設けられた連結部43を介してウイルスを取り込んだ液体媒体をサンプリングし、核酸分析装置に導入して分析してもよい。
【0089】
ウイルス除去部40では、循環流路41を流れる液体媒体(循環媒体)からウイルスが除去される。例えば、ウイルス除去部40に設けられたウイルス除去手段、例えばウイルスを通過させずに捕捉する濾過装置等により、ウイルスを取り込んだ液体媒体を処理することにより、当該液体媒体からウイルスを除去することができる。除去されたウイルスは、好ましくは、ウイルス貯蔵容器に貯蔵されるか、又はウイルス排出口から排出される。除去されたウイルスは、ウイルス検査装置の限定するものではないが好ましくはメンテナンスの際などに、安全な場所及び方法により所定のウイルス処分規定に従って廃棄処理することが好ましい。
【0090】
ウイルス除去部40でウイルス除去された液体媒体は、循環流路41を通ってウイルス取込部2に再導入され、新たな気体サンプル中のウイルスを取り込ませるための変換媒体として再利用される。
【0091】
また本発明に係るウイルス検査方法において、図7に示すようなウイルスを霧状媒体に取り込ませるためのウイルス取込部を備え、図11に示す循環流路41を有するウイルス検査装置を使用する場合には、気体サンプルは気体サンプル導入部1からウイルス取込部2に導入され(A)、ウイルス取込部2において気体サンプル中のウイルスが霧状媒体中に取り込まれ、ウイルスを取り込んだ霧状媒体は循環流路41を通ってウイルス検出部3に至り(H)、ウイルス検出後、必要に応じて、連結部43を介してサンプリングされた霧状媒体の核酸分析装置での分析を経て、冷却部44に導入される。冷却部44において霧状媒体は冷却により液体化され、循環流路41を通ってウイルス除去部40へと導入される。ウイルス除去部40では、液体化により得られた液体媒体から、上記と同様にしてウイルスが除去される。
【0092】
一方、冷却部44において排出された気体は排気路45に排出され、ウイルス第2除去部46において当該気体中のウイルスが除去された後、ウイルス検査装置の外部に排出される。例えば、その排気された気体につき、ウイルス第2除去部46に設けられたULPAフィルタ等のウイルスを捕捉可能な濾過フィルタを通過させることにより、気体中のウイルスを除去することができる。
【0093】
ウイルス除去部40でウイルス除去された液体媒体は、循環流路41を通ってウイルス取込部2に再導入され、新たな気体サンプル中のウイルスを取り込ませるための変換媒体として再利用される。
【0094】
本発明に係るウイルス検査装置を用いたウイルス検査方法は、ウイルスを含み得る気体サンプルを被験サンプルとしてウイルス検査装置に直接適用できる点、気体サンプル中の異物類からの分離により液体媒体又は霧状媒体等の変換媒体中のウイルス濃度を増加させて検出効率を向上させることができる点、変換媒体中の微量なウイルスを高感度に検出可能な検出系を用いることができる点、一連の検査手順を閉鎖系で行うことができる点等において非常に有利である。本発明に係る循環流路を備えたウイルス検査装置を用いたウイルス検査方法は、それらの利点に加えて、閉鎖系で連続した検査を実施可能である点、小型で可搬型に構成できる点等の利点も有する。本発明に係るウイルス検査装置を用いたウイルス検査方法では、これまで困難であった気体中に存在するウイルスの検出及び分析が可能になり、ウイルスの伝播が生じている現場での検出や分析も可能となる。
【0095】
本発明に係るウイルス検査方法は、さらに別の実施形態では、基板捕捉型ウイルス検査装置を用いて行う。このウイルス検査方法の典型例の概要を図15に示す。この方法では、気体サンプルからウイルスを分離し、それを固相媒体である基板中に捕捉し、ウイルス検出用試薬と反応させ(顕在化)、高感度検出法等により検出を行い、必要に応じてさらに遺伝子解析を行い、さらに基板を洗浄してウイルスを基板から除去する各工程を含むウイルス検査方法が示されている。
【0096】
