説明

ウェットシート及びそれを用いたウェットティッシュ又はウェットタオル(おしぼり)

【課題】 抗菌、除菌及び脱臭並びにウィルス、菌及びVOC分解機能を簡単に清掃又は清拭対象の物品または人に付与することができるウェットシートを提供すること。
【解決手段】 ウェットシート基材と、該ウェットシート基材に含浸された光触媒体分散液とを備え、
前記光触媒体分散液は、光触媒酸化チタン粒子と光触媒酸化タングステン粒子とが分散媒中に分散されたもの、若しくは光触媒酸化チタン粒子が分散媒中に分散されたもの、又は光触媒酸化タングステン粒子が分散媒中に分散されたものであることを特徴とするウェットシート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、清掃用ウェットシートや清拭用ウェットシート等のウェットシート及びそれを用いたウェットティッシュ又はウェットタオル(おしぼり)に関する。
【背景技術】
【0002】
ウェットシートには、清掃に用いられるウェットシート(以下、清掃用ウェットシート)と、人の肌を拭くことを目的としたウェットシート(以下、清拭用ウェットシート)とがある。清掃用ウェットシートは、ウェット雑巾とも称されるものであり、使い捨ての利便性及び清潔性が消費者に広く受け入れられ、雑巾代わりに用いられたり、モップの柄の先端に取り付けられて用いられたりしている。清拭用ウェットシートは、一般的に、ウェットティッシュとも称され、ティッシュペーパーの利便性と、濡れおしぼりや濡れタオルの機能とを併せ持っており、近年では、戸外での洗顔や汗拭き、乳幼児のおむつ交換時に身体を清潔にする対象を拭くことができる点では共通するが、拭く対象が異なるため、ウェットシート基材に含浸される成分等が異なっている。
【0003】
従来のウェットシートとしては、例えば、銀を固定したアクリル繊維NX−85がある(例えば、特許文献1参照)。特許文献1には、該アクリル繊維NX−85は、銀を溶出しないように固定して光触媒効果により活性酵素を発生させ、これにより抗菌効果を発揮できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−112917号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のウェットシートには、抗菌、除菌及び脱臭効果が低く、またウィルス、菌、VOC(揮発性有機化合物)分解についての効果が無いという問題があった。特に、ウィルスは、抗生物質が効かない点で菌とは異なっており、風邪、インフルエンザ、食中毒、下痢症等の感染症の病原となることから、特に基礎疾患者や高齢者や育児中の主婦等から恐れられており、簡便な方法で効率よく且つ効果的にウィルス除去を行うことができる手段の登場が待ち望まれている。
【0006】
従来、ウィルスを除去する手段としては、例えば、ウィルス分解及び除去機能を備えた空気清浄機、光触媒粒子含有ミストスプレー、光触媒コーティング等が存在する。
しかし、空気清浄機は、室内の空気に対して作用するが、物品に対して直接作用させるものではない。基礎疾患者や高齢者や育児中の主婦等にとって、目に見えない感染症の病原ウィルスは非常に恐ろしい存在であり、ウィルスが表面に付着していると疑われる物品がある場合には、物品表面に付着したウィルス除去及び不安払拭等の観点から、空気洗浄機では不充分であり、直接ウィルス除去の処置を行いたいと感じる傾向がある。
【0007】
また、光触媒粒子含有ミストスプレーは、対象物品に対して噴霧すると、物品に液体が多量に付着したり、周囲にミストが飛散したりするため、使用し得る状況が限られる。例えば、バス、電車、エレベータ等の密閉された公共空間では、風邪やインフルエンザ等の感染が発生し易いが、このような空間でミストスプレーを噴霧することは困難であるし、ハンカチやティッシュ等にミストを噴き付けて使用することも利便性に欠け、現実的なウィルス除去の手段とは言い難い。更に、液体が入ったボトルは、持ち運びに不便であるという問題もあった。
【0008】
