説明

ウイルス精製法

ろ過滅菌ステップが精製工程の最終ステップではない、ろ過滅菌ステップを含むレトロウイルス又はレンチウイルスベクター製剤の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レトロウイルスベクターの製造及び精製の改良法に関する。
【背景技術】
【0002】
遺伝子治療技術の成功は、ヒトに安全な方法で、導入した遺伝子の十分な発現を達成する能力に依存する。レトロウイルスは、とりわけ目的ヌクレオチド(NOI)又は複数のNOIを1つ又は複数の目的部位へ導入するための送達系(送達ビヒクル又は送達ベクターとも表現される)としてしばしば用いられる。レンチウイルスは非分裂細胞に感染することができるため(Lewis & Emerman (1993) J. Virol. 68:510)、レンチウイルスベクター系の開発にも相当な関心がもたれている。さらに、レンチウイルスベクターにより、目的遺伝子の非常に安定した長期的な発現が可能となる。その期間は、in vivoで形質導入したラット神経細胞で少なくとも1年間であることが示されている(Biennemannら (2003) Mol. Ther. 5:588)。
【0003】
ベクター精製方法は、臨床の遺伝子導入療法において重要なステップであり、純度及び力価の点で安全性及び効力に直接結び付く。ほとんどの小規模な実験的利用では、ベクターは遠心技術を用いた比較的簡単な方法で濃縮及び精製することができる。しかし、臨床使用目的の大規模な製造のために精製方法をスケールアップすることは、重要な課題を呈する。特に、ヒトに使用するためのベクターの製造を考えると、ベクター調製物の純度及び安全性を確保するために、ろ過による滅菌などのさらなるステップを行わなければならない。
【0004】
ベクター調製法は、一般に、安定に又は一過的にベクターを産生する細胞からベクターを得るステップ、及び例えばクロマトグラフィーを用いてウイルスベクターを精製するステップを含む。工業的方法では、最終ステップは滅菌ステップであり、通常、滅菌ステップの前に少なくとも1回の限外ろ過ステップを用いて、ウイルスベクターを濃縮し、及び/又はウイルスベクターを保存するバッファーを交換する。
【0005】
一部の刊行物には、細胞からのウイルスの精製法が記載されており、大部分は、細胞溶解物からウイルスを精製するための具体的なクロマトグラフィーマトリックスの使用が論じられている。例えば、米国特許第6,261,823号及び同第5,661,023号には、陰イオン交換樹脂単独の使用を含む方法が開示され、一方、米国特許第5,837,520号には、陰イオン交換クロマトグラフィーと、それに続くアフィニティークロマトグラフィーの逐次的組み合わせが開示されている。Yamadaらは、陰イオン交換HPLCを用いたレンチウイルスベクター精製法が、遺伝子導入の改善をもたらすことを示している(Yamadaら (2003) Biotechniques 34(5):1074-8, 1080)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第6,261,823号
【特許文献2】米国特許第5,661,023号
【特許文献3】米国特許第5,837,520号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Lewis & Emerman (1993) J. Virol. 68:510
【非特許文献2】Biennemannら (2003) Mol. Ther. 5:588
【非特許文献3】Yamadaら (2003) Biotechniques 34(5):1074-8, 1080
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
高い力価を保ちながら、純粋な生成物をもたらす大規模なレトロウイルスベクター精製法に対するニーズが残っている。本発明はこのニーズに対処するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、予想外にも、ろ過滅菌ステップが製造方法の最終ステップではない場合に、レトロウイルス及びレンチウイルスベクター製剤の製造方法の改善を達成できることを示した。特に、本発明者らは、濃縮ステップ(例えば限外ろ過による)に続いて行われるろ過滅菌ステップが、ウイルスベクター力価の相当な損失をもたらすことを見出した。レトロウイルス粒子の直径は80〜120 nmの範囲であり、それらは滅菌フィルターの孔を容易に通過するはずであることから、このことは驚くべきことであった。実際に、これは、機能的力価の損失が観察されずに日常的にろ過されている、ベクターを含有する細胞培養上清の場合である。従って、ベクター調製物を処理した後は、もはや回収の損失なく調製物をろ過滅菌することができない理由は明らかでなかった。
【0010】
さらに本発明者らは、驚くべきことに、最終濃縮ステップをろ過滅菌ステップ後に行うと、ベクター粒子収量の増加を得ることができることを見出した。このことは、濃縮ステップを伝統的にろ過滅菌ステップ前に行っている確立されたウイルス製造方法に反する。本発明者らはまた、例えばウイルス粒子調製物を希釈することによって、ろ過滅菌前に適切なベクター粒子濃度を保持することも、ベクター粒子収量を改善し得ることを見出した。方法のいくつかの段階中にベクター粒子濃度を低下させることにより、実際、最終的に生成物収量の改善が生じ得ることは驚くべきことである。
【0011】
本発明の方法によって製造される製剤を無菌希釈することによって、低用量製剤を製造し得ることは理解されるだろう。
【0012】
本発明の製造方法は、好ましくは治療薬としてヒトへの投与に適した臨床グレード製剤の大規模製造法である。
【0013】
本明細書に記載されるレトロウイルス及びレンチウイルスベクター製剤は、好ましくは治療薬としてヒトへの投与に適する。
【0014】
本発明の第一の態様において、ろ過滅菌ステップが製造方法の最終ステップではないろ過滅菌ステップを含む、レトロウイルス又はレンチウイルスベクター製剤の製造方法を提供する。
【0015】
好ましくは、レトロウイルスベクターはレンチウイルスベクターである。
【0016】
好ましくは、ろ過滅菌ステップは濃縮ステップの前にある。
【0017】
好ましくは、濃縮ステップは前記方法の最終ステップであり、ろ過滅菌ステップは前記方法の最後から2番目のステップである。
【0018】
好ましくは、濃縮ステップは、限外ろ過、好ましくはタンジェンシャルフローろ過(tangential flow filtration)、より好ましくは中空糸型限外ろ過(hollow fiber ultrafiltration)を用いて行う。
【0019】
好ましくは、ろ過滅菌ステップは、最大孔径約0.22μmの滅菌フィルターを用いて行う。別の好ましい実施形態において、最大孔径は0.2μmである。
【0020】
好ましい実施形態において、EIAV粒子の最適な回収率のために、ベクター濃度は、ろ過滅菌前に、調製物1mlあたり約4.6x1011以下のRNAゲノムコピーであるべきである。適切な濃度レベルは、適切な場合、例えば希釈ステップを用いてベクター濃度を調節することによって達成することができる。従って、一実施形態において、レトロウイルスベクター調製物をろ過滅菌前に希釈する。従って、当業者が予想より低いベクター粒子回収率を得た場合、ろ過滅菌前にベクター粒子の濃度を低下させることを検討するべきである。最適な回収率のための適切な力価レベルは、以下に、特に実施例に記載される技術を用いて決定することができる。
【0021】
本発明の第二の態様において、以下のステップ(i)〜(vi)を時系列で含む、レトロウイルスベクター製剤の製造方法を提供する:
(i)レトロウイルスベクターを産生する細胞を培養するステップ;
(ii)レトロウイルスベクターを含有する上清を回収するステップ;
(iii)場合により、上清を清澄化(clarifying)するステップ;
(iv)レトロウイルスベクターを精製してレトロウイルスベクター調製物を得るステップ;
(v)レトロウイルスベクター調製物をろ過滅菌するステップ;及び
(vi)レトロウイルスベクター調製物を濃縮し、最終バルク製品を製造するステップ。
【0022】
一実施形態において、本方法は清澄化ステップ(iii)を含まない。
【0023】
別の実施形態において、本方法は清澄化ステップ(iii)を含む。
【0024】
好ましくは、ステップ(vi)は、限外ろ過、又はタンジェンシャルフローろ過、より好ましくは中空糸型限外ろ過を用いて行う。
【0025】
好ましくは、ステップ(iv)の精製方法は、イオン交換クロマトグラフィー、より好ましくは陰イオン交換クロマトグラフィーである。
【0026】
好ましくは、ステップ(v)のろ過滅菌は、0.22μm又は0.2μm滅菌フィルターを用いて行う。
【0027】
好ましくは、ステップ(iii)はろ過清澄化(filter clarification)によって行う。
【0028】
好ましくは、ステップ(iv)は、クロマトグラフィー、限外ろ過/ダイアフィルトレーション(diafiltration)、若しくは遠心から選択される方法、又は方法の組み合わせを用いて行う。
【0029】
好ましくは、そのクロマトグラフィー法又は方法の組み合わせは、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、及び固定化金属イオンアフィニティークロマトグラフィーから選択される。
【0030】
好ましくは、遠心法は、ゾーン遠心分離法(zonal centrifugation)、等密度遠心法及びペレッティング遠心法(pelleting centrifugation)から選択される。
【0031】
好ましくは、限外ろ過/ダイアフィルトレーション法は、タンジェンシャルフローダイアフィルトレーション(tangential flow diafiltration)、撹拌細胞ダイアフィルトレーション(stirred cell diafiltration)及び透析から選択される。
【0032】
好ましくは、本発明の方法には精製を改善するために核酸を分解する少なくとも1つのステップが含まれる。
【0033】
好ましくは、前記ステップはヌクレアーゼ処理である。
【0034】
好ましくは、前記ヌクレアーゼは、ベンゾナーゼ(Benzonase)(登録商標)ヌクレアーゼである。
【0035】
好ましくは、1回又は複数回の核酸分解のステップは、ステップ(iv)まで及びステップ(iv)を含む1つ又は複数の段階で、本発明の方法において行う。
【0036】
好ましくは、本方法の精製ステップ(iv)はバッファー交換ステップを含む。
【0037】
好ましくは、本方法のステップ(vi)は限外ろ過を用いて行う。
【0038】
好ましくは、この限外ろ過はタンジェンシャルフローろ過を含む。
【0039】
好ましくは、この限外ろ過は中空糸型限外ろ過を含む。
【0040】
好ましくは、本方法のステップ(v)のろ過滅菌は、最大孔径約0.22μmの滅菌フィルターを用いて行う。
【0041】
好ましくは、バッファー交換は、先行するステップに用いたバッファーを製剤化バッファーと交換することを含む。
【0042】
好ましくは、この製剤化バッファーは、糖を含有するpH緩衝塩溶液である。
【0043】
好ましくは、このバッファーは、TRISベースのバッファーである。
【0044】
一実施形態において、ベクター粒子濃度をろ過滅菌前に希釈する。
【0045】
好ましくは、レトロウイルスベクターはレンチウイルスベクターである。
【0046】
より好ましくは、レンチウイルスベクターは、非霊長類レンチウイルスベクターである。
【0047】
より好ましくは、レンチウイルスベクターはEIAVに由来する。レンチウイルスベクターがEIAVに由来する場合、ろ過滅菌前のベクター粒子調製物中のEIAV粒子のベクター濃度は、1mlあたり4.6x1011以下のRNAゲノムコピーである。
【0048】
好ましくは、レトロウイルスベクターは目的ヌクレオチド(NOI)を含む。
【0049】
好ましくは、本発明の製造方法は、患者への投与に適したレトロウイルスベクター製剤を製造するためのものである。患者はヒト又は動物であり得る。一実施形態において、レトロウイルスベクター製剤は、患者の目への投与に適したものである。別の実施形態において、レトロウイルスベクター製剤は、患者の脳への投与に適したものである。
【0050】
一部の実施形態において、本製造方法は、注射による患者への投与に適したレトロウイルスベクター製剤を製造するためのものである。一実施形態において、レトロウイルスベクター製剤は、場合によりヒト又は動物の目の硝子体茎切除術後の、直接網膜下注入に適したものである。別の実施形態において、レトロウイルスベクター製剤は、ヒト又は動物の脳線条体への直接注入に適したものである。
【0051】
一部の実施形態において、本製造方法は、ex vivo投与に適したレトロウイルスベクター製剤を製造するためのものである。
【0052】
他の実施形態において、本製造方法は、患者から得ることができる細胞への投与に適したレトロウイルスベクター製剤を製造するためのものである。
【0053】
本発明の第四の態様において、本発明の方法によって得ることができるレトロウイルスベクター製剤を提供する。一部の実施形態において、レトロウイルスベクター製剤は、遺伝子治療用である。遺伝子治療用医薬の製造におけるレトロウイルスベクター製剤の使用も提供する。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1−1】図1−1は、レトロウイルスベクター製造方法の概要である。
【図1−2】図1−2は、図1−1の続きである。
【発明を実施するための形態】
【0055】
以降、本発明の様々な好ましい特徴及び実施形態を非限定的な例によって説明する。
【0056】
