説明

ウレアーゼ活性阻害剤

【課題】ヘリコバクター・ピロリに起因する疾患の治療剤の提供。
【解決手段】トマト、レモンおよびリンゴからなる群から選択される少なくとも一つのものである果実果汁またはその抽出物を含んでなる、ウレアーゼ活性阻害剤。ペクチンおよびペクチン酸から選択される多糖類を有効成分として含んでなるウレアーゼ活性阻害剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、果実果汁またはその抽出物を含んでなる、ウレアーゼ活性阻害剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ヘリコバクター・ピロリは、ヒト胃粘膜から分離培養されたグラム陰性の螺旋状短桿菌であり、胃炎や十二指腸潰瘍などの消化性疾患の主な原因として広く知られている(非特許文献1:Marshall, B. J.et al., Lancet, 1 (8336), 1273 -1275 (1983)、非特許文献2:Marshall, B. J.et al., Med. J. Australia. 142, 436-439 (1985))。
【0003】
一方、胃潰瘍および十二指腸潰瘍等のヘリコバクター・ピロリに起因する疾患の治療分野では、抗生物質およびプロトンポンプ阻害剤を用いた除菌治療が一般的に行われている(非特許文献3:Jpn. J. Helicobacter Res (suppl) 4, 2-17 (2003))。しかしながら、この治療法は、80%前後の除菌率を示す効果的な治療法であるものの、下痢、味覚異常、肝機能障害などの副作用が生じうる。また、抗生物質耐性菌は増加しており、除菌率が低下しつつあることも問題点とされている。したがって、ヘリコバクター・ピロリに起因する疾患に対する高い治療効果と、安全性とを兼ね備えた非抗生物質の創出が望まれているといえる。
【0004】
近年、ヘリコバクター・ピロリのウレアーゼを阻害することにより、ヘリコバクター・ピロリに起因する疾患を治療することが検討されている。
【0005】
特開2000−159669号公報(特許文献1)には、ヘリコバクター・ピロリはウレアーゼを保持しており、胃内の尿素を分解してアンモニアを生成して胃酸を中和することによって胃内での自身の棲息を可能としていること、および、ウレアーゼ阻害剤は、ヘリコバクター・ピロリの消化管内での増殖を抑制阻止し、ピロリ菌に起因する胃炎、胃潰瘍、胃ガン等を治療する上で有用であることが報告されている。さらに、同文献では、プロアントシアニジンまたはその塩を、ウレアーゼ活性阻害剤として用いることが報告されている。
【0006】
また、生薬、海藻等の広範な植物抽出物をウレアーゼ活性阻害剤として適用することが報告されている(特許文献2:特開平8−119872号公報、特許文献3:特開2003−48844号公報、特許文献4:特開2005−104888号公報、特許文献5:特開2006−104888号公報、特許文献6:特開2006−219376号公報)。
【0007】
また、本発明者らの一部は、ソバ殻、ササゲ殻、ブロッコリー基部等の植物性の未利用資源がウレアーゼ阻害活性を示すことを報告している(非特許文献4:日本農芸化学会2009年大会講演要旨集:227−2009)。しかしながら、果実果汁またはその抽出物のウレアーゼ阻害作用については何ら報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2000−159669号公報
【特許文献2】特開平8−119872号公報
【特許文献3】特開2003−48844号公報
【特許文献4】特開2005−104888号公報
【特許文献5】特開2006−104888号公報
【特許文献6】特開2006−219376号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Marshall, B. J.et al., Lancet, 1 (8338), 1273 -1275 (1983)
【非特許文献2】Marshall, B. J.et al., Med. J. Australia. 142, 436-439 (1985)
【非特許文献3】Jpn. J. Helicobacter Res (suppl) 4, 2-17 (2003)
【非特許文献4】日本農芸化学会2009年大会講演要旨集:227−2009
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、新規なウレアーゼ活性阻害剤を提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によれば、以下の発明が提供される。
