ウェア
【課題】本発明は、着用者がだぶつき感や突っ張り感若しくはひきつれ感を感じることなく着用でき且つスムーズな動作を行うことができるウェアを提供することを課題とする。
【解決手段】本発明に係るウェア1は、伸縮性を有する生地を用いて構成されるウェア1であって、体側部2から背面幅方向の中心に向かって所定の幅を有し且つ腋部3にかけて上下方向に沿って延びる後身頃の側部領域4に、幅方向に沿う所定の方向の伸縮性が隣接する部位よりも小さい線状部位Sが該所定の方向に沿って設けられることを特徴とする。或いは、体側部2から袖部6にかけての側方端縁8の所定箇所を一端部として、該所定箇所における側方端縁8の接線と直交する所定の方向に沿って、該所定の方向の伸縮性が隣接する部位よりも小さい線状部位Sが後身頃に複数設けられることを特徴とする。
【解決手段】本発明に係るウェア1は、伸縮性を有する生地を用いて構成されるウェア1であって、体側部2から背面幅方向の中心に向かって所定の幅を有し且つ腋部3にかけて上下方向に沿って延びる後身頃の側部領域4に、幅方向に沿う所定の方向の伸縮性が隣接する部位よりも小さい線状部位Sが該所定の方向に沿って設けられることを特徴とする。或いは、体側部2から袖部6にかけての側方端縁8の所定箇所を一端部として、該所定箇所における側方端縁8の接線と直交する所定の方向に沿って、該所定の方向の伸縮性が隣接する部位よりも小さい線状部位Sが後身頃に複数設けられることを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウェアに関し、特に、着用者が動作を行った際の着用感に配慮した上半身部を有するウェアに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、着用者が例えば腕を動かす動作を行った際に突っ張り感若しくはひきつれ感が発生するのを軽減又は抑制し、動作に対する追従性を向上させることを目的とした各種ウェアが提案されている。
【0003】
具体的に説明すると、例えば特許文献1に示すウェアでは、着用者が腕を伸ばすなど身体を伸展させた際に生地が不足してしまうことのないように、予め生地にゆとりを持たせている。
【0004】
また、例えば特許文献2に示すウェアでは、着用者の皮膚の伸張や身体の伸展に生地を追従させるべく、伸縮性を有する生地を用いている。
【0005】
さらに、例えば特許文献3に示すウェアは、単に伸縮性を有する生地を用いるだけでなく、ウェアの追従性をさらに向上させることを目的として、伸張方向が長手方向と一致するように裁断された複数の生地を縫合した構造を採用している。
【0006】
【特許文献1】特開平9−95809号公報
【特許文献2】特開2004−44033号公報
【特許文献3】特開2005−307369号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に示すウェアでは、腕を伸ばすなど身体を伸展させた状態に合わせて生地の寸法を設定しているため、例えばウェアの側方端縁が長くなり、腕を下ろしたときなど着用者が通常の姿勢を取った際に生地が余ってしまい、だぶつき感などが生じて着用感が良好でない上に、その余分な生地が邪魔になってスムーズな動作を阻害するという問題がある。
【0008】
また、特許文献2に示すウェアは、生地が伸縮性を有することから、余分な生地の量を少なくしてだぶつき感を軽減し、且つ、生地の伸張方向に沿っては突っ張り感若しくはひきつれ感を生じさせるのを好適に防止することができる。しかし、単に伸縮性を有する生地を用いても、次に示すような理由により、必ずしも突っ張り感若しくはひきつれ感を解消できるものではない。
【0009】
即ち、伸縮性を有する生地は、所定部分に張力がかけられると、該張力の作用方向に伸張する一方、中間部ほど該張力の作用方向と直交する方向に変形する若しくは生地の弛みが発生するものである(図2(A)参照)。すると、ウェアを構成する生地は(少なくとも胴回りや腕回りにおいて)筒状に繋がっていることから、生地が変形する際、周囲の生地に対して前記張力の作用方向と直交する方向に二次的な張力を作用させ、該周囲の生地を手繰り寄せる状態となる。この結果、手繰り寄せられる生地によって着用者の皮膚が引っ張られるので、着用者は依然として突っ張り感若しくはひきつれ感を感じることとなる。なお、生地の突っ張りは、生地の伸張方向に沿って生じる皺として観察されることもある。
【0010】
さらに、特許文献3に示すウェアは、複数の生地を縫合してできた縫目が生地の伸張方向に沿ったものとなってしまっている。ここで、縫目は、隣接する生地単体の部分に比べて伸縮性が小さい部位である。従って、縫目を生地の伸張方向に沿って配置してしまうと生地が伸張しにくくなり(図2(B)参照)、突っ張り感若しくはひきつれ感の原因となる上に、動作を行うために余計な力が必要となり、スムーズな動作が阻害される。
【0011】
このように、上記従来のウェアでは、だぶつき感や突っ張り感若しくはひきつれ感を好適に解消することができないという問題がある。そこで、本発明は、着用者がだぶつき感や突っ張り感若しくはひきつれ感を感じることなく着用でき且つスムーズな動作を行うことができるウェアを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係るウェアは、伸縮性を有する生地を用いて構成されるウェアであって、体側部から背面幅方向の中心に向かって所定の幅を有し且つ腋部にかけて上下方向に沿って延びる後身頃(背面部分)の側部領域に、幅方向に沿う所定の方向の伸縮性が隣接する部位よりも小さい線状部位が該所定の方向に沿って設けられることを特徴とする。
【0013】
上記構成からなるウェアによれば、着用者が例えば腕を動かす動作を行った際のウェアの追従性を高いものとすることができる。即ち、例えば腕を上げる若しくは腕を前に曲げるといった腕を動かす動作を行った場合、着用者の皮膚は、背面の体側から腋にかけての上下方向に沿う領域において大きく伸張する。前記ウェアの側部領域は、かかる皮膚の伸張の大きい領域に対応する領域であり、着用者が腕を動かす動作を行うと、着用者の皮膚の伸張に伴って前記側部領域の生地も伸張する。
【0014】
この場合、側部領域に、幅方向に沿う所定の方向の伸縮性が隣接する部位よりも小さい線状部位が該所定の方向に沿って設けられるので、生地が伸張する側部領域が線状部位によって複数の部分に分断された状態となり、側部領域が全体としてではなく、複数の部分ごとに伸張することとなる。この状態は、張力が前記線状部位によって中間で遮断される状態とも言える。従って、生地の伸張に伴ってその直交方向から生地が手繰り寄せられる量を小さく抑えることができる。
【0015】
また、本発明に係るウェアは、生地の伸張方向に沿っては伸縮性の小さい線状部位を配置しないように考慮されているので、例えば特許文献3のウェアのように生地の伸張が不必要に制限されることがない。寧ろ、前記所定の方向に沿って線状部位が設けられると、該線状部位が存在しない場合と同等以上に生地を伸張方向に伸張させやすくすることができる。このため、余分な生地の量を少なく抑えることができ、だぶつき感を軽減することができる。
【0016】
また、本発明に係るウェアは、後身頃における袖部から肩部にかけての上部領域に、上下方向に沿う所定の方向の伸縮性が隣接する部位よりも小さい線状部位が該所定の方向に沿って複数設けられるものであってもよい。
【0017】
上記構成からなるウェアによれば、着用者が動作を行った際のウェアの追従性をさらに向上させることができる。即ち、着用者が動作を行った場合、上記のような背面における体側から腋にかけての上下方向に沿う領域だけでなく、腋から腕にかけての領域においても、着用者の皮膚が大きく伸張する。また、腕を前に曲げる動作を行った場合には、背面の肩甲上部から腕にかけての領域においても、着用者の皮膚が大きく伸張する。後身頃における袖部から肩部にかけての上部領域は、かかる皮膚の伸張の大きい領域に対応する領域である。なお、ウェアの生地は、皮膚が伸張するのに伴って伸張するだけでなく、腕を伸展させた際に袖部が引っ張られることによっても伸張する。
【0018】
その一例としては、前記上部領域の線状部位の少なくとも一つは、前記袖部の上端縁から下端縁に至るように設けられる構成が考えられる。袖部は着用者の腕に対応する部分であり、該部分も着用者が動作を行う際に生地が伸張される部分であるので、かかる袖部に線状部位を設けることにより、突っ張り感若しくはひきつれ感が発生するのをより一層効果的に軽減又は抑制することができる。
【0019】
また、前記側部領域には、線状部位が腋部近傍に二つ形成され、該二つの線状部位に挟まれる部分は、隣接する部分よりも上下方向の伸縮性が大きく設定される構成が好ましい。
【0020】
上記構成によれば、前記二つの線状部位が形成される腋部近傍部分は、腕を動かす動作の際に着用者の皮膚が大きく伸張する背面の体側から腋にかけての上下方向に沿う領域の中でも特に皮膚の伸張が大きい領域である腋の下の領域に相当するため、前記腋部近傍部分に位置する生地は、皮膚の伸張に伴って大きく伸張することとなる。従って、かかる腋部近傍部分が線状部位によって複数の部分に分断されるので、生地の伸張に伴ってその直交方向から生地が手繰り寄せられる量を小さく抑えることができる。
【0021】
しかも、前記二つの線状部位に挟まれる部分は上下方向の伸縮性が大きく構成されるため、特に大きい皮膚の伸張に対して生地を好適に追従させることができる。さらに、該二つの線状部位は、腋部近傍という狭い領域に近接して設けられるため、上下方向の伸縮性が大きく設定されることにより前記二つの線状部位に挟まれる部分によって周囲の生地が手繰り寄せられる量が大きくなるという弊害を小さく抑えることができる。具体的に説明すると、生地は伸張方向の伸縮性が大きいものほど該伸張方向と直交する方向の変形が大きくなるものであるため、二つの線状部位に挟まれる部分が上下方向の伸縮性を大きく構成された場合には幅方向から生地が手繰り寄せられる程度も大きくなってしまうが、上記構成では、二つの線状部位の間隔(上下方向寸法)を小さくすることで、生地が手繰り寄せられる量が不必要に大きくならないようにしている。このように構成されることにより、突っ張り感若しくはひきつれ感が発生するのをさらに効果的に軽減又は抑制することができる。
【0022】
また、前記側部領域の線状部位と前記上部領域の線状部位の少なくとも一つとは、接続して形成される構成が好ましい。このような構成によれば、一つの作業で複数の線状部位を設けることができる。また、デザイン的にも優れたものとなる。
【0023】
また、前記線状部位は、生地を縫合してできる縫目によって構成されるものが好ましい。このような構成によれば、別途部材を配置するなどしなくとも、生地を縫合することで容易に前記低伸縮性の線状部位を設けることができる。
【0024】
