説明

ウインチ監視装置

【課題】オペレータの意図に反したロープの繰り出しの防止に資するウインチ監視装置を提供する。
【解決手段】ブレーキモードが中立フリーモードに設定されておらず、かつ、巻き上げ操作レバー13が操作されていない場合に、巻き取りドラム3が回転していることが検出されると、警報信号を出力するように構成した。この警報信号を利用してスピーカ31から音声にて巻き取りドラム3が回転している旨の報知を行うように構成することで、ブレーキ切換弁5のスプール位置の切り換え不良のような不具合が生じて巻き上げ操作レバー13を操作していないにもかかわらず荷の自重によって巻き取りドラム3が回転してしまう場合であっても、その旨を報知する警報を発することできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウインチ装置の監視をするウインチ監視装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ウインチ装置には、油圧モータの動力をウインチドラムに伝達するためクラッチと、ウインチドラムを制動するブレーキとが設けられる。そして、動力巻上(巻下)を行うように操作レバーが操作されると、クラッチが接続されるとともにブレーキが開放されて油圧モータの動力によってウインチドラムが回転駆動される。
【0003】
仮に、動力巻上(巻下)を行うように操作レバーが操作されても、何らかの不具合によってクラッチが接続されなかった場合、ブレーキが開放されるため、荷の自重によってウインチドラムが回転してしまい、オペレータの意図に反してロープが繰り出されてしまうおそれがある。そこで、ウインチを駆動制御しているときにウインチの駆動制御装置の不具合によってウインチ操作とは関係なくウインチドラムよりロープが繰り出されてしまうという不具合を防止するように構成されたウインチ制御装置が知られている。このウインチ制御装置では、操作レバーの操作方向とロープの移動方向とを検出し、操作レバーで巻き上げ操作をしているにもかかわらずロープが繰り出されていることが検出されると警報を発するとともにブレーキによって制動するように構成されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−16774号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
たとえば、クラッチ機能とブレーキ機能とを1つの制動装置で果たすように構成されたウインチ装置の場合、この制動装置に不具合が生じると操作レバーを操作していなくても荷の自重によってウインチドラムが回転してしまい、オペレータの意図に反してロープが繰り出されてしまうおそれがある。しかし、上述した特許文献に記載の装置では、操作レバーの操作方向とウインチドラムの回転方向とが一致しない状態を想定しているため、操作レバーを操作していなくても荷の自重によってウインチドラムが回転してしまう場合には、警報を発することなどができなかった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1) 請求項1の発明によるウインチ監視装置は、ウインチ装置の操作レバーが操作されているか否かを検出する操作レバー操作検出手段と、吊り荷の自重によるウインチ装置のウインチドラムの回転を許容するフリーフォールモードを設定するフリーフォールモード設定手段と、ウインチドラムが回転しているか否かを検出するウインチドラム回転検出手段と、操作レバー操作検出手段で操作レバーが操作されていないことが検出され、かつ、フリーフォールモード設定手段でフリーフォールモードが設定されていないと判断され、かつ、ウインチドラム回転検出手段でウインチドラムが回転していることが検出されると、警報信号を出力する制御手段とを備えることを特徴とする。
(2) 請求項2の発明は、請求項1に記載のウインチ監視装置において、制御手段からの警報信号が入力されると、警報を発生する警報手段をさらに備えることを特徴とする。
(3) 請求項3の発明は、請求項1または請求項2に記載のウインチ監視装置において、制御手段は、操作レバー操作検出手段で操作レバーが操作されていないことが検出され、かつ、フリーフォールモード設定手段でフリーフォールモードが設定されていないと判断され、かつ、ウインチドラム回転検出手段でウインチドラムが回転していることが検出されると、制動信号を出力し、制御手段からの制動信号が入力されるとウインチドラムに制動力を付与する制動手段をさらに備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
