説明

ウェブ、スタンパブルシートおよびスタンパブルシート膨張成形品ならびにこれらの製造方法

【課題】 軽量で吸音特性に優れるだけでなく、表面性状や機械的強度にも優れる膨張成形品と、この製造に用いて好適なウェブ、スタンパブルシートならびにそれらの製造方法を提案する。
【解決手段】 強化繊維、熱可塑性樹脂および加熱膨張性粒子を、微小気泡を含む界面活性剤含有水性媒体中に均一に分散させた泡液を調製し、この泡液を抄造してウェブとし、その後、そのウェブを加熱し、加圧し、冷却してスタンパブルシートとし、さらにそのスタンパブルシートを加熱し、前記加熱膨張性粒子を膨張させてから成形し、冷却してスタンパブルシートの膨張成形品を製造する方法において、上記抄造の際に、吸引によって脱泡して加熱膨張性粒子をウェブのいずれか一方の面側に偏在させることにより、膨張成形品のいずれか一方の面側に加熱膨張性粒子を偏在させたスタンパブルシート膨張成形品を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軽量で吸音特性に優れるため、自動車の内装材やエンジンカバー等の他、建材分野での吸音材や防音壁等としても用いられているスタンパブルシート膨張成形品と、この製造に用いて好適なウェブ、スタンパブルシート、およびそれらの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
スタンパブルシートは、ガラス繊維や炭素繊維等の強化繊維と熱可塑性樹脂などからなる複合材料であり、加熱膨張させたのちプレスして大型部材を成形するのに適したシート状素材である。このスタンパブルシートの製造方法としては、例えば、強化繊維と熱可塑性樹脂などを、水に界面活性剤を添加して微小気泡を含ませた泡液などの媒体中に分散させ、この分散液を抄造する、すなわち、泡分散液を抄紙スクリーン上に注ぎ、脱泡することにより、不織布状の堆積物(ウェブ)を得、その後、このウェブを加熱し、加圧して、冷却固化する方法が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
スタンパブルシートは、加熱すると、熱可塑性樹脂が溶融すると同時に、その厚みが、強化繊維が有するスプリングバックの作用により、加圧される前のウェブの厚さまで復元しようとする性質がある。そして、そのスタンパブルシートを加熱して膨張させてからプレス成形し、空隙を適正量残した多孔質の成形品とすることにより、高い剛性を有すると共に、吸音特性にも優れる膨張成形品を得ることができる(例えば、特許文献2参照。)。
【0004】
上記の膨張成形品は、ランダムな方向に配向した強化繊維どうしが交絡し、溶融、固化した熱可塑性樹脂によって固着、結合された三次元の網目状構造を有する多孔質体となっている。このような膨張成形品の剛性は、弾性率と厚みの3乗の積に比例することから、その剛性を高めるためには、弾性率を高めるか、その厚みを厚くすることが有効である。
【0005】
膨張成形品の厚みを増すには、素材となるウェブの厚さを増す方法、ウェブの膨張性を高める方法がある。しかし、ウェブの厚さを増すことは、重量の増加を招くので好ましくない。また、スタンパブルシートの膨張性は、強化繊維のスプリングバックの作用に依存しているため、その膨張性を高めるには限界がある。
【0006】
そこで、スタンパブルシートの中に、加熱することによって膨張する性質を有する加熱膨張性粒子を混合し、これを加熱、膨張させて、シートの厚みを強制的に厚くする技術が提案されている(例えば、特許文献3〜5参照。)。ここで、上記加熱膨張性粒子とは、直径が数十μm程度のコアシェル型の構造をした粒子が一般的であり、コアは液状の炭化水素、シェルはガスバリア性を有する熱可塑性樹脂からなり、これを加熱すると、炭化水素が気化膨張するとともに、熱可塑性樹脂が軟化して、直径が数百μm程度の球状に膨張するものである。
【特許文献1】特公昭55−009119号公報
【特許文献2】特開昭60−179234号公報
【特許文献3】特開2000−328494号公報
【特許文献4】特開平10−072798号公報
【特許文献5】特開平02−045135号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
例えば、特許文献3および4には、強化繊維、熱可塑性樹脂粒子および加熱膨張性粒子を、凝集剤、増粘剤が添加された水中に分散させ、抄造する技術が開示されている。上記凝集剤は、加熱膨張性粒子を凝集させて、抄造時に加熱膨張性粒子が抄紙スクリーンの網目から排出されるのを防止するために添加されている。しかし、この技術で得られるスタンパブルシートは、加熱膨張性粒子が凝集しているため、これを加熱して膨張成形品とした場合には、凝集部分のみが大きく膨張して膨張成形品の表面の凹凸が激しくなり、表面性状が悪化するとともに、加熱膨張性粒子の凝集部分の密度が低下するため、膨張成形品の強度も低下するという問題点が生じる。
【0008】
また、特許文献5には、加熱膨張性粒子を分散させた溶液中に、ニードリング処理を施したウェブを浸漬させて、加熱膨張性粒子をウェブ中に均一に分散させる技術が開示されている。しかし、この技術は、ウェブにニードリング処理を施すため、その膨張成形品にも針痕が残存し、その針痕を起点として座屈が起こり易く、機械的強度が劣るという問題がある。
【0009】
そこで、本発明の目的は、軽量で吸音特性に優れるだけでなく、表面性状や機械的強度にも優れるスタンパブルシート膨張成形品と、この製造に用いて好適なウェブ、スタンパブルシートならびにそれらの製造方法を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明者らは、従来技術が抱える上記問題点を解決するために、鋭意検討を重ねた。その結果、ウェブ中に含まれる加熱膨張性粒子の厚さ方向の分布を、泡抄造法を用いて適正に制御することにより、上記課題を解決できることを見出した。
