説明

ウサギ単クローン抗体をヒト型化する方法

本発明は、ウサギ単クローン抗体をヒト型化する方法を提供する。全体としては本方法は、親ウサギ抗体のアミノ酸配列を、類似するヒト抗体のアミノ酸配列と比べる工程と、類似するヒト抗体の対応フレームワーク領域にフレームワーク領域が配列上類似するように親ウサギ抗体のアミノ酸配列を変更する工程とを含む。多くの態様では、CDR接触残基、鎖間接触残基、或は埋没残基ではない親ウサギ抗体中のアミノ酸は修飾されない。本発明はさらに、対象抗体をコードする核酸、これら核酸を含むベクターおよび宿主細胞、ならびに対象抗体を産生する方法を提供する。これら対象抗体、核酸組成物、及びキットは、診断、治療、及び状態・疾患の研究を含む多種の用途に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明の分野は抗体、特にウサギ単クローン抗体をヒト型化する方法である。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
単クローン抗体は任意の種類の特異性を持つ分子を標的とすることができるため、単クローン抗体自身及びその各種変異や誘導体は未来の重要な治療手段の一つになる可能性がある。この可能性は非常に早くから認識されていたが、これを実現するために行われた初期の試みは失敗に終わった。その主な原因は、低用量で一回だけ注射しても(Dillman, Cancer Biother 1994 9:17-28)、通常、治療に用いた単クローン抗体が患者の体内で強烈な免疫反応を惹起したためであった(Schroff, 1985 Cancer Res 45:879-85,Shawler. J Immunol 1985 135:1530-5)。科学者らは、ヒト抗体はこのような有害な免疫反応を生じないであろうと予測していたが、ヒト単クローン抗体を生産できるハイブリドーマ技術が存在しなかった。それ以後、例えばファージディスプレイやトランスジェニック動物などを利用して、ヒト抗体を作製する代替技術が開発された。
【0003】
それにも関わらず、齧歯類抗体はすでによく特徴付けられた有用な抗原特性を備えているため、依然として齧歯類抗体の免疫原性を克服する手段を考案する必要がある。また、特定の有用な抗原結合特性はきわめてまれであるかもしれず、齧歯類の免疫システム以外で再現することは難しい、または不可能である可能性がある。
【0004】
抗体の免疫原性は、投与方法、注射回数、投与量、結合(conjugation)の性質、利用した特定の断片、集合(aggregation)状態、及び抗原の性質を含む多種の要素に依存する(例えば、Kuus-Reichel, Clin Diagn Lab Immunol 1994 1:365-72)。これらの要素の多くまたはほとんどは免疫反応を抑制するために操作できる。しかし、オリジナルの抗体配列が「危険である」または「外来性である」と認識される場合は、いずれにせよ強烈な免疫反応によりこの抗体の治療における使用は妨げられるであろう。
【0005】
キメラ抗体工学は、齧歯類FV断片をヒトFC断片と結合し(例えば、Boulianne Nature 1984 312:643-6)、治療にヒトエフェクタードメインを利用することを可能にする(Clark, Immunol Today 2000 21:397-402)と同時に、免疫原性の問題を顕著に減少させた(例えば、LoBuglio, Proc Natl Acad Sci 1989 86:4220-4)。さらに、ヒト型化抗体は、FV自身の齧歯類配列が、少なくとも元の相補性決定領域(CDR)を維持すると同時に、できるだけヒト配列に近くなるよう操作された(例えば、Riechmann, Nature 1988 332:323-7)。ヒト型化齧歯類抗体はまた、ヒト患者において非常に減少した免疫原性を示した(Moreland, Arthritis Rheum 1993 36:307-18)が、一部のヒト型化抗体は依然として患者の多くの割合に対して免疫原性であり、これは齧歯類相補性決定領域自体が免疫原性であるためである可能性が非常に高い(Ritter, Cancer Res 2001 61:6851-9; Welt, Clin Cancer Res 2003 9:1338-46)。
【0006】
現在(2003)、臨床で使用されている単クローン抗体製品は10数種類に達して20億ドルの収入を与えており、また数十種類の単クローン抗体製品が臨床試験の段階にある。臨床に使用されている多くの抗体は、キメラ、ヒト型化、またはヒト抗体であり、ほとんどはネズミ単クローン抗体由来であった。
【0007】
ネズミ単クローン抗体がなぜ広範に使用されたのかは、主にそれ自身のその他のグループに対する優位性にあり、非齧歯類動物ハイブリドーマ技術方面の不足のためではない。現在、このような状況はすでに変わっている。ウサギはその固有の強烈な免疫反応特性、及びその多くの抗原決定基に対する高親和力の抗体を生む能力のため、高品質抗体の最も優れた供給源の一つである。最近、従来の融合方法を利用してウサギ単クローン抗体を作ることが可能になり(Spieker-Polet, Proc Natl Acad Sci 1995 92:9348-52)、その上このような方法で作製したウサギ抗体はとても高い品質を達成することができる。
【0008】
しかし臨床治療に用いる場合、ウサギ抗体はネズミ抗体と同様に、長期の繰り返し投与を妨げるであろう強烈な免疫反応を惹起すると考えられる。そのため、臨床に応用する前に、キメラおよびヒト型化ウサギ抗体を作製するための同様の必要性が満たされなければならない。しかし、キメラおよびヒト型化齧歯類抗体を作製するために用いられる方法は、次の原因により多くのウサギ抗体に適用できない:
【0009】
第一に、多くのウサギ抗体のκ鎖は可変領域と定常領域の間にジスルフィド結合を有する。このような構造上の特徴が、キメラおよびヒト型化抗体の作製に関して、我々の知識ではまだ対処されていない問題を生じる。κ-1(K-1)アイソタイプの鎖が、最も多く使用されているウサギ抗体軽鎖である。よくある5種類のK-1アロタイプ(b4、b5、およびb6)のうち3種類は、可変領域(VK)中の位置80にあるフレームワーク3に一つのシステインを有する。この残基の側鎖は露出していて、定常κドメイン中の別の1つのシステイン残基に接続するジスルフィド結合を形成する。4番目によく見られるウサギK-1アロタイプb9も余分なジスルフィドを有するが、この場合、可変領域のシステイン残基がフレームワーク4中のVKの最後の位置である残基108を占有する。ヒト抗体と齧歯類抗体のkappa鎖にはこの余分なジスルフィド結合がない。そのため、すでに知られている各種方法を利用してウサギの可変kappa鎖部分をヒトの定常kappa鎖部分と結び付けさせることによってキメラまたはヒト型化抗体を構築しようとする場合、可変kappa鎖部分のシステイン残基は不対合状態を維持するであろう。これは蛋白質フォールディングと発現の問題を引き起こす可能性が非常に高く、たとえ正しくフォールディングされた抗体を高収量で得られたとしても、不対合システイン残基が抗体の一部をそのVKシステイン残基を通してダイマー形成させる可能性が非常に高く、これは通常望ましくない。
【0010】
第二に、ヒトおよびネズミの残基と比較して、多くのウサギ重鎖可変領域はβ鎖DとEの間のループ中、1〜2アミノ酸残基分短い。さらに、ヒトおよびネズミの鎖と比較して、多くの重鎖および軽鎖がN端で1残基分短い。これら二つの領域は普通、ヒトおよびネズミの抗体においては抗原と接触しないが、これらはCDRに非常に近接しており、CDR残基と接触していることも多い。明らかに、これらのウサギ抗体鎖については、対応する残基の位置が存在しないため、指定された位置にある相同ヒト残基を探し当てることができない。
【0011】
第三に、ヒトおよびネズミの対応物と比較して、多くのウサギVH鎖には余分の対合システインがある。例えば、いくつかのウサギVH鎖の中には、システイン22-システイン92の「通常の」ジスルフィド結合に加えて、システイン21-システイン79 S-S結合がさらにあるだけではなく、CDR H1の最後のシステイン残基とCDR H2の最初の残基の間にもS-S結合がある。また、VK L3 CDRの中に対合するシステイン残基が見出されることも多い。構造を知るために相同性によってウサギ抗体構造をモデリングすることにより、ジスルフィド結合を形成するような位置にシステイン対が空間的に配置されていることを確認することができる。
【0012】
最後に、多くのウサギ抗体CDRは、いずれの既知の基準構造にも属さない。特にVK CDR L3は、ヒトおよびマウス抗体のすでに知られているL3 CDRよりもずいぶん長いことが多い。ウサギCDRの構造的知識の不足が、精確なモデリングを難しくしている。
【0013】
このように、ウサギ単クローン抗体の独自性のため、齧歯類抗体をヒト型化する現在の方法を簡単にウサギ単クローン抗体をヒト型化するために用いることができない。よって、ウサギ抗体をヒト型化する方法が緊急に必要である。本発明は、この必要性及びその他の必要性に対処するものである。
【0014】
文献
関心対象の参考文献としては以下のものが挙げられる:米国特許6,331,415 B1、5,225,539、6,342,587、4,816,567、5,639,641、6,180,370、5,693,762、4,816,397、5,693,761、5,530,101、5,585,089、6,329,551、および出版物Moreaら、Methods 20: 267-279 (2000), Ann. Allergy Asthma Immunol. 81:105-119 (1998);Raderら、J. Biol. Chem. 276:13668-13676 (2000);Steinbergerら、J. Bio. Chem. 275: 36073-36078 (2000);Roguskaら、Proc. Natl. Acad. Sci. 91: 969-973 (1994);Delagraveら、Prot. Eng. 12: 357-362 (1999);Roguscaら、Prot. Eng. 9: 895-904 (1996); Knight and Becker, Cell 60:963-970 (1990); Becker and Knight, Cell 63:987-997 (1990)、およびPopkov, J Mol Biol 325:325-35 (2003)。
【発明の開示】
【0015】
発明の概要
本発明は、ウサギ単クローン抗体をヒト型化する方法を提供する。全体として本方法は、親ウサギ抗体のアミノ酸配列を類似するヒト抗体のアミノ酸配列と比較する工程と、親ウサギ抗体のアミノ酸のフレームワーク(FW)領域のアミノ酸配列を、類似するヒト抗体の対応するフレームワーク領域の配列により近くなるように変更する工程とを含む。ある特定の態様において、ウサギ抗体の重鎖と軽鎖のFW1領域を、類似するヒト抗体の対応するFW1領域で置換することができ、この過程はほとんどの態様において、親抗体配列と比べてヒト型化抗体配列に少なくとも一つのアミノ酸(つまり、1、2、または3以上のアミノ酸)を付加する。その他の態様では、ウサギ抗体の重鎖可変ドメインのD-Eループ全体を、類似するヒト抗体の対応するループで置換することができ、これは多くの態様において、少なくとも一つのアミノ酸(つまり、1、2、または3以上のアミノ酸)を付加する。その他の特定の態様では、抗体の軽鎖の中にシステイン80が存在する場合、このアミノ酸は対応するアミノ酸で置換される、或いはヒト抗体の対応するE-Fループで置換される。最後に、互いに近接していると認められるシステイン対も変更できる。多くの態様では、相補性決定領域の接触残基、鎖間接触残基、或は埋没残基(buried residue)である親ウサギ抗体中のアミノ酸は修飾されない。
【0016】
本発明はまた、対象抗体をコードする核酸、これら核酸を含むベクターおよび宿主細胞、ならびに対象抗体を製造する方法を提供する。これら対象抗体、核酸組成物、及びキットは、診断、治療、及び症状・疾患の研究を含む多種の用途に有用である。
【0017】
