説明

ウエビングの織り構造及びウエビングの製織方法

【課題】 織り込まれた芯糸がウエビングの表面側から飛び出すことがなく糸のほつれや見栄えの悪化の原因となることを防止できるウエビングの織り構造及び工程数が少なく簡単なウエビングの製織方法を得る。
【解決手段】 ウエビング10の縦糸12では、地糸18及び地糸18に比し伸び率が小さく伸び剛性が大きな芯糸16と共に熱溶融糸20が織り込まれている。熱溶融糸20を一時的に融点以上に加熱することで、地糸18と芯糸16とが接着されている。このため、地糸18と芯糸16との糸間摩擦が増大し、芯糸16がウエビング10の表面側から飛び出すことがなく糸のほつれや見栄えの悪化の原因になることを防止できる。また、従来からある所謂ヒートセット工程(伸度調整工程)にて熱溶融糸20を一時的に融点以上に加熱するため、ウエビング10の製織工程の工程数を少なくでき、簡単にウエビング10を製織できる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、車両用シートベルト装置に用いられる乗員拘束用ウエビングの織り構造及びこのウエビングの製織方法に関する。
【0002】
【従来の技術】車両用シートベルト装置としては、連続ウエビングを用いて三点式シートベルト装置としたものがある。
【0003】この種のシートベルト装置では、ウエビングは一端部が巻取装置に係止され、他端部がスルーアンカを通ってアンカプレートに係止されている。乗員がウエビングを装着する際には、スルーアンカとアンカプレートとの間のウエビング中間部に配設されたタングプレートをバックル装置に係合することにより、ウエビング巻取装置から引き出されて装着状態となる。
【0004】ところで、前述の如きシートベルト装置に用いられるウエビングにおいては、車両急減速時に乗員の作用するエネルギーを減少(吸収)させる機能を有した所謂エネルギー吸収ウエビングが知られている。この種のウエビングは、ウエビング長手方向に沿って織り込まれた伸び率または伸び剛性が互いに異なる2種類の縦糸によって構成している。例えば、縦糸は、伸び率の小さなまたは伸び剛性の大きな芯糸と、この芯糸に対応し前記伸び率の大きなまたは伸び剛性の小さな地糸と、を有する構成であり、これにより、ウエビングに大きな荷重が作用した場合には、芯糸が地糸よりも先に切断されて荷重を吸収し、乗員に作用するエネルギーが減少される構成である。
【0005】しかしながら、このような従来のエネルギー吸収ウエビングでは、ウエビングにスルーアンカやアンカプレートとの摺動摩擦あるいは乗員のウエビング装着操作に伴う屈曲が生じた場合やウエビングに荷重が局所的に集中して作用したり荷重が衝撃的に作用した場合に、芯糸の伸縮量が地糸の伸縮量に追従できずに芯糸がウエビングの表面側から飛び出してしまい、これにより、糸のほつれや見栄えの悪化の原因となるという問題がある。
【0006】また、ウエビングの製織方法は工程数が少なくかつ簡単であることが好ましい。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】本発明は上記事実を考慮し、ウエビングにスルーアンカやアンカプレートとの摺動摩擦あるいは乗員のウエビング装着操作に伴う屈曲が生じた場合やウエビングに荷重が局所的に集中して作用したり荷重が衝撃的に作用した場合でも、織り込まれた芯糸がウエビングの表面側から飛び出すことがなく糸のほつれや見栄えの悪化の原因となることを防止できるウエビングの織り構造及び工程数が少なくかつ簡単なウエビングの製織方法を得ることが目的である。
【0008】
【課題を解決するための手段】請求項1に記載のウエビングの織り構造は、ウエビング長手方向に沿って織り込まれ伸び率または伸び剛性が互いに異なる2種類の縦糸と、前記縦糸に対して横方向に沿って織り込まれた横糸と、を有するウエビングの織り構造において、前記2種類の縦糸及び前記横糸と共に織り込まれた熱溶融糸を備え、前記熱溶融糸を前記熱溶融糸の融点以上の温度に一時的に加熱することで前記熱溶融糸の表面または全体を一時的に溶融させて前記2種類の縦糸を前記熱溶融糸によって共に接着した、ことを特徴としている。