すなわち、泡抄造法では、泡の表面に加熱膨張性粒子が保持され、該粒子が泡液中に均一に分散している。つまり、泡抄造法は、加熱膨張性粒子を凝集させることなく分散することができる。そのため、膨張成形品の表面には、加熱膨張性粒子の凝集による凹凸がほとんど発生しない。また、泡抄造法では、直径が十数μmで長さが数十mmの強化繊維と、直径が数百μm程度の熱可塑性樹脂粒子を、抄造したウェブの厚み、幅方向で均一に分散させることができる。しかし、直径が数十μm程度の加熱膨張性粒子が分散した泡液を抄造した場合には、抄紙スクリーン側すなわち脱泡吸引する側に加熱膨張性粒子が偏在し、その反対側には加熱膨張性粒子がほとんど存在しないウェブが得られることがわかった。これは粒子が小さいために、脱泡吸引力によって、加熱膨張性粒子が抄紙スクリーン側に偏るためと考えられる。そして、このように加熱膨張性粒子が一方の面側に偏在したウェブを用いてスタンパブルシートを製造した場合、あるいはさらにそれを用いて膨張成形品を製造した場合には、ウェブの加熱膨張性粒子の分布状態がそのまま継承される。そのため、最終的に得られる膨張成形品は、加熱膨張性粒子がほとんど存在しない面側は、加熱膨張性粒子が多く存在する面側よりも比重が大きく、高密度となるので、圧縮強度が強くなり、曲げ強度も向上する。さらに、高密度な層が表面に存在する膨張成形品は、吸音特性もより向上する。本発明は、上記知見に基くものである。
【0011】
すなわち、本発明は、熱可塑性樹脂、強化繊維および加熱膨張性粒子を分散含有するウェブであって、該ウェブに含まれる加熱膨張性粒子がいずれか一方の面側に偏在していることを特徴とするウェブである。好ましくは、上記ウェブは、泡抄造法で製造されたウェブ(泡抄造ウェブ)である。
【0012】
また、本発明は、熱可塑性樹脂からなるマトリックス中に、強化繊維および加熱膨張性粒子を分散含有するスタンパブルシートであって、該スタンパブルシートに含まれる加熱膨張性粒子がいずれか一方の面側に偏在していることを特徴とするスタンパブルシートである。好ましくは、上記スタンパブルシートは、泡抄造ウェブを、加熱、加圧、冷却して得たスタンパブルシート(泡抄造スタンパブルシート)である。
【0013】
また、本発明は、強化繊維および膨張した加熱膨張性粒子が、熱可塑性樹脂で接着され、分散したスタンパブルシートの膨張成形品であって、該膨張成形品に含まれる加熱膨張性粒子がいずれか一方の面側に偏在していることを特徴とするスタンパブルシート膨張成形品である。好ましくは、上記スタンパブルシート膨張成形品は、泡抄造スタンパブルシートを、加熱、成形、冷却して得たスタンパブルシート膨張成形品(泡抄造スタンパブルシート膨張成形品)である。
【0014】
また、本発明は、強化繊維、熱可塑性樹脂および加熱膨張性粒子を、微小気泡を含む界面活性剤含有水性媒体中に均一に分散させた泡液を調製し、この泡液を抄造することによってウェブを製造する方法において、抄造の際に、吸引によって脱泡して加熱膨張性粒子をウェブのいずれか一方の面側に偏在させることを特徴とするウェブの製造方法を提案する。
【0015】
また、本発明は、強化繊維、熱可塑性樹脂および加熱膨張性粒子を、微小気泡を含む界面活性剤含有水性媒体中に均一に分散させた泡液を調製し、この泡液を抄造してウェブとし、その後、そのウェブを加熱し、加圧し、冷却して、熱可塑性樹脂からなるマトリックス中に強化繊維および加熱膨張性粒子が分散したスタンパブルシートを製造する方法において、上記抄造の際に、吸引によって脱泡して加熱膨張性粒子をウェブのいずれか一方の面側に偏在させることにより、スタンパブルシートのいずれか一方の面側に加熱膨張性粒子を偏在させることを特徴とするスタンパブルシートの製造方法である。
【0016】
また、本発明は、強化繊維、熱可塑性樹脂および加熱膨張性粒子を、微小気泡を含む界面活性剤含有水性媒体中に均一に分散させた泡液を調製し、この泡液を抄造してウェブとし、その後、そのウェブを加熱し、加圧し、冷却してスタンパブルシートとし、さらにそのスタンパブルシートを加熱し、前記加熱膨張性粒子を膨張させてから成形し、冷却することにより、強化繊維および膨張した加熱膨張性粒子が熱可塑性樹脂で接着されて分散したスタンパブルシートの膨張成形品を製造する方法において、上記抄造の際に、吸引によって脱泡して加熱膨張性粒子をウェブのいずれか一方の面側に偏在させることにより、膨張成形品のいずれか一方の面側に加熱膨張性粒子を偏在させることを特徴とするスタンパブルシート膨張成形品の製造方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、軽重で表面性状に優れるだけでなく、曲げ強度や剛性等の機械的強度に優れるスタンパブルシート膨張成形品を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明は、スタンパブルシートの膨張成形品を製造するに際して、泡抄造法を用いて素材となるウェブを作製し、該ウェブ中に含まれる加熱膨張性粒子を一方の面側に偏在させることにより、加熱膨張性粒子を多く含む面側の空隙率をより多くし、加熱膨張性粒子を少なく含む面側の空隙率をより低くして高密度化し、もって、全体としての膨張性を高めた上で、膨張成形品の機械的強度と吸音特性を向上させると共に、表面性状をも改善したところに特徴がある。以下、本発明の構成について詳細に説明する。
【0019】
先ず、本発明に係るウェブ、スタンパブルシートおよびスタンパブルシート膨張成形品の構造(以下、単に「膨張成形品」とも称する)について説明する。
本発明のウェブは、強化繊維、熱可塑性樹脂および加熱膨張性粒子からなり、後述する泡抄造法で製造することにより、強化繊維および熱可塑性樹脂は、ウェブの厚さ方向でほぼ同じ比率で分布しているが、加熱膨張性粒子は、ウェブの一方の面側に偏在した構造となっている。すなわち、加熱膨張性粒子は、ウェブの一方の表面近傍に多く存在し、そこから内部にいくに従って少なくなり、反対の表面近傍では加熱膨張性粒子はほとんど存在しない状態となっている。
【0020】
上記ウェブを加熱、加圧し、冷却して得られる本発明のスタンパブルシートは、上記加熱、冷却により溶融固化した熱可塑性樹脂がマトリックスを構成し、その中に強化繊維と加熱膨張性粒子が分散した構造となっている。しかし、本発明のスタンパブルシートは、上記ウェブの加熱膨張性粒子の分布状態がほぼそのまま継承されるため、スタンパブルシート中の加熱膨張性粒子は、一方の表面近傍に多く存在し、そこから内部に行くに従って少なくなり、反対側の表面近傍ではほとんど存在しない分布を示す。
【0021】
