説明

ウォータージェットピーニング方法及びその装置

【課題】WJPで施工対象物を全面施工する場合に、噴射溶液中の貴金属イオンにより施工対象物表面に酸化皮膜を形成し、耐食性を向上させる。
【解決手段】白金属イオン(Pt,Pd,Ru,Ir,Rh及びOsから選ばれる少なくとも1種)を噴射水に溶解して、この噴射水を施工対象物の表面に噴射し、白金属を含む酸化皮膜を形成する。なお、施工対象物が配置された水中に貴金属イオンを溶解しておき、純水によるWJP施工をしてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウォータージェットピーニング(以下、WJP(Water Jet Peening)と称する)方法とそれに用いる装置に係り、特に、施工対象物の溶接部等の限られた部位だけにWJP施工するのではなく、施工対象物の表面全面、或いは、広範囲に亘ってWJP施工する場合に好適なWJP方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原子炉の構成部材の溶接部及び熱影響部などの表面近傍に残留応力が存在する場合には、この溶接部及びこれの熱影響部などにウォータージェットピーニング(以下、WJPと称する)を施工して構成部材の表面付近に存在する引張残留応力を圧縮残留応力に改善することが行われている。WJPは、残留応力を改善する構成部材を水中に浸漬させた状態で、水中でノズルから高圧の水流を噴射して行われる。噴射された水流に含まれる気泡が崩壊することによって衝撃波が生じる。この衝撃波が水中の構成部材の表面に衝突することによって、その構成部材の表面付近の引張残留応力が圧縮残留応力に改善される。このため、構成部材における応力腐食割れ(SCC)の発生が抑制される。WJPによる応力改善方法は、例えば、特許文献1,2に記載されている。
【0003】
また、特許文献3には、WJPで原子炉の構造部材の表面に、貴金属を含む化合物を付着させることが記載されている。
【0004】
さらに、表面改質による耐食性向上については、炭素鋼のような鉄鋼材料において、WJP施工により、分極測定における電流密度で示される腐食速度が低減することを一例のみだが、非特許文献1に記載されている。
【0005】
WJP施工中では、気泡崩壊時に衝撃波が発生するので、施工対象物への応力改善効果が期待できる。さらに、WJPで気泡が崩壊する際に、気泡内部からOHラジカルやO原子等の水分子(H2O)の分解物が放出される場合があるので、施工対象物表面の耐食性を改善できる可能性がある。このような場合には、WJPの施工範囲は溶接部や熱影響部に限定されず、施工対象物の表面全面、或いは、表面の広範囲に亘る。全面施工の場合には噴射ノズルを2軸で走査することになり、施工抜けや多重施工を回避しながら、なるべく短い時間で全面施工を完了させることが重要で、WJPの有効幅を施工中に把握することが必要である。
【0006】
このような技術のうち、施工対象物表面の耐食性改善については、不明点が多く、非特許文献1に示された効果が報告されているにとどまっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許2841963号公報
【特許文献2】特許3530005号公報
【特許文献3】特許4283166号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】祖山均、キャビテーション噴流による材料試験と表面改質、材料、vol.47,NO.4,pp.381-387,Apr.1998
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、WJPで施工対象物の表面全面、或いは、表面の広範囲に施工する場合に、耐食性を向上させるウォータージェットピーニング方法及びその装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のウォータージェットピーニング方法は、ノズルが存在する水中に、ポンプから供給された水を前記ノズルから噴射し、前記水を噴射している前記ノズルを、前記水中に存在するウォータージェットピーニング施工対象物に沿って走査し、前記ノズルから前記水中に噴射された前記水に含まれた気泡が潰れて発生する酸化性イオンを、前記ウォータージェットピーニング施工対象物にあてて、施工対象物の表面に酸化皮膜を形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、WJPで施工対象物の表面全面に耐食性を付与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施例である実施例1のWJP方法に用いられるWJP装置の構成図。
