説明

ウェルプレート、およびウェルプレートを用いた観察方法

【課題】ウェルの端の近傍についても良好な画像を得ることができるウェルプレート等を提供する。
【解決手段】ウェルの側壁面に、鉛直方向に対して傾いた角度が与えられ、前記角度は、前記ウェルに収容される液体の前記側壁面の近傍における液面がほぼ水平になるように設定されている。前記側壁面の角度が鉛直方向について連続的に変化し、前記液体の前記側壁面の近傍における前記液面の角度が前記液面の高さに応じて変化するように構成してもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顕微鏡による観察の対象となる試料を収容するウェルを備えるウェルプレート等に関する。
【背景技術】
【0002】
創薬スクリーニング等の分野では、一度に多数の条件の細胞試料を観察するため、プレパラートの代わりにウェルプレート(マイクロタイタープレートあるいはマイクロプレート等とも呼ばれる)を用いることが多い。ウェルプレートの寸法は、Society of Biomolecular Screening(SBS)により標準規格が制定されている。
【0003】
一方、細胞試料の観察等に用いられる位相差観察とは、Zernike(1953年ノーベル賞受賞)が発明した観察手法で、細胞のような無色透明な観察対象であっても、観察対象とその周辺部との屈折率の違いを利用して画像のコントラストを発生させることで、観察対象を観察できる方法である。創薬分野に限らず、生物学分野、生命科学分野で広く使われている。生物学の観点からすると、蛍光標識等の方法のように観察対象を染色する必要がないため、染色による生物学的な影響(毒性)を与えることなく、生きた細胞をそのままの姿で観察する手法として重要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−91506号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般に、位相差観察を行うための位相差顕微鏡の照明は透過照明を用いる。つまり、対物レンズとは反対側から光を照射し、観察対象を透過した(観察対象により散乱された)光を観察する。このため、光路のうち、対物レンズの後段だけでなく、照明光(上流)側の光路に存在するあらゆるもの、例えば、埃、ゴミ、細胞を培養するための培地(液体)も観察像に影響を与えることになる。
【0006】
図7は、ウェルプレートに形成されたウェルの部分の断面形状を示しているが、この例では、上方(図7の上方に相当)から照明してウェル101の底面101aに貼り付いた細胞を下方にある対物レンズ103から上向きに観察する。このように、いわゆる倒立型の顕微鏡が構成されている。このとき、ウェル101の周辺部において、細胞を培養するための液体である培地が表面張力によりウェル101の側壁101bに対してある接触角を持つことが観察に影響を与える。すなわち、図7に示すように、培地は一般には上方の空気および培地の蒸気とは異なる屈折率を持つため、ウェル101の側壁101bに近い、培地の表面102が水平でない領域では、培地の液面がレンズ効果を持ち、照明の光線が設計通りの光路を通らなくなり、正しい位相差観察ができなくなる。
【0007】
この効果の影響は、とくに96ウェルプレート(ウェルが縦横に12×8=96個配置されたウェルプレート)等、個々のウェルの径が小さい場合に大きくなり、視野の中心部では位相差観察が可能であるが、視野の中心から少しでも離れると位相差によるコントラストが付かないという問題がある。ウェルの端のほうに存在する細胞を観察できないと、1個のウェルから得られる画像データ、つまり、1個のウェルで観察できる細胞数が少なくなり、多数の細胞を用いた高い統計精度のデータが得られなくなってしまう。
【0008】
上記特許文献1には、培地の曲面によるレンズ効果を相殺するような屈折力可変レンズ機構によりこのような問題を解決する装置が開示されている。しかし、このような機構は大掛かりで複雑であり、装置のコストアップを招くという問題がある。
