説明

ウォッシャー液の加温装置

【課題】ウォッシャー液を比較的低電流で急速に昇温でき、かつ比較的大きな容量のウォッシャー液を加温でき、さらには電源を切った後もしばらくはウォッシャー液が暖まった状態を保つことができる加温装置を提供する。
【解決手段】加温装置10は保温貯湯室12の内部空間13に小型加熱室14を収容し、小型加熱室14の内部空間15に電気式ヒーター16を収容した構造を有する。保温貯湯室12は断熱構造を有する。小型加熱室14は適度な熱伝導性を有する。ウォッシャータンク72から送給されるウォッシャー液は保温貯湯室12を通って小型加熱室14に供給されヒーター16により加温されてウォッシャーノズルから噴射される。小型加熱室14内のウォッシャー液の熱は小型加熱室14の壁面を熱伝導して保温貯湯室12内のウォッシャー液に伝熱される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は車両搭載ウォッシャー装置のウォッシャータンクとウォッシャーノズルとの間に配置されてウォッシャー液を電気式ヒーターで加温する装置に関し、ウォッシャー液を比較的低電流で急速に昇温でき、かつ比較的大きな容量のウォッシャー液を加温でき、さらには電源を切った後もしばらくはウォッシャー液が暖まった状態を保つことができ、次に電源を再投入したときに昇温に必要な電力を削減できるようにしたものである。
【背景技術】
【0002】
ウォッシャー液の加温装置としてエンジンの廃熱を利用するもの(特許文献1)、電気式ヒーターを利用するもの(先行技術2)等があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−264779号公報
【特許文献2】実開平6−27391号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ウォッシャー液の加温装置は特に寒い冬に霜取りで使いたいが、エンジンの廃熱を利用するものでは、エンジンを始動してからウォッシャー液が温まるのに時間がかかる問題があった。また電気式ヒーターを利用するものではウォッシャー液を急速に昇温するためには大電流(40アンペア以上)が必要となるため、低温で弱っているバッテリーをさらに酷使する、太い電線・大きな接点を持つ大型リレーやトランジスタ素子等が必要になり高価となる等の問題があった。
【0005】
この発明は上述の点に鑑みてなされたもので、ウォッシャー液を比較的低電流で急速に昇温でき、かつ比較的大きな容量のウォッシャー液を加温でき、さらには電源を切った後もしばらくはウォッシャー液が暖まった状態を保つことができ、次に電源を再投入したときに昇温に必要な電力を削減できるようにしたウォッシャー液の加温装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明のウォッシャー液の加温装置は、車両搭載ウォッシャー装置のウォッシャータンクとウォッシャーノズルとの間に配置されて該ウォッシャータンクから送り込まれるウォッシャー液を加温して該ウォッシャーノズルに送り出す装置であって、内壁と外壁との間に真空層を形成した断熱構造の壁面を有し、ウォッシャーポンプの駆動により前記ウォッシャータンクから流出するウォッシャー液が内部空間に流入する保温貯湯室と、前記保温貯湯室の壁面よりも熱伝導率が高い壁面を有し、該保温貯湯室の内部空間に収容配置され、前記ウォッシャーポンプの駆動により前記保温貯湯室内のウォッシャー液が内部空間に流入する小型加熱室と、前記小型加熱室の内部空間に収容配置され、該小型加熱室内のウォッシャー液を加温する電気式ヒーターとを具備し、前記保温貯湯室の内部空間は前記小型加熱室の内部空間よりも大容量のウォッシャー液を収容できる大きさに設定され、前記ウォッシャーポンプの駆動により前記小型加熱室から流出する加温されたウォッシャー液が前記ウォッシャーノズルに供給されるものである。
【0007】