例えば、図12に示すウイルス捕捉部を有する基板捕捉型ウイルス検査装置を用いた場合、気体サンプル導入部から導入された気体サンプルは、気体サンプルインレット管47からウイルス捕捉部に導入され(C)、メッシュ部53を通してイオン化部49に供給される。気体サンプル中のウイルスはメッシュ部53を通過するが、そのメッシュ部53の濾過精度に比して大きな異物類はメッシュ部53を通過できずに排除される。さらに、メッシュ部のプラス電極50と基板54のマイナス電極51との間に電圧をかけることにより、メッシュ部53を通過したウイルス55(好ましくは、ウイルスを含む飛沫核)は、そのウイルス粒子を取り巻く水分子がイオン化するため、基板54上に移動し付着する。これにより、ウイルスを基板54上に捕捉することができる。一方、メッシュ部を通過した小さな異物類はイオン化されず、基板に付着しないため、気体ドレイン管48から排出される(D)。このような基板捕捉型ウイルス検査装置を用いることにより、固相媒体である基板上への媒体変換を行うことができる。
【0097】
基板上に捕捉したウイルスを、捕捉ウイルス検出部によって検出することができる。基板は、好ましくは基板移動手段により、捕捉ウイルス検出部内に移動させてから検出を行うものであってもよい。ウイルス検出は、例えば、図8に示すウイルス検出部と同様の検出手段を用いて行ってもよいが、それに限定されない。捕捉ウイルス検出部での基板上に付着したウイルスの検出は、例えば、暗視野蛍光検出法により行ってもよい。図16Bに示すように、光源35、集光レンズ36、光検出器37に加えて、赤色透過フィルタ等の蛍光フィルタ56を備えた暗視野蛍光検出光学系を用いて暗視野蛍光検出を行うこともできる。ウイルス検出はまた、明視野蛍光検出法により行ってもよい。図16Cに示すように、光源35、集光レンズ36、光検出器37に加えて、ダイロックミラー63を備えた
明視野蛍光検出光学系を用いて明視野蛍光検出を行うこともできる。ウイルス検出はまた、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いた形状識別法(SEM検出)により行ってもよい。図16Dに示すように、電子銃64、電子レンズ65、検出器66を備えた走査型電子顕微鏡(SEM)検出光学系を用いてSEM検出を行うこともできる。SEM検出の代わりに、TEM検出を用いてもよい。
【0098】
ウイルス検出後の基板は、洗浄工程によりウイルスの除去を行った後、再度、ウイルス捕捉部にマイナス電極51に接続するように配置して、気体サンプル中のウイルスの捕捉のために再使用することができる。
【0099】
この基板捕捉型ウイルス検査装置を用いたウイルス検査方法も、ウイルスを含み得る気体サンプルを被験サンプルとして直接使用することができる点、気体サンプル中の異物類からの分離によりウイルスの検出効率を向上させることができる点、変換媒体中の微量なウイルスを高感度に検出可能な検出系を用いることができる点、一連の検査手順を閉鎖系で行うことができる点等において非常に有利である。本ウイルス検査装置を用いたウイルス検査方法は、それらの利点に加えて、閉鎖系で連続した検査を実施可能である点、小型で可搬型に構成できる点等の利点も有する。このウイルス検査装置を用いたウイルス検査方法は、これまで困難であった気体中に存在するウイルスの検出及び分析が可能になり、ウイルスの伝播が生じている現場での検出や分析も可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明に係る方法及び装置は、気中のインフルエンザウイルスを検出するために用いることができる。本発明に係る装置は、公共交通機関(電車、駅、空港など)、人が集まるショッピングセンター、劇場、集会所等に設置して、気中のウイルス検査を迅速に実施することにより人がウイルスに感染する機会を低減する目的で用いることができる。本発明に係る方法及び装置を用いて、気中のウイルスの存在を検出し、測定し、結果を出力するまでの時間を短縮することが出来れば、ウイルス自体を隔離することも可能になる。特にコンパクトな可搬型で循環型閉鎖システムとして構成した本発明に係るウイルス検査装置を用いれば、ウイルスの伝播・拡散が懸念される場所での使用が可能になる。本発明によれば、ウイルスの空気感染のリスクを低下させ、感染予防を図ることができ、ウイルスの感染拡大を防止することができる。
【0101】