【0009】
本発明の目的は、ウェルの端の近傍についても良好な画像を得ることができるウェルプレート等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のウェルプレートは、顕微鏡による観察の対象となる試料を収容するウェルを備えるウェルプレートにおいて、前記ウェルの側壁面に、鉛直方向に対して傾いた角度が与えられ、前記角度は、前記ウェルに収容される液体の前記側壁面の近傍における液面がほぼ水平になるように設定されていることを特徴とする。
このウェルプレートによれば、ウェルの側壁面にウェルに収容される液体の側壁面の近傍における液面がほぼ水平になるような角度が与えられているので、ウェルの端の近傍についても良好な画像を得ることができる。
【0011】
前記側壁面の角度が鉛直方向について連続的に変化し、前記液体の前記側壁面の近傍における前記液面の角度が前記液面の高さに応じて変化するように構成されていてもよい。
【0012】
本発明の観察方法は、顕微鏡による観察の対象となる試料を収容するウェルを備えるウェルプレートを用いて、前記試料を観察する観察方法において、前記ウェルに液体を入れるステップと、前記液体が収容された前記ウェル内の前記試料を顕微鏡により観察するステップと、を備え、前記ウェルの側壁面に、鉛直方向に対して傾いた角度が与えられ、前記角度は、前記ウェルに収容された前記液体の前記側壁面の近傍における液面がほぼ水平になるように設定されていることを特徴とする。
この観察方法によれば、ウェルの側壁面にウェルに収容される液体の側壁面の近傍における液面がほぼ水平になるような角度が与えられているので、ウェルの端の近傍についても良好な画像を得ることができる。
【0013】
前記観察するステップによる観察の前に、前記ウェルに入れられた液体の液面と、前記ウェルの側壁面との相対的な位置関係を調整するステップを備え、前記側壁面の角度が鉛直方向について連続的に変化し、前記液体の前記側壁面の近傍における前記液面の角度が前記液面の高さに応じて変化するように構成され、前記位置関係を調整するステップでは、前記ウェルに収容される液体の前記側壁面の近傍における液面がほぼ水平になるように前記位置関係を調整してもよい。
【0014】
前記ウェル内の前記試料に、前記液面を介して照明光を照射するステップを備え、前記観察するステップでは、前記照明光により前記試料を観察してもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明のウェルプレートによれば、ウェルの側壁面にウェルに収容される液体の側壁面の近傍における液面がほぼ水平になるような角度が与えられているので、ウェルの端の近傍についても良好な画像を得ることができる。
【0016】
本発明の観察方法によれば、ウェルの側壁面にウェルに収容される液体の側壁面の近傍における液面がほぼ水平になるような角度が与えられているので、ウェルの端の近傍についても良好な画像を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施例1のウェルプレートの構成を示す図であり、図1(a)はウェルプレートに形成されたウェルの鉛直断面図、図1(b)は図1(a)のB−B線方向から見た上面図。
【図2】実施例2のウェルプレートの構成を示す図であり、図2(a)はウェルプレートに形成されたウェルの鉛直断面図、図2(b)は図2(a)のB−B線方向から見た上面図。
【図3】実施例3のウェルプレートの構成を示す図であり、図3(a)はウェルプレートに形成されたウェルの鉛直断面図、図3(b)は図3(a)のB−B線方向から見た上面図。
【図4】実施例4のウェルプレートの構成を示す図であり、図4(a)はウェルプレートに形成されたウェルの鉛直断面図、図4(b)は図4(a)のB−B線方向から見た上面図。
【図5】実施例5および実施例6のウェルプレートの構成を示す図であり、(a)は実施例5のウェルプレートに形成されたウェルの鉛直断面図、(b)は実施例6のウェルプレートに形成されたウェルの鉛直断面図。