同様に、上記スタンパブルシートを膨張成形して得られる膨張成形品も、上記ウェブの加熱膨張性粒子の分布状態がほぼそのまま継承される。すなわち、本発明の膨張成形品は、強化繊維と膨張した加熱膨張性粒子が、溶融固化した熱可塑性樹脂で接着され、分散した多孔質の構造となっており、該加熱膨張性粒子は、膨張成形品の一方の表面近傍に多く存在しており、そこから内部に行くに従って少なくなり、反対側の表面近傍には加熱膨張性粒子はほとんど存在しない。その結果、本発明の膨張成形品は、加熱膨張性粒子が少ない面側は、加熱膨張性粒子が多い面側と比べて、表面が平滑でしかも比重が大きく高密度となるため、曲げ強度や剛性等の機械的特性が向上すると共に、吸音特性も優れたものとなる。
【0022】
次に、本発明のウェブ、スタンパブルシートおよび膨張成形品を構成する強化繊維、熱可塑性樹脂および熱膨張性粒子について説明する。
本発明で用いる強化繊維は、無機繊維、有機繊維のいずれを用いてもよく、これらを複合または混合した繊維を用いてもよい。使用できる繊維としては、例えば、無機繊維としては、ガラス繊維、炭素繊維、ボロン繊維、ステンレス繊維やその他の金属繊維および鉱物繊維などを、また、有機繊維としては、アラミド繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、麻等の天然繊維などを挙げることができる。また、これらの1種または2種以上を組み合わせても使用してもよい。なお、膨張成形品に高い補強効果を付与する観点からは、有機繊維よりも無機繊維の方が好ましく、中でも、強度を重視する場合には、炭素繊維を用いることが好ましい。一方、コストの面からは、ガラス繊維を用いることが好ましく、また、焼却しても残渣が残らないというサーマルリサイクルの観点からは、有機繊維が好ましい。
【0023】
上記強化繊維の平均直径は、スタンパブルシートの補強効果と膨張性を十分確保する観点からは、3〜50μmφであることが好ましい。より好ましくは3〜30μmφである。上記範囲の平均直径の強化繊維を用いることで、抄造時の加熱膨張性粒子の歩留りを向上することもできる。なお、強化繊維のスプリングバックと加熱膨張性粒子の膨張性の相乗効果による膨張量の増大を期待する場合には、平均直径が100〜1000μmφの強化繊維とその繊維間を充填する役割を果たす平均直径が3〜50μmφの強化繊維を混合したものを用いてもよい。また、強化繊維の平均長さは、補強効果、膨張性、成形性を十分確保するという観点からは、3〜100mmの範囲のものであることが好ましい。また、ウェブを抄造する工程の前段階で、熱可塑性樹脂と強化繊維とをより均一に分散させる観点からは、強化繊維の平均長さは3〜50mmの範囲であることがより好ましい。なお、上記平均直径や平均長さは、使用する前の強化繊維またはウェブ、スタンパブルート、膨張成形品の強化繊維の直径と長さを、顕微鏡等を用いて50本程度測定して得た値を平均したものである。なお、強化繊維は、ウェブ、スタンパブルート、膨張成形品を600℃程度の温度で焼成後、顕微鏡等を用いて観察してもよい。
【0024】
本発明で用いる上記強化繊維は、カップリング剤あるいは収束剤による表面処理が施されたものであることが好ましい。特に、強化繊維と熱可塑性樹脂との濡れ性や接着性を向上するためには、シランカップリング剤による処理を施すことが好ましい。上記シランカップリング剤としては、ビニルシラン系、アミノシラン系、エポキシシラン系、メタクリルシラン系、クロロシラン系、メルカプトシラン系等のカップリング剤を用いることができる。シランカップリング剤による強化繊維の表面処理は、強化繊維を攪拌しながらシランカップリング剤溶液を噴霧する方法や、カップリング剤溶液中に強化繊維を浸漬する方法など、公知の方法で行うことができる。なお、上記シランカップリング剤の処理量は、処理する強化繊維の質量に対して0.001〜0.3mass%であることが好ましい。0.001mass%未満では、シランカップリング剤の効果が小さく、強化繊維と熱可塑性樹脂の十分な接着強度が得られず、一方、0.3mass%を超えると、シランカップリング剤の効果が飽和するからである。より好ましくは0.005〜0.2mass%の範囲である。
【0025】
また、本発明で用いる強化繊維は、スタンパブルシートの強度と膨張性を高めるために、単繊維に解繊したものであることが望ましく、そのためには、上記強化繊維を水溶性の収束剤によって処理することが好ましい。この収束剤としては、ポリエチレンオキシド系やポリビニルアルコール系の水溶性樹脂などを用いることができる。収束剤の処理量は、処理する強化繊維の質量に対して、2mass%以下、好ましくは1mass%以下とすることが望ましい。2mass%を超えると、抄造工程での繊維の解繊が難しくなるからである。なお、処理量の下限は0.05mass%程度である。処理量が少なすぎると、ハンドリング性が悪くなる。
【0026】
次に、本発明において用いる熱可塑性樹脂について説明する。
本発明で用いる熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリアセタールなど、あるいはエチレン−塩化ビニル共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、スチレン−ブタジエン−アクリロニトリル共重合体、EPM、EPDMなどの熱可塑性エラストマーなどを1種または2種以上組み合わせて用いることができる。これらの中でも、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂は、強度、剛性および成形性に優れている点で好ましく、特にポリプロピレンは、これらの特性のバランスに優れ、低価格であることからより好ましい。さらに、ポリプロピレンの中でも、JIS K 6921−2:1997に規定された条件で測定されたMFR(メルトフローレイト、但し、230℃、21.17N)が、l〜200g/10分の範囲のものが好ましく、10〜150g/10分の範囲のものがより好ましい。
【0027】
さらに、熱可塑性樹脂と強化繊維との接着性を向上するために、熱可塑性樹脂を不飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸無水物などの酸、エポキシ化合物など、種々の化合物で変性処理したものを未変性の熱可塑性樹脂と併用することができる。変性処理は、例えば、ポリプロピレンに、マレイン酸、無水マレイン酸、アクリル酸などをグラフト共重合することにより行うことができる。変性処理したものとしては、特に強度向上の点からは、分子内に酸無水物基、カルボキシル基などの変性基を有するものが好ましい。
【0028】
