説明

ウイルス産生のための培地栄養補助剤

ウイルスの増殖のための培養栄養補助剤としてのマクロライド系ポリエン抗生物質またはそれらの誘導体もしくは類似体の使用を記載する。さらに、ウイルスおよびマクロライド系ポリエン抗生物質またはそれらの誘導体もしくは類似体を含む医薬組成物、および細胞のトランスフェクションおよび感染のためにマクロライド系ポリエン抗生物質を使用する方法、ならびに臨床サンプルからのウイルスの単離のためのマクロライド系ポリエン抗生物質の使用を開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マクロライド系ポリエン抗生物質またはその誘導体もしくは類似体の、ウイルスの増殖のための培養栄養補助剤(supplement)としての使用を提供する。さらに、ウイルスおよびマクロライド系ポリエン抗生物質またはその誘導体もしくは類似体を含む医薬組成物、および癌治療およびインフルエンザ処置におけるその使用を記載する。
【背景技術】
【0002】
現在、インフルエンザ以外の多くのウイルスのワクチンは、初代トリプシン処理細胞、例えばサル腎臓およびウサギおよびハムスターの腎臓からの細胞を用いて産生されている(例えば国際公開第9738094号パンフレットを参照のこと)。初代二倍体細胞培養物は確かな利点を有する、例えば、単純培地およびウシ血清を用いて簡単に調製でき、広範な複数のウイルスに対して感受性を有する。しかしながら、初代二倍体細胞には不利益もあり、例えば、様々な外来物質の混入、質および感受性の不定性;ならびに培養のための適切な組織(例えばサル腎臓)の取得の困難性である。
【0003】
対照的に、連続細胞株を用いることの利点は、感染したウイルスのネイティブな抗原性の特徴を保持していること、標準化できること、同じウイルスの変異体への高い感受性、およびマイクロキャリアまたは懸濁発酵槽系を用いて大質量の細胞として成長させられることである。
【0004】
一方、これらの利点によって、かかる細胞株はワクチン生産における使用に適したものとなっている。Mizrahi編、「Viral Vaccines」、Wiley-Liss、New York (1990)、pp. 39-67。例えば、哺乳類細胞培養物において単離され、単独で継代されたインフルエンザA型ウイルスは、それらの元来の抗原性の特徴のほとんどまたは全てを保持することがいくつかのケースにおいて観察されており、これはワクチン生産ににおける高い有利性を証明し得る特性である。(Romanova J. et al., Virology, 2003, 307(1):90-7; Romanova J. et al., Virus Res. 2004, 103:187-93)。
【0005】
一方、哺乳類初代二倍体細胞培養物には、ワクチン生産のための宿主系として障害がある。これは、例えば、細胞培養物の外来物質の混入、細胞培養物中の細胞の質が変化しやすいこと、同じウイルスの変異体への細胞の感受性が異なること、低ウイルス力価および高コストおよびかかる細胞培養物の取得および調製の困難性といった問題による。
【0006】
さらに、試験された連続細胞株のうち、MDCK細胞のみが、ウイルスの十分な成長および単離を強力に支持することが報告されている(Frank et al., J Clin. Microb. 10:3236 (1979); Schepetink & Kok, J Virol. Methods 42:241-250 (1993))。
【0007】
他の2つの連続細胞株−アフリカミドリザル腎臓(Vero)細胞およびベビーハムスター腎臓(BK-21)−は、ヒトワクチンの生産のために、世界保健機関(WHO)によって特徴付けられ、同意され、認証されている。しかしながら、Vero細胞は認証されているが、ヒトインフルエンザウイルスワクチンの大規模生産には適していないことがこれまでに分かっている。例えば、Vero細胞におけるインフルエンザB型の成長は、MDCK細胞と比較して非常に制限されていた(Nakamura et al., J Gen. Virol. 56:199-202 (1981))。さらに、ヒトH1N1およびH3N2インフルエンザA型ウイルスのリマンタジン感受性を評価するのにVero細胞を用いる試みでは、これらの細胞において産生されたウイルスの力価がMDCK細胞におけるものと比較して低いために、不明瞭な結果が得られた(Gorvakova EA et al., J.Virol., 1996, 70:5519-24)。
【0008】
よって、これらの研究および他の研究は、インフルエンザウイルスはこれまでVero細胞においてあまり複製されなかったことを示しており、よってVero細胞は大規模ワクチン生産には不適切となっている(Demidova et al., Vopr. Virosol (Russian) 346-352 (1979); Lau&Scholtissek, Virology 212:225-231 (1995))。
【0009】
Kaverin NVおよびWebster RG(J.Virol., 1995, 69 (4) :2700-3)は、インフルエンザウイルス感染Vero細胞の培養培地にトリプシンを繰り返し加え、インフルエンザA型ウイルス株の複数サイクルの成長様式を回復する必要があることを報告している。しかし、トリプシンは培養の様々な段階に加えなければならないので、トリプシンを繰り返し加える必要があるということはかなり骨が折れ、時間が取られることである(Gorvakova EA et al., J.Infect.Dis., 1995, 172:250-3も参照のこと)。
【0010】
DNAウイルスのファミリーのメンバーは、二本鎖ゲノムを含有する。パルボウイルス科(Parvoviridae)のファミリーは、唯一の例外である。ほとんどのDNAゲノムは単なる線状分子ではない。例えば、パポバウイルスゲノムは共有結合により閉じられた二本鎖環であり、ヘパドナウイルスゲノムは、一方の鎖はニックを含有し、他方の鎖はギャップを含有する二本鎖環である。二本鎖ポックスウイルスゲノムの末端は共有結合により連結しており、一方、ヘルペスウイルスゲノムは末端および内部重複を含有する。
【0011】
DNAウイルスは以下の科に分類される:パルボウイルス科、パポバウイルス科(Papovaviridae)、アデノウイルス科(Adenoviridae)、ヘパドナウイルス科(Hepadnaviridae)、ヘルペスウイルス科(Herpesviridae)、イリドウイルス科(Iridoviridae)、バキュロウイルス科(Bacuoloviridae)およびポックスウイルス科(Poxviridae)。
【0012】
二本鎖RNAウイルスは、レオウイルス科(Reoviridae)およびビルナウイルス科(Birnaviridae)の2グループに分類される。
【0013】