また、家具等の物品に光触媒コーティングを施す手段は、手間がかかるため、例えば、新たに家具を購入した際に採用し難いという問題があった。また、小物や幼児の玩具等に対しては、光触媒コーティングを施す手段の採用は現実的ではない。更に光触媒コーティングでは、触媒の更新が困難であるため、触媒劣化の問題が生じるおそれがある。
【0009】
特許文献1には、光触媒効果により抗菌効果を発揮するアクリル繊維をウェットティッシュとして用いることが記載されているが、ウェットティッシュは、人の肌を拭くことを目的としたものであり、特許文献1における抗菌効果は、ウェットティッシュ容器内での菌やかびの繁殖を防止するためのものである。特許文献1には、光触媒粒子を含む清掃用ウェットシートは開示されておらず、ウィルス除去機能を有する清掃用ウェットシートも開示されていない。
【0010】
本発明は、対象の人または物品を拭く際に、抗菌、除菌及び脱臭並びにウィルス、菌及びVOC分解機能を上記物品に簡単に付与することができるウェットシートを提供することを第1の目的とする。また、前記ウェットシートを用いたウェットティッシュ又はウェットタオル(おしぼり)を提供することを第2の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のウェットシートは、ウェットシート基材と、該ウェットシート基材に含浸された光触媒体分散液とを備え、
前記光触媒体分散液は、光触媒酸化チタン粒子と光触媒酸化タングステン粒子とが分散媒中に分散されたもの、若しくは光触媒酸化チタン粒子が分散媒中に分散されたもの、又は光触媒酸化タングステン粒子が分散媒中に分散されたものであることを特徴とする。
【0012】
本発明のウェットシートによれば、対象の人または物品を拭いたときに、ウェットシートから放出された光触媒体分散液が物品の表面に塗布され、分散剤が揮発することにより、人または物品の表面に光触媒粒子が付着する。光触媒粒子は、可視光線又は紫外線等の光が照射されることにより、抗菌、除菌及び脱臭並びにウィルス、菌及びVOC分解能を速やかに発揮する。従って、本発明によれば、屋外であっても、公共施設やビルや旅館等のいす・手すり・テーブル・便座・便器・洗面台・浴室等の屋内であっても、抗菌、除菌及び脱臭並びにウィルス、菌及びVOC分解を簡便に行うことができる。
ウィルスが表面に付着していると疑われる人または物品があれば、その物品をウェットシートで拭くことにより、人または物品から直接ウィルスを除去することができ、更に、基礎疾患者や高齢者や育児中の主婦等のようにウィルスに対して過敏な人達にとっては、そのような拭き取り作業を行うことで、安心感を得ることができる副次的効果も得られる。
また、ウェットシートによる拭き取り作業は、簡便且つ容易で人目を引かないので、バスや電車で吊革等を拭いたり、エレベータでボタンを拭いたりすることも、さり気無く行うことができ、更に幼児が遊んでいるときに手に取った玩具を、さっと拭くこともできる。このような効果は、ミストスプレーによって得ることが困難な効果である。
更に、新たに購入した家具、小物、幼児の玩具等についても、ウェットシートで拭くことでウィルス除去を行うことができる。また、ウェットシートにより光触媒粒子を人または物品表面に付与し得るため、触媒劣化の懸念が不要となる。
本発明のウェットシートは、従来行われることの少なかった態様でのウィルス除去を容易にするものであり、ウィルス除去の範囲を拡大するものとして、その意義は非常に大きい。
【発明の効果】
【0013】
本発明のウェットシートによれば、抗菌、除菌及び脱臭並びにウィルス、菌及びVOC分解機能を上記人または物品に簡単に付与することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のウェットシートは、ウェットシート基材と、該ウェットシート基材に含浸された光触媒体分散液とを備え、前記光触媒体分散液は、光触媒酸化チタン粒子及び光触媒酸化タングステン粒子が分散媒中に分散されたものである。上記ウェットシートでは、清掃又は清拭対象から汚れを拭き取ると同時に、洗浄後に抗菌、除菌、消毒及び脱臭効果並びにウィルス、菌及びVOC分解性能をその清掃又は清拭対象に付与するために、光触媒体分散液が予めウェットシート基材に含浸されている。