熱可塑性樹脂は、その形状としては、粉末やペレット、フレークなどの粒子状のもの、もしくは繊維状のものを用いることができる。ウェブのハンドリング性や加熱膨張性粒子の歩留りを向上させる観点、ならびに、スタンパブルシートを製造する際、溶融した熱可塑性樹脂と強化繊維とを十分に絡ませ、強度と剛性を向上させる観点からは、繊維状のものを粒子状のものと併用することが好ましい。ここで、粒子状のものを用いる場合には、平均粒子径が、100〜2000μmφのものを用いることが好ましく、スタンパブルシート中に均一分散させる観点からは、100〜1000μmφのものがより好ましい。一方、繊維状のものを併用する場合には、平均直径が1〜50μmφ、平均長さが1〜50mmのものを用いることが好ましく、泡液中で均一分散させる観点からは、平均長さが1〜30mmのものがより好ましい。
【0029】
次に、本発明において用いる加熱膨張性粒子について説明する。
本発明で用いる加熱膨張性粒子とは、ある温度以上に加熱された時に、軟化したシェルがコアの気化膨張する圧力によって膨張する特性を有するものである。本発明は、ウェブ、スタンパブルシートおよびその膨張成形品を構成する材料として、この加熱膨張性粒子を用いるところに大きな特徴がある。この加熱膨張性粒子を用いることで、強化繊維のスプリングバック作用単独の場合よりも、より大きな膨張量を確保できるので、より低密度化が可能となり、軽量で剛性のある膨張成形品を得ることができる。
【0030】
本発明では、加熱膨張性粒子として公知のものを使用できるが、特に、コアが液状の炭化水素で、これを、ガスバリア性を有する熱可塑性樹脂からなるシェルで内包したコアシェル型の加熱膨張性粒子が好ましい。通常、コアに用いられる炭化水素は、シェルの熱可塑性樹脂の軟化点よりも低沸点のものが使用され、例えば、イソブタン、ペンタン、ヘキサン等の沸点が150℃以下の炭化水素類やエーテル類を挙げることができる。また、シェルを形成する熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体等のポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、メタクリル樹脂、ABS樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリアミド樹脂、ポリエチレンテレフクレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリウレタン、ポリアセタール、ポリフェニレンスルフィド、フッ素樹脂等、公知の熱可塑性樹脂を挙げることができる。特に好ましいものとしては、コアがイソブタン、ペンタン、ヘキサン等の液状の炭化水素からなり、シェルがアクリロニトリル共重合体、ポリ塩化ビニリデン等の熱可塑性樹脂からなる加熱膨張性粒子がある。
【0031】
加熱膨張性粒子の平均直径は、加熱膨張前で5〜200μmφであることが好ましく、より好ましくは10μmφ以上100μmφ未満、さらに好ましくは20μmφ以上100μmφ未満である。膨張前の粒子径が5μmφ未満であると、抄造時に強化繊維の隙間を通過して脱落し易く、歩留りが低下する。一方、200μmφ超であると、膨張後の加熱膨張性粒子の大きさが大き過ぎて膨張成形品の厚みが不均一となったり、表面品質の悪化を招いたりするからである。なお、加熱膨張性粒子は、膨張した時の平均直径が10〜2000μmφとなるものであることが好ましく、より好ましくは20〜1000μmφのものである。膨張後の加熱膨張性粒子の平均直径が小さ過ぎると、スタンパブルシートを膨張させるのに必要な加熱膨張性粒子の量(数)が多量となる。一方、膨張後の平均直径が大き過ぎると、膨張成形品の表面に凹凸が生じ、表面性状を悪化させる。なお、上記膨張後の加熱膨張性粒子の平均直径は、膨張成形品中の加熱膨張性粒子を、光学顕微鏡などで50個程度観察し、測定した直径を平均した値のことである。
【0032】
上述したように、加熱膨張性粒子は、ある温度以上に加熱されると、軟化したシェルがコアの気化膨張する圧力によって膨張を開始する。本発明では、この温度を膨張開始温度と言い、加熱膨張性粒子を10℃/分で昇温したときに、加熱腔張性粒子の粒子径が急激に大きくなり始める温度で定義する。本発明が用いる加熱膨張性粒子は、膨張開始温度は120℃以上のものが好ましく、130〜230℃のものがより好ましい。膨張開始温度が120℃未満では、加熱膨張性粒子自体の耐熱性に劣り、また、抄造したウェブの乾燥温度を極端に低くする必要があり、乾燥に長時間を要するため好ましくない。一方、膨張開姶温度が230℃を超えると、膨張させるための加熱温度が高温となり過ぎ、熱可塑性樹脂の劣化を招く可能性があるからである。
【0033】
上記加熱膨張性粒子の膨張開始温度は、マトリックスを構成する熱可塑性樹脂の融点との差が小さい方が好ましい。加熱膨張性粒子の膨張開始温度が、熱可塑性樹脂の融点よりも低過ぎると、熱可塑性樹脂が溶融して強化繊維の周りに流動し、付着する前に加熱膨張性粒子が膨張し過ぎることになり好ましくない。一方、膨張開始温度が高すぎると、十分な膨張厚みを得るためには高温に加熱する必要があり、熱可塑性樹脂を劣化させる可能性があるからである。したがって、加熱膨張性粒子の膨張開始温度とマトリックスを構成する熱可塑性樹脂の融点との差は、±30℃以内であることが好ましい。
【0034】
また、上記加熱膨張性粒子は、最大膨張温度が、熱可塑性樹脂の融点よりも高いことが好ましく、その温度差は50℃以内であることがより好ましい。ここで上記最大膨張温度とは、加熱膨張性粒子を10℃/分で昇温したときに、加熱膨張性粒子の粒径が最大となる温度のことである。最大膨張温度が熱可塑性樹脂の融点よりも高すぎると、十分な膨張性を得るためには、高い温度に加熱する必要があり、熱可塑性樹脂を劣化させる虞があるからである。
【0035】
次に、本発明のウェブの目付量、および、ウェブ、スタンパブルシート、膨張成形品を構成する強化繊維、熱可塑性樹脂および加熱膨張性粒子の配合率について説明する。
先ず、本発明のウェブ等の目付量は、100〜1000g/m2の範囲であることが好ましい。ウェブの目付量が100g/m2未満では、膨張成形品とした時に、十分な厚みが得られず、剛性も低下するからであり、一方、1000g/m2超では、膨張成形品の軽量化が困難となるからである。より好ましい目付量は100〜700g/m2の範囲であり、さらに好ましくは100〜500g/m2である。