(1)果実果汁またはその抽出物を含んでなる、ウレアーゼ活性阻害剤。
(2)上記果実が、トマト、レモンおよびリンゴからなる群から選択される少なくとも一つのものである、(1)に記載のウレアーゼ活性阻害剤。
(3)ペクチンおよびペクチン酸から選択される多糖類を有効成分として含んでなる、(1)に記載のウレアーゼ活性阻害剤。
(4)ヘリコバクター・ピロリに起因する疾患の治療に用いられる、(1)に記載のウレアーゼ活性阻害剤。
【0012】
本発明によれば、果実果汁またはその抽出物を用い、ウレアーゼ活性を効果的に阻害することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】トマト果実のエタノール抽出液のウレアーゼ阻害活性を評価した結果を示す。
【図2】トマト果汁の遠心上清のウレアーゼ阻害活性を評価した結果を示す。
【図3A】トマトジュース抽出物の画分5のH−NMRスペクトルである。
【図3B】トマトジュース抽出物の画分10のH−NMRスペクトルである。
【図4A】ペクチン標品A(シグマアルドリッチ社)のH−NMRスペクトルである。
【図4B】ペクチン標品B(unipectin LMSN325、ユニテックフーズ社)のH−NMRスペクトルである。
【図5】メチル化度の異なる市販ペクチンのウレアーゼ阻害活性を評価した結果を示す。
【図6】ペクチン酸およびモノガラクツロン酸のウレアーゼ阻害活性を評価した結果を示す。
【発明の具体的説明】
【0014】
本発明は、果実果汁またはその抽出物をウレアーゼ活性阻害剤として用いることを一つの特徴としている。
本発明で使用される果実は、好ましくはトマト、レモンまたはリンゴであり、より好ましくはトマトである。かかる果実の果汁または抽出物が、ウレアーゼ活性阻害作用を有することは、当業者にとって意外な事実である。
【0015】
本発明の果汁の搾汁方法には特に限定がなく、通常行われている方法で実施できる。具体的には、原料果実を半割、剥皮、除核し、果肉を軟化させるために加熱したのち、パルパーやフィニッシャーで裏ごしを行う等の方法で搾汁することができる(例えば、「果実の科学」(朝倉書店)参照)。本発明の果汁の形態は特に限定はなく、ストレート、濃縮果汁、透明、混濁果汁等のいずれの形態を用いてもよい。
【0016】
また、本発明の抽出物は、上記のような果実またはその果汁を、水、極性または非極性の溶媒、あるいはそれらの混合物を抽出溶媒として用い、当業者により適宜設定された条件で抽出することができる。抽出物の形態は、特に限定されず、抽出液、あるいは当該抽出液を当業者が通常用いる手法により、濃縮または乾燥して得られる粉末またはペースト状物も含まれる。
【0017】
また、本発明の抽出物は、好ましくは、水、エタノール、またはそれらの混合溶液で抽出されたものとされる。
【0018】
また、本発明のウレアーゼ活性阻害剤は、ペクチンおよびペクチン酸から選択される多糖類を有効成分として含んでなることが好ましい。ここで、「ペクチン」とは、D−ガラクツロン酸と、そのメチルエステルとを繰り返し単位として有する多糖類を意味し、所望によりガラクトース等の中性糖を含んでいてもよい。また、「ペクチン酸」はペクチンから、エステル結合のメトキシル基を全て除いたものを意味する。実施例に記載されるように、ペクチンまたはペクチン酸が、顕著なウレアーゼ活性阻害活性を有することが本発明者らにより見出された。
【0019】
本発明の多糖類は、ペクチンまたはペクチン酸のいずれかであってよいが、好ましくはペクチンである。
【0020】
また、本発明の多糖類の平均分子量は、特に制限されないが、好ましくは30,000以上であり、より好ましくは50,000〜500,000であり、さらに好ましくは60,000〜200,000である。本発明の多糖類の平均分子量は、例えば、後述する試験例2に記載の限外濾過法によって、決定することができる。
【0021】
また、本発明の多糖類がペクチンの場合、メチル化度は特に制限されないが、好ましくは0〜75%である。ペクチンのメチル化度は、例えば、 ANALYTICAL BIOCHEMISTRY 185, 346-352(1990)に記載の手法によって決定することができる。
【0022】
また、本発明のウレアーゼ活性阻害剤における果実果汁またはその抽出物の含有量は、ウレアーゼ活性阻害剤中の多糖類、すなわち、ペクチンまたはペクチン酸の質量を基準として適宜設定することができる。そして、ウレアーゼ活性阻害剤における多糖類の含量は、好ましくは0.1質量%以上であり、より好ましくは1.0〜100質量%とされ、さらに好ましくは100質量%とされる。
【0023】
また、本発明のウレアーゼ活性阻害剤は、薬学上または食品衛生上許容可能な添加剤をさらに含んでいてもよい。
【0024】
