説明

ウランの濃縮方法

【課題】235Uを濃縮する技術を提供する。
【解決手段】235Uと他のウラン同位体のフルオロウラネートアニオンあるいはオキソフルオロウラネートアニオンとイオン液体性カチオンから構成されるイオン液体を含む電解液を用いて電気分解を行い、235Uのフルオロウラネートアニオンあるいはオキソフルオロウラネートアニオンを濃縮することを特徴とする、235Uに富むフルオロウラネートアニオンあるいはオキソフルオロウラネートアニオンの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、235Uの濃縮方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エネルギー資源の乏しいわが国においては、エネルギー安全保障上の観点からも原子力エネルギー利用の既存技術の改良とともに、新技術を開発していくことが必要である。この国策にそって、ウラン濃縮の新技術開発は,今後長期的観点に立った開発の進め方が求められるとともに,さらに一層の経済性向上が要求されている。
【0003】
ウラン濃縮法は電磁分離法に始まり,ガス拡散法,ノズル分離法,化学法,イオン交換法,遠心分離法,プラズマ法,レーザー法など多種多様な方法が考案,研究,開発されているが,これまで商用化されたのは平衡状態における同位体分布の差を利用する統計的分離法(ガス拡散法と遠心分離法)のみであり、特にわが国では遠心分離法のみが実用化されている。新たな分離法の一例であるレーザー法は,原子,分子の光吸収における同位体差を利用し,目的の同位体のみを分離する個別的分離法にあたり,高い分離係数が得られる方法として,レーザー発振が発見された頃から有望なウラン濃縮法として注目されてきた(特許文献1-2)。わが国では気体UF6中の235UF6をレーザーにより選択的に振動励起することによりU-F結合を切断し、235Uを固体のUF5として回収する分子レーザー法の研究が進められ、既存法に比べきわめて高い分離係数を達成している。しかしながら未だ工学実証試験に入ったばかりであり,コストが高いため商業化を判断できる段階にはない。
【特許文献1】特開平07-187679号公報
【特許文献2】特開平09-031564号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、実用的な235Uの濃縮技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題に鑑み検討を重ねた結果、235Uを含むウラン混合物において、235Uのフルオロウラネートを含むイオン液体とし、これを電解液に用いて電気分解を行うことで、235Uのフルオロウラネートアニオンあるいはオキソフルオロウラネートアニオンが濃縮されることを見出した。
【0006】
本発明は、以下の235Uの濃縮方法及び235Uを含むイオン液体に関する。
項1. 235Uと他のウラン同位体のフルオロウラネートアニオンあるいはオキソフルオロウラネートアニオンとイオン液体性カチオンから構成されるイオン液体を含む電解液を用いて電気分解を行い、235Uのフルオロウラネートアニオンあるいはオキソフルオロウラネートアニオンを濃縮することを特徴とする、235Uに富むフルオロウラネートアニオンあるいはオキソフルオロウラネートアニオンの製造方法。
項2. ウラン同位体が235Uの他に238Uおよび234Uからなる群から選ばれる少なくとも1種を含み、235Uのフルオロウラネートアニオンあるいはオキソフルオロウラネートアニオンを238Uおよび234Uからなる群から選ばれる少なくとも1種のフルオロウラネートアニオンあるいはオキソフルオロウラネートアニオンから濃縮することを特徴とする、項1に記載の方法。
項3. フルオロウラネートアニオンあるいはオキソフルオロウラネートアニオンがUF、UF、UF2−、UOF、UO、UOF、UO、またはUOF2−である、項1または2に記載の方法。
