説明

ウォームラック形動力伝達装置

【課題】伝達力が強くて摩擦損失がなく伝達効率が高く、良好な移動精度で精密な直線駆動が可能となり、かつ自己ロック性を有し、しかも長尺駆動を実現するウォームラック形動力伝達装置を提供する。
【解決手段】ラック歯2aに楕円Eの一部を成し、突条歯5の捩じれの変化率に沿って捩じれた曲面壁部6を形成したので、ウォーム歯車3の突条歯5が対応する各曲面壁部6に線接触状態で噛合するようになる。これにより、自己ロック性が生じ、伝達力が強くて摩擦損失がなく伝達効率が高く、良好な移動精度で精密な直線の長尺駆動が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウォーム歯車およびウォームラックを有し、前者の回転運動を直線運動として後者に伝えるウォームラック形動力伝達装置に係り、とりわけウォーム歯車が円錐台状を成すウォームラック形動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、大型工作機械の搬送用に好適となるウォームラック形動力伝達装置では、図4に示すものがある。図4では、短寸のウォーム歯車50を半割りナット状のウォームラック51に並列させてウォーム歯50aをウォームラック51のラック歯51aに噛み合わせている。
【0003】
入力軸50bを介してウォーム歯車50を電動機(図示せず)などにより回転させると、ウォームラック51が長手方向Nに直線移動し、大型工作機械のロボットアーム(図示せず)などに動力を伝えて、機械部品などの送り作業を行う。ウォーム歯50aがラック歯51aに略半円領域部で噛み合うので、ウォーム歯車50からウォームラック51への伝達力が大きく、長尺な加工機械の送り機構に好適である。
しかしながら、ウォームラック51とウォーム歯車50とは並列配置のため、電動機や動力伝達機構を設置するスペースが狭くなり、伝達機構が複雑化する欠点がある。
【0004】
ウォームラック形動力伝達装置の他の機構として、図5に示すスクロールチャック52がある。スクロールチャック52は、旋盤(図示せず)で工作物のチャック機能に用いられ、台座53の上面に回転可能に設けられた渦巻き条歯52aをスクロールとして取り付けている。渦巻き条歯52aは、アルキメデス曲線に沿って形成されたもので、三本のラックピース54を噛合させている。
【0005】
ピニオン55を周歯56に噛み合わせてハンドル57で回転駆動させることにより、渦巻き条歯52aが回転して、ラックピース54を中心方向Lに移動させて工作物へのチャック機能を働かさせている。渦巻き条歯52aは、長尺噛合面積が大きいので、複数のラックピース54を同時に移動させることができる利点がある。この反面、ラックピース54の移動範囲は、渦巻き条歯52aの中心部Gが限界で、中心部Gを通過しては移動できず、長距離駆動は不可能である。
【0006】
この欠点を緩和したのが特許文献1の半開放型の引戸である。平面上のスクロールの代わりに、ローラユニットを傘状にしてスクロール歯を設けている。ローラユニットの回転時、受歯がスクロール歯の中心を超えて移動できるようになる。
しかしながら、受歯に沿って一ピッチ進めるためには、スクロール歯を一回転させる必要があり、受歯に対するスクロール歯の摺動長さが大きくなり摩擦損失が発生し、大きな駆動力を必要とする機械産業の工作機械に適用することは困難である。
【特許文献1】特開平9−328971号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一般に、ねじ送り機構では、伝達力が強力で移動精度が高く、かつ自己ロック性に優れているため、広範囲に用いられているが、長尺駆動が困難となる欠点がある。ラック・ピニオン機構では、長尺駆動が可能なものの、自己ロック性がなく、かつラック歯とピニオンとの噛み合い数が少ないので、強力な伝達性に欠ける。
このため、ねじ送り機構の利点を取り入れ、欠点を補い、かつラック・ピニオン機構の利点を取り入れ、欠点を補う動力伝達装置の登場が望まれていた。
【0008】
本発明は上記の事情を考慮してなされたもので、その目的は、伝達力が強力で摩擦損失がなく伝達効率が高く、良好な移動精度で精密な直線駆動が可能となり、かつ自己ロック性を有し、しかも長尺駆動を実現するウォームラック形動力伝達装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(請求項1について)