多くの態様では、相補性決定領域(CDR)接触に関するアミノ酸は、重鎖可変領域の位置1, 2, 4, 24, 27, 28, 29, 30, 36, 38, 40, 46, 48, 49, 66, 67, 68, 69, 71, 73, 78, 80, 82, 86, 92, 93および94のアミノ酸と、κ軽鎖可変領域の位置1, 2, 3, 4, 5, 7, 22, 23, 35, 45, 48, 49, 58, 60, 62, 66, 67, 69, 70, 71および88のアミノ酸から選択される。
【0018】
多くの態様では、鎖間接触に関するアミノ酸は、重鎖可変領域の位置37, 39, 43, 44, 45, 47, 91, 103および105のアミノ酸と、kappa軽鎖可変領域の位置36, 38, 43, 44, 46, 85, 87, 98および100のアミノ酸から選択される。
【0019】
多くの態様では、埋没残基は、重鎖可変領域の位置6, 9, 12, 18, 20, 22, 76, 82c, 88, 90, 107, 109および111のアミノ酸と、kappa軽鎖可変領域の位置6, 11, 13, 19, 21, 37, 47, 61, 73, 75, 78, 82, 83, 84, 86, 102, 104および106のアミノ酸から選択される。
【0020】
本発明のこれらおよびその他の利点および特徴は、以下に十分に述べられている本発明の詳細を読めば、当業者には明らかとなろう。
【0021】
定義
本発明をさらに説明する前に、記載された特定の態様は当然変わりうるので、本発明はこれらに限定されないことが理解されるべきである。また、本発明の範囲は添付の請求の範囲によってのみ限定されるものであり、本明細書において使用される用語は特定の態様を説明する目的のみのものであって、限定することを意図しないことが理解されるべきである。
【0022】
別に定義されていない限り、本明細書に使用する科学技術術語は全て、本発明の属する当業者に共通して理解されるものと同じ意味を有する。本明細書に述べるものと類似のまたは同等の任意の方法および材料を本発明の実践または試験に用いることができるが、好ましい方法および材料をここに記載する。本明細書において言及する全ての出版物は、出版物が引用されたものに関する方法および/または材料を開示および記載するために、参照により本明細書に組み入れられる。
【0023】
文脈から明らかでない限り、本明細書及び添付の請求の範囲に使用される単数形("a" "an"および"the")は、複数の対象も含むことに注意しなければならない。例えば、「抗体」には複数のこのような抗体が含まれ、「フレームワーク領域」には1以上のフレームワーク領域、および当業者に知られているその等価物などが含まれる。
【0024】
本明細書において考察する出版物は、本願の出願日前の開示のためにのみ提供される。本明細書において、先行発明としてのこのような出版物よりも本発明が先行しないことを認めたものとして見なされるものは何もない。さらに、提供する出版日は実際の出版日と異なる可能性があり、個別に確認する必要があるであろう。
【0025】
用語「宿主生物」は、ウサギのものと構造的に類似する可変領域を有する抗体を産生する生物を意味する。例示的な宿主生物には、ヒト、マウス、ラットなどが含まれる。
【0026】
ほかの一つのアミノ酸残基と「緊密な接触」状態にある、「近接」状態にある、あるいは「近接している」アミノ酸残基とは、別のアミノ酸残基の側鎖に近い、即ち7、6、5或いは4オングストローム以内の側鎖を有するアミノ酸残基である。例えば、CDRに近接するアミノ酸とは、CDR中のアミノ酸の側鎖に近い側鎖を有する非CDRアミノ酸である。
【0027】
抗体重鎖或いは軽鎖の「可変領域」とは、鎖のN-末端成熟ドメインである。全てのドメイン、CDRおよび残基の番号は、配列整列および構造情報に基づいて割り当てる。フレームワーク残基の同定およびナンバリングは、Chothiaら(Chothia Structural determinants in the sequences of immunoglobulin variable domain. J Mol Biol 1998;278:457-79)に記載の通りである。
【0028】
VHは抗体重鎖の可変領域である。VLは抗体軽鎖の可変領域であり、κ(K)或いはλアイソタイプでありうる。 K-1抗体はκ-1アイソタイプを有し、K-2抗体はκ-2アイソタイプを有し、VLは可変λ軽鎖である。
【0029】
「埋没残基」は、側鎖の相対溶媒接触可能性(relative solvent accessibility)が50%より低いアミノ酸残基で、この接触可能性は延長GGXGG (SEQ ID NO:23)ペプチド中に存在する同一残基Xのものと比べた溶媒接触可能性のパーセンテージとして計算される。溶媒接触可能性を計算する方法は当技術分野において周知である(Connolly 1983 J. appl. Crystallogr, 16, 548-558)。
【0030】
用語「抗体」と「免疫グロブリン」は本明細書において、相互交換可能に使用される。これらの用語は当業者に周知であり、抗原に特異的に結合する1つまたは複数のポリペプチドからなるタンパク質を指す。抗体のある形態が、抗体の基本構造ユニットを構成する。この形態は4量体で、二対の同一の抗体鎖からなり、各対は1つの軽鎖と1つの重鎖を有する。各対において、軽鎖と重鎖の可変領域が共同して抗原に結合するよう働き、定常領域が抗体エフェクター機能を負う。
【0031】
認識されている免疫グロブリンポリペプチドには、κおよびλ軽鎖、ならびにalpha、gamma (IgG1, IgG2, IgG3, IgG4)、delta、epsilon、およびmu重鎖、或いはその他の種の同等物が含まれる。全長免疫グロブリン「軽鎖」(約25 kDa或いは約214個アミノ酸)は、NH2端の約110個アミノ酸の可変領域、及びCOOH端のkappa或いはlambda定常領域を含む。同様に全長免疫グロブリン「重鎖」(約50 kDa或いは約446個アミノ酸)は、可変領域(約116個アミノ酸)、及び前に述べた重鎖定常領域の一つ、例えばgamma(約330個アミノ酸)を含む。
【0032】
用語「抗体」と「免疫グロブリン」には、任意のアイソタイプの抗体または免疫グロブリン、或いはFab、Fv、scFv、およびFd断片、キメラ抗体、ヒト型化抗体、単鎖抗体、ならびに抗体の抗原結合部及び非抗体蛋白質を含む融合蛋白質を含むがこれに限定されない抗原に対する特異的結合性を維持した抗体断片が含まれる。抗体は、例えば放射性同位体、検出可能な産物を生じる酵素、蛍光性蛋白質などで検出可能に標識されてもよい。抗体はさらに、特異結合対の一つ、例えばビオチン(ビオチン-アビジン特異結合対の一つ)などの他の部分に結合させてもよい。抗体はまた、ポリスチレン平板またはビーズなどを含むがこれらに限らない固体支持体に結合させてもよい。これら用語には、Fab’, Fv, F(ab’)2、及び(或いは)抗原に対する特異的結合性を維持した他の抗体断片も含まれる。
【0033】
抗体は、例えばFv、Fab、および(Fab')2、ならびに二機能性(即ち二特異性)ハイブリッド抗体(例えば、Lanzavecchia et al., Eur. J. Immunol. 17, 105 (1987))、および単鎖(例えば、Huston et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 85, 5879-5883 (1988)、およびBird et al., Science, 242, 423-426 (1988)、これらは参照により本明細書に組み入れられる)を含む様々な他の形態で存在しうる。(一般的事項については、Hood et al., "Immunology", Benjamin, N.Y., 2nd ed. (1984), and Hunkapiller and Hood, Nature, 323, 15-16 (1986)を参照されたい)。
【0034】
免疫グロブリン重鎖或いは軽鎖の可変領域は、「相補性決定領域」或いはCDRとも称される3つの超可変領域によって中断される「フレームワーク」領域(FR) からなる。フレームワーク領域および相補性決定領域の範囲は正確に規定されている("Sequences of Proteins of Immunological Interest," E. Kabat et al., U.S. Department of Health and Human Services, (1991)を参照されたい)。異なる重鎖或いは軽鎖のフレームワーク領域の配列は、種内で比較的保存されている。抗体のフレームワーク領域、即ち構成要素である重鎖および軽鎖の組み合わされたフレームワーク領域は、CDRを位置づけ、整列させる。CDRは主に、抗原のエピトープに対する結合に役割を担う。
【0035】
キメラ抗体は、典型的には遺伝子操作によって、異なる種に属する抗体可変領域および定常領域遺伝子から重鎖および軽鎖遺伝子が構築された抗体である。例えば、ウサギ単クーロン抗体遺伝子の可変セグメントを、gamma 1およびgamma 3のようなヒト定常セグメントと組み合わせてもよい。治療用キメラ抗体の一例は、ウサギ抗体の可変部分或いは抗原結合部分と、ヒト抗体の定常部分或いはエフェクター部分とから構成されるハイブリッド蛋白質である(例えば、A.T.C.C. deposit Accession No. CRL 9688の細胞により生産される抗Tacキメラ抗体)が、ほかの哺乳動物種も使用できる。
【0036】
本明細書において使用される、用語「ヒト型化抗体」或いは「ヒト型化免疫グロブリン」は、ウサギ抗体の1つまたは複数の相補性決定領域と、ヒト抗体配列に基づくアミノ酸置換および/または欠失および/または挿入を含むウサギフレームワーク領域とを含む抗体を指す。相補性決定領域を提供するウサギ免疫グロブリンは「親」或いは「アクセプター」と称され、フレームワークの変更を提供するヒト抗体は「ドナー」と称される。定常領域は存在する必要はないが、存在する場合には、通常ヒト抗体定常領域と実質的に同一である、即ち少なくとも約85〜90%、好ましくは約95%またはそれ以上同一である。このように、一部の態様において、全長ヒト型化ウサギ重鎖或いは軽鎖免疫グロブリンは、ヒト定常領域、ウサギ相補性決定領域、及び以下に詳しく述べる「ヒト型」アミノ酸変異を一定数もつ実質的にウサギのフレームワーク領域を含む。多くの態様において、「ヒト型化抗体」は、ヒト型化可変軽鎖および/またはヒト型化可変重鎖を含む抗体である。例えば、キメラ抗体の可変領域全体が非ヒトであることから、ヒト型化抗体は、上に定義した典型的なキメラ抗体を含まないであろう。「ヒト型化」過程により「ヒト型化」された修飾抗体は、相補性決定領域を提供する親抗体と同じ抗原と結合し、通常、親抗体と比べてヒトにおいて免疫原性が低い。
【0037】
本方法で設計され産生されるヒト型化抗体は、抗原結合またはほかの抗体機能に実質的に影響しないさらなる保存的アミノ酸置換を有してもよいことが理解される。保存的置換とは、以下の群からの組み合わせを意図する:gly, ala; val, ile, leu; asp, glu; asn, gln; ser, thr; lys, arg; phe, tyr。同じ群に存在しないアミノ酸は「実質的に異なる」アミノ酸である。
【0038】
本明細書において用いられる用語「決定」、「測定」、及び「評価」、および「試験」は相互交換可能に使用され、定量的および定性的測定が含まれる。
【0039】
本明細書において相互交換可能に使用される用語「ポリペプチド」および「蛋白質」は任意の長さのポリマー形態のアミノ酸を指し、コード性と非コード性アミノ酸、化学的または生物化学的に修飾または誘導されたアミノ酸、ならびに修飾ペプチド骨格を有するポリペプチドを含む。この用語は融合蛋白質を含み、異種アミノ酸配列との融合蛋白質、N-末端メチオニン残基を持つ或は持たない、異種および同種リーダー配列との融合物;免疫学的タグ付加蛋白質;検出可能な融合パートナーとの融合タンパク質、例えば融合パートナーとして蛍光蛋白質、β-ガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼなどを含む融合タンパク質を含むがこれらに限定されない。