本発明の実施には、別段に指定しない限りは、当業者の能力範囲にある化学、分子生物学、微生物学、組換えDNA学及び免疫学の慣用技術を用いる。このような技術は文献中に説明されている。例えば、J. Sambrook, E. F. Fritsch, and T. Maniatis (1989) Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 第2版, Book 1-3, Cold Spring Harbor Laboratory Press; Ausubel, F. M.ら (1995及び定期的補遺) Current Protocols in Molecular Biology, Ch. 9, 13及び16, John Wiley & Sons, New York, NY; B. Roe, J. Crabtree, and A. Kahn (1996) DNA Isolation and Sequencing: Essential Techniques, John Wiley & Sons; J. M. Polak and James O’D. McGee (1990) In Situ Hybridization: Principles and Practice; Oxford University Press; M. J. Gait (編) (1984) Oligonucleotide Synthesis: A Practical Approach, IRL Press; 及びD. M. J. Lilley and J. E. Dahlberg (1992) Methods of Enzymology: DNA Structure Part A: Synthesis and Physical Analysis of DNA Methods in Enzymology, Academic Press. Roe, Simon, 編 Protein Purification Techniques. 第2版 Oxford: Oxford University Press, 2001, Sofer, Gail and Hagel, Lars. Handbook of Process Chromatography: A Guide to Optimization, Scale-up, and Validation. London and San Diego: Academic Press, 1997, Janson, Jan-Christer and Ryden, Lars編, Protein Purification: Principles, High Resolution Methods, and Applications. 第2版 New York: John Wiley & Sons, Inc., 1998, Masters, John R.W.編, Animal Cell Culture: A Practical Approach. 第3版 Oxford: Oxford University Press, 2000を参照されたい。これら一般的な書籍のそれぞれは参照により本明細書に援用される。
【0057】
ポリヌクレオチド
本発明で用いるポリヌクレオチドは、DNA又はRNA配列を含み得る。それらは、一本鎖又は二本鎖であってよい。当業者は、遺伝コードの縮重の結果として、多くの異なるポリヌクレオチドが同じポリペプチドをコードし得ることを理解するだろう。さらに、ポリペプチドを発現させる任意の特定の宿主生物のコドン使用頻度を反映するため、当業者であれば本発明において用いるポリヌクレオチドがコードするポリペプチド配列に影響しないヌクレオチド置換を通常の技術を用いて作製し得ることは、理解されるだろう。ポリヌクレオチドは、当技術分野で利用可能ないずれの方法によっても改変することができる。そのような改変は、本発明のポリヌクレオチドのin vivoでの活性又は寿命を増進するために行うことができる。
【0058】
DNAポリヌクレオチドなどのポリヌクレオチドは、組換えにより、合成により、又は当業者が利用可能な任意の手段により作製し得る。それらは、標準的技術によってクローン化することもできる。
【0059】
より長いポリヌクレオチドは、一般に、組換え手段、例えばPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)クローニング技術を用いて作製する。これは、クローン化を望む配列の領域に隣接するプライマー対(例えば約15〜30ヌクレオチド)を作製し、プライマーを動物又はヒト細胞から得られたmRNA又はcDNAと接触させ、所望の領域の増幅をもたらす条件下でポリメラーゼ連鎖反応を行い、増幅された断片を単離し(例えばアガロースゲル上で反応混合物を精製することにより)、そして増幅DNAを回収することを含む。プライマーは、増幅DNAを適切なクローニングベクターにクローン化可能なように、適切な制限酵素認識部位を含むように設計され得る。
【0060】
タンパク質
本明細書で用いる場合、「タンパク質」という用語は、一本鎖ポリペプチド分子、及び個々の構成ポリペプチドが共有結合又は非共有結合で結合している複数ポリペプチド複合体を含む。本明細書で用いる場合、「ポリペプチド」及び「ペプチド」という用語は、モノマーがアミノ酸であり、ペプチド結合又はジスルフィド結合を介して結合しているポリマーを指す。
【0061】
変異体、誘導体、類似体、相同体及び断片
本明細書に記載する特定のタンパク質及びヌクレオチドに加えて、本発明はまた、それらの変異体、誘導体、類似体、相同体及び断片の使用を含む。
【0062】
本発明において、任意の配列の変異体は、目的のポリペプチド又はポリヌクレオチドが少なくとも1つの内因的機能を保持するように、残基(アミノ酸残基又は核酸残基)の特定の配列を改変した配列である。変異体配列は、天然のタンパク質に存在する少なくとも1つの残基の付加、欠失、置換(substitution)、修飾、交換(replacement)及び/又は変形(variation)によって得ることができる。
【0063】
本明細書で用いる「誘導体」という用語は、本発明のタンパク質又はポリペプチドに関して、得られたタンパク質又はポリペプチドが少なくとも1つの内因的機能を保持することを条件として、その配列からの又はその配列への1つ(又は複数)のアミノ酸残基の置換、変形、修飾、交換、欠失及び/又は付加を含む。
【0064】
本明細書で用いる「類似体」という用語は、ポリペプチド又はポリヌクレオチドに関して、任意の模倣分子(mimetic)、つまり、それが模倣するポリペプチド又はポリヌクレオチドの少なくとも1つの内因的機能を有する化合物を含む。
【0065】
典型的には、アミノ酸置換は、改変された配列が必要な活性又は能力を保持することを条件として、例えば1、2又は3〜10又は20個の置換で作製され得る。アミノ酸置換は、天然に存在しない類似体の使用を含み得る。
【0066】
本発明で用いるタンパク質はまた、サイレント変化(silent change)を作製し、機能的に等価なタンパク質をもたらすアミノ酸残基の欠失、挿入又は置換を有し得る。輸送又は調節(modulation)機能を保持する限りは、残基の極性、電荷、溶解性、疎水性、親水性、及び/又は両親媒性性質の類似性に基づいて、計画的なアミノ酸置換を行うことができる。例えば、負電荷を持つアミノ酸としては、アスパラギン酸及びグルタミン酸があり;正電荷を持つアミノ酸としては、リシン及びアルギニンがあり;並びに類似した親水性値を有する非電荷極性頭部基を持つアミノ酸としては、ロイシン、イソロイシン、バリン、グリシン、アラニン、アスパラギン、グルタミン、セリン、トレオニン、フェニルアラニン、及びチロシンがある。
【0067】
例えば以下の表に従って、保存的置換を行うことができる。2列目において同じブロックにあり、且つ、好ましくは3列目において同じ行にあるアミノ酸を互いに置換し得る。
【0068】

【0069】
「断片」は変異体でもあり、この用語は、典型的には、機能的に興味のある又は例えばアッセイにおいて興味のあるポリペプチド又はポリヌクレオチドの選択された領域を指す。従って「断片」とは、全長ポリペプチド又はポリヌクレオチドの一部分であるアミノ酸配列又は核酸配列を指す。
【0070】
そのような変異体は、部位特異的変異導入などの標準的組換えDNA技術を用いて調製し得る。挿入を行う場合、挿入部分と、挿入部位のいずれかの側の天然の配列に対応する5'及び3'隣接領域とをコードする合成DNAを使用する。配列が適切な酵素(複数可)で切断され、切断部に合成DNAが連結できるように、隣接領域は、天然の配列中の部位に対応する都合のよい制限酵素認識部位を含む。次いで、本発明においてDNAが発現され、コードされたタンパク質を産生する。これらの方法は、DNA配列の操作について当技術分野で公知の多くの標準的技術の一例にすぎず、他の公知技術も用いることができる。
【0071】
レトロウイルス
当分野で周知のように、ベクターとは、実体(entity)が1つの環境から別の環境へと移行することを可能又は容易にするツールである。本発明は、例として、組換えDNA技術で用いる一部のベクターによって、DNAセグメント(例えば異種cDNAセグメントなどの異種DNAセグメント)などの実体を宿主細胞内に導入することが可能となる。組換えDNA技術で用いるベクターの例としては、限定されるものではないが、プラスミド、染色体、人工染色体又はウイルスが挙げられる。
【0072】
「発現ベクター」という用語は、in vivo又はin vitro/ex vivoの発現が可能な構築物を意味する。
【0073】
本発明の態様で用いるレトロウイルスベクターは、任意の適切なレトロウイルスに由来してもよいし、又はそれから誘導可能なものである。多数の様々なレトロウイルスが同定されている。例としては、マウス白血病ウイルス(murine leukemia virus、MLV)、ヒト免疫不全ウイルス(human immunodeficiency virus、HIV)、ヒトT細胞白血病ウイルス(human T-cell leukemia virus、HTLV)、マウス乳癌ウイルス(mouse mammary tumour virus、MMTV)、ラウス肉腫ウイルス(Rous sarcoma virus、RSV)、藤浪肉腫ウイルス(Fujinami sarcoma virus、FuSV)、モロニーマウス白血病ウイルス(Moloney murine leukemia virus、Mo-MLV)、FBRマウス骨肉腫ウイルス(FBR murine osteosarcoma virus、FBR MSV)、モロニーマウス肉腫ウイルス(Moloney murine sarcoma virus、Mo-MSV)、アベルソンマウス白血病ウイルス(Abelson murine leukemia virus、A-MLV)、トリ骨髄球腫症ウイルス-29(Avian myelocytomatosis virus-29、MC29)、及びトリ赤芽球症ウイルス(Avian erythroblastosis virus、AEV)が挙げられる。レトロウイルスの詳細なリストは、Coffinら, 1997, "Retroviruses", Cold Spring Harbor Laboratory Press, JM Coffin, SM Hughes, HE Varmus編 pp 758-763に見出すことができる。
【0074】
レトロウイルスは大きく2つのカテゴリー、すなわち、「単純」及び「複合」に分類し得る。レトロウイルスは、さらに7つの群に分類し得る。これらの群のうち5つは、発癌の潜在性を有するレトロウイルスを表す。残りの2つの群はレンチウイルス及びスプマウイルスである。これらのレトロウイルスの総説は、Coffinら, 1997 (前掲)に示されている。
【0075】
組換えレトロウイルスベクター粒子は、目的ヌクレオチド(NOI)を受容細胞に形質導入することができる。一度細胞内に入ると、ベクター粒子からのRNAゲノムはDNAへと逆転写され、受容細胞のDNAに組み込まれる。
【0076】
本発明の方法で用いる典型的なベクターでは、複製に必須の1つ又は複数のタンパク質コード領域の少なくとも一部をウイルスから取り除き得る。これにより、ウイルスベクターは複製に欠陥をもつこととなる。また、標的の非分裂宿主細胞に形質導入することができ、及び/又はそのゲノムを宿主ゲノム内に組み込むことができるNOIを含むベクターを産生するために、ウイルスゲノムの一部をNOIで置き換えてもよい。
【0077】
レンチウイルスベクター
本発明においてレンチウイルスベクターは、任意の適切なレンチウイルスに由来してもよいし、又はそれから誘導可能であり得る。
【0078】
レンチウイルスベクターは、レトロウイルスベクターの大きな群の一部である。レンチウイルスの詳細なリストは、Coffinら (1997) "Retroviruses" Cold Spring Harbor Laboratory Press, JM Coffin, SM Hughes, HE Varmus編 pp 758-763に見出すことができる。手短に述べると、レンチウイルスは霊長類群及び非霊長類群に分類することができる。霊長類レンチウイルスの例としては、限定されるものではないが、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、すなわちヒト自己免疫不全症(auto-immunodeficiency syndrome、AIDS)の原因因子、及びサル免疫不全ウイルス(simian immunodeficiency virus、SIV)が挙げられる。非霊長類レンチウイルス群としては、プロトタイプ「遅発性ウイルス」のビスナ/マエディウイルス(visna/maedi virus、VMV)、並びにそれに関連するヤギ関節炎脳炎ウイルス(caprine arthritis-encephalitis virus、CAEV)、ウマ伝染性貧血ウイルス(equine infectious anaemia virus、EIAV)、さらにより最近になって記述されているネコ免疫不全ウイルス(feline immunodeficiency virus、FIV)及びウシ免疫不全ウイルス(bovine immunodeficiency virus、BIV)が挙げられる。
【0079】
レンチウイルス科は、レンチウイルスが分裂細胞及び非分裂細胞のどちらにも感染する能力を有する点で、レトロウイルスと異なる(Lewisら (1992); Lewis and Emerman (1994))。対照的に、MLVなどの他のレトロウイルスは、非分裂細胞又は分裂が遅い細胞、例えば筋肉、脳、肺及び肝臓組織を構成する細胞に感染することができない。
【0080】
本明細書中で用いる場合、レンチウイルスベクターとは、レンチウイルスから誘導可能な構成部分を少なくとも1つ含むベクターである。好ましくは、その構成部分は、ベクターが細胞に感染する、遺伝子を発現する、又は複製される生物学的機構に関与している。
【0081】
レトロウイルスゲノム及びレンチウイルスゲノムの基本構造は、5'LTR及び3'LTRなどの多くの共通の特徴を有し、この5'LTR及び3'LTRの間又は内部には、ゲノムのパッケージングを可能にするパッケージングシグナル、プライマー結合部位、宿主細胞ゲノム内への組込みを可能にする組込み部位、並びにパッケージング成分をコードするgag、pol及びenv遺伝子(これらはウイルス粒子の組立てに必要なポリペプチドである)が位置する。レンチウイルスは、組み込まれたプロウイルスのRNA転写物が、感染した標的細胞の核から細胞質へと効率的に輸送されることを可能にする、HIV中のrev及びRRE配列などの、さらなる特徴を有する。
【0082】
プロウイルス内では、ウイルス遺伝子の両末端に長い末端反復配列(LTR)と呼ばれる領域が隣接している。LTRはプロウイルスの組込み及び転写に寄与している。LTRはまた、エンハンサー−プロモーター配列としての役割も果たし、ウイルス遺伝子の発現を制御することができる。
【0083】
LTR自体は、U3、R及びU5と呼ばれる3つの要素に分割することができる同一の配列である。U3はRNAの3'末端に固有の配列に由来する。RはRNAの両末端で反復する配列に由来し、U5はRNAの5'末端に固有の配列に由来する。3つの要素の大きさは、様々なウイルス間で大幅に変化し得る。
【0084】
欠陥をもつレンチウイルスベクターゲノムでは、gag、pol及びenvは存在しないか、又は機能的ではないことがある。RNAの両末端にあるR領域は反復配列である。U5及びU3はそれぞれRNAゲノムの5'及び3'末端の固有の配列を表す。
【0085】
本発明の典型的なレンチウイルスベクターでは、複製に必須の1つ又は複数のタンパク質コード領域の少なくとも一部をウイルスから取り除き得る。これにより、ウイルスベクターは複製に欠陥をもつこととなる。また、標的の非分裂宿主細胞に形質導入することができ、及び/又はそのゲノムを宿主ゲノム内に組み込むことができるNOIを含むベクターを産生するために、ウイルスゲノムの一部をNOIで置き換えてもよい。