薬学上または食品衛生上許容可能な添加剤としては、特に限定されないが、例えば、賦形剤、結合剤、希釈剤、添加剤、香料、緩衝剤、増粘剤、着色剤、安定剤、乳化剤、分散剤、懸濁化剤、防腐剤等が挙げられる。
【0025】
また、本発明のウレアーゼ活性阻害剤は、液状、粉状、顆粒状等のいずれの形状を有するものであってもよい。
【0026】
本発明のウレアーゼ活性阻害剤は、上述のような果実果汁またはその抽出物と、薬学上または食品衛生上許容可能な添加剤とを適宜混合することにより容易に製造することができる。
【0027】
また、本発明のウレア−ゼ活性阻害剤に用いられる果実果汁、その抽出物、およびその有効成分である多糖類は、食品または医薬の製造において従来使用されており、生体の安全の上で好ましい。したがって、本発明の別の態様によれば、果実果汁またはその抽出物の有効量を、それを必要とする対象に投与することを含んでなる、ウレアーゼ活性の阻害方法が提供される。また、本発明の別の好ましい態様によれば、ウレアーゼ活性阻害剤の製造における、果実果汁またはその抽出物の使用が提供される。また、本発明の別の態様によれば、ペクチンおよびペクチン酸から選択される多糖類の有効量を、それを必要とする対象に投与することを含んでなる、ウレアーゼ活性の阻害方法が提供される。また、本発明の別の好ましい態様によれば、ウレアーゼ活性阻害剤の製造における、ペクチンおよびペクチン酸から選択される多糖類の使用が提供される。また、本発明の別の態様によれば、本発明のウレア−ゼ活性阻害剤を、食品または医薬品に添加することを含んでなる、ウレア−ゼ活性阻害機能が増強された、食品または医薬品の製造方法が提供される。
【0028】
また、ウレアーゼ活性阻害剤は、ヘリコバクター・ピロリに起因する疾患の治療または予防に好ましく用いられる。したがって、本発明の別の好ましい態様によれば、果実果汁またはその抽出物の有効量を、それを必要とする対象に投与することを含んでなる、ヘリコバクター・ピロリに起因する疾患の治療または予防方法が提供される。また、本発明の別の好ましい態様によれば、ペクチンおよびペクチン酸から選択される多糖類の有効量を、それを必要とする対象に投与することを含んでなる、ヘリコバクター・ピロリに起因する疾患の治療または予防方法が提供される。ここで、「治療」とは、確立された病態を改善することを意味する。また、「予防」とは、将来における病態の確立を防止することを意味する。
【0029】
本発明のウレアーゼ阻害剤の投与方法は、対象においてウレアーゼ阻害作用を奏しうる限り特に限定されないが、経口投与が好ましい。
【0030】
また、ヘリコバクター・ピロリに起因する疾患としては、例えば、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃癌、胃炎等が挙げられる。
【0031】
また、本発明における有効量は、対象に投与される多糖類の質量を基準とし、対象の年齢、体重、疾病の種類や程度、投与経路に応じて医師により適宜決定することができる。
【0032】
また、本発明の対象としては、好ましくは哺乳動物であり、より好ましくはヒトである。
【0033】
なお、本発明にあっては、人工または天然のペクチンまたはペクチン酸をそのままウレアーゼ活性阻害剤に適用することもでき、本発明にはかかる態様も包含される。
【実施例】
【0034】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0035】
試験例1: トマト果実のエタノール抽出物のウレアーゼ阻害活性の測定
トマト約100gを破砕し、等重量のエタノールを加え、浸漬抽出した。次に、固液分離して得られた抽出液から、試験サンプルとして、10倍希釈液および100倍希釈液を調製した。
【0036】
次に、サンプル溶液のウレアーゼ阻害活性の測定のため、以下の試薬を調製した。
0.1 mol/L酢酸緩衝液:酢酸水溶液(28.6 ml/400 ml)と酢酸ナトリウム水溶液(20.51 g/200 ml)とを混合し、pH 4.11に調整した。これを使用時に10倍希釈し、エタノールと4:1で混合し、0.1 mol/L酢酸緩衝液を得た。
酵素溶液:ウレアーゼ粉末(175 Unit/mg、ナタマメ由来、東洋紡績製)15 mgを純水に溶解して100 mlとし、直ちに凍結保存した。これを使用する直前に氷上で融解し、10倍希釈したものを酵素溶液として用いた。
基質溶液:尿素0.3 gを50 mlの純水に溶解し、基質溶液を得た。
【0037】
発色試薬
A液:フェノール5gとニトロプルシドナトリウム25mgとを純水に溶解し500 mlとし、A液とした。
B液:水酸化ナトリウム水溶液(5 g/500 ml)19.7 mlと次亜塩素酸ナトリウム0.3 mlとを混合し、B液とした。
