説明

ウシ血液凝固第XI因子欠乏症の診断方法

ウシ血液凝固第XI因子をコードする遺伝子を同定し、ウシ血液凝固第XI因子をコードする遺伝子の遺伝的多型性を指標としたウシ血液凝固第XI因子欠乏症の診断方法及び診断用キットを提供することを目的とし、この目的を達成するために、血液凝固第XI因子をコードする遺伝子のエクソン9において、5番目の塩基cがatatgtgcagaatataで示される塩基配列に置換されているか否かを指標として、被験ウシが血液凝固第XI因子欠乏症に罹患しているか否かを診断し、エクソン9における置換の有無は、例えば、エクソン9のうち、5番目の塩基cを含む領域又はatatgtgcagaatataで示される塩基配列を含む領域を増幅し得るプライマーを用いて核酸増幅反応を行い、増幅断片の有無、塩基長又は塩基配列に基づいて検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、ウシ血液凝固第XI因子及び該ウシ血液凝固第XI因子をコードする遺伝子に関する。また、本発明は、ウシ血液凝固第XI因子をコードする遺伝子の遺伝的多型性を指標としたウシ血液凝固第XI因子欠乏症の診断方法及び診断用キットに関する。
【背景技術】
血液凝固は、損傷、化学物質、サイトカイン、炎症等により血管内皮細胞が活性化し、血管細胞由来の組織因子(TF)に血液が暴露することにより開始される(Weiss HJら,Blood.1989 Mar;73(4):968−75)。TFは、セリンプロテアーゼである活性型第VII因子(FVIIa)と複合体(extrinsic factor Xase)を形成し、この複合体が第IX因子(FIX)、第X因子(FX)を活性化する(Lawson JHら,J Biol Chem.1991 Jun 15;266(17):11317−27)。そして、活性型第X因子(FXa)がトロンビンを産生する。トロンビンはフィブリノーゲンからフィブリンを生成し、血液凝固が誘導される(Butenas Sら,J Biol Chem.1997 Aug 22;272(34):21527−33)。また、トロンビンの一部は、血小板や、第IX因子(FIX)及び第X因子(FX)のそれぞれの補因子である第VIII因子(FVIII)及び第V因子(FV)を活性化する。その一方、トロンビンの一部は、凝固抑制補因子の一つであるトロンボモジュリンと結合する。この作用により、動的な抑制システムが働き、extrinsic factor Xaseを不活化するTissue Factor Pasway Inhibitor(TFPI)(Girard TJら,Nature.1989 Apr 6;338(6215):518−20)、第V因子(FV)、第VIII因子(FVIII)を不活化するプロテインC(Esmon CTら,Methods Enzymol.1993;222:359−85)、そして、抑制因子を促進するプロテインSが活動し始める(Esmon CT.,Science.1987 Mar 13;235(4794):1348−52)。
したがって、extrinsic factor Xaseが少量の活性型第X因子(FXa)やトロンビンを一旦産生すると、この抑制機構が働き、TFPIやプロテインCによりTF経路は速やかに抑制され、さらなる活性型第IX因子(FIXa)、活性型第X因子(FXa)及びトロンビンの産生は妨げられる。その時点で、トロンビンはフィブリン形成を引き起こすのに必要量産生されているが十分ではない。そこで、TF経路で生成されたトロンビンの一部は正のフィードバック作用により血漿中のFXIを活性化し、活性型第XI因子(FXIa)は第IX因子(FIX)を活性化し、以下順次凝固活性を起こし大量のトロンビンが形成されていく(Keularts IMら,Thromb Haemost.2001 Jun;85(6):1060−5,Walsh PN,Thromb Haemost 2001 Jul;86(1):75−82)。また、活性型第XI因子(FXIa)は自己活性能を持っており、これがトロンビン−第XI因子(FXI)経路に大きく関与している(Martincic Dら,Blood.1999 Nov 15;94(10):3397−404,Hsu TCら,J Biol Chem.1998 May 29;273(22):13787−93)。この一連の反応により生成されたトロンビンにより、TF経路の止血反応強化が行われる。
トロンビンのほとんどは血餅形成後にFXI活性化によるFXI経路で作られる。つまり、血液凝固はTF経路により開始し、FXI経路により維持、継続される。最近、FXI経路によって多量に生成されたトロンビンはthrombin activatable fibrinolysis inhibitor(TAFI)と呼ばれるものを活性化することが報告された。この活性化TAFIは線溶系因子であるプラスミノーゲンの活性化を抑制し、線溶活性を抑制する。TAFIはFXI依存性因子であり、FXIは凝固因子としてだけでなく、線維溶解系における抑制因子としても働いている(Bouma BNら,Curr Opin Hematol.2000 Sep;7(5):266−72,Bouma BNら,Thromb Haemost.1998 Jul;80(1):24−7)。
血液凝固第XI因子(FXI)は、第XII因子(FXII)、プレカリクレイン(PK)、高分子キニノゲン(HK)とともに内因性凝固系の開始に関与する接触相に関与している。肝実質細胞で合成され、その血中濃度は2〜7μg/mL(平均4μg/mL)で、新生児期はこの半分、血中半減期は40〜80時間である(Saito H.Semin Thromb Hemost.1987 Jan;13(1):36−49)。血中でHKと非共有結合の形で複合体を形成しており、単独では異物面に吸着せず、HKを介して結合する(斎藤英彦,日本臨床53広範囲血液・尿化学検査・免疫学的検査(中巻)84−86,1995)。
ヒト血液凝固第XI因子(ヒトFXI)は、分子量80kDaの2本のポリペプチド鎖がジスルフィド結合した分子量160kDaの2量体の糖タンパク質で(斎藤英彦,「日本臨床」,1999年増刊号,第57巻,p.619−621;藤川和雄ら,「医学のあゆみ」,1992年,第160巻,p.542−545)、各単量体は607アミノ酸からなり、FXIIa、トロンビン、FXIa等の作用により、Arg369−Ile370間が開裂して活性化し、セリンプロテアーゼであるFXIaとなる。ヒトFXIは、2つの重鎖(50kDa)と2つの軽鎖(30kDa)から構成され、N末端に位置する重鎖は、アップルドメインと呼ばれる90又は91アミノ酸からなる4回繰り返し構造を持ち(A1〜A4)、C末端に位置する軽鎖は活性中心のセリン残基をもつ(フジカワ(Fujikawa)Kら,「バイオケミストリー(Biochemistry」,1986年,第25巻,p.2417−24参照)。重鎖にある4つのアップルドメインのうちA1にはHK及びトロンビンとの結合サイトが存在し、A2、A3にはFIXとの結合サイトが存在し、A4にはFXIIaとの結合サイト、2量体形成のサイトが存在する。また、A3には血小板やヘパリンとの結合に関与するサイトも存在する。
ヒトFXI遺伝子は、全長約23kbあり、第4番染色体上の長椀4q35に存在する(カトー(Kato)Aら,「サイトジェネティックス アンド セル ジェネティックス(Cytogenetics and Cell Genetics)」,1989年,第52巻,p.77−8参照)。15個のエクソンと14個のイントロンとからなり、エクソン1は5’非翻訳領域、エクソン2からエクソン15の途中までが転写領域である。FXIは分泌性タンパク質であり、ヒトFXI遺伝子のうち、エクソン2は疎水性アミノ酸を多く含むシグナルペプチドをコードしている。シグナルペプチドはFXIが細胞外に放出される際に切断されるので(ワルシュ(Walsh)PN.ら,「トロンボシス アンド ハエモスタシス(Thrombosis and Haemostasis)」,2001年,第86巻,p.75−82参照)、成熟FXIをコードする領域はエクソン3からエクソン15の途中までである。アップルドメインはイントロンにより分離されており、アップルドメイン内には1つのイントロンがある。このイントロンの位置は4つのアップルドメインに共通であることから、ヒトFXIの重鎖をコードするDNAはアップルドメインの遺伝子重複により生じたと推定される(ガイラニ(Gailani)Dら,「ブラッド(Blood)」,1997年,第90巻,p.1055−64;アサカイ(Asakai)Rら,「バイオケミストリー(Biochemistry)」,1987年,第26巻,p.7221−8参照)。
FXIはヒトの他、ウサギやウシ、ブタ、イヌ、マウス等の哺乳動物の血漿に含まれるが、クジラ、サメ類、カエル、トリ類には含まれず、ウマではその含量は低い。ウシ、ブタ、マウスでもホモ2量体を形成するが、ウサギでは単量体の形で存在する(ガイラニ(Gailani)Dら,「ブラッド(Blood)」,1997年,第90巻,p.1055−64参照)。
先天性血液凝固第XI因子欠乏症(先天性FXI欠乏症)は1953年にRosenthalらによりヒトで最初に報告され、続いて1969年にKocibaらによりウシ(ホルスタイン)で(コチバ(Kociba)GJら,「ジャーナル オブ ラボラトリー アンド クリニカル メディシン(Journal of Laboratory and Clinical Medicine)」,1969年,第74巻,p.37−41参照)、1971年にDoddsらによりイヌで報告されている(ドッズ(Dodds)WJら,「ジャーナル オブ ラボラトリー アンド クリニカル メディシン(Journal of Laboratory and Clinical Medicine)」,1971年,第78巻,p.746−52参照)。
ヒトにおける症状は、基本的に外傷や外科的手術による異常出血であり、血友病A(第VIII因子欠乏症)や血友病B(第IX因子欠乏症)のような紫斑、鼻出血、血尿、消化管出血、関節内血腫等の自然出血はごく稀である(朝海怜,「医学のあゆみ」,1992年,第160巻,p.542−545参照)。出血の程度は無症状の者から輸血や、凝固因子製剤の補充療法を必要とするような重度のものまで幅が広い(ボルトン−マッグス(Bolton−Maggs)PH,「ハエモフィア(Haemophilia)」,2000年,第1巻,p.100−9;ボルトン−マッグス(Bolton−Maggs)PH,「ハエモフィア(Haemophilia)」,1998年,第4巻,p.683−8参照)。その多様性の原因として遺伝子変異の間の差によるものが挙げられる。
FXI欠乏症に関し、現在までに数百例が報告されているが、そのほとんどがアシュケナージ系(ドイツ、ポーランド、ロシア)ユダヤ人であり、少ないが日本人、韓国人、イタリア人、中国人、ドイツ人等の報告もある。また、イギリスでは地域的な多発が報告されている。アシュケナージ系ユダヤ人では1/190人が重度のFXI欠乏症であり、1/8人が保因者(キャリア)である。そして、少なくとも以下の4タイプの変異が確認されている。(朝海怜,「医学のあゆみ」,1992年,第160巻,p.542−545;長尾大,「別冊日本臨床領域別症候群21」,1998年,p.445−448;セリグソン−(Seligsohn)Uら,「トロンボシス アンド ハエモスタシス(Thrombosis and Haemostasis)」,1994年,第24巻,p.81−5;セリグソン(Seligsohn)Uら,「トロンボシス アンド ハエモスタシス(Thrombosis and Haemostasis)」,1993年,第70巻,p.68−71;アサカイ(Asakai)Rら,「プロシーディングズ オブ ザ ナショナル アカデミー オブ サイエンス オブ ザ ユナイテッド ステイツ オブ アメリカ(Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America)」,1989年,第86巻,p.7667−71;アストリド(Astrid)ら,「ブリティッシュ ジャーナル オブ ハエマトロジー(British Journal of Haematology)」,2001年,第114巻,p.875−877;メイジェルス(Meijers)JCら,「ブラッド(Blood)」,1992年,第79巻,p.1435−40参照)。
(i)typeI変異:mRNAのプロセッシングの異常をきたしたものである。スプライシング供与部のイントロン配列は常にGT−AGでイントロン除去機構に必要だが、最終イントロンのGTがATに置換し、そのためイントロンが除去されず異常蛋白が生成される。
(ii)typeII変異:ナンセンス変異である。117番目のグルタミン酸に対応する暗号GAAのGがTに置換したため終止コドンのTAAに変わっている。このmRNAが翻訳されるとアップルドメインがほぼ1個半の短いポリペプチド鎖が合成される。
(iii)typeIII変異:ミスセンス変異である。4番目のアップルドメインに含まれる283番目のフェニルアラニンに対応する暗号TCCの3’末端塩基Cが、Tに置換してロイシンの暗号TCTに変わったものである。この変異によってA4の2量体形成不全が起こりFXIの活性が低下したものと考えられる。
(iv)typeIV変異:最終イントロンのスプライシング供与部領域で14bpの欠失を起こしているものである。
血液凝固第XI因子欠乏症は、外傷、手術後の異常出血や、部分活性トロンボプラスチン時間(APTT)の延長等で発見されることが多い。FXI活性が15%以下の重度欠乏症例では、極端なAPTTの延長が見られるが、ヘテロ接合体のAPTTは正常のことがあり、APTTによるスクリーニングは難しい。また、ヘテロ接合体のFXI活性の平均値は正常平均値より有意に低いが、FXI活性が正常範囲の者も多いので、FXI活性による保因者の診断は難しい。そこで、ヒトにおけるFXI診断はDNAマーカーを用いた遺伝子診断により行われており、これによりホモ接合体とヘテロ接合体とが確実に診断されている。