【0040】
本明細書で使用する用語「単離」は、単離抗体に関して用いられる場合、精製前に抗体が関係していた他の成分を、少なくとも60%、少なくとも75%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、少なくとも99%、さらに少なくとも99%含まない、関心対象の抗体を指す。
【0041】
用語「処置」、「治療」などは、哺乳動物、特にヒト或はマウスにおける任意の病気或は状態の任意の処置を指すために本明細書において用いられ、以下を含む:a)ある疾患に罹患する可能性があるが、まだその疾患を有するとは診断されていない対象において、この疾患、状態、または疾患もしくは状態の症状が起こるのを予防すること;b)疾患、状態、または疾患もしくは状態の症状を抑制すること、例えば患者におけるその発展を抑止する、および/または発症もしくは顕在化を遅延させること;および/またはc)疾患、状態、または疾患もしくは状態の症状を緩解すること、例えばこの疾患、状態、および/またはその症状を退行させること。
【0042】
用語「対象」、「宿主」、「患者」、及び「個体」は、診断或は治療が望まれる任意の哺乳動物対象、特にヒトを指して本明細書において相互交換可能に使用される。他の対象としては、ウシ、イヌ、ネコ、モルモット、ウサギ、ラット、マウス、ウマなどを含みうる。
【0043】
好ましい態様の詳細な説明
本発明は、ウサギ単クーロン抗体をヒト型化する方法を提供する。全体としては本方法は、親ウサギ抗体のアミノ酸配列を、類似するヒト抗体のアミノ酸配列と比較する工程と、類似するヒト抗体の対応フレームワーク領域の配列にフレームワーク領域が近づくように親ウサギ抗体のアミノ酸配列を変更する工程を含む。多くの態様において、相補性決定領域接触残基、鎖間接触残基、または埋没残基ではない親ウサギ抗体におけるアミノ酸は変更されない。本発明はさらに、対象抗体をコードする核酸、これら核酸を含むベクターおよび宿主細胞、ならびに対象抗体を産生する方法を提供する。これら対象抗体、核酸組成物、及びキットは、診断、治療、および状態・疾患の研究を含む多種の用途に有用である。
【0044】
さらに本発明を説明するに当たって、まず最初にウサギ単クーロン抗体をヒト型化する方法を検討し、続いて対象方法によってヒト型化された抗体をコードする核酸について述べ、そして、方法の概説、および対象システムが有用である代表的応用例について述べる。
【0045】
ウサギ単クーロン抗体をヒト型化する方法
本発明は、ウサギ抗体をヒト型化する方法を提供する。本方法は全体として、ヒト型化ウサギ抗体のフレームワーク領域がヒト抗体のアミノ酸配列と類似するように、抗体重鎖および軽鎖可変領域のフレームワーク領域の一定のアミノ酸を変更する工程を含む。変更していない親ウサギ抗体と比べると、これらヒト型化ウサギ抗体は通常、ヒト宿主中で免疫原性が低く、同時に高い親和性で、抗原、通常は予め定められた抗原に対する特異的結合力を保持する。つまり本方法は、通常ヒト宿主中で親ウサギ抗体に比べて免疫原性が低いヒト型化ウサギ抗体であって、修飾されていない親抗体が結合する抗原に対して少なくとも107M-1、好ましくは108M-1から1010M-1またはそれ以上の結合親和性を有するヒト型化ウサギ抗体を製造するために使用されうる。多くの態様において、変更は、機能的に重要であるとは考えられないアミノ酸に対してのみ行う。機能的に重要なアミノ酸とは、本明細書において詳細に述べるCDR接触残基、鎖間接触残基、或は埋没残基でありうる。ある態様においては、ウサギ抗体重鎖と軽鎖のFW1領域が類似ヒト抗体の対応FW1領域に置換され得、これはほとんどの態様において、親抗体配列と比べてヒト型化抗体配列に少なくとも一つのアミノ酸(即ち、一つ、二つ、三つ或はもっと多いアミノ酸)を付加する。ほかの態様において、ウサギ抗体重鎖可変領域のD-Eループ全体が類似ヒト抗体の対応ループに置換され得、これは多くの態様において、少なくとも一つアミノ酸(即ち、一つ、二つ、三つ或はもっと多いアミノ酸)を付加する。ほかのある態様においては、抗体軽鎖にcys80が存在する場合、そのアミノ酸が対応アミノ酸に置換されるか、或はE-Fループが類似ヒト抗体のE-Fループに置換される。最後に、互いに近接していると認められるシステイン対も変更しうる。
【0046】
本方法は、全てのウサギ抗体をヒト型化する際に有用である。しかし、ある特定の態様において、本方法は、通常6残基長のCDRであるヒトおよびマウス軽鎖CDR3と比べて、通常10、11、12、13、14或は15残基長の「長い」CDR3である軽鎖CDR3を有するウサギ抗体をヒト型化に特に有用である。
【0047】
ヒト型化ウサギ抗体は経済的に大量生産することができ、例えば各種技術を利用して、様々なヒトおよびマウスの疾患を診断および治療する際に有用である。
【0048】
図1は、本方法の特定の態様の概要を表すフローチャートである。特に図1について言及すると、本方法は、まず免疫と単クローン抗体製造を行うためのウサギを選択する(2)。任意のウサギを用いてもよく(4)、或は特定の態様においては、遺伝学的に定義されたウサギを用いてもよい(6)。主に、様々なS-S結合を有する抗体が望ましいか、VH D-Eループを有する抗体が望ましいかによって、特定のタイプの遺伝学的に定義されたウサギを選択しうる(8)。例えば、basウサギ(10)を利用してVK-CKジスルフィド結合を持たない抗体を産生してもよいし、b9/b9ウサギ(12)を利用してcys108を有するがcys80を持たない抗体を産生してもよいし、或はA2/A2ウサギ(14)を利用して、VH D-Eループ欠失を通常は持たない抗体を生産してもよい。適当な単クーロン抗体を同定し産生した後、多くの態様においては、抗体可変領域をコードする核酸をクローニングし(16)、配列決定して(20)、抗体可変領域のアミノ酸配列を決定する。通常はChothia(前記)またはKabat(前記)のスキームに従って、CDRを同定し、アミノ酸をナンバリングする(20)。そして通常は、類似するヒト抗体を同定し、以下のステップによってウサギ抗体の配列を変更する:a)ウサギ抗体重鎖および/または軽鎖可変領域のN-末端を類似ヒト抗体の対応部分で置換する(24);b)ウサギ抗体のVH D-Eループ全体を類似ヒト抗体の対応ループで置換する(26);c)ウサギ抗体軽鎖のcys80を類似ヒト抗体の対応アミノ酸で置換するか、或はほかの態様においては、ウサギ抗体のE-Fループ全体を類似ヒト抗体の対応E-Fループで置換する(28);d)抗体においてシステイン対が近接状態にあると考えられる場合、抗体のシステイン対を除き(30);及びe)CDR接触(32)、鎖間接触(34)、或は埋没残基(36)に関係すると考えられる残基を変えないようにする。ヒト型化ウサギ抗体の可変領域配列を設計した後(22)、2つの例示的代替アプローチによって可変領域をコードする核酸を作成できる(40)。これらアプローチは、ヒト型化可変領域をコードするようにデノボで可変領域の核酸を合成する(42)か、或は親ウサギ単クーロン抗体可変領域の核酸を変更する(44)ためのものである。作成過程の後、抗体を産生するために可変領域核酸を適当なベクターにクローニングして細胞で発現させ、コードする抗体を特徴決定する(46)。
【0049】
ウサギ免疫グロブリンVHとVL鎖配列
本方法の第1ステップとして、ウサギ単クローン抗体(「親」抗体)のアミノ酸配列を得る。多くの態様において単クローン抗体の特異性は知られているが、特定の態様においてはその特異性は知られていない。
【0050】
ウサギ抗体は抗原或いは抗原混合物をウサギに免疫することによって作成され、ウサギ免疫グロブリン重鎖と軽鎖の可変領域配列を、通常それをコードする核酸(特にcDNA)をシークエンシングして決定する。
【0051】
以上検討したように、親ウサギ抗体の所望の配列的特徴によって、本方法において様々な遺伝子型のウサギを使うことができる。一般的には、basilea(bas)、b9/b9遺伝子型、A2/A2を持つウサギを含む、任意のウサギを採用することができる。これらの核酸は、任意の抗体産生細胞或は細胞混合物、例えば免疫したウサギ由来の骨髄、脾臓など、或いはウサギ抗体を産生するハイブリドーマ細胞から単離することができる。ほとんどの態様においては、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)或は逆転写PCR (RT-PCR)を含む標準的分子生物学技術を用いて、抗体をコードする核酸をこれら細胞から単離する(Ausubel, et al, Short Protocols in Molecular Biology, 3rd ed., Wiley & Sons, 1995; Sambrook, et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Second Edition, (1989) Cold Spring Harbor, N.Y.)。
【0052】
多くの態様において、親ウサギ抗体のVHおよびVLドメインをコードする核酸はウサギ抗体産生ハイブリドーマ細胞から単離される。ウサギ抗体産生ハイブリドーマ細胞系を産生するためには、ウサギを抗原で免疫し、ウサギの特異的免疫反応が確立された後、免疫ウサギの脾臓細胞を、プラズマ細胞腫細胞系、例えば240E (Spieker- Polet et al, Proc. Natl. Acad. Sci. 92: 9348-9352, 1995)と融合する。融合した後、ハイブリドーマの生長を選択するために、ヒポキサンチン、アミノプテリン、およびチミジン(HAT)を含む培地中で細胞を生育させると、2〜3週間後にハイブリドーマのコロニーが現れる。酵素結合免疫吸着試験(ELISA)によって、これらの培養したハイブリドーマ細胞の上清を抗体分泌に関してスクリーニングし、標準的な手順によって、抗原に特異的な単クローン抗体を分泌する陽性クローンを選択し、拡大培養することができる(Harlow et al,. Antibodies:A Laboratory Manual, First Edition (1988) Cold spring Harbor, N.Y.; and Spieker-Polet et al., supra) 。
【0053】
他の態様において、親ウサギ抗体をコードする核酸は、任意の既知の方法によって細胞から単離される。典型的な方法には以下のものが含まれる:1) ウサギの骨髄、脾臓、リンパ腺或はその他のリンパ器官から採集した細胞群に対してフローサイトメトリーを行い、その後単細胞プレーティング、例えば標識抗ウサギIgGとともに細胞をインキュベートし、FACSVantage SE細胞ソーターで標識細胞をソーティングする(Becton- Dickinson、 San Jose、 CA);及び2) 限界希釈法によってマルチウェルプレート中にプラズマ細胞をプレーティングする。細胞はRT-PCR緩衝液を含む96ウェル或は384ウェルプレートに直接ソートし、IgG重鎖と軽鎖に特異的なネステッドプライマーで逆転写PCRを行うことができる。細胞ソーティングの代替的方法として、単独B細胞を獲得するために限界希釈細胞プレーティングを採用することもできる。
【0054】
本発明の方法はいずれのウサギ抗体の修飾にも適するが、通常は、抗体の軽鎖および重鎖免疫グロブリンがウサギの免疫システムによって自然に選択される、つまり例えばファージディスプレイなどによって作成された「非天然」に対合された抗体ではない、「天然」抗体の修飾に用いられる。ここで言う抗体は普通、ウィルスコート蛋白質配列などのウィルス配列と関係、即ち操作可能に連結していない。
【0055】
配列比較
