説明

ウシの品種判別方法

【課題】 ウシの品種判別方法を提供すること。
【解決手段】 被検ウシ個体から単離したゲノムDNAにおいて、黒毛和種と、ホルスタイン種との品種間でアリル頻度の差が大きい18個のSNPのいずれか4個以上における塩基を決定することにより、そのウシ個体の品種を判別することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウシの品種判別方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、国産牛肉のほとんどは、黒毛和種(39%)、ホルスタイン種(34%)、黒毛和種とホルスタイン種との交雑種(25%)で占められている(括弧内は、農林水産省2008年統計の枝肉生産量より算出した割合)。このうち、黒毛和種の牛肉は脂肪交雑に優れ市場において高額で流通しているが、近年、黒毛和種とホルスタイン種との交雑牛が黒毛和種牛として偽装表示され店頭で不当に高額で販売されていることが問題となっている。そのため、簡便な肉牛の品種判別方法の開発が望まれている。
【0003】
これまでに、マイクロサテライトマーカーを用いた黒毛和種牛と他品種との品種判別法が開発されている(非特許文献1参照)。しかし、複数のマイクロサテライトマーカーのタイピングは多検体の処理には不向きであり、より簡便な肉牛の品種判別方法の開発が期待されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Watanabe et al. (2008) Anim. Gnet. 39, 374-382
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、SNPマーカーを用いたウシの品種判別方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、黒毛和種と、ホルスタイン種との品種間でアリル頻度の差が大きい18個のSNPを見出した。そして、これらのSNPにおける塩基を決定することにより、黒毛和種と、黒毛和種とホルスタイン種とのF1とを判別することができることを見出し、本発明の完成に至った。
【0007】
ここで、本明細書において「ウシ」はBos taurus種のウシを指す。また、「ウシゲノム」は、2006年8月15日付でBaylor College of MedicineによりリリースされたBtau4.0 ゲノムアッセンブリ(例えば、Khatker et al. BMC Bioinformatics 2010, 22:171参照)により開示される配列に基づいて表されている。
【0008】
すなわち、本発明に係るウシ(Bos taurus)個体の品種判別のためのマーカーは、4個以上のSNPを有する塩基を含む、単離されたポリヌクレオチドであって、前記塩基は、互いに異なる位置にあり、ウシゲノムアッセンブリ(Btau4.0)における1番染色体の62,347,547番目の塩基に対応する塩基1、Btau4.0における2番染色体の21,197,107番目の塩基に対応する塩基2、Btau4.0における2番染色体の72,527,748番目の塩基に対応する塩基3、Btau4.0における3番染色体の9,887,418番目の塩基に対応する塩基4、Btau4.0における3番染色体の44,462,889番目の塩基に対応する塩基5、Btau4.0における4番染色体の79,623,054番目の塩基に対応する塩基6、Btau4.0における8番染色体の111,309,164番目の塩基に対応する塩基7、Btau4.0における9番染色体の97,919,713番目の塩基に対応する塩基8、Btau4.0における11番染色体の13,472,745番目の塩基に対応する塩基9、Btau4.0における12番染色体の34,476,412番目の塩基に対応する塩基10、Btau4.0における13番染色体の6,365,748番目の塩基に対応する塩基11、Btau4.0における14番染色体の7,620,648番目の塩基に対応する塩基12、Btau4.0における14番染色体の75,476,607番目の塩基に対応する塩基13、Btau4.0における15番染色体の6,452,017番目の塩基に対応する塩基14、Btau4.0における20番染色体の54,183,343番目の塩基に対応する塩基15、Btau4.0における22番染色体の53,561,274番目の塩基に対応する塩基16、Btau4.0における26番染色体の22,269,111番目の塩基に対応する塩基17、および、Btau4.0における28番染色体の103,000番目の塩基に対応する塩基18、のいずれかであることを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る被検ウシ(Bos taurus)個体のSNP決定方法は、前記ウシから単離されたポリヌクレオチドにおいて、4個以上のSNPを有する塩基を決定する工程を含み、前記塩基は、互いに異なる位置にあり、ウシゲノムアッセンブリ(Btau4.0)における1番染色体の62,347,547番目の塩基に対応する塩基1、Btau4.0における2番染色体の21,197,107番目の塩基に対応する塩基2、Btau4.0における2番染色体の72,527,748番目の塩基に対応する塩基3、Btau4.0における3番染色体の9,887,418番目の塩基に対応する塩基4、Btau4.0における3番染色体の44,462,889番目の塩基に対応する塩基5、Btau4.0における4番染色体の79,623,054番目の塩基に対応する塩基6、Btau4.0における8番染色体の111,309,164番目の塩基に対応する塩基7、Btau4.0における9番染色体の97,919,713番目の塩基に対応する塩基8、Btau4.0における11番染色体の13,472,745番目の塩基に対応する塩基9、Btau4.0における12番染色体の34,476,412番目の塩基に対応する塩基10、Btau4.0における13番染色体の6,365,748番目の塩基に対応する塩基11、Btau4.0における14番染色体の7,620,648番目の塩基に対応する塩基12、Btau4.0における14番染色体の75,476,607番目の塩基に対応する塩基13、Btau4.0における15番染色体の6,452,017番目の塩基に対応する塩基14、Btau4.0における20番染色体の54,183,343番目の塩基に対応する塩基15、Btau4.0における22番染色体の53,561,274番目の塩基に対応する塩基16、Btau4.0における26番染色体の22,269,111番目の塩基に対応する塩基17、および、Btau4.0における28番染色体の103,000番目の塩基に対応する塩基18、のいずれかの塩基であることを特徴とする。
【0010】
ここで、本発明に係るSNP決定方法に関し、4個以上のSNPを有する塩基を決定する工程において、塩基1から塩基18の18個の塩基を決定することが好ましい。
【0011】
本発明に係る、黒毛和種のウシ個体とホルスタイン種のウシ個体、あるいは、黒毛和種のウシ個体と、黒毛和種とホルスタイン種のF1のウシ個体とを判別するための線形判別関数における判別係数を決定する方法は、黒毛和種のウシ個体とホルスタイン種のウシ個体、あるいは、黒毛和種のウシ個体と、黒毛和種とホルスタイン種のF1のウシ個体とから単離されたポリヌクレオチドにおいて、本発明に係るいずれかのSNP決定方法によって決定された4個以上のSNPから前記判別係数を決定する工程を含むことを特徴とする。
【0012】
本発明に係る被検ウシ(Bos taurus)個体の品種判別方法は、本発明に係る、黒毛和種のウシ個体とホルスタイン種のウシ個体、あるいは、黒毛和種のウシ個体と、黒毛和種とホルスタイン種のF1のウシ個体とを判別するための線形判別関数における判別係数を決定する方法に従って、黒毛和種のウシ個体とホルスタイン種のウシ個体、あるいは、黒毛和種のウシ個体と、黒毛和種とホルスタイン種のF1のウシ個体とを判別するための前記線形判別関数における前記判別係数を決定する工程と、前記決定された判別係数と、前記決定されたSNPを数値化した変数とを、前記線形判別関数に代入して判別得点を算出する工程と、前記算出された黒毛和種のウシ個体の判別得点と、前記算出されたホルスタイン種のウシ個体、または、黒毛和種とホルスタイン種のF1の判別得点とを比較し、前記黒毛和種とホルスタイン種、あるいは、黒毛和種と、黒毛和種とホルスタイン種のF1を判別するための閾値を決定する工程と、前記被検ウシ個体において決定された前記SNPを数値化した変数を前記線形判別関数に導入し、前記被検ウシ個体の判別得点を算出する工程と、前記算出された判別得点を前記閾値と比較する工程を含むことを特徴とする。
【0013】
本発明に係る被検ウシ(Bos taurus)個体の品種判別方法は、黒毛和種のウシ個体とホルスタイン種のウシ個体、あるいは、黒毛和種のウシ個体と、黒毛和種とホルスタイン種のF1のウシ個体から単離されたポリヌクレオチドにおいて、本発明に係るSNP決定方法のいずれかによってSNPを決定する工程と、判別係数と、前記決定されたSNPを数値化した変数とを線形判別関数に代入して判別得点を算出する工程と、前記算出された黒毛和種のウシ個体の判別得点と、前記算出されたホルスタイン種のウシ個体、または、黒毛和種とホルスタイン種のF1の判別得点とを比較し、前記黒毛和種とホルスタイン種、あるいは、黒毛和種と、黒毛和種とホルスタイン種のF1を判別するための閾値を決定する工程と、前記被検ウシ個体から単離されたポリヌクレオチドにおいて、本発明に係るSNP決定方法のいずれかによってSNPを決定する工程と、判別係数と、前記被検ウシ個体において決定されたSNPを数値化した変数を、前記線形判別関数に導入し、前記被検ウシ個体の判別得点を算出する工程と、前記被検ウシ個体の判別得点を前記閾値と比較する工程を含み、前記線形判別関数は、