【図6】実施例7のウェルプレートの構成を示す図であり、(a)はウェルの構成を示す斜視図、(b)はジグの構成を示す鉛直断面図。
【図7】従来のウェルプレートに形成されたウェルの断面図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、液体である培地が固体であるウェルの側壁に接触する際の接触角を利用したものである。接触角は表面張力で決まっており、それは固体の材質、液体の種類の組み合わせと、固体の表面状態(粗さや洗浄度など)で決まる固有の角度である。ウェルの側壁近傍でも、培地の液面がほぼ水平になっていれば、その領域でも位相差観察に支障がでない。そのような条件を満足させるため、本発明では、ウェルの側壁面を鉛直方向に対して傾かせることで、この固有の接触角を利用してウェルの側壁面近傍における培地の液面がほぼ水平になるようにしている。
【0019】
以下、本発明によるウェルプレートの実施形態について説明する。
【実施例1】
【0020】
図1は本発明による実施例1のウェルプレートの構成を示す図であり、図1(a)はウェルプレートに形成されたウェルの鉛直断面図、図1(b)は図1(a)のB−B線方向から見た上面図である。
【0021】
本実施例のウェルプレートは、図1(a)および図1(b)に示すウェル1,1,・・・を所定数(例えば、縦横に12×8=96個)配列して構成される。
【0022】
図1(a)および図1(b)に示すように、ウェル1は鉛直軸を中心とする回転対称の形状に形成されている。ウェル1の側壁11は鉛直方向に対する傾き角が異なる2つの領域が交互に繰り返された形状とされている。このような繰り返し形状により、ウェル1の水平方向の径を一定の範囲に収めることができる。ウェル1の内部には、試料となる液状の培地が収容される。
【0023】
本実施例のウェルプレートでは、培地の液面12が接触すべきウェル1の側壁11の傾き(鉛直方向に対する角度)は一定とされている。このような構成は、予めウェル1の側壁11の材質と培地の組み合わせが固定され、接触角が既知であり安定している場合に好適である。
【0024】
また、本実施例のウェルプレートでは、鉛直方向の位置が異なる複数個所(3箇所)の領域で、同一の傾きを側壁11に与えているので、培地の液面12の位置、すなわち、培地の分量を広い範囲で選択可能となる。
【0025】
このように液面12が接する領域における側壁11の傾きを最適化することにより、側壁11の近傍において液面12をほぼ水平に保つことができる。また、側壁11から離れたウェル1の中央領域では、接触角の影響は小さいため側壁11の傾きに依らず液面12は水平となる。このため、本実施例のウェルプレートでは、培地の液面12をウェル1の中心部から側壁11の近傍に至る広い範囲で、ほぼ水平にすることができる。このため、ウェル1の上方からの照明の光線が設計通りの光路を通り、ウェル1の下方に配置された対物レンズ103を介する正しい位相差観察が広範囲で可能となる。
【0026】
本実施例では、ウェルの形状を、鉛直軸を中心とする回転対称の形状としているが、このような形状は培地の液面の全体を水平に近づける観点で望ましい。しかし、充分な効果が得られる場合には、ウェルの形状を回転対称の形状と異なるものとしてもよい。
【0027】
また、ウェルの側壁の傾きが極端に大きくなると、上方から見たときのウェルの実質的な開口が小さくなってしまうので、可能な限り接触角が90度に近くなるような側壁の物質を選択し、ウェルの側壁の傾きを小さくすることが望ましい。
【0028】
なお、図1はウェルの形状を例示したものであり、ウェルの形状は任意である。例えば、ウェルの側壁の向きが鉛直方向にごく近い場合には、上記の繰り返し形状をとらず、ウェルの底部から上部に向かって連続して径が拡大するような形状としてもよい。
【実施例2】
【0029】
図2は本発明による実施例2のウェルプレートの構成を示す図であり、図2(a)はウェルプレートに形成されたウェルの鉛直断面図、図2(b)は図2(a)のB−B線方向から見た上面図である。
【0030】
