説明

ウインドウガラス用ヒンジ装置

【課題】通常使用時においてウインドウガラスを開閉しやすくするとともに、組立ライン上で可動ヒンジ部材にウインドウガラスを固定するとき、可動ヒンジ部材を過全開位置で確実に保持することができるウインドウガラス用ヒンジ装置を提供する。
【解決手段】車両ボディ1に固定される固定ヒンジ部材20に、ウインドウガラス40に固定される可動ヒンジ部材30を枢着軸11で枢着し、ウインドウガラスを全開位置と全閉位置との間で枢着軸を中心に開閉可能とするウインドウガラス用ヒンジ装置10において、可動ヒンジ部材を、固定ヒンジ部材に対して、ウインドウガラスの全開位置より開度が大きい過全開位置迄回動可能に支持し、固定ヒンジ部材と可動ヒンジ部材の間に、過全開位置において、可動ヒンジ部材を固定ヒンジ部材に仮止めする仮止機構(固定突起22、カム突起32)を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウインドウガラス用ヒンジ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ウインドウガラス用ヒンジ装置として、車両ボディに固定される固定ヒンジ部材に、ウインドウガラスに固定される可動ヒンジ部材を枢着軸で枢着し、ウインドウガラスを全開位置と全閉位置との間で開閉可能とするものが知られている。このウインドウガラス用ヒンジ装置は、組立ライン上で可動ヒンジ部材にウインドウガラスを固定するときには、固定ヒンジ部材を車両ボディに固定し、この固定ヒンジ部材に回動自在に支持した可動ヒンジ部材を、ウインドウガラスの全開位置より開度が大きい過全開位置(オーバーストローク位置)迄回動させて上方を向かせ、その過全開位置で、ウインドウガラスを固定するのが一般的である。
【0003】
そこで従来、可動ヒンジ部材を過全開位置で保持するために、固定ヒンジ部材のヒンジ挿入穴に突出部を設け、可動ヒンジ部材を回動させると、この突出部とヒンジピンの間に回動抵抗が発生するようにしていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開平3−54576号公報
【特許文献2】特開平8−151846号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、この従来技術にあっては、過全開位置のみならず全開位置と全閉位置の間でも一律に回動抵抗が与えられるので、通常使用時においてウインドウガラスを開閉しにくいという問題がある。
【0006】
また、ヒンジ挿入穴(突出部)とヒンジピンの寸法管理に高い精度が必要であり、この寸法精度がばらつくと、組立ライン上で加わる振動により、可動ヒンジ部材が過全開位置から脱して下方に垂れた(お辞儀をした)状態になることがある。この場合、あらためて可動ヒンジ部材を過全開位置まで回動させなければならず煩雑であり、組立ラインの作業効率が低下する。
【0007】
本発明は、以上の問題意識に基づいてなされたものであり、通常使用時においてウインドウガラスを開閉しやすくするとともに、組立ライン上で可動ヒンジ部材にウインドウガラスを固定するとき、可動ヒンジ部材を過全開位置で確実に保持することができるウインドウガラス用ヒンジ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、可動ヒンジ部材を固定ヒンジ部材に対して、ウインドウガラスの全開位置より開度が大きい過全開位置迄回動可能に支持するとともに、固定ヒンジ部材と可動ヒンジ部材の間に、この過全開位置において可動ヒンジ部材を固定ヒンジ部材に仮止めする仮止機構を設ければ、通常使用時においてウインドウガラスを開閉しやすくするとともに、組立ライン上で可動ヒンジ部材にウインドウガラスを固定するとき、可動ヒンジ部材を過全開位置で確実に保持することができるとの着眼に基づいて本発明をするに至った。
【0009】
すなわち、本発明のウインドウガラス用ヒンジ装置は、車両ボディに固定される固定ヒンジ部材に、ウインドウガラスに固定される可動ヒンジ部材を枢着軸で枢着し、前記ウインドウガラスを全開位置と全閉位置との間で前記枢着軸を中心に開閉可能とするウインドウガラス用ヒンジ装置において、前記可動ヒンジ部材を、前記固定ヒンジ部材に対して、前記ウインドウガラスの全開位置より開度が大きい過全開位置迄回動可能に支持し、前記固定ヒンジ部材と可動ヒンジ部材の間に、前記過全開位置において、前記可動ヒンジ部材を固定ヒンジ部材に仮止めする仮止機構を設けたことを特徴としている。