【0086】
一実施形態において、レトロウイルスベクターは、WO 2007/071994号に記載されている非組込み型ベクターである。
【0087】
さらなる実施形態において、ベクターは、ウイルスRNAを持っていない又は欠いている配列を送達する能力を有する。さらなる実施形態において、送達されるRNA上に位置する異種結合ドメイン(gagに対して異種である)及びgag若しくはpol上の同種結合ドメインを用いて、送達されるRNAのパッケージングを確実に行うことができる。これらのベクターはともに、WO 2007/072056号に記載されている。
【0088】
レンチウイルスベクターは、「非霊長類」ベクター、すなわち霊長類、特にヒトに本来感染しないウイルスに由来し得る。
【0089】
非霊長類レンチウイルスの例は、自然には霊長類に感染しないレンチウイルス科の任意のメンバーであってよく、ネコ免疫不全ウイルス(FIV)、ウシ免疫不全ウイルス(BIV)、ヤギ関節炎脳炎ウイルス(CAEV)、マエディビスナウイルス(Maedi visna virus、MVV)又はウマ伝染性貧血ウイルス(EIAV)が挙げられる。
【0090】
特に好ましい実施形態において、ウイルスベクターはEIAV由来である。EIAVはレンチウイルスの最も単純なゲノム構造を有しており、本発明での使用に特に好ましい。EIAVは、gag、pol及びenv遺伝子に加えて3つの他の遺伝子、すなわちtat、rev、及びS2をコードする。TatはウイルスのLTRの転写活性化因子として作用し(Derse and Newbold (1993); Mauryら (1994))、Revはrev応答エレメント(RRE)によってウイルス遺伝子の発現を調節及び調整(coordinate)する(Martaranoら (1994))。これら2つのタンパク質の作用機構は、霊長類ウイルスの類似機構に大まかに似ていると考えられている(Martanoら 前掲)。S2の機能は知られていない。さらに、EIAVタンパク質であるTtmが同定されており、これは、膜貫通タンパク質の開始点にあるenvコード配列までスプライシングされるtatの第1のエキソンによってコードされている。
【0091】
本発明の好ましいベクターは、組換えレンチウイルスベクターである。
【0092】
「組換えレンチウイルスベクター」という用語は、パッケージング成分の存在下で、標的細胞に感染することができるウイルス粒子へのRNAゲノムのパッケージングを可能にするのに十分なレンチウイルスの遺伝情報を有するベクターを指す。標的細胞への感染は、逆転写及び標的細胞ゲノムへの組込みを含み得る。組換えレンチウイルスベクターは、ベクターによって標的細胞内へ送達される非ウイルス性のコード配列を有する。組換えレンチウイルスベクターは、最終標的細胞内で独立に複製して感染性レンチウイルス粒子を産生することができない。通常、組換えレンチウイルスベクターは、機能的なgag-pol及び/若しくはenv遺伝子並びに/又は複製に必須の他の遺伝子を欠く。本発明のベクターはスプリットイントロンベクターとして構成し得る。スプリットイントロンベクターは、PCT特許出願WO 99/15683号に記載されている。
【0093】
好ましくは、本発明の組換えレンチウイルスベクターは最小ウイルスゲノムを有する。
【0094】
本明細書中で使用する場合、「最小ウイルスゲノム」という用語は、非必須要素が取り除かれ、標的宿主細胞に感染し、目的ヌクレオチド配列を形質導入し、そして送達するために必要な機能を提供するための必須要素が保持されるよう、ウイルスベクターを操作したこと意味する。この方法に関するさらなる詳細は、本発明者らのWO 98/17815号に見つけることができる。
【0095】
本発明の一実施形態では、ベクターは自己不活性化ベクターである。
【0096】
例として、3'LTRのU3領域中の転写エンハンサー又はエンハンサー及びプロモーターを欠失させることによって、自己不活性化レトロウイルスベクターが構築されている。一回のベクターの逆転写及び組込みの後、これらの変更が、転写を不活性化させたプロウイルスを産生する5'及び3'LTRの両方にコピーされる(Yuら (1986) Proc. Natl. Acad. Sci. 83: 3194-3198;Dougherty and Temin (1987) Proc. Natl. Acad. Sci. 84: 1197-1201;Hawleyら (1987) Proc. Natl. Acad. Sci. 84: 2406-2410;Yeeら (1987) Proc. Natl. Acad. Sci. 91: 9564-9568)。しかし、このようなベクター中のLTRの内部にある任意のプロモーター(複数可)は、それでも転写時に活性である。この方法は、内部に配置された遺伝子からの転写に対する、ウイルスのLTR中のエンハンサー及びプロモーターの効果を排除するために用いた。そのような効果としては、転写の増加(Jollyら (1983) Nucleic Acids Res. 11: 1855-1872)又は転写の抑制(Emerman and Temin (1984) Cell 39: 449-467)がある。また、この方法は、3'LTRからゲノムDNAへの下流転写を排除するためにも用いることができる(Herman and Coffin (1987) Science 236: 845-848)。これは、内在性発癌遺伝子の偶発的な活性化を防ぐことが非常に重要であるヒトの遺伝子治療において特に関心がもたれる。
【0097】
しかし、宿主細胞/パッケージング細胞内でウイルスゲノムを産生させるために用いられるプラスミドベクターは、宿主細胞/パッケージング細胞内でのゲノムの転写を指令するために、レンチウイルスゲノムに機能的に連結している転写調節制御配列も含む。これらの調節配列は、転写されたレンチウイルスの配列に結合した天然配列、すなわち5'U3領域であってもよいし、又は別のウイルスのプロモーター、例えばCMVプロモーターなどの異種プロモーターであってもよい。一部のレンチウイルスゲノムは、効率的にウイルスを産生するために追加の配列を必要とする。例えば、HIVの場合、rev及びRRE配列が含まれることが好ましい。しかし、rev及びRREの必要性は、コドンの最適化によって軽減又は排除され得る。この方法のさらなる詳細は、本発明者らのWO 01/79518号に見つけることができる。rev/RRE系と同じ機能を行う別の配列も知られている。例えば、rev/RRE系の機能的な類似体がメーソンファイザー(Mason Pfizer)サルウイルス中に見られる。これは構成的輸送エレメント(CTE)として知られており、ゲノム中にRRE型の配列を含み、これが感染した細胞内で因子と相互作用すると考えられている。細胞性因子はrev類似体とみなすことができる。従って、CTEをrev/RRE系の代替法として用いることができる。公知の、又は利用可能となる任意の別の機能的な均等物が本発明に関連し得る。例えば、HTLV-IのRexタンパク質が、HIV-1のRevタンパク質を機能的に置き換え得ることも知られている。また、Rev及びRexがIRE-BPに対して同様の効果を有することも知られている。
【0098】
特に好ましい実施形態において、本発明におけるレンチウイルスベクターは、ウマ伝染性貧血ウイルス(EIAV)に由来し、好ましくはドーパミン合成経路に関与する3つの酵素をコードする、自己不活性化最小レンチウイルスベクターから成る。そのようなベクターがコードするタンパク質は、ヒトチロシンヒドロキシラーゼ(TH*)遺伝子の切断型(THのフィードバック制御に関与するN末端160アミノ酸を欠失している)、ヒト芳香族L-アミノ酸デカルボキシラーゼ(AADC)、及びヒトGTP-シクロヒドロラーゼ1(CH1)遺伝子を含み得る。(1)組換えEIAVプロサビン(ProSavin)(登録商標)(Oxford BioMedica plc, Oxford UK)ベクターゲノム(pONYK1-ORT、WO 02/29065号及びFarleyら (2007) J. Gen. Med. 9:345-356)、(2)合成EIAV gag/pol発現ベクター(pESGPK、WO 01/79518号、WO 05/29065号)、(3)VSV-Gエンベロープ発現ベクター(pHGK)をコードする3つのプラスミドを用いた、細胞(例えばHEK293T細胞)の一過的トランスフェクションによって、ベクターを産生し得る。
【0099】
パッケージング配列
本発明で用いる場合、「パッケージング配列」又は「psi」と互換的に記載される「パッケージングシグナル」という用語は、ウイルス粒子の形成中にレンチウイルスRNA鎖のキャプシド形成に必要な、非コード性、シス作用性の配列に関して用いる。HIV-1では、この配列は、主要なスプライスドナー部位(SD)の上流から少なくともgag開始コドンまで延びている遺伝子座にマッピングされている。
【0100】
本明細書で用いる場合、「長い(extended)パッケージングシグナル」又は「長いパッケージング配列」という用語は、gag遺伝子へのさらなる延長部を有するpsi配列周辺の配列の使用を指す。これらの追加のパッケージング配列を含むことによって、ウイルス粒子中へのベクターRNAの挿入の効率は増大し得る。
【0101】
シュードタイプ作製(Pseudotyping)
好ましいことに、本発明のレトロウイルスベクターのシュードタイプを作製した。この点において、シュードタイプ作製によって1つ又は複数の利点を与えることができる。例えば、レンチウイルスベクターでは、HIVに基づくベクターのenv遺伝子産物により、これらのベクターがCD4と呼ばれるタンパク質を発現する細胞にのみ感染するよう制限される。しかし、これらのベクター中のenv遺伝子を他のRNAウイルス由来のenv配列で置き換えると、感染範囲がより広範になり得る(Verma and Somia (1997))。例として、Millerらは、両種性レトロウイルス4070A由来のエンベロープを用いてMoMLVベクターのシュードタイプを作製し(Mol. Cell. Biol. 5:431-437)、他の研究者は、VSV由来の糖タンパク質を用いてHIV系ベクターのシュードタイプを作製した(Verma and Somia (1997))。
【0102】
別の代替方法では、Envタンパク質は、突然変異体又は操作したEnvタンパク質などの改変型Envタンパク質であり得る。改変は、標的化能力を導入するため若しくは毒性を軽減させるため、又は別の目的のために行い又は選択し得る(Valsesia-Wittmanら (1996); Nilsonら (1996); Fieldingら (1998)及びそれらに記載される引用文献)。
【0103】
選択した任意の分子を用いてレトロウイルスベクターのシュードタイプを作製し得るが、VSV-Gエンベロープが特に好ましい。
【0104】
VSV-G:
ラブドウイルスである水疱性口内炎ウイルス(Vesicular stomatitis virus、VSV)のエンベロープ糖タンパク質(G)は、一部のレトロウイルスのシュードタイプを作製できることが示されているエンベロープタンパク質である。
【0105】
レトロウイルスエンベロープタンパク質の非存在下でMoMLVに基づくレトロウイルスベクターのシュードタイプを作製するその能力は、Emiら (1991) J. Virol. 65:1202-1207によって初めて示された。WO 94/294440号は、VSV-Gを用いてレトロウイルスベクターのシュードタイプをうまく作製し得ることを教示している。これらのシュードタイプ化VSV-Gベクターは、広範な哺乳動物細胞に形質導入するために使用することができる。最近になって、Abeら (1998) J. Virol. 72(8) 6356-6361は、非感染性レトロウイルス粒子を、VSV-Gを付加することで感染性にし得ることを教示している。
【0106】
Burnsら (1993) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:8033-7は、VSV-Gを用いてレトロウイルスMLVのシュードタイプの作製に成功し、これにより、自然な形態のMLVに比べて宿主範囲が変更したベクターが得られた。VSV-Gでシュードタイプを作製したベクターは、哺乳動物細胞だけでなく、魚類、爬虫類及び昆虫類に由来する細胞株にも感染することが示されている(Burnsら (1993) 前掲)。それらはまた、様々な細胞株について従来の両種性エンベロープより効率がよいことも示されている(Yeeら, (1994) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91:9564-9568, Lin, Emiら (1991) J. Virol. 65:1202-1207)。VSV-Gタンパク質はまた、細胞質尾部がレトロウイルスのコアと相互作用することができるために、一部のレンチウイルス及びレトロウイルスのシュードタイプを作製するために用いることができる。
【0107】
VSV-Gタンパク質などの非レンチウイルスのシュードタイプ作製エンベロープを提供することは、感染性を失うことなく高い力価までベクター粒子を濃縮できるという利点をもたらす(Akkinaら (1996) J. Virol. 70:2581-5)。レンチウイルス及びレトロウイルスエンベロープタンパク質は、おそらく2つの非共有結合するサブユニットからなるために、超遠心中のせん断力に耐えることができないようである。サブユニット間の相互作用は、遠心によって崩壊し得る。それに対し、VSV糖タンパク質は、単一のユニットから成る。従って、VSV-Gタンパク質を用いたシュードタイプ作製は、潜在的な利点を提供し得る。
【0108】
WO 00/52188号には、水疱性口内炎ウイルス-Gタンパク質(VSV-G)を膜結合型ウイルスエンベロープタンパク質として有する、安定な産生細胞株からのシュードタイプ化レトロウイルスベクターの産生が記載され、VSV-Gタンパク質の遺伝子配列が提供されている。
【0109】
ロスリバーウイルス
ロスリバーウイルスのエンベロープは、非霊長類レンチウイルスベクター(FIV)のシュードタイプ作製に用いられており、全身投与した後、主に肝臓に形質導入される(Kangら (2002))。その効率はVSV-Gでシュードタイプを作製したベクターで得られたものよりも20倍高く、且つそれにより引き起こされる、肝毒性を示唆する肝臓酵素の血清レベルによって測定した細胞毒性が低かったことが報告されている。
【0110】
ロスリバーウイルス(Ross River Virus、RRV)とは、オーストラリアの熱帯及び温帯地域に特有且つ流行性である、蚊によって伝播するαウイルスである。温暖な沿岸域における正常集団の抗体保有率は低い傾向があるが(6%〜15%)、マレーバレー(Murrey Valley)水系の平野における血清陽性率は27〜37%に至る。1979〜1980年に、ロスリバーウイルスは太平洋諸島で異常発生した。この疾患はヒトの間で接触感染性はなく、致死性となることはないが、その第1の症状は、患者の約半数で疲労及び嗜眠を伴う関節痛であった(Fields Virology)。
【0111】
バキュロウイルスGP64