この発明によれば、電気式ヒーターに通電することにより、小型加熱室内のウォッシャー液を暖めてウォッシャーノズルから噴射することができる。小型加熱室は保温貯湯室に比べて小容量のウォッシャー液を収容するので、大電流を使わなくても小型加熱室内のウォッシャー液を急速に昇温できる。ウォッシャー液を噴射していないときは小型加熱室の壁面の熱伝導を通じて保温貯湯室内のウォッシャー液を暖めることができる。保温貯湯室は断熱構造なので、電源を切った後もしばらくは暖まった状態を保つことができ、次に電源を再投入したときに昇温に必要な電力を削減できる。
【0008】
この発明は、前記保温貯湯室が外部空間からその内部空間に連通する開口部を有し、該開口部を塞ぐ蓋に、前記電気式ヒーターを収容した小型加熱室が装着され、該小型加熱室を該開口部から差し込んで該保温貯湯室の内部空間に収容しつつ、該蓋で該開口部を塞ぐ構造を有するものとすることができる。これによれば構成が簡単であり、容易に組み立てることができる。また前記蓋が、外部からウォッシャー液を前記保温貯湯室内に流入させるウォッシャー液流入路と、前記小型加熱室内のウォッシャー液を外部に流出させるウォッシャー液流出路と、前記電気式ヒーターへ電力を供給する電線を外部に引き出す電線引出路とを有するものとすることができる。これによればウォッシャー液流入路、ウォッシャー液流出路、電線引出路を保温貯湯室に構成しなくて済み構成が簡単で、容易に組み立てることができる。
【0009】
この発明は、前記小型加熱室は上下方向に延在する筒状に形成され、前記小型加熱室の内部空間に収容される板状の可動式絞り蓋をさらに有し、前記電気式ヒーターは棒状で前記小型加熱室の筒の中心軸に沿って配置され、前記可動式絞り蓋は中心穴を有し、該中心穴に前記電気式ヒーターを通して該電気式ヒーターに沿って昇降可能に配置され、該可動式絞り蓋は該内部空間の下部から流入するウォッシャー液により押し上げられて該可動式絞り蓋の上側のウォッシャー液を該小型加熱室から流出させ、ウォッシャー液の流入が止まると自重および/またはばね力により下降し、該下降する際に該可動式絞り蓋の下側のウォッシャー液を該小型加熱室の内面と該可動式絞り蓋との間の隙間、前記電気式ヒーターの外面と該可動式絞り蓋の中心穴の内面との間の隙間、該可動式絞り蓋の面内に形成された空所のうち少なくともいずれか1つを通して該可動式絞り蓋の上側に移動させるものとすることができる。これによればウォッシャー液をウォッシャーノズルから噴射させているときに、小型加熱室内の可動式絞り蓋の上側で暖められてウォッシャーノズルに供給されるウォッシャー液と小型加熱室の下部から流入する未だ暖められていないウォッシャー液とが混ざり合うのを可動式絞り蓋が仕切りとなって抑制できるので、暖かいウォッシャー液をウォッシャーノズルから噴射させることができる。
【0010】
この発明は、前記小型加熱室の筒の底部が、絞り口が形成された板材で塞がれ、該絞り口を通して前記保温貯湯室の内部空間のウォッシャー液を前記小型加熱室の内部空間に流入させるものとすることができる。これによれば小型加熱室内の暖められたウォッシャー液が小型加熱室の下部から逃げるのを抑制することができる。またこの発明は、ウォッシャー液が前記保温貯湯室の上部からその内部空間に流入して下降し、該下降したウォッシャー液が前記小型加熱室の下部からその内部空間に流入して上昇するウォッシャー液の流路を有するものとすることができる。これによれば加温装置内でのウォッシャー液の流れを良好にすることができる。またこの発明は、前記保温貯湯室と前記小型加熱室は例えば同心の筒状にそれぞれ形成することができる。これによれば加温装置をコンパクトな構造にでき、車両のエンジンルーム等の狭い場所に設置することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】この発明による加温装置の実施の形態1を示す図で、加温装置の内部を透視して示す正面図および平面図である。
