説明

ウェルプレートとそれを用いた蛍光イメージングシステム

【課題】ウェルプレートの試料や試薬などの撮影位置を管理できる蛍光イメージングシステムを実現すること。
【解決手段】蛍光物質により形成された位置決め基準部を有する複数のウェル12が形成されたウェルプレート10を用いて、複数のウェルに収容された試料に励起光を照射し、観察位置を調整して各ウェル内の蛍光画像を取得し試料の反応を観察する蛍光イメージングシステムにおいて、各ウェルの開口部を各マス目で囲むように蛍光物質17により碁盤の目状に形成された位置決め基準部を備えたウェルプレートと、取得した前記位置決め基準部の所定領域における蛍光画像に基づき、対物レンズを移動させて焦点位置を把握し、当該所定領域におけるX座標、Y座標および前記焦点位置であるZ座標を含む三次元座標を記憶し、この三次元座標および前記各ウェルのXY座標に基づき、前記各ウェルにおける前記焦点位置を補間計算して算出することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、創薬装置などで用いられるウェルプレートとそれを用いた蛍光イメージングシステムに関し、特に、ウェルプレートを観察するときの位置決めの効率化に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、バイオテクノロジーやメディカル分野では、細胞などを観察するための装置として、その一面にサンプルを収容するためのウェルといわれる複数の窪みがマトリクス状に形成されたウェルプレートが用いられることが多い。
【0003】
このウェルプレートは、たとえば蛍光イメージングシステムで用いられる。蛍光イメージングシステムでは、各ウェルに収容されているあらかじめ培養した細胞の培養液などの試料(たとえばCaイオンを含む細胞など)および蛍光指示薬を含む特定の試薬に特定波長の光を照射して励起し、励起した試料から発生される蛍光を顕微鏡や共焦点スキャナなどで検出して蛍光像を読み取り、拡大蛍光画像を得る。
【0004】
また蛍光イメージングシステムは、ウェルプレート上の所定数のウェルまたは全ウェルからそれぞれ拡大蛍光画像を取得するため、XYステージ装置を制御してウェルプレートを移動させて観察対象を顕微鏡などの視野領域に入れ、アクチュエータを制御して対物レンズを移動させて焦点位置を調整し、各ウェルの試料および試薬が発生する蛍光をそれぞれ検出する。
【0005】
このようにして各ウェルから得られた拡大画像に対して必要な画像処理を施して経時変化を解析することにより、試料と試薬との反応の過程を把握する。これらの画像解析結果に基づいて、たとえば薬の候補になる試料を見出すことができる。
【0006】
このようなウェルプレートを用いた蛍光イメージングシステムに関連する先行技術文献としては次のようなものがある。
【0007】
【特許文献1】特開平9−061436号公報
【0008】
図5は従来のウェルプレートの一例を示す構成図であり、(A)は斜視図、(B)は(A)のA−A’断面図である。図5において、ウェルプレート10は、マトリクス状に複数(8×12の96個)の微小孔hが形成された第1の基板11と、この第1の基板11の一方の面に貼り合わされる第2の基板12とから構成されている。
【0009】
これら基板11、12は、ポリスチレン、ポリカーボネートなどの透明なプラスチックや光学ガラスなどにより形成される。
【0010】
第1の基板11の微小孔hは、図5(B)に示すように上面の開口径が底面の開口径よりも大きい円錐状に形成されている。この第1の基板11の一角には、ウェルプレート10の方向を示すために傾斜角45度の斜辺よりなる切りかき13が形成されている。
【0011】
これら基板11と基板12を貼り合わせることにより、試料(観測対象)が収容される複数(8×12の96個)のウェル14を有するウェルプレート10が形成される。
【0012】
また、ウェルプレート10のウェル14は、切りかき13からX方向に「1〜12」、Y方向に「A〜H」などの記号を組み合わせた「ウェル識別情報」(たとえば「A−1」〜「H−12」)を用いて識別される。