ウシ(ホルスタイン種)におけるFXI欠乏症は、ヒトと同様に常染色体劣性遺伝であるが、その原因となる変異は同定されていない(ジェントリー(Gentry)PAら,「ジャーナル オブ デイリー サイエンス(Journal of Dairy Science)」,1980年,第63巻,p.616−20参照)。また、無症状から出血傾向を示すものまで様々である(ジェントリー(Gentry)PAら,「カナディアン ベテリナリー ジャーナル(Canadian Veterinary Journal)」,1975年,第16巻,p.160−3参照)。出血症状としては、関節内血腫が疑われている橈骨手根関節の腫大(コチバ(Kociba)GJら,「ジャーナル オブ ラボラトリー アンド クリニカル メディシン(Journal of Laboratory and Clinical Medicine)」,1969年,第74巻,p.37−41参照)、肺、腸、腸間膜、大脳、脊椎の出血、除角後の出血、各臓器における点状出血、産後の子宮内血腫、筋肉出血等が数例報告されている(ジェントリー(Gentry)PAら,「カナディアン ベテリナリー ジャーナル(Canadian Veterinary Journal)」,1994年,第58巻,p.242−7参照)。その上、繁殖に関する症例も報告されている。FXI欠乏症の雌牛では、胎子や仔牛の生存率の低下や、リピートブリーダー、発情周期の遅延等が認められている。流産や死産、生後48時間以内での死亡が発生しているが、その原因は明らかとなっていない。発情周期は正常牛(22.9±3.0日)に比べ、24.7±2.1日と遅延し、これは卵胞発育遅延(正常:4.05±0.63日、発症:5.14±0.69日)に起因していることが明らかとなっている(リプトラプ(Liptrap)RMら,「ベテリナリー リサーチ コミュニケイションズ(Veterinary Research Communications)」,1995年,第19巻,p.463−71参照)。また、FXI欠乏症のウシは、乳房炎、慢性肺炎、慢性皮膚炎等の感染症にかかり易く、これは好中球表面での接触活性系の機能の多様性に関係していると考えられている(コンバー(Coomber)BLら,「ベテリナリー イムノロジー アンド イムノパソロジー(Veterinary Immunology and Immunopathology)」,1997年,第58巻,p.121−31.参照)。
ウシにおけるFXI欠乏症の診断は、ヒトと同様に血液検査を行うことにより、凝固遅延に基づき診断されることが多い。やはり、ウシにおいてもヘテロ個体は、そのAPTT及びFXI活性が正常範囲とオーバーラップしており、それらにより確実に診断することは困難である(ジェントリー(Gentry)PA,「カナディアン ジャーナル オブ コンパラティブ メディシン(Canadian Journal of Comparative Medicine)」,1984年,第48巻,p.58−62参照)。上述したように、ヒトFXI遺伝子の塩基配列は既に同定されており、遺伝子診断も可能となっているが、ウシFXI遺伝子は未だ同定されていない。したがって、ウシFXI欠乏症の候補遺伝子であるFXI遺伝子を同定するとともに、FXI遺伝子おいてウシFXI欠乏症の原因となる変異を同定し、ウシFXI欠乏症の遺伝子診断方法を開発することが求められている。
【発明の開示】
本発明は、第一に、ウシ血液凝固第XI因子、ウシ血液凝固第XI因子をコードする遺伝子、該遺伝子を含む組換えベクター、該組換えベクターを含む形質転換体及びウシ血液凝固第XI因子に対する抗体又はその断片を提供することを目的とする。
また、本発明は、第二に、ウシ血液凝固第XI因子をコードする遺伝子の遺伝的多型性を指標としたウシ血液凝固第XI因子欠乏症の診断方法及び診断用キットを提供することを目的とする。
上記目的を達成するために、本発明は、以下のタンパク質、遺伝子、組換えベクター、形質転換体、抗体又はその断片、並びにウシ血液凝固第XI因子欠乏症の診断方法及び診断用キットを提供する。
(1)下記(a)又は(b)に示すアミノ酸配列からなり、血液凝固第XI因子活性を有するタンパク質。
(a)配列番号2記載のアミノ酸配列
(b)配列番号2記載のアミノ酸配列において、1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列
(2)前記(1)記載のタンパク質をコードする遺伝子。
(3)下記(c)又は(d)に示すDNAを含む前記(2)記載の遺伝子。
(c)配列番号1記載の塩基配列のうち356〜2230番目の塩基配列からなるDNA
(d)前記(c)に示すDNAと相補的なDNAにストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ血液凝固第XI因子活性を有するタンパク質をコードするDNA
(4)下記(e)又は(f)に示すアミノ酸配列において、290番目のアミノ酸PheがLeu−Tyr−Val−Gln−Asn−Ileで示されるアミノ酸配列に置換されたアミノ酸配列からなるタンパク質。
(e)配列番号2記載のアミノ酸配列
(f)配列番号2記載のアミノ酸配列において、62番目のアミノ酸Metのアミノ酸Leuへの置換、114番目のアミノ酸Metのアミノ酸Valへの置換、155番目のアミノ酸Hisのアミノ酸Argへの置換、219番目のアミノ酸Metのアミノ酸Valへの置換、及び615番目のアミノ酸Valのアミノ酸Leuへの置換のいずれか1以上の置換が加えられたアミノ酸配列
(5)前記(4)記載のタンパク質をコードする遺伝子。
(6)下記(g)又は(h)に示す塩基配列において、1225番目の塩基cがatatgtgcagaatataで示される塩基配列に置換された塩基配列からなるDNAを含む前記(5)記載の遺伝子。
(g)配列番号1記載の塩基配列のうち356〜2230番目の塩基配列
(h)前記(g)に示す塩基配列において、514番目の塩基cの塩基tへの置換、539番目の塩基aの塩基cへの置換、695番目の塩基aの塩基gへの置換、790番目の塩基cの塩基tへの置換、819番目の塩基aの塩基gへの置換、871番目の塩基aの塩基gへの置換、979番目の塩基cの塩基gへの置換、1010番目の塩基aの塩基gへの置換、1021番目の塩基tの塩基cへの置換、1978番目の塩基cの塩基aへの置換、2185番目の塩基cの塩基tへの置換、2197番目の塩基tの塩基cへの置換、及び2198番目の塩基gの塩基tへの置換のいずれか1以上の置換が加えられた塩基配列
(7)前記(2)、(3)、(5)又は(6)記載の遺伝子を含む組換えベクター。
(8)前記(7)記載の組換えベクターを含む形質転換体。
(9)前記(1)又は(4)記載のタンパク質に反応し得る抗体又はその断片。
(10)前記(4)記載のタンパク質のうち、Leu−Tyr−Val−Gln−Asn−Ileで示されるアミノ酸配列を含む領域に反応し得る抗体又はその断片。
(11)血液凝固第XI因子をコードする遺伝子のエクソン9において、5番目の塩基cがatatgtgcagaatataで示される塩基配列に置換されているか否かを指標として、被験ウシが血液凝固第XI因子欠乏症に罹患しているか否かを診断する工程を含むウシ血液凝固第XI因子欠乏症の診断方法。
(12)前記エクソン9のうち、5番目の塩基cを含む領域又はatatgtgcagaatataで示される塩基配列を含む領域を増幅し得るプライマーを用いて核酸増幅反応を行い、増幅断片の有無、塩基長又は塩基配列に基づいて、前記置換の有無を検出する前記(11)記載の診断方法。
(13)下記(l)、(m)又は(n)に示すオリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドを含むウシ血液凝固第XI因子欠乏症の診断用キット。
(l)配列番号1記載の塩基配列のうち1225番目の塩基cに隣接する領域にハイブリダイズし得るオリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチド
(m)配列番号1記載の塩基配列のうち1225番目の塩基cを含む領域にハイブリダイズし得るオリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチド
(n)配列番号1記載の塩基配列において1225番目の塩基cがatatgtgcagaatataで示される塩基配列に置換された塩基配列のうち、atatgtgcagaatataで示される塩基配列の一部又は全部を含む領域にハイブリダイズし得るオリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチド
(14)下記(o)、(p)又は(q)に示すオリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドを含むウシ血液凝固第XI因子欠乏症の診断用キット。
(o)配列番号10記載の塩基配列のうち408番目の塩基cに隣接する領域にハイブリダイズし得るオリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチド
(p)配列番号10記載の塩基配列のうち408番目の塩基cを含む領域にハイブリダイズし得るオリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチド
(q)配列番号10記載の塩基配列において408番目の塩基cがatatgtgcagaatataで示される塩基配列に置換された塩基配列のうち、atatgtgcagaatataで示される塩基配列の一部又は全部を含む領域にハイブリダイズし得るオリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチド
【図面の簡単な説明】
図1は、FXI遺伝子の構造と、ウシFXI遺伝子及びヒトFXI遺伝子の各イントロンのサイズを示す図である。
図2は、ウシFXI遺伝子において確認された多型(1塩基置換、1塩基置換+15塩基挿入)を示す図である。
図3は、A県の黒毛和種における止血スクリーニング検査結果とFXI遺伝子診断結果を示す図である。
図4は、B県の黒毛和種における止血スクリーニング検査結果とFXI遺伝子診断結果を示す図である。
図5は、C県の黒毛和種における止血スクリーニング検査結果とFXI遺伝子診断結果を示す図である。
図6は、D県(図6(A))及びE県(図6(B))の黒毛和種における止血スクリーニング検査結果とFXI遺伝子診断結果を示す図である。
図7は、正常個体、キャリア個体及びFXI欠乏症発症個体において、FXI遺伝子のエクソン9の15塩基挿入部位を含む領域を増幅させて得られた増幅断片の電気泳動結果を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の第一のタンパク質は、下記(a)又は(b)に示すアミノ酸配列からなり、血液凝固第XI因子活性を有するタンパク質である。
(a)配列番号2記載のアミノ酸配列
(b)配列番号2記載のアミノ酸配列において、1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列
配列番号2記載のアミノ酸配列からなるタンパク質は、血液凝固第XI因子活性を有するウシ血液凝固第XI因子である。本発明において「血液凝固第XI因子活性」とは、活性化血液凝固第XI因子が血液凝固第IX因子を活性化する作用を意味し、血液凝固第XI因子活性は、例えば、ウシクエン酸血漿がヒト血液凝固第XI因子欠乏血漿の活性化部分トロンボプラスチン時間を補正する効果を、ウシ標準血漿の希釈系列を用いた場合の補正効果と比較して、その比率(%)で表示することができる。
配列番号2記載のアミノ酸配列において欠失、置換又は付加されるアミノ酸の個数は、血液凝固第XI因子活性が保持される限り特に限定されるものではなく、その個数は1又は複数個、好ましくは1又は数個であり、その具体的な範囲は通常1〜50個、好ましくは1〜25個、さらに好ましくは1〜10個である。このとき、変異が加えられたアミノ酸配列は、配列番号2記載のアミノ酸配列と通常90%以上、好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上の相同性を有する。
配列番号2記載のアミノ酸配列において欠失、置換又は付加されるアミノ酸の位置は、血液凝固第XI因子活性が保持される限り特に限定されるものではない。例えば、配列番号2記載のアミノ酸配列において、62番目のアミノ酸Metのアミノ酸Leuへの置換、114番目のアミノ酸Metのアミノ酸Valへの置換、155番目のアミノ酸Hisのアミノ酸Argへの置換、219番目のアミノ酸Metのアミノ酸Valへの置換、及び615番目のアミノ酸Valのアミノ酸Leuへの置換のいずれか1以上の置換を加えることができる。また、配列番号2記載のアミノ酸配列において1〜18番目のアミノ酸配列はシグナルペプチドであるので、1〜18番目のアミノ酸配列が欠失しても血液凝固第XI因子活性は保持される。
配列番号2記載のアミノ酸配列において1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質には、配列番号2記載のアミノ酸配列に対して人為的に欠失、置換、付加等の変異を導入したタンパク質の他、欠失、置換、付加等の変異が導入された状態で天然に存在するタンパク質や、それに対して人為的に欠失、置換、付加等の変異を導入したタンパク質も含まれる。欠失、置換、付加等の変異が導入された状態で天然に存在するタンパク質としては、例えば、ウシにおいて遺伝的多型性によって生じ得るタンパク質が挙げられる。なお、上記に例示した置換は、ウシにおいて遺伝的多型性によって生じ得る置換である。
本発明の第二のタンパク質は、下記(e)又は(f)に示すアミノ酸配列において、290番目のアミノ酸PheがLeu−Tyr−Val−Gln−Asn−Ileで示されるアミノ酸配列に置換されたアミノ酸配列からなるタンパク質である。
