説明

ウインドラス及び巻揚方法

【課題】主ロープをワーピングドラムに掛け回す作業性を悪化させることなく、且つ、ワーピングドラムを回転駆動する駆動モータの駆動源の大型化によるコストアップを招くことなく、ワーピングドラムを用いた補助ロープの巻取速度の高速化を図る。
【解決手段】船舶Sの船首部に配設され、ロープ6、7を巻き揚げるためのワーピングドラム8と、ワーピングドラム8を回転駆動する駆動モータ9とを備えたウインドラス1において、ワーピングドラム8に、牽引用又は係船用の主ロープ6を掛け回すための主ドラム部34と、ドラム径が主ドラム部34よりも大きくされ、主ロープ6の先端部に連結される補助ロープ7を掛け回すための補助ドラム部35とを形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶の船首部に配設され、ロープを巻き揚げるためのワーピングドラムを備えたウインドラス、及び、そのウインドラスを用いて牽引用又は係船用の主ロープ及び主ロープの先端部に連結された補助ロープを巻き揚げる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ウインドラス(巻揚機又は揚錨機)は、船舶の船首部に配設され、アンカーに締結されたチェーンを巻き揚げ下げするためのチェーンドラムと、そのチェーンドラムを回転駆動する駆動モータとを備えたものであり、チェーンドラムを駆動モータにより回転駆動させることにより、チェーンをチェーンドラムで巻き揚げ下げするようになっている(特許文献1参照)。
【0003】
また、ウインドラスとしては、係船用のロープ(ホーサー)を巻き揚げ下げするためのホーサードラムを備えたものや、ロープを手繰り寄せて巻き揚げるためのワーピングドラムを備えたものもある。
【0004】
ホーサードラムを備えたウインドラスでは、ホーサードラムを前記駆動モータにより回転駆動させることにより、係船用のロープをホーサードラムで巻き揚げ下げするようになっている。
【0005】
また、ワーピングドラムを備えたウインドラスでは、ロープをワーピングドラムに数回掛け回した状態でワーピングドラムを前記駆動モータにより回転駆動させ、且つ、作業員がロープを手繰り寄せることにより、ロープをワーピングドラムで巻き揚げるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−60185号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、牽引用又は係船用の主ロープ(ホーサー)に連結された補助ロープ(メッセンジャーロープ)の巻取速度を所定速度以上とすることが求められることがあり、ワーピングドラムを用いた前記補助ロープの巻取速度を現状よりも増加させる必要がある場合がある。
【0008】
ワーピングドラムを用いた前記補助ロープの巻取速度を増加させるためには、ワーピングドラム全体のドラム径を大きくすることでワーピングドラムの周速を速くしたり、駆動モータ(油圧モータ)を駆動するポンプ(油圧ポンプ)の容量を大きくすることでワーピングドラムの回転数を上げることが考えられる。
【0009】
しかし、ワーピングドラム全体のドラム径を大きくすると、前記主ロープは一般的に前記補助ロープよりも太いため、前記主ロープをワーピングドラムに掛け回す作業性が悪くなるという問題がある。
【0010】
また、油圧ポンプの容量を大きくすると、油圧ポンプを駆動する電動機、油圧ポンプに供給する油を貯留するオイルタンク、内部を油が流れる配管や配管の途中に設けられる油圧バルブ等を大きくする必要があり駆動源のコストアップを招くという問題がある。
【0011】
そこで、本発明の目的は、主ロープをワーピングドラムに掛け回す作業性を悪化させることなく、且つ、ワーピングドラムを回転駆動する駆動モータの駆動源の大型化によるコストアップを招くことなく、ワーピングドラムを用いた補助ロープの巻取速度の高速化を図ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的を達成するために、本発明は、船舶の船首部に配設され、ロープを巻き揚げるためのワーピングドラムと、該ワーピングドラムを回転駆動する駆動モータとを備えたウインドラスにおいて、前記ワーピングドラムに、牽引用又は係船用の主ロープを掛け回すための主ドラム部と、ドラム径が前記主ドラム部よりも大きくされ、前記主ロープの先端部に連結される補助ロープを掛け回すための補助ドラム部とを形成したものである。