【図2】図1のWJP装置を用いて炭素鋼表面にWJP処理を施した後に、人工海水中で計測した腐食量を比較した図。
【図3】図1のWJP装置を用いてステンレス鋼(SUS316L)表面にWJP処理を施した後に、人工海水中で計測した腐食量を比較した図。
【図4】図1のWJP装置を用いてニッケル基合金であるアロイ182表面にWJP処理を施した後に、人工海水中で計測した腐食量を比較した図。
【図5】図1のWJP装置により、316Lステンレス鋼表面を処理し、3.5%の人工海水中に1000時間まで浸漬した際の腐食量の経時間変化を示した図。
【図6】図1のWJP装置により、ニッケル基合金182表面を処理し、原子炉水環境である溶存酸素濃度(DO)200ppb、温度288度の高温純水中に1000時間まで浸漬した際の腐食量の経時間変化を示した図。
【図7】衝撃波を示す図である。
【図8】本発明の他の実施例である実施例2のWJP方法に用いられるWJP装置の構成図。
【図9】図8に示すWJP装置のターンテーブル付近の斜視図。
【図10】図8に示すWJP装置のノズルが設けられる移動装置の拡大図。
【図11】ノズルから噴射された水流内での気泡の形態を模式的に示す図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の特徴は、WJPで気泡が崩壊する際に、気泡内部からOHラジカルやO原子等の水分子(H2O)の分解物が放出されるノズルから水中に噴射された噴流に含まれた気泡が崩壊して発生する衝撃波により、噴流に含まれる水溶液中のプラスイオンがラジカルや水分解物の作用により、施工対象表面である金属表面で生ずる酸化皮膜形成反応を促進させ、かつ、高耐食性皮膜とすることにある。
【0014】
また、WJP施工に関する装置については、この溶液中プラスイオンの酸化皮膜形成作用を噴射ノズルに設置した電磁界を付与する装置で制御することを構成要素に加える。このことにより、WJP施工による酸化皮膜形成による耐食性付与の効率を向上させ、腐食を抑制する表面処理に適したWJP装置を構成することができる。
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0016】
WJPでは水中に存在する施工対象物に向けて高圧噴流水を噴射する。水中に噴流を噴射したときに、気泡が発生・崩壊するキャビテーションと呼ばれる現象が起こる。気泡崩壊の直前で気泡が収縮したときに、気泡内部は高温高圧となる。このため、気泡が崩壊した瞬間に衝撃波が発生すると同時に、高温高圧環境下で生成したOHラジカルやO原子等の水分子の分解生成物が水中および施工対象物表面に向けて放出される。噴流が施工対象物を直射するときの加振力だけでなく衝撃波の加振力によっても残留応力が改善できると同時に、水の分解生成物の酸化力によって施工対象物表面の耐食性を改善する効果も期待できる。
【0017】
噴射された噴流内で気泡が発生してから潰れるまでの状態を、図11に模式的に示している。水3内に配置されたノズル6にポンプ(図示せず)から高圧水38が供給される。
高圧水38がノズル6の噴射口37から水中に噴射されたとき、水中に微小な気泡が多数発生して塊状となったキャビテーションクラウド39が発生する。発生した複数のキャビテーションクラウド39内で、一つ、または、数個の気泡が崩壊するとき、衝撃波と水の分解生成物が放出される。気泡が崩壊して衝撃波が発生するとき、その気泡の周囲に存在する多数の気泡が衝撃波によって押し流される。このため、押し流される気泡群が連なっている渦糸キャビテーション40が形成される。さらには、気泡が押し流されてしまったために気泡が消滅したかのように見えるスポット41が観察される。図11において、42は小さな気泡が合体して径が大きくなった気泡である。なお、図11においては、図中に施工対象物が存在せず、水中に自由噴流を噴出した状況を示している。噴流が施工対象物にぶつかる場合には、キャビテーションクラウド39等は噴流中心から離れる方向に広がるので、気泡崩壊発生位置の分布は、施工対象物表面と平行方向へ広がる可能性がある。