で表わされ、式中、zは判別得点を示し、ak(kは1〜18のいずれかの整数)は、前記決定されたSNPに対応する判別係数aを示し、xk(kは1〜18のいずれかの整数)は、前記決定されたSNPを数値化した変数xを示し、前記変数は、前記決定されたSNPが、黒毛和種型ホモ接合の場合には0、黒毛和種型塩基とホルスタイン種型塩基のヘテロ接合の場合には1、ホルスタイン種型ホモ接合の場合には2であり、塩基1のSNPに対するaは−0.5360198であり、塩基2のSNPに対するaは−1.0615716であり、塩基3のSNPに対するaは−0.3656738であり、塩基4のSNPに対するaは−0.1578568であり、塩基5のSNPに対するaは−0.1572311であり、塩基6のSNPに対するaは1.2450498であり、塩基7のSNPに対するaは0.3579827であり、塩基8のSNPに対するaは−0.9941617であり、塩基9のSNPに対するaは0.2065673であり、塩基10のSNPに対するaは0.1704136であり、塩基11のSNPに対するaは0.4234334であり、塩基12のSNPに対するaは0.2154864であり、塩基13のSNPに対するaは−0.485136であり、塩基14のSNPに対するaは−0.4892181であり、塩基15のSNPに対するaは0.2372545であり、塩基16のSNPに対するaは−0.7450774であり、塩基17のSNPに対するaは0.5832087であり、塩基18のSNPに対するaは0.4407437であることを特徴とする。
【0014】
本発明に係る被検ウシ(Bos taurus)個体の品種判別方法は、前記被検ウシ個体から単離されたポリヌクレオチドにおいて、本発明に係るSNP決定方法のいずれかによってSNPを決定する工程と、判別係数と、前記被検ウシ個体において決定されたSNPを数値化した変数を、前記線形判別関数に導入し、前記被検ウシ個体の判別得点を算出する工程と、前記被検ウシ個体の判別得点を閾値と比較する工程を含み、前記線形判別関数は、