【0013】
また、本発明は、前記ウインドラスを用いて牽引用又は係船用の主ロープ及び該主ロープの先端部に連結された補助ロープを巻き揚げる方法であって、前記補助ロープを前記ワーピングドラムの補助ドラム部に掛け回し、前記補助ロープを前記ワーピングドラムの補助ドラム部に掛け回した状態で前記ワーピングドラムを前記駆動モータにより回転駆動させて、前記補助ロープを前記ワーピングドラムで巻き揚げ、前記主ロープが前記船舶の船首部に達したら、前記主ロープを前記ワーピングドラムの主ドラム部に掛け回し、前記主ロープを前記ワーピングドラムの主ドラム部に掛け回した状態で前記ワーピングドラムを前記駆動モータにより回転駆動させて、前記主ロープを前記ワーピングドラムで巻き揚げるようにしたものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、主ロープをワーピングドラムに掛け回す作業性を悪化させることなく、且つ、ワーピングドラムを回転駆動する駆動モータの駆動源の大型化によるコストアップを招くことなく、ワーピングドラムを用いた補助ロープの巻取速度の高速化を図ることができるという優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係るウインドラスの概略図である。
【図2】図2(a)はウインドラスの平面断面図であり、図2(b)は図2(a)のIIb−IIb線矢視図である。
【図3】図3は、ワーピングドラムの側断面図である。
【図4】図4は、油圧モータ特性を示す図である。
【図5】図5は、他の実施形態に係るウインドラスの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好適な実施形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0017】
本実施形態では、図1に示すように、船舶Sの左右両舷側の船首部にそれぞれ、ウインドラス1が配置されている。
【0018】
図1及び図2に示すように、本実施形態に係るウインドラス1は、船舶Sの船首部に配設され、アンカーに締結されたチェーン3(図2(b)参照)を巻き揚げ下げするためのチェーンドラム4と、船舶Sの船首部に配設され、係船用のロープ(ホーサー)を巻き揚げ下げするためのホーサードラム5と、船舶Sの船首部に配設され、ロープ6、7(図3参照)を手繰り寄せて巻き揚げるためのワーピングドラム8と、これらドラム(チェーンドラム4、ホーサードラム5、ワーピングドラム8)を回転駆動するための駆動モータ(本実施形態では、油圧モータ)9と、油圧モータ9の駆動源(本実施形態では、ポンプユニット)10とを備えている。本実施形態に係るウインドラス1は、ホーサードラム5を複数(図示例では、二つ)備えている。
【0019】
図2に示すように、ウインドラス1は、軸受11a、11b、11c、11dで回転可能に支持された回転軸12を備えており、この回転軸12に、チェーンドラム4、ホーサードラム5及びワーピングドラム8が装着されている。具体的には、チェーンドラム4及びホーサードラム5は回転軸12に回転可能に装着され、ワーピングドラム8は回転軸12に回転不能に装着されている。ワーピングドラム8が装着された回転軸12の端部とは反対側の回転軸12の端部には、ギヤ13が回転不能に装着されており、そのギヤ13に、油圧モータ9に装着されたピニオン14が歯合している。
【0020】
本実施形態の油圧モータ9は、ベーンタイプのものであって、駆動速度を低速と中速と高速との三段階に切り換えることができる3速度形のものである。
【0021】
図1に示すように、本実施形態では、オイルタンク15に貯留された油を油圧モータ9に供給する供給流路16には二つのポンプユニット10が並列に配設されており、ポンプユニット10よりも下流側の供給流路16には、二つの油圧モータ9が直列に配設されている。また、油を油圧モータ9からオイルタンク15に戻す戻し流路17には、上流側(油圧モータ9側)から順に、逆止弁18、フィルタ19、オイルクーラー20が配設されている。
【0022】
本実施形態のポンプユニット10は、電動機21と、電動機21により駆動される油圧ポンプ(主油圧ポンプ)22と、油圧ポンプ22よりも下流側の供給流路16に配設された逆止弁23と、油圧ポンプ22と逆止弁23との間の供給流路16内の油圧が所定のリリーフ圧を超えると開いて供給流路16内の圧油をリリーフ流路24を通して解放するリリーフ弁25とを有している。
【0023】