親ウサギ抗体のVHおよびVLドメインのアミノ酸配列を決定した後、普通は適切なナンバリングシステム、例えばChothia 1998(前記)またはKabat(前記)に提供されているようなものを用いてアミノ酸に対して番号をつけ、通常、相補性決定領域および/またはフレームワーク残基を同定する。そして配列を通常、類似するヒト抗体を同定するため、ヒト免疫グロブリン配列(普通は生殖系列配列)のデータベースと比べる。この類似したヒト抗体は、アミノ酸が普通はヒト抗体から親ウサギ抗体へ移されるため、「ドナー」抗体と呼ばれることもある。典型的には、例えばBLASTPやFASTPなどの適切な比較プログラムをデフォルト設定で用いて親ウサギVH或はVL配列をデータベースと比較し、類似したヒト抗体を、アミノ酸配列同一性(パーセント同一性またはP値のいずれかによる)の観点から、親可変領域配列と最も類似する10個の可変領域(VL或はVH)の1つ(または一部の態様においては3つのうちの1つ、或は1番目のもの)を持つものとして同定する。選ばれたドナー抗体可変領域は普通はフレームワーク領域内に少なくとも約55%、65%、75%、80%、85%、90%或は95%のアミノ酸配列が親フレームワーク領域と一致する。いくつかの態様では、配列は、データベースの中に保存されていないアミノ酸配列、例えば新しく配列決定された抗体配列と比較される。
【0056】
大多数の態様では、同じヒト抗体の重鎖と軽鎖を採用してドナーとすることができる。
【0057】
様々な抗体データベースに対して検索を行って、所与のウサギ免疫グロブリン配列に類似したヒト抗体免疫グロブリン(普通は生殖系列抗体配列)を同定することができる。米国国立生物技術情報センター(NCBI)データベースに加え、最もよく利用されるデータベースの一部を以下に列挙する:
【0058】
VBASE −ヒト抗体遺伝子データベース:このデータベースはイギリスケンブリッジ医療研究理事会(MRC)により維持されており、ウェブサイト(mrc-cpe.cam.ac.uk)で提供されている。このデータベースは、GenbankとEMBLデータライブラリーの最新公表配列を含む、1千余りの公開された配列を累積した、全てのヒト生殖系列可変領域配列の包括的なディレクトリである。
【0059】
Kabat:免疫学重要性を持つ蛋白データベース(Johnson, G and Wu, TT (2001), Kabat Database and its applications: future directions. Nucleic Acids Research, 29: 205-206) 、シカゴ西北大学のウェブサイト (immuno.bme.nwu.edu)。kabatデータベースはnih/ncbiサイトでも利用可能である。
【0060】
Immunogeneticsデータベース:ヨーロッパ生物情報研究所(European Bioinformatics Institute)により維持され、そのウェブサイト(www.ebi.ac.uk)に掲載されている。このデータベースは、、それは免疫システムの機能において重要な遺伝子のヌクレオチド配列情報を含む、統合専門データベースである。このデータベースは、免疫グロブリンスーパーファミリーに属する免疫識別に関わる配列を収集して注釈をつけている。
【0061】
ABG:マウスの生殖系列遺伝子ディレクトリ − メキシコ国立大学生物技術研究所の抗体グループのウェブページの一部、マウスVHとVK生殖系列セグメントのディレクトリ。
【0062】
内蔵サーチエンジンを用いて、アミノ酸配列ホモロジーに関して類似する配列を探し求めることができる。本発明の方法においては、BLOSUM62マトリックス、予想臨界値は10、低複雑性フィルタはオフ、ギャップを許し、文字サイズは3を選択すること含むデフォルトパラメーターを用いてBLAST(Altschul et al., J. Mol. Biol. 215:403-10, 1990)を行う。
【0063】
ウサギ単クローン抗体のヒト型化
本発明は、ウサギ抗体をヒト型化できる方法を提供する。本方法においては、ウサギ抗体VHとVL領域のフレームワーク領域を、上述の同定された類似ヒト抗体に近くなるように修飾することができる。要するに、これらの方法は全体として、ウサギ抗体をヒト型化するその他のヒト型化方法(例えば、相補性決定領域移植、抗体再塗層などの方法)と互換性がある(つまり、これらに加えて行うことができる)。
【0064】
全体として、本方法は、親抗体のVHとVL領域の配列をドナー抗体VHとVL領域と整列させる工程と、ドナー抗体の配列に近くなるように親抗体VHとVLのフレームワーク領域配列を変更する工程を含む。全体から見て、これはウサギ抗体配列中の特定アミノ酸をドナー抗体の対応する(つまり、上述の番号スキームによる同じ位置の)アミノ酸に置換する工程を含む。言い換えると、「対応する」とは、2つの配列を整列させた場合に、親配列上の残基にわたってドナー配列上のアミノ酸残基が位置することを意味する。
【0065】
もちろん、当技術分野において知られているように(例えば、Roguska et al,P.N.A.S. 91: 969-973, 1994; Kabat 1991 Sequences of Proteins of Immunological Interest, DHHS, Washington, DC)、整列させるためには片方あるいは両方の配列に1、2、3、もしくは4またはそれ以上のアミノ酸の1、2あるいは3つのギャップおよび/または挿入を行わなければならないこともある。このように多くの態様では、親ウサギ配列とヒト配列を整列させるために、親ウサギ配列中にスペースを挿入、或はアミノ酸を欠失させる。
【0066】
他の態様では、本方法は、ウサギ抗体の領域をドナー抗体の領域に置換することに関る。親抗体配列と比較して、置換領域はアミノ酸を付加するか削除することができる。大多数の態様では、置換アミノ酸は連続しておらず、親抗体またはドナー抗体の間で異なる非連続アミノ酸の群からなってもよい。そのため、いくつかの態様では、本方法は、以下に検討する制限に従ってドナーヒト抗体フレームワーク領域を親ヒト抗体のフレームワーク領域に置換し、ウサギ抗体をヒト型化する工程を含む。ウサギ抗体配列と比較してヒト抗体配列中にさらなるアミノ酸が存在する場合、これは普通はウサギ抗体配列に追加され、同様に、ウサギ抗体配列と比較してヒト抗体配列中のあるアミノ酸が存在していなければ、これは通常はヒト型化過程中にウサギ抗体配列から削除される。
【0067】
可変領域のN-末端:ウサギの三つの主要VH1アロタイプ(A1, A2, A3)全ての抗体のVHドメインから、ヒトVH鎖のN-末端と比べて一残基分短いN-末端(即ち、これら抗体のFR1ドメイン)が予測されている。しかし、VH1遺伝子以外のVH遺伝子は、ウサギにおいて使用される頻度がVH1遺伝子よりも少ない可能性があるので、全てのウサギ抗体重鎖が短いN-末端を持つわけではない。実際には、我々がクローニングした可変κ鎖の約半分が、ほかのウサギVKおよび全てのヒトVKと比べて、N-末端で一残基分短い(図2を参照されたい)。
【0068】
概して、以下に述べる特定のアミノ酸を例外として、ヒト型化ウサギ抗体重鎖と軽鎖の最初の三つのN-末端残基(1、2、3)がドナーヒト抗体重鎖と軽鎖の最初の三つのN-末端残基と完全にマッチするように、ウサギ抗体のFR1領域全体(即ち、A、ならびにA'鎖およびB鎖の一部を含む第一CDR(CDR1)の最初のアミノ酸へのN-末端である抗体の重鎖のN-末端ドメイン)をドナー抗体のFR1領域全体と置換する。本発明のほとんどの態様においては、残基VK22, VH24, VH27, VH28, VH29、およびVH30は、CDRに近接しているため、変化させるべきではない。CDRsに非常に近づき、残基VK11, VK13, VK19, VH9, VH12、およびVH18に対しては保存的アミノ酸置換を行える。
【0069】
VH D-Eループ:図5は抗体重鎖のCDRに対するD-Eループの位置を示す。三つの主要VH1アロタイプのうち二つ(A1, A3)は、多くの場合ヒト及びウサギのA2アロタイプVH鎖と比べてそれぞれ二残基分または一残基分短いD-Eループドメインを有する。親和性成熟中にこの領域のアミノ酸残基の数が変わることがあるが、通常は変わらない。本発明によると、位置72から77の隣接する六つのウサギ残基を、選択されたドナー抗体配列の対応残基に置換することによって、D-Eループをヒト型化する。一部の態様において、以下の配列を用いてウサギ配列の残基72から77を置換する:DTSKNQ (SEQ ID NO:24), DNSKNT (SEQ ID NO:25)、DNAKNS (SEQ ID NO:26)、あるいは一部の態様においては以下のものもが使用される: DDSKNS (SEQ ID NO:27), DDSKNT (SEQ ID NO:28), DESTST (SEQ ID NO:29), DGSKSI (SEQ ID NO:30)、DKSIST (SEQ ID NO:31), DKSKNQ (SEQ ID NO:32)、DKSTST (SEQ ID NO:33)、DMSTST (SEQ ID NO:34), DNAKNT (SEQ ID NO:35), DNSKNS (SEQ ID NO:36)、DRSKNQ (SEQ ID NO:37), DRSMST (SEQ ID NO:38), DTSAST (SEQ ID NO:39)、DTSIST (SEQ ID NO:40), DTSKSQ (SEQ ID NO:41), DTSTDT (SEQ ID NO:42)、DTSTST (SEQ ID NO:43), DTSVST (SEQ ID NO:44), ENAKNS (SEQ ID NO:45),
或はNTSIST (SEQ ID NO:46)。
【0070】
代替的態様では、A2に関して同型接合体であるウサギから正しい長さのD-Eループを有するウサギ抗体を得ることができる。
【0071】
VK C80/E-Fループ:ウサギ抗体kappa鎖、例えばkappa-1 b4、b5、及びb6アロタイプに属するkappa鎖は、kappa定常領域中のシステイン残基とジスルフィド結合を形成する位置80のシステイン残基を有する(cys80)(図4を参照されたい)。cys80がウサギ抗体に存在する場合、非システイン残基に変異させるべきである。一般的には、cys80は任意のほかのアミノ酸と置換することができるが、pro、ala、或はser (P,A,S)が最も普通に用いられる。
【0072】
ほかの態様において、選択されたドナー抗体の対応する位置の残基(即ちVK80)を使用できる。
【0073】
代替的な態様において、cys80を含むVK-CKジスルフィド結合を欠くkappa鎖が産生されるウサギを用いて、位置80にシステイン残基を含まないウサギ抗体を作成できる。特に、basilea (bas)ウサギは、VK kappa-2アイソタイプおよびlambda鎖(両方ともこのジスルフィド結合がない)のみを産生する。また、Cys80を利用しないため、b9/b9同型接合ウサギの抗体を使用できる。そのかわり、b9/b9ウサギの抗体においては、cys 108はジスルフィド結合を形成する。
【0074】
ウサギ抗体のcys80を置換するための代替的態様において、親ウサギ抗体軽鎖のE-Fループ(残基VK77からVK83)が存在する場合、選択されたドナー抗体のものなどのほかの配列と置換される。これら七アミノ酸は通常以下のアミノ酸配列で置換される:SLQPEDF (SEQ ID NO:47) もしくはRVEAEDV (SEQ ID NO:48);またはNIESEDA (SEQ ID NO:49)、RLEPEDF (SEQ ID NO:50)、SLEAEDA (SEQ ID NO:51)、SLEPEDF (SEQ ID NO:52)、SLQAEDV (SEQ ID NO:53)、SLQPDDF (SEQ ID NO:54)、SLQPEDI (SEQ ID NO:55)、SLQPEDV (SEQ ID NO:56) もしくはSLQSEDF (SEQ ID NO:57)。ある特定の態様で、システインを含まない選択されたドナー抗体の配列を含む任意のヒト抗体に見られる任意の対応配列が使用できる。
【0075】
これら7残基のうち、位置82の残基は必ずD (asp)でなくてはならない。位置78および83の残基は、多くの場合埋まった状態であるため、対応ヒト残基が有意に異なるサイズ、電荷、または疎水性を持つ場合、ウサギ中で見られる状態のままにしておくべきである。ほとんどの態様において、位置78にあるウサギ残基はウサギVKでもヒトVKでも保存される(V, L, I、またはM)が、残基83に関してはそうではない。残基83は、電荷およびサイズにおいてウサギVKとヒトVKの間で顕著な差異が存在する。こうして、多くの態様において、残基83はそのままにして、E-Fループアミノ酸全てを、上記した配列の一つに従って変更できる。
