説明

ウイルス様粒子の精製

ノロウイルスおよびサポウイルスを含むヒトカリシウイルスを精製するための方法を開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願に対する相互参照
本出願は、2007年3月14日に出願された米国仮出願第60/906,821号の優先権の利益を請求するものである。
【0002】
本出願は、生物学的供給源からウイルス様粒子(VLP)を抽出および精製するための方法に関する。より詳細には、本出願は、大規模で商用グレードのVLPを生成するための方法に関する。本方法は、精製VLPをもたらす複数の精製段階を利用する。
【0003】
政府支援の報告
本発明は、契約番号DAMD17−01−C−0400およびW81XWH−05−C−0135の、米陸軍医学研究司令部からの政府支援を伴って得られたものである。政府は、本発明に対する一定の権利を有し得る。
【背景技術】
【0004】
ヒトカリシウイルスであるノロウイルスおよびサポウイルスは、急性の非細菌性胃腸炎の主な原因である。ノロウイルスとは対照的に、サポウイルスは、乳児および幼児に主に感染することが知られているが、サポウイルスは、成人集団においても同様に見られるようになってきている(Johansson et al., 2005, A nosocomial sapovirus-associated outbreak of gastroenteritis in adults. Scand J Infect Dis. 37(3):200-4)。ノロウイルスは、非細菌性胃腸炎の流行的発生の単一の最も重要な原因として浮上している、培養不可能なヒトカルシウイルスである(Hardy, 1999, Clin Lab Med. 19(3):675-90)。ノロウイルスの臨床的重要性は、高感度の分子診断アッセイが開発される前にはあまり評価されていなかった。プロトタイプの遺伝子群Iのノーウォークウイルス(NV)のゲノムのクローニングおよび組換えバキュロウイルス発現系からのウイルス様粒子(VLP)の生成により、広範なノロウイルス感染を明らかにするアッセイが開発された(Jiang et al. Norwalk Virus Genome Cloning and Characterization. Science 1990; 250: 1580-1583、Jiang et al. 1992, J. Virol. 66 (11):6527-32)。
【0005】
ノロウイルスおよびサポウイルスは、断片化されていないRNAゲノムを含む、一本鎖の、プラス鎖RNAウイルスである。ウイルスゲノムは3つのオープンリーディングフレームをコードし、オープンリーディングフレームのうち後者の2つは主要カプシドタンパク質および主要ではない構造タンパク質の生成をそれぞれ特定するものである(Glass et al., The Epidemiology of Enteric Caliciviruses from Human: A Reassessment Using New Diagnostics. J Infect Dis 2000; 181(Sup 2):S254-S261)。真核性の発現系において高いレベルで発現すると、NVならびに特定の他のノロウイルスおよびサポウイルスのカプシドタンパク質は、天然のノロウイルスビリオンを構造的に模倣するVLPに自己集合する。透過型電子顕微鏡により観察すると、VLPは、ヒト排泄物試料から単離された感染性ビリオンと形態学的に区別不可能である。
【0006】
VLPの利用可能性およびVLPの大量生成能のため、ノロウイルスおよびサポウイルスはインビトロでは培養できないが、ノロウイルスカプシドの抗原的および構造的なトポグラフィーの決定においては顕著な進歩がなされてきた。VLPはウイルスカプシドタンパク質の真の立体構造を保ち、一方で感染性遺伝物質を欠いている。その結果、VLPはウイルスによる細胞受容体との機能的相互作用を模倣し、それにより、強い宿主免疫応答を誘発するが、繁殖能力または感染を生じさせる能力は欠いている。NIHと協力して、ベイラー医科大学は、学術的な、研究者主導の第I相臨床試験において、ヒトボランティアにおけるノロウイルスVLPに対する体液性、粘膜性、および細胞性の免疫応答を研究した。経口投与されたVLPは安全であり、健康な成人において免疫原性であった(Ball et al. 1999、Tacket et al. 2003)。他の学術施設では、動物モデルにおける前臨床実験により、細菌外毒素アジュバントと共にVLPを経鼻投与するとVLPに対する免疫応答が増強することが明らかにされている(Guerrero et al. 2001, Recombinant Norwalk Virus-like Particles Administered Intranasally to Mice Induce Systemic and Mucosal(Fecal and Vaginal)Immune Responses. J Virol 2001; 75: 9713、Nicollier-Jamot et al. 2004, Recombinant Virus-like Particles of a Norovirus(Genogroup II Strain)Administered Intranasally and Orally with Mucosal Adjuvants LT and LT(R192G)in BALB/c Mice Induce Specific Humoral and Cellular Th1/Th2-like Immune Responses. Vaccine 2004; 22:1079-1086、Periwal et al. 2003, Enhances Systemic and Mucosal Immune Responses to Recombinant Norwalk Virus-like Particle Vaccine. Vaccine 2003; 21: 376-385)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ノロウイルスVLPを精製するための小規模な方法は文献に記載されている。例えば、超遠心分離によるノーウォークウイルスVLPの精製が記載されており(Jiang et al. 1990; 1992)、当技術分野におけるノロウイルス研究者によって一般に利用されている。しかし、超遠心分離によって精製されたVLPがヒトの臨床試験において利用されている一方で、この方法は、商用規模の量のカリシウイルスVLPの生成には適していない。したがって、様々な生物学的供給源からVLPを精製することが可能な、拡張性があり効率的な精製系を提供することが依然として必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
出願人らは、カリシウイルスVLPを効率的に精製するための適切なクロマトグラフィー法を開発することにより、カリシウイルスVLPのための拡張性のある精製系に対するニーズを解決した。本発明の方法は、精製VLPの商用的な生成のための拡張に適している。したがって、本発明は、クロマトグラフィープロセスを用いてカリシウイルスのウイルス様粒子(VLP)を精製する方法に関する。クロマトグラフィープロセスは、2つ以上のクロマトグラフィー材料および2つ以上の移動相条件を用い得る。クロマトグラフィー材料および移動相条件は、クロマトグラフィープロセスを直交的にする、異なる物理的または化学的特性であり得る。
【0009】
いくつかの実施形態において、クロマトグラフィー材料および移動相条件は、VLPが保持されるように選択される。他の実施形態において、クロマトグラフィー材料および移動相条件は、VLPが通過するように選択される。さらに他の実施形態において、クロマトグラフィー材料および移動相条件は、VLP調製物内の混入物質が保持されるように選択される。さらに他の実施形態において、クロマトグラフィー材料および移動相条件は、VLP調製物における混入物質が通過するように選択される。
【0010】
中でも、いくつかの実施形態において、本発明のクロマトグラフィープロセスは、2つ以上のクロマトグラフィー段階を用いる多段階クロマトグラフィープロセスである。本発明の多段階クロマトグラフィープロセスの順序は、所定の規格に見合うVLPを生成するように設計することができる。例えば、本発明の精製方法を用いて、約70%、80%、90%、95%超、または99%超の純度にVLPを精製することができる。
【0011】
一実施形態において、多段階クロマトグラフィープロセスの順序は、得られるVLP組成を制御するように設計される。別の実施形態において、多段階クロマトグラフィープロセスの順序は、混入物質レベルを、管理機関により医薬品グレードの薬物材料であると承認されると考えられるレベルまで低下させるように設計される。例えば、宿主細胞DNA含有量の混入物質レベルは1%未満まで低下させることができる。宿主細胞タンパク質含有量の混入物質レベルは5%未満まで低下させることができる。多段階クロマトグラフィープロセスの順序は、VLPがGMPの規定と一致し、ヒトにおける医薬品試験に適したものとなるように設計される。
【0012】
また、本発明はVLPを含む溶液をクロマトグラフィー材料と接触させる方法も包含する。この点において、VLPを含む細胞溶解物をクロマトグラフィー材料と接触させることができ、ここで、細胞溶解物は、クロマトグラフィー材料との接触の前に濾過されるかまたは沈殿によって精製される。溶液または細胞溶解物は、ショ糖勾配を用いずに遠心分離することができる。一実施形態において、VLPを含む清澄化した溶液をクロマトグラフィー材料と接触させる。あるいは、1つのクロマトグラフィー段階から得たVLP含有溶液を、別のクロマトグラフィー材料と接触させる。
【0013】
VLP含有溶液は、組換え法を用いて生成することができる。例えば、VLPおよびVLPタンパク質は、細菌細胞、昆虫細胞、酵母細胞、または哺乳動物細胞において生成することができる。
【0014】
一実施形態において、本発明は、溶液内のクロマトグラフィー樹脂、カラム内のクロマトグラフィー樹脂、または膜内もしくは表面上に組み込まれたクロマトグラフィー官能基を含む、クロマトグラフィー材料を提供する。クロマトグラフィー材料は、タンパク質または核酸の精製のために設計することができる。クロマトグラフィー材料はさらに、イオン交換、アフィニティー、疎水性相互作用、混合モード、逆相、サイズ排除、および吸着の材料を含み得る。吸着材料は樹脂または膜であり得る。
【0015】
一実施形態において、クロマトグラフィー材料はリン酸カルシウムベースの材料を含む。リン酸カルシウムベースの材料はヒドロキシアパタイトであり得る。
【0016】
別の実施形態において、クロマトグラフィー材料はイオン交換体を含む。イオン交換体は陽イオン交換体であり、ここで、陽イオン交換体は、硫酸塩、リン酸塩、およびカルボン酸塩で誘導体化されたクロマトグラフィー材料を含む。別の実施形態において、イオン交換体は陰イオン交換体であり、ここで、イオン交換体は、正に帯電したクロマトグラフィー材料を含む。正に帯電したクロマトグラフィー材料は、第四級アミン(Q)またはジエチルアミノエタン(DEAE)であり得る。
【0017】
さらに別の実施形態において、クロマトグラフィー材料は、疎水性相互作用材料を含む。疎水性相互作用材料は、メチル、エチル、t−ブチル、およびフェニルからなる群から選択される1つまたは複数の官能基を含み得る。一実施形態において、疎水性相互作用クロマトグラフィー材料は、メチルHIC樹脂である。
【0018】
さらに別の実施形態において、クロマトグラフィー材料は、逆相材料を含む。逆相材料は、C2、C4、C8、またはC18の官能基を含む。別の実施形態において、クロマトグラフィー材料は、アフィニティークロマトグラフィー材料を含む。アフィニティークロマトグラフィー材料は、抗体、乾燥樹脂、および金属を含む。乾燥樹脂は、シバクロムブルーまたはポリミキシンであり得る。
【0019】
一実施形態において、クロマトグラフィー材料はサイズ排除材料を含み、ここで、サイズ排除材料は樹脂または膜である。樹脂または膜は、同一のまたは異なるサイズの孔を含む。
【0020】
また、本発明はVLPが保持され、混入物質がクロマトグラフィー材料を通過するようにVLP含有溶液を調節する、VLPの精製方法を提供する。いくつかの実施形態において、VLP含有溶液のpHを緩衝液で調節して、より酸性の値(例えば7未満のpH)にすることができる。他の実施形態において、VLP含有溶液のpHを、より塩基性の値(例えば7を超えるpH)に調節することができる。緩衝液は、リン酸塩、カルボン酸塩、硫酸塩、酢酸塩、クエン酸塩、トリス、またはビストリスを含み得る。緩衝液の濃度は、約10から1000mMの範囲であり得る。
【0021】
一実施形態において、VLP含有溶液のイオン強度が調節される。イオン強度は、硫酸アンモニウムなどの、ホフマイスター系列の陰イオンおよび陽イオンによって調節することができる。硫酸アンモニウムの濃度は、約100ミリモル濃度より大きいか、または約1、2、もしくは2.4モル濃度であり得る。
【0022】
別の実施形態において、イオン強度はリン酸塩の添加によって調節される。いくつかの実施形態において、リン酸塩はリン酸ナトリウムである。リン酸ナトリウムの濃度は約10から500mMの範囲であり得る。一実施形態において、リン酸ナトリウムの濃度は約100mMである。
【0023】
本発明の一実施形態において、VLPが保持されるように、クロマトグラフィー材料のpHを、VLPを加える前に、緩衝液での平衡によって調節する。pHは酸性値(例えば7未満)、塩基性値(例えば7超)、または中性値(例えば7に等しい)に調節することができる。平衡緩衝液は、リン酸塩、カルボン酸塩、硫酸塩、酢酸塩、クエン酸塩、トリス、またはビストリスを含み得る。
【0024】
別の実施形態において、VLPが保持されるように、クロマトグラフィー材料のイオン強度を調節する。調節は、塩の添加により行うことができる。塩は、硫酸アンモニウムなどの、ホフマイスター系列の陽イオンおよび陰イオンを含み得る。硫酸アンモニウムの濃度は、約1、2、または2.4モル濃度より大きいものであり得る。
【0025】
別の実施形態において、クロマトグラフィー材料のイオン強度は、リン酸塩の添加によって調節される。いくつかの実施形態において、リン酸塩はリン酸ナトリウムであり得る。リン酸ナトリウムの濃度は、約10から500mMの範囲であり得る。一実施形態において、リン酸ナトリウムの濃度は約100mMである。