【図2】図1の加温装置の保温貯湯室を透視して示す正面図および平面図である。
【図3】図1の加温装置の蓋を透視して示す正面図および平面図である。
【図4】図3の蓋に装着される密閉ゴム(Oリング)を透視して示す正面図および平面図である。
【図5】図1の加温装置の小型加熱室を透視して示す正面図および平面図である。
【図6】図1の加温装置の下蓋を透視して示す正面図および平面図である。
【図7】図1の加温装置の可動式絞り蓋を透視して示す正面図および平面図である。
【図8】図1の加温装置を既存のウォッシャー装置に追加したときの電気系統およびウォッシャー液の送給系統を示す図である。
【図9】図1の加温装置の動作を示す模式図である。
【図10】図1の加温装置の試作機による温度上昇実験の実験結果を示す図表で、ヒーターに通電開始後の小型加熱室内の水の温度変化を示す。
【図11】図1の加温装置の試作機による温度上昇実験の実験結果を示す図表で、保温貯湯室内の水の初期温度からの上昇温度の変化を示す。
【図12】図1の加温装置の試作機による保温特性実験実験結果を示す図表である。
【図13】この発明による加温装置の実施の形態2を示す図で、加温装置の内部を透視して模式的に示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
《実施の形態1》
この発明の実施の形態1を説明する。図1〜図7はこの実施の形態による加温装置10を内部を透視して示した図である。図1は組み立てられた状態を示し、図2〜図7は構成部品をそれぞれ示す(各図相互間において縮尺率は同一ではない)。加温装置10は図1に示す垂直に立てた状態で車両のエンジンルーム内等に設置される。図1において、加温装置10は円筒状の保温貯湯室12の内部空間13に円筒状の小型加熱室14を同心状に収容し、小型加熱室14の内部空間15に丸棒状の電気式ヒーター(以下「ヒーター」)16を同心状に収容した構造を有する。蓋30の下面にヒーター16と小型加熱室14を同心状に取り付け、ヒーター16を収容した小型加熱室14を保温貯湯室12の上部開口部26から内部空間13に差し込んで、蓋30を保温貯湯室12の上部に強くねじ込んで装着することにより、全体が一体化されている。ウォッシャー液はウォッシャータンク72(図8)からホース54を通って保温貯湯室12の内部空間13に送り込まれ、小型加熱室14の下端面の絞り口60を通って小型加熱室14の内部空間15に流入し、ここでヒーター16により加温される。加温されたウォッシャー液はホース56を通ってウォッシャーノズル80(図8)に供給されて、フロントウィンドウ、リヤウィンドウ、ワイパー付きヘッドランプ等におけるワイパー拭き取り範囲に向けて噴射される。保温貯湯室12の内部空間13に収容されるウォッシャー液の容量(小型加熱室14の体積を除いた保温貯湯室12の内部空間13の容積)は、小型加熱室14の内部空間15に収容されるウォッシャー液の容量(ヒーター16の体積を除いた小型加熱室14の内部空間15の容積)よりも十分に大きく設定されている。
【0013】
保温貯湯室12は魔法瓶と同様の構造を有するもので、図2に示すように内壁18と外壁20との間に真空層22を形成した断熱構造の壁面24を有する。内壁18はステンレス等の金属または真空層22側の面に金属メッキを施したガラス等で構成される。外壁20はステンレス等の金属等で構成される。保温貯湯室12の下端部は閉じられ、上端部には開口部26が形成されている。開口部26を構成する壁部28の外周面には蓋30をねじ込んで装着するためのねじ32が形成されている。
【0014】
保温貯湯室12の開口部26は蓋30で閉じられる。蓋30は樹脂等で構成され、図3に示すように、下面側に芯部33と芯部33を包囲する外周壁34を具える。芯部33と外周壁34との間には下方に開口する溝36が形成されている。外周壁34の内周面にはねじ38が形成されている。溝36には図4の密閉ゴム(Oリング)40が収容される。密閉ゴム40を溝36内に収容し、保温貯湯室12の開口部26の壁部28を溝36に進入させて蓋30を回してねじ32,38を螺合させて強く締めることにより、保温貯湯室12の開口部26は蓋30で密閉される。このとき芯部33は開口部26内に差し込まれた状態となる。