【0018】
施工対象物への応力改善効果や耐食性向上効果は、噴流中に気泡が存在することではなく、気泡が崩壊することによってもたらされ、気泡崩壊位置と施工対象物表面の距離が近いほど効果が大きい。
【0019】
本発明者らは、これらのWJP施工効果が、噴流中の気泡の数によってではなく、単位時間当たりの気泡の崩壊数(気泡の崩壊頻度)、すなわち、単位時間当たりの衝撃波の発生数(衝撃波の発生頻度)によって確認できることを見出した。また、本発明者らは、施工対象物表面でWJP施工効果が得られる有効範囲と、気泡崩壊発生範囲(=衝撃波発生範囲)が概ね一致するので、施工対象物表面と平行方向の位置(噴流中心からの距離)毎の衝撃波の発生によって、施工対象物表面における酸化反応が進行し、噴流基法に内在しているOHラジカル及び水分解励起分子が施工対象表面金属と反応して酸化物あるいは水酸化物となることを見出した。また、この際、噴流中にPdやPtのような貴金属イオンが存在する場合には、酸化反応にこれらの貴金属イオンが加わり、形成される酸化物あるいは水酸化物に複合化合物として施工対象表面金属と同様に皮膜反応を担うことを見出した。本発明は、これらの知見に基づいて成されたものである。
【0020】
これらの知見に基づいて成された本発明の概念を、図1に示す一つの具体例を用いて説明する。ノズル6及び支持部材17がノズル走査装置10に取り付けられ、2個のイオンセンサ(電荷検出装置)14A,14Bが施工対象物2の表面と平行方向に間隔を置いて設置される。ノズル6及びイオンセンサ14A,14Bが水中に配置され、WJP施工対象物2も水中に配置される。ノズル6が施工対象物2の、WJPを施工する表面に対向している。イオンセンサ14A,14Bが施工対象物2の表面近くで、ノズル6から噴射する噴流中心から少し離れた位置に配置される。イオンセンサ14A,14Bはそれぞれ支持材16A,16Bに取り付けられており、ノズル6の走査に追随して移動する構成としている。イオン検出装置としては、イオンセンサ以外にpHセンサ,電位センサ,吸光度センサを用いてもよい。
【0021】
ノズル6から噴射された高圧の水流34に含まれた気泡が潰れたとき、イオン含有水溶液が発生する。このイオン含有水溶液は、イオンセンサ14A,14Bでそれぞれイオンを検出してイオン検出信号を出力する。
【0022】
イオン含有水溶液の水中でのイオン濃度をV(ml/cm3)、イオン生成の位置(気泡が潰れた位置、すなわち、イオン含有水溶液の発生位置)に近い位置に存在するセンサ(例えば、イオンセンサ14B)のY軸方向の座標値をy1(m)、音源の位置から遠い位置に存在するセンサ(例えば、AEセンサ14A)のY軸方向の座標値をy2(m)、近い位置に存在するイオンセンサへのラジカルの作用時間をt(s)、遠い位置に存在するイオンセンサにおけるイオン濃度の検出時間と近い位置に存在するイオンセンサにおけるイオン濃度の検出時間の時間差をT1(s)とする。Y軸方向におけるラジカルによる反応性イオン到達経路の1次元近似モデルは、イオン生成位置から各イオン濃度検出装置、例えば、イオンセンサ16B,16Aまでのイオンの到達時間は(1)式及び(2)式で表される。
V×t=(y1−y0) …(1)
V×(t+T1)=(y0−y2) …(2)
【0023】
t(s)は実際には測定することができず、測定できるのは時間差T1(s)である。
水中でのイオンの拡散到達速度V(m/s)が既知である(例えば、水中音速1500(m/s))場合には、イオン生成位置のY軸方向の座標値(イオン生成位置のY軸方向位置)y0(m)は、反応性イオンの発生位置であり、(3)式により算出できる。
y0=(y1+y2)/2−V×T1/2 ……(3)
【0024】
WJPでは水中に存在する施工対象物に向けて高圧噴流水を噴射する。水中に噴流を噴射したときに、気泡が発生・崩壊するキャビテーションが起こる。気泡崩壊の直前で気泡が収縮したときに、気泡内部は高温高圧となり、気泡が崩壊した瞬間に衝撃波が発生すると同時に、高温高圧環境下で生成したOHラジカルやO原子等の水分子の分解生成物が水中および施工対象物表面に向けて放出される。噴流が施工対象物を直射するときの加振力だけでなく衝撃波の加振力によっても残留応力が改善できると同時に、水の分解生成物の酸化力によって施工対象物表面の耐食性を改善する効果も期待できる。この際、噴流中に予め貴金属の硝酸塩等を溶解させ、貴金属イオンを含む水溶液にすることで、施工対象金属表面に形成される皮膜の性質が変化する。すなわち、施工対象金属のカチオンのイオン価がより酸化されるために増加し、貴金属イオンもより酸化されたイオン価数となり、酸化物あるいは水酸化物となることがわかった。これはOHラジカルと水分解物の酸化作用が金属表面で強力に作用したためと考えられる。
