説明

ウェハ支持装置

【課題】パーティクルを発生させるネジを用いず、熱効率にも優れた新規な構造のウェハ支持装置を提供する。
【解決手段】静電チャック11と薄板部材15と固定部材17とを備えて構成されるウェハ支持装置10であり、固定部材17の脚部18は、ウェハ載置領域を囲むように薄板部材に配置された開口16を貫通してその上面より上方にまで突出し、その上端から係合部19が内方に突出している。薄板部材および固定部材が静電チャックの静電吸着面に吸着固定されることにより、該薄板部材と該固定部材の係合部との間にウェハの周縁部を挟んでウェハを固定する。ウェハを上下から挟んだ状態で固定するので、通常の上向き使用だけでなく、下向きや垂直にして使用してもウェハが脱落しない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CVD、スパッタ、イオン注入、エッチングなどの半導体製造のウェハプロセスでウェハを支持するために使用されるウェハ支持装置に関する。
【背景技術】
【0002】
CVD、スパッタ、イオン注入、エッチングなどの半導体製造のウェハプロセスにおいて、ウェハ支持装置を用いてウェハを支持することは、ウェハの均熱化や、複数枚のウェハを一括処理する上で有用である。このようなウェハ支持装置の従来例が下記特許文献1に記載されている。
【0003】
特許文献1記載のウェハ支持装置は、サセプタ28の中央凹部28aの傾斜面28bにウェハ14を載置すると共に、該ウェハ14の上面周縁部を複数のウェハ押さえ具16で押さえることで、ウェハ14を上下から挟み込むように支持する構成を有する(段落0028〜0037、図1など)。ウェハ押さえ具16は、サセプタ28を包囲するように配置された略円筒形状のホルダ18にボルト20で固定され、サセプタ28の側面および上面に沿って延長し、凹部28aの傾斜面28bに沿って斜め下方に向けて突出している。
【0004】
このウェハ支持装置によれば、ウェハを上下から挟み込むようにして支持しているので、ウェハを垂直や下向きにした状態であってもウェハの脱落を防止して確実にウェハを支持することができる利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−025989号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、このウェハ支持装置ではウェハ押さえ具16を固定するためにネジ20を用いており、このネジがパーティクルの発生源になるという大きな問題を抱えている。
【0007】
また、ウェハ支持装置の材質(たとえばシリコン)によってはネジ加工を行うことが困難であるため、ウェハ支持装置として使用可能な材質に制限があり、あるいは加工精度を要求されることから製作時の収率が低下する。
【0008】
また、カーボンなど強度が低い材料を用いた場合はネジ部の強度を確保するために厚みを大きく取る必要が生じ、裏面側に設けたヒータ層による熱伝導効率が低下する。このため、ウェハを所定の温度に加熱するにはヒータ層の発熱温度を該ウェハ加熱温度よりも相当程度高く設定しなければならず、大きな電力消費を必要とする。また、厚くなると熱で反りが生じやすくなる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上記課題に鑑み、ネジを用いなくても確実にウェハを固定することができる構造とすることによりパーティクルの発生を防止し、しかも薄板構造とすることにより熱効率に優れ、反りも生じにくい新規なウェハ支持装置を提供することを目的とする。
【0010】
この目的を達成するため、請求項1に係る発明は、少なくとも一面が静電吸着面として働く静電チャックと、この静電チャックの静電吸着面に載置される薄板部材と、この薄板部材を厚み方向に貫通する複数の開口にそれぞれ挿入されてウェハを固定する固定部材とを有し、該固定部材は、薄板部材の開口を貫通してその上面より上方にまで突出する脚部と、該脚部の上端から内方に突出する係合部とを有して形成され、前記薄板部材および前記固定部材が静電チャックの静電吸着面に吸着固定されることにより、該薄板部材と該固定部材の係合部との間にウェハの周縁部を挟んでウェハを固定することを特徴とするウェハ支持装置である。
【0011】
請求項2に係る発明は、請求項1記載のウェハ支持装置において、薄板部材の複数の開口が固定すべきウェハの寸法および形状に対応して該ウェハを囲む位置に形成されることを特徴とする。
【0012】
請求項3に係る発明は、請求項1または2記載のウェハ支持装置において、一の薄板部材に複数のウェハを固定可能であることを特徴とする。
【0013】