【0026】
さらに別の実施形態において、VLPが保持されるように、VLP含有溶液の有機溶媒の濃度を調節する。
【0027】
さらに、本発明は混入物質が保持され、VLPがクロマトグラフィー樹脂を通過するようにVLP含有溶液およびクロマトグラフィー材料を選択することによるVLPの精製方法を提供する。その際、VLP含有溶液のpHは、緩衝液で調節することができ、例えばpHを7未満または7以上に調節することができる。緩衝液は、リン酸塩、カルボン酸塩、硫酸塩、酢酸塩、クエン酸塩、トリス、またはビストリスを含み得る。一実施形態において、緩衝液の濃度は約10から1000mMの範囲である。
【0028】
一実施形態において、混入物質が保持され、VLPがクロマトグラフィー材料を通過するように、VLP含有溶液のイオン強度を調節する。これは、塩の添加により行うことができ、ここで、塩は、リン酸ナトリウムなどの、ホフマイスター系列の陽イオンおよび陰イオンを含み得る。リン酸ナトリウムの濃度は約10から500mMの範囲であり得る。一実施形態において、リン酸ナトリウムの濃度は約100mMである。
【0029】
別の実施形態において、混入物質が保持され、VLPがクロマトグラフィー樹脂を通過するように、クロマトグラフィー材料のpHを、VLPを加える前に、緩衝液を用いた平衡によって調節する。pHは、リン酸塩、カルボン酸塩、または硫酸塩を含み得る緩衝液で、7未満または7以上に調節することができる。
【0030】
別の実施形態において、混入物質が保持され、VLPがクロマトグラフィー樹脂を通過するように、クロマトグラフィー材料のイオン強度を、VLPを加える前に、緩衝液を用いた平衡によって調節する。イオン強度は塩の添加により調節される。塩は、リン酸ナトリウムなどの、ホフマイスター系列の陽イオンおよび陰イオンを含む。一実施形態において、リン酸ナトリウムの濃度は約10mM超である。
【0031】
さらに別の実施形態において、VLPの結合および溶離を、移動相内に存在する有機溶媒の量によって制御する。VLP含有溶液の有機溶媒の濃度もまた、混入物質が保持されるように調節することができる。有機溶媒は、メタノール、エタノール、もしくはプロパノールなどのアルコール、またはアセトニトリルなどの他の水混和性の有機溶媒であり得る。
【0032】
さらに、本発明はノロウイルスおよびサポウイルスのVLPなどの、カリシウイルスのウイルス様粒子(VLP)からVLPを精製する方法を提供する。ノロウイルスは、遺伝子群I、遺伝子群II、遺伝子群III、および遺伝子群IVのノロウイルスを含む。サポウイルスは、5つの遺伝子群(I〜V)を含み、そのうち、遺伝子群I、II、IV、およびVのみがヒトに感染することが知られている(Farkas et al. 2004, Genetic diversity among sapoviruses. Arch Virol. 2004; 149:1309-23)。
【0033】
さらに、本発明は多段階クロマトグラフィープロセスによって調製される医薬品を提供する。医薬品は、ノロウイルスワクチンなどのワクチンであり得る。
【0034】
さらに、本発明は本明細書に記載の多段階クロマトグラフィープロセスにより調製される分析試薬を提供する。分析試薬は、診断アッセイまたは診断キットにおいて用いることができる所望の精製レベルに精製され得る。
【0035】
本発明のこれらの実施形態および他の実施形態は、以下に示す本発明の充分な検討の後に明確になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】クロマトグラフィー段階に応じたVLP純度の変化を示すゲルの例を示す図である。
【図2】ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィーカラム画分のSDS−PAGEゲル/クマシー染色を示す図である。
【図3】HICクロマトグラフィーカラム画分のSDS−PAGEゲル/クマシー染色を示す図である。
【図4】DEAEクロマトグラフィーカラム画分のSDS−PAGEゲル/クマシー染色を示す図である。
【図5】ダイアフィルトレーション画分のSDS−PAGEゲル/クマシー染色を示す図である。
【図6】クロマトグラフィーによって精製したノーウォークウイルスVLPの透過型電子顕微鏡写真の画像である。粒子は約34から38nMの範囲のサイズである。
【図7】超遠心分離によって精製したノーウォークウイルスVLPの透過型電子顕微鏡写真の画像である。粒子はやはり34から38nMのサイズである。
【図8】pHに応じた、10℃(点線)および90℃(実線)でカラム精製したVLPのCDスペクトルを示すグラフである。
【図9】温度およびpHに応じた、205nmで観察した、カラム精製したVLPのCDシグナルを示すグラフである。
【図10】温度およびpHに応じた、222nmで観察した、カラム精製したVLPのCDシグナルを示すグラフである。
【図11】超遠心分離によって精製したVLPのpHに応じた、10℃(点線)および90℃(実線)でのCDスペクトルを示すグラフである。
【図12】超遠心分離によって精製したVLPの温度およびpHに応じた、205nmでのCDスペクトルを示すグラフである。
【図13】超遠心分離によって精製したVLPの温度およびpHに応じた、222nmでのCDシグナルを示すグラフである。
【図14】ヒューストンウイルスVLPに用いた陽イオン交換精製段階で得られたクロマトグラムを示す図である。
【図15】ヒューストンウイルスVLPの陽イオン交換画分のSDS−PAGEゲル/クマシー染色を示す図である。
【図16】ヒューストンウイルスVLPに用いたメチルHICクロマトグラフィー精製段階で得られたクロマトグラムを示す図である。
【図17】ヒューストンウイルスVLPのメチルHIC画分のSDS−PAGEゲル/クマシー染色を示す図である。
【図18】精製ヒューストンウイルスタンパク質のSDS−PAGEゲル/クマシー染色を示す図である。
【図19】精製ヒューストンウイルスタンパク質のHPLC−SECクロマトグラムを示す図である。
【図20】20%硫酸アンモニウム沈殿を用いたヒューストンVLP調製物の精製を示す、銀染色したSDS−PAGEゲルを示す。「Amm懸濁液」は、初期の硫酸アンモニウム懸濁液である。「Amm Supt」は、硫酸アンモニウム懸濁液を遠心分離した際に得られる上清である。「クエン酸塩 supt」は、溶解した沈殿物質である。沈殿していない混入物質の量が際立っている「amm supt」のレーンが興味深い。
【図21】初期のヒューストンVLP調製物の構成要素と、硫酸アンモニウム沈殿し、再溶解した物質とを比較するグラフである。VLPに対する宿主細胞タンパク質のパーセント(HCP/VLP%)の減少による、20%硫酸アンモニウム調製物の純度の顕著な向上に注目されたい。
【図22】沈殿させ、その後に陰イオン交換クロマトグラフィーを行うヒューストンVLPの精製プロセスを示す、銀染色したSDS−PAGEゲルを示す図である。レーン2とレーン5および6との比較により示されるように、pHを調節してVLPを沈殿させると純度が上昇する。レーン8は、カラムクロマトグラフィーの、VLPを濃縮する能力を示している。
【図23】沈殿させ、その後に陰イオン交換クロマトグラフィーを行うローレンスVLPの精製プロセスを示す、クマシー染色したSDS−PAGEゲルを示す図である。レーン5から8とレーン11との比較は、キャプチャークロマトグラフィーで得られたローレンスVLP試料の純度の上昇を示している。
【図24】様々なpH値での、GIノロウイルスVLPのSE−HPLC分析を示す図である。パネルA:pH2での、GIノロウイルスVLPのSE−HPLC分析。約17分での吸光ピークは、インタクトな単分散VLPの溶出に対応する。パネルB:pH8での、ノロウイルスGIのVLPのSE−HPLC分析。約16分での吸光ピークは、インタクトな単分散VLPの溶出に対応する。パネルC:pH8.5での、ノロウイルスGIのVLPのSE−HPLC分析。約33分での吸光ピークは、VLPの安定な中間断片の溶出に対応する。クロマトグラムは、230nm(上)および280nm(下)での吸光プロフィールを示す。
【図25】様々なpHレベルでの、GIIノロウイルスVLPのSE−HPLC分析を示す図である。パネルA:pH2での、GIIノロウイルスVLPのSE−HPLC分析。約17分での吸光ピークは、インタクトな単分散VLPの溶出に対応する。パネルB:pH9.5での、GIIノロウイルスVLPのSE−HPLC分析。約17分での吸光ピークは、インタクトな単分散VLPの溶出に対応する。パネルC:pH10での、GIIノロウイルスVLPのSE−HPLC分析。約34分での吸光ピークは、VLPの安定な中間断片の溶出に対応する。クロマトグラムは、230nm(上)および280nm(下)での吸光プロフィールを示す。
【発明を実施するための形態】
【0037】
概説
本特許を通して引用される全ての刊行物および特許出願は、それぞれの刊行物または特許/特許出願が、参照によりその全体が組み込まれるように具体的かつ個々に指定される場合と同程度に、参照により組み込まれる。
【0038】
本発明の修飾および変更は、当業者に自明のものであろう。本明細書に記載する特定の実施形態は、例として提供されるに過ぎず、本発明はそれにより制限されると解釈されるものではない。
【0039】
本発明は、ノロウイルスVLPおよびサポウイルスVLPを含む、カリシウイルスのウイルス様粒子(VLP)を精製するための方法に関する。「ノロウイルス(Norovirus)」、「ノロウイルス(NOR)」、「ノロウイルス(norovirus)」、および本明細書における文法上の同等物は、カリシウイルス科のノロウイルス属のメンバーを意味する。いくつかの実施形態において、ノロウイルスは、ヒトまたはヒト以外の哺乳動物種に感染性を有し得る、関連する、プラス鎖の一本鎖RNAの、エンベロープを有さないウイルスの群を含み得る。いくつかの実施形態において、ノロウイルスは、ヒトにおける急性胃腸炎の原因となり得る。また、ノロウイルスは、電子顕微鏡法によって観察した場合に決まった表面構造または不規則な境界を有する、小型球形ウイルス(SRSV)であるとされる。ノロウイルスには、15個の遺伝子クラスターを含む、核酸配列およびアミノ酸配列により規定される少なくとも4つの遺伝子群(GI〜GIV)が含まれる。主要な遺伝子群はGIおよびGIIである。GIIIおよびGIVは、提示されてはいるが、一般的に認められている。代表的なGIIIはウシのイエナ株である。GIVは、現時点では、アルファトロンである1つのウイルスを含む。ノロウイルスのさらなる記載については、Vinjeら、J.Clin.Micro.41:1423−1433(2003)を参照されたい。また、本明細書における「ノロウイルス」は、組換えノロウイルスのウイルス様粒子(rNOR VLP)を意味する。いくつかの実施形態において、例えばSf9細胞におけるバキュロウイルスベクターからの、少なくとも、細胞内のORF2によりコードされているノロウイルスカプシドタンパク質の、組換え発現により、VLPへのカプシドタンパク質の自然発生的な自己集合が生じ得る。いくつかの実施形態において、例えばSf9細胞におけるバキュロウイルスベクターからの、少なくとも、細胞内のORF2およびORF3によりコードされているノロウイルスタンパク質の、組換え発現により、VLPへのカプシドタンパク質の自然発生的な自己集合が生じ得る。VLPは構造的にノロウイルスに類似しているが、ウイルスRNAゲノムを欠いており、したがって感染性を有さない。したがって、「ノロウイルス」は、不完全な粒子および不完全に干渉する粒子を含む、感染性または非感染性の粒子であり得るビリオンを含む。
【0040】
ノロウイルスの非制限的な例には、ノーウォークウイルス(NV、GenBank M87661、NP056821)、サウザンプトンウイルス(SHV、GenBank L07418)、デザートシールドウイルス(DSV、U04469)、ヘッセ(Hesse)ウイルス(HSV)、チバウイルス(CHV、GenBank AB042808)、ハワイウイルス(HV、GenBank U0761 1)、スノーマウンテンウイルス(SMV、GenBank U70059)、トロントウイルス(TV、Leite et al., Arch. Virol. 141:865-875)、ブリストールウイルス(BV)、イエナウイルス(JV、AJ01099)、メリーランドウイルス(MV、AY032605)、セト(Seto)ウイルス(SV、GenBank AB031013)、キャンバーウェル(CV、AF145896)、ローズデール(Lordsdale)ウイルス(LV、GenBank X86557)、グリムズビーウイルス(GrV、AJ004864)、メキシコウイルス(MXV、GenBank U22498)、ボクサー(Boxer)(AF538679)、C59(AF435807)、VA115(AY038598)、BUDS(AY660568)、ヒューストンウイルス(HoV、AY502023)、MOH(AF397156)、パリスアイランド(PiV、AY652979)、VA387(AY038600)、VA207(AY038599)、およびオペレーションイラキフリーダム(Operation Iraqi Freedom)(OIF、AY675554)が含まれる。サポウイルスの非制限的な例には、サッポロウイルス(SV)、ヒューストン/86[U95643](Hu/SLV/Hou/1986/US)、ヒューストン/90[U95644](Hu/SLV/Hou27/1990/US)、ロンドン29845[U95645](Hu/SLV/Lon29845/1992/UK)、マンチェスターウイルス[X86560](Hu/SLV/Man/1993/UK)、パークヴィルウイルス[U73124](Hu/SLV/Park/1994/US)、サッポロウイルス[U65427](Hu/SLV/SV/1982/JP)が含まれる。さらなるカリシウイルスのウイルス株が同定され続けており、本発明の方法における利用が検討されている(ICTVdB - The Universal Virus Database, version4. http://www.ncbi.nlm.nih.gov/ICTVdb/ICTVdB/)。核酸およびそれぞれの対応するアミノ酸配列は、参照によりその全体が組み込まれる。いくつかの実施形態において、記号を同定目的のために用いることができ、体系化されている:ウイルスが単離された宿主種/属の略記/種の略記/株名/生じた年/発生国。(Green et al., Human Caliciviruses, in Fields Virology Vol.1 841-874(Knipe and Howley, editors-in-chief, 4th ed., Lippincott Williams & Wilkins 2001))。ノーウォークウイルスVLPおよびヒューストンウイルスVLPの精製の代表的な例を本明細書において論じる。