【0010】
前記仮止機構は、前記過全開位置において互いに係合する、前記固定ヒンジ部材と可動ヒンジ部材に設けられた一対の仮止係合部から構成することができる。
【0011】
具体的には、前記固定ヒンジ部材側の仮止係合部を固定突起とし、前記可動ヒンジ部材側の仮止係合部を、前記枢着軸からの距離を全開位置から過全開位置に向けて大きくするカム突起として、前記過全開位置で前記カム突起が前記固定突起を乗り越えて両突起が係合するように構成することができる。
【0012】
あるいは、前記固定ヒンジ部材と可動ヒンジ部材の一方と他方に、前記枢着軸を挿通する挿通穴を有する二股部とこの二股部内に挿入される挿入部とを形成し、前記一対の仮止係合部の少なくとも一方を、前記二股部と挿入部の対向面に形成した前記枢着軸直交面に対して傾斜する傾斜面から構成することも可能である。
【0013】
前記仮止機構は、前記可動ヒンジ部材が前記ウインドウガラスの全開位置と全閉位置の間で回動するときは、前記可動ヒンジ部材に回動抵抗を与えないようにすることが、ウインドウガラスの安定した開閉動作に有利である。
【発明の効果】
【0014】
本発明のウインドウガラス用ヒンジ装置によれば、通常使用時においてウインドウガラスを開閉しやすくするとともに、組立ライン上で可動ヒンジ部材にウインドウガラスを固定するとき、可動ヒンジ部材を過全開位置で確実に保持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明のウインドウガラス用ヒンジ装置を備えた自動車の後部を示す概略斜視図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るウインドウガラス用ヒンジ装置の分解斜視図である。
【図3】同上面図である。
【図4】図3のIV-IV線に沿う断面図であり、(A)はウインドウガラスの全閉位置、(B)は同全開位置、(C)は同過全開位置をそれぞれ示している。
【図5】本発明の別実施形態に係るウインドウガラスヒンジ装置の分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1ないし図4を用いて、本発明のウインドウガラス用ヒンジ装置10を自動車の後部のウインドウガラス40に適用した実施形態を説明する。図1に示すように、ウインドウガラス用ヒンジ装置10は、車両ボディ1の後部に形成された開口部2の上方に車両左右方向に対をなして設けられている。車両左右方向に対をなして設けられたダンパステー50は、圧縮ガスが封入され一端がウインドウガラス40に固定されたシリンダ51と、このシリンダ51に進退可能に嵌挿され一端が車両ボディ1に固定されたピストンロッド52とからなり、ウインドウガラス40の開閉に伴って伸縮する。ウインドウガラス40の全開位置は、最大伸張状態のダンパステー50により規定される。ウインドウガラス40と車両ボディ1にはロック機構(図示せず)が設けられており、このロック機構がロック状態となることによってウインドウガラス40の全閉位置が規定される。ウインドウガラス40として例えば、無機ガラス、樹脂ガラス、合わせガラス、強化ガラス、UVカットガラス、赤外線カットガラス、プライバシーガラス、遮音ガラス、撥水ガラス等のあらゆる種類のガラスを用いることができる。
【0017】
図2、図3に示すように、ウインドウガラス用ヒンジ装置10は、車両ボディ1に固定される合成樹脂製の固定ヒンジ部材(ヒメール)20と、ウインドウガラス40に固定される合成樹脂製の可動ヒンジ部材(メール)30とを有している。固定ヒンジ部材20は二股部21を有し、可動ヒンジ部材30は挿入部31を有している。二股部21に挿入部31を挿入し、二股部21と挿入部31に形成された挿通穴21aと31aに枢着軸(シャフト)11を挿通することにより、固定ヒンジ部材20と可動ヒンジ部材30が枢着軸11で枢着される。図4(A)、(B)に示すように、可動ヒンジ部材30を固定ヒンジ部材20に対して回動させれば、可動ヒンジ部材30に固定したウインドウガラス40を全開位置と全閉位置の間で開閉することができる。