エンベロープを有するマイナス鎖ゲノムの一本鎖RNAを含有するウイルスファミリーは、非分節性ゲノムを有するグループ(パラミクソウイルス科(Paramyxoviridae)、ラブドウイルス科(Rhabdoviridae)、フィロウイルス科(Filoviridae)およびボルナ(Borna)病ウイルス、トガウイルス科(Togaviridae))または分節性ゲノムを有するグループ(オルトミクソウイルス科(Orthomyxoviridae)、ブニヤウイルス科(Bunyaviridae)およびアレナウイルス科(Arenaviridae))に分類される。オルトミクソウイルス科のファミリーには、インフルエンザウイルスのA、BおよびC型ウイルス、ならびにソゴト(Thogoto)およびドーリ(Dhori)ウイルスおよび伝染性サケ貧血ウイルスが含まれる。
【0014】
インフルエンザビリオンは、一本鎖RNAゲノムを含有する内部リボ核タンパク質のコア(らせん状ヌクレオカプシド)、および内側にマトリックスタンパク質(M1)が並んだ外側のリポタンパク質エンベロープからなる。インフルエンザA型ウイルスの分節性ゲノムは、以下を含む、10のポリペプチドをコードする、線状、マイナス極性の、一本鎖RNAの8つの分子(インフルエンザC型については7つ)からなる:ヌクレオカプシドを形成するRNA依存性RNAポリメラーゼタンパク質(PB2、PB1およびPA)および核タンパク質(NP);マトリックス膜タンパク質(M1、M2);エンベロープを含有する脂質から突き出る2つの表面糖タンパク質:赤血球凝集素(HA)およびノイラミニダーゼ(NA);非構造タンパク質(NS1)および核外輸送タンパク質(NEP)。
【0015】
ゲノムの転写および複製は核において行われ、細胞膜上の出芽を介して集合体が生じる。ウイルスは混合感染の際に遺伝子を再集合させることができる。インフルエンザウイルスは、HAを介して細胞膜の糖タンパク質および糖脂質のシアリルオリゴ糖に吸着する。ビリオンのエンドサイトーシスに続き、細胞内エンドソーム内でHA分子の立体構造変化が起き、これが膜融合を促進し、脱殻の引き金となる。ヌクレオカプシドは核に移動し、ここでウイルスのmRNAが転写される。ウイルスのmRNAは、ウイルスのエンドヌクレアーゼが細胞内異種mRNAからキャッピングされた5'末端を切断し、次いでその5'末端がウイルスの転写酵素によるウイルスのRNA鋳型の転写のためのプライマーとして働くという、独特なメカニズムにより転写される。転写物はそれらの鋳型の末端から15〜22塩基の部位において終結し、ここでオリゴ(U)配列はポリ(A)区域を付加するためのシグナルとして働く。このようにして産生された8つのウイルスRNA分子のうち6つは、HA、NA、NPおよびウイルスのポリメラーゼタンパク質、PB2、PB1およびPAを表すタンパク質に直接翻訳される単シストロン性のメッセージである。他の2つの転写物はスプライシングを受け、それぞれ2つのmRNAが生じ、異なるリーディングフレームにおいて翻訳され、M1、M2、NS1およびNEPが産生される。言い換えると、8つのウイルスRNA分節は11のタンパク質をコードする:9つの構造タンパク質および非構造タンパク質および近年同定されたPB1-F2タンパク質。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
特に予防および治療用途に必要な大量のウイルス粒子の生産が困難であるという観点から、本発明の目的は、連続細胞株において増殖するウイルスの収率および質を向上させることができる、新規な培養法および栄養補助剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
この課題を、マクロライド系ポリエン抗生物質またはそれらの誘導体もしくは類似体を、ウイルスの増殖のための培養栄養補助剤として使用することにより解決する。好ましくは、マクロライド系ポリエン抗生物質は、アムホテリシンBまたはそれらの誘導体もしくは類似体である。
従来の技術によると、マクロライド系ポリエン抗生物質は抗真菌特性を示すことが知られており、動物およびヒト患者における真菌感染の処置および予防に広範に用いられている。
【0018】
マクロライド系ポリエン抗生物質のすでに知られている特性の他に、本発明者らは驚くべきことに、マクロライド系ポリエン抗生物質またはそれらの誘導体もしくは類似体は、しばしば培養が困難であり、予防用途、治療用途および産業上の利用のような様々な目的において大量に必要とされるウイルス粒子の、培養および増殖にも用いることができることを示した。アムホテリシンBの誘導体であるアムホテリシンBメチルエステルは、脳心筋炎(Enzephalomyocarditis)ウイルスRNAおよびSV40ウイルスDNAの感染力を増大することが報告されている(Borden E. et al., J.gen.Virol., 1979, 42, 297-303; Borden E. et al., Archives of Virology, 1981, 69, 161-165)が、それをウイルス培養目的に使用することを示す従来技術は存在しない。
【0019】
本発明によるマクロライド系ポリエン抗生物質およびそれらの誘導体または類似体を用いると、ウイルスの成長を向上させることができ、また、低い感染多重度であっても、増大したウイルス粒子の感染力が生じ得る。
【0020】
本発明によると、成功裏に培養することができるウイルスはDNAまたはRNAウイルスであり、好ましくはそれらはRNAウイルスであり、より好ましくはオルトミクソウイルス科、ピコルナウイルス科(Picornaviridae)およびパラミクソウイルス科のファミリーに属するものである。さらにより好ましくは、ウイルスは、インフルエンザA型ウイルス、インフルエンザB型ウイルス、インフルエンザC型ウイルス、ライノウイルス(rhinovirus)およびパラインフルエンザウイルスおよびそれらの誘導体または類似体またはフラグメントである。あるいは、麻疹ウイルス、ムンプスウイルス、風疹ウイルスおよび狂犬病ウイルスも 、本発明にしたがって培養するのに有用な系であり得る。
【0021】
別の実施態様において、培養されるウイルスは、いくつかの構造および非構造遺伝子における修飾、好ましくはNS1および/またはPB1遺伝子における修飾を含有し得る。それらの修飾は少なくとも1つの核酸の欠失、置換または挿入であり得る。
【0022】
あるいは、マクロライド系ポリエン抗生物質またはそれらの誘導体もしくは類似体を含有する培地によって培養されるウイルスはまた、腫瘍溶解ウイルスであり得る。
【0023】
ウイルス誘導体、類似体またはフラグメントは、典型的には、依然として予防接種目的に用いることができ、または腫瘍溶解能を示すことができる、いずれかのウイルス粒子であり得る。
【0024】
ウイルスは通常、ウイルス粒子を増殖させる目的に適用可能なことが示されたウイルス感染細胞を用いて培養する。
【0025】
本発明はまた、マクロライド系ポリエン抗生物質またはそれらの誘導体もしくは類似体を用いるウイルス培養のために細胞を感染させる方法であって、以下の工程を含む方法を提供する:
a) 細胞を少なくとも1つの感染性ウイルス粒子に感染させる、
b) マクロライド系ポリエン抗生物質およびそれらの誘導体または類似体を、トリプシンとともに接種および/または培養培地に加える、
