説明

ウリカーゼ阻害剤

【課題】尿酸からのアンモニア発生を防ぐウリカーゼ阻害剤及びウリカーゼ阻害剤を利用してアンモニア臭の発生を抑制し、窒素含有量の高い堆肥の製造方法を提供する。
【解決手段】ユーカリ及びその抽出物、竹酢並びにコーンスティープリカーから成る群より選択される1以上のウリカーゼ阻害物質を含有するウリカーゼ阻害剤。ウリカーゼ阻害物質を添加して尿酸を含有する鶏糞など動物の排泄物を堆肥化する工程を含む、堆肥の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばウリカーゼ阻害剤及びアンモニア臭発生を抑制した堆肥の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来において、養鶏より排出する鶏ふん等の排泄物を使用して、堆肥の製造が行われている。しかしながら、鶏ふんには全窒素成分の約半分として尿酸が含まれており、堆肥化の際にアンモニアが発生することとなる。そこで、当該鶏ふんを使用した堆肥の異臭を防ぐべく、例えば特許文献1は、臭い低減のために、鶏ふんに酸性物質や芳香剤を配合した鶏ふん肥料を開示する。
【0003】
一方、堆肥化の際にアンモニアが発生する主要な1つの原因は、尿酸が微生物のウリカーゼ反応によりアラントインが生成され、さらに、アラントインからアラントイン酸及び尿素を経てアンモニアが生成されることによる。
【0004】
特許文献2は、ウリカーゼ阻害剤として、例えば銀、銅、亜鉛等の金属又はその金属イオンを開示する。しかしながら、当該金属や金属イオンを堆肥化に使用した場合には、得られた堆肥を使用して生産した作物に当該金属や金属イオンが含まれることとなり、当該作物を摂取する人体に悪影響を及ぼすという安全性の問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001-89272号公報
【特許文献2】特開平5-137774号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来においては、鶏ふん等の尿酸を含む排泄物を使用した堆肥化の際に発生するアンモニア臭を十分に除去する方法が知られていなかった。また、当該アンモニア臭発生の原因であるウリカーゼを阻害でき、且つ堆肥化に使用できる物質は知られていなかった。
【0007】
そこで、本発明は、上述した実情に鑑み、ウリカーゼ阻害剤及びアンモニア臭発生を抑制した堆肥の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、ユーカリ、ユーカリ抽出物、竹酢及びコーンスティープリカー(以下、「CSL」と称する)がウリカーゼ阻害作用を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、ユーカリ及びその抽出物、竹酢並びにCSLから成る群より選択される1以上のウリカーゼ阻害物質を含有するウリカーゼ阻害剤である。
【0010】
また、本発明は、ユーカリ及びその抽出物、竹酢並びにCSLから成る群より選択される1以上のウリカーゼ阻害物質を添加した尿酸を含有する排泄物を堆肥化する工程を含む堆肥の製造方法又は当該方法により製造された堆肥である。
【0011】
上述のユーカリ抽出物としては、例えばユーカリ熱水抽出物が挙げられる。また、上述の排泄物としては、例えば鶏ふんが挙げられる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、堆肥化の際にウリカーゼ生産菌のウリカーゼ活性を阻害することで、アンモニア臭が少ないか又は全くしない堆肥を製造できる。また、本発明によれば、尿酸の分解を抑えることで、高窒素含量の堆肥を製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、ユーカリ及びその抽出物、竹酢並びにCSLから成る群より選択される1以上のウリカーゼ阻害物質(以下、単に「ウリカーゼ阻害物質」と称する場合がある)を含有するウリカーゼ阻害剤である。本発明に係るウリカーゼ阻害剤を使用することにより、堆肥化の際にウリカーゼ生産菌のウリカーゼ活性を阻害でき、アンモニア臭が少ないか又は全くしない堆肥を製造できる。また、本発明に係るウリカーゼ阻害剤は、トイレの床に塗布等により付与することで、飛散した尿中に含まれる尿酸のアンモニアへの分解を抑制し、トイレ空間のアンモニア臭を抑制することができる。
【0014】
ここで、ユーカリとは、フトトモ科ユーカリ属(Eucalyptus)に属する植物を意味する。フトトモ科ユーカリ属(Eucalyptus)に属する種としては、例えば、ギンマルバユーカリ、コマルバユーカリ、ツキヌキユーカリ、ナガバユーカリ、ヤナギユーカリ、ユーカリノキ、レモンユーカリ等が挙げられる。また、使用するユーカリの部位としては、例えば葉、茎、根部、樹皮及びユーカリ全体が挙げられる。さらに、使用するユーカリは、切り出したものや乾燥したもののいずれであってよい。
【0015】
ユーカリ抽出物は、上述のユーカリを熱水や、エタノール、メタノール、ヘキサン等の有機溶媒を使用した抽出に供し、得られたものを意味する。例えば、熱水抽出は、ユーカリの葉の乾燥物に水を加え(例えば、水に対する葉の割合:5%〜20%(W/V))、70〜100℃(好ましくは95〜100℃)で0.5〜4時間(例えば2時間)加熱することで行われる。さらに、得られた抽出液を冷却した後、濾過し、濾液を凍結乾燥に供することで、ユーカリ熱水抽出物を得ることができる。一方、有機溶媒を使用する抽出は、ユーカリ葉の乾燥物に有機溶媒を加え、常温又は室温〜40℃に加温し、1〜14日(例えば7日間)抽出することで行われる。得られた抽出液を冷却した後、濾過し、その濾液を濃縮乾固に供することで行われる。
【0016】
竹酢(又は竹酢液)は、竹炭を製造する際の副産物等である炭焼き釜から出る煙を集め、冷却後、蒸留処置等により得られる液を意味する。使用する竹酢は、市販のものであってよく、例えば竹酢液3号(宮崎土晃(株))、特選竹酢液(竹炭工房 無限窯)等が挙げられる。