バキュロウイルスのGP64タンパク質は、臨床及び市販の用途に必要な、高力価のウイルスの大規模な産生に用いられるウイルスベクターに関して、VSV-Gの魅力的な代替物であることが示されている(Kumar M, Bradow BP, Zimmerberg J (2003) Hum. Gene Ther. 14(1):67-77)。VSV-Gでシュードタイプを作製したベクターと比較すると、GP64でシュードタイプを作製したベクターは同様の広範な親和性及び同様のネイティブ力価を有する。GP64の発現により細胞が死滅しないので、GP64を構成的に発現する293Tに基づく細胞株を作製することができる。
【0112】
狂犬病G
本発明では、狂犬病Gタンパク質又はその突然変異体、変異体、相同体若しくは断片の少なくとも一部を用いてベクターのシュードタイプを作製し得る。
【0113】
狂犬病Gタンパク質及びその突然変異体に関する教示は、以下に見出すことができる:WO 99/61639号及びRoseら (1982) J. Virol. 43:361-364, Hanhamら (1993) J. Virol. 67:530-542, Tuffereauら (1998) J. Virol. 72:1085-1091, Kuceraら (1985) J. Virol. 55:158-162, Dietzscholdら (1983) PNAS 80:70-74, Seifら (1985) J.Virol. 53:926-934, Coulonら (1998) J. Virol. 72:273-278, Tuffereauら (1998) J. Virol. 72:1085-10910, Burgerら (1991) J. Gen. Virol. 72:359-367, Gaudinら (1995) J. Virol. 69:5528-5534, Benmansourら (1991) J. Virol. 65:4198-4203, Luoら (1998) Microbiol. Immunol. 42:187-193, Coll (1997) Arch. Virol. 142:2089-2097, Luoら (1997) Virus Res. 51:35-41, Luoら (1998) Microbiol. Immunol. 42:187-193, Coll (1995) Arch. Virol. 140:827-851, Tuchiyaら (1992) Virus Res. 25:1-13, Morimotoら (1992) Virology 189:203-216, Gaudinら (1992) Virology 187:627-632, Whittetal (1991) Virology 185:681-688, Dietzscholdら (1978) J. Gen. Virol. 40:131-139, Dietzscholdら (1978) Dev. Biol. Stand. 40:45-55, Dietzscholdら (1977) J. Virol. 23:286-293及びOtvosら (1994) Biochim. Biophys. Acta 1224:68-76。狂犬病Gタンパク質は、欧州特許第0445625号にも記載されている。
【0114】
別のエンベロープ
レトロウイルスベクターのシュードタイプ作製に使用し得る別のエンベロープとしては、モコラ(Mokola)、エボラ、4070A及びLCMV(リンパ球性脈絡髄膜炎ウイルス(lymphocytic choriomeningitis virus))がある。
【0115】
目的ヌクレオチド(NOI)
一実施形態において、本発明におけるウイルスは野生型レトロウイルスベクター、又は本発明の細胞に依然として感染性であるその変異体若しくは一部である。別の実施形態において、ウイルスは、遺伝子治療目的の治療用設定において、又はワクチン接種目的の抗原として使用し得る、異種情報を含む組換えレトロウイルスベクターである。これは、例えばレトロウイルスベクターを用いる好ましい実施形態である。この異種情報を「目的ヌクレオチド(NOI)」と称する。
【0116】
NOIは治療又は診断用途を有し得る。好適なNOIとしては以下のものがあるが、それらに限定されない:酵素、サイトカイン、ケモカイン、ホルモン、抗体、抗酸化分子、操作された免疫グロブリン様分子、一本鎖抗体、融合タンパク質、免疫共刺激分子、免疫調節分子、アンチセンスRNA、マイクロRNA、shRNA、siRNA、リボザイム、標的タンパク質のトランスドメインネガティブ突然変異体(transdomain negative mutant)、毒素、条件付毒素(conditional toxin)、抗原、腫瘍抑制タンパク質及び成長因子、膜タンパク質、血管作動性タンパク質及びペプチド、抗ウイルスタンパク質及びリボザイム、並びにそれらの誘導体(結合したレポーター基を有するものなど)をコードする配列。NOIはプロドラッグ活性化酵素をコードしてもよい。
【0117】
別の実施形態において、NOIは神経変性障害の治療に有用であり得る。
【0118】
別の実施形態において、NOIはパーキンソン病の治療に有用であり得る。
【0119】
さらに別の実施形態において、NOIは、ドーパミン合成に関与する1つ又は複数の酵素をコードし得る。例えば、該酵素は以下のうちの1つ又は複数であり得る:チロシンヒドロキシラーゼ、GTP-シクロヒドロラーゼI及び/又は芳香族アミノ酸ドーパデカルボキシラーゼ。3つすべての遺伝子の配列は、それぞれGenBank(登録商標)アクセッション番号X05290、U19523及びM76180で入手できる。
【0120】
あるいは、NOIは、小胞モノアミントランスポーター2(VMAT2)をコードし得る。別の実施形態において、ウイルスゲノムは、芳香族アミノ酸ドーパデカルボキシラーゼをコードするNOI及びVMAT2をコードするNOIを含む。そのようなゲノムは、パーキンソン病の治療において、特にL-DOPAの末梢投与とともに使用することができる。
【0121】
別の実施形態において、NOIは、治療用タンパク質又は複数の治療用タンパク質の組み合わせをコードし得る。
【0122】
別の実施形態において、NOIは、グリア細胞由来神経栄養因子(GDNF)、脳由来神経栄養因子(BDNF)、毛様体神経栄養因子(CNTF)、ニューロトロフィン-3(NT-3)、酸性線維芽細胞成長因子(aFGF)、塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)、インターロイキン-1β(IL-1β)、腫瘍壊死因子α(TNF-α)、インスリン成長因子-2、VEGF-A、VEGF-B、VEGF-C/VEGF-2、VEGF-D、VEGF-E、PDGF-A、PDGF-B、PDFG-A及びPDFG-Bのヘテロダイマー及びホモダイマーからなる群より選択される1つ又は複数のタンパク質をコードし得る。
【0123】
別の実施形態において、NOIは、アンジオスタチン、エンドスタチン;血小板第4因子、色素上皮由来因子(PEDF)、レスチン(restin)、インターフェロン-α、インターフェロン誘導性タンパク質、グロ-β(gro-beta)及びチューブダウン-1(tubedown-1)、インターロイキン(IL)-1、IL-12、レチノイン酸、抗VEGF抗体、アプタマー、アンチセンスオリゴ、siRNA、トロンボスポンジン、VEGF受容体タンパク質、例えば米国特許第5,952,199号及び同第6,100,071号に記載されているもの、並びに抗VEGF受容体抗体からなる群より選択される1つ又は複数の抗血管新生タンパク質をコードし得る。
【0124】
別の実施形態において、NOIは、通常眼の細胞で発現するタンパク質をコードし得る。
【0125】
別の実施形態において、NOIは、通常光受容細胞で発現するタンパク質をコードし得る。
【0126】
別の実施形態において、NOIは、RPE65、アリール炭化水素−相互作用受容体タンパク質様1(arylhydrocarbon-interacting receptor protein like 1、AIPL1)、CRB1、レシチンレチナールアセチルトランスフェラーゼ(lecithin retinal acetyltransferace、LRAT)、光受容体特異的ホメオボックス(CRX)、レチナールグアニル酸シクラーゼ(retinal guanylate cyclise)(GUCY2D)、RPGR相互作用タンパク質1(RPGRIP1)、LCA2、LCA3、LCA5、ジストロフィン、PRPH2、CNTF、ABCR/ABCA4、EMP1、TIMP3、MERTK、ELOVL4、MYO7A、USH2A、及びオプチシン(opticin)を含む群から選択されるタンパク質をコードし得る。
【0127】
従って、本発明におけるレトロウイルスベクターは、WO 98/05635号、WO 第98/07859号、WO 第98/09985号に記載されている障害の治療に有用な1つ又は複数のNOIを送達するために使用し得る。目的ヌクレオチドはDNA又はRNAであってよい。そのような疾患の例を以下に挙げる。
【0128】
以下に対応する障害:サイトカイン及び細胞の増殖/分化活性;免疫抑制活性又は免疫賦活活性(例えば、免疫不全、例えばヒト免疫不全ウイルスによる感染症の治療;リンパ球増殖の調節;癌及び多くの自己免疫疾患の治療、並びに移植拒絶の予防又は腫瘍免疫の誘導のため);造血の調節(例えば骨髄系又はリンパ系疾患の治療);骨、軟骨、腱、靱帯及び神経組織の増殖促進(例えば創傷治癒、火傷、潰瘍及び歯周病、並びに神経変性の治療のため);卵胞刺激ホルモンの阻害又は活性化(受精能の調節);化学走性/化学運動性の活性(例えば特定の細胞種を傷害又は感染部位に動員するため);止血及び血栓溶解活性(例えば血友病及び卒中を治療するため);抗炎症性活性(例えば敗血症性ショック又はクローン病を治療するため);マクロファージ阻害活性及び/又はT細胞阻害活性、従って抗炎症性活性;抗免疫活性、すなわち炎症に関連しない応答を含めた細胞性及び/又は液性免疫応答に対する阻害効果;マクロファージ及びT細胞が細胞外基質成分及びフィブロネクチンに接着する能力の阻害、並びにT細胞におけるfas受容体発現のアップレギュレーション。
【0129】
悪性疾患、例えば癌、良性及び悪性腫瘍増殖、浸潤及び蔓延、血管新生、転移、腹水及び悪性胸水。
【0130】
自己免疫疾患、例えば関節炎(例えば関節リウマチ)、過敏症、アレルギー反応、喘息、全身性エリテマトーデス、膠原病及び他の疾患。
【0131】
心臓血管疾患、例えば動脈硬化症、アテローム硬化性心疾患、再かん流傷害、心停止、心筋梗塞、血管炎症性障害、呼吸窮迫症候群、心臓血管系作用、片頭痛及びアスピリン依存性抗血栓症、卒中、脳虚血、虚血性心疾患又は他の疾患。
【0132】
消化管の疾患、例えば消化性潰瘍、潰瘍性大腸炎、クローン病及び他の疾患。
【0133】
肝疾患、例えば肝線維症、肝硬変又は他の疾患。
【0134】
腎臓及び泌尿器の疾患、例えば甲状腺炎又は他の腺性疾患、糸球体腎炎又は他の疾患。
【0135】
耳、鼻及びのどの障害、例えば耳炎又は他の耳鼻咽喉学系疾患、皮膚炎又は他の皮膚病。
【0136】
歯及び口腔の障害、例えば歯周病、歯周炎、歯肉炎又は他の歯/口腔疾患。
【0137】
睾丸疾患、例えば睾丸炎又は睾丸副睾丸炎、不妊症、睾丸外傷又は他の睾丸疾患。
【0138】
婦人科疾患、例えば胎盤機能障害、胎盤機能不全、習慣性流産、子癇、子癇前症、子宮内膜症及び他の婦人科疾患。
【0139】
眼科障害、例えば後部ブドウ膜炎、中間部ブドウ膜炎、前部ブドウ膜炎、結膜炎、脈絡網膜炎、ブドウ膜網膜炎、視神経炎、眼内炎、例えば網膜炎若しくは類嚢胞黄斑浮腫、交感性眼炎、強膜炎、網膜色素変性症、黄斑変性症、例えば加齢性黄斑変性症(AMD)及び若年性黄斑変性症、例えばベスト病、シュタルガルト病、アッシャー症候群、ドインのハニカム網膜ジストロフィー(Doyne's honeycomb retinal dystrophy)、ソルビーの黄斑ジストロフィー(Sorby’s Macular Dystrophy)、若年性網膜分離症、コーンロッドジストロフィー(Cone-Rod Dystrophy)、角膜ジストロフィー、フックスジストロフィー(Fuch’s Dystrophy)、レーバー先天性黒内障、レーバー遺伝性視神経障害(Leber’s hereditary optic neuropathy、LHON)、アディー症候群、小口病、変性眼底病(degenerative fondus disease)、眼外傷、感染症によって引き起こされる眼炎症、増殖性硝子体網膜症、急性虚血性視神経障害、例えば緑内障濾過手術後の過剰な瘢痕、眼球移植に対する反応、角膜移植片拒絶、及び他の眼科疾患。
【0140】
神経障害及び神経変性障害、例えばパーキンソン病、パーキンソン病の治療による合併症及び/又は副作用、AIDSに関連する認知症、複合HIVに関連する脳症、デビック病、シデナム舞踏病、アルツハイマー病及び他の変性疾患、CNSの状態又は障害、卒中、ポリオ後症候群、精神障害、脊髄炎、脳炎、亜急性硬化性全脳炎、脳脊髄炎、急性神経障害、亜急性神経障害、慢性神経障害、ギラン−バレー症候群、シデナム舞踏病、重症筋無力症、偽脳腫瘍、ダウン症候群、ハンチントン病、CNS圧迫若しくはCNS外傷又はCNS感染症、筋萎縮及び筋ジストロフィー、中枢神経系及び末梢神経系の疾患、状態又は障害、運動ニューロン疾患、例えば筋萎縮性側索硬化症、脊髄性筋萎縮症、脊髄及び引き抜き損傷。
【0141】
他の疾患及び状態、例えば外傷後炎症、出血、凝固及び急性期反応、悪液質、食欲不振、急性感染、敗血症性ショック、感染症、手術の合併症又は副作用、骨髄移植又は他の移植合併症及び/又は副作用、遺伝子治療の合併症及び副作用(例えばウイルスキャリアの感染による)又はAIDS(液性及び/又は細胞性の免疫応答を抑制又は阻害するため、角膜、骨髄、器官、水晶体、ペースメーカー、天然又は人工皮膚組織などの天然又は人工の細胞、組織及び器官を移植する場合の移植片拒絶を予防及び/又は治療するため)。
【0142】
siRNA/マイクロRNA
NOIは、siRNA又はマイクロRNA又はshRNA又は調節されたマイクロRNA若しくはshRNAを含むか、又はコードし得る(Dickinsら (2005) Nature Genetics 37: 1289-1295, Silvaら (2005) Nature Genetics 37:1281-1288)。
【0143】
二本鎖RNA(dsRNA)が媒介する転写後遺伝子サイレンシング(PTGS)は、外来遺伝子の発現制御のための保存された細胞性防御機構である。トランスポゾン又はウイルスなどの要素のランダムな組込みによって、相同な一本鎖mRNA又はウイルスゲノムRNAの配列特異的分解を活性化するdsRNAの発現が引き起こされると考えられている。サイレンシング効果はRNA干渉(RNAi)として知られている(Ralphら (2005) Nature Medicine 11:429-433)。RNAiのメカニズムは、長いdsRNAの、約21〜25ヌクレオチド(nt)RNAの二本鎖へのプロセッシングを含む。これらの生産物は、mRNA分解の配列特異的媒介因子である小分子干渉RNA又はサイレンシングRNA(siRNA)と呼ばれている。分化した哺乳動物細胞では、30bpを超えるdsRNAは、インターフェロン応答を活性化し、それによりタンパク質合成の停止及び非特異的mRNA分解が生じることが見出されている(Starkら (1998))。しかし、この応答は21ntのsiRNA二本鎖を用いることで回避することができ(Elbashirら (2001), Hutvagnerら (2001))、培養された哺乳動物細胞で遺伝子機能を解析することが可能となる。