【0041】
「VLP調製物」は、VLPおよび精製しようとする他の物質を含む、あらゆる溶液を意味するものである。VLP調製物は、バッチ、潅流、もしくはcell factory法のいずれか1つを含むインビトロでの宿主細胞における培養、または適切な動物宿主におけるインビボでの培養を含む、複数の方法により生成することができる。前者の場合、ウイルス感染した細胞を増殖培地から採取、分離することができ、VLPタンパク質は、発芽プロセスを介して培地に放出されるか、または細胞の溶解および細胞残屑からの分離により遊離する。後者の場合、ウイルスを有する組織または器官を除去することができ、VLPタンパク質は同様に、その組織または器官を含む細胞の溶解により遊離し、細胞/組織残屑から分離される。
【0042】
本明細書において用いる場合、「1つもしくは複数のウイルス様粒子またはVLP」は、カリシウイルスの配列をコードするカプシドタンパク質から生成され、感染性カリシウイルス粒子の抗原特性に類似した1つまたは複数の抗原特性を含む、1つもしくは複数のウイルス様粒子、1つもしくは複数のその断片、または1つもしくは複数のその部分を言う。VLPはあらゆる構造タンパク質であり得、ここで、構造タンパク質は、1つまたは複数の核酸配列によりコードされている。VLPは個別の構造タンパク質、すなわち、タンパク質の単量体もしくは二量体、または組換え構造タンパク質の精製の際に自然に形成されるタンパク質複合体、すなわち、自己集合VLPもしくはインタクトなVLPもしくは凝集VLPを含み得る。また、VLPは、カプシド単量体、VLPもしくはカプシド単量体のタンパク質もしくはペプチド断片、またはその凝集物もしくは混合物の形態であり得る。それらは、構造タンパク質断片またはその突然変異形態、例えば、1つまたは複数のアミノ酸の付加、置換、または欠失により修飾されている構造タンパク質を用いて生成し得る。VLPは形態学的および抗原的に真のビリオンに類似している。VLPは、例えば哺乳動物宿主細胞、酵母宿主細胞、細菌宿主細胞、および昆虫宿主細胞などの適切な宿主細胞においてインビボで生成することができる。
【0043】
本発明は、生成された組換えVLPを大規模で精製する方法を提供するものである。本方法は、溶液、すなわち宿主細胞系から得た細胞溶解物または培養上清を調製し、次に、溶解物または培養上清を様々な組合のクロマトグラフィー材料またはクロマトグラフィー媒質に通すことを含む。宿主細胞系は、ペトリ皿、ローラーボトル、バイオリアクターにおいて培養することができるか、または大規模な細胞培養に適した別の技術を用いて培養することができる。
【0044】
当業者には、精製しようとするVLPに適するように本発明のプロセスの特定のフィーチャを適合させることによって、本発明のプロセスを用いて他のウイルス様粒子を精製することができるということが理解されよう。適切なVLPとは、精製プロセスにおける複数のクロマトグラフィー段階、ヒドロキシアパタイト、疎水性相互作用、イオン交換、およびサイズ排除のクロマトグラフィー材料などのクロマトグラフィー材料を用いて容易に精製されるVLPである。
【0045】
「細菌細胞」は、本明細書において、培養で増殖させることができる原核細胞を含むと定義される。細菌細胞は、異種タンパク質の組換え発現のための宿主細胞として作用し得る。細菌細胞は、ベクターを用いて形質転換、トランスフェクト、または感染させて、ベクター内に挿入されたタンパク質配列を発現させることができる。適切な細菌細胞の例には、限定するものではないが、大腸菌、バチルス・メガテリウム、枯草菌、およびバチルス・ブレビス、ならびに、カウロバクター、スタフィロコッカス、およびストレプトミセスの様々な種が含まれる。
【0046】
「酵母細胞」は、本明細書において、発芽または直接的な分裂(核分裂)を介した増殖および繁殖が可能な、または単純で不規則なフィラメント(菌糸体)としての増殖による、小さな単細胞性の生物からなる群を含むと定義される。酵母細胞は、異種ベクターを用いて形質転換またはトランスフェクトして、異種ベクター内に挿入された核酸配列を発現させることができる。酵母細胞の例には、異種タンパク質のトランスフェクションおよび発現に一般に用いられるサッカロマイセス・セレビシエが含まれる。
【0047】
「哺乳動物細胞培養物」は、本明細書において、細胞培養培地においてエクスビボで生存可能な哺乳動物供給源に由来する細胞の群を含むと定義される。哺乳動物細胞は、哺乳動物細胞供給源に直接由来する初代細胞であり得る。より典型的には、哺乳動物細胞培養物における哺乳動物細胞は不死化され、すなわち、不定数の継代または分裂を経た成長および分裂を可能にされる。
【0048】
「昆虫細胞」は、本明細書において、昆虫宿主から得たエクスビボで生存可能な昆虫供給源に由来する細胞の群を含むと定義される。昆虫細胞は、異種ベクターを用いて形質転換、トランスフェクト、または感染させて、異種ベクター内に挿入されたタンパク質配列を発現させることができる。昆虫細胞の例には、High Five(商標)細胞、ヒトスジシマカ細胞、キイロショウジョウバエ細胞、Sf9昆虫細胞、およびヨトウガ細胞が含まれる。
【0049】
「溶解」は、化学的もしくは物理的手段により、またはウイルスの生活環の一部として、ウイルス感染細胞を開き、それによりVLPの回収を可能にするプロセスを言う。
【0050】
「多孔質クロマトグラフィー材料」は、主に分子のサイズ、疎水性、および電荷に基づく分子の分離において一般に用いられる、事実上あらゆるタイプの材料を意味する。本明細書において例示するように、「多孔質クロマトグラフィー材料」には、デキストラン(例えばSephadex(商標)樹脂)、または、様々な表面誘導体化を有する(例えば、親水性、イオン性、疎水性など)、アガロース、ポリスチレンジビニルベンゼン、ポリメタクリレート、シリカ、脂肪族アクリル重合体(例えばAmberlite(商標)樹脂)を含む様々な材料からなり得る他の多孔質材料が含まれる。
【0051】
本明細書において用いる場合、「沈殿」という用語は、分子(VLPまたは混入物質)の選択的沈殿のいずれかをもたらす、塩の添加もしくは除去、有機溶媒の添加、タンパク質含有溶液の濃縮、またはpHの調節を介した、溶液条件の調節を言う。不溶性の物質または沈殿した物質を、次に、遠心分離または濾過などの複数の技術を用いて可溶性物質から分離する。
【0052】
「ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー」は、マトリックスおよびリガンドの両方を形成する、不溶性のヒドロキシル化リン酸カルシウムCa10(PO(OH)を用いるタンパク質の精製方法を言う。官能基は、正に帯電したカルシウムイオン(C部位)と負に帯電したリン酸基(P部位)の群との組からなる。ヒドロキシアパタイトとタンパク質との間の相互作用は複雑であり、複数の様式がある。しかし、相互作用の1つの方法において、タンパク質上の正に帯電したアミノ基は、負に帯電したP部位と関連し、タンパク質のカルボキシル基は、配位錯体形成によってC部位に相互作用する。Shepard,J.of Chromatography 891:93−98(2000)を参照されたい。結晶性ヒドロキシアパタイトは、クロマトグラフィーに用いられた最初のタイプのヒドロキシアパタイトであったが、それは構造上の困難性から制限されたものであった。セラミックヒドロキシアパタイト(cHA)クロマトグラフィーが、流速の制限などの、結晶性ヒドロキシアパタイトに関連する困難性のいくつかを克服するために開発された。セラミックヒドロキシアパタイトは、高い耐久性、良好なタンパク質結合能力を有し、結晶性ヒドロキシアパタイトよりも速い流速および高い圧力で用いることができる。Volaら、BioTechniques 14:650−655(1993)を参照されたい。
【0053】
「サイズ排除クロマトグラフィー」は、多孔質クロマトグラフィー材料を用いて分子を分離するための方法を意味する。サイズ排除クロマトグラフィーは、1つの段階において用いられる1つもしくは複数の異なるタイプの多孔質クロマトグラフィー材料、または複数の別の段階において用いられる1つもしくは複数の異なるタイプの多孔質クロマトグラフィー材料からなり得る。本明細書において用いる場合、2つ以上の多孔質クロマトグラフィー材料を用いる「サイズ排除クロマトグラフィー」の例は、Amberlite(商標)XAD7HPおよびSephadex(商標)G−50である。
【0054】
「アフィニティー材料」は、基質またはリガンドに結合する固体状態の材料であり、基質またはリガンドは、目的のタンパク質すなわちアフィニティータグに付着しているタンパク質に選択的に結合する。結合すると、目的のタンパク質はカラムまたは他の精製装置内に保持され、したがって、VLP調製物内に存在するあらゆる不純物から分離され得る。アフィニティーマトリックスの洗浄の後、目的のタンパク質はカラムまたは他の装置から、実質的に精製された形態で溶出され得る。アフィニティーマトリックスの例には、クロマトグラフィー媒質、ポリスチレンビーズ、磁気ビーズ、フィルター、膜、および、選択したアフィニティータグに結合するリガンドまたは基質に結合する他の固体状態の材料が含まれる。
【0055】
本明細書において用いる場合、タンパク質を「精製する」とは、タンパク質試料内に存在し得る、異質なまたは好ましくない成分、とりわけタンパク質またはDNAなどの生物学的高分子の量を、所与のレベルの純度まで減少させることを意味する。例えば、本発明の方法は、約70%、80%、90%、95%超、または99%超の純度にVLPを精製するために用いることができる。異質なタンパク質の存在は、限定はしないが、ゲル電気泳動および染色またはウェスタンブロット分析、HPLCおよび/またはELISAアッセイを含む、あらゆる適切な方法によってアッセイすることができる。DNAの存在は、ゲル電気泳動および染色、DNA結合タンパク質および/またはポリメラーゼ連鎖反応を用いるアッセイを含む、あらゆる適切な方法によってアッセイすることができる。
【0056】
本明細書において用いる場合、「クロマトグラフィー材料」、「クロマトグラフィー媒質」、「クロマトグラフィーマトリックス」、および「クロマトグラフィー樹脂」という用語、ならびにそれらの文法上の同等物は、明細書全体を通してほぼ同じ意味で用いられる。
【0057】
精製手順の説明
本発明は、生物学的供給源物質からのウイルス様粒子(VLP)の精製に関する。より詳細には、本発明は、組換えVLPの完全性に不利益であり得る不純物および混入物質を除去するための手段としてのクロマトグラフィー法の利用、またはクロマトグラフィー法のその後の利用に関する。
【0058】
開示された発明は、生物学的供給源からVLPを精製するために1つまたは複数のクロマトグラフィー段階を用いることを意図している。様々な順序および組合で用いられる、異なるクロマトグラフィー材料が、本発明により意図されている。1つまたは複数のクロマトグラフィー段階において、2つ以上のクロマトグラフィー材料および2つ以上の移動相条件を用いることができる。クロマトグラフィー材料および移動相条件は異なる物理的または化学的特性であり得、したがって直交的である。
【0059】
クロマトグラフィー材料には、限定はしないが、イオン交換、アフィニティー、疎水性相互作用、混合モード、逆相、サイズ排除、および吸着の材料が含まれる。また、本発明は、アガロース、セルロース、シリカ、およびポリ(スチレン−ジビニルベンゼン)(PSDVB)を含む多くの支持媒質も意図している。加えて、従来のクロマトグラフィー、すなわちHPLC(高速液体クロマトグラフィーもしくは高圧液体クロマトグラフィー)または潅流クロマトグラフィーを含む、複数のクロマトグラフィー法を用いることができる。当業者であれば、カラムのサイズ(すなわち直径および長さ)が、添加する物質の容量、精製するVLPの濃度、および所望の分解度または純度などのいくつかの因子により決まることも理解されよう。
【0060】
細胞溶解物の調製
本発明の実施においては、当業者の技術の範囲内である、分子生物学、タンパク質分析、および微生物学の技術を用いる。このような技術は、例えば、Current Protocols in Molecular Biology,Ausubelら編、John Wiley & Sons,New York,1995に全て説明されている。
【0061】
VLPは、細胞系、組織などを含む複数の生物学的供給源から調製された細胞溶解物から精製することができる。VLPは、ウイルス感染した細胞から作製される細胞溶解調製物から精製されることが多く、この場合、細胞は細胞培養法を用いて増殖したものである。VLP含有細胞の溶解物は、組換え法を用いて生成することができる。例えば、VLPおよびVLPタンパク質は、細菌細胞、昆虫細胞、酵母細胞、または哺乳動物細胞において生成することができる。例えば、ノロウイルスVLPは、バキュロウイルスに感染したSF9細胞などから単離することができる。細胞は、収量を最適化するために、高い感染多重度で感染し得る。
【0062】
VLPを含む細胞溶解物を調製するために、感染細胞からのVLPタンパク質の放出に適したあらゆる方法を用いることができる。VLPタンパク質はまた、発芽プロセスを介して増殖培地内に放出され得る。VLPは培地および細胞残屑からの分離を介して回収され得るか、または当技術分野において既知の技術を用いて感染細胞から放出され得る。ウイルス感染細胞を溶解する方法には、低張溶液、高張溶液、超音波処理、圧力、または洗浄剤の使用が含まれる。一実施形態において、この技術は洗浄剤の使用である。別の実施形態において、試料中のDNAおよびRNAの量に応じて、技術は、洗浄剤と組み合わせたヌクレアーゼの使用でもある。
【0063】