c) 適切な条件下におけるインキュベーション、次いで
d) ウイルス産物の収集、および必要であれば
e) ウイルスの精製および/または特徴決定。
【0026】
驚くべきことに、本発明による栄養補助剤または栄養補助剤の混合物を用いると、ウイルス成長が、少なくとも0.1 log10、好ましくは少なくとも 0.5log10、好ましくは1 log10、より好ましくは少なくとも 2 log10、さらにより好ましくは少なくとも 2.5 log10、さらにより好ましくは少なくとも 5 log10増加し得ることが示された。
【0027】
本発明はまた、ウイルスおよびマクロライド系ポリエン抗生物質またはそれらの誘導体を含む医薬製剤を提供する。好ましくは、ウイルスは生きた弱毒化ウイルスであり、あるいは本発明によると、全ての不活性化ビリオン、分割物またはサブユニットのワクチンも含まれる。
【0028】
別の実施態様によると、医薬製剤は、インフルエンザウイルスおよび/または腫瘍溶解ウイルスをマクロライド系ポリエン抗生物質またはそれらの誘導体もしくは類似体とともに含有し得る。用いられたウイルスの種類によって、医薬製剤は、癌またはインフルエンザ感染の処置または予防に用いることができる。
【0029】
さらに、本発明はまた、ウイルス粒子の単離または力価測定(titration)に用いることもできる。このことは、ウイルス培養のための細胞感染には、感染率が十分でなく、複製メカニズムが非効率的なために、しばしば多量のウイルスが必要であることから、特に重要である。ウイルスの量は、感染工程の直前または同時または直後に、少なくとも1つのマクロライド系ポリエン抗生物質またはそれらの誘導体もしくは類似体を加えることにより、かなり減少させることができる。
【0030】
本発明によるマクロライド系ポリエン抗生物質ならびにそれらの誘導体および類似体は一般に、それらが有するコンジュゲートした二重結合の数に応じて、およびグリコシド結合した炭水化物の存在または非存在に応じて、トリエン、テトラン、ペンタン、ヘキサンおよびヘプタンに分類することができる。総説については、Hamilton-Miller J.M.T., Bacteriol. Reviews, 1973, 37, 166-196を参照のこと。本発明の好ましい実施態様によると、マクロライド系ポリエン抗生物質は、ヘプタン、例えばアムホテリシンB、カンジジン、ミコヘプチン、X-63、カンジマイシン(candimycin)、DJ400 B1、ペリマイシン、アンチファンギン(antifungin)4915、ユーロチン(eurotin)A、ヘプタン757、モニカマイシン(monicamycin)、ネオヘプタン、ニスタチン、フィリピン、プリマリシン(Primaricin)、ナタマイシンおよびPA150ならびにそれらの誘導体および類似体である。
【0031】
最も好ましい実施態様によると、マクロライド系ポリエン抗生物質は、アムホテリシンBまたはそれらの誘導体もしくは類似体である。アムホテリシンBは、ストレプトミセス・ノドスス(Streptomyces nodosus)のような生物の培養によって産生でき、その培養物から抽出することができる。アムホテリシンBは、本質的には7つのコンジュゲートした二重結合の発色団を有する高分子量の大環状ラクトンである。大ラクトン核に加えて、アムホテリシンBはアミノ糖などの他の特徴的な基を有する。それらの誘導体または類似体は、ウイルス培養のための培養栄養補助剤として使用するのに必要な特徴を依然として提供するあらゆる種類のものであり得る。典型的には、N-アセチル化、N-スクシニル化、エステル化、またはCaCl2との錯化であり得る。例えば、アムホテリシンBメチルエステルまたはアムホテリシンBを含有するリポソーム形成であり得る。
【0032】
別の実施態様によると、アムホテリシンBとその誘導体との混合物、またはアムホテリシンB誘導体の様々な混合物も、ウイルス培養および本発明による方法のための栄養補助剤として用いることができる。
【0033】
本発明によると、マクロライド系ポリエン抗生物質ならびにそれらの誘導体および類似体は、ウイルスの培養を促進するのに十分な濃度にて用いられる。好ましくはその濃度は、0.5 ng/ml〜5μg/ml、好ましくは0.5 ng/ml〜2.5μg/ml、好ましくは10 ng/ml〜900 ng/ml、より好ましくは100ng/ml〜500 ng/ml、より好ましくは200 ng/ml〜400 ng/mlである。
【0034】
本発明によると、マクロライド系ポリエン抗生物質ならびにそれらの誘導体および類似体は、いずれかのDNAまたはRNAウイルスの培養に用いることができる。
【0035】
好ましい実施態様において、ウイルスはRNAウイルスである。それらのエンベロープを有するマイナス鎖ゲノムの一本鎖RNAを含有するウイルスファミリーは、非分節性ゲノム(パラミクソウイルス科、ラブドウイルス科、フィロウイルス科およびボルナ病ウイルス)を有するグループまたは分節性ゲノム(オルトミクソウイルス科、ブニヤウイルス科およびアレナウイルス科)を有するグループに分類される。オルトミクソウイルス科のファミリーには、インフルエンザウイルスのA、BおよびC型ウイルス、ならびにソゴトおよびドーリウイルスおよび伝染性サケ貧血ウイルスが含まれる。
【0036】
オルトミクソウイルス科のゲノムは、6〜8つのマイナス極性(mRNAに相補的)の一本鎖RNA分子からなる。インフルエンザビリオンは、一本鎖RNAゲノムを含有する内部リボ核タンパク質コア(らせん状ヌクレオカプシド)、および内側にマトリックスタンパク質(M1)が並んだ外側のリポタンパク質エンベロープからなる。インフルエンザA型ウイルスの分節性ゲノムは、以下を含む、10のポリペプチドをコードする、線状、マイナス極性の、一本鎖RNAの8つの分子(インフルエンザC型については7つ)からなる:ヌクレオカプシドを形成するRNA依存性RNAポリメラーゼタンパク質(PB2、PB1およびPA)および核タンパク質(NP);マトリックス膜タンパク質(M1、M2);エンベロープを含有する脂質から突き出る2つの表面糖タンパク質:赤血球凝集素(HA)およびノイラミニダーゼ(NA);非構造タンパク質(NS1)および核外輸送タンパク質(NEP)。
【0037】
典型的には、マクロライド系ポリエン抗生物質ならびにそれらの誘導体および類似体を培養栄養補助剤として用いる増殖または本明細書に記載のいずれかの方法に用いられるウイルスは、インフルエンザウイルス、呼吸器多核体ウイルス(RSV)、ニューカッスル病ウイルス(NDV)、水疱性口内炎ウイルス(VSV)、ライノウイルスおよびパラインフルエンザウイルス(PIV)、麻疹およびムンプスウイルス、風疹ウイルスおよび狂犬病ウイルスであり得る。
【0038】
本発明において用いられるウイルスは、天然株、変異体(variantまたはmutant);突然変異誘発されたウイルス(例えば、変異原への曝露、反復継代および/または非許容の宿主における継代により生成されたウイルス);リアソータント(分節性ウイルスのゲノムの場合);および/または遺伝子改変ウイルス(例えば「逆遺伝学」技術を用いて)から選択され得る。