【0018】
図4(C)に示すように、可動ヒンジ部材30は、固定ヒンジ部材20に対して、ウインドウガラス40の全開位置(図4(B))より開度が大きい過全開位置(オーバーストローク位置)迄回動可能に支持されている。固定ヒンジ部材20と可動ヒンジ部材30の間には、この過全開位置において可動ヒンジ部材30を固定ヒンジ部材20に仮止めする仮止機構が設けられている。本実施形態ではこの仮止機構を、固定ヒンジ部材20に形成された固定突起22と、可動ヒンジ部材30に形成されたカム突起32とからなる一対の仮止係合部から構成している。カム突起32は、枢着軸11からの距離が全開位置から過全開位置に向けて大きくなるように形成されており、可動ヒンジ部材30を全開位置から過全開位置迄回動させていくと、過全開位置において、カム突起32が固定突起22を乗り越えた状態で両突起が係合する。
【0019】
固定突起22とカム突起32は、可動ヒンジ部材30がウインドウガラス40の全開位置と全閉位置の間で回動するときは係合(接触)せず、可動ヒンジ部材30に回動抵抗が与えられることはない。ウインドウガラス40の全開位置と全閉位置の間における開閉操作力(節度感)はダンパステー50によって与えられる。
【0020】
組立ライン上で、以上のように構成されたウインドウガラス用ヒンジ装置10の可動ヒンジ部材30にウインドウガラス40を固定するときは、まず固定ヒンジ部材20を車両ボディ1に固定する。次いで、可動ヒンジ部材30を固定ヒンジ部材20に対してウインドウガラス40の開方向に向けて回動させ、やがて可動ヒンジ部材30がウインドウガラス40の過全開位置迄回動すると、可動ヒンジ部材30のカム突起32が固定ヒンジ部材20の固定突起22を乗り越えて両突起が係合し、可動ヒンジ部材30が過全開位置で上方を向いた状態で確実に保持される(図4(C))。したがって、組立ライン上で振動が加わっても、固定突起22とカム突起32の係合が解除され、可動ヒンジ部材30が過全開位置から脱して下方に垂れた(お辞儀をした)状態になることはなく、組立ラインの作業効率を向上させることができる。次いで、過全開位置で上方を向いた可動ヒンジ部材30のガラス取付面33にウインドウガラス40の一方の面を当て付け、ウインドウガラス40の他方の面から保護板34を挟んで、固定ボルト35をガラス取付面33に形成されたボルト穴33aに締め付ける。保護板34には固定ボルト35を通すための貫通穴34aが形成されており、ウインドウガラス40にも同様の貫通穴(図示せず)が形成されている。最後に、ダンパステー50の一端(シリンダ51)と他端(ピストンロッド52)をウインドウガラス40と車両ボディ1にそれぞれ固定する。ダンパステー50を固定した後は、ダンパステー50によりウインドウガラス40の全開位置が規定されるので、もはや可動ヒンジ部材30がウインドウガラス40の過全開位置迄回動することはない。
【0021】
組立完了後の通常使用時に可動ヒンジ部材30がウインドウガラス40の全開位置と全閉位置の間で回動するときは、可動ヒンジ部材30に回動抵抗が与えられることはなく、ダンパステー50により開閉操作力(節度感)が与えられるので、ウインドウガラス40を安定して開閉操作できる。
【0022】
すなわち本発明のウインドウガラス用ヒンジ装置10によれば、組立ライン上におけるウインドウガラス40の組み付けに必要な時にだけ過全開位置で可動ヒンジ部材30に回動抵抗を与える一方、通常使用時における全開位置と全閉位置の間での開閉動作では可動ヒンジ部材30に一切の回動抵抗を与えない。
【0023】
また、上述した従来技術のように、固定ヒンジ部材のヒンジ挿入穴(挿通穴)に突出部を設ける必要はなく、ヒンジ挿入穴とヒンジピンをクリアランス設計することができるので、高精度な寸法管理が要求されず、ウインドウガラス用ヒンジ装置を容易に製造できる。
【0024】