で表わされ、式中、zは判別得点を示し、ak(kは1〜18のいずれかの整数)は、前記決定されたSNPに対応する判別係数aを示し、xk(kは1〜18のいずれかの整数)は、前記決定されたSNPを数値化した変数xを示し、前記変数は、前記決定されたSNPが、黒毛和種型ホモ接合の場合には0、黒毛和種型塩基とホルスタイン種型塩基のヘテロ接合の場合には1、ホルスタイン種型ホモ接合の場合には2であり、塩基1のSNPに対するaは−0.5360198であり、塩基2のSNPに対するaは−1.0615716であり、塩基3のSNPに対するaは−0.3656738であり、塩基4のSNPに対するaは−0.1578568であり、塩基5のSNPに対するaは−0.1572311であり、塩基6のSNPに対するaは1.2450498であり、塩基7のSNPに対するaは0.3579827であり、塩基8のSNPに対するaは−0.9941617であり、塩基9のSNPに対するaは0.2065673であり、塩基10のSNPに対するaは0.1704136であり、塩基11のSNPに対するaは0.4234334であり、塩基12のSNPに対するaは0.2154864であり、塩基13のSNPに対するaは−0.485136であり、塩基14のSNPに対するaは−0.4892181であり、塩基15のSNPに対するaは0.2372545であり、塩基16のSNPに対するaは−0.7450774であり、塩基17のSNPに対するaは0.5832087であり、塩基18のSNPに対するaは0.4407437であり、前記閾値が−3.894であって、前記判別得点が−3.894以上であった場合に、前記被検ウシ個体の品種が黒毛和種であると判別し、前記判別得点が−3.984未満であった場合に、前記被検ウシ個体の品種がホルスタイン種、または、黒毛和種とホルスタイン種のF1であると判別することを特徴とする。
【0015】
本発明に係るウシ(Bos taurus)個体の品種判別用キットは、4個以上のSNPを有する塩基を含むポリヌクレオチドを増幅するためのプライマーペアを含み、前記塩基は、互いに異なる位置にあり、ウシゲノムアッセンブリ(Btau4.0)における1番染色体の62,347,547番目の塩基に対応する塩基1、Btau4.0における2番染色体の21,197,107番目の塩基に対応する塩基2、Btau4.0における2番染色体の72,527,748番目の塩基に対応する塩基3、Btau4.0における3番染色体の9,887,418番目の塩基に対応する塩基4、Btau4.0における3番染色体の44,462,889番目の塩基に対応する塩基5、Btau4.0における4番染色体の79,623,054番目の塩基に対応する塩基6、Btau4.0における8番染色体の111,309,164番目の塩基に対応する塩基7、Btau4.0における9番染色体の97,919,713番目の塩基に対応する塩基8、Btau4.0における11番染色体の13,472,745番目の塩基に対応する塩基9、Btau4.0における12番染色体の34,476,412番目の塩基に対応する塩基10、Btau4.0における13番染色体の6,365,748番目の塩基に対応する塩基11、Btau4.0における14番染色体の7,620,648番目の塩基に対応する塩基12、Btau4.0における14番染色体の75,476,607番目の塩基に対応する塩基13、Btau4.0における15番染色体の6,452,017番目の塩基に対応する塩基14、Btau4.0における20番染色体の54,183,343番目の塩基に対応する塩基15、Btau4.0における22番染色体の53,561,274番目の塩基に対応する塩基16、Btau4.0における26番染色体の22,269,111番目の塩基に対応する塩基17、および、Btau4.0における28番染色体の103,000番目の塩基に対応する塩基18、のいずれかであることを特徴とする。
【0016】
ここで、本発明に係るウシ(Bos taurus)個体の品種判別用キットに関し、塩基1から塩基18の18個の塩基を含むポリヌクレオチドを増幅するためのプライマーペアを含むことが好ましく、塩基1を含むポリヌクレオチドを増幅させるためのプライマーペアがgccaggtatttgccacactt(配列番号1)とtctgcctcaaggagcaatct(配列番号19)であって、塩基2を含むポリヌクレオチドを増幅させるためのプライマーペアがtcactttggcaaggagagaga(配列番号2)とcccaaatcctgcagtttcat(配列番号20)であって、塩基3を含むポリヌクレオチドを増幅させるためのプライマーペアがgctcctctttccagtgacca(配列番号3)とgcatccaatctcaatgcctta(配列番号21)であって、塩基4を含むポリヌクレオチドを増幅させるためのプライマーペアがtgctttatataccctatgttgtctca(配列番号4)とaaataatgcaccacaagttaccc(配列番号22)であって、塩基5を含むポリヌクレオチドを増幅させるためのプライマーペアがgcagtgatttcccttggcta(配列番号5)とggtcagagcacttctgacatct(配列番号23)であって、塩基6を含むポリヌクレオチドを増幅させるためのプライマーペアがagaagaggtcagccttgcag(配列番号6)とagtgtgccaaacagagcaga(配列番号24)であって、塩基7を含むポリヌクレオチドを増幅させるためのプライマーペアがaggagaagccctgatcctgt(配列番号7)とcctggagcaaacttggatgt(配列番号25)であって、塩基8を含むポリヌクレオチドを増幅させるためのプライマーペアがaccagcaacaggaatggtgt(配列番号8)とctgcagggcttgagacattt(配列番号26)であって、塩基9を含むポリヌクレオチドを増幅させるためのプライマーペアがtggctagaactgaacccagaa(配列番号9)とctgtcctgactgccacagg(配列番号27)であって、塩基10を含むポリヌクレオチドを増幅させるためのプライマーペアがgcctcctctctgttctgtgc(配列番号10)とgaggcaggctgagtctctgt(配列番号28)であって、塩基11を含むポリヌクレオチドを増幅させるためのプライマーペアがtctgggtgagaagcctcagt(配列番号11)とgaataaggaccccaggaagg(配列番号29)であって、塩基12を含むポリヌクレオチドを増幅させるためのプライマーペアがtgggattcactgggatcttc(配列番号12)とgagttgcatgtcaggggtct(配列番号30)であって、塩基13を含むポリヌクレオチドを増幅させるためのプライマーペアがgaagaactgtgtggggagga(配列番号13)とaactttgggccccttcagt(配列番号31)であって、塩基14を含むポリヌクレオチドを増幅させるためのプライマーペアがtcagactcacgtccatcgag(配列番号14)とgttctcccgagagtgagcag(配列番号32)であって、塩基15を含むポリヌクレオチドを増幅させるためのプライマーペアがcttgtgtgatcctggggact(配列番号15)とtgtgtattccatcatacacgtctt(配列番号33)であって、塩基16を含むポリヌクレオチドを増幅させるためのプライマーペアがcactctgaatctccccacct(配列番号16)とagtttgccgacccctaatct(配列番号34)であって、塩基17を含むポリヌクレオチドを増幅させるためのプライマーペアがctcccgctcgactgtttc(配列番号17)とgagactaccgggtgtgcag(配列番号35)であって、塩基18を含むポリヌクレオチドを増幅させるためのプライマーペアがgcttccggatcacagcac(配列番号18)とccgagagtgcttcaccttct(配列番号36)であることがより好ましい。
【0017】
本発明に係る、ウシ(Bos taurus)個体の品種判別のためのSNPの組み合わせの選択方法は、候補となるSNPの組み合わせを用いて、品種が明らかになっている2頭以上のウシ個体において、本発明に係るいずれかの品種判別方法によって前記ウシ個体の品種を判別し、誤判別率が、所定の割合以下になるSNPの組み合わせを選択することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によると、ウシの品種判別方法を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態において、4〜18個のSNPにおける塩基を決定し、その結果を実施例で構築した線形判別関数に導入して判別得点を算出してウシの品種を判別した場合の、品種誤判別率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、上記知見に基づき完成した本発明の実施の形態を、実施例を挙げながら詳細に説明する。実施の形態及び実施例に特に説明がない場合には、J. Sambrook, E. F. Fritsch & T. Maniatis (Ed.), Molecular cloning, a laboratory manual (3rd edition), Cold Spring Harbor Press, Cold Spring Harbor, New York (2001); F. M. Ausubel, R. Brent, R. E. Kingston, D. D. Moore, J.G. Seidman, J. A. Smith, K. Struhl (Ed.), Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons Ltd.などの標準的なプロトコール集に記載の方法、あるいはそれを修飾したり、改変した方法を用いる。また、市販の試薬キットや測定装置を用いている場合には、特に説明が無い場合、それらに添付のプロトコルを用いる。
【0021】
なお、本発明の目的、特徴、利点、及びそのアイデアは、本明細書の記載により、当業者には明らかであり、本明細書の記載から、当業者であれば、容易に本発明を再現できる。以下に記載された発明の実施の形態及び具体的に実施例などは、本発明の好ましい実施態様を示すものであり、例示又は説明のために示されているのであって、本発明をそれらに限定するものではない。本明細書で開示されている本発明の意図並びに範囲内で、本明細書の記載に基づき、様々な改変並びに修飾ができることは、当業者にとって明らかである。
【0022】
==品種判別のためのマーカー==
本発明において、ウシの品種判別のためのマーカーは、ウシゲノムアッセンブリ(Btau4.0)における18個のSNP(表1)を有する塩基に対応する塩基のいずれか4個以上を含む、1以上の単離されたウシゲノムDNAである。なお、DNAを構成する塩基数は特に限定されない。また、マーカーが有するSNPは、この18個のSNPの中の4個以上18個以下であれば、どの組み合わせであってもかまわない。
【表1】