或いは、本発明に係るウェアは、伸縮性を有する生地を用いて構成されるウェアであって、体側部から袖部にかけての側方端縁の所定箇所を一端部として、該所定箇所における側方端縁の接線と直交する所定の方向に沿って、該所定の方向の伸縮性が隣接する部位よりも小さい線状部位が後身頃に複数設けられることを特徴とする。
【0025】
そして、袖部から肩部にかけての上方端縁の所定箇所を一端部として、該所定箇所における上方端縁の接線と直交する所定の方向に沿って、該所定の方向の伸縮性が隣接する部位よりも小さい線状部位が後身頃に複数設けられることが好ましい。
【発明の効果】
【0026】
以上のように、本発明に係るウェアによれば、着用者がだぶつき感や突っ張り感若しくはひきつれ感を感じることなく着用でき且つスムーズな動作を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明に係るウェアの実施形態について説明するのに先立ち、本実施形態に係るウェアのパターン設計の基となる皮膚の伸張の態様、及び、生地の伸張の態様について説明する。
【0028】
<皮膚の伸張の態様>
まず、突っ張り感若しくはひきつれ感を発生させる原因の一つは、着用者の皮膚が伸張した際に、その伸張にウェアの伸張が追従できない(即ち、皮膚の伸張よりウエアの伸張が小さい)ことにある。従って、突っ張り感若しくはひきつれ感を抑制することのできるウェアを設計するに当たっては、着用者の皮膚がどのように伸張するのかを把握することが必要である。このため、発明者らは様々な動作を行って皮膚の伸張を検証した。
【0029】
ここで、人体の部位の中で腕はいわゆるボールジョイント式の関節で連結されるため、腕を動かす動作(腕自体を動かす動作だけでなく、胴体など他の部分を動かすことにより相対的に腕を動かす動作も含む)を行う際にはその関節の周辺で大きな皮膚の伸張(皮膚ひずみ)が見られる。このことから、腕を動かす動作として、腕を上げる動作(肩外転動作)、腕を前に曲げる動作(肩水平屈曲動作)、体を横に反らす動作(体幹側屈動作)、体を前に曲げる動作(体幹前屈動作)、体を後ろに曲げる動作(体幹後屈動作)、肘を曲げる動作(肘屈曲動作)、片腕のみを上げる動作、腕を振る動作、体を捻じる動作を行った。なお、これらの各動作は、日常生活で行われる基本的な動作から、ランニングやサッカー、テニスさらにはゴルフといった各種スポーツにおいて行われる動作までを網羅するものである。
【0030】
皮膚の伸張の検証内容は、人間が各種動作を行った際に皮膚が大きく伸張する領域を特定すること、及び、皮膚が伸張する領域全体に亘っての伸張方向(これを、主伸張方向とする)を特定することである。その手法としては、皮膚を複数のセクションに区分して各セクションごとの伸張態様を調べ、かかるセクションごとの伸張態様に基づいて、全体的な伸張態様を把握する手法を採用した。具体的には、皮膚を20〜30mm平方の四角形状を有するセクションに区分し、各セクションの頂点位置にマーカーを配置し、該マーカーの位置変化を三次元動作解析装置によって分析した。
【0031】
このような検証の結果、皮膚の伸張は、上記各動作を通して基本的にある二つの態様に集約されることが判明した。かかる二つの態様は、腕を上げる動作及び腕を前に曲げる動作という二つの動作において顕著に表れるものである。この腕を上げる動作及び腕を前に曲げる動作の際の皮膚の伸張の態様を図1に示す。なお、図1(A)及び(B)においては、濃淡の濃い領域ほど皮膚の伸張が大きいことを示す。
【0032】
まず、腕を上げる動作においては、図1(A)に示すように、上記のような二つ皮膚の伸張態様のうちの一つが表れる。この動作において皮膚が大きく伸張する領域50は、背面の体側から腋にかけての上下方向に沿う領域51、及び、腋から腕にかけての腕の長手方向に沿う領域52である。また、腕を上げる動作における主伸張方向は前記上下方向に沿うものである(これを、第一主伸張方向Aとする)。より詳細には、第一主伸張方向Aは、腰近傍且つ背面幅方向内方の部位から腋にかけての方向、及び該方向に連続し、腋から腕の前面にかけての方向である。
【0033】
一方、腕を前に曲げる動作においては、図1(B)に示すように、上記のような二つ皮膚の伸張態様の両方が表れる。この腕を前に曲げる動作における皮膚が大きく伸張する領域60は、背面の体側から腋にかけての上下方向に沿う領域61、及び、背面の肩甲上部から腕にかけての領域62である。また、腕を前に曲げる動作における主伸張方向の一つは、前記第一主伸張方向と同等のものである(これを主伸張方向A’で示す)。腕を前に曲げる動作におけるもう一つの主伸張方向は、背面の幅方向及び腕の長手方向に沿うものである(これを、第二主伸張方向Bとする)。より詳細には、該第二主伸張方向Bは、肩甲骨の下部から腋にかけての方向、及び該方向に連続し、腋から腕の前面にかけての方向である。
【0034】
<生地の伸張の態様>
次に、生地の伸張の態様について、図2〜図6に基づいて説明する。
【0035】
伸縮性を有する生地は、所定部分に張力がかけられると、該張力の作用方向に伸張する一方、中間部ほど該張力の作用方向と直交する方向に変形する若しくは生地の弛みが発生するものである。短冊状の生地を例に示すと、図2(A)のようであり、生地の長手方向に沿って張力がかけられることで生地の中間部が長手方向に直交する幅方向に収縮し、長手方向の両側に生地が足りない部分が生じる。ウェアであれば、この部分を補うように周囲の生地が手繰り寄せられるため、着用者は突っ張り感若しくはひきつれ感を感じることとなる。
【0036】
ここで、図2(B)に示すように、短冊状の生地の長手方向に沿って縫目SLを設けた場合には、該縫目SLが隣接する部位よりも伸縮性の小さい線状部位として機能するため、長手方向に張力を作用させても生地が伸張しにくい。即ち、生地の伸張方向に線状部位が設けられたウェア(例えば、特許文献2のウェア)では、生地が伸張しにくく、着用者は突っ張り感を感じることとなる。
【0037】
“実験1”
発明者らは、このことを検証する実験1を行っているので、その内容及び結果を以下に示す。実験1の試料に関してであるが、大きさが50mm×300mmの生地片を二つ用意し、一方はそのままの生地片を試料a(図3(A))とし、他方は長手方向に縫目を設けて試料b(図3(B))とした。また、生地片の素材としては、よこ編ニット及びトリコットの二種類を用意した。ところで、これら二種類の素材は、縦横二方向の伸縮率が異なるいわゆる異方性を有するものである。実験1の各試料では、伸縮率の小さい方の縦方向が生地片の長手方向となるようにした。そして、引張試験機を用い、これら4つの試料をチャック間距離200mmで保持して20%伸張させた。その際の荷重(gf)を表1に示す。なお、前記他方の生地片には、別個の生地片を一つに縫合することで縫目を形成した。
【0038】
【表1】
【0039】
“実験2”
次に、発明者らは、幅方向に沿って縫目を設けた場合の生地の伸張の態様について実験2及び3を行い、検証を行った。実験2の試料に関してであるが、大きさが50mm×300mmの生地片を5つ用意し、一つはそのままの生地片を試料a(図3(A))とし、他の4つは幅方向1本,2本,3本,5本の縫目SLをそれぞれ等間隔で設けて試料c、d、e、f(図3(C)〜(F))とした。また、生地片の素材としては、異方性を有する素材であるよこ編ニット及びトリコットの二種類を用意した。ところで、実験2の各試料では、伸縮率の異なる縦横二方向のうち伸縮率の小さい方の縦方向が生地片の長手方向となるように設定した。そして、引張試験機を用い、これら10個の試料をチャック間距離200mmで保持して20%伸張させた。なお、各生地片には、測定に用いられる6個のマークP1〜P6がそれぞれ均等な間隔30mmで設けてある。
【0040】
まず、生地片の長手方向の伸張を見るべく、5箇所で前記各マーク間距離L1〜L5の変化率を計測した。その結果を図4に示す。なお、図4(A)はよこ編ニット、図4(B)はトリコットである。また、試料aは実線、試料cは破線、試料dは一点鎖線、試料eは二点鎖線、試料fは三点鎖線で表わす。次に、生地片の幅方向の伸張態様を見るべく、生地片の各マーク間の中点における5箇所の生地幅W1〜W5の幅保持率(伸張時の生地幅/元の生地幅50mm)を計測し、その平均値を求めた。また、20%伸張時の荷重(gf)を各生地片ごとに計測した。その結果を併せて図5に示す。なお、図5(A)はよこ編ニット、図5(B)はトリコットである。
【0041】
“実験3”
さらに、発明者らは、幅方向に沿って縫目を設けた場合の生地片の伸張の態様について実験2の条件を一部変更した実験3を行い、検証を行った。実験3は、伸縮率の異なる縦横二方向のうち伸縮率の大きい方の横方向が生地片の長手方向となるように設定した点以外、実験2と同内容である。
【0042】
実験3では、生地片の幅方向の伸張を見るべく、生地片の前記各マーク間の5箇所の中点における生地幅の幅保持率(伸張時の生地幅/元の生地幅50mm)を計測し、その平均値を求めた。また、20%伸張時の荷重(gf)を各生地片ごとに計測した。その結果を併せて図6に示す。なお、図6(A)はよこ編ニット、図6(B)はトリコットである。また、説明の便宜上、各試料はa’、c’、d’、e’、f’で示す。
【0043】
これら実験2及び実験3の結果から、生地片に対し幅方向(即ち、生地片の伸張方向の直交方向)に沿って縫目SL(即ち、伸縮性の小さい線状部位)を設けることで、生地の伸張領域が縫目SLによって複数の部分に分断された状態となり(図2(C)参照)、生地片の幅方向への変形が小さく抑えられ、また、生地片が長手方向(即ち、生地片の伸張方向)に伸張しやすいものとなることが判明した。さらに、幅方向の縫目SLの数が多い方が生地片は長手方向に伸張しやすいものとなるという傾向が確認できた。そして、縫目SLの近傍では、生地片の伸張方向の伸張量が大きいことが判明した。
【0044】
なお、生地片の伸張方向と縫目の方向との最適な関係について検討すると、仮に生地片の幅方向に対して所定角度傾斜する方向に縫目を設けた場合、縫目のうち伸張方向に沿う長手方向成分が生地片の伸張を阻害することとなる。従って、かかる長手方向成分が存在しない状態が最も伸張しやすいため、傾斜角度が0°、即ち、生地片の伸張方向と縫目とは直交することが最も好ましいと考えられる。よって、ウェアにおいては、張力が作用する領域には該張力の作用方向と直交する方向に線状部位を設けることが好ましい。ただし、縫目のうち伸張方向に沿う幅方向成分が長手方向成分よりも大きければ、幅方向成分による効果が長手方向成分による影響を上回るため、その限りにおいて、縫目が生地片の幅方向に対して所定角度傾斜するものも許容される。
【0045】