操作レバーが操作されていないことが検出され、かつ、フリーフォールモードが設定されていないと判断され、かつ、ウインチドラムが回転していることが検出されると、警報信号を出力するように構成した。この警報信号を利用してウインチドラムが回転している旨をオペレータに報知すれば、オペレータによるブレーキ操作を期待でき、オペレータの意図に反してロープが繰り出されてしまうことを防止できる。また、この警報信号を利用してブレーキを自動的に作動させるように構成すれば、オペレータの意図に反してロープが繰り出されてしまうことを防止できる。したがって、本発明によれば、オペレータの意図に反したロープの繰り出しの防止に資する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本実施の形態におけるウインチ監視装置を有するウインチ装置が搭載されたクレーンの外観側面図である。
【図2】ウインチ装置の構成を示す油圧回路図である。
【図3】音声警報の出力処理の動作について説明するフローチャートである。
【図4】変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1〜3を参照して、本発明によるウインチ監視装置の一実施の形態を説明する。図1は、本実施の形態におけるウインチ監視装置を有するウインチ装置が搭載されたクレーンの外観側面図である。図1に示すように、クレーンは、走行体101と、走行体101上に搭載された旋回可能な旋回体102と、旋回体102に起伏可能に支持されたブーム103とを有する。旋回体102にはウインチドラム(巻き取りドラム)3が搭載され、巻き取りドラム3の駆動によりワイヤロープ104が巻上げまたは巻下げられ、吊り荷(掘削用バケット等)106が昇降する。また、旋回体102には起伏ドラム107が搭載され、起伏ドラム107の駆動により起伏ロープ108が巻上げまたは巻下げられ、ブーム103が起伏される。
【0010】
図2は、本実施の形態のウインチ装置の構成を示す油圧回路図である。図2に示すようにウインチ装置は、巻き取りドラム3と、巻き取りドラム3を駆動する油圧モータ1と、油圧モータ1に駆動圧油を供給するメインポンプ12と、メインポンプ12から油圧モータ1への圧油の流れを制御するコントロール弁11と、油圧モータ1の駆動力を巻き取りドラム3に伝達する遊星減速機2と、巻き取りドラム3を制動する制動装置4とを有する。コントロール弁11は、巻き上げ操作レバー13の操作方向、操作量に応じて制御される。すなわち、パイロット弁13a,13bは、巻き上げ操作レバー13の操作方向、操作量に応じて操作される。そして、パイロット弁13aまたはパイロット13bを介して供給されるパイロットポンプ9からのパイロット圧油によりコントロール弁11が制御される。
【0011】
また、ウインチ装置は、ブレーキ切換弁5と、ポジティブブレーキ制御弁6と、モータブレーキ切換弁7と、モータブレーキシリンダ8と、作動油タンク10と、高圧選択弁14と、巻き上げ回路圧力検出装置15と、ブレーキ回路圧力検出装置16と、ブレーキモード切換スイッチ17と、コントローラ18と、回転検出器19と、スピーカ31とを有する。
【0012】
油圧モータ1の出力軸は遊星減速機2のサンギヤ21に連結されている。サンギヤ21にはプラネタリギヤ22が噛合され、プラネタリギヤ22には巻き取りドラム3の内周側に設けられたリングギヤ23が噛合されている。プラネタリギヤ22はプラネタリキャリア24により支持され、プラネタリキャリア24は制動装置4のケーシング48の内部に達している。
【0013】
制動装置4は湿式多板ブレーキであり、摩擦板41と、相手板42と、押圧部材43と、ネガティブシリンダ44と、ポジティブシリンダ45と、ネガティブばね付勢力伝達部材46と、ネガティブばね47と、ケーシング48とが設けられている。旋回体102の不図示のフレームに固定されたケーシング48内において、プラネタリキャリア24には複数枚の摩擦板41がスプライン結合により軸方向に移動可能に係合され、摩擦板41はプラネタリキャリア24と一体に回転可能となっている。ケーシング48の内周面には複数枚の相手板42がスプライン結合により軸方向に移動可能に係合されている。相手板42と摩擦板41は軸方向に交互に配置されている。
【0014】