【0023】
これらのSNPにおける塩基は、例えば、塩基配列を直接決定することによって、あるいはPCRやRFLPを利用することによって決定してもよく、特に決定方法は限定されない。塩基配列を直接決定する場合には、DNAを構成する全ての塩基を決定してもよいが、マーカーを構成するDNAに含まれる、表1の18個のSNPのいずれか4個以上における塩基を決定することができれば十分である。
【0024】
==品種判別方法==
【0025】
ウシの品種の判別のためには、その個体から単離されたウシゲノムDNAにおいて、表1に記載の18個のSNPのいずれか少なくとも4個のSNPにおける塩基を決定する。
【0026】
18個のSNPにおけるそれぞれの塩基の決定は、表1に記載の塩基番号1〜18に対応する18個のSNPにおける塩基のうち、いずれか4個以上のSNPにおける塩基を含む1つ以上の単離されたウシゲノムDNAについて、このDNAに含まれるSNPにおける塩基を常法により決定することで行えばよい。なお、例えば、同じ染色体上に位置する複数のSNPの塩基の決定については、それらの複数のSNPを含むDNAの領域をPCRによって増幅し、複数のSNPにおける塩基を一度に決定することもできる。なお、18個のSNPにおけるそれぞれの塩基の決定は、その塩基自体を調べて決定するのが最も正確であるが、18個のSNPのそれぞれと連鎖不平衡にあるSNPを調べ、その結果によって、18個のSNPのそれぞれにおける塩基を推定してもよい。
【0027】
また、ウシゲノムDNAを単離する組織は、SNPの塩基を決定するために必要な量が得られる範囲で特に制限されない。
【0028】
ここで、4個以上のSNPにおける塩基を決定すれば、その個体の品種を判別することができるが、8個以上のSNPにおける塩基を決定すれば、より正確にその個体の品種を判別することができ、12個以上のSNPにおける塩基を決定すれば、さらに正確にその個体の品種を判別することができ、16個以上のSNPにおける塩基を決定すれば、さらに正確にその個体の品種を判別することができ、18個全てのSNPにおける塩基を決定すれば、最も正確にその個体の品種を判別することができる。
【0029】
なお、4個〜17個のSNPにおける塩基を決定してウシの品種判別を行う場合、そのSNPの組み合わせは特に限定されず、タイピングのし易さなどを考慮していずれの4個〜17個のSNPを組み合わせてもよい。
【0030】
4個以上のSNPにおいて決定された塩基の情報に基づいたウシの品種判別は、例えば、線形判別関数を用いた線形判別分析、あるいは、主成分分析により行うことができる。以下に、一例として線形判別関数を用いた場合のウシの品種判別方法を説明する。
【0031】
まず、表1の塩基番号1〜18から選択される4個〜18個のSNPを使用し、黒毛和種個体と、ホルスタイン種、または、黒毛和種とホルスタイン種のF1とを判別する場合、予め黒毛和種の複数個体からなる学習集団およびホルスタイン種(または黒毛和種とホルスタイン種のF1)の複数個体からなる学習集団において前述の4個〜18個のSNPにおける塩基を決定する。得られた遺伝子型情報を用いて線形判別関数における各判別係数を決定する。
【0032】
各判別係数の決定は、当業者に周知の方法によって行えばよいが、例えば、The R project for statistical computing(http://www.r-project.org/)による統計学用インタープリタ言語Rを利用し、lda関数にn×m(nはサンプル数、mはSNP数)の遺伝子型情報とn×1の集団情報を代入し、線形判別分析によって行うことができる。ここで、黒毛和種の学習集団、あるいは、ホルスタイン種(または黒毛和種とホルスタイン種のF1)の学習集団に含まれる個体数は、最低2個体であるが、決定された判別係数を用いて構築された線形判別関数を用いた被検個体における判別確率を考慮すると多いほど好ましく、例えば、10個体以上であることが好ましく、50個体以上であることがより好ましく、100個体以上であることがさらに好ましい。なお、黒毛和種、あるいは、ホルスタイン種(または黒毛和種とホルスタイン種のF1)の学習集団のいずれかの品種でパラメータがばらついていることが好ましい。
【0033】
ここで、線形判別関数は、