【0009】請求項1に記載のウエビングの織り構造では、ウエビング長手方向に沿って織り込まれた縦糸は、伸び率または伸び剛性が互いに異なる2種類の縦糸を備えている。以下、これらの縦糸のうち伸び率の小さなまたは伸び剛性の大きな縦糸を「伸短縦糸」といい、伸び率の大きなまたは伸び剛性の小さな縦糸を「伸長縦糸」という。
【0010】このウエビングは、例えば車両のシートベルト装置に適用される。このウエビングに大きな荷重が作用した際には、伸短縦糸が伸長縦糸よりも先に切断されて荷重を吸収し、乗員に作用するエネルギーが減少される。
【0011】ここで、請求項1に記載のウエビングの織り構造では、2種類の縦糸(伸短縦糸及び伸長縦糸)と共に織り込まれた熱溶融糸を一時的にその融点以上の温度に加熱して熱溶融糸の表面または全体を一時的に溶融させることで、この熱溶融糸によって伸短縦糸と伸長縦糸とを接着している。このため、この熱溶融糸の接着力により伸短縦糸と伸長縦糸との糸間摩擦が増大する。この摩擦力は、伸長縦糸に対し伸短縦糸が自由に移動しようとする動きを阻止する力として作用することになる。したがって、このウエビングにスルーアンカやアンカプレートとの摺動摩擦あるいは乗員のウエビング装着操作に伴う屈曲が生じた場合やこのウエビングに荷重が局所的に集中して作用したり荷重が衝撃的に作用した場合でも、熱溶融糸の接着力により伸長縦糸に対し伸短縦糸が自由に移動できないため、伸短縦糸がウエビングの表面側から飛び出すことがなく、糸のほつれや見栄えの悪化の原因となることを防止できる。
【0012】また、熱溶融糸によって伸短縦糸と伸長縦糸とが接着されているため、伸短縦糸が伸長縦糸を補強できると共に伸長縦糸が伸短縦糸を補強でき、これにより、ウエビングの強度を大きくすることができる。
【0013】さらに、熱溶融糸によって伸短縦糸と伸長縦糸とが接着されて伸短縦糸と伸長縦糸との糸間摩擦が増大するため、ウエビングに大きな荷重が作用した際に単位長さあたりの伸短縦糸の切断箇所が多くなり、これにより、ウエビングのエネルギー吸収量を増大することができる。
【0014】請求項2に記載のウエビングの織り構造は、請求項1に記載のウエビングの織り構造において、前記熱溶融糸を前記2種類の縦糸の両方に隣接して織り込んだ、ことを特徴としている。
【0015】請求項2に記載のウエビングの織り構造によれば、熱溶融糸を2種類の縦糸(伸短縦糸及び伸長縦糸)の両方に隣接して織り込んだため、熱溶融糸が伸短縦糸及び伸長縦糸に確実に接触し、これにより、熱溶融糸によって伸短縦糸と伸長縦糸とを確実に接着することができる。
【0016】請求項3に記載のウエビングの織り構造は、請求項1または請求項2に記載のウエビングの織り構造において、前記2種類の縦糸のうち前記伸び率の小さなまたは伸び剛性の大きな一方の縦糸、または前記一方の縦糸に隣接する他方の縦糸の少なくとも一方に前記熱溶融糸を撚り付けた、ことを特徴としている。
【0017】請求項3に記載のウエビングの織り構造によれば、伸短縦糸(一方の縦糸)または伸長縦糸(他方の縦糸)の少なくとも一方に熱溶融糸を撚り付けたため、熱溶融糸を伸短縦糸や伸長縦糸と一体の状態で織り込むことができる。これにより、熱溶融糸を織り込む際に熱溶融糸が切断されることを防止でき、熱溶融糸の織り込み作業を容易にできる。
【0018】さらに、伸短縦糸は常に伸長縦糸に隣接しているため、伸短縦糸に熱溶融糸を撚り付ける場合は熱溶融糸が伸短縦糸及び伸長縦糸に確実に接触する。一方、伸長縦糸に熱溶融糸を撚り付ける場合は伸短縦糸に隣接する伸長縦糸に熱溶融糸を撚り付けるため、この場合も熱溶融糸が伸短縦糸及び伸長縦糸に確実に接触する。また、上述の如く熱溶融糸を織り込む際に熱溶融糸が切断されることを防止できるため、熱溶融糸がウエビング長手方向へ隙間なく配置される。このように、常に熱溶融糸が伸短縦糸及び伸長縦糸に確実に接触すると共に、熱溶融糸がウエビング長手方向へ隙間なく配置されるため、熱溶融糸によって伸短縦糸と伸長縦糸とを一層確実に接着することができる。
