説明

ウフェナマート含有皮膚外用剤

【課題】強い抗炎症作用を持ちながら、患部の治癒を早める組織修復効果と血行促進作用による新陳代謝を促す効果を併せ持ち、さらに安定性と使用性に優れたウフェナマート含有皮膚外用剤を提供すること。
【解決手段】ウフェナマートとアラントインとトコフェロール酢酸エステルとを含有し、アラントインとウフェナマートとの質量比がアラントイン:ウフェナマート=1:1〜1:25であることを特徴とする皮膚外用剤である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はウフェナマートを含有する皮膚外用剤に関する。さらに詳しくは、ウフェナマートとアラントインとトコフェロール酢酸エステルとを含有し、主薬として強い抗炎症作用を持ちながら、患部の治癒を早める組織修復効果と血行促進作用による新陳代謝を促す効果を併せ持ち、さらに安定性と使用性に優れた皮膚外用剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ウフェナマート(別名:フルフェナム酸ブチル)は、医薬品の非ステロイド系抗炎症剤として皮膚疾患の治療に用いられている。
【0003】
しかしながら、ウフェナマートは水難溶性の薬剤のため、皮膚外用剤等の製剤中に安定に配合することは困難であった。
【0004】
これに対して、特許文献1にはウフェナマート含有乳化製剤の発明が開示されている。特許文献1記載の発明は、ウフェナマート及びをHLBが8〜15である乳化剤を含む油相中に水を加えて乳化させ、そのエマルジョン(乳化粒子)の平均粒子径が0.5μm以下の微細エマルジョンからなるO/W型乳化製剤を提供することによって、ウフェナマートを含有する製剤の安定化を図り、さらに患部に負担をかけることなく塗擦可能な良好な使用感を発揮させることを目的とするものである。
一方、特許文献2には、非ステロイド系消炎鎮痛剤等の薬効成分と、特定のアミド誘導体とを組み合わせて用いる皮膚外用剤が開示されている。そして、特定のアミド誘導体を組み合わせて用いる薬効成分として、ベンダザック、インドメタシン、ブフェキサマック、ウフェナマート、イブプロフェンピコノール、スプロフェン、フルフェナム酸ブチル、ビタミンA油、ジフェンヒドラミン、塩酸ジフェンヒドラミン、マレイン酸クロルフェニラミン、塩酸イソチペンジル、ジフェニルイミダゾール、硫酸クレミゾール、クロタミトン、グリチルレチン酸、グリチルリチン酸二カリウム、サリチル酸メチル、サリチル酸グリコール、アラントイン、グアイアズレン、ジクロフェナクナトリウム、イブプロフェン、ザルトプロフェン、ナプロキセン、フルルビプロフェン、フェンブフェン、メフェナム酸、ピロキシカム、アンピロキシカム、リシプフェン、テノキシカム、フェルビナク及びオルセノンから選ばれる1種又は2種以上の薬効成分が記載されている。
【0005】
しかしながら、特許文献2には、上記の如く、組み合わせ可能な多くの薬効成分が請求項1に例示されてはいるものの、ウフェナマートとアラントインの二種を配合する皮膚外用剤は具体的に記載されておらず、実施例においても、ウフェナマートとアラントインの二種を配合する皮膚外用剤は記載されていない。
また、特許文献2には、ウフェナマートとアラントインの二種を皮膚外用剤に配合する場合の配合比に関する記載もなく、さらに、ウフェナマートとアラントインの二種を配合する皮膚外用剤の製剤としての安定性や使用性についても、具体的に実施例にて検証されてはいない。なお、本発明の皮膚外用剤にはアミド誘導体を配合する必要なく、アミド誘導体は含有しない。
【0006】
従来、ウフェナマートを含有する皮膚外用剤は数多く存在するが、主薬としてウフェナマートの強い抗炎症作用を持ちながら、患部の治癒を早める組織修復効果と血行促進作用による新陳代謝を促す効果を併せ持ち、さらには優れた安定性と使用性をも有する皮膚外用剤は必ずしも存在しなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−97859号公報