【0076】
ほかのシステイン対:位置108にシステイン残基をもつウサギkappa鎖(例えばkappa-1 b9アロタイプのkappa鎖)に対して、このシステイン残基を任意のほかの残基、通常はヒト抗体、例えば選択されたドナー抗体中の同じ位置に見られる残基に変更できる。
【0077】
VK cys80或はcys108に加えて、ウサギ抗体の可変領域は多くの場合、ヒト抗体に存在しない他のシステインを持つ。モデリング、或は既知の構造との比較によって、近接する、即ちジスルフィド結合を介して結合することができるほど十分に近い抗体の他のシステイン対は、変更すべきである。一部の態様では、結合した一対のシステイン残基のうちの片方のシステインを変更するが、ほかの態様では、結合した対の両システイン残基を変更する。そのため多くの態様では、本手順は、互いに隣接する(例えば、約4、5、6、或は約7オングストローム以内)システイン対を同定する工程と、両システインをほかのアミノ酸に変更する工程とを含む。これらシステイン残基は、任意のほかのアミノ酸、通常別の抗体(例えば選択されたドナー抗体)の相応位置での非システインアミノ酸に変更しうる。
【0078】
特定の態様では、ウサギVHシステイン対cys21/cys79が、いかのものに変更されうる:S21/Y79、T21/S79、或はほかの態様では、S21/H79およびT21/V79。
【0079】
概して、相補性決定領域の一つに含まれる推定システイン対を変更すべきではない。しかし、一定の例外がある。一つの例外は、相補性決定領域に存在するVH35-VH50システインである(Kabat 1991, supraによる定義)。構造モデルによると、これら両システインの側鎖は埋まった状態にあり、さらに両システインともbeta鎖中に位置を占めている。したがって、この場合、システインは任意に対応するヒト残基に変更しうる。
【0080】
上記抗体修飾は、単独で行う場合も、任意のほかの方法と組み合わせて行う場合も、表1に示すアミノ酸を修飾することなく行うべきであり、或はほかの態様においては、埋没している任意のアミノ酸を保存的に変更できる。これらのアミノ酸について以下により詳述する。これらは、相補性決定領域に近接する、または異なる鎖にある、または埋没しているアミノ酸であると予測される。
【0081】
相補性決定領域接触
CDR H3は通常、抗体を産生した動物種に関係なく、信頼性を持ってモデリングすることはできない。特に、ヒト或はネズミより長い(例えば、2、3、4、5、6、7、或はもっと多くのアミノ酸分長い)相補性決定領域(例えばCDR L3)を含むウサギ抗体はモデリングしにくい。そのため、ウサギCDRは、蛋白質配列のみに基づいて既知の基準構造に簡単に割り当てることができないことも多い。
【0082】
しかし、CDRが長くなるほど(CDR H3およびCDR L3が該当するであろう)、或いは異なる立体構造をとると考えられる場合、それらはフレームワーク残基ではなく、抗原または他のCDRにのみ接触するループ領域において変化する可能性がより高いため、本発明に従って、相補性決定領域に近接している可能性が高いほとんどのフレームワーク残基を予測できる。そのため、ウサギ抗体の大雑把なモデルでも、十分に相補性決定領域と接触する残基を予測できる。
【0083】
鎖間接触
表1に列挙するアミノ酸の多くは鎖間接触に関わっており(例えば、VK/VHインターフェースで)、こういう状況では、これらはヒト型化の際に変更するべきではない。
【0084】
埋没残基
埋没残基(つまり、抗体の表面にないと予測されるアミノ酸)は、ヒト型化の際に変更するべきでなく、或いは一部の態様においては、アミノ酸配列に対して保存的変更(表1)を行うように、同様のサイズおよび疎水性のアミノ酸で置換されうる。
【0085】
多くの態様では、各可変領域内、2、4、6、8、10、12、14、16或は20個くらいまでのアミノ酸を修飾できる。
【0086】
(表1)相補性決定領域接触(CDR)または鎖間接触 (INT) を形成することから、或は埋没状態(BUR)にあることから、構造の上で重要であると考えられるフレームワーク残基
注釈:1より多いクラス属する残基は1つのクラスにのみ記載する(アミノ酸の記載順序INT > CDR > BUR)

【0087】
多くの態様では、本方法はコンピュータ或はコンピュータシステムによるアルゴリズムを採用する。これらの態様において、ユーザーは少なくともウサギ抗体のフレームワーク領域又は可変領域のアミノ酸配列を、例えばユーザーインターフェースを用いてコンピュータに入力し、このコンピュータが上述した方法を実行し、アルゴリズムを通して、ヒト型化ウサギフレームワークまたは修飾可変領域のアミノ酸配列、あるいは修飾ウサギフレームワークまたは修飾可変領域をコードするヌクレオチド配列を出力する。このようなプログラミングは、十分に当業者の技量の範囲内である。
【0088】
本発明に従うプログラミングは、コンピュータ読み取り可能な媒体、例えばコンピュータが直接読み取り、アクセスできる任意の媒体に記録できる。このような媒体としては、フロッピーディスク、ハードディスク保存媒体、及び磁性テープなどの磁性保存媒体;光学保存媒体、例えばCD-ROM;電子保存媒体、例えばRAMおよびROM;ならびにこれらカテゴリーの組み合わせ、例えば磁性/光学保存媒体が挙げられるが、これらに限定されない。当業者は、任意の現在知られているコンピュータ読み取り可能な媒体を利用して、上述した方法を実施するためのこのプログラミング/アルゴリズムをどのように記録するかを容易に認識することができる。
【0089】
ヒト型化ウサギ単クローン抗体
本発明は、上述した方法によってヒト型化されたウサギ抗体を提供する。
【0090】
普通の情況では、ヒト型化ウサギ抗体は、親抗体と比較して抗原に関する特異性を維持し、実質的な親和力を有し(例えば少なくとも107M-1、108M-1又は少なくとも109M-1〜1010M-1あるいはそれ以上)、親ウサギ抗体と比較して通常ヒト宿主において免疫原性が低い。上述した通り、多くの態様では、修飾ウサギ抗体は、ヒト抗体に由来する少なくとも一セットの連続或は非連続アミノ酸を含む。
【0091】
ヒト宿主内での親ウサギ抗体と比べたヒト型化ウサギ抗体の免疫原性レベルは多くの手段の任意のもので決定でき、これら手段には、二つの単離抗体の等モル量を含む処方物を一人のヒト宿主に投与して、各抗体に対するヒト宿主の免疫反応を測定することが含まれる。あるいは、親抗体と修飾抗体をそれぞれ違うヒト宿主に投与して、宿主の免疫反応を測定する。各抗体に対する非ウサギ宿主の免疫反応を測定するのに適した方法の一つは、ELISAによるものであり(Ausubel, et al, Short Protocols in Molecular Biology, 3rd ed., Wiley & Sons, 1995, UNIT 11-4に記載されている)、この方法では、適切な等量の各抗体をマイクロタイタープレートのウェルにスポットして、ヒト宿主からの多クローン抗血清に関して検査を行う。大多数の態様では、対象ヒト型化ウサギ抗体は非修飾親ウサギ抗体と比べて、免疫原性が約10%、20%、30%、40%、50% 、60%、80%、90%、さらには95%低い。
【0092】
用いた定常領域および他の領域によって、当技術分野において知られる抗体のいくつかのタイプを本方法において作ることができる。全長抗体と同様に、抗体の抗原結合断片を本方法によって作ることができる。これらの断片には、Fab、Fab'とF(ab')2、Fd、単鎖Fv (scFv)、単鎖免疫グロブリン(例えば、重鎖或は重鎖の一部、及び軽鎖或は軽鎖の一部が融合された)、ジスルフィド結合Fv (sdFv)、二機能抗体(diabody)、三機能抗体(triabody)、四機能抗体(tetrabody)、scFv小型抗体(minibody)、Fab小型抗体、及び二量体scFv、ならびに特異性抗原結合領域を形成するように立体構造中にVLとVHドメインを含む任意のその他の断片が含まれるが、これらに限定されない。単鎖抗体を含む抗体断片は、可変ドメインを単独で、または以下の全体もしくは一部と組み合わせて含みうる:重鎖上の、重鎖定常ドメイン、もしくはその一部、例えばCH1、CH2、CH3、膜貫通ドメイン、および/または細胞質ドメイン、ならびに軽鎖上の、軽鎖定常ドメイン、例えばCkappa又はClambdaドメイン、或は軽鎖定常ドメインの一部。また、可変領域とCH1、CH2、CH3、Ckappa、Clambda、膜貫通及び細胞質ドメインの任意の組み合わせが本発明に含まれる。用語「抗体」とは、上記したように重鎖と軽鎖が自然に対合した、つまりいわゆる「ファージディスプレイ」抗体を除く、上述したものを含む任意のタイプの抗体を意味する。
【0093】
特異性を維持する限り、ヒト型化ウサギ抗体はもちろん一定程度のアミノ酸変異、例えば保存的アミノ酸置換を収容でき、実質的な親和力を持ち、親抗体と比べて普通は非ウサギ宿主において免疫原性が低い。
【0094】
ウサギ単クローン抗体をコードする核酸
本発明はまた、重鎖或は軽鎖、重鎖或は軽鎖の可変ドメイン、又は重鎖或は軽鎖の可変ドメインのフレームワーク領域を含む対象修飾ウサギ抗体をコードするヌクレオチド配列を含む核酸、及びその一部を提供する。対象核酸は対象方法によって産生される。多くの態様では、核酸はまた、任意のヒト抗体の定常ドメインなどの定常ドメインに対するコーディング配列を含む。ヒト免疫グロブリンリーダーペプチド(例えばMEFGLSWVFLVAILKGVQC、SEQ ID NO:58)をコードする核酸を操作して、抗体鎖を分泌させることができる。
【0095】
遺伝子コードおよび核酸を操作するための組み換え技術は知られており、対象抗体のアミノ酸配列は上述した方法を通して獲得することができるため、ヒト型化ウサギ抗体をコードする核酸の設計と製造は十分に当業者の技量の範囲内である。いくつかの態様では、標準的組み換えDNA技術(Ausubel, et al, Short Protocols in Molecular Biology, 3rd ed., Wiley & Sons, 1995; Sambrook, et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Second Edition, (1989) Cold Spring Harbor, N.Y.)を用いる。例えば、本明細書において述べる必要はない様々な組み換え方法の任意の1つあるいは組み合わせを用いて、抗体産生細胞から抗体をコードする配列を単離することができる。その後、標準的組み換えDNA技術を利用し、蛋白質をコードする核酸配列中のヌクレオチドの置換、欠失、および/または付加を行うこともできる。
【0096】
例えば、部位特異的変異誘発およびサブクローニングを用いて、抗体をコードするポリヌクレオチド中で核酸残基を導入、欠失、置換することができる。他の態様では、PCRを採用することができる。オリヌクレオチドから全体として化学合成を行って、関心対象のポリペプチドをコードする核酸を製作することもできる(例えば、Cello et al., Science (2002) 297:1016-8)。
【0097】
いくつかの態様では、関心対象のポリペプチドをコードする核酸のコドンは、特定の種、特に哺乳動物、例えばヒトの細胞中での発現のために最適化される。
【0098】