本実施形態に係るウェアは、上記二つの観点に基づいて形成されるものである。本実施形態に係るウェアの基本的な構成から説明すると、ウェア1は、図7に示すように、いわゆるTシャツと呼ばれるタイプの上半身ウェアであり、伸縮性を有する生地を用いて構成され、着用者の身体と同等の大きさ乃至は若干の余裕のある大きさ(例えば、約110%程度の大きさ)を有するものである。
【0046】
次に、本実施形態に係るウェアの特徴的な構成について説明すると、図7に示すように、ウェア1は、体側部2から背面幅方向の中心に向かって所定の幅を有し且つ腋部3にかけて上下方向に沿って延びる後身頃の側部領域4に、幅方向に沿う所定の方向の伸縮性が隣接する部位よりも小さい線状部位Sが該所定の方向に沿って設けられる。
【0047】
前記体側部2は、ウェアの前身頃と後身頃との境界部分に位置し、着用者の脇腹から腋にかけての部位に対応する。前記ウェアの側部領域4は、前記体側部2に沿う領域であり、上述した腕を動かす動作の際に皮膚の伸張量が大きい領域50に対応して設定される。そして、該側部領域4の幅は、上下方向に沿って直線状に延びる体側部2の端縁5から後身頃の幅方向中心線Xまでの長さの半分程度(左右の体側部2,2間の距離の4分の1)とされる。即ち、側部領域4は、後身頃の両側約半分の領域となる。また、前記体側部2の端縁5と袖部6の下端縁7とは、湾曲しつつ連続するウェアの側方端縁8を構成する。前記腋部3は、着用者の腋に対応する部分であり、前記側方端縁8が直線状から湾曲形状へと変化する部分に位置する。
【0048】
前記線状部位Sは、側部領域4の幅に相当する長さを有する部位であり、一端部が前記体側部2の端縁5上に位置し、他端部が体側部2と後身頃の幅方向中心線Xとの中間に位置する。
【0049】
また、前記側部領域4には、前記線状部位Sが複数形成される。具体的には、前記側部領域4には、線状部位Sが腋部3近傍に二つ形成され(上側線状部位S1及び下側線状部位S2)、該二つの線状部位S1,S2に挟まれる部分は、隣接する部分よりも上下方向の伸縮性が大きく設定される。該二つの線状部位S1,S2は、前記体側部2に位置する一端部よりも幅方向内方に位置する他端部が上方位置となるように、幅方向に対して傾斜して設けられる。
【0050】
より詳細には、前記上側線状部位S1及び下側線状部位S2は、幅方向に対してそれぞれ約20°傾斜して設けられる。また、前記上側線状部位S1は、該上側線状部位S1が対応する皮膚の部分の伸張方向を考慮して、約−10°〜+5°の許容範囲を有し、幅方向に対して約10°〜25°傾斜するものであってもよい。さらに、前記下側線状部位S2は、該下側線状部位S2が対応する皮膚の部分の伸張方向を考慮して、前記上側線状部位S1の場合よりも大きい約−10°〜+20°の許容範囲を有し、幅方向に対して約10°〜40°傾斜するものであってもよい。
【0051】
また、ウェア1は、後身頃における袖部6から肩部9にかけての上部領域10に、上下方向に沿う所定の方向の伸縮性が隣接する部位よりも小さい線状部位Sが該所定の方向に沿って複数設けられる。
【0052】
前記袖部6及び肩部9は、それぞれ着用者の腕及び肩に対応する部分であり、前記袖部6の上端縁11と肩部の端縁12とは、連続した直線状の上方端縁13を構成する。前記上部領域10は、前記上方端縁13に沿う領域であり、上述した腕を動かす動作の際に皮膚の伸張量が大きい領域60に対応して設定される。そして、該上部領域10の幅(若しくは高さ)は、前記上方端縁13から左右の袖部6,6の下部同士を結ぶ幅方向線までの長さに設定される。即ち、上部領域10は、後身頃の袖部6を含み且つ該袖部6から上方の領域である。
【0053】
前記線状部位Sは、上部領域10の幅に相当する長さを有する部位であり、一端部が前記上方端縁13上に位置し、他端部が左右の袖部6,6の下部同士を結ぶ幅方向線上に位置する。
【0054】
前記上部領域10には、前記線状部位Sが複数形成され、具体的には、内側線状部位S3及び外側線状部位S4として、左右それぞれに2つずつ設けられる。そして、内側線状部位S3は、一端部よりも他端部が幅方向内側を向くように、上下方向に対して傾斜して設けられる。一方、前記外側線状部位S4は、袖部6の上端縁11から下端縁7に至るように設けられる。該外側線状部位S4は、前記上方端縁13上に位置する一端部よりも他端部が幅方向外側を向くように、上下方向に対して傾斜して設けられる。
【0055】
より詳細には、前記内側線状部位S3は、上下方向に対して約20°傾斜して設けられる。また、前記内側線状部位S3は、該内側線状部位S3が対応する皮膚の部分の伸張方向を考慮して、約−5°〜+5°の許容範囲を有し、上下方向に対して約15°〜25°傾斜するものであってもよい。さらに、前記外側線状部位S4は、上下方向に対して約15°傾斜して設けられる。そして、外側線状部位S4は、該外側線状部位S4が対応する皮膚の部分の伸張方向を考慮して、前記内側線状部位S3の場合よりも大きい約−10°〜+5°の許容範囲を有し、上下方向に対して約5°〜20°傾斜するものであってもよい。なお、前記袖部6は、幅方向に対して約7°傾斜させて設けられている。
【0056】
そして、前記側部領域4の上側線状部位S1及び下側線状部位S2と前記上部領域10の内側線状部位S3とは、接続して形成される。これら各線状部位S1、S2、S3は、前記左右の袖部6,6の下端部を結ぶ領域と、前記体側部2の端縁5と後身頃の幅方向中心線Xとの間の領域とが交差する部分で接続する。また、前記下側線状部位S2と内側線状部位S3とは、湾曲して滑らかに連続する曲線を形成する。前記上側線状部位S1と内側線状部位S3とは、該上側線状部位S1が内側線状部位S3に突き当たる態様で接続する。このような構成により、一つの作業で複数の線状部位を設けることができ、また、デザイン的にも優れたものとなる。
【0057】
なお、上記各線状部位S1、S2、S3、S4は、それらが配置される箇所に作用する張力の方向を考慮して配置され、好ましくは、張力の方向に直交するように配置される。腕を上げる動作及び腕を前に曲げる動作の際に張力が主に作用する方向(これを、主張力方向とする)C及びDをウェア1に重ね合わせると、図7(B)のようになり、各線状部位S1、S2、S3、S4は、それぞれ主張力方向C及びDに対して直交するように交差する。主張力方向Cは、前記体側部2の端縁5及び袖部6の下端縁7によって構成される側方端縁8に沿っており、また、前記主張力方向Dは、前記袖部6の上端縁11及び肩部9の端縁12によって構成される上方端縁13に沿っている。
【0058】
換言すると、前記線状部位S1、S2、S4は、体側部2から袖部6にかけての側方端縁8の所定箇所を一端部として、該所定箇所における側方端縁8の接線と直交する所定の方向に沿って設けられるものとしても特定され、また、前記線状部位S3、S4は、袖部6から肩部9にかけての上方端縁13の所定箇所を一端部として、該所定箇所における上方端縁13の接線と直交する所定の方向に沿って設けられるものとしても特定される。
【0059】
ところで、前記線状部位S1〜S4は、生地を縫合してできる縫目によって構成されるものである。より具体的には、前記縫目は、裁断された別個の生地を縫合することで形成されるものである。このようにすれば、生地を縫合することで容易に線状部位を設けることができる。
【0060】
即ち、ウェア1は、図8に示すようなパターンに基づいて作製されるものであり、それぞれ独立した別個の生地片によって形成される。具体的には、ウェア1は、前身頃の胴部分を構成する前胴部生地20と、後身頃の胴部を構成する後胴部生地21と、袖の先端となる袖先部生地22と、袖から肩にかけての部分となる袖肩部生地23と、袖と胴部分とを接続し腋の下に位置する腋部生地24とで構成される。
【0061】
また、前記前胴部生地20、後胴部生地21、袖先部生地22及び袖肩部生地23には、伸縮性を有する素材としてよこ編ニットを用い、伸縮率の小さい方である素材の縦方向が上下方向に沿うように配置した。より具体的には、前胴部生地20及び後胴部生地21は、前記素材の縦方向が上下方向と平行であり、前記袖先部生地22及び袖肩部生地23は、前記素材の縦方向が上下方向に対して約7°傾斜する。一方、腋部生地24には、前記よこ編ニットよりも伸縮性の大きい素材としてトリコットを用い、伸縮率の大きい方である素材の横方向が上下方向に沿うように配置した。より具体的には、腋部生地24は、前記素材の縦方向が上下方向に対して約7°傾斜する。
【0062】
以上のように、本実施形態に係るウェア1によれば、着用者がだぶつき感や突っ張り感若しくはひきつれ感を感じることなく着用でき且つスムーズな動作を行うことができる。
【0063】
即ち、本実施形態に係るウェア1は、側部領域4に上側線状部位S1及び下側線状部位S2が設けられ、上部領域10に内側線状部位S3及び外側線状部位S4が設けられるので、生地が伸張する側部領域4若しくは上部領域10が各線状部位S1、S2若しくはS3、S4によって複数の部分に分断された状態となり、側部領域4若しくは上部領域10が全体としてではなく、複数の部分ごとに伸張することとなる。従って、生地の伸張に伴ってその直交方向から生地が手繰り寄せられる量を小さく抑えることができる。
【0064】
また、本実施形態に係るウェア1は、生地の伸張方向に沿っては伸縮性の小さい線状部位Sを配置しないように考慮されているので、生地の伸張が不必要に制限されることがない。寧ろ、前記所定の方向に沿って線状部位Sが設けられると、該線状部位Sが存在しない場合と同等以上に生地を伸張方向に伸張させやすくすることができる。従って、例えばウェア1の下部をパンツの中に入れた状態で腕を動かす動作を行った場合に、ウェア1がずれ上がる量を小さく抑えることができる。また、余分な生地の量を少なく抑えることができるため、ウェア1の側方端縁8の長さを短く設定することができ、だぶつき感を軽減することができる。
【0065】
さらに、前記上側線状部位S1及び下側線状部位S2が形成される腋部近傍部分は、腕を動かす動作の際に着用者の皮膚が大きく伸張する背面の体側から腋にかけての上下方向に沿う領域の中でも特に皮膚の伸張が大きい領域である腋の下の領域に相当するため、前記腋部近傍部分に位置する生地は、皮膚の伸張に伴って大きく伸張することとなる。従って、かかる生地の伸張が特に大きい部分が線状部位S1、S2によって複数の部分に分断された状態となるので、生地の伸張に伴ってその直交方向から生地が手繰り寄せられる量を小さく抑えることができる。
【0066】
しかも、前記各線状部位S1、S2に挟まれる部分には上下方向の伸縮性が大きい前記腋部生地24が配置されるため、大きな皮膚の伸張に対して生地を好適に追従させることができる。さらに、該上側線状部位S1及び下側線状部位S2は、近接して設けられるため、上下方向の伸縮性が大きく構成されることにより前記二つの線状部位S1、S2に挟まれる部分に配置される腋部生地24によって周囲の生地が手繰り寄せられる量が大きくなるという弊害を小さく抑えることができる。このように構成されることにより、突っ張り感若しくはひきつれ感が発生するのをさらに効果的に軽減又は抑制することができる。
