説明

ウインドシールドと車体ピラーとを有する自動車

本発明にしたがった自動車(2)では、ウインドシールド(4)の左右両側端部(8)とこれらに隣接するそれぞれのAピラー(10)との間に、ギャップ状の開口部(20)が一つずつ設けられ、自動車の走行時には空気(30)がこれを通り流れるようになっている。それにより、自動車の側部領域に形成され多大な損失を伴う渦流を低減する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、左右両側端部に車体ピラーが備えられたウインドシールド(風防ガラス)を有する自動車両(広義の自動車、モータビークル)に関する。
【背景技術】
【0002】
そのような自動車は広く一般に知られており、ウエストラインよりも上方の窓ガラスで囲まれた車室領域である所謂「グリーンハウス」を形成する複数の車体ピラーを有している。公知の自動車では、走行中に以下ではAピラーとも呼ぶ前側の車体ピラーの領域に、流れの向きが変わることによる流れの剥離を生じている。その結果として出現する「Aピラー周りの渦流」とも呼ばれる剥離域の出現態様は、ウインドシールドの傾斜角および/または反りに応じて千差万別である。ウインドシールドの水平面に対する傾斜角が大きい程、および/またはウインドシールドの反りが小さい程、剥離域は増大する。この剥離域に起因して、渦核部の負圧が高い渦流が発生し、それによりグリーンハウス領域にかなりの流れ損失を生じるが、その結果、自動車の空気抵抗係数Cd値およびリヤアクスルの揚力が増大する。渦流は主にAピラーの下側および中央の領域に、すなわち通常はアウトサイドミラーが取り付けられる領域に発生する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の課題は、この種の自動車の空力特性を改善することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
この課題は、請求項1の各特徴を具備した自動車により解決される。
本発明の核心となる考え方は、自動車のウインドシールドの左右両側端部の少なくとも一方を貫いて流れる「貫流」を、ウインドシールドと車体ピラーとの間に開口部を設けることにより実現することにある。この開口部により、自動車の走行時に発生する流れ(「走行風」)の流路が形成される。それによりこの流れが、グリーンハウスに密着した車体周りの流れに定義された形で戻されるようにしている。したがって自動車の側部領域の剥離域は、Aピラーに設けられた開口部を通過するこの貫流により低減されることになる。それによりAピラー周りに発生する渦流が弱められることによって、自動車のCd値が低減されるとともに、リヤアクスルの揚力が最小限化されるようにしている。ほかにもAピラーの領域に配置されるアウトサイドミラー周りの流れが改善されることになる。
【0005】
自動車の車体周りを流れる空気を、リヤガラスの左右両側端部と「Cピラー」とも呼ばれる後側の車体ピラーとの間に導くことが、確かに広く一般に知られてはいる。これは例えばフェラーリ599GTBやフォードのコンセプトカー・イオシス・マックス(Iosis Max)といった車両で実現されている。しかしながらこれらの公知の自動車では、このCピラーの機能が、自動車のリヤ領域に可能な限り長く密着する流れを達成することで、リヤガラス領域の止水域のサイズが低減されるように、流れをリヤガラスおよび/またはリヤドアもしくはトランクルームリッドに向かって導くようになっているスポイラ要素としての機能だけに限られている。したがってこれらの公知の自動車は、本発明にしたがった解決策に関して、何ら示唆を与え得るものではない。
【0006】
この開口部は、Aピラーが描く線に沿って比較的細長く延伸して、すなわち一種のスリットまたはギャップの形状に構成されている。ウインドシールドの右側の側端部にも、また左側の側端部にも、開口部が一つずつ設けられることが好ましい。しかし当然ながら車体の片側だけに開口部が設けられるようにしてもよい。
【0007】
この開口部の大きさは、Aピラーの上下方向の長さに沿って一定不変であるとよい。しかし開口部の幅は、上にいく程減少することが好ましく、それにより、上にいく程狭くなる一種のダクトのような、流れる空気がくぐり込める通路が得られることになる。当然ながら開口部の幅は、Aピラーが描く線に沿ってそれとは異なる方式で変化してもかまわない。
この開口部は、好適にはAピラーの下端部である、いわゆるAピラー根元を始端として、上に向かって好ましくはAピラーの上下方向の長さのほぼ中央まで達するようになっているが、というのもこの領域においては、車体周りの気流に非常に激しい渦流が発生するからである。もっとも開口部は、そこからさらに上に向かって延びていてもかまわない。
【0008】
このダクト状の開口部は、Aピラー根元から上に向かって連続的に延びることが好ましい。当然ながら気流がくぐり込める通路は、例えばAピラーの剛性を高めるために、ウインドシールドの側端部とAピラーとの間に一つまたは複数のクロスウェブを備えることによって、二つまたはそれ以上の互いに隣接する開口部により実現されたものであってもよい。これらのクロスウェブは、例えばウインドシールドに接着されるか、またはウインドシールドに設けた複数の通し穴を利用してウインドシールドにボルト締結されたものであるとよい。
【0009】
Aピラーは、翼型に構成されることが好ましい。翼型の場合は前縁に負圧域(「サクションピーク」)が形成されるが、この負圧域により進行方向とは逆向きの力が発生され、それに伴い自動車の空気抵抗が全体としては低減されることになる。
【0010】
Aピラーは、閉じた断面を持つ中空異形体として構成されることが好ましい。特に支持機能(後述の説明を参照)を一切受け持たないようなAピラーについては、もっともそのようなAピラーだけに限定される訳ではないのだが、断面輪郭形状に開口部を持つ異形体をウインドシールドに接続させてもかまわない。
【0011】
Aピラーの断面形状および/または断面積の大きさは、Aピラーが描く線に沿って一定不変であっても、Aピラーに沿って変化していてもかまわない。Aピラーの断面が翼型である場合は、自動車の横方向および/または水平面に対する翼型の翼弦線の傾斜角が、Aピラーの上下方向の長さに沿って一定不変であっても変化していてもかまわない。この角度が変化する場合は、それ自体がねじれているAピラーが達成されることになる。
【0012】