【0013】
図6は、従来のウェルプレート10を用いた蛍光イメージングシステムの一例を示す構成ブロック図である。蛍光イメージングシステム100は、各ウェル14に試料や試薬などを収容するウェルプレート10、上面にウェルプレート10が載置されXY方向に移動するXYステージ装置20、各ウェル14における試料および試薬の反応を撮像する倒立式蛍光顕微鏡30(以下、顕微鏡という)、顕微鏡30が撮像した画像に基づいてウェルプレート10の設置位置などの補正や焦点の調整などを行い、各ウェル14に収容された試料と試薬との反応の過程を把握する制御装置40から構成される。
【0014】
XYステージ装置20は、ウェルプレート10が載置される可動ステージ(図示せず)と、この可動ステージをX軸に沿って移動させるXステージと、この可動ステージをY軸に沿って移動させるYステージと、可動ステージの所定の基準点からの移動量を検出してX方向およびY方向の移動量を制御装置40に出力する移動量検出部などから構成されている。
【0015】
顕微鏡30は、ウェルプレート10と対向して設けられた対物レンズ31、光軸に沿って対物レンズ31の位置を調整するアクチュエータ32などで構成される。なお、顕微鏡30には、各ウェル14に収容される試料および試薬に励起光として所定の波長の光を照射する光源や、光源からの励起光によって励起された試料が発生する蛍光像を撮像し拡大画像を取得するCCDカメラなども設けられるが図示しない。
【0016】
図7は、図6の制御装置40の機能ブロック図である。制御装置40は、各部の動作を制御する演算制御部41(たとえばCPU)、各種情報を格納する記憶部42、外部機器とデータ通信する通信部43から構成される。
【0017】
演算制御部41には、所定のウェル14の中心位置が顕微鏡30の視野の中心または視野領域に入るようにXYステージ装置20の可動ステージの位置を調整するXYステージ位置制御部41a、ウェル14の位置と対物レンズ31の焦点位置とのずれを把握し対物レンズ31の位置を調整する自動焦点制御部41b、顕微鏡30の撮像画像に基づき画像解析を行いウェル14内の経時変化を解析する画像解析部41c、ウェルプレート座標系における各ウェル14の中心点の位置(XY座標)を算出する位置情報取得部41dなどが設けられている。
【0018】
記憶部42は、たとえば「A−1」〜「H−12」で表わされるウェル識別情報、たとえばウェル14の直径、X方向の配置間隔、Y方向の配置間隔などのウェル配置情報、たとえばXY座標で表わされる位置情報、たとえば濃度、量、種類などのサンプル情報、画像データ、画像解析結果情報などの各種情報を格納する。
【0019】
ところで、2004年にThe Society for Biomolecular Screening(以下、SBSという)を中心にウェルプレートの寸法の規格が定められたことにより徐々に統一されつつあるものの、ウェルプレートの材料がプラスチックであり、寸法精度にさほどこだわらない方法で使用されていたために、ウェルプレートの寸法精度管理はSBS規格である0.25mm程度でしか管理されていなかった。つまり、ウェルプレートごとに寸法のばらつきがあった。
【0020】
一方、薬効評価や化合物評価を行う場合には、再現性や試験の確かさを確認するため、以前行った試験と同じ位置のウェルに収容された試料や試薬の反応を何度か繰り返して観察することがある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
しかしながら、ウェルプレートごとに寸法のばらつきがあるので、XYステージ装置はウェルプレートごとに位置調整を行わなくてはならず、長時間かかってしまうといった問題点があった。
【0022】
また、ウェルプレートの底面はたわんでいるので、顕微鏡などのオートフォーカスを行う場合でも、ウェルごとに焦点を合わせなければならず、全てまたは所定のウェルを観察するためには長時間かかってしまうといった問題点があった。
【0023】