直線状のウォームラックは、その表面に所定のピッチ間隔でラック歯を形成している。円錐台状のウォーム歯車は、截頭円錐体の外表面にラック歯のピッチ間隔で、ラック歯に対向する突条歯を最大径部から最小径部にかけて複数条の螺旋状に形成している。
曲面壁部は、ラック歯の突条歯に対向する面に設けられ、突条歯の最大径部から最小径部までのいずれかの曲率半径をラック歯に平行となる長径としてラック歯の歯筋長さ方向に沿って楕円の一部を成すように窪み、かつ歯筋長さに対して突条歯の捩じれの変化率で、突条歯の捩じれ方向に捩じれている。ウォームラックに対してウォーム歯車を所定の角度で傾斜するように配置して、突条歯をラック歯の曲面壁部に噛合させている。ウォーム歯車の回転駆動時、ウォーム歯車の回転がウォームラックに直線運動力として伝達変換される。
【0010】
ラック歯に楕円の一部を成し、突条歯の捩じれの変化率に沿って捩じれた曲面壁部を形成したので、ウォーム歯車の突条歯が対応する各曲面壁部に線接触状態で噛合するようになる。
これにより、伝達力が強力で摩擦損失がなく伝達効率が高く、良好な移動精度で精密な直線の長尺駆動が可能となる。
ラック歯の曲面壁部に対する突条歯の噛合により、ウォーム歯車は回転しない限り、ウォームラックの長手方向の移動が禁じられて不動状態となる自己ロック性を有する。
【0011】
(請求項2について)
楕円は、突条歯のうち最大径部の曲率半径を長径とし、最小径部を短径とするように形成されている。
これにより、ラック歯の曲面壁部に対する突条歯の噛合状態が緊密で良好となり、請求項1で述べた効果が一層強化される。
【0012】
(請求項3について)
ウォーム歯車のウォームラックとは反対側の端部に、ウォーム歯車を回転駆動する電動機が一列に連結されている。
ウォーム歯車とウォームラックとの間には余剰スペースが生じるため、ウォーム歯車に電動機を一列に連結できる。これにより、ウォーム歯車とウォームラックとが並列配置されて、余剰スペースが狭く電動機とウォーム歯車との間にギアトレインなどの伝達機構を設けて複雑化するものと異なり、伝達機構の簡素化が図られる。
【0013】
(請求項4について)
ウォームラックは縦形に配置され、ウォーム歯車は、高所作業用および荷物などの上げ下げに用いる昇降装置に組み込まれている。
この場合、電動機をウォーム歯車に直結できることから、請求項3で述べたように、自己ロック性を有する利便性に伴う伝達機構の簡素化により昇降装置を軽量で小型化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明のウォームラック形動力伝達装置では、円錐台状のウォーム歯車をウォームラックに噛合させる構造のため、自己ロック性を有し、伝達力が強力で摩擦損失がなく伝達効率が高く、良好な移動精度で精密な直線での長尺駆動が可能となる。
【実施例1】
【0015】
図1および図2に基づいて本発明の実施例1を説明する。
本発明の実施例1に係るウォームラック形動力伝達装置1は、例えば大型工作機械のロボットアーム(図示せず)の駆動に用いられるもので、通常では機械製作工場などの床に据え付けられる。
【0016】
ウォームラック形動力伝達装置1において、図1(a)、(b)に示すように、直線状のウォームラック2は、鉄や軟鋼などの金属により断面略矩形に形成され、基盤B上に設けられた金属梁D上に設置されている。ウォームラック2は、長手方向に移動可能に設けられており、上向き表面に所定のピッチ間隔Pで多数のラック歯2aを連続形成している。ラック歯2aの歯面プロフィールは、例えば断面略台形をなしている。
【0017】
円錐台状のウォーム歯車3は、鉄や軟鋼製の截頭円錐体4の外表面にラック歯2aのピッチ間隔Pで、ラック歯2aに対向する突条歯5を最大径部S1から最小径部S2にかけて複数条の螺旋状に一体形成したものである。突条歯5の歯面プロフィールは、ラック歯2aと同様に断面略台形をなしている。ウォーム歯車3は、ウォームラック2と同一面上に位置し、ウォームラック2に対して例えば30°の傾斜角αとなるように配置し、突条歯5をラック歯2aに噛合させる。
【0018】
ラック歯2aの突条歯5に対向する面には、図2(b)に示すように、歯筋長さT方向に沿って楕円Eの一部を成すように窪み、かつ図2(c)に示すように、ラック歯2aの歯筋長さTに対して突条歯5の捩じれの変化率θに沿って捩じれた曲面壁部6を設けている。
【0019】