本実施例のウェルプレートは、図2(a)および図2(b)に示すウェル2,2,・・・を所定数(例えば、縦横に12×8=96個)配列して構成される。
【0031】
図2(a)および図2(b)に示すように、ウェル2は鉛直軸を中心とする回転対称の形状に形成されている。ウェル2の側壁21は鉛直方向に対する傾き角が異なる2つの領域が交互に繰り返された形状とされている。このような繰り返し形状により、ウェル2の水平方向の径を一定の範囲に収めることができる。ウェル2の内部には、液状の培地が収容される。
【0032】
本実施例のウェルプレートでは、培地の液面22が接触すべきウェル2の側壁21の傾き(鉛直方向に対する角度)は一定とされている。ただし、その傾きは実施例1と異なっており、傾きの方向も反転している。このような構成は、予めウェル2の側壁21の材質と培地の組み合わせが固定され、接触角が既知であり安定している場合に好適である。
【0033】
また、本実施例のウェルプレートでは、鉛直方向の位置が異なる複数個所(3箇所)の領域で、同一の傾きを側壁21に与えているので、培地の液面22の位置、すなわち、培地の分量を広い範囲で選択可能となる。
【0034】
このように液面22が接する領域における側壁21の傾きを最適化することにより、側壁21の近傍において液面22をほぼ水平に保つことができる。また、側壁21から離れたウェル2の中央領域では、接触角の影響は小さいため側壁21の傾きに依らず液面22は水平となる。このため、本実施例のウェルプレートでは、培地の液面22をウェル2の中心部から側壁21の近傍に至る広い範囲で、ほぼ水平にすることができる。このため、ウェル2の上方からの照明の光線が設計通りの光路を通り、ウェル2の下方に配置された対物レンズを介する正しい位相差観察が広範囲で可能となる。
【0035】
本実施例では、ウェルの形状を、鉛直軸を中心とする回転対称の形状としているが、このような形状は培地の液面の全体を水平に近づける観点で望ましい。しかし、充分な効果が得られる場合には、ウェルの形状を回転対称の形状と異なるものとしてもよい。
【0036】
また、ウェルの側壁の傾きが極端に大きくなると、上方から見たときのウェルの実質的な開口が小さくなってしまうので、可能な限り接触角が90度に近くなるような側壁の物質を選択し、ウェルの側壁の傾きを小さくすることが望ましい。
【0037】
なお、図2はウェルの形状を例示したものであり、ウェルの形状は任意である。例えば、ウェルの側壁の向きが鉛直方向にごく近い場合には、上記の繰り返し形状をとらず、ウェルの底部から上部に向かって連続して径が拡大するような形状としてもよい。
【実施例3】
【0038】
図3は本発明による実施例3のウェルプレートの構成を示す図であり、図3(a)はウェルプレートに形成されたウェルの鉛直断面図、図3(b)は図3(a)のB−B線方向から見た上面図である。
【0039】
本実施例のウェルプレートは、図3(a)および図3(b)に示すウェル3,3,・・・を所定数(例えば、縦横に12×8=96個)配列して構成される。
【0040】
図3(a)および図3(b)に示すように、ウェル3は鉛直軸を中心とする回転対称の形状に形成されている。ウェル3の側壁31はウェル3の内側に向けて半円状に突出した形状の領域が連続して繰り返された形状とされている。このような繰り返し形状により、ウェル3の水平方向の径を一定の範囲に収めることができる。ウェル3の内部には、液状の培地が収容される。
【0041】
本実施例のウェルプレートでは、培地の液面32が接触するウェル3の側壁31の傾き(鉛直方向に対する角度)が、液面32の高さに応じて連続的に変化する。このような構成は、予めウェル3の側壁31の材質と培地の組み合わせで決まる接触角に応じて、最適な状態を獲得したい場合に好適である。液面32の高さを接触角に応じて調整することにより、側壁31の近傍における液面32の水平性を確保することができる。
【0042】
ウェル3の形状は既知であるので、ウェル3に充填される培地(および薬剤)の体積と、液面32の位置との関係は解析的ないし数値的に算出できるため、ウェル3に充填すべき培地の分量を求めることができる。培地の量はディスペンサ等の機構により培地を追加または吸引することで調整できる。