【0015】
蓋30の芯部33にはヒーター16に電力を供給する電線42(図1)を外部に引き出すための電線引出路44(図3)が中心軸上に形成されている。小型加熱室14の内部空間15のウォッシャー液の温度を検出する温度センサ(図示せず)のリード線(図示せず)を外部に引き出す場合には電線引出路44を利用して引き出すことができる。また芯部33には外部からウォッシャー液を保温貯湯室12内に流入させるウォッシャー液流入路46と、小型加熱室14内のウォッシャー液を外部に流出させるウォッシャー液流出路48が形成されている。ウォッシャー液流出路48は小型加熱室14内で上部に開口しているので、ウォッシャータンク72(図8)内のウォッシャー液が空になっても、小型加熱室14内が空になるのが防止され、ヒーター16の空焚きを防止することができる。蓋30の上面にはウォッシャー液流入路46、ウォッシャー液流出路48に連通するホース接続口50,52が突出形成されている。ホース接続口50,52にはホース54,56(図1)が差し込んで接続される。
【0016】
蓋30の下面中心軸上には丸棒状のヒーター16(図1)が固定装着される。ヒーター16は電熱線ヒーター、PTCセラミックヒーター等を金属パイプ、セラミックパイプ等の円筒ケース内に封入して構成される。ヒーター16として温度センサを内蔵し温度制御機能を有するいわゆるオートヒーターと呼ばれるものを使用すれば、小型加熱室14内に温度センサを別途設置しなくて済む。蓋30の下面には小型加熱室14がその内部空間15にヒーター16を収容した状態で固定装着される。小型加熱室14は図5に示すように円筒部材で構成される。小型加熱室14は適度な熱伝導性を有するもので、硬質塩化ビニル等の樹脂、セラミックス、金属等の材料による非断熱構造(真空層を有しない構造)で構成されている。小型加熱室14の上端部14aは蓋30の下面で塞がれ、下端部14bは図6に示す円板状の下蓋58を接合して塞がれている。下蓋58は小型加熱室14と同様の材料(樹脂、セラミックス、金属等)で構成することができる。下蓋58には複数の絞り口60が形成されている。絞り口60を通して保温貯湯室12の内部空間13のウォッシャー液が小型加熱室14の内部空間15に流入する。
【0017】
小型加熱室14の内部空間15には円板状の可動式絞り蓋61が収容される。可動式絞り蓋61はウォッシャー液よりもやや大きな比重を有する硬質塩化ビニル等の材料で構成される。可動式絞り蓋61は図7に示すように、円板状に構成され、中心部に円形の中心穴62が形成されている。可動式絞り蓋61の外径は小型加熱室14の内径よりもやや小さく、中心穴62の内径はヒーター16の外径よりもやや大きい。可動式絞り蓋61は中心穴62にヒーター16を差し込んで小型加熱室14の内部空間15に収容され、ヒーター16に沿って昇降自在に配置される。
【0018】
以上の構成の加温装置10を既存のウォッシャー装置に追加したときの電気系統およびウォッシャー液の送給系統を図8に示す。図8では温度制御を加温装置10の小型加熱室14内等に設置したバイメタルや形状記憶合金による機械検知式温度センサを使用して行う場合を示している。点線で囲まれた部分が加温装置10を使用するために既存のウォッシャー装置に追加した部分である。ヒーター16およびウォッシャーモーター76はバッテリー63を電源として駆動される。すなわちバッテリー63にはイグニッションスイッチ66およびリレースイッチ68を介してヒーター16と機械検知式温度センサ64が直列接続されている。