【0019】請求項4に記載のウエビングの織り構造は、請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載のウエビングの織り構造において、前記熱溶融糸の融点は200℃以下である、ことを特徴としている。
【0020】請求項4に記載のウエビングの織り構造によれば、熱溶融糸の融点が200℃以下であるため、ウエビング製造工程(例えば、ウエビングの染色工程)内で熱溶融糸を確実に溶融でき、したがって、ウエビング製造工程内で熱溶融糸によって伸短縦糸と伸長縦糸とを確実に接着することができる。
【0021】請求項5に記載のウエビングの織り構造は、請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載のウエビングの織り構造において、前記2種類の縦糸のうち前記伸び率の小さなまたは伸び剛性の大きな一方の縦糸に撚り加工を施した、ことを特徴としている。
【0022】請求項5に記載のウエビングの織り構造によれば、伸短縦糸(一方の縦糸)に撚り加工を施したため、伸短縦糸表面に凹凸ができ、熱溶融糸による伸短縦糸と伸長縦糸と間の接着力が一層大きくなる。このため、伸短縦糸と伸長縦糸との糸間摩擦が一層増大する。したがって、このウエビングにスルーアンカやアンカプレートとの摺動摩擦あるいは乗員のウエビング装着操作に伴う屈曲が生じた場合やこのウエビングに荷重が局所的に集中して作用したり荷重が衝撃的に作用した場合に、伸長縦糸に対し伸短縦糸が一層自由に移動できず、このため、伸短縦糸がウエビングの表面側から飛び出して糸のほつれや見栄えの悪化の原因となることを一層防止できる。
【0023】また、伸短縦糸表面の凹凸により熱溶融糸による伸短縦糸と伸長縦糸との間の接着力が一層大きくなるため、伸短縦糸が伸長縦糸を一層補強できると共に伸長縦糸が伸短縦糸を一層補強でき、これにより、ウエビングの強度を一層大きくすることができる。
【0024】さらに、伸短縦糸表面の凹凸により伸短縦糸と伸長縦糸との糸間摩擦(熱溶融糸による接着力)が一層増大するため、ウエビングに大きな荷重が作用した際に単位長さあたりの伸短縦糸の切断箇所が一層多くなり、これにより、ウエビングのエネルギー吸収量を一層増大することができる。
【0025】請求項6に記載のウエビングの製織方法は、ウエビング長手方向に沿って織り込まれ伸び率または伸び剛性が互いに異なる2種類の縦糸と、前記縦糸に対して横方向に沿って織り込まれた横糸と、を有し、前記ウエビングを一時的に加熱すると共に引張力を付与することで前記ウエビングの伸度を調整する伸度調整工程を経て製織されるウエビングの製織方法において、前記2種類の縦糸と共に熱溶融糸を織り込み、前記伸度調整工程における前記ウエビングの加熱温度を前記熱溶融糸の融点以上にすることで、前記伸度調整工程にて一時的に前記熱溶融糸の表面または全体を溶融させて前記2種類の縦糸を前記熱溶融糸によって共に接着する、ことを特徴としている。
【0026】請求項6に記載のウエビングの製織方法では、伸び率または伸び剛性が互いに異なる2種類の縦糸を熱溶融糸と共にウエビングの長手方向に沿って織り込む。さらに、熱溶融糸を一時的にその融点以上の温度に加熱して熱溶融糸の表面または全体を一時的に溶融させることで、この熱溶融糸によって2種類の縦糸を接着する。
【0027】ここで、従来からウエビングの製織工程には、ウエビングを一時的に加熱する共に引張力を付与することでウエビングの伸度を調整する伸度調整工程(所謂「ヒートセットの工程」)があり、請求項6に記載のウエビングの製織方法では、この伸度調整工程の工程にて熱溶融糸を一時的にその融点以上の温度に加熱して熱溶融糸の表面または全体を一時的に溶融させている。
【0028】このように、従来から存在する伸度調整工程にて熱溶融糸を一時的にその融点以上の温度に加熱するため、熱溶融糸を一時的にその融点以上の温度に加熱する工程をウエビングの製織工程に別途設ける必要がなく、これにより、ウエビングの製織工程の工程数を少なくでき、かつ、ウエビングを簡単に製織することができる。