本発明は上述の問題点を解決するものであり、その目的は、ウェルプレートの試料や試薬などの撮影位置を管理できる蛍光イメージングシステムを実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0024】
このような課題を達成するために、本発明のうち請求項1記載の発明は、
複数のウェルが形成されるウェルプレートにおいて、
前記各ウェルは蛍光物質により形成された位置決め基準部を有することを特徴とする。
【0025】
請求項2記載の発明は、
複数のウェルが形成されるウェルプレートにおいて、
第1の基板と、
碁盤の目状に形成された溝を有するフィルムと、
前記フィルムが底面に貼着され、前記フィルムを介し前記第1の基板と貼合されて複数のウェルを構成する複数の微小孔が形成される第2の基板とから構成され、
前記フィルムは、
前記溝で形成される各マス目が前記微小孔の開口部を囲むように前記第2の基板に貼着されることを特徴とする。
【0026】
請求項3記載の発明は、
請求項2記載のウェルプレートにおいて、
前記フィルムは、
前記溝に蛍光物質が塗布されることを特徴とする。
【0027】
請求項4記載の発明は、
観測対象を収容する複数のウェルが形成されたウェルプレートを用いて、複数のウェルに収容された試料に励起光を照射し、観察位置を調整して各ウェル内の蛍光画像を取得し試料の反応を観察する蛍光イメージングシステムにおいて、
各ウェルの開口部を各マス目で囲むように蛍光物質により碁盤の目状に形成された位置決め基準部を備えたウェルプレートと、
取得した前記位置決め基準部の所定領域における蛍光画像に基づき、対物レンズを移動させて焦点位置を把握し、当該所定領域におけるX座標、Y座標および前記焦点位置であるZ座標を含む三次元座標を記憶し、この三次元座標および前記各ウェルのXY座標に基づき、前記各ウェルにおける前記焦点位置を補間計算して算出することを特徴とする。
【0028】
請求項5記載の発明は、
請求項4記載の蛍光イメージングシステムにおいて、
前記試料および前記位置決め基準部からの蛍光画像を撮像する顕微鏡と、
前記ウェルプレートを平面方向に移動させ、前記位置決め基準部の所定領域および前記各ウェルを前記顕微鏡の視野領域に入れ、前記ウェルプレートの移動量を出力するXYステージ装置とを備えることを特徴とする。
【0029】
請求項6記載の発明は、
請求項4または請求項5記載の蛍光イメージングシステムにおいて、
前記制御装置は、
過去に観察した際に取得した前記位置決め基準部の所定領域における三次元座標および前記各ウェルのXY座標に基づき、現在観察中の位置決め基準部の所定領域における三次元座標および各ウェル14のXY座標を補正することを特徴とする。
【0030】
請求項7記載の発明は、
請求項4〜請求項6いずれかに記載の蛍光イメージングシステムにおいて、
前記制御装置は、
前記顕微鏡で撮像された蛍光画像に基づいて、画像解析を行い経時変化を解析し、前記各ウェルに収容された試料の反応過程を把握し、解析結果を記憶することを特徴とする。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、ウェルプレートとそれを用いた蛍光イメージングシステムは、ウェルプレートの試料や試薬などの撮影位置を管理できる。
【0032】
また、ウェルプレートの底面がたわんでいる場合であっても、蛍光イメージングシステムは、ウェルプレートの溝を観察時の位置決めの基準として利用し、溝の三次元情報に基づいて各ウェルの三次元情報を算出することにより、従来よりも短時間で各ウェルを観察することができる。
【0033】
また、蛍光イメージングシステムは、過去に取得した溝および各ウェルの三次元情報と改めて取得した三次元情報とを比較して画像取得位置を補正することにより、ウェルプレートの位置ずれやウェルプレートの変形があったとしても、従来よりも短時間で過去の観察と同じ位置の観察対象の画像取得を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