請求項4に係る発明は、請求項1ないし3のいずれか一記載のウェハ支持装置において、固定部材の係合部の内方突出長の範囲内で異なる寸法のウェハを固定可能であることを特徴とする。
【0014】
請求項5に係る発明は、請求項1ないし4のいずれか一記載のウェハ支持装置において、固定部材は、薄板部材の開口に脚部が挿入された状態において、その底面が開口縁の外側で薄板部材の表面との間にわずかな隙間を残して近接するように設けられた張出部を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、静電チャックの静電吸着面に薄板部材と固定部材とを吸着固定させることにより、薄板部材に載置したウェハは、その周縁部が該薄板部材と固定部材の係合部との間に挟み込まれて、確実に固定される。このように、本発明のウェハ支持装置によれば、ウェハを上下から挟んだ状態で固定するので、通常の上向き使用だけでなく、下向きや垂直にして使用してもウェハが脱落しない。すなわち、前記特許文献1記載の従来技術のようにネジを使用することなく同様の効果が得られるので、パーティクルの発生を防止することができる。
【0016】
薄板部材は、シリコンウェハやカーボン薄板などの市販の薄板製品に固定部材の脚部を貫通させるための開口を加工すれば良く、また、固定部材についてもこれらの市販材料から容易に加工することができるので、装置全体の薄型化・低コスト化を実現することができる。薄板部材としてはたとえば0.4〜0.8mm程度のものを使用することができるため、静電チャックの静電吸着面に対する密着性が良好であり、この薄板部材を介してウェハへの伝熱効果を損なうことがない。反りも生じにくい。
【0017】
また、ウェハの周縁部が、薄板部材に載置された状態でその反対側から固定部材の係合部によって押さえられることによってウェハが固定されるので、該係合部が薄板部材の開口縁より内方に突出する突出長の範囲内に収まる大きさであれば、異なる寸法のウェハを固定することが可能である。
【0018】
また、固定部材の脚部を薄板部材の開口に挿入させた状態において、その底面が開口縁の外側で薄板部材の表面との間にわずかな隙間を残して近接するように張出部を固定部材に設けることにより、本発明のウェハ支持装置を用いて固定したウェハに対して薄膜形成を行ったときに、静電チャック吸着面に薄膜が付着することを防止する効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態によるウェハ支持装置をその用法と共に示す断面図である。
【図2】このウェハ支持装置において薄板部材に形成される開口の配置および形状を例示する平面図(a)〜(c)である。
【図3】このウェハ支持装置を垂直(a)および下向き(b)にした用例を示す説明図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明の一実施形態によるウェハ支持装置について図1を参照して説明する。このウェハ支持装置10は、CVD、スパッタ、イオン注入、エッチングなどの半導体製造のウェハプロセスにおいて処理対象のウェハを確実に支持ないし固定すると共に、該ウェハを所定温度に加熱するためのヒータ機構を兼ね備えたものとして構成されている。
【0021】
ウェハ支持装置10は、静電チャック11を有する。静電チャック11は、その少なくとも一面が静電吸着面として作用し得るものであればその材質や構成は特に限定されず、材料としてはセラミックス、樹脂、金属表面に電気絶縁性コーティングを施したものなどを使用することができ、また、電極パターンは単極型であっても双極型であっても良い。一例として、グラファイト基材をPBNによるベースコートで絶縁し、このベースコートの表面にPG電極を配置すると共に裏面には所定のヒータパターンを有するPG発熱層を形成し、さらに全体をPBNまたは微量カーボン添加PBNによるオーバーコート層で絶縁して、ヒータ機構付の静電チャック11とすることができる(特許第2756944号参照)。この場合、静電チャック11の表面に形成された電極層12の上面が静電吸着面13となり、裏面に形成された発熱層ヒータパターン14の発熱が静電チャック11を介して伝熱されてウェハを加熱する。
【0022】
静電チャック11自体の構造や作用については多くの従来技術によって公知であり、且つ、本発明の主題に直接的に関連しないので、図示および説明を省略する。本発明では、公知の構造の静電チャック11のいずれをも採用可能である。また、静電チャック11の裏面に形成されるヒータパターン14の構造や作用についても同様である。なお、図中符号21は、薄板部材15および固定部材17を地絡させるためのアースピンであるが、アースピン21が設備されていない場合は、プラズマなどを介して電気的に地絡させても良い。
【0023】