【特許文献2】特開平11−302198号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、上述した観点に鑑み、ウフェナマートを含有する皮膚外用剤において、ウフェナマートを主薬として強い抗炎症作用を持ちながら、患部の治癒を早める組織修復効果と血行促進作用による新陳代謝を促す効果を併せ持ち、さらに安定性だけでなく使用性にも優れた皮膚外用剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明は、ウフェナマートとアラントインとトコフェロール酢酸エステルとを含有し、アラントインとウフェナマートとの質量比がアラントイン:ウフェナマート=1:1〜1:25であることを特徴とするウフェナマート含有皮膚外用剤を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の効果は、主薬有効成分として強い抗炎症作用をもつウフェナマートと組織修復作用をもつアラントインと血行促進作用による新陳代謝を促す作用をもつトコフェロール酢酸エステルとを配合することで、炎症治療に有効なだけでなく、患部の治癒を早める組織修復効果をも発揮し、かつ、優れた安定性と優れた使用性を有するウフェナマート含有皮膚外用剤を提供できたことである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
「ウフェナマート」
本発明に用いる(a)ウフェナマートは、非ステロイド系抗炎症剤として公知の医薬品であり、水難溶性の薬剤として知られている。
【0012】
<配合量>
(a)ウフェナマートの配合量は、皮膚外用剤全量に対して、1〜10質量%配合することが可能であり、好ましくは1〜7質量%、さらに好ましくは1〜5質量%である。
【0013】
「アラントイン」
本発明に用いるアラントインは組織修復剤として公知の水に溶けにくい薬剤として知られている。
【0014】
<配合量>
アラントインの配合量は、皮膚外用剤全量に対して、0.2〜5質量%配合することが可能であり、好ましくは0.25〜5質量%である。
本発明においては、アラントインとウフェナマートとの配合量の質量比が、アラントイン:ウフェナマート=1:1〜1:25でなければならない。
この質量比の範囲を外れると、使用性を損なう可能性がある。また、低温(−5℃)での安定性を損なう場合がある。
好ましくはアラントイン:ウフェナマート=1:1〜1:20である。
【0015】
「トコフェロール酢酸エステル」
本発明に用いるトコフェロール酢酸エステルは、酢酸dl−α−トコフェロール、ビタミンE酢酸エステルとも言われ、本発明においては「血行促進作用による新陳代謝を促す」作用を発揮する。
<配合量>
トコフェロール酢酸エステルの配合量は、皮膚外用剤全量に対して、0.1〜5.0質量%を配合することが可能であり、好ましくは0.3〜3.0質量%である。
【0016】
本発明の皮膚外用剤には、薬効成分として、リドカイン又はその塩、グリチルリチン酸又はその塩、グリチルレチン酸、ジフェンヒドラミン又はその塩、マレイン酸クロルフェニラミン、塩化ベンゼトニウム、イソプロピルメチルフェノール、クロタミトン、酸化亜鉛、dl−カンフル、l−メントール、塩酸ピリドキシン、ビタミンA油、パルミチン酸レチノール、パンテノール、γ−オリザノールからなる群から選択される1種又は2種以上の薬効成分を配合することが可能である。
これらの薬効成分の配合量は適宜決定されるが、皮膚外用剤全量に対して、合計で0.01〜30質量%配合することが可能であり、好ましくは0.05〜25質量%、さらに好ましくは0.1〜25質量%である。
【0017】
本発明は上記必須の薬効成分の他に、皮膚外用剤の製剤を構成する油分、油溶性成分、水、水溶性成分、界面活性剤等を配合して、常法により任意の剤型を有する皮膚外用剤を製造することが可能である。
【0018】
本発明の皮膚外用剤に配合可能な油分は特に限定されないが、油溶性薬剤を溶解し、その剤型が乳化組成物の場合には油相を構成する油分を配合する。例えば、油脂、ロウ、炭化水素油、植物油、高級脂肪酸、高級アルコール、合成エステル油、シリコーン油等が挙げられる。
具体的には、マイクロクリスタリンワックス、ミツロウ等の固形油分、白色ワセリン、黄色ワセリン等の半固形油分、流動パラフィン、スクワラン、各種シリコーン油等の非極性流動油分、ミリスチン酸イソプロピルやトリイソオクタン酸グリセリンなどの極性油分等が配合可能である。
油分の配合量は、剤型に応じて適宜決定されるが、皮膚外用剤全量に対して、0.001〜95質量%配合することが可能であり、好ましくは0.01〜75質量%、さらに好ましくは0.1〜50質量%である。
【0019】
本発明の皮膚外用剤の剤型は特に限定されず、常法により、乳化組成物、油状組成物、二層組成物、ジェル状組成物等の任意の剤型にすることが可能である。
安定性と使用性の観点から、任意の界面活性剤と油分と水とを配合して、水中油型乳化組成物又は油中水型乳化組成物とするのが好ましく、特に好ましくは水中油型乳化組成物からなる皮膚外用剤である。