また、図2に示すように、本実施形態に係るウインドラス1は、回転軸12とチェーンドラム4との間に介設されたチェーンドラム用クラッチ26と、チェーンドラム4を制動するためのチェーンドラム用ブレーキ27とを備えている。具体的には、チェーンドラム用ブレーキ27は、チェーンドラム4に一体に設けられたブレーキドラム28と、ブレーキドラム28に巻回されたブレーキバンド29とを有するドラムブレーキタイプのものである。
【0024】
また、本実施形態に係るウインドラス1は、回転軸12とホーサードラム5との間に介設されたホーサードラム用クラッチ30と、ホーサードラム5を制動するためのホーサードラム用ブレーキ31とを備えている。具体的には、ホーサードラム用ブレーキ31は、ホーサードラム5に一体に設けられたブレーキドラム32と、ブレーキドラム32に巻回されたブレーキバンド33とを有するドラムブレーキタイプのものである。
【0025】
ここで、図3に示すように、本実施形態では、ワーピングドラム8に、牽引用又は係船用の主ロープ6を掛け回すための主ドラム部34と、ドラム径が主ドラム部34よりも大きくされ、主ロープ6に連結される補助ロープ7を掛け回すための補助ドラム部35とを形成している。即ち、本実施形態では、補助ドラム部35のドラム径Dsを主ドラム部34のドラム径Dmよりも大きくすることで、ワーピングドラム8が多段(主ドラム部34と補助ドラム部35)となっている。
【0026】
次に、本実施形態に係るウインドラス1の作動を説明する。
【0027】
チェーンドラム4の駆動時には、チェーンドラム用クラッチ26によってチェーンドラム4を回転軸12に連結し、油圧モータ9を低速で回転駆動させることで、チェーンドラム4を油圧モータ9で回転駆動するようになっている(図4参照)。チェーンドラム4により巻き揚げられたチェーン3はウインドラス1の下方のチェーン収容部36(図2(b)参照)に収容されるようになっている。本実施形態では、チェーンドラム4によるチェーン3の巻取速度は約9m/minである。
【0028】
また、ホーサードラム5の駆動時には、ホーサードラム用クラッチ30によってホーサードラム5を回転軸12に連結し、油圧モータ9を中速で駆動させることで、ホーサードラム5を油圧モータ9で回転駆動するようになっている(図4参照)。ホーサードラム5により巻き揚げられた係船用のロープはそのままホーサードラム5に巻き取られるようになっている。本実施形態では、ホーサードラム5による係船用のロープの巻取速度は約15m/minである。
【0029】
また、ワーピングドラム8は回転軸12に回転不能に装着されているので、油圧モータ9を回転駆動させることで回転駆動される。本実施形態では、ワーピングドラム8を使用する際には、油圧モータ9を高速で駆動させるようになっている(図4参照)。
【0030】
次に、牽引用又は係船用の主ロープ6及び主ロープ6に連結された補助ロープ7をワーピングドラム8により巻き揚げる方法を説明する。
【0031】
本実施形態では、主ロープ6は牽引用のロープ(例えば、φ60)であり、補助ロープ7は所謂メッセンジャーロープ(例えば、φ20)である。また、本実施形態では、ワーピングドラム8の主ドラム部34のドラム径Dmをφ650とし、補助ドラム部35のドラム径Dsをφ800とした。
【0032】
まず、補助ロープ7をワーピングドラム8の補助ドラム部35に数回掛け回す。次いで、補助ロープ7をワーピングドラム8の補助ドラム部35に掛け回した状態でワーピングドラム8を油圧モータ9により回転駆動させて、補助ロープ7をワーピングドラム8で巻き揚げる。本実施形態では、ワーピングドラム8(補助ドラム部35)による補助ロープ7の巻取速度は約37m/minである。
【0033】
主ロープ6が船舶Sの船首部に達するまで補助ロープ7を引き揚げたならば、補助ロープ7をワーピングドラム8の補助ドラム部35から外して、主ロープ6をワーピングドラム8の主ドラム部34に掛け回す。次いで、主ロープ6をワーピングドラム8の主ドラム部34に掛け回した状態でワーピングドラム8を油圧モータ9により回転駆動させて、主ロープ6をワーピングドラム8で巻き揚げる。本実施形態では、ワーピングドラム8(主ドラム部34)による主ロープ6の巻取速度は約30m/minである。
【0034】
そして、主ロープ6をワーピングドラム8で所定長さ引き揚げたならば、主ロープ6を船舶Sの船首部に固定する。これにより、主ロープ6を利用して船舶Sを牽引することが可能になる。
【0035】