ウェハ支持装置10は、さらに、静電チャック11の静電吸着面13に載置される薄板部材15を有する。薄板部材15は、高温または低温で静電吸着ができる範囲の比抵抗を有し、且つ、厚さ0.4〜0.8mm程度の薄板として得られるような加工性が良好な材料で形成され、具体的には窒化アルミ、SiCなどのセラミックス、金属、カーバイド、グラッシーカーボン、ガラスなどを用いることができるが、市販のシリコンウェハやカーボン薄板などを用いて加工(開口16を形成)したものを薄板部材15として用いることが特にコスト的に有利である。
【0024】
薄板部材15には、処理対象となるウェハWの載置領域を取り巻くように、複数の開口16が厚さ方向に貫通して形成される。この開口16は、後述する固定部材の脚部を収容するものであり、該脚部の断面形状および寸法に略等しい形状および寸法を有するものとして形成される。
【0025】
図2は薄板部材15に形成される開口16の配置および形状についての数例を示す。図2(a)では、円形のウェハWを処理対象とする場合において、その載置領域を取り巻くように3つの矩形状の開口16が120度間隔で形成されている。図2(b)では、矩形のウェハWを処理対象とする場合において、その載置領域を取り巻くように4つの矩形状の開口16が90度間隔で形成されている。
【0026】
これらは例示にすぎず、後述する要領にて処理対象ウェハWを確実に固定することができるものであれば、他の配置・形状例を採用しても良い。たとえば、図2(a)の場合において4つの矩形状開口16を90度間隔で配置しても良いし、図2(b)の場合において4つの矩形状開口16を矩形状ウェハWの各頂点に近接させて位置させても良い。あるいは、図2(c)に示すように、円形ウェハWの周縁の弧形状に沿う円弧状の内面16aを有する形状の開口16’を形成しても良く、このような開口形状とすれば、180度間隔で2つの開口16’を対向配置させる実施形態も採用可能である。
【0027】
なお、図1では一枚のウェハWを固定するように示されているが、複数枚のウェハWを同時に固定可能なウェハ支持装置10として構成することも可能である。この場合、薄板部材15としては静電チャック11の静電吸着面13とほぼ同サイズの大径のものを使用し、この大径薄板部材15に複数のウェハ載置領域を設定し、各ウェハ載置領域を取り巻くように開口16を配置・形成する。複数のウェハ載置領域はすべて同一の形状・大きさであっても良いし、異なる形状や大きさのウェハを同時に処理可能とするべく、異なる形状・大きさのウェハ載置領域を設定しても良い。
【0028】
ウェハ支持装置10は、さらに、固定部材17を有する。固定部材17は、薄板部材15に設定されるウェハ載置領域ごとに、該ウェハ載置領域を取り巻く開口16と同数用いられる。
【0029】
固定部材17は、薄板部材15の開口16を貫通してその上面より上方にまで突出する高さを有する脚部18と、この脚部18の上端から内方に突出する係合部19とを有する。脚部18は開口16と略同一の断面形状および寸法を有し、その高さは、薄板部材15の厚さと処理対象ウェハWの厚さとの合計厚と略同一に形成される。係合部19は、脚部18を開口16に挿入させたとき(図1(b))に、薄板部材16の上方においてウェハW載置領域に入り込むような内方突出長を有する(図2(a)〜(c)に点線で示す)。
【0030】
この実施形態では、固定部材17はさらに張出部20を有するものとして示されている。張出部20は、脚部18を開口16に挿入させたとき(図1(b))に、その底面が開口16縁の外側で薄板部材15の表面との間にわずかな隙間を残して近接するような高さ位置に設けられる。張出部20を設けることにより、このウェハ支持装置10を用いて後述するようにしてウェハWを固定して薄膜形成を行ったときに、静電チャック吸着面13に薄膜が付着することを防止することができる。また、張出部20の底面と薄板部材15の表面との間にはわずかな隙間が残されているので、上記効果を発揮しつつ、ウェハWを加熱したときに生ずる該ウェハの熱膨張および薄板部材15と固定部材17との熱膨張差を吸収することができる。
【0031】
固定部材17は、これら脚部18および係合部19(およびさらに張出部20)を有するものとして、たとえば市販のブロック状のシリコン製品やカーボン製品から切り出して一体成形品として製作しても良いし、市販の薄板状のシリコン製品やカーボン製品から別部材として製作した各部を接着などで一体化して固定部材17としても良い。
【0032】
次に、このウェハ支持装置10を用いてウェハWを固定する際の用法について説明する。
【0033】