【0029】
【発明の実施の形態】図1には、本発明の実施の形態に係るウエビングの織り構造が適用されて構成されたウエビング10が分解平面図にて示されており、図2には、ウエビング10が平面図にて示されている。また、図3には、ウエビング10が縦断面図(図2の3−3線に沿った断面図)にて示されている。なお、図1及び図3においては、各部の説明を明確に説明するために、各部の構成を誇張して描いている。
【0030】ウエビング10は、その長手方向に沿って織り込まれた2種類の縦糸12と、この縦糸12に対し横方向に沿って織り込まれた横糸14とが織り込まれている。
【0031】縦糸12は、例えばポリエステル系あるいはアラミド系の芯糸16と、同様に例えばポリエステル系の地糸18とを有しており、その伸び率または伸び剛性が互いに異なっている。すなわち、前記伸び率の小さなまたは伸び剛性の大きなほうが芯糸16とされてウエビング10の中心部分に織り込まれており、一方、前記伸び率の大きなまたは伸び剛性の小さなほうが地糸18とされてウエビング10の表面側に織り込まれている。なお、芯糸16は常に地糸18に隣接している。
【0032】またここで、このウエビング10では、芯糸16と地糸18の両方に隣接して熱溶融糸20が織り込まれている。熱溶融糸20は、融点以上の温度において表面または全体が溶融して流動性を有すると共に、融点以下の温度に冷却されると凝固して接着性を備える性質を有している。この熱溶融糸20は、ウエビング10を一時的に加熱する共に引張力を付与することでウエビング10の伸度を調整する伸度調整工程(ウエビングの製織工程内に従来からある所謂「ヒートセットの工程」)にて融点以上に一時的に加熱されており、これにより、熱溶融糸20の表面または全体が一時的に溶融されることで芯糸16と地糸18とがこの熱溶融糸20によって接着されている。
【0033】なお、熱溶融糸20としては、例えば「東レエルダー糸」(ナイロン共重合体の低融点ポリマー)があり、この「東レエルダー糸」は、融点が乾熱・湿熱にて100℃から120℃であり、また、一時的に熱溶融されることで良好な接着性を備えるものである。
【0034】また、芯糸16には、例えば「片撚り」によって撚り加工が施されており、これにより、芯糸16表面に凹凸ができた構成である。
【0035】次に、本実施の形態の作用及び効果を説明する。
【0036】以上の構成のウエビング10は、例えば車両のシートベルト装置に適用される。車両急減速時等においてこのウエビング10に大きな荷重が作用した際には、縦糸12のうち前記伸び率の小さなまたは伸び剛性の大きな芯糸16が、前記伸び率の大きなまたは伸び剛性の小さな地糸18よりも先に切断されて荷重を吸収し、乗員に作用するエネルギーが減少される。
【0037】ここで、このウエビング10では、熱溶融糸20を一時的にその融点以上の温度に加熱して熱溶融糸20の表面または全体を一時的に溶融させることで、この熱溶融糸20によって芯糸16と地糸18とを接着している。このため、この熱溶融糸20の接着力により芯糸16と地糸18との糸間摩擦が増大する。この摩擦力は、地糸18に対し芯糸16が自由に移動しようとする動きを阻止する力として作用することになる。したがって、このウエビング10にスルーアンカやアンカプレートとの摺動摩擦あるいは乗員のウエビング装着操作に伴う屈曲が生じた場合やウエビング10に荷重が局所的に集中して作用したり荷重が衝撃的に作用した場合でも、熱溶融糸20の接着力により地糸18に対し芯糸16が自由に移動できないため芯糸16がウエビング10の表面側から飛び出すことがなく、糸のほつれや見栄えの悪化の原因となることを防止できる。
【0038】また、熱溶融糸20によって芯糸16と地糸18とが接着されているため、芯糸16が地糸18を補強できると共に地糸18が芯糸16を補強でき、これにより、ウエビング10の強度を大きくすることができる。