【0067】
上記構成からなるウェアの効果を検証すべく、以下のような実験を実施した。
【0068】
実験としては、図9に示すように、被験者に腕を動かす動作を行わせ、ウェアを着用した場合及び上半身裸の場合について、生地(上半身裸の場合は皮膚)の伸縮率の変化(測定1)及びウェアのずれ上がりの量(測定2)を測定した。動作としては、被験者に腕を垂下させた状態から真上まで真横に腕を上げる動作(肩外転動作)を行わせた。ウェアとしては、従来の半袖Tシャツタイプのウェア、及び、本実施形態に係るウェアの二種類のウェアを用意した。ここで、本実施形態に係るウェアを着用した場合を実施例(図9(A))、上半身裸の場合を比較例1(図9(B))、従来のウェアを着用した場合を比較例2(図9(C))とする。なお、比較例2の従来のウェアは、図10(A)に示すような外観を有し、図10(B)に示すようなパターンに基づいて作製され、前胴部生地120と、後胴部生地121と、袖部生地122とで構成される。
【0069】
“測定1”
生地(比較例1では皮膚)の伸縮率の変化の測定においては、背面における腰近傍部位から腋部(比較例1では腋)近傍を通り袖部上端縁(比較例1では上腕上部)にかけての領域を対象とし、該領域内で曲線を設定した上で曲線上に8箇所のポイントをほぼ等間隔に設けた。そして、腕の挙上角度ごとの各ポイント間の7つの線分(D1〜D7)の伸縮率(伸張時の線分の長さ/元の長さ)を計測した。(なお、元の長さとは、ウェアに関する実施例及び比較例2においては、生地を何ら伸張させない非着用状態での長さである。)その結果のうち、D2,D3,D4,D6の変化と腕の挙上角度との関係を図11(A)〜(D)に示す。実施例は太実線、比較例1は破線、比較例2は細実線で示す。また、各グラフでは縦軸が伸縮率であり、正の値は生地(比較例1では皮膚)が伸張していることを示す。一方、負の値は生地(比較例1では皮膚)が収縮していることを示すが、ウェアの場合には、生地の収縮に限界があるので、一定値以上では、生地が重複していること、即ちだぶつきが発生していることを示す。
【0070】
まず、腕の付け根から上方に位置するD2,D3,D4を見ると、腕を上げた際(挙上角度150°程度)に、本実施形態に係るウェアである実施例では、従来のウェアである比較例2に比べて上半身裸の場合である比較例1に近い値を示している。これは、実施例のウェアが動作に対する追従性に優れたものであることを示している。
【0071】
また、袖の付け根に相当するD4を見ると、比較例2では、腕を下ろした状態(挙上角度0〜50°程度)で大きな負の値を示しており、生地が大きくだぶついているのが分かる。一方、実施例では、上半身裸の場合である比較例1に近い値を示しており、だぶつきが抑制されているのが分かる。さらに、体側に相当する側部領域の腋部近傍に位置するD6を見ると、腕を上げた際(挙上角度150°程度)に、実施例では比較例2よりも大きく伸張している。
【0072】
“測定2”
ウェアのずれ上がりの量の測定においては、ウェアの下部をパンツの中に入れた状態としてパンツの上端位置をウェアにマークMを付けておき、前記動作の後の該マークMの位置とパンツの上端位置との距離を測定した。その結果、従来のウェアである比較例2では、ずれ上がりは8cmであったのに対し、本実施形態に係るウェアである実施例では、ずれ上がりは4cmであり、本実施形態に係るウェアの方がずれ上がりが小さいことが分かった。なお、参考であるが、被験者の身長は172cmであり、腕を上げる動作を行った際に、前記ポイントのうち最も上のポイント及び最も下のポイント間の距離の変化は15cmであった。
【0073】
なお、本発明に係るウェアは、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0074】
例えば、上記実施形態に係るウェアは、前記幅方向を向く線状部位は側部領域の幅に相当する長さを有するものとして説明したが、これに限定されるものではなく、前記上部領域には入り込まない限りにおいて、前記側部領域からはみ出す態様で(即ち、側部領域の幅よりも長く)形成されるものであってもよい。従って、後身頃における左右の体側部間(例えば、腰近傍部位)に全幅に亘って形成されるものであってもよい。このようにしても、幅方向を向く線状部位は上部領域には設けられないので、腕を動かす動作を行った際に着用感を阻害することはない。これに関しては、前記上下方向を向く線状部位についても同様であり、前記側部領域には設けられない限りにおいて、上下方向の全長に亘って形成されるものであってもよい。また、袖部に設けられる線状部位は、上端縁から下端縁に至るものでなくてもよい。
【0075】
前記側部領域には線状部位が腋部近傍に形成されるものとして説明したが、これに限定されるものではなく、例えば、腋部近傍よりも下方の位置などに設けられるものであってもよい。また、設けられる個数もこれに限定されるものではない。さらに、上部領域に設けられる線状部位についても同様である。
【0076】
また、上記実施形態においては、前身頃と後身頃とが別の生地によって構成され縫合されるものであったが、より理想的には、前身頃と後身頃とが連続し、体側部の端縁に縫目が存在しないものであってもよい。
【0077】
さらに、前記線状部位は、伸縮性が隣接する部位よりも小さくなるように構成されたものであれば縫目によって構成されるものに限られず、例えば、生地に対して伸縮性を低下させるような部材(生地や樹脂等)を接合する等の手段により設けるものであってもよい。また、生地に対して樹脂等を含浸させるものであってもよい。そして、前記縫目は、それぞれ独立した別個の生地を縫合することでできるものに限らず、単一の生地同士を寄せて縫合することでできるものであってもよく、単に生地に対して縫目(ステッチ)を入れるものであっても構わない。
【0078】
そして、前記線状部位は、一端から他端にかけて連続するものに限られず、同一線上に並ぶ不連続な複数の線状部位片によって一つの線状部位が構成されるものであってもよい。
【0079】
また、上記実施形態においては、ウェアは半袖のTシャツタイプの上半身ウェアに基づいて説明したが、これに限定されるものではなく、長袖のものであってもよく、また、上述のような上半身部を有し、パンツと一体化されたものであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】皮膚の伸張の態様を示す図であって、(A)は腕を上げる動作の場合を示し、(B)は腕を前に曲げる動作の場合を示す。
【図2】生地の伸張の態様を示す図であって、(A)は縫目を設けない場合を示し、(B)は生地の長手方向に沿って縫目を設ける場合を示し、(C)は生地の幅方向に沿って縫目を設ける場合を示す。
【図3】生地の伸張の態様を検証する実験において用いられた試料を示し、(A)は縫目を設けない試料を示し、(B)は生地の長手方向に沿って縫目を設けた試料を示し、(C)〜(F)はそれぞれ1本,2本,3本,5本の縫目を生地の幅方向に沿って縫目を設けた生地片を示す。
【図4】上記生地片の長手方向の伸張率を示すグラフであり、(A)はよこ編ニットの場合、(B)はトリコットの場合を示す。
【図5】上記生地片を伸縮率の小さい縦方向に20%伸張させたときの幅保持率及び荷重を示すグラフであり、(A)はよこ編ニットの場合、(B)はトリコットの場合を示す。
【図6】上記生地片を伸縮率の大きい横方向に20%伸張させたときの幅保持率及び荷重を示すグラフであり、(A)はよこ編ニットの場合、(B)はトリコットの場合を示す。
【図7】本発明の一実施形態に係るウェアの後身頃を示す図であって、(A)は外観図を示し、(B)は、腕を動かす動作の際に張力が主に作用する方向をウェアに重ね合わせた図を示す。
【図8】同実施形態に係るウェアのパターン図を示す。
【図9】同実施形態に係るウェアの効果を検証する実験の様子を示し、(A)は同実施形態に係るウェアの場合を示し、(B)は、従来のウェアの場合を示し、(C)は、上半身裸の場合を示す。
【図10】上記検証実験において用いられた従来のウェアを示す図であって、(A)は後身頃の外観図を示し、(B)はパターン図を示す。
【図11】同実施形態に係るウェアの効果を検証する実験の結果を示すグラフであって、(A)〜(D)はそれぞれD2,D3,D4,D6を示す。
【符号の説明】
【0081】
1…ウェア、2…体側部、3…腋部、4…側部領域、5…体側部の端縁、6…袖部、7…袖部の下端縁、8…側方端縁、9…肩部、10…上部領域、11…袖部の上端縁、12…肩部の端縁、13…上方端縁、20…前胴部生地、21…後胴部生地、22…袖先部生地、23…袖肩部生地、24…腋部生地、A…第一主伸張方向、B…第二主伸張方向、C…主張力方向、D…主張力方向、S…線状部位、S1…上側線状部位、S2…下側線状部位、S3…内側線状部位、S4…外側線状部位、SL…縫目、X…幅方向中心線
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウェアに関し、特に、着用者が動作を行った際の着用感に配慮した上半身部を有するウェアに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、着用者が例えば腕を動かす動作を行った際に突っ張り感若しくはひきつれ感が発生するのを軽減又は抑制し、動作に対する追従性を向上させることを目的とした各種ウェアが提案されている。
【0003】
具体的に説明すると、例えば特許文献1に示すウェアでは、着用者が腕を伸ばすなど身体を伸展させた際に生地が不足してしまうことのないように、予め生地にゆとりを持たせている。
【0004】
また、例えば特許文献2に示すウェアでは、着用者の皮膚の伸張や身体の伸展に生地を追従させるべく、伸縮性を有する生地を用いている。
【0005】
さらに、例えば特許文献3に示すウェアは、単に伸縮性を有する生地を用いるだけでなく、ウェアの追従性をさらに向上させることを目的として、伸張方向が長手方向と一致するように裁断された複数の生地を縫合した構造を採用している。
【0006】
【特許文献1】特開平9−95809号公報
【特許文献2】特開2004−44033号公報
【特許文献3】特開2005−307369号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に示すウェアでは、腕を伸ばすなど身体を伸展させた状態に合わせて生地の寸法を設定しているため、例えばウェアの側方端縁が長くなり、腕を下ろしたときなど着用者が通常の姿勢を取った際に生地が余ってしまい、だぶつき感などが生じて着用感が良好でない上に、その余分な生地が邪魔になってスムーズな動作を阻害するという問題がある。
【0008】