で表わされる。
【0034】
ここで、式中zは判別得点を示す。また、ak(kは1〜nのいずれかの整数)は、決定されたSNPに対応する判別係数aを示し、xk(kは1〜nのいずれかの整数)は、決定されたSNPを数値化した変数xを示す。
【0035】
例えば、塩基番号1、3、4、10、17の5個のSNPが決定された場合、n=5、すなわち、kは1〜5であり、前記線形判別関数は、
z=a+a+a+a+aとなり、
式中、aは、塩基番号1に対応する判別係数であり、aは、塩基番号3に対応する判別係数であり、aは、塩基番号4に対応する判別係数であり、aは、塩基番号10に対応する判別係数であり、aは、塩基番号17に対応する判別係数である。すなわち、判別得点(z)は、塩基番号1(k=1)に対応する判別係数aと塩基番号1のSNPを数値化したxの積、塩基番号3(k=2)に対応する判別係数aと塩基3のSNPを数値化したxの積、塩基番号4(k=3)に対応する判別係数aと塩基4のSNPを数値化したxの積、塩基番号10(k=4)に対応する判別係数aと塩基10のSNPを数値化したxの積、および、塩基番号17(k=5)に対応する判別係数aと塩基17のSNPを数値化したxの積の総和である。
【0036】
ここで、各xには、被検個体における品種判別のための判別得点の計算のために、その個体で調べられた各SNPの種類を数値化した変数が代入される。例えば、黒毛和種個体と、ホルスタイン種、または、黒毛和種とホルスタイン種のF1とを判別する場合、SNPにおける塩基が黒毛和種型ホモ接合の場合には0、黒毛和種型ヘテロ接合の場合には1、ホルスタイン種型ホモ接合の場合には2を代入してもよい。または、例えば、黒毛和種型アリルが存在する場合、すなわち、黒毛和種型ホモ接合の場合と、黒毛和種型ヘテロ接合の場合に1、それ以外の場合に0を代入してもよい。ここで、黒毛和種型ホモ接合とは、表1に示す黒毛和種型塩基のホモ接合であって、ホルスタイン種型ホモ接合とは、表1に示すホルスタイン種型塩基のホモ接合であって、黒毛和種型ヘテロ接合とは、黒毛和種型塩基とホルスタイン種型塩基のヘテロ接合であることを意味する。
【0037】
以上のようにして、学習集団に含まれる各個体の判別得点を計算した後、黒毛和種とホルスタイン種、あるいは、黒毛和種と、黒毛和種とホルスタイン種のF1を判別するための閾値を決定する。
【0038】
例えば、学習集団に含まれる各個体の判別得点の分布を、各個体の品種と対応させてプロットしたグラフを作成する。このグラフから、黒毛和種とホルスタイン種、あるいは、黒毛和種と、黒毛和種とホルスタイン種のF1を判別できる判別得点値を定め、これを、品種判別のための閾値としてもよい。または、例えば、判別する2品種における判別得点の中間値、判別する2品種における判別得点の各平均値の中間値、判別する2品種における判別得点の最大値および最小値の中間値、判別する2品種のいずれかにおける判別得点の最大値あるいは最小値を閾値としてもよい。
【0039】
閾値は、黒毛和種の誤判別率、および、ホルスタイン種または黒毛和種とホルスタイン種のF1の誤判別率が、それぞれ10%以下になるように定めることが好ましく、5%以下になるように定めることがより好ましく、2%以下になるように定めることがさらに好ましく、0.5%以下になるように定めることがさらに好ましく、0%になるように定めることが最も好ましい。ただし、黒毛和種の誤判別率と、ホルスタイン種または黒毛和種とホルスタイン種のF1の誤判別率が両方とも0%になるように閾値を定められない場合には、その品種判別の目的に従って閾値を定めてもよく、例えば、黒毛和種だと判別される個体が100%黒毛和種であることが必要で、ホルスタイン種または黒毛和種とホルスタイン種のF1と判別される個体集団に黒毛和種が含まれていても構わない場合には、黒毛和種の誤判別率が高くても、黒毛和種と判別される個体集団から必ずホルスタイン種または黒毛和種とホルスタイン種のF1が排除できる数値を閾値としてもよい。一方、例えば、ホルスタイン種または黒毛和種とホルスタイン種のF1だと判別される個体が100%ホルスタイン種または黒毛和種とホルスタイン種のF1であることが必要で、黒毛和種と判別される個体集団にホルスタイン種または黒毛和種とホルスタイン種のF1が含まれていても構わない場合には、ホルスタイン種または黒毛和種とホルスタイン種のF1の誤判別率が高くても、ホルスタイン種または黒毛和種とホルスタイン種のF1と判別される個体集団から必ず黒毛和種が排除できる数値を閾値としてもよい。
【0040】
あるいは、閾値ではなく、黒毛和種と判別するための判別得点の範囲、および、ホルスタイン種または黒毛和種とホルスタイン種のF1と判別するための判別得点の範囲を定めてもよい。このような判別得点の範囲を定める場合にも、黒毛和種の誤判別率、および、ホルスタイン種または黒毛和種とホルスタイン種のF1の誤判別率が、それぞれ10%以下になるように定めることが好ましく、5%以下になるように定めることがより好ましく、2%以下になるように定めることがさらに好ましく、0.5%以下になるように定めることがさらに好ましく、0%になるように定めることが最も好ましい。ただし、黒毛和種の誤判別率、および、ホルスタイン種または黒毛和種とホルスタイン種のF1の誤判別率の両方を0%になるように判別得点の範囲を定められない場合には、閾値の場合と同様に、その目的に従って適宜定めればよい。
【0041】
次に、品種が不明な被検個体について、学習集団で用いたのと同じ組み合わせの4〜18個のSNPにおける塩基を決定し、各SNPの種類を数値化した変数xを定め、前述の線形判別関数に代入して判別得点(z)を算出する。ここで、各xには、例えば、被検個体における各SNPの塩基が黒毛和種型ホモ接合の場合に0、ホルスタイン種型ホモ接合の場合に2、黒毛和種型ヘテロ接合の場合に1として代入してもよい。この場合、例えば、被検個体において塩基番号1(k=1)、3(k=2)、4(k=3)、10(k=4)、17(k=5)の5個のSNPを調べ、塩基番号1、3、4のSNPが黒毛和種型ホモ接合、塩基番号10のSNPが黒毛和種型ヘテロ接合、塩基番号17のSNPがホルスタイン種型ホモ接合であれば、x、x、xはそれぞれ0、xは1、xは2となり、よって、線形判別関数は、
z=a×0+a2×0+a×0+a×1+a×2となり、
式中、aは、塩基番号1(k=1)に対応する判別係数であり、aは、塩基番号3(k=2)に対応する判別係数であり、aは、塩基番号4(k=3)に対応する判別係数であり、aは、塩基番号10(k=4)に対応する判別係数であり、aは、塩基番号17(k=5)に対応する判別係数である。
【0042】
または、線形判別関数の各xには、例えば、黒毛和種型アリルが存在する場合、すなわち、黒毛和種型ホモ接合の場合と、黒毛和種型ヘテロ接合の場合に1、それ以外の場合に0を代入してもよい。
【0043】
このように算出された被検個体の判別得点(z)を閾値と比較し、その被検個体が黒毛和種個体であるか、あるいは、ホルスタイン種個体または黒毛和種とホルスタイン種のF1個体であるかを判別することができる。
【0044】
ここで、特に、18個全てのSNPを使用し、黒毛和種とホルスタイン種との判別、または、黒毛和種と、黒毛和種とホルスタイン種のF1との判別を行う場合、学習集団によるSNP解析を基にした判別係数の決定を行わず、表2に示す判別係数または小数点以下のいずれかの位(例えば、小数点第1位、小数点第2位、小数点第3位、小数点第4位、小数点第5位、小数点第6位)で四捨五入した値を前述の線形判別関数におけるaに代入して判別得点を算出してもよい。なお、表2に示す各SNPに対応する判別係数は、黒毛和種個体1300頭と、黒毛和種とホルスタイン種とのF1個体94頭を学習集団として得られた判別係数である。
【表2】