まず、前述したように、市販のシリコンウェハやカーボン薄板などに、処理対象ウェハWの一または複数のウェハ載置領域を取り巻くように複数の開口16を形成して、薄板部材15を準備する。また、薄板部材15における各開口16に挿入される脚部18と該脚部の上端から内方に突出する係合部19と、さらに本実施形態では張出部20とを有してなる固定部材17を準備する(図1(a))。
【0034】
そして、薄板部材15の各ウェハ載置領域に処理対象ウェハWを載置し、その周縁部に固定部材17の係合部19を被せるようにして脚部18を開口16に上から挿入する。脚部18の高さ(底面から係合部19の下面まで)は、薄板部材15とウェハWの合計厚に略一致するように形成されるので、脚部18の底面は薄板部材15の下面と略面一になる(図1(b))。
【0035】
そして、このウェハホルダ組立体(図1(b))を任意搬送装置(図示せず)でウェハプロセス処理室内に搬送して、静電チャック11の静電吸着面13に載置する(図1(c))。あるいは、静電チャック11の静電吸着面13に薄板部材15を載置させた後、その各ウェハ載置領域に処理対象ウェハWを載置し、その周縁部に固定部材17の係合部19を被せるようにして脚部18を開口16に上から挿入することにより、図1(c)に示す状態を得ても良い。
【0036】
図1(c)の状態において電極層12に所定の電圧を印加すると、薄板部材15および脚部18が静電チャック11の吸着面13に静電的に吸着・固定される。固定部材17は脚部18を含めて一体に形成されているので、ウェハWは薄板部材15に載置され且つその周縁部が係合部19に押さえ込まれることになり、これらの間で強固に機械的に固定される。
【0037】
このようにして固定されたウェハWは、ウェハ支持装置10を上向きに使用する場合だけでなく、ウェハ支持装置10を垂直にして(図3(a))も、あるいは下向きにして(図3(b))も、脱落することなく、所定のウェハプロセスを行うことができる。所定のウェハプロセスが終了した後、垂直や下向きで使用した場合は元の状態(上向き)に戻した上で、静電チャック11への印加電圧を解除して、ウェハホルダ組立体(図1(b))を前記搬送装置によりウェハプロセス処理室から搬出する。薄板部材15および脚部18に対する静電吸着力は消失しているので、脚部18を開口16から引き抜いて固定部材17を取り外すことにより、処理済のウェハWを容易に取り出すことができる。図中の矢印は、発熱層14からウェハWへの熱の流れを示している。
【符号の説明】
【0038】
10 ウェハ支持装置
11 静電チャック
12 電極層
13 静電吸着面
14 発熱層
15 薄板部材
16,16’ 開口
16a 円弧状内面
17 固定部材
18 脚部
19 係合部
20 張出部
21 アースピン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一面が静電吸着面として働く静電チャックと、この静電チャックの静電吸着面に載置される薄板部材と、この薄板部材を厚み方向に貫通する複数の開口にそれぞれ挿入されてウェハを固定する固定部材とを有し、該固定部材は、薄板部材の開口を貫通してその上面より上方にまで突出する脚部と、該脚部の上端から内方に突出する係合部とを有して形成され、前記薄板部材および前記固定部材が静電チャックの静電吸着面に吸着固定されることにより、該薄板部材と該固定部材の係合部との間にウェハの周縁部を挟んでウェハを固定することを特徴とするウェハ支持装置。
【請求項2】
薄板部材の複数の開口が固定すべきウェハの寸法および形状に対応して該ウェハを囲む位置に形成されることを特徴とする、請求項1記載のウェハ支持装置。
【請求項3】
一の薄板部材に複数のウェハを固定可能であることを特徴とする、請求項1または2記載のウェハ支持装置。
【請求項4】
固定部材の係合部の内方突出長の範囲内で異なる寸法のウェハを固定可能であることを特徴とする、請求項1ないし3のいずれか一記載のウェハ支持装置。
【請求項5】
固定部材は、薄板部材の開口に脚部が挿入された状態において、その底面が開口縁の外側で薄板部材の表面との間にわずかな隙間を残して近接するように設けられた張出部を有することを特徴とする、請求項1ないし4のいずれか一記載のウェハ支持装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−42049(P2013−42049A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−179257(P2011−179257)
【出願日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【出願人】(000221111)モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社 (257)
【Fターム(参考)】