(e)配列番号2記載のアミノ酸配列
(f)配列番号2記載のアミノ酸配列において、62番目のアミノ酸Metのアミノ酸Leuへの置換、114番目のアミノ酸Metのアミノ酸Valへの置換、155番目のアミノ酸Hisのアミノ酸Argへの置換、219番目のアミノ酸Metのアミノ酸Valへの置換、及び615番目のアミノ酸Valのアミノ酸Leuへの置換のいずれか1以上の置換が加えられたアミノ酸配列
本発明の第二のタンパク質において、シグナルペプチド(配列番号2記載のアミノ酸配列のうち1〜18番目のアミノ酸配列)が欠失していてもよい。
本発明の第二のタンパク質は、血液凝固第XI因子活性を有しないウシ血液凝固第XI因子である。血液凝固第XI因子活性を有しない血液凝固第XI因子のみを産生し、血液凝固第XI因子活性を有する血液凝固第XI因子を産生し得ないウシは、血液凝固第XI因子欠乏症に罹患する。
本発明の第一及び第二のタンパク質には、糖鎖が付加されたタンパク質及び糖鎖が付加されていないタンパク質のいずれもが含まれる。タンパク質に付加される糖鎖の種類、位置等は、タンパク質の製造の際に使用される宿主細胞の種類によって異なるが、糖鎖が付加されたタンパク質には、いずれの宿主細胞を用いて得られるタンパク質も含まれる。また、本発明の第一及び第二のタンパク質には、その医薬的に許容される塩も含まれる。
本発明の第一又は第二のタンパク質をコードする遺伝子は、例えば、ウシの細胞又は組織から抽出したmRNAを用いてcDNAライブラリーを作製し、配列番号1記載の塩基配列に基づいて合成したプローブを用いて、cDNAライブラリーから目的のDNAを含むクローンをスクリーニングすることにより得られる。以下、cDNAライブラリーの作製、及び目的のDNAを含むクローンのスクリーニングの各工程について説明する。
〔cDNAライブラリーの作製〕
cDNAライブラリーを作製する際には、例えば、ウシの細胞又は組織(例えば、肝臓等)から全RNAを得た後、オリゴdT−セルロースやポリU−セファロース等を用いたアフィニティーカラム法、バッチ法等によりポリ(A+)RNA(mRNA)を得る。この際、ショ糖密度勾配遠心法等によりポリ(A+)RNA(mRNA)を分画してもよい。次いで、得られたmRNAを鋳型として、オリゴdTプライマー及び逆転写酵素を用いて一本鎖cDNAを合成した後、該一本鎖cDNAから二本鎖cDNAを合成する。このようにして得られた二本鎖cDNAを適当なクローニングベクターに組み込んで組換えベクターを作製し、該組換えベクターを用いて大腸菌等の宿主細胞を形質転換し、テトラサイクリン耐性、アンピシリン耐性を指標として形質転換体を選択することにより、cDNAのライブラリーが得られる。cDNAライブラリーを作製するためのクローニングベクターは、宿主細胞中で自立複製できるものであればよく、例えば、ファージベクター、プラスミドベクター等を使用できる。宿主細胞としては、例えば、大腸菌(Escherichia coli)等を使用できる。
大腸菌等の宿主細胞の形質転換は、塩化カルシウム、塩化マグネシウム又は塩化ルビジウムを共存させて調製したコンピテント細胞に、組換えベクターを加える方法等により行うことができる。ベクターとしてプラスミドを用いる場合は、テトラサイクリン、アンピシリン等の薬剤耐性遺伝子を含有させておくことが好ましい。
cDNAライブラリーの作製にあたっては、市販のキット、例えば、SuperScript Plasmid System for cDNA Synthesis and Plasmid Cloning(Gibco BRL社製)、ZAP−cDNA Synthesis Kit(ストラタジーン社製)等を使用できる。
〔目的のDNAを含むクローンのスクリーニング〕
cDNAライブラリーから目的のDNAを含むクローンをスクリーニングする際には、配列番号1記載の塩基配列に基づいてプライマーを合成し、これを用いてポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を行い、PCR増幅断片を得る。PCR増幅断片は、適当なプラスミドベクターを用いてサブクローニングしてもよい。PCRに使用するプライマーセットは特に限定されるものではなく、配列番号1記載の塩基配列に基づいて設計できる。
cDNAライブラリーに対して、PCR増幅断片をプローブとしてコロニーハイブリダイゼーション又はプラークハイブリダイゼーションを行うことにより、目的のDNAが得られる。プローブとしては、PCR増幅断片をアイソトープ(例えば、32P、35S)、ビオチン、ジゴキシゲニン、アルカリホスファターゼ等で標識したものを使用できる。目的のDNAを含むクローンは、抗体を用いたイムノスクリーニング等の発現スクリーニングによっても得ることができる。
取得されたDNAの塩基配列は、該DNA断片をそのまま、又は適当な制限酵素等で切断した後、常法によりベクターに組み込み、通常用いられる塩基配列解析方法、例えば、マキサム−ギルバートの化学修飾法、ジデオキシヌクレオチド鎖終結法を用いて決定できる。塩基配列解析の際には、通常、373A DNAシークエンサー(Perkin Elmer社製)等の塩基配列分析装置が用いられる。
本発明の第一又は第二のタンパク質をコードする遺伝子は、オープンリーディングフレームとその3’末端に位置する終止コドンとを含む。また、本発明の第一又は第二のタンパク質をコードする遺伝子は、オープンリーディングフレームの5’末端側又は終止コドンの3’末端側に非翻訳領域(UTR)を含むことができる。
本発明の第一のタンパク質をコードする遺伝子としては、例えば、下記(c)又は(d)に示すDNAを含む遺伝子が挙げられる。
(c)配列番号1記載の塩基配列のうち356〜2230番目の塩基配列からなるDNA
(d)前記(c)に示すDNAと相補的なDNAにストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ血液凝固第XI因子活性を有するタンパク質をコードするDNA
配列番号1記載の塩基配列のうち356〜2230番目の塩基配列は、配列番号2記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするオープンリーディングフレームであり、配列番号1記載の塩基配列のうち、翻訳開始コドンは356〜358番目の塩基配列に位置し、終止コドンは2231〜2233番目の塩基配列に位置し、シグナルペプチドは356〜409番目の塩基配列にコードされる。本発明の第一のタンパク質をコードする遺伝子の塩基配列は、本発明の第一のタンパク質をコードする限り特に限定されるものではなく、オープンリーディングフレームの塩基配列は、配列番号1記載の塩基配列のうち356〜2230番目の塩基配列に限定されるものではない。
「ストリンジェントな条件」としては、例えば、42℃、2×SSC及び0.1%SDSの条件、好ましくは65℃、0.1×SSC及び0.1%SDSの条件が挙げられる。
配列番号1記載の塩基配列のうち356〜2230番目の塩基配列からなるDNAと相補的なDNAにストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAとしては、配列番号1記載の塩基配列のうち356〜2230番目の塩基配列からなるDNAと少なくとも70%以上、好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上の相同性を有するDNAが挙げられる。具体的には、配列番号1記載の塩基配列のうち356〜2230番目の塩基配列において、514番目の塩基cの塩基tへの置換、539番目の塩基aの塩基cへの置換、695番目の塩基aの塩基gへの置換、790番目の塩基cの塩基tへの置換、819番目の塩基aの塩基gへの置換、871番目の塩基aの塩基gへの置換、979番目の塩基cの塩基gへの置換、1010番目の塩基aの塩基gへの置換、1021番目の塩基tの塩基cへの置換、1978番目の塩基cの塩基aへの置換、2185番目の塩基cの塩基tへの置換、2197番目の塩基tの塩基cへの置換、及び2198番目の塩基gの塩基tへの置換のいずれか1以上の置換が加えられた塩基配列からなるDNAが挙げられる。
本発明の第二のタンパク質をコードする遺伝子としては、例えば、下記(g)又は(h)に示す塩基配列において、1225番目の塩基cがatatgtgcagaatataで示される塩基配列に置換された塩基配列からなるDNAを含む遺伝子が挙げられる。
(g)配列番号1記載の塩基配列のうち356〜2230番目の塩基配列
(h)前記(g)に示す塩基配列において、514番目の塩基cの塩基tへの置換、539番目の塩基aの塩基cへの置換、695番目の塩基aの塩基gへの置換、790番目の塩基cの塩基tへの置換、819番目の塩基aの塩基gへの置換、871番目の塩基aの塩基gへの置換、979番目の塩基cの塩基gへの置換、1010番目の塩基aの塩基gへの置換、1021番目の塩基tの塩基cへの置換、1978番目の塩基cの塩基aへの置換、2185番目の塩基cの塩基tへの置換、2197番目の塩基tの塩基cへの置換、及び2198番目の塩基gの塩基tへの置換のいずれか1以上の置換が加えられた塩基配列
1225番目の塩基cがatatgtgcagaatataで示される塩基配列に置換されることにより、290番目のアミノ酸PheがLeu−Tyr−Val−Gln−Asn−Ileで示されるアミノ酸配列に置換される。
本発明の第一又は第二のタンパク質をコードする遺伝子は、その塩基配列に従って化学合成により得ることもできる。DNAの化学合成は、市販のDNA合成機、例えば、チオホスファイト法を利用したDNA合成機(島津製作所社製)、フォスフォアミダイト法を利用したDNA合成機(パーキン・エルマー社製)を用いて行うことができる。
アミノ酸配列又は塩基配列に対する欠失、置換、付加等の変異の人為的な導入は、例えば、部位特異的変異誘発法等の公知の方法を用いて行うことができる。この際、市販の変異導入用キット、例えば、Mutant−K(TAKARA社製)、Mutant−G(TAKARA社製)、TAKARA社のLA PCR in vitro Mutagenesisシリーズキットを用いることができる。
本発明の第一又は第二のタンパク質は、例えば、以下の工程に従って、それぞれのタンパク質をコードする遺伝子を宿主細胞中で発現させることにより製造できる。
〔組換えベクター及び形質転換体の作製〕
組換えベクターを作製する際には、目的とするタンパク質のコード領域を含む適当な長さのDNA断片を調製する。また、目的とするタンパク質のコード領域の塩基配列を、宿主細胞における発現に最適なコドンとなるように、塩基を置換したDNAを調製する。
このDNA断片を適当な発現ベクターのプロモーターの下流に挿入することにより組換えベクターを作製し、該組換えベクターを適当な宿主細胞に導入することにより、目的とするタンパク質を生産し得る形質転換体が得られる。上記DNA断片は、その機能が発揮されるようにベクターに組み込まれることが必要であり、ベクターは、プロモーターの他、エンハンサー等のシスエレメント、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、選択マーカー(例えば、ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子)、リボソーム結合配列(SD配列)等を含有できる。
発現ベクターとしては、宿主細胞において自立複製が可能なものであれば特に限定されず、例えば、プラスミドベクター、ファージベクター、ウイルスベクター等を使用できる。プラスミドベクターとしては、例えば、大腸菌由来のプラスミド(例えば、pRSET、pBR322、pBR325、pUC118、pUC119、pUC18、pUC19)、枯草菌由来のプラスミド(例えば、pUB110、pTP5)、酵母由来のプラスミド(例えば、YEp13、YEp24、YCp50)が挙げられ、ファージベクターとしては、例えば、λファージ(例えば、Charon4A、Charon21A、EMBL3、EMBL4、λgt10、λgt11、λZAP)が挙げられ、ウイルスベクターとしては、例えば、レトロウイルス、ワクシニアウイルス等の動物ウイルス、バキュロウイルス等の昆虫ウイルスが挙げられる。
宿主細胞としては、目的とする遺伝子を発現し得る限り、原核細胞、酵母、動物細胞、昆虫細胞、植物細胞等のいずれを使用してもよい。また、動物個体、植物個体、カイコ虫体等を使用してもよい。
細菌を宿主細胞とする場合、例えば、エッシェリヒア・コリ(Escherichia coli)等のエシェリヒア属、バチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)等のバチルス属、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)等のシュードモナス属、リゾビウム・メリロティ(Rhizobium meliloti)等のリゾビウム属に属する細菌を宿主細胞として使用できる。具体的には、Escherichia coli XL1−Blue、Escherichia coli XL2−Blue、Escherichia coli DH1、Escherichia coli K12、Escherichia coli JM109、Escherichia coli HB101等の大腸菌や、Bacillus subtilis MI 114、Bacillus subtilis 207−21等の枯草菌を宿主細胞として使用できる。この場合のプロモーターは、大腸菌等の細菌中で発現できるものであれば特に限定されず、例えば、trpプロモーター、lacプロモーター、Pプロモーター、Pプロモーター等の大腸菌やファージ等に由来するプロモーターを使用できる。また、tacプロモーター、lacT7プロモーター、letIプロモーターのように人為的に設計改変されたプロモーターも使用できる。