また、特許文献2に示すウェアは、生地が伸縮性を有することから、余分な生地の量を少なくしてだぶつき感を軽減し、且つ、生地の伸張方向に沿っては突っ張り感若しくはひきつれ感を生じさせるのを好適に防止することができる。しかし、単に伸縮性を有する生地を用いても、次に示すような理由により、必ずしも突っ張り感若しくはひきつれ感を解消できるものではない。
【0009】
即ち、伸縮性を有する生地は、所定部分に張力がかけられると、該張力の作用方向に伸張する一方、中間部ほど該張力の作用方向と直交する方向に変形する若しくは生地の弛みが発生するものである(図2(A)参照)。すると、ウェアを構成する生地は(少なくとも胴回りや腕回りにおいて)筒状に繋がっていることから、生地が変形する際、周囲の生地に対して前記張力の作用方向と直交する方向に二次的な張力を作用させ、該周囲の生地を手繰り寄せる状態となる。この結果、手繰り寄せられる生地によって着用者の皮膚が引っ張られるので、着用者は依然として突っ張り感若しくはひきつれ感を感じることとなる。なお、生地の突っ張りは、生地の伸張方向に沿って生じる皺として観察されることもある。
【0010】
さらに、特許文献3に示すウェアは、複数の生地を縫合してできた縫目が生地の伸張方向に沿ったものとなってしまっている。ここで、縫目は、隣接する生地単体の部分に比べて伸縮性が小さい部位である。従って、縫目を生地の伸張方向に沿って配置してしまうと生地が伸張しにくくなり(図2(B)参照)、突っ張り感若しくはひきつれ感の原因となる上に、動作を行うために余計な力が必要となり、スムーズな動作が阻害される。
【0011】
このように、上記従来のウェアでは、だぶつき感や突っ張り感若しくはひきつれ感を好適に解消することができないという問題がある。そこで、本発明は、着用者がだぶつき感や突っ張り感若しくはひきつれ感を感じることなく着用でき且つスムーズな動作を行うことができるウェアを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係るウェアは、伸縮性を有する生地を用いて構成されるウェアであって、体側部から背面幅方向の中心に向かって所定の幅を有し且つ腋部にかけて上下方向に沿って延びる後身頃(背面部分)の側部領域に、幅方向に沿う所定の方向の伸縮性が隣接する部位よりも小さい線状部位が該所定の方向に沿って設けられることを特徴とする。
【0013】
上記構成からなるウェアによれば、着用者が例えば腕を動かす動作を行った際のウェアの追従性を高いものとすることができる。即ち、例えば腕を上げる若しくは腕を前に曲げるといった腕を動かす動作を行った場合、着用者の皮膚は、背面の体側から腋にかけての上下方向に沿う領域において大きく伸張する。前記ウェアの側部領域は、かかる皮膚の伸張の大きい領域に対応する領域であり、着用者が腕を動かす動作を行うと、着用者の皮膚の伸張に伴って前記側部領域の生地も伸張する。
【0014】
この場合、側部領域に、幅方向に沿う所定の方向の伸縮性が隣接する部位よりも小さい線状部位が該所定の方向に沿って設けられるので、生地が伸張する側部領域が線状部位によって複数の部分に分断された状態となり、側部領域が全体としてではなく、複数の部分ごとに伸張することとなる。この状態は、張力が前記線状部位によって中間で遮断される状態とも言える。従って、生地の伸張に伴ってその直交方向から生地が手繰り寄せられる量を小さく抑えることができる。
【0015】
また、本発明に係るウェアは、生地の伸張方向に沿っては伸縮性の小さい線状部位を配置しないように考慮されているので、例えば特許文献3のウェアのように生地の伸張が不必要に制限されることがない。寧ろ、前記所定の方向に沿って線状部位が設けられると、該線状部位が存在しない場合と同等以上に生地を伸張方向に伸張させやすくすることができる。このため、余分な生地の量を少なく抑えることができ、だぶつき感を軽減することができる。
【0016】
また、本発明に係るウェアは、後身頃における袖部から肩部にかけての上部領域に、上下方向に沿う所定の方向の伸縮性が隣接する部位よりも小さい線状部位が該所定の方向に沿って複数設けられるものであってもよい。
【0017】
上記構成からなるウェアによれば、着用者が動作を行った際のウェアの追従性をさらに向上させることができる。即ち、着用者が動作を行った場合、上記のような背面における体側から腋にかけての上下方向に沿う領域だけでなく、腋から腕にかけての領域においても、着用者の皮膚が大きく伸張する。また、腕を前に曲げる動作を行った場合には、背面の肩甲上部から腕にかけての領域においても、着用者の皮膚が大きく伸張する。後身頃における袖部から肩部にかけての上部領域は、かかる皮膚の伸張の大きい領域に対応する領域である。なお、ウェアの生地は、皮膚が伸張するのに伴って伸張するだけでなく、腕を伸展させた際に袖部が引っ張られることによっても伸張する。
【0018】
その一例としては、前記上部領域の線状部位の少なくとも一つは、前記袖部の上端縁から下端縁に至るように設けられる構成が考えられる。袖部は着用者の腕に対応する部分であり、該部分も着用者が動作を行う際に生地が伸張される部分であるので、かかる袖部に線状部位を設けることにより、突っ張り感若しくはひきつれ感が発生するのをより一層効果的に軽減又は抑制することができる。
【0019】
また、前記側部領域には、線状部位が腋部近傍に二つ形成され、該二つの線状部位に挟まれる部分は、隣接する部分よりも上下方向の伸縮性が大きく設定される構成が好ましい。
【0020】
上記構成によれば、前記二つの線状部位が形成される腋部近傍部分は、腕を動かす動作の際に着用者の皮膚が大きく伸張する背面の体側から腋にかけての上下方向に沿う領域の中でも特に皮膚の伸張が大きい領域である腋の下の領域に相当するため、前記腋部近傍部分に位置する生地は、皮膚の伸張に伴って大きく伸張することとなる。従って、かかる腋部近傍部分が線状部位によって複数の部分に分断されるので、生地の伸張に伴ってその直交方向から生地が手繰り寄せられる量を小さく抑えることができる。
【0021】
しかも、前記二つの線状部位に挟まれる部分は上下方向の伸縮性が大きく構成されるため、特に大きい皮膚の伸張に対して生地を好適に追従させることができる。さらに、該二つの線状部位は、腋部近傍という狭い領域に近接して設けられるため、上下方向の伸縮性が大きく設定されることにより前記二つの線状部位に挟まれる部分によって周囲の生地が手繰り寄せられる量が大きくなるという弊害を小さく抑えることができる。具体的に説明すると、生地は伸張方向の伸縮性が大きいものほど該伸張方向と直交する方向の変形が大きくなるものであるため、二つの線状部位に挟まれる部分が上下方向の伸縮性を大きく構成された場合には幅方向から生地が手繰り寄せられる程度も大きくなってしまうが、上記構成では、二つの線状部位の間隔(上下方向寸法)を小さくすることで、生地が手繰り寄せられる量が不必要に大きくならないようにしている。このように構成されることにより、突っ張り感若しくはひきつれ感が発生するのをさらに効果的に軽減又は抑制することができる。
【0022】
また、前記側部領域の線状部位と前記上部領域の線状部位の少なくとも一つとは、接続して形成される構成が好ましい。このような構成によれば、一つの作業で複数の線状部位を設けることができる。また、デザイン的にも優れたものとなる。
【0023】
また、前記線状部位は、生地を縫合してできる縫目によって構成されるものが好ましい。このような構成によれば、別途部材を配置するなどしなくとも、生地を縫合することで容易に前記低伸縮性の線状部位を設けることができる。
【0024】
或いは、本発明に係るウェアは、伸縮性を有する生地を用いて構成されるウェアであって、体側部から袖部にかけての側方端縁の所定箇所を一端部として、該所定箇所における側方端縁の接線と直交する所定の方向に沿って、該所定の方向の伸縮性が隣接する部位よりも小さい線状部位が後身頃に複数設けられることを特徴とする。
【0025】
そして、袖部から肩部にかけての上方端縁の所定箇所を一端部として、該所定箇所における上方端縁の接線と直交する所定の方向に沿って、該所定の方向の伸縮性が隣接する部位よりも小さい線状部位が後身頃に複数設けられることが好ましい。
【発明の効果】
【0026】
以上のように、本発明に係るウェアによれば、着用者がだぶつき感や突っ張り感若しくはひきつれ感を感じることなく着用でき且つスムーズな動作を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明に係るウェアの実施形態について説明するのに先立ち、本実施形態に係るウェアのパターン設計の基となる皮膚の伸張の態様、及び、生地の伸張の態様について説明する。
【0028】
<皮膚の伸張の態様>
まず、突っ張り感若しくはひきつれ感を発生させる原因の一つは、着用者の皮膚が伸張した際に、その伸張にウェアの伸張が追従できない(即ち、皮膚の伸張よりウエアの伸張が小さい)ことにある。従って、突っ張り感若しくはひきつれ感を抑制することのできるウェアを設計するに当たっては、着用者の皮膚がどのように伸張するのかを把握することが必要である。このため、発明者らは様々な動作を行って皮膚の伸張を検証した。
【0029】
ここで、人体の部位の中で腕はいわゆるボールジョイント式の関節で連結されるため、腕を動かす動作(腕自体を動かす動作だけでなく、胴体など他の部分を動かすことにより相対的に腕を動かす動作も含む)を行う際にはその関節の周辺で大きな皮膚の伸張(皮膚ひずみ)が見られる。このことから、腕を動かす動作として、腕を上げる動作(肩外転動作)、腕を前に曲げる動作(肩水平屈曲動作)、体を横に反らす動作(体幹側屈動作)、体を前に曲げる動作(体幹前屈動作)、体を後ろに曲げる動作(体幹後屈動作)、肘を曲げる動作(肘屈曲動作)、片腕のみを上げる動作、腕を振る動作、体を捻じる動作を行った。なお、これらの各動作は、日常生活で行われる基本的な動作から、ランニングやサッカー、テニスさらにはゴルフといった各種スポーツにおいて行われる動作までを網羅するものである。
【0030】
皮膚の伸張の検証内容は、人間が各種動作を行った際に皮膚が大きく伸張する領域を特定すること、及び、皮膚が伸張する領域全体に亘っての伸張方向(これを、主伸張方向とする)を特定することである。その手法としては、皮膚を複数のセクションに区分して各セクションごとの伸張態様を調べ、かかるセクションごとの伸張態様に基づいて、全体的な伸張態様を把握する手法を採用した。具体的には、皮膚を20〜30mm平方の四角形状を有するセクションに区分し、各セクションの頂点位置にマーカーを配置し、該マーカーの位置変化を三次元動作解析装置によって分析した。
【0031】
このような検証の結果、皮膚の伸張は、上記各動作を通して基本的にある二つの態様に集約されることが判明した。かかる二つの態様は、腕を上げる動作及び腕を前に曲げる動作という二つの動作において顕著に表れるものである。この腕を上げる動作及び腕を前に曲げる動作の際の皮膚の伸張の態様を図1に示す。なお、図1(A)及び(B)においては、濃淡の濃い領域ほど皮膚の伸張が大きいことを示す。