ここで、截頭円錐体4の母線に対する突条歯5の捩り角は、最大径部S1に近づくほど大きくなる傾向があるため、最小径部S2から最大径部S1に沿って一回転毎に捩じれ角度に変化率θが生じる。この変化率θを突条歯5の捩れ方向に沿って曲面壁部6の捩れに適用している。
【0020】
この楕円Eは、突条歯5の最大径部S1から最小径部S2までのいずれか、例えば最大径部S1の曲率半径をラック歯2aに平行な長径Maとし、最小径部S2を短径Mbとしてなる。
突条歯5をラック歯2aの曲面壁部6に噛合させ、ウォーム歯車3の回転駆動時、ウォーム歯車3の回転がウォームラック2に直線運動力として伝達変換されるようにしている。
【0021】
ウォーム歯車3の後端部には、図1(a)に示すように、ハウジング8に収容された入力軸7が一体に延出形成されており、ハウジング8と入力軸7との間には軸受9a、9bが設けられている。ウォーム歯車3のウォームラック2とは反対側の端部、すなわちハウジング8の後端部8aには、ウォーム歯車3を回転駆動する電動機10が駆動系部品として一列に連結されている。電動機10の回転軸10aは、スリーブ10sを挿通してウォーム歯車3の入力軸7に連結されている。
【0022】
ウォームラック2の一側面部には、長手方向に沿ってガイド棒11が取り付けられている。ガイド棒11には、ガイド棒11に摺動可能に嵌合する横長溝12aを有するスライダー12が設けられている。スライダー12とハウジング8とは、ガイド板13により連結されており、ウォーム歯車3をウォームラック2に噛合状態に位置保持している。
【0023】
このため、ウォーム歯車3、ハウジング8および電動機10をウォームラック2とは異なる静止部材(図示せず)に固定し、電動機10に通電すると、電動機10の回転力が回転軸10aおよび入力軸7を介してウォーム歯車3に伝わる。ウォーム歯車3の突条歯5がラック歯2aの曲面壁部6に噛合していることから、電動機10の回転力は、ウォームラック2を長手方向に移動させる直線運動に変換される。ガイド板13は、ガイド棒11に沿って直線方向に摺動するため、ウォーム歯車3をウォームラック2に沿って移動するように案内する。
【0024】
逆にウォーム歯車3、ハウジング8および電動機10を固定状態から解放して自由にし、ウォームラック2を床に固定すると、電動機10の通電に伴い、ウォーム歯車3がハウジング8および電動機10と一緒にウォームラック2に沿って長手方向に移動するようになる。
【0025】
上記構成では、ラック歯2aに楕円Eの一部を成し、突条歯5の捩じれの変化率θに沿って捩じれた曲面壁部6を形成したので、ウォーム歯車3の突条歯5が対応する各曲面壁部6に線接触状態で噛合するようになる。
これにより、伝達力が強力で摩擦損失がなく伝達効率が高く、良好な移動精度で精密な直線の長尺駆動が可能となる。
ラック歯2aの曲面壁部6に対する突条歯5の噛合により、ウォーム歯車3は回転しない限り、ウォームラック2の長手方向の移動が禁じられて不動状態となる自己ロック性を保持する。
【実施例2】
【0026】
図3は本発明の実施例2を示す。実施例2では、実施例1で用いたウォームラック形動力伝達装置1を昇降装置14に適用している。
すなわち、ウォームラック2は縦形に配置され、ウォーム歯車3は、高所作業用や荷物などの上げ下げに用いる昇降装置14に組み込まれている。
【0027】
昇降装置14は、収納ボックス17、収納ボックス17上に取り付けられた平坦なパレット18およびパレット18の両側に立設された把手19a、19bを備えている。ウォーム歯車3、ハウジング8および電動機10は、収納ボックス17内に取り付けられており、電動機10は、電導コード15を介して電源コンセント16に接続されている。図3では、便宜上の理由からガイド棒11、スライダー12およびガイド板13からなるガイド構造体を省いている。
【0028】
パレット18に荷物や作業者(いずれも図示せず)を載せた状態で、使用者Uがアンテナ20aを備えた遠隔装置機器20を操作すると、電動機10に通電されてウォーム歯車3がウォームラック2に対して回転することにより、図3に矢印N1およびN2で示すように、昇降装置14が荷物や作業者を載せたまま上昇したり下降したりする。
実施例2の昇降装置14では、ウォーム歯車3がウォームラック2に対して自己ロック性を有することから、伝達機構の簡素化により昇降装置14を軽量で小型化することができる。
【0029】
(変形例)