【0144】
別の実施形態において、NOIはマイクロRNAを含む。マイクロRNAは、生物において自然に産生される小分子RNAの非常に大きな群であり、そのうち少なくとも一部は標的遺伝子の発現を調節する。マイクロRNAファミリーの最初のメンバーはlet-7及びlin-4である。let-7遺伝子は、虫(worm)の発生中に、内在性タンパク質コード遺伝子の発現を調節する小さな、高度に保存されたRNA種をコードする。活性RNA種はまず約70ntの前駆体として転写され、転写後プロセシングにより成熟の約21nt型となる。let-7及びlin-4はともに、ヘアピンRNA前駆体として転写され、ダイサー(Dicer)酵素によって成熟型へとプロセッシングされる。
【0145】
プロモーター
NOIの発現は、制御配列、例えばプロモーター/エンハンサー及び他の発現調節シグナルを用いて制御することができる。原核細胞プロモーター及び真核細胞中で機能的なプロモーターを用いることができる。組織特異的又は刺激特異的なプロモーターを用いてもよい。2つ以上の異なるプロモーター由来の配列エレメントを含むキメラプロモーターも用いてもよい。
【0146】
適切なプロモーター配列は強力なプロモーター、例えばポリオーマウイルス、アデノウイルス、鶏痘ウイルス、ウシパピローマウイルス、トリ肉腫ウイルス、サイトメガロウイルス(CMV)、レトロウイルス及びシミアンウイルス40(SV40)などのウイルスゲノム由来のプロモーター、又は例えばアクチンプロモーター若しくはリボソームタンパク質プロモーターなどの異種哺乳動物プロモーター由来のプロモーターである。遺伝子の転写は、ベクター内にエンハンサー配列を挿入することによってさらに増大させることができる。エンハンサーは配向及び位置に比較的非依存的であるが、真核細胞ウイルス由来のエンハンサー、例えば複製起点の後期側のSV40エンハンサー(100〜270bp)及びCMV初期プロモーターエンハンサーを用いてもよい。エンハンサーはプロモーターの5'又は3'側の位置でベクター内へとスプライシングされ得るが、プロモーターの5'側の部位に位置することが好ましい。
【0147】
プロモーターはさらに、適切な宿主中での発現を確実にする又は増加させるさらなる特徴を含むことができる。例えば、その特徴は、保存的領域、例えばプリブノーボックス又はTATAボックスであり得る。プロモーターはさらに、ヌクレオチド配列の発現レベルに影響を与える(例えば維持する、増強する、低減させる)ために、他の配列も含み得る。適切な他の配列としては、Sh1-イントロン又はADHイントロンがある。他の配列には誘導エレメント、例えば温度、化学、光、又はストレス誘導エレメントが含まれる。また、転写又は翻訳を増強させる適切なエレメントを存在させてもよい。
【0148】
コドン最適化
本発明で用いるポリヌクレオチド(NOI及び/又はベクター構成要素を含む)は、コドンを最適化してもよい。コドン最適化は、以前にWO 99/41397号及びWO 01/79518号に記載されている。異なる細胞では、特定のコドンの使用頻度が異なる。このコドンの偏りは、細胞種における特定のtRNAの相対的な存在量の偏りに対応する。配列中のコドンを変更して対応するtRNAの相対的存在量に一致するように調整することによって、発現を増加させることができる。同様に、特定の細胞種において対応するtRNAが稀であることがわかっているコドンを故意に選ぶことによって発現を低下させることができる。こうして、さらなる段階の転写制御が利用できる。
【0149】
多くのウイルス、例えばHIV及び他のレンチウイルスは、多数の稀なコドンを使用しており、一般に使われている哺乳動物のコドンに対応するようにこれらを変更することによって、哺乳動物産生細胞における目的遺伝子、例えばNOI又はパッケージング構成要素の発現の増加を達成することができる。コドン使用頻度表は、哺乳動物細胞について、及び様々な他の生物について当技術分野で公知である。
【0150】
ウイルスベクター構成要素のコドン最適化は、多くの他の利点を有する。配列の変更により、産生細胞/パッケージング細胞におけるウイルス粒子の組み立てに必要なウイルス粒子のパッケージング構成要素をコードするヌクレオチド配列は、それらからRNA不安定性配列(INS)を除去させる。同時に、パッケージング構成要素の配列をコードするアミノ酸配列を保持し、その配列がコードするウイルス構成要素は同じままであるか、又はパッケージング構成要素の機能が損なわれない程に少なくとも十分類似している。レンチウイルスベクターでは、コドン最適化はまた、最適化した配列をRev非依存性にすることで、輸送のためのRev/RREの必要性を取り除く。コドン最適化はまた、ベクター系内の異なる構築物間(例えばgag-pol及びenvオープンリーディングフレームにおける重複領域間)での相同組換えを減少させる。従って、コドン最適化の全体的効果は、ウイルス力価の著しい増加及び安全性の改善である。
【0151】
一実施形態において、INSに関するコドンのみをコドン最適化する。しかし、さらにより好ましく実践的な実施形態において、一部の例外、例えばgag-polのフレームシフト部位を含む配列(以下参照)を除いて、配列をその全体についてコドン最適化する。
【0152】
gag-pol遺伝子は、gag-polタンパク質をコードする2つの重複するリーディングフレームを含む。両タンパク質の発現は、翻訳中のフレームシフトに依存する。このフレームシフトは、翻訳中のリボソーム「スリッページ(slippage)」の結果として生じる。このスリッページは、少なくとも部分的には、リボソームを停止させる(ribosome-stalling)RNA二次構造によって引き起こされると考えられる。そのような二次構造は、gag-pol遺伝子のフレームシフト部位の下流に存在する。HIVでは、重複領域は、gagの開始点(ヌクレオチド1はgag ATGのAである)の下流のヌクレオチド1222からgagの終点(nt 1503)まで及ぶ。結果として、フレームシフト部位と2つのリーディング・フレームの重複領域に及ぶ281 bpの断片は、コドン最適化しないことが好ましい。この断片を保持することによって、gag-polタンパク質のより効率的な発現が可能となる。
【0153】
EIAVでは、重複の開始点は、nt 1262であると考えられている(ヌクレオチド1はgag ATGのAである)。重複の終点は1461 bpである。フレームシフト部位とgag-pol重複を確実に保存するために、nt 1156〜1465の野生型配列を保持している。
【0154】
例えば都合のよい制限酵素認識部位を提供するために、最適なコドン使用頻度からの誘導体を作製することができ、保存的アミノ酸変化をgag-polタンパク質に導入することができる。
【0155】
一実施形態において、コドン最適化は、低発現する哺乳動物遺伝子に基づく。3番目及び時には2番目と3番目の塩基を変更し得る。
【0156】
遺伝コードの縮重する性質のため、当業者が多数のgag-pol配列を成し得ることは理解されるだろう。また、コドン最適化したgag-pol配列を作製するための開始点として使用することができる多くのレトロウイルス変異体が記載されている。レンチウイルスゲノムはかなり変化させることができる。例えば依然として機能的なHIV-1の類似種が多くある。これはEIAVにも当てはまる。これらの変異体は、形質導入過程の特定の部分を増強するために用いることができる。HIV-1変異体の例は、<http://hiv-web.lanl.gov>でロスアラモス国家安全保障(Los Alamos National Security, LLC)が運営するHIVデータベースに見出すことができる。EIAVクローンの詳細は、<http://www.ncbi.nlm.nih.gov>にある、全米バイオテクノロジー情報センター(National Center for Biotechnology Information、NCBI)データベースに見出すことができる。
【0157】
コドン最適化したgag-pol配列の方法は、どのレトロウイルスに関しても使用することができる。これは、すべてのレンチウイルス、例えばEIAV、FIV、BIV、CAEV、VMR、SIV、HIV-1及びHIV-2にも適用し得る。さらに、この方法は、HTLV-1、HTLV-2、HFV、HSRV及びヒト内在性レトロウイルス(HERV)、MLV及び他のレトロウイルス由来の遺伝子の発現を増加させるために用いることができる。
【0158】
コドン最適化は、gag-pol発現をRev非依存性にし得る。しかし、レンチウイルスベクターにおいて抗rev又はRRE因子の使用を可能にするために、ウイルスベクター産生系を完全にRev/RRE非依存性にする必要がある。従って、ゲノムも改変する必要がある。これは、ベクターゲノム構成要素を最適化することによって達成される。有利には、これらの改変はまた、産生細胞及び形質導入された細胞において、あらゆる付加的なタンパク質が存在しないより安全な系の作出をもたらす。
【0159】
レトロウイルスベクター産生系
レトロウイルスベクターは、細胞内(「宿主細胞」と称されることもある)で適切に増殖し得る。
【0160】
本発明において、細胞は所望のレトロウイルスベクターが増殖可能な任意の細胞であり得る。
【0161】
安定な産生細胞/パッケージング細胞株を使用することによって、続く精製のために(例えばレンチウイルスベクターの適切な力価を調製するための)ウイルスベクター粒子の量を増殖させることができる。
【0162】
本明細書中で使用する場合、「産生細胞」又は「ベクター産生細胞」という用語は、レンチウイルスベクター粒子の産生に必要なすべての要素を含む細胞を指す。
【0163】
本明細書中で使用する場合、「パッケージング細胞」という用語は、RNAゲノムを欠く感染性組換えウイルスの産生に必要な要素を含む細胞を指す。典型的には、このようなパッケージング細胞は、ウイルスの構造タンパク質(例えばコドンを最適化したgag-pol及びenv)を発現することができるがパッケージングシグナルを含まない1つ又は複数の産生プラスミドを含む。
【0164】
好ましくは、本発明において産生細胞/パッケージング細胞は、哺乳動物細胞に由来し、好ましくは霊長類の細胞に由来し、例えばヒト胎児腎臓細胞に由来するものが特に好ましい。霊長類の細胞が好ましいが、ウイルスの複製を支持することができる任意の種類の細胞が本発明の実施において許容される。他の細胞種としては、細胞がレトロウイルスを許容する限りは、組織培養技術が確立されている任意の真核細胞があり得るが、それらに限定されない。
【0165】
細胞は、既存の細胞株、例えばHEK293細胞株に由来し得る。
【0166】
安全性を改善するために、プロウイルスの3'LTRが欠失している細胞株が作製されている。このような細胞では、野生型ウイルスを産生するために2回の組換えが必要となる。さらなる改善は、別々の構築物上のgag-pol遺伝子及びenv遺伝子を導入することを含む。これらの構築物は、トランスフェクション中の組換えを防ぐために逐次的に導入し得る。これらの構築物分割(split-construct)細胞株では、コドンを変更することによって組換えのさらなる低減を達成し得る。この技術は、遺伝コードの重複に基づいて、別の構築物間、例えばgag-pol及びenvオープンリーディングフレームにおける重複領域間の相同性を減少させることを意図する。
【0167】
一実施形態において、本発明で使用するベクター産生細胞は、産生系として、ゲノム、gag-pol構成要素及びエンベロープを発現する3つの転写単位を用いる。エンベロープ発現カセットは、多くのエンベロープ、例えばVSV-G又は様々なマウスレトロウイルスエンベロープ、例えば4070Aのうち1つを含み得る。VSV-Gエンベロープが特に好ましい。
【0168】
一実施形態において、エンベロープタンパク質の配列及びヌクレオカプシドの配列はすべて産生細胞及び/又はパッケージング細胞内に安定して組み込まれている。しかし、これらの配列の1つ又は複数がエピソームの形態で存在し、遺伝子発現がエピソームから起こることもあり得る。
【0169】
さらなる実施形態は、誘導系、例えばTet系(Gossen and Bujard)を利用して、VSV-Gなどの毒性遺伝子産物を発現する安定な産生細胞/パッケージング細胞を作製する(欧州特許第0572401B号)。
【0170】
別の実施形態において、一過的トランスフェクションを用いて、本発明のウイルス産生細胞を作製する。一過的トランスフェクションは、安定なベクター産生細胞株を作製するために要する長い時間を回避し、ベクターゲノム又はレンチウイルスパッケージング構成要素が細胞に毒性である場合に用いることができる。
【0171】
特に好ましい実施形態において、本発明のレトロウイルスベクターを産生するために用いるパッケージング細胞は、(i)組換えレトロウイルスベクターゲノム、(ii)gag/polをコードする発現ベクター、及び(iii)envをコードする発現ベクターをコードする3つのプラスミドで、細胞(例えばHEK293T細胞)をトランスフェクションすることによって作製する。
【0172】
トランスフェクション法は、当技術分野で周知な方法を用いて行い得る。例えば、トランスフェクション方法は、リン酸カルシウム又は市販の製剤、例えばリポフェクタミンTM2000CD(Invitrogen, CA)又はポリエチレンイミン(PEI)を用いて行い得る。
【0173】
パッケージング細胞/産生細胞はまた、パッケージング細胞/産生細胞の成分、すなわちWO 2004/022761号に記載されているようなゲノム、gag-pol構成要素及びエンベロープの1つを発現するレトロウイルスベクターで、適切な細胞株に形質導入することによっても作製することができる。
【0174】
構成要素をコードするレトロウイルスベクターでトランスフェクトした細胞は、培養され、細胞数とウイルス数及び/又はウイルス力価を増加させる。細胞の培養は、本発明における目的ウイルスの代謝及び/又は増殖及び/又は分割及び/又は産生が可能となるように行う。これは、当業者に周知な方法によって達成することができ、例えば適切な培養培地中での細胞への栄養の供給を含むが、これに限定されない。この方法は、表面に接着する増殖、懸濁液中での増殖、又はそれらの組み合わせを含み得る。培養は、例えば組織培養フラスコ、ディッシュ、ローラーボトル又はバイオリアクター中で、バッチ、フェドバッチ、連続系、中空糸などを用いて行うことができる。細胞培養によってウイルスの大規模(連続)産生を達成するために、当技術分野では、細胞を懸濁液中で増殖可能にすることが好ましい。細胞を培養するための適切な条件は公知である(例えばTissue Culture, Academic Press, Kruse and Paterson, 編 (1973)、及びR.I. Freshney, Culture of animal cells: A manual of basic technique, 第4版(Wiley- Liss Inc., 2000, ISBN 0-471-34889-9)を参照)。
【0175】
好ましくは、細胞は最初に組織培養フラスコ中で「増大(bulked up)」させ、次に多層型(multilayered)培養容器中で増殖させ、本発明のベクター産生細胞を作製する。