【0017】
CSLは、コーンスターチを生産する際に生じる副産物であり、コーンスターチの精製方法の1つであるコーンウエットミリングの浸漬工程において、トウモロコシから溶出した可溶性成分と乳酸発酵で生成した成分を含む浸漬液を濃縮したものを意味する。使用するCSLは、市販のものであってよく、例えば粉末コーンスティープリカー(オリエンタル酵母工業(株))、コーンスティープリカー(サンエイ糖化(株))等が挙げられる。
【0018】
本発明に係るウリカーゼ阻害剤は、ウリカーゼ阻害物質の他に、例えば消臭剤等、消臭効果を増強する成分や堆肥化を促進する微生物、資材等を配合することができる。
【0019】
また、本発明に係るウリカーゼ阻害剤におけるウリカーゼ阻害物質の配合量は、使用する用途に応じて適宜決定することができる。
【0020】
本発明に係るウリカーゼ阻害剤のウリカーゼ阻害作用の評価方法としては、例えばウリカーゼと当該酵素の基質である尿酸とを含む反応液に本発明に係るウリカーゼ阻害剤を添加し、反応により消失する尿酸を指標にウリカーゼ活性阻害作用を評価する方法が挙げられる。例えば、本発明に係るウリカーゼ阻害剤を添加しない反応液と比較して、本発明に係るウリカーゼ阻害剤を添加した反応液において消失する尿酸が有意に少ない場合に、本発明に係るウリカーゼ阻害剤はウリカーゼ阻害作用について良好であると判断することができる。
【0021】
一方、本発明に係る堆肥の製造方法は、上述のユーカリ、ユーカリ抽出物、竹酢及びCSLのウリカーゼ阻害作用を利用し、ユーカリ及びその抽出物、竹酢並びにCSLから成る群より選択される1以上のウリカーゼ阻害物質を添加した尿酸を含有する排泄物を堆肥化に供し、堆肥を製造する方法である(以下、「本方法」と称する)。本方法によれば、堆肥化の際にウリカーゼ生産菌のウリカーゼ活性を阻害でき、アンモニア臭が少ないか又は全くしない堆肥を提供することができる。
【0022】
ここで、尿酸を含有する排泄物(以下、単に「排泄物」と称する)としては、例えばヒトや家畜(例えばニワトリ、ウシ及びブタ)を含めた動物のふんが挙げられ、特に鶏ふんが好ましい。
【0023】
本方法では、先ず上述のウリカーゼ阻害物質を排泄物に添加する。当該添加は、堆肥化工程の前であればいずれの時点であってもよい。排泄物に対するウリカーゼ阻害物質の添加割合は、例えば鶏ふんを使用した場合には、0.5〜20%(W/W)、好ましくは1〜10%(W/W)が挙げられる。
【0024】
次いで、ウリカーゼ阻害物質と排泄物との混合物を堆肥化に供する。堆肥化は、例えばウリカーゼ阻害物質と排泄物との混合物に種菌(例えば、Geobacillus thermodenitrificans)や植物繊維分解酵素(セルラーゼ、キシラナーゼ等)等を適宜添加し、発酵に供することで行われる。発酵条件としては、例えば温度40〜80℃(好ましくは50〜70℃)で2〜5週間(好ましくは3〜5週間)が挙げられる。このようにして、アンモニア臭が少ないか又は全くしない堆肥を製造することができる。
【0025】
本方法により製造された堆肥のアンモニア臭の評価方法としては、例えば官能評価が挙げられる。すなわち、本方法により製造した堆肥の臭いを複数人が確認し、ウリカーゼ阻害物質を添加しない排泄物から製造した堆肥と比較して、有意にアンモニア臭が少ないか又は全くしないと判断した場合に、本方法により製造した堆肥は不快臭が少なく、良好であると判断することができる。
【実施例】
【0026】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0027】
〔実施例1〕ユーカリ、ユーカリ熱水抽出物、竹酢及びCSLによるウリカーゼ阻害作用
1-1.ユーカリ熱水抽出物の作製
ユーカリ(Eucalyptus globulus)の葉の乾燥物50gに精製水500mLを加え、95〜100℃で2時間抽出した。
【0028】
得られた抽出液を冷却し、濾過した後、濾液を凍結乾燥に供することで、ユーカリ熱水抽出物を8.7g得た。
【0029】
1-2.ウリカーゼ活性阻害試験
ユーカリ、上記ユーカリ熱水抽出物、竹酢及びCSLによるウリカーゼ活性阻害試験を行った。使用したユーカリは、Eucalyptus globulusの葉である。竹酢は、宮崎土晃(株)製のものである。また、CSLは、サンエイ糖化(株)製のものである。
【0030】
ウリカーゼ活性の測定は、特開2008-24635号公報に記載の測定方法を参考に行った。すなわち、ウリカーゼ活性は、尿酸を基質とし、ウリカーゼ反応による尿酸の消失を吸光度の変化に基づき測定した。
【0031】
40μMの尿酸、0.00083%(W/V)のTriton X-100及び0.83mMのEDTAを含む42mMホウ酸緩衝液(pH8.0)2.5mL及び試料液(ウリカーゼ阻害物質)又は精製水0.3mLを37℃で5分間予備加温した。次いで、予め、酵素希釈液(0.001%(W/V)のTriton X-100及び0.1mMのEDTAを含む50mMホウ酸緩衝液(pH8.0))で希釈したウリカーゼ酵素溶液0.5mLを予備加温した上記混合液に加え、ウリカーゼ反応を開始した。37℃で正確に5分間反応後、20%(W/V)のKOH溶液0.2mLを反応液に加え、反応を停止させた。反応停止後、反応液を290nmにおける吸光度測定に供した(ΔODtest)。盲験は、酵素溶液の代わりに上記酵素希釈液0.5mLを加え、上記同様に操作を行い、290nmにおける吸光度測定に供することで行った(ΔODblank)。得られた吸光度により、下記計算式に基づきウリカーゼ活性阻害率を算出した。
【0032】
ウリカーゼ活性阻害率の計算式:
ウリカーゼ活性阻害率(%)={1−(ODtest−ODblank)/(ODtest精製水−ODblank精製水)}×100
【0033】
各ウリカーゼ阻害物質のウリカーゼ活性阻害試験の結果を以下の表1に示す。
【0034】
【表1】