【0043】
また、本実施例のウェルプレートでは、鉛直方向の位置が異なる複数個所(3箇所)の領域で、同一の形状が繰り返される形状を側壁31に与えているので、培地の液面32の位置を3箇所の中から選択でき、培地の分量が1つに制限されることがない。
【0044】
このように液面32が接する領域における側壁31の傾きを最適化することにより、側壁31の近傍において液面32をほぼ水平に保つことができる。また、側壁31から離れたウェル3の中央領域では、接触角の影響は小さいため側壁31の傾きに依らず液面32は水平となる。このため、本実施例のウェルプレートでは、培地の液面32をウェル3の中心部から側壁31の近傍に至る広い範囲で、ほぼ水平にすることができる。このため、ウェル3の上方からの照明の光線が設計通りの光路を通り、ウェル3の下方に配置された対物レンズを介する正しい位相差観察が広範囲で可能となる。
【0045】
本実施例では、ウェルの形状を、鉛直軸を中心とする回転対称の形状としているが、このような形状は培地の液面の全体を水平に近づける観点で望ましい。しかし、充分な効果が得られる場合には、ウェルの形状を回転対称の形状と異なるものとしてもよい。
【0046】
なお、図3はウェルの形状を例示したものであり、ウェルの形状は任意である。
【実施例4】
【0047】
図4は本発明による実施例4のウェルプレートの構成を示す図であり、図4(a)はウェルプレートに形成されたウェルの鉛直断面図、図4(b)は図4(a)のB−B線方向から見た上面図である。
【0048】
本実施例のウェルプレートは、図4(a)および図4(b)に示すウェル4,4,・・・を所定数(例えば、縦横に12×8=96個)配列して構成される。
【0049】
図4(a)および図4(b)に示すように、ウェル4は鉛直軸を中心とする回転対称の形状に形成されている。ウェル4の側壁41はウェル4の外側に向けて半円状に突出した形状の領域が連続して繰り返された形状とされている。このような繰り返し形状により、ウェル4の水平方向の径を一定の範囲に収めることができる。ウェル4の内部には、液状の培地が収容される。
【0050】
本実施例のウェルプレートでは、培地の液面42が接触するウェル4の側壁41の傾き(鉛直方向に対する角度)が、液面42の高さに応じて連続的に変化する。このような構成は、予めウェル4の側壁41の材質と培地の組み合わせで決まる接触角に応じて、最適な状態を獲得したい場合に好適である。液面42の高さを接触角に応じて調整することにより、側壁41の近傍における液面42の水平性を確保することができる。
【0051】
ウェル4の形状は既知であるので、ウェル4に充填される培地(および薬剤)の体積と、液面42の位置との関係は解析的ないし数値的に算出できるため、ウェル4に充填すべき培地の分量を求めることができる。培地の量はディスペンサ等の機構により培地を追加または吸引することで調整できる。
【0052】
また、本実施例のウェルプレートでは、鉛直方向の位置が異なる複数個所(3箇所)の領域で、同一の形状が繰り返される形状を側壁41に与えているので、培地の液面42の位置を3箇所の中から選択でき、培地の分量が1つに制限されることがない。
【0053】
このように液面42が接する領域における側壁41の傾きを最適化することにより、側壁41の近傍において液面42をほぼ水平に保つことができる。また、側壁41から離れたウェル4の中央領域では、接触角の影響は小さいため側壁41の傾きに依らず液面42は水平となる。このため、本実施例のウェルプレートでは、培地の液面42をウェル4の中心部から側壁41の近傍に至る広い範囲で、ほぼ水平にすることができる。このため、ウェル4の上方からの照明の光線が設計通りの光路を通り、ウェル4の下方に配置された対物レンズを介する正しい位相差観察が広範囲で可能となる。
【0054】