【0032】
まず、腕を上げる動作においては、図1(A)に示すように、上記のような二つ皮膚の伸張態様のうちの一つが表れる。この動作において皮膚が大きく伸張する領域50は、背面の体側から腋にかけての上下方向に沿う領域51、及び、腋から腕にかけての腕の長手方向に沿う領域52である。また、腕を上げる動作における主伸張方向は前記上下方向に沿うものである(これを、第一主伸張方向Aとする)。より詳細には、第一主伸張方向Aは、腰近傍且つ背面幅方向内方の部位から腋にかけての方向、及び該方向に連続し、腋から腕の前面にかけての方向である。
【0033】
一方、腕を前に曲げる動作においては、図1(B)に示すように、上記のような二つ皮膚の伸張態様の両方が表れる。この腕を前に曲げる動作における皮膚が大きく伸張する領域60は、背面の体側から腋にかけての上下方向に沿う領域61、及び、背面の肩甲上部から腕にかけての領域62である。また、腕を前に曲げる動作における主伸張方向の一つは、前記第一主伸張方向と同等のものである(これを主伸張方向A’で示す)。腕を前に曲げる動作におけるもう一つの主伸張方向は、背面の幅方向及び腕の長手方向に沿うものである(これを、第二主伸張方向Bとする)。より詳細には、該第二主伸張方向Bは、肩甲骨の下部から腋にかけての方向、及び該方向に連続し、腋から腕の前面にかけての方向である。
【0034】
<生地の伸張の態様>
次に、生地の伸張の態様について、図2〜図6に基づいて説明する。
【0035】
伸縮性を有する生地は、所定部分に張力がかけられると、該張力の作用方向に伸張する一方、中間部ほど該張力の作用方向と直交する方向に変形する若しくは生地の弛みが発生するものである。短冊状の生地を例に示すと、図2(A)のようであり、生地の長手方向に沿って張力がかけられることで生地の中間部が長手方向に直交する幅方向に収縮し、長手方向の両側に生地が足りない部分が生じる。ウェアであれば、この部分を補うように周囲の生地が手繰り寄せられるため、着用者は突っ張り感若しくはひきつれ感を感じることとなる。
【0036】
ここで、図2(B)に示すように、短冊状の生地の長手方向に沿って縫目SLを設けた場合には、該縫目SLが隣接する部位よりも伸縮性の小さい線状部位として機能するため、長手方向に張力を作用させても生地が伸張しにくい。即ち、生地の伸張方向に線状部位が設けられたウェア(例えば、特許文献2のウェア)では、生地が伸張しにくく、着用者は突っ張り感を感じることとなる。
【0037】
“実験1”
発明者らは、このことを検証する実験1を行っているので、その内容及び結果を以下に示す。実験1の試料に関してであるが、大きさが50mm×300mmの生地片を二つ用意し、一方はそのままの生地片を試料a(図3(A))とし、他方は長手方向に縫目を設けて試料b(図3(B))とした。また、生地片の素材としては、よこ編ニット及びトリコットの二種類を用意した。ところで、これら二種類の素材は、縦横二方向の伸縮率が異なるいわゆる異方性を有するものである。実験1の各試料では、伸縮率の小さい方の縦方向が生地片の長手方向となるようにした。そして、引張試験機を用い、これら4つの試料をチャック間距離200mmで保持して20%伸張させた。その際の荷重(gf)を表1に示す。なお、前記他方の生地片には、別個の生地片を一つに縫合することで縫目を形成した。
【0038】
【表1】
【0039】
“実験2”
次に、発明者らは、幅方向に沿って縫目を設けた場合の生地の伸張の態様について実験2及び3を行い、検証を行った。実験2の試料に関してであるが、大きさが50mm×300mmの生地片を5つ用意し、一つはそのままの生地片を試料a(図3(A))とし、他の4つは幅方向1本,2本,3本,5本の縫目SLをそれぞれ等間隔で設けて試料c、d、e、f(図3(C)〜(F))とした。また、生地片の素材としては、異方性を有する素材であるよこ編ニット及びトリコットの二種類を用意した。ところで、実験2の各試料では、伸縮率の異なる縦横二方向のうち伸縮率の小さい方の縦方向が生地片の長手方向となるように設定した。そして、引張試験機を用い、これら10個の試料をチャック間距離200mmで保持して20%伸張させた。なお、各生地片には、測定に用いられる6個のマークP1〜P6がそれぞれ均等な間隔30mmで設けてある。
【0040】
まず、生地片の長手方向の伸張を見るべく、5箇所で前記各マーク間距離L1〜L5の変化率を計測した。その結果を図4に示す。なお、図4(A)はよこ編ニット、図4(B)はトリコットである。また、試料aは実線、試料cは破線、試料dは一点鎖線、試料eは二点鎖線、試料fは三点鎖線で表わす。次に、生地片の幅方向の伸張態様を見るべく、生地片の各マーク間の中点における5箇所の生地幅W1〜W5の幅保持率(伸張時の生地幅/元の生地幅50mm)を計測し、その平均値を求めた。また、20%伸張時の荷重(gf)を各生地片ごとに計測した。その結果を併せて図5に示す。なお、図5(A)はよこ編ニット、図5(B)はトリコットである。
【0041】
“実験3”
さらに、発明者らは、幅方向に沿って縫目を設けた場合の生地片の伸張の態様について実験2の条件を一部変更した実験3を行い、検証を行った。実験3は、伸縮率の異なる縦横二方向のうち伸縮率の大きい方の横方向が生地片の長手方向となるように設定した点以外、実験2と同内容である。
【0042】
実験3では、生地片の幅方向の伸張を見るべく、生地片の前記各マーク間の5箇所の中点における生地幅の幅保持率(伸張時の生地幅/元の生地幅50mm)を計測し、その平均値を求めた。また、20%伸張時の荷重(gf)を各生地片ごとに計測した。その結果を併せて図6に示す。なお、図6(A)はよこ編ニット、図6(B)はトリコットである。また、説明の便宜上、各試料はa’、c’、d’、e’、f’で示す。
【0043】
これら実験2及び実験3の結果から、生地片に対し幅方向(即ち、生地片の伸張方向の直交方向)に沿って縫目SL(即ち、伸縮性の小さい線状部位)を設けることで、生地の伸張領域が縫目SLによって複数の部分に分断された状態となり(図2(C)参照)、生地片の幅方向への変形が小さく抑えられ、また、生地片が長手方向(即ち、生地片の伸張方向)に伸張しやすいものとなることが判明した。さらに、幅方向の縫目SLの数が多い方が生地片は長手方向に伸張しやすいものとなるという傾向が確認できた。そして、縫目SLの近傍では、生地片の伸張方向の伸張量が大きいことが判明した。
【0044】
なお、生地片の伸張方向と縫目の方向との最適な関係について検討すると、仮に生地片の幅方向に対して所定角度傾斜する方向に縫目を設けた場合、縫目のうち伸張方向に沿う長手方向成分が生地片の伸張を阻害することとなる。従って、かかる長手方向成分が存在しない状態が最も伸張しやすいため、傾斜角度が0°、即ち、生地片の伸張方向と縫目とは直交することが最も好ましいと考えられる。よって、ウェアにおいては、張力が作用する領域には該張力の作用方向と直交する方向に線状部位を設けることが好ましい。ただし、縫目のうち伸張方向に沿う幅方向成分が長手方向成分よりも大きければ、幅方向成分による効果が長手方向成分による影響を上回るため、その限りにおいて、縫目が生地片の幅方向に対して所定角度傾斜するものも許容される。
【0045】
本実施形態に係るウェアは、上記二つの観点に基づいて形成されるものである。本実施形態に係るウェアの基本的な構成から説明すると、ウェア1は、図7に示すように、いわゆるTシャツと呼ばれるタイプの上半身ウェアであり、伸縮性を有する生地を用いて構成され、着用者の身体と同等の大きさ乃至は若干の余裕のある大きさ(例えば、約110%程度の大きさ)を有するものである。
【0046】
次に、本実施形態に係るウェアの特徴的な構成について説明すると、図7に示すように、ウェア1は、体側部2から背面幅方向の中心に向かって所定の幅を有し且つ腋部3にかけて上下方向に沿って延びる後身頃の側部領域4に、幅方向に沿う所定の方向の伸縮性が隣接する部位よりも小さい線状部位Sが該所定の方向に沿って設けられる。
【0047】
前記体側部2は、ウェアの前身頃と後身頃との境界部分に位置し、着用者の脇腹から腋にかけての部位に対応する。前記ウェアの側部領域4は、前記体側部2に沿う領域であり、上述した腕を動かす動作の際に皮膚の伸張量が大きい領域50に対応して設定される。そして、該側部領域4の幅は、上下方向に沿って直線状に延びる体側部2の端縁5から後身頃の幅方向中心線Xまでの長さの半分程度(左右の体側部2,2間の距離の4分の1)とされる。即ち、側部領域4は、後身頃の両側約半分の領域となる。また、前記体側部2の端縁5と袖部6の下端縁7とは、湾曲しつつ連続するウェアの側方端縁8を構成する。前記腋部3は、着用者の腋に対応する部分であり、前記側方端縁8が直線状から湾曲形状へと変化する部分に位置する。
【0048】
前記線状部位Sは、側部領域4の幅に相当する長さを有する部位であり、一端部が前記体側部2の端縁5上に位置し、他端部が体側部2と後身頃の幅方向中心線Xとの中間に位置する。
【0049】
また、前記側部領域4には、前記線状部位Sが複数形成される。具体的には、前記側部領域4には、線状部位Sが腋部3近傍に二つ形成され(上側線状部位S1及び下側線状部位S2)、該二つの線状部位S1,S2に挟まれる部分は、隣接する部分よりも上下方向の伸縮性が大きく設定される。該二つの線状部位S1,S2は、前記体側部2に位置する一端部よりも幅方向内方に位置する他端部が上方位置となるように、幅方向に対して傾斜して設けられる。
【0050】
より詳細には、前記上側線状部位S1及び下側線状部位S2は、幅方向に対してそれぞれ約20°傾斜して設けられる。また、前記上側線状部位S1は、該上側線状部位S1が対応する皮膚の部分の伸張方向を考慮して、約−10°〜+5°の許容範囲を有し、幅方向に対して約10°〜25°傾斜するものであってもよい。さらに、前記下側線状部位S2は、該下側線状部位S2が対応する皮膚の部分の伸張方向を考慮して、前記上側線状部位S1の場合よりも大きい約−10°〜+20°の許容範囲を有し、幅方向に対して約10°〜40°傾斜するものであってもよい。
【0051】
また、ウェア1は、後身頃における袖部6から肩部9にかけての上部領域10に、上下方向に沿う所定の方向の伸縮性が隣接する部位よりも小さい線状部位Sが該所定の方向に沿って複数設けられる。
【0052】
前記袖部6及び肩部9は、それぞれ着用者の腕及び肩に対応する部分であり、前記袖部6の上端縁11と肩部の端縁12とは、連続した直線状の上方端縁13を構成する。前記上部領域10は、前記上方端縁13に沿う領域であり、上述した腕を動かす動作の際に皮膚の伸張量が大きい領域60に対応して設定される。そして、該上部領域10の幅(若しくは高さ)は、前記上方端縁13から左右の袖部6,6の下部同士を結ぶ幅方向線までの長さに設定される。即ち、上部領域10は、後身頃の袖部6を含み且つ該袖部6から上方の領域である。