項4. フルオロウラネートアニオンあるいはオキソフルオロウラネートアニオンがUFである、項1または2に記載の方法。
項5. 項1〜4のいずれかに記載の方法において得られた235Uに富むフルオロウラネートアニオンあるいはオキソフルオロウラネートアニオンについて、電気分解による235Uのフルオロウラネートアニオンあるいはオキソフルオロウラネートアニオンの濃縮工程を繰り返して、235Uの濃縮の程度をさらに高めることを特徴とする、235Uに富むフルオロウラネートアニオンあるいはオキソフルオロウラネートアニオンの製造方法。
項6. 項1〜5のいずれかに記載の方法により濃縮された235Uのフルオロウラネートアニオンあるいはオキソフルオロウラネートアニオン又はそれを含む塩を焼成することを特徴とする、235Uに富むUOの製造方法。
項7. 235UFと1-エチル-3-メチルイミダゾリウムまたは1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムの塩からなるイオン液体。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、235Uを238Uまたは234Uのような非常に性質の似た同位体から高効率かつ実用的な方法で分離・濃縮することができる。本発明の濃縮法を2回以上必要な回数だけ濃縮することにより、235Uを必要なレベルまで高めることができる。
【0008】
本発明によりこれらの235U製造プロセスに革新的な展開が期待でき、原子力産業の分野に対するインパクトも大きいものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の特徴は、フルオロウラネートアニオンあるいはオキソフルオロウラネートアニオンを含むイオン液体(図1)を応用して、電気化学的手法に基いた新しいウラン濃縮技術を提供することにある。より具体的には、本発明の方法は、フルオロウラネートアニオンあるいはオキソフルオロウラネートアニオン中のウラン原子の質量差によるイオンの泳動速度の違いを利用することにより、238U及び/又は234Uが共存する系において235Uを濃縮することを特徴としている。
【0010】
本発明において分離の対象となるウランの同位体に関し、天然に存在するものは238U:99.274%、235U:0.7205%、234U:0.0056%の3種類のみである。このうちの235Uを濃縮して原子力発電に利用している。
【0011】
本発明において、フルオロウラネートアニオンあるいはオキソフルオロウラネートアニオンとしては、UF、UF、UF2−、UOF、UO、UOF、UO、またはUOF2−が挙げられる。
【0012】
これらのフルオロウラネートアニオンあるいはオキソフルオロウラネートアニオンは、以下のように公知の方法に従い製造できる。すなわち、フルオロハイドロジェネート塩((FH)nF-塩)とウランフッ化物または酸フッ化物(UOxFy)との反応により錯塩(UOxFy+1-)を得る。本発明者らは、すでにこの方法でNb、Ta、Mo、W、Uのフルオロ錯体ならびにオキソフルオロ錯体のイオン液体の合成に成功しており(文献[1]〜[3] )、同じ手法を適用することができる。
[1] K. Matsumoto, R. Hagiwara, Y. Ito, J. Fluor. Chem., 115, No. 2, 133-135 (2002).
[2] K. Matsumoto, R. Hagiwara, R. Yoshida, Y. Ito, Z. Mazej, P. Benkic, B. Zemva, O. Tamada, H. Yoshino, S. Matsubara, J. Chem. Soc., Dalton Trans., 2004, No. 1, 144-149.
[3] K. Matsumoto, R. Hagiwara, J. Fluorine Chem., 126, No. 7, 1095-1100 (2005).