図5に示す本発明の別実施の形態では、過全開位置において可動ヒンジ部材30を固定ヒンジ部材20に仮止めする仮止機構を、可動ヒンジ部材30の挿入部31の二股部21との対向面に形成した傾斜面31bにより構成している。この傾斜面31bは枢着軸11との直交面に対して傾斜しており、可動ヒンジ部材30を過全開位置迄回動させると、この傾斜面31bにより二股部21と挿入部31の対向面が係合し、可動ヒンジ部材30が過全開位置で上方を向いた状態で確実に保持される。尚、傾斜面は固定ヒンジ部材20の二股部21と可動ヒンジ部材30の挿入部31の対向面に形成すればよく、固定ヒンジ部材20の二股部21の挿入部31との対向面に傾斜面を形成してもよいし、二股部21と挿入部31の対向面の双方に傾斜面を形成してもよい。
【0025】
以上の実施形態では、本発明のウインドウガラス用ヒンジ装置を自動車の後部のウインドウガラスに適用した場合を例示して説明したが、本発明の適用範囲はこれに限定されない。すなわち、本発明のウインドウガラス用ヒンジ装置は、可動ヒンジ部材を過全開位置で確実に保持する必要が生じるあらゆる場面に適用可能である。
【0026】
以上の実施形態では、固定ヒンジ部材に二股部を設け、可動ヒンジ部材に挿入部を設けた場合を例示して説明したが、この関係を逆にして、可動ヒンジ部材に二股部を設け、固定ヒンジ部材に挿入部を設けることも可能である。
【符号の説明】
【0027】
1 車両ボディ
2 開口部
10 ウインドウガラス用ヒンジ装置
11 枢着軸(シャフト)
20 固定ヒンジ部材(ヒメール)
21 二股部
21a 挿通穴
22 固定突起(仮止機構、一対の仮止係合部)
30 可動ヒンジ部材(メール)
31 挿入部
31a 挿通穴
31b 傾斜面
32 カム突起(仮止機構、一対の仮止係合部)
33 ガラス取付面
33a ボルト穴
34 保護板
35 固定ボルト
40 ウインドウガラス
50 ダンパステー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両ボディに固定される固定ヒンジ部材に、ウインドウガラスに固定される可動ヒンジ部材を枢着軸で枢着し、前記ウインドウガラスを全開位置と全閉位置との間で前記枢着軸を中心に開閉可能とするウインドウガラス用ヒンジ装置において、
前記可動ヒンジ部材を、前記固定ヒンジ部材に対して、前記ウインドウガラスの全開位置より開度が大きい過全開位置迄回動可能に支持し、
前記固定ヒンジ部材と可動ヒンジ部材の間に、前記過全開位置において、前記可動ヒンジ部材を固定ヒンジ部材に仮止めする仮止機構を設けたことを特徴とするウインドウガラス用ヒンジ装置。
【請求項2】
請求項1記載のウインドウガラス用ヒンジ装置において、
前記仮止機構は、前記過全開位置において互いに係合する、前記固定ヒンジ部材と可動ヒンジ部材に設けられた一対の仮止係合部からなるウインドウガラス用ヒンジ装置。
【請求項3】
請求項2記載のウインドウガラス用ヒンジ装置において、
前記固定ヒンジ部材側の仮止係合部は固定突起であり、前記可動ヒンジ部材側の仮止係合部は、前記枢着軸からの距離を全開位置から過全開位置に向けて大きくするカム突起であり、前記過全開位置で前記カム突起が前記固定突起を乗り越えて両突起が係合するウインドウガラス用ヒンジ装置。
【請求項4】
請求項2記載のウインドウガラス用ヒンジ装置において、
前記固定ヒンジ部材と可動ヒンジ部材は、その一方と他方に、前記枢着軸を挿通する挿通穴を有する二股部とこの二股部内に挿入される挿入部とを有し、
前記一対の仮止係合部の少なくとも一方は、前記二股部と挿入部の対向面に形成した前記枢着軸直交面に対して傾斜する傾斜面からなるウインドウガラス用ヒンジ装置。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項記載のウインドウガラス用ヒンジ装置において、
前記仮止機構は、前記可動ヒンジ部材が前記ウインドウガラスの全開位置と全閉位置の間で回動するときは、前記可動ヒンジ部材に回動抵抗を与えないウインドウガラス用ヒンジ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−98686(P2011−98686A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−255934(P2009−255934)
【出願日】平成21年11月9日(2009.11.9)
【出願人】(590001164)シロキ工業株式会社 (610)
【Fターム(参考)】