【0053】
前記線状部位Sは、上部領域10の幅に相当する長さを有する部位であり、一端部が前記上方端縁13上に位置し、他端部が左右の袖部6,6の下部同士を結ぶ幅方向線上に位置する。
【0054】
前記上部領域10には、前記線状部位Sが複数形成され、具体的には、内側線状部位S3及び外側線状部位S4として、左右それぞれに2つずつ設けられる。そして、内側線状部位S3は、一端部よりも他端部が幅方向内側を向くように、上下方向に対して傾斜して設けられる。一方、前記外側線状部位S4は、袖部6の上端縁11から下端縁7に至るように設けられる。該外側線状部位S4は、前記上方端縁13上に位置する一端部よりも他端部が幅方向外側を向くように、上下方向に対して傾斜して設けられる。
【0055】
より詳細には、前記内側線状部位S3は、上下方向に対して約20°傾斜して設けられる。また、前記内側線状部位S3は、該内側線状部位S3が対応する皮膚の部分の伸張方向を考慮して、約−5°〜+5°の許容範囲を有し、上下方向に対して約15°〜25°傾斜するものであってもよい。さらに、前記外側線状部位S4は、上下方向に対して約15°傾斜して設けられる。そして、外側線状部位S4は、該外側線状部位S4が対応する皮膚の部分の伸張方向を考慮して、前記内側線状部位S3の場合よりも大きい約−10°〜+5°の許容範囲を有し、上下方向に対して約5°〜20°傾斜するものであってもよい。なお、前記袖部6は、幅方向に対して約7°傾斜させて設けられている。
【0056】
そして、前記側部領域4の上側線状部位S1及び下側線状部位S2と前記上部領域10の内側線状部位S3とは、接続して形成される。これら各線状部位S1、S2、S3は、前記左右の袖部6,6の下端部を結ぶ領域と、前記体側部2の端縁5と後身頃の幅方向中心線Xとの間の領域とが交差する部分で接続する。また、前記下側線状部位S2と内側線状部位S3とは、湾曲して滑らかに連続する曲線を形成する。前記上側線状部位S1と内側線状部位S3とは、該上側線状部位S1が内側線状部位S3に突き当たる態様で接続する。このような構成により、一つの作業で複数の線状部位を設けることができ、また、デザイン的にも優れたものとなる。
【0057】
なお、上記各線状部位S1、S2、S3、S4は、それらが配置される箇所に作用する張力の方向を考慮して配置され、好ましくは、張力の方向に直交するように配置される。腕を上げる動作及び腕を前に曲げる動作の際に張力が主に作用する方向(これを、主張力方向とする)C及びDをウェア1に重ね合わせると、図7(B)のようになり、各線状部位S1、S2、S3、S4は、それぞれ主張力方向C及びDに対して直交するように交差する。主張力方向Cは、前記体側部2の端縁5及び袖部6の下端縁7によって構成される側方端縁8に沿っており、また、前記主張力方向Dは、前記袖部6の上端縁11及び肩部9の端縁12によって構成される上方端縁13に沿っている。
【0058】
換言すると、前記線状部位S1、S2、S4は、体側部2から袖部6にかけての側方端縁8の所定箇所を一端部として、該所定箇所における側方端縁8の接線と直交する所定の方向に沿って設けられるものとしても特定され、また、前記線状部位S3、S4は、袖部6から肩部9にかけての上方端縁13の所定箇所を一端部として、該所定箇所における上方端縁13の接線と直交する所定の方向に沿って設けられるものとしても特定される。
【0059】
ところで、前記線状部位S1〜S4は、生地を縫合してできる縫目によって構成されるものである。より具体的には、前記縫目は、裁断された別個の生地を縫合することで形成されるものである。このようにすれば、生地を縫合することで容易に線状部位を設けることができる。
【0060】
即ち、ウェア1は、図8に示すようなパターンに基づいて作製されるものであり、それぞれ独立した別個の生地片によって形成される。具体的には、ウェア1は、前身頃の胴部分を構成する前胴部生地20と、後身頃の胴部を構成する後胴部生地21と、袖の先端となる袖先部生地22と、袖から肩にかけての部分となる袖肩部生地23と、袖と胴部分とを接続し腋の下に位置する腋部生地24とで構成される。
【0061】
また、前記前胴部生地20、後胴部生地21、袖先部生地22及び袖肩部生地23には、伸縮性を有する素材としてよこ編ニットを用い、伸縮率の小さい方である素材の縦方向が上下方向に沿うように配置した。より具体的には、前胴部生地20及び後胴部生地21は、前記素材の縦方向が上下方向と平行であり、前記袖先部生地22及び袖肩部生地23は、前記素材の縦方向が上下方向に対して約7°傾斜する。一方、腋部生地24には、前記よこ編ニットよりも伸縮性の大きい素材としてトリコットを用い、伸縮率の大きい方である素材の横方向が上下方向に沿うように配置した。より具体的には、腋部生地24は、前記素材の縦方向が上下方向に対して約7°傾斜する。
【0062】
以上のように、本実施形態に係るウェア1によれば、着用者がだぶつき感や突っ張り感若しくはひきつれ感を感じることなく着用でき且つスムーズな動作を行うことができる。
【0063】
即ち、本実施形態に係るウェア1は、側部領域4に上側線状部位S1及び下側線状部位S2が設けられ、上部領域10に内側線状部位S3及び外側線状部位S4が設けられるので、生地が伸張する側部領域4若しくは上部領域10が各線状部位S1、S2若しくはS3、S4によって複数の部分に分断された状態となり、側部領域4若しくは上部領域10が全体としてではなく、複数の部分ごとに伸張することとなる。従って、生地の伸張に伴ってその直交方向から生地が手繰り寄せられる量を小さく抑えることができる。
【0064】
また、本実施形態に係るウェア1は、生地の伸張方向に沿っては伸縮性の小さい線状部位Sを配置しないように考慮されているので、生地の伸張が不必要に制限されることがない。寧ろ、前記所定の方向に沿って線状部位Sが設けられると、該線状部位Sが存在しない場合と同等以上に生地を伸張方向に伸張させやすくすることができる。従って、例えばウェア1の下部をパンツの中に入れた状態で腕を動かす動作を行った場合に、ウェア1がずれ上がる量を小さく抑えることができる。また、余分な生地の量を少なく抑えることができるため、ウェア1の側方端縁8の長さを短く設定することができ、だぶつき感を軽減することができる。
【0065】
さらに、前記上側線状部位S1及び下側線状部位S2が形成される腋部近傍部分は、腕を動かす動作の際に着用者の皮膚が大きく伸張する背面の体側から腋にかけての上下方向に沿う領域の中でも特に皮膚の伸張が大きい領域である腋の下の領域に相当するため、前記腋部近傍部分に位置する生地は、皮膚の伸張に伴って大きく伸張することとなる。従って、かかる生地の伸張が特に大きい部分が線状部位S1、S2によって複数の部分に分断された状態となるので、生地の伸張に伴ってその直交方向から生地が手繰り寄せられる量を小さく抑えることができる。
【0066】
しかも、前記各線状部位S1、S2に挟まれる部分には上下方向の伸縮性が大きい前記腋部生地24が配置されるため、大きな皮膚の伸張に対して生地を好適に追従させることができる。さらに、該上側線状部位S1及び下側線状部位S2は、近接して設けられるため、上下方向の伸縮性が大きく構成されることにより前記二つの線状部位S1、S2に挟まれる部分に配置される腋部生地24によって周囲の生地が手繰り寄せられる量が大きくなるという弊害を小さく抑えることができる。このように構成されることにより、突っ張り感若しくはひきつれ感が発生するのをさらに効果的に軽減又は抑制することができる。
【0067】
上記構成からなるウェアの効果を検証すべく、以下のような実験を実施した。
【0068】
実験としては、図9に示すように、被験者に腕を動かす動作を行わせ、ウェアを着用した場合及び上半身裸の場合について、生地(上半身裸の場合は皮膚)の伸縮率の変化(測定1)及びウェアのずれ上がりの量(測定2)を測定した。動作としては、被験者に腕を垂下させた状態から真上まで真横に腕を上げる動作(肩外転動作)を行わせた。ウェアとしては、従来の半袖Tシャツタイプのウェア、及び、本実施形態に係るウェアの二種類のウェアを用意した。ここで、本実施形態に係るウェアを着用した場合を実施例(図9(A))、上半身裸の場合を比較例1(図9(B))、従来のウェアを着用した場合を比較例2(図9(C))とする。なお、比較例2の従来のウェアは、図10(A)に示すような外観を有し、図10(B)に示すようなパターンに基づいて作製され、前胴部生地120と、後胴部生地121と、袖部生地122とで構成される。
【0069】
“測定1”
生地(比較例1では皮膚)の伸縮率の変化の測定においては、背面における腰近傍部位から腋部(比較例1では腋)近傍を通り袖部上端縁(比較例1では上腕上部)にかけての領域を対象とし、該領域内で曲線を設定した上で曲線上に8箇所のポイントをほぼ等間隔に設けた。そして、腕の挙上角度ごとの各ポイント間の7つの線分(D1〜D7)の伸縮率(伸張時の線分の長さ/元の長さ)を計測した。(なお、元の長さとは、ウェアに関する実施例及び比較例2においては、生地を何ら伸張させない非着用状態での長さである。)その結果のうち、D2,D3,D4,D6の変化と腕の挙上角度との関係を図11(A)〜(D)に示す。実施例は太実線、比較例1は破線、比較例2は細実線で示す。また、各グラフでは縦軸が伸縮率であり、正の値は生地(比較例1では皮膚)が伸張していることを示す。一方、負の値は生地(比較例1では皮膚)が収縮していることを示すが、ウェアの場合には、生地の収縮に限界があるので、一定値以上では、生地が重複していること、即ちだぶつきが発生していることを示す。
【0070】
まず、腕の付け根から上方に位置するD2,D3,D4を見ると、腕を上げた際(挙上角度150°程度)に、本実施形態に係るウェアである実施例では、従来のウェアである比較例2に比べて上半身裸の場合である比較例1に近い値を示している。これは、実施例のウェアが動作に対する追従性に優れたものであることを示している。
【0071】
また、袖の付け根に相当するD4を見ると、比較例2では、腕を下ろした状態(挙上角度0〜50°程度)で大きな負の値を示しており、生地が大きくだぶついているのが分かる。一方、実施例では、上半身裸の場合である比較例1に近い値を示しており、だぶつきが抑制されているのが分かる。さらに、体側に相当する側部領域の腋部近傍に位置するD6を見ると、腕を上げた際(挙上角度150°程度)に、実施例では比較例2よりも大きく伸張している。
【0072】
“測定2”