最外部の相手板42の側方には押付部材43が配置されている。交互に配置された摩擦板41と相手板42とを圧接するように、押付部材43には後述するネガティブばね付勢力伝達部材46を介してネガティブばね47の付勢力が作用するように構成されている。これにより摩擦板41の表面に摩擦力が作用し、摩擦板41の回転が阻止される。また、交互に配置された摩擦板41と相手板42とを圧接するように、押圧部材43には後述するポジティブシリンダ45の押圧力が作用するように構成されている。
【0015】
ネガティブばね付勢力伝達部材46は、ネガティブばね47の付勢力を押付部材43に伝達する部材である。また、ネガティブばね付勢力伝達部材46は、後述するネガティブシリンダ44に供給される圧油によって、ネガティブばね47の付勢力に抗してネガティブばね47を押圧する部材である。
【0016】
ネガティブシリンダ44は、ウインチ装置のクラッチ機能を果たすように、圧油の供給によって制動力を解放するネガティブブレーキとして制動装置4を動作させるためのアクチュエータである。ポジティブシリンダ45は、ウインチ装置のブレーキ機能を果たすように、圧油の供給によって制動力を発生するポジティブブレーキとして制動装置4を動作させるためのアクチュエータである。なお、図2では、ネガティブシリンダ44およびポジティブシリンダ45の機能を説明するために、ネガティブシリンダ44、ポジティブシリンダ45、およびネガティブばね付勢力伝達部材46を模式的に表している。
【0017】
ネガティブシリンダ44は、シリンダチューブに相当する部位がケーシング48に固定されている。ネガティブシリンダ44は、ブレーキ切換弁5を介してパイロットポンプ9からパイロット圧油が供給されると、ネガティブばね付勢力伝達部材46を押圧してネガティブばね47による押付部材43への押圧力を解除する押圧力を発生させる。
【0018】
すなわち、ネガティブシリンダ44は油室にブレーキ切換弁5を介してパイロット圧油が供給されるとネガティブばね47の付勢力に抗してネガティブばね47を押圧する。ネガティブばね付勢力伝達部材46は、ネガティブシリンダ44の油室にパイロット圧油が供給されていないときに、ネガティブばね47の付勢力で押付部材43を押圧する。
【0019】
ポジティブシリンダ45は、シリンダチューブに相当する部位がケーシング48に固定されている。ポジティブシリンダ45は、ポジティブブレーキ制御弁6を介してパイロットポンプ9からパイロット圧油が供給されると、押付部材43への押圧力を発生させる。なお、ポジティブシリンダ45には、ポジティブシリンダ戻しばね45aが設けられている。ポジティブシリンダ戻しばね45aは、交互に配置された摩擦板41と相手板42とが互いに離間する方向に向かって、他方のピストンロッドおよびピストンを介して押付部材43を付勢している。
【0020】
ブレーキ切換弁5は、コントローラ18からの励磁信号によってソレノイドが励磁されると、スプール位置が位置aから位置bに切り換えられて、パイロットポンプ9からのパイロット圧油がネガティブシリンダ44の油室に供給されることを許可する。ポジティブブレーキ制御弁6は、操作ペダル(ブレーキペダル)6aにより操作される制御弁であり、ブレーキペダル6aの操作量(操作力)に応じた圧力のパイロット圧油をポジティブシリンダ45の油室へ供給する。ブレーキペダル6aの非操作時には、パイロットポンプ9からポジティブシリンダ45の油室へのパイロット圧油の供給がポジティブブレーキ制御弁6により遮断される。
【0021】
モータブレーキ切換弁7は、モータブレーキシリンダ8に供給するパイロットポンプ9からのパイロット圧油の流通を許可または禁止する切換弁である。モータブレーキ切換弁7は、巻き上げ操作レバー13の操作によってパイロット弁13aまたはパイロット13bと、高圧選択弁14とを介してスプール駆動用のパイロット圧油が供給されると、モータブレーキシリンダ8に供給するパイロットポンプ9からのパイロット圧油の流通を許可する。また、モータブレーキ切換弁7は、巻き上げ操作レバー13が操作されず、高圧選択弁14を介したスプール駆動用のパイロット圧油の供給が絶たれると、モータブレーキシリンダ8に供給するパイロットポンプ9からのパイロット圧油の流通を禁止する。
【0022】
モータブレーキシリンダ8は、油圧モータ1の回転を許可または禁止するブレーキ装置である。モータブレーキシリンダ8は、モータブレーキ切換弁7を介してパイロットポンプ9からのパイロット圧油が供給されるとブレーキを解除して油圧モータ1の回転を許可する。また、モータブレーキシリンダ8は、モータブレーキ切換弁7を介したパイロットポンプ9からのパイロット圧油の供給が絶たれると、ブレーキを作動させて油圧モータ1の回転を禁止する。