図1は本発明に係るウェルプレートの構成図であり、図5と共通する部分には同一の符号を付けている。図1の(A)は上面図、(B)は底面図、(C)は(A)のA−A’断面図である。図5との相違点は、図1では、ウェルプレート10を形成する基板11の底面にフィルム15が貼着されていることである。図2はウェルプレート10とフィルム15との関係を示した斜視図である。
【0035】
図1において、フィルム15の一方の面には基板11にマトリクス状に形成されている複数の微小孔hをそれぞれマス目で囲うように碁盤の目状に複数の溝16が形成され、一角には十字溝17が形成されている。そして、これら溝16および十字溝17には蛍光物質18が塗布されている。
【0036】
なお、蛍光物質18は、紫外線(UV(ultraviolet))から赤外線までの広い励起波長に対して蛍光を発する物質でも良いし、ある特定の波長近傍でもっとも蛍光を発する物質でも良い。
【0037】
フィルム15は、ウェルプレート10に形成された切りかき部14の斜辺が十字溝17の対角線として位置し、蛍光物質18が塗布された溝16の開口部がウェルプレート10を形成する基板11の底面によって覆われるように基板11の底面に貼り付けられる。
【0038】
このような構成において、ウェル14に励起光を照射すると、ウェル14内の試料が励起されて発光するとともに、溝16に塗布された蛍光物質18が反応してウェル14を囲むようにマス目状に蛍光発光することになる。
【0039】
このようなウェルプレート10を蛍光イメージングシステムで用いることにより、ウェル14の開口部をそれぞれ個別にマス目で囲むように碁盤の目状に形成されて蛍光物質18が塗布されたウェルプレート10の溝16を観察時の位置決めの基準として利用することができ、従来よりも短時間で各ウェル14を観察することができる。すなわち、ウェルプレート10は、各ウェル14が個別に位置決め基準部を備えていることになる。
【0040】
また特に図示しないが、各ウェルプレートの側面には、多数のウェルプレートを個別に識別するためのバーコードが印刷されたシールが貼着されている。
【0041】
図3は、本発明に係るウェルプレート10を用いた蛍光イメージングシステムの構成ブロック図であり、図6と共通する部分には同一の符号を付けている。図6との相違点は、図3では制御装置40がウェルプレート10の溝16の位置情報(XY座標)を取得して各位置における対物レンズ31の焦点位置(Z位置)を取得することと、ウェルプレート10の側面に貼着されているシールに印刷されたバーコードを読み取るバーコード読み取り部50を設けていることである。
【0042】
図3において、バーコード読み取り部50は制御装置40に接続され、ウェルプレート10に貼着されているシールに印刷されたバーコードを読み取ってウェルプレートの識別情報を取得し、制御装置40に出力する。
【0043】
図4は、図3の制御装置40の機能ブロック図であり、図7と共通する部分には同一の符号を付けている。図7との相違点は、図4では、位置情報取得部41dが溝16の位置情報(XY座標)および対物レンズ31の焦点位置(Z座標)を取得し、各ウェル14における焦点位置(Z座標)を溝16の位置情報と各ウェル14の位置情報(XY座標)から補間計算によって算出することである。
【0044】
演算制御部41は、主に各部を統合的に制御する機能を有し、記憶部42に格納されているOSなどを起動して、このOS上で格納されたプログラムを読み出して実行することにより、制御装置40全体を制御し、制御装置40固有の動作を行う。たとえば記憶部42のRAM(図示せず)は、その動作の際に作業領域として使用される。
【0045】
記憶部42は、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、フラ
ッシュメモリ、ハードディスクなどであって、主にOSや制御装置として動作するためのプログラムや、ウェル識別情報(たとえば「A−1」〜「H−12」)、ウェル配置情報(たとえばウェル14の直径、X方向の配置間隔、Y方向の配置間隔など)、溝16や対物レンズ31の焦点位置などの位置情報、サンプル情報、画像データ、画像解析結果情報などの各種情報を格納する。