細胞を可溶化するために、非イオン性またはイオン性の洗浄剤を含む多くの洗浄剤が利用可能である。細胞溶解物を処理するために、1つまたは複数の酵素、好ましくはRNAseおよび/もしくはDNAseからなる、または当業者に既知であるエンドヌクレアーゼの混合物からなる酵素剤を用いることができる。細胞またはウイルスの凝集を生じさせることにより本発明のクロマトグラフィー精製スキームに干渉し得る細胞物質に核酸が接着することができ、その結果、もし存在する場合にはわずかなVLPが回収されることは、当業者に周知である。
【0064】
清澄化
清澄化段階の前に、洗浄剤で、または場合によっては洗浄剤およびヌクレアーゼで処理した後の細胞溶解調製物を処理して、大きな粒子物を除去することができる。これは、低速遠心分離または濾過を含む複数の手順によって行うことができる。用いるフィルターまたは膜のタイプ(すなわち、組成および孔サイズ)は、特定のVLPの精製にあたり当業者に知られているものである。
【0065】
本発明の一実施形態は、沈殿による清澄化を伴う。所望のVLPタンパク質は、限定はしないがPEG、硫酸ナトリウム、硫酸アンモニウム、グリシンを含む、タンパク質沈殿剤、または温度の使用などの、当業者に周知の沈殿技術の使用によって、細胞溶解物または培養上清から回収することができる。沈殿は、好ましくは、混入タンパク質の共沈殿を減少させるように慎重に選択した化学物質濃度で行う。次に、沈殿したタンパク質を、濾過または遠心分離により、可溶性物質から分離する。本発明の一実施形態において、VLPは、脱イオン水の添加を介して溶液のイオン強度を低下させることにより沈殿する。別の実施形態において、VLPは、硫酸アンモニウムの添加によって沈殿する。次に、沈殿したVLPを、低速遠心分離を用いて回収し、緩衝液内に再懸濁する。
【0066】
本発明の別の実施形態は、多孔質クロマトグラフィー材料を用いた清澄化を伴い得る。特定の細胞溶解物からのVLPの精製において、また、存在する細胞凝集物の量に応じて、サイズ排除クロマトグラフィーを実施するために単一の多孔質クロマトグラフィー材料を用いることが望ましい可能性がある。これらの場合、事前の清澄化(すなわち濾過)段階を行い、その後、好ましくはデキストランで作製された、また、より好ましくは特定のSephadex(商標)樹脂で作製された単一の多孔質クロマトグラフィー材料を用いたサイズ排除クロマトグラフィーを行うことで十分であり得る。通常は、当技術分野で周知の手段によって得られた細胞溶解物または細胞培養上清を清澄化する。
【0067】
一実施形態において、本発明は、溶液内のクロマトグラフィー樹脂、カラム内のクロマトグラフィー樹脂、または膜内もしくは表面上に組み込まれたクロマトグラフィー官能基を含む、クロマトグラフィー材料を提供する。「膜」は、主に分子のサイズに基づく分子の分離において一般に用いられる、事実上あらゆるタイプの材料を意味する。本明細書において例示するように、「膜」には、フィルター、または分子の分離に用いることができる他の多孔質材料が含まれる。
【0068】
クロマトグラフィー材料は、タンパク質または核酸の精製のために設計し得る。クロマトグラフィー材料には、さらに、イオン交換、アフィニティー、疎水性相互作用、混合モード、逆相、サイズ排除、および吸着の材料が含まれ得る。本発明のクロマトグラフィー材料の例を、以下に、より詳細に記載する。このクロマトグラフィー材料は例示の目的のためだけに提供されることが理解されるべきであり、本発明は決してこれらのクロマトグラフィー材料またはクロマトグラフィー段階に限定されると解釈されるべきではなく、むしろ、一般にはタンパク質または核酸の精製、特定的にはVLPの精製に用いることができる、あらゆる全てのクロマトグラフィー材料またはクロマトグラフィー段階を包含すると解釈されるべきである。
【0069】
以下に論じるクロマトグラフィー法は、個別の段階として、または連続的に、または相前後して実施することができる。「相前後して」とは、1つのクロマトグラフィーから得た溶出液を、溶出液を回収する段階を経ることなく次のクロマトグラフィーに直接利用することを意味する。あるいは、溶出液の画分をプールし、回収して、その後、次のクロマトグラフィーに利用することも可能である。
【0070】
ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー材料
いくつかの実施形態において、クロマトグラフィー材料は、リン酸カルシウムベースの材料を含む。リン酸カルシウムベースの材料はヒドロキシアパタイトであり得る。様々なヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー材料またはヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー樹脂が市販されており、あらゆる利用可能な形態の材料を本発明の実施に用いることができる。本発明の一実施形態において、ヒドロキシアパタイトは結晶形態である。本発明に用いるヒドロキシアパタイトは、凝集して粒子を形成し、安定な多孔質のセラミック塊に高温で焼結されたものであり得る。
【0071】
ヒドロキシアパタイトの粒子サイズは広く変化し得るが、典型的な粒子サイズは1μmから1000μmの直径の範囲であり、10μmから100μmであり得る。本発明の一実施形態において、粒子サイズは20μmである。本発明の別の実施形態において、粒子サイズは40μmである。本発明のさらに別の実施形態において、粒子サイズは80μmである。
【0072】
本発明は、容器に入っていない、カラム内に充填された、または連続的な環状クロマトグラフにおける、ヒドロキシアパタイト樹脂と共に用いることができる。本発明の一実施形態において、セラミックヒドロキシアパタイト樹脂はカラム内に充填されている。カラム直径の選択は、当業者が決定し得る。本発明の一実施形態において、少なくとも0.5cmのカラム直径および約20cmの床高を、小規模な精製に用いることができる。本発明のさらなる実施形態において、約35cmから約60cmのカラム直径を用いることができる。本発明のさらに別の実施形態において、60cmから85cmのカラム直径を用いることができる。
【0073】
VLPを含むヒドロキシアパタイトカラムから得た溶出液をプールし、疎水性相互作用クロマトグラフィー樹脂などの別のクロマトグラフィー樹脂に利用することができる。
【0074】
疎水性相互作用クロマトグラフィー材料
いくつかの実施形態において、クロマトグラフィー材料は疎水性相互作用材料を含む。疎水性相互作用材料は、メチル、エチル、t−ブチル、およびフェニルからなる群から選択される1つまたは複数の官能基を含み得る。
【0075】
疎水性相互作用クロマトグラフィー(「HIC」)は、塩濃度が高い条件下でのタンパク質の分離に有益な技術である(概して、HPLC of Biological Macromolecules. Methods and Applications, Gooding, K. M. et al., Eds., Marcel Dekker, Inc.(1990)を参照されたい)。タンパク質に関して、HIC分離は、タンパク質の疎水性アミノ酸残基と、クロマトグラフィー支持体に固定された固定化疎水性部分との相互作用に基づくものである。固定化疎水性部分は、広範なアルキル基およびアリール基から選択され得る。PEGは、HICクロマトグラフィーにおいて一般に用いられる固定化部分である。その部分の疎水性は、アルキルの長さが長くなるにつれ増大する。タンパク質は、塩の濃度が高い(1〜3MのNH(SO)カラムに吸着し、イオン強度を低下させることより溶出される。HICを実施する方法は、参照により全て本明細書に組み込まれる、Cameron,G.W.ら(Meth. Molec. Cell. Biol. 4:184-188(1993))、Raymond,J.ら(J. Chromatog. 212:199-209(1981))、Ochoa,J.I.(Biochimie 60:1-15(1978))、Roggenbuck, D.ら(J. Immunol. Meth. 167:207-218(1994))、Michaelson,S.ら(Pol. J. Food Nutr. Sci. 3/44:5-44(1994)、Rippel,G.ら(J. Chromatog. 668:301-312(1994))、Szepesy,L.ら(J. Chromatog. 668:337-344(1994))、Huddleston,J.G.ら(Biotechnol. Bioeng. 44:626-635(1994))、Watanabe,E.ら(Annl. NY Acad. Sci. 721:348-364(1994))により記載されている。
【0076】
広範な疎水性にわたる、様々な市販されているHICカラムの化学的性質により、クロマトグラフィー分離を可能にする適切なリガンドを見出すことが可能である。例えば、HICカラムは、利用可能なアルキルリガンドおよび芳香族リガンドの全範囲を網羅しているSynchromおよびBio−Rad(Hercules Calif.)から購入することができる。一実施形態において、本発明において用いるHICカラムはメチルHICである。
【0077】
サイズ排除クロマトグラフィー材料
いくつかの実施形態において、クロマトグラフィー材料はサイズ排除材料を含み、ここで、サイズ排除材料は樹脂または膜である。本明細書において意図するように、サイズ排除クロマトグラフィーは、主に分子のサイズに基づく分子の分離を伴う。サイズ排除に用いるマトリックスは、好ましくは、架橋した多糖の複合物、例えば、球状ビーズの形態をした、架橋したアガロースおよび/またはデキストランであり得る、不活性なゲル媒質である。架橋の程度により、膨潤ゲルビーズ内に存在する孔のサイズが決まる。一定のサイズより大きい分子はゲルビーズの中に入らず、したがって、最も速くクロマトグラフィー床を移動する。自らのサイズおよび形状に従って様々な程度でゲルビーズ内に入る、洗浄剤、タンパク質、DNAなどの、より小さい分子は、床の移動が遅い。したがって、分子は通常、分子のサイズが減少するほど溶出される。
【0078】
ウイルスのサイズ排除クロマトグラフィーに適した多孔質クロマトグラフィー樹脂は、デキストランおよび架橋したデキストランで作製することができる。最も一般に用いられるものは、Amersham Biosciencesから入手可能な「SEPHADEX」という商品名の樹脂である。用いるSEPHADEXまたは他のサイズ排除クロマトグラフィー樹脂のタイプは、精製しようとするVLPのタイプ、およびVLPを含む細胞培養溶解物の性質に応じて変化する。異なる材料で構成されている他のサイズ排除支持体もまた適切であり、例えば、Toyopearl 55F(Tosoh Bioscience, Montgomery Pa.から入手されるポリメタクリレート)およびBio−Gel P−30 Fine(BioRad Laboratories, Hercules, Calif.)である。
【0079】
サイズ排除クロマトグラフィーのために、部分的に精製したVLPの濃縮プールを、適切な緩衝液(例えばリン酸緩衝液)内で平衡させた適切な分取サイズ排除クロマトグラフィーカラムを含むカラム(Sephadex G200またはSuperpose 6樹脂を含むカラムなど)に添加する。
【0080】
さらに、本発明はイオン交換体を含むクロマトグラフィー材料を提供する。イオン交換体は陽イオン交換体であり得、ここで、陽イオン交換体は、硫酸塩、リン酸塩、およびカルボン酸塩で誘導体化されたクロマトグラフィー材料を含む。イオン交換体はまた、陰イオン交換体であり得、ここで、陰イオン交換体は、正に帯電したクロマトグラフィー材料を含む。正に帯電したクロマトグラフィー材料は、第四級アミン(Q)またはジエチルアミノエタン(DEAE)であり得る。
【0081】
陰イオン交換クロマトグラフィー材料
陰イオン交換クロマトグラフィーは、不活性なポリマー骨格に共有結合で架橋した、正に帯電した有機部分を用いる。ポリマー骨格は、樹脂の支持体として用いられる。代表的な有機部分は、第1級、第2級、第3級、および第四級のアミノ基、例えば、トリメチルアミノエチル(TMAE)、ジエチルアミノエチル(DEAE)、ジメチルアミノエチル(DMAE)、および、約5から約9のpH範囲内の正の形式電荷を既に有しているかまたは有するであろう、ポリエチレンイミン(PEI)などの他の基から選択される。
【0082】
一実施形態において、DMAE、TMAE、DEAE、または第四級アンモニウム基からなる、陰イオン交換樹脂が用いられる。Fractogel(Novagen)という商品名で売られている複数の陰イオン交換樹脂は、TMAE、DEAE、DMAEを正に帯電した部分として用いており、また、メタクリレートコポリマーのバックグラウンドを用いている。第四級アンモニウム樹脂およびQ SOURCE−30(Amersham Biosciences)という商品名で売られているタイプの第四級アンモニウム樹脂を用いる樹脂も用いることができる。Q SOURCE−30は、ジビニルベンゼンと架橋したポリスチレンで作製された支持体を有する。
【0083】
いくつかの可能な陰イオン交換媒質を、POROS 50 PI(商標)、Q SEPHAROSE(商標)、あらゆるDEAE、TMAE、第3級もしくは第四級アミン、またはPEIベースの樹脂などの、Nが帯電しているアミノ樹脂またはイミノ樹脂を含む、このようなカラムにおいて用い得ることが知られている。当業者には、別のカラムで精製する前または後に陰イオン交換カラムで組換えVLPを精製し得ることが理解されよう。
【0084】
陰イオン交換クロマトグラフィー樹脂は、放射流もしくは軸流の流動床カラムを用いる重力カラムクロマトグラフィー装置もしくは高圧液体クロマトグラフィー装置において、またはスラリー法、すなわちバッチ法において用いることができる。後者の方法において、樹脂は、デカンテーションもしくは遠心分離もしくは濾過、または方法の組合によって、試料から分離される。
【0085】
イオン交換クロマトグラフィーの原理は、帯電した分子がイオン交換体に可逆的に吸着し、それにより、分子が、イオン環境の変化によって結合または溶出され得るというものである。イオン交換体での分離は、通常2つの段階で行われる。まず、安定で強力な結合をもたらす条件を用いて、分離しようとする物質を交換体に結合させ、次に、精製しようとする物質の特性に応じて、異なるpHまたはイオン強度の緩衝液で物質を溶出する。
【0086】