【0023】
巻き上げ回路圧力検出装置15は、巻き上げ操作レバー13の操作の有無を検出するために巻き上げ操作レバー13の操作量に応じたパイロット圧を検出するための圧力スイッチまたは圧力センサである。ブレーキ回路圧力検出装置16は、ブレーキペダル6aの操作の有無を検出するためにポジティブシリンダ45の油室に供給される圧油の圧力を検出するための圧力スイッチまたは圧力センサである。ブレーキモード切換スイッチ17は、後述するようにブレーキモードを切り換えるための操作スイッチである。コントローラ18は、種々の条件に応じてブレーキ切換弁を制御するための制御装置である。回転検出器19は、巻き取りドラム3の回転を検出するセンサである。スピーカ31は、コントローラ18から出力される各種の音声信号によって音声を発生するスピーカであり、クレーンの運転室内に設けられている。
【0024】
このように構成されるウインチ装置で設定可能なブレーキモードは、「自動ブレーキモード」と「中立フリーモード」との2つのブレーキモードである。上述したように、ブレーキモード切換スイッチ17の操作によって、オペレータは上記2つのブレーキモードを選択できる。ブレーキモード切換スイッチ17の操作によって自動ブレーキモードが選択されると、後述するように、巻き上げ操作レバー13の操作方向、操作量に応じた回転方向、回転速度で巻き取りドラム3が駆動される。そして、巻き上げ操作レバー13が中立位置では、巻き取りドラム3が停止する。
【0025】
ブレーキモード切換スイッチ17の操作によって中立フリーモードが選択されると、後述するように、巻き取りドラム3が荷の自重により自由に回転可能となる。
【0026】
−−−自動ブレーキモードにおける動力巻き上げ時の動作について−−−
ブレーキモード切換スイッチ17の操作によって自動ブレーキモードが選択されている場合、巻き上げ操作レバー13が操作されると、巻き上げ操作レバー13の操作方向、操作量に応じてパイロット弁13aまたはパイロット弁13bを介して供給されるパイロットポンプ9からのパイロット圧油でコントロール弁11のスプールが駆動される。これによってコントロール弁11のPポートと、AポートまたはBポートとが接続されて、メインポンプ12からの圧油が油圧モータ1に供給される。同時にパイロットポンプ9からのパイロット圧油は、パイロット弁13aまたはパイロット13bと、高圧選択弁14とを介してモータブレーキ切換弁7に入力される。これにより、モータブレーキ切換弁7を介してパイロットポンプ9からのパイロット圧油がモータブレーキシリンダ8に供給されるので、モータブレーキシリンダ8は、ブレーキを解除して油圧モータ1の回転を許可する。
【0027】
ブレーキモード切換スイッチ17の操作によって自動ブレーキモードが選択されている場合、後述するようにブレーキモードが自動ブレーキモードに設定されて、プラネタリキャリア24は制動装置4で固定される。すなわち、ブレーキモードが自動ブレーキモードに設定されている場合、ブレーキ切換弁5のソレノイドが励磁されず、ブレーキ切換弁5のスプール位置が戻しばねの付勢力によって位置aに切り換えられるので、ブレーキ切換弁5を介してネガティブシリンダ44の油室と作動油タンク10とが接続される。そのため、ネガティブシリンダ44にはネガティブばね47の付勢力に抗する推力が発生せず、ネガティブばね47の付勢力がネガティブばね付勢力伝達部材46、押付部材43を介して摩擦板41および相手板42に作用する。これにより、交互に配置された摩擦板41と相手板42とが圧接され、摩擦板41の表面に摩擦力が作用し、制動力が発生する。
【0028】
したがって、プラネタリギヤ22が公転できず、メインポンプ12からの圧油によって駆動される油圧モータ1の回転駆動力が遊星減速機2のサンギヤ21に入力されると、プラネタリギヤ22が公転せずに自転する。これにより、リングギヤ23に接続されている巻き取りドラム3が回転し、動力による巻き上げ(巻き下げ)が行われる。
【0029】