本発明の皮膚外用剤の剤型が水中油型乳化組成物又は油中水型乳化組成物の場合、用いる界面活性剤は特に限定されず、適宜、任意の界面活性剤が配合されるが、アニオン界面活性剤や非イオン性界面活性剤を使用することが好ましい。
界面活性剤の配合量は適宜決定されるが、皮膚外用剤全量に対して、0.001〜20質量%配合することが可能であり、好ましくは0.01〜10質量%、さらに好ましくは0.1〜5質量%である。
【0020】
本発明の剤型が水中油型乳化組成物又は油中水型乳化組成物の場合、水の配合量は適宜決定されるが、皮膚外用剤全量に対して、0.001〜95質量%配合することが可能であり、好ましくは0.01〜80質量%、さらに好ましくは0.1〜75質量%である。
本発明においては、水性成分として、グリセリン、1,3−ブチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ヒアルロン酸ナトリウム、ポリクオタニウム−51、エタノール等を適宜配合することが出来る。
【0021】
本発明のウフェナマート含有皮膚外用剤には、上記必須成分の他に、本発明の効果を妨げない範囲で、必要に応じ、各種有効成分、粉末、保湿剤、金属イオン封鎖剤、低級アルコール、多価アルコール、増粘剤、pH調節剤、安定化剤、酸化防止剤、防腐剤、香料等を適宜配合し、剤型に応じて、常法により製造することができる。
【実施例】
【0022】
本発明について以下に実施例を挙げてさらに詳述するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。配合量は特記しない限り質量%である。
【0023】
<「表1」に示す皮膚外用剤の製法>
油相成分に、ウフェナマートとトコフェロール酢酸エステル、界面活性剤のポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(100)を加熱溶解したものと、水相成分にアラントインを配合したものとを、乳化機に徐添加し乳化処理を行って、常法により水中油型乳化組成物からなる皮膚外用剤(乳液)を調製した。
【0024】
<塗布中の使用性評価(みずみずしさ、べたつきのなさ)>
専門パネル(5名)により「表1」の皮膚外用剤の実使用試験を行った。皮膚外用剤を前腕の皮膚に塗布した際の使用性評価を下記評価基準によって評価した。
<評価基準>
◎:パネル5名が、みずみずしく、べたつかないと答えた。
○:パネル4〜3名が、みずみずしく、べたつかないと答えた。
△:パネル2〜1名が、みずみずしく、べたつかないと答えた。
×:パネル0名が、みずみずしく、べたつかないと答えた。
【0025】
<塗布後の使用性評価(油っぽくない、さらさら感がある)>
専門パネル(5名)により「表1」の皮膚外用剤の実使用試験を行った。皮膚外用剤を前腕の皮膚に塗布した際の使用性評価を下記評価基準によって評価した。
<評価基準>
◎:パネル5名が、油っぽくなく、さらさら感があると答えた。
○:パネル4〜3名が、油っぽくなく、さらさら感があると答えた。
△:パネル2〜1名が、油っぽくなく、さらさら感があると答えた。
×:パネル0名が、油っぽくなく、さらさら感があると答えた。
【0026】
<製剤安定性>
「表1」の皮膚外用剤を50℃の恒温槽に保存して、製造直後から1ヶ月後の外観変化を目視により判定し、下記評価基準によって評価した。
<評価基準>
○:分離、離漿、沈殿等、何らの変化も観察されなかった。
×:分離、離漿、沈殿等、何らかの変化が観察された。











【0027】
【表1】

【0028】
上記の結果から、ウフェナマートとアラントインとトコフェロール酢酸エステルとを一定量で配合した実施例1〜6は、製剤安定性と使用性に優れていることが分かる。
一方、ウフェナマートとトコフェロール酢酸エステルを配合し、アラントインを配合しない比較例1は、塗布中及び塗布後の使用性が悪化することが分かる。
【0029】
以下に本発明のその他の実施例(処方例)を挙げる。いずれも、製剤安定性と使用性に優れたウフェナマート含有皮膚外用剤である。
【0030】
〔処方例1:湿疹皮膚炎用クリーム〕
配合成分 質量%
ウフェナマート 7.0
アラントイン 2.0
塩酸ピリドキシン 0.1
トコフェロール酢酸エステル 0.3
流動パラフィン 5.0
シリコーン油 2.0
トリイソオクタン酸グリセリン 5.0
ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(60) 2.0
モノステアリン酸グリセリン 3.0
ステアリルアルコール 3.0