Cat+(FH)nF-+ UOxFy → Cat+UOxFy+1- + nHF (1)
(X=0,1,2、Y=4〜7、nは1以上の整数、Cat+は以下の(Ia)〜(If)で表されるいずれかの有機オニウムイオン)
原料となるウランフッ化物(UFy、x=0)、酸化フッ化物(UOxFy、x=1,2、y=1-4)は、酸化ウランUO2のフッ素化により調製する。以下の(2)〜(4)はUF6、UF5、UF4を製造するための反応例である。
UO2 + 4HF → UF4 + 2H2O (2)
UF4 + F2 → UF6 (3)
2UF6 + CO → 2UF5 + COF2 (4)
UF5 はCat+(FH)nF-と反応させることにより、Cat+UF6で表されるイオン液体に導くことができる。同様にUF6はCat+(FH)nF-と反応させることによりCat+UFで表されるイオン液体に導くことができる(ここで、nは1以上の整数であり、Cat+は以下の(Ia)〜(If)で表されるいずれかの有機オニウムイオンである)。
【0013】
イオン液体は比較的かさ高い有機カチオンと有機、無機アニオンを組み合わせた、低温で液体状態を呈するイオン性物質で、一種の溶融塩であり、イオン導電性を有する。
【0014】
フルオロウラネートアニオンあるいはオキソフルオロウラネートアニオンと組み合わせてイオン液体を形成可能なカチオン(有機オニウムイオン)として、アンモニウム、グアニジニウム、フォスフォニウム、オキソニウム、スルホニウムが例示され、好ましくはアンモニウム、グアニジニウム、フォスフォニウム、スルホニウム、より好ましくはアンモニウム、グアニジニウム、フォスフォニウム、特に好ましくはアンモニウムが挙げられる。
【0015】
有機オニウムイオンは、1種のみを使用してもよいが、2種以上の有機オニウムイオンを組み合わせることで、さらにイオン液体の融点をさらに低下させ、さらに粘度を下げることが可能である。
【0016】
また、イオン液体のアニオンとしては、フルオロウラネートアニオンあるいはオキソフルオロウラネートアニオンを使用するが、フルオロウラネートアニオンあるいはオキソフルオロウラネートアニオンが主成分である限り、他のアニオンを配合することもできる。
【0017】
各有機オニウム化合物を以下に例示する:
(1)一般式(Ia)または(Ib)で表されるアンモニウム
[R−NR (Ia)
【0018】
【化1】

〔式(Ia),(Ib)中、R,R,Rは、同一又は異なって、水素原子、アルキル基、ハロアルキル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、ポリエーテル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいアラルキル基、アルコキシアルキル基または複素環基を示し、式(Ia)においてR及びR、RとRの一方又は両方は、それらが結合している窒素原子と一緒になって5〜8員環の置換されていてもよい含窒素複素環基を形成してもよい。
【0019】
はアルキル基、ハロアルキル基、アルコキシ基、ポリエーテル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいアラルキル基またはアルコキシアルキル基または揮発性有機溶媒に由来する基を示す。〕
(2)一般式(Ic)で表されるグアニジニウム
【0020】
【化2】

(式中、R,Rは、式(Ia)における定義と同じである。ただし、2つのR,2つのRは、それらが結合する窒素原子と一緒になって5〜8員環の置換されていてもよい含窒素複素環基を形成してもよい。)
(3)一般式(Id)で表されるフォスフォニウム
[R−PR (Id)
〔式中、R,R,R、Rは、式(Ia)における定義と同じである。但し、R及びR、R及びRはリン原子と一緒になって5〜8員環の置換されていてもよい含リン複素環基を形成してもよい。〕
(4)一般式(Ie)で表されるオキソニウム
[R−OR (Ie)
〔式中、R,R,Rは、式(Ia)における定義と同じである。但し、R及びRは酸素原子と一緒になって5〜8員環の置換されていてもよい含酸素複素環基を形成してもよい。〕
(5)一般式(If)で表されるスルホニウム
[R−SR (If)
〔式中、R,R,Rは、式(Ia)における定義と同じである。但し、R及びRは硫黄原子と一緒になって5〜8員環の置換されていてもよい含硫黄複素環基を形成してもよい。〕
なお、有機オニウム化合物としては、有機オニウムカチオンと、ハロゲンイオン、硝酸イオン、硫酸イオン、リン酸イオン、過塩素酸イオン、メタンスルホン酸イオン、トルエンスルホン酸イオンなどのアニオンとの組み合わせが例示される。