【0015】
(ウェットシートの用途)
本発明のウェットシートは、清掃用ウェットシートであることが好ましい。前清掃用ウェットシートは、人体に接触する用途を有する物品の清掃に用いられることが好ましい。そのような物品としては、例えば、イス、手すり、テーブル、便座、便器、洗面台、浴室内、バスや電車等の吊革、エレベータ等の操作ボタン、玩具、衣類等が挙げられる。また、天井材、タイル、ガラス、壁紙、床材等の建築資材、自動車内装材、カーテン等であってもよい。自動車内装材としては、例えば、自動車のハンドル、自動車用インストルメントパネル、自動車用シート、自動車用天井材等が挙げられる。
対象物品の材質としては、特に限定されず、例えば、プラスチック、金属、セラミックス、木材、コンクリート、紙など、あらゆる材料からなる製品を対象にすることができる。
【0016】
本発明のウェットシートにより物品に付着する光触媒は、太陽光は勿論のこと、蛍光灯、LED灯、白色灯、ナトリウムランプのような可視光源からの光照射により高い触媒作用を示し、ウィルス、菌、VOC、窒素酸化物を分解する。例えば、この光触媒機能製品を、照明設備を備えた屋内住環境に設置すれば、屋内照明からの光照射によって、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド等のアルデヒド類、メルカプタン類、ケトン類、トルエン等の芳香族有機化合物類、アンモニアのような、環境中の揮発性有機物や悪臭物質を簡易に分解、除去することができる。また、各種ウィルスや、黄色ブドウ球菌や大腸菌等の病原菌を死滅させることも可能である。
【0017】
(ウェットシート基材)
ウェットシート基材は、未使用時に光触媒体分散液を含浸し、使用時に光触媒体分散液を放出することができるものであれば、特に限定されない。
上記ウェットシート基材としては、例えば、繊維シート材、フォーム材等が挙げられる。
繊維シート材としては、例えば、ガーゼ等の織布、紙又は不織布などの繊維集合体が挙げられる。不織布としては、例えば、エアレイド不織布、ニードルパンチ不織布などが挙げられる。繊維シートに用いられる繊維としては、例えば、天然繊維及び化学繊維の何れか一方又は両方の繊維を使用することができる。天然繊維としては、木材パルプ等が挙げられる。化学繊維としては、再生繊維であるレーヨンやアセテート、合成繊維であるポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系繊維、ポリエステル系繊維、ナイロン等のポリアミド系繊維、ポリアクリロニトリル系繊維等が挙げられる。
フォーム材としては、例えば、発泡体、多孔質体等が挙げられ、例えば、ポリウレタンフォーム、ポリオレフィンフォーム等が用いられる。
【0018】
本発明のウェットシートは、1枚のウェットシート基材を備えるものに限定されず、重ね合わされた複数枚のウェットシート基材を備えるものであってもよい。重ね合わされた複数枚のウェットシート基材を備える場合、各ウェットシート基材は、同じものであってもよく、異なるものであってもよい。
異なる複数枚のウェットシート基材を重ね合わせて用いる場合、例えば、光触媒体分散液の徐放性に優れたウェットシート基材を最外層に配し、光触媒体分散液の含浸可能量の多いウェットシート基材を内層に配することができる。このようなウェットシートであれば、多くの光触媒体分散液を保持し、使用時に徐々に光触媒体分散液を放出することができるので、1枚のウェットシートあたりの清掃面積を広げることができる。
【0019】
(光触媒体分散液)
前記光触媒体分散液は、光触媒酸化チタン粒子(以下、単に酸化チタン粒子と称することもある)及び光触媒酸化タングステン粒子(以下、単に酸化タングステン粒子と称することもある)が分散媒中に分散されたもの、若しくは光触媒酸化チタン粒子が分散媒中に分散されたもの、又は光触媒酸化タングステン粒子が分散媒中に分散されたものである。