【0046】
また、記憶部42は、ウェルプレート10ごとにウェル識別情報に対応づけて、溝16の位置情報(たとえばXY座標など)および溝16の各位置における対物レンズ31の焦点位置(たとえばZ座標)を記憶する「位置情報記憶機能」、各ウェル14に収容される試料および試薬に関するサンプル情報(たとえば、濃度、量、種類など)を記憶する「サンプル情報記憶機能」、各ウェル14に収容される試料および試薬の蛍光画像の解析結果を記憶する「解析結果記憶機能」を有する。
【0047】
通信部43は、主にケーブルや通信ネットワークなどを介して外部機器とデータ通信するインターフェースであって、具体的には、顕微鏡30に設けられるCCD(図示せず)などから撮像データを受信し、焦点を調整するための制御信号、または、ウェルプレート10の位置を調整するための制御信号を送信する処理を行う。
【0048】
以下、本発明に係るウェルプレートを用いた蛍光イメージングシステムの動作について説明する。なお、従来例の動作と共通する動作については適宜省略する。
【0049】
バーコード読み取り部50は、ウェルプレート10に貼着されているシールに印刷されたバーコードを読み取って、ウェルプレート10の識別情報(たとえばウェルプレート名:WP−100など)を取得し制御装置40に出力する。
【0050】
制御装置40の記憶部42は、バーコード読み取り部50からの出力情報に基づきウェルプレート10の識別情報を記憶する。
【0051】
ウェルプレート10の各ウェル14には、適量の試料および蛍光指示薬を含んだ濃度や量、種類の異なる試薬が収容され、XYステージ装置20の可動プレートの上面に載置される。
【0052】
XYステージ装置20は、顕微鏡30の視野領域にウェルプレート10の十字溝17が入るように、ウェルプレート10を移動させる。
【0053】
光源からウェルプレート10に向かって励起光が発射される。光源からの励起光によって、試料および溝16に塗布された蛍光物質18が発光する。試料および溝16からの蛍光は対物レンズ31を介して顕微鏡30に入力され、CCDカメラなどのカメラ(図示せず)に取り込まれる。
【0054】
このとき、ウェルプレート10の大きさは0.25mmのばらつきを持っていることが大まかにわかっているため、十字溝17があると推測できる位置が顕微鏡30の視野領域に入るようにウェルプレート10を移動させて、十字溝17からの蛍光画像を取得するものでもよい。
【0055】
制御装置40の自動焦点制御部43は、顕微鏡30が撮像した画像に基づき、ウェル14の位置と対物レンズ31の焦点位置とのずれを把握し、焦点が合うように対物レンズ31を移動させるための制御信号を送信する。
【0056】
具体的には自動焦点制御部43は、蛍光画像に基づき、焦点を合わせるためにアクチュエータ32を制御してZ軸モータ(図示せず)などにより光軸方向に沿って対物レンズ31を移動させる。対物レンズ31の焦点位置は、たとえば画像のコントラストが最も高い画像を取得した高さ(Z座標)が焦点位置となる。
【0057】
演算制御部41は、ウェルプレート10の識別情報(たとえばウェルプレート名:WP−100など)に対応づけて、ウェルプレート10の十字溝17における合焦位置(Z座標)を記憶部42に記憶する。
【0058】
次に、制御装置40の演算制御部41は、十字溝17における合焦位置を原点としてXYステージ位置制御部42を制御し、XYステージ装置20によりウェルプレート10の位置を移動させて、溝16の所定領域における蛍光画像を取得する。なお溝16からの蛍光画像はすべて取得する必要はなく、所定領域(主要なポイント)だけであっても構わない。
【0059】
演算制御部4の自動焦点制御部43は、各位置における溝16からの蛍光画像に基づいて対物レンズ31の焦点を合わせるようにアクチュエータ32を制御し、Z軸モータ(図示せず)などにより光軸方向に沿って対物レンズ31を移動させる。なお、焦点位置は、画像のコントラストが最も高い画像を取得した位置(Z座標)とする。
【0060】