【0176】
好ましくは、細胞は接着モードで増殖させ、本発明のベクター産生細胞を作製する。
【0177】
好ましくは、細胞はバッチモードで増殖させ、本発明のベクター産生細胞を作製する。
【0178】
清澄化
本発明の好ましい実施形態において、細胞培養から回収した上清を清澄化する。
【0179】
一部の好ましい実施形態において、清澄化ステップは、ヌクレアーゼ添加前に行う。
【0180】
清澄化は、ろ過ステップにより行い、細胞残屑及び他の不純物を取り除き得る。好適なフィルターは、効率的な除去及び許容可能な回収を達成するために、セルロースフィルター、再生セルロース繊維、無機フィルター補助(例えば珪藻土、パーライト(perlite)、ヒュームドシリカ(fumed silica))と組み合わせたセルロース繊維、無機フィルター補助及び有機樹脂と組み合わせたセルロースフィルター、又はそれらの任意の組み合わせ、並びに高分子フィルター(例としてはナイロン、ポリプロピレン、ポリエーテルスルホンがあるがそれらに限定されない)を利用し得る。一般に、多段階工程が好ましいが必要ではない。典型的な2又は3段階工程は、大きな沈殿物及び細胞残屑を除去する粗いフィルター(複数可)、それに続く0.2μmより大きく1μm未満の公称孔径を有する洗練された(polishing)第2段階のフィルター(複数可)から成る。最適な組み合わせは、沈殿のサイズ分布及び他の変数の関数であり得る。さらに、比較的小さな孔径のフィルター又は遠心を用いる1段階操作も清澄化に使用し得る。より一般的には、次のステップにおける膜及び/又は樹脂を詰まらせない適切な清澄度のろ液をもたらす任意の清澄化法、例えば、それらに限定されないが、デッドエンドろ過、精密ろ過、遠心、又はデッドエンドろ過若しくは深層ろ過と組み合わせたフィルター補助(例えば珪藻土)のボディーフィードが、本発明の清澄化ステップでの使用について許容される。
【0181】
一実施形態において、深層ろ過及び膜ろ過を用いる。これに関して有用な市販の製品は、例えばWO 03/097797号の20-21頁に記載されている。使用し得る膜は、様々な材料から構成されてよく、孔径が異なってよく、そして組み合わせて使用してもよい。それらはいくつかのメーカーから商業的に得ることができる。
【0182】
好ましくは、清澄化に用いるフィルターは、1.2〜0.22μmの範囲である。
【0183】
より好ましくは、清澄化に用いるフィルターは、1.2/0.45μmフィルター又は最小公称孔径0.22μmの非対称フィルターである。
【0184】
ヌクレアーゼ処理
好ましい実施形態において、本発明は、ヌクレアーゼを用いて、混入しているDNA/RNA、すなわち大部分は宿主細胞の核酸を分解する。本発明における使用に適したヌクレアーゼの例としては、あらゆる形態のDNA及びRNA(一本鎖、二本鎖直鎖若しくは環状)を攻撃し分解するベンゾナーゼ(Benzonase)(登録商標)ヌクレアーゼ(欧州特許第0229866号)、あるいは調製物から不要な又は混入しているDNA及び/又はRNAを除去する目的で当技術分野で一般に用いられる任意の他のDNase及び/又はRNaseがある。好ましい実施形態において、ヌクレアーゼはベンゾナーゼ(登録商標)ヌクレアーゼであり、これは特定のヌクレオチド間の内部ホスホジエステル結合を加水分解することによって核酸を急速に加水分解し、それによりベクターを含有する上清中のポリヌクレオチドのサイズを低下させる。ベンゾナーゼ(登録商標)ヌクレアーゼは、メルク社(Merck KGaA)から商業的に得ることができる(コードW214950)。ヌクレアーゼを用いる濃度は、好ましくは1〜100ユニット/mlの範囲内である。
【0185】
一部の好ましい実施形態では、2回以上のヌクレアーゼ処理が含まれる。例えば、ベンゾナーゼ(登録商標)ヌクレアーゼは、クロマトグラフィーによってベクターを精製する前及び/又は後に、ベクターを含有する上清に添加することができる。
【0186】
非限定的な例として、ベンゾナーゼ(登録商標)ヌクレアーゼを、37℃〜室温であるベクターを含有する上清に添加し、その後、混合物を2〜8℃で好ましくは一晩インキュベートする。
【0187】
断片を含まない核酸(大部分は宿主細胞DNA)へのヌクレアーゼを用いた処理の代わりに又はこの処理に加えて、例えば適切な量の選択的沈殿剤、例えばWO 03/097797号に詳細に開示されているような、臭化ドミフェン(DB)、CTAB(臭化セチルトリメチルアンモニウム)、塩化セチルピリジニウム(CPC)、塩化ベンゼトニウム(BTC)、塩化テトラデシルトリメチルアンモニウム(TTA)、ポリエチレンイミン(PEI)などを用いた沈殿によって、細胞培養培地中の不純物DNAの選択的沈殿(除去)を行い得る。
【0188】
限外ろ過/ダイアフィルトレーション
本発明の実施形態において、ベクター懸濁液は、例えばベクターの濃縮及び/又はバッファー交換のため、方法中少なくとも1回限外ろ過(バッファー交換のために使用する場合にはダイアフィルトレーションと称されることもある)に供する。本発明の方法においてベクターの濃縮に用いる工程は、任意のろ過工程(例えば限外ろ過(UF))を含み得る。ここで、希釈液をベクター調製物から除去し、一方でベクターはフィルターを通過できず、それによりベクター調製物中に濃縮された形態で残るように、希釈液をフィルターに通過させることによってベクターの濃度を増大させる。UFは、例えばMicrofiltration and Ultrafiltration: Principles and Applications, L. Zeman and A. Zydney (Marcel Dekker, Inc., New York, NY, 1996); 及びUltrafiltration Handbook, Munir Cheryan (Technomic Publishing, 1986; ISBN No. 87762-456-9)に詳細に記載されている。好ましいろ過工程は、例えばミリポア社(MILLIPORE)カタログ、題名"Pharmaceutical Process Filtration Catalogue" pp. 177-202 (Bedford, Massachusetts, 1995/96)に記載されているような、タンジェンシャルフローろ過(Tangential Flow Filtration、「TFF」)である。TFFは、細胞の回収、清澄化、ウイルスを含む生産物の精製及び濃縮のためにバイオプロセッシング工業で広く用いられている。この系は、3つの異なるプロセスの流れ、すなわち供給液(feed solution)、透過液(permeate)及び保持液(retentate)から構成される。用途に応じて、様々な孔径のフィルターを用い得る。本発明では、保持液は生産物(レンチウイルスベクター)を含む。本明細書では、選択された特定の限外ろ過膜は、ベクターを保持するのに十分小さく、不純物を効率的に取り除くのに十分大きい孔径を有する。メーカー及び膜の種類に応じて、レトロウイルスベクターについて、100〜1000 kDaの公称分子量カットオフ(NMWC)、例えば300 kDa又は500 kDa NMWCを有する膜が適切であり得る。膜の組成は、それらに限定されないが、再生セルロース、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、又はそれらの誘導体であり得る。膜は、フラットシート(フラットスクリーンとも称される)又は中空糸であり得る。本発明で使用する好ましいUFは、中空糸型UFである。UFは、一般に、0.1μmより小さい孔径を有するフィルターを用いたろ過を指す。一般に、生産物は保持されるが、体積は透過中に減少し得る(又はバッファー及び不純物を含有する透過液が透過液側で除去される速度と同じ速度でバッファーを加えることによって、ダイアフィルトレーション中一定に保ち得る)。
【0189】
生物医薬品産業において最も広く使用されるTFFについての2つの形状(geometries)は、プレートとフレーム(フラットスクリーン)モジュール及び中空糸モジュールである。現在では、スペクトラム社(Spectrum)及びGEヘルスケア社(GE Healthcare)を含む複数の業者が存在するものの、限外ろ過及び精密ろ過のための中空糸ユニットは、1970年代初頭にアミコン社(Amicon)及びラミコン社(Ramicon)によって開発された(Cheryan, M. Ultrafiltration Handbook)。中空糸モジュールは高密度の表面層を有する自己支持型ファイバーのアレイから構成される。ファイバーの直径は0.5 mm〜3 mmの範囲である。中空糸モジュールの利点は、小さな膜面積(約16 cm2)から非常に大きな膜面積(約20 m2)のフィルターを利用できることであって、直線的で単純なスケールアップが可能となる。本発明における一部の好ましい実施形態では、TFFのために中空糸を用いる。これらは、フラットスクリーン膜に比べてせん断を生み出さず、ウイルス粒子/感染単位(VP/IU)比が優れていると報告されている。さらに、膜間差圧は、一般に、フラットスクリーンより中空糸において低い。一部の実施形態では、本発明において、500 kDa(0.05μm)孔径の中空糸を用いる。限外ろ過は、限外ろ過装置を用いるダイアフィルトレーション(DF)を含んでよく、塩、糖、非水性溶媒の除去及び交換、結合種からの未結合種の分離、低分子量の物質の除去、又はイオン及び/若しくはpH環境の急速な変化のための理想的な方法である。微小溶質(Microsolute)は、限外ろ過した溶液に、UFの速度と等しい速度で溶媒を加えることによって、最も効率的に除去される。この操作は、一定の体積で溶液由来の微細種を洗浄し、保持されたベクターを精製する。
【0190】
UF/DFは、精製工程の様々な段階において、本発明のベクター懸濁液を濃縮及び/又はバッファー交換するために使用することができる。本発明は、好ましくはクロマトグラフィー又は他の精製ステップの後に、上清のバッファーを交換するためにDFステップを利用するが、クロマトグラフィーの前に使用してもよい。
【0191】
好ましくは、本発明において、クロマトグラフィーステップからの溶出液は濃縮され、さらに限外ろ過−ダイアフィルトレーションによって精製される。この工程中、ベクターは製剤化バッファー中へと交換される。しかし、驚くべきことに、ろ過滅菌ステップ後までに最終的な所望の濃度への濃縮を行わない場合に、ベクター産生の改善を達成できることが見出された。前記滅菌ろ過後に、ろ過滅菌した物質を無菌UFによって濃縮し、バルクベクター製品を製造する。
【0192】
本発明の実施形態において、限外ろ過/ダイアフィルトレーションは、タンジェンシャルフローダイアフィルトレーション、撹拌細胞ダイアフィルトレーション及び透析であり得る。
【0193】
クロマトグラフィー
精製技術は当業者に周知である。これらの技術は、ベクター粒子の細胞環境からの分離及び、必要であれば、ベクター粒子のさらなる精製を行う傾向がある。様々なクロマトグラフィー法の1つ又は複数をこの精製のために用い得る。イオン交換クロマトグラフィー、及びより具体的には陰イオン交換クロマトグラフィーは本発明において好ましい方法であるが、他の方法を用いることができる。関連するクロマトグラフィー技術の一部の記載を以下に挙げる。
【0194】
イオン交換クロマトグラフィー
イオン交換クロマトグラフィーは、荷電種、例えば生体分子及びウイルスベクターが、表面に固定された反対の電荷を持つ基を有する固定相(例えば膜、又はカラム中の充填剤)に可逆的に結合することができるという事実を利用する。2種類のイオン交換体がある。陰イオン交換体は、正電荷を持つ基を有し、それ故、負電荷を持つ種を結合することができる固定相である。陽イオン交換体は、負電荷を持つ基を有し、それ故、正電荷を持つ種を結合することができる。溶媒のpHは、種の電荷を変化させ得るため、これに対して重要な影響を持つ。従って、タンパク質などの種では、pHがpIより大きい場合、正味の電荷は負であり、一方でpIより小さい場合、正味の電荷は正である。
【0195】
結合種の置換(溶出)は、適切なバッファーの使用によって行うことができる。従って、一般に、固定相上のイオン部位に対するバッファーイオンの競合を介して種が置換されるまで、バッファーのイオン濃度を増加させる。溶出の別の方法は、種の正味の電荷が固定相への結合をもはや好まなくなるまで、バッファーのpHを変化させることを伴う。例としては、種が正味の正電荷を帯びており、陰イオン交換体にもはや結合しなくなるまで、pHを低下させることである。
【0196】
不純物が非荷電である場合、又は所望の種と反対の記号であるがイオン交換体と同じ記号の電荷を持つ場合に、いくらかの精製を達成し得る。これは、非荷電種及びイオン交換体と同じ記号の電荷を持つ種が通常結合しないためである。異なる結合種では、結合の強度は、様々な種における電荷密度及び電荷分布などの因子によって変わる。従って、イオン勾配又はpH勾配(連続勾配として、又は一連の段階として)をアプライすることによって、所望の種を不純物から分離して溶出し得る。
【0197】
サイズ排除クロマトグラフィー
サイズ排除クロマトグラフィーは、サイズに従って種を分離する技術である。典型的には、明確に定義されたサイズの孔を有する粒子で充填されたカラムの使用によって行う。クロマトグラフィー分離では、分離する混合物中の種のサイズに関して適切な孔径を有する粒子を選択する。混合物を溶液(又はウイルスの場合には懸濁液)としてカラムにアプライし、その後バッファーで溶出する場合、最も大きな粒子は、孔にわずかにのみ出入りする(又は全く出入りしない)ため最も早く溶出する。より小さな粒子は、孔に入ることができ、それ故、カラム中でより長い道を進むため、より遅く溶出する。従って、ウイルスベクターの精製についてサイズ排除クロマトグラフィーの使用を考える場合、ベクターは、タンパク質などのより小さな不純物の前に溶出することが予想される。
【0198】
疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)
タンパク質などの種は、その表面に、固定相上の疎水性部位に弱く可逆的に結合することができる疎水性領域を有する。比較的高い塩濃度を有する溶媒では、この結合は促進される。典型的には、HICでは、精製するサンプルは、高塩濃度環境中で固定相に結合する。その後、塩濃度が減少する勾配(連続的に又は一連の段階として)をアプライすることによって溶出を行う。一般に用いる塩は硫酸アンモニウムである。異なるレベルの疎水性を有する種は、異なる塩濃度で溶出する傾向があり、そのため標的種を不純物から精製することができる。他の因子、例えばpH、温度及び溶出溶媒への添加物、例えば界面活性剤、カオトロピック塩及び有機物も、HIC固定相への種の結合強度に影響を与える可能性がある。これらの因子の1つ又は複数を調整又は利用して、生産物の溶出及び精製を最適化することができる。
【0199】
ウイルスベクターは、その表面に疎水性部分、例えばタンパク質を有し、それ故、HICは精製の手段として潜在的に利用することができる。
【0200】
逆相クロマトグラフィー(RPC)