細菌への組換えベクターの導入方法としては、細菌にDNAを導入し得る方法であれば特に限定されず、例えば、カルシウムイオンを用いる方法、エレクトロポレーション法等を使用できる。
酵母を宿主細胞とする場合、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomycescerevisiae)、シゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)、ピヒア・パストリス(Pichia pastoris)等を宿主細胞として使用できる。この場合のプロモーターは、酵母中で発現できるものであれば特に限定されず、例えば、gal1プロモーター、gal10プロモーター、ヒートショックタンパク質プロモーター、MFα1プロモーター、PHO5プロモーター、PGKプロモーター、GAPプロモーター、ADHプロモーター、AOX1プロモーター等を使用できる。
酵母への組換えベクターの導入方法は、酵母にDNAを導入し得る方法であれば特に限定されず、例えば、エレクトロポレーション法、スフェロプラスト法、酢酸リチウム法等を使用できる。
動物細胞を宿主細胞とする場合、サル細胞COS−7、Vero、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞)、マウスL細胞、ラットGH3、ヒトFL細胞等を宿主細胞として使用できる。この場合のプロモーターは、動物細胞中で発現できるものであれば特に限定されず、例えば、SRαプロモーター、SV40プロモーター、LTR(Long Terminal Repeat)プロモーター、CMVプロモーター、ヒトサイトメガロウイルスの初期遺伝子プロモーター等を使用できる。
動物細胞への組換えベクターの導入方法は、動物細胞にDNAを導入し得る方法であれば特に限定されず、例えば、エレクトロポレーション法、リン酸カルシウム法、リポフェクション法等を使用できる。
昆虫細胞を宿主とする場合には、Spodoptera frugiperdaの卵巣細胞、Trichoplusia niの卵巣細胞、カイコ卵巣由来の培養細胞等を宿主細胞として使用できる。Spodoptera frugiperdaの卵巣細胞としてはSf9、Sf21等、Trichoplusia niの卵巣細胞としてはHigh 5、BTI−TN−5B1−4(インビトロジェン社製)等、カイコ卵巣由来の培養細胞としてはBombyx moriN4等が挙げられる。
昆虫細胞への組換えベクターの導入方法は、昆虫細胞にDNAを導入し得る限り特に限定されず、例えば、リン酸カルシウム法、リポフェクション法、エレクトロポレーション法等を使用できる。
〔形質転換体の培養〕
目的とするタンパク質をコードするDNAを組み込んだ組換えベクターを導入した形質転換体を通常の培養方法に従って培養する。形質転換体の培養は、宿主細胞の培養に用いられる通常の方法に従って行うことができる。
大腸菌や酵母等の微生物を宿主細胞として得られた形質転換体を培養する培地としては、該微生物が資化し得る炭素源、窒素源、無機塩類等を含有し、形質転換体の培養を効率的に行える培地であれば天然培地、合成培地のいずれを使用してもよい。
炭素源としては、グルコース、フラクトース、スクロース、デンプン等の炭水化物、酢酸、プロピオン酸等の有機酸、エタノール、プロパノール等のアルコール類を使用できる。窒素源としては、アンモニア、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、リン酸アンモニウム等の無機酸又は有機酸のアンモニウム塩、ペプトン、肉エキス、酵母エキス、コーンスチープリカー、カゼイン加水分解物等を使用できる。無機塩としては、リン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、硫酸銅、炭酸カルシウム等を使用できる。
大腸菌や酵母等の微生物を宿主細胞として得られた形質転換体の培養は、振盪培養又は通気攪拌培養等の好気的条件下で行う。培養温度は通常25〜37℃、培養時間は通常12〜48時間であり、培養期間中はpHを6〜8に保持する。pHの調整は、無機酸、有機酸、アルカリ溶液、尿素、炭酸カルシウム、アンモニア等を用いて行うことができる。また、培養の際、必要に応じてアンピシリン、テトラサイクリン等の抗生物質を培地に添加してもよい。
プロモーターとして誘導性のプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときには、必要に応じてインデューサーを培地に添加してもよい。例えば、lacプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときにはイソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド等を、trpプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときにはインドールアクリル酸等を培地に添加してもよい。
動物細胞を宿主細胞として得られた形質転換体を培養する培地としては、一般に使用されているRPMI1640培地、EagleのMEM培地、DMEM培地、Ham F12培地、Ham F12K培地又はこれら培地に牛胎児血清等を添加した培地等を使用できる。形質転換体の培養は、通常5%CO存在下、37℃で3〜10日間行う。また、培養の際、必要に応じてカナマイシン、ペニシリン、ストレプトマイシン等の抗生物質を培地に添加してもよい。
昆虫細胞を宿主細胞として得られた形質転換体を培養する培地としては、一般に使用されているTNM−FH培地(ファーミンジェン社製)、Sf−900 II SFM培地(Gibco BRL社製)、ExCell400、ExCell405(JRHバイオサイエンシーズ社製)等を使用できる形質転換体の培養は、通常27℃で3〜10日間行う。また、培養の際、必要に応じてゲンタマイシン等の抗生物質を培地に添加してもよい。
目的とするタンパク質は、分泌タンパク質又は融合タンパク質として発現させることもできる。融合させるタンパク質としては、例えば、β−ガラクトシダーゼ、プロテインA、プロテインAのIgG結合領域、クロラムフェニコール・アセチルトランスフェラーゼ、ポリ(Arg)、ポリ(Glu)、プロテインG、マルトース結合タンパク質、グルタチオンS−トランスフェラーゼ、ポリヒスチジン鎖(His−tag)、Sペプチド、DNA結合タンパク質ドメイン、Tac抗原、チオレドキシン、グリーン・フルオレッセント・プロテイン等が挙げられる。
〔タンパク質の単離・精製〕
形質転換体の培養物より目的とするタンパク質を採取することにより、目的とするタンパク質が得られる。ここで、「培養物」には、培養上清、培養細胞、培養菌体、細胞又は菌体の破砕物のいずれもが含まれる。
目的とするタンパク質が形質転換体の細胞内に蓄積される場合には、培養物を遠心分離することにより、培養物中の細胞を集め、該細胞を洗浄した後に細胞を破砕して、目的とするタンパク質を抽出する。目的とするタンパク質が形質転換体の細胞外に分泌される場合には、培養上清をそのまま使用するか、遠心分離等により培養上清から細胞又は菌体を除去する。
こうして得られるタンパク質は、溶媒抽出法、硫安等による塩析法脱塩法、有機溶媒による沈殿法、ジエチルアミノエチル(DEAE)−セファロース、イオン交換クロマトグラフィー法、疎水性クロマトグラフィー法、ゲルろ過法、アフィニティークロマトグラフィー法等により精製できる。
本発明の第一又は第二のタンパク質は、そのアミノ酸配列に基づいて、Fmoc法(フルオレニルメチルオキシカルボニル法)、tBoc法(t−ブチルオキシカルボニル法)等の化学合成法によっても製造できる。この際、市販のペプチド合成機を使用できる。
本発明の抗体又はその断片は、本発明の第一又は第二のタンパク質に反応し得る抗体又はその断片である。ここで、「抗体」には、モノクローナル抗体及びポリクローナル抗体のいずれもが含まれ、「モノクローナル抗体」及び「ポリクローナル抗体」には全てのクラスのモノクローナル抗体及びポリクローナル抗体が含まれる。また、「抗体の断片」には、Fab断片、F(ab)’断片、単鎖抗体(scFv)等が含まれる。
本発明の第二のタンパク質に反応し得る抗体又はその断片は、本発明の第二のタンパク質のうち、Leu−Tyr−Val−Gln−Asn−Ileで示されるアミノ酸配列を含む領域に反応し得ることが好ましい。このような抗体又はその断片を利用することにより、血液凝固第XI因子活性を有しないウシ血液凝固第XI因子を特異的に検出することができる。
本発明の抗体又はその断片は、本発明の第一又は第二のタンパク質を免疫用抗原として利用することより作製できる。免疫用抗原としては、例えば、(i)本発明の第一又は第二のタンパク質を発現している細胞又は組織の破砕物又はその精製物、(ii)遺伝子組換え技術を用いて、本発明の第一又は第二のタンパク質をコードする遺伝子を大腸菌、昆虫細胞又は動物細胞等の宿主に導入して発現させた組換えタンパク質、(iii)化学合成したペプチド等を使用できる。
ポリクローナル抗体の作製にあたっては、免疫用抗原を用いて、ラット、マウス、モルモット、ウサギ、ヒツジ、ウマ、ウシ等の哺乳動物を免疫する。免疫動物は、抗体を容易に作製できることからマウスを利用することが好ましい。免疫の際には、抗体産生誘導する為に、フロイント完全アジュバント等の免疫助剤を用いてエマルジョン化した後、複数回の免疫することが好ましい。免疫助剤としては、フロイント完全アジュバント(FCA)の他、フロイント不完全アジュバント(FIA)、水酸化アルミニウムゲル等を利用できる。哺乳動物1匹当たりの抗原の投与量は、哺乳動物の種類に応じて適宜設定できる。投与部位は、例えば、静脈内、皮下、腹腔内等である。免疫の間隔は、通常、数日から数週間間隔、好ましくは4日〜3週間間隔で、合計2〜8回、好ましくは2〜5回免疫を行う。そして、最終免疫日から3〜10日後に、本発明の第一又は第二のタンパク質に対する抗体力価を測定し、抗体力価が上昇した後に採血し、抗血清を得る。抗体力価の測定は、酵素免疫測定法(ELISA)、放射性免疫測定法(RIA)等により行うことができる。
抗血清から抗体の精製が必要とされる場合は、硫酸アンモニウムによる塩析、ゲルクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等の公知の方法を適宜選択して又はこれらを組み合わせて利用できる。
モノクローナル抗体の作製にあたっては、ポリクローナル抗体の場合と同様に免疫用抗原を用いて哺乳動物を免疫し、最終免疫日から2〜5日後に抗体産生細胞を採取する。抗体産生細胞としては、例えば、脾臓細胞、リンパ節細胞、胸腺細胞、末梢血細胞等が挙げられるが、脾臓細胞が一般的に利用される。
次いで、ハイブリドーマを得るために、抗体産生細胞とミエローマ細胞との細胞融合を行う。抗体産生細胞と融合させるミエローマ細胞としては、ヒト、マウス等の哺乳動物由来の細胞であって一般に入手可能な株化細胞を利用できる。利用する細胞株としては、薬剤選択性を有し、未融合の状態では選択培地(例えばHAT培地)で生存できず、抗体産生細胞と融合した状態でのみ生存できる性質を有するものが好ましい。ミエローマ細胞の具体例としては、P3X63−Ag.8.U1(P3U1)、P3/NSI/1−Ag4−1、Sp2/0−Ag14等のマウスミエローマ細胞株が挙げられる。
細胞融合は、血清を含まないDMEM、RPMI−1640培地等の動物細胞培養用培地中に、抗体産生細胞とミエローマ細胞とを所定の割合(例えば1:1〜1:10)で混合し、ポリエチレングリコール等の細胞融合促進剤の存在下で、又は電気パルス処理(例えばエレクトロポレーション)により融合反応を行う。
細胞融合処理後、選択培地を用いて培養し、目的とするハイブリドーマを選別する。次いで、増殖したハイブリドーマの培養上清中に、目的とする抗体が存在するか否かをスクリーニングする。ハイブリドーマのスクリーニングは、通常の方法に従えばよく、特に限定されるものではない。例えば、ハイブリドーマとして生育したウエルに含まれる培養上清の一部を採集し、酵素免疫測定法(ELISA)、放射性免疫測定法(RIA)等によってスクリーニングできる。
ハイブリドーマのクローニングは、例えば、限界希釈法、軟寒天法、フィブリンゲル法、蛍光励起セルソーター法等により行うことができ、最終的にモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを取得する。取得したハイブリドーマからモノクローナル抗体を採取する方法としては、通常の細胞培養法等を利用することができる。細胞培養法においては、例えばハイブリドーマを10〜20%牛胎児血清含有RPMI−1640培地、MEM培地等の動物細胞培養培地中、通常の培養条件(例えば37℃,5%CO濃度)で3〜10日間培養することにより、その培養上清からモノクローナル抗体を取得することができる。また、ハイブリドーマをマウス等の腹腔内に移植し、10〜14日後に腹水を採取し、当該腹水からモノクローナル抗体を取得することもできる。
モノクローナル抗体の精製が必要とされる場合は、硫酸アンモニウムによる塩析、ゲルクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等の公知の方法を適宜選択して又はこれらを組み合わせて利用できる。
本発明のウシ血液凝固第XI因子欠乏症の診断方法は、血液凝固第XI因子をコードする遺伝子のエクソン9において、5番目の塩基cがatatgtgcagaatataで示される塩基配列に置換されているか否かを指標として、被験ウシが血液凝固第XI因子欠乏症に罹患しているか否かを診断する工程を含む。
血液凝固第XI因子をコードする遺伝子のエクソン9は、配列番号1又は10記載の塩基配列のうち、それぞれ1221〜1383番目、404〜566番目の塩基配列に相当し、エクソン9の5番目の塩基cは、配列番号1又は10記載の塩基配列のうち、それぞれ1225番目、408番目の塩基に相当する。