このとき、XYステージ装置20の移動量検出部は、XYステージ装置20の移動量(たとえば、x、y)を取得して制御装置40に出力する。制御装置40の位置情報取得部41dは、この移動量および十字溝17における合焦位置(原点)に基づいて、顕微鏡30の現在の観察対象領域がスライドプレート上のどの領域に存在しているかを把握する。
【0061】
具体的には位置情報取得部41dは、移動量検出部が取得した移動量に基づき、原点を十字溝17における合焦位置としてウェルプレート座標系における現在の観察領域の中心にある点の座標を算出し、記憶部42に位置情報として記憶する。
【0062】
演算制御部41は、ウェルプレート10の識別情報に対応づけて、ウェルプレート10の溝16の位置(XY座標)およびその地点における合焦位置(Z座標)を記憶部42に記憶する。
【0063】
これにより、制御装置40は、ウェルプレート10の溝16の位置(XY座標)およびその合焦位置(Z座標)の三次元情報(XYZ座標)を取得できる。
【0064】
また、制御装置40は、ウェルプレート10内の所望のウェル14に収容された試料の合焦位置(Z座標)を、溝16の三次元情報および試料が収容されているウェル14のXY座標に基づいて補間計算を行うことにより算出し、ウェル識別情報(たとえばA−1〜H−12)に対応づけて、各ウェル14の位置(XY座標)およびその合焦位置(Z座標)を記憶部42に記憶する。
【0065】
制御装置40のXYステージ位置制御部42は、これらの三次元情報に基づき、所望のウェル14(たとえばA−2ウェル)に収容された試料からの蛍光を検出するため、XYステージ装置20を制御して、顕微鏡30の視野領域にウェル14(たとえばA−2ウェル)の中心(またはその近傍)が入るように、ウェルプレート10を移動させる。
【0066】
画像解析部44は所望のウェル14からの蛍光画像に基づいて、画像解析を行って経時変化を解析することにより所望のウェル14に収容された試料と試薬との反応の過程を把握する。
【0067】
そして、制御装置40は、上述の手順に従って三次元情報に基づき各ウェル14における蛍光画像を取得し、画像解析を行って経時変化を解析することにより、各ウェル14に収容された試料と試薬との反応の過程を把握する。
【0068】
演算制御部41は、ウェルプレート10の識別情報(たとえばウェルプレート名:WP−100など)およびサンプル情報に対応づけて、位置情報(XYZ座標)および画像解析結果を記憶部42に記憶する。
【0069】
これにより、ウェルプレート10の底面がたわんでいる場合であっても、蛍光イメージングシステムはウェルプレート10の溝16を観察時の位置決めの基準として利用して溝16の三次元情報に基づいて各ウェル14の三次元情報を算出することにより、従来よりも短時間で各ウェル14を観察することができる。
【0070】
また、顕微鏡などのオートフォーカスを行う際には、ウェルごとに焦点を合わす必要はなく、従来よりも短時間で各ウェルを観察することができる。
【0071】
ところで、ウェルプレート10の観察が一通り終わった後に、ウェルプレート10を一旦インキュベータや冷蔵庫に保管しておき、保管後に再度ウェルプレート10を観察することがある。
【0072】
このような場合、従来の構成では、再度XYステージ2上にウェルプレート10を載置する際の位置ずれや、ウェルプレート10の変形などによって、現在のウェルプレート座標系は過去に観察したときのウェルプレート座標系からずれてしまい、過去に観察したときと同じXY座標にある試料の画像を取得することは困難であった。
【0073】
これに対し、本発明の蛍光イメージングシステムは、過去に取得した溝16および各ウェル14の三次元情報と改めて取得した三次元情報とを比較してウェルプレート座標系を補正することにより、過去に観察したときと同じ位置における試料の画像取得を行うことができる。
【0074】
たとえば再び観察するのにあたり、ウェルプレート10のXYステージ20上への載置位置がずれてしまった場合には、制御装置40は改めて十字溝17と溝16の位置情報(XY座標)および焦点位置(Z座標)を取得して、変形後のウェルプレート10における溝16の三次元情報(XYZ座標)を取得する。