インフルエンザ等のウイルス感染症の一部は空気感染により感染が伝播する。現在は、気中のウイルスを検出する手段はほとんど無く、そのため人や、豚、鳥などの動物がウイルスに感染した後、その唾液、体液等を採取して専門の試験所や生物関連研究機関等で培養、遺伝子解析等を行ってウイルスを同定している。しかしこの作業には時間が掛かり、ウイルスの感染防止対策は後手に回ることが多い。しかし本発明によれば、これらの問題に対して有効な解決策を提供することができる。
【符号の説明】
【0102】
1 気体サンプル導入部
2 ウイルス取込部
3 ウイルス検出部
4 流路
5 ウイルス排気部
6 ウイルス収集容器
7 螺旋状管
8 ウイルス分離部
9 気体導入管
10 排気管
11 円筒型容器
12 ウイルス排気管
13 円筒型ウイルス分離部
14 フィルタ
15 第1空間部
16 第2空間部
17 第1空間部液体媒体導入管
18 第2空間部液体媒体排出管
19 第2空間部気体導入管
20 第1空間部排気管
21 液体媒体導入管
22 液体媒体排出管
23 液体媒体収容容器
24 インレット管
25 ウイルス通過フィルタ
26 試薬導入管
30 オリフィス気体導入管
31 オリフィス
32 混合用空間部
33 側方液体媒体導入管
34 霧状媒体排出管
35 光源
36 集光レンズ
37 光検出器
38 光束
40 ウイルス除去部
41 循環流路
49 イオン化部
50 プラス電極
51 マイナス電極
52 電源部
53 メッシュ部
54 基板
56 蛍光フィルタ
59 青色レーザ光
60 橙色蛍光
61 緑色レーザ光
62 赤色蛍光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
気体サンプル導入部を有するウイルス取込部と、ウイルス検出部と、前記ウイルス取込部と前記ウイルス検出部を接続する流路とを備えることを特徴とする、ウイルス検査装置。
【請求項2】
気体サンプル導入部を有するウイルス取込部と、ウイルス検出部と、ウイルス除去部と、両端が前記ウイルス取込部に接続されている循環流路とを備え、前記循環流路の上流側に前記ウイルス検出部が、下流側に前記ウイルス除去部が設けられている、ウイルス検査装置。
【請求項3】
前記ウイルス取込部が、ウイルス分離手段と、液体媒体供給部と、分離したウイルスを液体媒体に混合するための混合部とを備えることを特徴とする、請求項1又は2に記載のウイルス検査装置。
【請求項4】
前記ウイルス分離手段が、フィルタ材から構成される螺旋状管を備えることを特徴とする、請求項3に記載のウイルス検査装置。
【請求項5】
前記ウイルス分離手段が、円筒型容器と、前記円筒型容器の内部に開口端が位置し水平方向に自在に位置決め可能な排気管とを備えることを特徴とする、請求項3に記載のウイルス検査装置。
【請求項6】
前記ウイルス分離手段が、開口端にフィルタを設けた管を備えることを特徴とする、請求項3に記載のウイルス検査装置。
【請求項7】
前記ウイルス取込部が、フィルタを介して分画された第1空間部及び第2空間部と、第1空間部に連通した液体媒体導入管と、第2空間部に連通した液体媒体排出管と、第2空間部に連通した気体導入管と、第1空間部に連通した排気管とを備えることを特徴とする、請求項1又は2に記載のウイルス検査装置。
【請求項8】
前記ウイルス取込部が、気体導入管と、オリフィスを介して前記気体導入管と連通した混合用空間部と、前記混合用空間部に側方から連通した液体媒体導入管とを備えることを特徴とする、請求項1又は2記載のウイルス検査装置。
【請求項9】
気体サンプル中のウイルスを分離して液体媒体又は霧状媒体中に取り込ませて、ウイルス検出を行うことを特徴とする、ウイルス検査方法。
【請求項10】
蛍光検出法を用いてウイルス検出を行う、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記ウイルス検出を行った後の前記媒体からウイルスを除去し、その媒体に、気体サンプル中から新たに分離したウイルスを取り込ませることを特徴とする、請求項9又は10に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2011−152109(P2011−152109A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−17298(P2010−17298)
【出願日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】