本発明はまた、対象核酸を含むベクター(「コンストラクト」とも称される)を提供する。本発明の多くの態様では、対象核酸配列を発現制御配列(例えばプロモーターを含む)に操作可能に連結した後、宿主内で発現させる。また典型的には対象核酸をエピソームとして、または宿主染色体DNAに統合した一部として、宿主細胞内で複製できる発現ベクターに配置する。通常発現ベクターは、所望のDNA配列で形質転換された細胞を検出するために、選択マーカー、例えばテトラサイクリン或はネオマイシンを含む(例えば、本明細書に参照により組み込まれる米国特許第4,704,362号を参照されたい)。一元および二元発現カセットベクターを含むベクターは、当技術分野において周知である(Ausubel, et al, Short Protocols in Molecular Biology, 3rd ed., Wiley & Sons, 1995; Sambrook, et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Second Edition, (1989) Cold Spring Harbor, N.Y.) 。適切なベクターとしては、ウィルスベクター、プラスミド、コスミド、人工染色体(ヒト人工染色体、細菌人工染色体、酵母人工染色体など)、小型染色体などが挙げられる。レトロウィルス、アデノウィルス、及びアデノ関連ウィルスベクターを採用できる。
【0099】
細胞中で関心対象のポリペプチドを作るために、現在多くの発現ベクターが利用可能である。適切なベクターの1つはpCMVであり、いくつかの態様で使われる。このベクターは、ブダペスト条約(the Budapest Treaty for the International Recognition of the Deposit of Microorganisms for the Purpose of Patent Procedure)の下、1998年10月13日にAmerican Type Culture Collection (ATCC) (10801 University Blvd., Manassas, VA 20110-2209 USA)に寄託された。このDNAはATCCによって検査され、生存可能であると確認された。ATCCは、pCMVに以下の寄託番号を割り当てている:ATCC #203351。
【0100】
対象核酸は通常、対象抗体をコードする一つのオープンリーディングフレームを含むが、いくつかの態様では、関心対象のポリペプチドの発現のための宿主細胞は真核細胞、例えばヒト細胞などの哺乳動物細胞でありうるため、このオープンリーディングフレームはイントロンによって中断されている可能性がある。対象核酸は典型的には転写ユニットの一部であり、この転写ユニットは対象核酸に加えて、RNAの安定性や翻訳効率などを決定しうる3'および5'非翻訳領域(UTR)を含みうる。対象核酸は発現カセットの一部であってもよく、この発現カセットは対象核酸に加え、関心対象のポリペプチドの転写および発現を指示するプロモーター、および転写ターミネーターを含む。
【0101】
真核プロモーターは、真核宿主細胞又は任意のその他の宿主細胞中で機能する任意のプロモーターであってよく、ウィルスプロモーターおよび真核または原核生物遺伝子由来のプロモーターを含む。例示的な真核プロモーターとしては下記のプロモーターが挙げられるが、これらに限定されない:マウスメタロチオネインI遺伝子配列のプロモーター(Hamer et al., J. Mol. Appl. Gen. 1:273-288, 1982);ヘルペスウィルスのTKプロモーター (McKnight, Cell 31:355-365, 1982);SV40初期プロモーター(Benoist et al., Nature (London) 290:304-310, 1981);酵母ガル(gall)遺伝子配列プロモーター(Johnston et al., Proc. Natl. Acad. Sci. (USA) 79:6971- 6975, 1982); Silver et al., Proc. Natl. Acad. Sci. (USA) 81:5951-59SS, 1984);CMVプロモーター;EF-1プロモーター;エクジソン応答性プロモーター;テトラサイクリン応答性プロモーター等。ウィルスプロモーターは一般的に特に強力なプロモーターであるため、特に興味深いかもしれない。いくつかの態様では、標的病原体のプロモーターであるプロモーターが用いられる。本発明で用いるプロモーターは、導入された細胞(及び/或は動物)内で効力を発揮することができるように選択される。いくつかの態様では、プロモーターはCMVプロモーターである。
【0102】
いくつかの態様では、対象ベクターは選択マーカーの発現を提供することもできる。適切なベクターおよび選択マーカーは当技術分野において周知であり、Ausubelら(Short Protocols in Molecular Biology, 3rd ed., Wiley & Sons, 1995)及びSambrookら (Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Third Edition, (2001) Cold Spring Harbor, N.Y.)に検討されている。多くの異なる遺伝子が選択マーカーとして用いられ、対象ベクター中に選択マーカーとして用いる特定の遺伝子は主に便宜性によって選ばれる。既知の選択マーカー遺伝子としては以下のものが挙げられる:チミジンキナーゼ遺伝子;ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子;キサンチン-グアニンホスホリボシル転移酵素遺伝子;CAD;アデノシンデアミナーゼ遺伝子;アスパラギン合成酵素遺伝子;抗生物質耐性遺伝子、例えばtetr、ampr、Cmrまたはcat、kanrまたはneor(アミノグリコシドホスホ転移酵素遺伝子)、ハイグロマイシンBホスホ転移酵素遺伝子などを含む。
【0103】
対象核酸はまた、通常ヒト型化ウサギ抗体をコードする核酸の構成を容易にするために、制限サイト、マルチクローニングサイト、プライマー結合サイト、ライゲーション可能な末端、組み換えサイトなどを含みうる。
【0104】
概して、抗体をコードする核酸を製造する方法がいくつか当技術分野において公知であり、その中には米国特許6,180,370、5,693,762、4,816,397、5,693,761および5,530,101に記載されたものが含まれる。あるPCR法は、「重複拡張PCR(overlapping extension PCR)」 (Hayashi et al., Biotechniques. 1994: 312, 314-5)を用いて、軽鎖および重鎖をコードする核酸の発現カセットを造る。この方法においては、抗体産生細胞から得られたcDNA産物およびその他の適切な核酸を鋳型として用いた複数の重複PCR反応によって、発現カセットを生産する。
【0105】
ヒト型化ウサギ単クローン抗体を製造する方法
大多数の態様では、ヒト型化単クローン抗体をコードする対象核酸を直接宿主細胞に導入して、コードされる抗体の発現を誘導するのに十分な条件下でこの細胞をインキュベートする。
【0106】
発現カセットの発現に適する任意の細胞を宿主細胞とすることができる。例えば、酵母、昆虫、植物などの細胞である。多くの態様では、普通は抗体を産生しない哺乳動物宿主細胞系を採用する。例としては以下のものが挙げられる:サル腎臓細胞(COS細胞);SV40で形質転換されたサル腎臓CVI細胞(COS-7、ATCC CRL 165 1);ヒト胚腎臓細胞 (HEK-293, Graham et al. J. Gen Virol.36:59 (1977));仔ハムスター腎臓細胞 (BHK, ATCC CCL 10);チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO, Urlaub and Chasin, Proc. Natl. Acad. Sci. (USA) 77:4216, (1980);マウスセルトリ細胞 (TM4, Mather, Biol. Reprod. 23:243-251 (1980));サル腎臓細胞(CVI ATCC CCL 70);アフリカミドリザル腎臓細胞 (VERO-76, ATCC CRL-1587);ヒト子宮頸癌細胞 (HELA, ATCC CCL 2);イヌ腎臓細胞 (MDCK, ATCC CCL 34);バッファローラット肝臓細胞(BRL 3A、ATCC CRL 1442);ヒト肺細胞 (W138, ATCC CCL 75);ヒト肝臓細胞(hep G2、HB 8065);マウス乳癌細胞; (MMT 060562, ATCC CCL 51); TRI細胞(Mather et al., Annals N. Y. Acad. Sci 383:44-68 (1982));NIH/3T3細胞(ATCC CRL-1658); およびマウスL細胞(ATCC CCL-1)。その他の細胞系は当業者には明らかとなろう。American Type Culture Collection, 10801 University Boulevard, Manassas, Va. 20110-2209から多種の細胞系が利用可能である。
【0107】
核酸を細胞に導入する方法は当技術分野において周知である。適した方法には、エレクトロポレーション、粒子銃技術、燐酸カルシウム沈殿、直接マイクロ注射などが含まれる。具体的な方法の選択は通常、形質転換される細胞のタイプ、及び形質転換が行われる具体的な環境(つまり、インビトロ、エクスビボ、またはインビボ)に依存する。これらの方法に係る全般的な考察は、Ausubel, et al, Short Protocols in Molecular Biology, 3rd ed., Wiley & Sons, 1995に見いだされる。いくつかの態様では、リポフェクタミンおよびカルシウム媒介遺伝子導入技術を採用することができる。
【0108】
対象核酸を細胞に導入した後、典型的には、抗体を発現させるために、通常37℃で、時には選択下で、約1〜24時間細胞をインキュベートする。大多数の態様では、抗体は典型的には細胞が成長している培地の上清に分泌される。
【0109】
哺乳動物宿主細胞中で、対象抗体を発現するために、ウィルスを基礎とした複数の発現システムを利用可能である。アデノウイルスを採用して発現ベクターとする態様では、抗体をコードする関心対象の配列はアデノウイルス転写/翻訳制御複合体、例えば後期プロモーターおよび三重(tripartite)リーダー配列に連結することができる。その後、インビトロまたはインビボ組み換えにより、このキメラ遺伝子をアデノウイルスゲノムに挿入しうる。ウィルスゲノムの非必須領域(例えば、E1またはE3)内の挿入は、生存可能で、感染された宿主内で抗体分子を発現できる組み換えウィルスを生じる(例えば、Logan & Shenk, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 81:355-359 (1984)を参照されたい)。適切な転写エンハンサー因子、転写ターミネーターなどを含めることにより、発現の効率を高めることができる(Bittner et al., Methods in Enzymol. 153:51-544 (1987)を参照されたい)。
【0110】
組み換え抗体の長期的高収量産生のためには、安定した発現が用いられうる。例えば、安定的に抗体分子を発現する細胞系を操作することができる。ウィルス複製起点を含む発現ベクターを用いずに、免疫グロブリン発現カセット及び選択マーカーで宿主細胞を形質転換できる。外来DNAを導入した後、遺伝子操作された細胞を富化培地中で1〜2日間成長させ、その後選択培地に変更することができる。組み換えプラスミド中の選択マーカーが選択に対する抵抗性を与え、細胞に安定的にプラスミドを染色体中に組み込ませ、成長させて巣を形成させ、これをクローニングして、細胞系へと拡張することができる。このような操作細胞系は特に、直接的又は間接的に抗体分子と相互作用する化合物のスクリーニングおよび評価に有用である可能性がある。
【0111】
本発明の抗体分子を生産した後、免疫グロブリン分子の精製のための当技術分野において公知の任意の方法、例えばクロマトグラフィー(例えば、イオン交換、アフィニティー、特にプロテインAの後の特異的抗原に関するアフィニティー、及びサイジングカラムクロマトグラフィー(sizing column chromatography)、遠心、溶解度差(differential solubility)、または蛋白質精製のための任意のその他の標準的な技術によって精製しうる。多くの態様では、抗体は細胞から培養液に分泌され、培養液から回収される。
【0112】
ヒト型化ウサギ抗体の結合親和力の決定