より具体的には、また、本発明に適用されるように、イオン交換クロマトグラフィーの基本的な原理は、交換体へのVLPの親和性が、タンパク質の電気的特性と、溶媒内の他の帯電した物質の相対的親和性との両方に依存するというものである。したがって、結合したタンパク質は、pHの変化、したがってタンパク質の電荷の変化によって、または競合物質を添加することによって溶出され得るが、競合物質の塩は一例である。異なる物質は異なる電気的特性を有しているため、放出のための条件は、それぞれの結合した分子種で変化する。通常、良好な分離を得るために、選択される方法は、連続的なイオン強度勾配での溶出または段階的な溶出である。陰イオン交換体では、pHが低下しイオン強度が上昇するか、または、イオン強度のみが上昇する。陽イオン交換体では、pHおよびイオン強度の両方が上昇し得る。溶出手順の実際の選択は、通常、試行錯誤、および精製しようとするVLPの安定性の検討から決定される。
【0087】
当業者には、VLPの結合および溶出に用いる陰イオン交換体のタイプ、および緩衝液、および塩もまた、精製しようとするVLPのタイプに応じて変化することが理解されよう。
【0088】
陽イオン交換クロマトグラフィー材料
陽イオン交換クロマトグラフィーでは、負の官能基群を不溶性支持媒質に結合させる。したがって、陽イオン交換クロマトグラフィー媒質は、インキュベーション期間が、正に帯電した群が負に帯電した陽イオン交換体媒質に結合し、それと平衡することを可能にするために十分な時間である場合に、正の対イオンを結合する。中性の分子および陰イオンは、陽イオン交換媒質に結合しない。正味の正の電荷を有する種が静電気的に結合した後、陽イオン媒質を洗浄して、結合していない分子を媒質から除去する。次に、結合したイオンを、陽イオンの濃度を上昇させて媒質を洗浄するか、または媒質のpHを変化させることにより、溶出する。開示された発明は、当技術分野で周知の多くの支持媒質に結合した、あらゆるスルホ、ホスホルカルボキシ(phosphor carboxy)、またはカルボキシメチルベースの陽イオン交換樹脂などの、様々な陽イオン交換樹脂を用いることを意図するものである。
【0089】
本発明の一実施形態において、イオン交換クロマトグラフィーは、以下に論じる結合モードまたは流入モードにおいて用いることができる。
【0090】
アフィニティークロマトグラフィー材料
いくつかの実施形態において、クロマトグラフィー材料はアフィニティークロマトグラフィー材料を含む。アフィニティークロマトグラフィー材料は、抗体、染料樹脂、および金属を含み得る。乾燥樹脂は、シバクロムブルーまたはポリミキシンであり得る。
【0091】
アフィニティークロマトグラフィーは、標的化合物のリガンド特異的な精製を提供する技術である。そのため、この技術は高分子の構造的および機能的な特徴的特性を利用するものであり、これは、特定の条件下でこれらの特異的な特徴に基づいて分子を結合することによるものである。
【0092】
様々な異なるアフィニティーカラムマトリックスが、開示される発明で用いられることが意図される。例えば、VLPに対する抗体を、アフィニティーカラム媒質を作製するために用いることができ、この媒質をVLPの精製に用いることができる。加えて、アフィニティークロマトグラフィー材料は、乾燥樹脂および金属を含み得る。乾燥樹脂はシバクロムブルーまたはポリミキシンであり得る。
【0093】
開示される発明の一実施形態は、吸着群としてヘパリンを用いることを意図するものである。ヘパリンを含むアフィニティークロマトグラフィー媒質は、様々な販売元から市販されている。例えば、PerSeptive Biosystems,Inc.(Framingham, Mass.)は、ヘパリンベースの媒質(POROS 20HE(商標))を市販している。POROS 20HE(商標)はアフィニティークロマトグラフィー媒質として用いられ、VLP含有溶液をアフィニティー媒質に加え、その後、適切な塩濃度で溶出する。
【0094】
上記で論じたクロマトグラフィー材料は、個別の段階として、または連続的に、または相前後して実施することができる。本発明の多段階クロマトグラフィープロセスの順序は、所定の規格に見合うVLPを生成するように設計することができる。例えば、本発明の精製方法は、約70%、80%、90%、95%、または99%超の純度にVLPを精製するために用いることができる。
【0095】
一実施形態において、多段階クロマトグラフィープロセスの順序は、得られるVLP組成を制御するように設計される。別の実施形態において、多段階クロマトグラフィープロセスの順序は、混入物質レベルを、管理機関により医薬品グレードの薬物材料であると承認されると考えられるレベルまで低下させるように設計される。例えば、宿主細胞のDNA含有量の混入物質レベルは1%未満まで低下させることができる。宿主細胞のタンパク質含有量の混入物質レベルは5%未満まで低下させることができる。多段階クロマトグラフィープロセスの順序は、VLPがGMPの規定と一致し、ヒトにおける医薬品試験に適したものとなるように設計される。
【0096】
さらに、本発明はVLPを含む溶液をクロマトグラフィー材料と接触させる方法を提供する。この点において、VLPを含む培地または細胞溶解物をクロマトグラフィー材料と接触させることができ、ここで、培地または細胞溶解物は、クロマトグラフィー材料との接触の前に濾過されるかまたは沈殿によって精製される。溶液または細胞溶解物は、ショ糖勾配を用いずに遠心分離することができる。一実施形態において、VLPを含む清澄化した溶液をクロマトグラフィー材料と接触させる。あるいは、1つのクロマトグラフィー段階から得たVLP含有溶液を、別のクロマトグラフィー材料と接触させる。
【0097】
開示される発明の特定の実施形態は、溶解プロセスの際に放出される細胞培地からVLP粒子を精製するために、疎水性相互作用クロマトグラフィー媒質と共にヒドロキシアパタイト媒質を用いることを意図したものである。一実施形態において、細胞溶解物を、ヒドロキシアパタイトカラム(Bio-Rad,、CHT)に添加する。このようなカラムは、様々なサイズで市販されている。ヒドロキシアパタイトカラムで精製した後、VLP含有物質を疎水性相互作用(HIC)カラムに通す。次にカラムを洗浄し溶出する。VLPの精製試料は、例えば、銀染色したSDS−PAGEまたはサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)によって、純度について分析することができる。
【0098】
本発明の一実施形態において、薬理学的利用のためにVLP粒子を精製するために、ヒドロキシアパタイト媒質を、疎水性相互作用クロマトグラフィー媒質と共に用い、さらに、陰イオン交換クロマトグラフィー媒質と共に用いる。本発明者らによって、この組合が、商用的に拡張性のあるレベルでノロウイルスの遺伝子型Iのノーウォークウイルスを精製するためにとりわけ適していることが見出された。加えて、本発明者らにより、陽イオン交換クロマトグラフィーを行い、その後メチルHICを行うことが、ヒューストンウイルスの精製にとりわけ適していることが見出された。
【0099】
それぞれの段階においてクロマトグラフィー材料をVLP調製物と接触させる前に、pH、イオン強度、および温度などのパラメーターを調節する必要があり得、場合によっては、異なる種類の材料を添加する必要があり得る。これらのパラメーターの調節は、当業者に既知のものであり、VLP含有溶液またはクロマトグラフィー媒質において行うことができる。例えば、VLP含有溶液のpHは緩衝液で調節することができる。pHは、酸性値(例えば7未満のpH)または塩基性値(例えば7を超えるpH)に調節することができる。いくつかの実施形態において、溶液またはクロマトグラフィー材料のpHを中性値(例えば7に等しいpH)に調節することが望ましい可能性がある。pH値を調節するために用いる緩衝液は、リン酸塩、カルボン酸塩、硫酸塩、酢酸塩、クエン酸塩、トリス、またはビストリスを含み得、緩衝液の濃度は約10から1000mMの範囲であり得る。
【0100】
別の実施形態において、本発明の方法は、VLP含有溶液のイオン強度の調節を伴う。イオン強度は、ホフマイスター系列の陽イオンおよび陰イオンを含む塩を添加することによって調節することができる。塩は、リン酸ナトリウム、リン酸カルシウム、およびリン酸カリウムなどのリン酸塩であり得る。いくつかの実施形態において、リン酸塩はリン酸ナトリウムである。塩の濃度は約10から500mMの範囲であり得る。一実施形態において、リン酸ナトリウムの濃度は約100mMである。
【0101】
あるいは、クロマトグラフィー材料を溶液(例えば、pH、イオン強度などを調節するための、または洗浄剤を導入するための緩衝液)で洗浄することによってクロマトグラフィー材料に任意の段階を行い、VLP調製物の精製に、必要な特徴を付与することができる。例えば、クロマトグラフィー材料のpHは、緩衝液での平衡により、VLPを加える前に調節することができる。pHは、リン酸塩、カルボン酸塩、または硫酸塩を含む緩衝液で、7未満または7以上に調節することができる。
【0102】
別の実施形態において、クロマトグラフィー材料のイオン強度は、塩の添加によって調節することができる。塩は、硫酸アンモニウムなどの、ホフマイスター系列の陽イオンおよび陰イオンを含む。硫酸アンモニウムの濃度は、約1、2、または2.4モル濃度超であり得る。
【0103】
別の実施形態において、クロマトグラフィー材料のイオン強度は、リン酸塩の添加によって調節することができる。いくつかの実施形態において、リン酸塩はリン酸ナトリウムである。リン酸ナトリウムの濃度は約10から500mMの範囲であり得る。一実施形態において、リン酸ナトリウムの濃度は約100mMである。さらに別の実施形態において、VLP含有溶液の有機溶媒の濃度は、逆相プロセスの間に調節することができる。
【0104】
VLP含有溶液またはクロマトグラフィー材料のパラメーターの調節により、VLPおよび混入物質の保持または通過が生じ得る。一実施形態において、VLP含有溶液またはクロマトグラフィー材料は、VLPが保持され、混入物質がクロマトグラフィー材料を通過するように選択し得る。別の実施形態において、VLP含有溶液またはクロマトグラフィー材料は、混入物質が保持され、VLPがクロマトグラフィー材料を通過するように選択し得る。このようなフィーチャは、「流入モード」または「結合モード」またはそれらの混合のクロマトグラフィー段階を実施するために用いることができる。「流入モード」という用語は、調製物内に含まれる少なくとも1つのVLPがクロマトグラフィー樹脂またはクロマトグラフィー支持体に流入し、一方で、少なくとも1つの潜在的な混入物質または不純物がクロマトグラフィー樹脂またはクロマトグラフィー支持体に結合するようになっている、VLP調製物分離技術を言う。流入モードは、例えば、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィーおよびイオン交換クロマトグラフィーにおいて用いることができる。
【0105】
「結合モード」は、調製物内に含まれる少なくとも1つのVLPがクロマトグラフィー樹脂またはクロマトグラフィー支持体に結合し、一方で、少なくとも1つの混入物質または不純物が流入する、VLP調製物分離技術を言う。結合モードは、例えば、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィーおよびイオン交換クロマトグラフィーにおいて用いることができる。
【0106】
特定の実施形態において、本発明は、結合モード、流入モード、またはそれらの組合でヒドロキシアパタイトクロマトグラフィーまたは疎水性相互作用クロマトグラフィーを用いて、VLP調製物から混入物質を除去するための方法を提供する。このような実施態様は、VLP調製物の大規模な精製への適用を有する。
【0107】
結合モードのヒドロキシアパタイトクロマトグラフィーにおいて、本方法は、VLPを結合するために、中性のpHおよび低いイオン強度でリン酸塩で帯電したヒドロキシアパタイト支持体を用いる。次に、リン酸緩衝液でカラムを洗浄して、緩く結合した不純物を除去する。次に、100から200mMのリン酸塩を含む高いイオン強度のリン酸緩衝液を用いて、VLPを選択的に溶出する。最後に、場合により、水酸化ナトリウムおよびリン酸カリウムの溶液を用いて樹脂を再生させる。
【0108】
流入モードのヒドロキシアパタイトクロマトグラフィーにおいて、VLP調製物を適切なpHでローディングバッファーに緩衝液交換する。次に、VLP調製物がヒドロキシアパタイトカラムに流入し、不純物がカラムに結合するようにする。カラムは、場合によりその後洗浄して清浄し、さらなるVLPがカラムに流入し精製されるようにする。最後に、カラムを場合により剥離し、次に、水酸化ナトリウムおよびリン酸カリウムの溶液などの緩衝液を用いて再生させることができる。
【0109】
結合モード/流入モードを組み合わせたヒドロキシアパタイトクロマトグラフィーにおいて、ヒドロキシアパタイト媒質を平衡させ、溶液で洗浄し、それにより、VLP調製物の精製に、必要な特徴を付与する。
【0110】
平衡およびクロマトグラフィーの前に、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー媒質を、例えば塩溶液および/または緩衝溶液などの選択された溶液内で前平衡させることができる。前平衡は、クロマトグラフィー媒質を再生および/または保存するために用いる溶液を移動させる機能を有する。当業者には、前平衡溶液の組成が保存溶液およびその後のクロマトグラフィーに用いる溶液の組成に依存することが理解されよう。したがって、適切な前平衡溶液は、クロマトグラフィーの実施に用いられる同一の緩衝液または塩を、場合によってはクロマトグラフィーの実施よりも高い濃度で含み得る。
【0111】
試料をカラムに加える前に、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー媒質を、VLPのクロマトグラフに用いる緩衝液または塩内で平衡し得る。クロマトグラフィー(および精製するタンパク質の添加)は、ナトリウム、カリウム、アンモニウム、マグネシウム、カルシウム、塩化物、フッ化物、酢酸塩、リン酸塩、および/もしくはクエン酸塩、ならびに/またはトリス緩衝液を含む、様々な緩衝液または塩内において行うことができる。このような緩衝液または塩は、約2から約10の範囲のpHを有し得る。いくつかの実施形態において、平衡は、トリスまたはリン酸ナトリウム緩衝液を含む溶液において生じ得る。場合により、リン酸ナトリウム緩衝液は約0.5ミリモル濃度から約50ミリモル濃度の濃度であり、より好ましくは、約15ミリモル濃度から35ミリモル濃度の濃度である。好ましくは、平衡は少なくとも約5.5のpHで生じる。平衡は、約6.0から約8.6のpH、好ましくは約6.5から7.5のpHで生じ得る。最も好ましくは、溶液は、約25ミリモル濃度の濃度および約6.8のpHのリン酸ナトリウム緩衝液を含む。