【0039】
好ましくはマクロライド系ポリエン抗生物質を加えて培養するウイルスは、インフルエンザA型、インフルエンザB型またはインフルエンザC型ウイルスの群から選択される。
【0040】
本発明によると、ウイルスは、そのウイルスの誘導体または類似体の発現および産生を引き起こす修飾をゲノム内に含有し得る。別の実施態様において、修飾はNS1遺伝子および/またはPB1遺伝子内に存在し得る。これにより、完全に欠失したあるいは修飾されたNS1タンパク質および/または完全に欠失したまたは修飾されたPB1-F2タンパク質またはPB1ゲノムフラグメントから発現された修飾されたPB2タンパク質を含有するウイルスの産生を導くことができる。NS1遺伝子内の修飾は、欠失、挿入または置換であり得る。かかる修飾RNAウイルスの例は、国際公開第99/64068号および第99/64571号パンフレット(参照により本明細書に組み込まれる)に開示されており、そこではNS1遺伝子内の修飾により、弱毒化に関与するインターフェロンアンタゴニスト表現型を有するRNAウイルスが導かれている。
【0041】
PB1-F2の機能は、Chen W. et al., Nat Med. 2001, 12:1306-12に詳しく記載されている。マウスにおけるウイルスの病原論に貢献することが示されたPB1-F2タンパク質内の修飾がZamarin D. et al., J.Virol., 2006, 80, 7976-7983に記載されている。
【0042】
あるいは、ウイルスはまた、腫瘍溶解ウイルスであり得る。腫瘍溶解ウイルスに典型的な主な特徴は、悪性細胞において成長することができるが正常組織においては成長できない制限増殖表現型である。本発明の好ましい実施態様において、腫瘍溶解ウイルスは、IFNコンピテント系においては成長しないが、機能性IFNの発現を欠く系においては効率的に複製する、NS1遺伝子内に修飾を有する腫瘍溶解性インフルエンザA型ウイルスであり得る。
【0043】
マクロライド系ポリエン抗生物質またはそれらの誘導体もしくは類似体を補足した培養培地を用いるウイルスの培養に用いられる細胞は、合成培地においてイン・ビトロにて成長でき、ウイルスの増殖に用いることができるいずれかの細胞であり得る。本発明の範囲において、「細胞」なる用語は、個々の細胞、組織、器官、昆虫細胞、トリ細胞、哺乳類細胞、ハイブリドーマ細胞、初代細胞、連続細胞株、および/または遺伝子改変細胞、例えば、ウイルスを発現する組換え体細胞の培養物を意味する。これらは、例えばBSC-1細胞、LLC-MK細胞、CV-1細胞、CHO細胞、COS細胞、ネズミ細胞、ヒト細胞、HeLa細胞、293細胞、VERO細胞、MDBK細胞、MDCK細胞、MDOK細胞、CRFK細胞、RAF細胞、TCMK細胞、LLC-PK細胞、PK15細胞、Wl-38細胞、MRC-5細胞、T-FLY細胞、BHK細胞、SP2/0細胞、NS0、PerC6(ヒト網膜細胞)、ニワトリ胚細胞またはそれらの誘導体、有胚卵細胞、有胚ニワトリ卵またはそれらの誘導体であり得る。好ましくは細胞株はVERO細胞株である。
【0044】
ウイルスの産生に用いる培養培地は、従来技術から知られるウイルス培養に適用可能ないずれかの培地であり得る。好ましくはその培地は合成培地である。これは、例えば、改変イーグル培地MEM、最小必須培地MEM、ダルベッコ変法イーグル培地D-MEM、D-MEM-F12培地、ウィリアムE培地、RPMI培地ならびにそれらの類似体および誘導体のような基本培地であり得る。これらはまた、VP-SFM、OptiPro(商標)SFM、AIM V(登録商標)培地、HyQ SFM4MegaVir(商標)、EX-細胞(商標)Vero SFM、EPISERF、ProVero、いずれかの293またはCHO培地ならびにそれらの類似体および誘導体のような特殊細胞培養およびウイルス成長培地であり得る。これらの培地は、従来技術から知られる細胞およびウイルス培養に適用可能ないずれかの添加剤、例えば動物血清およびそれらの画分または類似体、アミノ酸、成長因子、ホルモン、緩衝液、微量元素、トリプシン、ピルビン酸ナトリウム、ビタミン、L-グルタミンおよび生理的緩衝液のような添加剤を補足することができる。好ましい培地は、L-グルタミンおよびトリプシンを補足したOptiPRO(商標)SFMである。
【0045】
特にマクロライド系ポリエン抗生物質または誘導体もしくは類似体はまた、感染率の実効性を増大させるのに用いることができる。細胞の感染を増大させるために、細胞をウイルス粒子およびマクロライド系ポリエン抗生物質またはそれらの誘導体もしくは類似体に同時に接触させる。あるいは、ウイルス粒子を細胞に加える直前に、同時にまたは直後に、細胞をマクロライド系ポリエン抗生物質またはそれらの誘導体もしくは類似体によって前処理することができる。それ故に好ましい時間範囲は、感染から1時間前または後の間、より好ましくは感染から0.5時間前または後の間であり得る。
【0046】
高感染多重度(MOI)であると、減少した感染力を示すまたは感染力を示さない多数の欠陥ウイルス粒子が産生されることが、従来技術からよく知られている。それ故に、低い(MOIが0.001)またはより良くは非常に低いMOI(MOIが0.0001〜0.00001)またはさらに低いMOIを細胞の感染に用いることができる手段を提供することは、経済的および科学的な理由から有利であり得る。
【0047】
本発明による栄養補助剤または栄養補助剤の混合物を用いると、少なくとも0.1 log10、少なくとも0.5 log10、好ましくは少なくとも1 log10、より好ましくは少なくとも2 log10、さらにより好ましくは少なくとも2.5 log10、さらにより好ましくは少なくとも5 log10のウイルス成長の増加が起こり得る。
【0048】
本発明のさらなる実施態様は、ウイルスRNA分節をコードする発現プラスミドによるVero細胞のトランスフェクションにおけるマクロライド系ポリエン抗生物質またはそれらの誘導体もしくは類似体の使用である。ここでも、ウイルスのコンピーテントゲノムの全部または一部を含有する発現プラスミドによりトランスフェクトした細胞を加える直前に、同時にまたは直後に、マクロライド系ポリエン抗生物質を培養培地に加える。
【0049】
本発明のさらなる実施態様は、生きた弱毒化または不活性化ウイルスおよびマクロライド系ポリエン抗生物質またはそれらの誘導体を、必要に応じて製薬的に許容される担体とともに含む医薬製剤を提供する。好ましくは、ウイルスはインフルエンザウイルスおよび/または腫瘍溶解ウイルスである。
【0050】
医薬製剤が腫瘍溶解ウイルスを含む場合、ウイルス性癌の治療に用いることができる。医薬製剤がインフルエンザウイルスを含む場合、インフルエンザウイルス感染の処置に用いることができる。
【0051】
好ましくは、医薬製剤は生きた弱毒化ウイルスを含むだけでなく、不活性化または他のウイルスも用いることができる。
【0052】