【0039】さらに、熱溶融糸20によって芯糸16と地糸18とが接着されて芯糸16と地糸18との糸間摩擦が増大するため、ウエビング10に大きな荷重が作用した際に単位長さあたりの芯糸16の切断箇所が多くなる。これにより、ウエビング10のエネルギー吸収量を増大することができる。
【0040】またここで、芯糸16に撚り加工が施されているため、芯糸16表面に凹凸ができ、熱溶融糸20による芯糸16と地糸18と間の接着力が一層大きくなる。このため、芯糸16と地糸18との糸間摩擦が一層増大する。したがって、このウエビング10にスルーアンカやアンカプレートとの摺動摩擦あるいは乗員のウエビング装着操作に伴う屈曲が生じた場合及びウエビング10に荷重が局所的に集中して作用したり荷重が衝撃的に作用した場合に、地糸18に対し芯糸16が一層自由に移動できず、このため、芯糸16がウエビング10の表面側から飛び出して糸のほつれや見栄えの悪化の原因となることを一層防止できる。
【0041】また、芯糸16表面の凹凸により熱溶融糸20による芯糸16と地糸18との間の接着力が一層大きくなるため、芯糸16が地糸18を一層補強できると共に地糸18が芯糸16を一層補強でき、これにより、ウエビング10の強度を一層大きくすることができる。
【0042】さらに、芯糸16表面の凹凸により芯糸16と地糸18との糸間摩擦(熱溶融糸20による接着力)が一層増大するため、ウエビング10に大きな荷重が作用した際に単位長さあたりの芯糸16の切断箇所が一層多くなり、これにより、ウエビング10のエネルギー吸収量を一層増大することができる。
【0043】さらにまた、熱溶融糸20を芯糸16と地糸18の両方に隣接して織り込んだため、熱溶融糸20が芯糸16及び地糸18に確実に接触し、これにより、熱溶融糸20によって芯糸16と地糸18とを確実に接着することができる。
【0044】さらにここで、従来からウエビングの製織工程には、ウエビングを一時的に加熱する共に引張力を付与することで前記ウエビングの伸度を調整する伸度調整工程(ヒートセットの工程)があり、本実施の形態に係るウエビング10は、この伸度調整工程にて熱溶融糸20を一時的にその融点以上の温度に加熱して熱溶融糸20の表面または全体を一時的に溶融させている。
【0045】このように、従来から存在する伸度調整工程にて熱溶融糸20を一時的にその融点以上の温度に加熱するため、熱溶融糸20を一時的にその融点以上の温度に加熱する工程をウエビング10の製織工程に別途設ける必要がなく、ウエビング10の製織工程の工程数を少なくでき、かつ、ウエビング10を簡単に製織することができる。
【0046】また、本実施の形態のウエビング10では、伸度調整工程にて熱溶融糸20を一時的にその融点以上の温度に加熱する構成としたが、熱溶融糸20の融点が200℃以下であれば、ウエビング製造工程(例えば、ウエビングの染色工程)内で熱溶融糸20を確実に溶融でき、したがって、ウエビング製造工程内で熱溶融糸20によって芯糸16と地糸18とを確実に接着することができる。なお、ウエビングの染色工程では、ポリエステル製ウエビングのサーモゾル染色加工において、ウエビングが200℃に加熱される。
【0047】次に、本実施の形態の実験例を示す。
【0048】図4は、本実施の形態のウエビング10(熱溶融糸20を使用しかつ芯糸16に撚り加工を施したウエビング)を長手方向へ引っ張った際のウエビング10の伸び量(横軸)とウエビング10の引張荷重(縦軸)との関係を示すグラフであり、また、図5は、熱溶融糸を使用せず芯糸に撚り加工を施したのみのウエビング(以下「比較用ウエビング」という)を長手方向へ引っ張った際のウエビングの伸び量(横軸)とウエビングの引張荷重(縦軸)との関係を示すグラフである。
【0049】図4及び図5に示す如く、本実施の形態のウエビング10における引張荷重の落ち込み(図4のX1)は、比較用ウエビングにおける引張荷重の落ち込み(図5のX2)に比し、小さくなっている。これは、上述の如く、本実施の形態のウエビング10では熱溶融糸20によって芯糸16と地糸18とが接着されると共に芯糸16に撚り加工が施されているため、芯糸16が地糸18を補強すると共に地糸18が芯糸16を補強することで、ウエビング10の強度が比較用ウエビングより大きくされているからである。