上記光触媒体分散液を構成する酸化チタン粒子は、光触媒作用を示す粒子状の酸化チタンであれば、特に制限はされないが、例えば、メタチタン酸粒子、結晶型がアナターゼ型、ブルッカイト型、ルチル型などである二酸化チタン〔TiO2〕粒子等が挙げられる。なお、酸化チタン粒子は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0020】
メタチタン酸粒子は、例えば、(1−i)硫酸チタニルの水溶液を加熱して加水分解する方法により得ることができる。
二酸化チタン粒子は、例えば、(1−ii)硫酸チタニル又は塩化チタンの水溶液を加熱することなく、これに塩基を加えることにより沈殿物を得、得られた沈殿物を焼成する方法、(1−iii)チタンアルコキシドに水、酸の水溶液又は塩基の水溶液を加えて沈殿物を得、得られた沈殿物を焼成する方法、(1−iv)メタチタン酸を焼成する方法、などによって得ることができる。これらの方法で得られる二酸化チタン粒子は、焼成する際の焼成温度や焼成時間を調整することにより、アナターゼ型、ブルッカイト型又はルチル型など、所望の結晶型にすることができる。
【0021】
酸化チタン粒子の粒子径は、特に制限されないが、光触媒作用の観点からは、平均分散粒子径で、通常20〜150nm、好ましくは40〜100nmである。
酸化チタン粒子のBET比表面積は、特に制限されないが、光触媒作用の観点からは、通常100〜500m2/g、好ましくは300〜400m2/gである。
【0022】
上記光触媒体分散液が酸化チタン粒子と酸化タングステン粒子とを含有する場合、前記光触媒体分散液を構成する酸化タングステン粒子は、光触媒作用を示す粒子状の酸化タングステンであれば、特に制限はされないが、例えば、三酸化タングステン〔WO3〕粒子等が挙げられる。なお、酸化タングステン粒子は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
三酸化タングステン粒子は、例えば、(2−i)タングステン酸塩の水溶液に酸を加えることにより、沈殿物としてタングステン酸を得、得られたタングステン酸を焼成する方法、(2−ii)メタタングステン酸アンモニウム、パラタングステン酸アンモニウムを加熱することにより熱分解する方法、などによって得ることができる。
【0023】
酸化タングステン粒子の粒子径は、特に制限されないが、光触媒作用の観点からは、平均分散粒子径で、通常50〜200nm、好ましくは80〜130nmである。
酸化タングステン粒子のBET比表面積は、特に制限されないが、光触媒作用の観点からは、通常5〜100m2/g、好ましくは20〜50m2/gである。
【0024】
前記光触媒体分散液において、前記酸化チタン粒子と前記酸化タングステン粒子との比率(酸化チタン粒子:酸化タングステン粒子)は、質量比で、通常4:1〜1:8、好ましくは2:3〜3:2である。
【0025】
前記光触媒体分散液においては、光触媒酸化チタン粒子及び光触媒酸化タングステン粒子は表面が互いに同じ極性に帯電しており、具体的には、粒子表面が共にプラスに帯電しているか、又は粒子表面が共にマイナスに帯電している。これにより、分散液中の酸化チタン粒子と酸化タングステン粒子との凝集が抑制され、固液分離を起こしにくくなる。
【0026】
一般に、上述した(1−i)の方法により得たメタチタン酸粒子や、(1−ii)〜(1−iv)の方法により得た二酸化チタン粒子は、その表面がプラスに帯電している。これに対して、上述した(2−i)や(2−ii)の方法により得た三酸化タングステン粒子は、その表面がマイナスに帯電している。このため、表面がプラスに帯電している上述の酸化チタン粒子と、表面がマイナスに帯電している上述の酸化タングステン粒子とを用いる場合は、例えば、酸化チタン粒子の表面をマイナスに帯電させてから、酸化タングステン粒子と混合するようにすればよい。
【0027】
表面がプラスに帯電した酸化チタン粒子の表面をマイナスに帯電させるには、該酸化チタン粒子を、あらかじめ、その表面をマイナスに帯電させうる表面処理剤を後述する分散媒に溶解させた溶液中に分散させればよい。これにより、溶液中に溶解した表面処理剤が酸化チタン粒子の表面に吸着し、粒子表面をマイナスに帯電させることができる。