ウェアのずれ上がりの量の測定においては、ウェアの下部をパンツの中に入れた状態としてパンツの上端位置をウェアにマークMを付けておき、前記動作の後の該マークMの位置とパンツの上端位置との距離を測定した。その結果、従来のウェアである比較例2では、ずれ上がりは8cmであったのに対し、本実施形態に係るウェアである実施例では、ずれ上がりは4cmであり、本実施形態に係るウェアの方がずれ上がりが小さいことが分かった。なお、参考であるが、被験者の身長は172cmであり、腕を上げる動作を行った際に、前記ポイントのうち最も上のポイント及び最も下のポイント間の距離の変化は15cmであった。
【0073】
なお、本発明に係るウェアは、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0074】
例えば、上記実施形態に係るウェアは、前記幅方向を向く線状部位は側部領域の幅に相当する長さを有するものとして説明したが、これに限定されるものではなく、前記上部領域には入り込まない限りにおいて、前記側部領域からはみ出す態様で(即ち、側部領域の幅よりも長く)形成されるものであってもよい。従って、後身頃における左右の体側部間(例えば、腰近傍部位)に全幅に亘って形成されるものであってもよい。このようにしても、幅方向を向く線状部位は上部領域には設けられないので、腕を動かす動作を行った際に着用感を阻害することはない。これに関しては、前記上下方向を向く線状部位についても同様であり、前記側部領域には設けられない限りにおいて、上下方向の全長に亘って形成されるものであってもよい。また、袖部に設けられる線状部位は、上端縁から下端縁に至るものでなくてもよい。
【0075】
前記側部領域には線状部位が腋部近傍に形成されるものとして説明したが、これに限定されるものではなく、例えば、腋部近傍よりも下方の位置などに設けられるものであってもよい。また、設けられる個数もこれに限定されるものではない。さらに、上部領域に設けられる線状部位についても同様である。
【0076】
また、上記実施形態においては、前身頃と後身頃とが別の生地によって構成され縫合されるものであったが、より理想的には、前身頃と後身頃とが連続し、体側部の端縁に縫目が存在しないものであってもよい。
【0077】
さらに、前記線状部位は、伸縮性が隣接する部位よりも小さくなるように構成されたものであれば縫目によって構成されるものに限られず、例えば、生地に対して伸縮性を低下させるような部材(生地や樹脂等)を接合する等の手段により設けるものであってもよい。また、生地に対して樹脂等を含浸させるものであってもよい。そして、前記縫目は、それぞれ独立した別個の生地を縫合することでできるものに限らず、単一の生地同士を寄せて縫合することでできるものであってもよく、単に生地に対して縫目(ステッチ)を入れるものであっても構わない。
【0078】
そして、前記線状部位は、一端から他端にかけて連続するものに限られず、同一線上に並ぶ不連続な複数の線状部位片によって一つの線状部位が構成されるものであってもよい。
【0079】
また、上記実施形態においては、ウェアは半袖のTシャツタイプの上半身ウェアに基づいて説明したが、これに限定されるものではなく、長袖のものであってもよく、また、上述のような上半身部を有し、パンツと一体化されたものであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】皮膚の伸張の態様を示す図であって、(A)は腕を上げる動作の場合を示し、(B)は腕を前に曲げる動作の場合を示す。
【図2】生地の伸張の態様を示す図であって、(A)は縫目を設けない場合を示し、(B)は生地の長手方向に沿って縫目を設ける場合を示し、(C)は生地の幅方向に沿って縫目を設ける場合を示す。
【図3】生地の伸張の態様を検証する実験において用いられた試料を示し、(A)は縫目を設けない試料を示し、(B)は生地の長手方向に沿って縫目を設けた試料を示し、(C)〜(F)はそれぞれ1本,2本,3本,5本の縫目を生地の幅方向に沿って縫目を設けた生地片を示す。
【図4】上記生地片の長手方向の伸張率を示すグラフであり、(A)はよこ編ニットの場合、(B)はトリコットの場合を示す。
【図5】上記生地片を伸縮率の小さい縦方向に20%伸張させたときの幅保持率及び荷重を示すグラフであり、(A)はよこ編ニットの場合、(B)はトリコットの場合を示す。
【図6】上記生地片を伸縮率の大きい横方向に20%伸張させたときの幅保持率及び荷重を示すグラフであり、(A)はよこ編ニットの場合、(B)はトリコットの場合を示す。
【図7】本発明の一実施形態に係るウェアの後身頃を示す図であって、(A)は外観図を示し、(B)は、腕を動かす動作の際に張力が主に作用する方向をウェアに重ね合わせた図を示す。
【図8】同実施形態に係るウェアのパターン図を示す。
【図9】同実施形態に係るウェアの効果を検証する実験の様子を示し、(A)は同実施形態に係るウェアの場合を示し、(B)は、従来のウェアの場合を示し、(C)は、上半身裸の場合を示す。
【図10】上記検証実験において用いられた従来のウェアを示す図であって、(A)は後身頃の外観図を示し、(B)はパターン図を示す。
【図11】同実施形態に係るウェアの効果を検証する実験の結果を示すグラフであって、(A)〜(D)はそれぞれD2,D3,D4,D6を示す。
【符号の説明】
【0081】
1…ウェア、2…体側部、3…腋部、4…側部領域、5…体側部の端縁、6…袖部、7…袖部の下端縁、8…側方端縁、9…肩部、10…上部領域、11…袖部の上端縁、12…肩部の端縁、13…上方端縁、20…前胴部生地、21…後胴部生地、22…袖先部生地、23…袖肩部生地、24…腋部生地、A…第一主伸張方向、B…第二主伸張方向、C…主張力方向、D…主張力方向、S…線状部位、S1…上側線状部位、S2…下側線状部位、S3…内側線状部位、S4…外側線状部位、SL…縫目、X…幅方向中心線
【特許請求の範囲】
【請求項1】
伸縮性を有する生地を用いて構成されるウェアであって、
体側部から背面幅方向の中心に向かって所定の幅を有し且つ腋部にかけて上下方向に沿って延びる後身頃の側部領域に、幅方向に沿う所定の方向の伸縮性が隣接する部位よりも小さい線状部位が該所定の方向に沿って設けられることを特徴とするウェア。
【請求項2】
後身頃における袖部から肩部にかけての上部領域に、上下方向に沿う所定の方向の伸縮性が隣接する部位よりも小さい線状部位が該所定の方向に沿って複数設けられることを特徴とする請求項1に記載のウェア。
【請求項3】
前記上部領域の線状部位の少なくとも一つは、前記袖部の上端縁から下端縁に至るように設けられることを特徴とする請求項2に記載のウェア。
【請求項4】
前記側部領域には、線状部位が腋部近傍に二つ形成され、該二つの線状部位に挟まれる部分は、隣接する部分よりも上下方向の伸縮性が大きく設定されることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のウェア。
【請求項5】
前記側部領域の線状部位と前記上部領域の線状部位の少なくとも一つとは、接続して形成されることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載のウェア。
【請求項6】
前記線状部位は、生地を縫合してできる縫目によって構成されることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載のウェア。
【請求項7】
伸縮性を有する生地を用いて構成されるウェアであって、
体側部から袖部にかけての側方端縁の所定箇所を一端部として、該所定箇所における側方端縁の接線と直交する所定の方向に沿って、該所定の方向の伸縮性が隣接する部位よりも小さい線状部位が後身頃に複数設けられることを特徴とするウェア。
【請求項8】
袖部から肩部にかけての上方端縁の所定箇所を一端部として、該所定箇所における上方端縁の接線と直交する所定の方向に沿って、該所定の方向の伸縮性が隣接する部位よりも小さい線状部位が後身頃に複数設けられることを特徴とする請求項7に記載のウェア。
【請求項1】
伸縮性を有する生地を用いて構成されるウェアであって、
体側部から背面幅方向の中心に向かって所定の幅を有し且つ腋部にかけて上下方向に沿って延びる後身頃の側部領域に、幅方向に沿う所定の方向の伸縮性が隣接する部位よりも小さい線状部位が該所定の方向に沿って設けられることを特徴とするウェア。
【請求項2】
後身頃における袖部から肩部にかけての上部領域に、上下方向に沿う所定の方向の伸縮性が隣接する部位よりも小さい線状部位が該所定の方向に沿って複数設けられることを特徴とする請求項1に記載のウェア。
【請求項3】
前記上部領域の線状部位の少なくとも一つは、前記袖部の上端縁から下端縁に至るように設けられることを特徴とする請求項2に記載のウェア。
【請求項4】
前記側部領域には、線状部位が腋部近傍に二つ形成され、該二つの線状部位に挟まれる部分は、隣接する部分よりも上下方向の伸縮性が大きく設定されることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のウェア。
【請求項5】
前記側部領域の線状部位と前記上部領域の線状部位の少なくとも一つとは、接続して形成されることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載のウェア。
【請求項6】
前記線状部位は、生地を縫合してできる縫目によって構成されることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載のウェア。
【請求項7】
伸縮性を有する生地を用いて構成されるウェアであって、
体側部から袖部にかけての側方端縁の所定箇所を一端部として、該所定箇所における側方端縁の接線と直交する所定の方向に沿って、該所定の方向の伸縮性が隣接する部位よりも小さい線状部位が後身頃に複数設けられることを特徴とするウェア。
【請求項8】
袖部から肩部にかけての上方端縁の所定箇所を一端部として、該所定箇所における上方端縁の接線と直交する所定の方向に沿って、該所定の方向の伸縮性が隣接する部位よりも小さい線状部位が後身頃に複数設けられることを特徴とする請求項7に記載のウェア。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2008−81900(P2008−81900A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−265619(P2006−265619)
【出願日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【出願人】(000000310)株式会社アシックス (57)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【出願人】(000000310)株式会社アシックス (57)
【Fターム(参考)】
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