【0050】さらに、本実施の形態のウエビング10では図4のY1の範囲において引張荷重が略一定となるのに対し、比較用ウエビングでは図5のY2の範囲において引張荷重が緩やかに増加している。これは、上述の如く、本実施の形態のウエビング10では熱溶融糸20によって芯糸16と地糸18とが接着されると共に芯糸16に撚り加工が施されることで芯糸16と地糸18との糸間摩擦が増大しており、このため、ウエビング10に荷重が作用した際に単位長さあたりの芯糸16の切断箇所が多くなることから、ウエビング10のエネルギー吸収量が比較用ウエビングより増大しているためである。
(第1変形例)図6には、本実施の形態の第1変形例に係るウエビングの織り構造が適用されて構成されたウエビング50が分解平面図にて示されている。
【0051】本変形例のウエビング50では、2種類の縦糸52のうち伸び率の小さなまたは伸び剛性の大きな芯糸54に隣接する前記伸び率の大きなまたは伸び剛性の小さな地糸56に熱溶融糸58が撚り付けられている。この熱溶融糸58は、上記実施の形態と同様に、融点以上に一時的に加熱されており、これにより、熱溶融糸58の表面または全体が一時的に溶融されることで芯糸54と地糸56とがこの熱溶融糸58によって接着されている。
【0052】また、芯糸54には、例えば「片撚り」によって撚り加工が施されており、これにより、芯糸54表面に凹凸ができた構成である。
【0053】本変形例のウエビング50によっても、上記実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0054】さらに、本変形例のウエビング50では、地糸56に熱溶融糸58を撚り付けたため、熱溶融糸58を地糸56と一体の状態で織り込むことができる。これにより、熱溶融糸58を織り込む際に熱溶融糸58が切断されることを防止でき、熱溶融糸58の織り込み作業を容易にできる。
【0055】また、熱溶融糸58が撚り付けられた地糸56が芯糸54に隣接するため、熱溶融糸58が芯糸54及び地糸56に確実に接触する。さらに、熱溶融糸58を織り込む際に熱溶融糸58が切断されることを防止できるため、熱溶融糸58がウエビング長手方向へ隙間なく配置される。これにより、熱溶融糸58によって芯糸54と地糸56とを一層確実に接着することができる。
(第2変形例)図7には、(A)において第2変形例に係るウエビングの織り構造が適用されて構成されたウエビング80の主要部が平面図にて示されており、(B)においてウエビング80が分解平面図にて示されている。
【0056】本変形例に係るウエビング80では、ポリエステル糸82に熱溶融糸84が撚り付けられて構成された撚り糸86(図7(A)参照)を、2種類の縦糸88のうち伸び率の小さなまたは伸び剛性の大きな芯糸90に撚り付けることで、芯糸90に熱溶融糸84が撚り付けられている。この熱溶融糸84は、上記実施の形態と同様に、融点以上に一時的に加熱されており、これにより、熱溶融糸84の表面または全体が一時的に溶融されることで芯糸90と地糸92(2種類の縦糸88のうち伸び率の大きなまたは伸び剛性の小さな糸)とがこの熱溶融糸84によって接着されている。
【0057】また、上述の如く芯糸90に撚り糸86を撚り付けることで、芯糸90表面に凹凸ができた構成とされている。
【0058】本変形例のウエビング80によっても、上記実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0059】さらに、本変形例のウエビング80では、芯糸90に熱溶融糸84を撚り付けたため、熱溶融糸84を芯糸90と一体の状態で織り込むことができる。これにより、熱溶融糸84を織り込む際に熱溶融糸84が切断されることを防止でき、熱溶融糸84の織り込み作業を容易にできる。