【0112】
結合モード、流入モード、またはその組合における、ヒドロキシアパタイト樹脂へのVLP調製物の接触は、充填床カラム、固相マトリックスを含む流動/膨張床カラム、および/または、固相マトリックスが一定時間にわたって溶液と混合される単一バッチ作業において実施することができる。
【0113】
ヒドロキシアパタイト樹脂をVLP調製物と接触させた後、場合により洗浄手順が行われる。しかし、いくつかのケースにおいて、洗浄手順を省略して、プロセスの段階および洗浄溶液を節約することができる。用いる洗浄緩衝液は、ヒドロキシアパタイト樹脂の性質、用いるヒドロキシアパタイトクロマトグラフィーのモードに応じるものであり、したがって、当業者が決定することができる。流入モードおよび結合モード/流入モードの組合において、カラムの最適な洗浄の後に得られる精製VLPの流入を、他の精製VLP画分と共にプールすることができる。
【0114】
結合モードにおいて、VLPは最適な洗浄手順の後にカラムから溶出され得る。カラムからのVLPの溶出のために、本発明は高いイオン強度のリン酸緩衝液を用いる。例えば、溶出緩衝液は1から300mMのリン酸ナトリウムを含み得、別の実施形態においては、溶出緩衝液は50から250mMのリン酸ナトリウムを含み得、別の実施形態においては、溶出緩衝液は100から200mMのリン酸ナトリウムを含み得、別の実施形態においては、150mMのリン酸ナトリウムを含み得る。溶出緩衝液のpHは6.4から7.6の範囲であり得る。一実施形態において、pHは6.5から7.3であり得、別の実施形態においては、pHは7.2であり得、別の実施形態においてはpHは6.8であり得る。溶出緩衝液は、カラムからのVLPの溶出のために、連続的または段階的な勾配で変化させることができる。緩衝液の構成要素は、当業者の知識に従って調節することができる。
【0115】
結合モード、流入モードの両方、およびその組合において、固相マトリックスは場合により、VLPの溶出または流入の後に、清掃、すなわち、剥離および再生され得る。この手順は典型的には、固相の表面上での不純物の蓄積を最小化するため、および/またはマトリックスを滅菌して微生物による生成物の汚染を避けるために定期的に行われる。
【0116】
特定の実施形態において、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー段階をまず行い、疎水性相互作用クロマトグラフィー段階を2番目に行い、陰イオン交換クロマトグラフィーまたはサイズ排除クロマトグラフィー段階を3番目に行う。
【0117】
VLPは通常、ヒドロキシアパタイト段階から、結合画分、流入画分、またはその組合に回収される。実施例1に記載するように、次に、このような画分の塩濃度およびpHを、疎水性相互作用カラムでの精製のため、またはあらゆる他の適切なアフィニティーカラムでの精製のために調節し得る。この方法に従って、プールしたVLPに硫酸アンモニウムを8%w/vの最終濃度まで添加し、全ての硫酸アンモニウムが溶解するまで試料を攪拌する。250mLのHIC樹脂を含むカラムを、5CVの100mMのリン酸ナトリウム、2.4Mの硫酸アンモニウム(pH6.8)、およびVLP懸濁液を添加して平衡する。安定なベースラインが見られるまでカラムを約3CVの緩衝液Cで洗浄し、次に、10CVの70%の100mMのリン酸塩(pH6.8)で洗浄する。VLPは、150mMのリン酸塩でカラムから溶出することができる。
【0118】
クロマトグラフィー媒質の順序は、VLP粒子の最終的な精製には重要ではないと考えられることに注意されたい。また、試料をさらに精製するために、サイズ排除クロマトグラフィーを場合により用いることができる。このような組合を用いて得られる収量は、個別のカラム精製段階を用いて得られる収量に基づいて予測することができる。
【0119】
HICカラムから溶出されたVLPは、所望により追加のサイズ排除精製段階に付すことができる。本発明の一実施形態において、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィーとHICクロマトグラフィーとの組合により精製された溶出物を、DEAE陰イオン交換クロマトグラフィーによってさらに精製した。
【0120】
本発明のあらゆるまたは全てのクロマトグラフィー段階は、あらゆる機械的手段によって実施することができる。クロマトグラフィーはカラム内で実施し得る。カラムは、圧力のある状態またはない状態で、頂部から底部または底部から頂部へ流すことができる。カラムにおける流体の流れの方向は、クロマトグラフィープロセスの間に逆転し得る。クロマトグラフィーはまた、重力、遠心分離、または濾過を含むあらゆる適切な手段によって、試料の添加、洗浄、および溶出に用いる液体から固体支持体が離れている、バッチプロセスを用いて実施することができる。クロマトグラフィーはまた、試料を、試料内のいくつかの分子を他のものよりも強く吸着または保持するフィルターと接触させることによって、実施することができる。
【0121】
最後に、陰イオン交換カラムから得た溶出液を、ダイアフィルターまたは接線方向のフローフィルターを通して濾過し、濾液を濃縮することができる。
【0122】
追加の任意の段階
ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィーおよび疎水性相互作用クロマトグラフィーを、VLPの分離のために共に用いることが可能であることが発見されているが、上述したように、本発明の精製方法は、他のタンパク質精製技術と組み合わせて用いることができる。本発明の一実施形態において、ヒドロキシアパタイト段階の前の1つまたは複数の段階が、混入物質または不純物の添加負荷を減少させるために望ましい場合がある。本発明の別の実施形態において、疎水性相互作用段階の後の1つまたは複数の精製段階が、さらなる混入物質または不純物を除去するために望ましい場合がある。
【0123】
記載されるヒドロキシアパタイト精製手順は、場合により、限定はしないが、プロテインAクロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、固定金属アフィニティークロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー、ダイアフィルトレーション、限外濾過、ウイルス除去濾過、および/またはイオン交換クロマトグラフィーを含む、他の精製段階と組み合わせることができる。
【0124】
さらなる精製方法は、濾過、沈殿、蒸発、蒸留、乾燥、ガス吸収、溶媒抽出、加圧抽出、吸着、結晶化、および遠心分離を含み得る。他の精製方法は、バッチクロマトグラフィーまたはカラムクロマトグラフィーを用いる、本発明に従ったさらなるクロマトグラフィーを含み得る。加えて、さらなる精製は、前記のあらゆるものの組合、例えば異なる方法のクロマトグラフィーの組合、クロマトグラフィーと濾過との組合、クロマトグラフィーと沈殿との組合、または膜処理と乾燥との組合を含み得る。
【0125】
VLPの溶出は、光学密度、透過型電子顕微鏡法、または光散乱を含む、当技術分野で既知の技術によってモニターすることができる。さらに、精製前後のVLPの生物学的特性は、良く確立されたアッセイを用いて決定することができる。より具体的には、VLPの純度および同一性は、還元性および非還元性のドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)、サイズ排除クロマトグラフィー、HPLC(高速液体クロマトグラフィー)、キャピラリー電気泳動、MALDI(マトリックス支援レーザー脱離イオン化)質量分析、ELISA(酵素結合免疫吸着アッセイ)、または円二色性を含む、様々な分析法を用いて測定することができる。
【0126】
以下の実施例は、本発明の好ましい実施形態の実証に含まれる。当業者は、本開示に照らして、特定の実施形態において多くの変更がなされ得ることを理解し、本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく同様の結果を得るであろう。
【実施例1】
【0127】
ノロウイルス遺伝子群Iウイルスの精製
方法の概要
精製プロセスは3つのクロマトグラフィー段階からなる。段階は、高度に精製されたVLPを生成する、拡張性のあるプロセスをもたらす、直交的メカニズムを用いる。精製の最初の段階は、Bio−Radヒドロキシアパタイト(CHT)樹脂を用いる捕捉段階である。CHT段階ではノーウォークのVLPを濃縮し、媒質の構成要素を除去し、生成物をリン酸緩衝液に交換する。図1に示すように、硫酸アンモニウムの添加の後、メチル疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)により精製の大部分が得られる。3番目のクロマトグラフィー段階は、流入モードで実施されるDEAEイオン交換クロマトグラフィーである。用いた条件の下では、NowalkのVLPはカラムに結合せず、残った混入物質(エンドトキシン、核酸、およびタンパク質)が保持される。精製プロセスにおける最後の段階は、注入のためにリン酸緩衝液を水で置き換える限外濾過である。バルク薬物材料(NorwalkのVLP)を0.5から1.5mg/mLの懸濁液として2〜8℃で保存する。
【0128】
クロマトグラフィー精製したVLPに対する複数の試験によって、クロマトグラフィー精製したVLPと超遠心分離精製したVLPとの間で何らかの差異があるかどうかを決定することができる。これらの方法は、透過型電子顕微鏡法、ならびに、円二色性スペクトル、動的光散乱、サイズ排除クロマトグラフィー、および高速液体クロマトグラフィーによる、融点を含む物理的/化学的特徴付けを含む。クロマトグラフィー精製の手順を以下に概説する。精製プロセスは、あらゆる規模に標準化することができる。列挙する線形的な流速は、カラム直径に応じたものである。
【0129】
VLPの精製
15Lの発酵により10Lの調整媒質が生じる。以下に記載する精製プロセスは、5Lを扱うために設計されたものである。10L全体を精製するためには、5Lのそれぞれを用いる2回の作業を2週間の期間にわたって実施する。
【0130】
HAカラムクロマトグラフィー:5リットルの培養上清を、500mLのヒドロキシアパタイト(Bio-Rad、CHT)樹脂を充填したカラムに添加し、10カラム容量の5mMのリン酸ナトリウム緩衝液(緩衝液A)を80mL/分の流速で通して平衡する。培養上清をカラムに添加し、2カラム容量(CV)の緩衝液Aで洗浄する。150mMのリン酸塩(緩衝液B)を用いてノーウォークのVLPをCHTカラムから溶出する。ノーウォークのVLPは、緩衝液Bにおける単一のピークオフとして溶出する。画分(それぞれ1CV)をクロマトグラフィーの実施の間に回収し、SDS−PAGEによって分析する。VLPを含む画分を精製における次の段階のためにプールする。ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー画分のクマシー染色を伴ったSDS−PAGEを図2に示す。ノーウォークのVLPの大部分が、100%の緩衝液Bで4つの溶出カラム容量画分において溶出している。これらのプールされた画分を、疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)精製段階2に用いた。
【0131】
HICカラムクロマトグラフィー:CHTクロマトグラフィー段階から得た、プールしたVLP画分に、固体の硫酸アンモニウムを8%w/vの最終濃度まで添加し、試料を、全ての硫酸アンモニウムが溶解するまで攪拌する。硫酸アンモニウムを添加すると、BioRadメチルHIC樹脂へのタンパク質の吸着が容易になる。250mLのHIC樹脂を含むカラムを、5CVの100mMのリン酸ナトリウム、2.4Mの硫酸アンモニウム(pH6.8)(緩衝液C)、およびVLP懸濁液を添加して平衡する。安定なベースラインが見られるまでカラムを約3CVの緩衝液Cで洗浄し、次に、10CVの70%の100mMのリン酸塩(pH6.8)(緩衝液D)で洗浄する。HICカラムから得たVLPは、3CVから4CVの100%緩衝液B内に溶出する。溶出の間に250mL(1CV)の画分を回収し、SDS−PAGEによって分析する。VLPを含む画分をプールし、DEAEクロマトグラフィー段階において用いる。HICカラム画分のSDS−PAGE/クマシー染色を図3に示す。
【0132】
DEAEカラムクロマトグラフィー:メチルHICカラムから部分的に精製されたVLPを含む、プールした画分を、270mLのDEAE Sephadex樹脂を充填したカラムに直接添加する。リン酸緩衝液(pH6.5)を40mL/分の流速で送り込み、空いている空間にVLPが溶出するようにする(流入)。混入タンパク質は樹脂と相互作用し、クロマトグラフィーの後半に溶出する。画分(それぞれ1/4CV)を、サンプルの添加の際に、UV検出器のシグナルがベースラインを超えたらすぐに回収する。画分をSDS−PAGEにより分析し、VLPを含む画分をダイアフィルトレーションによる緩衝液交換のためにプールする。DEAEカラム画分のSDS−PAGE/クマシー染色を図4に示す。
【0133】
ダイアフィルトレーション:最後の精製段階において、DEAEカラムから溶出したノーウォークのVLPをダイアフィルトレートし、濃縮する。この手順は、浄化した攪拌細胞ダイアフィルトレーション装置内にVLPを置くことを伴う。液体の容量を50%減らし、注入する水を増やして元の容量まで戻す。このプロセスを全部で10回反復した。未透過物は、ダイアフィルトレートしたノーウォークのVLPを含む。次に、この物質を、最後の無菌濾過プロセスに付す。アリコートをQC試験および放出のために採取する。ダイアフィルトレーション画分のSDS−PAGE/クマシー染色を図5に示す。
【0134】
VLP含有量:精製にわたって、クマシー染色したSDS−PAGEゲルを、VLPを含む画分の同定に用いる。精製の間、同一のゲル上を移動するVLP参照物質と同様の分子量でバンドが移動することが確認された場合は、画分はVLPを含むと仮定される。VLPのバンドがVLP標準の強度と等しいかまたはそれより大きい強度を有している画分のみをプールする。