機械検知式温度センサ64はバイメタルや形状記憶合金等による可動接点を有するスイッチ(機械式サーモスタット)で構成され、小型加熱室14内のウォッシャー液の温度が設定温度(例えば60℃)以下のときはスイッチをオンし、該設定温度を超えるとスイッチをオフする。タイマー回路70はリレースイッチ68をオン・オフするもので、イグニッション始動時(セルモータの駆動時)の消費電力を抑えるため、イグニッションスイッチ66がオンされてから所定時間(例えば数秒)を経過するまではリレースイッチ68をオフ状態に保ち、該所定時間を経過した後はイグニッションスイッチ66がオフされるまで、リレースイッチ68をオン状態に保つ。ウォッシャータンク72にはウォッシャー液が充填されている。運転者等の操作によりウォッシャースイッチ74がオンされると、ウォッシャーモーター76に通電され、これによりウォッシャーポンプ78が駆動されて、ウォッシャータンク72内のウォッシャー液がホース54を通って加温装置10に供給される。加温装置10で加温されたウォッシャー液はホース56を通ってウォッシャーノズル80に供給されて噴射される。
【0019】
図9は加温装置10の動作を示す。(1)〜(4)に示す各工程について説明する。
(1)ウォッシャースイッチ74(図8)がオンされているときの状態を示す。ウォッシャータンク72から送給されるウォッシャー液82はホース54を介して保温貯湯室12の内の上部空間に注入される。これに伴い保温貯湯室12内のウォッシャー液82は下降し、下蓋58の絞り口60から小型加熱室14内に流入する。このとき小型加熱室14内の可動式絞り蓋61はこの流入するウォッシャー液82により押し上げられる。これにより可動式絞り蓋61の上側の暖められたウォッシャー液82はホース56を介して加温装置10から排出され、ウォッシャーノズル80から噴射される。
(2)ウォッシャースイッチ74がオフされると、ウォッシャータンク72からのウォッシャー液82の供給が停止される。これにより可動式絞り蓋61はその自重により下降する。このとき可動式絞り蓋61の下側のウォッシャー液82は、可動式絞り蓋61の外周面と小型加熱室14の内周面との隙間84を通って可動式絞り蓋61の上側に移動する。
(3)ヒーター16への通電は継続して行われているので、小型加熱室14内のウォッシャー液82は加温される。小型加熱室14は容量が小さいので、ヒーター16の出力が比較的小さくても(すなわち例えば5アンペア程度の比較的小電流でも)小型加熱室14内のウォッシャー液82を急速に昇温させることができる。またこのとき可動式絞り蓋61は下蓋58上に着地して下蓋58の絞り口60を塞いでいるので、小型加熱室14内の暖められたウォッシャー液82が絞り口60を通して保温貯湯室12の内部空間13に逃げるのを抑制することができる。小型加熱室14内のウォッシャー液82が暖まりウォッシャースイッチ74を再度オンすると、再び上記工程(1)により、該暖められたウォッシャー液82はホース56を通ってウォッシャーノズル80に供給されて噴射される。
(4)上記工程(3)のままウォッシャースイッチ74をオフしたままにすると、小型加熱室14内のウォッシャー液82の熱が小型加熱室14の壁面の熱伝導により、保温貯湯室12内のウォッシャー液82に伝熱され、該保温貯湯室12内のウォッシャー液82が加温される。小型加熱室14内のウォッシャー液82の温度が機械検知式温度センサ64(図8)の設定温度(例えば60℃)を超えると、機械検知式温度センサ64はオフしてヒーター16への通電が停止される。保温貯湯室12は断熱構造を有するので、ヒーター16への通電が停止されても加温装置10内のウォッシャー液82は保温される。小型加熱室14内のウォッシャー液82の温度が所定値以下に低下すると、ヒーター16への通電が再開され、以後イグニッションスイッチ66がオフされるまで、ヒーター16への通電・停止が繰り返される。イグニッションスイッチ66がオフされるとヒーター16への通電も停止されるが、保温貯湯室12は断熱構造を有するので、加温装置10内のウォッシャー液82は長時間保温される。