【0060】また、芯糸90は常に地糸92に隣接するため、熱溶融糸84を芯糸90に撚り付けることで熱溶融糸84が芯糸90及び地糸92に確実に接触する。さらに、熱溶融糸84を織り込む際に熱溶融糸84が切断されることを防止できるため、熱溶融糸84がウエビング長手方向へ隙間なく配置される。これにより、熱溶融糸84によって芯糸90と地糸92とを一層確実に接着することができる。
【0061】なお、上記第2変形例では、撚り糸86を芯糸90に撚り付けることで芯糸90に熱溶融糸84が撚り付けられた構成としたが、芯糸に熱溶融糸を直接撚り付けた構成としてもよい。
【0062】また、上記第2変形例において、芯糸90に例えば「片撚り」によって撚り加工を施すことにより、芯糸90表面に凹凸を形成した構成としてもよい。
【0063】さらに、上記第1変形例では、地糸56に熱溶融糸58が撚り付けられた構成とし、上記第2変形例では、芯糸90に熱溶融糸84が撚り付けられた構成としたが、地糸及び芯糸に熱溶融糸を撚り付けた構成としてもよい。さらに、地糸及び芯糸の少なくとも一方に熱溶融糸を撚り付けると共に地糸及び芯糸の両方に隣接して熱溶融糸を織り込んだ構成としてもよい。
【0064】
【発明の効果】請求項1に記載のウエビングの織り構造では、熱溶融糸によって2種類の縦糸のうち伸び率の小さなまたは伸び剛性の大きな縦糸(以下、「伸短縦糸」という)と伸び率の大きなまたは伸び剛性の小さな縦糸(以下、「伸長縦糸」という)とを接着している。このため、伸短縦糸と伸長縦糸との糸間摩擦が増大して伸短縦糸がウエビングの表面側から飛び出すことがなく、糸のほつれや見栄えの悪化の原因となることを防止できる。
【0065】また、熱溶融糸によって伸短縦糸と伸長縦糸とが接着されているため、ウエビングの強度を大きくすることができる。
【0066】さらに、熱溶融糸によって伸短縦糸と伸長縦糸との糸間摩擦が増大するため、ウエビングに大きな荷重が作用した際に単位長さあたりの伸短縦糸の切断箇所が多くなり、ウエビングのエネルギー吸収量を増大することができる。
【0067】請求項2に記載のウエビングの織り構造によれば、熱溶融糸を伸短縦糸及び伸長縦糸の両方に隣接して織り込んだため、熱溶融糸によって伸短縦糸と伸長縦糸とを確実に接着することができる。
【0068】請求項3に記載のウエビングの織り構造によれば、伸短縦糸及び伸長縦糸の少なくとも一方に熱溶融糸を撚り付けたため、熱溶融糸を織り込む際に熱溶融糸が切断されることを防止でき、熱溶融糸の織り込み作業を容易にできる。
【0069】さらに、常に熱溶融糸が伸短縦糸及び伸長縦糸に確実に接触すると共に、熱溶融糸がウエビング長手方向へ隙間なく配置されるため、熱溶融糸によって伸短縦糸と伸長縦糸とを一層確実に接着することができる。
【0070】請求項4に記載のウエビングの織り構造によれば、熱溶融糸の融点が200℃以下であるため、ウエビング製造工程(例えば、ウエビングの染色工程)内で熱溶融糸を確実に溶融でき、したがって、ウエビング製造工程内で熱溶融糸によって伸短縦糸と伸長縦糸とを確実に接着することができる。
【0071】請求項5に記載のウエビングの織り構造によれば、伸短縦糸に撚り加工を施したため、伸短縦糸表面に凹凸ができ、伸短縦糸と伸長縦糸との糸間摩擦が一層増大する。したがって、伸短縦糸がウエビングの表面側から飛び出して糸のほつれや見栄えの悪化の原因となることを一層防止できる。
【0072】また、伸短縦糸表面の凹凸により熱溶融糸による伸短縦糸と伸長縦糸との間の接着力が一層大きくなるため、ウエビングの強度を一層大きくすることができる。
【0073】さらに、伸短縦糸表面の凹凸により伸短縦糸と伸長縦糸との糸間摩擦(熱溶融糸による接着力)が一層増大するため、ウエビングのエネルギー吸収量を一層増大することができる。
【0074】請求項6に記載のウエビングの製織方法によれば、従来から存在する伸度調整工程にて熱溶融糸を一時的にその融点以上の温度に加熱するため、ウエビングの製織工程の工程数を少なくでき、かつ、ウエビングを簡単に製織することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態に係るウエビングの織り構造が適用されて構成されたウエビングを示す分解平面図である。