医薬製剤は適切な量にて投与することができる。適切な量は、2〜10 log、好ましくは5〜9 log、より好ましくは6.5〜8 logのウイルス粒子の範囲であり得る。
【0053】
本発明によって用いられる医薬製剤は好ましくは、適切な剤形にて提供される。製薬的に許容される担体を含むかかる剤形が好ましい。
【0054】
後者は例えば、助剤、緩衝剤、塩および保存剤を含む。好ましくは、使用準備済の注入溶液を提供する。ウイルス製剤は比較的安定であるので、ウイルスに基づく医薬またはそれらの誘導体は、保存に安定な溶液として、または使用準備済の形態の剤形として市場に出すことができるという実質的な利点を有する。前者は好ましくは、冷蔵庫の温度から室温において保存に安定な剤形である。しかしながら、本発明によって用いられる製剤はまた、必要時に解凍するまたは元に戻すことができる凍結または凍結乾燥形態にて提供され得る。
【0055】
通常、医薬製剤は鼻腔内にまたは筋肉内に投与されるであろう。しかしながら、同様に、活性物質の感染部位または腫瘍への全身または局所適用を可能にする別の非経口のまたは粘膜の投与様式も選択することができる。
【0056】
本発明はまた、標準的TCID50、TCID50に基づく、またはプラークアッセイをスピードアップするための、またその質と感度を増大させるための手段を提供する。ウイルスの培養におけるマクロライド系ポリエン抗生物質の使用により、ウイルスの成長が促進され、それ故により速くアッセイを解析でき、より正確な力価測定結果をより速い時点に得ることができる。
【0057】
さらに本発明は、臨床サンプルからウイルスを単離する方法であって、細胞、例えばVero細胞を、マクロライド系ポリエン抗生物質またはそれらの誘導体もしくは類似体の存在下において患者の気道からのウイルス粒子に感染させ、感染した細胞をマクロライド系ポリエン抗生物質またはそれらの誘導体もしくは類似体の存在下においてウイルスの成長を促進する適切な条件下にてインキュベートし、ウイルスを単離し、特徴決定する方法を提供する。
【0058】
インフルエンザウイルス監視プログラムは、臨床検体からのインフルエンザウイルスの単離のための有効なシステムを必要としている。通常この手法は、有胚ニワトリ卵またはMDCK細胞を、鼻-咽喉の洗浄から得られる物質に感染させることを含む。この手法の有効性は、ウイルスおよび細胞基質のタイプに応じて年々変化する。卵および時によりMDCKにおける単離によって、ヒト集団を循環する現実のウイルスとは異なる突然変異したウイルス変異体が生じ得ることが知られている。Vero由来ウイルスの特性がヒトウイルスの性質をより緊密に反映するので、Vero細胞はインフルエンザウイルスの単離および特徴決定のためのより良好な基質であり得ることが示されている(Romanova J., et al. 2003)。同時に、残念なことに、ウイルス単離におけるVero細胞株の感受性はMDCK細胞よりも低い。
【0059】
本発明によると、アムホテリシンBはVero細胞の臨床サンプルからのインフルエンザウイルスの単離を改善する。通常Vero細胞の臨床検体からそのウイルスを再単離することは非常に難しいのであるが、本発明による方法を用いると、陽性単離ケースの比率を増大させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】図1はインフルエンザウイルスの成長におけるアムホテリシンBの効果を示す。 Vero細胞のサブコンフルエントの単層を種々の感染多重度(moi)(0.001、0.0001および0.00001)においた。ウイルス成長培地は5μg/mlのトリプシンおよび0または250 ng/mlのアムホテリシンBを含有した。各感染多重度において、より速く成長するウイルスの細胞変性効果が50〜95%に達した時に、ウイルス(アムホテリシンB処置または非処置)を収集した。アムホテリシンBの存在下においてインキュベートした全てのウイルスについて、細胞変性効果およびそれに関与するウイルス力価は、アムホテリシンBの非存在下において成長したウイルスにおけるよりも速く上昇した。TCID50の力価を比較した。 図1aはH1N1株に対する効果を示す。 図1bはH3N2株に対する効果を示す。 図1cはインフルエンザB型株に対する効果を示す。
【図2】図2はアムホテリシンBの存在下および非存在下における力価測定の結果を示す。 a)インフルエンザB/Vienna/32/2006(A/Malaysia/2506/2004様)ウイルスを、アムホテリシンBの存在下(左のカラム)および非存在下(右のカラム)においてプラークアッセイにより力価測定した。アムホテリシンBの存在下において成長したウイルスは、ウイルス収率の約2.5 logの増加を示した。 b)A/New Caledonia/20/99(H1N1)様ΔNS1ウイルスを連続的に希釈し、250 ng/mlのアムホテリシンBの存在下および非存在下においてTCID50アッセイにより平行して力価測定した。3日間の37℃におけるインキュベーションの後、ウェルを細胞変性効果について評価し、力価を算出する。
【図3】図3はアムホテリシンBを用いた用量漸増研究を示す。 Vero細胞のサブコンフルエントの単層を0.001の感染多重度にてA/Vienna/28/2006(A/Wisconsin/67/2005様)(H3N2)ウイルスに感染させた。感染後、種々の濃度のアムホテリシンB(それぞれ0、31.25、62.5、125、250、500および1000 ng/ml)を成長培地に加えた。48時間後ウイルスを収集し、アムホテリシンBの存在下においてTCID50アッセイにより力価測定した。250〜500 ng/ml範囲の濃度を用いると最も高いウイルス力価が生じた。
【発明を実施するための形態】
【0061】
上記の説明は、以下の実施例を参照することにより、より完全に理解されるであろう。しかしながら、かかる実施例は、本発明の1以上の実施態様を実施する方法の単なる代表例であり、本発明の範囲を限定すると解釈してはならない。
実施例
【実施例1】
【0062】
本実験の目的は、減少していく感染多重度における様々なインフルエンザウイルスに対するアムホテリシンBの効果を測定することである。選択した3種のウイルスは現在循環しているサブタイプH1N1、H3N2およびB型を反映している(2006年7月の北半球における季節性ワクチンとしてWHOにより推薦されてもいる)。
(http://www.who.int/csr/disease/influenza/vaccinerecommendations1/en/)
【0063】
無血清Vero細胞のサブコンフルエントの単層を、0.001、0.0001または0.00001の減少していく感染多重度において感染させる。2つの代表的なインフルエンザA型ウイルス、A/New Caledonia/20/99(H1N1)およびA/Vienna/28/2006(H3N2)(A/Wisconsin/67/2005様)ならびに一候補としてインフルエンザB型、B/Vienna/32/2006(B/Malaysia/2506/2004様)を用いる。感染後に加えた成長培地に、5μg/mlのトリプシンならびに0または250 ng/mlのアムホテリシンBをそれぞれ補足する。同じ感染多重度において感染した全ての細胞(0および250 ng/mlのアムホテリシンB)の上清を、より速く成長するウイルスにおいて50%以上の細胞変性効果が観察された時に収集する。ウイルス力価をTCID50アッセイにより測定する。