配列番号10記載の塩基配列は、血液凝固第XI因子をコードするウシゲノムDNAの一部に相当し、配列番号10記載の塩基配列のうち、1〜200番目の塩基配列がイントロン7の一部に、201〜310番目の塩基配列がエクソン8に、311〜403番目の塩基配列がイントロン8に、404〜566番目の塩基配列がエクソン9に、567〜655番目の塩基配列がイントロン9に、656〜762番目の塩基配列がエクソン10に、763〜962番目の塩基配列がイントロン10の一部に相当する。
血液凝固第XI因子をコードする遺伝子のエクソン9において、5番目の塩基cがatatgtgcagaatataで示される塩基配列に置換されることにより、血液凝固第XI因子は不活性化する。血液凝固第XI因子欠乏症は、いずれの相同染色体にコードされる血液凝固第XI因子も不活性化することにより発症する。
被験ウシのいずれの相同染色体においても、血液凝固第XI因子をコードする遺伝子のエクソン9の5番目の塩基cがatatgtgcagaatataで示される塩基配列に置換されている場合、被験ウシは、不活性化した血液凝固第XI因子のみを産生し、活性を有する血液凝固第XI因子を産生し得ないので、血液凝固第XI因子欠乏症に罹患していることとなる。
また、このような置換が被験ウシの一方の相同染色体のみに生じている場合、被験ウシは、活性を有する血液凝固第XI因子を産生し得るので、血液凝固第XI因子欠乏症に罹患していないこととなる。但し、この場合、被験ウシはキャリア個体であり、その被験ウシを親とするウシは血液凝固第XI因子欠乏症に罹患するおそれがある。
また、このような置換が被験ウシのいずれの相同染色体においても生じていない場合、被験ウシは正常なウシであり、血液凝固第XI因子欠乏症に罹患していないこととなる。
血液凝固第XI因子をコードする遺伝子のエクソン9における置換の有無は、公知の遺伝子解析技術、例えば、ハイブリダイゼーション技術(例えば、ノーザンハイブリダイゼーション法、ドットブロット法、DNAマイクロアレイ法等)、遺伝子増幅技術(例えば、RT−PCR等)等を利用して検出できる。
ハイブリダイゼーション技術を利用する際には、下記(l)〜(q)に示すオリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドをプローブとして利用でき、遺伝子増幅技術を利用する際には、下記(l)〜(q)に示すオリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドをプライマーとして利用できる。
(l)配列番号1記載の塩基配列のうち1225番目の塩基cに隣接する領域にハイブリダイズし得るオリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチド
(m)配列番号1記載の塩基配列のうち1225番目の塩基cを含む領域にハイブリダイズし得るオリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチド
(n)配列番号1記載の塩基配列において1225番目の塩基cがatatgtgcagaatataで示される塩基配列に置換された塩基配列のうち、atatgtgcagaatataで示される塩基配列の一部又は全部を含む領域にハイブリダイズし得るオリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチド
(o)配列番号10記載の塩基配列のうち408番目の塩基cに隣接する領域にハイブリダイズし得るオリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチド
(p)配列番号10記載の塩基配列のうち408番目の塩基cを含む領域にハイブリダイズし得るオリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチド
(q)配列番号10記載の塩基配列において408番目の塩基cがatatgtgcagaatataで示される塩基配列に置換された塩基配列のうち、atatgtgcagaatataで示される塩基配列の一部又は全部を含む領域にハイブリダイズし得るオリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチド
上記(l)又は(o)に示すオリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドにおいて、「塩基cに隣接する」とは、塩基cとの距離が通常0〜1000塩基長、好ましくは0〜500塩基長、さらに好ましくは0〜200塩基長であることを意味する。
上記(l)〜(q)に示すオリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドを構成するヌクレオチドは、デオキシリボヌクレオチド及びリボヌクレオチドのいずれであってもよい。上記(l)〜(q)に示すオリゴヌクレオチドの塩基長は特に限定されないが、通常10〜50塩基、好ましくは10〜30塩基である。また、上記(l)〜(q)に示すポリヌクレオチドの塩基長は特に限定されないが、通常50〜1000塩基、好ましくは200〜800塩基である。
上記(l)〜(q)に示すオリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドは、所定領域に特異的にハイブリダイズし得ることが好ましい。「特異的にハイブリダイズし得る」とは、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得ることを意味し、「ストリンジェントな条件」としては、例えば、42℃、2×SSC及び0.1%SDSの条件、好ましくは65℃、0.1×SSC及び0.1%SDSの条件が挙げられる。
上記(l)〜(q)に示すオリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドの塩基配列は、配列番号1又は10記載の塩基配列に基づいて設計でき、その5’末端又は3’末端には制限酵素認識配列、タグ、蛍光色素、ラジオアイソトープ等の標識を付加できる。
血液凝固第XI因子をコードする遺伝子のエクソン9における置換の有無は、例えば、エクソン9のうち、5番目の塩基cを含む領域又はatatgtgcagaatataで示される塩基配列を含む領域を増幅し得るプライマーを用いて核酸増幅反応を行い、増幅断片の有無、塩基長又は塩基配列に基づいて検出できる。
核酸増幅反応としては、PCR等の公知の核酸増幅反応を利用できる。増幅の際、被験ウシのゲノムDNAを鋳型とする場合には、上記(o)〜(q)に示すオリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドをプライマーとして利用できる。また、被験ウシのcDNAを鋳型とする場合には、上記(l)〜(n)に示すオリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドをプライマーとして利用できる。なお、被験ウシのcDNAは、被験ウシの細胞又は組織から全RNAを抽出し、抽出した全RNAからcDNAを合成することにより得られる。
上記(l)又は(o)に示すオリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドをプライマーとして利用する場合、エクソン9における置換の有無にかからわず、増幅断片を得ることができる。エクソン9における置換の有無によって、増幅断片の塩基長及び塩基配列が異なるので(例えば、エクソン9に置換が生じていると、置換が生じてない場合と比較して、増幅断片の塩基長が15塩基長くなる)、増幅断片の塩基長又は塩基配列に基づいて、エクソン9における置換の有無を検出できる。増幅断片の塩基長の相違は電気泳動、サザンブロット法等を利用して検出できる。また、増幅断片の塩基配列の相違はプローブとのハイブリダイズの有無に基づいて検出できる。この際、プローブとしては、上記(m)、(n)、(p)又は(q)に示すオリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドを利用できる。また、増幅断片の塩基配列の相違は、制限酵素による切断断片の塩基長の相違(制限断片長多型)に基づいて検出できる。
上記(m)又は(p)に示すオリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドをプライマーとして利用する場合、エクソン9に置換が生じていない場合にのみ増幅断片が得られ、置換が生じている場合には増幅断片が得られないので、増幅断片の有無に基づいて、エクソン9における置換の有無を検出できる。
上記(n)又は(q)に示すオリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドをプライマーとして利用する場合、エクソン9に置換が生じている場合にのみ増幅断片が得られ、置換が生じていない場合には増幅断片が得られないので、増幅断片の有無に基づいて、エクソン9における置換の有無を検出できる。
本発明のウシ血液凝固第XI因子欠乏症の診断用キットは、上記(l)〜(q)に示すオリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドを含む。本発明の診断用キットは、上記(l)〜(q)に示すオリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドのうち、1種類のみを含んでいてもよいし、2種類以上を含んでいてもよい。本発明の診断用キットは、上記(l)〜(q)に示すオリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドを含む限り、いかなる形態であってもよく、任意の試薬、器具等を含むことができる。本発明の診断用キットは、例えば、PCRに必要な試薬(例えばHO、バッファー、MgCl、dNTPミックス、Taqポリメラーゼ等)、PCR増幅断片の検出に必要な試薬(例えば、RI、蛍光色素等)、電気泳動に必要な器具及び試薬、DNAマイクロアレイ、DNAチップ等の1種類又は2種類以上を含むことができる。
〔実施例1〕ウシ血液凝固第XI因子遺伝子(ウシFXI遺伝子)のクローニング
1.材料と方法
(1)プローブの作製
スクリーニング用プローブとして、マウスFXIcDNA断片(5’側405bp)を用いた。この断片はマウスのEST配列に基づいて作製されたクローン(Amersham)で、pBluescript SK−中で維持されていた。このクローンを制限酵素XhoI、EcoRIで切断し、0.7%低融点アガロースゲルで電気泳動した後、目的の断片をゲルから取り出した。そして、フェノール処理、クロロフォルム処理及びエタノール沈澱により精製した。精製したcDNA断片は電気泳動した後、濃度を測定して25ng/μlに希釈し、ハイブリダイゼーション用プローブとして用いた。
(2)フィルターの作製
cDNAライブラリーとして、Uni−Zap XRベクターにより構築されたウシ(ホルスタイン)肝臓cDNAライブラリー(STRATAGENE)を用いた。宿主菌(XL1−Blue MRF’)は、LB寒天培地(15ng/μl:テトラサイクリン)で線画培養し、さらに0.2%マルトース及び10mM MgClを含む50mlのLB培地で培養した後、遠沈して上清を取り除き、10mlの10mM MgSOに懸濁した。
0.3mlの宿主菌と0.3mlのファージ液(3×10pfu:plaqe forming unit)を混合し、37℃で15分間静置してファージを宿主菌に感染させた。これを50℃に温めておいた8mlのNZCYMトップアガー(0.7%Ager)に加え、150mmプレートのNZCYM寒天培地に播種した。このプレートを10枚作製し、37℃で6〜8時間培養した後、4℃で1時間程冷却した。その後、プラーク上にHybridization transfer membrane(NEN Life Science Product)を置き、2分間プラークを吸着させた。プラークを吸着させた面を上にしてフィルターを順次0.2M NaOH、1.5M NaCl溶液に1〜2分間、0.4M Tris−HCl(pH7.6)、2×SSC(pH7.0)溶液に2〜3分間、2×SSC(pH7.0)溶液に3〜4分間浸漬し、DNAを変性させた。ろ紙上で乾燥させた後、80℃で2時間DNAを固定した。
(3)プラークハイブリダイゼーション
プローブのラベリングは、ランダムプライミングキット(Boehringer mannheim)を用いて、ランダムプライム法により行った。マウスFXIcDNA断片を、[α−32P]dCTPを用いて37℃で1〜2時間放射線標識し、スピンカラムS−300HR(Amersham)を用いて未反応の[α−32P]dCTPを分離した。
約30mlのプレハイブリダイゼーション溶液(6×SSC、5×Denhardt’s液、0.1mg/mlサケ精子、0.5%SDS、50%ホルムアミド)を電子レンジで熱処理した後、氷中で冷却し、プラークが吸着したフィルター10枚を入れたハイブリダイゼーション用ビニールバックに加え、42℃で振とうさせながら2時間以上反応させた。新たなプレハイブリダイゼーション溶液20mlにラベリングしたプローブ溶液を加え、ハイブリダイゼーション溶液とし、100℃で5分間熱変性させた後、冷却した。ハイブリダイゼーション用ビニールバックからプレハイブリダイゼーション溶液を取り除いた後、ハイブリダイゼーション溶液を加えて、42℃で振とうさせながら12時間反応させた。反応終了後、ハイブリダイゼーション溶液を除去し、2×SSC、0.1%SDS溶液を用いて室温で30分間振とうしながら、フィルターの洗浄を2回繰り返した。次に、0.1×SSC、0.5%SDS溶液に移して42℃で1時間振とうしながら洗浄した後、さらに0.1×SSC溶液にて軽くすすぎ、ろ紙上で余分な水分を取り除いてから、増感紙に挟んで−80℃でX線フィルムに露光させた。
