説明

ウエットパルプの製造方法

【課題】本発明の目的は、ウエットパルプ製造において、防腐・防かび剤の使用量を減少させ、高い防かび効果を得ることにある。
【解決手段】
水分が40〜60%であるウエットパルプを製造する方法において、パルプスラリーを抄紙機で抄紙し、該抄紙機のプレスパートにおいて、防腐・防かび剤を二流体スプレー方式により塗布し、前記二流体スプレー方式による防腐・防かび剤の塗布は、スプレーのノズルより噴霧された液の粒子径が、レーザー法で10〜100μmであり、前記防腐・防かび剤はプレスパートの後で塗布されるウエットパルプの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウエットパルプ製造時、防腐・防かび剤の添加方法に関する。さらに詳しく述べれば、内添ではなく、外添により防腐防かび効果をウエットパルプに付与する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
紙・パルプ工場で生産されたパルプは、生産調整等のため一旦高温多湿状態でストックされる場合が多く、かび等の微生物が繁殖すると、その製品価値が損なわれる。近年、防腐・防かび剤として安全性の高いものが採用されているが、使用方法は、作業効率の観点からパルプに抄き込む内添法が一般的である。しかしながら、内添法は、防腐・防かび剤のパルプへの歩留まりが悪く、長期にわたり安定した防腐防かび効果をウエットパルプに付与することができないとい問題があり、水不溶性の防腐防かび化合物をカチオン性界面活性剤を併用添加することにより防腐・防かび剤をパルプスラリーに均一に分散させ、歩留まりを向上させることが開示されている。(特許文献1)。
【0003】
また、防かび剤のマイクロカプセルをパルプスラリーに添加してパルプシートを製造することにより、防かび化合物の歩留まり性を向上させる方法(特許文献2)もあるが、満足のいく歩留まり性は得られていないのが現状であり、また内添法の場合には排水の問題もあり実用的ではない。
【特許文献1】特開2003−055117号公報
【特許文献2】特開2006−001844号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、ウエットパルプ製造において、防腐・防かび剤の使用量を減少させ、高い防かび効果を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、防腐・防かび剤の外添方法について鋭意研究した結果、従来より板紙等の多層抄きの層間接着で使用されているスプレー噴霧に着目し、更にスプレーによる噴霧方法を種々検討した結果、抄紙機のプレスパートにおいて、防腐・防かび剤の噴霧を行うことにより、ウエットパルプに効率的に添加することが可能で、防腐・防かび剤の使用量を削減できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0006】
本願は以下の発明を含有する。
(1)水分が40〜60%であるウエットパルプを製造する方法において、パルプスラリーを抄紙機で抄紙し、該抄紙機のプレスパートにおいて、防腐・防かび剤を二流体スプレー方式により塗布するエットパルプの製造方法
【0007】
(2)前記二流体スプレー方式による防腐・防かび剤の塗布は、スプレーのノズルより噴霧された液の粒子径が、レーザー法で10〜100μmである(1)に記載のウエットパルプの製造方法。
(3)前記防腐・防かび剤はプレスパートの後で塗布される(1)又は(2)のいずれか1項に記載のウエットパルプの製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、噴霧した防腐・防かび剤が無駄なくパルプに、略全量添加されるため、少量の防腐・防かび剤で効果を得ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明で用いられるウエットパルプを形成する原料パルプとしては、例えば、クラフトパルプ(KP)、サルファイトパルプ(SP)、ソーダパルプ(AP)等の化学パルプ、セミケミカルパルプ(SCP)化学パルプが挙げられる。これら単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。
【0010】
本発明のウエットパルプは、パルプを含む紙料を調製し、その紙料を抄紙することにより得られる。その際使用される抄紙機としては、例えば、長網式、円網式、短網式、ツインワイヤー式抄紙機などが挙げられる。紙料中には、必要に応じて、各種のアニオン性、ノニオン性、カチオン性あるいは両性の歩留向上剤、濾水性向上剤、紙力増強剤や内添サイズ剤等の各種抄紙用内添助剤、染料、蛍光増白剤、pH調整剤、消泡剤、ピッチコントロール剤、スライムコントロール剤等の抄紙用内添助剤を適宜添加できる。
【0011】
また、本発明のウエットパルプは、パルプの水分が40〜60%である。40%未満は現行の抄紙機では装置の制約上できず、また60%より高ければ輸送、保管の問題があり好ましくない。本水分は、抄き上げたパルプシートの水分である。
【0012】
スプレーは、防腐・防かび剤の歩留まりを高める観点から、最終プレスパートの後に行うのが、効果的であるが、プレスパートが数箇所ある場合には、パルプの内部まで浸透させるべく、最終プレスパート手前で行ってもよい。
【0013】
本発明で用いるスプレーノズルとしては、二流体スプレーが好ましい。スプレーノズルとしては他にフルコーンスプレー、ホロコーンスプレー、フラットスプレーなどの一流体スプレーが挙げられるが、少量の防腐・防かび剤水溶液を均一に噴霧できる点から二流体スプレーを使用する。フルコーンスプレー、ホロコーンスプレー、フラットスプレーなどの一流体スプレーは、1つのノズルから噴射される液量が多くなりすぎ、ウエットパルプにカビなどが発生しやすい状況になる。さらに、多量の水溶液がノズルから噴射されるため、防腐・防かび剤の幅方向のプロファイルを悪化させる原因となるため使用に適さない。