【0025】
以下に、本発明の実施例を説明する。
【実施例1】
【0026】
本発明の好適な一実施例である実施例1のウォータージェットピーニング方法を、図1,図7を用いて説明する。
【0027】
本実施例のウォータージェットピーニング方法を説明する前に、本実施例に用いるウォータージェットピーニング装置(以下、WJP装置という)1を、図1を用いて説明する。WJP装置1は、ノズル6,高圧ポンプ5,ノズル走査装置10,AEセンサ(衝撃波検出装置)14A,14B,信号処理装置20,ノズル走査制御装置31及びポンプ制御装置30を備えている。
【0028】
ノズル走査装置10は、X軸走査機構11,Y軸走査機構12,Z軸方走査機構13を有し、噴射ノズル6を把持し、水槽4内の水3の中でノズル6を走査する。また、給水ホース7が水槽4の底部付近に取り付けられ、高圧ポンプ5に接続される。高圧ホース9が、高圧ポンプ5及びノズル6に接続される。水槽4には、薬液注入装置50を備えており、供給水に水以外の添加物を加えて攪拌できるようになっている。
【0029】
信号処理装置20は、A/D変換器21,イオン抽出部22,イオン濃度算出部23,反応イオン算出部24,皮膜形成算出部25,腐食速度算出部26,耐食性指数算出部27及び記録・表示情報作成部28を有する。イオン抽出部22がA/D変換器21に接続される。イオン濃度算出部23、および、反応イオン算出部24と皮膜形成算出部25と腐食速度算出部26と耐食性指数算出部27からなる一連の演算部がA/D変換器21に接続される。記録・表示情報作成部28には、A/D変換器21,イオン抽出部22,耐食性指数算出部27及び表示装置29が接続される。
【0030】
イオン検出装置であるイオンセンサ14A,14Bが、ノズル走査装置10に取り付けられて水槽4内の水3の中に設置されている。イオンセンサ14A,14Bは、施工対象物2の表面近傍で、Y軸と平行で噴流中心を通る直線状に取り付けられる。濃度計15A,増幅器15Bがノズル走査装置10に取り付けられている。イオンセンサ14Aが増幅器15Bに接続され、イオンセンサ14Bが濃度計15Aに接続される。増幅器15B,イオンセンサ15BがA/D変換器21に接続される。
【0031】
ノズル走査制御装置31がノズル走査装置10に接続され、X軸走査機構11,Y軸走査機構12,Z軸方走査機構13を制御する。ポンプ制御装置30が高圧ポンプ5に接続される。高圧ホース9に取り付けられた圧力計33及び流量計32がポンプ制御装置30に接続される。ポンプ制御装置30及びノズル走査制御装置31が信号処理装置20に接続される。
【0032】
WJP装置1を用いて行う本実施例のウォータージェットピーニング方法を説明する。
本実施例のウォータージェットピーニング方法では、以下の操作または処理が行われる。
【0033】
水槽4内に水3が充填され、WJP施工対象物2が、水槽4内の水3の中に設置される。この施工対象物2は、プラント、例えば、建設される原子力プラントに設置される構成部材である。あるいは、施工対象物2は運転を経験した原子力プラントの構成部材であって、プラントの管理区域内に位置する、水が満たされた原子炉圧力容器またはプール内に、図1の設備を構成してWJP施工してもよい。図1では、施工対象物2は模式的に簡略化した形状で示されている。
【0034】
WJP施工をする際には、まず、ノズル6をX軸・Y軸について固定した状態の定点打ちで適切な噴射条件を探索し、噴射条件が定まってからノズル6をX軸方向とY軸方向に矩形走査する。
【0035】
ノズル6をX軸・Y軸方向の走査開始位置に移動し、スタンドオフは探索条件の上限値となるように設定する。高圧ポンプ5の起動によって水槽4内の水3が給水ホース7を通して高圧ポンプ5に導かれる。ポンプ制御装置30は、圧力計33の計測値に基づいて、高圧ポンプ5から吐出される水の圧力を制御する。また、供給水の圧力を定めれば、高圧ホース9やノズル6に応じた適正範囲の値をとるはずであるが、流量計32の計測値が適正範囲から逸脱していた場合には、WJP装置1内のどこかに不具合があるはずなので、一旦、噴射を停止して装置をチェックする。