【0045】
さらに、特に18個のSNP全てにおける塩基を決定してウシの品種判別をした場合には、閾値を−3.894または小数点以下のいずれかの位(例えば、小数点第1位、小数点第2位)で四捨五入した値とすればよく、判別得点(z)が、その閾値以上の場合には、その被検個体は黒毛和種の可能性が高いと判別し、一方、判別得点(z)がその閾値未満の場合には、被検個体はホルスタイン種個体、あるいは、黒毛和種とホルスタイン種のF1個体である可能性が高いと判別することができる。
【0046】
==SNPの組み合わせの選択方法==
18個のSNPにおける組み合わせの中から、特にウシの品種判別のために優れたSNPの組み合わせを、以下のようにして選択することができる。
【0047】
まず、候補となるSNPの組み合わせを用いて、品種が明らかになっている2頭以上のウシ個体において、上述した品種判別方法によって、品種を判別する。その時の誤判別率が、予め設定された所定の割合以下になるSNPの組み合わせを選択すればよい。誤判別率は低い方が好ましく、例えば、10%以下、好ましくは5%以下、より好ましくは2%以下、さらに好ましくは0.5%以下になるように設定すれば良い。
【実施例】
【0048】
以下、実施例及び図を用いてより詳細に説明する。
[1] DNAの抽出及びSNPのタイピング方法
ゲノムDNAは、精液、腎周囲脂肪もしくは血液より常法により抽出した。目的とするゲノム断片を特異的に増幅できるプライマー(配列番号1〜36、表3)を用いて、PCR法により該当ゲノム領域を増幅した。各SNPにおける塩基は、Big Dye Terminator v.3.1 Cycle Sequencing Kit (アプライドバイオシステムズ社)を用いてPCR増幅産物のダイレクトシークエンシングを行うことによって決定した。
【表3】

【0049】
[2] 学習集団における解析による判別係数の決定
学習集団として、黒毛和種個体1300頭についてBovine SNP50 BeadChip(イルミナ社)を用いたジェノタイピングにより、黒毛和種とホルスタイン種のF1個体94頭について[1]の方法により、表1の塩基番号1〜18に対応する18個のSNPにおける塩基を決定した。ここで得られた塩基のデータを、The R project for statistical computing(http://www.r-project.org/)による統計学用インタープリタ言語Rを利用し、lda関数にn×m(nはサンプル数、mはSNP数)の遺伝子型情報とn×1の集団情報を代入して線形判別分析を行い、各SNPに関する判別係数を決定した(表4)。
【表4】

【0050】
[3] 誤判別率
前記[2]で決定した判別係数を、以下の線形判別関数に代入し、この線形判別関数を用いてウシの品種判別を行った場合の判別確率を算出した。
線形判別関数:

【0051】
具体的には、まず、学習集団の黒毛和種個体1300頭と、黒毛和種とホルスタイン種のF1個体94頭の各個体について、表1の塩基番号1〜18に対応する18個のSNPから4〜18個のSNPを選択し、これらのSNPの種類を数値化した変数を、xに代入することにより判別得点(z)を算出した。xは、被検個体における対応するSNPの塩基が表1に示す黒毛和種型ホモ接合の場合に0、ホルスタイン種型ホモ接合の場合に2、黒毛和種型ヘテロ接合の場合に1を代入した。なお、4〜18個のSNPの選択は、18個のSNPから得られる4個のSNPの全ての組み合わせ、および、表5に示す4〜18個のSNPの組み合わせを行った。
【0052】
その後、18個のSNPから選択される4〜18個のSNPの組み合わせについて、黒毛和種の各個体の判別得点と、黒毛和種とホルスタイン種のF1各個体の判別得点をグラフ上にプロットし、最も正確に品種を判別できる点を閾値として定めた。さらに、黒毛和種個体1300頭と、黒毛和種とホルスタイン種のF1個体94頭、それぞれの判別得点の平均値と標準偏差を算出した。この平均値と標準偏差に対して正規分布の累積分布関数の値を求め、これを判別確率とした。
累積分布関数:

なお、本関数を用いた判別確率の算出は、Microsoft Excelの関数:normdist(x, mean, sd, flag)を用いて行った。xは品種判別のための閾値、meanは各品種の平均値、sdは各品種の標準偏差、flag=TRUEで累積分布関数の値を返した。
【表5】

【0053】
18個のSNPから選択可能な4個のSNPの組み合わせ全てを用いた場合の、SNPの組み合わせと、誤判別率について表6に示す。
【表6】























































【0054】
また、表5で示した4〜18個のSNPの組み合わせを用いて品種判別した場合の誤判別率を図1に示す。黒毛和種の誤判別率、および、黒毛和種とホルスタイン種のF1の誤判別率はより多くのSNPを用いた場合に低下する傾向があった。
【0055】
[4] 評価用個体における品種判別
[3]に記載の線形判別関数:

に、[2]で決定した判別係数を代入した場合のウシの品種判別を評価するため、評価用集団の黒毛和種個体161頭、黒毛和種とホルスタイン種のF1個体55頭について、[1]の方法により、表1の塩基番号1〜18に対応するSNPの塩基を決定した。各SNPの種類を数値化した変数(x)を、線形判別関数に代入し、評価用集団の各個体について、前記判別得点(z)を算出した。この際、変数xには、そのSNPの塩基が黒毛和種型のホモの場合に0、黒毛和種型ヘテロの場合に1、ホルスタイン種型のホモの場合に2を代入した。このようにして算出した各個体の判別得点に関し、[3]において18個のSNPを使用した場合の品種判別のための閾値として定められた−3.894を基準に、−3.894以上の場合を黒毛和種、−3.894未満の場合を黒毛和種とホルスタイン種のF1個体とした。
【0056】
評価用集団における品種判別の結果を表7に示す。
【表7】