【0035】
表1に示すように、ユーカリ、ユーカリ熱水抽出物、竹酢及びCSLにウリカーゼ活性阻害作用が確認された。
【0036】
なお、竹酢の水に溶かした際のpHは、原液でpH3.0、100倍希釈液でpH3.5であった。CSLの水に溶かした際のpHは、原液でpH3.7であった。また、ユーカリ熱水抽出物の水に溶かした際のpHは、1mg/mLでpH4.6、0.1mg/mLでpH5.1であった。一方、全くウリカーゼ活性阻害作用を示さないピートモス熱水抽出物の水に溶かした際のpHは、2mg/mLでpH3.5であった。このように、上記ウリカーゼ活性阻害作用はpHに起因するものではなかった。
【0037】
〔実施例2〕ユーカリを配合した堆肥の製造及び当該堆肥の臭い官能評価
予め鶏ふんと乾燥鶏ふんとを混合することで含水率50〜60%に調製した鶏ふん11kgに、種菌として堆肥化促進システムresQ45(トヨタルーフガーデン株式会社製)の資材サーモマスターを約30g、また同特別急酵を約20g配合し、堆肥化試験装置(富士平工業社製:商品名「かぐやひめ」)にて堆肥化処理を行った。堆肥化は10日間行った。
【0038】
堆肥化処理の際に、ユーカリを添加して堆肥化を行ったユーカリ処理区と、比較例として鶏ふんにユーカリ無添加で堆肥化を行った無処理区とで、堆肥化の状態を比較した。使用したユーカリは、Eucalyptus globulusの葉である。また、ユーカリは、鶏ふんに対して5%(W/W)で添加した。
【0039】
堆肥化処理後、10人の作業者が堆肥の臭いを確認し、臭いの官能評価を行った。結果を表2に示す。臭いの官能評価は、アンモニア臭の強さを「少ない」、「やや少ない」及び「変化無し」の3段階で評価した。
【0040】
【表2】

【0041】
表2に示すように、無処理区と比較し、ユーカリ処理区では、完成した堆肥のアンモニア臭が少ないことが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユーカリ及びその抽出物、竹酢並びにコーンスティープリカーから成る群より選択される1以上のウリカーゼ阻害物質を含有するウリカーゼ阻害剤。
【請求項2】
ユーカリ抽出物がユーカリ熱水抽出物である、請求項1記載のウリカーゼ阻害剤。
【請求項3】
ユーカリ及びその抽出物、竹酢並びにコーンスティープリカーから成る群より選択される1以上のウリカーゼ阻害物質を添加した尿酸を含有する排泄物を堆肥化する工程を含む、堆肥の製造方法。
【請求項4】
ユーカリ抽出物がユーカリ熱水抽出物である、請求項3記載の方法。
【請求項5】
尿酸を含有する排泄物が鶏ふんである、請求項3又は4記載の方法。
【請求項6】
請求項3〜5のいずれか1項記載の方法により製造された堆肥。

【公開番号】特開2011−157244(P2011−157244A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−22066(P2010−22066)
【出願日】平成22年2月3日(2010.2.3)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】