HICと同様に、RPCは疎水性の違いに従って種を分離する。HICで用いるものより高い疎水性の固定相を用いる。固定相は、しばしば、疎水性部分、例えばアルキル基又はフェニル基が結合する物質、典型的にはシリカから成る。あるいは、固定相は結合基を持たない有機ポリマーであり得る。サンプルを含有する、分離する種の混合物を、結合を促進する比較的高い極性の水性溶媒中で固定相にアプライする。その後、有機溶媒、例えばイソプロパノール又はアセトニトリルの添加により水性溶媒の極性を減少させることによって、溶出を行う。一般に、有機溶媒濃度が増加する勾配(連続的に又は一連の段階として)を用いて、それぞれの疎水性の順に種を溶出する。
【0201】
他の因子、例えば溶出溶媒のpH及び添加物の使用も、RPC固定相への種の結合強度に影響を与え得る。これらの因子の1つ又は複数を調整又は利用して、生産物の溶出及び精製を最適化することができる。一般的な添加物はトリフルオロ酢酸(TFA)である。これは、サンプル中の酸性基、例えばカルボキシル部分のイオン化を抑制する。また、溶出溶媒中のpHを低下させ、これにより、シリカマトリックスを有する固定相の表面に存在し得る遊離シラノール基のイオン化が抑制される。TFAは、イオン対形成剤(ion pairing agent)として知られる添加剤のあるクラスの中の1つである。これらは、反対の電荷を持つ、サンプル中の種に存在するイオン基と相互作用する。相互作用は、電荷をマスクする傾向があり、種の疎水性を増加させる。陰イオン性イオン対形成剤、例えばTFA及びペンタフルオロプロピオン酸は、種の正に荷電した基と相互作用する。陽イオン性イオン対形成剤、例えばトリエチルアミンは、負に荷電した基と相互作用する。
【0202】
ウイルスベクターは、その表面に疎水性部分、例えばタンパク質を有し、それ故、RPCは精製の手段として潜在的に利用することができる。しかし、その使用を考える場合、有機溶媒の使用及びこの技術で用いられることが多い低pH条件に起因するベクターへのダメージを制限するように注意する必要がある。
【0203】
アフィニティークロマトグラフィー
アフィニティークロマトグラフィーは、生体分子、例えばタンパク質又はヌクレオチドに特異的に結合する一部のリガンドを固定相に固定化し得るという事実を利用する。その後、修飾された固定相は、混合物から関連する生体分子を分離するために用いることができる。高度に特異的なリガンドの例は、標的抗原の精製のための抗体、及び酵素の精製のための酵素阻害剤である。より一般的な相互作用、例えば広範な抗体の単離のためのプロテインAリガンドの使用も利用することができる。
【0204】
典型的には、アフィニティークロマトグラフィーは、関連するリガンドが結合している固定相へ、目的の種を含有する混合物をアプライすることによって行う。適切な条件下で、これは固定相への種の結合を生じる。その後、溶出溶媒をアプライする前に、未結合成分を洗い流す。リガンドの標的種への結合を壊す溶出溶媒を選択する。これは、一般に、適切なイオン強度、pHを選択することによって、又はリガンド部位について標的種と競合する物質を使用することによって達成される。一部の結合種では、カオトロピック剤、例えば尿素を用いて、リガンドからの置換を生じさせる。しかし、これにより、種が不可逆的に変性する結果となり得る。
【0205】
ウイルスベクターは、その表面に、適切なリガンドに特異的に結合する能力を有し得るタンパク質などの部分を有する。このことは、単離にアフィニティークロマトグラフィーを潜在的に使用し得ることを意味する。
【0206】
固定化金属イオンアフィニティークロマトグラフィー(IMAC)
タンパク質などの生体分子は、その表面に、金属イオンと配位結合を形成することができる電子供与部分を有し得る。これにより、固定化された金属イオン、例えばNi2+、Cu2+、Zn2+又はFe3+を持つ固定相へのそれらの結合が促進され得る。IMACで使用する固定相には、キレート剤、典型的にはニトリロ酢酸又はイミノ二酢酸がそれらの表面に共有結合しており、金属イオンを保持するのはそのキレート剤である。キレートされた金属イオンは、生体分子へ配位結合を形成するために利用できる少なくとも1つの配位部位を有する必要がある。潜在的には、生体分子の表面に、固定化された金属イオンへ結合する能力を有し得るいくつかの部分が存在する。これらとしては、ヒスチジン、トリプトファン及びシステイン残基、並びにリン酸基がある。しかし、タンパク質では、主要な供与基はヒスチジン残基のイミダゾール基であるようである。天然のタンパク質がその表面に適切な供与部分を呈するならば、IMACを用いて分離することができる。そうでなければ、IMACは、いくつかの結合したヒスチジン残基の鎖を持つ組換えタンパク質の分離に用いることができる。
【0207】
典型的には、IMACは、目的の種を含有する混合物を固定相にアプライすることによって行う。適切な条件下で、これは、種の固定相への配位結合を生じる。その後、溶出溶媒をアプライする前に未結合成分を洗い流す。溶出について、塩濃度が増加するか、又はpHが減少する勾配(連続的に又は一連の段階として)を用い得る。また、一般的に用いる方法は、イミダゾール濃度が増加する勾配をアプライすることである。異なる環境において異なる供与基特性を有する、例えばヒスチジン残基を有する生体分子を、勾配溶出を用いて分離することができる。
【0208】
ウイルスベクターは、その表面に、IMAC固定相に結合する能力を有し得る、タンパク質などの部分を有する。このことは、潜在的に、IMACをそれらの単離に用いることができることを意味する。
【0209】
遠心
適切な遠心技術としては、ゾーン遠心分離法、等密度超遠心法及びペレッティング遠心法が挙げられる。
【0210】
ろ過滅菌
ろ過滅菌は医薬品グレードの物質のための工程でよく見られ、且つ当業者に公知である。ろ過滅菌により、生成する製剤は実質的に混入物質が存在しないものになる。ろ過滅菌後の混入物質のレベルは、製剤が臨床用途に適するほどである。本発明において、ろ過滅菌ステップ後の任意のさらなる濃縮(例えば限外ろ過による)は、無菌条件で行うことが好ましい。
【0211】
本発明で用いる適切な滅菌フィルターは当業者に周知である。好ましくは、滅菌フィルターは最大孔径0.22μmを有する。
【0212】
ベクターの完全性(Vector Integrity)の確認
精製工程中にレトロウイルスベクターの遺伝子の完全性を確認するために、様々なアッセイを使用し得る。1つのそのような方法は、ベクターがコードする遺伝子の存在を確認することである。好ましい実施形態において、その方法は、ベクターがコードする1つ又は複数の目的ヌクレオチド(NOI)の存在を確認し得る。これは、例えばベクター調製物からのRNAの単離、及び残存プラスミドDNAを分解するためのDNaseIでの消化によって成し得る。逆転写酵素(RT)反応は、RNAをcDNA配列へと変換し、この後、NOI配列の選択した領域の特異的PCR増幅を行う。
【0213】
医薬組成物及び投与
本発明は、遺伝子治療によって個体を治療するための製剤(医薬組成物)であって、治療有効量のベクターを含む組成物を提供する。医薬組成物は、ヒト又は動物で使用するものであり得る。典型的には、医師が個体被験体に最も適切である実際の用量を決定し、これは、特定の個体の年齢、重量及び応答に応じて異なる。
【0214】
組成物は、場合により製薬上許容される担体、希釈剤、賦形剤又はアジュバントを含み得る。製薬用の担体、賦形剤又は希釈剤の選択は、意図する投与経路及び標準的な製薬上の慣行に関連して行うことができる。医薬組成物は、担体、賦形剤又は希釈剤に加えて、任意の適切な結合剤(複数可)、潤滑剤(複数可)、懸濁剤(複数可)、コーティング剤(複数可)、可溶化剤(複数可)、及びウイルスが標的部位内に進入すること(例えば脂質送達系など)を補助又は増加させ得る他の担体物質を含み得る。
【0215】
必要に応じて、組成物は以下のうちの任意の1つ又は複数によって投与することができる:吸入;坐薬又は膣坐薬の形態;ローション、溶液、クリーム、軟膏又は粉剤の形態で局所的に;皮膚パッチの使用;デンプン若しくはラクトースなどの賦形剤を含有する錠剤の形態、又はカプセル若しくはオビュール剤(ovule)に単独で若しくは賦形剤と混合した形態で、又は香味剤若しくは着色料を含有するエリキシル剤、液剤若しくは懸濁液の形態で経口的に;あるいは、非経口的に、例えば海綿体内、静脈内、筋肉内、頭蓋内、眼内又は皮下に注射することができる。非経口投与には、組成物を他の物質、例えば溶液を血液と等張にするのに十分な塩又は単糖を含有し得る滅菌水溶液の形態で用いることが最もよいかもしれない。口腔又は舌下投与には、従来方法によって製剤化することができる錠剤又はロゼンジ(lozenge)の形態で組成物を投与し得る。
【0216】
治療
本発明の方法によって製造されるレトロウイルスベクターは治療に使用することができる。本明細書における治療に関する言及にはすべて、治療的処理、緩和処置及び予防的処置が含まれることは理解されるだろう。哺乳動物の治療が特に好ましい。ヒトの治療及び獣医学的治療の両方が本発明の範囲に含まれる。
【0217】
一実施形態において、本方法によって製造したレトロウイルスベクター製剤を使用して、パーキンソン病を治療するためのドーパミン合成経路の3つの酵素をコードする3つの遺伝子を導入し得る。このレトロウイルスベクターは、VSV-G又は別のウイルスエンベロープタンパク質を用いてシュードタイプ化し得るウマ伝染性貧血ウイルス(EIAV)に由来する非複製の自己不活性型最小レンチウイルスベクターである。レトロウイルスベクターが保持する遺伝子は、ヒトチロシンヒドロキシラーゼ(TH*)遺伝子の切断型(THのフィードバック制御に関与するN末端160アミノ酸を欠失している)、ヒト芳香族L-アミノ酸デカルボキシラーゼ(AADC)、及びヒトGTP-シクロヒドロラーゼ1(CH1)遺伝子を含み得る。レトロウイルスベクターは、(1)組換えEIAVベクターゲノム(pONYK1-ORT)、(2)合成EIAV gag/pol発現ベクター(pESGPK)、(3)VSV-Gエンベロープ発現ベクター(pHGK)をコードする3つのプラスミドを用いたHEK293T細胞の一過的トランスフェクションによって産生し得る。レトロウイルスベクター製剤は、脳線条体への直接注入によって投与し得る。
【0218】
別の実施形態において、本方法によって製造したレトロウイルスベクター製剤は、光受容細胞及び補助網膜色素上皮(RPE)細胞に、修正用MYO7A遺伝子を導入し、それによりアッシャー1B症候群に伴う視力の悪化を軽減又は回復させるように設計された遺伝子治療製品として用いることができる。このレトロウイルスベクターは、VSV-G又は別のウイルスエンベロープタンパク質を用いてシュードタイプ化し得るウマ伝染性貧血ウイルス(EIAV)に由来する非複製の自己不活性型最小レンチウイルスベクターである。レトロウイルスベクターが保持する遺伝子は、MYO7Aタンパク質をコードするMYO7A cDNAである(100mb長を超える大きな遺伝子)。大きなMYO7Aタンパク質の発現は、このミオシン亜型の過剰発現を防ぐ新規CMV/MYO7Aキメラプロモーターを用いて、RPE細胞及び光受容細胞を標的化するように最適化し得る。しかし、CMVなどの別のプロモーターを用いることも可能である。レトロウイルスベクター製剤は、目の硝子体茎切除術後の直接網膜下注入によって投与し得る。
【0219】
別の実施形態において、本方法によって製造したレトロウイルスベクター製剤は、光受容体に、修正用ATP結合カセット遺伝子、ABCA4(ABCRとしても知られる)を導入し、それによりシュタルガルト病をもたらす病態生理を軽減又は回復させるように用いることができる。このレトロウイルスベクターは、VSV-G又は別のウイルスエンベロープタンパク質を用いてシュードタイプ化し得るウマ伝染性貧血ウイルス(EIAV)に由来する非複製の自己不活性型最小レンチウイルスベクターである。レトロウイルスベクターが保持する遺伝子は、ABCA4タンパク質をコードするABCA4 cDNAである。ABCA4タンパク質の発現は、ロドプシンキナーゼなどの光受容体特異的プロモーターを用いて、桿体光受容細胞及び錐体光受容細胞における発現について最適化し得る。しかし、CMVなどの別のプロモーターを用いることも可能である。レトロウイルスベクター製剤は、目の硝子体茎切除術後の直接網膜下注入によって投与し得る。
【0220】
別の実施形態において、本方法によって製造したレトロウイルスベクター製剤は、滲出型加齢黄斑変性症(AMD)の患者の目の浮腫における、異常な血管成長の再発を防ぐように設計された遺伝子治療製品として用いることができる。このレトロウイルスベクターは、アンジオスタチン及び/又はエンドスタチンなどの1つ又は複数の抗血管新生タンパク質をコードする1つ又は複数の遺伝子を送達する。このレトロウイルスベクターは、VSV-G又は別のウイルスエンベロープタンパク質を用いてシュードタイプ化し得るウマ伝染性貧血ウイルス(EIAV)に由来する非複製の自己不活性型最小レンチウイルスベクターである。一実施形態において、レトロウイルスベクターは、網膜色素上皮細胞への送達のために内部リボソーム侵入部位(IRES)を利用した2シストロン性の配置で、ヒトエンドスタチン及びアンジオスタチン遺伝子を発現する。抗血管新生遺伝子(複数可)の発現は、卵黄状黄斑ジストロフィー2(VMD2)プロモーター(最近ではベストロフィン(bestrophin)プロモーターとして知られる)などのRPE特異的プロモーターを用いて、標的網膜色素上皮に限定し得る。しかし、CMVなどの別のプロモーターを用いることも可能である。レトロウイルスベクター製剤は、目の硝子体茎切除術後の直接網膜下注入によって投与し得る。
【0221】
さらに別の実施形態において、本方法によって製造したレトロウイルスベクター製剤は、移植前にドナーの角膜に抗血管新生遺伝子(複数可)を送達することによって、新血管形成の結果としての角膜移植拒絶反応を防ぐように設計された遺伝子治療製品として用いることができる。このレトロウイルスベクターは、VSV-G又は別のウイルスエンベロープタンパク質を用いてシュードタイプ化し得るウマ伝染性貧血ウイルス(EIAV)に由来する非複製の自己不活性型最小レンチウイルスベクターである。一実施形態において、レトロウイルスベクターは、角膜移植片へのex vivo送達のために内部リボソーム侵入部位(IRES)を利用した2シストロン性の配置で、ヒトエンドスタチン及びアンジオスタチン遺伝子などの抗血管新生遺伝子(複数可)を発現する。レトロウイルスベクター製剤は、ex vivoで角膜移植組織に適用することができ、形質導入されたドナー組織は、移植前に保存することもできる。抗血管新生遺伝子(複数可)の発現は、CMVプロモーターなどの構成的プロモーターによって駆動され得るが、別のプロモーターを用いることも可能である。
【実施例】
【0222】
以下の実施例を参照しながら非限定的な実施例によって本発明の様々な好ましい特徴及び実施形態を説明する。
【0223】
製造方法の説明
プロサビン(ProSavin)(登録商標)は、ドーパミン生合成経路の3つの酵素をコードする3つの遺伝子を送達することによってパーキンソン病を治療するように設計されたレンチウイルスベクターである。
【0224】
プロサビン(登録商標)ベクター活性物質は、ウマ伝染性貧血ウイルス(EIAV)に由来し、VSV-Gでシュードタイプを作製した、ドーパミン合成経路に関与する3つの酵素をコードする自己不活性型最小レンチウイルスベクターから成る。
【0225】