【0064】
図1a、1bおよび1cにおいて示されるように、試験した3種のウイルス全てにおいて、アムホテリシンBのウイルス複製に対する正の効果が結論づけられる。A/New Caledonia/20/99(H1N1)について、ウイルス成長に対するアムホテリシンBの効果が観察できる。アムホテリシンBの存在下において、減少していく感染多重度(moi)における力価は8E+05〜2E+07 TCID50/mlの範囲であり、最も低い感染多重度において、アムホテリシンBを加えない場合に1 log低いウイルスが得られる。A/New Caledonia/20/99の場合、最も低い感染多重度0.00001が、ウイルスの成長およびアムホテリシンBの効果の観点においてもっとも最適なようである。
【0065】
A/Vienna/28/2006(H3N2)ウイルスは、H1N1ウイルスの結果を強固にし、試験物質の作用に対してさらにより高い感受性を示す。アムホテリシンBの存在下において成長させ、同時点に収集した場合、試験した全3つの感染多重度において、少なくとも1 log高いあるいはそれ以下の力価が得られる。
【0066】
さらにより著しい試験物質の効果がB/Vienna/32/2006(B/Malaysia/2506/2004様)ウイルスにおいて観察される。アムホテリシンの存在下において成長したウイルスについて測定された力価は、1.E+07(感染多重度0.001)〜1E+06(感染多重度0.00001)TCID50/mlの範囲である。対照的に、アムホテリシンを加えない場合、ウイルスはほとんど複製せず力価は3E+05 TCID50/mlを下回り、最も低い感染多重度においてはウイルスは全く得られない。A型ウイルスと比較して、B型ウイルスは試験物質に対して最も高い感受性を示す。これは、アムホテリシンBの存在下において無血清Vero細胞における成長に順応したという事実によって部分的に説明することができる。
【0067】
総じて、上述の3種の全てのウイルスサブタイプのウイルス成長に対してアムホテリシンBは明らかな効果を有すると結論づけることができる。
【0068】
材料および方法:
細胞およびウイルス:
Vero細胞は無血清条件にて培養し、用いた培地は4 mMのL-グルタミンを補足したOptiPro(商標)SFMである。細胞は2〜3日毎に1:3〜1:4の割合で継代して培養する。用いた成長培地は4 mM L-グルタミンを補足したSFMである。
【0069】
A/New Caledonia/20/99はNIBSCから入手し(製品番号03/208)、MDCK細胞上において3回継代する。無血清Vero細胞における成長への順応は、アムホテリシンBの非存在下においてVero細胞においてMDCK由来ウイルスを4回継代することにより行う。
【0070】
A/Vienna/28/2006(H3N2)、A/Wisconsin/67/2005(H3N2)様ウイルスは、臨床検体から単離し、MDCK細胞において1回継代し、アムホテリシンBの存在下、次いで非存在下において無血清Vero細胞において5回継代した。
【0071】
B/Vienna/32/2006、B/Malaysia/2506/2004様ウイルスは、MDCK細胞の臨床検体(2回継代)から単離し、次いでアムホテリシンBの存在下おいて無血清Vero細胞における成長に6回継代して順応させた。
【0072】
効力アッセイ
ウイルスの力価測定は、TCID50(組織培養感染量)アッセイ(96ウェルプレートにおいてウイルスの効力の統計学的測定が可能な、細胞に基づくアッセイ)により行った。ウイルスを連続的に希釈し、Vero細胞のサブコンフルエントの単層(96ウェルプレート)に感染させ、ウイルスを5μg/mlのトリプシンおよび250 ng/mlのアムホテリシンBの存在下、33℃(B型ウイルス)および37℃(A型ウイルス)にて成長させる。3〜6日間のインキュベーションの後、ウェルを細胞変性効果についてチェックし、力価をReed L.J. et al., 1938, Am.J.Hyg.27:493-497による式に基づいて算出する。
【実施例2】
【0073】
B型ウイルス(B/Malaysia/2506/2004様)およびA/H1N1ウイルス(A/New Caledonia/20/99(H1N1)様ΔNS1)をアムホテリシンBの存在下および非存在下において2種類の方法によって力価測定する。両方の場合において、図2aおよびbに示すように、最終ウイルス力価に対する試験物質の明らかな効果が観察できる。
【0074】
図2aにおいて、B/Vienna/32/2006(B/Malaysia/2506/2004様)ウイルスを連続的に希釈し、250 ng/mlのアムホテリシンの存在下および非存在下において平行してプラークアッセイにより力価測定する。5日間の33℃におけるインキュベーションの後、プラークをカウントし、その数を直接比較する。
【0075】
図2bにおいて、A/New Caledonia/20/99(H1N1)様ΔNS1ウイルスを連続的に希釈し、250 ng/mlのアムホテリシンBの存在下および非存在下において、TCID50アッセイにより平行して力価測定する。3日間の37℃におけるインキュベーションの後、ウェルを細胞変性効果について評価し、力価を算出する。
【0076】
図2aに見られるように、アムホテリシンBの存在下において同じウイルスを成長させる場合、2 logを超える、より高い力価が得られる。アムホテリシンBの存在下において、B型ウイルスの1E+08 pfu/mlより高い力価が得られる。この結果はプラークアッセイの感受性が試験物質を加えることにより有意に増加することを明確に示している。
【0077】
図2bにおいて、A/H1N1ウイルスをアムホテリシンBの存在下および非存在下においてTCID50により力価測定する。ここでも力価の有意な増加が観察され、感受性の1 log近くの増加が得られる。
【0078】
材料および方法:
細胞およびウイルス:
Vero細胞は無血清条件にて培養し、用いた培地は4 mMのL-グルタミンを補足したOptiPro(商標)SFMである。細胞を、37℃、5%CO2にて、2〜3日毎に1:3〜1:4の割合で継代して培養する。
【0079】
B/Vienna/32/2006はB/Malaysia/2506/2004様臨床分離株から得、MDCK細胞(2回継代)において単離し、次いで無血清Vero細胞における成長にアムホテリシンBの存在下において33℃にて6回継代して順応させる。
【0080】
A/New Caledonia/20/99(H1N1)様ΔNS1ウイルスはA/New Caledonia/20/99(H1N1)ウイルスの表面タンパク質HAおよびNAおよびA/Puerto Rico/8/34の内部分節を含有し、NS(非構造)分節の部分は除去されている。このウイルスは逆遺伝学的に創出され、アムホテリシンBの非存在下において37℃にてVero細胞において継代した。