【0020】
《実験例》
加温装置10を試作して小型加熱室14および保温貯湯室12内に水を満杯に充填してヒーター16に連続通電したときの水の温度上昇特性、およびヒーター16への通電停止後の加温装置10内の水の温度下降特性(保温特性)を測定した。加温装置10の試作機は次の部品を使用して作製した。
・保温貯湯室12:市販の魔法瓶型水筒本体をそのまま使用
・蓋30:保温貯湯室12に使用した魔法瓶型水筒の蓋を改造
・小型加熱室14:硬質塩化ビニル管
・下蓋58:硬質塩化ビニル板
・可動式絞り蓋61:硬質塩化ビニル板
・ヒーター16:電熱線ヒーター(出力60ワット)
加温装置10内の全水量(小型加熱室14および保温貯湯室12内に充填した水の総量)は485ml、小型加熱室14の容量は50mlである。温度上昇実験(図10、図11)の水の初期温度は14℃、保温特性実験(図12)の水の初期温度は60℃であった。
【0021】
図10はヒーター16に通電開始後の小型加熱室14内の水の温度変化を示す。これによれば通電開始後約5分で85°以上に達している。図11は保温貯湯室12内の水の上昇温度(初期温度14℃に対する上昇温度)の変化を示す。これによれば、通電開始後40分で70°以上の温度上昇が生じている。
【0022】
図12は加温装置10内の水の温度を60℃にした後、ヒーター16への通電を停止したままにした場合の加温装置10内の水の温度変化を示す。外気温度が−5℃、−10℃、−15℃、−20℃、−25℃、−30℃の各場合について測定した。これによれば10時間経過後の水温は、外気温度が−5℃のときは27℃、外気温度が−30℃のときは13℃得られている。したがって例えば車を運転して夜帰宅して翌朝の始動時にはまだ水温を暖かい状態に保つことができ、始動時に昇温に必要な時間および電力を抑制することができる。
【0023】
《実施の形態2》
この発明の実施の形態2を説明する。図13はこの実施の形態による加温装置86を内部を透視して模式的に示した図である。この加温装置86は小型加熱室14およびヒーター16を装着した蓋30を下側に配置することにより、高い温度のウォッシャー液が溜まる上部の断熱性を向上させて、該上部から熱が逃げるのを抑制して、保温性能をより向上させたものである。実施の形態1と共通する部分には同一の符号を用いる。加温装置86は図13に示す垂直に立てた状態で車両のエンジンルーム内等に設置される。加温装置86は円筒状で断熱構造の保温貯湯室12の内部空間13に円筒状で適度な熱伝導性を有する小型加熱室14を同心状に収容し、小型加熱室14の内部空間15に丸棒状のヒーター16を同心状に収容した構造を有する。蓋30の下面にヒーター16と小型加熱室14を取り付け、該ヒーター16と小型加熱室14を保温貯湯室12の下部開口部26から内部空間13に差し込んで、蓋30を保温貯湯室12の下部に強くねじ込んで装着することにより、全体が一体化されている。ウォッシャー液はウォッシャータンク72(図8)からホース54を通って保温貯湯室12の内部空間13に送り込まれ、小型加熱室14の下端面の絞り口60を通って小型加熱室14の内部空間15に流入し、ここでヒーター16により加温されてホース56を通ってウォッシャーノズル80(図8)に送り出されて、フロントウィンドウ、リヤウィンドウ、ヘッドランプ等におけるワイパー拭き取り範囲に向けて噴射される。保温貯湯室12の内部空間13に収容されるウォッシャー液の容量(小型加熱室14の体積を除いた保温貯湯室12の内部空間13の容積)は、小型加熱室14の内部空間15に収容されるウォッシャー液の容量(ヒーター16の体積を除いた小型加熱室14の内部空間15の容積)よりも十分に大きく設定されている。
【0024】