プロサビン(登録商標)ベクターがコードするタンパク質は、ヒトチロシンヒドロキシラーゼ(TH*)遺伝子の切断型(THのフィードバック制御に関与するN末端160アミノ酸を欠失している)、ヒト芳香族L-アミノ酸デカルボキシラーゼ(AADC)、及びヒトGTP-シクロヒドロラーゼ1(CH1)遺伝子である。
【0226】
プロサビン(登録商標)ベクターは、(1)組換えEIAVプロサビン(登録商標)ベクターゲノム(pONYK1-ORT)、(2)合成EIAV gag/pol発現ベクター(pESGPK)、(3)VSV-Gエンベロープ発現ベクター(pHGK)をコードする3つのプラスミドを用いたHEK293T細胞の一過的トランスフェクションによって産生される。
【0227】
HEK293T細胞は、図1に示すように、組織培養フラスコ中で10層の細胞工場(CF)へと増殖させる。トランスフェクション前の上清体積は、約24リットルである。一定量のプラスミド及びリポフェクタミンTM2000試薬(Invitrogen, CA)CD若しくはPEIを含有するトランスフェクション混合物を、容器に移し細胞工場に接触させた。CFからの培養培地を容器に流し入れ、混合した後、プラスミドを含有する培地をCFに戻す。この工程をすべてのCFについて繰り返す。トランスフェクションの14〜19時間後に、培地を、10 mMの酪酸ナトリウムを添加した新鮮な増殖培地と交換する。酪酸ナトリウム誘導の6〜8時間後、酪酸ナトリウムを含有する培地を酪酸ナトリウムを含有しない新鮮な増殖培地と交換する。さらに21〜23時間後、ベクターを含有する上清を滅菌フレキシブルバッグに回収する。
【0228】
ベクターを含有する上清の回収後、すべてのCFから産生後の細胞のサンプルを集める。産生後の細胞(post production cell、PPC)を複製能を有するレンチウイルス(RCL)について試験する(以下参照)。ベクターを含有する上清を1.2/0.45μmフィルターを用いてろ過清澄化し、DNAを消化するために、ベンゾナーゼ(Benzonase)(登録商標)ヌクレアーゼを最終濃度5 U/mlになるように添加する(図1)。2〜8℃で一晩インキュベーションした後、塩化ナトリウムの段階的溶出勾配を用いた陰イオン交換膜クロマトグラフィーによって、ベンゾナーゼ(登録商標)ヌクレアーゼで処理したベクターを精製する。その後、溶出液のベクターを含有する画分を濃縮し、さらに中空糸型限外ろ過/ダイアフィルトレーションによって精製する。この工程の間、ベクターを製剤化バッファー中に交換し、約400mlの薬物原料バッチ(drug substance batch)を製造し、分注して≦-70℃に凍結保存する(図1)。
【0229】
薬物原料(複数可)を解凍し、集めてろ過滅菌する(0.2μm)。その後、ろ過滅菌したバルク薬物原料を中空糸型限外ろ過によって濃縮し、図1に示すバルク薬物製品を製造する。
【0230】
プロサビン(登録商標)ベクター調製物のろ過滅菌
個々のロット内のベクター粒子数及び濃度を決定するために、ベクター調製物内のベクターゲノムRNA配列数を定量するためのリアルタイム逆転写酵素PCRアッセイ(qRT-PCR)を用いた。これは、レトロウイルスベクターRNAパッケージングの予測可能な性質に依存しており、以前記述されている(Radcliffeら(2008) Gene Therapy 15: 289-297)。EIAV調製物IH18は、最終製品段階で1mlあたり5.6x1012のRNAコピーのベクター粒子濃度を有していた。この濃度で滅菌ろ過ユニットを通してろ過すると、わずか18.5%の回収率となった(総RNAコピーは、ろ過前に3.93x1013コピーであり、ろ過後に7.26x1012であった)。様々な他の調製物も、不十分なろ過回収率しかもたらさなかった。従って、全体の濃度が低いためにベクター粒子濃度が低い工程のより早い段階でのろ過によって、ろ過工程からのより高い回収率がもたらされ得るという仮説を検証することを決めた。製造方法はすでに中間の保持段階を含んでおり、そのため便宜上、製造のこの段階にろ過実験を集中させた。ベクターの濃度が低いことにより、滅菌ろ過からの回収率が改善されるという仮説を検証するために、より低い粒子濃度であることがわかっている、より初期のベクター調製物に由来する原料をろ過した。当初このロットIH17は、イオン交換段階中に生じ、中間段階において期待されるRNAコピー数、1mlあたり5.5x1010コピーより低い濃度をもたらした損失により、「最終製品」段階まで処理しなかった。この原料のろ過は、劇的に改善された82.4%の回収率をもたらした。より低い濃度であるが、より大きい体積のベクター粒子が滅菌ろ過からの回収率の改善をもたらすことは、続いて2つの異なるロットIH19及びIH21を用いて確認された。IH19では、製造の中間保持段階でのRNAコピー数は、1mlあたり1.2x1012コピーであった。これをろ過前に、4.6x1011コピーまで希釈し、その結果84.5%のベクター粒子が回収された(総RNAコピーは、ろ過前に9.21x1013コピーであり、ろ過後に7.80x1013であった)。このロットのベクターの製造は、後に、ベクターの質のいくつかの他の測定(ベクター強度アッセイ(vector strength assay)を含む)によって成功であったことが実証された。IH21では、製造の中間保持段階でのRNAコピー数は、1mlあたり8.1x1010コピーであった。これをろ過し、86.6%のベクター粒子が回収された(総RNAコピーは、ろ過前に1.64x1013コピーであり、ろ過後に1.42x1013であった)。このロットのベクターの製造も、ベクターの質のいくつかの他の測定(ベクター強度アッセイを含む)によって成功であったことが実証された。
【0231】
これらの実験から、ベクター濃度が1mlあたり4.6x1011コピー以下の場合にEIAV粒子のろ過が高い回収率で達成されると結論付けた。
【0232】
上述の明細書中で言及したすべての出版物は、参照により本明細書中に援用される。本発明の記載した方法及び系の様々な改変及び変形が、本発明の範囲及び精神から逸脱せずに、当業者には明らかであろう。本発明を特定の好ましい実施形態に関連して記載したが、特許請求の範囲に記載の本発明は、そのような具体的な実施形態に過度に限定されるべきでないことを理解されたい。実際、分子生物学又は関連分野の技術者には明らかである、本発明を実施するための記載した方法の様々な改変が、添付の特許請求の範囲内にあることを意図する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ろ過滅菌ステップを含むレトロウイルスベクター製剤の製造方法であって、該ろ過滅菌ステップが製造方法の最終ステップではない、上記方法。
【請求項2】
ろ過滅菌ステップが濃縮ステップの前にある、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
濃縮ステップが前記方法の最終ステップであり、且つ、ろ過滅菌ステップが前記方法の最後から2番目のステップである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
濃縮ステップを限外ろ過を用いて行う、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項5】
限外ろ過がタンジェンシャルフローろ過を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
限外ろ過が中空糸型限外ろ過を含む、請求項4又は5に記載の方法。
【請求項7】
ろ過滅菌ステップを、最大孔径約0.22μm以下の滅菌フィルターを用いて行う、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
レトロウイルスベクターを含む調製物をろ過滅菌ステップ前に希釈する、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
以下のステップ(i)〜(vi)を時系列で含む、レトロウイルスベクター製剤の製造方法。
(i)レトロウイルスベクターを産生する細胞を培養するステップ;
(ii)レトロウイルスベクターを含有する上清を回収するステップ;
(iii)場合により、上清を清澄化するステップ;
(iv)レトロウイルスベクターを精製してレトロウイルスベクター調製物を得るステップ;
(v)レトロウイルスベクター調製物をろ過滅菌するステップ;及び
(vi)レトロウイルスベクター調製物を濃縮し、最終バルク製品を製造するステップ。
【請求項10】
ステップ(iv)を、クロマトグラフィー、限外ろ過/ダイアフィルトレーション、又は遠心から選択される方法又は方法の組み合わせを用いて行う、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
1つ又は複数のクロマトグラフィー法が、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、及び逆相クロマトグラフィー、固定化金属イオンアフィニティークロマトグラフィーから選択される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
遠心法が、ゾーン遠心分離法、等密度遠心法、及びペレッティング遠心法から選択される、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
限外ろ過/ダイアフィルトレーション法が、タンジェンシャルフローダイアフィルトレーション、撹拌細胞ダイアフィルトレーション及び透析から選択される、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
精製を改善するために核酸を分解する少なくとも1つのステップが含まれる、請求項9〜13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記ステップがヌクレアーゼ処理である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記ヌクレアーゼが、ベンゾナーゼ(Benzonase)(登録商標)ヌクレアーゼである、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
核酸分解ステップを、ステップ(iv)まで及びステップ(iv)を含む任意の時点で行う、請求項14及び15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
精製ステップ(iv)が、1回又は複数回のバッファー交換ステップを含む、請求項14〜16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
ステップ(vi)を限外ろ過を用いて行う、請求項9に記載の方法。
【請求項20】
限外ろ過がタンジェンシャルフローろ過を含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
限外ろ過が中空糸型限外ろ過を含む、請求項19又は20に記載の方法。
【請求項22】
ステップ(v)のろ過滅菌を、最大孔径約0.22μm以下の滅菌フィルターを用いて行う、請求項9〜21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
ステップ(iii)をろ過清澄化によって行う、請求項9〜22のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
バッファー交換が、限外ろ過/ダイアフィルトレーションの保持液を製剤化バッファーと交換することを含む、請求項18に記載の方法。
【請求項25】
製剤化バッファーが、糖を含有するpH緩衝塩溶液である、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
バッファーがTRISである、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
レトロウイルスベクター調製物をろ過滅菌前に希釈する、請求項9〜26のいずれか1項に記載の方法。
【請求項28】
レトロウイルスベクターがレンチウイルスに由来する、請求項1〜27のいずれか1項に記載の方法。
【請求項29】
レトロウイルスベクターがHIVに由来する、請求項1〜28のいずれか1項に記載の方法。
【請求項30】
レトロウイルスベクターがEIAVに由来する、請求項1〜29のいずれか1項に記載の方法。
【請求項31】
ろ過滅菌前におけるレトロウイルスベクター濃度が、レトロウイルスベクター調製物1mlあたり約4.6x1011以下のRNAゲノムコピーである、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
レトロウイルスベクターが目的ヌクレオチド(NOI)を含む、請求項1〜31のいずれか1項に記載の方法。
【請求項33】
レトロウイルスベクター製剤が患者への投与に適したものである、請求項1〜32のいずれか1項に記載の方法。
【請求項34】
レトロウイルスベクター製剤が患者の目への投与に適したものである、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
レトロウイルスベクター製剤が患者の脳への投与に適したものである、請求項33に記載の方法。
【請求項36】
レトロウイルスベクター製剤が注射による投与に適したものである、請求項33〜35のいずれか1項に記載の方法。
【請求項37】
レトロウイルスベクター製剤が、場合によりヒト又は動物の目の硝子体茎切除術に続く、直接網膜下注入に適したものである、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
レトロウイルスベクター製剤が、ヒト又は動物の脳線条体への直接注入に適したものである、請求項36に記載の方法。
【請求項39】
レトロウイルスベクター製剤がex vivo投与に適したものである、請求項1〜32のいずれか1項に記載の方法。
【請求項40】
レトロウイルスベクター製剤が患者から得ることができる細胞への投与に適したものである、請求項1〜32のいずれか1項に記載の方法。
【請求項41】
請求項1〜40のいずれか1項に記載の方法により得ることができる、レトロウイルスベクター製剤。
【請求項42】
レトロウイルスベクター製剤が遺伝子治療用である、請求項41に記載のレトロウイルスベクター製剤。
【請求項43】
遺伝子治療用医薬の製造における、請求項41に記載のレトロウイルスベクター製剤の使用。

【図1−1】
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【図1−2】
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【公表番号】特表2011−524887(P2011−524887A)
【公表日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−514119(P2011−514119)
【出願日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際出願番号】PCT/GB2009/001527
【国際公開番号】WO2009/153563
【国際公開日】平成21年12月23日(2009.12.23)
【出願人】(306034996)オックスフォード バイオメディカ(ユーケー)リミテッド (8)
【Fターム(参考)】