ブレーキモード切換スイッチ17の操作によって自動ブレーキモードが選択されている場合、巻き上げ操作レバー13が操作されず中立位置にされると、パイロット弁13aおよびパイロット弁13bを介したパイロットポンプ9からのパイロット圧油の供給が絶たれ、コントロール弁11のスプールが中立位置に移動する。これによってコントロール弁11のPポートと、AポートおよびBポートとが遮断されて、メインポンプ12から油圧モータ1への圧油の供給が断たれる。また、パイロット弁13aまたはパイロット13bと、高圧選択弁14とを介したスプール駆動用のパイロット圧油の供給が絶たれるので、モータブレーキ切換弁7は、モータブレーキシリンダ8に供給するパイロットポンプ9からのパイロット圧油の流通を禁止する。そのため、モータブレーキシリンダ8は、ブレーキを作動させて油圧モータ1の回転を禁止する。
【0030】
ブレーキモード切換スイッチ17の操作によって自動ブレーキモードが選択されている場合、上述したようにプラネタリキャリア24が制動装置4で固定されて、プラネタリギヤ22の公転が禁止される。メインポンプ12からの圧油が断たれるので油圧モータ1の回転駆動力は発生しない。また、上述したように、モータブレーキシリンダ8は、ブレーキを作動させて油圧モータ1の回転を禁止している。そのため、遊星減速機2のサンギヤ21の回転が禁止され、プラネタリギヤ22の公転および自転が禁止される。これにより、リングギヤ23に接続されている巻き取りドラム3の回転が禁止される。
【0031】
−−−中立フリーモードにおける巻き取りドラム3の動作について−−−
巻き上げ操作レバー13が中立状態にあって、油圧モータ1に圧油が供給されず、モータブレーキシリンダ8によるブレーキが作動している状態において、制動装置4の制動力が開放されると(ネガティブブレーキが開放されると)、巻き取りドラム3は荷の自重により回転可能(フリーフォール可能)となる。制動装置4は、ポジティブブレーキによる制動力の調整機能を有しており、オペレータの操作によりフリーフォール時の荷の落下速度(巻き取りドラム3の回転速度)を調整できる。
【0032】
ブレーキモード切換スイッチ17によって中立フリーモードが選択されている場合にネガティブブレーキを開放するか否か(ブレーキモードが中立フリーモードに設定されるか否か)の判断は、巻き上げ回路圧力検出装置15、ブレーキ回路圧力検出装置16およびブレーキモード切換スイッチ17の各判定値に基づいて、後述するようにコントローラ18で行われる。後述するように、コントローラ18からの励磁信号によってブレーキ切換弁5のソレノイドが励磁されると、ネガティブブレーキが開放され、ブレーキ切換弁5のソレノイドが消磁されると、ネガティブブレーキが作動する。
【0033】
−−−ネガティブブレーキの開放について−−−
コントローラ18でネガティブブレーキを開放すると判断されると、コントローラ18からの励磁信号によってブレーキ切換弁5のソレノイドが励磁されて、戻しばねの付勢力に抗してブレーキ切換弁5のスプール位置が位置aから位置bに切り換えられる。これにより、パイロットポンプ9からのパイロット圧油がブレーキ切換弁5を介してネガティブシリンダ44の油室に供給される。上述したように、ネガティブシリンダ44のシリンダチューブに相当する部位がケーシング48に固定されているので、ネガティブシリンダ44の油室に圧油が供給されると、ネガティブシリンダ44にネガティブばね47の付勢力に抗してネガティブブレーキ用の押圧力を解除する推力が発生する。そして、上述したように、ネガティブばね付勢力伝達部材46は、ネガティブばね47の付勢力に抗してネガティブばね47を押圧する方向に移動する。
【0034】
この時、ポジティブシリンダ45の油室に圧油が供給されていなければ、交互に配置された摩擦板41と相手板42とを圧接する荷重が押付部材43に作用しないので(多板ブレーキの押付け力が開放されるので)、制動装置4の制動力が解除される。なお、本実施の形態では、制動力の解除がより適切に行われるために、ポジティブシリンダ45の油室に圧油が供給されていなければ、ポジティブシリンダ戻しばね45aの付勢力によって、押付部材43がネガティブばね付勢力伝達部材46に追従するように移動するように構成されている。
【0035】
−−−ポジティブブレーキの動作について−−−
上述したようにネガティブブレーキが開放されている状態において、ポジティブシリンダ45の油室にポジティブブレーキ制御弁6を介してパイロットポンプ9からパイロット圧油が供給されると、ポジティブシリンダ45のピストンロッドが押付部材43を摩擦板41および相手板42が配設されている方向へ押圧する。これにより、交互に配置された摩擦板41と相手板42とが圧接されて、ポジティブブレーキの制動力が発生する。ポジティブブレーキ制御弁6を介したパイロット圧油の圧力をブレーキペダル6aの操作量(操作力)で調節することで、ポジティブブレーキの制動力が調節される。