【図2】ウエビングの平面図である。
【図3】ウエビングの縦断面図(図2の3−3線に沿った断面図)である。
【図4】本発明の実施の形態に係るウエビングの織り構造が適用されて構成されたウエビングを長手方向へ引っ張った際のウエビングの伸び量(横軸)とウエビングの引張荷重(縦軸)との関係を示すグラフである。
【図5】熱溶融糸を使用せず芯糸に撚り加工を施したのみのウエビングを長手方向へ引っ張った際のウエビングの伸び量(横軸)とウエビングの引張荷重(縦軸)との関係を示すグラフである。
【図6】第1変形例に係るウエビングの織り構造が適用されて構成されたウエビングを示す分解平面図である。
【図7】(A)は第2変形例に係るウエビングの織り構造が適用されて構成されたウエビングの撚り糸を示す平面図であり、(B)はこのウエビングの分解平面図である。
【符号の説明】
10 ウエビング
12 縦糸
14 横糸
16 芯糸
18 地糸
20 熱溶融糸
50 ウエビング
52 縦糸
54 芯糸
56 地糸
58 熱溶融糸
80 ウエビング
84 熱溶融糸
88 縦糸
90 芯糸
92 地糸

【特許請求の範囲】
【請求項1】 ウエビング長手方向に沿って織り込まれ伸び率または伸び剛性が互いに異なる2種類の縦糸と、前記縦糸に対して横方向に沿って織り込まれた横糸と、を有するウエビングの織り構造において、前記2種類の縦糸と共に織り込まれた熱溶融糸を備え、前記熱溶融糸を前記熱溶融糸の融点以上の温度に一時的に加熱することで前記熱溶融糸の表面または全体を一時的に溶融させて前記2種類の縦糸を前記熱溶融糸によって共に接着した、ことを特徴とするウエビングの織り構造。
【請求項2】 前記熱溶融糸を前記2種類の縦糸の両方に隣接して織り込んだ、ことを特徴とする請求項1記載のウエビングの織り構造。
【請求項3】 前記2種類の縦糸のうち前記伸び率の小さなまたは伸び剛性の大きな一方の縦糸、または前記一方の縦糸に隣接する他方の縦糸の少なくとも一方に前記熱溶融糸を撚り付けた、ことを特徴とする請求項1または請求項2記載のウエビングの織り構造。
【請求項4】 前記熱溶融糸の融点は200℃以下である、ことを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか1項記載のウエビングの織り構造。
【請求項5】 前記2種類の縦糸のうち前記伸び率の小さなまたは伸び剛性の大きな一方の縦糸に撚り加工を施した、ことを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れか1項記載のウエビングの織り構造。
【請求項6】 ウエビング長手方向に沿って織り込まれ伸び率または伸び剛性が互いに異なる2種類の縦糸と、前記縦糸に対して横方向に沿って織り込まれた横糸と、を有し、前記ウエビングを一時的に加熱すると共に引張力を付与することで前記ウエビングの伸度を調整する伸度調整工程を経て製織されるウエビングの製織方法において、前記2種類の縦糸と共に熱溶融糸を織り込み、前記伸度調整工程における前記ウエビングの加熱温度を前記熱溶融糸の融点以上にすることで、前記伸度調整工程にて一時的に前記熱溶融糸の表面または全体を溶融させて前記2種類の縦糸を前記熱溶融糸によって共に接着する、ことを特徴とするウエビングの製織方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2001−106023(P2001−106023A)
【公開日】平成13年4月17日(2001.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平11−286961
【出願日】平成11年10月7日(1999.10.7)
【出願人】(000003551)株式会社東海理化電機製作所 (3,198)
【出願人】(000113344)ホシノ工業株式会社 (3)
【Fターム(参考)】