説明

ウイルス治療剤

【課題】エンテロウイルス71を効果的に抑制することができる、安全なピーナツ種皮抽出物、ブドウ種子抽出物、アズキ抽出物を提供する。エンテロウイルス71感染によって誘発される病態の治療または予防に用いられる薬学的組成物を提供する。
【解決手段】ピーナツ種皮抽出物、ブドウ種子抽出物及びアズキ抽出物より選択される一つまたは複数の抽出物を有効成分とするエンテロウイルス71によって誘発される病態の治療または予防法に使用する薬学的組成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗エンテロウイルス活性を有するピーナツ種皮抽出物、ブドウ種子抽出物、アズキ抽出物に関する。更に詳しくは、本発明はピーナツ種皮抽出物、ブドウ種子抽出物、アズキ抽出物より選択される一つまたは複数の抽出物を有効成分とするエンテロウイルス71(EV71)の感染によって誘発される病態の治療または予防のために使用される際の、薬学的組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
手足口病は、口腔粘膜および手や足などに現れる水疱性の発疹を主症状とした急性ウイルス感染症である。大人にも発症することがあるが、10歳以下の小児が大多数を占める。臨床的特徴は、感染から3〜5日の潜伏期間の後に、口腔粘膜、手掌、足底や足背などの四肢末端に、2〜3mmの水泡性発疹が出現する。発熱は約3分の1に認められるが、軽度で、高熱が続くことは通常はない。患者が回復してからも1ヶ月程はウイルスが残っており、糞便と一緒に排泄されているので、回復してからの期間も周囲への感染には注意が必要である。
【0003】
本疾患は、ピコルナウイルス科のコクサッキーA16(CA16)、CA10、EV71などのエンテロウイルスによりおこり、基本的に予後は良好な疾患である。しかし、急性髄膜炎の合併が時に見られ、稀に急性脳炎を生ずることもある。特に、EV71は中枢神経系の合併症を引き起こす割合が高いことが知られている(非特許文献1)。
【0004】
夏に流行することが知られているが、春からの流行も最近見られている。東アジア地域では、近年、マレーシア、台湾等において、大規模な手足口病流行時にEV71による急性死症例が多発した(非特許文献2、3)。中国においては、2009年1月までに10万人以上が発症し、重症例や死亡例がみられ、深刻な状況となった(非特許文献4)。このように、EV71感染の広がりと重篤化の要因について注目が集まっている。ワクチンなどの積極的な予防法はなく、水分補給など対処療法のみである。そのため、死亡率を低下させるには早期治療が重要である。
【0005】
安全な植物エキスまたは薬草で手足口病を予防または治療することが望まれ、抗EV71活性を有する成分が報告されてきた。抗EV71活性を持つ植物由来成分として、甘草エキス(非特許文献5)、ウードフォルディア・フルティコサの没食子酸(非特許文献6)、エピガロカテキンガレート及びガロカテキンガレート(非特許文献7)、Pueraria Lobata(非特許文献8)、Houttuynia Cordata Thub(非特許文献9)、フラクタス・リグストリ・ルシジの微粉砕果実、リゾマ・ポリゴナチ、ヘルバ・アグリモニエ、ラジクス・リューマニエ・グルチノーザ・コンキタエ(特許文献1)が開示されている。
【0006】
しかしながら、食経験のあるピーナツ種皮抽出物、ブドウ種子抽出物、アズキ抽出物がEV71と接触させることよりEV71に拮抗することは、発明者の知る限りこれまで報告されていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Lancet, 354:1682−1686, 1999
【非特許文献2】N Eng J Med, 341:929−935,1999
【非特許文献3】Jpn J Infect Dis, 52:12−15, 1999
【非特許文献4】Nature, 458:554−555, 2009
【非特許文献5】Am J Chin Med, 37(2):384−394, 2009
【非特許文献6】Lett Appl Microbiol, 50(4):438−440, 2010
【非特許文献7】J Agric Food Chem, 57(14):6140−6147, 2009
【非特許文献8】J Med Sci, 24(10):523−530, 2008
【非特許文献9】Am J Chin Med, 37(1):143−158, 2009
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許公開2005−2094号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、ピーナツ種皮抽出物、ブドウ種子抽出物、アズキ抽出物より選択される一つまたは複数の抽出物を有効成分とする、EV71感染によって誘発される病態の治療または予防のために使用される際の、薬学的組成物を提供することを課題とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係るピーナツ種皮抽出物、ブドウ種子抽出物、アズキ抽出物は、EV71の増殖を抑制する。従って、
これらの抽出物より選択される一つまたは複数の抽出物を有効成分とする薬学的組成物は、EV71感染によって誘発される病態の治療または予防が可能となる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、食経験を有する植物抽出物に着目し、鋭意研究を重ねた結果、ピーナツ種皮抽出物、ブドウ種子抽出物およびアズキ抽出物にEV71の増殖を抑制する活性を見出した。従って、本発明の目的は、ピーナツ種皮抽出物、ブドウ種子抽出物、アズキ抽出物より選択される一つまたは複数の抽出物を有効成分とすることを特徴とする、EV71感染によって誘発される疾患、特に手足口病の治療または予防に有効な薬学的組成物に関する。本発明の好ましい実施形態は、ピーナツ種皮抽出物、ブドウ種子抽出物、アズキ抽出物より選択される少なくとも一つを有効成分として含有することを特徴とする経口、直腸または腸管剤である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