【0036】
−−−ブレーキモード切り換えの判定条件について−−−
ブレーキモードの選択は、ブレーキモード切換スイッチ17によるオペレータの操作により行われる。ただし、ブレーキモードが選択されたモードに設定されるためには、以下に説明する切り換えの判定条件を満たす必要がある。
【0037】
すなわち、コントローラ18は、ブレーキモード切換スイッチ17によって自動ブレーキモードが選択されていると判断すると、ブレーキモードを自動ブレーキモードに設定する。具体的には、ブレーキモード切換スイッチ17によって自動ブレーキモードが選択されていると判断すると、ブレーキ切換弁5のソレノイドを消磁する。これにより、ブレーキ切換弁5のスプール位置が戻しばねの付勢力によって位置bから位置aに切り換えられて、上述したようにネガティブブレーキが作動する。
【0038】
コントローラ18は、巻き上げ回路圧力検出装置15からの出力信号に基づいて、パイロット弁13aまたはパイロット弁13bを介してコントロール弁11に供給されるパイロット圧油の圧力(圧力Pa)が後述する圧力P1以下であると判断し、かつ、ブレーキ回路圧力検出装置16からの出力信号に基づいて、ポジティブシリンダ45の油室に供給される圧油の圧力(圧力Pb)が後述する圧力P2以上であると判断した場合に、ブレーキモード切換スイッチ17によって中立フリーモードが選択されていると判断すると、ブレーキモードを中立フリーモードに設定する。すなわち、巻き上げ操作レバー13が中立状態であり、かつ、ブレーキペダル6aが踏み込まれ、ポジティブブレーキ制御弁6を介してパイロット圧油がポジティブシリンダ45の油室へ供給されている状態で、ブレーキモード切換スイッチ17によって中立フリーモードが選択されている場合に、ブレーキ切換弁5のソレノイドを励磁する。これにより、上述したようにネガティブブレーキが開放される。
【0039】
このように、ブレーキ切換弁5のソレノイドの励磁を制御することで、自動ブレーキモードから中立フリーモードヘの切換えの瞬間にロープが繰り出されてしまうことを防止できる。なお、圧力P1は、巻き上げ操作レバー13が中立状態であると判断されるような圧力値としてあらかじめ設定された閾値である。また、圧力P2は、ネガティブブレーキが開放されてもポジティブブレーキによる制動力で荷の自重によるロープの繰り出しを防止できるような圧力値としてあらかじめ設定された閾値である。
【0040】
−−−巻き取りドラム3が回転している旨の報知について−−−
このように構成されるウインチ装置では、上述したようにブレーキ切換弁5のソレノイドを励磁するか否かによってネガティブブレーキを開放させるか否かを切り換えている。しかし、作動油中の異物などの影響によってブレーキ切換弁5のスプールの戻り不良が生じたり、戻しばねの欠損によるブレーキ切換弁5のスプールの戻り不良が生じたりすると、ブレーキ切換弁5のソレノイドを消磁したにもかかわらず、スプール位置が位置bから位置aに切り替わらなくなるおそれがある。すなわち、上述したようなスプールの戻り不良が生じるとネガティブブレーキが開放されたままとなって、荷の自重によって巻き取りドラム3が回転してしまい、オペレータの意図に反したロープの繰り出しにオペレータが気づかないおそれがある。
【0041】
そこで、本実施の形態では、ブレーキモードが中立フリーモードに設定されておらず、かつ、巻き上げ操作レバー13が操作されていない場合に、巻き取りドラム3が回転していることが検出されると、スピーカ31から音声にて巻き取りドラム3が回転している旨の報知を行う。具体的には、コントローラ18が、ブレーキモード切換スイッチ17によって自動ブレーキモードが選択されていると判断し、かつ、巻き上げ回路圧力検出装置15からの出力信号に基づいて、パイロット弁13aまたはパイロット弁13bを介してコントロール弁11に供給されるパイロット圧油の圧力Paが圧力P1以下であると判断し、かつ、回転検出器19からの出力信号に基づいて、巻き取りドラム3が回転したと判断されると、スピーカ31に警報信号を出力する。これにより、スピーカ31から巻き取りドラム3が回転している旨の音声による警報が出力される。
【0042】
したがって、スピーカ31から出力される警報音声を聞いたオペレータが、意図に反したロープの繰り出しに気づくことができる。そして、たとえばオペレータがブレーキペダル6aを操作することによってポジティブブレーキを作動させて巻き取りドラム3を制動することで意図に反したロープの繰り出しを防止することができる。