【0028】
粒子表面をマイナスに帯電させうる表面処理剤としては、例えば、ジカルボン酸、トリカルボン酸などのような多価カルボン酸、リン酸などが挙げられる。具体的には、ジカルボン酸としては例えば蓚酸などが、トリカルボン酸としては例えばクエン酸などが挙げられる。また、上記多価カルボン酸やリン酸としては、遊離酸を用いてもよいし、塩を用いてもよい。塩としては、例えばアンモニウム塩などが挙げられる。かかる表面処理剤としては、特に、蓚酸、蓚酸アンモニウムなどが好ましい。
前記表面処理剤の使用量は、TiO2換算の光触媒酸化チタン粒子に対して、表面を充分に帯電させる点で、通常0.001モル倍以上、好ましくは0.02モル倍以上であり、経済性の点で、通常0.5モル倍以下、好ましくは0.3モル倍以下である。
【0029】
酸化チタン粒子及び酸化タングステン粒子の表面の帯電は、それぞれ、溶媒中に分散させたときのゼータ電位により測定することができる。ゼータ電位の測定に用いられる溶媒としては、例えば、塩酸を加えて水素イオン濃度をpH3.0とした塩化ナトリウム水溶液(塩化ナトリウム濃度0.01モル/L)が用いられる。この溶媒の使用量は、酸化チタン粒子又は酸化タングステン粒子に対して、通常10000質量倍〜1000000質量倍である。
【0030】
前記光触媒体分散液においては、分散媒として、炭素数が1〜4の揮発性水溶性有機化合物を、光触媒体分散液100質量部に対して5〜50質量部、好ましくは8〜35質量部含有する。これにより、光触媒体分散液を塗布して形成される塗膜の光触媒活性を向上させることができる。炭素数が1〜4の揮発性水溶性有機化合物の含有量が上記範囲よりも少ないと、光触媒活性の向上効果が不充分となり、一方、上記範囲よりも多いと、塗布時に残留する有機物が多くなり、充分な光触媒活性が得られない。
炭素数が1〜4の揮発性水溶性有機化合物としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノールなどのアルコール化合物、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン化合物等が挙げられ、これらの中でも特にアルコール化合物が好ましい。なお、揮発性水溶性有機化合物は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0031】
前記光触媒体分散液を構成する分散媒は、少なくとも上述した特定量の揮発性水溶性有機化合物を含有するものであれば、特に制限はなく、上記揮発性水溶性有機化合物を単独で用いてもよいし、その他の有機溶媒や水を併用してもよいが、通常、水と上記揮発性水溶性有機化合物とからなる混合溶媒が用いられる。このとき、水と上記揮発性水溶性有機化合物との混合比率については、揮発性水溶性有機化合物の量が上記範囲となる限り、適宜設定すればよい。
【0032】
前記光触媒体分散液においては、分散媒の含有量は、酸化チタン粒子及び酸化タングステン粒子の合計量に対して、通常5〜200質量倍、好ましくは10〜100質量倍である。分散媒が5質量倍未満であると、酸化チタン粒子及び酸化タングステン粒子が沈降し易くなり、一方、200質量倍を超えると、容積効率の点で不利となるので、いずれも好ましくない。
【0033】
また、光触媒体分散液は、電子吸引性物質又はその前駆体をも含有していてもよい。電子吸引性物質とは、光触媒体(すなわち、酸化チタン粒子及び酸化タングステン粒子)の表面に担持されて電子吸引性を発揮しうる化合物であり、電子吸引性物質の前駆体とは、光触媒体の表面で電子吸引性物質に遷移しうる化合物(例えば、光照射により電子吸引性物質に還元されうる化合物)である。電子吸引性物質が光触媒体の表面に担持されて存在すると、光の照射により伝導帯に励起された電子と価電子帯に生成した正孔との再結合が抑制され、光触媒作用をより高めることができる。
【0034】