1次スクリーニングより得られた陽性シグナルの位置をプレートと照らし合わせ、パスツールピペットを用いてそのポジティブプラークを含むトップアガーを採取し、1ml SMバッファー(50mM Tris−HCl(pH7.5)、100mM NaCl、10mM MgSO・HO、0.01%ゼラチン)に懸濁し、4℃で12〜16時間静置してファージを溶出させた。このファージ溶液の力価を測定し、SMバッファーで希釈した0.3mlのファージ溶液(5×10pfu)と0.3mlの宿主菌の混合液を37℃で15分間反応させ、1次スクリーニングの場合と同様に、NZCYM寒天培地に播種した後、フィルターにファージDNAを固定し、ハイブリダイゼーションを行った。この2次スクリーニングで得られた陽性シグナルを、3次スクリーニングでは5×10pfuに、4次スクリーニングでは1×10pfuになるように希釈し、全クローンが陽性シグナルを示すまでスクリーニングを行った。
(4)ファージミドDNAの抽出
スクリーニングにより得られたファージをヘルパーファージに感染させ、ファージミドDNAを抽出した。ポジティブプラークを含むトップアガーを、パスツールピペットを用いて採取し、0.5ml SMバッファー、20μlクロロフォルム溶液に懸濁し、4℃で12〜16時間静置してファージを溶出させた。宿主菌(XL1−Blue MRF’)を50mlのLB液体培地で培養した後、遠沈し、上清を捨て、OD600=1.0になるように10mM MgSOで懸濁した。
上記ファージ液250μl、宿主菌200μl及びExAssist helper phage(>1×10pfu/μl)1又は10μlを15mlポリプロピレンチューブに加え、37℃で15分間静置して、ファージを宿主菌に感染させた。次いで、3mlのLB培地を加え、37℃で12〜16時間振とうし、65〜70℃で20分間加熱し、2500回転で15分間遠心した後、インサートDNAを持つpBluescript SK(+/−)ファージミドベクターを含む上清を新しいチューブに移した。この上清に含まれるファージミドベクターをクローニングするために、コンピテントセル(SOLR)に形質転換した。コンピテントセル(SOLR)は、LB寒天培地(75ng/μl:カナマイシン)で線画培養し、0.2%マルトース及び10mM MgClを含む50mlのLB培地で培養した後、遠沈し、上清を捨て、OD600=1.0になるように10mM MgSOで懸濁した。
200μlのコンピテントセルと10又は100μlの上清とを混合し、37℃で15分インキュベートした後、そのうち200μlをLB寒天培地(37.5ng/μl:アンピシリン)に播種し、37℃で12〜16時間培養した。培養後、コロニーを3mlのLB液体培地(25ng/μl:アンピシリン)に移し、37℃で12時間振とう培養した。
ファージミドDNAはアルカリ−SDS法により抽出した。培養した菌体1.5mlを1.5mlチューブに加え、4℃、12000回転の条件で20秒間遠心分離し、上清を取り除き、再び残りの菌体1.5mlを加え、4℃、12000回転の条件で20秒間遠心分離し、完全に上清を取り除き、菌体を遠沈した。100μlのSolution I(50mMグルコース、25mM Tris−HCl(pH8.0)、10mM EDTA・2Na)を加えてよく懸濁し、次に200μlのSolution−II(0.2N NaCl、1% SDS)を加えて軽くまぜ、氷上に5分間置いた。次に150μlのSolution III(3M酢酸カリウム、11.5%氷酢酸)を加えて軽く撹拌し、氷上に5分間置いた。4℃、12000回転の条件で5分間遠心分離し、上清を別のチューブに移し、等量のフェノール/クロロフォルム液を加えて撹拌した。4℃、12000回転の条件で5分間遠心分離し、上清を回収し、2倍量のエタノールを加えて室温にて5分間静置した後、4℃、12000回転の条件で5分間遠心分離し、ファージミドDNAを沈澱させた。沈澱を70%エタノール洗浄して乾燥し、20μlのTE(20ng/μl RNaseを含む)に溶解して37℃で2時間RNase処理をした。同時に抽出したファージミドDNAの一部をEcoRI、XhoIにて処理し、電気泳動によりcDNA断片が組み込まれていることを確認した。
塩基配列の解析のために、ファージミドDNAをポリエチレングリコール沈澱法により精製した。20μlのファージミドDNA溶液に30μlの20%PEG/2.5M NaClを加えてよく撹拌し、氷上に10分間静置した。4℃、12000回転の条件で5分間遠心分離した後、上清を取り除き、70%エタノールで洗浄した後、乾燥させ、20μlのTEに溶解してシークエンス反応の鋳型DNA溶液とした。
(5)塩基配列の決定
塩基配列の決定は、Thermo Sequence fluorescent labelled primer cycle seqencing kit(Amersham)を用い、ジデオキシターミネーター法により行った。上記操作により抽出したファージミドDNA(800μg)、pBluescript II KS+ベクター用プライマー(M13−20又は、Reverseプライマー)2pmol、各塩基のプレミックスシークエンス反応液及び滅菌蒸留水をあわせて計8μlに調整し、94℃で30秒間、57℃で15秒間、72℃で30秒間を1サイクルとし、27サイクルのPCRを行った。反応終了後、2μlのホルムアミド色素液を加え、減圧乾燥により約2μlまで反応液を濃縮した。
このシークエンス用サンプルをDNAシークエンサー(SQ5500、HITACHI)により解析した。25mlの6%Long Ranger(12%LongRanger、7M尿素、1×TBE)を5分間脱気し、25μlのTEMED(Tetrametyl ethylenediamine)と125μlの10%過硫酸アンモニウムを加え、ゲルを作製した。予備泳動を1時間行った後、濃縮した泳動用のサンプルをゲル中にて37℃、1400Vの条件で8時間泳動させた。泳動後の塩基配列のデータ解析は、Genetyx−Mac(ソフトウェア株式会社)によって行った。
(6)デレーションミュータントの作製
スクリーニングにより約3kbのcDNA断片を組み込んだファージミドDNAが単離された。このcDNA断片の全長塩基配列を決定するのに、Kilo−Sequence用Deletion Kit(TaKaRa)を用いて、cDNA断片をさまざまに削減したデレーションミュータントを作製した。
ファージミドDNA(10μg)をcDNA側が5’末端突出、ベクター側が3’末端突出になるよう、EcoRIとSacIで消化し、環状DNAを1本鎖にした。等量のTE飽和フェノール/クロロフォルム/イソアミルアルコール(25:24:1)を入れ、遠心して上清を回収した後、等量のクロロフォルム/イソアミルアルコールを加え、遠心して上清を回収した。1/10量の3M酢酸ナトリウムと2.5倍量のエタノールとを加え、沈澱物を回収した。この沈澱物を100μlのExoIII Bufferで溶解し、1μl(180U)のExonuclease IIIを加えてよく撹拌し、37℃にて静置した。そして、45秒毎に10μlずつ取り出し、Exonuclease III反応を止めるために、100μlのMB Bufferの中に順次入れていき、65℃で5分間静置してExonuclease IIIを失活してから、37℃に戻した。2μl(50U)のMung Bean Nucleaseを加え、37℃で15〜30分間静置した後、フェノール/クロロフォルム処理、クロロフォルム処理を行い、50μlのKlenow Bufferに溶解させた。1μlのKlenow Fragmentを加え、37℃で15分間静置し、この溶液10μlと12μlのLigation Solution Bとを100μlのLigation Solution Aに加えてよく撹拌した後、16℃で12〜16時間静置した。1/10量の3M酢酸ナトリウムを加え、エタノール沈澱、70%エタノール洗浄を行った後、乾燥させ、TEで溶解した。
次に、コノピテントセル(DH5α)200μlを氷中で速やかに溶かし、上記溶液を加えて氷中に30分間置いた後、42℃で正確に50秒間静置して、すぐに2分間氷中に入れた。これを1mlのSOC液体培地(10mM MgCl、20mMグルコース)に加え、37℃で1時間培養した。培養液を室温、5000回転の条件で5分間遠心分離して濃縮し、4%X−gal及び0.1M IPTGを含むLB寒天培地(37.5ng/μl:アンピシリン)に播種し、37℃で13〜16時間培養した。その後、少量培養し、アルカリ−SDS法によりDNAを抽出し、ポリエチレングリコール沈澱法で精製した。シークエンスはジデオキシ法により行い、データは、Genetyx−Mac(ソフトウェア開発株式会社)によって解析した。
2.結果
マウス横隔膜mRNAに由来するFXIcDNAをプローブとして、ウシ肝臓cDNAライブラリーをスクリーニングした結果、5個の陽性クローンが得られ、そのうち4個のクローンは、ヒトFXIcDNAと高い相同性を有しており、ウシFXIcDNAであると考えられた。その中の1つにFXIcDNA全域を含むと考えられる約3kbのcDNA断片を持つクローンが存在していた。そこで、このファージミドDNAに組み込まれたFXIcDNAの全塩基配列を決定するために、ExonucleaseIIIを用いて、5’末端側から3’末端の酵素削減により、様々な大きさのデレーションミュータント(3kbp、2.8kbp、2.6kbp、2.1kbp、1.8kbp、1.6kbp、1.2kbp)を作製した。これにより約3kbのcDNA断片全領域をカバーするクローンが作製され、ウシFXIcDNAの塩基配列が明らかとなった。
ウシFXIcDNAはエクソン1〜エクソン15を含み、全長2040bpであり、そのうちアミノ酸をコードする領域はエクソン2〜エクソン15の1875bpの領域であった。
配列決定された約3kbpのcDNA断片の塩基配列を配列番号1に示す。配列番号1記載の塩基配列のうち、194〜355番目の塩基配列がエクソン1に、356〜410番目の塩基配列がエクソン2に、411〜573番目の塩基配列がエクソン3に、574〜680番目の塩基配列がエクソン4に、681〜840番目の塩基配列がエクソン5に、841〜950番目の塩基配列がエクソン6に、951〜1110番目の塩基配列がエクソン7に、1111〜1220番目の塩基配列がエクソン8に、1221〜1383番目の塩基配列がエクソン9に、1384〜1490番目の塩基配列がエクソン10に、1491〜1659番目の塩基配列がエクソン11に、1660〜1835番目の塩基配列がエクソン12に、1836〜1931番目の塩基配列がエクソン13に、1932〜2071番目の塩基配列がエクソン14に、2072〜2233番目の塩基配列がエクソン15に相当する。
エクソン2の5’末端(配列番号1記載の塩基配列の356〜358番目)には開始コドンが位置し、エクソン15の3’末端(配列番号1記載の塩基配列の2231〜2233番目)には終止コドンが位置する。
ウシFXIcDNAにコードされるタンパク質(ウシFXI)のアミノ酸配列を配列番号2に示す。配列番号2記載のアミノ酸配列のうち1〜18番目のアミノ酸配列はシグナルペプチドであり、シグナルペプチドは配列番号1記載の塩基配列のうち356〜409番目の塩基配列にコードされる。
ウシ、ヒト及びマウスにおいて、FXIcDNAの塩基配列及びFXIのアミノ酸配列を比較したところ、ウシFXIcDNAは、ヒトFXIcDNA及びマウスFXIcDNAとそれぞれ83.8%、78.2%の相同性を有しており、ウシFXIは、ヒトFXI及びマウスFXIとそれぞれ80.8%、72.8%の相同性を有していた。
3.考察
上述にように、ウシFXIcDNAがウシ肝臓cDNAライブラリーより単離され、ヒトFXIcDNA及びマウスFXIcDNAと高い相同性が認められた。また、ウシFXIのアミノ酸配列を重鎖と軽鎖に分け、それぞれヒトFXIとの相同性を調べたところ、重鎖における相同性は76.2%であるのに対し、軽鎖における相同性は88.2%であり、軽鎖のおいて非常に高い相同性が認められた。軽鎖における異種間の高い保存性は、軽鎖が機能的に重要性の高い部位であることを意味し、これよりウシFXIとヒトFXIの構造が非常に類似していることが推察された。また、タンパク質の天然構造を安定化させているジスルフィド結合は、ウシFXIのアミノ酸配列においても完全に保存されていた。つまり、ウシFXIにおいてもN末端からシグナルペプチド、アップルドメイン1〜4、そしてセリンプロテアーゼ活性を持つ活性部位が存在することが示唆された。
〔実施例2〕血液凝固第XI因子欠乏症ウシにおける突然変異の検索
ヒトやマウスにおいてFXI遺伝子が血液凝固第XI因子(FXI欠乏症)の原因遺伝子として単離されてから現在に至るまでに、FXI遺伝子における様々な変異が報告されていることから、FXI欠乏症ウシにおいてもFXI遺伝子に変異が生じていると考えられる。ホルスタイン種の白血球粘着不全症や、黒毛和種の第XIII因子欠乏症ではヒトと共通する変異がウシの遺伝子に存在しているが、FXI欠乏症においてもヒトと共通する変異がウシの遺伝子に存在しているとは限らない。
そこで、実施例2では、FXI欠乏症と診断された黒毛和種のFXI遺伝子の塩基配列を同定し、正常なFXI遺伝子と比較することにより、塩基の置換、欠損、挿入等の変異の検索を試みた。本来、このような変異を検索する場合、FXI欠乏症発症個体のmRNAを用いたRT−PCRにより、FXI欠乏症発症個体のcDNAをクローニングし、塩基配列を決定する。しかし、今回、FXI欠乏症発症個体のmRNAが入手できなかったため、FXI欠乏症発症個体のゲノムDNAからエクソン1〜15を増幅し、塩基配列を決定する方法を採用した。そのため、実施例1で決定したホルスタイン種のFXIcDNAの塩基配列を基に、14個のイントロンをそれぞれ挟むようにプライマーを設定し、黒毛和種のゲノムDNAを鋳型としてPCRを行い、増幅断片の塩基配列を決定した。次に、決定した各イントロンの塩基配列を基に15個のエクソンをそれぞれ挟むようにプライマーを設定し、発症個体ゲノムDNAを鋳型としてPCRを行い、増幅断片の塩基配列を決定した。正常個体ゲノムDNAについても同様の操作を行い、この両者の比較を行った。