蓋30にはヒーター16に電力を供給する電線42、保温貯湯室12の内部空間13の上部にウォッシャー液を注入する流入パイプ(ウォッシャー液流入路)88、小型加熱室14の内部空間15の上部の暖められたウォッシャー液を外部に流出させる流出パイプ(ウォッシャー液流出路)90が水密状態に通されて設置されている。小型加熱室14の内部空間15内には温度センサ92が配設されている。温度センサ92のリード線94は蓋30を水密に貫通して外部に引き出されている。温度センサ92を独立に配設するのに代えて、ヒーター16として温度センサを内蔵し温度制御機能を有するいわゆるオートヒーターを使用することもできる。
【0025】
この加温装置86は実施の形態1の加温装置10と同様に、図8の電気系統およびウォッシャー液の送給系統を構成して、図9のように動作させて使用することができる。すなわちヒーター16に通電することにより小型加熱室14内のウォッシャー液が加温され、さらにその熱が小型加熱室14の壁面の熱伝導により、保温貯湯室12内のウォッシャー液に伝熱され、該保温貯湯室12内のウォッシャー液が加温される。ウォッシャースイッチ74(図8)をオンすると、ウォッシャータンク72(図8)から送給されるウォッシャー液は流入パイプ88を通って保温貯湯室12の内部空間13の上部に供給され、該内部空間13を下降して、下蓋58の絞り口60から小型加熱室14内に流入する。このとき小型加熱室14内の可動式絞り蓋61はこの流入するウォッシャー液により押し上げられる。これにより可動式絞り蓋61の上側の暖められたウォッシャー液は小型加熱室14の上部から流出パイプ90を通って加温装置86から排出され、ウォッシャーノズル80(図8)から噴射される。ウォッシャー液流出路48を構成する流出パイプ90は小型加熱室14内で上部に開口しているので、ウォッシャータンク72(図8)内のウォッシャー液が空になっても、小型加熱室14内が空になるのが防止され、ヒーター16の空焚きを防止することができる。このほかの動作は実施の形態1で説明したのと同じである。
【0026】
前記実施の形態1,2では可動式絞り蓋61はその自重により下降するようにしたが、図1、図13に二点鎖線で示すようにヒーター16に弱いばね96を嵌めてばね96の付勢力(伸長力)を可動式絞り蓋61に作用させて、ばね96の伸長力により(またはばね96の伸長力と可動式絞り蓋61の自重の合成力により)可動式絞り蓋61を下降させることもできる。また前記実施の形態1,2では可動式絞り蓋61が下降するときのウォッシャー液の可動式絞り蓋61の下側から上側への移動は可動式絞り蓋61の外周面と小型加熱室14の内周面との隙間84を通って行われるようにしたが、ヒーター16の外周面と可動式絞り蓋61の中心穴62との間の隙間、可動式絞り蓋61の面内に別途形成した弁付き穴(弁は可動式絞り蓋61が上昇するときに閉じ下降するとき開くように配置されるもの)・切欠等の空所を通して行われるようにしてもよい。また前記実施の形態1,2において小型加熱室14内に水位センサを配置して、小型加熱室14内の水位が所定値以上であることを条件にヒーター16に通電させるようにすることもできる。また前記実施の形態1,2では図8に示すようにウォッシャータンク72に付属されている既存のウォッシャーポンプ78を使用してウォッシャー液を送給するようにしたが、加温装置の挿入により流路抵抗が大きくなってウォッシャーノズル80からウォッシャー液が十分な勢いで噴射されない場合には、加温装置にウォッシャーポンプを追加して、2台のウォッシャーポンプの直列駆動等によりウォッシャー液の送給を行うこともできる。
【符号の説明】
【0027】
10…加温装置、12…保温貯湯室、13…保温貯湯室の内部空間、14…小型加熱室、15…小型加熱室の内部空間、16…電気式ヒーター、18…保温貯湯室の内壁、20…保温貯湯室の外壁、22…真空層、24…保温貯湯室の壁面(断熱構造の壁面)、26…保温貯湯室の開口部、30…蓋、44…電線引出路、46…ウォッシャー液流入路、48…ウォッシャー液流出路、58…下蓋(絞り口が形成された板材)、60…下蓋の絞り口、61…可動式絞り蓋、62…可動式絞り蓋の中心穴、72…ウォッシャータンク、78…ウォッシャーポンプ、80…ウォッシャーノズル、82…ウォッシャー液、84…可動式絞り蓋の外周面と小型加熱室の内周面との隙間、86…加温装置、88…流入パイプ(ウォッシャー液流入路)、90…流出パイプ(ウォッシャー液流出路)、92…温度センサ、96…ばね