【0043】
−−−フローチャート−−−
図3は、上述した音声警報の出力処理の動作について説明するフローチャートである。クレーンの不図示のイグニッションスイッチがオンされると、図3に示す処理を行うプログラムが起動されてコントローラ18で繰り返し実行される。ステップS1において、ブレーキモード切換スイッチ17によって自動ブレーキモードが選択されているか否かを判断する。ステップS1が肯定判断されるとステップS3へ進み、巻き上げ回路圧力検出装置15からの出力信号に基づいて、パイロット弁13aまたはパイロット弁13bを介してコントロール弁11に供給されるパイロット圧油の圧力Paが圧力P1以下であるか否かを判断する。
【0044】
ステップS3が肯定判断されるとステップS5へ進み、回転検出器19からの出力信号に基づいて、巻き取りドラム3が回転しているか否かを判断する。ステップS5が肯定判断されるとステップS7へ進み、スピーカ31に巻き取りドラム3が回転している旨の報知を行うための警報信号を出力して本プログラムを終了する。
【0045】
ステップS1が否定判断されるか、ステップS3が否定判断されるか、ステップS5が否定判断されると本プログラムを終了する。
【0046】
上述した実施の形態のウインチ装置では、次の作用効果を奏する。
(1) ブレーキモードが中立フリーモードに設定されておらず、かつ、巻き上げ操作レバー13が操作されていない場合に、巻き取りドラム3が回転していることが検出されると、警報信号を出力するように構成した。この警報信号を利用してスピーカ31から音声にて巻き取りドラム3が回転している旨の報知を行うように構成することで、ブレーキ切換弁5のスプール位置の切り換え不良のような不具合が生じて巻き上げ操作レバー13を操作していないにもかかわらず荷の自重によって巻き取りドラム3が回転してしまう場合であっても、その旨を報知する警報を発することできる。したがって、オペレータによるブレーキペダル6aの操作によってポジティブブレーキを作動させて巻き取りドラム3を制動することが期待でき、オペレータの意図に反したロープの繰り出しを防止することができる。
【0047】
すなわち、ブレーキモードが中立フリーモードに設定されておらず、かつ、巻き上げ操作レバー13が操作されていない場合に、巻き取りドラム3が回転していることが検出されると、警報信号を出力するように構成することで、オペレータの意図に反したロープの繰り出しの防止に資する。
【0048】
(2) また、上述したように、巻き上げ操作レバー13が操作されていない場合であっても警報信号を出力するように構成したので、巻き上げ操作レバー13を操作しないことで荷の移動がないと思いこんでいるオペレータに対しても、巻き取りドラム3が回転してしまっていることを迅速に報知することが可能となる。これにより、オペレータが必要以上に荷の状態を監視する必要がなくなるので、オペレータの疲労低減や作業効率の向上に資する。
【0049】
−−−変形例−−−
(1) 上述の説明では、ブレーキモードが中立フリーモードに設定されておらず、かつ、巻き上げ操作レバー13が操作されていない場合に、巻き取りドラム3が回転していることが検出されると、スピーカ31から音声にて巻き取りドラム3が回転している旨の報知を行うように構成したが、本発明はこれに限定されない。たとえば、ブレーキモードが中立フリーモードに設定されておらず、かつ、巻き上げ操作レバー13が操作されていない場合に、巻き取りドラム3が回転していることが検出されると、自動的にポジティブブレーキを作動させるように構成してもよい。
【0050】
すなわち、たとえばウインチ監視装置を以下に述べるように構成してもよい。たとえば、図4に示すように、ポジティブブレーキ制御弁6とポジティブシリンダ45とを結ぶ油路の途中に電磁切換弁32を設けるように構成する。そして、コントローラ18が、ブレーキモード切換スイッチ17によって自動ブレーキモードが選択されていると判断し、かつ、巻き上げ回路圧力検出装置15からの出力信号に基づいて、パイロット弁13aまたはパイロット弁13bを介してコントロール弁11に供給されるパイロット圧油の圧力Paが圧力P1以下であると判断し、かつ、回転検出器19からの出力信号に基づいて、巻き取りドラム3が回転したと判断されると、電磁切換弁32のソレノイドを励磁するように構成する。そして、電磁切換弁32のソレノイドが励磁されてスプール位置が切り換えられると、ポジティブシリンダ45の油室に電磁切換弁32を介してパイロットポンプ9からパイロット圧油が供給されるように構成する。このように構成することで、ブレーキモードが中立フリーモードに設定されておらず、かつ、巻き上げ操作レバー13が操作されていない場合に、巻き取りドラム3が回転していることが検出されると、スピーカ31から巻き取りドラム3が回転している旨の音声による警報が出力されるとともに、自動的にポジティブブレーキが作動する。なお、この場合には、音声警報は必須ではない。