1.材料と方法
(1)イントロン配列の決定
実施例1で得られたホルスタイン種のFXIcDNAの塩基配列を基に、FXI遺伝子の14個のイントロンを増幅できるように14組のプライマーを設定した。使用したプライマーの配列を以下に示す。なお、エクソン1とエクソン2の間に存在するイントロンをイントロン1とする(図1参照)。


PCR反応液は、20ngのウシ(褐毛和種)ゲノムDNA、0.5μMの各プライマー、0.2mM dNTP、1×Taqバッファー、0.5U Taqポリメラーゼ(Amersham)及び滅菌蒸留水を含む合計10μlに調整した。この反応液を1つのイントロンにつき8つ作製し、総計80μlを用いた。PCR反応の条件は、95℃で5分間の熱変性の後、95℃で30秒間、60℃で1分間、72℃で1分間のサイクルを40サイクル行い、最後に72℃で10分間の伸長反応を行った。PCR反応物は、エタノール沈澱した後、0.7%低融点アガロースゲルを用いて電気泳動し、目的とするDNA断片を切り出した。次いで、フェノール/クロロフォルム処理、クロロフォルム処理及びエタノール沈澱により精製し、pGEM−T Easy Vector(Promega)にクローニングした。アルカリ−SDS法を用いて、1つのイントロンにつき少なくとも5つのクローンからプラスミドDNAを抽出し、ジデオキシ法で塩基配列を決定した。
(2)FXI欠乏症発症個体のFXI遺伝子の同定及び正常個体のFXI遺伝子との比較
上記(1)で得られたイントロン配列を基に、ウシゲノムDNAから15個のエクソンを増幅できるように以下に示す15組のプライマーを設定した。FXI欠乏症発症個体としてはFXI活性値が5%以下の個体(黒毛和種)を用い、正常個体としてはFXI活性値が90%以上の個体(黒毛和種)を用い、これらのゲノムDNAを鋳型として用いた。


PCR反応液は、20ngのゲノムDNA、0.5μMの各プライマー、0.2mM dNTP、1×Taqバッファー、0.5U Taqポリメラーゼ(Amersham)及び滅菌蒸留水を含む合計10μlに調整した。この反応液を1つのイントロンにつき8つ作製し、総計80μlを用いた。PCR反応の条件は、95℃で5分間の熱変性後、95℃で30秒間、60℃で30秒間、72℃で30秒間のサイクルを40サイクル行い、最後に72℃で10分間の伸長反応を行った。PCR反応物は、エタノール沈澱した後、0.7%低融点アガロースゲルにて電気泳動し、目的とするDNA断片を切り出した。次いで、フェノール/クロロフォルム処理、クロロフォルム処理及びエタノール沈澱により精製し、pGEM−T Easy Vector(Promega)にクローニングした。アルカリ−SDS法を用いて、1つのエクソンにつき少なくとも5つのクローンからプラスミドDNAを抽出し、ジデオキシ法で塩基配列を決定した。
正常個体についても同様の操作を行い、塩基配列を決定した。
正常個体及びFXI欠乏症発症個体の塩基配列のデータは、Genetix−Macによって解析し、変異の検索を行った。
2.結果
(1)イントロン配列の決定
実施例1で得られたホルスタイン種のFXIcDNAの塩基配列を基に、黒毛和種のイントロンの領域をPCRにより増幅し、塩基配列を決定したところ、各イントロンの塩基配列のヒトとの相同性は高くなかったが、図1に示すように、各イントロンの大きさはヒトと比較的類似していた。イントロンを含んだ黒毛和種のFXI遺伝子の全長は約20kbで、ヒトの23kbと比較しても大差は見られなかった。
黒毛和種のFXI遺伝子について、5’UTRとエクソン1とイントロン1の一部とを含む領域の塩基配列を配列番号3に、イントロン1の一部とエクソン2とイントロン2の一部とを含む領域の塩基配列を配列番号4に、イントロン2の一部とエクソン3とイントロン3の一部とを含む領域の塩基配列を配列番号5に、イントロン3の一部とエクソン4とイントロン4の一部とを含む領域の塩基配列を配列番号6に、イントロン4の一部とエクソン5とイントロン5の一部とを含む領域の塩基配列を配列番号7に、イントロン5の一部とエクソン6とを含む領域の塩基配列を配列番号8に、イントロン6の一部とエクソン7とイントロン7の一部とを含む領域の塩基配列を配列番号9に、イントロン7の一部とエクソン8とイントロン8とエクソン9とイントロン9とエクソン10とイントロン10の一部とを含む領域の塩基配列を配列番号10に、イントロン10の一部とエクソン11とイントロン11の一部とを含む領域の塩基配列を配列番号11に、イントロン11の一部とエクソン12とイントロン12の一部とを含む領域の塩基配列を配列番号12に、イントロン12の一部とエクソン13とイントロン13の一部とを含む領域の塩基配列を配列番号13に、イントロン13の一部とエクソン14とイントロン14の一部とを含む領域の塩基配列を配列番号14に、イントロン14の一部とエクソン15とを含む領域の塩基配列を配列番号15に示す。
配列番号3記載の塩基配列のうち、1〜193番目の塩基配列が5’UTR、194〜355番目の塩基配列がエクソン1、356〜556番目の塩基配列がイントロン1の一部に相当する。配列番号4記載の塩基配列のうち、1〜200番目の塩基配列がイントロン1の一部、201〜255番目の塩基配列がエクソン2、256〜455番目の塩基配列がイントロン2の一部に相当する。配列番号5記載の塩基配列のうち、1〜200番目の塩基配列がイントロン2の一部、201〜363番目の塩基配列がエクソン3、364〜567番目の塩基配列がイントロン3の一部に相当する。配列番号6記載の塩基配列のうち、1〜200番目の塩基配列がイントロン3の一部、201〜307番目の塩基配列がエクソン4、308〜507番目の塩基配列がイントロン4の一部に相当する。配列番号7記載の塩基配列のうち、1〜200番目の塩基配列がイントロン4の一部、201〜360番目の塩基配列がエクソン5、361〜562番目の塩基配列がイントロン5の一部に相当する。配列番号8記載の塩基配列のうち、1〜200番目の塩基配列がイントロン5の一部、201〜310番目の塩基配列がエクソン6に相当する。配列番号9記載の塩基配列のうち、1〜200番目の塩基配列がイントロン6の一部、201〜360番目の塩基配列がエクソン7、361〜560番目の塩基配列がイントロン7の一部に相当する。配列番号10記載の塩基配列のうち、1〜200番目の塩基配列がイントロン7の一部、201〜310番目の塩基配列がエクソン8、311〜403番目の塩基配列がイントロン8、404〜566番目の塩基配列がエクソン9、567〜655番目の塩基配列がイントロン9、656〜762番目の塩基配列がエクソン10、763〜962番目の塩基配列がイントロン10の一部に相当する。配列番号11記載の塩基配列のうち、1〜200番目の塩基配列がイントロン10の一部、201〜369番目の塩基配列がエクソン11、370〜569番目の塩基配列がイントロン11の一部に相当する。配列番号12記載の塩基配列のうち、1〜200番目の塩基配列がイントロン11の一部、201〜376番目の塩基配列がエクソン12、377〜465番目の塩基配列がイントロン12の一部に相当する。配列番号13記載の塩基配列のうち、1〜149番目の塩基配列がイントロン12の一部、150〜245番目の塩基配列がエクソン13、246〜445番目の塩基配列がイントロン13の一部に相当する。配列番号14記載の塩基配列のうち、1〜200番目の塩基配列がイントロン13の一部、201〜340番目の塩基配列がエクソン14、341〜540番目の塩基配列がイントロン14の一部に相当する。配列番号15記載の塩基配列のうち、1〜202番目の塩基配列がイントロン14の一部、203〜364番目の塩基配列がエクソン15に相当する。なお、配列番号1の2062番目の塩基と配列番号14の331番目の塩基とが対応しており、配列番号1の2062番目の塩基はcであるのに対して、配列番号14の331番目の塩基はtとなっているが、これは遺伝的多型性によるものである。
(2)FXI欠乏症発症個体のFXI遺伝子の同定、及び正常個体のFXI遺伝子との比較
イントロン配列を基に、FXI欠乏症発症個体及び正常個体のゲノムDNAを鋳型として用い、各エクソンをPCRにより増幅し、塩基配列を決定した。ホルスタイン、正常個体、FXI欠乏症発症個体の間で塩基配列の比較を行ったところ、図2に示すように、14ヶ所において1塩基置換が確認され、エクソン9において1塩基の16塩基への置換(1塩基置換+15塩基挿入)が確認された。
1塩基置換が確認された部位は、ウシFXIcDNAにおいて開始コドンatgのaを+1としたとき、−36、159、184、340、435、464、516、624、655、666、1623、1830、1842、1843で表される部位であり、配列番号1記載の塩基配列において、319、514、539、695、790、819、871、979、1010、1021、1978、2185、2197、2198番目の塩基に相当する。
これらの1塩基置換のうち、5ヶ所(置換部位:184、340、464、655、1843)はアミノ酸置換(配列番号2記載Iのアミノ酸配列において、62番目のアミノ酸Metのアミノ酸Leuへの置換、114番目のアミノ酸Metのアミノ酸Valへの置換、155番目のアミノ酸Hisのアミノ酸Argへの置換、219番目のアミノ酸Metのアミノ酸Valへの置換、615番目のアミノ酸Valのアミノ酸Leuへの置換)を導くものであり、それらのうち、3ケ所(114番目のアミノ酸の置換、155番目のアミノ酸の置換、219番目のアミノ酸の置換)は正常個体で確認され、残りの2ケ所(62番目のアミノ酸の置換、615番目のアミノ酸の置換)はFXI欠乏症発症個体で確認された。
エクソン9における1塩基の16塩基への置換(1塩基置換+15塩基挿入)は、エクソン9の5番目の塩基c(配列番号10記載の塩基配列の408番目の塩基c)が、atatgtgcagaatataで表される塩基配列に置換されたものであり、FXI欠乏症発症個体で確認された。エクソン9における1塩基の16塩基への置換によって、15塩基がPhe(配列番号2記載のアミノ酸配列において290番目のアミノ酸)をコードするコドン中に挿入されるため、Pheが6アミノ酸(Leu−Tyr−Val−Gln−Asn−Ile)に置換される。なお、エクソン9における1塩基の16塩基への置換は、エクソン9の4番目の塩基tと5番目の塩基cとの間への15塩基(atatgtgcagaatat)の挿入、及びエクソン9の5番目の塩基cの塩基aへの置換、すなわち1塩基置換+15塩基挿入として捉えることもできる。
3.考察
ヒトFXI遺伝子内の変異の報告は、現在までに少なくとも20例に達する。それらの変異とウシFXI遺伝子の変異とは、全く異なるものであり、ヒトFXI遺伝子における変異が、ウシFXI遺伝子においては存在しなかった。
ホルスタイン、正常個体、FXI欠乏症発症個体の間で塩基配列の比較を行ったところ、14ケ所で1塩基置換が同定され、そのうちの9ケ所はアミノ酸置換を伴わないサイレント変異であり、結果として、FXIポリペプチド鎖を全く変化させないので、FXI欠乏症を引き起こす原因となる変異ではない。一方、13ケ所の一塩基置換のうち5ケ所はアミノ酸置換を導くもので、そのうち3ケ所は正常個体でのみ確認されたので、疾患の原因であるとは考えにくい。残りの2ケ所はFXI欠乏症発症個体でのみ確認されたので、FXI欠乏症の原因となる変異である可能性がある。また、エクソン9において1塩基の16塩基への置換(1塩基置換+15塩基挿入)が確認され、この変異によってPheが6アミノ酸に置換されるので、FXI欠乏症の原因となる変異である可能性がある。ヒトにおいてエクソン9は第4アップルドメインをコードしており、この領域の欠損により、細胞内での2量体形成が阻害され、分泌能が低下するという報告がされている。ウシにおいても同じような障害が考えられることから、この変異がFXI欠乏症の原因として最も有力な変異であることが示唆される。
また、エクソン9における置換がどのようにして起きたのか、エクソン9の周辺塩基配列を検索したところ、26bp上流から7bpの配列が挿入配列の7bpと同じ配列をとっていた。また、挿入配列の下流2bpから上流に向けて8bpと、挿入配列の最初から8bpとはほぼパリンドローム構造(逆向き反復配列)になっており、この両者の存在が挿入の原因に起因していることが考えられる。
エクソン3、エクソン9及びエクソン15のアミノ酸を伴う塩基置換が同定されたが、どの変異がFXI欠乏症の直接の原因であるかは明らかになっていない。そこで、以下の実施例3において、これらの変異のうち、どの変異がFXI欠乏症の原因となる変異であるかを明らかにした。
〔実施例3〕黒毛和種における血液凝固第XI因子欠乏症遺伝子診断法の確立
1982年以来南九州の黒毛和腫牛に散発する出血性疾患について、止血スクリーニング検査でAPTT(部分活性トロンボプラスチン時間)のみが著しく延長する個体が報告され、このウシについて、各種凝固因子活性を測定したところ、FXI活性が重度に低下しており、FXI欠乏症である疑いがもたれた。また、系統調査によって、疾患牛は兵庫県の系統である田尻系及び菊美系である安美土井又は菊照土井の子孫であることが判明した。田尻系及び菊美系は全国有数の系統であり、全国的に子孫が多く生産されており、FXI欠乏症の全国レベルでの発生が強く疑われている。黒毛和種におけるFXI欠乏症の臨床的研究はあまり進んでおらず、症状等もあまり調査されていなが、ホルスタイン種で報告されている繁殖に関する症状が、もし黒毛和種においても確認され、全国的に伝播しているとすれば、黒毛和種の肉牛生産において大きな影響を与えているはずである。したがって、FXI欠乏症の原因遺伝子を保有するウシ(FXI欠乏症発症個体及びキャリア個体)を集団から排除することは重要である。