修飾抗体を生産した後、普通は任意の既知の方法を用い、親和力に関して検査を行う。これらの方法は例えば:1)標識(放射標識或は蛍光標識)親ウサギ抗体、修飾抗体、及び親抗体に認識される抗原を用いる競合結合分析;2)例えば、抗体の結合特徴を提供するBIACore器具を用いる表面プラズモン共鳴である。この方法を用いて、抗原を固相チップに固定し、リアルタイムで抗体の液相状態での結合を測定する;及び3)例えば、蛍光活性化細胞選別(FACS)分析を用いて、細胞表面抗原に対する抗体の結合力を研究するフローサイトメトリー;4)ELISA;5)平衡透析(equibrilium dialysis)或はFACS。このFACS法では、抗原を発現するトランスフェクト細胞および天然細胞を両方とも、抗体の結合力の研究に用いることができる。結合親和力を測定する方法は一般的には、Harlowら、Antibodies: A Laboratory Manual, First Edition (1988) Cold spring Harbor, N.Y.; Ausubel, et al, Short Protocols in Molecular Biology, 3rd ed., Wiley & Sons, 1995に記載されている。
【0113】
親和力分析の結果、修飾抗体の結合力が親抗体と比較して低下が認められた場合、フレームワークに対して「微調整」を行って親和力を増加させうる。これを行う方法の1つは、部位特異的変異誘発によって各修飾残基を体系的にもとの状態に戻すことである。これらの戻し変異抗体を発現させて解析することにより、親和力を減少させない限り修飾できない重要な残基を予測する。
【0114】
戻し変異を必要とする可能性のある残基を予測する代替的方法は、分子モデリングを利用するものである。オリジナルおよびヒト型化またはマウス型化抗体構造の三次元モデルを比較して、CDR残基に近すぎる(例えば約5オングストローム未満)である表面残基の残基はすべて、ウサギ残基または両種に共通する残基に戻し変異すべきである。
【0115】
有用性
本発明のヒト型化ウサギ抗体は、診断、抗体イメージング、及び単クローン抗体ベースの療法に感受性の高い疾病の治療に有用である。ヒト型化ウサギ抗体は特に、補体媒介溶解(complement−mediated lysis)または抗体媒介細胞毒性(antibody mediated cytotoxicity)(ADCC)などによって、受動免疫、または望ましくない細胞もしくは抗原の除去に用いることができ、これらは全て、多くの以前の抗体に関係する実質的な免疫反応(例えばアナフィラキシーショック)を起こさずに行うことができる。例えば、本発明の抗体は、抗体に認識される蛋白質(例えばHER2)が望ましくない細胞の表面に特異的に発現している疾病の治療に用いることができ、あるいは望ましくない毒素、刺激物、或は病原体を中和することに用いられうる。ヒト型化ウサギ免疫グロブリンは特に、特定の細胞マーカーの発現を伴う癌、例えば結腸癌、肺癌、乳癌、前立腺癌などの多種のタイプの癌の治療に有用である。全てではないにしろ、ほとんどの疾病に関係する細胞および病原体は、抗体の目標になる可能性のある分子マーカーを持つため、多くの疾病がヒト型化抗体薬物に対する潜在的症候である。これらの疾病には、特定のタイプの免疫細胞が自己抗原を攻撃する自己免疫疾患、例えばインシュリン依存性糖尿病、全身性紅斑性狼瘡、悪性貧血、アレルギー、およびリューマチ性関節炎;臓器移植に関連する免疫活性化、例えば移植拒絶、移植片対宿主病;その他の免疫系疾患、例えば敗血症;感染性疾患、例えばウィルス感染または細菌感染;心臓血管疾患、例えば血栓、および神経性疾患、例えばアルツハイマー病が含まれる。
【0116】
キット
上記のように本方法を実施するためのキットも本発明により提供される。本キットは少なくとも、以下のもののうち1つまたは複数を含む:前記のような、少なくとも一つのヒト型化ウサギ抗体フレームワーク配列をコードする核酸、これを含むベクター、及びこれを増幅するためのオリゴヌクレオチドプライマーを含む。キットのその他の選択的な成分としては、以下のものが含まれる:制限酵素、制御プライマー、およびプラスミド;緩衝剤など。キットの核酸はまた、非ウサギ抗体CDRをコードする核酸とのライゲーションを容易にするために、制限サイト、マルチクローニングサイト、プライマーサイトなどを有しうる。キットの様々な成分は別々の容器中に存在してもよく、必要に応じて、特定の適合性成分を予め一つの容器中に合わせておいてもよい。
【0117】
上述した成分に加えて、本キットは典型的には、本方法を実施するためにキットの成分を使用するための説明をさらに含む。本方法を実施するための使用説明は通常、適切な記録媒体に記録される。例えば、使用説明は、紙、プラスチックなどの基材に印刷する。こうして、使用説明は、キットの容器またはその成分のラベル中に(つまり、パッケージまたはパッケージ中の成分に伴って)パッケージの挿入物としてキット中に存在しうる。その他の態様では、使用説明は、適切なコンピュータ読み取り可能な保存媒体、例えばCD-ROM、ディスク等に存在する電子保存データファイルとして存在する。またいくつかの態様では、実際の使用説明はキット中に含まれず、例えばインターネットを通じて遠隔の情報源から使用説明を得る手段が提供される。この態様の一例は、使用説明を閲覧できるおよび/または使用説明をダウンロードできるウェブアドレスを含むキットである。このような使用説明については、使用説明を得るこの手段は適切な基材に記録される。
【0118】
上述したプログラミングおよび使用説明を含むコンピュータ読み取り可能な媒体を少なくとも含むキットも本発明により提供される。使用説明は、インストールに関する指示、または設定に関する指示を含みうる。使用説明は、上述したように任意選択肢または選択肢の組み合わせと共に本発明を使用するための指示を含みうる。いくつかの態様では、使用説明は両方の情報を含む。
【0119】
ソフトウェアおよび使用説明をキットとして提供し、多種の用途に用いることができる。この組み合わせは、非ウサギ宿主中で親抗体よりも免疫原性が低いウサギ抗体またはそれらのヌクレオチド配列を製造するための手段として、パッケージングし購入されうる。
【0120】
使用説明は普通、適切な記録媒体に記録する。例えば、使用説明は、紙、プラスチックなどの基材に印刷する。こうして、使用説明は、キットの容器またはその成分のラベル中(つまり、パッケージまたはパッケージ中の成分に伴って)パッケージの挿入物としてキット中に存在しうる。その他の態様では、使用説明は、プログラムが存在する同じ媒体を含む適切なコンピュータ読み取り可能な保存媒体、例えばCD-ROM、ディスク等に存在する電子保存データファイルとして存在する。
【0121】
実施例
以下の実施例は、本発明をどのように実施し用いるのかを当業者に完全に開示し記載するためのものであって、本発明者らが彼らの発明であるとみなすものの範囲を限定することを意図するものではなく、以下の実験のみが行われたと示すことを意図するものでもない。用いた数字(例えば量、温度など)に関し、正確性を確保するよう努力が払われているが、実験的誤差および偏差を考慮に入れなければならない。別に示されていない限り、部は重量部であり、分子量は重量平均分子重量であり、温度は摂氏温度であり、圧力は大気圧または大気圧付近である。
【0122】
実施例1
ウサギ単クローン抗体
図2は、Epitomicsで開発された各種ウサギ単クローン抗体からクローニングした可変重鎖とkappa鎖の配列整列図を示す。ヒトおよびマウス抗体のものと比べると特殊な、ウサギ鎖の構造的特徴を示す。VK鎖の大部分およびVH鎖の半分がN-末端で1残基分短い(ヒト配列のように他のウサギ配列と比較して)。重鎖の大部分はD-Eループ領域で1または2残基分短い。単離kappa鎖はすべて、位置80にシステイン残基を有する。kappa鎖CDR3配列の多くは、既に知られているいずれのヒトまたはマウス抗体のものよりも長い。いくつかのkappa鎖は、第3相補性決定領域に1対の余分のシステイン残基を有する。いくつかのVH領域にも、余分なシステイン対が存在する。最後に、図にははっきり示されていないが、いくつかの相補性決定領域は、既知の基準構造に割り当てることができなかった。
【0123】
実施例2
ウサギ単クローン抗体B1のヒト型化
ウサギ抗インテグリンbeta-6単クローン抗体B1の可変重鎖とkappa鎖を、以下のようにPCRクローニングした。いくつかの独立したPCR産物を配列決定した。一組のプライマーによるPCR反応一回で通常は十分である。
【0124】
ハイブリドーマ細胞懸濁物の調製
- 1mlの生長中のB1細胞を、1100 RPM、5分スピン
- 1X PBSで洗浄
- 細胞を計数し、400,000細胞/mlに調整
【0125】
RNAの調製
- 1ulの細胞を氷上で9ulの緩衝液Aに加える
- 5ulの冷却緩衝液Bを加える
- 65℃で1分加熱
- サーモサイクラー中でゆっくりと冷却
55℃ 45℃ 35℃ 23℃ 氷点
30秒 30秒 30秒 2分
- 冷却緩衝液Cをチューブ当たり5ul加える
- 42℃で42分間インキュベート
- 氷中に戻す
【0126】
緩衝液A,B, C
緩衝液A
- 2ul DTT (0.1 M)
- 2ul 5X 第1鎖緩衝液
- 5ul DEPC処理水
緩衝液B
- 1.0ul 0.1% NP40
- 1.0ul 第1鎖緩衝液
- 1.0ul oligo(dT)
- 0.5ul RNAseOUT 40U/ml
- 1.5ul DEPC処理水
緩衝液C
- 1ul 10mM dNTPミックス
- 1ul 5X 第1鎖緩衝液(Invitrogen)
- 1ul Superscript RTII (Invitrogen)
- 2ul DEPC処理水
【0127】
PCR
プライマー濃度:3 pmole/ul
2.50ul 10x 緩衝液
0.75ul 50mM MgCl2
3.00ul プライマー1
3.00ul プライマー2
0.50ul 10mM dNTPミックス
0.25ul Taqまたは他のポリメラーゼ
10.00ul 水
5.00ul テンプレート
-----------
25.00ul
【0128】
94℃2分
94℃30秒│
57℃30秒│ x 40サイクル
68℃25秒│
68℃10分
第1ラウンド:
H鎖:プライマー1 +プライマー10
L鎖:プライマー12+プライマー19
ネステッドPCR
H鎖のみ:プライマー2+プライマー8

【0129】
相補性決定領域および残基の番号は、Chothia 1998(前記)およびKaba(前記t)に記載のナンバリングと一致するよう割り付けた。図3は、抗インテグリンbeta-6ウサギ単クローン抗体B1をヒト型化するための配列計画の要約である。詳細は以下のセクションの通りである。全部で15および17個のフレームワーク残基がそれぞれVKおよびVH中、ウサギ型からヒト型に変異した。2つの残基をVH中、それぞれ位置1および73に挿入した。変更しうる最大数に対して、VKおよびVH中、それぞれ4および7つのフレームワーク残基を変更しないまま残した。VKおよびVHフレームワーク中のパーセントIDはそれぞれ、76%から95%および72%から94%に増加した。
【0130】
以下の多くのヒト型化ステップは、抗体可変領域構造の詳しい知識を必要とする。このような知識を得るために最も信頼できる簡便な方法は、広範な抗体構造に関連する文献(例えば、Chothia 1998、前記を参照されたい)から得ることである。いずれにせよ、pdbデータベースで公的に利用可能な何百もの抗体構造のうちのいくつか、及びヒト型化する特定のウサギ抗体の構造を視覚化することは有用であろう。
【0131】
ウサギ抗体をモデリングするためには、ウサギ配列をpdbデータベースと比較して、相同性モデリングを行うための適切な構造を探す。通常、蛋白質配列がウサギ抗体の蛋白質配列と非常に近い、対合したVH/VL鎖の構造を探すことができる。当然、配列間の類似性が高いほど、よいモデルが得られる。
【0132】