【0036】
図7に示すように、高圧ポンプ5から吐出された水3は、初期値の圧力及び流量で、高圧ホース9を通してノズル6に供給され、ノズル6から高圧の水流34となって水槽4内の水中に噴射される。噴射された水流34内の気泡36が水中で潰れることにより衝撃波35が発生する。
【0037】
ここで、水流34内の気泡36が水中で破壊する際に、衝撃波35との作用で水中に貴金属イオンが存在する場合は、酸化力が増加した状態で施工対象金属表面へと達する。
【0038】
貴金属イオンがPdの場合、噴射水中の濃度を100ppmとして炭素鋼,SUS316Lステンレス鋼,182ニッケル基合金に噴射した後、人工海水中に100時間まで浸漬して腐食生成物を除去後、重量減少を計測した結果を図2〜図6に示す。
【0039】
図2は、図1に示すWJP装置を用いて炭素鋼表面にWJP処理を施した後に、人工海水中で計測した腐食量を比較した例である。AはWJPを施さない未処理、Bは純水によるWJP処理、CはWJP噴流水にPdを100ppm含有させた場合の腐食量を示す。DはWJP噴流水にPdを10ppm含有させた場合の腐食量を示す。EはWJP噴流水にPtを10ppm含有させた場合の腐食量を示す。FはWJP噴流水にRhを10ppm含有させた場合の腐食量を示す。
【0040】
図3は、図1に示すWJP装置を用いてステンレス鋼(SUS316L)表面にWJP処理を施した後に、人工海水中で計測した腐食量を比較した例である。AはWJPを施さない未処理、Bは純水によるWJP処理、CはWJP噴流水にPdを100ppm含有させた場合の腐食量を示す。DはWJP噴流水にPdを10ppm含有させた場合の腐食量を示す。EはWJP噴流水にPtを10ppm含有させた場合の腐食量を示す。FはWJP噴流水にRhを10ppm含有させた場合の腐食量を示す。
【0041】
図4は、図1に示すWJP装置を用いてニッケル基合金であるアロイ182表面にWJP処理を施した後に、人工海水中で計測した腐食量を比較した例である。AはWJPを施さない未処理、Bは純水によるWJP処理、CはWJP噴流水にPdを100ppm含有させた場合の腐食量を示す。DはWJP噴流水にPdを10ppm含有させた場合の腐食量を示す。EはWJP噴流水にPtを10ppm含有させた場合の腐食量を示す。FはWJP噴流水にRhを10ppm含有させた場合の腐食量を示す。
【0042】
図5は、図1に示すWJP装置により、316Lステンレス鋼表面を処理し、3.5%の人工海水中に1000時間まで浸漬した際の腐食量の経時間変化を示している。AはWJPを施さない未処理、Bは純水によるWJP処理、CはWJP噴流水にPdを10ppm含有させた場合、DはWJP噴流水にPtを10ppm含有させた場合の腐食量を示す。
【0043】
図6は、図1に示すWJP装置により、ニッケル基合金182表面を処理し、原子炉水環境である溶存酸素濃度(DO)200ppb、温度288度の高温純水中に1000時間まで浸漬した際の腐食量の経時間変化を示している。AはWJPを施さない未処理、Bは純水によるWJP処理、CはWJP噴流水にPdを10ppm含有させた場合の腐食量を示す。
【0044】
いずれもWJP施工がない場合(A)ではWJP処理後や貴金属イオン噴射でのWJP処理後と比較すると腐食量が増加し、特に貴金属噴射でのWJPと比較すると、2倍以上となった。
【0045】
このことは、WJP及び貴金属イオン注入WJPによりWJP施工表面金属上にWJPによる酸化皮膜形成が進行し、その皮膜が耐食性を有することを示している。Pdイオンは酸化皮膜中に10%以上カチオン分率として含有されるとともに、Pdのイオン価数は通常の2から4へと増加していた。このPdのイオン価数の増加は、XPS(X-ray photoelectron spectroscopy;X線光電子分光)で確認することができる。このことは、ソノケミストリ効果による酸化作用の増進に関わり、WJPの作用がない場合より著しく酸化作用が生ずるために施工金属表面に形成される酸化皮膜がその後の環境の腐食作用の大きな障壁となることを示している。Rhを用いた場合も、良好な耐食性が得られる。
【0046】