前記電子吸引性物質又はその前駆体は、Cu、Pt、Au、Pd、Ag、Fe、Nb、Ru、Ir、Rh及びCoからなる群より選ばれる1種以上の金属原子を含有してなるものであることが好ましい。より好ましくは、Cu、Pt、Au及びPdのうちの1種以上の金属原子を含有してなるものである。例えば、上記電子吸引性物質としては、上記金属原子からなる金属、もしくは、これらの金属の酸化物や水酸化物等が挙げられ、電子吸引性物質の前駆体としては、上記金属原子からなる金属の硝酸塩、硫酸塩、ハロゲン化物、有機酸塩、炭酸塩、リン酸塩等が挙げられる。
【0035】
電子吸引性物質の好ましい具体例としては、Cu、Pt、Au、Pd等の金属が挙げられる。また、電子吸引性物質の前駆体の好ましい具体例としては、Cuを含む前駆体として、硝酸銅〔Cu(NO3)2〕、硫酸銅〔Cu(SO4)2〕、塩化銅〔CuCl2、CuCl〕、臭化銅〔CuBr2、CuBr〕、沃化銅〔CuI〕、沃素酸銅〔CuI26〕、塩化アンモニウム銅〔Cu(NH4)2Cl4〕、オキシ塩化銅〔Cu2Cl(OH)3〕、酢酸銅〔CH3COOCu、(CH3COO)2Cu〕、蟻酸銅〔(HCOO)2Cu〕、炭酸銅〔CuCO3)、蓚酸銅〔CuC24〕、クエン酸銅〔Cu2647〕、リン酸銅〔CuPO4〕等が;Ptを含む前駆体として、塩化白金〔PtCl2、PtCl4〕、臭化白金〔PtBr2、PtBr4〕、沃化白金〔PtI2、PtI4〕、塩化白金カリウム〔K2(PtCl4)〕、ヘキサクロロ白金酸〔H2PtCl6〕、亜硫酸白金〔H3Pt(SO3)2OH〕、酸化白金〔PtO2〕、塩化テトラアンミン白金〔Pt(NH3)4Cl2〕、炭酸水素テトラアンミン白金〔C21446Pt〕、テトラアンミン白金リン酸水素〔Pt(NH3)4HPO4〕、水酸化テトラアンミン白金〔Pt(NH3)4(OH)2〕、硝酸テトラアンミン白金〔Pt(NO3)2(NH3)4〕、テトラアンミン白金テトラクロロ白金〔(Pt(NH3)4)(PtCl4)〕等が;Auを含む前駆体として、塩化金〔AuCl〕、臭化金〔AuBr〕、沃化金〔AuI〕、水酸化金〔Au(OH)2〕、テトラクロロ金酸〔HAuCl4〕、テトラクロロ金酸カリウム〔KAuCl4〕、テトラブロモ金酸カリウム〔KAuBr4〕、酸化金〔Au23〕等が;Pdを含む前駆体として、例えば、酢酸パラジウム〔(CH3COO)2Pd〕、塩化パラジウム〔PdCl2〕、臭化パラジウム〔PdBr2〕、沃化パラジウム〔PdI2〕、水酸化パラジウム〔Pd(OH)2〕、硝酸パラジウム〔Pd(NO3)2〕、酸化パラジウム〔PdO〕、硫酸パラジウム〔PdSO4〕、テトラクロロパラジウム酸カリウム〔K2(PdCl4)〕、テトラブロモパラジウム酸カリウム〔K2(PdBr4)〕等が;それぞれ挙げられる。なお、電子吸引性物質又はその前駆体は、それぞれ単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。また、1種以上の電子吸引性物質と1種以上の前駆体とを併用してもよいことは勿論である。
【0036】
上記電子吸引性物質又はその前駆体をも含有させる場合、その含有量は、金属原子換算で、酸化チタン粒子及び酸化タングステン粒子の合計量100質量部に対して、通常0.005〜0.6質量部、好ましくは0.01〜0.4質量部である。電子吸引性物質又はその前駆体が0.005質量部未満であると、電子吸引性物質による光触媒活性の向上効果が充分に得られないおそれがあり、一方、0.6質量部を超えると、却って光触媒作用が低下するおそれがある。
【0037】
前記光触媒体分散液は、酸化チタン粒子及び酸化タングステン粒子の表面の帯電を変更しない範囲で、従来公知の各種添加剤を含んでいてもよい。なお、添加剤は、それぞれ単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0038】