以上の結果は、黒毛和種161個体全頭、黒毛和種とホルスタイン種のF155個体全頭を正確に判別できたことを示している。このように、[2]で決定した判別係数を代入した線形判別関数を用いて高い確率でウシの品種を判別できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウシ(Bos taurus)個体の品種判別のためのマーカーであって、
4個以上のSNPを有する塩基を含む、単離されたポリヌクレオチドであって、
前記塩基は、互いに異なる位置にあり、
ウシゲノムアッセンブリ(Btau4.0)における1番染色体の62,347,547番目の塩基に対応する塩基1、
Btau4.0における2番染色体の21,197,107番目の塩基に対応する塩基2、
Btau4.0における2番染色体の72,527,748番目の塩基に対応する塩基3、
Btau4.0における3番染色体の9,887,418番目の塩基に対応する塩基4、
Btau4.0における3番染色体の44,462,889番目の塩基に対応する塩基5、
Btau4.0における4番染色体の79,623,054番目の塩基に対応する塩基6、
Btau4.0における8番染色体の111,309,164番目の塩基に対応する塩基7、
Btau4.0における9番染色体の97,919,713番目の塩基に対応する塩基8、
Btau4.0における11番染色体の13,472,745番目の塩基に対応する塩基9、
Btau4.0における12番染色体の34,476,412番目の塩基に対応する塩基10、
Btau4.0における13番染色体の6,365,748番目の塩基に対応する塩基11、
Btau4.0における14番染色体の7,620,648番目の塩基に対応する塩基12、
Btau4.0における14番染色体の75,476,607番目の塩基に対応する塩基13、
Btau4.0における15番染色体の6,452,017番目の塩基に対応する塩基14、
Btau4.0における20番染色体の54,183,343番目の塩基に対応する塩基15、
Btau4.0における22番染色体の53,561,274番目の塩基に対応する塩基16、
Btau4.0における26番染色体の22,269,111番目の塩基に対応する塩基17、および、
Btau4.0における28番染色体の103,000番目の塩基に対応する塩基18、
のいずれかであることを特徴とするマーカー。
【請求項2】
被検ウシ(Bos taurus)個体のSNP決定方法であって、
前記ウシから単離されたポリヌクレオチドにおいて、4個以上のSNPを有する塩基を決定する工程を含み、前記塩基は、互いに異なる位置にあり、
ウシゲノムアッセンブリ(Btau4.0)における1番染色体の62,347,547番目の塩基に対応する塩基1、
Btau4.0における2番染色体の21,197,107番目の塩基に対応する塩基2、
Btau4.0における2番染色体の72,527,748番目の塩基に対応する塩基3、
Btau4.0における3番染色体の9,887,418番目の塩基に対応する塩基4、
Btau4.0における3番染色体の44,462,889番目の塩基に対応する塩基5、
Btau4.0における4番染色体の79,623,054番目の塩基に対応する塩基6、
Btau4.0における8番染色体の111,309,164番目の塩基に対応する塩基7、
Btau4.0における9番染色体の97,919,713番目の塩基に対応する塩基8、
Btau4.0における11番染色体の13,472,745番目の塩基に対応する塩基9、
Btau4.0における12番染色体の34,476,412番目の塩基に対応する塩基10、
Btau4.0における13番染色体の6,365,748番目の塩基に対応する塩基11、
Btau4.0における14番染色体の7,620,648番目の塩基に対応する塩基12、
Btau4.0における14番染色体の75,476,607番目の塩基に対応する塩基13、
Btau4.0における15番染色体の6,452,017番目の塩基に対応する塩基14、
Btau4.0における20番染色体の54,183,343番目の塩基に対応する塩基15、
Btau4.0における22番染色体の53,561,274番目の塩基に対応する塩基16、
Btau4.0における26番染色体の22,269,111番目の塩基に対応する塩基17、および、
Btau4.0における28番染色体の103,000番目の塩基に対応する塩基18、
のいずれかの塩基であることを特徴とするSNP決定方法。
【請求項3】
請求項2に記載のSNP決定方法であって、
前記工程において、塩基1から塩基18の18個の塩基を決定することを特徴とするSNP決定方法。
【請求項4】
黒毛和種のウシ個体とホルスタイン種のウシ個体、あるいは、黒毛和種のウシ個体と、黒毛和種とホルスタイン種のF1のウシ個体とを判別するための線形判別関数における判別係数を決定する方法であって、
黒毛和種のウシ個体とホルスタイン種のウシ個体、あるいは、黒毛和種のウシ個体と、黒毛和種とホルスタイン種のF1のウシ個体とから単離されたポリヌクレオチドにおいて、請求項2または3に記載のSNP決定方法によって決定された4個以上のSNPから前記判別係数を決定する工程を含むことを特徴とする、方法。
【請求項5】
被検ウシ(Bos taurus)個体の品種判別方法であって、
請求項4に記載の方法に従って、黒毛和種のウシ個体とホルスタイン種のウシ個体、あるいは、黒毛和種のウシ個体と、黒毛和種とホルスタイン種のF1のウシ個体とを判別するための前記線形判別関数における前記判別係数を決定する工程と、
前記決定された判別係数と、前記決定されたSNPを数値化した変数とを、前記線形判別関数に代入して判別得点を算出する工程と、
前記算出された黒毛和種のウシ個体の判別得点と、前記算出されたホルスタイン種のウシ個体、または、黒毛和種とホルスタイン種のF1の判別得点とを比較し、前記黒毛和種とホルスタイン種、あるいは、黒毛和種と、黒毛和種とホルスタイン種のF1を判別するための閾値を決定する工程と、
前記被検ウシ個体において決定された前記SNPを数値化した変数を前記線形判別関数に導入し、前記被検ウシ個体の判別得点を算出する工程と、
前記算出された判別得点を前記閾値と比較する工程を含むことを特徴とする判別方法。
【請求項6】
被検ウシ(Bos taurus)個体の品種判別方法であって、
黒毛和種のウシ個体とホルスタイン種のウシ個体、あるいは、黒毛和種のウシ個体と、黒毛和種とホルスタイン種のF1のウシ個体から単離されたポリヌクレオチドにおいて、請求項3に記載のSNP決定方法によってSNPを決定する工程と、
判別係数と、前記決定されたSNPを数値化した変数とを線形判別関数に代入して判別得点を算出する工程と、
前記算出された黒毛和種のウシ個体の判別得点と、前記算出されたホルスタイン種のウシ個体、または、黒毛和種とホルスタイン種のF1の判別得点とを比較し、前記黒毛和種とホルスタイン種、あるいは、黒毛和種と、黒毛和種とホルスタイン種のF1を判別するための閾値を決定する工程と、
前記被検ウシ個体から単離されたポリヌクレオチドにおいて、請求項3に記載のSNP決定方法によってSNPを決定する工程と、
判別係数と、前記被検ウシ個体において決定されたSNPを数値化した変数を、前記線形判別関数に導入し、前記被検ウシ個体の判別得点を算出する工程と、
前記被検ウシ個体の判別得点を前記閾値と比較する工程を含み、
前記線形判別関数は、