【0036】
次に、本発明のウェブ等を構成する強化繊維と熱可塑性樹脂の配合率は、用いる強化繊維と熱可塑性樹脂の比重や、他の添加剤や着色剤の含有量によっても異なるが、曲げ強度(座屈強度)や曲げ弾性率(弾性勾配)などの機械的強度が高い膨張成形品を得るためには、強化繊維/熱可塑性樹脂が質量比で3/97〜60/30の範囲であることが好ましい。
【0037】
また、本発明のウェブ等を構成する加熱膨張性粒子の含有量は、強化繊維と熱可塑性樹脂の合計100質量部に対して、1〜40質量部であることが好ましい。1質量部未満では、膨張性の向上効果が現れず、一方、40質量部を超えると、膨張性の向上効果が大きくなり過ぎ、膨張成形品の内部だけでなく表面層までもが低密度化し、剛性や耐座屈性が低下する。
【0038】
なお、本発明のウェブ等は、上記した熱可塑性樹脂、強化繊維、加熱膨張性粒子の他に、酸化防止剤、耐光安定剤、金属不活性化剤、難燃剤、カーボンブラック、VOC吸着剤、VOC分解剤、消臭剤などの添加剤や着色剤、有機結合剤等を要求に応じて含有させることができる。また、上記の添加剤や着色剤は、例えば、強化繊維や熱可塑性樹脂に予めコーティングしておいたり、混合時に配合したり、ウェブにスプレーなどで噴霧して添加することによって含有させてもよい。
【0039】
次に、本発明に係るウェブ、スタンパブルシートおよび膨張成形品を製造する方法について説明する。
本発明に係るウェブの製造方法は、分散液である微小気泡を含む界面活性剤含有水性媒体中に、強化繊維、熱可塑性樹脂および加熱膨張性粒子を分散させた泡液を抄造して製造するところに特徴がある。上記原料を泡液ではなく、増粘剤や凝集剤を含まない水中に分散、混合した場合には、強化繊維、熱可塑性樹脂、加熱膨張性粒子のそれぞれの比重が異なるため、原料が混合中に分離して不均一な分散状態になったり、また、脱水するときに粒子径の小さい加熱膨張性粒子がウェブを通過して歩留りが低下したりする。なお、増粘剤や凝集剤を含む水中に分散混合した場合には、前述したように、加熱膨張性粒子が凝集してしまう。一方、泡液を使用すると、泡の表面に強化繊維、熱可塑性樹脂、加熱膨張性粒子が保持され、泡液中に均一に分散するため、分散液の輸送中にも分離が起こらない。
【0040】
本発明におけるウェブの製造は、強化繊維、熱可塑性樹脂、加熱膨張性粒子を含む分散液(泡液)を、抄紙スクリーンのような多孔性支持体上に注ぎ、多孔性支持体の下方から吸引して脱泡し、分散液中の固形分を多孔性支持体上に堆積させることにより行われる。熱可塑性樹脂が、粉末やペレット、フレークなどの粒子状である場合、熱可塑性樹脂や加熱膨張性粒子が強化繊維のフィルター効果によりろ過されて、ウェブ中に残存する。そのとき、加熱膨張性粒子の粒径は、熱可塑性樹脂より小さいので、加熱膨張性粒子は多孔性支持体側に堆積し、偏在し易くなる。すなわち、多孔性支持体側の表面近傍には、加熱膨張性粒子が多く存在し、そこから内部に行くに従って加熱膨張性粒子は少なくなり、反対側の表面近傍では、加熱膨張性粒子がほとんど存在しないウェブが得られる。
【0041】
上記泡抄造法で用いる界面活性剤としては、アニオン系、ノ二オン系、カチオン系の何れを用いてもよい。特に、ドデシルベンゼルスルホン酸ナトリウム、やし油脂肪酸ジエタノールアミド等は、強化繊維と熱可塑性樹脂を主成分とする原料を、媒体中に均一に分散させる効果の点において優れているので、好適に用いることができる。
【0042】
上記泡抄造して得られたウェブは、加熱膨張性粒子が最大膨張しない条件下(温度と時間)で乾燥する。すなわち、ウェブ中の加熱膨張性粒子を乾燥の段階で最大膨張させてしまうと、ウェブのハンドリング性が低下するだけでなく、スタンパブルシートを製造する際の圧縮時に加熱膨張性粒子が潰れてしまうため、その後、膨張成形品を製造する際のスタンパブルシートの膨張性が不十分となる場合があるからである。
【0043】
加熱膨張性粒子が最大膨張するには、ある一定の熱量が必要である。したがって、加熱膨張性粒子を最大膨張させないためには、乾燥時の投入熱量がその一定の熱量未満となるよう、加熱温度と時間を制御する必要がある。具体的には、乾燥のための加熱温度は、最大膨張温度から30℃以下とし、加熱時間は、加熱温度が最大膨張温度以下の時は、{2×(最大膨張温度−膨張開始温度)}分以内とし、加熱温度が最大膨張温度よりも高い時は、{300/(加熱温度−最大膨張温度)}分以内かつ{2×(最大膨張温度−膨張開始温度)}分以内とすることが好ましい。
【0044】
なお、上記泡抄造して得たウェブに、有機結合剤を含むエマルジョンや水溶液をスプレー噴霧あるいはロールコーターで塗布し、その反対面側から真空吸引等で含浸させた場合には、ウェブを乾燥したときに強化繊維、熱可塑性樹脂、加熱膨張性粒子が効率的に付着するため、歩留りが向上するだけでなく、ハンドリング性が向上し、生産効率も向上するので好ましい。
【0045】
次に、本発明のスタンパブルシートの製造方法について説明する。
本発明のスタンパブルシートは、上記泡抄造により得たウェブを、熱可塑性樹脂の軟化点または融点以上でかつ加熱膨張性粒子が最大膨張をしない条件下(温度と時間)で加熱し、加圧した後、冷却固化することにより、熱可塑性樹脂を溶融させてマトリックスを形成させ、分散している強化繊維と加熱膨張性粒子とを溶融固化した熱可塑性樹脂により十分に接着、結合させることにより製造する。ここで、上記最大膨張をしない条件(温度と時間)とは、前述した条件と同じである。熱可塑性樹脂の融点以上とする理由は、融点未満では、熱可塑性樹脂が強化繊維と加熱膨張性粒子とに十分に融着せず、必要な強度が得られないからであり、一方、加熱膨張性粒子が最大膨張しない条件下で加熱するのは、この加熱工程で加熱膨張性粒子を最大膨張させてしまうと、スタンパブルシートのハンドリング性が低下するだけでなく、スタンパブルシート製造時の圧縮により加熱膨張性粒子が潰れてしまい、その後の膨張成形品の製造に必要な膨張性が得られない場合があるからである。
【0046】
ウェブを加熱し、熱可塑性樹脂を溶融させてから加圧してスタンパブルシートを製造する際の加圧条件は、スタンパブルシートの比重が0.3以上となるよう圧縮することが好ましい。0.3未満では、熱可塑性樹脂の流動性が不十分であり、マトリックスである熱可塑性樹脂の中に強化繊維と加熱膨張性粒子が分散した構造が形成できないからである。より好ましくは比重0.4以上である。ただし、圧縮しすぎると、強化繊維を折損したり、シート目付が小さくなる(シート面積が大きくなって厚みが薄くなる)可能性があるので、空隙率がゼロとなる圧力以下で圧縮することが好ましい。