その添加剤としては、例えば、光触媒作用を向上させる目的で添加されるものが挙げられる。このような光触媒作用向上効果を目的とした添加剤としては、具体的には、非晶質シリカ、シリカゾル、水ガラス、オルガノポリシロキサンなどの珪素化合物;非晶質アルミナ、アルミナゾル、水酸化アルミニウムなどのアルミニウム化合物;ゼオライト、カオリナイトのようなアルミノ珪酸塩;酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウムなどのアルカリ土類金属酸化物又はアルカリ土類金属水酸化物;リン酸カルシウム、モレキュラーシーブ、活性炭、有機ポリシロキサン化合物の重縮合物、リン酸塩、フッ素系ポリマー、シリコン系ポリマー、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂、アルキド樹脂;等が挙げられる。
【0039】
光触媒体分散液は、その水素イオン濃度が、通常pH0.5〜pH8.0、好ましくはpH1.0〜pH7.0である。水素イオン濃度がpH0.5未満であると、酸性が強すぎて取扱いが面倒であり、一方、pH8.0を超えると、酸化タングステン粒子が溶解するおそれがあるので、いずれも好ましくない。光触媒体分散液の水素イオン濃度は、通常、酸を加えることにより調整すればよい。水素イオン濃度の調整に用いることのできる酸としては、例えば、硝酸、塩酸、硫酸、リン酸、ギ酸、酢酸、蓚酸等が挙げられる。
【0040】
前記光触媒体分散液の製造方法は、上述した各含有成分(表面が互いに同じ極性に帯電した酸化チタン粒子及び酸化タングステン粒子、上記揮発性水溶性有機化合物を必須とする分散媒等)を混合し、分散させうる方法であればよく、各含有成分の混合順序などに特に制限はない。
【0041】
酸化チタン粒子と酸化タングステン粒子とは、それぞれ、そのまま粒子の状態で混合してもよいが、通常は、両方又は一方を、あらかじめ分散媒中に分散させて、酸化チタン粒子分散液又は酸化タングステン粒子分散液としたのちに混合する。ここでの分散媒は、分散媒に表面処理剤等を溶解させた溶液であってもよい。酸化チタン粒子分散液や酸化タングステン粒子分散液には、例えば媒体撹拌式分散機を用いるなど通常の方法により分散処理を施すことが好ましい。
【0042】
上記揮発性水溶性有機化合物は、どの段階で添加してもよく、例えば、酸化チタン粒子分散液や酸化タングステン粒子分散液を得る際の分散媒として用いてもよいし、酸化チタン粒子と酸化タングステン粒子とを混合したのちに、別に添加するようにしてもよい。ここで、酸化チタン粒子に代えて、酸化チタン粒子分散液を用いてもよく、酸化タングステン粒子に代えて、酸化タングステン粒子分散液を用いてもよい。なお、酸化チタン粒子及び酸化タングステン粒子の少なくとも一方を分散液とする場合、各分散液に用いる分散媒の種類や使用量は、最終的に得られる光触媒体分散液における揮発性水溶性有機化合物の含有量や分散媒の含有量が上述した範囲となる限り、特に制限されない。
【0043】
例えば、表面がプラスに帯電している酸化チタン粒子を、適当な分散媒(例えば、水等)に上記表面処理剤を溶解させた溶液中に分散させることにより粒子表面をマイナスに帯電させた後、必要に応じて分散処理を施し、これに、表面がマイナスに帯電している酸化タングステン粒子を、例えば、水等の適当な分散媒中に分散させた分散液と、上記揮発性水溶性有機化合物とを順次混合することにより、上記光触媒体分散液を得ることができる。
【0044】
上記光触媒体分散液に電子吸引性物質又はその前駆体を含有させる場合には、電子吸引性物質又はその前駆体の添加は、どの段階で行ってもよく、例えば、酸化チタン粒子分散液に対して行ってもよいし、酸化タングステン粒子分散液に対して行ってもよいし、酸化チタン粒子と酸化タングステン粒子とを混合した後の分散液に対して行ってもよいが、高い光触媒活性を得る観点からは、電子吸引性物質又はその前駆体は酸化タングステン粒子分散液に添加するのが好ましい。
【0045】
前記電子吸引性物質の前駆体を添加した場合には、その添加後に光照射を行ってもよい。光照射を行うことにより、光励起によって生成した電子によって前駆体が還元されて電子吸引性物質となり、酸化チタン粒子及び酸化タングステン粒子からなる光触媒体粒子の表面に担持される。なお、上記前駆体を添加した場合に、たとえ光照射を行わなくても、得られた光触媒体分散液により形成された光触媒体層に光が照射された時点で電子吸引性物質へ変換されることになるので、その光触媒能が損なわれることはない。