で表わされ、式中、
zは判別得点を示し、
k(kは1〜18のいずれかの整数)は、前記決定されたSNPに対応する判別係数aを示し、
k(kは1〜18のいずれかの整数)は、前記決定されたSNPを数値化した変数xを示し、
前記変数は、前記決定されたSNPが、黒毛和種型ホモ接合の場合には0、黒毛和種型塩基とホルスタイン種型塩基のヘテロ接合の場合には1、ホルスタイン種型ホモ接合の場合には2であり、
塩基1のSNPに対するaは−0.5360198であり、
塩基2のSNPに対するaは−1.0615716であり、
塩基3のSNPに対するaは−0.3656738であり、
塩基4のSNPに対するaは−0.1578568であり、
塩基5のSNPに対するaは−0.1572311であり、
塩基6のSNPに対するaは1.2450498であり、
塩基7のSNPに対するaは0.3579827であり、
塩基8のSNPに対するaは−0.9941617であり、
塩基9のSNPに対するaは0.2065673であり、
塩基10のSNPに対するaは0.1704136であり、
塩基11のSNPに対するaは0.4234334であり、
塩基12のSNPに対するaは0.2154864であり、
塩基13のSNPに対するaは−0.485136であり、
塩基14のSNPに対するaは−0.4892181であり、
塩基15のSNPに対するaは0.2372545であり、
塩基16のSNPに対するaは−0.7450774であり、
塩基17のSNPに対するaは0.5832087であり、
塩基18のSNPに対するaは0.4407437であることを特徴とする、品種判別方法。
【請求項7】
被検ウシ(Bos taurus)個体の品種判別方法であって、
前記被検ウシ個体から単離されたポリヌクレオチドにおいて、請求項3に記載のSNP決定方法によってSNPを決定する工程と、
判別係数と、前記被検ウシ個体において決定されたSNPを数値化した変数を、前記線形判別関数に導入し、前記被検ウシ個体の判別得点を算出する工程と、
前記被検ウシ個体の判別得点を閾値と比較する工程を含み、
前記線形判別関数は、

で表わされ、式中、
zは判別得点を示し、
k(kは1〜18のいずれかの整数)は、前記決定されたSNPに対応する判別係数aを示し、
k(kは1〜18のいずれかの整数)は、前記決定されたSNPを数値化した変数xを示し、
前記変数は、前記決定されたSNPが、黒毛和種型ホモ接合の場合には0、黒毛和種型塩基とホルスタイン種型塩基のヘテロ接合の場合には1、ホルスタイン種型ホモ接合の場合には2であり、
塩基1のSNPに対するaは−0.5360198であり、
塩基2のSNPに対するaは−1.0615716であり、
塩基3のSNPに対するaは−0.3656738であり、
塩基4のSNPに対するaは−0.1578568であり、
塩基5のSNPに対するaは−0.1572311であり、
塩基6のSNPに対するaは1.2450498であり、
塩基7のSNPに対するaは0.3579827であり、
塩基8のSNPに対するaは−0.9941617であり、
塩基9のSNPに対するaは0.2065673であり、
塩基10のSNPに対するaは0.1704136であり、
塩基11のSNPに対するaは0.4234334であり、
塩基12のSNPに対するaは0.2154864であり、
塩基13のSNPに対するaは−0.485136であり、
塩基14のSNPに対するaは−0.4892181であり、
塩基15のSNPに対するaは0.2372545であり、
塩基16のSNPに対するaは−0.7450774であり、
塩基17のSNPに対するaは0.5832087であり、
塩基18のSNPに対するaは0.4407437であり、
前記閾値が−3.894であって、
前記判別得点が−3.894以上であった場合に、前記被検ウシ個体の品種が黒毛和種であると判別し、前記判別得点が−3.984未満であった場合に、前記被検ウシ個体の品種がホルスタイン種、または、黒毛和種とホルスタイン種のF1であると判別することを特徴とする品種判別方法。
【請求項8】
ウシ(Bos taurus)個体の品種判別用キットであって、4個以上のSNPを有する塩基を含むポリヌクレオチドを増幅するためのプライマーペアを含み、前記塩基は、互いに異なる位置にあり、
ウシゲノムアッセンブリ(Btau4.0)における1番染色体の62,347,547番目の塩基に対応する塩基1、
Btau4.0における2番染色体の21,197,107番目の塩基に対応する塩基2、
Btau4.0における2番染色体の72,527,748番目の塩基に対応する塩基3、
Btau4.0における3番染色体の9,887,418番目の塩基に対応する塩基4、
Btau4.0における3番染色体の44,462,889番目の塩基に対応する塩基5、
Btau4.0における4番染色体の79,623,054番目の塩基に対応する塩基6、
Btau4.0における8番染色体の111,309,164番目の塩基に対応する塩基7、
Btau4.0における9番染色体の97,919,713番目の塩基に対応する塩基8、
Btau4.0における11番染色体の13,472,745番目の塩基に対応する塩基9、
Btau4.0における12番染色体の34,476,412番目の塩基に対応する塩基10、
Btau4.0における13番染色体の6,365,748番目の塩基に対応する塩基11、
Btau4.0における14番染色体の7,620,648番目の塩基に対応する塩基12、
Btau4.0における14番染色体の75,476,607番目の塩基に対応する塩基13、
Btau4.0における15番染色体の6,452,017番目の塩基に対応する塩基14、
Btau4.0における20番染色体の54,183,343番目の塩基に対応する塩基15、
Btau4.0における22番染色体の53,561,274番目の塩基に対応する塩基16、
Btau4.0における26番染色体の22,269,111番目の塩基に対応する塩基17、および、
Btau4.0における28番染色体の103,000番目の塩基に対応する塩基18、
のいずれかであるキット。
【請求項9】
請求項8に記載のキットであって、
塩基1から塩基18の18個の塩基を含むポリヌクレオチドを増幅するためのプライマーペアを含むことを特徴とするキット。
【請求項10】
ウシ(Bos taurus)個体の品種判別のための、SNPの組み合わせの選択方法であって、
候補となるSNPの組み合わせを用いて、品種が明らかになっている2頭以上のウシ個体において、請求項5〜7のいずれか1項に記載の品種判別方法によって前記ウシ個体の品種を判別し、
誤判別率が、所定の割合以下になるSNPの組み合わせを選択する、選択方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−239429(P2012−239429A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−112882(P2011−112882)
【出願日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【出願人】(595038556)社団法人畜産技術協会 (10)
【Fターム(参考)】