【0021】
イオン液体を製造する場合、フルオロウラネートアニオンあるいはオキソフルオロウラネートアニオン(例えば銀塩、カルシウム塩、バリウム塩)と有機オニウムイオン(例えばハロゲン化物塩、硫酸塩)の各カウンターイオンによりハロゲン化銀、硫酸バリウム、硫酸カルシウムなどの難溶性塩を形成させて除去するようにしてもよい。
【0022】
あるいは、イオン交換によりこれらのフルオロウラネートアニオンあるいはオキソフルオロウラネートアニオンと有機オニウムイオンのHとOHの塩を形成し、これらを混合してイオン液体としてもよい。
【0023】
アルキル基としては、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、sec−ブチル、イソブチル、t-ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ヘキサデシル、オクタデシル、エイコシルなどの炭素数1〜20の直鎖又は分枝を有するアルキル基が挙げられる。
【0024】
ハロアルキル基としては、上記アルキル基の水素原子の少なくとも1つがハロゲン原子(塩素、臭素、フッ素、ヨウ素)、特にフッ素原子で置換された炭素数1〜20のハロアルキル基が挙げられる。
【0025】
アルコキシ基としては(O−上記アルキル)構造を有する炭素数1〜20の直鎖又は分枝を有するアルコキシ基が挙げられる。
【0026】
アルキルチオ基としては、(S−上記アルキル)構造を有する炭素数1〜20の直鎖又は分枝を有するアルコキシ基が挙げられる。
【0027】
アリール基としては、フェニル基、トルイル基、キシリル基、エチルフェニル基、1,3,5−トリメチルフェニル基、ナフチル基、アントラニル基、フェナンスリル基などの炭素数6〜14のアリール基が挙げられる。
【0028】
アラルキル基としては、ベンジル、フェネチル、ナフチルメチルなどの炭素数7〜15のアラルキル基が挙げられる。
【0029】
アルコキシアルキル基のアルコキシ基及びアルキル基は前記と同様であり、直鎖又は分枝を有する炭素数1〜20アルコキシ基で置換された直鎖又は分枝を有する炭素数1〜20のアルキル基が挙げられ、特にメトキシメチル基(CH2OCH3)、メトキシエチル基(CH2CH2OCH3)、エトキシメチル基(CH2OCH2CH3)、エトキシエチル基(CH2CH2O CH2CH3)が例示される。
【0030】
ポリエーテル基としては、-(CH2)n1-O-(CH2CH2O)n2-( C1-C4アルキル)、または、-(CH2)n1-O-(CH2CH(CH3)O)n2-(C1-C4アルキル)で表される基が挙げられ、n1は1〜4の整数、n2は1〜4の整数、C1-C4アルキルとしては、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチルが例示される。
【0031】
また、RとRは、これらが結合している窒素原子と一緒になって、5〜8員環、好ましくは5員環または6員環の含窒素複素環基(ピロリジニウム、ピペリジニウム、ピロリニウム、ピリジニウム等)を形成してもよい。
【0032】
アリール基、アラルキル基の置換基としては、ハロゲン原子(F、Cl、Br、I)、水酸基、メトキシ基、ニトロ基、アセチル基、アセチルアミノ基などが挙げられる。
前記アルキル基、アルケニル基の任意の位置のC−C単結合の間に−O−、−COO−、−CO−、を1個または複数個介在させて、エーテル、エステルまたはケトン構造としてもよい。
本発明のフルオロウラネートアニオンあるいはオキソフルオロウラネートアニオンを含むイオン液体は、電気分解の電解液として使用する。電気分解の電極は、例えばアノードとカソードに銀、銅、亜鉛、ニッケル、クロム、カドミウム、鉄、スズ、白金、リチウム、などの金属が挙げられる。電気分解の2つの電極は、同じ金属を用い、アノードから金属イオンが電解液中に溶出し、カソードにおいて該金属が析出する電気分解系が好ましく例示される。この際、当該金属イオンを、あらかじめ電解液に加えておくのが好ましい。金属塩は、アニオンの種類に応じて硝酸塩、塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、酢酸塩、炭酸塩、フッ化水素酸塩、過塩素酸塩、フルオロホウ酸塩、フルオロリン酸塩、アミド塩、トリフラート塩などが挙げられる。
本発明の好ましい電気分解による235Uアニオンの濃縮システムの概念図を図1に示す。
【0033】