ピーナツ種皮、ブドウ種子、アズキは、そのまま、或いは必要に応じて、乾燥、細切、破砕したものを使用することができる。それぞれの抽出方法は特に制限されず、当業者に周知の方法に従って実施することができる。なお、抽出に使用する溶媒は、なんら限定されるものではないが、冷水、熱水、低級アルコール、アセトン、アルキルケトン、酢酸、酢酸エチル、n−ヘキサン、液体二酸化炭素等が挙げられ、好ましくは水またはエタノール、あるいは水とエタノールとの混合液を挙げることができる。一例として、それぞれの乾燥粉砕物1重量部に対して2〜500重量部、好ましくは50〜200重量部の水または含水エタノールを加え、室温〜100℃程度、好ましくは50〜80℃程度で撹拌しながら1〜300分程度、好ましくは10〜90分程度抽出を行った後、濾過や遠心分離などの固液分離法により固形分を取り除く方法を挙げることができる。
【0013】
得られたそれぞれの抽出物をさらに吸着法、膜分離法、溶剤分別法、またはこれらを組み合わせて、高純度の抽出物を得ることができる。例えば、活性炭(和光純薬工業製)、イオン交換樹脂(和光純薬工業製)、シリカゲルC18(ダイソー製)、ダイヤイオンHP20(三菱化成工業製)、セファデックスLH−20(ファルマシア製)、トヨパールHW40F(東ソー製)、などに供して、水及び適当な溶媒で吸脱着工程を一回または複数回行い、高純度抽出物を得ることができる。それぞれの抽出物は乾燥粉末あるいは液状の形態で使用することができる。また。それぞれの抽出物は市販品を使用することもできる。ピーナツ種皮抽出物としては、例えばピーナツ種皮抽出物粉末形態のものが常盤化学株式会社より、ブドウ種子抽出物粉末形態のものが株式会社キッコーマンより、またアズキ抽出物粉末形態のものがコスモ食品株式会社より市販されており、商業的に容易に入手することができる。
【0014】
本発明のピコルナウイルス科ウイルスは、好ましくはエンテロウイルスである。従って、本発明は、ヒトまたはヒト以外の動物におけるエンテロウイルスの感染の影響を改善または予防することを意図しており、本発明は、ヒトまたはヒト以外の動物に、ピーナツ種皮抽出物、ブドウ種子抽出物、アズキ抽出物から選択される一つまたは複数の抽出物を有効量投与する段階を含む。更により具体的には、エンテロウイルス属のウイルス種は、ヒトにおける手足口病の原因であるEV71である。
【0015】
従って、本発明は、ヒトにおけるEV71の感染によって誘発される病態を、治療または予防する方法を意図しており、本方法は、ヒトに、ピーナツ種皮抽出物、ブドウ種子抽出物、アズキ抽出物から選択される一つまたは複数の抽出物からなる薬学的組成物を経口的に有効量投与する段階を含む。
【0016】
発明は更に、本発明の抽出物を含む、EV71の感染によって誘発される疾病の治療または予防に有用な薬学的組成物に及ぶ。この点で、本発明の抽出物は、EV71の感染によって誘発される病態の治療または予防のための活性成分として用いられうる。抽出物は、活性成分として、総重量に対し、0.1〜90重量%、好ましくは1〜50重量%で含有し、これに適当な薬学的に許容される担体または補助材とを混ぜた薬学的組成物として投与されうる。
【0017】
有効量とは、ウイルスの複製、プロセシング、及び/または付着または放出を抑制し、減少させ、または妨害するのに効果的な量である。
【0018】
従って、本発明は、ピーナツ種皮抽出物、ブドウ種子抽出物、アズキ抽出物から選択される一つまたは複数の抽出物と薬学的に許容される担体及び/または希釈剤とを共に含む、EV71感染によって誘発される病態の治療または予防のために使用される際の、薬学的組成物を提供する。
【0019】
本発明の薬学的組成物は、経口、直腸、腸管を通じて投与されうる。従って、本発明の薬学的組成物は、技術分野において周知の薬学的に許容される担体を用いて、経口投与に好適な剤形へと容易に製剤化することができる。そのような担体により、本発明の抽出物を、治療対象の患者のための経口摂取用の錠剤、ピル、カプセル、液体、ゲル、シロップ、スラリー、及び懸濁液などのような剤形へと製剤化できる。このような担体は、糖、デンプン、セルロース及びそれらの誘導体、寒天、麦芽、ゼラチン、タルク、硫酸カルシウム、野菜油、合成油、ポリオール、アルギン酸、リン酸緩衝液、乳化剤、等張性生理食塩水、及び、パイロジェンフリーの水から選択されうる。そのような組成物はいかなる製剤化の方法によっても調製されうるが、そのすべての方法が、上記の一つまたは複数の抽出物を、一つまたは複数の担体と組み合わせる段階を含む。
【0020】
本発明に用いられる任意の薬剤に関して、治療または予防に有効な服用量は、インビトロで細胞培養アッセイから最初に予測されうる。例えば、服用量は、細胞培養で決定されるIC50(例えば、感染の最大半減の抑制を達成する抽出物濃度)から形成されうる。そのような情報は、ヒトに有効な服用量をさらに正確に決めるのに用いられうる。正確な服用量は、医師による患者の状態の観察により選択されうる。
【実施例】
【0021】
本発明は、下記の実施例によりさらに具体的に例示される。しかし、これらの実施例は、単に本発明の具現例であり、本発明の範囲を限定するものではない。
(実施例1)EV71抑制効果
【0022】
EV71に対するウイルス抑制効果を以下のように評価した。なお、本評価においてEV71としては、BrCr株(American Type Culture Collection)を用いた。EV71の感受性細胞としては、Vero細胞(アフリカミドリザル腎臓上皮由来細胞株)を用いた。培養液としては、MEM培地(Minimum Essential Medium)(GIBCO製)を用いた。
【0023】
Vero細胞(15,000細胞数/ウェル)を、10体積%ウシ胎仔血清(FBS)含有MEM培地を添加した96ウェルマイクロプレートで、37℃、5%CO条件下で一晩培養した。培養液を除去し、無血清MEM培地でVero細胞単層を一度洗浄後、2倍段階希釈した試験物質(ピーナツ種皮抽出物、ブドウ種子抽出物、アズキ抽出物)、対照(エピガロカテキンガレート;EGCG)の添加に続きEV71液(4TCID50/ウェルを100μl/ウェルを加え、37℃、3日間培養した。培養後、培養液を除去し、70%エタノール水溶液200μl/ウェルを添加後、室温で5分間静置して細胞を固定した。70%エタノール水溶液を除去し、0.5%クリスタルバイオレット溶液200μl/ウェルで添後、室温で5分間静置して生細胞を染色した。染色後、プレートを水で軽く洗浄して風乾し、染色された生細胞を吸光度(OD560nm)で測定した。試験はn=2で実施し、試験物質の各濃度におけるコントロール細胞(ウイルス非感染)に対するEV71感染細胞の生存率を求めて、試験物質のEV71抑制効果を50%阻害濃度(IC50)にて評価した(表1)。
【0024】
【表1】