【0047】
なお、本発明のスタンパブルシートの製造方法においては、上記ウェブの加圧は、熱可塑性樹脂を溶融させた後で行ってもよく、加熱と加圧を同時に行ってもよい。加圧方法は、バッチ式の間欠プレス法、テフロンやスチールのベルトを用いた連続プレス法、ロールプレス法等があるが、いずれの方法を用いてもよい。スタンパブルシートのハンドリング性を高めるためには、熱可塑性樹脂が溶融している間に、加圧し、その後、除荷して膨張させ、加圧時よりも厚い状態で冷却してもよい。さらに、ウェブの乾燥と加熱を同時に行い、引き続き加圧を行う方法が、製造効率もよく経済的である。
【0048】
次に、本発明に係る膨張成形品の製造方法について説明する。
本発明の膨張成形品は、上記のようにして作製したスタンパブルシートを、熱可塑性樹脂の軟化温度もしくは融点および加熱膨張性粒子の膨張開始温度の以上に加熱し、上記熱可塑性樹脂を軟化または溶融させると共に加熱膨張性粒子を膨張させ、その後、この膨張シートを金型内に供給して金型を閉じ、金型クリアランスを調整して成形し、その後、冷却して固化することにより製造する。
【0049】
膨張成形品の比重は、全体で0.03以上0.2以下とすることが好ましい。比重が0.03未満では、膨張成形品の耐座屈性が低下する場合があるためであり、一方、0.2超えでは、必要な剛性を得るためには厚さを大きくする必要があり、軽量化を達成できない場合があるためである。また、本発明の膨張成形品は、全体の比重を0.2以下とした上で、その周囲に比重が0.2超の外周部を形成することがより好ましい。比重を0.2以上の外周部を有することで、加熱膨張性粒子の脱落が防止できるだけでなく、引き裂け強度が向上して、成形品全体が折れ難くなるからである。
【0050】
さらに、本発明の膨張成形品は、上記の膨張シートを金型内に供給する際に、意匠性を有する表皮材を、加熱膨張性粒子がほとんど存在しない面側に積層し、膨張成形と表皮材との接着とを同時に行い、表皮が貼合された膨張成形品を得ることもできる。
【0051】
また、本発明の膨張成形品は、耐座屈性や剛性などの強度特性や、吸音特性をより改善するために、膨張成形品の少なくともいずれか一方の面に、高密度樹脂層を形成してもよい。上記高密度樹脂層とは、膨張成形品の内層部よりも空隙率が少ない、もしくは空隙が存在しない樹脂層のことである。
【0052】
高密度樹脂層を形成する方法としては、従来から公知の技術が使用できる。例えば、ウェブ、スタンパブルシート、膨張成形品の少なくともいずれか一方の表面に、高密度樹脂層を形成する樹脂を含有する液を含浸させる方法や溶融した高密度樹脂をシート状に押し出して積層する方法、高密度樹脂製の樹脂シートを積層して形成する方法などが好適である。中でも、樹脂シートを積層する方法は、ウェブ、スタンパブルシート、膨張成形品のいずれにでも積層しやすく、好ましい。樹脂シートの厚みとしては、重量増加を抑制するために、200μm以下が好ましく、より好ましくは20〜150μmである。ここで、上記樹脂シートは、ポリプロピレンやナイロン、直鎖状ポリエチレンなどからなるシート、あるいはそれらを2層以上に積み重ねた多層フィルムであってもよい。また、上記シートには、吸音性を得るため、ニードルパンチやスリットなどで貫通孔を施したものであってもよい。
【実施例1】
【0053】
分散液として、1.5リットルの水に界面活性剤であるドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを0.5g/l添加し、攪拌して微小気泡を含む泡液を調整し、この泡液の中に、表1に示した強化繊維(炭素繊維、平均直径 7μm、平均長さ 13μm)および熱可塑性樹脂(粒子状ポリプロピレン、平均粒径 300μmφ)を、乾燥質量で表2に示した配合率で投入し、さらに加熱膨張性粒子を投入して、10分間攪拌し、分散させた。次いで、この泡液を、抄造器に注ぎ、吸引、脱泡し、強化繊維および熱可塑性樹脂の合計目付量が400g/m2、加熱膨張性粒子の目付量が30g/m2のウェブ(泡抄造ウェブ)を作製した。なお、抄造する時の多孔質支持体は、開口孔が0.1×0.2mmのものを使用した。
該ウェブの断面を顕微鏡観察したところ、強化繊維と熱可塑性樹脂および加熱膨張性粒子が分散していると共に、該加熱膨張性粒子は、多孔質支持体側のウェブ表面近傍に多く存在し、そこから内部に行くに従い減少し、反対側のウェブ表面近傍には加熱膨張性粒子はほとんど存在していなかった。
【0054】
次に、上記のようにして作製したウェブを、120℃の温度で90分間乾燥してから、180℃のプレス盤間に配置し、加熱膨張性粒子が最大膨張しないよう、0.1MPaの圧力で2分間プレスした。このときのプレス盤間のクリアランスは1mmであり、ウェブは比重0.43まで圧縮されていた。続いて、加熱加圧されたウェブを冷却盤間に配置し、3mmのクリアランスを設けて冷却盤を閉じ、冷却してスタンパブルシート(泡抄造スタンパブルシート)を製造した。
上記スタンパブルシートの断面を顕微鏡観察したところ、熱可塑性樹脂からなるマトリックス中に強化繊維と加熱膨張性粒子が分散した構造を呈しているが、ウェブと同様、加熱膨張性粒子は、多孔質支持体側の表面近傍に多く存在しており、内部に行くに従い少なくなり、反対側の表面近傍にはほとんど存在していなかった。
【0055】
次に、このスタンパブルシートを、遠赤外線加熱炉で190℃まで加熱し、熱可塑性樹脂(ポリプロピレン)を溶融させ、加熱膨張性粒子を膨張させてから、クリアランスを5mmに設定した金型上に置き、圧縮、冷却して、膨張成形品を製造した。
この膨張成形品の断面を顕微鏡観察したところ、強化繊維と膨張した加熱膨張性粒子が熱可塑性樹脂で接着され、分散した構造を呈しているが、ウェブ、スタンパブルシートと同様、加熱膨張性粒子は、多孔質支持体側の膨張成形品表面近傍に多く存在し、内部に行くに従い少なくなり、反対側の表面近傍にはほとんど存在していなかった。
また、別途、このスタンパブルシートを遠赤外線加熱炉で190℃の温度まで加熱し、無拘束の状態で膨張させ、自然冷却して膨張シートを作製し、その膨張シートの両面を観察したところ、両表面とも凹凸が無く、平滑であった。この膨張シートの厚みは10.4mmであった。