本実施形態によれば、ワーピングドラム8に、牽引用又は係船用の主ロープ6を掛け回すための主ドラム部34と、ドラム径が主ドラム部34よりも大きくされ、主ロープ6の先端部に連結される補助ロープ7を掛け回すための補助ドラム部35とを形成したので、補助ロープ7が掛け回される補助ドラム部35のドラム径を必要な巻取速度が得られるまで大きくすることで、ワーピングドラム8(補助ドラム部35)を用いた補助ロープ7の巻取速度の高速化を図ることが可能になる。
【0036】
即ち、本実施形態では、ワーピングドラム8の一部分(補助ドラム部35)のみドラム径を他の部分(主ドラム部34)よりも大きくすることで、ドラム径を大きくした補助ドラム部35の周速を主ドラム部34の周速よりも増加させることができ、ワーピングドラム8(補助ドラム部35)を用いた補助ロープ7の巻取速度の高速化を図ることが可能になる。
【0037】
また、本実施形態では、ワーピングドラム8の一部分(補助ドラム部35)のみドラム径を他の部分(主ドラム部34)よりも大きくしているので、補助ロープ7よりも太い主ロープ6をワーピングドラム8(主ドラム部34)に掛け回す作業性を悪化させることはない。
【0038】
さらに、本実施形態では、ワーピングドラム8の一部分(補助ドラム部35)のみドラム径を他の部分(主ドラム部34)よりも大きくすることで、ドラム径を大きくした補助ドラム部35の周速を主ドラム部34の周速よりも増加させており、ワーピングドラム8の回転数を上げてはおらず油圧モータ9の容量を大きくする必要はないので、油圧モータ9の駆動源であるポンプユニット10の大型化によるコストアップを招くこともない。
【0039】
次に、他の実施形態に係るウインドラス2を図5を用いて説明する。
【0040】
図1に示した実施形態と同様の構成要素については同一の符号を付してその説明を省略する。
【0041】
この実施形態では、ポンプユニット10は、電動機21により駆動され、主油圧ポンプ22よりも小容量の油圧ポンプ(副油圧ポンプ)37と、逆止弁23よりも下流側の供給流路16内の油圧が上記リリーフ圧よりも低い所定のアンロード圧を超えると開いて副油圧ポンプ37から吐出される圧油をリリーフ流路24を通して解放するアンロード弁38とをさらに有している。例えば、副油圧ポンプ37の容量は主油圧ポンプ22の容量の約20%程度に設定され、上記アンロード圧は上記リリーフ圧の約40%程度に設定される。
【0042】
この実施形態によれば、逆止弁23よりも下流側の供給流路16内の油圧が低いときのみ、つまり、軽負荷時のみ副油圧ポンプ37がオンロードされるので、ワーピングドラム8の軽負荷時の回転速度が増加し、ワーピングドラム8を用いた補助ロープ7の巻取速度をさらに増加させることが可能になる。
【符号の説明】
【0043】
1 ウインドラス
2 ウインドラス
6 ロープ(主ロープ)
7 ロープ(補助ロープ)
8 ワーピングドラム
9 駆動モータ(油圧モータ)
34 主ドラム部
35 補助ドラム部
S 船舶

【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶の船首部に配設され、ロープを巻き揚げるためのワーピングドラムと、該ワーピングドラムを回転駆動する駆動モータとを備えたウインドラスにおいて、
前記ワーピングドラムに、牽引用又は係船用の主ロープを掛け回すための主ドラム部と、ドラム径が前記主ドラム部よりも大きくされ、前記主ロープの先端部に連結される補助ロープを掛け回すための補助ドラム部とを形成したことを特徴とするウインドラス。
【請求項2】
請求項1に記載のウインドラスを用いて牽引用又は係船用の主ロープ及び該主ロープの先端部に連結された補助ロープを巻き揚げる方法であって、
前記補助ロープを前記ワーピングドラムの補助ドラム部に掛け回し、前記補助ロープを前記ワーピングドラムの補助ドラム部に掛け回した状態で前記ワーピングドラムを前記駆動モータにより回転駆動させて、前記補助ロープを前記ワーピングドラムで巻き揚げ、
前記主ロープが前記船舶の船首部に達したら、前記主ロープを前記ワーピングドラムの主ドラム部に掛け回し、前記主ロープを前記ワーピングドラムの主ドラム部に掛け回した状態で前記ワーピングドラムを前記駆動モータにより回転駆動させて、前記主ロープを前記ワーピングドラムで巻き揚げるようにしたことを特徴とする巻揚方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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