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両搭載ウォッシャー装置のウォッシャータンクとウォッシャーノズルとの間に配置されて該ウォッシャータンクから送り込まれるウォッシャー液を加温して該ウォッシャーノズルに送り出す装置であって、
内壁と外壁との間に真空層を形成した断熱構造の壁面を有し、ウォッシャーポンプの駆動により前記ウォッシャータンクから流出するウォッシャー液が内部空間に流入する保温貯湯室と、
前記保温貯湯室の壁面よりも熱伝導率が高い壁面を有し、該保温貯湯室の内部空間に収容配置され、前記ウォッシャーポンプの駆動により前記保温貯湯室内のウォッシャー液が内部空間に流入する小型加熱室と、
前記小型加熱室の内部空間に収容配置され、該小型加熱室内のウォッシャー液を加温する電気式ヒーターとを具備し、
前記保温貯湯室の内部空間は前記小型加熱室の内部空間よりも大容量のウォッシャー液を収容できる大きさに設定され、
前記ウォッシャーポンプの駆動により前記小型加熱室から流出する加温されたウォッシャー液が前記ウォッシャーノズルに供給されるウォッシャー液の加温装置。
【請求項2】
前記保温貯湯室は外部空間からその内部空間に連通する開口部を有し、
該開口部を塞ぐ蓋に、前記電気式ヒーターを収容した小型加熱室が装着され、
該小型加熱室を該開口部から差し込んで該保温貯湯室の内部空間に収容しつつ、該蓋で該開口部を塞ぐ構造を有する請求項1記載のウォッシャー液の加温装置。
【請求項3】
前記蓋が、
外部からウォッシャー液を前記保温貯湯室内に流入させるウォッシャー液流入路と、
前記小型加熱室内のウォッシャー液を外部に流出させるウォッシャー液流出路と、
前記電気式ヒーターへ電力を供給する電線を外部に引き出す電線引出路と
を有する請求項2記載のウォッシャー液の加温装置。
【請求項4】
前記小型加熱室は上下方向に延在する筒状に形成され、
前記小型加熱室の内部空間に収容される板状の可動式絞り蓋をさらに有し、
前記電気式ヒーターは棒状で前記小型加熱室の筒の中心軸に沿って配置され、
前記可動式絞り蓋は中心穴を有し、該中心穴に前記電気式ヒーターを通して該電気式ヒーターに沿って昇降可能に配置され、
該可動式絞り蓋は該内部空間の下部から流入するウォッシャー液により押し上げられて該可動式絞り蓋の上側のウォッシャー液を該小型加熱室から流出させ、ウォッシャー液の流入が止まると自重および/またはばね力により下降し、該下降する際に該可動式絞り蓋の下側のウォッシャー液を該小型加熱室の内面と該可動式絞り蓋との間の隙間、前記電気式ヒーターの外面と該可動式絞り蓋の中心穴の内面との間の隙間、該可動式絞り蓋の面内に形成された空所のうち少なくともいずれか1つを通して該可動式絞り蓋の上側に移動させる請求項2または3記載のウォッシャー液の加温装置。
【請求項5】
前記小型加熱室の筒の底部が、絞り口が形成された板材で塞がれ、該絞り口を通して前記保温貯湯室の内部空間のウォッシャー液を前記小型加熱室の内部空間に流入させる請求項4記載のウォッシャー液の加温装置。
【請求項6】
ウォッシャー液が前記保温貯湯室の上部からその内部空間に流入して下降し、該下降したウォッシャー液が前記小型加熱室の下部からその内部空間に流入して上昇するウォッシャー液の流路を有する請求項4または5記載のウォッシャー液の加温装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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