【0081】
効力アッセイ
プラークアッセイ
ウイルスの力価測定をプラークアッセイにより行う。ウイルスを連続的に希釈し、Vero細胞のコンフルエントの単層に感染させ、オーバーレイは0.01%DEAE Dextrane、10x DMEM、飽和炭酸水素ナトリウム、5μg/mlのトリプシンおよび0または250 ngのアムホテリシンBを補足したVero成長培地からなる。
【0082】
TCID50アッセイ
TCID50(組織培養感染量)アッセイは、96ウェルプレートにおいてウイルスの効力を統計学的に測定することができる細胞に基づくアッセイである。ウイルスを連続的に希釈し、Vero細胞のサブコンフルエントの単層(96ウェルプレート)に感染させ、ウイルスを 5μg/mlのトリプシンの存在下において、および250 ng/mlのアムホテリシンBの存在下または非存在下において、37℃にて成長させる。3日のインキュベーション期間の後、ウェルを細胞変性効果についてチェックし、力価をReed L.J. et al., 1938, Am.J.Hyg.27:493-497による式に基づいて算出する。
【実施例3】
【0083】
この実験において、Vero細胞をA/Wisconsin/67/2005(H3N2)様ウイルスに感染させた後に種々の用量のアムホテリシンBを加える。増加していく濃度のアムホテリシンBによって、ウイルスの複製を促進させることができ、62.5〜1000 ng/mlの濃度において明らかな効果が示される。
【0084】
無血清Vero細胞のサブコンフルエントの単層を、感染多重度0.001にてA/Vienna/28/2006(H3N2)、A/Wisconsin/67/2005様ウイルスに感染させる。ウイルスを種々の濃度、すなわち0、31.25、62.5、125、250、500および1000 ng/mlのアムホテリシンB存在下において成長させる。ウイルスを48時間後に収集し、250 ng/mlのアムホテリシンBの存在下においてTCID50アッセイにより力価測定する。
【0085】
力価は8E+05〜4E+07 TCID50/mlの範囲にて得られた。最も低い2つの濃度(0および31.25 ng/ml)において、ウイルス力価は1E+06 TCID50/mlを下回り、一方、250および500 ng/mlのアムホテリシンBにおいて、ウイルス力価は3E+07 TCID50/mlを超えるまで増加する。結果の表示については図3を参照のこと。
【0086】
材料および方法:
細胞およびウイルス:
Vero細胞は無血清条件にて培養し、用いた培地は4 mMのL-グルタミンを補足したOptiPro(商標)SFMである。細胞を37℃、5%CO2にて2〜3日毎に1:3〜1:4の割合で継代して培養する。
【0087】
臨床検体から得た単離したA/Vienna/28/2006(H3N2)、A/Wisconsin/67/2005(H3N2)様ウイルスをMDCK細胞において1回継代し、アムホテリシンBの存在下、次いで非存在下において無血清Vero細胞において5回継代する。
【0088】
効力アッセイ
ウイルスの力価測定をTCID50(組織培養感染量)アッセイ(96ウェルプレートにおいてウイルスの効力の統計学的測定ができる細胞に基づくアッセイ)により行う。ウイルスを連続的に希釈し、Vero細胞のサブコンフルエントの単層(96ウェルプレート)に感染させ、ウイルスを5μg/mlのトリプシンおよび250 ng/mlのアムホテリシンBの存在下、33℃(B型ウイルス)および37℃(A型ウイルス)にて成長させる。3〜6日間のインキュベーションの後、ウェルを細胞変性効果についてチェックし、力価をReed L.J. et al., 1938, Am.J.Hyg.27:493-497による式に基づいて算出する。
【実施例4】
【0089】
トランスフェクション後のウイルスの効果的な救出のためのアムホテリシンBの使用
この実施例において、Hoffmanらにより報告されているように(いくつかの変更を含む)、無血清Vero細胞をA/Wisconsin/67/2005(H3N2)様ウイルスの8分節をコードする8プラスミドによりトランスフェクトする(Hoffmann E. et al., ProcNatlAcadSci, 2002, 99:11411-6)。250 ng/mlのアムホテリシンBおよび5μg/mlのトリプシンを含有する成長培地を6時間後に加える。6日間のトランスフェクション後、アムホテリシンBの存在下において成長したトランスフェクトされたウイルスの明確な細胞変性効果が観察され、アムホテリシンBの非存在下においても細胞変性効果のサインが見える時に、ウイルスを部分的に収集する。アムホテリシンB非存在下のウイルスをさらに3日間モニターすると、細胞変性効果が進行している何らかのサインは示されない。力価を250 ng/mlのアムホテリシンBの存在下においてTCID50アッセイにより測定する。
【0090】
表1に示されるように、アムホテリシンBの存在下において2E+04 TCID50/mlの力価が得られ、一方、非存在下においてはウイルスは検出できない。
【0091】
この実施例は、ウイルスはアムホテリシンBの存在下においてのみ効果的に救出することができ、さもなければ成長しないであろうことを明らかに示している。
【0092】
材料および方法:
細胞およびウイルス:
Vero細胞は無血清条件にて培養し、用いた培地は4 mMのL-グルタミンを補足したOptiPro(商標)SFMである。細胞を37℃、5%CO2にて2〜3日毎に1:3〜1:4の割合で継代して培養する。
【0093】
A/Vienna/28/2006(H3N2)は、臨床検体から得たA/Wisconsin/67/2005(H3N2)様ウイルスであり、MDCK細胞において1回継代し、次いでアムホテリシンBの存在下、次いで非存在下において無血清Vero細胞において5回継代する。
【0094】
ウイルスの分節を、ゲノムの鋳型としてのウイルスRNAならびにウイルスのタンパク質へとさらに加工するためのmRNAの転写を同時に行うことができるプラスミドへクローニングする(Hoffmann et al; Eight-plasmid system for the rapid generation of influenza vaccines, Vaccine(20). 2002)(そのプラスミドはそのように修飾されている)。全8プラスミドをエレクトロポレーションによりVero細胞へトランスフェクトする。トランスフェクションから6時間後、5μg/mlのトリプシンならびに0および250 ng/mlのアムホテリシンBをそれぞれ含有する無血清培地を加える。トランスフェクションされたウイルスを6日後に部分的に収集し、さらに3日間観察する。
【0095】
効力アッセイ