なお、施工対象物が配置された水中に貴金属イオンを溶解しておき、純水によるWJP施工することもできる。これにより、噴射水に貴金属イオンを溶解させた場合と同等の腐食抑制効果が得られる。
【実施例2】
【0047】
本発明の他の実施例である実施例2のウォータージェットピーニング方法を、図8を用いて説明する。本実施例のWJP方法は、例えば、沸騰水型原子力プラントの原子炉圧力容器内に設置された炉内構造物を対象に実施される。この炉内構造物は、例えば、炉心シュラウドである。
【0048】
沸騰水型原子力プラントの原子炉付近の構造を、図8を用いて説明する。沸騰水型原子力プラントの原子炉75は、原子炉圧力容器(以下、RPVという)76,炉心シュラウド77,炉心支持板79,上部格子板80及びジェットポンプ81を備えている。炉心シュラウド77,炉心支持板79,上部格子板80及びジェットポンプ81は、RPV76内に設置される。炉心を取り囲む炉心シュラウド77内には、炉心の下端に位置する炉心支持板79が設置され、炉心の上端に位置する上部格子板80が設置される。複数のジェットポンプ81が、RPV76と炉心シュラウド77の間に形成される環状のダウンカマ82内に配置される。
【0049】
本実施例のウォータージェットピーニング方法に用いられるWJP装置1Bは、実施例1で用いられるWJP装置1においてノズル走査装置10をノズル走査装置10Aに替えた構成を有する。WJP装置1Bの他の構成はWJP装置1と同じである。
【0050】
ノズル走査装置10Aについて説明する。ノズル走査装置10Aは、図8〜図10に示すように、移動装置58A,58B,ポスト部材62,昇降体63及びターンテーブル65を有する。ターンテーブル65が、炉心シュラウド77の上部フランジ78の上面に設置された環状のガイドレール66に旋回可能に設置される。ターンテーブル65には、ガイドレール66の上面に接触する図示されていない複数の車輪が設けられる。少なくとも1つの車輪(図示せず)を回転させるモータ(図示せず)がターンテーブル65に設けられる。移動装置58A,58Bがターンテーブル65上に設置される。
【0051】
同じ構成を有する移動装置58A,58Bを、移動装置58Aを例にとって説明する。
移動装置58Aは、図10に示すように、装置本体59,2本のアーム60及びボールネジ72を有する。2本のアーム60が、装置本体59のケーシングを貫通しており、スライド可能にそのケーシングに取り付けられる。2本のアーム60の両端部が連結部材61A,61Bによって連結されている。装置本体59のケーシングを貫通するボールネジ72が、回転可能に連結部材61A,61Bに取り付けられる。装置本体59のケーシング内には、図示されていないが、モータが設置され、このモータの回転軸に取り付けられた歯車(図示せず)が、ボールネジ72に噛み合う歯車(図示せず)と噛み合っている。このモータの駆動によってそれらの歯車が回転し、ボールネジ72がRPV76の半径方向に移動する。RPV76の軸方向に伸びるポスト部材62が、連結部材61Bに取り付けられる。昇降体63が、ポスト部材62に沿って移動できるように、ポスト部材62に取り付けられる。昇降体63を上下動させるモータ64がポスト部材62の上端部に設けられる。
【0052】
ノズル6,AEセンサ14A,14B及び監視カメラ67が昇降体63に設置される。
【0053】
本実施例では、炉心シュラウド77の上端部の外面に対してWJPが施工される。本実施例では、炉心シュラウド77がWJP施工対象物である。沸騰水型原子力プラントの運転が停止された後、RPV76の上蓋が取り外され、RPV76内に設置されている蒸気乾燥器及び気水分離器が取り外されてRPV76の外に搬出される。これらの搬出は、RPV76が設置されている原子炉建屋内の天井クレーン(図示せず)を用いて行われる。
これらの取り外し及び搬出作業を行うとき、RPV76の真上に位置する原子炉ウエル68内に、水3が充填されている。
【0054】
ガイドレール66が、その天井クレーンを用いて上部フランジ78上まで移送され、上部フランジ78に設置される。移動装置58A,58Bが設置されたターンテーブル65が、天井クレーンによって搬送され、ガイドレール66上に設置される。昇降体63が取り付けられたポスト部材62が、ターンテーブル65の搬送前に、移動装置58A,58Bのそれぞれに設置されている。ターンテーブル65がガイドレール66に設置されたとき、移動装置58A,58Bのそれぞれに設けられたポスト部材62が、ダウンカマ82内に配置される。