【0075】
また、制御装置40は、バーコード読み取り部50によりバーコード(図示せず)からウェルプレート10の識別情報を取得して、当該識別情報に基づいて、ウェルプレート10の溝16の三次元情報(XYZ座標)と画像解析結果情報を記憶部42から読み出す。いいかえれば、過去に観察した際のウェルプレート10における溝16の三次元情報(XYZ座標)を読み出すことになる。
【0076】
そして、制御装置40の位置情報取得部41dは、過去に観察した溝16の三次元情報と現在観察中の三次元情報とを比較し、溝の位置情報の補正を行うとともに過去に観察した試料の位置情報の補正を行い、記憶部42に記憶する。
【0077】
つまり、位置情報取得部41dは、ウェルプレート10の載置位置ずれを踏まえて溝16の位置情報および過去に観察した試料の位置情報を補正する。
【0078】
このような操作を行った上で、制御装置40は所望の位置にある試料の蛍光画像を取得すべくXYステージ装置20を制御してウェルプレート10の位置を調整し、得られた蛍光画像に基づいて画像解析を行って経時変化を解析する。
【0079】
この結果、蛍光イメージングシステムは、ウェルプレート10の溝16を観察時の位置決めの基準として利用し、過去に取得した溝16および各ウェル14の三次元情報と改めて取得した三次元情報とを比較してウェルプレート座標系を補正することにより、ウェルプレート10の位置ずれがあったとしても、過去の観察と同じ位置における試料の画像を取得することができる。
【0080】
なお、ウェルプレート10の載置位置がずれてしまうケースを例にして説明したが、ウェルプレート10が変形してしまった場合も、上記と同様の動作により過去に観察した位置と同じ位置の観察対象の画像取得を行うことができる。
【0081】
また、上記実施例では、自動焦点制御部43は、画像のコントラストが最も高い画像を取得した高さを焦点位置として溝16などのZ座標を取得しているが、特にこれに限定するものはなく、レーザ照射による共焦点方式によるオートフォーカス機構や、シリンドリカルレンズと4分割受光素子などを用いたオートフォーカス機構などを備えて焦点の調整をして、Z座標を取得するものであってもよい。
【0082】
また、上記実施例では、蛍光イメージングシステムは倒立式蛍光顕微鏡を利用するものとしているが、倒立式蛍光顕微鏡は共焦点機能を有するものでもよい。
【0083】
また、上記実施例では、蛍光イメージングシステムは倒立式蛍光顕微鏡を利用しているが、蛍光顕微鏡に限定するものではなく、蛍光物質を励起して蛍光を発する蛍光励起機構を別途有していれば、透過光でウェル14内の試料を観察するような透過型顕微鏡を利用するものであってもよい。
【0084】
また、上記実施例では、XYステージ装置20は、自動でウェルプレート10の位置を移動調整し、移動量検出部がXYステージ装置20の移動量(たとえば、x、y)を取得して溝16やウェル14などの位置情報(XY座標)を把握しているが、溝16やウェル14の位置情報を算出できるものであれば手動でウェルプレート10の位置を移動調整させるものでもよい。
【0085】
また、上記実施例の蛍光イメージングシステムにおけるZ軸モータ(図示せず)は、光軸方向に沿って対物レンズ31を移動させるものとしているが、Z軸方向(光軸方向)に対物レンズ31を上下に移動させる構造を有するものであればよく、圧電素子を用いたものであっても、圧電素子と回転式電磁モータとボールねじからなる単軸モータを組み合わせたものであってもよい。
【0086】
以上説明したように、本発明によれば、ウェルプレートの試料や試薬などの撮影位置を管理できる蛍光イメージングシステムを実現することができ、バイオテクノロジーやメディカル分野における研究開発の効率化への寄与が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】本発明に係るウェルプレートの構成図である。
【図2】ウェルプレート10とフィルム15との関係を示した斜視図である。