【0135】
タンパク質濃度:プロセスの過程のタンパク質の濃度(限外濾過段階)を、タンパク質とのビシンコニン酸の反応に基づく発色アッセイによって決定する。試験試薬はPierceから入手する。
【0136】
上述した方法によりクロマトグラフィー精製されたノーウォークウイルスVLPの特徴を表1に示す。クロマトグラフィー精製したノーウォークウイルスVLPをまた、透過型電子顕微鏡法(TEM)およびCDスペクトルを用いて、超遠心分離法によって精製したVLPと比較した。結果を図6〜13に示す。
【0137】
【表1】

【実施例2】
【0138】
ノロウイルス遺伝子群IIウイルスの精製
方法の概要
ヒューストンの精製プロセスもまた、高度に精製されたVLPを生成する、拡張性のあるプロセスをもたらす、直行のメカニズムを用いる。HA、HIC、および陰イオン交換を用いるノーウォークの精製プロセスとは対照的に、本発明者らは、2つのカラムプロセスが遺伝子群II.4ヒューストンウイルスVLPに良好に作用することを見出す。
【0139】
ヒューストンVLPを精製するために、VLPを含む調整媒質を濾過または遠心分離によって清澄化し、20mMのクエン酸リン酸緩衝液(pH4.0)で平衡した陽イオン交換SP FF樹脂に添加する。20%の溶出緩衝液(20mMのクエン酸リン酸、1Mの塩化ナトリウム)での洗浄の後、VLPを段階的な勾配および100%溶出緩衝液を用いて溶出する。
【0140】
ヒューストンVLPを含む陽イオン交換カラムから得た画分をプールし、15%(w/v)硫酸アンモニウムを添加してイオン強度を調節する。次に、このプールした物質を、メチルHIC樹脂、および2.4Mの硫酸アンモニウムを含むpH6.8のリン酸緩衝液(pH6.8)(緩衝液A)を含むカラムに添加する。添加の後、3段階の勾配溶出を用いて、HIC樹脂からVLPを溶出する。最初の段階において、40%の溶出緩衝液(100mMのリン酸ナトリウム)を用いて汚染物資を溶出する。次に、VLPが溶出する70%溶出緩衝液まで勾配を段階的に上げ、最終的に勾配を100%溶出緩衝液に調節して、完全な溶出を確実にし、あらゆる残りの混入物質を溶出させる。次に、70%溶出緩衝液におけるメチルHICクロマトグラフィーから得たVLPを含む溶出ピークを、20mMのクエン酸リン酸緩衝液および150mMの塩化ナトリウム内に、pH6.0まで透析する。
【0141】
小規模な生成のランに基づき、このプロセスにより、200および500mLのスピナーフラスコから5から15mgの精製VLPが得られ、SDS−PAGEにより90%超のVLP純度が得られる。
【0142】
表2は、遺伝子群IIのノロウイルス、ヒューストンウイルスについてのこの精製プロセスをまとめたものである。図14および15は、陽イオン交換段階で得られた結果を示し、一方、図16および17は、メチルHICクロマトグラフィー段階で得られた結果を示す。図18および19は、精製ヒューストンウイルスタンパク質のSDS−PAGEおよびHPLC−SECを示す。
【0143】
【表2】

【0144】
表2に概説したプロセスに加え、本発明者らは、脱イオン水の添加を介して調節媒質のイオン強度を低下させることにより、ヒューストンVLPを選択的に沈殿させることができた。沈殿プロセスにより容積が迅速に減少するため、このことにより顕著な利点が得られる。沈殿すれば、VLPは遠心分離または濾過を用いて分離することができる。次に、沈殿したVLPを適切な緩衝液内に再懸濁し、上記のクロマトグラフィー法を用いてさらに精製する。本発明者らは、これらのクロマトグラフィー技術の少なくとも2つ、そしておそらく3つ全てを用いる、拡張性のある精製方法の開発を構想する。この精製の開発の目的は、超遠心分離を介して通常生成されるVLPと質が等しく、かつ、ヒューストンVLPの商用的製造のために大規模で生成することができる機能的なVLPを提供するための精製スキームを得ることである。
【0145】
上記に示した予備データは、クロマトグラフィー法がヒューストンウイルスVLPの精製に有用であることを示す。VLPは、いくつかの樹脂に結合し、また適切な緩衝液で溶出され得ることが示された。開発における次なる段階は、より純度の高い生成物を生成するためにこれらのクロマトグラフィーを用いる組合および順序を決定することである。また、VLPの最大収量を得るためにこれらのクロマトグラフィー技術に必要な修飾を決定するために、追加の実験を行う。最終決定された方法は次に、ヒューストンウイルスVLPの大規模な生成および精製において用いられる。
【実施例3】
【0146】
硫酸アンモニウム沈殿によるG.IIのVLPの精製
部分的に精製されたヒューストンVLP調製物を、1mLのアリコートに分けた。硫酸アンモニウムをそれぞれのアリコートに添加して、10%から35%(w/v)の最終濃度とした。試料を回転器内に置き、4℃で一晩、回転させて混合した。沈殿の兆候について、試料を視覚的に検査した。20μLのアリコートを取り出し、「Amm懸濁液」とラベル表示した。硫酸アンモニウム緩衝液を14000×gで10分間、室温で遠心分離した。得られた上清を取り出し、「Amm Supt」とラベル表示した。沈殿したペレットをクエン酸緩衝液(pH7.0)内に溶解し、回転器内に置き、4℃で2時間、回転させて混合した。試料を14000×gで10分間、遠心分離した。得られた上清を取り出し、「クエン酸 supt」とラベル表示した。図20は、精製プロセスにわたって異なる時点で採取した試料の、銀染色したSDS−PAGEゲルを示す。「クエン酸 supt」レーンの2つのバンドは、精製ヒューストンVLPを反映している。
【0147】
図21に示すように、硫酸アンモニウム沈殿段階は、VLPの純度を顕著に向上させた。VLPタンパク質に対する宿主細胞タンパク質(HCP)のパーセンテージは、硫酸アンモニウム沈殿の結果では約半分減少した。
【実施例4】
【0148】
沈殿とその後に行う第四級アミン(Q)クロマトグラフィーによるノロウイルス遺伝子群IIのVLPの精製
ヒューストンVLPの精製プロセス
SF9細胞の1リットルの懸濁培養物を、1.7×10個細胞/mLの密度まで増殖させ、ヒューストンVP1配列をコードする組換えバキュロウイルスストックで0.5pfu/細胞のMOI(感染多重度)で感染させた。感染は、20%未満の生存率となることを可能にするものであった(図22、レーン2)。ヒューストンVLPを以下の方法で採取し、精製し、遠心分離した。VLPを沈殿させるために、培養物のpHを、HClを用いて5.5まで下げた(レーン3)。次に、pH5.5の培養物を1000×gで5分間、室温で遠心分離した。上清(レーン4)をデカンテーションし、廃棄した。次に、残りのペレットを、20mMのトリス、50mMのNaCl、10mMのEDTA内に、pH8で再懸濁した(レーン5)。次に、再懸濁したペレットを、1000×gで5分間、遠心分離した。上清をデカンテーションし、「ヒューストンVLP抽出物」とラベル表示した(レーン6)。沈殿プロセスにより、レーン2の開始物質で見られる複数のバンドと比較して、レーン6の単一のバンドにより示されるように、純度が顕著に向上した(図22)。
【0149】
採取の後、ヒューストンVLPの抽出物を水で1:2に希釈し、Q100膜上に添加した。移動相緩衝液は20mMのトリス(pH6.5)であり、溶出緩衝液は20mMのトリス、1MのNaCl(pH6.5)であった。添加の後、カラムを20%溶出緩衝液で洗浄し(図22、レーン7)、その後、50%溶出緩衝液で洗浄した(レーン8)。図22に示す銀染色したSDS−PAGEゲルは、ヒューストンVLPがこのキャプチャークロマトグラフィー段階によって濃縮されていることを示す(レーン8とレーン2とを比較されたい)。
【0150】
ローレンスVLPの精製プロセス
ヒューストンVLPについて上記に概説したVLPの採取プロセスを、GII.4ローレンスウイルスから得たVP1配列をコードする組換えバキュロウイルスストックに感染したSF9培養物に適用し、ローレンスVLP抽出物を得た(図23、レーン11)。再懸濁したペレットを水で1:2に希釈し、Q100膜上に添加した。移動相緩衝液は20mMのトリス(pH6.8)であり、溶出緩衝液は20mMのトリス、1MのNaCl(pH6.8)であった。図23のレーン2から10は、Q100膜からの段階的な勾配溶出にわたって回収された画分を示す。VLPは40%溶出緩衝液画分内に溶出した(レーン5〜8)。ヒューストンで見られたように、ローレンスVLPは、pH調節およびキャプチャークロマトグラフィーを用いて精製および濃縮し得る。
【実施例5】
【0151】
ノロウイルスGIおよびGIIのVLP構造におけるpH依存性の電荷
VLP精製手順をさらに最適化するために、ノロウイルスGIおよびGII株から得られたVLPの安定性を、約pH2から約pH10のpH範囲に暴露した。
【0152】
インタクトなVLPは約10MDaの質量である。特定のpH条件に暴露し、サイズ排除高速液体クロマトグラフィー(SE-HPLC)によって分析したインタクトなVLPは、球形タンパク質のサイズ標準に関して、約220kDaの質量を有する安定な中間断片への変化を示す。完全な変性を生じさせる条件により、約60kDaの単量体への中間断片のさらなる分解が生じる。ノロウイルスVLPがインタクトのままであり続けるpH範囲をさらに調査するために、ノロウイルスGIのVLPまたはノロウイルスGIIのVLPを含む溶液のpHを、約2から約10まで上げながら調節し、その後、SE−HPLCで分析した。さらに、SE−HPLCカラム緩衝液を分析のために同一のpHに調節した。
【0153】
pH2(図24A)からpH8(図24B)の範囲のpH条件に暴露したノロウイルスGIのVLPは、約17分に、インタクトな単分散VLPを意味する単一の吸光ピークを示す。pH8.5に暴露されたVLP(図24C)は、約33分に、より安定度の低い中間VLP断片を意味する吸光ピークを示す。これらの結果は、ノロウイルスGIのVLPがpH2から8ではインタクトなままであり、pH8から8.5では安定な中間断片に分解することを示す。
【0154】
pH2(図25A)からpH9.5(図25B)の範囲のpH条件に暴露したノロウイルスGIIのVLPは、約17分に単一の吸光ピークを示し、一方、pH10(図25C)に暴露したVLPは、約34分に単一の吸光ピークを示す。したがって、これらの結果は、ノロウイルスGIIのVLPがpH2から9.5の範囲にわたってインタクトなままであり、pH9.5から10では安定な中間断片に分解することを示す。
【0155】
これらの実験の所見により、当業者は、VLPを含む溶液のpHを調節することにより、インタクトなVLPまたはその断片が生じる条件を選択することが可能となる。このような条件により、精製プロセスが容易となり得る。
【実施例6】
【0156】
ポリエチレングリコール(PEG)を用いたVLPタンパク質の沈殿
塩の添加によるVLPの沈殿で見られた方法(実施例3)と同様の方法で、VLPの選択的な沈殿および可溶化をもたらすためにポリエチレングリコールなどの他の添加剤を用いることによって、同様の結果が生じ得る。
【0157】
ポリエチレングリコール(PEG)の質量および濃度の最適な濃縮を決定するために、200から20000の範囲の分子量を有するPEGを、VLPを含む溶液に、5%ずつの増大で0から50%PEGの最終PEG濃度となる量で添加する。各5%PEGの添加の後、VLP含有溶液を10000gで遠心分離し、上清の試料を得る。上清の試料をSDS−PAGE、ELISA、および/またはHPLC分析に付し、VLPの純度および総濃度を評価する。
【0158】
VLPは最初、上清において見られる。PEG濃度が増大すると、VLPおよび混入タンパク質は様々な程度に沈殿する。ペレットを観察する場合、上清をデカンテーションすることでペレットを回収する。ペレットを緩衝液内に再懸濁し、VLPの純度をSDS−PAGEで分析する。再懸濁したペレット内の総VLP含有量をELISAまたはHPLCにより評価する。PEGの質量および濃度に対する上清およびペレットの相対的純度の表またはグラフを準備する。最適なPEG質量およびPEG濃度の組合を、許容可能な収容または生成物の回収を伴った最高純度が得られる条件に基づいて選択する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多段階クロマトグラフィープロセスを用いてカリシウイルスのウイルス様粒子(VLP)を精製する方法。
【請求項2】
クロマトグラフィープロセスが2つ以上のクロマトグラフィー材料を用いる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
クロマトグラフィープロセスが直交的である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
直交的プロセスが、異なる物理的または化学的特性のクロマトグラフィー材料および移動相条件を用いる、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
クロマトグラフィー材料および移動相条件が、VLPを保持するように選択される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
クロマトグラフィー材料および移動相条件が、VLPを通過させるように選択される、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
クロマトグラフィー材料および移動相条件が、VLP調製物内の混入物質を保持するように選択される、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
クロマトグラフィー材料および移動相条件が、VLP調製物内の混入物質を通過させるように選択される、請求項4に記載の方法。
【請求項9】
多段階クロマトグラフィープロセスの順序が、所定の規格に見合うVLPを生成するように設計される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
VLPが約70%超の純度に精製される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
VLPが約90%超に精製される、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