【0055】
高圧ポンプ5が原子炉建屋内の運転床69の上に置かれ、信号処理装置20,ノズル走査制御装置31,ポンプ制御装置30が設けられる。運転床69は原子炉ウエル68を取り囲んでいる。高圧ポンプ5に接続された2本の高圧ホース9が、移動装置58A,58Bにそれぞれ取り付けられ、移動装置58Aに設けられたノズル6及び移動装置58Bに設けられたノズル6に別々に接続されている。
【0056】
ノズル走査制御装置31に接続される制御信号線71が、移動装置58A,58Bのそれぞれに設けられたモータ64,装置本体59のケーシング内に設けられたモータ、及びターンテーブル65に設けられてターンテーブル65の車輪を回転させるモータにそれぞれ接続される。それぞれのモータにはエンコーダ(図示せず)が設けられ、各エンコーダは、モータによって移動される部材の移動距離、すなわち、その部材の移動後の位置を検出する。
【0057】
本実施例も、実施例1で生じた各効果を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は、施工対象物の残留応力を改善し、耐食性を向上することができる。
【符号の説明】
【0059】
1,1A,1B WJP装置
4 水槽
5 高圧ポンプ
6 ノズル
9 高圧ホース
10 ノズル走査装置
14A,14B イオンセンサ
20 信号処理装置
22 衝撃波信号抽出部
23 全衝撃波の発生頻度算出部
24 反応イオン算出部
25 発生位置算出部
26 頻度分布算出部
27 有効幅算出部
28 記録・表示情報作成部
29 表示装置
30 ポンプ制御装置
31 ノズル走査制御装置
50 薬液注入装置
60 アーム
62 ポスト部材
63 昇降体
65 ターンテーブル
76 原子炉圧力容器
77 炉心シュラウド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズルが存在する水中に、ポンプから供給された水を前記ノズルから噴射し、前記水を噴射している前記ノズルを、前記水中に存在するウォータージェットピーニング施工対象物に沿って走査し、前記ノズルから前記水中に噴射された前記水に含まれた気泡が潰れて発生する酸化性イオンを、前記ウォータージェットピーニング施工対象物にあてて、施工対象物の表面に酸化皮膜を形成することを特徴とするウォータージェットピーニング方法。
【請求項2】
請求項1において、イオンセンサを用いて前記酸化性イオンを検出することを特徴とするウォータージェットピーニング方法。
【請求項3】
請求項1において、噴射水に、予め貴金属イオンを溶解させておくことを特徴とするウォータージェットピーニング方法。
【請求項4】
請求項3において、前記貴金属イオンが、Pt,Pd,Ru,Ir,Rh及びOsから選ばれる少なくとも1種のイオンであることを特徴とするウォータージェットピーニング方法。
【請求項5】
請求項3または4において、前記貴金属イオンの濃度範囲が、5ppm以上100ppm以下であることを特徴とするウォータージェットピーニング方法。
【請求項6】
請求項1において、前記ウォータージェットピーニング施工対象物が、原子炉容器内の炉内構造物であることを特徴とするウォータージェットピーニング方法。
【請求項7】
水中に存在して水を噴射するノズルと、ノズルに水を供給するポンプと、ノズルを水中で保持、走査する走査装置とを備えたウォータージェットピーニング装置において、
前記走査装置は、薬液注入装置を備えることを特徴とするウォータージェットピーニング装置。
【請求項8】
請求項7において、前記噴射ノズルの周囲に電磁気発生器を設置し、噴射水に電磁界を印加し、制御することを特徴とするウォータージェットピーニング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−832(P2013−832A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−133799(P2011−133799)
【出願日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【出願人】(507250427)日立GEニュークリア・エナジー株式会社 (858)