【0038】
次に、上記試薬を用い、以下の手順に従って、試験サンプルのウレアーゼ阻害活性を測定した。まず、0.1mol/L酢酸緩衝液2.5ml、試験サンプル0.1ml、および酵素溶液0.4mlを混合し、37℃、5分間プレインキュベートした。次に、得られた混合液に0.6%尿素溶液1mlを基質として加え、37℃で5分間インキュベートした。次に、得られた反応液200μlを採取し、純水で10倍希釈した。この溶液に発色試薬A液およびB液を各1 mlずつ加えて37℃でさらに30分間インキュベートした。得られた反応液の吸光度 (640 nm)を測定し、発生したアンモニアの量を定量した。また、コントロールとして、サンプルの代わりに純水0.1mlを用いて上記と同様の操作を行った。得られた結果に基づき、下記の式を用いて阻害率を算出した。
【0039】
〔式1〕
阻害率 (%) =(AC-AI)/AC×100
A1: サンプル添加時の吸光度
A2: 酵素反応0時間での吸光度
A3: サンプルの吸光度
A1’: コントロールの吸光度
AI: サンプル添加時の真の吸光度 AI=A1−(A2+A3)
AC: コントロールの真の吸光度 AC=A1’−A2
【0040】
結果は、図1に示される通りであった。10倍希釈液および100倍希釈液のいずれにおいても、ウレアーゼ阻害活性が確認された。
【0041】
試験例2: トマト果汁の遠心上清ウレアーゼ阻害活性の測定
トマトジュース200mlを遠沈管50mlに分注し、0℃, 10,000rpmで10分間遠心分離した。上清をパスツールピペットで集め、ジュース上清とした。上清の一部を凍結乾燥したところ、重量は1ml当たり49.6mg(乾燥重量)であった。次に、試験例1と同様の手法により、試験サンプルとして、10倍希釈液および100倍希釈液を調製し、試験例1と同様の手法により、ウレアーゼ阻害活性を測定した。
【0042】
結果は、図2に示される通りであった。10倍希釈液では、93%のウレアーゼ阻害活性が確認され、100倍希釈液では、86%のウレアーゼ阻害活性が確認された。
【0043】
試験例3: トマト果汁抽出物のウレアーゼ阻害活性の測定
トマトジュース(株式会社ナガノトマト)200mlを遠沈管50mlに分注し、0℃、 10000rpmで10分間遠心分離した。
次に、得られたトマトジュース上清6.0mlにエタノール4.0mlを加え、40%のエタノール水溶液を調製した。得られたエタノール水溶液を4℃にて10000rpmで10分間遠心分離し、40%エタノール上清と、沈殿を得た。また、沈殿は元のトマトジュース上清の体積に合わせて6.0mlの純水に溶解し、沈殿溶液とした。
【0044】
上記と同様の手法により、50%、60%、70%および80%エタノール上清と、沈殿を得た。
なお、各エタノール上清はエタノール濃度が同等になるように純水で希釈した。すなわち、40%エタノール上清は6倍、50%エタノール上清は5倍、60%エタノール上清は4倍、70%エタノール上清は3倍に希釈した。
また、得られたエタノール上清および沈殿溶液をそれぞれ純水で100倍希釈し、試験例1と同様の手法により、ウレアーゼ阻害活性を測定した。
【0045】
その結果、いずれのエタノール濃度の沈殿物においても、ウレアーゼ阻害活性が確認された。40〜70%エタノール沈殿物に関する結果は、表1に示される通りであり、50%エタノール沈殿物の分画が最も活性が高かった。
【表1】

【0046】
試験例4:活性物質の分子量の測定
試験例1の50%エタノール沈殿物中のウレアーゼ活性阻害物質の分子量を測定するため、分画分子量1万、5万または20万のウルトラフィルターユニット((USY-1, USY-5, USY-20)、アドバンテック東洋株式会社)を用いて、50%エタノール沈殿物溶液の限外濾過を行い、ろ液と残渣とに分画し、ウレアーゼ阻害活性を試験例1と同様にして測定した。
【0047】
結果は、表2に示される通りであった。分画分子量1万の残渣、分画分子量5万の残渣、分画分子量20万のろ液および残渣に高い阻害活性が認められた。この結果から、活性物質には、少なくとも分画分子量5万以上の物質が含まれることが確認された。
【0048】
【表2】

【0049】
試験例5:活性物質の同定
5−1:50%エタノール沈殿物の精製
50%エタノール沈殿物を精製するため、Sephadex G-50カラムクロマトグラフィー(直径4cm×長さ50cm、ガラスカラム)による分画を、以下の手法により行った。
まず、50%エタノール沈殿150mg(乾固重量)を純水17mlに溶解し、純水で充填しておいたSephadex G-50 15gに負荷した。溶出は純水で行い、17mlずつ分取して得た15個の画分1〜15について、試験例2と同様の手法によりウレアーゼ阻害活性を測定した。このうち、阻害率の高い画分5および10について、NMR解析を行った。
