説明

ウエブの熱処理方法及び熱処理装置

【課題】 熱処理温度斑を発生しないウエブの熱処理方法と、それに用いる熱処理装置を提供すること。
【解決手段】 搬送されるウエブに溶剤、好ましくは水分を付与した後、熱処理を行うウエブの熱処理方法と熱処理装置によって上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はウエブの熱処理方法及び熱処理装置に関する。さらに詳しくは、ウエブを搬送しながら熱処理を行う熱処理方法であって、ウエブに溶剤を付与した後、熱処理を行う熱処理方法及び熱処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、合成繊維などからなるウエブはその形態安定性を得るために熱処理が行われている。通常、このような熱処理は、単にウエブに熱風を吹き付けるか又は熱風を循環させる方式で行われている。また、熱処理において、酸素の存在が悪影響を及ぼす場合や水分が必要な場合には、加熱手段として蒸気が用いられ、蒸気は吹き込み式や循環式で実施されている。さらに、加熱効率を高めるために、通常の蒸気に代えて過熱蒸気を用いることも提案されている(特許文献1)。
【特許文献1】特開昭51−11996号公報
【0003】
しかしながら、過熱蒸気を用いることは加熱効率という点で優れているが、蒸気の結露が生じることが多く、その結果、結露に起因する温度斑、蒸気節約による酸素(空気)混入などに起因する熱処理斑により、品質トラブルが多発している。
【0004】
蒸気の吹き込み量を過大に設定すれば、ある程度の品質向上が図れることは経験的に明確にはなっていたが、ランニングコストが高騰するため生産性の点で問題がある。
【0005】
本出願人は、当初結露を防止するため、断熱強化、シール強化など操業設備の改造による対策を行ったが解決することができず、また窒素ガスに蒸気を混合することも検討したが、設備が高価で複雑になるためプロセス面からの抜本的な対策を検討する必要があることが判明した。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、熱処理温度斑を発生しないウエブの熱処理方法と、それに用いる熱処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは詳細に検討を重ねた結果、ある程度の水分雰囲気にあれば窒素雰囲気で熱処理が可能であることを見出し本発明に至った。すなわち本発明は、搬送しながら熱処理を行うウエブの熱処理方法であって、ウエブに溶剤を付与した後、熱処理を行うことを特徴とするウエブの熱処理方法である。また、本発明のもう一つの発明は、少なくとも、溶剤付与手段と加熱手段を有するガス循環設備をから構成されたウエブの熱処理装置である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、熱処理温度斑を発生しないウエブの熱処理方法と熱処理装置を提供することができる。また、本発明によれば、従来のウエブの熱処理方法よりもランニングコストを低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明のウエブの熱処理方法は、ウエブを搬送しながら熱処理を行う際に、ウエブに溶剤を付与した後、熱処理を行うことが重要である。ウエブとしては、各種繊維、糸条、不織布、織物、編物などの繊維製品が挙げられるが、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、アクリル樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル、ポリスチレン、エポキシ樹脂、ポリカーボネート、ABS樹脂、ポリウレタン、各種エラストマーやゴムなどの熱可塑性又は熱硬化性の樹脂成型体であってもよい。なかでも、面ファスナーの製造に用いられるポリアミドやポリエステルを素材とするウエブが好ましい。
【0010】
ウエブへ溶剤を付与する手段はとくに制限されないが、ウエブへの付着斑をできるだけ少なくするには、噴霧、又は溶剤に浸漬したロールを利用したタッチロールで実施するのが実用的であり好ましい。溶剤の付与量はウエブの性状に依存するので一該に決められないが、例えば10〜100mg/m程度で実施される。溶剤の付与量を調節するには、噴霧形式では噴霧ノズルの径、噴霧量などを調節すればよい。また、タッチロール形式で行う場合は、溶剤浴に浸漬して溶剤が付与された主ロールに必要に応じてロール径、多段のロールを組み合わせることで付着させる溶剤量を調節することができる。
【0011】
溶剤としては、処理対象物に相応しい比較的高沸点のアルコール類、各種炭化水素類、水などを挙げることができる。溶剤を使用する場合は熱処理温度に注意する必要があり、安全の面では水が好ましい。
【0012】
熱処理は熱風を吹き付ける、熱風を循環させるなどで行われるが、酸素の存在が悪影響を及ぼす場合は窒素ガスを用いるのが好ましい。また、安全の面からも好ましい。窒素ガスは循環して実施するのが好ましい。熱処理温度はウエブの性状に応じて決められるが150〜250℃で実施されることが多い。
【0013】