【0056】
続いて、上記膨張成形品から、長さ150mm、幅50mmの試験片を採取し、スパン100mm、クロスヘッドスピード50mm/分で、加熱膨張性粒子が少ない面側、即ち、高密度面側から荷重をかけて3点曲げ試験を行い、座屈するまでの最大荷重と、荷重−変位曲線の初期傾きから求まる弾性勾配を測定した。
さらに、JIS A 1405:1998に準拠して、加熱膨張性粒子の少ない面側、即ち、高密度面側の表面に対して垂直に音波を入射し、背後空気層0mmの状態で垂直入射吸音率の測定を行った。
【0057】
【表1】

【0058】
【表2】

【実施例2】
【0059】
実施例1で作製したウェブを、加熱膨張性粒子が最大膨張しないよう、180℃で5分間加熱して熱可塑性樹脂を溶融させてから、ウェブの多孔質支持体側の面には、ポリプロピレン/ナイロン2層フイルム(ポリプロピレン(PP):厚み 40μm、融点 165℃、MFR 8g/10分、ナイロン(PA):厚み 25μm、融点 220℃)を、ポリプロピレンがウェブ側になるように積層し、ウェブの他方の面には、ニードルパンチにより直径1mmφの孔を5個/cm2で全面に加工した直鎖状ポリエチレン/ポリプロピレン2層フイルム(直鎖状ポリエチレン(LLDPE):厚み 50μm、融点 120℃、MFR 8g/10分、ポリプロピレン:厚み 40μm、融点 165℃、MFR 8g/10分)を、ポリプロピレンがウェブ側になるように積層し、続いて、これをクリアランス1.2mmに設定したロール間に通過させて圧縮し、比重0.36のスタンパブルシートを作製した。なお、上記PPのMFRは、JIS K 6921−2:1997に準拠し、230℃、21.17Nの条件で測定した値であり、また、LLDPEのMFRは、JIS K 6922−2:1997に準拠し、190℃、21.17Nの条件で測定した値である。
上記スタンパブルシートの断面を顕微鏡観察したところ、スタンパブルシートの両表面には、(高密度)樹脂層が存在しており、その樹脂層の内部は、熱可塑性樹脂からなるマトリックス中に強化繊維と加熱膨張性粒子が分散した構造となっているが、該加熱膨張性粒子は、多孔質支持体側に多く存在し、反対側にはほとんど存在していなかった。
また、上記スタンパブルシートを遠赤外線加熱炉で190℃まで加熱し、無拘束の状態で膨張させ、自然冷却して膨張シートを作製したところ、膨張シートの両表面とも凹凸が無く、平滑であった。この膨張シートの厚みは10.6mmであった。
【0060】
次に、上記のようにして得たスタンパブルシートを、遠赤外線加熱炉で190℃に加熱して膨張させ、クリアランスを6mmに設定した金型を用いて成形し、膨張成形品を得た。
該膨張成形品の断面を顕微鏡観察したところ、膨張成形品の両表面には(高密度)樹脂層が存在すると共に、その樹脂層の内部は、熱可塑性樹脂からなるマトリックス中に強化繊維と膨張した加熱膨張性粒子が分散した構造となっているが、該加熱膨張性粒子は、多孔質支持体側に多く存在し、反対側にはほとんど存在していなかった。
また、上記膨張成形品について、実施例1と同様にして、3点曲げ試験および垂直入射吸音率の測定を行った。
【実施例3】
【0061】
実施例2で作製したスタンパブルシートを、遠赤外線加熱炉で190℃まで加熱して膨張させてから、直鎖状ポリエチレン(LLDPE)フィルムを積層した面側(多孔質支持体側とは反対面側)に、表皮として、ポリエステル製不織布(目付 200g/m2、厚み 2mm)をさらに積層し、その後、クリアランスを8mmに設定した金型を用いて膨張成形を行い、表皮が貼合された膨張成形品を得た。
この膨張成形品の表皮を手で剥がしたところ、表皮の部分で破れが起こり、表皮は十分に接着していることが確認された。
また、この膨張成形品の断面を顕微鏡観察したところ、膨張成形品の多孔質支持体側表面には(高密度)樹脂層が、その反対側表面には表皮層と(高密度)樹脂層が存在しており、その樹脂層の内部は、熱可塑性樹脂からなるマトリックス中に強化繊維と膨張した加熱膨張性粒子が分散した構造となっているが、該加熱膨張性粒子は、多孔質支持体側に多く存在しており、反対側にはほとんど存在していなかった。
さらに、上記膨張成形品について、実施例1と同様にして、3点曲げ試験および垂直入射吸音率の測定を行った。
【実施例4】
【0062】
比較例として、上記実施例1において用いた泡液に代えて、凝集剤として0.5mass%のポリアクリルアミド10gと増粘剤としてキタンサンガム0.05gを1.5リットルの水に添加した微小気泡を含まない水溶液を分散液として用い、この分散液に炭素繊維とポリプロピレンを表2に示した配合率での投入し、さらに加熱膨張性粒子を投入して、実施例1と同様に、合計目付量が400g/m2で、加熱膨張性粒子の目付量が30g/m2のウェブを作製した。
このウェブの断面を顕微鏡観察したところ、強化繊維は均一に分散していたが、加熱膨張性粒子は凝集してフロックを形成しており、そのフロックが厚み方向に均一に分散していた。
【0063】
次に、このウェブを用いて、実施例1と同様にして、スタンパブルシート、膨張成形品を製造し、実施例1と同様に、3点曲げ試験および垂直入射吸音率の測定を行った。
また、スタンパブルシート、膨張成形品の断面を顕微鏡観察したところ、ウェブと同様に、加熱膨張性粒子が凝集してフロックを形成しており、そのフロックが厚み方向に均一に分散していた。
また、上記スタンパブルシートを遠赤外線加熱炉で190℃まで加熱し、無拘束の状態で膨張させ、自然冷却して膨張シートを作製したところ、該膨張シートは加熱膨張性粒子が凝集しているため両表面とも凹凸が激しかった。また、この膨張シートの厚みは9.2mmでしかなかった。
【実施例5】
【0064】
比較例として、強化繊維(炭素繊維(平均直径 7μm、平均長さ 40mm)、熱可塑性樹脂(繊維状ポリプロピレン (平均直径 17μm、平均長さ 20mm))を、表2に示した配合率でカードマシンに供給し、解繊、混合し、その後、ニードルパンチ機(フェルト針25番)で20点/cm2のニードリングを行い、400g/m2のウェブを作製し、そのウェブから300×300mmのサンプルを採取した。