【0014】
本発明で用いられる二流体スプレーとしては、小さな噴霧粒子を付与できるものであれば、どのような形状でも構わないが、噴霧粒子の平均粒子径が10〜100μmであることが好ましい。10μmより小さければ湿紙表面の気流により、噴霧ムラを引き起こし、また防腐・防かび剤が大気中に拡散し歩留まりが悪くなる。100μmより大きければ、粒子分布が広がるためパルプ表面にムラが起こりやすくなり、これを回避するために噴霧量を多くすれば、水分が多くなるため好ましくない。なお、ここで平均粒子径は、西華産業社製位相ドップラー式レーザー粒子分析計で測定した値である。
本発明では、防腐・防かび剤の添加量は、絶乾パルプに対して10ppm〜1000ppmが好ましい。3ppm未満では十分な防腐防かび効果を示さず、1000ppm以上では防腐防かび効果が飽和状態となる。
【0015】
本発明の防腐・防かび剤としては、防腐効果又は防かび効果のあるものであれば特に制限はなく、例としてはテトラクロロイソフタロニトリル(通称ダコニール)、有機窒素硫黄系、有機窒素臭素系などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、近年、防腐・防かび剤に界面活性剤を配合して歩留まりを向上させる手法があるが、こういった手法を用いられた防腐・防かび剤を使用しても何ら問題ない。
【実施例】
【0016】
以下に実施例を挙げて、本発明を具体的に説明し、効果を示すが、本発明はそれらの実施例に限定されるものではない。なお。例中の「部」及び「%」は特に断りのない限り「質量部」又は「質量%」のことである。
【0017】
(防かび試験)
実施例1〜比較例4で得られた各ウエットパルプを予めシャーレに固化滅菌させておいたJIS Z 2911の無機寒天培地に貼り付け、その後、供試菌の胞子懸濁液をマイクロスプレーで塗布した。28±2℃で培養して、経過日数毎にかびの発育状態を観察した結果を表1に示す。
4:試験片表面にかびの発育は認められない。
3:試験片表面にかびの発育が1/3以下。
2:試験片表面にかびの発育が1/3〜2/3。
1:試験片表面にかびの発育が2/3以上。
【0018】
実施例1
針葉樹クラフトパルプ(ISO白色度85%)を原料とした。
次いで、この原料を用いて、ツインワイヤー抄紙機(Maruishi−ANDRITZ社製)において抄速40m/分でウエットパルプを抄造する際に、ヘビーデューティープレス後に、二流体スプレーのいけうち社製微霧少噴量ノズルBIMV8002Sを用いて、防かび剤(モルノン1958:片山ナルコ社製)を対絶乾パルプ100ppmになるように塗布した。防かび剤を噴霧したときの粒径は、平均50μmであった。また、ウエットパルプの水分は、50.2%であった。抄造したパルプの防かび試験の結果を表1に示す。
【0019】
実施例2
防かび剤を対絶乾パルプ20ppmにした以外は実施例1と同様に行った。防かび剤を噴霧したときの粒径は、平均20μmであった。ウエットパルプの水分は、50.1%であった。抄造したパルプの防かび試験の結果を表1に示す。
【0020】
実施例3
圧搾空気を調整して、防かび剤を噴霧したときの粒径を平均5μmにした以外は、実施例1と同様に行った。ウエットパルプの水分は50.1%であった。
抄造したパルプの防かび試験の結果を表1に示す。
【0021】
実施例4
二流体スプレーを一流体スプレーのいけうち社製ミスト扇形ノズルDOEVA9582を用いて、防かび剤を噴霧したときの粒径を120μmにした以外は、実施例1と同様に行った。ウエットパルプの水分は55.0%であった。抄造したパルプの防かび試験の結果を表1に示す。
【0022】
比較例1
内添法で、抄紙機前のパルプチェストに対ウエットパルプ200ppm添加した以外は、実施例1と同様に行った。ウエットパルプの水分は50.0%であった。
抄造したパルプの防かび試験の結果を表1に示す。
【0023】
比較例2
スプレーを一流体スプレーのいけうち社製充円錘ノズルDOEVA9582を用いた以外は、実施例1と同様に行った。防かび剤を噴霧した時の粒径は、110μmであった。ウエットパルプの水分は、65.4%であった。
抄造したパルプの防かび試験の結果を表1に示す。
【0024】
【表1】

【0025】
表1から明らかなように、二流体スプレーを使用して防かび剤を噴霧したウエットパルプは、他の方法と比較して高い防かび効果が認められる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水分が40〜60%であるウエットパルプを製造する方法において、パルプスラリーを抄紙機で抄紙し、該抄紙機のプレスパートにおいて、防腐・防かび剤を二流体スプレー方式により塗布することを特徴としたウエットパルプの製造方法
【請求項2】
前記二流体スプレー方式による防腐・防かび剤の塗布は、スプレーのノズルより噴霧された液の粒子径が、レーザー法で10〜100μmであることを特徴とする請求項1に記載のウエットパルプの製造方法。
【請求項3】
前記防腐・防かび剤はプレスパートの後で塗布されることを特徴とする請求項1又は請求項2のいずれか1項に記載のウエットパルプの製造方法。

【公開番号】特開2009−275322(P2009−275322A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−129441(P2008−129441)
【出願日】平成20年5月16日(2008.5.16)
【出願人】(000122298)王子製紙株式会社 (2,055)
【Fターム(参考)】