上記のように、熱処理を窒素ガスを循環させる方式で行う場合、循環系を正圧に保って窒素ガスを少量漏洩させつつ新鮮な窒素ガスを補給しながら行うと酸素の存在を避ける点でさらに好ましい。具体的には、循環ファンのサクション側から新鮮な窒素ガスを供給すればよく、これにより系内に発生する不純物の除去のためにも望ましい。
【0014】
ウエブは複数列で搬送される場合が多く、ウエブ間の品質斑を防ぐためには窒素ガスのウエブへの供給は複数の噴出ノズルを用いて行うのがウエブへの均一供給ができるので好ましい。また、噴出ノズルは搬送されるウエブの両面に吹き付けられるように配列すると温度斑による品質不良を防止することができ好ましい。ノズルの形状は限定されるものではないが、例えば連続山形状のものが用いられる。ノズルからの窒素ガスの吹出速度は通常20m/秒〜30m/秒で実施される。
【0015】
本発明のウエブの熱処理方法を実施する装置としては、少なくとも、溶剤付与手段と加熱手段を有するガス循環設備とから構成される。ウエブへの溶剤の付与は、前述したように、噴霧又はタッチロールを使用するのが実用的であり好ましい。
【0016】
本発明において、熱処理が窒素ガスの循環により行われ、窒素ガスを漏洩させつつ新鮮な窒素ガスを補給しながら行う場合は、酸欠による災害を防止するために、熱処理装置全体を、排気ダクトに接続された排気フードで覆うのが好ましい。
【0017】
次に本発明を図によって説明する。図1は本発明のウエブの熱処理方法を示す概念図である。1は熱処理部であり、ヒータ3により加熱された窒素ガスが循環ファン2により循環される。4は吹出側ダクト、5は排気側ダクトである。前述したように、酸素の存在を避けるために窒素ガスは循環系を正圧に保って少量漏洩させつつ新鮮な窒素ガスを補給しながら行うのが好ましく、6はこのような新鮮な窒素ガスの供給管である。
【0018】
ウエブ8は、単数又は複数系列で前工程から搬送され、溶剤付与手段7により水分などの溶剤が付与されて前記熱処理部に搬入される。搬入されたウエブは搬送されながら熱処理を受け、次工程に搬出される。前工程や次工程がない場合は当該熱処理工程のみ実施すればよい。
【0019】
図2は熱処理部を詳細に示した図であり、ウエブは左方から右方へ、又は右方から左方へ搬送される。9は複数に配列された噴出ノズルである。また、10は装置を固定するための部材である。漏洩させた窒素ガスは、排気ダクトに接続され、装置全体を覆う排気フード(図示せず)により作業場に拡散するのを防ぐ。以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0020】
実施例1
440drの6−ナイロン製モノフィラメントのループを有する幅10cmの織物を2列で12cm/分の速度で搬送し、噴霧手段により水分50mg/mを付与した後、熱処理部へ搬入した。熱処理部は180℃の窒素ガスを10m/秒で循環し、ウエブの上部に5列、下部に6列に設けた噴出ノズルから吹出速度25m/秒で吹き付けた。ウエブの形態安定性は良好であった。窒素ガスは常時50〜500ml/秒程度漏洩させ、新鮮な窒素ガスを補給した。漏洩した窒素ガスは装置全体を覆った排気フードにより捕捉し排気ダクトへ導出した。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】ウエブの熱処理方法を示す概念図である。
【図2】熱処理部の詳細図である。
【符号の説明】
【0022】
1 熱処理部
2 循環ファン
3 ヒータ
4 吹出側ダクト
5 排気側ダクト
6 窒素ガス供給管
7 溶剤付与手段
8 ウエブ
9 噴出ノズル
10 固定部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬送しながら熱処理を行うウエブの熱処理方法であって、ウエブに溶剤を付与
した後、熱処理を行うことを特徴とするウエブの熱処理方法。
【請求項2】
該溶剤の付与を噴霧又はタッチロールで行う請求項1記載のウエブの熱処理方法。
【請求項3】
該溶剤が水である請求項1又は2記載のウエブの熱処理方法。
【請求項4】
該熱処理が窒素ガスの循環により行われる請求項1〜3いずれかに記載のウエブの熱処理方法。
【請求項5】
該窒素ガスを漏洩させつつ新鮮な窒素ガスを補給して行う請求項4記載のウエブの熱処理方法。
【請求項6】
該窒素ガスのウエブへの供給が複数の噴出ノズルを使用して行われる請求項4又は5記載のウエブの熱処理方法。
【請求項7】
少なくとも、溶剤付与手段と加熱手段を有するガス循環設備とから構成されたウエブの熱処理装置。
【請求項8】
該溶剤付与手段が噴霧又はタッチロールである請求項7記載のウエブの熱処理装置。
【請求項9】
該溶剤が水である請求項7又は8記載のウエブの熱処理装置。
【請求項10】
該熱処理装置が、排気ダクトに接続された排気フードで覆われた請求項7〜9いずれかに記載のウエブの熱処理装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−119943(P2007−119943A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−312207(P2005−312207)
【出願日】平成17年10月27日(2005.10.27)
【出願人】(305039909)クラレ機工株式会社 (23)
【Fターム(参考)】