ウイルスの力価測定を、TCID50(組織培養感染量)アッセイ(96ウェルプレートにおいてウイルス効力を統計学的に測定できる細胞に基づくアッセイ)により行った。ウイルスを連続的に希釈し、Vero細胞のサブコンフルエントの単層(96ウェルプレート)に感染させ、ウイルスを5μg/mlのトリプシンおよび250 ng/mlのアムホテリシンB の存在下において33℃(B型ウイルス)および37℃(A型ウイルス)にて成長させる。6日までのインキュベーション期間の後、ウェルを細胞変性効果についてチェックし、力価をReed L.J. et al., 1938, Am.J.Hyg.27:493-497による式に基づいて算出する。
【0096】
表1は、アムホテリシンBの存在下および非存在下におけるトランスフェクション後のウイルスの救出を示す。Vero細胞をA/Wisconsin/67/2005(H3N2)様ウイルスの8分節をコードする8プラスミドによりトランスフェクトする。トランスフェクションから6時間後、5μg/mlのトリプシンおよび0または250 ng/mlのアムホテリシンBを含有する培地を加える。ウイルスをTCID50アッセイにより力価測定する。
【表1】

【実施例5】
【0097】
アムホテリシンBを用いるVero細胞の臨床サンプルからのウイルスの単離:
インフルエンザB型ウイルス感染が確認された患者からの9臨床サンプルを、アムホテリシンBの存在下または非存在下においてVero細胞におけるウイルス単離の頻度について評価した。アムホテリシンBを加えなかった場合、3検体からのウイルスのみが成功裡に単離された。500 ng/mlのアムホテリシンBを保持培地に加えた場合、9プローブ全てが同時に陽性であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウイルスの増殖のための培養栄養補助剤としての、マクロライド系ポリエン抗生物質またはそれらの誘導体もしくは類似体の使用。
【請求項2】
マクロライド系ポリエン抗生物質がアムホテリシンBまたはそれらの誘導体もしくは類似体である、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
マクロライド系ポリエン抗生物質が、0.5 ng/ml〜5μg/ml、好ましくは0.5 ng/ml〜2.5μg/ml、好ましくは10 ng/ml〜900 ng/ml、より好ましくは100ng/ml〜500 ng/ml、より好ましくは200 ng/ml〜400 ng/mlの濃度である、請求項1または2に記載の使用。
【請求項4】
ウイルスがDNAまたはRNAウイルスである、請求項1〜3のいずれかに記載の使用。
【請求項5】
ウイルスが、オルトミクソウイルス科、ピコルナウイルス科、トガウイルス科またはパラミクソウイルス科のファミリーのメンバーである、請求項1〜4のいずれかに記載の使用。
【請求項6】
RNAウイルスが、インフルエンザA型ウイルス、インフルエンザB型ウイルス、インフルエンザC型ウイルス、ライノウイルス、麻疹ウイルス、ムンプスウイルス、風疹ウイルス、狂犬病ウイルスまたはパラインフルエンザウイルス、およびそれらの誘導体または類似体またはフラグメントからなる群から選択される、請求項1〜5のいずれかに記載の使用。
【請求項7】
RNAウイルスが、NS1および/またはPB1遺伝子内に修飾を含有する、請求項1〜6のいずれかに記載の使用。
【請求項8】
前記修飾が、少なくとも1つの核酸欠失、地下または挿入である、請求項1〜7のいずれかに記載の使用。
【請求項9】
ウイルスが腫瘍溶解ウイルスである、請求項1〜8のいずれかに記載の使用。
【請求項10】
細胞が、BSC-1細胞、LLC-MK細胞、CV-1細胞、CHO細胞、COS細胞、ネズミ細胞、ヒト細胞、HeLa細胞、293細胞、VERO細胞、MDBK細胞、MDCK細胞、MDOK細胞、CRFK細胞、RAF細胞、TCMK細胞、LLC-PK細胞、PK15細胞、Wl-38細胞、MRC-5細胞、T-FLY細胞、BHK細胞、SP2/0細胞、NS0、PerC6(ヒト網膜細胞)、ニワトリ胚細胞またはそれらの誘導体、有胚卵細胞、有胚ニワトリ卵またはそれらの誘導体からなる群から選択される、請求項1〜9のいずれかに記載の使用。
【請求項11】
少なくとも0.1 log10、好ましくは少なくとも0.5 log10、より好ましくは少なくとも1 log10、より好ましくは少なくとも2 log10、さらにより好ましくは少なくとも2.5 log10のウイルス成長の増加を含む、請求項1〜10のいずれかに記載の使用。
【請求項12】
ウイルスのRNA分節を含有する発現プラスミドによるVero細胞のトランスフェクションのための、マクロライド系ポリエン抗生物質またはそれらの誘導体もしくは類似体の使用。
【請求項13】
マクロライド系ポリエン抗生物質またはそれらの誘導体もしくは類似体を用いるウイルス培養のために細胞を感染させる方法であって、以下の工程を含む方法:
a)細胞を少なくとも1つの感染性ウイルス粒子に感染させる、
b)マクロライド系ポリエン抗生物質およびそれらの誘導体または類似体をトリプシンとともに接種菌液および/または培養培地に加える、
c)適切な条件下におけるインキュベーション、次いで
d)ウイルス産物の収集、および必要に応じて
e)ウイルスの精製および/または特徴決定。
【請求項14】
生きた弱毒化ウイルスおよび少なくとも1つのマクロライド系ポリエン抗生物質またはそれらの誘導体もしくは類似体を含む医薬製剤。
【請求項15】
ウイルス粒子がインフルエンザウイルスおよび腫瘍溶解ウイルスからなる群から選択される、請求項14に記載の医薬製剤。
【請求項16】
ウイルス性癌の治療またはインフルエンザ感染の処置のための、請求項14または15に記載の医薬製剤の使用。
【請求項17】
a)マクロライド系ポリエン抗生物質またはそれらの誘導体もしくは類似体の存在下において細胞を患者の気道からのウイルス粒子に感染させ、
b)ウイルスの成長を促進するために、マクロライド系ポリエン抗生物質またはそれらの誘導体もしくは類似体の存在下において適切な条件下にて細胞をインキュベートし、
c)ウイルスを単離し、特徴決定する、
臨床サンプルからウイルスを単離する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2011−502466(P2011−502466A)
【公表日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−531844(P2009−531844)
【出願日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際出願番号】PCT/EP2007/060804
【国際公開番号】WO2008/043805
【国際公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【出願人】(509105271)エイヴィル・グリーン・ヒルズ・バイオテクノロジー・リサーチ・ディベロップメント・トレード・アクチェンゲゼルシャフト (1)
【氏名又は名称原語表記】AVIR GREEN HILLS BIOTECHNOLOGY RESEARCH DEVELOPMENT TRADE AG
【Fターム(参考)】