図1に示すようにウランを中心原子とする錯アニオン(フルオロウラネートアニオンあるいはオキソフルオロウラネートアニオン)からなるイオン液体中をU字セルに入れ、一例として2本の銀電極を配置する。この際イオン液体中には銀イオンを含む塩を溶かしておく。溶かしておく金属イオンは、電極の金属に合わせることになるので、例えば電極として亜鉛板を用いた場合には、亜鉛イオンを含む塩を電解液(イオン液体)中に溶かしておくことになる。いま、電極反応として起こるのはアノードでの銀の溶出(酸化)とカソードでの銀の析出(還元)だけであるが、通電すれば他のイオンも電場により動く(電気泳動)。アニオンはアノードに向かって移動し、カチオンはカソードに向かって移動する。しかしながら重力などにより液体全体は元の方向に戻る。イオン液体のアニオンとしてUF6- を例にとると、質量数の小さい235Uが中心原子である235UF6- イオンは質量数の大きい238Uが中心原子である238UF6- イオンよりも速く動く。しかしながら重力などによる塩全体の逆方向への流れ(向流)には同位体による差はないから次第に235UF6- イオンがアノード室(アノードの近傍)に、238UF6-がカソード室(カソードの近傍)に濃縮されてくる。
【0034】
本発明の電気分解は、高電圧かつ低電流で行うことで、質量差によるアニオン(235UF6-238UF6-234U)の移動速度の差を大きくし、235UF6-の分離・濃縮を行う。この際、電解槽の形状は、キャピラリーのような細長い形状(例えばキャピラリー)が、フルオロウラネートアニオンあるいはオキソフルオロウラネートアニオンのウラン同位体の分離に好適である。電解槽のイオンの移動経路が相対的に短い場合、細長い経路を確保するために複数のキャピラリーを束ねた構造物を電解槽のイオンの移動経路(2つの電極の間)に置くことで、細長い形状の電解槽と同様に同位体の分離が促進され、かつ、濃縮された同位体が濃度勾配によって移動し、濃縮の程度が低下することを抑制できる。なお、同位体の濃縮の程度は、電解液をサンプリングし、質量分析を行うことにより確認できる。
【0035】
電気分解の温度は、0℃〜60℃程度、好ましくは5℃〜50℃程度、より好ましくは10℃〜40℃程度、さらに好ましくは15℃〜30℃程度、最も好ましくは室温程度の温度である。電気分解の電圧は、0V〜100kV、好ましくは10〜10kV、より好ましくは100〜1kVであり、通電時間は、100〜1000時間、好ましくは200〜500時間である。時間の経過と共に、235Uのフルオロウラネートイオンと他の共存する238Uのフルオロウラネートイオンとが分離されてくる。質量数の小さいイオン(235U)は移動が早く、図1ではアノード室に濃縮され、質量数の大きいイオン(238U)は移動が遅く、図1ではカソード室に濃縮される。なお、234Uと235Uの分離では、質量数の小さいイオン(234U)は移動が早く、図1ではアノード室に濃縮され、質量数の大きいイオン(235U)は移動が遅く、図1ではカソード室に濃縮され、235Uと238Uの分離の場合と比較して235Uが異なる電極側に濃縮されることになる。
【0036】
濃縮された各フルオロウラネートイオンは、例えばアノード室あるいはカソード室の下に設けられた取出口(図示せず)から系外に取り出される。
【0037】
濃縮された目的の235Uのフルオロウラネートイオンは、1回のみの濃縮を行って実用化される場合もあり得るが、2回以上、必要な回数だけ電気分解を用いた濃縮プロセスを繰り返すことにより、235Uのフルオロウラネートイオンはさらに濃縮することができる。本発明の好ましい実施形態では必要な回数だけ濃縮プロセスを繰り返す。
【0038】
このイオン液体を用いる電気泳動法による同位体分離において特徴的なことは、向流が自然に生じることである。イオン液体系の電気泳動法が水溶液系のそれに比べて優れている点は、向流操作が非常に簡単で、導電率が高いために同位体間の泳動速度差が大きくなることである。しかしながら、通常の溶融塩では高温で操作しなければならず、装置の腐食が起こりやすく、材料の制限があることなどの問題点があり、これまで実用化には至っていない。イオン液体は室温ないしそれに近い温度(例えば50℃以下、好ましくは40℃以下、より好ましくは30℃以下で液体状態となり、また熱安定性を付与すれば、腐食の起こらない中低温での長時間操作が可能になり、溶融塩法の欠点がほぼ解消され、きわめて高い経済性が期待できる。本発明で用いられるイオン液体フルオロウラネートでは、ウラン錯アニオンの配位子であるフッ素原子の安定同位体が事実上質量数19のもののみである点が、ウラン同位体の質量数に基づく同位体の分離のために重要である。
【実施例】
【0039】
以下、本発明を実施例に基づきより詳細に説明する。