【0050】
5−2:NMR解析
画分5および10
まず、画分5および10をD2Oに溶解し、1H MNR分析を行った。NMR測定には、BRUKER AVANCE 500を用い、ケミカルシフト値はTSP(トリメチルシリルプロピオン酸ナトリウム) を内部標準とし、δ (ppm) で示した。
【0051】
画分5および10のH−NMRスペクトルはそれぞれ、図3AおよびBに示される通りであった。
これらNMRスペクトルにおいて、3.2〜5.2ppm付近には、糖に帰属されるシグナルが観測され、活性物質には多糖が含まれていると推定された。また、スピン結合定数と既存の物質スペクトルのそれとを比較した結果、画分10では、α-ガラクツロン酸およびβ-ガラクトースの部分構造の存在が確認され、画分10中の活性物質は、ガラクツロン酸重合体であるペクチンと推定した。
【0052】
また、同様にして、ペクチン標品A(pectin、Fluka(シグマアルドリッチ社))およびペクチン標品B(UNIPECTINE(商標) LM SN 325、ユニテックフーズ社)のH−NMR測定を行ったところ、それぞれ図4AおよびBに示されるスペクトルが得られた。
画分5とペクチン標品A(図3Aおよび図4A)、および画分10とペクチン標品B(図3Bおよび図4B)ではそれぞれ、H−NMRの共通するピークパターンが確認された。この結果、画分5および10中の活性物質はペクチンであると同定した。
なお、ペクチンの分子量は6万〜20万であり、活性物質をペクチンと同定した試験例5の結果は、試験例4の活性物質の分子量測定の結果とも整合している。
【0053】
試験例6:メチル化度の異なる市販ペクチンのウレアーゼ阻害活性の評価
メチル化度の異なる市販ペクチンのウレアーゼ阻害活性の評価のため、ペクチン標品A(pectin, シグマアルドリッチ社)、ペクチン標品B(UNIPECTINE(商標) LM SN 325、ユニテックフーズ社、レモン由来、メチル化度26〜34%)、および、ユニテックフーズ社製の他の3つのペクチン(UNIPECTINE(商標)AYD 30T(レモン由来、メチル化度70〜74%)、UNIPECTINE(商標)HM-1(リンゴ由来、メチル化度72〜76%)およびUNIPECTINE(商標)LM SN 325 CITRUS(リンゴ由来、メチル化度26〜34%))を使用し、試験例1と同様の手法により、ウレアーゼ阻害活性を測定した。なお、ペクチンの終濃度は、1.25μg/mlに調製した。
【0054】
結果は、図5に示される通りであった。いずれのペクチンも70%以上のウレアーゼ阻害活性を示した。
【0055】
試験例5:ペクチン酸のウレアーゼ阻害活性の評価
ペクチンの構成要素であるペクチン酸(ポリガラクツロン酸)、およびその繰り返し単位であるモノガラクツロン酸のウレアーゼ阻害活性の評価を、試験例1と同様の手法により行った。ここで、ペクチン酸としてはPolygalacturonic acid, From Orange(シグマアルドリッチ社)を用い、モノガラクツロン酸としては、D-(+)-Galacturonic acid monohydrate(シグマアルドリッチ社)を用いた。また、ペクチン酸またはモノガラクツロン酸の終濃度は、25、2.5または0.25μg/mlに調製した。
【0056】
結果は、図6に示される通りであった。いずれの濃度でもペクチン酸のウレアーゼ阻害活性は、モノガラクツロン酸と比較して有意に高かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
果実果汁またはその抽出物を含んでなる、ウレアーゼ活性阻害剤。
【請求項2】
前記果実が、トマト、レモンおよびリンゴからなる群から選択される少なくとも一つのものである、請求項1に記載のウレアーゼ活性阻害剤。
【請求項3】
ペクチンおよびペクチン酸から選択される多糖類を有効成分として含んでなる、請求項1に記載のウレアーゼ活性阻害剤。
【請求項4】
ヘリコバクター・ピロリに起因する疾患の治療に用いられる、請求項1に記載のウレアーゼ活性阻害剤。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−6889(P2012−6889A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−146539(P2010−146539)
【出願日】平成22年6月28日(2010.6.28)
【出願人】(592242383)株式会社ナガノトマト (3)
【出願人】(504180239)国立大学法人信州大学 (759)
【Fターム(参考)】