Aピラーの幾何形状の設計を通じて、当該自動車のその時々の流れのトポロジーに対する適合化を行うことができる。Aピラーの幾何学的レイアウトは、測定結果(風洞、試走)または数的シミュレーション結果に基づいて行われる。
【0013】
「Aピラー」という概念のもとには、本発明との関係では、ウインドシールドの左右両側端部に連続しているありとあらゆる装置が含まれると解釈される。したがって支持機能を一切受け持たないような要素についても、本発明に包摂されることになる。そのような要素は、例えばスポイラの特性を持たせたボディパネル・パーツ(「レイヤー」)として構成されている。これらのパーツは、支持機能を一切受け持たないために、自動車のフロントフードやルーフへの連結作業も不要である。当然ながらそのような非支持要素が取り付けられる自動車では、別の支持要素が備えられなければならない。その代わりに備えられることになるこの支持要素は、例えばツーリングワゴン・スポーツパッケージから知られるような、いわゆる「ケージフレーム」から成るとよい。このケージフレームでは、構成部品の一つがウインドシールドの裏側に配置されて、自動車の車体フロアに固定接続されている。それによりウインドシールドは走行風により生じる力だけを支持することになるが、そのためにはウインドシールドの形状および板厚を必要に応じて適宜変更することが要求される。その代案として、非支持要素の代わりに備えられる支持要素を、例えばウインドシールドの左右両側端部を覆い隠す、車外からは見えないか、または一見しただけではそれと分からないピラーの形状に構成することもできる。
【0014】
有利な構成形態は、従属請求項の対象となっている。
本発明の可能性のある実施形態の一例が図面に示されているが、以下ではこれについて詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明にしたがった自動車の前面図である。
【図2】図1に示される自動車の切片の見取り図である。
【図3】図1に示される自動車のAピラー領域の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1から3には、全体を符号2で示す自動車が示されるが、そのフロントフード6から連続しているウインドシールド4は、自動車2のほぼ全幅にわたり延びている。ウインドシールド4の左右両側端部8に隣接してAピラー10が一つずつ配置されている。ウインドシールド4の上側にはルーフ12が連続している。
【0017】
本発明によれば、ウインドシールド4の左右両側端部8とそれぞれのAピラー10との間に開口部20が一つずつ設けられている。この開口部20は、Aピラー10の下端部からAピラー10の上下方向の長さのほぼ半分のところまで達しているスリット状のギャップとして構成されている。
【0018】
自動車2の走行中に空気はこの開口部20を通過することができる。開口部20を通り流れる空気は、矢印30で表される。Aピラー10周りの車体外側を通る空気は、図3に矢印32により示されている。
【0019】
図3にはAピラー10の断面40が破線で示されている。わけなく確認することができるように、この断面40はAピラー10の上下方向の長さに沿って変化している。図示の実施例に相違して、断面40の形状および配向はAピラー10に沿って変化していてもよい。断面40の配向は、翼型の翼弦線42により描かれている(車両横方向Yに対する角度α)。それとならび翼弦線42の水平面に対する角度も、Aピラー10に沿って変化してもかまわない。
【0020】
以上を要約して次のように本発明を記述することができる。本発明にしたがった自動車2では、ウインドシールド4の左右両側端部8とそれに隣接するそれぞれのAピラー10との間に、スリット状の開口部20が一つずつ設けられ、自動車2の走行時にはこれを通り空気30が流れるようになっている。それにより、自動車2の側部領域に形成される多大な損失を伴う渦流が低減されるようにしている。
【符号の説明】
【0021】
2 自動車
4 ウインドシールド
6 フロントフード
8 側端部
10 Aピラー
12 ルーフ
20 開口部
30 空気
32 空気
40 断面
42 翼弦線
Y 横方向
α 角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右両側端部に車体ピラーが備えられたウインドシールドを有する自動車において、ウインドシールド(4)の少なくとも一方の側端部(8)と、これに隣接する車体ピラー(10)との間に、長く延伸された開口部(20)を設けることを特徴とする、自動車。
【請求項2】
前記開口部(20)が前記車体ピラー(10)の下端部から前記車体ピラー(10)の上下方向の長さの約半分のところまで達することを特徴とする、請求項1に記載の自動車。
【請求項3】
前記車体ピラー(10)が一種の翼型のような断面(40)を有することを特徴とする、請求項1または2に記載の自動車。
【請求項4】
前記車体ピラー(10)の前記断面(40)がその上下方向の長さに沿って変化することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の自動車。
【請求項5】
前記翼型の翼弦線(42)が自動車(2)の横方向(Y)および/または水平面に対して成す角度(α)が、前記車体ピラー(10)の上下方向の長さに沿って変化することを特徴とする、請求項3または4に記載の自動車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2013−503071(P2013−503071A)
【公表日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−526055(P2012−526055)
【出願日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際出願番号】PCT/EP2010/062458
【国際公開番号】WO2011/023752
【国際公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【出願人】(391009671)バイエリッシェ モートーレン ウエルケ アクチエンゲゼルシャフト (194)
【氏名又は名称原語表記】BAYERISCHE MOTOREN WERKE AKTIENGESELLSCHAFT
【Fターム(参考)】