実施例1:イオン液体の製造
本実施例で製造されたイオン液体を以下に示す。
【0040】
【化3】

上記イオン液体は、以下のようにして製造した。なお、UFは、235Uと238Uの両方について製造した。これは、235Uと238Uの両方を天然のウランと同様な比率で含むUOを用いて、以下の反応式に従い製造することで実施した。
UO2 + 4HF → UF4 + 2H2O (2)
UF4 + F2 → UF6 (3)
2UF6 + CO → 2UF5 + COF2 (4)
具体的な製造条件は、文献G.W. Halstead, P.G. Eller, Inornganic Syntheses (1982)、Vol. 21, pp.162-167に記載された条件と同様であった。
【0041】
イオン液体は、1-エチル-3-メチルイミダゾリウム(EMIm)の(FH)nF塩、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウム(BMIm)の(FH)nF塩、とUF5を反応させることにより製造した。
【0042】
得られたEMIm・UF6及びBMIm・UF6の物性値を以下に示す。なお、密度、粘性率、導電率は室温(25℃)での測定値である。
【0043】
【表1】

M.W.: 分子量, Tm: 融点, Tg: ガラス転移温度, ρ: 密度, η: 粘性率, σ: イオン導電率, n.d.: 検出されず
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】イオン液体ウラン化合物を用いた同位体分離の原理図
【図2】EMIm・UF6のサイクリックボルタングラムを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
235Uと他のウラン同位体のフルオロウラネートアニオンあるいはオキソフルオロウラネートアニオンとイオン液体性カチオンから構成されるイオン液体を含む電解液を用いて電気分解を行い、235Uのフルオロウラネートアニオンあるいはオキソフルオロウラネートアニオンを濃縮することを特徴とする、235Uに富むフルオロウラネートアニオンあるいはオキソフルオロウラネートアニオンの製造方法。
【請求項2】
ウラン同位体が235Uの他に238Uおよび234Uからなる群から選ばれる少なくとも1種を含み、235Uのフルオロウラネートアニオンあるいはオキソフルオロウラネートアニオンを238Uおよび234Uからなる群から選ばれる少なくとも1種のフルオロウラネートアニオンあるいはオキソフルオロウラネートアニオンから濃縮することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
フルオロウラネートアニオンあるいはオキソフルオロウラネートアニオンがUF、UF、UF2−、UOF、UO、UOF、UO、またはUOF2−である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
フルオロウラネートアニオンがUFである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の方法において得られた235Uに富むフルオロウラネートアニオンあるいはオキソフルオロウラネートアニオンについて、電気分解による235Uのフルオロウラネートアニオンあるいはオキソフルオロウラネートアニオンの濃縮工程を繰り返して、235Uの濃縮の程度をさらに高めることを特徴とする、235Uに富むフルオロウラネートアニオンあるいはオキソフルオロウラネートアニオンの製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の方法により濃縮された235Uのフルオロウラネートアニオンあるいはオキソフルオロウラネートアニオン又はそれを含む塩を焼成することを特徴とする、235Uに富むUOの製造方法。
【請求項7】
235UFと1-エチル-3-メチルイミダゾリウムまたは1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムの塩からなるイオン液体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−150089(P2010−150089A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−331055(P2008−331055)
【出願日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【Fターム(参考)】