ベヘニルアルコール 0.5
エチルパラベン 0.3
グリセリン 15.0
1,3ブチレングリコール 10.0
コラーゲン 0.5
ヒアルロン酸ナトリウム 0.1
水酸化ナトリウム 0.05
水 残余
<製造方法>
実施例1の製法に準じて、常法により、水中油型乳化組成物からなる湿疹皮膚炎用クリームを調製する。
【0031】
〔処方例2:かゆみ止めクリーム〕
配合成分 質量%
ウフェナマート 5.0
アラントイン 0.5
グリチルレチン酸 0.3
ジフェンヒドラミン 1.0
塩化ベンゼトニウム 0.01
トコフェロール酢酸エステル 2.0
白色ワセリン 2.0
マイクロクリスタリンワックス 0.5
スクワラン 7.0
ミリスチン酸イソプロピル 1.0
ステアリン酸ポリオキシル40 1.5
ステアリン酸モノグリセリル(自己乳化型) 2.5
ステアリルアルコール 3.0
セタノール 0.5
ポリエチレングリコール1500 3.0
プロピレングリコール 5.0
クエン酸 0.1
クエン酸ナトリウム 0.15
EDTA−2Na 0.05
メチルパラベン 0.05
フェノキシエタノール 0.5
ポリクオタニウム−51 1.0
カルボキシビニルポリマー 0.05
水酸化カリウム 0.01
水 残余
<製造方法>
実施例1の製法に準じて、常法により、水中油型乳化組成物からなるかゆみ止めクリームを調製する。
【0032】
〔処方例3:抗炎症用乳液〕
配合成分 質量%
ウフェナマート 3.0
グリチルレチン酸 0.1
トコフェロール酢酸エステル 3.0
アラントイン 1.0
ビタミンA油 0.5
γ−オリザノール 5.0
オリブ油 3.0
軽質流動パラフィン 4.0
ポリオキシエチレンベヘニルエーテル(20) 1.0
ステアリン酸モノグリセリル 0.5
ジメチルシロキサン・メチル(POE)シロキサン共重合体 2.0
環状シリコーン 0.5
ステアリルアルコール 0.5
ベヘニルアルコール 2.5
グリセリン 7.0
ポリエチレングリコール20000 0.5
フェノキシエタノール 0.3
エチルパラベン 0.2
酒石酸 0.05
酒石酸ナトリウム 0.1
セラミド 0.01
アセチル化ヒアルロン酸Na 0.001
カルボキシビニルポリマー 0.5
トリエタノールアミン 0.1
水 残余
<製造方法>
実施例1の製法に準じて、常法により、水中油型乳化組成物からなる抗炎症用乳液を調製する。
【0033】
〔処方例4:抗炎症用W/Oクリーム〕
配合成分 質量%
ウフェナマート 5.0
アラントイン 0.3
トコフェロール酢酸エステル 0.5
流動パラフィン 12.0
ジメチルポリシロキサン 3.5
ミリスチン酸イソプロピル 2.0
白色ワセリン 1.5
マイクロクリスタリンワックス 0.3
ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(5) 5.0
セスキオレイン酸ソルビタン 0.6
ポリエーテル変性シリコーン 0.6
プロピレングリコール 5.0
グリセリン 8.0
マクロゴール6000 1.0
ブチルパラベン 0.1
グルタミン酸ナトリウム 2.0
エデト酸ナトリウム 0.03
デキストリンパルミチン酸エステル 1.5
水 残余
<製造方法>
常法により、油中水型乳化組成物からなる抗炎症用W/Oクリームを調製する。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明によれば、ウフェナマートとアラントインとトコフェロール酢酸エステルとを含有し、強い抗炎症作用を持ちながら、患部の治癒を早める組織修復効果と血行促進作用による新陳代謝を促す効果を併せ持ち、さらに安定性と使用性に優れた皮膚外用剤を提供できる。本発明のウフェナマート含有皮膚外用剤は、新規有用な皮膚外用剤として利用価値が大きい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウフェナマートとアラントインとトコフェロール酢酸エステルとを含有し、アラントインとウフェナマートとの質量比がアラントイン:ウフェナマート=1:1〜1:25であることを特徴とするウフェナマート含有皮膚外用剤。

【公開番号】特開2012−224550(P2012−224550A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−90557(P2011−90557)
【出願日】平成23年4月15日(2011.4.15)
【出願人】(000001959)株式会社 資生堂 (1,748)
【Fターム(参考)】