【図3】本発明に係るウェルプレートを用いた蛍光イメージングシステムの構成ブロック図である。
【図4】図3の制御装置40の機能ブロック図である。
【図5】従来のウェルプレートの構成図である。
【図6】従来のウェルプレートを用いた蛍光イメージングシステムの構成ブロック図である。
【図7】図6の制御装置40の機能ブロック図である。
【符号の説明】
【0088】
10 ウェルプレート
20 XYステージ装置
30 顕微鏡
40 制御装置
11 第1の基板
12 ウェル
13 第2の基板
14 切りかき部
15 フィルム
16 溝
17 蛍光物質
18 十字溝
31 対物レンズ
32 アクチュエータ
41 演算制御部
41a XYステージ位置制御部
41b 自動焦点制御部
41c 画像解析部
41d 位置情報取得部
42 記憶部
43 通信部
100 蛍光イメージングシステム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のウェルが形成されるウェルプレートにおいて、
前記各ウェルは蛍光物質により形成された位置決め基準部を有することを特徴とするウェルプレート。
【請求項2】
複数のウェルが形成されるウェルプレートにおいて、
第1の基板と、
碁盤の目状に形成された溝を有するフィルムと、
前記フィルムが底面に貼着され、前記フィルムを介し前記第1の基板と貼合されて複数のウェルを構成する複数の微小孔が形成される第2の基板とから構成され、
前記フィルムは、
前記溝で形成される各マス目が前記微小孔の開口部を囲むように前記第2の基板に貼着されることを特徴とするウェルプレート。
【請求項3】
前記フィルムは、
前記溝に蛍光物質が塗布されることを特徴とする
請求項2記載のウェルプレート。
【請求項4】
観測対象を収容する複数のウェルが形成されたウェルプレートを用いて、複数のウェルに収容された試料に励起光を照射し、観察位置を調整して各ウェル内の蛍光画像を取得し試料の反応を観察する蛍光イメージングシステムにおいて、
各ウェルの開口部を各マス目で囲むように蛍光物質により碁盤の目状に形成された位置決め基準部を備えたウェルプレートと、
取得した前記位置決め基準部の所定領域における蛍光画像に基づき、対物レンズを移動させて焦点位置を把握し、当該所定領域におけるX座標、Y座標および前記焦点位置であるZ座標を含む三次元座標を記憶し、この三次元座標および前記各ウェル14のXY座標に基づき、前記各ウェルにおける前記焦点位置を補間計算して算出することを特徴とする蛍光イメージングシステム。
【請求項5】
前記試料および前記位置決め基準部からの蛍光画像を撮像する顕微鏡と、
前記ウェルプレートを平面方向に移動させ、前記位置決め基準部の所定領域および前記各ウェルを前記顕微鏡の視野領域に入れ、前記ウェルプレートの移動量を出力するXYステージ装置とを備えることを特徴とする
請求項4記載の蛍光イメージングシステム。
【請求項6】
前記制御装置は、
過去に観察した際に取得した前記位置決め基準部の所定領域における三次元座標および前記各ウェルのXY座標に基づき、現在観察中の位置決め基準部の所定領域における三次元座標および各ウェルのXY座標を補正することを特徴とする
請求項4または請求項5記載の蛍光イメージングシステム。
【請求項7】
前記制御装置は、
前記顕微鏡で撮像された蛍光画像に基づいて、画像解析を行い経時変化を解析し、前記各ウェルに収容された試料の反応過程を把握し、解析結果を記憶することを特徴とする
請求項4〜請求項6いずれかに記載の蛍光イメージングシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−204451(P2009−204451A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−47072(P2008−47072)
【出願日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【出願人】(000006507)横河電機株式会社 (4,443)
【Fターム(参考)】