(a)実施例1におけるウォームラック2やウォーム歯車3は鉄や軟鋼製に限らず、負荷状態によっては強化プラスチック製や強化セラミック製であってもよい。
(b)実施例1において、ウォームラック2に対するウォーム歯車3の傾斜角αは、30°に限らず、10°〜30°内の角度範囲に所望に設定してもよく、使用状況、設置場所あるいは負荷状態などによって種々に変更することができる。
【0030】
(c)ウォームラック2のラック歯2aおよびウォーム歯車3における突条歯5の各歯面プロフィールは断面略台形状に限らず、断面略円弧状やV字状の先端を有する略円弧状の断面形状を有してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明のウォームラック形動力伝達装置では、突条歯に曲面壁部を形成してウォーム歯車の突条歯が対応する各曲面壁部に線接触状態で噛合するようにしている。これにより、ウォームラックに対するウォーム歯車の自己ロック性を生じるとともに、伝達力が強力で摩擦損失がなく伝達効率が高く、良好な移動精度で精密な直線の長尺駆動が可能となる。ウォームラック形動力伝達装置の小型で高性能な有益性から生産の効率化を求める需要の増加に伴い、機械産業界へ広く適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】(a)はウォームラック形動力伝達装置の部分縦断面図、(b)はウォームラック形動力伝達装置の正面図である(実施例1)。
【図2】(a)はウォームラック形動力伝達装置の斜視図、(b)はラック歯を説明するための斜視図、(c)はラック歯の斜視図である(実施例1)。
【図3】ウォームラック形動力伝達装置が組み込まれた昇降装置を示す斜視図である(実施例2)。
【図4】ウォーム歯車をウォームラックに噛み合わせた状態を示す斜視図である(従来)。
【図5】スクロールチャックを模式的に示す斜視図である(従来)。
【符号の説明】
【0033】
1 ウォームラック形動力伝達装置
2 ウォームラック
2a ラック歯
3 ウォーム歯車
4 截頭円錐体
5 突条歯
6 曲面壁部
7 入力軸
10 電動機
14 昇降装置
α 傾斜角
θ 捩じれの変化率
E 楕円
Ma 長径
Mb 短径
S1 最大径部
S2 最小径部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に所定のピッチ間隔でラック歯を形成した直線状のウォームラックと、截頭円錐体の外表面に前記ラック歯のピッチ間隔で、前記ラック歯に対向する突条歯を最大径部から最小径部にかけて複数条の螺旋状に形成した円錐台状のウォーム歯車とを備え、
前記ラック歯の前記突条歯に対向する面に、前記突条歯の前記最大径部から前記最小径部までのいずれかの曲率半径を前記ラック歯に平行となる長径として前記ラック歯の歯筋長さ方向に沿って楕円の一部を成すように窪み、かつ前記歯筋長さに対して前記突条歯の捩じれの変化率で、前記突条歯の捩じれ方向に捩じれた曲面壁部を設け、
前記ウォームラックに対して前記ウォーム歯車を所定の角度で傾斜するように配置して、前記突条歯を前記ラック歯の前記曲面壁部に噛合させて、
前記ウォーム歯車の回転駆動時、前記ウォーム歯車の回転が前記ウォームラックに直線運動力として伝達変換されるようにしたことを特徴とするウォームラック形動力伝達装置。
【請求項2】
前記楕円は、前記突条歯のうち前記最大径部の曲率半径を長径とし、前記最小径部を短径として形成されていることを特徴とする請求項1に記載のウォームラック形動力伝達装置。
【請求項3】
前記ウォーム歯車の前記ウォームラックとは反対側の端部に、前記ウォーム歯車を回転駆動する電動機が一列に連結されていることを特徴とするウォームラック形動力伝達装置。
【請求項4】
前記ウォームラックは縦形に配置され、前記ウォーム歯車は、高所作業用および荷物などの上げ下げに用いる昇降装置に組み込まれていることを特徴とする請求項1に記載のウォームラック形動力伝達装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−197956(P2009−197956A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−42451(P2008−42451)
【出願日】平成20年2月25日(2008.2.25)
【出願人】(000124188)加茂精工株式会社 (14)
【Fターム(参考)】