【0051】
(2) 上述の説明では、スピーカ31から巻き取りドラム3が回転している旨の音声による警報が出力されるように構成したが本発明はこれに限定されない。たとえば、クレーンの運転室内に設けられた警報ランプを点灯または点滅させてもよく、クレーンの運転室内に設けられた表示モニタに巻き取りドラム3が回転している旨の表示をするように構成してもよい。
(3) 上述した各実施の形態および変形例は、それぞれ組み合わせてもよい。
【0052】
なお、本発明は、上述した実施の形態のものに何ら限定されず、ウインチ装置の操作レバーが操作されているか否かを検出する操作レバー操作検出手段と、吊り荷の自重によるウインチ装置のウインチドラムの回転を許容するフリーフォールモードを設定するフリーフォールモード設定手段と、ウインチドラムが回転しているか否かを検出するウインチドラム回転検出手段と、操作レバー操作検出手段で操作レバーが操作されていないことが検出され、かつ、フリーフォールモード設定手段でフリーフォールモードが設定されていないと判断され、かつ、ウインチドラム回転検出手段でウインチドラムが回転していることが検出されると、警報信号を出力する制御手段とを備えることを特徴とする各種構造のウインチ監視装置を含むものである。
【符号の説明】
【0053】
1 油圧モータ 2 遊星減速機
3 ウインチドラム(巻き取りドラム) 4 制動装置
5 ブレーキ切換弁 6 ポジティブブレーキ制御弁
9 パイロットポンプ 11 コントロール弁
12 メインポンプ 13 巻き上げ操作レバー
15 巻き上げ回路圧力検出装置 16 ブレーキ回路圧力検出装置
17 ブレーキモード切換スイッチ 18 コントローラ
19 回転検出器 31 スピーカ
44 ネガティブシリンダ 45 ポジティブシリンダ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウインチ装置の操作レバーが操作されているか否かを検出する操作レバー操作検出手段と、
吊り荷の自重による前記ウインチ装置のウインチドラムの回転を許容するフリーフォールモードを設定するフリーフォールモード設定手段と、
前記ウインチドラムが回転しているか否かを検出するウインチドラム回転検出手段と、
前記操作レバー操作検出手段で前記操作レバーが操作されていないことが検出され、かつ、前記フリーフォールモード設定手段で前記フリーフォールモードが設定されていないと判断され、かつ、前記ウインチドラム回転検出手段で前記ウインチドラムが回転していることが検出されると、警報信号を出力する制御手段とを備えることを特徴とするウインチ監視装置。
【請求項2】
請求項1に記載のウインチ監視装置において、
前記制御手段からの前記警報信号が入力されると、警報を発生する警報手段をさらに備えることを特徴とするウインチ監視装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のウインチ監視装置において、
前記制御手段は、前記操作レバー操作検出手段で前記操作レバーが操作されていないことが検出され、かつ、前記フリーフォールモード設定手段で前記フリーフォールモードが設定されていないと判断され、かつ、前記ウインチドラム回転検出手段で前記ウインチドラムが回転していることが検出されると、制動信号を出力し、
前記制御手段からの前記制動信号が入力されると前記ウインチドラムに制動力を付与する制動手段をさらに備えることを特徴とするウインチ監視装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−56745(P2013−56745A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−196177(P2011−196177)
【出願日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【出願人】(503032946)日立住友重機械建機クレーン株式会社 (104)
【Fターム(参考)】