本実施例では、ウェルの形状を、鉛直軸を中心とする回転対称の形状としているが、このような形状は培地の液面の全体を水平に近づける観点で望ましい。しかし、充分な効果が得られる場合には、ウェルの形状を回転対称の形状と異なるものとしてもよい。
【0055】
なお、図4はウェルの形状を例示したものであり、ウェルの形状は任意である。
【実施例5】
【0056】
図5(a)は本発明による実施例5のウェルプレートに形成されたウェルの鉛直断面図である。
【0057】
図5(a)に示すように、本実施例のウェルプレートでは、実施例3のウェルプレートを構成する各ウェル3に、容積調整用の棒状の部材6を鉛直方向に出し入れすることにより、ウェル3の実質的な容積ないし、液体の容積と液面の高さとの関係を調整し、培地の液面32の高さを調整する。これにより、ウェル3に充填する培地の分量の調整が困難な場合に対応することができる。
【0058】
部材6は観察領域から離れた位置に配置することで観察を妨害しないようにする必要がある。また、部材6を介する薬剤によるコンタミネーションを防止するために、部材6を洗浄せずに異なるウェルに浸すことは好ましくない。したがって、異なるウェルに対して同一の部材6を使用する場合には洗浄が必要となる。この場合、ウェルと同数の部材6をウェルの配列と同様に配列(例えば96個を配列)させ、部材6群を同時に上下動、平行移動する機構を設けることで、プレート単位でまとめて部材6群を洗浄でき、高速化の点で有利である。
【実施例6】
【0059】
図5(b)は本発明による実施例6のウェルプレートに形成されたウェルの鉛直断面図である。
【0060】
図5(b)に示すように、本実施例のウェルプレートでは、実施例4のウェルプレートを構成する各ウェル4に、容積調整用の棒状の部材6を鉛直方向に出し入れすることにより、ウェル4の実質的な容積ないし、液体の容積と液面の高さとの関係を調整し、培地の液面42の高さを調整する。これにより、ウェル4に充填する培地の分量の調整が困難な場合に対応することができる。
【0061】
部材6は観察領域から離れた位置に配置することで観察を妨害しないようにする必要がある。また、部材6を介する薬剤によるコンタミネーションを防止するために、部材6を洗浄せずに異なるウェルに浸すことは好ましくない。したがって、異なるウェルに対して同一の部材6を使用する場合には洗浄が必要となる。この場合、ウェルと同数(例えば96個)の部材6をウェルの配列と同様に配列し、部材6群を同時に上下動、平行移動する機構を設けることで、プレート単位でまとめて部材6群を洗浄でき、高速化の点で有利である。
【実施例7】
【0062】
図6(a)は本発明による実施例7のウェルプレートの構成を示す斜視図、図6(b)はジグの構成を示す鉛直断面図である。本実施例のウェルプレートでは、実施例1〜6のウェルプレートにおけるウェルの側壁の機能をジグに持たせることにより、培地の液面を水平に近づける。
【0063】
図6(a)および図6(b)に示すように、本実施例のウェルプレートには、円柱状のウェル9,9,・・・が所定数(例えば、縦横に12×8=96個)形成されている。各ウェル9には外周が円錐台形状のジグ71が挿入される。ジグ71は上下方向に開口する筒状とされ、その内壁面71に培地に応じた傾きを与えることにより、ジグ71の内側における培地の液面91を水平にしている。
【0064】
ジグ7が光沢を持ち、あるいは透明であると光学的に不都合を生じさせるため、黒色とするなどして、照明光の拡散が防止される。上方からの平行照明光は、ジグ71の下方の開口によって径が絞り込まれ、図6(a)に示す照明光72が試料に照射される。
【0065】
このように、本実施例のウェルプレートでは、ウェルと別にジグ7を設けているため、培地の液面の高さに応じてジグ7の位置を上下に移動させることができる。
【0066】
図6(c)はジグ7Aの構成を示す鉛直断面図である。
【0067】