VLPが約95%超の純度に精製される、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
多段階クロマトグラフィープロセスの順序が、得られるVLP組成を制御するように設計される、請求項9に記載の方法。
【請求項14】
多段階クロマトグラフィープロセスの順序が、混入物質レベルを、管理機関により医薬品グレードの薬物材料であると承認されると考えられるレベルまで低下させるように設計される、請求項9に記載の方法。
【請求項15】
宿主細胞DNA含有量の混入物質レベルが1%未満である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
宿主細胞タンパク質含有量の混入物質レベルが5%未満である、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
多段階クロマトグラフィープロセスの順序が、VLPをGMPの規定と一致し、ヒトにおける医薬品試験に適したものとなるように設計される、請求項9に記載の方法。
【請求項18】
VLPを含む溶液をクロマトグラフィー材料と接触させる、請求項2に記載の方法。
【請求項19】
ショ糖勾配を用いずに溶液が遠心分離される、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
VLPを含む細胞溶解物をクロマトグラフィー材料と接触させる、請求項2に記載の方法。
【請求項21】
細胞溶解物が濾過される、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
細胞溶解物が沈殿によってさらに精製される、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
ショ糖勾配を用いずに細胞溶解物が遠心分離される、請求項20に記載の方法。
【請求項24】
VLPを含む清澄化した溶液をクロマトグラフィー材料と接触させる、請求項2に記載の方法。
【請求項25】
1つのクロマトグラフィー段階から得たVLP含有溶液を、別のクロマトグラフィー材料と接触させる、請求項2に記載の方法。
【請求項26】
VLP含有溶液が、組換え法を用いて生成される、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
VLPおよびVLPタンパク質が細菌細胞において生成される、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
VLPおよびVLPタンパク質が昆虫細胞において生成される、請求項26に記載の方法。
【請求項29】
VLPおよびVLPタンパク質が酵母細胞において生成される、請求項26に記載の方法。
【請求項30】
VLPおよびVLPタンパク質が哺乳動物細胞において生成される、請求項26に記載の方法。
【請求項31】
クロマトグラフィー材料が、溶液内のクロマトグラフィー樹脂、カラム内のクロマトグラフィー樹脂、または膜内もしくは表面上に組み込まれたクロマトグラフィー官能基を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項32】
クロマトグラフィー材料が、タンパク質または核酸の精製のために設計される、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
クロマトグラフィー材料が、イオン交換、アフィニティー、疎水性相互作用、混合モード、逆相、サイズ排除、および吸着の材料からなる群から選択される、請求項31に記載の方法。
【請求項34】
クロマトグラフィー材料が吸着材料を含む、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
吸着材料が、樹脂、膜、または表面である、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
クロマトグラフィー材料がリン酸カルシウムベースの材料を含む、請求項33に記載の方法。
【請求項37】
クロマトグラフィー材料がヒドロキシアパタイトである、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
クロマトグラフィー材料がイオン交換体を含む、請求項33に記載の方法。
【請求項39】
イオン交換体が陽イオン交換体である、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
陽イオン交換体が、硫酸塩、リン酸塩、およびカルボン酸塩で誘導体化されたクロマトグラフィー材料を含む、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
イオン交換体が陰イオン交換体である、請求項38に記載の方法。
【請求項42】
イオン交換体が、正に帯電したクロマトグラフィー材料を含む、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
正に帯電したクロマトグラフィー材料が、第四級アミン(Q)またはジエチルアミノエタン(DEAE)である、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
クロマトグラフィー材料が疎水性相互作用材料を含む、請求項33に記載の方法。
【請求項45】
疎水性相互作用材料が、メチル、エチル、t−ブチル、およびフェニルからなる群から選択される1つまたは複数の官能基を含む、請求項44に記載の方法。
【請求項46】
疎水性相互作用クロマトグラフィー材料がメチルHIC樹脂である、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
逆相材料が、C2、C4、C8、またはC18の官能基を含む、請求項33に記載の方法。
【請求項48】
クロマトグラフィー材料がアフィニティークロマトグラフィー材料を含む、請求項33に記載の方法。
【請求項49】
アフィニティークロマトグラフィー材料が、抗体、乾燥樹脂、および金属を含む、請求項48に記載の方法。
【請求項50】
乾燥樹脂が、シバクロムブルーまたはポリミキシンである、請求項49に記載の方法。
【請求項51】
クロマトグラフィー材料がサイズ排除材料を含む、請求項33に記載の方法。
【請求項52】
サイズ排除材料が樹脂または膜である、請求項51に記載の方法。
【請求項53】
樹脂または膜が、同一のまたは異なるサイズの孔を含む、請求項52に記載の方法。
【請求項54】
VLPが保持され、混入物質がクロマトグラフィー材料を通過するように、VLP含有溶液のpHが調節される、請求項18に記載の方法。
【請求項55】
pHが7未満に調節される、請求項54に記載の方法。
【請求項56】
pHが7以上に調節される、請求項54に記載の方法。
【請求項57】
VLP含有溶液のpHが緩衝液で調節される、請求項54に記載の方法。
【請求項58】
緩衝液が、リン酸塩、カルボン酸塩、硫酸塩、酢酸塩、クエン酸塩、トリス、またはビストリスを含む、請求項57に記載の方法。
【請求項59】
緩衝液の濃度が約10から1000mMの範囲である、請求項58に記載の方法。
【請求項60】
VLPが保持され、混入物質がクロマトグラフィー材料を通過するように、VLP含有溶液のイオン強度が調節される、請求項18に記載の方法。
【請求項61】
イオン強度が、ホフマイスター系列の陰イオンおよび陽イオンによって調節される、請求項60に記載の方法。
【請求項62】
イオン強度が硫酸アンモニウムの添加によって調節される、請求項61に記載の方法。
【請求項63】
硫酸アンモニウムの濃度が約100mM超である、請求項62に記載の方法。
【請求項64】
硫酸アンモニウムの濃度が約1モル濃度超である、請求項62に記載の方法。
【請求項65】
硫酸アンモニウムの濃度が約2モル濃度超である、請求項62に記載の方法。
【請求項66】
硫酸アンモニウムの濃度が約2.4モル濃度である、請求項65に記載の方法。
【請求項67】
イオン強度がリン酸塩の添加によって調節される、請求項61に記載の方法。
【請求項68】
リン酸塩がリン酸ナトリウムである、請求項67に記載の方法。
【請求項69】
リン酸ナトリウムの濃度が約10から500mMの範囲である、請求項68に記載の方法。
【請求項70】
リン酸ナトリウムの濃度が約100mMである、請求項69に記載の方法。
【請求項71】
VLPが保持されるように、クロマトグラフィー材料のpHが、VLPを加える前に、緩衝液での平衡によって調節される、請求項2に記載の方法。
【請求項72】
pHが7未満に調節される、請求項71に記載の方法。
【請求項73】
pHが7以上に調節される、請求項71に記載の方法。
【請求項74】
緩衝液が、リン酸塩、カルボン酸塩、硫酸塩、酢酸塩、クエン酸塩、トリス、またはビストリスを含む、請求項71に記載の方法。
【請求項75】
VLPが保持されるように、クロマトグラフィー材料のイオン強度が調節される、請求項2に記載の方法。
【請求項76】
イオン強度が、塩の添加によって調節される、請求項75に記載の方法。
【請求項77】
塩が、ホフマイスター系列の陽イオンおよび陰イオンを含む、請求項76に記載の方法。
【請求項78】
イオン強度が、硫酸アンモニウムの添加によって調節される、請求項77に記載の方法。
【請求項79】
硫酸アンモニウムの濃度が約1モル濃度超である、請求項78に記載の方法。
【請求項80】
硫酸アンモニウムの濃度が約2モル濃度超である、請求項78に記載の方法。
【請求項81】
硫酸アンモニウムの濃度が約2.4モル濃度である、請求項80に記載の方法。
【請求項82】
イオン強度がリン酸塩の添加によって調節される、請求項77に記載の方法。
【請求項83】
リン酸塩がリン酸ナトリウムである、請求項82に記載の方法。
【請求項84】
リン酸ナトリウムの濃度が約10から500mMの範囲である、請求項83に記載の方法。
【請求項85】
リン酸ナトリウムの濃度が約100mMである、請求項84に記載の方法。
【請求項86】
VLPが保持されるように、VLP含有溶液の有機溶媒の濃度が調節される、請求項18に記載の方法。
【請求項87】
混入物質が保持され、VLPがクロマトグラフィー材料を通過するように、VLP含有溶液のpHが調節される、請求項18に記載の方法。
【請求項88】
pHが7未満に調節される、請求項87に記載の方法。
【請求項89】
pHが7以上に調節される、請求項87に記載の方法。
【請求項90】
VLP含有溶液のpHが緩衝液で調節される、請求項87に記載の方法。
【請求項91】
緩衝液が、リン酸塩、カルボン酸塩、硫酸塩、酢酸塩、クエン酸塩、トリス、またはビストリスを含む、請求項90に記載の方法。
【請求項92】
緩衝液の濃度が約10から1000mMの範囲である、請求項91に記載の方法。
【請求項93】
混入物質が保持され、VLPがクロマトグラフィー材料を通過するように、VLP含有溶液のイオン強度が調節される、請求項18に記載の方法。
【請求項94】
イオン強度が塩の添加によって調節される、請求項93に記載の方法。
【請求項95】
塩が、ホフマイスター系列の陽イオンおよび陰イオンを含む、請求項94に記載の方法。
【請求項96】
塩がリン酸塩である、請求項95に記載の方法。
【請求項97】
リン酸塩がリン酸ナトリウムである、請求項96に記載の方法。
【請求項98】
リン酸ナトリウムの濃度が約10から500mMの範囲である、請求項97に記載の方法。
【請求項99】
リン酸ナトリウムの濃度が約100mMである、請求項98に記載の方法。
【請求項100】
混入物質が保持されるように、クロマトグラフィー材料のpHが、VLP含有溶液との接触の前に、緩衝液での平衡によって調節される、請求項18に記載の方法。
【請求項101】
pHが7未満に調節される、請求項100に記載の方法。
【請求項102】
pHが7以上に調節される、請求項100に記載の方法。
【請求項103】
緩衝液が、リン酸塩、カルボン酸塩、または硫酸塩を含む、請求項100に記載の方法。
【請求項104】
混入物質が保持されるように、クロマトグラフィー材料のイオン強度が、VLP含有溶液との接触の前に、緩衝液での平衡によって調節される、請求項18に記載の方法。
【請求項105】
イオン強度が塩の添加によって調節される、請求項104に記載の方法。
【請求項106】
塩が、ホフマイスター系列の陽イオンおよび陰イオンを含む、請求項105に記載の方法。
【請求項107】
塩がリン酸塩である、請求項106に記載の方法。
【請求項108】
リン酸塩がリン酸ナトリウムである、請求項107に記載の方法。
【請求項109】
リン酸ナトリウムの濃度が約10mM超である、請求項108に記載の方法。
【請求項110】
混入物質が保持されるように、VLP含有溶液の有機溶媒の濃度が調節される、請求項18に記載の方法。
【請求項111】
カリシウイルスのウイルス様粒子(VLP)がノロウイルスおよびサポウイルスのVLPを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項112】
ノロウイルスのVLPが遺伝子群I、遺伝子群II、または遺伝子群IVのノロウイルスに由来する、請求項111に記載の方法。
【請求項113】
請求項1に記載の方法によって調製される医薬品。
【請求項114】
医薬品がワクチンである、請求項113に記載の医薬品。
【請求項115】
ワクチンがノロウイルスワクチンである、請求項114に記載のワクチン。
【請求項116】
請求項1に記載の方法によって調製される分析試薬。
【請求項117】
分析試薬が所望の精製レベルまで精製されている、請求項116に記載の分析試薬。
【請求項118】
請求項117に記載の分析試薬を含む診断アッセイまたは診断キット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【公表番号】特表2010−530734(P2010−530734A)
【公表日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−553820(P2009−553820)
【出願日】平成20年3月14日(2008.3.14)
【国際出願番号】PCT/US2008/057072
【国際公開番号】WO2008/113011
【国際公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【出願人】(507028479)リゴサイト ファーマスーティカルズ,インコーポレイテッド (6)
【Fターム(参考)】