【0025】
表1に示すように、ピーナツ種皮抽出物、ブドウ抽出物、アズキ抽出物のいずれもEV71に対するウイルス抑制効果が認められた。
(実施例2)ゲル剤の製造
【0026】
50Lタンクに80℃の温水を10L投入し、アズキ抽出物100g、キシリトール500g、増粘多糖類500gを秤量し、随時投入、攪拌を繰り返した。完全に溶解後、10gのアルミパウチ容器に充填し、40℃以下に冷却してゲル状の薬学的組成物を得た。小豆抽出物に換えて、ピーナツ種皮抽出物あるいはブドウ種子抽出物ゲル剤についても同様に製造した。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明は抗ウイルス組成物に関し、ピーナツ種皮抽出物、ブドウ種子抽出物、アズキ抽出物より選択される一つまたは複数の抽出物を有効成分とする組成物を薬剤学的に許容可能な担体とともに含有することを特徴とする抗ウイルス組成物に関する。ピーナツ種皮抽出物またはブドウ種子抽出物またはアズキ抽出物は、エンテロウイルス71に対して抑制効果を有するものである。従って、当該抽出物を有効成分とする薬学的組成物は、エンテロウイルス71によって誘発される病態の改善または予防のために使用される際の薬学的組成物として効果が期待されるものである。





【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトまたはヒト以外の動物におけるピコルナウイルス科ウイルスの感染によって誘発される病態の治療または予防するためであって、ヒトまたはヒト以外の動物にピーナツ種皮抽出物、ブドウ種子抽出物、アズキ抽出物から選択される一つまたは複数の抽出物からなる治療または予防のために使用される際の、薬学的組成物。
【請求項2】
ピコルナウイルス科ウイルスがエンテロウイルスである、請求項1記載の薬学的組成物。
【請求項3】
エンテロウイルスが、エンテロウイルス71である請求項1および2記載の薬学的組成物。
【請求項4】
ピーナツ種皮抽出物、ブドウ種子抽出物、アズキ抽出物から選択される一つまたは複数の抽出物、並びに、薬学的に許容される担体及び/または希釈剤を含む、エンテロウイルウイルス71感染によって誘発される病態の治療または予防のために使用される際の、薬学的組成物。
【請求項5】
薬学的組成物が、経口的に投与するのに好適な形態にあることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の薬学的組成物。




















【公開番号】特開2012−62247(P2012−62247A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−205164(P2010−205164)
【出願日】平成22年9月14日(2010.9.14)
【出願人】(506022577)
【Fターム(参考)】