相同性によるモデルを構築するために使用可能なプログラムがいくつか存在する。一部のプログラムは購入することができ、いくつかはインターネットから得ることもできる。例えば、Swiss Pdb Viewer(「Deep View」としても知られる)を用いて、相同性により蛋白質のモデリングができる。テンプレート構造のループに対してウサギ抗体のループ中にギャップまたは挿入が存在する場合、これらは他の構造を利用してモデリングすることができる。相補性決定領域が既知の基準構造に属する場合、モデリングは比較的容易かもしれない。例えばCDR L2に関し、これはほとんど確実に常に真実である。しかし、基準構造をウサギCDRに割り付けることができないことも多く、モデリングするのに適当なテンプレート構造を見つけるのが困難なこともある。特に、CDR L3およびH3に適切な構造的テンプレートを探すことは非常に困難であると予想される。D-Eループのモデリングも簡単ではないであろう。しかし、CDRループおよびD-Eループのモデリングは完璧である必要はない。
【0133】
プログラムpdb viewerを用いて、どのフレームワーク残基がCDRと接触する可能が高いかを決定できる。あるいは、pdbファイルから座標を直接採用できる様々なプログラミング言語、例えばPERLで、またはMicrosoft Excelを用いてスクリプトを書き、どの残基がいずれかのCDR残基から接触距離5オングストローム以内にあるかを決定できる。ウサギ抗体モデルは完璧であるとは予想されないため、慎重に、CDRから6または7オングストロームにある残基について実際に計算を行ってから、CDRに接触する可能性が高いかどうかを決定するために視覚化する方がよい。同じアプローチを用いて、どの残基が鎖間接触に関わる可能性が高いかを見出すことができるが、この場合、pdb viewerを用いて視覚的にいくつかの構造を試してみる方がよい。最後に、pdb viewerスクリプト言語を用いて、相対的な表面に対する接近可能性を計算し、それによってどの残基が埋まっているかを決定することができる。
【0134】
B1ウサギ単クローン抗体B1はこの予測されたジスルフィド結合を有するため、システイン80が非システインヒト残基に置換されない限りヒト型化できない。本発明によると、cys80と位置77〜83の隣接残基は、DLECADA (SEQ ID NO:65)からSLQPDDA(SEQ ID NO:66)に変えられる。ヒト型化配列は、位置83の最後の残基がAからFに変えられていない以外、上述した配列の1つSLQPDDF(SEQ ID NO:67)とほぼ同一である。これは、同様に本発明により、この残基は、置換が全く異なり、側鎖中そのままであるべきであるためである。この残基は埋没状態にあることが多く、この場合、AからFに変化すると、大きなメチル-フェニル基が、元はメチル基しかなかった位置に入り込まなくてはならなくなる。
【0135】
両鎖のN-末端はそれぞれ、VKの残基21およびVHの残基27まで完全にヒト型化した。残基VK22、VH28、およびVH29は、あまりにもCDRに近い、またはCDRに接触しているため、変更しなかった。
【0136】
図5は、3つの相補性決定領域とD-Eループの位置を示すウサギVHドメインのモデル構造を示す。後者は相補性決定領域に近い。ウサギ単クローン抗体B1のこの領域は、3つの最も可能性のあるヒト抗体配列中の一つであるDNSKNT (位置72〜77)を受け入れてヒト型化され、この配列は余分な残基を1つ含むため、ウサギ抗体に対してヒト型化抗体は大きいループになった。
【0137】
ウサギB1抗体のVHに存在するcys35-cys50の対は、両残基とも埋没状態にあると予測され、両方とも相補性決定領域の一部であるため、変更しなかった。
【0138】
以下の残基を除き、その他の残基は全て、ヒト標的配列にマッチするように変更した:
- VK43およびVH91。これらはVK/VHインターフェースに近い、またはその中にあるため。
- VK83。これは埋没状態にある可能性が高く、この変化(AからFへ)がそのサイズを著しく変えてしまうため。
- VK67、VH48、VH49、VH71、およびVH78。これらは相補性決定領域に近い、または接触するため。
【0139】
この場合、B1抗体の2つの計画された可変領域を合成し、ヒトkappa鎖およびIgG1の定常領域をコードする発現ベクターにクローニングした。それからベクターをHEK293細胞中で一過的に発現させ、培養上清を細胞ELISA実験に用いて、ヒト型化抗体が抗原に強く結合したことが示された。
【0140】
その他の場合、可変領域遺伝子を合成する代わりに、点突然変異を行うことができる。IgG全体の代わりに抗体断片を発現させることもできる。
【0141】
上記結果および検討から、本発明が、ウサギ抗体をヒト型化するための重要な新しい手段を提供することが明らかである。このように、本方法およびシステムは、研究、農業、治療的応用等を含む多種の異なる応用において有用である。よって、本発明は当技術分野に多大に貢献する。
【0142】
本発明は具体的な態様を参照して記載したが、本発明の真意および範囲から逸脱することなく様々な変更がなされ得、等価物で置換可能であることが当業者には理解されるべきである。また、本発明の目的、趣旨、および範囲に、特定の状況、材料、物質組成、過程、過程工程または工程群を適合させるため、多くの修飾をなし得る。このような修飾は全て、添付の請求の範囲内であることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0143】
【図1】本発明の一部の態様を模式的に説明する図である。
【図2】異なるウサギハイブリドーマからクローンされた可変kappa鎖(上部)と可変重鎖(下部)の複数配列整列図である。標準のナンバリングで、β鎖(A, A', B, C, C', D, E, F, G)の位置を各整列の上部に示す。これらの位置は文献に基づく(Chothia J Mol Biol 1998 278:457-79)。UP4_31: SEQ ID NO:1;UP4_29: SEQ ID NO:2;UP4_23: SEQ ID NO:3;CALK_VK:SEQ ID NO:4;CD79_A: SEQ ID NO:5;UP3_4_V: SEQ ID NO:6;CS1_108: SEQ ID NO:7;CS1_115: SEQ ID NO:8;PLAP_VK: SEQ ID NO:9;B1_VK: SEQ ID NO:10;DEW76: SEQ ID NO:11;DEW148: SEQ ID NO:12;B1_VH: SEQ ID NO:13;DEW73:SEQ ID NO:14;DEW70: SEQ ID NO:15;及びKabX: SEQ ID NO:16。
【図3】抗インテグリンβ-6ウサギ単クローン抗体B1のヒト型化を示す複数配列整列図である。元のB1 VKおよびVH配列を、それぞれ最も近いヒト標的生殖系列配列および最終ヒト型化鎖配列と共に整列させて示す。見やすいように、CDRとフレームワーク(FR)の終端で整列を中断させている。標準のナンバリングを上部の列に示す。ナンバリング中の暗色区は、相補性決定領域の位置を示す。ほかの暗色区域は、オリジナルのウサギ配列と異なるフレームワークの位置を表す。黒色ユニットは、ヒト対応物に対するウサギ配列における欠失である。ヒトVK CDR3の一部および完全なVH CDR3は、ヒト生殖系列に正確にコードされていないので示していない。B1VK: SEQ ID NO:17; Hu_L12_JK4: SEQ ID NO17; B1_VK_HZ1: SEQ ID NO:20; B1VH: SEQ ID NO:21; B1VH_HZ1: SEQ ID NO:22。
【図4】Fab抗体断片の模式図であり、一部のウサギκ鎖には存在するが、ヒトまたはネズミκ鎖には存在しないVKとCKの間の「余分の」ジスルフィド結合を示す。
【図5】ウサギVHドメイン構造の模式図であり、3つのCDRとD-Eループの位置を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程を含む、ウサギ単クローン抗体をヒト型化する方法:
(a) 親ウサギ抗体の重鎖および軽鎖可変ドメインのアミノ酸配列を、類似するヒト抗体の重鎖および軽鎖可変ドメインのアミノ酸配列と比較する工程;及び
(b) 該ウサギ抗体の該重鎖および軽鎖可変ドメインのフレームワーク領域内のアミノ酸を変更する工程であって、変更されたフレームワーク領域が、該類似するヒト抗体の対応フレームワーク領域に配列上類似するようにする工程;
ここで、該変更されたアミノ酸は、実質的に異なる側鎖の相補性決定領域(CDR)接触、鎖間接触、または埋没残基内に関係しない。
【請求項2】
親単クローン抗体の軽鎖が、ヒト抗体のCDR3よりも少なくとも1アミノ酸長いCDR3を含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
親ウサギ抗体および変更されたウサギ抗体の特異性および親和力が実質的に同一である、請求項1記載の方法。
【請求項4】
変更されたウサギ抗体は、ヒト宿主内においてウサギ親抗体よりも免疫原性が低い、請求項1記載の方法。
【請求項5】
親ウサギ単クローン抗体のフレームワーク領域1をヒト抗体のフレームワーク領域1で置換し、該親ウサギ単クローン抗体の長さを1つまたは複数のアミノ酸分長くする、請求項1記載の方法。
【請求項6】
親ウサギ単クローン抗体VH D-Eループをヒト抗体のD-Eループで置換し、該親ウサギ単クローン抗体のD-Eループの長さを1つまたは複数のアミノ酸分長くする、請求項1記載の方法。
【請求項7】
親ウサギ単クローン抗体の位置80の任意のVKシステイン残基をヒト抗体の位置80に見られるアミノ酸で置換する、請求項1記載の方法。
【請求項8】
親ウサギ単クローン抗体のVK E-Fループをヒト抗体のE-Fループで置換する、請求項1記載の方法。
【請求項9】
親単クローン抗体中で互いに近接した位置にあるシステインの対を、ヒト抗体の同じ位置に見られるアミノ酸で置換する、請求項1記載の方法。
【請求項10】
請求項1記載の方法によってヒト型化されたウサギ単クローン抗体。
【請求項11】
親ウサギ抗体によって108M-1以上の結合親和力で結合される抗原に対して2x107M-1以上の測定結合親和力を有する、請求項13記載のヒト型化ウサギ単クローン抗体。
【請求項12】
ウィルスポリペプチドの断片と連結していない、請求項10記載の改変ウサギ抗体。
【請求項13】
抗体断片である、請求項10記載の改変ウサギ抗体。
【請求項14】
請求項10記載の単クローン抗体の重鎖または軽鎖可変ドメインをコードする核酸。
【請求項15】
請求項14記載の核酸を含むベクター。
【請求項16】
請求項15記載のベクターを含む宿主細胞。
【請求項17】
以下の工程を含む、ヒト型化ウサギ抗体を製造する方法:
該抗体を製造するのに十分な条件下で請求項16記載の宿主細胞をインキュベートする工程;及び
該抗体を回収する工程。
【請求項18】
以下のものを含むキット:
請求項1記載の方法によってヒト型化された単クローン抗体;及び
状態を処置するために単クローン抗体を用いるための使用説明。
【請求項19】
請求項1記載の方法を実施するようプロセッサに指示を与えるための使用説明をコードするコンピュータ読み取り可能な媒体。
【請求項20】
以下のものを含む、コンピュータで使用するためのキット:
(a) 請求項19記載のコンピュータ読み取り可能な媒体;及び
(b) プログラムにしたがってコンピュータを操作するための使用説明。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2007−520991(P2007−520991A)
【公表日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−507902(P2005−507902)
【出願日】平成15年8月7日(2003.8.7)
【国際出願番号】PCT/US2003/025002
【国際公開番号】WO2005/016950
【国際公開日】平成17年2月24日(2005.2.24)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.フロッピー
【出願人】(506043158)エピトミクス インコーポレーティッド (5)
【Fターム(参考)】