次に、上記ウェブサンプルを、アクリルスチレン系エマルジョンの固形分濃度が1mass%、加熱膨張性粒子が20mass%の溶液に浸漬し、ロールで圧縮し、内部まで加熱膨張性粒子を均一に含浸させて、加熱膨張性粒子が2.7g残存するように調節した。このウェブを120℃で乾燥して、炭素繊維が160g/m2、繊維状ポリプロピレンが240g/m2、加熱膨張性粒子が30g/m2からなるウェブを作製した。
このウェブの断面を顕微鏡観察したところ、炭素繊維、繊維状ポリプロピレンおよび加熱膨張性粒子は、厚み方向で均一に分散していた。
【0065】
次に、上記ウェブを180℃で5分間加熱してポリプロピレンを溶融させ、実施例2と同様に、ウェブの一方の面には、ポリプロピレン/ナイロン2層フイルム(ポリプロピレン(PP):厚み 40μm、融点 165℃、MFR 8g/10分、ナイロン(PA):厚み 25μm、融点 220℃)をポリプロピレンがウェブ側になるように積層し、ウェブの反対面側には、ニードルパンチにより直径1mmφの孔を5個/cm2で全面に加工した直鎖状ポリエチレン/ポリプロピレン2層フイルム(直鎖状ポリエチレン(LLDPE):厚み 50μm、融点 120℃、MFR 8g/10分、ポリプロピレン:厚み 40μm、融点 165℃、MFR 8g/10分)を、ポリプロピレンがウェブ側になるように積層し、これをクリアランス1.2mmに設定したロール間に通過して圧縮し、比重0.36のスタンパブルシートを作製した。
【0066】
その後、上記のようにして得たスタンパブルシートを、遠赤外線加熱炉で190℃に加熱し、クリアランスを6mmに設定した金型を用いて膨張成形を行ったが、本スタンパブルシートは、ニードルパンチにより炭素繊維どうしが強固に絡み合っていたため、膨張量が小さく、4.8mmの膨張成形品しか得られなかった。
上記スタンパブルシート、膨張成形品の断面を顕微鏡観察したところ、ウェブと同様に、強化繊維および加熱膨張性粒子は、厚み方向で均一に分布していた。
また、膨張成形品の表面には、ニードルパンチによる針痕が残存していた。
さらに、この膨張成形品について、実施例1と同様にして、3点曲げ試験および垂直入射吸音率の測定を行った。
【0067】
上記実施例1〜5で実施した3点曲げ試験の結果を表2中に併記して示した。この結果から、本発明例(実施例1〜3)では、最大荷重および弾性勾配のいずれも高い値が得られている。これに対して、加熱膨張性粒子が凝集して均一に分布している実施例4の比較例、および、加熱膨張性粒子が均一に分布し、膨張成形品の表面に針痕が残存している実施例5の比較例では、十分な曲げ強度と剛性を得ることができない。
【0068】
また、上記実施例1〜5で実施した垂直入射吸音率の測定結果を図1に示した。図1から、加熱膨張性粒子が一方の面側に偏在し、表面に高密度な層を有する本発明の膨張成形品(実施例1〜3)は、加熱膨張性粒子が均一に分布し、表面に高密度な層を有しない比較例の膨張成形品(実施例4、5)より、吸音特性に優れていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明の膨張成形品は、軽量で吸音特性に優れる他、機械的強度や表面性状にも優れるので、自動車分野や建材分野だけでなく、家電製品の分野にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】スタンパブルシート膨張成形品の吸音特性を比較して示したグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂、強化繊維および加熱膨張性粒子を分散含有するウェブであって、該ウェブに含まれる加熱膨張性粒子がいずれか一方の面側に偏在していることを特徴とするウェブ。
【請求項2】
熱可塑性樹脂からなるマトリックス中に、強化繊維および加熱膨張性粒子を分散含有するスタンパブルシートであって、該スタンパブルシートに含まれる加熱膨張性粒子がいずれか一方の面側に偏在していることを特徴とするスタンパブルシート。
【請求項3】
強化繊維および膨張した加熱膨張性粒子が、熱可塑性樹脂で接着され、分散したスタンパブルシートの膨張成形品であって、該膨張成形品に含まれる加熱膨張性粒子がいずれか一方の面側に偏在していることを特徴とするスタンパブルシート膨張成形品。
【請求項4】
強化繊維、熱可塑性樹脂および加熱膨張性粒子を、微小気泡を含む界面活性剤含有水性媒体中に均一に分散させた泡液を調製し、この泡液を抄造することによってウェブを製造する方法において、抄造の際に、吸引によって脱泡して加熱膨張性粒子をウェブのいずれか一方の面側に偏在させることを特徴とするウェブの製造方法。
【請求項5】
強化繊維、熱可塑性樹脂および加熱膨張性粒子を、微小気泡を含む界面活性剤含有水性媒体中に均一に分散させた泡液を調製し、この泡液を抄造してウェブとし、その後、そのウェブを加熱し、加圧し、冷却して、熱可塑性樹脂からなるマトリックス中に強化繊維および加熱膨張性粒子が分散したスタンパブルシートを製造する方法において、上記抄造の際に、吸引によって脱泡して加熱膨張性粒子をウェブのいずれか一方の面側に偏在させることにより、スタンパブルシートのいずれか一方の面側に加熱膨張性粒子を偏在させることを特徴とするスタンパブルシートの製造方法。
【請求項6】
強化繊維、熱可塑性樹脂および加熱膨張性粒子を、微小気泡を含む界面活性剤含有水性媒体中に均一に分散させた泡液を調製し、この泡液を抄造してウェブとし、その後、そのウェブを加熱し、加圧し、冷却してスタンパブルシートとし、さらにそのスタンパブルシートを加熱し、前記加熱膨張性粒子を膨張させてから成形し、冷却することにより、強化繊維および膨張した加熱膨張性粒子が熱可塑性樹脂で接着されて分散したスタンパブルシートの膨張成形品を製造する方法において、上記抄造の際に、吸引によって脱泡して加熱膨張性粒子をウェブのいずれか一方の面側に偏在させることにより、膨張成形品のいずれか一方の面側に加熱膨張性粒子を偏在させることを特徴とするスタンパブルシート膨張成形品の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−342437(P2006−342437A)
【公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−166414(P2005−166414)
【出願日】平成17年6月7日(2005.6.7)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(595030354)ケープラシート株式会社 (4)
【Fターム(参考)】