上記光照射で照射する光としては、特に制限はなく、可視光線でもよいし、紫外線でもよい。また、上記光照射は、前記前駆体の添加後であれば、どの段階で行ってもよい。
【0046】
前記光触媒体分散液に上述した各種添加剤を含有させる場合には、各種添加剤の添加はどの段階で行ってもよいが、例えば、酸化チタン粒子と酸化タングステン粒子とを混合した後に行うことが好ましい。
【0047】
上記光触媒体分散液としては、例えば、イルミオ(登録商標、住友化学社製)が好適に用いられる。イルミオの市販品としては、例えば、TS−S8050(住友化学社製)が挙げられる。また、前記光触媒体分散液として、TS−S4110,TS−S4420,TS−S4230(住友化学社製)等を用いることも可能である。光触媒体分散液の市販品における光触媒体の濃度は5重量%である。イルミオを塗布したガラス基板は、可視光照射下で高い抗ウィルス性を示すことが知られている。
【0048】
(ウェットシートの製造方法)
本発明のウェットシートは、光触媒体分散液をウェットシート基材に含浸させることにより製造され、その後、光触媒体分散液の揮発によるウェットシート基材の乾燥がないように、包装袋又は包装容器に収納され、そのように包装された形態で提供される。なお、
この明細書では包装袋又は包装容器を収納容器と総称する。
すなわち、ウェットティッシュは、例えば、収納容器から1枚のウェットティッシュが取り出された際に、次のウェットティッシュも持ち上がり、その一部が収納容器外に露出し、これにより次のウェットティッシュの取り出しが容易になる態様(所謂ポップアップ式)で積層され、収納容器に収納された形態で提供される。また、ウェットタオルは、例えば、1枚ずつ収納容器に収納された形態で提供される。本発明のウェットシートは、ウェットティッシュ又はウェットタオルとして好適に用いられ得る。
ここで、上記光触媒体分散液が電子吸引性物質又はその前駆体を含む場合には、光触媒体層を構成する光触媒酸化チタン粒子及び光触媒酸化タングステン粒子の表面に電子吸引性物質又はその前駆体が担持される。担持された電子吸引性物質の前駆体は、担持されたのち、例えば光が照射されることなどによって電子吸引性物質に遷移する。
なお、ウェットシート基材への光触媒体分散液の含浸は、ウェットシート基材の全体に対して行ってもよく、ウェットシート基材の表面にのみ行ってもよい。
【0049】
ウェットシート基材に市販品の光触媒体分散液を含浸し、得られたウェットシートを用いて、予めウィルス(A/Northern pintail/Miyagi/1472/08(H1N1))を付着させたガラス基板に拭き掃除を行い、3分後にウィルス付着量を測定したところ、ウィルスは検出されなかった。このように、本願発明のウェットシートは抗ウィルス性を示す。
【0050】
なお、本発明は、上述した例に限定されるものではなく、本発明の構成を充足する範囲内で、適宜設計変更を行うことが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウェットシート基材と、該ウェットシート基材に含浸された光触媒体分散液とを備え、
前記光触媒体分散液は、光触媒酸化チタン粒子と光触媒酸化タングステン粒子とが分散媒中に分散されたもの、若しくは光触媒酸化チタン粒子が分散媒中に分散されたもの、又は光触媒酸化タングステン粒子が分散媒中に分散されたものであることを特徴とするウェットシート。
【請求項2】
人体に接触する用途を有する物品の清掃に用いられる請求項1に記載のウェットシート。
【請求項3】
前記物品に付着したウィルスの除去のために用いられる請求項2に記載のウェットシート。
【請求項4】
前記光触媒体分散液は、イルミオ(登録商標)である請求項1〜3のいずれか1に記載のウェットシート。
【請求項5】
前記ウェットシートの一枚又は複数枚を収納容器に収納してなる請求項1〜4のいずれか1のウェットシートを用いたウェットティッシュ又はウェットタオル(おしぼり)。