実施例2で同定されたエクソン3、エクソン9及びエクソン15のアミノ酸を伴う塩基置換のうち、いずれかの変異がFXI欠乏症に関与している可能性は高いが、いずれの変異がFXI欠乏症発症個体に特異的なものであるのか否かは確認されていない。エクソン3の変異が存在する部分は制限酵素Msl Iの認識部位、エクソン15の変異部分はSca Iの認識部位であり、これらの制限酵素で消化することで検出が可能である。また、エクソン9の変異はPCRで検出できる。そこで、実施例3では、全国各地の黒毛和種のゲノムDNAを用いて、どの変異がFXI欠乏症発症個体に特異的な変異であるかを、FXI活性値と対応させることにより確認するとともに、その変異を検出することにより遺伝子診断が可能であるか否かについて検討した。
1.材料と方法
黒毛和種のゲノムDNAは、A県の繁殖牛31頭(図3参照)、B県の検定・繁殖牛35頭(図4参照)、C県の検定・繁殖牛40頭(図5参照)、D県の種雄牛2頭(図6(A)参照)、E県の検定牛11頭(図6(B)参照)、合計119頭の血液から抽出して用いた。遺伝子型と対応させる止血スクリーニング検査とFXI活性値測定は、東京大学大学院小川研究室の池田美穂氏に依頼した。各ウシの止血スクリーニング検査の結果は図3〜6に示す通りであった。なお、図3〜6において、「PT」はプロトロンビン時間を、「APTT」は活性化部分トロンボプラスチン時間を表す。
(1)新鮮血液からのDNA抽出
3.8%クエン酸ナトリウムを含んだ血液10mlを2000回転、4℃の条件で15分間遠心分離し、血漿と赤血球の中間層に位置する白血球層を丁寧にとり、15mlチューブに移した。0.9%NaCl、1mM EDTA溶液に懸濁し、2×SDS buffer 1.5mlとプロテアーゼK(15.1mg/ml)27μlの入った15mlポリプロピレンチューブに少しずつ加え、55℃で12時間反応させた。1/20量の3M酢酸ナトリウム(pH5.5)、3mlのフェノール/クロロフォルムを加え、10分間ゆっくりと振とうし、2000回転、室温の条件で10分間遠心分離した。水層を15mlのチューブに回収し、3mlのクロロフォルムを加え、10分ゆっくりと振とうし、2000回転、室温の条件で10分間遠心分離した。水層を15mlチューブに回収し、2倍量のエタノールを加え、軽く撹拌し、DNAの凝集塊をすくいとって、1mlの70%エタノールを含む1.5mlチューブに移した。12000回転、4℃の条件で20分間遠心分離し、上清を捨て、減圧乾燥した。400μlのTEに溶解して濃度を測定し、50ng/μlに希釈した後、ゲノムDNAとして用いた。
(2)凍結血液からのDNA抽出
血液を解凍し、0.9%NaCl、1mM EDTA溶液と血液とを5:1の割合で混合し、2200回転、室温の条件で10分間遠心分離した。上清を捨て、0.9%NaCl、1mM EDTA溶液に懸濁し、2200回転、室温の条件で10分間遠心分離した後、再度上清を捨て、約1.5mlの0.9%NaCl、1mMEDTA溶液に懸濁し、2×SDS buffer 1.5ml及びプロテアーゼK(15.1mg/ml)27μlの入った15mlポリプロピレンチューブに少しずつ加え、55℃で12時間反応させた。以降は新鮮血液のDNA抽出と同様の操作を行い、ゲノムDNAとして用いた。
(3)エクソン3における塩基置換の多型解析
実施例2で設定したエクソン3を増幅できるプライマーを用いた。PCR反応液は、20ngのゲノムDNA、0.5μMの各プライマー、0.2mM dNTP、1×Taqバッファー、0.5U Taqポリメラーゼ(Amersham)及び滅菌蒸留水を含む合計10μlに調整した。PCR反応の条件は、95℃で5分間の熱変性後、95℃で30秒、60℃で30秒、72℃で30秒のサイクルを40サイクル行い、最後に72℃で10分間の伸長反応を行った。PCR反応物(3μl)、1×NEB2 Buffer、5U Msl Iを含む溶液を調整し、37℃で4時間以上反応を行った。その後、3% Nusieve 3:1 agarose(BMA)にて40分電気泳動を行い、エチジウムブロマイド溶液により染色した。
(4)エクソン15における塩基置換の多型解析
実施例2で設定したエクソン15を増幅できるプライマーを用いた。このプライマーを用い、上記と同様の方法でPCR反応を行い、PCR反応物(3μl)、1×Sca I Buffer、5U Sca Iを含む溶液を調整し、37℃で4時間以上反応を行った。その後、3% Nusieve 3:1 agarose(BMA)にて40分電気泳動を行い、エチジウムブロマイド溶液により染色した。
(5)エクソン9における塩基置換の多型解析
15塩基挿入部分を挟み、泳動距離によって15塩基の差をはっきりと検出するために、PCR産物のサイズをできるだけ小さくするようにプライマーを設定した。

このプライマーを用い、上記と同様の方法でPCR反応を行い、3% Nusieve 3:1 agarose(BMA)にて40分間電気泳動を行い、エチジウムブロマイド溶液により染色した。
2.結果
(1)エクソン3における塩基置換の多型解析
PCR増幅断片をMslIで処理した結果、正常個体では118bp、102bp、75bpのバンド、FXI欠乏症発症個体では193bp、102bpのバンド、キャリア個体では193bp、118bp、102bp、75bpのバンドが検出された。黒毛和種119頭について、エクソン3の遺伝子型とFXI活性値とを対応させたところ、矛盾する個体が多数認められた。
(2)エクソン15における塩基置換の多型解析
PCR増幅断片をScaIで処理した結果、正常個体では358bpのバンド、FXI欠乏症発症個体では280bp、78bpのバンド、キャリア個体では358bp、280bp、78bpのバンドが検出された。黒毛和種119頭について、エクソン15の遺伝子型とFXI活性値とを対応させたところ、矛盾する個体が多数認められた。
(3)エクソン9における塩基置換の多型解析
PCRの結果、正常個体95bp、発症個体110bp、キャリア個体では95bp、110bpのDNA断片が増幅され、3%Nusieve3:1agarose電気泳動によりこの2種類のバンドがはっきりと検出された(図7参照)。黒毛和種119頭のゲノムDNAについて、エクソン9の遺伝子型とFXI活性値とを対応させたところ、完全に一致していた(図3〜6参照)。なお、図3〜6の「FXI遺伝子診断」において、「−/−」は、「FXI遺伝子のエクソン9における塩基置換がいずれの相同染色体にも存在する」との診断結果を、「+/−」は、「FXI遺伝子のエクソン9における塩基置換がいずれか一方の相同染色体に存在する」との診断結果を、「+/+」は、「FXI遺伝子のエクソン9における塩基置換がいずれの相同染色体にも存在しない」との診断結果を表す。
以上に示す結果から、エクソン9の遺伝子型、すなわち、エクソン9における1塩基の16塩基への置換(1塩基置換+15塩基挿入)の有無に基づいて、正常個体、FXI欠乏症発症個体、キャリア個体を識別できることが明らかとなった。
【産業上の利用の可能性】
本発明によれば、ウシ血液凝固第XI因子、ウシ血液凝固第XI因子をコードする遺伝子、該遺伝子を含む組換えベクター、該組換えベクターを含む形質転換体及びウシ血液凝固第XI因子に対する抗体又はその断片が提供される。また、本発明によれば、ウシ血液凝固第XI因子をコードする遺伝子の遺伝的多型性を指標としたウシ血液凝固第XI因子欠乏症の診断方法及び診断用キットが提供される。本発明のウシ血液凝固第XI因子欠乏症の診断方法及び診断用キットによれば、被験ウシが正常個体、FXI欠乏症発症個体又はキャリア個体のいずれに該当するかを診断することができる。
【配列表】


























【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(a)又は(b)に示すアミノ酸配列からなり、血液凝固第XI因子活性を有するタンパク質。
(a)配列番号2記載のアミノ酸配列
(b)配列番号2記載のアミノ酸配列において、1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列
【請求項2】
請求項1記載のタンパク質をコードする遺伝子。
【請求項3】
下記(c)又は(d)に示すDNAを含む請求項2記載の遺伝子。
(c)配列番号1記載の塩基配列のうち356〜2230番目の塩基配列からなるDNA
(d)前記(c)に示すDNAと相補的なDNAにストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ血液凝固第XI因子活性を有するタンパク質をコードするDNA
【請求項4】
下記(e)又は(f)に示すアミノ酸配列において、290番目のアミノ酸PheがLeu−Tyr−Val−Gln−Asn−Ileで示されるアミノ酸配列に置換されたアミノ酸配列からなるタンパク質。
(e)配列番号2記載のアミノ酸配列
(f)配列番号2記載のアミノ酸配列において、62番目のアミノ酸Metのアミノ酸Leuへの置換、114番目のアミノ酸Metのアミノ酸Valへの置換、155番目のアミノ酸Hisのアミノ酸Argへの置換、219番目のアミノ酸Metのアミノ酸Valへの置換、及び615番目のアミノ酸Valのアミノ酸Leuへの置換のいずれか1以上の置換が加えられたアミノ酸配列
【請求項5】
請求項4記載のタンパク質をコードする遺伝子。
【請求項6】
下記(g)又は(h)に示す塩基配列において、1225番目の塩基cがatatgtgcagaatataで示される塩基配列に置換された塩基配列からなるDNAを含む請求項5記載の遺伝子。
(g)配列番号1記載の塩基配列のうち356〜2230番目の塩基配列
(h)前記(g)に示す塩基配列において、514番目の塩基cの塩基tへの置換、539番目の塩基aの塩基cへの置換、695番目の塩基aの塩基gへの置換、790番目の塩基cの塩基tへの置換、819番目の塩基aの塩基gへの置換、871番目の塩基aの塩基gへの置換、979番目の塩基cの塩基gへの置換、1010番目の塩基aの塩基gへの置換、1021番目の塩基tの塩基cへの置換、1978番目の塩基cの塩基aへの置換、2185番目の塩基cの塩基tへの置換、2197番目の塩基tの塩基cへの置換、及び2198番目の塩基gの塩基tへの置換のいずれか1以上の置換が加えられた塩基配列
【請求項7】
請求項2、3、5又は6記載の遺伝子を含む組換えベクター。
【請求項8】
請求項7記載の組換えベクターを含む形質転換体。
【請求項9】
請求項1又は4記載のタンパク質に反応し得る抗体又はその断片。
【請求項10】
請求項4記載のタンパク質のうち、Leu−Tyr−Val−Gln−Asn−Ileで示されるアミノ酸配列を含む領域に反応し得る抗体又はその断片。
【請求項11】
血液凝固第XI因子をコードする遺伝子のエクソン9において、5番目の塩基cがatatgtgcagaatataで示される塩基配列に置換されているか否かを指標として、被験ウシが血液凝固第XI因子欠乏症に罹患しているか否かを診断する工程を含むウシ血液凝固第XI因子欠乏症の診断方法。
【請求項12】
前記エクソン9のうち、5番目の塩基cを含む領域又はatatgtgcagaatataで示される塩基配列を含む領域を増幅し得るプライマーを用いて核酸増幅反応を行い、増幅断片の有無、塩基長又は塩基配列に基づいて、前記置換の有無を検出する請求項11記載の診断方法。
【請求項13】
下記(l)、(m)又は(n)に示すオリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドを含むウシ血液凝固第XI因子欠乏症の診断用キット。
(l)配列番号1記載の塩基配列のうち1225番目の塩基cに隣接する領域にハイブリダイズし得るオリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチド
(m)配列番号1記載の塩基配列のうち1225番目の塩基cを含む領域にハイブリダイズし得るオリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチド
(n)配列番号1記載の塩基配列において1225番目の塩基cがatatgtgcagaatataで示される塩基配列に置換された塩基配列のうち、atatgtgcagaatataで示される塩基配列の一部又は全部を含む領域にハイブリダイズし得るオリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチド
【請求項14】
下記(o)、(p)又は(q)に示すオリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドを含むウシ血液凝固第XI因子欠乏症の診断用キット。
(o)配列番号10記載の塩基配列のうち408番目の塩基cに隣接する領域にハイブリダイズし得るオリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチド
(p)配列番号10記載の塩基配列のうち408番目の塩基cを含む領域にハイブリダイズし得るオリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチド
(q)配列番号10記載の塩基配列において408番目の塩基cがatatgtgcagaatataで示される塩基配列に置換された塩基配列のうち、atatgtgcagaatataで示される塩基配列の一部又は全部を含む領域にハイブリダイズし得るオリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチド

【国際公開番号】WO2004/072114
【国際公開日】平成16年8月26日(2004.8.26)
【発行日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−505034(P2005−505034)
【国際出願番号】PCT/JP2004/001731
【国際出願日】平成16年2月17日(2004.2.17)
【出願人】(899000024)株式会社東京大学TLO (50)
【Fターム(参考)】