図6(c)に示すように、ジグ7Aはその内壁面71Aがジグ7Aの内側に突出する形状とされ、鉛直方向に沿って内壁面71Aの傾きが連続的に変化する。したがって、液面91の接触位置における内壁面71Aの傾きが適切となるように、ジグ7Aの位置を調整することで、ジグ7Aの内部における液面91を水平に近づけることができる。この場合、観察画像を取得しながらモータ等でジグ7Aを上下方向に駆動しながら観察画像の画像処理を行って位相差のコントラストを算出し、そのコントラストが最大になる位置、すなわち液面91が水平になる位置でジグ7Aを停止させてもよい。
【0068】
なお、ジグ7およびジグ7Aは、本発明におけるウェルプレートを構成する「ウェル」の一部に対応し、内壁面71および内壁面71Aは、それぞれ本発明における「側壁面」に対応する。
【0069】
以上説明したように、本発明のウェルプレートによれば、ウェル内部の液体とウェルの材質などにより決まる固有の接触角を利用して、ウェル内部の液体の液面の角度を制御できる。このため、ウェルの端部まで液面を水平にして液面によるレンズ効果を排除することができ、ウェル内の広範囲での観察が可能となる。また、基本的に、従来のウェルプレートと同様、合成樹脂などの材料を使用でき、従来のウェルプレートに対してウェルの形状を変えるだけで足りるため、顕微鏡観察にかかるコストアップを招くこともない。
【0070】
本発明の適用範囲は上記実施形態に限定されることはない。本発明は、位相差観察を行う場合に限定されることなく、顕微鏡による観察の対象となる試料を収容するウェルを備えるウェルプレート等に対し、広く適用することができる。
【符号の説明】
【0071】
1,2,3,4 ウェル
7,7A ジグ(ウェル)
12,22,32,42,91 液面
71,71A 内壁面(側壁面)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
顕微鏡による観察の対象となる試料を収容するウェルを備えるウェルプレートにおいて、
前記ウェルの側壁面に、鉛直方向に対して傾いた角度が与えられ、前記角度は、前記ウェルに収容される液体の前記側壁面の近傍における液面がほぼ水平になるように設定されていることを特徴とするウェルプレート。
【請求項2】
前記側壁面の角度が鉛直方向について連続的に変化し、前記液体の前記側壁面の近傍における前記液面の角度が前記液面の高さに応じて変化するように構成されていることを特徴とする請求項1に記載のウェルプレート。
【請求項3】
顕微鏡による観察の対象となる試料を収容するウェルを備えるウェルプレートを用いて、前記試料を観察する観察方法において、
前記ウェルに液体を入れるステップと、
前記液体が収容された前記ウェル内の前記試料を顕微鏡により観察するステップと、
を備え、
前記ウェルの側壁面に、鉛直方向に対して傾いた角度が与えられ、前記角度は、前記ウェルに収容された前記液体の前記側壁面の近傍における液面がほぼ水平になるように設定されていることを特徴とする観察方法。
【請求項4】
前記観察するステップによる観察の前に、前記ウェルに入れられた液体の液面と、前記ウェルの側壁面との相対的な位置関係を調整するステップを備え、
前記側壁面の角度が鉛直方向について連続的に変化し、前記液体の前記側壁面の近傍における前記液面の角度が前記液面の高さに応じて変化するように構成され、
前記位置関係を調整するステップでは、前記ウェルに収容される液体の前記側壁面の近傍における液面がほぼ水平になるように前記位置関係を調整することを特徴とする請求項3に記載の観察方法。
【請求項5】
前記ウェル内の前記試料に、前記液面を介して照明光を照射するステップを備え、
前記観察するステップでは、前記照明光により前記試料を観察することを特徴とする請求項3または4に記載の観察方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−215610(P2012−215610A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−79091(P2011−79091)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000006507)横河電機株式会社 (4,443)
【Fターム(参考)】